衛宮士郎「仮面ライダー、か」 (36)
仮面ライダーが召喚されるのではなく士郎が衛宮ファミリーと一緒に仮面ライダーを見るだけ。
更新遅めですけどよろしくお願いします
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「命! 燃やすぜ!」
朝から後藤君が奇妙なセリフを吐き、奇怪なポーズを取っている。
だが周りのクラスメイト達は特に顔色を変えることなく思い思いに机に突っ伏したり、級友との会話に花を咲かせている。
後藤君はTVや漫画に非常に影響されやすい性質であり、今のようにモノマネを披露するなんてのは格段珍しいことじゃない。
後藤君の周りにいる奴らは「似てるぜ後藤」 「次オナリやってよ」などと言って後藤君を囃し立て、それに気を良くした後藤君はまたモノマネを披露する。
要は、いつもと変わらない、平凡な朝だった。
「まーたなんかのTVに影響されてんのあいつ? しまいには『本当の自分』ってやつを忘れちゃうんじゃないだろうな」
「おはよう慎二」
「よお衛宮、今度はあいつ何に影響されてんの?」
「いや、俺はあんまりTV見ないから分からないな」
ウチに一台しかない居間のTVは、主に虎と、怒らせると怖い女子達の物となっている。
まあ別に不満なんてない。 これといって好きな番組もないし。
「おはよう、衛宮。 今日も早いんだな」
「おはよう一成」
慎二に続き、一成も登校してくる。
「むっ? 後藤はまたTVに影響を受けたのか。 このままでは真(まこと)の自分を何処ぞに置いてきそうだなあの男」
「それ、慎二と同じこと言ってる」
「なに? ……はぁ、朝の占いでは1位だったんだが、---いやはや、やはり朝の占いなど当てにならんな」
「それどういう意味だよ! だいたいなんで寺の息子がTVの占いなんて見てんだよ!」
「たわけ。 TVの占いなぞ当てにするか。 --キャスターさんが占ってくれたのだ」
……キャスターが? 一成のやつ……何か仕掛けられてないと良いんだが。
「キャスター? あぁはいはいあのオバさんね。 所で一成さ、後藤がなんのモノマネしてるか分かる?」
恐ろしいことを口にしながら一成に尋ねる慎二。
慎二よ……魔女がこの場にいないからといって、耳に入っていないとは限らない。 そんな事を口走っても俺は助けられないぞ。
「タケルどのぉおおおお!!」
後藤君はテンションが上がってきたのかワチャワチャした動きをしながら、番組の登場人物? の名前を叫んでいる。
「むっ? --…………ああ、アレか」
「わかるのか一成?」
「ああ、アレは『仮面ライダー』のモノマネだろうよ」
「「仮面ライダー?」」
俺と慎二の声がハモった。
3
「仮面ライダーってアレ? 日曜にやってるやつ? まだやってたの?」
「うむ。 俺も何度か見る機会があったからな。
後藤が影響を受けたのは仮面ライダーで間違いないだろう」
慎二が半ば馬鹿にしたような口調で一成に問い直す。
仮面ライダーとはまた懐かしい。 俺も子供の時よく見てたものだ。 クウガ……だったっけ?
「高校生になってガキ向け番組なんて見て恥ずかしくないのかねえ」
「ムッ、そんな卑下するような物ではないぞアレは。
アレはアレで、中々奥が深いぞ間桐慎二」
慎二の言い方が引っかかったのか、仮面ライダーを擁護する一成。
「はぁ? なにぃ? まさか一成も仮面ライダーなんて見てんのぉ?」
「毎回ではないがキャスターさんが欠かさず見ているのでな、朝暇なときは俺もついでに見ているのだ」
………またかキャスター。
ゴメン。 慎二は一成呼びじゃなくて柳洞呼びだった。
脳内補完しといてください。
「確かに子供向けではある事は否定せぬがな、子供向けだからといって幼稚な物であるとは限らんだろうよ」
「?」
「まぁこれは実際に見るのが一番てっとりばやいんだがな。
見ていると人間が生きていくのに大事なことを思い出せるというか、再認識できるのだ」
「はぁ? 仮面ライダーでか?」
「あぁ。 子供に向けて伝えなければならないという物は、大人となった我々に取っても価値あるものだろう」
一成の言うことも何となく分かる。
うそをついていはいけない。 人に優しくする。 努力を怠らない。
どれも子供の頃に教えられる綺麗事だ。 大人になり、所詮は綺麗事だと切り捨てる者もいるだろうが、世の中綺麗事で済むのならそれが一番良いはずだ。
単純明解だからこそ、複雑で暗く、綺麗事では済ませれないこの社会では多くの大人たちが忘れてしまうその教えを、
思い起こしてくれるのだろう。
「一成がそう言うんならそうなんだろな。
でもキャスターが仮面ライダーを見てるなんて意外だな」
キャスターは仮面ライダーとか嫌いそうなんだけどな。
……イケメン嫌いという意味で。
「何でもスーツの造形やら小物に惹かれてるそうだぞ」
「はは……キャスターらしいな……」
「むっ。 そろそろ授業が始まるな。 間桐も自分の席に戻れよ」
はいはい。 と気怠げに答えて慎二も自分の席に戻っていく。
そして、時は異常なく進み、平凡な日常は平凡に何事もなく進む。
---その平凡さは、衛宮士郎の心に、余分な物が入る余裕を作ってくれた。
---
学校が終わり、バイトも済ませ、夜の闇が浸し始めてる家路に着く。
家に帰れば皆と一緒に食事を済ませ、食器を片付け、その後は---何をしよう?
「セイバーと稽古をするか……遠坂に魔術を教えてもらうか…」
いつも通りの日常【ルーチンワーク】。
だが偶には……。
「仮面ライダー、か」
ふと、今朝話題に上がったワードが頭に浮かんだ。
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