藤原肇「十年後も生きたる桜」 (19)
モバマスss
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居酒屋
千川ちひろ「いやーお疲れ様でした!Pさんが無事に戻って来られて何よりです」
モバP「五年経ってもあんまり変わらないですね。ちひろさんは」
ちひろ「うふ。アンチエイジングの賜物ですね」
モバP「……はぁ」
ちひろ「なんですか?文句があるならもう2、3年向こうに居させてでも良かったんですよ?」
モバP「なんでもないですよ。ちひ……いえ、千川社長」
ちひろ「分かれば良いんですよ。分かれば」
藤居朋「ねぇ、私達はあまり詳しいこと聞いてなかったんだけど、Pは何しにどこに行ってたのよ」
モバP「え?ちひろさん説明してなかったんですか?」
ちひろ「忙しかったですし、何より担当じゃない子なら別に気にしないかなって」
モバP「まぁ、うちのプロダクションはアイドルもプロデューサーの数も半端じゃないからな。一人くらい居なくなっても分からないか」
朋「でも、色々噂が飛び交っていたわよ。首になって辞めたとか、世界レベルになりに旅立ったとか」
モバP「肇に聞けば良かっただろ。あいつにはちゃんと説明したぞ」
朋「辞めたとかだったら恐くて聞きにくいじゃないの。それに肇ちゃんも忙しそうだったし……」
モバP「肇がか?そんな話……」
朋「Pに心配かけないようにでしょう?」
ちひろ「一応、マネージャーという形で人を付けようとしたんですけど断られてしまって」
朋「Pが居なくなったのって確か、」
モバP「5年前だ、肇が21歳で朋が……」
朋「24歳の時ね。ともかく皆よりもお姉さんになったせいでしっかりしなきゃって思ったんでしょうね」
モバP「そうだったのか」
朋「それで?何しに出掛けてたのよ」
モバP「あぁ、それはLIVEツアーってあるだろ?」
朋「あのぶっ飛んだ企画の事ね?」
ちひろ「その公演の規模拡大の為にPさんには世界を股にかけてもらいました」
モバP「まぁ、だからあながち世界レベルっていうのも間違いではないかな」ハハハ
ちひろ「公演を開く度に人を派遣するより一人が各所を回った方がコスト的に安上がりなんです」
モバP「お陰で俺は5年間もせかせかと色んな国を回される羽目に……」
ちひろ「良いじゃないですか。その功績を認めてPさんにはそれなりの役職を付けてあげますから」
モバP「いいっすよそんな……俺はプロデューサーのままで良いですって」
ちひろ「それでしたら、もしPさんが何かやらかしても社長権限で揉み消してあげますよ」
ちひろ「貸し1です」
モバP「それは嬉しいですけど、肇ももう大人ですし仕事でミスなんてそうそう……」
ちひろ「まぁ、そこはPさん次第ってことで」
朋「ねぇ、それで肇ちゃんはここには呼んでないの?」
ちひろ「確か、肇ちゃんは今日遅くまで仕事だった筈です」
モバP「流石に仕事があるのは可哀相だろ。明日でも明後日でもいつでも会える訳だし」
朋「ふぅん。ちょっと外の空気吸って来るわね」
モバP「気をつけてな」
朋「はいはい」ガタッ
ちひろ「そういえば、Pさん向こうにいた間も肇ちゃんと連絡取っていましたか?」
モバP「まぁ、それなりに。ですかね時差もありますしなにより各国々を転々としてましたからそんなには」
ちひろ「そうでしたか」
朋「戻ったわよ」
モバP「お帰り」
朋「Pに一つ頼みがあるの。この荷物を事務所に居る文香ちゃんに届けて欲しいのよ」
モバP「荷物ってこれか」
朋「お花見セットよ! 旬でしょ?」
モバP「分かったよ。じゃあ行ってきますね」
ちひろ「はーい行ってらっしゃい」フリフリ
モバP「飲みすぎちゃダメですよ」
朋「あたしが居るわ。任せなさい」
モバP「よろしくな」
事務所
モバP「ここもあまり変わらないな……」
ガチャ
鷺沢文香「お久しぶりです。お待ちしておりました」
モバP「久しぶりだな。ほれ、朋に頼まれていた物だ」
文香「……それは、Pさんに差し上げます。どうかお使いください」
モバP「ええ!? って言ったってお花見セットなんて……」
文香「有備無患です……これもどうぞ」
モバP「ぐい呑みか……分かったよ。貰っていくよ」
文香「分かってもらえて何よりです」
モバP「文香もしばらく見ない間に押しが強くなったな」
文香「それは……自分に自信が持てたということでしょうか?」
モバP「言い方を変えればな」
文香「なら、肇さんのお陰ですね」
モバP「肇がか……?」
文香「一緒に活動していく中でシンパシーを受けた部分がありますから」
モバP「それは良かった。今度肇に会ったときに褒めておくよ」
文香「……彼女はまだ釣り糸を垂らしています」
モバP「……?」
文香「いえ、なんでもないです」
モバP「そうか。しかし、花見か……そんな時間があれば良いんだけどな」
文香「清光素色……雲の白と月の灯り。今宵は桜がいつも以上に映えます」
モバP「桜か、確かに見るのは久しぶりだけど」
文香「○○公園で散歩するのは如何でしょうか? 丁度、見頃を迎えた頃で」
モバP「だな、ありがとう。少し酔い醒ましに歩いて来るとするよ」
文香「是非、満月が1番見やすい位置に来ていますのでなるべく真っ直ぐ向かっていく方が宜しいかと」
モバP「おう、肇とまたユニットを組む機会があればその時はよろしくな」
ガチャ
バタン
文香「……」
文香「ふぅ……月下老も楽ではありませんね……」
モバP(○○公園……ここは確か)
「あれ……? Pさん?」
モバP「肇か……? どうしてこんな所に」
藤原肇「私は、撮影場所が近くて……仕事終わりに朋さんにここに来るように言われまして」
モバP「あぁ、そうか、そういうことか……時間は大丈夫なのか?」
肇「明日はオフですし……それにもう子供じゃないんですよ」
モバP「そうだったな。ほら、レジャーシートもあるから」
肇「準備が良いんですね」
モバP「まぁな」バサッ
肇「それではお邪魔します」
モバP「どうぞどうぞ」
肇「……酒瓶もありますね」
モバP「乾杯でもしようか」
肇「そうですね……あら、このぐい呑み」
モバP「文香に持って行くように言われたんだが、自分で作った奴か?」
肇「はい。随分と懐かしいものを」
モバP「二つともか?」
肇「一つは私が作った奴ですね。もう一つは……ふふっ」
モバP「どうした?」
肇「底に名前が掘ってあります。ほら」
モバP「これは……そうだったな。肇の実家で一緒に作った……」
肇「懐かしいですね。見てください、月の光と反射してとても綺麗ですよ」
モバP「青備前だっけか、肇のお祖父さんが驚いてたな」
肇「ふふっ。なかなか意図して出来るものではありませんでしたから」
モバP「じゃあ、ほら」スッ
肇「はい」スッ
「「乾杯」」
モバP「その……なんだ、久しぶりだな」
肇「はい。今更ですが、お久しぶりです」
モバP「肇の活躍は向こうでも見てたよ」
肇「ありがとうございます」
モバP「一人で頑張ってたんだな」
肇「事務所の皆さんが居ましたから。一人って訳では……」
肇「ですが、そうですね。この5年間はPさんならどうするだろうと考えながら行動していました」
モバP「俺か?」
肇「はい、遠くに居てもPさんの声が、想いが私を守ってくれていました。だから一人ではありません」
モバP「大袈裟だって」
肇「大袈裟ではありませんよ。現に私は、こうしてまたあなたと手を取り合うことができました」
モバP「手を……?」
肇「はい。手を」スッ
モバP「手、冷えてるな」ギュッ
肇「生まれつきですよ。手、暖かいですね」
モバP「生まれつきだよ」
肇「お酒、おかわりは?」
モバP「頂くよ。肇は?」
肇「頂きます。あ、ふふっ。言い忘れていました。お帰りなさい」
モバP「ああ、ただいま」
肇「帰ってきてどうでしたか?」
モバP「あれだな、やっぱり日本食が恋しくなるな」
肇「お米ですか?」
モバP「それと納豆だな」
肇「なら、明日の朝ごはんは決まりですね」
モバP「時間があればな」
肇「もう、ダメですよちゃんと食べないと」
モバP「肇の方こそちゃんと食べてたか?」
肇「おじいちゃんみたいなこと言わないでください。心配しなくてもちゃんと食べてましたよ」
モバP「しっかり者だな」
肇「もう26歳ですから」
モバP「出会って10年か。そういえばここの公園に来たことは覚えてるか?」
肇「あの日のライブも今日の様に立派な満月でしたね」
モバP「桜も肇も綺麗だったな」
肇「綺麗『だった』ですか?」
モバP「いや、今も綺麗だよ」
肇「ふふっ。顔が真っ赤ですよ」
モバP「酔ってるんだ。しょうがない」
肇「そうですね。しょうがない」
モバP「……肇はお酒に強いな」
肇「どうでしょう。楓さん達に比べたらまだまだ」
モバP「あの人達と比べちゃうのはどうかと」
肇「そうでしょうか、でも私もちゃんと酔っていますよ。実はもうフラフラです」
モバP「大丈夫か?」
肇「立ち上がりたいので、少し支えてもらっても良いですか?」スッ
モバP「ああ、それは構わないが」
肇「……初めてPさんに会ってから今まで色んな私をイメージしながら歌って踊って……それはとても楽しかったです」
肇「今、実際にPさんの温もりを感じてとても幸せなんだと思いました」
肇「満月も数日経てば欠けてしまい、この桜もいつか散ってしまいます。それでも私は、あなたの隣でずっと咲き続けて居たい。このイメージは、想いはずっと消えないまま私の中に残っていました」
肇「だから……えっと、その、ダメですね。酔っ払っちゃってるみたいで……うまく言葉に……」
ギュッ
肇「……!? Pさん?」
モバP「急にスマン……でも、寂しいと思わせてしまった分はしっかり埋め合わせするから」
肇「5年……5年待ちました」
モバP「すまない! だから、プロデューサーとしてじゃなくて一人の男として側に居させて欲しい! これからもずっと」
肇「……嬉しいです。あなたの本気が伝わってきて……! 私はきっとこの瞬間をいつまでも夢見ていてたような気がします」
モバP「夢を見させて貰ったのは俺の方だよ。ありがとう」
肇「……ううん、私の方こそ! あの! そのまま私を見つめていて下さい」
肇「少しお酒臭いかもしれません。それに、全然ロマンチックじゃないかもしれません」
肇「でも、今度は私からあなたに伝えます……私の、本気です」
醸す空気は老夫婦、二人の距離感は中高生。
短いですが終わります。
過去作にもし興味があれば
藤原肇「九天の輝きと風と声」
藤原肇「九天の輝きと風と声」 - SSまとめ速報
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