勇者「僕が魔王を倒した伝説の勇者です」 (16)


# 一日目

「あなたが魔王を倒したという勇者なのですね」

勇者「はい、その通り!」

「今日はそのお話をお伺いしたいと思いまして」

勇者「ビデオ・カメラまで用意してインタビューされるだなんて僕も大物になったなあ。

    はは、ははは!」

「紅茶を用意しましたので、よろしかったらどうぞ」

勇者「む……。

    ふう、美味しい紅茶を飲むと落ち着くねえ」

「お気に召されたようで光栄です」

勇者「それで? どこから話せば良いのかな」

「では一番初めて遭遇した魔物のお話しからお聞かせ願えますか」



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勇者「わかったよ。あ、その前に紅茶をもう一杯くれるかな? すっかり気に入っちゃったよ」

「はい、すぐに用意しましょう」

勇者「すまないね。

    じゃあ魔物の話だったね。

    これには僕もびっくりだったんだけど、魔王の野郎が僕の寝込みを襲おうとしやがったんだな」

「どういうことでしょう」

勇者「朝いつも通り起きてみたらさ、目の前に醜い魔物がいたんだよ。

    『殺される!』って殺気で起きたのかもしれないね。何せ僕は伝説の勇者だから」

「それでどうされたのですか」

勇者「ほら、やられる前にやれってよく言うでしょ? だから殴り殺してやったんだ。

    …………。

    おいおい、そんな顔しないでくれよ。相手は卑怯な手を使って僕を殺そうとした魔物だよ?

    それでそいつを倒したらレベル・アップしたみたいなんだよ」

「レベル・アップとはなんですか」

勇者「そんなことも知らないの?」

「すみません。そういったことには疎いもので」

勇者「まあ、いいや。勇者ってのはね、戦闘を重ねるごとに強くなっていくんだよ。

    それをレベル・アップっていうわけ」

「よくわかりました。今日のところはここまでにしたいと思います。どうもありがとうございました」

勇者「そう? 僕はもっと続けても良いんだけどな」

「それではまた明日伺います」


# 二日目

「紅茶はいかがですか」

勇者「じゃあお言葉に甘えて。

    ふう、僕は本当はコーヒーの方が好きなんだけど紅茶も悪くないよね」

「それでは、昨日の続きからお願いします」

勇者「どこまで話したかな……そうそう、魔物を倒したところまでだったね。

    それで僕は急いで部屋から飛び出したんだ。

    すると、どうなってたと思う? 家にもう一匹魔物がいたんだよ。

    そこで僕はもう怒りに打ち震えたね。義憤ってやつだよ。義憤。

    だってそうだろ? 平和な町に突然魔物を送り込んでくるなんてさ。

    もう許せなくって、親父の部屋から斧を持ってきてそいつと戦ったわけ」

「その時、殺意はありましたか」

勇者「当たり前だろ?

    で、そいつはさっきの魔物よりもいくらか強かったんだよ。

    でも僕の方が更に強かったんだ。斧で簡単にK.O.さ。

    そこでまたレベル・アップときたもんだ。

    その時僕は思ったね。まだまだ強くなれるって。

    実際僕はこの二回の戦闘でかなり身軽になった気がしたよ。

    ははは! 思い出すだけで震えてくるよ」

「紅茶をもう一杯いかがですか」

勇者「ああ、悪いね、ホント。話してると喉が渇いちゃってさ」

「どうぞ」


勇者「ふう、旨い。

    えーと、その後僕は家から出て町の様子を見ようと思ったんだ。

    するとこれまた度肝を抜かれたね。

    もう町はほとんど魔物に支配されちゃっててさ。こういうのを地獄絵図って言うんだろうね。

    本当に頭に来たんだよ。僕の親友やお世話になった学校の先生まで殺されたのかって思うとね。

    だから僕は、どうせ殺されるなら死ぬ前に少しでも敵を討ってやろうと思って、親父の斧を手に戦ったよ。

    何匹くらいいたのかなあ。

    気付いた時には僕は全身に魔物の返り血を浴びて町の中心で独りぽつんと立っていたんだ」

「その時使った斧は今どこにあるかわかりますか」

勇者「うーん、どうしたんだったかなあ。全然切れなくなってたからどこかに捨てたんだと思うけど。

    あ、そうそう! それでこの時の僕はすごい勢いでレベル・アップしたんだよ。

    なにせ、魔物の数は尋常じゃなかったからね。

    そしてその時覚えた魔法で僕は妖精が呼べるようになったんだ。

    なんならここにも召喚してみせようか?」

「いえ、それはまたの機会にお願いします。お話しの続きをどうぞ」

勇者「そう? まあ、いいや。

    この妖精ってのがさ、これまたかわいいんだな。それからはどこに行くにも僕の肩に乗ってたよ。

    それに妖精だけじゃないよ、魔物が逃げていく呪文も覚えたんだ。

    これのお蔭でその後はかなり楽になったと思うよ。

    あ、ここで唱えてみよっか?」

「…………」

勇者「はははは! 冗談だよ、冗談! そんな目で人を見ないでくれよ」

「それでは今日はここまでと致しましょう。明日またお伺いします」

勇者「え、もう終わりなの? まあ良いや。また明日ね」


# 三日目

勇者「お? 今日はコーヒーか。気を使わせちゃったね」

「お気になさらず」

勇者「あれ、コーヒーに何か入れた?

    ん?

    なんだよ、そんなびっくりすることないだろ? 僕はブラック・コーヒーの方が好きなんだよ。

    まあ、この味も嫌いじゃないけどね。

    それじゃあ、昨日の続きから話そうか。

    僕は突然一人ぼっちになってしまったわけだけど、思ったより寂しくはなかったね。

    肩の上で僕を励まし続けてくれてた妖精のお蔭ってのもあるけどさ。

    とりあえず現状を再認識してみて、

    僕は改めて、こうなんて言うか、胸に込みあげてくる熱いものを感じたんだ。

    きっと正義ってのはこれのことを言うんだろうね。

    そこで僕は固く決心したのさ。全ての原因である魔王を必ずこの手で殺してやるってね」

「その後のことをお話しいただけますか」

勇者「君もせっかちな人だねえ。ここは僕の旅において重要な場面だよ?

    まあ、良いや。

    とにかく僕は隣町まで行ってこのことを誰かに話そうと思ったんだ。

    小さな町とはいえ、僕の町よりは大きいからね。きっと腕の立つ人もいるだろうと思って」


「町から何か持ち出した物はありましたか」

勇者「そうだねえ、ちょっとした食料と、あと武器としてナイフを道具屋から持って行ったかな。

    ああ、そうだ。これはちゃんと後で返そうと思ったんだけどね、お金も少しばかり借りていったよ。

    道具屋の主人も魔物にやられたみたいだから、それももうできないけどね。

    だからそんなに悲しそうな顔をしないでくれよ。僕だってかなり辛かったんだ。

    それじゃあ続けるよ?

    隣町に着いて僕は絶望したんだ。

    何故かって、ここももう魔王の手に落ちていたんだよ。

    町の人は全員殺されて、代わりに魔物が町を支配していたよ」

「町民の死体は見ましたか」

勇者「あのねえ、本当に勉強不足だね。

    これは僕が親切だから教えるんであって、本当は予め調べておかなくちゃいけないことだよ?

    魔物っていうのは人間を食って生きてるんだ。

    だから魔物に襲われた跡には人っ子一人残らないってわけ。わかる?」

「それは失礼致しました。では続きをどうぞ」

勇者「その頃の僕は正義に燃えていたからね。町の光景を見てすぐに心が決まったよ。

    皆殺しにしてやろうって。

    はははは! 今でもよく覚えてるよ、あの高揚感!」

「コーヒーをもう一杯いかがですか」

勇者「いや、まだ良いよ。

    それよりも聞いてくれよ!

    妖精もさ、魔物なんか殺せ殺せって言うんだよ! ははは!

    それで魔物たちをナイフで次々と――」


# 四日目

勇者「今日は紅茶なのか。

    あれ? 葉っぱ変えた? いつものずーんってくる感じがないんだけど」

「いえ、同じ物を用意致しました」

勇者「そう? あ、それより昨日はどこまで話したっけ? よく覚えてないんだよ」

「隣町の魔物を滅ぼしたところまでです」

勇者「そうだったっけ。じゃあ、続けるよ。

    その時までに僕は、魔王がかなり力を付けてきているって気付いたんだ。

    これは早くしないと世界が滅んでしまうってね。ははは!」

「どうかされましたか」

勇者「いやあ、それがね、妖精に聞いてみたんだよ。魔王はどこにいるか知ってるかって!

    そしたら何て言ったと思う? 城を乗っ取ったって言うんだ。

    こりゃ傑作だよ! もう、この国も終わったなって思ったね!

    だからせめて一矢報いてやろうとってことでさ、城まで行くことにしたんだ」

「城に魔王はいましたか」

勇者「ああ、案の定城下町含めて魔物だらけさ。

    だけど僕には呪文があったからね、大概の魔物は僕から逃げていったよ。

    でも流石は魔王のお膝元ってこともあって、そんな僕に刃向かってくる奴もいたんだよ。

    これがまた中々強くてね、まさに多勢に無勢ってやつさ。

    そこは諦めて一旦逃げることにしたんだな。はは!

    逃げも兵法の一手って言うだろ?」

「紅茶はいかがですか」


勇者「うん? じゃあ貰おうかな。

    それより聞いてくれよ! 僕が命からがら逃げた先ってのが、なんと城の食糧庫だったんだよ!

    ははは! 人間を虐殺しておいて無防備にも程があるよな!

    だから僕はそこに毒を仕込んだんだ」

「殺意はありましたか」

勇者「そりゃあ、もちろん! 苦しみ悶えて死んでいった人たちのことを思い知れってね!

    はははは! この時ばかりは僕も妖精も笑いが止まらなかったよ!」

「魔物の苦しみや悲しみを考えたことはありますか」

勇者「は? 何言ってるんだ、あんた? 魔物がそんなもの感じるわけ――」


# 五日目

勇者「うーん……あれ? ここは……檻の中……? 魔物もいるじゃないか!

    くそ、手錠まで掛けやがって!

    魔王の手先の生き残りか!」

「お目覚めですか」

勇者「そ、その声は! やっぱりお前も魔物だったんだな!

    魔物に対して殺意はあるかなんて聞いた時点で怪しいとは思ってたんだ!」

「どうか落ち着いてください」

勇者「僕は気付いてたぞ! お前は飲み物にも何か混ぜてただろ!

    まあ、勇者である僕はすぐに耐性が付いたから効かなかったみたいだけどな!

    さあ! 僕をどうしようって言うんだ? 殺すなら殺せよ!

    ははは! でも、もうお前たちの魔王はいないけどな!」

「もうしばらく眠っていてください」

勇者「う…………」

人間の苦しみもわからず人間殺しまくってるやつが「わたしたちの苦しみがわからないのか」とか滑稽すぎるんだけど

まだわからんぞ?
人間の苦しみも知っているかもしれない




男「いやはや、今回は大変でしたよ」

女「これからどうするんですか、先生」

男「鎮静剤に対する耐性が思ったよりも早く生じたようですね。

    しかし証言は十分に取れたのでこれで十分でしょう」


# ある日の新聞

    世間を震撼させた猟奇殺人犯の裁判始まる

 先月、A町及びB町の町民を殺害し、王城の食糧に毒を混ぜた事件で
 殺人などの罪に問われた男の裁判が今日の午後に開始される。
 男は犯行を全面的に認めているが、幻覚を見るなど精神に異常をきたしており
 その責任能力の有無が争点となりそうだ。
 なお、王立病院の医師によると中毒の症状を訴えた城の兵士八名は、
 いずれも意識があり、命に別状はないと言う。

以上で終わりです。どうもありがとうございました!

現在、他のSSも書いているので良かったら読んでみてください。

魔王「お前、実は弱いだろ?」勇者「……」
魔王「お前、実は弱いだろ?」勇者「……」 - SSまとめ速報
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オチはよめてた

やっぱりそういう流れだったのね

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