幹部「ふん……弱すぎる。魔王様はこの程度の奴らを恐れていたのか……」
戦士「くそっ、なんなんだこいつ!」
戦士「あっちの攻撃はやたら激しいのに、こっちの攻撃は全然通らない!」
勇者「…………」
勇者「あー……分かった。これ“負けイベント”だ」
戦士「負けイベント?」
勇者「ようするに、俺たちが絶対負けちまうイベント戦闘のことだ」
勇者「だってさ、おかしいだろ?」
勇者「まだ冒険が始まってまもないのに、いきなり幹部が襲いかかってくるなんてさ」
戦士「たしかに……なんとなくおかしいとは思ってたけど……」
戦士「でも、なんのためにあるんだ? 負けイベントって」
勇者「ボスの顔見せや、俺たちと敵に手っ取り早く因縁を作るためだ」
勇者「一度ボコボコにされりゃ、嫌でも印象に残るからな」
戦士「なるほど、そういう効果があるのか」
勇者「だけどまぁ……ハッキリいってクソイベントだ」
戦士「え、どうして?」
勇者「結果の決まってる、因縁を作るためだけの戦闘なんて、はっきりいって茶番だろ」
戦士「まあ……そうともいえる」
勇者「それに絶対勝てない戦闘なわけだから、使ったアイテムはすべて無駄になるし」
戦士「あー……たしかに」
戦士「もう薬草や傷薬をかなり使っちゃったな」
勇者「な? ふざけるなってんだよ」
勇者「わざわざ戦闘なんかさせずに、イベントで負けさせてくれりゃいいんだよ」
戦士「だけどさ、こうやって実際に戦闘した方が」
戦士「後々リベンジする時の達成感もやっぱり違ってくるんじゃないか?」
勇者「達成感? 達成感ねぇ……」
戦士「?」
勇者「負けイベントの仕組みを知れば、そんなもんとても感じなくなるぞ」
勇者「負けイベントの時の敵と、後々リベンジする時の敵って」
勇者「内部パラメータは全然ちがうことが多いんだよ」
勇者「たとえば……こんな感じ」
<負けイベント時のボス>
HP50000 攻撃100 防御100
<後で倒せる時のボス>
HP10000 攻撃30 防御20
戦士「なんだこりゃ……」
戦士「これじゃリベンジっていうか」
戦士「見た目だけが同じ、別物と戦わされてるだけじゃないか!」
勇者「そうなんだよ」
勇者「見た目だけ同じ弱体化した別物を倒して、達成感なんて生まれるか?」
勇者「あの時勝てなかった敵に勝てたぞ、なんて気分になれるか?」
戦士「うーん……あまりなれないかも……」
勇者「な?」
戦士「でもさ、いわゆるやり込み型のプレイヤーなら」
戦士「負けイベントの敵を倒そう、だなんて意気込んでくれる人もいるんじゃないか?」
勇者「もちろんいるだろうけど、倒して得るものなんてなにもないぞ」
勇者「やっとこさ倒したのに――」
主人公『だりゃ!』シュバッ
ボス『うぎゃぁぁぁ!』ボシュゥゥ…
↓
ボス『終わりだな。今、あの世に送ってやる!』
主人公『ち、ちくしょう……俺の力はこんなものか……』
勇者「――てな感じで、勝ったのに負けたことにされるケースがほとんどだ」
戦士「ボコボコにされた敵が偉そうにするって、なかなかシュールな光景だな」
戦士「だったら、もし倒したらアイテムが手に入るようにすれば……」
勇者「それがどうでもいいアイテムだったら、全然嬉しくないし」
勇者「かといってレアアイテムだったらどうなる?」
勇者「本来、負けるイベントなのに勝つのが必須課題になっちまう」
勇者「攻略サイトにはきっとこんな一文が掲載されるだろうぜ」
この戦闘は本来負けイベントだが、勝つとレアアイテム『勝利の証』が手に入るので
事前にレベルを上げまくって絶対勝とう!
勇者「――みたいな」
戦士「そうなると、まさに本末転倒だなぁ」
勇者「ってわけで、負けイベントなんてもんはクソイベントなんだよ」
勇者「こんなもんに長々付き合ってやる必要はない。とっととやられちまおう」
戦士「分かった! 時間とアイテムがもったいないもんな!」
幹部「我が爪で切り裂いてくれよう」ザシュッ
戦士「ぐげえっ!」バタッ…
幹部「これで終わりだ」ドゴォッ
勇者「ごふっ!」ドサッ…
勇者(あれ……? おかしいな……このまま俺、死んじゃいそうなんだけど……)
勇者「あの……これって負けイベントじゃないの?」
幹部「負けイベント? なんだそれは」
勇者「え……」
幹部「伝説の勇者がこの程度とはな……失望させてくれる」
幹部「今トドメを刺してやるから、仲間ともども鍛え直してくるんだな」
勇者「そ、そうします……」
ドシュッ……!
おわり
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