貴音「あいすくりぃむ・しんどろぉむ」 (49)
初投稿です。
いろいろ至らない部分もあるかと思いますが、大目に見てください。
ひびたかssなので苦手な方はそっとじ推奨です。
パソコンの調子が悪いのでスレ建てだけこっちでして内容は携帯から送ります。
今日明日の二日間にかけて投稿する予定です。
では、よろしくお願いします。
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五月
響「たかねー、今度の休日、一緒にどっかにでかけない?」
貴音「構いませんよ、どこに行きますか?」
響「やったっ!うーん、どうしよっかなー?まぁ、てきとーにぶらぶらっとするんでもいいんじゃないか?」
貴音「ふふっ、そうですね。では私が食事処だけは決めておくとしましょう」
響「もう、貴音はご飯のことばっかりだなー。じゃあ、次の日曜、楽しみにしてるぞ!」
貴音「ええ。私も、楽しみです」
響とは、私がアイドル活動を始めてすぐに知り合いました。それから今まで長い付き合いで、今ではお互いにとても信頼の置ける、親友です。少なくとも私はそう思っています。
…いや、思っていた、という方が正しいでしょうか?
約束の休日、予定通り響と待ち合わせた私は、響とともにどこへ行くともなく、ぶらぶらと街中を散策しました。それでも響はとても楽しそうでしたし、私も幸せでした。
貴音「おや、こんなところに公園が」
響「ほんとだ。結構歩いたし、少し休んでこうよ」
貴音「そうしましょうか」
通りかかった公園のベンチに座り、少し疲れた足を休めます。柔らかな太陽の光を浴びながら、ベンチに背を預けていると。何処からともなく甘い香りが漂ってきました。
響「ん、なんか甘い匂いが……あっ!」
貴音「どうかしましたか?」
響「ほら、あそこにアイス屋さんがあるよ!あそこから流れてきてたんだ」
貴音「あいすくりぃむ……!」
響「……まったく、貴音は食べ物のことになると…まあ自分もちょっとお腹すいてきたし、買いに行こうか」
貴音「えぇ……!」
ベンチから立ち上がり移動式のアイスクリーム屋へ。注文しようと声をかけると、店主はこちらをみたあと少し驚いた顔をしました。
店主「あれ、もしかして響ちゃんと貴音ちゃんかな?」
響「おっ、よくわかったな!いちおう帽子かぶって変装してるのに」
店主「最近二人ともテレビでよく見るからね。応援してるよ、これからも頑張ってね」
貴音「ええ。これからも益々精進していくつもりです」
店主にストロベリーひとつと抹茶ひとつを頼むと、抹茶アイスの上には一回り小さいバニラアイスが乗せられていました。疑問に思って店主に問いかけると「貴音ちゃんはひとつじゃ足りないだろ?サービスだよ」とのこと。ありがたいことです。
ベンチに戻り、アイスをすくって口に運ぶ。まだアイスクリームの季節には早いものの、ほどよい冷たさと甘さに思わず口がほころびます。
響「お店の人、あっさり自分たちのこと見破っちゃったなぁ。でも、やっぱり応援してくれる人がいるってわかると嬉しいぞ!」
貴音「応援してくれているふぁんの方々のためにも、私たちもこれからさらに努力しなくてはなりませんね」
響「もちろん!もっと頑張って、めざせトップアイドル!さー」
貴音「ふふっ」
響「あ、貴音、一口ちょーだい?」
貴音「……しょうがありませんね。はい、どうぞ」
言いながら、スプーンですくったアイスを、響の口もとにもっていきます。
響「えっ!?いや、あーんはちょっと…恥ずかしいぞ」
貴音「……そうですか?早くしないと溶けてしまいますよ」
響「……あぁもう!あ、あーん……あ、抹茶も美味しいね」
貴音「それは良かったです。あの、私にもすとろべりぃを一口……」
響「あ、うん、いいよ……じゃ、あーん……い、いや、やっぱ恥ずかしい!自分ですくって食べてよ!」
貴音「……ほんとうに私がすくってもよろしいのですね?」
響「え、うん、いいけど」
貴音「……では、遠慮なく」
響「あ、ちょっ、とりすぎだぞ!」
貴音「ふふっ、これが私の一口です」
……こんな時間が、ずっと続けばいいのに
公園で二人くつろぎながら会話していると、いつの間にか日も落ちようとしていました。私がかねてから決めていた食事処へ向かいます。
響「食事って言っても、どうせラーメンだろ?」
貴音「響はラーメンは嫌いですか?」
響「ううん、貴音が連れてってくれるラーメン屋さんはみんな美味しいから大好きだぞ」
貴音「そうですか、それは良かったです」
そうして、私たちは目的のラーメン屋へとやってきました。
響「えっ、ここ?なんかラーメン屋っぽくないね」
貴音「ええ。ですが、ここのラーメンは絶品ですよ」
今回足を運んだのは、「ラーメンダイニング」と呼ばれる形式のもの。従来のラーメン屋にはないシックで上品な店構えが特徴で、最近増えてきているのだそうです。
響「へぇ、いい雰囲気だねぇ」
貴音「えぇ……」
座席に案内され、注文をし待つこと数分。注文したラーメンが運ばれてきました。味噌の上品な香りが漂ってきて、食欲を刺激されます。
そのまま黙々と食べ続けていると……
響「なぁ、貴音、さっきから妙におとなしくないか?」
響が声をかけてきました。
貴音「えっ?」
響「いや、いつもラーメンを食べる時はもっと一口するたびにリアクションするだろ?あとこのお店の雰囲気も、素敵だけどいつも貴音が誘ってくれるラーメン屋さんのとは違うし」
響「なんか悩みでもあるなら、自分が聞くぞ?貴音とは親友なんだから」
貴音「ありがとうございます。でも、心配いりませんよ?」
響「そうか?ならいいけど…貴音はおっちょこちょいなところあるから心配なんだ」
貴音「はて?それは響のほうでは?」
響「な、なんだとー!ひどいぞ!」
貴音「ふふっ」
……すみません。私は、親友に嘘をついてしまいました。でも、その悩みは、響、あなただからこそ言うことはできないのです。響、どうか許してください。
私は、響に恋をしてしまいました。親友としての友愛の気持ちが、いつ恋愛感情に変わったのかはわかりません。ですが、今響に対し感じている気持ちは紛れもなく恋のそれです。
思えば始めて響と会った時から、私は彼女に惹かれていたのかもしれません。961プロではクールに振舞っていた響が、初対面の私に対して少しだけ見せた柔らかな笑顔。961プロでは孤高ー悪く言えば孤独ーであった私が、響の裡に秘めた暖かさに惹かれていったのは、至極当然のことだったのでしょう。それが、765プロに移籍すると、まさに太陽のように笑顔を爆発させて…たぶんその時には、私はすっかり響のとりこだったのでしょうね。
しかし、どうしてこの恋心を響に打ち明けられるのでしょうか。響は私のことを、一番の親友だと思ってくれている……そこに私が水を差したりなどしたら、響は動揺してしまうでしょう。そして、私も恋心を打ち明けることによって、響との友人関係すら崩れてしまうのが怖くてたまらないのです……
七月上旬
あれから二月ほど経ち、765プロはさらに波に乗り始めました。連日仕事が相次ぎ、皆の休日がかぶることも少なくなり、結果としてたまの休日も一人で過ごす日が多くなります。
なにもやることがないとはいえ、ただ家で一日を過ごすのも忍びないと考えた私は、とりあえず外に出ることにしました。前に響と出かけた時とは打って変わって、初夏の湿った空気と、最盛期を迎えた太陽がジリジリと体を蝕んでいきます。全く、765の太陽はいつも心地よい日差しを浴びせてくれるというのに、本家様は容赦がないですね。
響と共にいれば、こんな日でも楽しく過ごせるでしょうに……
結局、早々と自然の力に負けた私は、たまらず近くのコンビニエンスストア内に避難。飲み物コーナーを物色していると、
「四条さん、今日はお休みですか?」
後ろから声をかけられました。振り向くとそこにいたのは如月千早です。
貴音「ええ。千早も今日は休日でしたっけ?」
千早「いえ、私は今仕事で事務所に向かう途中で……暑いのでとりあえず避難がてら飲み物でも買おうかと」
貴音「そうですか。私も同じようなものです」
千早「この季節になると、急に蒸し暑くなりますからね……」
貴音「全く。お天道様もうちの太陽たちを見習ってほしいものです」
千早「ふふっ、高槻さんや我那覇さんは、まさに765の太陽って感じですもんね」
貴音「ええ……最近は事務所も忙しなくなってきて、なかなか彼女らと顔をあわせることもできないですけれど……」
千早「忙しくなりすぎるのも、考えものですね……」
意図せず寂しい雰囲気になってしまったところで、千早はそろそろ行かなくちゃ、と言って会計を済ませに向かいました。私もペットボトルのお茶と軽めのお菓子を買い、会計に向かいます。千早との去り際、「もしどうしても会いたくなったのなら、多少強い言葉でも『今すぐ、会いたい』と誘ってみるのもいいかもしれませんね」との言葉。やはり、わかる人には見透かされるものですね……帰り際、空を見上げると、変わらず太陽はそこに輝いていました。
七月中旬
あれからさらに10日ほどが経ち、少し765プロにも余裕が出てきました。今日は久しぶりに響とともに街へと出ます。
響「こうやって貴音とお出かけするのも久しぶりだなー」
貴音「そうですね。ですが仕事が多いということは、それだけ私たちが求められているということですから。感謝しなくてはなりません」
響「……貴音はさすがだなー。自分なんか、なかなか765のみんなと会えなくて寂しかったのに」
貴音「ふふっ、響は寂しがり屋ですね」
響「!もう、茶化さないでよ!」
……また嘘をついてしまいました。実際は、響と会えないのはとても辛かったのに。響の前では、どうにも自分のことを強く、しっかりしているように見せたくなってしまいます。
響「ふぅ……それにしても、あっついなぁ」
貴音「この時期に散歩は失敗でしたね……」
響「……あーもう我慢できない!とりあえずどっか涼しいとこに避難しよ?」
貴音「そうですね……ん、ちょうどあそこに良い雰囲気の喫茶店がありますよ」
避難がてら休憩することに決めた私たちは、ちょうど目に入った喫茶店へ。落ち着いた雰囲気の店内に入ると、程よく効いた冷房に、甦る心地がしました。
響「ふぅ……いやー生き返るなー!」
貴音「四季折々の良さがあるのはわかっていますが、どうしてもこの時期は気が滅入ってしまいますね……」
響「こっちに上京してからの初めての夏はこんなに暑く感じなかったのになぁ……これが温暖化ってやつかー?」
貴音「そのときあまり暑さを感じなかったのは、961プロにいたからでは?」
響「あー確かにそうかも。黒井社長、自分のアイドルに対しては過保護ってレベルじゃないもんなー」
貴音「夏、自宅から出たら目の前に黒塗りの車が止まっていたときにはさすがに驚きました」
響「あったあった!黒井社長に聞いたら、『貴様らは我が事務所の大切な商品なんだ。熱中症などで倒れてもらっては困る!』とか言ってたけど、絶対照れ隠しだよね」
貴音「あの方も、異常な765プロへの敵対心がなければ優秀な方なのでしょうけどね……」
響「結局、自分たちもそれに嫌気がさして961プロやめちゃったわけだしね」
貴音「そして、路頭に迷った私たちを拾ってくれたのが他ならぬ765プロとは……皮肉なものです」
響「ま、移籍したおかげで765のみんなと出会えたんだし、自分はこれでよかったと思ってるぞ!あ、そういえば前テレビ局で黒井社長とすれ違ったときー
そう、本当に、961プロで響と出会ってからとても長い時間が流れているのですね。たぶん、これからも響との関係は変わることはなく、ずっと親友としてあり続けられるのでしょう。……逆を言えば、親友以外の関係にはなれないのでしょうね。
ーで、そのとき真が……って、聞いてるか貴音?」
貴音「おっと、すみません、少し考え事をしていました」
響「もう!せっかく一緒にいるんだから、考え事なんかしないで、ちゃんと自分を見てくれないと困るぞ!」
胸がドキッとします。響はたまに思わせぶりなことを言う。本人は無意識なのでしょうが……
響「もう、やっぱり最近の貴音はおかしいぞ。なんかぼーっとしてることが多いし、どっか上の空じゃん。プロデューサーも、最近貴音の様子が少し変だな、って言ってたし」
貴音「プロデューサーが……いえ、心配いりませんよ。少しこの暑さが祟って、気力が落ちているだけでしょう」
響「ふーん……ならいいけど。でも、無理しないでよ?貴音が熱中症で倒れたりなんかしたら、自分嫌だからな!」
貴音「ええ、私も響に迷惑をかけるのは嫌ですから。用心します」
……まさか、響のことを考えるあまり、プロデューサーにまでも心配されているとは。申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
響「絶対だぞ!あ、そういえば、プロデューサーといえば。前さ、動物の番組にでたんだけど、スタジオに登場した犬が急に暴れ出しちゃってさ。たぶん慣れない環境へのストレスだったんだろうけど、自分が咄嗟に前に出て宥めたんだ。そしたら後でプロデューサーが、『咄嗟に行動して動物を宥めたんだって?すごいな、番組のプロデューサーも響ちゃんがいて助かったって言ってたぞ』って言って褒めてくれたんだ!えへへ〜嬉しかったなぁ」
っ。
貴音「そうですか、それは、よかったですね」
響「うん!それで自分、プロデューサーのためにももっとアイドル頑張らなくちゃって!あ、もちろん一番はファンのためにだけどね!」
貴音「そうですか…っ、すいません、少しお手洗いに」
響「あ、うん」
……私は、プロデューサーのことを話す響の笑顔を、見ていることに耐えられませんでした。なぜなら、その笑顔はいつもの、春のような暖かい笑顔ではなかったから。
最近気づいたのですが、どうやら響は、プロデューサーに恋心を抱き始めているようです。気づいている人間は、おそらく響自身も含めて、存在しないでしょう。ですが、私にはわかってしまった。なぜなら、
プロデューサーのことを話す響の笑顔は
暖かい春の太陽などではなく
熱く情熱的な、真夏の太陽でしたから。
御手洗いから戻った私は、プロデューサーのことを楽しそうに話す響に、微妙な気持ちで相槌を打っていました。喫茶店を出て、響に夕飯はどうするか、と聞かれ、夕方から用事がある、と言って別れました。響は残念そうでしたが。
帰り際、ふと、街角のレコードショップのウインドウを見ると、そこには響の映像が映っていました。彼女は仕事でもつくり笑いなどすることはなく、いつも自然体で……
画面に映る響の笑顔はどうしようもなく今の私を揺さぶります。ああ、あの笑顔を私だけのものにできたらいいのに。画面に映る響の姿は、いままで私が共に過ごしてきた響となんら変わりがないというのに。どうしてでしょう、彼女がずっと遠くにいる気になるのは。
夕空を見上げると、太陽と、月がありました。太陽は今から落ちようというのに未だ燦々と光輝いているのに対して、これから上る月は太陽の光に負け、薄っすらと輪郭のみを残しています。ごぉぉっ、と音がして、太陽と月の間を、飛行機が白い白線を引きながら真っ二つに割っていくのを見て、私の恋心が、はっきりと否定された気がしました。
夏はまだまだ半ばです。
とりあえず今日はここまでです。
残りは明日書き終え次第投稿します。
書き終えたんで残り投下します。
7月下旬
美希「んーっ!やっと終わったの〜!」
響「今日の撮影、思ったより長かったなー」
本日は午前一杯、プロジェクト・フェアリーの新シングルのための写真撮影がありました。本来は1時間程度で終わる予定だったものの、カメラマンがかなり拘りの強い性格らしく、何度も撮り直しをして随分時間がかかってしまいました。
美希「じゃ、美希はこの後お姉ちゃんとお買い物に行くから、ここでお別れなの!またね、響、貴音!」
貴音「ええ、楽しんできてくださいね」
響「またなー!」
本日はこの後仕事がないため、スタジオで解散です。
貴音「響はこの後どうしますか?」
響「うーん、今日は自分の家族を健康診断に連れて行かなくちゃいけなくて……自分も直帰かな」
貴音「そうですか……では、また」
響「うん、じゃあ、また今度!」
響は元気に手を振りながら、帰路へと走っていきます。相も変わらぬ強い日差しと気温で風景が歪む中、去っていく響の姿だけははっきりと見えていました。
貴音「さて、これからどうしましょうか」
私はこれといって用事もないので、とりあえず家の方向へと歩いていくことにしました。大通りから裏道にそれて、何気なく歩いていると。
貴音「ここは……」
前に響と二人で来た公園にたどり着きました。なるほど、この公園は今日使ったスタジオからは近いところにあるのですね。
そして、前と同じように甘い香りが漂ってきます。
貴音「お久しぶりです」
店主「ん?あぁ、貴音ちゃんか。今日は響ちゃんは一緒じゃないのかい?」
貴音「ええ、仕事の帰りに、たまたまここを通ったものですから」
前回と同じく抹茶アイスを注文すると、その上には同じ大きさのストロベリーアイスが。問えば、「今日の貴音ちゃん、なんだか寂しそうに見えるからね。サービスだよ、とっときな」とのこと。さすがに申し訳ない気持ちになりながらも、実際寂しさを感じていた私は、店主のご好意に甘えることにしました。
ベンチに座り、受け取ったアイスを眺めます。思い返せば、前回私が頼んでいたのが抹茶、響が頼んでいたのがストロベリーでした。もしかして覚えていてくれたのでしょうか。
それにしても、響、プロデューサーに続いて、二回会っただけの店主にまで違和感を指摘されてしまうとは。私は割合感情を仕草に出さない人間だと思っていたのですが、実はわかりやすい人間だったのでしょうか。それとも、響への恋心を隠していることは、そこまで私の負担になっているのでしょうか。私と響を繋ぐ『友情』……それが、とてつもなく憎らしく感じられてしまいます。親友という関係があるせいで、私は響に思いを伝えることができない。それはさながら、友情という出口のない迷路に迷い込んでしまったかのよう。しかし、その迷路の壁を無理やり破ってまで、響に気持ちを打ち明ける勇気は、依然として私にはないのです……
ふっと思考の彼方から抜け出した私は、慌てて持っているアイスクリームを見ましたが、案の定、すでに大部分が溶けてしまっていました。抹茶の緑と、ストロベリーの赤が、混ざり合って決して美しいとは言えない色合いを作り出していて、それがまた私を寂しい気持ちにさせました。
溶けてしまったアイスを食べ終え、何をするでもなくベンチに座って呆けていると、いつの間にか日が暮れかかっていました。帰ろうとして腰を上げようとすると。
店主「ちょっと待ちな」
さっきまでアイスクリームを売っていたはずの店主が、いつのまにか目の前に立っていました。
貴音「……なんでしょうか」
店主「さっきアイスクリームを売りながら、ちょくちょくここを見てたんだが……どうも様子がおかしかったんでね。なんか悩んでるのかい?」
貴音「いえ、なんでもありませんよ」
店主「そうか……ならいいんだが。
……一つ言っておこう。いうまでもないことだが、そこまで悩んでるんだ、後悔しない道を選ぶんだね。そして……成功するにしろ失敗するにしろ、変わる景色を、恐れてはいけないよ」
店主「それじゃ、俺は店仕舞いしなくちゃいけないんで、これで」
貴音「……はい、お疲れ様でした」
そうして、私は自宅へ向かう道へと歩き出しました。
後悔しない道を選ぶ。私にとって、後悔しない道とはどれなのでしょうか。このまま響に思いを伝えないまま、響がプロデューサーか、または他の人間と恋仲になって、いずれは結婚していくのを、黙って祝福できるでしょうか。いや、できないでしょう。きっと、とてつもなく後悔するはずです。ですが、響に思いを伝えて、その結果今の関係が壊れてしまったら。そうなったら、私は前者よりもさらに激しく後悔することになる。ならば、私はこのまま恋心を押さえたまま、響と親友として過ごすのが正解なのでしょうか。
その時、店主が言っていたもう一つの言葉が頭をよぎりました。
変わる景色を恐れてはいけない。その言葉に、私は一つの結論が出た気がしました。
そもそも、性別の壁を越えた恋に、危険が起こり得ないわけがなかったのです。なんの危険もないまま、響に恋心を伝えようと思っていた私が間違っていた。
そして、どちらの選択を選んでも後悔するのならば……せめて、できることを全てやった上で後悔したい。
そう思った瞬間、私は携帯電話で響の電話番号を呼び出していました。唐突な電話に少し戸惑いながらも、用事はなにか尋ねてくる響に伝える誘い文句は、いつか千早が言っていたあの言葉。
今すぐに、会いたいです。
待ち合わせ場所に指定したのは、結局先ほど出たはずの公園でした。例のベンチに座って待っていると、響が走りながらこっちに向かってくるのが見えました。
響「はぁっ、はあっ……どうしたんだ、貴音。急に、会いたいなんてっ……」
貴音「……響」
響の姿を見た瞬間、いてもたってもいられなくなってしまって。私は、恥も外聞もなく響の胸に飛び込みました。
響「うわっ、貴音!ほんとどうしたんだ!」
何も言わず響に抱きついていると、響は黙って私の頭を撫でてくれました。とても、心地よかったです。
貴音「……響」
響「ん、どうしたの?」
貴音「私は、ずっと響に嘘をついていました」
響「……」
貴音「実は、響に、悩みがないか、と聞かれたよりずっと前から。ある悩み事を抱えていたのです」
響「……そっか」
貴音「でも、許してください、響。私の悩みは、他ならぬ響だからこそ、打ち明けることができなかったのです」
響「……どういうこと?」
貴音「私は……」
響「うん」
貴音「……私は……前からずっと、響のことが好きだったのです」
響「……うん、自分も前からずっと貴音のことが好きだぞ」
貴音「っ……そうではなくて……私は……私は……!友人としてではなく……私は、響に恋をしていたのです……!」
響「……えっ」
貴音「私も最初は、響のことを仲のいい友人だと、そう考えていました……!ですが、いつからか、貴方の、貴方のその笑顔にどうしようもなく心を奪われるようになってしまって……!ずっと、ずっと我慢していました、この恋心は打ち明けてはならないものなのだと、誰にも知られぬまま、私の心の内だけにしまっておくのだと……!ですが、どうしても、どうしてもこの気持ちを打ち明けたかった……!……申し訳ありません」
響「……」
貴音「私が伝えたかったのは、これだけです。ご迷惑をかけて、すみませんでした」
そうして、響の胸から離れ、響に背を向け。寂しくもありながら、どこか満足した気持ちで立ち去りー
「待って」
……
「自分の気持ちだけ勝手に話しといて、こっちの言葉は何も聞かずに逃げるなんて、ずるいぞ」
……
「……こっち、向いて?」
振り向くと。
そこには、光り煌めく太陽が、微笑んでいました。
fin
これで終わりです。お目汚し失礼いたしました。
投稿してから気づいたのですが、既に真がメインの同名のアイマスssがあるんですね。あちらと同じく、このssもスキマスイッチの曲をベースにさせていただいています。最後の展開は曲の歌詞とは変えましたが……
では、HTML化依頼出してきます。
>>13の千早の台詞は避難じゃなく避暑の方がよかったかと
>>43
そこは完全に自分の語彙力不足ですね……
自分も文章を読んでいて言葉のニュアンスに違和感を感じるとどうしても気になって集中できないタチなので、言葉遣いには気をつけているつもりなのですが、まだまだ国語力は足りません……
見返してみるとそれ以外にも「選択を選ぶ」みたいなダメな表現がありますね。クライマックス付近でこういうミスしちゃうのはよくないなぁ……次書くときは気をつけます。
このSSまとめへのコメント
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