勇者「淫魔の国で過ごす日々」 (245)
このスレは
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
の後日談です。
時間軸としては
勇者「淫魔の国は白く染まった」
勇者「淫魔の国は白く染まった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1419/14194/1419450277.html)
の数日後で、季節は冬です。
短編ひとつめ:サキュバスAと
短編ふたつめ:サキュバスBと
短編みっつめ:サキュバスCと
の三つを予定しています。
それでは、始めます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450537993
「――――は、今――――に浮かんでいる――――」
「吸ってー……吐いてー……ほら……体の力が、もっと抜ける……気持ちいいね……」
「お胸の空気、全部吐き出して……ゆっくりで大丈夫。ゆっくり……」
――――――――
「……3」
「……2」
「……1」
「……ゼ、ロ」
勇者「っ……うぁっ!?」
腰がグンと持ちあがるような強烈な浮遊感と、
下腹部から硬い熱が駆け抜けるような絶頂感とで眼が覚めた。
下着の中をぬめる温感が満たす不快な感触があり、
耳の奥が妙にこそばゆく、強烈な起き方をして心臓も早く打っているというのに、頭だけがぼうっとしていた。
状況の把握すらできないまま、起きて周囲を見回す。
室内を見渡し、その後にベッドの左側を見れば、サキュバスAが着衣のまま、にやにやと笑って添い寝をしていた。
サキュバスA「どうも、おはようございます、陛下?」
勇者「……お前、何かしたのか?」
サキュバスA「ええ。少々、夢精などをさせてみました」
勇者「何で!?」
サキュバスA「もはや愛撫も性技も不要、魔力すら不要。厳選された言葉と計算された韻律の囁き、
唇の擦れ合う音だけで十分。これぞサキュバスの奥義、『催眠搾精』」
勇者「変な技を使うな」
サキュバスA「さすがに爆発はさせられませんが、暴発ならさせてもいいか……と」
勇者「いや、何が?」
サキュバスA「ちなみに私、夢精誘導コンテストで五度ほど優勝しております。前立腺部門では二度ほど。お試しに?」
勇者「……とりあえず下着の替えをくれ」
サキュバスA「ちなみにこの技の欠点はですね、口に全く入らないものですから本当にただの悪ふざけにしか使えず……」
勇者「下着をよこせっつってんだろ!」
サキュバスA「大胆ですのね、陛下。分かりました、お望みとあらば……少々お待ちを」
勇者「お前のじゃない、脱ぐな。もういい、自分で探す」
朝からの疲れるやり取りに見切りをつけ、下着からもはみ出すような、
堪え難いぬちゃぬちゃとした感触を覚えながら下着を探す。
意外にも、替えの下着はすぐ脇のエンドテーブルに置いてあった。
拭うための人肌ほどの湯も汲んであり、振り返ると、彼女がまたも薄く微笑んだ。
察するに、サキュバスAは……起きてすぐの悪ふざけに付き合わせるつもりで、何もかもきちんと仕込んでいたのだ。
勇者「……せめて朝ぐらいは静かに起こしてくれ。頼むよ」
サキュバスA「検討しましょう」
――――――
昨日、堕女神は所用のために城を離れた。
どうしても南方の執政官と、人間界への渡航について書類を交わさなければならなくなったという。
昨今までの自粛したムードから一点、その南の街に住む、特に精力に飢えた人外種の淫魔達からの声が無視できなくなった。
獣人型、半植物型、そういった荒っぽい者達がどうしても人類の精気にありつきたいと言って聞かないという。
中には「国王のをよこせ」と言う声まで上がり、過熱を抑えるため、恐らくは人間界への渡航を限定的に許可する事になる。
その為の書状を作成するため、堕女神は南の街へと向かった。
ともあれ、そういった事情で――――数日は、この城に堕女神はいない。
そしてその間の代役は、サキュバスAが務める事になった……と聞いた。
朝食のメニューは、生姜を使ったブレッドを中心にした、軽めのものだった。
堕女神が供するものとは違っていても、そのどれもが美味。
香辛料を効かせたスープは、特に冬の朝の身体を温めてくれるようだ。
サキュバスA「お口に合いまして? 陛下」
勇者「ああ、美味かった。……で、今日は何かする事あるのか?」
サキュバスA「彼女から伝言を預かっておりまして」
勇者「何て?」
サキュバスA「『節度ある生活を送らせよ』と」
勇者「……淫魔の国で言う事か?」
サキュバスA「陛下が抜けだして下町の酒場に繰り出したのをまだ根に持っていらっしゃるのね……」
ほんの少し前、インキュバスが城へ迷い込む騒動の前になる。
消灯後にどうしても小腹が空いて、寝室の窓から十メートル近くを飛び降りて城下町の酒場へ出かけていった。
そこでエールとホットワイン、肉料理に舌鼓を打って夜が明ける前に帰ったのだが、
うっかりと口を滑らせて堕女神の知るところとなってしまった。
その時は謝って済んだと考えたが……今になり、効いてきてしまった。
勇者「……だめ?」
サキュバスA「陛下に何かあれば一大事です。私としても陛下一人での行動は看過できませんわ。ですので」
そこで彼女は言葉を切り、したり顔で指をぴんと立てて名案でも連ねるかのように。
サキュバスA「今後は誰かとご一緒しましょう。私でもサキュバスBでも堕女神様でも。
何ならCを呼んでもよし。……まぁ、陛下に狼藉を働く者などいないでしょうが」
勇者「そう来たか……」
サキュバスA「恐らくですが、堕女神様もどちらかと言えば、『一緒に行きたかった』という方の意味でしょうし。うん、そうしましょう」
勇者「……分かった。で、今日は」
サキュバスA「特にする事もありませんわねー。本日は終日雪の模様ですから、外出もおすすめできません」
食後の茶を一口啜り込み、食堂の窓の外へ視線を移す。
白く曇った窓硝子、それを隔ててなお影が視認できるほどの大粒の雪が舞い落ちている。
それでも、出かけるのは別に億劫ではない。
火花の雨降る機械都市、眼下に溶岩が流れる火山の洞窟、凍てつく風の吹き荒れる氷点下の霊峰、天地を見失うほど荒れた魔の海。
かつて旅したそれらの場所に比べれば、まるで晴天と言っても差し支えはないほどだ。
勇者「……久々に、指すか?」
そう提案すると、サキュバスAは唇をかすかに歪めて笑った。
この世界に来た時に一度教わり、それから暇を見つけてもう二局。
彼女と「淫魔のチェス」を指したのは、計三回。
勇者自身も特に腕に覚えは無いが、彼女もそれほど長じてはいない。
こちらに華を持たせようとしている様子もなく、意外にも彼女とは互角だ。
サキュバスA「ええ。……せっかくですし、一局。それでは……しばし休まれた後、書斎にて」
勇者「分かった。適当に城をぶらついてから向かうよ」
サキュバスA「はい。……時に、陛下。日が沈んでからはいかがいたします?」
勇者「いかが、って何が?」
サキュバスA「お風呂『で』なさいますか? 食事しながら? それとも、私?」
勇者「選択肢が無いぞ!」
サキュバスA「シチュエーションは違いますわよ。ここでセーブしておくことを強く勧めます」
勇者「……まぁ、後で」
しばし、朝食を済ませて城内を巡る。
思えば、これは初めての事だ。
かつての七日に始まって、季節の移ろいが人間界と同じとすれば、春頃にこの国へ来た。
そこから夏、秋と過ぎて冬の今、城にいる時はこれまで堕女神がいた。
しばらくの間、堕女神は傍にいない。
寂しさより、彼女の無事を願う心より、その意外さが今は強い。
彼女のいない間、この城ではどういう生活が送られるのか。
ちょっとした非日常の高揚感が、確かに湧きたっていたのだ。
朝食が腹に落ち着いた頃、書斎へとたどり着いた。
黒く艶やかな木製の扉を開くと、そこはやや小さく作られた部屋で、寝室より僅かに狭い。
城の内側にある、淫魔の国の全ての発行物と記録が収められた広大な書庫とは違い、
この書斎にはごく最近の書物と記録、報告書類が収められている。
ここに収められているのは、せいぜいが三年前までのものだ。
何かしようとするたびに大書庫へ出入りする手間を省くための、いわば暫定的な場でもある。
チェスを指すのならサロンも悪くは無いが、この書斎も捨てがたいものがある。
埃っぽくも落ち着いた静謐な空気、真新しい紙とインクの匂い、採光用の窓から差す、暖かな光。
思考を巡らせ、競わせるにはうってつけだ。
サキュバスA「……お待ちしておりましたわ、陛下」
書斎の中央にある大机には、すでにサキュバスAがついていた。
机の上には、駒無しのゲーム盤がある。
仕草で促されるままに対面の席につき、互いに盤面に手をかざし、唱える。
勇者「……白」
サキュバスA「黒。淫魔の進軍」
それだけで、互いの陣地二列をそれぞれ光と影とが覆い、晴れた頃には「駒」が出現していた。
勇者が選んだ白の駒は、かつてのものとはかすかに違っていた。
前列には盾と剣とを携えた女性の歩兵。
後列両端には、従来のルークの姿を残した見張り塔と、その上に陣取る、豆のような小ささの女弓兵、恐らくエルフ。
その内側のナイトは、前回と同じく女騎士だった。
続いてビショップはシスター、クイーンは威厳ある女王、キングは整った顔立ちの男装の麗人と、これも同じ。
勇者「……前のと違うな?」
サキュバスA「ええ。この中央ではなく、西方で用いられているタイプです。私もこれを使うのは久々で、新鮮ですわね」
勇者「なるほど。……で、そっちのは……」
黒の駒、その前列はすべて山賊。
山猿のような饐えた薄汚さとむき出しの野蛮さをそれぞれに宿し、
手には片手斧、棍棒、投げ縄と、こちらの陣に比べて知能が数段落ちるとしか思えない武装を携えていた。
黒の後列端は緑色をした半透明の液状生物、スライム。
内側のナイトは半人半馬の亡霊の騎士で、その身体の周りを人魂が舞い踊り、ひょろりと長い亡霊の腕が出現しては、蠢き、消える。
ビショップは人間の司祭の姿をしているが、山賊たちとはまた別種の嫌な空気をまとい、好色そのものの舌なめずりが止まない。
クイーンはサキュバスの姿そのままなのは、このチェスが淫魔の戯れである事として最低限のルールなのかもしれない。
そして、「キング」は――――
勇者「……俺、か」
黒の「王」は、勇者自身の姿をしていた。
だがその佇まいは、野蛮さや邪悪さはまとっていない。
いつもの服装に外套を引っ掛けて剣を帯びた、ありのままの姿で。
サキュバスA「ええ。……私の『王』は、あなたの姿以外は考えられませんわ?」
勇者「思えば、初めての一局。お前が黒だったら、何の姿になっていたんだろうな」
このチェスでは、黒のキングは、指す者が心に描く「王」の姿を映す。
勇者が初めて差した時には黒を選んでいたから、「勇者」自身の姿になった。
あの時は、クイーンを……サキュバスを取られたく、なかった。
淫魔の国の王として。
彼女らとともに歩むことを誓った者として、絶対に。
サキュバスを守り王を差し出す一手を指すと、彼女は微笑み、負けを認めて自軍の王を盤外へつまみ出したのだ。
次の二局目ではサキュバスAが黒を選び、その時には今と同じく、勇者の姿になっていた。
サキュバスA「さて。……もしかするとあの時でも、既に貴方を認めていたやも。今となっては私にも……。ふふっ」
勇者「相変わらず掴めないな、お前は」
サキュバスA「影、猫、闇夜の蝙蝠、淫靡な嘘。サキュバスはそういった概念と切り離せないものでしてよ?」
勇者「その割には、チェスの腕は……単純な俺と互角じゃないか」
サキュバスA「捻くれた性質の者は、案外に真っ直ぐな殿方に弱いものですわ。これもまた通説でしてよ」
勇者「……俺が淫魔の国でやれているのも、そんな理由なのかな」
サキュバスA「ええ、恐らく。……ねぇ、陛下。面白い事を教えて差し上げましょうか?」
勇者「?」
話している間にも、盤面は交互に進んでいく。
まだどちらの駒も減ってはいない。
恐らく、数手先で最初のポーンが消える。
そうなれば、凌辱の寸劇が始まって……十分ほどゲームが止まるのだ。
サキュバスA「サキュバスは、『魔眼』を退化させていますのよ」
勇者「何だって?」
サキュバスA「私たちが元来持っていた、相手を魅了する魔眼の力。これは世代を重ねるごとに顕著に弱まっておりまして、
すでにサキュバスBは『魔眼』を使えません」
勇者「えっ……!?」
サキュバスA「陛下が相手だから使わないのではなく。あの子は、『魔眼』を持っていない。恐らくこれからも体得する事はありません」
その時、サキュバスAが手を下ろし、椅子に深く腰掛け、腕を組む。
話の内容に反して、彼女の顔に沈痛さはなく――――むしろ、微笑んでいた。
サキュバスA「……というより、使っていないから退化した。種族全体で、使う必要が無くなってしまったからです」
勇者「必要が無い、って……どういう事なんだ?」
サキュバスA「殿方を誘うのに、わざわざ魔眼で魅了する必要もありませんわ。ほんの少し素振りを見せればよし」
勇者「む……」
サキュバスA「魔眼を使うまでもない、というコトです。特に殿方に対してはね」
勇者「……耳が痛い。盤外戦術だろ、これは?」
サキュバスA「あら、今更お気づきに? はい、ポーンをお一つ頂戴。凌辱開始ですわよ」
勇者「あぁもう……真面目に聞いた!」
――――――――
盤面の上で、山賊が栗毛の女兵士を嬲る。
剛毛に覆われた指が兵士の胸甲をはぎ取り、欠けた短剣がインナーを裂き、最後の一枚までも布きれとして虚空へ舞わせる。
生まれたままの姿に剥かれ、かろうじて脚甲だけを残した姿は、山賊の嗜虐心を大きく滾らせた。
なおも反抗的な目をした彼女の首へ、彼女から奪い取った長剣をひたりと当てる。
それだけで彼女はさぁっと青ざめ、とたんに、全身を震わせながら山賊を見上げた。
女兵士は、山賊に顎で示されるままに跪き、四つん這いで進んで、毛皮の腰蓑を脱がせた。
間近で見る逸物はすでに硬度を上げている。
彼女は、やがて……首筋に剣を這わせられながら、垢の浮いた逸物へ、たどたどしい奉仕を始めた。
――――――――
勇者「…………」
醍醐味、と言われても――――あまり見ていたいものではない。
追加ルールを勝手に宣誓されてしまったから、仕方のない事ではあっても。
特に、朝から大量の夢精をしてその気が萎えてしまった昼の今では、興奮にすら繋がらないのだ。
とはいえ仕方無く盤面を見ていて、視線を持ち上げると不意に気付く。
対面に座っていたサキュバスAが、いない。
勇者「? おい、サキュバスA?」
サキュバスA「ふふ……ここ、ですわ。陛下」
声は、テーブルの下から聴こえた。
勇者「おい、何のつも……おい!」
既にその指先は、ズボンの上から股間をなぞっていた。
ステッチに沿って這いあがるようにしなやかな指先が蠢き、整えられた爪が二枚の布越しに睾丸をくりくりと撫でた。
たったそれだけなのに――――睾丸から下腹部までを、ぞくりとするような艶気が走り抜ける。
サキュバスA「ふふっ……『おやつ』の時間ですわ。まずお先に、私がいただきます」
三秒までを数える間もなく、股間に、外気の涼しさと、糖蜜の蒸気にも似た甘ったるい熱を覚える。
さながら熟達の盗賊の解錠が如く、ベルトが外され、留め具が外され、
ズボンと下着が太ももの半ばまで引き下ろされる。
淫魔の早業は、その事実に気付く事さえも遅らせてしまった。
サキュバスA「あら……。朝は少々やり過ぎてしまいましたわね? でも、大丈夫。私に任せて……」
微かに血流を増した自身の、その先端に吐息がかけられた。
当たり前の話、亀頭の粘膜に味蕾も嗅覚も備わっているはずがない。
なのに――――亀頭に感じたその吐息からは、茉莉花にも似た香りと、砂糖菓子のような甘さを覚えた。
ペニスが、味覚と嗅覚、触覚。
五つのうちの三つの感覚を無理やりに備えさせられてしまったような。
淫魔の魔技によって、つくり変えられてしまったような。
これは――――。
勇者「お前……、『魔眼』を使ったな? いつ?」
サキュバスA「ふふふ。『私は』使えないなんて申しましたか? もっとも、私のは魅了するタイプのものではありませんわ。
相手の感覚器に作用して、感覚の種類も、感度も自在のままにしてしまうのです」
勇者「やめろ。……今すぐ、やめ……うぁっ!?」
為されたのは、先端への軽い口づけが一つ。
たったそれだけなのに、血流が勢いを増し、海綿体へ一気に血が流れ込み――――硬く絞った布巾のように、屹立してしまう。
同時に接吻の生み出した妖しげな「衝撃」は下腹を突き抜け、脊髄をしびれさせた。
勇者「…くっ……は、ぁっ……!」
苦し気に喘ぐ間もなく、彼女は机の下で、舌なめずりをする。
見えてはいないはずなのに、それは――――鮮明に、正面からの角度で脳裏を過る。
サキュバスA「お苦しそう。僭越ですが、私が……お癒しいたしましょうね」
立て続けに、四度の口づけ。
唇が亀頭に触れている時間は、少しずつ伸びていった。
一度めは小鳥の啄み。
二度めは、感覚を「置いて」残すような、少し長め。
三度めは、恋人の接吻。
四度めは――――舌を絡め、激しく唇を絡ませるようなうねり。
時にして、十数秒。
もはやおぼろげにしか見えない盤面では、白の女兵士が黒の山賊へ、文字通り懸命の奉仕をしているようだ。
勇者「……っ! う、ぐ、ぁぁ……!」
ペニスが、蛇の捕食の如く半分まで飲み込まれた。
同期して、先走りの汁をからめたサキュバスAの指先が睾丸を優しく揉み解している。
労わるような、中にある精液をかき混ぜながらゆっくり煮詰めていく指の動きは、今まで体験した事も無い。
さながら、魔法の大鍋を煮込む魔女の技法だ。
彼女の指先が蠢くたびにとろけそうな快感が腰を砕かせ、すでに、下肢は動かせない。
堪えようとするたびに上半身が前に倒れ、今となっては、左前腕すべてを机についてしまっていた。
唇の愛撫は、絶妙なペースでにじり寄るようにペニスを飲み込み、反芻するように吐き出し、
再び飲み込む時には舌が亀頭を襲う。
サキュバスA「……盤面もそろそろ終わるでしょうか。名残惜しいですが……それでは、ご馳走になりましょうか?」
睾丸への指の愛撫はそのまま、口淫はスピードを上げる。
一往復ごとに、魂が吸い取られていくような。
下肢の肉そのものを、どろどろに溶かされて啜られるような。
やがて、その感覚は腹部、胸部にまで襲ってきて――――喉までも凍り付いた。
口元、鼻、目、――――――やがて脳髄までも飲み込まれたような、一瞬の暗転。
直後に弾けて、全身の神経が暴走する浮遊感を覚える。
来た時とは逆を辿るように、脳髄を駆け下り、目、鼻、口、喉、胸、腹と、感覚を取り戻していく。
下肢のつま先からもまた同じく、感覚が取り戻されていき、その二つの感覚の再生は、
股間……陰茎と睾丸へ凝縮していく。
さながら、大爆発の直前、空間が凝縮し歪むように。
そして、射精が起こる。
体積としてあり得ないほど大量の精液が、ぴたりと根元まで飲み込んで止まったサキュバスAの喉を目指して噴きあがる。
時にして十秒以上。
排尿に匹敵するような時間を、射精に費やす。
机の下の彼女はそれを一滴たりともこぼさず、飲み込んでいった。
やがて射精が収まれば、彼女はストローを啜るように、内側に残った分まで吸い出す。
最後に名残惜しそうに、亀頭の表面についた分を舌で舐めとり、唇を離してから噛むように口内で味わい、飲み下し、一連の口淫は終わった。
サキュバスA「うふふ……美味しい。……ご馳走さまでした、陛下」
やがて席に戻ってきた彼女は、何事も無かったように、身振りでこちらを示す。
サキュバスA「さぁ。……陛下の手番ですわよ?」
本日投下終了です
後半はまた明日です
性懲りもなく立てたスレですが、少しだけお付き合いいただけると幸いです
それでは
投下を開始
>>21より
夕食を取った後は、しばし寝室で読み物に耽る事にした。
書庫で見つけた小説だが、執筆者が淫魔と言う事もあり、そうした場面が多い。
甚だしい時には、濡れ場を終えて十ページ進むと再び、という事まである。
むろん淫魔の国の娯楽物はそうしたものばかりでは無いが、これは、あまりに頻繁過ぎる。
夜の場面が多すぎて、話の大筋がまったく頭に入らないのだ。
五十ページほど読んだところで、とうとう本を閉じて胸の上に置いた。
うすぼんやりとしたランプの光が室内を照らし、時折影が揺れる。
ゆるやかな眠気を覚えた頃、扉が三度叩かれ、意識が戻された。
勇者「……誰だ?」
声を投げかけても、返答はない。
妙な予感がして、寝台から下り、読みかけの本を枕へ放り投げて迎えに出た。
ところが、裸足のまま冷えた床を踏みしめて扉を開けて迎え入れようとしても、誰もいない。
扉から顔を出して左右を見ても、無人の廊下。
背の低いサキュバスBあたりがいるかと思って見下ろしても、やはりいない。
悪戯と言うには――――いくらなんでも、悪意がある。
偉ぶるつもりは無いとしても、仮にも王の寝室、まだ深夜では無いが眠っていてもおかしくないような時刻だ。
溜め息をついて扉を閉め、寝台へ向き直ると、おそらくはノックの主が白のバスローブ姿で腰掛けていた。
サキュバスA「お邪魔いたしております、陛下」
揺れる微かな灯りを受け、膝の上に今しがた読んでいた本を抱いて。
それこそまるで、「淫魔」が忍び込んだそのものの姿で。
捉えられない魔性の持ち主は、こちらを見据えていた。
サキュバスA「……陛下?」
もう、答えない。
何も言わないまま、表情を変えないまま、寝台のサキュバスAへと大股で近づく。
強張った表情がはっきりと見えたと同時に、強く押し倒して、両手首をぎりぎりと抑えつけた。
サキュバスA「い、たっ……! 陛、下……むぐっ!?」
シーツの上とは言え、強く打てば呼吸はつまっただろう。
後頭部をそのままの勢いで倒せば、痛みも走っただろう。
だが、構いはしない。
微かに歪んだ彼女の口を、抑え込むように唇で塞いでやった。
サキュバスA「んぅ、むっ……ぷぁ……っぐ……っ!」
呼吸を求めて喘ぐ唇に隙間ができる度に、機先を制して塞ぎとめる。
サキュバスA「っ……ひゃ、……め……!」
見開いた目で視線を動かして見れば、顔が紅く染まっていく。
息を吸う事も吐くこともできない辛さから、彼女の紫の眼には涙が溜められていく。
蒼肌は恐ろし気な赤みを湛えて変わり始めた頃、抑えつけていた手首を放し、唇も離した。
サキュバスA「ごほっ……! はぁ、ぅ……っ……げほっ……!」
焦って息を吸い込み、その拍子に唾液が気管に入り込み、それがまた咳を引き起こす。
自由を取り戻してなおも溺れて喘ぐような彼女に、暇は与えない。
バスローブを剥がすようにはだけさせると、その下は裸身だった。
蒼い肌には石鹸と濃厚な花の香りをまとい、入浴を済ませてきたばかりだというのが伺えた。
仰向けに倒れてさえも存在を強かに主張する二つの乳房、その頂にある乳首は鮮やかに色づいた桃色をしていて、
蒼い肌との対比で抗いがたい艶気をも醸し出していた。
呼吸を取り戻し、言葉を紡ぐまでは今しばらくかかる。
そう見積もると、右手をサキュバスAの腰の下へ入れ、抱き寄せる要領で浮かせた。
彼女の背を弓なりに反らせたまま――――次は、左の乳首へ唇を寄せ、犬歯を立てた。
サキュバスA「ひ、ぃっ……!」
滑らかで弾力のある肉の種は、歯を立てられて儚く怯え、声まで震えさせた。
さらに強く噛みながら、口内のそれを舌先で弄び、鋸引くように顎を動かす。
その度に彼女の背筋はびくびくと震えて、回した腕には冷や汗が滲んだ。
サキュバスA「い……痛っ……陛、下……! ちぎ、れ……っ」
口で拒絶を示していても、それは違う。
彼女が股を閉じないよう、股間を擦るようにねじ込んでいた脚には、ズボンを湿らせるような蜜の滴りを感じた。
彼女は、サキュバスAは……嫌がってなど、いない。
そこで唇を乳房から離し、回していた腕も抜き去るが、まだ、止めはしない。
左手の人差し指と親指を幾度か擦り合わせ、感覚を確かめる。
本来なら、こんな事に使いはしない。
使ってはいけない。
分かってはいながら――――どこか嗜虐的な好奇心が巻き起こる。
乾いた空気の中に小さな破裂音が何度か響いたのは、彼女の耳にも聴こえただろう。
潤んだ瞳が、こちらの顔へ真っ直ぐと向けられる。
覗けたのは、恐怖、そして……紛れもない、背徳の期待を孕んだ哀れな眼差し。
左手の指で、彼女の右の乳首を強く抓む。
サキュバスA「あっ……あぁ……っ」
息も荒く乳房に繋がれた「指」を見据える彼女は、段々と息を荒くする。
自分の身に何が起こるのかを、理解しかけているのだろうか。
じらすように、間を外すように、その実、精神を集中する。
――――――そして淫魔の果実を、「電撃」が抜けた。
サキュバスA「っ――――! くひっ……あぁぁぁーーーー!!」
加減をして……弱めに弱めた雷の針が、淫魔の肢体を突き抜ける。
鼠でさえ殺せないほどの流量に調節した雷は、それ故に乳房を、彼女の肉体を、果てしのない絶頂へ導いた。
だらしなく開かれた唇の端には唾液が泡立ち流れ、下の秘裂からもまた、絶え間なく蜜が流れ、
ぶしっ、と断続的に噴き出しまでする。
放った雷は――――予想を遥かに置き去りにして、サキュバスAの神経を完全に支配してしまった。
勇者「……まだだぞ。まだ終わっていない」
そう告げると、絶頂の余韻へひたる彼女の秘部へ、硬く突き出たペニスを押し当てる。
水を含んだ綿のような感触が、亀頭から伝わる。
少し押し込み、秘部の周りの肉へ押し当てると、
その例えにふさわしく、ずぶずぶの愛液が亀頭に流れてまとわりついた。
壊れてしまったようにしとどに濡れ、絶頂で緩んだ秘部に、侵入を防ぐ手立てはない。
サキュバスA「や……へい、か……今、は……今は、どうか……おやめに……」
その求めには応じない。
先端を飲み込ませ、狙いを確保すると同時に――――根元まで、納刀するように一気に突き入れてやった。
サキュバスA「あっあぁぁぁぁ! い、っ……き……!」
無数の淫肉の粒が痺れてうねるような感覚が陰茎を覆い尽くす。
彼女と同じようにこちらもまた達してしまいそうになるが、寸前で耐える。
そして――――再び抜き、挿入し、続けた。
勇者「くっ……!」
声を上げさせたのは、モノから伝わる感覚ではない。
あまりの快楽に、サキュバスAの手が宙を掻き、こちらの肩と上腕に、爪を立てたからだ。
その痛みにしばし快感を忘れる事ができ、再び腰を打ち付ける。
左の手からは数十秒間隔で幾度も、一瞬限りの「弱電撃」を放つ。
乳首へ、クリトリスへ、巡るように。
そうするだけで活きの良い魚が跳ねるように、彼女の身体は何度も脈打ち、
重厚なはずの寝台が軋みを上げ、獣じみた嬌声が響いた。
サキュバスA「おや、め……くださ……っううぅあぁぁっ! やめへ、くだ…ぁ……! びりびり、やめてぇぇぇぇ!」
彼女がひと際強い懇願とともに屈服の喘ぎを紡いだ時。
こちらの陰茎からもまた、弾けた。
そして――――彼女が気を失ったのを見た数秒後、こちらの意識もまた途切れた。
眼を覚ました時は、窓の外の空は白み始めていた。
毛布も被らずに眠ってしまっていたが、暖炉を消し忘れていた事がむしろ幸いだった。
すでに油の尽きたランプは消えてしまっている。
変わった事といえば、彼女に覆いかぶさるように気を失ったはずなのに、こちらの身体は仰向けに横たえられていた。
そしてサキュバスAも裸のまま――――ぴったりと身体を寄り添わせるように、勇者の側へ横向きで寝ている。
眼を閉じて寝息を立てる彼女の顔は、泣きはらした子供のようにすっきりとして、
いつもの妖艶さとはうって変わって無邪気なものだった。
びしょびしょに濡れたシーツは、夢では無かった事を示す。
あんな事に力を使ってしまった事に半ば呆れながら、薄紫の空を見つめる。
サキュバスA「……ふふ。少し……きつかったけれど。とても……良かった、ですわ」
寝顔のまま、サキュバスAは囁く。
勇者「ごめん、やり過ぎた……」
サキュバスA「いえ。朝から幾度も、からかって刺激した甲斐が報われました」
勇者「――――なんだって?」
サキュバスA「……陛下が悪いんですのよ? 堕女神様ばかり贔屓になさるから。差分でも回収していたんですの?」
勇者「…………わざとだったんだな」
サキュバスA「ええ。……からかって楽しむもよし。……倍返しにされ、
虐められるは尚良し。どちらに向いても、悪くはありませんの」
勇者「そういえば、一日サキュバスBを見なかった。……他の使用人とも不自然なほど顔を合わせなかったな」
サキュバスA「それは私がクジで勝ったからです。なので一日、陛下を独り占めさせていただきました」
勇者「は?」
サキュバスA「堕女神さんが戻るまで恐らく三日。陛下と時を過ごす権利三人分、という事ですわ」
勇者「勝手に景品にするな!」
サキュバスA「まぁまぁ。……ちなみに明日、いえ今日はサキュバスBの番ですわ。どうぞお楽しみに。
起こしに来てからがスタートです、どうか心得ください」
勇者「…………まぁ、引いてしまったんなら。もう、してしまったし……な」
サキュバスA「ふふふ。私はもう少ししてからお部屋に戻りますが……どうか」
そして彼女は、きゅっ、と勇者の腕を胸に抱きしめて、頬を寄せた。
サキュバスA「もう少しだけ……このままに、いさせてください」
完
A編終了です
全部終わってから詳しく書くけれども、スレを立てる形式で投下するのは今回で最後にします
それではまた明日
始めます
翌日の朝。
ドアを叩き割るような、けたたましいノックの音で叩き起こされた。
サキュバスB「陛下! へーーかーー!! 起きてください! 朝ですよーーー!」
ドア越しに叫び、ガンガンとノックしているのにそれでも勝手に開けはしない点は、褒めていいのか。
それともその騒々しさを咎めようか。
考えながら、勇者は開かない目のまま起きて扉を開けた。
サキュバスB「あ、おはよーございます! 今日は私が」
勇者「チェンジ」
サキュバスB「へっ!?」
勇者「チェンジだ」
扉を閉めてベッドに戻ろうとするが、一瞬早くサキュバスBがそれを防いだ。
そのまま強引に押し入ってきて、二度寝の企みは露と消えてしまった。
サキュバスB「なんですかチェンジって!? ……んん? 何かこんな事……あった、ような?」
少女姿の淫魔は、突如頭を捻って考え込む。
遠い昔にあった出来事なのか、それとも単なる既視感なのか。
考えている間に、冬の朝の冷たい室温から逃げ込むように、ベッドへ逃げ込む。
だが――――
勇者「つめたっ!?」
昨晩の情事で、互いの汗や体液で、シーツはびしょびしょに濡れていた。
そのせいで、図らずも眼が冴えてしまう。
悲鳴に応じたサキュバスBは、怪訝そうに距離を詰め、そして、自信ありげに胸を反らせた。
サキュバスB「お風呂の準備ならできてますよ。……どーします?」
勇者「…………入る」
引っ立てられるように、観念するように身を起こす。
真冬の朝、濡れて冷えたシーツに触れたせいで体温が一気に下げられてしまった。
手近にかけていた厚手のガウンを羽織るも、その生地もまた温まっていない。
すぐにサキュバスBが傍へと来るとシーツの具合を確かめる。
サキュバスB「もう、こんなびしょびしょに濡れたトコで寝たら風邪ひきますよ。……おねしょじゃないですよね?」
勇者「少なくとも俺じゃあない」
そこで初めて、今日の彼女をまともに見た。
ふわりと癖のある髪からは、明るい甘酸っぱさが香り、鼻腔をくすぐった。
数日前に着ていた、冬と言う季節感をまったく無視したようなショートパンツに、あくまで生足。
黒い毛糸編みの上衣は前のボタンで留められるようになっており、心なしか、サイズが彼女の体格に比べて大きい。
特に袖などは腕を垂らせば、手のほとんどが隠れてしまうだろう。
彼女がベッドに四つん這いになってシーツを確かめている間、図らずも――――視線は、彼女の臀部へ向いた。
小ぶりだが丸く形の良い尻と、裾から覗くきめの細かく、細くも肉感を残した、掻き立るような太腿。
二つの骨に挟まれた、皮膚の薄そうな膝裏。
続いてふくらはぎに目を移そうとした時――――自制し、逸らす。
サキュバスB「……? どーかしました?」
勇者「い、いや……」
サキュバスB「それよりも……チェンジって何ですか、チェンジって」
口を尖らせながら、サキュバスBはベッドから下りて、下から覗き込むようにじっと見つめてきた。
曇りのない金色の瞳は、神秘的でありながらもあどけない。
世界に初めて差した曙光は恐らく、こんな色をして明け方の雲を照らしただろうか。
――――そんな表現すらも、この「魔族」の眼には当てはめてしまう。
勇者「ついな」
サキュバスB「つい、じゃないですよ! わたしにも権利ってのがあるんですからね! 二番だったけど!」
勇者「俺の権利はどこにあるんだ!」
サキュバスB「え、いや……いいじゃないですか、うん。そーいう訳で、今日は私です。とりあえずお風呂入りましょー」
キリが無いと感じ、押し切られてやる事にした。
どのみち、知らなかった事とは言え昨日はサキュバスAと一緒にいたのだ。
与り知らぬ場での賭けであっても、彼女らに不公平はさせたくない。
――――そんな、妙な立場の弱さを内心滑稽に思いながらも、ひとまずは朝の入浴に向かった。
大浴場へ入ると、サキュバスBに感じていたそそっかしさに裏打ちされる嫌な予感は、
どうにか裏切られてくれたようだ。
湯は普通に張っているし、あらかじめ湯を撒かれて温度も上げられ、大理石の床の冷たさもない。
湯煙を吸い込むように深く息を吸えば、じわりと胸の中から温度が上がるようだった。
勇者「……あー…………」
軽く体を流してから湯に身体を預ける。
今朝の湯に溶かされたバスオイルは、柑橘を用いたものらしい。
皮膚の毛穴ひとつひとつが開き、湯が浸潤し、身体の内側から温度を上げてくれ、
覚めたばかりの眠気すらも踵を返して戻ってきてしまうようだった。
サキュバスBは、どことなくちぐはぐだ。
朝から大声と乱暴な扉叩きで起こしをかけたかと思えば、
浴場に張り巡らされた気遣いには嘆息する。
手慣れた淫魔のように這い寄ってくるかと思えば、初心な少女のように顔を真っ赤にする事もある。
彼女の年齢3415歳、それはまだ淫魔の感覚で言えば紛れもなく未熟だ。
あり方に悩んで背伸びをするが、立てた爪先はぷるぷると震えている。
そんな微笑ましさを持つ彼女は、見ていて、からかっていて、ともかく飽きない。
まどろみかけたその時、浴場の戸を開け、誰かが入ってくるのが聴こえた。
濡れた床にぱちゃぱちゃと足音を立てる、その歩幅は小さい。
体重も恐らく軽い。
むろん、条件を満たす者はこの城には多い。
厨房手伝いの数人にはサキュバスBより背の低い者が数人いる。
つい先日この城へ現れたインキュバスの子もそうだ。
だが――――今日ここへ、今現れたのなら、一人だろう。
勇者「サキュバスBか。何だ?」
サキュバスB「何、って……やですね。お身体を洗いに……」
湯煙の中から現れた少女は、何一つまとわない裸身に、小瓶をいくつか抱えている。
少し離れた洗い場にそれを下ろすと、おずおずと微笑みを作って、こちらへ笑いかけた。
勇者「…………じゃ、頼もうか」
応じて、湯から上がってそちらへ目指す。
****
湯煙の中、椅子に座った「陛下」の背を見た。
もちろん、夜の伽の中でその肉体を見て、触って、「そう」だというのは知っていた。
だが――――明るい場所で見ると、違う。
硬く盛り上がった矢傷、十数センチにわたる魚の骨のような切創、点々と残るケロイド状の瘢痕、
心臓に達して貫通したであろう致死の刺し傷。
そのどれもが「陛下」の、壮絶だった半生を語る。
世界を救う、「勇者」の日々を。
サキュバスB「……お傷、いっぱいあるんですね」
そっと背中のさんま傷に手を触れた。
痛みは流石に無いようだが――――健康な皮膚とは、やはり手触りが違う。
無理やり継ぎ接ぎして補修して、接着部の「にかわ」をはみ出させたきりのような、乱暴な傷。
胸の奥のどこかが、ずきりと痛んだ。
勇者「その傷は、魔物に取りつかれた領主の館でついた」
サキュバスB「え……?」
勇者「彫刻に擬態した化け物にやられた。回復呪文と縫合を合わせてどうにか生き残ったよ」
彼は、ぽつりぽつりと語り始めた。
勇者「別の日。心臓を貫かれた時は流石にだめかと思った。……でもまぁ、なんとか生きてる」
説明……いや、思い出しているのかもしれない。
その傷の一つ一つの歴史を。
歴史の中にある、かつての旅を。
勇者「どうした? 温まって腹も減ってきたんだが……っ」
唇に、心臓へ達した傷跡が触れた。
思わず前に回した手で探れば、同じく、左よりの胸板に傷跡があり、それは何かが「貫通」した事を雄弁に語る。
いくつもの死線を乗り越えて、今彼はここにいる。
もし少し違っていたのなら、出会う事はできなかった。
存在を知る事すら、できなかった。
ほろ苦さを湛え、そして一瞬で暗転するような喪失感が、胸を締め付けた。
勇者「おい、……どうしたんだ?」
サキュバスB「……あ、その……何でも、ないですから。お身体、洗いますね」
呼びかけがあり、ようやく、陛下の体を抱きしめてしまっていた事に気付いた。
慌ててほどき、湿らせた垢落としの布に液体石鹸を落として、泡立たせる。
両手で畳んだそれを擦り合わせるようにしていると、やがて、細かく柔らかいクリームのような泡が現れてきた。
勇者「……あのな。もう少し力、入れてもいい」
サキュバスB「は、はい。すみません、何となく……」
つい、背を擦る力には加減してしまう。
慌てて、気持ち程度に力を入れようとするが、入らない。
遠慮ではない。
ただ、この傷だらけの背中を強く擦るという事ができなかった。
だから、気付くと――――液体の石鹸を乳房に塗り込み、やわやわと伸ばし、泡を新たに創っていた。
はたから見ると、莫迦げた慰めの手遊びなのかもしれない。
でも、この体に……「硬さ」は、当てたくない。
勇者「っ!?」
泡で覆われた乳房が、彼の背へ押し付けられ、形をむにゅり、と変えた。
そのまま伸び上がるように上へ。
再び屈んで下へ。
乳房そのものを泡の塊として、彼の背を磨く。
サキュバスB「……どう、ですか、陛下? 気持ちいいですか?」
恥ずかしさに、声が上ずる。
こんな事に自分の胸を使った事などない。
恥ずかしさと不安とが問いかけになり、身を強張らせて驚く彼へと投げかけられた。
勇者「……ああ、気持ち……いい、よ」
サキュバスB「えへへっ……。それじゃ、前の方も、洗いますね?」
胸でそうしつつ、合間を縫って胸板から腹部まで、垢すりの布でゆっくりと擦る。
手触りで、身体の前面にも傷がある事は分かっている。
それなのに後ろから背中の傷に触れるよりは、ずっと楽な気持ちになれた。
硬く盛り上がった傷に触れる。
傷のない滑らかな部分に触れる。
その差のたびに乳房と頂の種とが刺激され、自慰を覚えかけた少女のような背徳感が湧き上がる。
サキュバスB「ん、っ……」
悩まし気な色気が、吐息に混じり始める。
濃密な泡が互いの肌を馴染ませ、その境すらも曖昧にしていくようだった。
触れあう部分はやがて溶け合い、ひとつながりの液体生物として堕ちていくような、奇妙な快感。
既に――――乳房は、熱さのあまりに感覚を失いかけている。
サキュバスB「……ひゃっ……、あの……これ……」
前を流していた左の手首に、ふと硬い、剣の柄のようなものがあたる。
その手触りに一瞬手を引き、伸び上がるように肩越しに覗き込む。
サキュバスB「えへへ。おっきく……しちゃったんですね」
勇者「仕方ないだろ。……お前こそ、なんでこんな……」
サキュバスB「だって……陛下には、いっぱい……お傷、ありましたから」
背中に見えるだけで、大小十数。
前面や下肢には、更に増えるだろう。
世界を救うための旅の中で受けたいくつもの傷。
それを――――――打ち消してやりたい、と思った。
サキュバスB「お傷のぶん。……今まで痛かったぶんだけ、ううん。もーーーっと、気持ちよくなってほしくて……」
言葉を待たず、彼の股間に滾った、剛直に触れ、その根元へ指を巻き付ける。
右手でそれを。
左手で彼の胸板を。
乳房で彼の背を、それぞれ愛しく撫でて、大浴場へ淫らな音を響かせる。
くちゅくちゅと粘性の液体が奏でる音、しゅこ、しゅこ、という摩擦音、混ざり合う二つの吐息交じりの声。
サキュバスB「陛下、いつでも出しちゃっていいんですからね? ガマンしないで……ほら」
人差し指の腹で裏筋をくりくりとなで、左手で彼の乳首を抓む。
すると接した胸から、小さな痙攣が二度伝わり――――その手応えは、いたずら心とともに、満足感をもたらした。
そして……彼へ、「勇者」へ、奉仕できている事の喜びが上塗る。
サキュバスB「……かぷっ」
泡に覆われていない首筋へ、唇で吸い付く。
そこは湯にも浸かっていなかったから、汗の塩味がそのまま口の中に膨らんだ。
勇者「っ…ぐ……!」
気付かないうちに、彼の男根を扱く右手が動きを速める。
淫魔じみて淫らな焦燥を駆り立てる喜びよりも、楽にさせてやりたい欲求が今は勝る。
――――――もっと、気持ちよくさせてあげたい。
――――――何度でも、何度でも。
――――――痛かったすべての思い出を、塗り替えてしまうほどに。
サキュバスB「いい、ですよ。……いっぱい、出して…わたしの手……どろどろに、して……ください。
……がまん、しないで……ね」
首筋、背中、胸板、男根。
後ろから抱きしめながらの愛撫に、ついつい力が籠る。
早く、出させてあげたい。
高まったそれを吐き出させて、楽にさせてあげたい。
どこまでも白い願いが、心を満たしていく。
サキュバスの抗いがたい欲求ではなく――――献身として。
やがて、限界を迎えて迸る。
とっさに亀頭に添えた左手が、その熱を受け止めた。
未だに剛直を握り、しかし緩めた右手には、生命の脈動が伝わる。
口には入らない。
自分の中にも注がれないはずのそれに、確かな充足感を感じていた。
下腹の高まりも、秘所の疼きもない。
ただ、胸を静かに脈打たせる幸福。
それだけで、今は充分だった。
サキュバスB「……ふふっ……いっぱい、出ましたね」
――――刻まれた傷のひとつぶんぐらいは、やっつけられた、気がした。
今日の分終了です
それではまた
それとですが、今回のでスレ立ては最後にするって件ですが
何か湿っぽい理由がある訳ではないのでご安心ください
どうもこんばんは
B編後半、投下します
>>75より
****
結局、浴場から出たのは昼前になってしまった。
すでに度を越えた空腹は腹痛になりかけて、きりきりと胃を締め付けた。
着替えて食堂につき、ひとまず茶で胃を暖め直して待つ。
だが――――隣接した厨房からは、文字通りに、不穏な匂いが漂う。
まず運ばれて来たのは、鮮やかな赤色をしたスープ。
スプーンを浸せば、さらりとした液体である事が伺える。
恐らくは、トマトを用いたものであろうが、妙だ。
口に含めば、何から出たのか分からない苦みが口内を満たした。
続いて痛みに近い辛さが脳天の裏側を掻きむしり、、酢を直に飲んだようなきつい酸味が鼻まで抜ける。
なんとか飲み下しても、それでも胃の内側から立ち上るイラクサの棘のような刺激が食道を刺す。
慌ててパンを千切って飲み込み、水をがぶがぶと飲んで……ようやく、その一口分の刺激は薄れた。
勇者「ぐっ……!」
サキュバスB「……えっと、お味は……」
勇者「その前に質問だ。使った材料は何だ?」
サキュバスB「トマトに玉葱、パセリと……燻製のお肉。お塩と胡椒に、ほんの少しだけチーズ……です」
勇者(…………どれの味もしない!)
材料は全くおかしくなく、妙なものは含まれていない。
そこまで材料が分かっているのなら、分量も間違えはしないはずだ。
見た目もいかにも美味そうに仕上がっている。
だというのに、何故――――――。
勇者(久しぶりに……効く……)
サキュバスB「……あの、お味は……」
勇者(まだ言うかコイツ!)
胃が、身体が拒否している。
これ以上飲めば、身体に障りがある。
スプーンを持つ手にも痺れが走った。
残してしまいたい衝動もあるのに、作ってくれたサキュバスBの不安げな表情が、それを押しとどめる。
勇者「……ふー……っ!!」
意を決して、スープ皿を直に手に持ち、一気にすすり込むように、全てを干した。
溶け残ったトマトの切れ端と種だけが皿に残るが、そこまでは追えない。
スープの熱さはむしろ、舌と食道を焼いて覆い、乱暴に保護してくれるようにすら感じる。
少なくとも、その味を脳へ伝える邪魔をしてくれているのだ。
間髪入れずに、水をがぶがぶと飲み下し、パンを何度も噛み締めてその甘みで口の中の後味を掻き消す。
これで――――どうにか、恰好はついた。
勇者「……ふむ。サキュバスB、他には何か作ったのか?」
サキュバスB「あ、その……お料理、久しぶりでしたから……ごめんなさい……スープしか」
勇者「そうか。……いや、ボリュームがあってちょうどよかった。俺は少しだけ寝室で横になるぞ」
立ち上がった瞬間、身体の神経に痺れが走る。
感覚が途切れ、つながり、それを幾度も繰り返すような。
いわば身体そのものが誤作動を繰り返し、ぎこちなく動いているような危機感だ。
ごまかしながらも寝室へ辿りつき、ベッドへ倒れ込んだ時には――――
もう、身体の自由は残されていなかったようだ。
****
次に目覚めた時には、夕方に変わるところだった。
冬の空は暗くなるのが早い。
このベッドへ辿りついた時間から逆算して、眠っていたのは三~四時間ほどだろう。
勇者「……生きてて、よかった」
強烈な昼餉のダメージは、休めば回復していた。
胃に重さは無く、身体にも痺れは残っていない。
勇者「……腹が、減……っ!?」
空腹感、そして今日このあと起こる事を予見したとたん、まだ怠さの残る体が跳ね起きた。
夕方という事は、この後は言うまでもなく夕食だ。
サキュバスBは恐らく腕を奮うだろう。
たった一皿で魂まで持っていきかけたスープだけではない。
前菜も、魚料理も、主菜も、デザートも、全てを直撃でもらう事になる。
そうなると――――。
勇者はブーツに足を突っ込むと、扉を突き破る勢いで駆けていく。
目指すは厨房。
今なら、まだ……間に合うと信じて。
勇者が厨房に到着して、乱暴に扉を開ける。
そこには悪い予想の通り、サキュバスBがすでに調理を進めていた。
大鍋からは湯気が立ち上り、その間、彼女はまな板の前で包丁仕事を始めるところだった。
髪は後ろで束ねて結い、袖をまくった白のコックコートに前掛けを合わせて着込み、
金色の瞳をきょとんと瞬かせてこちらを見ていた。
サキュバスB「あれ、陛下。どーしたんですか? すごい汗びっしょり……」
勇者「……いや、様子を見に来ただけだ。どんな調子だ?」
サキュバスB「どんな、って……まだ始めたばかりですよ。お湯沸かしただけです」
――――――間に合った。
彼女はまだ何もしていない。
勇者「よかったら、一緒に作らないか?」
サキュバスB「えっ」
勇者「いや、その……寝起きだから腹が減ってなくて、身体を動かしたい。何作る予定なんだ?」
作業台の上を見る。
ロングパスタの生麺、唐辛子、ニンニク、塩の袋、木製のミルに入った胡椒。
少し離れて、今獲れたばかりのような新鮮な魚介類が下処理を待つ。
まだ、何も手が入っていない状態の。
サキュバスB「えっと……メインはシーフードのスパゲティと……他はまぁ、色々です。お手伝いしてくれるんですか?」
勇者「ああ。……それで、一緒に食おうか」
****
結果は、成功した。
言葉巧みに味付けなどの作業を可能な限り引き受けた。
彼女にさせたのは、エビの殻剥きと腸取り、食材のカットに、食器の準備。
塩に手を伸ばせばそれをひったくって食器を出させて、どうしても避けられない時には重要な工程も任せたが、その間、決して視線は切らなかった。
かつての長旅の中で野営した時を思い出して、どうにか形は整え、品数を少なくしながらも食卓についた。
監視の甲斐もあり、魚介類のスパゲティも、サラダも、やや粗削りの味だがきちんと食べきる事ができる。
そして、不思議だった。
彼女に味付けなどの作業をやむなく任せた時は、決しておかしな行動はしていない。
塩も火加減も、口を挟むまでもなくできていた。
包丁での仕事も危なげなく、そして手早かった。
以前にサキュバスAが語ったところによれば、彼女は味覚もいたって正常だという。
終えてみれば、ますます謎が深まる。
――――――彼女が昼に作ったスープは、なぜ、あんな味がした?
****
勇者「うまく出来てよかったな。料理なんて久々だったから……」
サキュバスB「すっごく美味しかったです! 陛下ってお料理もできちゃうんですね……」
勇者「ああ、いや……うん」
食後は、執務室でささやかな残務を片付ける事にした。
朝と昼を使えなかったため、サキュバスAが今朝置いていった報告書類に目を通せなかった。
蝋燭の揺れる部屋の中には、サキュバスBもいる。
コックコートから着替えて朝見た服装に戻り、秘書めいて、「陛下」を独り占めする感覚に浮き立っているように見えた。
サキュバスB「ねぇ、陛下。まだ終わんないんですか?」
勇者「夕食まだ食ったばかりだろ。早い」
サキュバスB「もー……。そんなんじゃダメですよ。サキュバスの国でそんなマジメにしてちゃダメですって」
勇者「全否定するな。 っ……と……?」
おもむろに視界がぐらつき、桃色の霧が立ち込めて、一瞬で晴れる。
それと同時に……猛烈な眠気にも似た惚けを覚えた。
覚えがある。
だが……もはや、思い出せない。
この「異常」の名前を。
サキュバスB「っ…………ぁ……陛、下ぁ……ふぇ……」
後ろに居たはずの彼女が、正面に。
書類の散らばる机の上に、靴も脱がないまま四つん這いで、こちらの顔を覗き込んでいた。
彼女の瞳もまた、焦点が定まっていない。
開きかけた瞳孔がぐるぐると忙しなく動き回り、渦を巻いているようにも見えた。
瞼はとろんと落ちかけ、唇と舌も麻痺したように緩くなり、滑舌もおぼつかない。
それは鏡映しのように――――こちらにも、同じく現れているだろう。
サキュバスB「はふっ……」
机に乗ったまま、猫が伸びをして鼻先を近づけるような動きで、不意にキスを受けた。
こっちの唇を嘗め回し、唇を擦りつけて匂いを移してくるような、所有権を示すような――――そんなキスだ。
勇者「ぷふっ……お、い。サキュ……んぉっ!?」
十数秒して唇を離した時、彼女は既に、下のショートパンツを脱ぎ捨てていた。
下着は股上が浅く、尻尾の可動域を阻害しない、有尾型の種族が用いるデザインになっている。
深い赤色と黒を基調に、レースで飾り立てられた下着は――――サキュバスBのあどけなさには反し、
青色の肌には映え、艶めかしく存在を主張していた。
その姿のまま、彼女は机の上に腰かけ、脚を投げ出すように広げた。
サキュバスB「陛下。……このまま、えっち……しちゃい、ません?」
抗えない。
執務机に不躾に座り、危険な誘惑を行う少女へ、抗えない。
くすくすと笑う彼女は、もはや素面か何らかの混乱かなどの基準は超越している。
淫魔そのものの姿で、蝋燭の灯に照らされてこちらを見据えていた。
サキュバスBは、執務机に手をついて背を向けたまま――――臀部をこちらへ突き出し、くねらせる。
両脚は机から下ろされ、背後からの挿入を誘うような姿勢で。
サキュバスB「ほぉら、陛下。……早く、脱がせて? ね?」
再び、桃色の霧が視界を覆う。
もはや、思考は行えない。
目の前に居る淫魔の肢体へ、引き寄せられてしまう。
下着を腿の半ばまでゆっくりと下ろすと、果実が解き放たれた。
小ぶりでも形の良い尻にあって、割れ目の頂点から伸びる、よく動く鏃めいた尻尾は少女が魔族である事を物語る。
二つの果実の間には、薄く紅の差したような肉の窄まりがひくひくと蠢き、
その更に下にある果汁を滴らせる裂け目と連動し、深淵へ誘うような雌の香りを漂わせていた。
勇者「……あ……」
立ち上がり、ベルトを緩めて下げ、下着の中から逸物を取り出す。
中てられたように屹立したそれは、既に先走りを放ち、ぬるぬると照っていた。
サキュバスB「えへっ……。今日はぁ、……こっちにくださいね?」
彼女が片手で示し、広げたのは下の裂け目ではない。
その上にある、肛口だった。
サキュバスB「わたしのお尻の穴にぃ、いっぱい、ずぼずぼ……して、いいんですよ? 何回でも、何回でも……ね?」
狂おしささえ感じる甘えた声が、更に魔の韻律となって屹立させる。
はち切れそうな怒張は、もはや痛みだ。
触れずとも、まるで鋼のように硬くなっているのが分かる。
見とれている間に、彼女は前から垂れた蜜をすくい取り、窄まりへ塗り込むように伸ばしていった。
サキュバスBに導かれるまま、亀頭を、ひくついた肛門へ押し当てる。
その一瞬、彼女の穴は驚いたように閉じたが――――やがてまた開花し、鞘のように、ゆっくりと受け入れ始めた。
サキュバスB「あっ……入って……き……、あはぁ……お尻、壊れ……ちゃう、かも……」
肛門を内側へ押し込み、巻き込んでいく手応えは、少しきつい。
前の穴では味わえない強烈な締め付けは、滾った怒張を破裂させてしまいそうなほどだ。
既に埋まった亀頭からは、サキュバスBの体温が、身体の深部の熱が、溶けそうなほど伝わる。
サキュバスB「あっ……ぎぃ……! おしり……広がっ、て……や、らぁ……きもち、イイ……!」
ずぶぶぶ、と更に突き進めていくと、彼女の背へ汗がびっしりと玉となって滲み、
背筋がびくびくと震え、翼と尾が不規則に蠢いた。
まだ、一度も往復していない。
小さな尻穴を探るように、恐る恐ると掘り進めているにすぎない。
だが、すでに彼女は絶頂へ達しかけているように見えた。
肛門の内側深くの熱は、ことさらに熱い。
そこは既に、腸の中だ。
淫魔にとってすら、浅ましく性感を貪るための器官ではない。
――――だが、彼女は喘いでいる。
溺れたようにもがき、背を震わせ、机の上に唾液の池を作りながら。
ついた手の下にある書類が、くしゃりと形を変え、また掻いた拍子に床の上へひらひらと落ちていく。
サキュバスB「ん、あ、あぁぁぁ……い、くっ……! やだ、だめぇ……イっ……!!」
括約筋がペニスを千切れんばかりに締め付ける。
内側のぬめった肉の襞が、身体が震えた途端にぎゅっと凝縮する。
その時点で、こちらも達してしまった。
抽挿によって得た摩擦の快感ではない。
彼女の肉穴を穿ち、組み敷き、体温を余すところなく味わう、征服の快感から。
極限まで煮詰まった快感の奔流が彼女の直腸へ流れて行く。
締め付けで幾度も阻まれながらも、それは止まない。
サキュバスB「あぅっ……! お尻、なか……熱い……! 溶けちゃう……溶けちゃいます……!」
勇者「ん、くっ……締ま、る……! お、終わら……ない……!」
注がれる精液の量の多さに加え、ただでさえ小さな肛門、その締め付けのせいで、射精が終わらない。
まるで無間地獄にも似た終わらない射精と、彼女にもまたもたらされる、終わらない絶頂。
絶頂が射精を誘い、その射精により、彼女が再び絶頂する。
共食いの大蛇の為す円環が、快楽を描く。
互いの破滅まで飲み込みあう、死出の快楽を。
サキュバスB「や、らぁ……! し、ん……じゃう……死んじゃう……!」
もはや何度目になるか分からない。
絨毯は彼女の垂らした蜜と、引き抜いた時にあふれ出た精液とで、足指までも湿らせるほどだ。
抜いては入れ、入れては抜く。
収縮を繰り返す不浄の孔がこなれたのを皮切りに、容赦のない抽挿を行う。
引き抜けば肛門の肉は赤くめくれて、それを押し戻すように再び根元まで突く。
子宮口の代わりの結腸の行き止まりへ辿りつけば、そのたび彼女の尻尾の毛が逆立ち、机を叩いて悶えた。
サキュバスB「気持ち、い……お尻の穴、陛下の……ずぼ、ずぼっ、て……され……て……!」
快楽の中にあっても、サキュバスBは意識を明瞭にさせているままだ。
貫かれ、幾度も禁断の絶頂を迎えているのに、気を失うような様子はない。
こちらが五回目の射精を迎え、彼女はその倍の絶頂をすでに迎えているのに、未だ満足していないかのようだ。
つま先立ちの脚は震えて、今にも崩れ落ちてしまいそうなのに。
彼女はそれでもまだ、快楽を貪るのをやめない。
勇者「……一旦、やめる、か?」
サキュバスB「や、だ……! やめ、やめないでください……っ! んぎっ……ぅ、ま、また……イ……っ!」
何度目になるか、分からない。
彼女はまた――――秘部をわななかせて、肉の穴を締め付け、喘鳴するように、達した。
そこからは、最初の不覚の状態からはうって変わり、驚くほど意識がはっきりしていた。
彼女の脚がとうとう震えに耐え切れなくなった頃、寝室へ移った。
そこでもまた互いを貪り合い、疲労が限界を迎えた頃に眠りに落ちた。
勇者「ぐあっ……痛っ……!」
翌朝になり、ベッドの傍らのサキュバスBを起こさないようにしつつ起き上がる。
寒さよりも、眠気よりも、全身が酷い筋肉痛と疲労感に苛まれていた。
それは――――寝台に腰かける事さえも億劫にさせるほどに。
サキュバスB「おっ……おはよ、ござい……ます……」
堪えきれなかった呻きとベッドの振動によるものか、サキュバスBも続いて目を覚ます。
彼女の側には疲労感は無いのか、恥じらうような赤みを顔に湛えているだけだ。
サキュバスB「え、へへっ……昨日は……いっぱい、しちゃいました……ね?」
昨夜の荒淫を経たとは思えないほど、澄んだ可愛らしさがその顔にはある。
だが……今は、その可愛らしささえ、感じる余裕がない。
勇者「体、痛く……ないのか……?」
サキュバスB「……? いえ、全然。それより、身体がすごく軽いんですよっ! ね、もう一回だけ……」
求めかけられた時、ドアを叩きもせずに蹴り開けて、今度は珍客が顔を見せる。
右脚が巨大な猛禽じみた脚甲に挿げ替えられたこの淫魔は、城に住んではいないのに。
まるで良く知る相手の家に、気安く入り込むかのように。
サキュバスC「ちィーっす、起きてっかー? 飲みにいこーぜー」
勇者「まさか……」
朝だというのに、片手に酒瓶。
誘い文句は、これもまた酒。
サキュバスC「? あー、アタシだよ。アタシの番だよ、今日は。」
サキュバスB「も、もー……Cちゃん、いきなり入ってこないでって……」
サキュバスC「よう、元気だったかい、チビ。んで、オメーら……来る時厨房覗いたけど、あんなん食って大丈夫かよ?」
勇者「は……?」
サキュバスC「タコだよ、タコ。切れ端見つけたけど、ありゃ『邪神ダコ』だ。ラリっちまうぞ」
勇者「な、なんだそれ!?」
確かに、タコを使った。
見た目には人間界のものと何も違いが無かったが――――今思うと、あのタコは何か声を発していなかったか。
サキュバスC「どこぞの変な邪神の子孫らしいけど、知らん。
まぁ、あれぐらいなら……ちょっとキマるぐらいか。死にゃしないさ」
そう言うと、彼女がぐびぐびと酒瓶を傾ける。
サキュバスB「へ、陛下……あの、知らなかったんです! 本当に!」
勇者「……変だと思った。あの症状……そうだ、『混乱』だった」
執務室で覚えた、不覚の症状。
あれは魔法で受けた「混乱」の効果に限りなく近い。
普段なら状況判断や行動が少しおかしくなるだけに留まるが、「淫魔」と密室にいた弊害だったのかも知れない。
サキュバスC「……マジで何やったんだよ。まぁ、いーや。アタシは適当に時間潰してるから。夕暮れになったらまた来るわ」
硬い金属音とヒールの音を交互に響かせ、彼女は部屋を出た。
せめて、身体をもう少し休ませようと、再びベッドに寝そべる。
腰が、肩が、背骨が、とても座ってすらいられないほどガタガタに痛んでいた。
サキュバスBはそれを察してくれたのか、寄り添ってはいても身体には触れないでくれる。
サキュバスB「……陛下」
勇者「ん……」
サキュバスB「今度は……もっとたくさん、えっち……しましょうね?」
勇者「……今度な」
終
投下終了ですの
それではまた明日です
サキュバスC編投下開始です
Bの料理の腕?
SCPオブジェクトに指定されんじゃないですかね
久々に出た城下町は、妙な活気に包まれていた。
城から繋がる大通りには出店の屋台が並び、胃袋を緩めさせるような香りがあちこちから漂う。
通りに渡された紐や窓辺には発光する魔石が吊るされ、あちこちに雪や氷の像まで作られている。
それらは魔物の姿であったり、三段作りの雪だるまであったり、中には悪ふざけとしか思えない、
淫魔ならではの形状の氷像もある。
夕暮れ時に来たサキュバスCに手を引かれ、導かれてきたのは、この「祭り」だった。
サキュバスC「さって、コレ気になってたんだよな。『淫魔殺し超特大ソーセージ』だとよ。ホラ」
通りの中ほどまで進んだ幌屋根の屋台からそれを受け取り、一本を渡された。
串を通されたそのソーセージは、長さは手首から肘ほどもあり、太さはほとんど槍だ。
特にマスタードのような調味料はなく。先端は熱で裂けて、露わになった内側のミンチから肉汁が滴り落ちていた。
渡され、手に持つと……まるで短剣でも持たされた錯覚を覚えるような、みっちりとした重量感がある。
勇者「重いな。……というか今、金のやり取りをしなかったな?」
サキュバスC「ったりめぇだろ。『おーさま』から金は取らないし、うまい事連れ出したアタシもパスだ。食えよ、冷めちまうぞ」
彼女が犬歯からかぶりついたのを見て、遅れて一口かじる。
パリッと焼かれた皮の歯ごたえの次には口の中いっぱいに肉汁が広がり、
続いて、ミンチに練り込まれていたトウガラシの辛さが口内を焼く。
サキュバスC「へぇ、辛くしてあんのか。うめーけど喉渇くな、こりゃ」
見てみると、彼女は既に七割ほどを平らげて、歯で串の先端まで残りを引きずりあげているところだった。
勇者「早いな!」
サキュバスC「朝から何も食ってねェんだよ。……よく見りゃ『少年風』ってミニサイズもあんな。トッピングは……ハチミツ? マジで?」
勇者「なんてバリエーションだ。ゴブリン風とかオーク風とかないだろうな」
サキュバスC「あるよ。ハーブ多めの青臭く仕立てたヤツと、太くて寸詰まり、豚の血混ぜたヤツと。食う?」
勇者「いや……」
歩きながら改めて横から見ると、サキュバスCはやはり、美人の部類に入る。
冬の薄暗い紫色の夜空の下、ちらつく雪の中で見ると、さらさらとした銀髪は幻想的ですらある。
すぅっと通った鼻筋、薄くも血色の良い唇、ほっそりとした顎。
アクアマリンの瞳は涼しげな包容力を持つように輝き、若い猫のように、きょろきょろと目移りさせていた。
かすかに顎を引いて「しゃん」とした姿勢は、さして長身ではないはずの彼女のプロポーションを引き立ててやまなかった。
彼女が、ありふれた「美女」で終わらない理由は二つある。
ひとつは、歯に衣着せず、それどころか王を王とも思わない粗暴な言葉遣い。
そのせいで堕女神とはやはり険悪になったが、単に相性が悪いだけに留まる。
そしてもう一つは、彼女の身体。
右脚は不釣り合いに大きな真鍮の脚甲に置き換わっており、その中は、空だ。
右の太腿の半ばまでしか、ない。
翼も片方が根元から断ちきられて、右の一枚しか残ってはいない。
サキュバスC「……ンだよ? ヒトの顔さっきから……」
視線に気付いたサキュバスCが、葡萄酒の杯から口を離して尋ねた。
見られている事に気付くと、どこか慌てて露悪的な表情をつくったように見えた。
そこで、先ほどからずっと抱いていた疑問を、ぶつける事にする。
勇者「この祭りは何なんだ? 何を記念してる?」
サキュバスC「いや意味なんかねェぞ? 毎年、この時期にやってんだよ」
勇者「え?」
サキュバスC「ただ飲んで食って騒ぐだけ。最初は何か理由があったんだろうけど、アタシは少なくとも知らない」
勇者「まぁ、人間界にもそういう酒の口実みたいなイベントはあるか……。で、サキュバスC」
サキュバスC「あ?」
勇者「どうして俺をここへ連れ出したんだ?」
サキュバスC「……そいつァ、後でな。それよりも楽しめっつってんだろ。肉食お、肉。あっちに『絶倫牛のステーキ』が出てたぜ」
勇者「絶倫牛って何だ」
サキュバスC「年間交尾回数平均で七百回の魔界の牛だよ、知らねェの? 牝牛をハメ殺しちまうのもザラだぜ」
勇者「……いやそれ、食ったら身体が確実に……」
サキュバスC「だいたいこの国自体、ガッツリ肉食う奴ばっかだ。……あ、骨付き羊肉のグリルも出てんな」
勇者「話を聞け!」
――――――
しばらく導かれるままに通りを食べ歩いていたら、急にサキュバスCが顔の前で手を立てて、詫びるようなジェスチャーを送ってきた。
サキュバスC「わり。……ちょっと抜ける」
勇者「どうしたんだ?」
サキュバスC「……あのな。訊くか? ソレ」
重い金属音とヒールの音を交互に響かせて、彼女は雑踏の中へ消えていった。
ただ一人残された勇者は、あたりを眺める――――間もない。
離れて十秒もしないうちに、道行くサキュバス達から熱っぽい視線を投げかけられるのだ。
まるで渦巻く蛇の群れのなかに放り込まれた、まるまる太ったネズミのように居心地が悪い。
この淫魔の国では、命の危険は無くとも……別の危険が、常にある。
王となった勇者以外に「男性」は存在せず、加えて国民は例外なく淫魔。
もし泥酔でもしてしまえば、どうなるものかは分かりたくもない。
まず、殺される事は無いだろう。
だが決して油断はできない。
女日照りの男の園へ、恵まれた肢体を持つ少女を放り込んだのと逆の状況だから。
なんとか誘いをかわしていると、甘い匂いが鼻をくすぐった。
肉の焼ける匂いでも、暖まったワインの香りでもなく、焼き菓子でもなく。
カカオ、ミルク、砂糖。
そうしたものがひとつに交わり、溶けて温められているような……そんな、童心に還らされるような極上の匂いだ。
たまらずその出所を探っていくと、少し開けた場所に出る。
そこには小さなドリンクスタンドが立てられており、甘い香りを放つ湯気が立ち上っているのが見えた。
併設された立ち飲み用のテーブルにもサキュバスが一人、もこもこに厚着をしたラミアが一人。
それぞれ木製のカップを傾け、満ち足りたように頬を緩めていた。
勇者「……や、久しぶり」
書店主娘「へ、陛下? どうしてここに?」
スタンドを切り盛りしていたのは、城下町で書店を営む淫魔の一人娘だった。
彼女は他のサキュバス達とは違い、人間と同じ肌の色をしている。
魔力も少なく季節に合わせた服装をしなければいけないため、服装もまた人間と変わらない。
切れ長の落ち着いた眼としゃっきりとした喋り方は母には似ていないが、
一方サキュバスBにも見られるような、どこかませた雰囲気も時折漂う。
そんな、不思議な存在感がある。
勇者「乱暴な奴に引っ張り出されてさ。君も店を出していたのか。母上は?」
書店主娘「ええ、交代で店番をしていまして。母なら家で暖まっていると思います。……どうせ居眠りするでしょうね」
勇者「……ところで、さっきからこの匂いが気になるんだが。コーヒーじゃないな」
書店主娘「今日は折角ですから『ホットチョコレート』にしてみました。お飲みになりますか?」
勇者「貰うよ」
書店主娘「かしこまりました。それでは、少々お待ちくださいね」
気付けば、日が沈んでからかなり経つ。
冷えていく気温も落ち着きを見せ始め、街全体を巻き込んだ活気もまた安定して、思い思いに楽しむ声であふれていた。
暖めたワインで体に火を入れ、きつい蒸留酒で喉を焼き、料理と菓子を楽しむ声が街を包む。
そんな様子を眺めていると、書店主娘が、木のカップに淹れられた熱い飲み物を差し出してくれた。
それはとろりとした濃い茶色の液体で、上には蓋をするように泡立てられたクリームが載り、はた目には泡立つエール酒に見えなくもない。
だが、立ち上ってくる香りは違う。
夢のように甘く、曙光のように暖かく、嗅ぎ取る一瞬だけで、心が子供のように惹かれてしまうようだ。
勇者「……これは、今日しか出さない……のか?」
一口飲んで、最初に出た言葉はそれだった。
味に対する感想でも、感謝でも、感動でもなく。
これがもしも一年で今日の一日しか飲めないものだとしたら、それは――――もはや罰だ。
書店主娘「考えあぐねています。評判が良いようでしたら、お店の方のスペースで出してみようかと思うのですが」
勇者「……また飲みたい。王としてじゃなく、一人の声として頼む。この一杯は価値がある」
書店主娘「え……はい、分かりました。ところで……お連れの方は?」
勇者「ああ、そろそろ戻ってくると思うんだが。流石に俺が見つけられないって事は……ほら、来た」
凍った路面を金属の蹴爪が捉える音が、ヒールの音と交互にこちらへ向かってくるのが背中越しに聴こえた。
その足取りは若干怒っているようでもあり……ほんの少しだけ、振り向くことに怖さを感じた。
サキュバスC「オイ、あんまり一人で歩いてんじゃ……って何よそれ、超美味そーじゃん」
書店主娘「お連れ、って……貴方だったんですか、サキュバスCさん」
勇者「何だ、知り合いだったのか?」
書店主娘「よくいらしてくれるんですよ。つい先日もたくさんの本をお買い上げに……」
サキュバスC「だってよ、冬の日中なんて何もするコトねぇんだよ。毎日飲むワケいかねぇし……」
勇者「凶暴で知能も高いのか、危険だな」
サキュバスC「殺されてェのか、おい?」
書店主娘「ちょ、ちょっと……落ち着いてくださいって。陛下に何てことを……」
サキュバスC「チッ……おい、それアタシにもくれよ」
書店主娘「はい。香りづけにリキュールを足しますか?」
サキュバスC「頼む。……それとクリームたっぷりな」
――――――――やがて、通りは静かになっていった。
夕方近くに始まって、一日の三分の一が過ぎた頃には、出店の屋台も店仕舞いを始める。
数日間に渡って催されるこの祝祭の一日目が終わる。
結局何の祭りなのかは分からず仕舞いで、閑散とした通りを、
勇者とサキュバスCは路地裏の壁にもたれて横目に眺めていた。
サキュバスC「……チッ。なんでこう、祭りの後ってのは寒いのかね」
勇者「なぁ、サキュバスC」
サキュバスC「あぁ?」
勇者「そろそろ教えてくれないか。……なんで、誘ったんだ?」
サキュバスC「…………そりゃ……アタシが、クジで勝ってさ」
勇者「それは分かっているんだ。……でも、何故だ?」
彼女がクジを引いて、勇者を独占できる権利の三位を当てた。
だが、それは権利を得たという事であるが、城下町の祝祭に連れ出す理由にはならない。
有り体に言えば――――サキュバス、らしくない。
事実、朝から今に至るまで、身体のどこも彼女に触れられてはいないし、素振りすらなかったのだ。
サキュバスC「……誰かに言ったら殺すぞ」
勇者「約束する」
観念したように苦々しい顔をしながら、彼女は右脚で積もった雪を穿り返す。
もじもじしていると言えなくもないが、それには攻撃性が過ぎ、
何か返答を誤れば蹴りが飛んできそうな剣呑さが拭えず違う種類の緊張感が場から抜けない。
サキュバスC「脅しじゃねェ。特にサキュバスAのアマに言ったら絶対に殺す。言おうとした瞬間に殺しに行く」
勇者「分かったって……」
念入りに二度釘を刺してから、ようやく彼女は答えた。
核となる言葉は、それでも消え入りそうに小さく、気恥ずかしさを必死に隠すように、顔を逸らして。
サキュバスC「……『デート』……っての、して……みたかったんだよ。……一度」
前半終了
ではまた明日の晩
遅くなってごめんよ
文句なら会社につけとくれ
そんでは、投下します
>>128から
勇者「……」
サキュバスC「……だんまりコいてんじゃねぇよ、アタシにだけこんな事言わせやがって……」
顔色は窺えない。
横の彼女を見れば、そっぽを向きながらがしがしと頭を掻いていた。
言ってしまった恥ずかしさと落ち着かなさを同居させた仕草は、気まずさをもたらしてしまったと錯覚しているようでもあった。
だが――――少なくともこちらは、気まずい気分ではない。
勇者「……俺は、楽しかったよ。お前が誘ってくれたおかげで、今夜は楽しかった」
サキュバスC「そうかよ。アタシはもう絶対誘わない」
勇者「何故そうなるんだ?」
サキュバスC「……ずっとだ。ずっと落ち着かねェ。クソッ……どうして人間はこんな事して平気なんだよ。心臓がもたねーよ……」
傍から見れば、滑稽なほど初心な仕草だろう。
首筋は紅潮し、汗の玉まで浮かんで見えた。
ぞわぞわと粟立つ感覚を抑えるように彼女はぎゅっと腕を組んで、堪えている。
時間にして、数秒ほどが経つ。
体感にしてそれよりもはるかに長い時を待った頃、勇者は、壁から身を離してサキュバスCの正面に立った。
勇者「……サキュバスC」
呼びかけると、彼女はゆっくりと、組んでいた腕を下ろしてこちらを向いた。
目線の行き場を見失ったのを誤魔化すように瞼をぎゅっと閉じ――――そのあまりに顔を顰めるようにすら見える。
サキュバスC「……ンだよ」
紅潮した顔、その微かに震える唇へゆっくりと押し付ける。
触れた瞬間に彼女の身体がびくりと震え、前歯が唇へ強く当たるのを感じたが、それでも止めない。
雪の降る中を歩き続けた唇は、冷たかった。
当たった前歯もまた冷えていて、謂れのない罪悪感までもが顔を出した。
連れまわされたのはこちらなのに、それでも、何かの申し訳なさが胸中に根を張っていた。
その中にあっても、サキュバスCはおとなしかった。
舌を絡めてくる事もなく、唇を押し付けてくる事もなく、ただ、口づけを受け止めているだけだ。
サキュバスC「んっ……。う、ん……っ……!」
そうしていると、数秒もしないうちに彼女の身体が打ち震え、しかめられていた顔がほどけ、緩められていく。
離すと、サキュバスCは唇を震わせて言葉を紡いだ。
その言葉は、……サキュバスの誘惑とはかけ離れ、ヒト種の恋情の懇願の音色を奏でた。
サキュバスC「……アタシ、の……家。通りの……向こうだから……寄ってけよ」
――――――――
通りの向かい、その奥まったところにある二階建ての、彼女の「別荘」へ着いた。
長く火の気のない部屋の空気が、外套を羽織っていてもなお肌を貫くように冷えていた。
思いのほか――――家の中は、片付いていた。
一階の台所には隣国産の香辛料が吊るされて、作業用テーブルの上には数冊の料理本が積まれているとともに、
浅い藤籠には瑞々しい果物が積まれている。
一目で見て分かる。
この台所は、「使っている」台所だ。
サキュバスC「くっそ、寒い……。酒が足りてねェ」
勇者「酒は体感温度を上げるだろうが、寒さ自体が変わる訳じゃないぞ。温感が鈍るから余計にまずい」
サキュバスC「うるっせェな、お勉強じゃねーんだよ……クソっ」
指先から発した紫炎でありったけの燭台、そして暖炉に火を灯して、彼女はテーブルの上から蒸留酒のビンを乱暴にひったくる。
――――はずだった。
サキュバスC「わっ!?」
後ろから、彼女の身体を不意に横抱きに持ち上げる。
酒瓶に伸ばした手が空を掻き、空中に投げ出されたようにばたついた。
右腕で彼女の異なる二つの脚、その膝裏を持ち上げ、左手で肩を抱く。
想像していたよりも、重厚に見えた金属の右脚は重くはない。
その「中身」が無いから、抱き上げる分には、比重もさして変わらないように感じた。
サキュバスC「ばっ……! お、下ろせよコラ! アタシ、お……重い、だろ……!?」
勇者「いや、全然。何なら、このまま街を一周もできるがどうする?」
サキュバスC「ふ、ふざけんなバカ! ンな事したら、殺……」
勇者「……舌を噛むぞ」
言葉では彼女は抗議するが、決して暴れない。
体重を移動させて身体を可能な限り密着させ、しがみ付き、移動を阻害させないようにしていた。
抱き上げて歩いている間も、喚きはしても暴れはしない。
奥の部屋にあるベッドは、彼女一人分を横たえるには少し大きいが、二人分には狭い。
ゆっくりと尻から先に下ろして寝かせてやると、サキュバスCは、少し名残惜しげに、首に回していた腕を解いた。
顔を隠すように二の腕を持ち上げ、実った胸を大きく強調する寝姿を見下ろす。
手入れされた爪、磨かれた肌、梳かされた髪、下ろしたての服。
隙のない余所行きの装いが、今は寝乱れて、蝋燭の灯りに汗の玉を滲ませていた。
黄金に輝く真鍮の右脚にもゆらめく灯りが跳ね返り、それもまたどこか荘厳な空気をこの場へ差させる。
勇者「……いいのか?」
サキュバスC「……うん」
その時、サキュバスCが「右」の継ぎ目へ腕を伸ばしかけた。
見逃さずにその手を制して、ベッドへ押し付ける。
力はまったく入れていないのに、彼女は、またも素直にそのリードに応じた。
勇者「外さなくていい」
サキュバスC「でも、さ……」
勇者「……顔を見せてくれ」
――――彼女がまくりあげるように上衣を脱ぐと、下から、弾むように二つの果実がまろび出てきた。
着痩せするのか、その肢体は決して堕女神やサキュバスAと比べても劣りはしない。
腰はくびれて薄く腹筋もついているが、魅惑的な均整を決して損なわせない。
ささやかなのぞき穴のように切れ込んだ臍、閉じ込められていた二つの乳房、
染み一つない薄い皮膚に覆われたデコルテから首、顎へのライン。
酔いしれた彼女の顔からは馴染みの露悪癖も失せて、月下の銀竜草のような触れがたい美しさだけが残る。
サキュバスC「んっ……!」
思い立ち、右手側、左の乳房に手を伸ばす。
乳房の下に潜り込ませるように肌を撫でると、中ほどの肋骨に触れているだけで、
疾走する馬蹄めいて早まる、心臓の鼓動が掌を打った。
サキュバスC「……だ、から……ヤベェ、つってんだろ……クソ」
勇者「大丈夫か? その……」
サキュバスC「……アタシが今死んだら、アンタの、せいだぞ」
蝋燭の一つが消えた。
ほんの少しだけ影が増えた部屋の中、手探りで彼女の身体を弄る。
サキュバスC「……! んっ!」
押し上げるように胸を蹂躙しながら、唇を塞ぐ。
差し入れた舌先に鏃めいた犬歯が触れ、かすかに血の味が沁みた。
感度が昂ぶり暴走し、ほんの少しの愛撫で跳ねてしまうようになっている。
そんな状態のサキュバスCの口に舌を差し入れるのは、ほんの少しだけ勇気が必要だった。
大猫の開いた顎に頭を預ける芸を思い起こしてしまい、微かに心中で苦笑すらしてしまうほどに。
左手は彼女の右手と絡み合い、互いの手が汗ばんでいくのをつぶさに感じる。
結んだ当初は氷のように冷えていた手も、今は巡った血が暖めていた。
サキュバスC「っ……も……脱がし、……て……!」
勇者「ああ、分かった。……動くなよ」
上半身を覆う衣服はすでに全て脱がせていた。
残っているのは短く作ったスカートと、その下着だけ。
まずはサイドのボタンを外し、噛み合わせの奇妙な金具へ手をかけ、引き下げる。
次いで下着の側面の紐を解くと、それは既に面積の狭い濡れた布でしかなくなってしまっていた。
サキュバスC「……やっぱ、外し……っ!? ちょ、オイ!」
生身の脚を担ぐように持ち上げ、大きく脚を開かせると、抗議の声が上がる。
霜の下りたような銀の初毛に彩られたそこへ左手を這わせた。
ぬるま湯を蕩かせ、擦り込んだかのように淫らに濡れている。
渇いている部分はもはやない。
多めに掬い取り、左手の指でぬちゃぬちゃと弄ぶと、指の間を細く糸が引いて垂れた。
サキュバスC「や、だ……見せんな、バカッ! 死ね、もう死ね!」
勇者「……あ、すまない」
図らずも、そうしていたのは彼女の鼻先十数センチ。
すこし意地の悪い事をしてしまったと感じて胸が僅かに痛んだが、彼女の顔を見ていると、満更でもなく見えた。
口ではそう言っていても、どこか――――そんなやり取りを楽しんでいるような、照れ隠しの意図が透ける。
勇者「もう、入れる……ぞ?」
サキュバスC「……さっさとしろ、クソッ……!」
憎まれ口を叩き、顔を背けたままの彼女の秘部に、押し当てる。
膣口に亀頭が触れた瞬間にびくんと震えて、潜り込ませるたび、二度、四度と彼女の身体が脈を打つ。
サキュバスC「ん…ぐっ……! もっと、ゆっくり……は、ぅっ……!」
彼女の舌は、少しずつ滑りを失っていく。
濡れた肉の襞を掻きわけて潜り込ませていくうちに、ひとつひとつと錠前のピンが解けるように、サキュバスCの身体のこわばりが解けた。
根元まで飲み込ませた時には、もう彼女は緩み、とろけてしまっていた。
目元は虚ろで、開きも閉じもしない口からは荒く不規則な息が吐かれる。
沈みこんだ乳輪の内側から、ぴんぴんと立った乳首の先端が顔を出す。
既に、意思を問う事はできない。
できる事は――――愛撫と、抽挿だけ。
――――――――
サキュバスC「あ……ッ! い、いい……気持ち、いい……よぉ……!」
左脚を持ち上げたまま、奥までねじり込むように幾度も腰を打ち付ける。
ベッドの軋みが部屋に響き渡り、家そのものまでも揺らすように、鼻にかかった嬌声が響く。
両乳房の尖端は顔を出して、痛々しいほどに尖って、宙を刺す。
既に彼女に平素の態度はなく、残った翼を、尾を、巻き付けるようにして求めてくる。
耳の穴へ舌を差し入れ、耳朶を甘く噛み、きりきりと軽く歯軋りしてみせると――――すぐに彼女は達した。
サキュバスC「くふっ……! やめ……! そんなとこ、汚……やぁぁぁっ!!」
裏返った声は高く、女性的な媚態をまとって耳を愉しませた。
余裕を失った彼女の声は、その全てが嗜虐心に火をつけるが、荒淫までには至らない。
首筋に口づけする度に、小さな絶頂が起こる。
唇を味わえば、べろべろと駄犬のように唇を嘗め回される。
甘えきった触れ方を示される度に埋まりっぱなしの陰茎は脈打ち、寸でで耐える。
それはもはや、サキュバスとの夜ではない。
彼女の望み通り。
「恋人」がそうするように、夜を過ごした。
****
どこまでも甘ったるく飾り立てた「一夜」を越えて目が覚めると、サキュバスCは、もう既に寝床を出ていた。
寝ぼけ眼のまま皺の寄ったシーツに手を伸ばすと、その体温の名残は消えかけている。
扉を隔てた向こう、隣室の食卓からは芳香が漂ってくる。
暖めたミルクと、焼きたてのパンと、脂の溶け出した肉の香り。
懐かしい「朝」の香りだ。
下を穿き、皺くちゃのシャツを羽織り、ろくにボタンも留めずにベッドから這い出ると、ちょうど彼女が卓につくところだった。
勇者「おはよう」
サキュバスC「…………オウ」
朝の挨拶を交わすも、彼女は素っ気なく目を逸らした。
顔を合わせた瞬間から彼女の顔には赤みが差して、分かりやすくのぼせて、口数も少ないままだ。
勇者「……どうしたんだ」
サキュバスC「…………別、に」
勇者「何を気にしてるんだ。耳を舐めてたらそれだけで軽くイッた事? 『ちゅー……して』ってせがんできた事か? それとも……」
サキュバスC「うるっせぇんだよ! さっさとメシ食って城帰れボケがッ!!」
びりびりと窓まで震える怒声も、今となっては迫力の欠片も無い。
昨晩の彼女の媚態は、全て思い出せるからだ。
勇者「悪かったよ。……すまん、調子に乗った」
サキュバスC「……アリガト、な」
勇者「……?」
その意外な言葉は、錯覚かと疑った。
サキュバスC「アタシの我が儘、聞いてくれてさ」
あくまで対面に座り、それでも目を合わせないまま、彼女は、彼女なりの感謝を述べていく。
飾り気も無く、敬う様子も無く、ただ自分の感じているままを並べていく、その口調で。
サキュバスC「……その、楽しかったよ。初めて……だったし」
彼女にとって、「初デート」は気に召すものだったらしい。
ミルクで口を潤しながら表情を見ていれば、不機嫌な様子はあまりない。
唇の端は結びきらないまま緩ませ、むすっとした表情にも締まりが無い。
サキュバスC「……ホラ、さっさと食って着替えろ。城まで送ってやんよ」
この三日は、実感の日々だった。
今、自分は『淫魔の国』の王である事。
労わってくれる者達がいる事。
そして――――それでも、自分はただひとりの『人間』でしかない事を。
一日目は淫魔に弄ばれ、掌で転がされた。
二日目は淫魔に労わられ、貪らされた。
三日目は淫魔に連れ出され、楽しまされた。
――――――そして恐らく四日目は「女神」に戒められる事を予感し、かすかに胃が縮んだ。
完
投下終了です
眠気に殺されそうなので、投下直後間髪入れずですが寝させていただきます
何やかやは起きてから……
それでは
何かと遅れて申し訳ない
とりあえず、予定していた投下分は終えましたので、今回のスレは年明けにHTML依頼を出します。
今回でスレ形式はいったん終わりにする事にします。
しばらくはpixivあたりへ引っ込んで、短編をいくつか書いていこうと思いました。
まとまった時間が取れなくなってしまいそうなので……。
まぁ、元々スレ形式に意味がないぐらい長く失踪はしていましたが……。
そういう訳ですので、別にお別れとかではないのでご安心ください。
あ、もう一度言いますが
「書き溜め」分は終わりました
ちょっと一言だけ
正月にまた会いましょう
明日の深夜に投下します
そして五日ごろにHTML依頼を出します
勇者、帰ってきた堕女神のお誘いを華麗にスルー
勇者、精のつくものを食べさせられるも華麗にスルー
勇者、更に華麗にスルー?
の一本です
では、おやすみ
待たせました、エピローグです
エロは無いのでご勘弁
堕女神が城へ帰ってきたのは、正午を少し過ぎたあたりだった。
城の正門へ馬車が帰りつき、数人の使用人とともに出迎えに出る。
御者が無くとも走る馬車を曳いていたのは――――あの見慣れた白金の牝馬、ナイトメアだった。
勇者「お帰り。……お前もお疲れ様」
この馬も、「淫魔」の一種だ。
労いの言葉をかけると、「彼女」はさして興味もなさそうに、鼻息をひとつだけついた。
相も変わらず素っ気なく、人の姿を取る事さえできるというのに、無関心なマイペースを貫いて見せる。
馬車の客室から下りてきた堕女神は、出迎えた勇者の顔を見て一瞬だけ顔をぱっと輝かせたが、すぐに日中のいつもの表情へ戻る。
それでも長旅の疲れはやはり残るらしく、そうさせてしまった申し訳なさが心を過った。
堕女神「ただいま戻りました。すぐに執務のお供を致しますので、少々お待ちを」
勇者「その前に少し休め。疲れただろ?」
堕女神「いえ……大丈夫です、車中で休みましたから。すぐにお耳に入れたい事もございます」
勇者「……分かった。だが……無理するなよ」
堕女神「かしこまりました」
堕女神が一旦自室へ向かうべく城内へ消え、メイド達が馬車の荷を下ろした直後、
曳いていたナイトメアが突如変身し――――馴染みの、白金髪の少女の姿になる。
馬銜の支えを失った馬車は僅かに前傾して落ち込んだ。
勇者「何だ、いきなり……」
ナイトメア「……減点」
勇者「え」
ナイトメア「減点。ひとつめ。ちょっとは考えろ」
それだけ言い残して幼女の姿をしたままのナイトメアは馬銜と索具を片手で掴み、
さして力みもせずに馬車を曳いて戻っていく。
完全に停止した状態から数百キロの馬車を片手で曳いていく薄着の少女は、
現実味の欠片も無い、悪夢めいた冗談にも映る。
残ったのは裸足で歩く小さな足跡と、轍。
勇者「減点、って……」
****
勇者「……それで、どうなったんだ?」
堕女神「はい。……ひとまずは様子見です。陛下もご存じの通り、人間界行きはまだ慎重にならざるを得ません」
勇者「……納得するのか?」
堕女神「手始めにまずサキュバス達を人間界へ送り込み、出張所を作らせましょうか?」
勇者「どういう事だ?」
堕女神「彼女らは人に化けます。そして娼婦に扮して地盤を固めるべく、宿を営業する事となりますね」
勇者「…………」
堕女神「……ただ、それすらしばらくは慎重にならなければ」
勇者「……『魔王』の死後だ。まだまだ落ち着かないだろうな」
堕女神「ええ、それでも格段の速度で復興は進んでいるようですが……もう少し安定してからがよろしいかと」
「日常」が戻ってきた。
執務室、昼下がりを過ぎてだんだん冷えていく空気。
堕女神は部屋に下がると、服を着替えてきた。
気になったのは――――珍しく、彼女は脚を出していない。
厚手の黒いストッキングを穿いて、肌を見せているのは手と、胸から上だけだ。
勇者「……珍しいな。寒いのか?」
堕女神「え、ええ。少しだけ……。どうか、ご容赦を」
勇者「いいさ。冷えてきたからな」
堕女神「……陛下、お訊ねしたい事が」
勇者「何を?」
堕女神「一昨日届いたはずの邪神ダコが見当たらないのですが、ご存じありませんか?
伝票には書いてありましたけれど」
勇者「それなら食ったが……」
堕女神「……お身体に障りは? あれは食用ではありませんよ」
勇者「じゃあ何に使うんだ?」
堕女神「あれは、成分を抽出して媚薬の調合に使うのです。一滴単位で。食べられない事も無いでしょうが……」
勇者「媚薬成分まであったのか。いや、ちょっと待て。頼んだのは誰だ」
堕女神「……不明です」
勇者「まぁ、いい。生きてるワケだし」
堕女神「すみません、注意を払うべきでした」
勇者「……いや、いい。使ったのは俺だ。仕方ない」
堕女神「ときに、どのように過ごされましたか? 節度を守らせよ、とサキュバスAには命じましたが……」
勇者「……その」
堕女神「ちなみに、馬車の中で小耳に挟みましたよ。昨日、陛下を城下町の祭りで見かけたと」
勇者「…………」
堕女神「……誤解なさっておいでのようですが、私は陛下を諫めているわけではありませんよ」
勇者「え……」
堕女神「もとより、インキュバスの一件が落ち着いた後です。陛下にもしばし休養があるべきかと思いまして。
ですので……私は、貴方がお健やかであられるのなら、それだけで良いのです」
勇者「……ありがとう。それじゃ……仕事にかかろうか」
堕女神「はい。それではこちらが……人間界へ情報収集を放つための……」
いつものように書状に目を通し、彼女から報告を受け、署名して封蝋を施す。
これだけ広大で、多種族によって成り、数十、数百万年の歴史を持つ国の全てを担えるのは、すべて彼女のおかげだ。
訊けばすぐに答えが返り、下せばすぐに施される。
心のどこかで、彼女の堅さからの開放感を持っていた事を恥じた。
久々に山積みに置かれた書類も、苦ではない。
――――――気付けば日は沈み、空腹を覚えた頃、ちょうどよく夕餉の時が来た。
久々の堕女神の料理は、どれも腹に沁みる。
蟹と白身魚の蒸し物から始まり、続いて、牡蠣の温製にガーリックバターが添えられた一皿を出された。
いつもに比べると少し重厚感があるが――――不思議と、すんなりと胃に収まる。
牡蠣自体のうまみは無論の事、無作法と分かっていても、つい、スライスされたパンの上に溶けたバターを載せて平らげてしまった。
牡蠣から出たスープと、バジルの振られたバターが混じり合い、それだけで食中のワインを一杯空けてしまったほど美味だった。
メインの肉料理は、南の執政を務める猫の獣人から土産に持たされたという牛肉のローストだった。
表面は香ばしく焦げ目をつけられ、内側にいくにしたがって唇の色に似た桃色にグラデーションが加わっており、
スライスされた肉の横にはベリーソース、トマトソース、そして混合したスパイスの三種がそれぞれ付け合わされる。
ベリーソースを絡めれば甘さと隠し味のナッツのニュアンスが、閉じ込められた肉汁と溶け合う。
トマトソースをかければ、微かにしのんだ辛さが爽快な酸味と引き合い、さっぱりと食べられた。
香辛料をふりかけると、複雑に入り混じった数種のスパイスが、味わう一瞬をまるで十数分にも長引かせ、楽しませてくれた。
デザートまでを平らげて食後の茶を待っていると……すべての調理を終えた堕女神が、グラスを盆にのせて食堂へやって来る。
恭しく置かれた脚付きグラスの中は、赤ワインよりも微かに暗い、沈み込むような色を見せていた。
勇者「……食後酒か? これは一体」
堕女神「こちらも……南から持たされた物です。『スッポンの生き血』を、果実酒にて割りました」
勇者「初めて見るな。まぁ……飲むよ」
グラスの脚を持ち、唇へ運ぶ。
わずかに起こった恐れによって、一口、まずは舌先に乗せるように流し込んだ。
生き血、と聞いて身構えたが――――血生臭さは感じない。
むしろ果実酒のふくよかな香りの方が勝って、すっきりと飲めて……気付いた頃には、空だ。
勇者「……さて、仕事に戻らないとな」
堕女神「え……?」
勇者「まだ終わってないだろ。もう少ししてから執務室だ」
堕女神「……はい、かしこまりました。少し……準備をしてから私も向かいます」
執務室へ戻ってから、彼女は落ち着かない様子をずっと示していた。
うわつく事は無いのだが、どこか、こちらの様子を窺っているように見える。
堕女神「……陛下。そろそろお切り上げになられては?」
勇者「もう少し。堕女神の料理のおかげかな、妙に調子がいいんだ。寝ないでも済みそうなぐらいさ」
堕女神「ご冗談を。休息は……その、必要なものです」
勇者「ああ、分かってるよ」
夕食の後から、身体の血のめぐりが妙に良い。
脳が妙に冴えて、全ての感覚が増幅されたような全能感すらも持ってしまう。
寝ずに書類仕事を終わらせられそうだ、というのは決して大げさではない。
実際にやろうと思えばできてしまいそうなほど冴え渡り、身体の熱も冷めやらない。
―――――その時、思い出した。
勇者「堕女神。風呂に入って来たらどうだ? 疲れを癒せ」
堕女神「ですが……」
勇者「『私は大丈夫です』なんて言ったら怒るぞ」
堕女神「……それでは、お言葉に甘えさせていただきます。陛下」
勇者「?」
堕女神「その……いえ。後ほど」
彼女の言葉は、妙に艶めいていた。
四六時中顔を見合わせていなければ分からないほどのかすかな声の弾み。
それはどこか、歓喜の色もまとっているように聞こえた。
――――――
柱時計の時を告げ、一時間の経過を知らせる。
相変わらず机仕事は妙にはかどり、まるで手が止まらない。
そこで、堕女神に入浴を勧めた事を思い出して、手を止めて背を反らした。
ばきばきと凝り固まった肩と背が音を立てて、長く机に向かっていた事を知らせてくれた。
ちょうどその時、堕女神が執務室へ戻る。
堕女神「…………陛下? ひょっとして……まだ、お続けに?」
身体を火照らせながらも、風呂上がりとは思えないほどの曇った顔で、いささか強く彼女が言う。
勇者「ああ。……少ししたら終えるよ、流石に。全部は無理だな」
堕女神「…………もう」
勇者「ん」
堕女神「いえ、何でも。……時に、お体になにか変化は?」
勇者「いや……何故?」
堕女神「その、長くお座りになられたままでは……」
勇者「ああ、大丈夫。調子はいいんだ。心配しなくていい」
堕女神「本日は、ご入浴はなさらないのですか?」
勇者「そうだな。もう少ししたら……終えて入るよ」
堕女神「あの……。何故、本日はそこまで……? 普段でしたら、もうご就寝の準備をなさるお時間ですが」
勇者「……君が三日間も留守にして頑張ってくれたんだ。俺が怠ける訳にはいかないからさ」
彼女がいない間、仕事は何も進みはしなかった。
その遅れを取り戻すため、報いるため、話している間にも筆は止まらない。
勇者「俺の事よりも……。堕女神、そろそろ休んでもいいんだぞ」
堕女神「……え?」
勇者「今日は早く寝るといい。もう少ししたら俺もきちんと寝室へ行く。約束だ」
堕女神「…………」
勇者「……心配なんだよ。疲れが溜まってないワケがないだろ?」
堕女神「……はい、かしこまり……まし、た」
どこか落胆したような、幽鬼めいた表情にまで落ち込ませてから、彼女は一礼して執務室を出た。
彼女の身体に残る疲労を慮り、早めに眠らせたかった。
こちらも残り数枚だけ書類に目を通したら、机の上を片付けて眠る。
もし時間があれば大浴場へ向かい、軽く身体を暖めてからそうするつもりだ。
****
結局、一時間強かけて書類仕事を終わらせてからになった。
身体の芯から力が湧き出てきて、止め時を見失った、というのもある。
誰もいない大浴場で汗を流し落とし、身体を暖め、それから用意してあった着替えに袖を通す。
肌触りの良いリネン素材のシャツ、下着、保温性の高いズボン。
いつの間に置いてあったのかは分からないものの、普段、浴場に準備されているものと違わない。
――――そして、それはひどく窮屈でもあった。
夕食を食べ終えてから、「自身」がいつまでも落ち着かない。
痛みすら感じるほどに、漲ってやまなかった。
執務の邪魔としか感じていなかった高揚感が、今になって声を上げる。
抑えつけてさっさと寝るべく、長く廊下を歩いて、身体にわずかな寒さを感じた頃、寝室につく。
タオルを首にかけたまま扉を開くと――――先客に気付く。
ベッドの上には、堕女神が横たわり、目を閉じ、静かに寝息を立てていた。
暖炉に火が入った部屋、枕元にだけ灯された燭台、それらに照らされて、女神そのものの寝顔が目に入る。
シーツをきゅっと握り締め、枕に横顔を沈め、純白の下着姿を投げ出して、彼女は「王」のベッドに横になっていた。
その出迎えに気付くと、思わず足音を忍ばせてしまったが――――どのみち、ベッドに載れば揺れで気付くだろう。
ブーツを脱ぎ、タオルで髪を一拭いしてから椅子にひっかけ、ゆっくりと彼女へ寄り添った。
堕女神「…………陛下?」
その時、彼女は声を発した。
それは、寝入っていたとは思えないほどはっきりとしていた。
勇者「ごめん、起こしたか。……でも、何故ここに。休んでいいって……」
堕女神「……貴方が、私を労ってくれないからです」
勇者「え……?」
彼女の身体が動き、抱き寄せられ、懐へ顔を埋められていた。
細く、それでいて熱のある吐息が胸板へ押し付けられ、妙に熱い疼きに化けた。
堕女神は……何かを埋めるように、何度も、何度もそのまま深く息を吸っていた。
堕女神「……す、き……貴方の……匂いが……して……これ……好き、です……」
勇者「堕女神?」
堕女神「貴方が……私に触れてくれない、から……」
勇者「…………寂しかったん、だな」
ようやく、気付けた。
彼女は、戻ってきてからずっと、誘っていたのだ。
昼の執務の間にもそわそわしていた。
夕食は今思えば、精をつけさせるための献立ばかりだった。
その後彼女に風呂を勧めれば、その時もまた、何かを待っていた。
仕事を終えて早く寝室に行く事を何度も進言されたのも。
ただ――――堕女神は。
彼女は、早く触れ合いたくて、夜をともに過ごしたくて、堪えられなかった。
それに気付いてやれなかった。
勇者「……少しでも、早く眠りたいかと思ってたんだ」
気遣いが裏目に出ていた。
彼女の疲れを脳内で勝手に膨らませて気遣うあまりに、本当の声を聴いてやれずにいた。
本当は、食後の執務の間もずっと――――――「自身」がぎしぎしと痛むほどに滾っていたのに。
身動きすらも、取れないほどに。
彼女はなおもこちらの首に背に腕を回し、絡め取りながらも好き勝手に犬のように匂いを嗅ぎ、
猫のように、自らの匂いを移すように柔らかな肢体をくねらせてすり付ける。
物言わずにそうする姿は、一種の退行のようにすら感じた。
堕女神「……陛下」
勇者「……ん」
応えるように手遊びほど頭を撫でてやっていると、ぽつりと呟く。
そして数秒。
彼女はようやく続きを、熱に浮かされたように言った。
堕女神「……今夜は、寝かせないでくださいね?」
その言葉には、答えの代わりに――――――唇を、贈った。
終
という訳で、今回のスレは終了とさせていただきます
スレでの投下は今回で終了といたしますが、何かの節目にはまた立てる事があるかもしれません
四日か五日にはHTML化依頼を出します
それまではちょくちょく覗きには参りますので、何かあればご遠慮なく
それでは、また
真夏の話の時にちょこっと出てた、淫具屋の店主に絞られた話も詳しく書いてもらえるとありがたいです
勇者の寿命って淫魔の国に来たことで伸びたりなんなりしたのだろうか
台詞前の人名取ればそのまま小説になりそうなしっかりとした文体が心地良いね
いつか人間界との絡みも書いてくれると嬉しいです
応援してます
>>227
実験記録みたいになる気がするけれど、いつかは……
>>229
加齢を描けるほど時間は経っていないので、それはまたいずれ……
>>235
夏の時は人名を取ったけれど、戻っているのは何なんでしょうね
たぶん、SSっぽさというか、体裁を保ちたいと思っているのかもしれないなと
先ほど、HTML化を出してきました。
今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。
しばらくはpixivで軽くやっていこうと思います。
尚、結構先になりそうですが
今回の投下分を見直して加筆してからpixivの方に各話投稿してみようかなと
うっすらと考えてます
それでは、また
このSSまとめへのコメント
まっていたのだよ!