幸せって何だろう (20)

某所の。
島村卯月ちゃんのSS。十年後です



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幸せってなんだろう。

人びとに夢を与えるアイドル・・・をプロデュースする仕事に数年ついているが俺にはその答えが見つからなかった。

或る人は言った。それは夢を叶えることだろうと。

人生において自分の目標を達成すること。自分の生きた証が刻めるのだ。なんて素敵なのだろうと。

・・・なるほどそれは一理あるかもしれない。

しかし俺は特に叶えたい夢もなく、特に打ち込める趣味といえるようなものもなく、
平々凡々な青春時代をおくり、就職活動もご多分に漏れず大量のESを出し、取り繕った面接を何度もこなし、
どうにか受かった企業のうち待遇が一番良いところに就職した。

まぁ、たまたまそこが芸能事務所であって、
会社の性質上「夢」や「幸せ」という単語と関係が深く時折脳裏にちらつくわけだが。

また別の人は言った。

それは家庭をもち、喜びも悲しみも分かち合う存在を得ることだろうと。

確かに結婚をすることを幸せと捉えるのが世間一般の考えだが、
果たして何もかもが平均かそれ以下の俺を好いてくれる女性などいるのだろうか。
よしんばいたところで、
その女性と一緒に暮らすことなど、ひとの親になることなど、俺にできるのだろうか。
それに幸せを感じれるのだろうか。

さて、そんなムズカシイことを考えたところでごくごく普通の人間である俺には答えなど見つからないわけだし・・・
とりあえず今日も仕事をするか。

今日の仕事は新人アイドルのオーディションだ。

まぁ就活を経た身だから分かるがオーディションなんて誰も皆おなじようなことを言う。
模範的解答を流暢に述べる。志望動機とか。
だから結局ルックスだとか声、そういったもので決める。
これだけ大量に募集が来ていてもまぁ、審査なんか一瞬である。

とはいえ仕事は仕事。サボるわけにはいかない。
俺は面接室に行き、1人1人順に質疑応答をしていく。
思った通りだ。書類を見て機械的な質問をしつつ、写真から容姿〇、△、×。
同様に声、あとはダンス経験などがあるかとか年齢そういったとこだけをみる。
顔はあげず淡々とこなす・・

さて、一番点数が高そうなのは・・・

おや、まだいるようだな。一通り点数をつけねば

次の方、どうぞ。 

そう機械的に告げる。


「41番、島村卯月です!」

ただの自己紹介なのに、その声に思わず顔を上げた。
高校の制服で面接にやってきた彼女は、面接官である俺がいきなり顔をあげたことにびっくりしているようだ。

気にしないで。じゃあ、島村さん、あなたの長所はなんですか?

「うーん、これといった長所は特にないんですけど・・・笑顔だけなら自信があります!」



その笑顔を見たとき俺は島村卯月という子の虜になった。

十年経って。
俺と卯月は紆余曲折を経て今では夫婦である。

幸せってなんだろう。
十年前の俺には答えられなかった問いだ。
では今の俺では答えられるかというと・・・難しいな。

・・・とまぁ、柄にもなく思い出に浸っていたわけだがそれは今日が久々の新人オーディションだからか?
誰もが逸材に見え何度も応募書類を読み返している。
そして一人ひとりの可能性について考えては笑みがこぼれる。


「もう、そんなに若い子がいいんですか!」

とまぁアイドルの原石に思いを馳せていたら、元トップアイドル様兼奥様がなぜかご立腹である。


どうした卯月? そろそろ朝ごはんの時間か?悪い悪い今行く。

「それもそうですけど!さっきから制服きた女子高生の写真ばっかりみて!う、浮気ですか!」

いや・・・プロデューサーって職業上さ、仕方ないじゃん?今日オーディションだし?

「わ、分かってますけど・・・」

おやおや卯月、嫉妬か~。ていうか卯月だった未だ27だし充分若いだろ。

「ま、ママだから昔と違ってみずみずしさがないんだもん!それに制服・・・もう似合わないんじゃないかなぁって。
貴方がさっきから食い入るように制服みてるから、私も、が、がんばらないとって!」

がんばるって・・・なに、今夜制服着てくれるのか・・・?

「島村卯月がんばります! ってやっぱり制服がいいんじゃないですか~」

・・・そりゃ、着てくれるなら、ね? って卯月、もう島村じゃないだろ・・慣れようぜ。

「あっ、そうでした!そういえば昨日電話でたときも思わず島村ですけどって言ってました!」

まったく我が妻のなんと愛おしいことか。

「パパ~ママ~ おなかすいた~」

おやおや、もう一人の愛おしい存在のわが娘が起きてきたようである。

「おはよう。もう朝ごはん出来てるから食べて?」

「うん!!」

卯月もママが板についてきたじゃないか。苗字はまだ間違えるのにな

「パパ、いちいち茶化さないでください。ほら、お弁当!」

お、美味しそうだな。

「おっぱい見て言うセリフじゃありません!娘の前なんですよ!」

はいはい。じゃあ行ってくる。

「あ、その前に・・・忘れ物、ありませんか」

(いつものか・・・)まったく卯月は甘えん坊だな。

卯月におはようのキスをして俺は会社に向かう

新人オーディションに応募してきた子はいずれも逸材で時間の許す限り色々な質問をしたり他の担当者と協議を重ねた。

仕事に充足感を覚え帰宅した俺を待っていたのは愛しい妻だった。
・・・あれ娘いないな?

「さっき実家に帰ったときにね、ママが 今日は預かろうか。久々に2人っきりの時間も必要じゃない? って。」

お義母さんナイスです・・・多分卯月が高校の制服探してるのとその用途についてバカ正直に話したんだろうなぁ・・・

にしても、2人きりかぁ。子どもできてからは久々だよなぁ・・・

「そうですねぇ・・・あ、ごはんできてますよ。」

お、今晩はカレーか。(俺はカレーにはいつも・・・)

「はい、福神漬け。」

流石、卯月だな。俺が入れようとおもってたものがすぐに分かる。

「何年一緒にいると思ってるんですか」

十年だなぁ。

「もうそんなに経つんですね・・・」

カレーを食べ終え、とりあえずリビングでくつろぎ始めた俺に卯月が近づいてきた。
俺はとりあえず卯月の肩を抱き寄せた・・・

卯月の温もりを感じる・・・これが幸せ・・・なんだよなぁ。うん、十年来の問いに答えがでた。
いや、朝答えが出かかってたけど、卯月にふれあって言葉にできるようなった。

なぁ、卯月。

「なんですか?」抱き合っているからか、卯月の吐息が伝わる。

俺、幸せってなんだろうってずっと、ずっと考えてきた。
で、ようやくわかったんだ。高尚な言葉は要らない。卯月がいることが幸せだなって。
卯月と、それから他にもいろいろと大切なひとたちがいれば幸せなんだなって。
十年前の俺には大切な人がいなかったから分からなかったけど、今ここに確かに幸せを感じるんだ。

「そうですか。私も・・・幸せ、です。特に取り柄もない私に手を差し伸べてくれて、いつも寄り添っていてくれて。
貴方がいたから見れた景色があるし、貴方がいたから掴めた喜びがあって・・・」

・・・俺さ、特に何が得意なわけでもイケメンでもないし、
こういうときになんていったらいいか分からない口下手だけどさ、これからも幸せになろうな。
あ、なんかこれプロポーズしたときのセリフみたいだな。あのとき指輪のサイズまちがえてさ、焦ったよマジ・・・

「もう、なんで今その話するんですか・・・台無しですよ。 でも貴方は何もできないわけないです。
私を、ただの女の子をシンデレラにしてくれたから。
そして貴方がイケメンじゃないわけないです。私を幸せにしてくれたから。」

卯月・・・うぅ・・なんていい女なんだ。

「それに」

それに?

「これからももっと幸せになりましょう。まずは・・・2人目、作りましょう♪」

あっ、この卯月さんはヤる気マンマンですね。そういえば実家までいってとりにいったもんなソレ(制服)

終わりだよ~

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