P「掌編 一コマアンダーザデスク」 (22)
今週に入ってから振り続けている、雨にたいする思いは三者三様。
「まったく、こうも雨続きだとなんだか気がめいってくるな」
「でも、雨の日は静かで……落ち着くから、そんなに嫌いじゃないですけど」
「フヒッ……じめじめは……キノコに、良い」
そう言って、Pの机の下に潜り込んでいる少女、星輝子が手にしていたキノコの鉢植えをうっとりとした表情で眺める。
そんな彼女に、窓の外に降る雨の様子を見ながらPが一言。
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※ オリジナル設定、キャラ崩壊注意
※ 掌編です
「なぁ輝子。お前に一つ確認しておく事があるんだが」
「な、なにかな……?」
「机の下に置いていい鉢植えの数は、いくつって約束だった?」
聞かれた輝子はぎくりと肩を震わせると、振り返ったPの顔を見ないようにしながら、小さく右手を突き出した。
その手に立てられた三本の指を見て、Pがやれやれといったため息をつく。
「そうだな、最初に三つまでって約束したよな。」
「はい……やくそく……しました」
「なら、今机の下には何個の鉢植えがある?」
「よっ……五個です……」
机の下を見回した輝子が、ばつが悪そうに答える。
「雨が降って……じめじめがいい感じだから、つい……持って来ちゃった」
「はぁ……あんまりこういう事は言いたくないけど、しばらくの間は机の下にキノコを持ち込むの禁止な」
「そ、そんなぁ……!」
Pからキノコの持ち込み禁止を言い渡され、まるでこの世の終わりのような表情になる輝子。
その時、そんな輝子に助け舟を出した者がいた。彼女の同僚でありユニット仲間でもある佐久間まゆだ。
「いきなり全部を禁止にするのは、ちょっと厳しすぎますよぉ。プロデューサーさん、せめて一つは許してあげませんか?」
けれど、返ってきたのは彼女にとって意外な言葉。
「あのな、なにも輝子だけじゃなくて、俺はお前にも同じ事が言いたいんだぞ、まゆ?」
そう言われ、「何を言ってるのかわからないです」という顔になるまゆ。
すると、プロデューサーが今度は目じりを押さえてうつむいて。
「同じ事って……まゆは別に、キノコを育てたりしてませんよぉ?」
「だからな、キノコじゃなくても俺の机の下のせっまいスペースに漫画やらなにやら……」
「挙句の果てに、人間が二人も居座ったら、どう考えたって足の置き場がないだろうが」
そう、Pの机の下にある空間には今、輝子とまゆ、二人の少女が座り込み、
申し訳程度に残った隙間にも少女漫画や雑誌、そして先ほど話題に上がったキノコの鉢植えが器用に詰め込まれていたのだ。
そのためにPはこの一時間、足を机と平行になるよう横にむけ、上体だけを机の方に捻るという、
非常に疲れる姿勢で机に向かっていたのである。
「そんな……ま、まゆの事、プロデューサーさんは、じゃ……邪魔だって……おっしゃるんですかぁ?」
「いや、邪魔とかじゃなくてな? せめて二人が潜るなら、その分キノコや本をどかしてスペースを空けてくれって……」
「そんな、そんなぁ……まゆはただ、あなたの側に居たかっただけなのに……」
まゆが、ふるふると体を震わせながら、涙目で訴える。そんな彼女を見て、Pも困った様子で首に手をやった。
やがて、まゆが周りに置いてあった鉢植えを三つ、両手で抱えるように持って机の下から出ると、
突然キノコを持ち出された輝子が、不安そうに声をかける。
「あ、あの……まゆさん?」
だが、まゆはそんな彼女に振り返る事もせず、無言のまま部屋を出て行ってしまった。
「まさか……捨てに行ったのか?」
「の、ノォォーッ!! マイフレェーンドッッ!!」
絶叫を上げ、青ざめた顔でまゆの後を追いかけて行く輝子。
さすがに少し言い過ぎたかと反省したPだったが、今度は隣の机の下から這い出るようにして現れた森久保乃々の姿が目に入る。
「……おい」
「あうっ!?」
声をかけられた乃々が、その場で小動物のように体を跳ねさせると、滅多に合わされる事のない二人の目があった。
そしてそのまま、彼女は蛇に睨まれた蛙のように動かなくなる。
「お前……いたのか」
「さ、最初から……いちおう、いたんですけど……」
消え入るような小さな声でそう答えると、いつものように視線を逸らした乃々が、
普段ゆっくりとしている彼女からは想像も出来ない素早さでPの座る机の下に潜り込んだ。
「ちょっ……何やってんだお前は! 最初から居たんだったらさっきの話も聞いてただろ!?」
「で、でも……二人がいない時じゃないと、こっちの机の下には入れないですし……」
「だから、入らなくっていいんだって! 大体なんでお前らは俺の机の下に潜り込みたがるんだよ!」
だが、森久保は机の奥で身を固め、Pに対して徹底抗戦の構えを見せる。
こうなった彼女を机の下から追い出すのが、どれ程厄介な物か――
過去に一度、力ずくで引きずり出そうとして、危うく裁判沙汰にまで発展するところだった事を、Pは忘れてなどいなかった。
「……分かった。今度たんまりと仕事入れてやるから、覚悟しとけよ?」
「もりくぼはもう……そんな脅しには屈しませんし……」
一人分のスペースは空いているので、足の置き場に困る事はない。結局、Pは机の下に乃々を入れたまま、仕事を再開する。
しばらくすると輝子が一人、うなだれた様子で部屋に戻って来た。その手には、空になった鉢植えが抱えられており。
「友達……友達が……」
ぶつぶつと呟く輝子に、何があったのかとたずねる勇気を、Pはあいにく持ち合わせてはいなかった。
「フヒッ……あんなに……美味しそうな顔しやがって……」
その日、まゆが用意したP達の昼食は、新鮮なキノコがたっぷりと使われた、それはそれは美味しいクリームパスタであり、
涙を流しながらおかわりを繰り返した輝子が午後のレッスンで大惨事を引き起こしたりしたのだが……
彼女の名誉のために、詳しい話をここで語るのは、止めておくことにしよう。
ちなみに、誤解なきように付け加えておくと、まゆ曰く、きちんと許可は取っていたそうである。
とにもかくにも、この話は、ここでおしまい。ある日の事務所の、日常における一コマであった。
いつも書いてるうちに長くなるので、なるべく短めに
アンダーザデスクの三人とPの微笑ましい日常のやりとりが書きたかった。
それでは読んで下さってありがとうございました。
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