王様「もう余が魔王倒しに行く」勇者「えっ」(91)

勇者「そ、そんな王様!」

若王「止めるでない、勇者」

勇者「しかし、あ、危のうございます!」

若王「お前こそ危ないではないか」

勇者「わわ、わたくしは勇者だからいいのですっ!」

若王「はあ…。だめだ、もう余の心は決まった。






サクッと行ってサクッと倒して帰るぞ」







勇者「なんてことだ」

【森】
勇者「う、うわあああん!」

男「うるさい」ゴッ

勇者「痛い!酷い!」

男「私が先にこの木陰に居たのに、そこに勝手に突っ込んできて抱きついて、人の読書を妨害したのは誰だ」

勇者「勇者ちゃんです☆」

男「しね」





勇者「ねー男聞いてよー」

男「どうした、また例の上司か」

勇者「そうそう!その上司がさあ~!せっかく俺の掴み取ったデカい仕事横取りしようとすんの!」

男「へえ、公務員なのにそんな事もあるのか。一体どんな仕事なんだ」

勇者「そ、それは内緒!!」

なにこの勇者愛でたい

勇者「とにかくさあ~、俺、自分の存在意義がわからなくなってきてさあ…」

男「それぐらいでか」

勇者「だって若王兄ちゃん強いんだもん!!」

男「?」





男「まあ、また話したい事があったら来い。愚痴ぐらい聞いてやる」

勇者「うん、ありがとう男!」ギュツ

男「……」

勇者「♪」

男「…おい」

勇者「?」

男「お前、誰彼なしにそういう事するなよ?」

勇者「? はーい」

>>3
うわわありがとうございます!!



【城内】
将軍「勇者様、出立の準備が整いました」

勇者「あー……うん」

将軍「乗り気ではないようで」

若王「乗り気でないなら勇者は留守番でいいよー」

勇者「行く!!行く行く勇者超乗り気!!」

若王「なんだ残念」

勇者「王…、あの」

若王「今は公の場じゃないから話し方崩して構わないよ、勇者」

勇者「う…、わかったよ若王兄ちゃん」

将軍「若王様、簡単に姫様が勇者になる事を許可なされたと思ったら、今度は若王様ご自身まで魔王退治に行かれるとは。大臣達もあまりの事にひっくり返っておりましたぞ」


若王「だって勇者が心配だしね。勇者は勇者で「勇者になりたい!」って譲らないし、こうするしかないだろ?」

勇者「むー…若王兄ちゃん相変わらずの保護者ヅラ…」

若王「遠縁とはいえ自分の親戚の子を妹のように可愛がって何が悪いんだい?」

勇者「親戚っ子いっぱいいるのに」

若王「みんな可愛いんだよ、僕は」





若王「さて、出立しようか」

将軍「御意に」

ドカーン ギャー

バシューン ギャー



若王「ふう…この洞窟は一層したな」

将軍「お見事です若王様!!」

勇者「何なのこの早さ」

兵a「俺達なんにもしてねえ!さすが我らが若王!」

勇者「俺もなんにもしてなくて立場なくて困るんだけど」

兵b「さすが若王様!お強い!そしてお美しい!馬上にて剣を振るうその様はまさしく白馬の王子!」

勇者「いや王子じゃなくて王なんだけど」

若王「ふう…勇者、無事かい?」

勇者「うん…お疲れ」

兵a「さすが若王様汗を拭うその様もお美しい!」

兵c「ああ!輝かしい御髪!!まるで大理石で作られた彫刻のようなかんばせ!天使の如き麗し 勇者「うるせえええええええ!!」

 

勇者「どうせ俺なんかより若王兄ちゃんの方が美形だよ!キラッキラキンパだよ!睫毛バッサバッサだよ!」

男「お前は可愛いと思うが」

勇者「えっ、うっ、嘘だ!!! 虚偽だ!!!」

男「はあ……、ほら膝に来い、泣くな」

勇者「泣いてねーし!!べっ別にこれは悔し涙なんかじゃないんだからね!」ヨジヨジ

男「お前は相当コンプレックスを抱いているんだな」

勇者「!」

男「その仕事を志願したのもそのためなのだろう?」

勇者「う…」

男「有能な遠縁の親戚……わからなくもないが」

男「お前は女だろう?あちらは男だ。そこまで気にする事ではないと思うが」

勇者「……」

男「はあ…」

勇者「……」

男「…まあ、そう簡単にはいかんか」

勇者「…………男」

男「む?」

勇者「ありがとう、そろそろ帰る」

男「ああ、そうか。気をつけてな」

勇者「うん。ありがとう、ちょっと元気なった。ばいばい」シュンッ




男「あれだけ高度な魔法が使えて、自信がないとは……。若王とやらはどれだけ有能な男なんだ」

こういうの好きだ

>>11 あばばばばありがとうございます!!




魔物「人間め!覚悟!」
ザシュッ

魔物「ギャー!!!!」

魔物b「お、おのれ!」
ザンッ

魔物b「ぎゃあああああ!!!」



若王「さあ、次へ行こうか」クルリ

勇者「へーい」

将軍「若王様、情報によればこの先、上級魔物の住処が……。こいつらのせいで近隣の村々は多大な被害を受けてる模様です」

若王「そう。じゃあ一層してこうか。 勇者」

勇者「はーい」

兵c「ゆ、勇者様の防壁魔法…お美しい」コソッ

兵d「あの、お年にしてはお若く見える要望も可愛らしい…」ひそひそ



若王「勇者、魔法学校でも成績優秀で、それだけ魔法つかえるのになんで魔法使いじゃなくて勇者志願したんだい?」

勇者「σハッ!!」




兵c「アホの子かわええ!!」

兵d「アホの子かわええ!!」

兵e「アホの子かわええ!!」
将軍「てめえら…」

将軍「そこに並べええ!!!!」

兵卒「ひいい~!!!」



勇者「ん?何かアホの子とか聞こえたんだけど」

若王「あはは、空耳じゃないのかい?」

勇者「うん、そーだね!!」




勇者「部下達に悪口言われてる気がする」

男「気のせいだ」

勇者「気のせい違うし!」

男「気がする、だけだろう?」

勇者「だってアホの子とか聞こえてきたもん!!」

男「ははは何が違うんだ」

勇者「殺ーす!!」

勇者「俺もキンパに生まれたかった」

男「綺麗な黒髪じゃないか」

勇者「若干茶色入ってるし、クルクル天パだけどね」

男「そこが可愛いと思うぞ、子犬みたいで」

勇者「!!  わんわんお!」

男「よーしハウス」

勇者「泣いた」

魔物の群れが現れた!!
若王の斬る攻撃!!
魔物の群れは全滅した!!

勇者「わーお」

兵達「「お見事にございますぅう!!!!!」」ワッ

勇者「若王兄ちゃ…

 !!」ハッ

中級魔物「ギャーハッハ!!」バサバサ

勇者「ヒッ、こうもり!?でかっ」

若王「……お前が親玉か」

中級魔物「ふははは!私は今までの魔物とは違うぞ!空中からの私の攻撃に耐えられ」ズパアッ

中級魔物「ぎゃああああああ」

兵「岩肌を利用し飛んだぞ!!」
兵「若王様パネエ!!」ワアアア



勇者「……」

勇者「……暇なう」

 



勇者「男ー」クイクイ

男「こら髪を引っ張るな」

勇者「男の方がよっぽど綺麗な髪をしてるよねー」

男「何を言ってるんだ。一番はその上司じゃなかったのか」

勇者「若王兄ちゃんは別ー。キンパだしー。男はサラッサラの黒髪じゃん。いいなーストレート」サラサラ

男「ふん、羨ましいか」

勇者「はん!それはもう…」

男「ふん……」パラ

勇者「……」サラサラ

男「読書の邪魔をしなければ好きに触れ」

勇者「わーい!!」サラサラサラサラサラサラ

 


魔物の群れが現れた!
勇者の攻撃!
勇者の攻撃は外れた!
若王の攻撃!
魔物の群れは全滅した!


勇者「ぜえ…はあ…っ」

若王「大丈夫かい?勇者。僕に任せとけばいいのに」

勇者「いや…兄ちゃん……ぜえはあ………俺…レベルあげしたいんだけど……」

若王「ああ…そういえば全然戦わせてなかったね。でも魔王は僕が倒すし、必要ないよ」

勇者「何かがおかしい」

 


男「お前弱いのか」

勇者「そりゃあまあゴミのように」

男「お前の上司もたいがい過保護だな」

勇者「いやでもさー魔王倒すのって勇者の仕事じゃねえの」

男「確かにな」






勇者「あっ」

男「む?」


勇者「いっ、今のなし!!」

男「何故だ?」

勇者「えっ、あっ、あの俺おれの仕事…」

男「いやお前の話からいって仕事ってのは勇者だろうと薄々気づいていたぞ」

勇者「!!?」ガーン

男「しかしお前を見ているととても……魔王を倒せそうには見えないからなあ……」

勇者「男まで!酷い!」

男「もう若王にでも任せておけばいいだろう」

勇者「上司まで割れてる!!」

男「お前は若い娘なんだし、無理に戦いに身を置く事はないだろう?」

勇者「……でも」

男「でも?」

勇者「……」もにょもにょ

男「何か、望みでもあるのか?」
勇者「!  うん!そんなとこ…」

男「そうか…」

勇者「男は望みとか、願い事とか、ないの?」

男「ない。ない、が……」

勇者「?」

男「最近ひとつ出来てしまった………」






.

シュンッ
勇者「よっと」

将軍「勇者様!!どちらへ行かれていたのですか!?」

勇者「あっ、ごめん。その…見回りに」

将軍「そのような事、兵に任せればよろしいのに」

勇者「あはは、俺勇者だよ?仕事させてよ~」

将軍「!! も、申し訳ありませぬ!!」バッ

勇者「将軍!? ちょ、土下座はいいから!」

将軍「いえ、勇者様を軽んじるような行為、本当にお許し下さい。我ら、勇者様が姫君であった頃の感覚が抜けませんで…」

勇者「いいよ…当然だし……。……それより俺の事もしかして探してた?」

将軍「はっ、若王様が勇者様を探されていました」

勇者「若王兄ちゃんが? あー、わかった行ってくるー」

 
【天幕】
勇者「若王兄ちゃん?」

若王「ああ、勇者。入っておいで」

勇者「失礼しまーす」

若王「どこに行ってたんだい?」

勇者「え?おトイレ☆」

若王「全く…、あまり姿を消さないでくれ、ここは国じゃないんだから。危険だろう?」

勇者「はーい」

若王「勇者、次のダンジョンを超えたら次は魔王城だ」

勇者「うわ。もうそんな進んでんの」

若王「一個師団連れてるからね。やはり魔王退治には勇者含む手練れ数人よりも、適切な人数の兵卒と、余裕ある資金が効果的のようだ」

勇者「あとスーパーチートな主人公一名もだね!」

若王「これならば、勇者制度を見直す議会を開けるかもしれない」

勇者「ふへ?」

若王「元々古くからある勇者制度は欠陥だらけだ。成功率も低いし、時間が大変かかる。何より資金面の上で圧倒的に不利な体制だ。昔の国家の金をかけずに楽に魔王退治したいという思惑が見えすいてる。そのせいで何人の人間が犠牲になった事か」

勇者「は、はあ」

若王「でももう大丈夫だ。魔王を倒した暁には、勇者制度を見直し、廃止する。勇者、君も勇者をやめて、姫に戻るんだ」

勇者「!!」

勇者「やめてよ!」

若王「勇者」

勇者「姫なんて俺の他にもいっぱいいるじゃん!!何で俺がまた姫に…!!せっかく、」

若王「せっかく勇者になれたのに?」

勇者「……」

若王「でも勇者、君が勇者になりたかったのは、姫が嫌だったからじゃないよね」

勇者「……ぁ」








若王「君が嫌だったのは、僕との婚約だろう?」

勇者「……」

 



若王「勇者になれば婚約は破棄出来るからね。わかってたよ、君が勇者を志願した時から」

勇者「……」

若王「僕が即位する前から決まってた婚約だ、そう簡単には変えがたいが……、勇者が望むのならば、婚約を白紙にしよう。無理強いは僕もしたくない。だから、姫に戻ってくれ。婚約の事はなかった事のままで、もう一度、第13王女へ」

勇者「……」

 

【森】
男「なるほど婚約者だったのか……」

勇者「……」

男「勇者、ふせるな、ほら顔をあげろ」

勇者「……おとこ」ふえっ

男「なるほどな、わかったよ。お前のコンプレックスはそこから来ていたんだな」ナデナデ

勇者 コクリ

男「しかし……いい条件なんじゃないか?お前は婚約が嫌だったんだろう?」

勇者「そうだけど…」

男「ん? もしかしてお前、…本当は若王の事が「違う!!!」

男「うおっ」ドサッ




勇者「違うもん……!」

 
男「……」

勇者「……」ぐすっ



男「おい」

勇者「……ん」




男「押し倒されるのは趣味じゃないんだが…」

勇者「!!」バッ

勇者「ごご、ごめん!!」

男「はあ……」ポリポリ

勇者「~~」



.

勇者「お、男」

男「む?何だ?」

勇者「おれはっ……、……~~」



勇者「な、何でもない………」

男「?」

勇者「っ、…じゃ、じゃーね!!」
シュンッ

【陣営】
兵卒「朝飯だーー!」

兵卒「早く配れー!」
ワイワイ


勇者 ぼー…

兵abc「勇者様!!おはようございます!!」

勇者「あ、うん、おはよー」

兵a「勇者様もご朝食ですか!?」

勇者「うん」

兵b「失礼しました!!どうぞごゆっくり!!」

勇者「うん、ありがとー」

 
将軍「これは…勇者様、おはようございます」ザッ

勇者「んぐ、おはよう、将軍」もぐもぐ

将軍「ご朝食…ですか? わざわざ天幕を出られてお食べになるられているとは」

勇者「うん。一応そういうようにしてるんだけど、何かやっぱり違うんだよねー。まあ、俺が小娘なのも、仕方ないのかもだけど」

将軍「そのような事は……、ああ………、申し訳ございません。この私もそこまでお気遣い頂けていた事を知りませなんだ」

勇者「いいよ。俺実際たいした事出来てないから。……だって、結果、これだし」

将軍「ふむ、確かにこのテーブルクロスや食器類は些か戦地には不向きでありますね」

勇者「うんもう正直ばっかみたいだよ。普通、旅と言ったら、こんなお貴族様の食事なんて有り得ないはずじゃん」

将軍「ははは、ならば、若王様にそう申し上げれば良いでしょうに」

勇者「それが出来たら、俺は今頃もう食べれないのにこの食物どもを胃に詰め込む作業なんてしてないよ」

将軍「はははは!」

勇者「くっ…豚化が進む………」
.

将軍「――若王様に内緒で、勇者様の食事を一般兵卒と同じ物にするようにと、命じておきましょう」ヒソ

勇者「ありがとう……助かる」
将軍「いいえ。…兵士達の事をお気遣い頂き、ありがとうございます」








男「お前太ったか?」

勇者「やっぱり!!!!!!!」

 
勇者「しにたい……」

男「まあ、待て。少し重くなった程度だ、1キロといったところだろう」

勇者「いやでもやっぱりおかしいよ!!何で旅して肥えてんの!?ねえ!勇者の旅じゃねえよ!」

男「それはな…お前をぶくぶく太らせ、食べてしまうためなのさああ!!」

勇者「いやあああヘンゼルとグレーテルぅうううう!!」

男「冗談はさて置きだな」

勇者「ふんっふんっ」

男「おい腹筋をやめろ、聞け」

勇者「うんっ?」

レス下さった方々、ありがとうございます、1です。
放置してすみません。
まだ見ていてる方がいるかわかりませんが、再開します。

男「最近諸国が荒れてるらしい」

勇者「え」

男「王の不在がバレているんじゃないのか?」

勇者「まさか……、王子兄ちゃんや、近衛大臣だって残して来ているのに…」

男「未だ若王に反発する勢力が残っているんだろう。今回の魔界征伐もそのためなのだろ」

勇者「確かに、そうだけど…。なんで、若王兄ちゃんは、王宮から不穏分子を追い出さないんだろう…」

男「一網打尽にするため、だろうな。こういう時、みすみす敵を懐から出してはならん」

勇者「ふうん」

男「お前には難しい話かもしれんがな」

勇者「ぐ」

男「まあ、良い機会だ。城の中をついでに覗いてから帰れ、心配だろう」

勇者「あ、うん、そーだね。そうするよ」

男「ああ」


.

―ザアア…

勇者「……ねえ」

男「なんだ」

勇者「…男の望みって、なに」



―ザアア…

男「…」

勇者「…」

男「私の、望みか」

勇者「うん」

男「それをいうならば、お前の望みは?」

勇者「え。……えっと」

男「言えないのか」

勇者「……」

男「…そうだな、お前が」

勇者 ドキリ

男「お前が、次、私と会った時に、……教えてやってもよい」
勇者「……え」

男「……」

勇者「じゃ、じゃあ………俺も」

男「む」

勇者「俺も………。次、会った時……」

男「……そうか」

【洞窟】
上級魔物「ゼエ……ゼエ……」

若王「……」

上級魔物「……貴様らが魔王様の元へ辿りつけると思うな……」

若王「……」

上級魔物「人間めが……、魔界を私物化しよう等……」

若王「うるさいよ」

上級魔物「ぐっ……ぁあ゛あああ!!」
ビチャッ バタバタッ

勇者「……っ」

兵士d「陛下!こちらも、下級魔物の殲滅、終わりました」

若王「ご苦労」

勇者「……」

若王「……勇者」

勇者 ハッ

若王「あんまり見るんじゃない、夢に出るよ」

勇者「平気だよ…こんぐらい」

若王「そう…」

勇者「………埋めなくていい?」

若王「必要ない。僕らの仕事じゃないよ」

勇者「……わかった」

若王「とにかく出よう、勇者。ここは空気が悪い」

勇者「うん」

若王「…………どうしたんだい?」

勇者「ううん。………これで、最後なんだと思って」

【森】

―サヤサヤ

男「……」

男「……」

男「今日は来ない、か………」


―サヤサヤ

男「……」

フードの男「……」

男「はあ…お前か」

フード「男様……」

―サヤサヤ


フード「そろそろお戻りになって頂きませんと……」

男「わかっている」

フード「……」

男「……まあ、どうせそろそろだろうしな」

フード「……は」

男「いいだろう、戻る。…先に帰って準備をしていろ」

フード「……はい」

.

【天幕】

若王「……」

若王「……」



若王「……お入りよ」

騎士「!……お気付きだったので」

若王「うん」

.

騎士「失礼を。ご執務中かと」

若王「もう終わったよ。…ああ、騎士も言葉遣いを崩して構わないよ」

騎士「し、しかし……、城外でそのような」

若王「気にすることはないのに」クスクス

騎士「う。は、はあ……。では、……兄さん」

若王「城はどう?」

騎士「案の定、諸国派の大臣達が水面下で動き始めました」

若王「ふむ」

騎士「このまま泳がせますか?」

若王「そうだね……」


騎士「? 悩んで?」

若王「うん、まあ……出来れば諸国と火種になるようなことはしたくないよ」

騎士「……。…ですが、戦争は避けられません」

若王「そうだねえ」

騎士「諸国からの再三の要請はありますが…」

若王「受け入れるつもりはないよ」

騎士「……そうですか」

若王「失望したかい?」

騎士「いいえ。……国民は受け入れるべきと思うかもしれませんが……。私は……。…俺個人で言わせて貰えば、兄さんがそれを受け入れない事に、安心しています」

若王「ふふっ、少しは正直になったね」

騎士「いえ……王族としては最低です」

若王「どうかな」

.

若王「結局、自分の家族を慈しめない人間なんて、自分の民も慈しめないもんだよ」

騎士「そう…でしょうか」

若王「うん。そう。例えあちらの要望通り、婚姻で和平を結んでも、完全にうまくいくなんて保証はない。あちらが和平を破り攻めこんで来たら、こちらは姫を差し出すだけ無駄だ」

騎士「…ええ、ですが」

若王「姫を差し出す気はないよ」


騎士「……王」

若王「だって僕も、君も。超ド級のシスコンで、ブラコンで、家族大好きファミリーコンプレックスなんだからね」




騎士「……一緒にしないで下さい」プイッ

【森】

勇者「はあっ、はあっ、はあっ」タッタッタッ


―リリー、リリー

勇者「はあ…、はあ…、」タッタッ…

勇者「……はあ、いない……。そうだよね、いないよね」

勇者「……はあ、はあ、……」
勇者「……」

―リリー、リリー




勇者「……そうだよね」
.

【天幕】

騎士「帰ります、もう伝えましたし」

若王「うん、王子や近衛大臣にも、宜しく言っといてくれ」

騎士「はあ……若王兄さんは相変わらずとお伝えしますよ」

若王「ひどいなあ」クスクス


若王「じゃあ、次はまた王宮で。……先に帰って準備をしといてくれ」

騎士「はっ」

騎士「……ご武運を」

 




勇者「ただいまー、あれ?何かあったの?外出てるなんて珍しい」

若王「あ、お帰り勇者。実は内密で騎士が来てたんだよ」

勇者「へっ、騎士兄ちゃんが?」

若王「うん――君と入れ代わりでね」

勇者「へえ~………………………………………………」

勇者「……」

若王「…勇者、やはり王宮へ帰っていたね?」

勇者「え、えーっと…」

若王「はあ…、まあいいけどね。どうだった?王宮は?」

勇者「あ、うん、姫姉ちゃんが早く城を丸洗いしたいってイライラしてたよ」

若王「丸洗い、か……」

勇者「鼠が嫌いなんだって」

若王「うん」

勇者「大掃除しなきゃ出てっつやるって」

若王「それは困るなあ……」ははは

勇者「魔王城、おっきいね」

若王「そうだね」

勇者「向こうからはこっちの陣営見えてないのかな?」

若王「多分、見えてるだろう」

勇者「そうなの?」

若王「うん」

勇者「へー…余裕なんだねえ、魔王って」

若王「まあ、今までもそういうスタンスだったしねえ」

勇者「明日は、あの魔王城に行くんだよね」

若王「そうだよ」

勇者「俺も……!連れてってくれるよね…?」

若王「ふ……、もちろんだよ」

勇者「本当に…っ?!」

若王「ああ、約束したからね」

勇者「良かった…良かった、じゃあ、明日の朝9時決行であってるんだね?嘘じゃないよね?」

若王「嘘じゃないよ、何故?」

勇者「だって、若王兄ちゃんのことだから、俺に嘘の時間教えて勝手に先行くかもしれないじゃん!!」

若王「ははは、流石にそこまではしないよ」

【陣営】

将軍「……」

兵士「お疲れ様です、将軍」

将軍「うむ」

兵士「明日ッスよ」

将軍「ああ」

兵士「魔界が手に入ったら隣国との膠着も落ち着きますかねぇ」

将軍「わからん。魔界を手に入れたとして、統治するにも多大な労力がかかる」

兵士「ッスか。なかなか簡単には落ち着かないんですねぇ…」

将軍「…」ズズー…

兵士「勇者様はどうなるんッスか」

将軍「さあな…。そこは、王も何かお考えでいるだろう……」

兵士「オレ狙っちゃおっかなあ」

将軍「不敬罪でひっ捕えるぞ、ガキ」

【天幕 夜明け前】

人工精霊 フヨフヨ

勇者「くかーzzz」

人工精霊 フヨフヨ フヨフヨ

勇者「ぐーっ」

人工精霊 がぶがぶ

勇者「zzz」

人工精霊 ……

人工精霊 がぶがぶがぶがぶがぶがぶ

勇者「んがっ!」

人工精霊 !

勇者「zzz……」

人工精霊 ポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカ!!

勇者「はっ!!」

人工精霊 プンプン

勇者「あっ」

勇者「ごめんごめん、起こしてって頼んでたね、ありがとう」
人工精霊 プンプン

勇者「はい、真珠」

人工精霊 !

人工精霊 ♪~

勇者「うん、ありがとね、戻っていいよ」

人工精霊 フヨフヨ~

勇者「うん?」

人工精霊 ナデナデ

勇者「…!」

人工精霊 フヨフヨ~… フッ

勇者「……」

勇者「……バレてるのかな」

勇者「そういえば人工精霊は作り主の感情を反映するって、魔法学校の先生も言ってたっけ」ヨイショっと

勇者「うーん…修行がやっぱり足りないのかなあ…」



側近「…!」

側近(あれは)


【魔王の間】

魔王「……」

側近「魔王様、勇者が単独でこちらへ向かっております」

魔王「……」

側近「如何なさいますか」

魔王「……良いだろう、通せ」

側近「ですが」

魔王「……」

側近「……」

魔王「…いいから、鎧面をよこせ」

側近「………はい」
.

【魔王城廊下】

魔物「納得がいかねぇなあ」

側近「魔王様の命だ。お前達は黙って従えばいい」

魔物「しかし勇者だ」

側近「勇者とは名ばかりの小娘だ。お前達がまともに対応すれば死ぬ。だが、あの娘には大変な利用価値があるのだ。そんな魔王様のお心もわからんのか?」

魔物「わかるさ。わかるがな。その魔王様が全く魔王としての役目を果たさない事にだって、こっちは腹をたててるんだ」

側近「…色んな事を口にする輩はいる」

魔物「ああ、そうさ。過激派の奴らは魔王を腰抜けという。でも俺達はめったに魔王の姿を見る事はない、魔王が本当に腰抜けなのか、何か策があるのかもわからない」

側近「……」

側近「…魔王様はこれからの魔界の事を憂いてくださっている」

魔物「憂うだけなら簡単だろうよ。人間に狩られる魔物達の事を憐れんでくれるってなら、行動派の新たな魔物に譲ってくれればいいじゃねえか」

側近「……そう思うのなら」

魔物「おっと、よしな。俺は極論を言っただけだぜ」

側近「……」

魔物「ひーおっかねぇ、アンタ真面目だもんなあ」

側近「……」

魔物「別に俺は魔王を腰抜けとは思っちゃいねーぜ。ただそう思う奴はゴマンと居るって話で、俺もいつかはそう判断するかもしれない。そんな奴増えたら国は破綻の一途だぜ」

側近「言うな。俺にも魔王様の本当のお心を推し量る事は出来ていない」

魔物「へー、へー。それなのに馬鹿正直に従うってか」

側近「……」

魔物「まあ、わかんなくもねぇけどよ。だからってな、やっぱり易々…「ねえ、おっちゃん」

魔物「あ?なんだ今話の途中だぞ」

勇者「あ、ごめん魔王の間ってこっちであってる?」

魔物「あーあってるぞー…ってオイ」

勇者「やっぱり?だよねあってるよね、なのに」

魔物「オイちょっと待って」

勇者「え?」

魔物「え?」

側近「……」

側近「――勇者」

勇者「あっ、はい」

魔物「やっぱりか!!!!えっちょっと本当待って、勇者?」

勇者「え、う、うん」

魔物「何で居んの?じゃなくて、そうだよな、居るよな、向かってるって言ってたもんな、そうだよなぁ~……はぁああ!?」

勇者 ビクッ

側近「…」


魔物「子供じゃねえええかああ!!!」

側近「だから、」

魔物「だからも糞もねえよ!!小娘って言ったら普通16~20ぐらいを想像するだろうが!!見ろこいつ!13かそこらって所だろ!」

勇者「なっ、失礼な!俺はこう見えても19です!」

魔物「はぁあああ!?嘘つけぇええ!」

側近「……」ハァ

魔物「だいたいお前レベルいくつだ? 1か?2か?」

勇者「2」

魔物「そうか2か。うん。帰れぇえええ!!!」

勇者「ええええ!?」

魔物「馬鹿かお前!魔王だぞ、魔王!!死ぬぞ!!一瞬で消し炭だぞお前!つーか何しに来た!2で!!」

勇者「いや、だから、話し合いで解決しよーと」

魔物「却下。帰れ」

勇者「魔物に却下された!?」

勇者「だいたい何で魔物なのにそんな心配をするの?」ムッ

魔物「いやお前、レベル2の雑魚魔物がお前んとこの王様にピギーと挑んでみ?とめるだろ」

勇者「確かに!!」

側近「しかし魔物、魔王様の命だ。勇者を通せ、と」

勇者「え」

魔物「だからってなぁ~」

勇者「あ、それで全然魔物が出て来ないの?」

側近「ええ」

勇者「そう……魔王が……そう…」

魔物「マジでこんなん通すのか?むしろ本気で対応するのが魔界の恥なレベルじゃねえ?」

側近「だから、……。ハァ……」

側近「その問答の任は我らにない。魔王様に委ねるべきだ」

側近「それが、交渉の人質にするか、見せしめにするか――でも」ギロ

勇者「……っ」

側近 クルリ

魔物「おい側近」

側近「来い。…魔物、お前は持ち場についていろ。いつ外の陣営が来るかわからん」カッカッカッ

魔物「あいつって勝手な奴だよなぁ」

メイド「どうかしら、彼の予想は当たっていてよ」ヒョイッ

魔物「おっ、居たの」

メイド「馬鹿ね、勇者をつけてたに決まってるでしょ。命令無視して襲う奴いないように、見張ってたの」

魔物「…あっ、そう」

メイド「外の人間共が起き始めたわ」

魔物「マジか?他の奴ら叩き起こさねえと。あっ、そうだ勇者の不在は?」

メイド「さあ。どうせバレてなかったとしても時間の問題よ。…行きましょ」

魔物「かーっ、戦地か~、おっさんもう引退したいんだけどねぇ」

メイド「あ?ぶっ飛ばすぞ働けデブ」

側近「…」カッカッカッ

勇者「…」スタスタスタスタ

側近「…貴女が何を企んでいようと、俺に興味はありません」

勇者 ビクッ

側近「魔王様が、貴女方に敗れるなど…有り得ないのですから」

勇者「…」

側近「話し合いで解決、などと我らを馬鹿にしたような気概の貴女に」

勇者「…」

側近「我らの魔王様が本気で倒せるとお思いで?」

勇者「…」

側近「しかし…」ピタ




側近「それすらも覚悟の上というなら、――どうぞ」


側近「お入りを?」


―ギィイイ…ィ


【魔王の間】



魔王『よく来たな……勇者よ』
勇者「…………」





勇者「…………魔王」


.


魔王『勇者の癖にして、国から兵卒を率いてくるとは…なかなか狡猾な勇者だな』

勇者「……!」

魔王『まあ、自分の主を連れて来ただけでも誉めてやりたい。見上げた精神だ、どこからそんな余裕が来るやら……』

勇者「……」ガタガタ


魔王『なあ勇者』

勇者「……」ガタガタ

魔王『フ…。震えているのか』

勇者「……ごめんなさい」

魔王『ん?』

勇者「ズルくてごめんなさい弱くてごめんなさい」ぼろぼろ

魔王『……なんと。泣くとは』



魔王『全く、我もそろそろ我慢がならぬ』ガシャリ

勇者「」ビクッ!!

魔王『さあ、獲物を取れ、剣の握り方ぐらい心得てるだろう』
勇者「……」シャキン

魔王『…』

魔王『……ゆくぞ』ジャキッ


―ヒュンッ



バアアアン!!
若王「勇者ああああ!!」

魔王『!!』

魔王『貴様、若王!!』
ガキイィイイン!!

魔王『ふははは!お姫様を助けに来たのか?まさしく白馬の王子だな』キイン!

若王「黙れ!!勇者には手出しはさせん!!」ヒュン!









勇者「あ……あ、うあああ…!!」

勇者「どうしよう、どうしよう、戦いが始まっちゃった…!!」

勇者「とめなきゃ……止めなきゃ止めなきゃ止めなきゃ」ガクガクガクガク

魔王『くらえ!』

若王「ふんっ!余にその程度通じると思うてか!魔王!!」

魔王『! ふははははは!まこと面白き人間の王よ!!』

若王「ふっ!顔も見せぬ者が!その面を取ってから余を笑うといい!」キイイン






勇者「ひ、光よ!!」カッ

魔王『!』
若王「!」

勇者「いっ、今だ!防壁呪文!第三結界!」

魔王『なにっ、閉じ込められ――』

若王「よくやった勇者!!」バッ

魔王『ハッ!』
(しまった!)

若王「くらえ!!」

勇者「!! 待、や、やめて若王兄ちゃん!!」

パリィィイイン!

若王「うおおおおおお!!」ザシュッ

魔王『ぐっ…!!』

―ドサッ

若王「はあ、はあ……とどめだ」

勇者「やめて若王兄ちゃん!!」バッ

若王「!」

勇者「お願い!!お願いだからやめて!!」

若王「勇者……? 何故…」

魔王『ぐ……ぁ…』

勇者「ごめんなさい…俺が遅いから……弱いから…!役立たずだから! …ひっぐ、……本当に、本当にごめんなさい…………。俺一人で済ませるはずだったのに…」

魔王『なに…を』

勇者「ごめんなさい………


……嫌いになったよね、男」

魔王『!』

魔王『はあ……』カシャン


魔王「嫌いになるはずなど、…なかろう」

勇者「……ぁ」

魔王「どうした」

勇者「本当に……男だった……」

魔王「お前、自信がないのに私を呼んだのか」

勇者「うん」

魔王「……全く、私はいつもお前には振り回される…」

勇者「ねえ…男、言ったでしょ……ぐすっ…次会った時、お互いの望みを言うって…」

魔王「ああ…」

勇者「聞きたい……ぐすっ…教えて、男の願い」

魔王「そうだな…」



魔王「もう、同じだと思う、がな」

勇者「え?」

魔王「いいだろう。そら、同時に言うぞ、馬鹿勇者」

勇者「ば、馬鹿じゃないもん! じゃ、せ、せーのっ」








魔王「お前が欲しい」
勇者「男が欲しい」




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