勇者「パーティーでのカーストが最下位でつらい」 (107)

>ある町の教会


勇者(あぁ神様、どうかお願いします……)

夜、人気のない教会で手を組み祈っていた。
故郷から旅立って3日目、彼女はまだ新米の勇者である。

勇者「神様、どうか私を…」


勇者「私を勇者の座から下ろして下さい!!」



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話は3日前、父と共に王城に呼ばれた所に遡る。


勇者「私が勇者……ですか?」

王「うむ。神託によるとお主が魔王を討つ勇者であるそうだ」

勇者「そ、そんな…」アワアワ

騎士団長「…確かに娘には、護身の為の剣を幼い頃より教え込んできました。伸び代はありますが、まだまだ腕は未熟でして……」

王「神の言葉を疑うのか、騎士団長」

騎士団長「いえ、ですが…」

勇者「ううぅ、無理だよぅお父さん…」グスッ

騎士団長「…この通りの娘でして」

王「ふむ、まぁ気持ちはよくわかる。だが国を救う為だ、頼まれてはくれぬか」

勇者「国を、救う……」グスグス

王「旅の供はこちらで用意しよう。女子ばかりなら、怖くなかろう?」

勇者「……」グスッ

国のトップたる王にこう頼まれては、気弱な彼女に逆らえるはずもなかった。
こうして騎士団長の娘は勇者として旅立つこととなった。

勇者「怖いなぁ…」トボトボ

王子「やぁ、子猫ちゃん♪」

勇者「っ!」ビクッ

彼は国の第一王子。勇者にとって苦手な相手だった。

王子「聞いたよ、勇者に選ばれたんだって? 大人しい君が勇者だなんて、世の中ってわからないものだねぇ」ナデナデ

勇者「ううぅ…」

勇者(あまり、くっつかないでほしいなぁ…。でも言ったら何をされるかわからないし……)

王子「そうだ、僕が君の為に装備を特注しておこうかな♪」

勇者「お、王子様が…ですか?」

王子「そう。ほら、あんな感じの」

勇者「?」

王子が窓の外を指差すと、そこには旅の女剣士がいた。
その女剣士が着ていたのは――

勇者「~~っ!!」カアアァァ

王子「ほらぁ、子猫ちゃんもあんなビキニアーマー着る勇気が大事だと思うよ~?」ニヤニヤ

勇者「し、し、失礼しますっ!」ダッ

王子「あはは、じゃあまたね~♪」

そして3日後の夜、今現在――


勇者「私を勇者の座から下ろして下さい!!」


早々にへこたれた彼女は、神に神託の取り消しを祈るのであった。


勇者「私、もう駄目ですぅ…やっていけません……」


『へー、何で?』


勇者「きゃああぁぁ!?」ビクッ

まさか誰かに聞かれているとは思わず、勇者は跳ね上がった。

『自分から神に声かけといて、返答が来たら驚くって…そりゃねーだろ』

勇者「え、えっ?」キョロキョロ

周囲を見渡すが、人の姿は見当たらない。
男の声ははっきり聞こえるのだけれど…。

『いくら探しても見えねーよ。俺には実体がないんだから』

勇者「実体が、ない……?」

『あぁ、自己紹介がまだだったな』


神界の騎士『お兄さんは神界の騎士。神に仕える者だ』

勇者「神界の騎士……神に、仕える者……」

神界の騎士『ところで、質問してもいいか?』

勇者「は、はい」

神界の騎士『勇者の座を下ろせ、つったよな? 理由は?』

勇者「え…理由?」

神界の騎士『あんた、神が選んだ勇者だろ? それを下りたいっつーなら、それなりの理由がないとな?』

勇者「えと、その……旅が辛いんです」

神界の騎士『あ? 辛い?』

勇者「皆の足を引っ張ってしまって…いたたまれないんですよ……」

神界の騎士『でも見たところあんた、まだ経験積んでないよな? 今投げ出すのは早いんじゃないのか?』

勇者「だって…」

神界の騎士『だって?』

~回想・旅立ち数分後~


魔法使い「それでその男に言ってやったわけよ、『フツメン未満が勘違いするんじゃないわよ』って~」

踊り子「いるいる、そういう勘違い男」

僧侶「魔法使いさんだから言えたんですね~。私ならとてもとても」

キャイキャイ


勇者(話について行けないなぁ…)

魔法使い「勇者は何かある? 男との話」

勇者「え、えっ?」

踊り子「あ、いいわね。聞きた~い♪」

勇者「わ、私は特に」アワアワ

魔法使い「ないの!? えー、ないんだー! ごめんね、まさかないとは思わなくて~!!」

踊り子「ごめんね勇者ちゃ~ん」

勇者「あ、いえ、別に……」

勇者(何で嬉しそうなんだろう……?)


僧侶「…あれ、確か勇者さんて王子様に気に入られているんですよね?」

勇者「えっ!?」

魔法使い「……え?」

踊り子「王子様って…あの王子様?」

僧侶「えぇ。私はそう聞きましたけど…」

勇者「そ、その…」

勇者(そんなんじゃないし…私むしろ王子様のこと苦手で……ん?)

魔法使い「……」チッ

勇者「………?」

~回想・防具屋にて~


勇者(どうしようかなぁ…)

魔法使い「あ、これなんてどうかな?」

踊り子「あらいいわね~、魔法使いちゃんによく似合う♪」

勇者(流石2人ともオシャレだなぁ)

僧侶「まだ決まらないんですか勇者さん」

勇者「ご、ごめんなさい!」

魔法使い「これとかどう?」

踊り子「いいんじゃないの、防御力も高いし」

勇者「あ、じゃあこれ買ってきます」


クスクス

勇者「…?」

魔法使い「やだー、あんなダサいの私は着れな~い」

踊り子「魔法使いちゃんが勧めたんじゃな~い」

魔法使い「まぁ前衛で戦うなら、あれでもいいんじゃないのクスクス」


勇者「……」

~回想・戦闘にて~


僧侶「ふぅ…皆さんお怪我はありませんか」

勇者「あぅあぅ…」ガタガタ

魔法使い「勇者ぁ、何やってんのよ。1匹も倒してないじゃない」

勇者「ご、ごめんなさい…」

勇者(王様は『少しずつ戦いに馴れていけばいい』って言ってたのに…)

踊り子「魔法使いちゃんは魔法を沢山使えて、凄いわね!」

魔法使い「べっつにー? 魔王討伐の旅してるんだから、これくらい当たり前じゃなーい?」

クスクス


勇者(ううぅ…)ズキッ

僧侶「あの、東と西、どっちの町に寄ります?」

魔法使い「東がいいわ。美味しいスイーツショップがあるのよ」

踊り子「えーホント? 行きたい行きたい!」

魔法使い「そうと決まれば行こう!」

勇者「あっ、待っ…」


魔法使い「それでさっきの続きだけど~」アハハ

僧侶「あらら」

踊り子「もう、やだぁー」


勇者「……」ポツン




勇者「…というわけで」

神界の騎士『女グループのヤなとこ凝縮したようなパーティーだな…』

勇者「わ、悪いのは私なんです」

神界の騎士『いや、1番弱いあんたに意地悪する女どもが性格悪いだろ。言い返してやれよ』

勇者「…言い返せません。私が駄目なんだから…」

神界の騎士『駄目だから、ってなぁ。神に選ばれたんだから自信を持てよなー、そんなウジウジしてるから…』

勇者「……グスッ」

神界の騎士『………あ?』

勇者「ウジウジしててすみません~…。私、いつも人をイラつかせてばかりで…」グスグス

神界の騎士『ちょ、待!? え、これ俺が泣かせたの!?』

勇者「違うんです、全部私が悪いんです…えううぅぅ」グスグス

神界の騎士『ごめん、ごめんて! ひとまず泣き止もう、な!?』

勇者「ううぅ…」グスッ

神界の騎士『参ったなー、こりゃ…』

神界の騎士の姿は見えないけれど、本当に困っている様子が窺い知れる。
大変申し訳なく思う。

勇者「私なんて…弱いし、臆病だし……駄目なんですよぉ……」グスグス

神界の騎士『……』


神界の騎士『…しゃーねぇ! お兄さんが手ぇ貸してやるよ!』

勇者「……え?」

手を貸すとは…?
疑問を口にしようとしたその時、不意に――

勇者「きゃあぁ!?」モミモミ

勇者の手が勝手に動き、軽く揉んだ。乳を。

神界の騎士『おぉー、意外とボリュームあるじゃねぇか!』

勇者「な、なななななな…」

神界の騎士『驚いただろ。今な、俺があんたの体に一部憑依してるんだよ』

勇者「憑依…?」

神界の騎士『そ。こういうこともできる』サワサワ

勇者「きゃああぁぁ!?」

神界の騎士『そういう反応はお兄さんのような男を喜ばせるだけだぞォ~?』

勇者「やだやだぁ」グスッ

神界の騎士『っつー冗談は置いといて。腕に自信がないなら、お兄さんが代わりに戦ってあげよう!』

勇者「神界の騎士さんが…代わりに……?」

神界の騎士『どうせ神も王も、あんたが勇者の座を下りること許しはしないぞ。それよりは…』サワサワ

勇者「きゃあぁ!」

神界の騎士『なーに、スキンシップ、スキンシップ! っつーわけで宜しくなー勇者!』

勇者「うぅぅ…」

勇者は諦めた。

初回はここまで。どうぞ宜しくお願いします。

>翌朝


勇者「……」

神界の騎士『なぁ、全員遅くね?』

勇者「支度に時間かかっているんですよ」

神界の騎士『支度~? んなもん時間取られる程のことじゃ…』


僧侶「おはようございます」

魔法使い「ふぁー、ねむ。行こ~」

踊り子「今日はどこへ向かうの~?」


神界の騎士『……何、支度ってもしかして服選びとか化粧?』

勇者「はい、オシャレですよね」

神界の騎士『いやいやいや魔王討伐の旅を何だと思ってるんだって!!』

勇者「まぁ女性ですから…」


魔法使い「勇者、さっさと行くよー」

勇者「あ、はい! すみません」

神界の騎士『謝るんじゃねぇよ、あいつらの方が先にこっちを待たせていたじゃねぇか!!』

勇者「そんなこと言われても…」

神界の騎士(あー駄目だ、完璧に上下関係に呑まれてやがる)

キャイキャイ

魔法使い「でさでさぁ、見てよこの雑誌。ここ行ってみたくない?」

踊り子「わぁ、行きたい! ねぇねぇ行きましょうよ!」

魔法使い「そうね! この街に向かおうか」

僧侶「異論はありません」


勇者「……」

神界の騎士『なぁ聞いてもいいか?』

勇者「はい?」

神界の騎士『何で、あいつら主導で動いてんの?』

勇者「だって…私は勇者とはいえ弱いから指揮を取れる立場じゃないし、反論もないし……」

神界の騎士『けど、せめて勇者にも意見を聞くくらいしていいんじゃねぇか?』

勇者「私なんか……」


と、その時――

踊り子「魔物が現れたわ! 戦闘準備よ!」

勇者(え、えええぇぇ)アタフタ

魔法使い「勇者、ボーっとしてんじゃないわよ!」ドンッ

勇者「きゃっ」

魔法使い「喰らえ、炎魔法!!」

勇者「ううぅ…」

神界の騎士『おいおい、ビビってる場合か。仲間たちが戦ってるぞ』

勇者「私なんて皆の邪魔になるだけだし…」

神界の騎士『そう言ってたらいつまでもレベルアップなんかしないだろ』

勇者「そう…なんですけど……」

剣を握る勇者の体は震えている。
戦わなければいけないと頭では理解してはいるが、その一歩が踏み出せない。

神界の騎士は、戦っている勇者の仲間たちを見る。
王に選抜されただけあってなかなかの実力者揃いではある――だが、勇者への配慮は一切無いらしい。

神界の騎士『…明らかな人選ミスだな王。心の弱い女の子を戦場に送り出すなら、もうちょい優しいメンバーを選ぶべきだったな』

勇者「う、ううぅ……」

神界の騎士『でもまぁ、勇者がグループで軽んじられている理由がよーくわかった。でも、今日からは――』

勇者「っ!?」

体の震えが収まり、勇者の剣を持つ手に力が入る。
これは――

神界の騎士『――下克上開始だ!』

勇者「きゃあぁ!?」

踊り子「!?」

勇者の意思に反して、体が高く跳躍する。そして――

勇者「――っ!?」

神界の騎士『はあぁ――っ!!』ズバァッ

魔法使い「!?」

目の前にいた魔物を、一刀両断で切り伏せた。


一体何が起こったのか――仲間たちどころか、勇者自身も信じられなかった。
それでも魔物達は本能的に危険を察知してか、勇者に襲いかかっていった。

だが――

勇者「…」ズババッ

その剣はひと振りで3匹の魔物を切り伏せ、

勇者「…」ドカッ

鋭い蹴りが魔物を吹っ飛ばした。

魔物達は勇者を取り囲み、次々と襲いかかる。
だが、勇者の剣は、攻撃を喰らう前に魔物達の急所を貫いていった。

そして――

僧侶「何てこと……」

勇者「……」

あっと言う間に、生きてる魔物の姿はなくなった。

魔法使い「ちょ……」

魔法使いは信じられなかった。
あの足手まといの勇者が、こんな簡単に魔物達を蹴散らすなんて――

踊り子「勇者ちゃん…?」


勇者「……」ガタガタ

一方の勇者は血の気が引いていた。
自分の意思と反して、体は魔物達の間を駆け抜けた。その恐怖心、手に残る感触――どちらもトラウマになりそうで。


だけど――

勇者『なーんだ、この程度かー』

魔法使い「……え?」

勇者(えええぇぇ!?)

これまた自分の意思に反して、勝手に声が出てきた。
すぐさま訂正しようとしたが、自分の意思で声が出せない。

勇者『ちょっと腕試し程度に戦ってみたんですけどー…』

勇者『弱すぎてびっくりしちゃいましたー!! いや、皆さんが手こずっている相手だから強いのかなーって思ったんですけどぉー…』

勇者(し、神界の騎士さん…?)ブルブル

神界の騎士『事実だもんよ』

勇者(で、でも……)


魔法使い「……」ギロ

踊り子「……」ムスッ

勇者(ヒイイィィ、怒らせちゃいましたああぁぁ!!)

神界の騎士『お、やるか? やるならドサクサに紛れて乳もんだろ』ヒヒヒ

勇者(やめて下さい~!!)


魔法使い「…行くわよ!」クルッ

勇者「……え?」

明らかに面白くなさそうだが、仲間たちはそれ以上何も言わずに先を行く。
その姿を追いかけながら、勇者は喧嘩にならなかったことを内心ホッとしていた。

神界の騎士『このパーティーの力関係がわかった』

勇者「力関係…ですか?」ヒソヒソ

神界の騎士『このパーティーでの力関係を作っている要素は3つ。「容姿」「気の強さ」「戦闘力」だ』

勇者「はぁ…」

神界の騎士『俺の目から見て、勇者以外の容姿レベルは踊り子>僧侶≧魔法使いってとこだな』

勇者「え、魔法使いさん美人だしスタイルもいいじゃないですか」

神界の騎士『それはお洒落補正でそう見えるだけだ。冷静な目で見れば顔貌は中の下レベルだし、体も肉感が無くて欲情しねぇ』

勇者「そうなんですか…?」

神界の騎士『でもああいう鶏ガラが女の世界じゃ持て囃されるからな。とまぁ補正込みで「容姿」は踊り子≧魔法使い>僧侶、と位置づけるとしよう』

神界の騎士『次に「気の強さ」。これは魔法使い≧踊り子>僧侶。この時点で僧侶はナンバー1争いからは外れた』

勇者「まぁ…僧侶さんは、お2人よりは大人しいですからね」

神界の騎士『そして順位を決定づけたのが「戦闘力」。これを魔法使いが踊り子を大きく上回ったことにより、このパーティーのナンバー1が決定したわけだ』

勇者「な、なるほど…?」

神界の騎士『他人事みたいに言ってんじゃねぇ。あんた、序列最下位の見下し要員にされてたんだぞ』

勇者「ううぅ…」ガーン

神界の騎士『ま、へこむな。さっきも言ったろ、今日から下克上だって』

勇者「下克上って…何をするつもりですか?」

神界の騎士『ま、お兄さんに任せなさーい!』ガハハ

勇者(嫌な予感しかしない…)

今日はここまで。

勇者が自分の意思で話す言葉→勇者「」
神界の騎士が勇者に憑依して話す言葉→勇者『』
と、カッコの形で区別宜しくお願いします。

>街


神界の騎士『よぅし、自由行動の時間だ! 早速買い物するぞ!』

勇者「買い物? 何を買うんですか?」

神界の騎士『防具だよ、防具!』

勇者(防具か…てっきり勝負下着とか言うのかと)

神界の騎士『さっき戦ってわかったが、あんたは防具が体に合ってない! 筋力ないのにこんな重い防具つけてたら、思うように動けないぞ』

勇者「そ、そうですか? ダメージ軽減されるから良いと思ったんですけど…」

神界の騎士『防具で軽減するんじゃなくて、回避して軽減するんだ。とりあえず防具屋に行くぞ、お兄さんがアドバイスしてやる!』

勇者「は、はい。わかりました」



>防具屋


神界の騎士『ヒョォ~、この金属臭さ、たまんねぇなぁ~』

勇者「それで…どんな防具にすれば?」

神界の騎士『そうさなぁ~…動きやすさ重視で、でも何かしらの付属効果があればいいな…』ブツブツ

勇者(流石、神様に仕える騎士だわ)

神界の騎士『で、あとはその"少しキツそうにCカップブラに押し込んでるけど実はDカップのバスト"を活かしたいとこだな!』

勇者「な、ななななんでカップ数わかって…」アワワワ

神界の騎士『お、あれとかいいじゃん!』

勇者「これは…」

防具屋「ありがとうございやした~」

勇者「買っちゃった…」

神界の騎士『古い防具も売ったし、明日からはそれ装備な! じゃ一旦、その鎧は宿に置いていこうぜ』

勇者「まだどこか行くんですか?」

神界の騎士『確か魔法使い達が行ったのは…雑誌に載ってたカフェだったな』

勇者「え? そうですね」

神界の騎士『よっしゃ! ちょっと体借りるぞ勇者!』

勇者「え――」



>カフェ


魔法使い「このケーキ美味しい~っ」

僧侶「お洒落な雰囲気も最高です。来て良かったですね」

踊り子「これで彼氏とかと一緒だったら最高なんだけど…」

魔法使い「こーらっ。今は旅をしてるんだから、男なんて作ってる場合じゃないわよ~」

踊り子「そうよね~。私達、モテない女同士で仲良くしましょう~」

僧侶「ふふ、そう言って2人に抜けがけされちゃいそう」

魔法使い「もー何言ってんのよぉ、私らの友情はそんな脆いもんじゃないわよ!」


カランカラン

店員「いらっしゃいませ~」

イケメンA「3名で」

イケメンB「タバコは吸わないです」


踊り子「あら、あの人たちかっこいいわねぇ」

魔法使い「ほんとだ。目の保養でもさせて……」


勇者『ホントにおごってもらっちゃっていいんですかぁ…?』モジモジ


魔法使い「」ブッ


イケメンA「いいのいいの、誘ったの俺たちだし♪」

イケメンB「こんなに可愛い子とお茶できるなんて、滅多にない機会だしな!」

勇者『それじゃあ…お言葉に甘えちゃおっかな♪』キャッ

<ワイワイ


踊り子「あれ…勇者ちゃんよね?」

僧侶「ど、どういうことですかね…?」

魔法使い「イケメン達と楽しそうに…!!」


<ギロー

勇者(すっごく睨まれてますよ~…)アワワ

神界の騎士『おー、妬んでる妬んでる。いい調子だ』

勇者(全然良くないですよ!?)

神界の騎士『よし、トドメだ!』

勇者『あ! 魔法使いさん、こちらにいたんですねー!!』

魔法使い「……」ギロ

勇者『踊り子さんと僧侶さんも一緒ですか…何か意外かも』

魔法使い「…どういう意味よ?」

勇者『だって、こういうお洒落なカフェって…』



勇者『ボーイフレンドとかと一緒に入りたいじゃないですか~!! 魔法使いさんくらい綺麗なら、1人や2人いらっしゃいますよね~?』

魔法使い「……」ビキビキ

神界の騎士『よっしゃあ、会心の一撃!!』

勇者(これ、もうまずいです……)シクシク

魔法使い「ボーイフレンドも何も…私、旅の最中だし? 旅先で捕まえたりとかありえないしー? ねぇ?」

踊り子「そう、ねぇ…」

魔法使い「あ、まさか勇者…今までも私達と別行動して、とっかえひっかえしてたのー!? やだー!!」

神界の騎士『お前がハブってたんじゃねーかよ』

魔法使い「大した女だわ~。まさかそんなビッチだとは思わなかった~」

神界の騎士『流石、気の強いこって。そんなら望み通り、負けてやろう』ニヤリ

勇者『ビッチじゃないですぅ~!!』エーン

魔法使い「…は?」

勇者『違いますもんねぇ~?』ウルウル

イケメンA「ひどいこと言うなー。勇者ちゃん、いっつもいじめられてたの?」

魔法使い「はぁ!? ちょっ、変な誤解……」

イケメンA「よしよし勇者ちゃん。あれはね、モテない女の僻みだよ」

魔法使い「」

イケメンB「女グループってモテる子を潰すって聞いてたけど、まさかマジとは…うわー」


魔法使い「」ビキビキ

僧侶「お、抑えて魔法使いさん…」

踊り子(魔法使いちゃんに同調したら私まで喪女扱いされるわ。スルーしとこ)

魔法使い「あんた魔王討伐の旅の最中でしょ!? そんな時に男2人も連れてヨロシクするなんて、ビッチもいいとこじゃないの!」

勇者『魔法使いさんたら、発想がやらしい~』

魔法使い「やらしいのはあんたの方でしょ!?」

勇者『違いますよ~。このお2人は情報屋さんですもの』

魔法使い「…へ? 情報屋……?」

イケメンA「そ。旅の指針の為に情報が欲しいって言われてね。それで、このカフェで話をしようってことになったのさ」

イケメンB「じゃ、俺たちは話をするんで」

魔法使い「………」


イケメンA「いやー、自分たちだって遊んでるくせに勇者ちゃんをビッチ扱いとは」

イケメンB「勇者ちゃんが可愛いから嫉妬してるんだよ、おぉ怖」


魔法使い「……」ビキビキ

僧侶「ま、魔法使いさん…ケーキ食べましょう?」

踊り子(あらまぁ魔法使いちゃんたらお気の毒)クス


勇者(この男の人達も、魔法使いさんを貶めて私を持ち上げるなんて、絶対良くないですよ…)

神界の騎士『おう。最低男の香りがしたから連れてきた』

勇者(ええぇー……)

>宿屋


勇者「あぁ、気まずいなぁ…」ズーン

神界の騎士『ほう? 見下し要員のままが良かった?』

勇者「そうじゃないですけど…」

神界の騎士『勇者ってマジでウジウジしてるよな~。お兄さんイライラしちゃうぞ~』

勇者「うぅ。どうせ私なんて……」

神界の騎士『…あのさぁ男視点で言うとさ』

勇者「……はい?」

神界の騎士『容姿だけなら勇者が1番可愛いぜ?』

勇者「!!!」

神界の騎士『さっきの男たちも言ってたじゃん。ウジウジしてなけりゃ、絶対に勇者が1番男ウケするんだって』

勇者「そ、そんな……」アワアワ

神界の騎士『あ、でもさっきの男たちは「あわよくばヤりたい」からチヤホヤしてただけだから。騙されないようにな』

勇者「……」ズーン

神界の騎士『まぁ、俺はその辺見抜くのは得意だから。お兄さんに任せなさい!』

勇者「むうぅ…」

神界の騎士『それより明日に備えて早く寝な! 男女関わらず、早寝早起きの健康体が1番!』

勇者「はい……」

勇者(明日から気まずいなぁ…)

>翌日


魔法使い「今日の小物はこれにしようかな~」

踊り子「魔法使いちゃんはお洒落に余念がないわねぇ」

魔法使い「まぁね~」

僧侶(正直、そんな細かい所誰も見てませんけどね)

踊り子(素の容姿だけで勝負できない子って大変ねぇ)


僧侶「おはようございま…す?」

勇者「お、おはようございます」

踊り子「あら…その鎧は?」

勇者「あっこれ…昨日、買ったんです…」

神界の騎士が選んでくれた鎧は、軽装鎧だった。
守る部分は手足、胸部、腰周りと、今までの装備よりは面積が小さいけれど、軽くて動きやすかった。

勇者(ちょっと恥ずかしいなぁ…)モジモジ

ヘソと太ももが出たデザインだったので、スパッツを履いて露出を抑えることにした。それでも体のラインが出るので、恥ずかしかった。
もうちょっと露出の小さいデザインがいいと言ったのだけれど…。

神界の騎士『勇者はスタイルいいんだから、見せつけてやろうぜ! それに、この程度なら全然やらしくねーって!』

そう言われ、押し切られてしまったのだ。

魔法使い「…今までの鎧の方が性能良かったんじゃないの?」

勇者(ううぅ、目が怖い)

神界の騎士『俺に任せろ』

勇者『動きやすさを重視しました。まぁ、確かに恥ずかしいんですけれど~…』

魔法使い「そうよね~、ヘソと太もも出るデザイン装備なんて、ビッチみたいで…」

勇者『ですよねー。だからスパッツ履いてごまかさなきゃいけないんですよー。私…スタイル良くないですから』

魔法使い「……は?」

勇者『魔法使いさんはいいですよね~、何を着ても や ら し く 見 え な く て』

魔法使い「」

踊り子「…プッ」

僧侶「お、踊り子さん」アワワ

踊り子「いや、だって…」クスクス

魔法使い「あ、あんたね…!!」ブルブル

勇者『それより昨日の情報屋さんに聞いたんですけど、首都周辺が最近色々物騒みたいですよ』

踊り子「首都周辺が? まぁそれは気になるわね」

勇者『でしょう? ちょっと行ってみましょう』

魔法使い「ちょっ、勝手に決めるんじゃ…」

踊り子「まぁいいじゃない魔法使いちゃん」

僧侶「あ…私もそれでいいです」

魔法使い「くっ」

神界の騎士『おぉ、力関係が徐々にこっちに傾いてきたぞ』

勇者(こうも簡単に…!?)

魔法使いの移動魔法により勇者一行は首都に戻ってきた。
久々に戻る故郷は懐かしく思えたが、どこかピリピリしているように思えた。

勇者「陛下…」

王「おぉ勇者よ、よくぞ戻った!」

僧侶「こちらが最近物騒だと耳に入りまして。何があったのですか?」

王「うむ。魔王軍幹部が付近に配属されたようでな…。首都周辺の魔物が強くなったのだ」

踊り子「まぁ、幹部が!」

王「幹部を討伐に行きたい所だが、騎士団も周辺の魔物から首都を守るので手一杯でな…」

その時、兵が広間に駆け込んできた。

兵「陛下、報告します! 敵の不意打ちにより、騎士団長殿が負傷されました!」

勇者「!! お父さんが…」

王「勇者、すぐに行ってやれ!」

今日はここまで。
勇者のバストは最初はEの設定だったのですが、投下前にチェックして下さった方の強い勧めによりCカップブラに押し込めたDカップになりました。

>城内・救護室


勇者「お父さん!」

救護室に駆け込むと、上半身に包帯を巻いた父がベッドに伏せていた。

騎士団長「おぉ勇者…久しぶりだな」

勇者「お父さん、お父さん……」ジワァ

騎士団長「なぁに、命に別状はない。しかし正直、こちらの状況はジリ貧だ…」

僧侶「やはり幹部を討たねば状況は改善されないでしょう」

踊り子「でも、騎士団ですら手こずっている状況だというのに…」

魔法使い「どうするのよ……」

勇者「……」

勇者「私達がやりましょう!」

魔法使い「はぁ!?」

騎士団長「勇者、お前の手に負える相手では…」

勇者「いえ、私達がやるしかない……。このまま黙って状況を見ていられません」

僧侶「勇者さん……」

踊り子「……」

勇者「…各自、準備をして1時間後中央広場で合流しましょう」

神界の騎士『よく言った、偉いぞ勇者』

勇者「…えうぅ」

神界の騎士『?』

勇者「怖いです…すっごく…グスッ」ブルブル

神界の騎士『…あぁそうだな、怖いよな』

勇者「グスッ、神界の騎士さん…私、貴方に頼るしかできない…」

神界の騎士『構わんよ』

勇者「私、こんなに情けなくて臆病なのに……皆に偉そうに命令なんかしちゃって…グスッ」

神界の騎士『何言ってんだ。自分が行く、って言えるようになっただけ成長じゃねぇの。お兄さん感心したよ~?』

勇者「うぅっ、グスッ…」

神界の騎士『俺に実体がありゃ頭を撫でてやるとこなんだけど…俺がすべきなのは、それじゃないわな』

勇者「グスッ、ヒック…」

神界の騎士『あとは任せな。お兄さんがパパッと解決してやるよ』

魔王軍幹部の居場所は西の山――そう情報を得た勇者たちは、早速山へと向かった。

勇者「――っ!!」

神界の騎士『オラオラオラーっ、雑魚は邪魔なんだよ!!』

勇者(怖い怖い怖い怖い怖い)

装備を変えた為か、動きは昨日よりも軽やかだった。
騎士団が苦労しているという魔物達を相手にしても、神界の騎士は苦戦する様子がない。

神界の騎士『はいはいはい、次切られたいのはどいつかな~?』

1匹、また1匹と切り伏せる。
正直、まだこの感触には慣れない。だけど――

勇者(逃げてちゃ駄目…ちゃんと向き合わないと)


踊り子「勇者ちゃんたら覚醒したわねぇ。とっても頼りになる」

僧侶「そうですね」

魔法使い「……」フン

>頂上


僧侶「情報によると、この辺に幹部がいるとのことですが…」

神界の騎士『…邪悪な力が漂ってやがるぜ』


“お前達、勇者一味だな?”


勇者「!!」

目の前で黒い霧が発生し、霧の中から全身鎧を纏った魔物が現れた。

魔剣士「俺は魔王軍幹部、魔剣士。魔王様に刃向かう危険因子は殺す」

踊り子「流石に強そうねぇ。勝てるかしら?」

魔法使い「…やるしかないじゃない」


勇者「…頼みましたよ、神界の騎士さん」

神界の騎士『任せろ!!』

神界の騎士は勇者に憑依し剣を抜く。
魔剣士の禍々しい魔力を前にしても怯むことなく、意気揚々と飛びかかっていった。


魔法使い「…っ、勇者に遅れをとらず行くわよ!!」

剣が合わさった金属音が高く響く。

神界の騎士(筋力は相手のが上――力押しできる相手じゃねぇな)

素早く判断した神界の騎士は、力で押し切るのは諦め、一旦跳躍し距離を取った。

神界の騎士(ここは手数で勝負だな!)

地面を蹴り、魔剣士との距離を一気に詰めた。
狙うは、全身鎧の隙間――関節部分。

魔剣士「…させるか!」カァン

神界の騎士(おー、なかなかやるねぇコイツ)

勇者の体で勝つのはなかなか難易度が高そうだ。
そう思いながらも、負ける気は微塵もない。


踊り子「時の精霊、召喚! 敵の時間を遅らせて!」

魔剣士「――っ」

魔法使い「一気にカタつけるわよ!! 喰らえ、大爆発!!」

神界の騎士(あ、バカ)


ドカアアァァン


魔法使い「やった!?」

勇者『いえ。油断しないで下さい』

魔法使い「え!?」

魔剣士「…無駄なことを」

魔法使い「…っ、無傷!?」

神界の騎士(無傷なだけなら良かったんだけど…)

勇者『3人とも、凄いのが来ますよ。魔法でできるだけ強力なシールドを作って下さい』

魔法使い「何を言って……っ!?」

魔剣士「ふん…」

突き刺さるような魔力が魔剣士から放たれていた。
それもそうだ――

勇者『魔剣士の鎧――魔力を吸収する効能があるようです』

僧侶「魔力を…!?」

勇者『いいから早く防御を――っ』

――危険を感じ、とっさに横に跳んだ。
勇者が立っていた場所で爆音が響いた。吸収した魔力を、返されたか――

魔剣士「今のはよく避けたな、褒めてやろう」

神界の騎士『剣だけでなく魔法の扱いも優れてるとは、厄介な奴だぜ。つーか…』


魔法使い「う…」

踊り子「魔法使いちゃん、大丈夫!?」

僧侶「今、回復魔法をかけます!」


神界の騎士『前に出てきたのが失敗だったな。ま、命拾いしたようで何より』

勇者「か…勝てるんですか?」ブルブル

神界の騎士『ん?』

勇者「あんなとんでもない敵を相手に、勝てますか……?」

神界の騎士『おいおい、やるっつったのは勇者だよな?』

勇者「そう…ですけど……」

魔法使いは王に選ばれただけあって、かなり優秀な魔法の使い手だった。今まで共に旅をして、彼女の強さはよく知っていた。
それだけに、こうも簡単に魔法使いがやられてしまう場面を見ると、恐怖心がこみ上げてきて――

神界の騎士『余計な心配すんな』

勇者「……?」

神界の騎士はそこに転がっていた、魔法使いの杖を拾い上げた。
一体何をするつもりだろうか…聞く前に違和感が発生した。

勇者(こ、これは…!?)

神界の騎士『魔力充電完了~』

彼は魔法使いの杖にこもっていた魔力を吸収し、剣に纏わせたのだ。
こんな人間業ではない芸当は出来れば封じておきたかったが――

神界の騎士『ま、そんなこと言ってられんわな。確実にあいつを討たないとどうしようもねぇ』

勇者「神界の騎士さん…?」

神界の騎士『心配すんな勇者。お兄さんがキッチリ、あいつに引導渡してやるからよ』


魔剣士に向かって駆ける。
こちらが剣を振り下ろせば、魔剣士はそれを剣で受け止める――

神界の騎士『――前に、退くっ!』

魔剣士「!?」

神界の騎士『そんでェ!!』

勇者の剣は魔剣士の胴を打った。しかし刃は鎧に受け止められ、魔剣士にダメージを与えない。

魔剣士「無駄なことを……――」

と、魔剣士は違和感に気付いた様子だった。

ドカァン!

神界の騎士『やっぱ吸収した魔力程度じゃ、大した爆発は起こせなかったか』

魔剣士「無駄だということを学習しなかったのか。魔力を返すぞ…――」

勇者『しまった! 皆、早く防御を――』



勇者『――なんてね♪』

魔剣士「――っ!?」


ドゴオオォォン


目の前で魔剣士が爆発し、鎧の破片が飛び散った。

神界の騎士『剣が鎧に当たった時…俺はあいつの鎧に仕掛けをした』

勇者「仕掛け…?」

神界の騎士『そう。“魔力を外に放出させないよう内に封じる”仕掛け。俺が起こした爆発はフェイク』

魔力は鎧の内側に封じられ、放出できずに鎧の内側で爆発が起こった。
鎧の中身は、爆発に耐えうるだけの耐久力はなかったようだ。

神界の騎士『まともに剣でやり合うより、こっちのが確実だった。…それよりお仲間さん大丈夫か?』

勇者「あ、あのっ、魔法使いさんはっ!」


魔法使い「うぅ…」

踊り子「大丈夫よ、意識は戻ったわ」

勇者「魔法使いさん…あの、大丈夫ですか」

魔法使い「…城に戻るわよ」

勇者「えっ?」

僧侶「お体の調子は…」

魔法使い「放っておいて! さっさと戻るわよ!!」


踊り子「もう、何なのかしら~?」

僧侶「さぁ…?」

神界の騎士『ヒスですねー、おぉ怖』

勇者「……」

今日はここまで。
お兄さんやったぜ!

>城


王「よくぞ戻った!!」

勇者「あ、あの…私達、西の山で魔剣士を…」

王「あぁ、王宮魔術師の魔法で戦いの様子は見ていた。強くなったな、勇者よ!」

勇者「え、あ……」

王「褒美としてはささやかなものだが、今夜は城で晩餐を取ると良い。それまで体を休めておくのだ!」

勇者「あ、は、はい…」


神界の騎士『いいなぁいいなぁ、城の豪華飯いいなぁ~』

勇者「神界の騎士さん、私に憑依して召し上がります…?」

神界の騎士『マジでいいの!? お兄さん頑張った甲斐があったなー!』


魔法使い「……」スタスタ

勇者「あ、魔法使いさん…お体の方は」

魔法使い「何よ…。心の中でほくそ笑んでいるんでしょ」

勇者「え…?」

魔法使い「あんたは城の皆に勇姿を見せたけど、私は恥を晒しただけだわ。ざまぁ、って思ってるんでしょ!」

勇者『あ、はい』

魔法使い「…」ビキビキ

勇者「いえいえいえいえいえ、違いますっ!!」

勇者(神界の騎士さん~っ!!!)

神界の騎士『わり。つい本音がポロッと』

王子「やぁ子猫ちゃ~ん♪」

勇者「!」

魔法使い「!」

神界の騎士『お? 何だあのチャラいボンボンは』

勇者「お、王子様…」

神界の騎士『王子? へぇ、まぁ顔は確かに王子様って感じだけど』

王子「子猫ちゃんの活躍見てたよ~。まさか子猫ちゃんがあんなに強くなってるなんて、僕は感動したよ!」

勇者「は、はぁ…」

魔法使い「…」フン

王子「本当なら子猫ちゃんをあそこまで頑張らせなくても良いはずだったんだけど…ねぇ魔法使い?」

魔法使い「…っ!」

勇者「え?」

王子「子猫ちゃんがか弱いお姫様でいられるように、魔王討伐隊にはよりすぐりのメンバーを選んだはずなんだ。それがまさか、敵に一擊も与えられず倒されるなんてね…」ハァ

魔法使い「……」

王子「全く、恥を知りなよ? 君には魔法が優れている以外、何一ついいとこがないんだからさぁ」

魔法使い「~っ…!!」

王子「ねー子猫ちゃん? ところで今日の晩餐会の後、君に用が…」サワッ

勇者『…触るな』

王子「え?」

勇者『…』ゲシッ

王子「!!!」チーン♪

勇者『あら御免あそばせ~。変質者にはとっさに体が反応するようになりましたの』オホホ

王子「ウグググ……」

王子「全く子猫ちゃんたら…♪ ぼ、僕はちょっと用事を思い出したよ…」フラフラ

神界の騎士『股間抑えて歩く後ろ姿ってみじめですねぇ』オホホ

勇者「い、いいのかな…」

魔法使い「…っ」グスッ

勇者「……え?」

魔法使い「もー何なのよ…。最悪よ、王子もだけど……私はもっと最悪じゃない」グスグス

勇者「ま、魔法使いさん?」

魔法使い「…今までごめんなさい」

勇者「え?」

魔法使い「ごめんなさい…私、王子のことが好きで、王子に気に入られているあんたに冷たくしてたのよ。…さっきので恋心も冷めたけどね」

勇者「そ…そうだったんですか…」

神界の騎士『男を見る目が最悪だな。だからって正当化できる話じゃねーけどな』

魔法使い「今更謝って許されることじゃないとわかってるわ。でも…ごめんなさい」

勇者「……」

勇者「いえ、許しますよ」

魔法使い「…えっ?」

神界の騎士『えー』

神界の騎士『そう簡単に許していいのかよ。これ、勇者が見下し要員でなくなったから、しおらしくなっただけだぞ』

勇者「いいんです…魔法使いさんに冷たくされてる理由がわかって、良かったです」

魔法使い「良かった…って」

勇者「そりゃ冷たくされてて辛かったですけど…でもウジウジしていた私にも責任はあると思うんです」

魔法使い「そんなこと…」

勇者「それに…これ以上仲をこじらせても仕方ないですよ。一緒に魔王を倒しに行く…仲間なんですから」

魔法使い「勇者…」

勇者「…改めて、宜しくお願いしますね」ニコ

魔法使い「…えぇ。宜しくね」


神界の騎士『ま、勇者がいいならいいけどさ。お人好しだな、勇者って』

勇者「あはは…」

その日から、パーティーは変わった。

魔法使い「勇者! そっちをお願い!」

勇者「はい!」

勇者と魔法使いの連携が取れるようになり、パーティーの戦闘力が上がった。


踊り子「ねぇ、幹部の情報が2つ入ったけど、どちらを優先する?」

勇者「相談で決めましょう」

僧侶「そうですねぇ、私は…」

話し合いは平等に行われるようになり、それにより全員の不満が軽減された。


踊り子「さっき倒した魔物がこんなもの持ってたわよ~」

魔法使い「これは…魔法のレオタード! レアアイテムよ!」

僧侶「せ、性能は良さそうですが…」

勇者「こ、こんなの着て歩くんですか…!?」

魔法使い「よーし、じゃゲームで負けた人が着るってのはどうよ」

僧侶「えぇ!?」

勇者『魔法使いさんが着るとバストの布が余りますね』

踊り子「…アハハッ」

魔法使い「何ですってー!! 踊り子、あんたも笑うなあぁ!」

勇者(神界の騎士さん!?)アワワ

神界の騎士『事実を述べただけ~♪』

何より、パーティーの雰囲気が良くなった。

そんな感じで旅は順調に進み、倒した幹部の数も5人、勇者一行の名は広まっていた。

宿屋「これは勇者ご一行様。世界の為に戦う貴方達から料金は取れません、遠慮なく泊まって下さい!」


勇者「ふぅ…何かどこ行っても優遇してもらえるようになってきましたねぇ」

神界の騎士『これくれー当たり前だって。世界の為に命懸けで戦ってんのよー?』

勇者「何か申し訳ないです…戦っているのは私でなく神界の騎士さんなのに、私ばかり持ち上げられて…」

神界の騎士『あ、俺? 俺は別に名声とか興味ねぇから!』

勇者「でも…」

神界の騎士『それよりも女の子と体を共有できる方がお兄さんにとってはご褒美だなぁ、ウヒヒ』

勇者「も、もうっ!」

神界の騎士『ま、俺に体を預けてくれるだけで勇者は貢献してるんだしさ。気後れしなくて良いって』

勇者「…ねぇ神界の騎士さん」

神界の騎士『ん?』

勇者「どうして、私に力を貸して下さるんですか?」

神界の騎士『それ、今更聞く?』

勇者「聞く機会がないまま、ずっと過ごしてきちゃって…」

神界の騎士『んー…そうだな。ま、この機会に話しておくか』

神界の騎士『俺は昔、魔王に挑んだことがあるんだよ』

勇者「えぇっ!?」

神界の騎士『知っての通り魔王はご存命、つまり結果は俺の負け。あ、でもお兄さん結構いいとこまで行ったんだぜ~?』

勇者「えーと…でも神界の騎士さんもご存命ですよね?」

神界の騎士『どうなんだかなー…』

勇者「え?」

神界の騎士『俺は肉体を魔王に封じられて、魂だけの存在になった。これって幽霊みたいなもんじゃね?』

勇者「ゆ、幽霊!?」

神界の騎士『みたいなもん、だって。それに肉体を取り戻せば、俺は元のイケてるお兄さんに戻れるわけだし』

勇者「あ、でももし肉体を破壊されていたら…」

神界の騎士『神界の騎士の肉体は破壊されても再生可能なんだぜ。問題なし』

勇者「へぇ…それなら私より、神界の方々の方が勇者に相応しいのでは…」

神界の騎士「いや、魔王を倒せるのは神が見初めた勇者だけらしい。その辺のシステムは俺でもよーわからん」

勇者「私なんか、とても勇者になれる器じゃないのに…」

神界の騎士『いや、器はいいぜ?』

勇者「え?」

神界の騎士『俺は誰にでも憑依可能だけど、勇者程しっくり来る体の奴はいなかったからなぁ』

勇者「そ、そうなんですか」

神界の騎士『おう、俺と勇者の体は相性がいい!』

勇者「何かヤラシイです!」

神界の騎士『とにかく俺は神に仕える者として、また魔王にリベンジする為に協力しているわけだ。わかったら、安心してお兄さんに委ねなさーい!』

勇者「は、はい」

そして…

魔法使い「遂に来たわね、魔王城」

僧侶「ここに、魔王がいるんですね…」

踊り子「ふふ…何だか今までのことを考えると感慨深いわねぇ」


神界の騎士『おぉー、この感じ久しぶり! あー何か柄にもなく緊張しちまうぜ。な、勇し…』

勇者「」ガタガタガタガタ

神界の騎士『おいこら。しっかりせんかい!』

勇者「き、ききき来ちゃいましたねええぇぇ」ガタガタガタ

神界の騎士『あー駄目だこりゃ…。ま、気絶しててもいいぜ。その間に終わらせておくから』

勇者「ほ、ほんとですか…?」

神界の騎士『……ただし、お兄さんがイタズラしちゃうからな?』

勇者「やめて下さいよ~っ!」

神界の騎士『そっちこそ冗談を「ほんとですか」ってマジに受け取るんじゃねぇ!! 寝るなよ!!』


魔法使い「どうしたの勇者? 入りましょう」

勇者「うっ…ちょっ待」

勇者『さぁさっさと終わらせますよ!!』タッタッタ

踊り子「勇者ちゃんたら肝が座ってるわねぇ」

僧侶「えぇ、成長しましたね」


勇者(神界の騎士さああぁぁぁん、待って、ちょっと待ってええええぇぇ!!)ガタガタガタガタ

神界の騎士『前進あるのみ! ほら早速魔物のお出迎えだぜ!』

今日はここまで。
十分報いは受けたので敵は魔法使いから魔王にシフトします。まぁでも作者が勇者の立場なら許してませnry

乙、不自然なほど雰囲気良くなったな
魔法使いさえ自重したら他2人はまとも…なのか…?

>>69
踊り子や僧侶は良くも悪くもグループの「和」を大事にするタイプなので、グループで1番の権力者だった魔法使いが勇者をひどくいじめていようが逆に凄く優しくしていようが同調していましたね。

今日の分投下します。

踊り子「ここは任せて…〝魔神召喚”!!」

ズゴッバキッバキッ

僧侶「おぉ凄い、次々と魔物を蹴散らしていきますね」

魔法使い「よし道ができたわ! 進みましょう!」

神界の騎士『……ん?』

勇者「ど、どうかしました?」

神界の騎士『何か、このフロアから妙な魔力を感じるんだが…』

勇者「妙な魔力…? まさか、罠――」

と、言いかけたその時。


勇者「きゃあっ!?」

魔法使い「っ!?」

僧侶「えっ――」

踊り子「な…っ!」


瞬時、4人の姿はそこから消えた。

勇者「は、わわっ!?」

次の瞬間、勇者は見知らぬ場所にいた。
暗く広い部屋には、霧が不気味に流れている。

勇者「み、皆さーん…?」

神界の騎士『…どうやら別のフロアに飛ばされたようだな。あと気ぃ引き締めな、勇者』

勇者「え――?」


「待っていたぞ、勇者よ」


勇者「~~っ!?!?」

神界の騎士『この感じ…忘れちゃいねぇぜ。なぁ…?』


魔王「我は魔王――この世を暗黒に包む者である」


神界の騎士『リベンジしに来たぜ…魔王!!』

勇者「」


意気込む神界の騎士に反して、気絶寸前の勇者であった。

魔王「話は聞いているぞ勇者…その細腕で、我が魔王軍の幹部達を次々と切り伏せてきたようだな」

勇者「あ、ま、まぁ…」

魔王「そして幹部達を葬ってきたその剣で、今度は我の命を取る気らしいな?」

勇者「えーと…? どなたが言ったんでしょうねー…?」汗ダラダラ

魔王「だが我も甘くはないぞ…貴様が我に抱いている殺意を、そっくりそのまま返してやろう」

勇者「えーと、そっくりそのままどころか倍返しされる予感が…」

神界の騎士『しっかりしろや勇者ァ!! 気絶したらイタズラすっからなぁ!!』

勇者(無理ですよぉ!! あとは神界の騎士さんがやって下さいよおおぉぉ!!)

神界の騎士『ったく仕方ないなァ…せめて起きてろよ?』


魔王「随分弱気なことだな、勇者よ。我を前にして怖気づいたか…?」

勇者『ハァ? 調子こいてんじゃねーですよ、このクソジジイ様』

魔王「…何?」

勇者『話が長ぇんですよ、さっさとやろうじゃないですかぁ…殺し合いをよォ、ケケケ』ギロリ

魔王「ほう…?」


勇者(キャラ変わってますよ…?)

神界の騎士『ちょっとやってみたかったんだよねー、キ○ガイ殺人鬼』

魔王「そこまで言うなら…我の暗黒の力を喰らうが良い!!」

魔王の手から黒い塊が10発ほど放たれた。
あれはどんな魔法か――考える間もなく、神界の騎士は一直線に魔王へと向かう。

神界の騎士『こんな塊、無視だ無視!』

軽く跳躍し、次々と塊を回避する。

神界の騎士『隙間を縫えば回避なんぞ簡単――』

魔王「馬鹿め――誘い込んだのだ」

待っていたとばかりに魔王は、勇者に向かって衝撃波を放った。
これは罠だったのか――


神界の騎士『…バーカ、バレバレだっつーの』

神界の騎士は剣を抜き、そして――

神界の騎士『おらああぁぁ――っ!!』

衝撃波を、剣で真っ二つにした。


魔王「…ほう? まさか我の魔法を切れる人間がいたとはな」

神界の騎士『人間業じゃねぇってか? そりゃ人間じゃねぇからな~』

軽口を叩きながらも確実に魔王との距離を詰め――

神界の騎士『でりゃあぁ!!』


魔王の肩に、重い一擊を加えた。

魔王「…っ、貴様の技量を舐めていた。だが――」

魔王は今度は爪を肥大化させ、勇者の喉元を狙った。
神界の騎士はそれを剣で受け止める。

神界の騎士『…っと、流石に単純な力で勝負するには分が悪いな』

一旦跳躍し魔王との距離を空ける。

神界の騎士『距離を空ければ、魔王が取る手段は――』

魔王「我からは逃げられんぞ…」バチバチッ

魔王は手の中に雷を召喚をする。
それを見て神界の騎士は――

神界の騎士『待ってましたァ!!』

歓喜した。

魔王「覇ァ!」

勇者の周囲を囲むように雷が襲いかかってくる。雷をなぎ払うことも、回避することも不可――に見えた。
神界の騎士は動じず、ただ黙って剣を高く掲げた。

そして――

魔王「!!」

神界の騎士『美味い魔力を、ご馳走様…♪』

剣は、魔王が放った雷を纏っていた。

神界の騎士『おらあぁ――ッ!!』

神界の騎士は意気揚々と魔王を切りつけた。
バチバチという電気音と共に、魔王の傷口からは焦げた匂いが漂った。

勇者(す、凄い…)

先ほどからただ神界の騎士に任せていた勇者だったが、信じられない気持ちで一杯だった。
神界の騎士の強さは知っていたが、それでも魔王相手ともなると、1対1では厳しいものがあるだろうと思っていた。

勇者(なのに――)

神界の騎士『手応え十分…』

神界の騎士は対等――いや、それ以上に魔王と渡り合っていた。

勇者(神界の騎士さん凄い! もしかして本当に…魔王を倒せちゃう!?)


魔王「……」

魔王「どうも戦い方が人間離れしていると思ったが…思い出したぞ」

勇者「…え?」

魔王「貴様…我がその肉体を封じた、神界の騎士だな?」

神界の騎士『おーや…バレちまった』

魔王「そうか、神界の者は肉体を封じても、魂は自在に動き回れるのだったな。だが――」

次の瞬間、魔王から強い魔力が放出され――

神界の騎士『――っ』

その魔力がフロア全体を包み込んだ、と同時――


勇者「…っ!? あ、あれ……?」

魔王「フ…これでどうだ」

勇者「え…あ……」

神界の騎士の気配が、その場から消えた。




魔法使い「今、強い魔力を感じたわ! こっちよ!」

僧侶「勇者さん無事でしょうか…」

踊り子「あっ、あれ!!」

魔法使い「!!」


遅れて駆けつけた魔法使い達が見たのは――


魔王「さぁ無力な勇者よ、死ねぇ――っ!!」

勇者「――っ」


魔法使い「いけない、届け炎魔法!!」

僧侶「聖なる矢!」

踊り子「精霊召喚!!」


勇者に襲いかからんとする魔王に向かい、遠距離攻撃を放ったが――


魔王「無駄だあぁっ!!」


魔法使い「きゃああぁぁ!?」


フロア全体に強い揺れが生じ、その場にいた全員が吹っ飛ばされた。

今日はここまで。
大ピーンチ。

魔王「まずは貴様からだ。仲間たちもすぐにお前の後を追わせてやろう」

勇者「あ…あぁ……」

魔法使い「く…勇者…!!」


勇者(怖くて、動けない……)

勇者(やっぱり私は駄目だ…神界の騎士さんに頼らないと、何もできない…)

勇者(世界を、救えない…!!)ギュッ


諦めるようにして覚悟を決めた。
魔王はそんな勇者の様子を察してか、ニヤリと上機嫌に笑った。


魔王「さぁ死ね、勇者ぁ――っ!!」

勇者「――っ」

その時、勇者に異変が起こった。
ある意味、頭は混乱に近かった。だが一方で冷めた自分がいて、衝動的に体が動いて――


カキィン


魔王「な――っ!」

勇者は剣で、魔王の爪を受け止めていた。


勇者(見える…魔王の動きが!?)

思えば――


神界の騎士『オラオラオラーっ、雑魚は邪魔なんだよ!!』

勇者(怖い怖い怖い怖い怖い)


神界の騎士の戦い方を誰よりも近くで見てきた。

勇者(まさか…神界の騎士さんの戦い方が、私の体に刻まれて…?)

魔王「今のは偶然だ…!! 喰らえ――っ!!」

勇者「はっ!」

今度は跳躍し、魔法を回避した。
今ので勇者は確信した。

勇者(私…戦える!)

勇者「魔法使いさん、踊り子さん、僧侶さんっ!!」

魔法使い「!」

勇者「援護お願いします! 私…やります!!」

魔法使い「…言われなくてもそのつもりよ!」

踊り子「ちょっと体は痛いけど、まぁ動けるわ」

僧侶「ここは踏ん張り所ですね!」

自分は、神界の騎士のように1人では戦えない。
だから全員の協力を得て、確実に魔王を討つ――…!

僧侶「聖なる力で皆さんを強化します…さぁ、全力でどうぞ!」

魔法使い「喰らいなさい、超本気・爆発魔法!!」

魔王「く…」

踊り子「それで終わりじゃないわよ…大魔神ぱ~んちっ!!」

魔王「!!」

連続攻撃で魔王の体は吹っ飛ばされる。
その先を、勇者は先回りしていた。

勇者「でやっ!!」

魔王「ふんっ!」

勇者の一擊を魔王は爪で受け止めた。
もう片方の手の爪でそのまま勇者の喉元を狙ったが――

勇者「…っとぉ!」

勇者はそれをギリギリ回避。元々身軽ではあるが、僧侶の強化魔法のおかげで回避できた。

勇者(やっぱり怖い…けど、このまま押す!!)

勇者は再び魔王に一擊加えようと剣を振り上げた――が、

魔王「遊びはここまでだあぁ――っ!!」

勇者「っ!!」

瞬時、本能的に身の危険を感じ、後方へと跳ねた。

魔法使い「勇者! 魔王に近づいちゃ駄目!!」

後ろから魔法使いが大声をあげる。

魔法使い「そいつ、触れるだけで精神を蝕む魔力を纏っている! 勇者は下がってなさい!!」

勇者(なっ…)

咄嗟に感じた身の危険は、やはり当たっていたようだ。


魔法使い「距離をとって攻撃するわよ…喰らえ爆発魔法!!」

踊り子「魔神召喚!」

僧侶「聖なる雨!!」


魔王「無駄だ…!!」ゴォッ

僧侶「…!! かき消した!」

魔法使い「まさか…あの魔力は魔王自身を守る鎧ともなり得るわけ…!?」

踊り子「それじゃあ、攻撃しようがないじゃない!」

魔王「驚くのはまだ早い…この魔力を広げることも可能なのだぞ?」

勇者「!!」

触れるだけで精神を蝕む魔力――そんなものを喰らえばきっと、戦いどころじゃない。

魔王「喰らうがいい!!」

勇者「――っ!!」

魔力はみるみる広がっていく。

魔法使い「逃げて、早くっ!!」

逃げても、きっと逃げ切ることはできない。
それなら――

踊り子「…勇者ちゃん?」

精神を蝕む――それは一体どんなものなのか、よくわからないけど。

勇者「…突っ込みます!」

魔法使い「はあぁ!?」

魔王「…ほう?」ニヤリ

勇者「そうでもしないと魔王は倒せません…!」

僧侶「本気…ですか!?」

魔王「面白いぞ勇者…! ならば来い!!」

勇者「そう簡単にやられませんよ…」

いつも駄目な自分だったから。
こういう時くらい、強い精神でいなくてどうする。

勇者「絶対に、負けないんだから!!」




「――よく言った」



――えっ?

魔王「――っ!?」

視界に人影が映った。
その人影は魔王の背後に回り、手にした刃を魔王に振り下ろした。

魔王「っ!!」

魔王は刃を爪で受け止める。
その刃を振り下ろしている男を、勇者は見た。

勇者「貴方は――」

「やっぱ勇者たるもの、そうじゃないと…な?」


大人っぽい顔立ちに浮かべる、懐っこい笑顔。
その顔は初めて見るけれど、抱いていた印象そのままで――


勇者「神界の騎士さん――ですね?」

神界の騎士「おう! お兄さん、戻ってきたぜ!」

魔王「クッ…貴様、どうやって!」

神界の騎士「お前に封じられていた肉体を取り戻しただけだよ。お前が魔力を大分消費してたお陰で、封印の力も弱まっていたぜ」

魔王「何故、この魔力の中にいて平気なのだ…!!」

神界の騎士「神に仕える者の精神力をナメてもらっちゃー困るな」

ニヤリと笑うと神界の騎士は、再び勇者を見た。

神界の騎士「おい勇者、決着つけるぞ!!」

勇者「…はい!」

返事をすると同時、神界の騎士は剣を振り上げた。
彼が何をしようとしているのかはわからない。わからないけど、勇者は走り出していた。

わからなくても、読める――

勇者(だって私と神界の騎士さんは、ずっと一緒にいたんだから…!!)


神界の騎士「オラアアァッ!!」

神界の騎士が剣を思い切り振り下ろすと、魔力が割れた。
その魔力の割れ目が魔王までの道を作り出し――勇者は迷わず駆けた。

神界の騎士「行け、勇者ぁ――っ!!」

2人同時に剣を振り下ろす。
息の合った剣――まるで、神界の騎士が自分の体にいた時のように、自然に体が動いて。


魔王「――ガハッ」

魔王の胸を貫いた感触も、2人で共有しているかのような錯覚が頭にあった。

魔法使い「魔王を、倒した…!?」

踊り子「やったわ…やったのよ!!」

僧侶「勇者さんが、勝った!!」

仲間たちから歓声が上がる。
それでようやく現実に戻ったような気になった。

勇者「魔王を…倒した……!?」

とんでもない事実に、後から感情が追いついてくる。
倒した。この自分が、魔王を。

勇者「あ、わわわ……」ブルブル

神界の騎士「おいおい、もうちょっと締まった顔しろっての」

勇者「だ、だだだって……」

神界の騎士「ま…それでこそ勇者だけどな」


魔法使い「勇者」

勇者「あ…皆さん、無事でしたか?」

踊り子「えぇ、お陰様で。ところで、その方はどなた?」

勇者「そ、そうでした! 皆さんに全部説明しま…」

僧侶「あっ!?」

勇者「え?」

僧侶が声をあげて、その視線の先――神界の騎士の方に振り返った。

勇者「神界の騎士さん…!?」

神界の騎士の体は、透過していた。

神界の騎士「俺の役目が終わったみたいだ」

勇者「役目…!?」

神界の騎士「あぁ。俺は神界に戻らないといけない」

勇者「!!」

そんな、せっかく会えたのに――

勇者「嫌です、行かないで下さい!! 私、貴方に言いたいことが沢山――」

神界の騎士「そういうこと言わない。お兄さん、心残りができるでしょーが」

勇者「だって、だって…」

神界の騎士「お兄さんはいつでも、神界から勇者を見守ってるぞ。だから――」

勇者「!!」


――悲しむ必要なんて、ないから……


魔法使い「…消えた……」

踊り子「神界……?」

僧侶「勇者さん、彼は…」

勇者「…っ」

魔法使い「…勇者?」

勇者「ひっく、やだぁ…うあああぁぁ――っ!!」


神界の騎士さん、ごめんなさい。やっぱり私、泣かずにいられません。
だけどいつか、貴方がいない日常を受け入れますから――

だから私を嫌わないで、見守っていて下さい。




勇者「ふぅー」

魔王を倒してから数ヵ月。季節はすっかり冬。
白い息を吐きながら、勇者は雪道を歩く。

「勇者ちゃん、こんにちは! 遊びに行くのかしら?」

勇者「こんにちは。ちょっと魔法使いさん達に、お茶に誘われまして」

「あら、そう。女の子同士、楽しんでいらっしゃい」

平和になった世界で、勇者は普通の少女に戻って日常を過ごしている。
魔法使いらのお陰で友人も増え、充実した毎日を送っていた。

勇者(だけど――)

心のどこかに寂しさを覚えていることは、きっと誰にもわからないだろう。

勇者(あ、時間より早く来すぎちゃった)

勇者(どこかで暖を取りたいわ、どこで…あっ)

ふと目に入ったのは教会。
ここなら待ち合わせまでの間、暖を取れる。

勇者「お邪魔しま~す…」

教会の中は無人だった。

勇者「ふぅ、あったかい…それにしても」

祭壇を前に気持ちが引き締まる。
教会は神に近い場所と言われているが――

勇者(…何だか、あの日を思い出すわ)

あの日、自分は泣き言を言いに教会を訪れた。
当時の自分には、あの状況が辛くて辛くて。

勇者(でも、彼のお陰で変わることができた)

彼が助けてくれたから。だから自分も変わることができた。

勇者「神界の騎士さん…私の言葉は届いていますか?」

勇者「私、きっと剣の道には戻らないでしょうけど…でも貴方のお陰で、色んな強さを身につけることができました」

勇者「もし、願いが叶うのなら――」

勇者「また、貴方に会いたいです…」





「いいよ」


勇者「……えっ?」

勇者「――っ!!」

空からズドンと何かが降ってきた。
そして降ってきた“彼”はこちらを見るなりニヒッと――

神界の騎士「よっ!」

懐っこい笑顔を見せた。

勇者「……」

神界の騎士「おやおや? どした、ボーっとしちゃって」

勇者「神界の騎士、さん…?」

神界の騎士「そうだよ? あれ、まさかお兄さんの顔うろ覚え?」

勇者「な、ななな何、で……」

神界の騎士「下に降りたいって神に言ったら、いいよって言われたから」

勇者「………」

神界の騎士「勇者?」

勇者「…神界の騎士さあぁ~ん」グスッ

神界の騎士「ぬっ!?」

神界の騎士「おいおいおい勇者ぁ、強くなったんじゃなかったのかぁ?」

勇者「グスッ…なりましたよ、強くなりました…。神界の騎士さんの、ばか」

神界の騎士「ばかって何だよ、ばかって~。お兄さんも流石に傷つくぞ~」

勇者「私だって傷ついてましたから、おあいこですよ~だ!」

神界の騎士「うわちゃー、確かに強くなったなぁ。…やっぱ女ってコエー」

勇者「ふんだ」

神界の騎士「悪かった、お兄さんが悪かった。勇者の言うこと聞くから、そうむくれないでくれ」

勇者「…本当に聞いてくれます?」

神界の騎士「あ、あぁ。勇者のことだから非常識なことは…言わない、よな?」

勇者「それじゃあ…」

神界の騎士「……」ドキドキ

勇者「…また、一緒にいてくれますか?」

神界の騎士「何だ、そんなことか」

勇者「今までいなくなっていたくせに」ジー

神界の騎士「悪かったってば! はい、小指」

小指と小指を絡めて約束する。
思えば、直接触れ合うのはこれが初めてだったか――そう思ったら、小指を離すのが惜しくなって。


神界の騎士「約束するよ…これからもずっと、勇者の側にいる」

交わした約束は尊く、触れ合いは心の隙間を埋め、今この瞬間に幸せを感じていた。


Fin

ご読了ありがとうございました。
当初は恋愛作品書こうとしてたのに予定がズレました(´・ω・`)

過去作も宜しくお願いします。
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/


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