男「復讐を止めるキャラってどうして叩かれるんだろうな」 (49)

A『俺はBに両親を殺された! だから復讐してやるんだ!』

B『ひいいいっ……!』

C『やめるんだっ!』



男「――こういう構図よくあるけど」

女「もちろん現実の話じゃなくフィクションでね」

男「復讐を止めるキャラ、この場合はCになるけど、こういうキャラってよく叩かれるんだよな」

男「それが俺、いまいち納得いかないんだわ」

女「どうして?」

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男「だってさ、もし復讐者Aがお前だったら俺は多分……止めるだろうよ」

女「へぇ、そうなんだ」

男「そりゃもちろん気持ちは分かるし、復讐を完遂させてやりたいって思いだってある。あるに決まってる」

男「だけどそれでもやっぱ止めなきゃならんことってあるだろうよ」

男「なにしろ大切な人がブタ箱行きになることやらかそうってんだからな」

男「ましてCが警官や探偵のような立場だったら、それこそ詭弁でもなんでも使って止めなきゃいけないわけよ」

男「んなわけねーと本心では思ってても『死んだ人はそんなこと望んでない』って言わなきゃいかんわけよ」

男「なのに止めるキャラって『偽善者』だの『頭がお花畑』だのボロックソに叩かれるんだよ」

男「それでいて、復讐を肯定したりやりたきゃやれ、なキャラは『かっこいい』『分かってる』と称賛される」

男「これがなーんかもやもやするんだよな」

男「復讐したいキャラがしたい気持ちはよく分かるが、止める奴もいなきゃいかんだろって思っちゃう」

男「憎しみの連鎖がどうこうなんて小難しいこと言う気はないけど、やったやられたが横行してちゃ世の中メチャクチャだろ」

女「どこかで折り合いが必要ってのもまた一つの事実ね」

男「で、こういう話になると大抵言われるのは『じゃあお前も誰か殺されてみろよ』なんだが」

男「んなこと言い出したらこっちだって『復讐を止めなきゃならない立場の人の気持ちは?』って言いたくなる」

男「大切な人を殺されたらその瞬間他人の復讐に口出す権利が生まれます、ってのもおかしな話だしな」

男「――で、フィクションの復讐云々を語る時欠かせない、というかよく話題になるセリフがある」

女「そんなのあるの? どんなセリフ?」

男「『ジョジョの奇妙な冒険』ってマンガに出てくるエルメェスってキャラが、復讐についてこう言ってるんだよ」

男「『復讐とは自分の運命への決着をつけるためにある』って」

女「へぇ~、いいセリフじゃない」

男「うん」

男「このシーンやセリフ自体はすげえかっこいいし、これに何かケチをつけるつもりはさらさらない」

男「ちなみにこのキャラは姉を殺されてるんだけど、姉に全く非はないし、仇の相手もすげえゲスなんだわ」

男「誰の目から見ても、同情できる復讐、応援したくなる復讐、といえるシチュエーションだ」

男「だ、け、ど!」

女「だけど?」

男「ネットだとこの一連のシーンだけ完全に一人歩きしちゃって」

男「『全ての復讐はこのセリフに集約される』『肯定できる』みたいなことを言ってる人がいっぱいいるんだよ」

男「たとえばよ? 町歩いててチンピラと肩ぶつかったとして、そのチンピラがさ」

男「『復讐とは自分の運命への決着をつけるためにある』とか言って殴りかかってきたらどうよ?」

女「すごくシュールな光景ね……」

男「少なくとも俺はそのチンピラを理解したり肯定する気持ちにはなれんね」

男「さっきのシーンはかっこいいけど、どんな復讐にも当てはめられるもんじゃない、と俺は思ってる」

男「あくまでこのセリフはこのキャラが言ったからいいんだ、と思ってる」

男「……でさ、今のマンガの話題はまだ続くんだけど」

女「どうぞ」

男「さっきのセリフって誰かに復讐を止められた時に言ったセリフって思われがちだけど、実際はそうじゃなくて」

男「姉を殺した仇とのバトルがクライマックスになった時に言ったセリフなんだよ」

男「『復讐してなにが悪い』ってセリフと言うより『仇との決着は自分でつける』って決意表明のセリフなんだな」

女「へぇ~、そうなんだ」

男「しかもこのマンガでは対戦相手である仇もまたこのキャラに復讐心を持っちゃって、それが敗因の一つになる」

男「そういう復讐の空しさ的なところもちゃんと描かれてるマンガなのに、いざネット掲示板とかで復讐の話題が始まると」

男「このシーンだけ取り上げられて『ビバ復讐!』みたくなってるのがさぁ……」

男「すんげえもやもやっとするんだよ……もやもやもやっと! 分かるか、この気持ち!?」

女「うん、まあ、ちょっと落ち着きなさいって」

女「まーようするに、こう言いたいんでしょ?」

女「復讐自体を否定するつもりはないけど、復讐がやたらに持てはやされて無条件に肯定されるのはどうも納得いかない」

女「復讐を止めるキャラが不当に叩かれてる気がすると」

男「俺があれだけ熱く長々と語ったことをあっさりまとめやがったな……」

男「いや、まぁ、たしかにそんな感じなんですけれども……」

女「あんたの主張は分かったわ。でもさ、敵討ちものってやっぱり盛り上がるじゃない?」

男「……どういうことだよ」

女「たとえばさ、『さるかに合戦』」

男「『さるかに合戦』!? これまた懐かしい……」

女「あれなんか典型的な敵討ちの話だけど、あんた子供の頃、サルが退治されたラストシーンでスカッとしたでしょ?」

男「うん、スカッとした」

女「もしあれが『カニはウスや栗に説得され、サルに復讐をするのをやめました。めでたしめでたし……』で終わってたら」

女「多分、あんたは子供心に『めでたくねえよ!』って突っ込んでたと思うわよ」

男「ぐっ……否定できん……」

女「それと、敵討ち物の代名詞に『忠臣蔵』があるけど、あれも何度もテレビドラマやるほど人気も需要もあるしさ」

男「あれって史実は全然美談じゃなかったって聞くけどな」

女「それは置いといて、復讐だとか敵討ちってのは一種のエンターテイメントなのよ」

女「一番最初に出てきたA、B、Cの話に戻るけど、Aに感情移入したらそりゃCは邪魔だなって思っちゃうわよ」

女「A、B、Cの配役を変えて、恋愛物に置き換えてみるとご覧の通り」



男『俺は女に心を奪われた! だから告白してやるんだ!』

女『ひいいいっ……!』

イケメン『やめるんだっ!』



女「イケメン君がすっごく邪魔に見えるでしょ?」

男「見える!」

男「というかちょっと待て。『ひいいいっ……!』ってどういうことだよ」

女「ごめんごめん、セリフ変えるの忘れてたわ」

男(わざとくせえ……)

女「物語に対してどう思うかなんて、誰に主軸をおいた話か、誰に感情移入して読むかで全然変わっちゃうし複雑なもんよ」

女「復讐みたいなデリケートなテーマは特にね」

女「またA、B、Cを例に出すけど、AとCが善人でBが極悪人って構図ならまだ分かりやすい方だけど」

女「もし三人とも悪い人じゃないって物語だったら、多分どういう結末でも、しこりは残るわよ」

男「だろうなぁ」

男「三人のうち誰が死んでも生き残っても、後味が悪くなるだろうなぁ」

女「もしかしたら復讐を止めるCこそが真の悪人、なんて展開だってあったりして……」

男「おいおい……そんなことになったら復讐を止めるキャラをかばった俺の立場が……」

女「立場ってなによ……」

女「とにかく、復讐ってのはとっても難しいテーマだってのはよく分かったでしょ」

男「ああ、よく分かった。考えれば考えるほど明快な答えが遠ざかってく感じだ」

女「でも、こうやって色々考えること自体は決して悪いことじゃないと思うわよ」

女「私たち二人のうちのどっちかが、いつ復讐者になるとも止める側になるとも限らないしね」

男「そうだな。ま……今日のところはこれでお開きにしとくか! 楽しかったよ」

女「私もよ」

……

女「おはよー!」

男「おは――あれ? 珍しいな、本を読んでるなんて」

女「ああ、これシェイクスピアの『ハムレット』よ。イケメン君に借りたの」

男「な……! イケメンの奴、お前の気を引こうと本なんか貸しやがったのか! 復讐してやる!」

女「ちょっと待ちなさいよ! 違うわよ! 私の方から貸してくれって頼んだの!」

男「お前から……?」

女「ほら、ちょっと前に復讐がどうのこうのって話をしたでしょ?」

女「で、『ハムレット』って復讐悲劇として有名だから、それで興味が出て彼に貸してもらったのよ」

男「復讐の話……ってなんだっけ」

女「え」

男「あーそういえば半沢直樹の『倍返しだ!』ってかっこいいよな! ――みたいな話をしたようなしてないような……」

女「あんたは復讐の前に、まず復習するクセをつけることをオススメするわ」





―終わり―

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