女「ねーねー、駅の近くにおいしいお店ができたんだけど、食べに行かない?」
男「別にいいけど」
女「やった!」
女「あっ、そうだ! だったら友人君も誘おうよ!」
男「えー……あいつを?」
女「なに? イヤ? 二人きりがいいってわけ?」
男「いやそうじゃなくて……」
男「そういやお前知らないんだっけ。アイツさ……メシの時、口うるさいんだよ」
女「もしかしてグルメなの?」
男「グルメではないけど、他人のメシの食い方にうるさいタイプでさ……」
男「やれ箸の使い方がどうだの、食べ方がどうだの……」
女「あ~、いるいる、そういう人」
女「でも、いいんじゃない?」
女「あらかじめそういう人だと分かってれば、多少うるさくても我慢できるし」
女「三人以上で行くと割引サービスあるし、友人君も誘おうよ!」
男「ああ、そういうことだったのね」
男「ま、いいや。せっかく安くなるんなら、アイツも誘うとするか」
友人「いやー悪いな、オレまで誘ってもらっちゃって!」
友人「だけどおジャマ虫になっちゃわないか?」
女「いいのいいの、安くなるし!」
友人「?」
男「三人以上だと割引があるんだってさ」
友人「あーなるほど、だったら遠慮せず付き合わせてもらうぜ!」
女(この気さくな友人君がマナーにうるさいだなんて、信じられないなぁ……)
<店>
店員「どうぞ」
友人「お~、きたきた! うまそう~!」
友人「いただきまぁ~す!」
女「ねえ、あんたの話ってホントなの? ウソついてんじゃないの?」ボソ…
男「まあ……ここまで来たら実際に体験してみろって」ヒソ…
男「じゃ、食べようぜ」モグッ
女「うんっ!」パクッ
友人「むっ……!」ピクッ
友人「女ちゃんっ!!!」
女(え、いきなり!?)
友人「そのスプーンの持ち方……いいねぇ~! 繊細さと大胆さを兼ね備えてる!」
友人「あまりのエレガントさに恐れ入ったスプーンが、超能力無しで曲がっちゃいそう!」
友人「女ちゃんが医者だったら絶対匙投げない! どんな不治の病も完治!」
女「ど、どうも……」
友人「お前の箸の持ち方も、一見正しいようでいて、微妙に独創的でグッド!」
友人「偉大なる古典に己の個性を混ぜ込んだルネッサンスが如き優美さが漂う!」
男「え、俺の持ち方まだ間違ってる?」
男「……」モグ…
友人「その咀嚼音いいわぁ~! 今オレはビートルズを感じた!」
友人「そう、すなわちリヴァプール! お前は真の英国紳士! ジェームズ・ボンドだ!」
友人「あるいはシャーロック・ホームズ! または円卓の騎士(ナイト)!」
女「……」ゴクッ
友人「今、女ちゃんが水を飲んだ時の喉の動き、一瞬喉仏が出来たみたいでグッド!」
友人「セクシーにしてビューティフル、ビューティフルにして如来!」
友人「感動しすぎて、オレ即身仏になっちゃいそう! ――いや、なる!」チーン
男「……」シーシー…
友人「ひええええ、剣術の達人のような爪楊枝さばき! 武士は食わねど高楊枝!」
友人「だけどお前はメシを食ってる! つまり武士以上! ――征夷大将軍ッ!」
女「このケーキおいしいね」
友人「甘い物は別腹! 胃袋がダブルッ! 高貴なる女性たる証ッ! 明石家さんま!」
友人「君はまさにヒロイン! 女王! 女神! ――ミロのヴィィィィィィナス!」
友人「ヴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイナス!!!」
友人「つまりお前たち二人は幕府とォッ……女神ッ!」
友人「この意味が分かるか? 分からないよな? オレも分からんッ! アンノウンッ!」
友人「だが、感じ取ってくれ! なぜならオレはッ! オレはァァァァァッ!!!」
女「……よぉく分かったわ」
男「な?」
― 完 ―
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