勇次郎「ぐああ……ッ！」ﾄﾞｻﾞｧｯ

刃牙（え……ッ）

勇次郎「つ、強い……ッ！　さすが刃牙……ッ！　さすが俺の息子……ッ！」

刃牙（えぇ～～～～～～～～～～！？）

刃牙「オヤジ、なにふざけて――」

勇次郎「刃牙……オマエは強すぎる……。もう俺では太刀打ちできない……ッ」

刃牙「ハァ？」

勇次郎「ヒィッ！　許して……」

刃牙「許してって……なに、バカなことしてんだよ！　やめてくれよ！」

勇次郎「ヒイィッ！」

刃牙（なんなんだいったい……ッ！）

勇次郎「すみません、刃牙……いや刃牙さん！　この通りです！」

勇次郎「許して下さいィ～～～～～ッ！」

刃牙「オイ……やめろって……」

勇次郎「ヒッ！　睨まないで下さいッ！」

刃牙「やめろってんだよ！」ｸﾞｲｯ

勇次郎「グワァッ！　骨がッ！　骨がァッ！　強すぎるゥッ！」ｺﾞﾛｺﾞﾛ

刃牙「～～～～～～～～～～ッッッ！」

刃牙「親父ィ……」ﾒｷｯ…

刃牙「そのふざけたマネをやめろっていってンだよォッ！」

バシィッ！

勇次郎「ゲハァッ！　ヒィ……もう立てません……許して下さい……」

刃牙「くっ……！」

刃牙は理解した――

範馬勇次郎は“地上最強”ならぬ“地上最弱”を演じていると！





刃牙「やめろォォォォォッ！」

勇次郎「はひいィィィ～～～～～～！」

おそらくは地球上で五本の指に入るであろう実力者である自分が――



刃牙「いい加減にしろッ！　弱いフリしてンじゃねぇよ！」

勇次郎「オワッ！」ﾋﾞｸｯ



父親の“地上最弱”を食い止められない。



勇次郎「刃牙さん……いえ、刃牙様ッ！　許して下さいッッッ！」

刃牙「クソッ！　やめろってんだよ！」



なんという矛盾！

……

…………

刃牙「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

勇次郎「理解（わか）ったか、刃牙よ」

勇次郎「強さとは、己の願望（ワガママ）を貫き通す力」

勇次郎「弱者が、俺に成り変わることはできねェが――」

勇次郎「強ささえありゃあ、この地上で最も弱くなることだってできる」

勇次郎「地上最弱でありたいという俺のワガママを誰も止めるこたァできねェ」

刃牙「理解したよ……痛いほどにね」



もし弱き者が「強い者に勝ちたい」と願ったなら、願いの成就には尋常ならぬ歳月が必要だが――

もし強き者が「弱い者に敗けたい」と願ったなら――

その日のうちにも実行可能！！！



その強さでもって、相手にムリヤリ勝利をプレゼントしてしまえばよいのだから……。

刃牙「強ければ勝つも敗けるも自由自在ってか……勉強ンなったよ」

刃牙「いつか……アンタの前で“地上最強”と“地上最弱”を演じてみせるさ」

勇次郎「フン……失望させるなよ」



ｻﾞｯｻﾞｯｻﾞｯ…



刃牙（今日のところは……ワガママ通されちゃったな……）

……

……

……

だけどさ親父ィ……





ストライダム「ユージロー、先日インターネット上で気になる動画を見かけたんだが……」

勇次郎「動画ァ？」





俺だってやられっ放しじゃないぜ……ッッ

ストライダム「この動画だ……再生数はすでに一億を超えている」ｶﾁｯ

勇次郎「！！！」





アンタが演じてみせた“地上最弱の生物”範馬勇次郎。

実はしっかりと録画してあって――