※ラジオドラマ風
※ ナレーション(cv大川透)
『――某日 事務所』
ガチャ。
まゆ「おはようございます」
『佐久間くんがやって来ました』
まゆ「……誰もいないんですね。スケジュールは……」
『辺りをきょろきょろと見回すと、とことことスケジュールの書き込まれたホワイトボードの前へ」
まゆ「どうやらお仕事やレッスンで……しばらくは事務所に一人ですか」
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まゆ「どうしようかな……一人で待ってるのもつまらないから……ちょっと喫茶店にでもいこうかな――」
まゆ「…………!」
『おや? どうやらプロデューサーの椅子が目に入ったようですね』
まゆ(一人っきりの事務所、無防備に置かれたプロデューサーの椅子、誰かが戻ってくるまではまだ時間がある――)
まゆ(でも、それってどうなのかしら? 人の目を盗んで座るなんてまるで悪い事してるみたいで――)
まゆ(いけない、いけないわ! まゆ! 誘惑に負けちゃだめ! ここはほら、強い自制の心を持って――)
ぽふっ。
まゆ「――っ! い、いつの間に!?」
『佐久間くん、誘惑に陥落』
『もばます!』
まゆ「あぁ……これがプロデューサーさんの椅子……」
まゆ「大きくって固くって、それでいてゴツゴツして……」
『うっとりとした表情ですね。なんだか、いけないものを見ている気分です』
まゆ「……でも、はっきり言って座り心地は最悪です」
まゆ「お尻が痛くなっちゃう。今度、椅子用のクッションをプレゼントしようかな……もちろん、手編みで♪」
まゆ(まゆ、嬉しいよ。俺のために手作りの座椅子カバーをプレゼントしてくれるなんて)
まゆ(そんな! まゆはただ、プロデューサーの身体を心配して……)
まゆ(いや、その優しさにお礼をしなくちゃいけないな。そうだ! 今度二人でドレスの下見にでも――」
まゆ「ど、ドレスってもしかして……や、ヤダ! プロデューサーさんったら!」
まゆ「でも、どうしてもっていうのなら……着てあげても、いいんですよ?」
まゆ「なんて、なーんてっ! キャー! 恥ずかしいですぅ!」
『両手をほっぺたに当てて恥ずかしがる佐久間くん。可愛いですねぇ』
『もばます!』
まゆ「――つい、取り乱してしまいました」
まゆ「ダメですね。事務所だって言うのに、一人だとちょっと気が緩んじゃいます」
まゆ「あぁ……でもこの椅子に、いつもプロデューサーが座ってるんですよね」
まゆ「つまりまゆは今、プロデューサーの膝の上に乗っていると言っても過言ではない……!?」
『それは、どうなんでしょうか』
まゆ(プロデューサーさんの膝の上って、なんだかドキドキしますね……)
まゆ(重たくないですかぁ? 薫ちゃん達と違って、まゆは大きいですし)
まゆ(全然そんな事はない? そうですか、よかったぁ)
まゆ(――きゃっ! いきなり頭を撫でるのはダメで――可愛かったから? な、ならしかたない……かな?」
まゆ「い、イヤじゃないですよぉ! 出来れば、もっと撫でて欲しい……なんて」
『またもや、妄想が駄々漏れです』
『もばます!』
まゆ「はっ! 普通に座った姿勢が膝の上に乗る事になるならば」
『おっと。佐久間くんが一度椅子から立ち上がり、背もたれに向かって正座するように座りなおしましたよ?』
まゆ「腕をこう……背もたれに回すと……」
まゆ「なんとなく、プロデューサーさんと抱き合ってる気分が味わえるかも……」
まゆ「あぁなんだか……ドキドキで熱くなってきちゃいました」
『これはいけませんね。アイドルとしてあるまじき表情になってます』
まゆ「このまま、溶けちゃいそう……」
『先ほどから机の下で気配を殺している星くん! 同じユニットの仲間として、止めるなら今しかないですよ!』
輝子(フヒッ!? い、今のいままで気配を消してたのに……)
輝子(急に話を振られても……私にこの状況をどうにかできる自信なんて……ないぜぇ)
『もばます!』
まゆ「…………」
輝子「…………やぁ」
まゆ「……いつから?」
輝子「えっ?」
まゆ「いつから見てました?」
輝子「え、えっと……まゆ……さんが、事務所にやって来た時から……です」
『物音に振り返った佐久間くんは、机の下でキノコを抱える星くんに気がついてしまいました』
まゆ「……ホワイトボードには、輝子ちゃんの予定はなかったはずですけど」
輝子「き、キノコの世話……日課だから」
『そう言って霧吹きを見せる星くんの手は、ぷるぷると震えて……その胸中、お察しします』
まゆ「そうですか」
輝子「……なんか、ごめん」
まゆ「いいんですよぉ……私と……輝子ちゃんの仲じゃないですかぁ?」
輝子「ヒッ! な、なんで近づいて……こわっ――」
輝子『も、もばますぅぅーッ!!』
まゆ「それで、どうですかぁ?」
輝子「……凄く、恥ずかしい……です」
『先ほどの佐久間くんのように椅子に正座する星くんと、それを机の下から眺める佐久間くん』
輝子「あの……いつまで続ければ……?」
まゆ「まだダメですよぉ。私も同じくらい、恥ずかしかったんですからぁ」
輝子(今誰かが帰って来てこの姿を見られたらと思うと……じ、地獄だぜぇ)
ガチャ。
『案の定、タイミングよく誰かが帰ってきちゃいました』
P「うー外はまだ寒い寒い……ただいまー」
輝子「……あ」
P「…………」
輝子(す、凄くこっち見てるぅぅっ!)
輝子「あ、あの……これは、その……なりゆきというかなんていうか」
輝子「別に、やましい気持ちがあったりしたわけじゃなくって、その……」
まゆ(ふぁ、ファイトですよ輝子ちゃん!)
輝子「あの……その……」
P「……輝子」
輝子「あ、暖めてた……」
輝子「そ、外回りから冷えて戻ってくるプロデューサーのために、私が体で椅子を暖めて待ってたんだぜぇー!! ヒャッハー!!」
『戦国時代、信長の草履を秀吉が懐で暖める、有名な逸話があるんです』
『もばます!』
P「うん……確かにほんのり温かい」
輝子「そ、そうか……良かった……フヒッ」
P「方法はともかく……心配してくれてありがとな」
『星くんが人力で暖めた椅子に座り、Pが感想を言います』
まゆ(どうしましょう……なんだか凄く出て行きづらいです)
『机の下では気がついてもらえなかった佐久間くんが、這い出るタイミングを完璧に逃してしまっています』
P「そうだ! なにかお礼でもしてあげようかな……ちょうど昼時だし、ご飯でも奢るよ」
輝子「へっ……そ、そんな……良いのか?」
P「あ! でもあんまり期待しないでくれよ? そう高いものは無理だからな」
輝子「ぷ、プロデューサーと一緒なら……ど、どこでも……後、キノコさえあれば……」
『こうして、そのまま事務所から出て行く星くんとP。部屋には、佐久間くんが一人残されました』
まゆ「今のうちに……机の下から出て……っと」
まゆ「うぅ……それにしても輝子ちゃん……プロデューサーさんとお昼なんて羨ましい」
まゆ「……あのまま私がここに座っていたら、今頃はまゆがプロデューサーさんとお昼を……」
『再び椅子に正座する佐久間くん』
まゆ「あ……プロデューサーさんの温もりが残ってる……気がする」
『星くんのものかもしれませんけどね』
ガチャ。
未央「今日も元気にぃ! おっはようござ――」
まゆ「――――ッ!!」
未央「――います……?」
まゆ「…………あ、あの……」
未央「お、お邪魔しましたぁ!」
パタン!!
まゆ「ま、待って!! 誤解、誤解ですからぁー!」
まゆ「このまま一人にしないでくださいーっ!」
『個性的なアイドル達が生活する。そんな日常の風景でありました』
おわり
おしまいです。読んで下さってありがとうございました。
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