二宮飛鳥「あの頃のボクは痛いヤツだった」 (29)

二宮飛鳥(16)「あの頃のボクは痛いヤツだった」

飛鳥「なにせ自己紹介からこれだ。『ボクはアスカ。二宮飛鳥。ボクはキミのことを知らないけど、キミはボクを知っているのかい?』」

飛鳥「なんだこれは」

P「まあ痛いな」

飛鳥「そうだろう。今のボクならもっと違った挨拶をする」

P「へえ。どんな感じだ」

飛鳥「はじめまして、二宮飛鳥です」

P「ほう」

飛鳥「Though I don’t “know” you, do you “know” me?」

P「英訳しても痛いことにかわりはないぞ」

飛鳥「独訳は現在勉強中だ」

P「国際派なのは結構だが根本的な部分が変わってない」

P「knowを強調してるのが最高にcoolだな」

飛鳥「フッ、よさないかP」

P「やっぱり変わってないじゃないか」


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二宮飛鳥(18)「あの頃のボクは痛いヤツだった」

飛鳥「複雑な己の心の内を、難解な言葉を並べて表現した気になっていたからね」

結城晴(16)「ふーん」


栗原ネネ(19)「それでですね。おかげさまで、妹も最近はすっかり元気になって……今は私のライブは全部見に行くんだーなんて張り切っちゃって」

的場梨沙(16)「よかったわね、病気治って。ついでにアタシのライブも見に来るよう言っといてよ」

堀裕子(20)「私もサイキックおまじないしたかいがありました! ……それにしても、ここのみんなでオーストラリアに行ったのも4年前なんですねー」

飛鳥「季節は移ろい、時は無情に過ぎ去っていく。そこに畏敬や感動を覚える間もなく、全てが変わりゆく」

飛鳥「けれどもその中で、こうして今もボクらは同じ空間にいる」

飛鳥「それもまた、ひとつの奇跡の軌跡――なのかもしれないね」

晴「……あんなこと言った割に、あんまり言葉の使い方変わってなくないか?」

裕子「なるほど! つまり全部まとめてサイキックパワーってことですね!」

飛鳥「裕子は昔と変わらないな。何もかもが変わりゆく中、変わらないモノがひとつくらいあってもいいとボクは思う」

梨沙「心配しなくても、アンタも昔と変わってないわよ」

ネネ「ふふっ……久しぶりにみんなで集まったから、なんだか懐かしくなっちゃいました」

晴「まあ、オレ達も言うほど変わってないっていうか」

梨沙「何言ってんの。アタシと晴は背も伸びてナイスバディーになったじゃない」

梨沙「その点飛鳥は胸元がほとんどなーんにも」

飛鳥「そうだ梨沙。キミがオーストラリアの空の下でパパに会えなくて泣き叫んだ話のことだが」

梨沙「わーっ! わーっ!! やめなさいその話!」

晴「……変わってねーな。やっぱ」

二宮飛鳥(20)「あの頃のボクは痛いヤツだった」

飛鳥「高いところが大好きで、冬だろうが雪が降っていようがビルの屋上に行くのが趣味だった」

飛鳥「アイドルは身体が資本だというのに、まったく子どもだったよ」

P「そうか」

P「ところで、今も休憩時間にフラっといなくなる時があるみたいだけど」

飛鳥「あぁ、あれは隣のビルに行っているんだ」

P「?」

飛鳥「毛皮のコート2枚とホットココアと手袋とホッカイロを完備して、景色を満喫するのさ」

飛鳥「これで風邪をひくリスクもなく、屋上の空気を味わえる」

P「高いところに行く癖は変わってないのな」

飛鳥「防寒に気を払っている部分は成長したと思わないかい」

P「根本的なところが変わってないと思う」

二宮飛鳥(22)「あの頃のボクは痛いヤツだった」

飛鳥「苦いものが苦手なくせに、たまにむきになってコーヒーに挑戦していた」

飛鳥「そのたび砂糖とミルクを大量に投入して、コーヒーと呼べない代物を飲む羽目になったものさ」

神崎蘭子(22)「でも今はコーヒー飲めるんだよね?」

飛鳥「あぁ、常識的な砂糖の量でね。どうやら舌がオトナになったらしい」ゴクゴク

蘭子「私達がデビューしてから8年経つもんね。いろいろ成長したってことだね」

飛鳥「そうだね。……ところで蘭子」

蘭子「うん?」

飛鳥「キミはコーヒーに何も入れていないようだけど」

蘭子「あー、うん。私朝弱いから、しゃきっと目覚めるためにブラック飲むようになって……今はその味に慣れちゃったの」

飛鳥「そ、そうか……そうか。キミはブラックなのか、そうか」

森久保乃々(22)「(めっちゃくちゃ動揺しているように見えるんですけど……もりくぼはあえて触れません。めんどうなので)」

飛鳥「………」チラッ

乃々「………」

飛鳥「………」チラッチラッ

乃々「………」

乃々「……わ、わたしはお砂糖3つ入れる派です」

飛鳥「……そうか。奇遇だな、ボクもそのくらいさ」フッ

乃々「(同レベルの仲間が見つかって安心している顔ですね……)」

二宮飛鳥(24)「あの頃のボクは痛いヤツだった」

飛鳥「未知のセカイを渇望し、何かに抵抗し続ける日々を送っていた」

飛鳥「それは間違いなく、思春期特有の背伸び。天へ手を伸ばそうとするアレさ」

飛鳥「けれど同時に、そういった感情がボクをアイドルのセカイへ没頭させた。なぜならそこが新たな彩りに満ちた空間だったから」

飛鳥「だから……その渇望が色あせた瞬間が、ボクがこの道を降りる時になるだろうね」

P「……そうか」

P「ところで飛鳥。次のライブは空中ギミックを取り入れたパフォーマンスを検討中なんだが」

飛鳥「聞こう」ズイッ

P「その目の輝きが消えないうちは、引退もまだまだ先になりそうだな」ハハッ



二宮飛鳥(26)「あの頃のボクは痛いヤツだった」



二宮飛鳥(28)「あの頃のボクは痛いヤツだった」


………
……


「ねえねえ」

飛鳥「ん?」

「どうしてうちは、毎年ここにお花見にくるの?」

飛鳥「いやだったかい?」

「ううん、いやじゃないよ。ここの桜、とってもきれいだもん!」

飛鳥「そうか。それはよかった」

飛鳥「……昔、ここでパパと約束したんだ。また一緒に春を巡ろう、と」

飛鳥「それ以来、ボクらは毎年ここの桜を拝みに来ているというワケさ。そしてそのたびに、また同じ約束を結び直すんだ」

「へえ、そうなんだ!」

P「おまたせ、飲み物買ってきたぞ」

「あたしコーヒー牛乳がいい!」

P「ああ、もちろんあるぞ。ほら」

「ありがとう、パパ!」

P「はい。お母さんにはブラックコーヒー」

飛鳥「ありがとう。お礼に今月のパパのおこづかいは3割カットしておくよ」

P「冗談です。ほんとは普通のお茶を買ってきました」

飛鳥「まったく」

「わー、めおとまんざいだー」

飛鳥「……どこでそんな言葉を覚えてきたんだい、マイドーター」

「梨沙おねーさんからです、マイマザー!」

飛鳥「そうか。今度電話して一言言っておこう」

P「……なあ。そのマイドーターとマイマザーって呼び方、いつまで続けるんだ?」

飛鳥「何か問題でも?」

P「いや、問題はないけどさ。いくらママって呼ばれるのが気恥ずかしいからって」

「そうなの、マイマザー?」

飛鳥「……ボクはただ、幼い頃から娘には英語に触れてもらおうと思っただけだ」

P「はいはい。相変わらず国際派だな、お母さんは」

「あいかわらず?」

飛鳥「あぁ、それでいいよ」

飛鳥「あの頃のボクは痛いヤツだった」

「いまもでしょー?」

飛鳥「……はは、手厳しいね」

飛鳥「訂正しよう……あの頃のボクも、痛いヤツだった」

P「でも、それでいいんだろう?」

飛鳥「あぁ」

飛鳥「何もかもが変わりゆく中、変わらないモノがあってもいい。ボクはそう思うから」

「あたしねー、大きくなったらアイドルになるの!」

P「いつもお母さんのアイドル時代の映像、一生懸命見てるもんな」

「うん! マイマザー、かわいくてかっこいい!」

飛鳥「娘にそんなこと言われる日が来るとはね……キミと出会った時は、想像もしなかった光景だ」

P「はは、だろうな」

「アイドルになったらね、ステージでこう言うの!」

P「なんて?」

「やみにのまれよ!」

飛鳥「」ガーン

P「こらこら、そこはお母さんの真似をしてあげなさい」

「?」

飛鳥「いいんだ。現役時代に印象的な言葉を残さなかったボクの責任だ……」

飛鳥「しかし、子どもの純粋な言葉の刃は深く突き刺さるものだね……」

P「ほら、お母さんすねちゃったぞ。こうなったら長いんだから」

「マイマザー、すねたらながーい」

飛鳥「ふふふ……」ドンヨリ

P「ああ、もう……」



P「やっぱりなんにも変わってないなあ」ハハハ


おしまい

おまけ


「マイマザーの卵焼きだいすきー!」

飛鳥「………」

「からあげもすきー!」

飛鳥「………」

飛鳥「そ、そうかい?」ニヘラ


P「訂正。昔よりデレやすくなった」

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
飛鳥Pとして一年の締めは飛鳥のSSで終わらせたかった

今年は春のSRから音沙汰なし(アニメにはチラっといたけど)でやきもきしていましたが、最後の最後にどでかい花火を打ち上げてくれたので大満足です
来年は多分CD買うところから始まるのでしょう

蘭子の中二が途中で治ることがあっても飛鳥の中二は永遠に続きそう。個人的にはそんな気がします

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