【艦これ】Z3「西へ!」 (16)
1961年8月。一人の男がベルリン空港へと降り立った。ある少女を探しに……
注意 艦これssですが、捏造設定が頻出します
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彼は日本人であり、祖国では提督と呼ばれる地位についていた。
もっとも、先の大戦でのそれとは違い彼の海軍内での階級はある程度低い。
ただ、その特殊な仕事柄、そう呼ばれているだけだった。
提督「えっと、王宮跡地の近くのの○○カフェで待ち合わせだったか」
彼はたどたどしいドイツ語を使い空港係員にバスの運行について訪ねる。
係員はすこしいやそうな顔をしたが、それなりに丁寧に教えてくれた。
バス停に並びバスを待つ間、彼はこれまでの経緯を回想する。
提督(大本営あてにあの手紙が届いたのは、去年の冬だった……)
それはZ3(マックス・シュルツ)の名を名乗る艦娘からの密書だった。
内容は東ドイツの窮状と国民政府の艦娘への処遇、そして日本への亡命の要請。
これに対し大本営は亡命を全面的に受け入れる方針を示す。
しかし、問題はその手紙の真偽だった。
西ドイツはまだしも、東ドイツにマックスという名の艦娘がいるかは定かではなかったし、
大本営は大本営で東ドイツ政府が何らかの謀略を仕掛けようとしているのではないかなどという意見まで飛び出す始末だった。
そんな中、東ドイツ行きを志願したのが提督である。
彼は提督という名を持つものの、人生でいままでに艦娘を指揮した経験はない。
それというのも艦娘の不足が原因だった。
1947年の深海棲艦の大規模侵攻と共に日本政府と、日本政府により設置された大本営は艦娘と提督の育成を始めたが、
どうしても数が限られている艦娘に対して提督の数が過剰になってしまう。
そのため、名だけ提督というただの海軍軍人が大量に発生してしまう状況に陥った。
そして、彼もその「名だけ提督」の一人であった。
提督「艦娘を指揮して戦いたくて、東ドイツくんだりまでお出迎えに来たものの、本当にいるのかどうか……」
バスは目的地に着いたようだ。
かつてシュプレー川の中州にはベルリン王宮があったが、1945年の空襲とベルリン市街戦で大きく破壊された。
その廃墟は修復可能ではあったものの、
東ドイツ政府によってプロイセン軍国主義のシンボルであるとされ1950年に爆破解体された。
今はその跡地が広場となって残っているだけである。
提督はメモを片手に指定されたカフェに向かった。
提督「ここか……」
扉を開くと、チリンと音が鳴る。すると少女の声が聞こえた。
「Guten Tag. あなたが『提督』?」
彼は閑散としたカフェの奥へと目を向ける。
はたせるかな、そこには茶色のコートを身にまとったこげ茶色の髪の女の子が座っていた。
提督「はじめまして。君がマックス・シュルツさんでいいのかな?」
マックス「そう。私が駆逐艦マックス・シュルツよ。マックス…でもいいけど。よろしく」
提督「で、君が日本への亡命をしたいという……」
マックス「シッ、大きな声ではいわないで。どこに人民警察の眼があるかわからないもの」
提督「ありゃ、それはすまなかった。じゃあ……日本への『旅行』はどうする?」
マックスの緊張した表情がすこし和らいだようであった。
マックス「旅行……旅行ね。いいよび方だわ。今回の旅行は、まずパスポートを手に入れるところから始めなきゃ。
そのあと、できるだけ早く空港から国外へ……」
提督「わかった。じゃあまずパスポートを作らないと」
その時だった。店内にぬっとコートに身を包んだ同じような風体の男たちが入ってくるのが見えた。
彼らのうち2人は店外で待機しているようだ。3人がこちらに向かってゆっくりと近づいてくる。
マックス「さっそくきたようね……」
提督「奴らが例の人民警察?」
マックス「たぶん。でなきゃ軍か……」
提督「裏口から逃げられるかい?」
マックス「だめね。たぶんおえられてる」
提督「じゃあどうするんだ?軍人の俺でも5人以上はきついぞ」
マックス「……あなた、本当に提督なのね?」
提督「……?そうだけど、どうしたんだい?」
マックスはいきなり立ち上がった。コートの男たちはマックスが逃げ出すと思ったのか、あわてて飛びかかってくる。
提督はその男の一人をとっさに羽交い絞めにして投げ捨てる。
しかしその間に別の男がマックスを撃とうとトカレフを取り出す。
提督「マックス! あぶない!」
しかし、放たれた銃弾はマックスを貫くことはなかった。
提督「その姿は……!」
そこにあったのは先ほどのコート姿のマックスではなく、紺色のセーラー服を身にまとった艦娘だった。
彼女は瞬間的に艤装を展開していたのだ。
彼女は手にした砲で男を殴り飛ばす。男は艦娘の圧倒的な力を受け昏倒した。
マックス「ドイツ1934年計画型駆逐艦、その三番艦、Z3よ。覚えておきなさい」
マックスはこちらを振り返って叫ぶ。
「表に車が止めてあるわ!そこに乗り込んで!速く!」
提督とマックスは新車のトラバントへと急ぐ。運転は提督がすることになった。
提督「俺こっちでの運転免許証持ってないんだけど!」
マックス「いいから速く車を出して! 追ってきてる!」
提督はトラバントを急発進させた。
提督「どこへむかうんだい!パスポートの密造人のところ?」
マックス「どうせ空港につくころには出国が厳しくなってるわ!」
提督「じゃあどこへいく!」
マックス「西へ!とにかく西へ!」
今日はここまでです
もうちょっと続きます
夜。ベルリン市外の平原の道路に一台のトラバントが止まっていた。
その中で一組の男女が小声で話し合っている。
提督「まさか国境警備隊以外の軍が国境にあつまっているとは……」
マックス「ええ。実は私たち東ドイツの亡命希望者のコミュニティのあいだでも情報はあったわ。
1961年8月12日と13日の夜に人民軍、人民警察、労働者階級戦闘団、その他もろもろの組織が西ドイツとの国境の封鎖に乗り出すって」
提督「まったく。深海棲艦とも戦わないといけないこの世界情勢で何をやってんだか……」
マックス「まったくそのとおりね。ともかく、あの有刺鉄線と軍を突破しないと……」
二人の視線の先にはT-34戦車と日本の陣笠にも似た特徴的なヘルメットをかぶった兵士たちの群れがあった。
◆◆◆
東ドイツの国境警備隊は有刺鉄線の敷設にいそしんでいた。
ある兵士がつかれて腰を下ろし、汗をぬぐう。一息ついてあたりをみわたすと、
「……!! なんだあれは! 車!?」
自分たちのほうに向かって一台のトラバントが突っ込んでくるのだ。
「そこの車ァ! 止まれ!」
兵士たちは必死に車を呼び止めるが、一向に止まる気配がない。
そのトラバントはそのまま有刺鉄線にぶつかると、大爆発をおこした。
兵士たちはしばらくその様子を呆然と見つめていたが、すぐに周囲に展開している仲間に対して連絡を取る。
異状あり。至急こられたし、と。
◆◆◆
マックス「……私のトラバントをおとりにつかうなんて。あれ高かったのよ」
提督「まあまあ。そのおかげでこの森の中は警備が手薄になっただろう」
二人は暗い夜の森の中をすすんでいる。
提督の発案でトラバントにマックスの砲弾を積み、信管を時限装置で作動させて国境の近くで爆発させ、おとりとしたのだ。
マックス「でもよく時限装置なんてもってたわね」
提督「天下の登戸研究所の発明品!腕時計型時限装置だ。一個いるかい?」
マックス「いえ、遠慮しておくわ」
その時だった。オオカミの遠吠えが夜の森に響いた。
マックス「ひっ」
マックスは小さな声をあげた。
提督「どうした、オオカミがこわいのか?」
マックス「そ、そんなことはないわ……ただ、むかしおそわったの……夜の森はとっても怖いところだって」
提督はすこし顎に手を置いて考える。
提督「ふむ、一般的なドイツの森は常に暗く、また姥捨ての場所でもあったから怖いってイメージが強いのかもしれない」
マックス「そうね……赤ずきんやヘンゼルとグレーテルも舞台が森のなかね。一度入ったら出られない、そんな場所……」
提督「そうだね、だが、物語には必ず終わりが来るように、森にも必ず終わりが来る……」
空はすでにしらみはじめている。
森が切れたのは崖の上だった。朝日に照らされて、眼下には西ドイツの村が見える。
国境を越えたのだ。
提督「そして、きみの物語はこれから始まるんだよ。マックス」
マックスの顔が朝日に照らされる。その眼は提督と会った当初の鋭いものではなく、年相応の少女のものになっていた。
マックス「……そうね。これからよろしく、提督」
二人はしばらくそこにたたずんで、朝日に照らされる西ドイツの大地を眺めていた。
これで終わりです。閲覧ありがとうございました
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