ハル「支配人さんが無能なわけ」 (28)

ナナシスのSSです。
作者はナナシスはほぼ未プレイです。
SAKURAを聞いて書きました。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454228958

モモカ「あれって、支配人じゃない~?」

ロナ「あ、ホントだ! 支配人しゃーっ。もがもがっ」

支配人を呼ぼうとしたロナの口をモモカが塞ぐ。モモカは何か悪いことでも考え付いたのか、悪戯な笑みを浮かべていた。

モモカ「支配人を尾行けようよ! 面白そうだし」

ハル「モモちゃん。そんなことしたら怒られちゃうよ」

モモカ「大丈夫、大丈夫! ばれなきゃいいんだよ!」

きっとまた何かのアニメに影響されたのだろう。こうなったモモカはもう私達では止められない。それに、私自身、支配人の私生活は気になっていたという誘惑に負けた。

モモカ「それじゃ、レッツ尾行開始!」

すいません、ヒメちゃんはでません……

ロナ「ここって花屋だよね?」

モモカ「誰かにあげる予定なのかな?」

一瞬ドキッとした。支配人さんも大人の人だ。そう言う人がいてもおかしくない。おかしくない筈なのに……

ロナ「買ったみたいです!」

モモカ「ハル? 行くよ?」

ハル「ご、ごめん。考え事してた……」

しっかりしなきゃ。頬をパチンと叩く。

モモカ「電車に乗るみたい!」

ホロコンを自動改札にかざして、支配人が乗る電車の車両の隣に乗り込む。

ロナ「支配人しゃん、どこに行くのかな?」

モモカ「う~ん。さすがの名探偵モモカちゃんにも分からないよ……」

電車に一時間ほど揺られて、支配人さんは電車を降りていった。

モモカ「行くよ!」

正直、少し後悔していた。ついて行かなければこんな気持ちにならなかったかもしれないと思ったから。この気持ちは何だろう?

ロナ「ここって……」

支配人さんの目的地は霊園だった。言いようのない不安が私を襲う。

モモカ「これは支配人の重大な秘密を握るチャンス!」

ロナ「モモちゃん。待って~!」

ハル「駄目だよ! 支配人さんにばれちゃんよ!」

ボソボソ声で喋る。

モモカ「あ、いた……」

支配人さんは、誰かのお墓参りに来ているみたいだった。

ハル「っ……! モモちゃん、ロナちゃん。もう帰ろっか」

モモカ「何言っての!? これから面白く……」

ロナ「ハルさん……。顔が怖いですー」

モモカ「うん、そうだね。帰ろうか……」

支配人さんの顔は、私が見たことない優しい表情だった。でも、支配人さんの表情はどこか悲しそうだった。胸が痛い……。目頭が熱くなりそうなのを必死に抑え込む。

コニー「ワン、ツー、サン、シ! ワン、ツー、サン、シ! ワン、ツー、サン、シ! ハルちゃんテンポ遅れてるだす!!」

ハル「す、すいません!!」

昨日の光景が頭を過ぎって、レッスンに全く集中できなかった。これじゃ、アイドル失格だよね。

コニー「どうしたんだす? ハルちゃん」

ハル「そ、それは……」

話してもいいのだろうか? ましてや、支配人さんを尾行したななんて言えない。

モモカ「昨日、私が無理矢理ロナとハルを支配人の尾行に付き合わせて見ちゃったんだ」

コニー「何をだす?」

モモカ「支配人が、墓参りしてるとこ」

コニー「そうだったんだすか……。って、尾行はダメだず!」

モモカ「えへへ、ごめん。ごめん」

コニー「全く……。そうだすか、三人は見ちゃったんだすね」

ロナ「ニコさ、コニーさんは何か知ってるんですか?」

コニー「し、しまった……。私から何も言えないだす。それじゃ」

コニーさんは、焦った顔をしてどこかへ走り去っていった。

モモカ「コニーさん。何か知ってるみたいだね」

ロナ「うん」

モモカ「ねえ、提案があるんだけど」

モモカ「昨日は支配人の行ってたお墓行ってみない? 何か分かるかもしれないし」

ロナ「私は行きます。ハルさんはどうしますか?」

ハル「私は……」

私はどうしたらいいんだろう。気にならないと言えば嘘になる。でも、人の過去をほじくり返すようなことしていいんだろうか?

モモカ「無理して来なくてもいいんだよ?」

ハル「私は……。支配人のこともっと知りたい」

私は、支配人の事を何も知らなかった。だから、知りたいと思った。貴方の事。

モモカ「いいんだね? 知ってしまったら、戻れないかもしれないよ?」

ハル「大丈夫」

ロナ「それじゃ、行きましょう!」

モモカ「確か、ここだったよね」

そこには、支配人さんの置いた花がちゃんとそこにあった。

ロナ「女の人だね」

そこに刻まれている名前は女の人だった。

??「貴方達、そこで何をしている?」

ロナ「ミト様!?」

ミト「貴方達、確かナナスタの……?」

ハル「どうして、ミトさんがここに?」

ミト「それはこちらのセリフだ」

モモカ「支配人が、昨日ここに来てたんだ。それで気になって」

ミト「なるほどな。だが、人の過去を詮索するのは感心しないな」

ロナ「すいません……。どうしても気になってしまって」

ミト「分かった。特別に教えてあげよう。どうせ、知ることになるんだ。ここじゃ何だから近くの喫茶店に移動しようか」

ミト「あの子と君たちの支配人は恋人同士だったんだ。でも、あの子は元々体が弱くてね。死んでしまったんだ」

恋人だった。それを聞いてからずっと心臓が痛い。

ミト「それからかな、彼は人と喋らなくなったんだ。まあ、今はだいぶ治ってきているみたいだけど」

ロナ「支配人しゃんにそんな過去が……」

ミト「彼がナナスタで支配人になることになったのは、治療の一環なんだ」

モモカ「そうだったんだ」

ミト「でも、彼はまだ立ち直れていなかったんだな……」

モモカ「というか、なんで支配人のことそこまで知ってるの?」

ロナ「モモちゃん!! 失礼だよ」

ミト「別にいいよ。私はもうアイドルじゃないからさ」

ミト「あの子は、セブンスシスターズ。七人目のメンバーだったんだ」

ロナ「え!?」

モモカ「そういえば、セブンスシスターズって6人組だったもんね」

ミト「私たちが突如解散したのも、あの子が死んだからだ。私たちは7人でセブンスシスターズだったから」

ロナ「そうだったんですか……」

ミト「私自身、いまだに立ち直れていないんだ。きっと、他のメンバーも」

ミト「でも、一番立ち直れていないのは支配人だ。あいつの時計の針は止まったままなんだろう。だから、私から頼みがある」

ミトさんが、私たちに頭を下げた。

ロナ「ミト様!?」

ミト「アイツの時計の針を動かしてくれないか?」

ハル「私、やりますよ」

ロナ「ハルちゃん!?」

支配人さんの、あの表情が頭に浮かぶ。分からないふりしてたって、駄目だよね。私は……、私は――

支配人さんが好きだから

ミト「ありがとう……」

ミトさんの手が真っ白になるくらい固く握られていた。本当は、自分がどうにかしてあげたいのに、そうできない自分が悔しいのだろう。

モモカ「ハル、いいの?」

ハル「はい! 私はアイドルですから! 支配人さんを笑顔に出来なくてアイドルなんて名乗れませんよ!」

精一杯の強がりだ。涙があふれて止まらない。胸が痛い。

ミト「貴方、彼の事……」

ハル「はい! 好きです! だからこそ、支配人さんには笑っていて欲しいんです」

ロナ「ハルちゃん……」

ハル「それに、まだ振られたわけじゃありませんから! うまくいけば、支配人さんが私を好きになってくれるかもしれませんし」

だから、動かしに行こう。止まったままの時計の針を。

ハル「支配人さん!!」

支配人「ハルちゃん、どうしたの?」

扉を思い切り開けて事務所に入る。

ハル「支配人さん。私たちの事ちゃんと見てますか?」

支配人「見てるつもりだよ」

ハル「逃げないでください!!」

支配人「っ!!」

ハル「私いつも感じていたんです。皆と支配人さん距離があるなって」

支配人「怖いんだ……。僕が一歩踏み出して、また離れて行かれるのが。そのせいで、いっぱい迷惑かけてるのも知ってる。いつまでも過去に囚われちゃいけないって言うのも分かってるんだ。でもどうしても怖いんだ……。どうしようもなく怖いんだよ……」

ハル「大丈夫です! 私たちは、支配人さんから離れたりしません!」

支配人「そんな保証どこにもないじゃないか」

ハル「確かにそうかもしれません。でも……」

ハル「信じて下さい。私たちの事」

支配人「信じる……?」

ハル「そうです! だから、皆で一緒に踏み出しませんか? その踏み出せないままの一歩を」

私は支配人さんに手を差し伸べた。

支配人「でも……」

ハル「無理に踏み出さなくてもいいんです。最終的に決めるのは支配人さんですから」

支配人「ハルちゃん……」

ハル「私はその手助けになれたらいいなって思うんです。だから、今日のライブ聞いてください」

支配人「分かったよ。必ず見る」

ハル「絶対ですよ!」

事務所を後にする。これで良かったんだと自分に言い聞かせる。

モモカ「好きだって言わなくて良かったの?」

ハル「うん、今行っても重荷にしかならないだろうから……」

ハル「だから、歌に乗せて届けたいの。私の気持ち」

ロナ「ハルちゃん、かっこいいです!」

ハル「それじゃ、行こう!」

ロナ「はい!」

ホロコンのライブモードを、オンにする。

ハル「皆さん! こんにちは!」

あいさつの弾幕が、流れていく。

モモカ「今日は、新曲のSAKURAを歌うよ」

ロナ「ヒメちゃんはお店の都合で今日は来れなかったので、私達三人で歌います」

ハル「それでは。ミュージック」

三人「START!!」

そして終わってしまったの
夢見草舞う夜
とても小さく儚いエンディング

時が止まってしまったの
まぶた焼きついてる
誰にも解けないように目を閉じる

届かない微笑みを
忘れそうになっても
たとえばわたしが
あの娘だったとしても

舞い上がる恋の夢
甘く柔いだけかしら
このまま想い続けて
ナキタクナッテ ナキタクナッテ

心に鍵をかけた
初恋はSAKURAになる
それでも咲き続けて
大人になって あなたを忘れてく

三人「ありがとうございましたー!!」

想いは届いただろうか? この曲は失恋を歌った歌だ。強く生きていこうそういうメッセージが込められていると私は思う。

支配人「ハルちゃん!! 聞いたよ」

ハル「支配人さん……」

支配人「僕は前に進むよ。きっと、それが彼女の願いでもあると思うから」

支配人さんは、宙に向けてあの表情を浮かべた。

ハル「それはよかったです」

支配人「ありがとう。ハルちゃん」

ハル「どういたしまして。支配人さん……」

支配人「僕には、好きな人がいたんだ。もうこの世にはいなくなっちゃったけどね」

ハル「そうなんですか……」

支配人「もう、あれから三年も経つのにいまだに忘れられないんだ。あれから、人と話すのが怖くなって部屋に引きこもってたんだ。そんな時かな、僕のもとに救世主が現れたんだ」

支配人「その人は、僕に言ったんだ。いつまでも過去に縋るな! 前を向けってっさ……。その人のせいで無理矢理支配人をやることになって。最初は嫌だったけど、今となってはやってよかったって思ってる」

ハル「支配人さん……」

支配人「だから、僕は前に進むことにしたよ。その人と一緒に」

ハル「その人って言うのは、コニーさんですか?」

支配人「ち、違うよ!?」

そんなにあたふたされると、分かってしまう。それに、ナナスタに支配人さんを入れるように頼んだというのを、初代さんから聞いたことがある。

ハル「そんなに動揺してると、そうだって言ってるようなもんですよ」

支配人「ほ、他の人には黙っておいてくれるかな?」

ハル「駅前のケーキで手を打ちましょう」

支配人「それくらいならお安い御用だよ」

ハル「早く買って来てください!」

支配人「え!? 今から?」

ハル「早くしないと皆に言いふらしますよ!!」

支配人「わ、分かった」

支配人さんが、外に出ていくのを窓の外から確認して、私は思い切り泣いた。
きっと、いつかは忘れてしまうだろう。
また新しい恋が実っていくだろう。
だから、私は前を向いて生きていく。これからもずっと。

駄文失礼しました

今度の新曲がめちゃくちゃかっこいいので是非買ってくださいね♪
https://www.youtube.com/watch?v=QrjukFQZXy4

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