少女「好きだよ、センセ」 (228)

※百合エロ注意

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先生「ふうっ……引っ越しの荷解きはこんなものかな」




春。
教員試験に受かって晴れて今年から学校の先生になった私は、勤務する学校の近くのアパートに越してきたばかり。
運び込まれた荷物の整理が終わって、ようやく一息つけるかな。




先生「……と、その前に引っ越しの挨拶をしなきゃね」




お隣さん……と言っても両隣ではなくかたっぽだけど、表札があるから人が住んでいるらしい。
地元で評判だったお蕎麦を持って、そのお隣さんの部屋のインターホンを鳴らす。




『……はい?』




少ししてから、スピーカーから幼めの声が聞こえた。

先生「すみません、私、お隣に越してきた者です。 引っ越しのご挨拶もかねて、お蕎麦を持ってきたんですけど……」

『……少々お待ちください』




ブツ、という音の後、ドアが開いて、女の子が顔を覗かせた。
中学生か高校生くらいかな?
髪は黒くて長くて、明らかに私を警戒しているような表情と雰囲気を醸し出している。




先生「はじめまして。 これからよろしくお願いしますね」

『……よろしくお願いします』




一人暮らしなのかなとか、いろいろ疑問が浮かんだけれど。
私と少女ちゃんの初めての出会いは、こんな感じだった。

―――――――――――――――――――――――




先生「……よし。 準備はできた、覚悟もできた。 あとは、教室に行って私にとって初めての生徒たちに挨拶をするだけ……」




さて、初授業の日。
国語を担当している私は、これから始まる初めての授業にものすごく緊張している。




先生「大丈夫……勉強だっていっぱいした。 授業のシミュレーションだっていっぱいした。 だから……勇気を持って……!」




勇気を持って足を踏み出して、教室のドアを開く。
三十数人の男子女子の視線が、私に集中する。

先生「……っ」




目を閉じて深呼吸。
ゆっくりと歩き始める。
落ち着け、私。
今の状況よりもコワーイ状況(模擬授業)をくぐり抜けてきたんだ。
やれる、私ならやれ――――




先生「はぶっ!?」

「 「 「!!?」 」 」




コケた。
そうだ、黒板の前には教壇があって段差があるんだった。
そりゃ目を瞑ってたら躓いて転ぶわ。
こりゃドジの烙印を捺されますわ。

「せ、先生……大丈夫ですか?」

「けっこー盛大にコケましたけど……」




何人かの生徒が、心配というか驚いたように声をかけてくれる。
そりゃびっくりするよね。
教壇から落ちそうになって転びそうになった先生こそいるけど、教壇に躓いてすっ転ぶ先生なんて私くらいだもんね。
私も見たことないよ。
泣ける。




先生「うん……大丈夫……ありがとう……」




心配(?)してくれた生徒たちにぎこちなく微笑みながら立ち上がり、改めて教壇に登って、黒板の前に立つ。
盛大にコケた後ということもあって、もう色々と吹っ切れた。




先生「……コホン。 皆さん、はじめまして。 始業式の時に私を見た人も多いと思いますが、今年から先生になってこの学校に配属され、この学校の二年生の国語を担当することになりました。 ……さっきみたいにコケることはもう無いと思うので、安心してね。 ごめんなさい、緊張してました」




私がそう言うと、クラスの生徒たちが苦笑いを浮かべた。

先生「さて、では最初に出席を取っていきます。 出席番号順に名前を呼んでいくので、呼ばれたら返事をお願いします。 あと、読みが間違っていたら教えてください」




一人ひとり、名前を呼んでいく。
誰もが初対面の子だったけど、一人だけ……見知った子がこのクラスにいた。




先生「少女さん」

少女「……はい」




私のお隣さん。
私が引っ越し蕎麦を渡した女の子。
その子が、私の教え子になる。
出席簿を確認した時、気付いた。
こんな偶然あるんだなって、思った。
少女ちゃんも、私が教室に入った時にびっくりしていた。




先生「……はい、全員出席していますね。 では、私にとって初めての授業を始めます。 よろしくお願いしますね」

―――――――――――――――――――――――




その日の夜。
初授業お疲れ様やら何やらのお祝いで教員の人との飲み会のあと。




母「こんばんは」

先生「あ……こんばんは」





アパートへの帰り道の途中、偶然にもお隣さん……少女ちゃんのお母さんに会った。
これまでに何度か会って軽い会話程度ならしているので、お互い顔見知り。
少女ちゃんは独り暮らしではなく、お母さんと二人暮らしだった。
少女ちゃんの家庭はひとり親で、お母さんが女手一つで少女ちゃんを育てているそうだ。

母「メールで聞きましたよ、娘から。 学校の先生だったのですね」

先生「はい。 と言っても、新人ですけど。 今日なんて緊張して教室で転んじゃいました」

母「ふふ……誰でも、初めては緊張するものです。 国語の授業だけになりますけど、娘をよろしくお願いします」

先生「はい、まだまだ至らない私ですけど、お任せください。 娘さんは勉強がとてもできるようなので、私が教わる立場にならないように私も勉強します……」

母「あの子はとても努力をする子ですから。 少しコミュニケーションを取るのが苦手なところもありますけど……」




少し暗い表情をして、少女ちゃんのお母さんは言った。




母「仕事で忙しくて娘に構ってあげられなくて。 そのせいで、色々と我慢させてしまうこともあって。 それが原因なのかなと」

先生「……」




私にはきちんと両親がいたから、片親の苦労がどれほどのものなのかはわからない。
これまで教えてきた子の中にも片親の家庭はあったけど。

母「……娘は表面上では冷たく見えてしまうかもしれませんけど、とても優しい子なんです。 何か誤解をさせてしまうこともあるかと思いますが、その時はごめんなさい」

先生「いえいえ、とてもしっかりしたお子さんですよ。 年齢にみあわず。 私なんてあの歳だとフラフラしてましたし」

母「ふふふ、私もそうでした」

先生「えー、お母さんからだと想像できませんよ」




そんな感じで談笑していたらアパートに着いたので、お辞儀し合って、それぞれのアパートの部屋に戻った。

―――――――――――――――――――――――




先生「……はい、それでは、来週はここからここまでの範囲で漢字の小テストを行います」




初授業から数日が経って、ようやく授業にも慣れてきた頃。
生徒たちも私に慣れてくれたようで、テストするよーと言ったら思い思いの不満の声をあげてくる。




先生「皆さんの気持ちもよくわかりますし、私も学生の頃は先生になったら絶対に面倒なテストは出さないとかなんとか思ってました。 でもね、こういう小さいテストを少しずつ出していかないと、皆さんの成績をつけるためには期末テストと授業態度だけで判断しなきゃいけなくなるの。 つまり、ほぼテスト一発勝負」

先生「国語は苦手な人もいると思うし、成績を上げるチャンスはたくさんあったほうがいいでしょ? だから、来週は小テスト。 オッケー?」




渋々といった表情で、生徒たちが頷く。

先生「大丈夫。 これからも小テストは出していくけど、難しくはしないから。 皆さんの成績を上げるためってことで許してね。 ちなみに出すのは10問。 それじゃ、今日の授業はおしまい!」

日直「きりーつ、礼!」

先生「また来週!」




ガタガタと生徒たちが席を立って教室を出ていく。
教壇でプリントの整理をしながら教室を見渡すと、窓際に席がある少女ちゃんが目に入った。
少女ちゃんのお母さんの言った通り、少女ちゃんはあまり人と関わろうとしないことが、ここ数日でわかった。
仲のいい友だちはいるみたいだし、お昼もその子たちと食べているのは見かける。
でも、授業が終わっても自分から友だちのところに行こうとはせず、よく一人で頬杖をついて窓の外を眺めていて、今もそうしている。




生徒1「せんせー! 質問があるんですけどー」

先生「あ、はいはい。 何かな?」

生徒2「先生は彼氏っているのー?」

先生「あ、授業の質問じゃないんだ……」

生徒1「で、どうなのどうなの?」




先生ってこういうことも答えなきゃいけないのかな? と思いつつ、答える。




先生「いないよ。 募集中」

生徒1「へーっ、前はいたりしたんですか?」

先生「うん。 といっても、二年前くらいの話だけどね」




話しながらちらりと少女ちゃんの方を見ると、友だちとおしゃべりをしていた。
楽しそうに笑っていたことになんとなく安心しつつ、生徒たちの質問攻めから逃げるように教室を出た。

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――




先生「……ふう。 明日の授業のプリントよし、と」




トントンとプリントの端を揃えて、ファイルに綴じる。




先生「お疲れ様でした、お先に失礼します」

「お疲れ様ー」

「おう、お疲れー」




残って仕事をしている先生方に挨拶をして、職員室を出る。
時刻は18時くらい。
こんなに早く帰ることができるのは初めてだった。
これからスーパーに寄って晩御飯の材料を買って、家に帰ったら溜まってるドラマでも見よう。
そんなことを考えながら、スーパーへの道を歩く。
この時間は結構混んでいるようで、スーパーの駐車場がいっぱいになっていた。
中もやはり混んでいる。

先生「うーん……」




目の前に並んでいる食材たちを見て、悩む。
独り暮らしを始めると、両親の有り難さがよくわかる。
特に、ご飯。
よく毎日違う献立を考えて作れるなって、独り暮らしを始めた時は思った。




先生「……」




献立を考えるのが大変とはいえ、お総菜には頼りたくない。
よし、今日は中華。
青椒肉絲を作ろう。
そう決めて必要なものを探し回っていると……。




少女「……あ」

先生「あ」




これまた偶然にも、買い物中であろう少女ちゃんにばったりと出くわした。
少女ちゃんの家族には、なにがしかの縁があるのかもしれない。

少女「……こんばんは」

先生「こんばんは。 少女ちゃんも、夕飯のお買い物?」

少女「そうです」

先生「夕飯はやっぱり少女ちゃんが作ってるの?」

少女「はい。 たまに母が作りますけど」

先生「そっか。 料理は得意なの?」

少女「いえ。 料理のレシピ本を見ながら作ることしかできません」

先生「それでもきちんと作れるならすごいよ。 世の中にはレシピ本を見ながらでも失敗する人がいるくらいだし」

少女「……」




少女ちゃんが、先生がそうだっただけでしょと言わんばかりにジト目で見てくる。




先生「いっ、いや、私はもうさすがにそんなことはないから!」

少女「前はしてたんですね」

先生「うっ……ちょ、ちょっといろいろ足したほうが美味しくなるかなって思っただけだし」

少女「基本ができてない時に応用なんてできるわけないでしょ。 先生方もよく言うじゃないですか」

先生「そうだね……そのとおりだね……」




……そういえば、少女ちゃんとこうやってゆっくり会話するのは初めてかも知れない。
近所とはいえお互い家を出る時間も帰る時間も違うし、学校で会っても挨拶をする程度だし。
少女ちゃんのお母さんとはたびたび会って会話はするけど。

少女「……必要なものは揃ったので、わたしは先にレジに行きますね。 失礼します」

先生「ん? あっ、待って待って。 一緒に帰らない?」

少女「……あの、わたしは生徒で、あなたは先生……ですよね」

先生「ん? うん。 でも、もう今日のお仕事は終わってるし。 今の私は、少女ちゃんにとってただのご近所さん。 違う?」

少女「……」




ふう、と少女ちゃんが小さく息を吐いて。




少女「……出入り口のところにいます。 遅かったらひとりで帰りますからね」

先生「おっけい、急いで行くから!」

―――――――――――――――――――――――




先生「少女ちゃんは今日の夕飯の献立どうしたの?」

少女「今日はグラタンを作ります。 母が好きなので」

先生「あ、確かに言ってたかも」

少女「……仲良いみたいですね、母と」

先生「ん。 結構ばったり会ったりするし、その時によく話すからかな」

少女「……そうですか」

先生「内容は少女ちゃんのことばっかりだけどね」

少女「え」

先生「少女ちゃんのお母さん、ほんとに少女ちゃんのことを可愛がってるんだなって思うよ。 少女ちゃんのことを話してるとき、すごく嬉しそうに話してるから」




少女ちゃんのお母さんと話しているときのことを思い出す。
本当に嬉しそうだったから、どれだけ少女ちゃんを大事に想っているかがよくわかる。

先生「いいお母さんだね、ほんとに」

少女「……先生のご両親はどうなんですか」

先生「私? 私の両親もいい人たちだったよ」

少女「だった、って……」

先生「あはは、もう死んじゃったんだ、二人とも。 私が大学生の時に」

少女「え」

先生「二人とも病気でねー。 私もびっくり」

少女「……すみません」

先生「いーのいーの、もう立ち直ってるから。 私ももううだうだ落ち込んでられる歳でも職でもないからね」

少女「……」




それから色々話したけれど、私の両親が死んだという話をしてから、少女ちゃんはずっと辛そうな表情をしていた。
いつも無表情でごく稀に笑顔を見るくらいだったけど、少女ちゃんの辛そうな顔を見るよりも、まだ無表情な顔を見ていたほうがマシだった。
……そんなこんなで、私たちのアパートに辿り着く。

少女「……それでは、失礼します」




ぺこり、と頭を下げて、少女ちゃんが自分の部屋のドアノブに手を掛けた。




先生「少女ちゃん」




中に入るのを引き止めるように、声を掛ける。
辛そうな表情のまま、お別れしたくなかった。




少女「……はい?」

先生「来週のテスト、忘れないように!」

少女「……」




きょとん、と呆けたような表情を、少女ちゃんがしている。

先生「お隣さんだからって、甘くは見ないからね?」

少女「……ふふっ。 今は先生生徒じゃなくて、お隣さん同士じゃなかったんですか?」




少女ちゃんが、笑ってくれた。




先生「それはそれ! これはこれ! ちゃんと勉強しておくこと!」

少女「はい、先生」

先生「うむ。 ではまた来週!」

少女「はい」




和やかな空気になったまま、笑顔で別れる。
よかった。
今まで何度か話す機会はあったけど、少女ちゃんを笑顔にさせるようなことはなかった。
色々と苦労してるはずだし、フォローはきちんとするべきだよね。
これがきっと、私の教師レベルのアップに繋がるはずだから。

―――――――――――――――――――――――




先生「……さて、この文章から読み取れる主人公の気持ちは……」




カリカリと黒板に書き込んでいく。
それを見ながら、生徒たちがノートに写していく。
いいなあ、これ。
黒板にチョークで文字を書く感覚って好きだし、こうやって何かを誰かに教えるのも好き。




先生「これは、この文章より前の行にある文章が根拠になっていて…… 」




教科書を読み上げながら、ちらりと少女ちゃんを見る。




少女「……」




いつものように無表情で、教科書を読んでいた。

先生「……はい、それでは今日進むのはこれまで。 というわけで、皆さんお待ちかねの小テストを始めまーす」




えーとかうわーとかいう悲鳴を聞きながら、小テストのプリントを配っていく。
いじわるしてるみたいで、ちょっぴり楽しい。




先生「終わった人は前に来て、私に提出してくださいね。 制限時間は十分間! スタート!」




スタートの合図と共に、一斉にカリカリとプリントに書き込んでいく音が鳴り響いた。
この音も結構好き。
この立場でそれを聞くのが小さな夢だった。
それが叶って、少しにやりとしてしまう。

先生「……」




教室内を見渡す。
真剣に解いている生徒、悩んでいる生徒……この視点から見る生徒たちは、本当に面白い。
三十人いれば、みんな違う。




先生「……ん」




三分くらい経ってから、がた、と一人の生徒が立ち上がった。
……少女ちゃんだった。




少女「……お願いします」




小声でそう言って、プリントを渡される。

先生「早かったね」




それを受け取りながら、私も小声で返す。




少女「ちゃんと勉強しろって、言われましたから」




少女ちゃんが微笑む。
私も微笑み返す。
次の生徒が来たので、少女ちゃんは席に戻っていった。

―――――――――――――――――――――――




少女「今日の小テストの時ですけど」

先生「うん?」




その日の放課後。
またスーパーで少女ちゃんと出くわして、また一緒に帰っているところ。




少女「先生、ずっとニヤニヤしてましたよ」

先生「え゛っ」

少女「何を考えてたんですか?」

先生「い、いや、決してやましいことじゃないんだけど……夢が叶って、ちょっと嬉しくなっちゃって」

少女「夢……?」

先生「うん。 私ね、テストの時とかの、皆が答案に答えを書き込んでる時の音が好きなんだ。 でね、その音を教師の立場で聞いてみたいなって思ってて」

少女「……変なの」

先生「自覚はあるけど言わないで欲しかったなー!」

少女「すみません、口をついて出ちゃいました」

先生「でも、そっかぁ……ニヤニヤしてたかぁ……他の子たちも気付いてたかなぁ」

少女「どうでしょうね」

先生「次からは気を付けないと。 先生が緩んでちゃダメだもんね」




改めて気合いを入れ直す。
夢が叶って、ちょっと浮かれてたかもしれない。

少女「……では、また明日の授業で。 失礼します」




私たちのアパートに着いて、少女ちゃんが部屋に入ろうとする。




先生「あ、そうだ」

少女「?」




いつかのように、それを引き留めるように私が話し掛ける。




先生「辛いこととか、悩みごととかがあったら遠慮なく相談していいからね。 休みの日とかでも、チャイム鳴らしていいから」




ドアのインターフォンを指差す。
いつかのように、少女ちゃんはきょとんとしている。




先生「私は片親じゃなかったから、どれだけ大変なのかは感じるしかないんだけど……色々と大変だと思うし、相談できる相手はいた方がいいかなって」

少女「……」

先生「いや、もう相談相手はいるかもしれないけど。 晩ごはん作るのめんどくさーいって時とかはこっちに来てくれたらご馳走くらいはできるし」

少女「……普通、教師は生徒にそこまでしませんよ」

先生「だろうね。 でも、それ以前にお隣さんでしょ?」

少女「……」

先生「お隣さんなら、困ってる時は助け合わなきゃ。 それに、少女ちゃん家には何か縁があるみたいだし」

少女「……わたしも、ちょっとそう思ってました」

先生「あ、やっぱり? 隣に引っ越してきて、まさかの授業を担当してる先生で、しかも近くのスーパーでよく会ってたら何かあるってさすがに思うよね」

少女「ふふ……はい」




少女ちゃんが微笑む。




少女「わかりました。 何かあれば、お願いします。 先生も、何かあればわたしたちを頼ってください」

先生「うん、ありがとう。 引き留めてごめんね、また明日」

少女「はい、また明日」




小さく手を振り合って、別れた。

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――




さて、そんな約束はしたけれど。
少女ちゃんからの相談は特に無いまま、春が終わって、夏がやって来た。
近づいてくる夏休みと一緒に、期末テストもやって来る。




先生「ちゃんと勉強してる? テストの」

少女「一応。 センセはちゃんとテスト作ってるの?」




スーパーからの帰り道。
この光景も、すっかり日常になってしまった。
この一、二ヶ月で、少女ちゃんとの距離がかなり近くなったと思う。
学校外では敬語じゃなくてもいいよと言ってみたら、すぐに敬語じゃなくなったし。
……私が尊敬するような歳上に見えないからかもしれないけど。

先生「残念でした、私は今回テストを作りませーん! らくちん!」




べー、と舌を出す。




少女「……うわ、うっざい」

先生「頑張ってね、テスト! あ、勉強見たげよっか?」

少女「センセがわたしの勉強を見るのは色々と問題あるでしょ」

先生「ん。 あ、そっかぁ……質問とかならおっけーかな?」

少女「テストの答えを教えてください」

先生「ダメです」

少女「質問もダメじゃん」

先生「その質問に答えるのと私が勉強教えるのって結果が同じになるでしょ」

少女「確かに」




笑い合う。
最近、私と話してる時の少女ちゃんに笑顔が増えてきた。

先生「少女ちゃんなら大丈夫、だなんてプレッシャーをかけるつもりはないけどさ」

少女「?」

先生「テスト、頑張ってね。 私も学生の頃はテストにすごく苦労させられたし……私の手伝える範囲であれば、手伝うから」

少女「例えば?」

先生「……勉強部屋を貸してあげるとか?」

少女「……なにそれ」

先生「いや、自分の部屋だと安心しすぎて勉強に集中できないとかよく聞くし、環境が変わると集中できるかなって」

少女「あんまりさっき言ったのと変わんないような気はするけど……」




少女ちゃんは、すこし思案するように顔を伏せた。




少女「……少し、お邪魔してみてもいい?」

先生「えっ」

少女「別に、ダメならいいんだけど」

先生「えっ、あっ、いやっ、全然いいよ? 流されるかと思って言ったから、まさか乗ってくるなんて予想外だっただけで」

少女「だろうね。 わたしもびっくりしてる」

先生「ん? 何に?」

少女「……わたしに」

先生「うん?」

少女「いつなら行っていいの?」

先生「うんと……いつでもいいっちゃいいんだけど、できれば事前に連絡が欲しいかな。 ケータイ、今持ってる?」

少女「うん」

先生「あ、悪い子だ」




うちの学校は、今どき珍しく携帯電話の持ち込み・使用が禁止されている。
……けど、あまり効力はないみたい。

少女「……嵌められた?」

先生「今は見逃したげよう。 ここは学校じゃないし。 というわけで、メルアド交換しよう? ちょっと待ってね、ケータイ出すから」

少女「LINEじゃないの?」

先生「ん。 私スマートフォンじゃないんだ」




鞄からケータイを取り出す。
今時珍しいガラパゴスケータイ。




少女「うわ、ガラケーだ」

先生「スマートフォンって慣れなさそうで使えないんだよねー……待ってて、今送るね」

少女「まあ、お母さんもガラケーだけど……こっちは準備オッケー」

先生「うん、知ってる……送ったよ」

少女「あ、きた……なんで知ってるの?」

先生「少女ちゃんのお母さんとメルアド交換したとき、おんなじだーって話したからね。 こっちの準備おっけー」

少女「……ふーん」

先生「あ、きたきた。 いつでも連絡してくれて構わないからね?」

少女「うん」

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国語教師「先生、ちょっといいですか?」

先生「あ、はい?」




その、翌日。
いつも通りに出勤して授業の準備をしていると、私とは違うクラスを担当している国語の先生に話しかけられた。




国語教師「テストの問題ができたので、誤字脱字などのチェックをしてもらおうと思いまして」

先生「いいですよー、お疲れ様です」

国語教師「こちらのほうで一度チェックはしたのですが、やはり自分では気づかないところもあると思うので……お願いします」

先生「はい。 明日までに終わらせますね」

国語教師「お願いします」




ペコリと頭を下げて、国語の先生が自分の机に戻っていく。
次は私もこんなテストを作るんだなあと思いながら、プリントに目を通していく。

先生「……解きながらのほうがチェックになるかな?」




なんとなくテストを見てたら解きたくなって、いそいそと筆記用具を取り出す。




先生「ふむふむ……」




問題や本文とにらめっこしながら、すらすらと問題を解いていく。
……というか、解けなきゃマズイ。
ほとんど教科書通りなわけだし、これを生徒たちに教えたのは私だし。




先生「……ん?」




すらすらと解いていたら、一番最後の問題で行き詰まる。




先生「ん? んー……」




どうやら、あの先生オリジナルの問題を最後に突っ込んできたらしい。
……難しいぞ、これ。

国語教師「……やはり誤字脱字がありましたか?」

先生「ん。 あ、いえ、ありませんでしたよ。 ただ、問題を解きながらチェックしてたんですけど、最後の問題で行き詰まってしまって……」

国語教師「ふふ、そうでしたか。 ええ、難しいですよ、それは」

先生「う、ぐ……でもこれ、生徒たちも解けないんじゃ……」

国語教師「どうでしょうね。 解ける生徒もいるかもしれません。 ここまで教科書をなぞってきただけの問題ばかりですから、自分で考える問題というのを加えたかったんです」

先生「……なるほど」

国語教師「でも、そうですね。 私自身も少し難しすぎたかなと思いましたし、もう少しレベルを下げてみます」

先生「うぐ、そうですね……」

国語教師「チェック、ありがとうございました。 また次もお願いしますね」

先生「はい……」




結局あの問題の答えはなんだったんだろうなぁと思いながら、鞄に筆記用具をしまう。
その時、ケータイの通知ランプが光っていることに気が付いた。




先生「ん、少女ちゃんからだ」




画面を開くと、少女ちゃんからメールが来ていた。
……時間的に、明らかに学校にいるときに送ってきたなこれ。
悪い子だ、いけないんだー。




少女『今日の夕方、お邪魔してもいいですか?』




これが少女ちゃんからの初メール。
敬語なのがちょっぴり微笑ましい。




先生『おっけーおっけー。 待ってるね』




そう返信して、ケータイを閉じる。
やっと頼ってくれたと嬉しくなりながら、次の授業の準備を始めた。

―――――――――――――――――――――――




先生「うーん……」




お仕事が終わって、in スーパー。
今日の夕飯はどうするか、悩む。




先生「少女ちゃんは嫌いなものってあるのかな?」




せっかく少女ちゃんがうちに来るわけだし、何かご馳走してあげたい。
少女ちゃんのお母さんでも食べられるような……。

少女「……こんばんは、センセ」

先生「あ、少女ちゃん。 こんばんは。 ちょうどよかった、少女ちゃんって嫌いな食べ物ってある?」

少女「え? いや、特には……」

先生「おっけー! じゃ、今夜はカレーでいいかな?」

少女「え」

先生「せっかく来てくれるんだし、夕飯くらい食べてって。 大丈夫、お母さんの分も作っておくから、お母さんが帰ってきたら一緒に食べよう!」

少女「え、でも」

先生「あ、お母さんに嫌いな食べ物ってある?」

少女「な、無いと思うけど。 あの」

先生「気にしない気にしない! んじゃ、三人分がっつり買わなきゃね!」

少女「……もう」

―――――――――――――――――――――――




先生「今日は何の勉強をするの?」




スーパーからの帰り道。
三人分の食材はさすがに一人では持ちきれなかったので、二人で分けて持つ。




少女「数学。 今回は結構難しそうだから」

先生「あー、数学の先生が難しくするって言ってた気がする」

少女「授業でも言ってた。 だから対策しないと」

先生「テストまであと二週間くらいだけど、みんな緊張してるよね。 先生として見てみると、結構面白いよ」

少女「他人事みたいに……」

先生「だって他人事だもん」

少女「酷い」

先生「ふふふ。 残念ながら、今回は私が国語のテストを作るわけじゃないし。 私が作るときは難しくはしたくないけど、今回の先生はどうだろうね」




今日チェックしたテストを思い出す。
最後の問題以外は教科書通りだし、平均点が低くなることは無さそうだとは思う。

先生「さ、着いたよ。 直接来る?」




私の部屋の鍵を開けて、ドアを開く。




少女「着替えてから。 少し待ってて」

先生「はいはい。 鍵開けとくから、準備ができたら入ってきて」

少女「ん」




一旦少女ちゃんと別れてから玄関に荷物を置いて、靴を脱ぎながらケータイを取り出す。
少女ちゃんのお母さんに、今日は私の家で夕飯を一緒に食べませんか、少女ちゃんも一緒ですとメールを送る。




先生「とりあえず冷蔵庫に突っ込んでおこう……よいしょっ」




エアコンを点けてからキッチンまで買ってきたものを持っていって、冷蔵庫にしまっていく。




先生「あ、そういえばお皿あったかな?」




食器棚を確認。
カレーに使えそうな大きなお皿は足りそう。
コップも大丈夫かな。

先生「……ん、はいはーい」




インターフォンが鳴ったので、急いで玄関のドアを開ける。




少女「……お待たせ」

先生「いらっしゃい。 鍵開いてるから入ってって言ったのに」

少女「できるわけないでしょ、そんなこと」




少女ちゃんの私服姿を見るのは初めてだなぁと思いながら、少女ちゃんを招き入れる。




少女「……お邪魔します」




脱いだ靴を綺麗に揃えて、少女ちゃんがリビングまでとてとてとついてくる。

先生「勉強部屋……と言っても寝室兼なんだけど。 ここ使って」

少女「別にリビングのテーブルでもいいんだけど」

先生「ん。 私、夕飯の準備だったりで色々動き回るかもだけど、平気?」

少女「平気。 センセが邪魔じゃなければ、ここがいい」

先生「そっか。 うんうん、邪魔じゃないよ」

少女「ん」




少女ちゃんが床にカバンを置いて、中から勉強道具を取り出す。




少女「あと、これ……」




少女ちゃんが遠慮がちに、大きめのタッパーを取り出した。




先生「ん?」

少女「昨日作ったやつだけど」




そう言って、蓋を取り外す。
ほのかに甘い匂いが漂う。

先生「……それ、シフォンケーキ? 少女ちゃんが作ったの?」

少女「うん」

先生「わあ、ありがとう! すごいね! お菓子作るのは難しくてニガテなんだよねー……」

少女「最初は難しいけど、慣れたら簡単だよ。 ご飯作るより楽しいし」

先生「へえ、じゃあ少女ちゃんに教えてもらおっかな。 お菓子作り」

少女「え、でも、教えられるほどじゃ……」

先生「そんなことないよ。 このケーキ、形綺麗だし。 味は食べないとわからないけど」

少女「……わかった、そのうちね」

先生「うん、約束!」




立ち上がって、キッチンに向かう。




先生「オレンジジュースでいいかな?」

少女「お構いなく」

先生「ぷっ、変なの」

少女「なんでよ」




冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、食器棚からコップを取り出して、リビングに向かう。
少女ちゃんは既に勉強を始めていた。

続きはまたのちほど

先生「プリント?」

少女「うん、数学のプリント。 テスト対策用の」

先生「ふうん……あ、ごめん。 話しかけない方がいいよね」

少女「別にいい。 数学なら話しながらでもできるし」

先生「得意なんだ?」

少女「うん。 国語は苦手」

先生「おっと、聞き捨てならないぞーその言葉はー」




話しながら、コップにオレンジジュースを注いでいく。




先生「はい」

少女「ありがと」




コップを少女ちゃんの邪魔にならなさそうなとこに置く。

先生「ねね、ケーキ食べてみてもいいかな?」

少女「いいよ」

先生「やったー!」




お皿とフォークを持ってきて、あらかじめ切り分けられているケーキをお皿に乗せる。




先生「いただきまーす」




まずは一口。
甘い、柔らかい。
手作りでここまでできちゃうんだ。




少女「……どう?」




不安そうに、少女ちゃんが私を見上げる。




先生「美味しいよ、すっごく。 お店に出せるんじゃない?」

少女「……それは言い過ぎ。 でも、よかった」




安心したように、少女ちゃんが勉強を再開させた。
その様子を見ながら、ケーキを食べる。

少女「……センセ」

先生「うん?」

少女「またニヤニヤしてる」

先生「えっ、うそっ」




こんなことをしてもわかるわけないのに、ぺたぺたと頬を触ってしまう。




少女「今度は何を考えてたの?」

先生「……教え子が家にいるって、不思議だなぁって思って」

少女「わたしも変な感じ」

先生「ふふ。 先生になったとき、こんなことになるなんて考えてもなかったし」




カリカリと、少女ちゃんが数学のプリントに答えを書き込んでいく。
傍らに教科書が置いてあるけど、一回も開かれていない。

先生「……ほんとに得意なんだね」

少女「ん?」

先生「数学。 教科書見なくてもすらすら解いてる」

少女「まあね」

先生「でもここ、間違ってる。 計算ミス!」

少女「え」




慌てて少女ちゃんが指摘された問題を確認する。




少女「あ……」




少女ちゃんが計算ミスに気が付いて、書き直す。

先生「ふふ」

少女「……何さ」

先生「昔を思い出しちゃって」

少女「昔?」

先生「うん。 昔ね、家庭教師やってたの」

少女「へえ……そういえば、センセはどうして学校の先生になろうと思ったの?」

先生「誰かに何かを教えるのが好きだから、かな。 私が教えると、教えた子の為になる。 それが好きなんだ」

少女「……」

先生「それに、楽しいよ? こうやって誰かに教えるのって」

少女「……変なの」

先生「こらー! 自分で聞いたんでしょー!」




つんつんと、少女ちゃんの額をつつく。




少女「体罰だ」

先生「うっ」

少女「いけないんだ」

先生「こっ、ここは学校じゃないし」

少女「苦し紛れ?」

先生「あ、あー、そういえば少女ちゃんのお母さんにメール送ったの忘れてたー」

少女「こら、逃げない」




カバンを手繰り寄せて、ケータイを取り出す。

先生「あ、返信来てた」

少女「なんて?」

先生「帰ったら来てくれるって。 よし、準備しとこう」




立ち上がって、再びキッチンへ。




先生「あ、質問あったら呼んでね。 数学は専門じゃないけど、家庭教師の頃には教えてたし」

少女「……センセって苦手な科目ないの?」

先生「理科は苦手かなー」




カレー用のお鍋を物色しながら、答える。




少女「理科は教えたことないの?」

先生「うん。 あんまり勉強もしてなかったし」

少女「そうなんだ」




カリカリという音を、背中から聞く。
やっぱりいいなぁ、この音。

先生「あ。 寒くなったらクーラー止めてもいいからね」

少女「うん、平気」

先生「そっか」




底が深くて大きめのお鍋を引っ張り出す。
お母さんが死んじゃって遺品を整理しているときに、お母さんがこれでよくカレーを作ってたことを思い出して泣いてたっけ。
捨てちゃおうと思っても捨てられなくて、結局持ってきちゃって……まさか使うことになるなんて。




先生「……」




ゆっくりと丁寧に、お鍋を洗っていく。




少女「……丁寧に洗うんだね」

先生「わっ、少女ちゃん。 お勉強は?」

少女「プリントが終わったから、ひとまず休憩。 いつもそんなに丁寧なの?」

先生「ううん……このお鍋だけ、特別」

少女「……そっか」




何かを察したのか、少女ちゃんはそれ以上何も聞かなかった。

少女「何か手伝うこと、ある?」

先生「ううん、少女ちゃんはゆっくりしてて。 お客様なんだから」

少女「でも……」

先生「……あ、じゃあ、野菜の皮剥いてくれる?」

少女「あ、うん」

先生「とりあえずニンジンからお願い。 はい、ピーラー。 皮はこっちので、剥いたのはこっちの容器にお願い」

少女「わかった」

先生「ごめんね、休憩中なのに」

少女「ううん、気にしないで」




きっと少女ちゃんは、何かしてないと申し訳ないって思うタイプの子だ。




少女「結構量作るつもりなの? 多いね」

先生「カレーは作り置きができるからね。 グラタンにだってできるし、そのまま食べても美味しい。 らくちん! 一人暮らしの味方!」

少女「……そっか」

先生「あ、明日の朝とか食べる? 分けとこっか?」

少女「いいの?」

先生「うん! ケーキのお礼!」

少女「……あんなので良ければ、いつでも作るけど」




少女ちゃんと並んで、キッチンに立つ。
誰かと並んでキッチンに立つのは……お母さんを除けば、初めてだ。

先生「……ふふ、ほんと、変な感じ」

少女「確かに」

先生「おかしいよね」




先生と生徒が同じキッチンで並んでお料理。
おかしくて笑い合いながら、準備を進める。

少女「……センセ」

先生「ん?」

少女「……ありがとね」




ニンジンの皮を剥きながら、少女ちゃんがそんなことを言った。




先生「……なんのこと?」

少女「いろいろと。 センセが気にかけてくれたから……わたし、前より気が楽になったから。 センセが頼ってもいいって言ってくれたから、辛くなったら頼ればいいやって、頑張れるようになったから」




だいぶ前に、私が少女ちゃんに言ったことだ。
頼られてる感じはしなかったけど、少女ちゃんは少女ちゃんなりに私を頼ってくれてたんだ。




少女「だから……ありがとう」

先生「……ううん、こちらこそありがとう。 少女ちゃんと少女ちゃんのお母さんとお友だちになれたおかげで、初めての教師生活もうまくいってるし」




今度は照れながら、笑い合う。




先生「これからもよろしくね、少女ちゃん」

少女「……うん、よろしく」

―――――――――――――――――――――――




先生「……ん、おいし」




数時間後。
出来上がったカレーの味見をしてみる。
美味しい、懐かしい味だった。
数分前に少女ちゃんのお母さんからもうすぐ帰るとのメールが来たので、眠ってしまっている少女ちゃんを起こさないと。




先生「少女ちゃーん」




リビングのソファで眠っている少女ちゃんに、声をかける。




少女「ん……」

先生「お母さん、もうすぐで来るって」

少女「ん……おかあさん……?」




薄目を開いて、少女ちゃんが私を見る。

先生「うん、お母さん。 ほら、起きよう?」

少女「う……ん……」




悪い夢でも見てるのかな。
苦しそうに、少女ちゃんが声を出す。
早めに起こしてあげた方がいいかもしれない。




先生「少女ちゃん、起きて、起きて」

少女「うぅ……ん……」

先生「少女ちゃんっ!」

少女「……っ!? なっ、なにっ!?」




私が少し大きな声で少女ちゃんを呼ぶと、びくりと少女ちゃんが反応して飛び起きた。




少女「ん……あれ……」

先生「おはよ、少女ちゃん」

少女「……わたし、寝ちゃってたんだ」

先生「うん。 机に突っ伏して寝ちゃってたから、ソファに運んじゃった」

少女「……起こしてもよかったのに」

先生「いっぱい勉強してたし、疲れてたでしょ? 起こせなくて」

少女「疲れはあるけど……うわ、もうこんな時間なんだ」

先生「うん、ぐっすりだったね」

少女「こんなに寝ちゃったら、夜寝られなくなっちゃうじゃん。 もう、起こしてよ」

先生「あはは、ごめんね? 少女ちゃんの寝顔が可愛かったから」

少女「なっ」




少女ちゃんの顔が真っ赤になる。

先生「お母さんもうすぐで来るから、準備しよう? テーブル拭いてくれる?」

少女「……うん」

―――――――――――――――――――――――




先生「少女ちゃんはご飯の量ってどれくらいがいい?」

少女「普通。 カレーのルーと同じくらいでいい」

先生「これくらいでいいかな。 お母さんはどれくらいかな?」

少女「同じで大丈夫」

先生「おっけーおっけー。 よし、じゃあ並べよう」

少女「ん」




カレーを盛り付けたお皿を三つ、並べていく。
テーブルのスペースがちょっときついかも。




先生「……あ、来たかな?」




並べ終えたところで、インターフォンが鳴り響く。
急いで玄関に行き、ドアを開ける。

母「こんばんは、先生」

先生「こんばんはー! お待ちしてました、ちょうど準備が終わったとこですよ!」




少女ちゃんのお母さんは仕事帰りから直接来たようで、スーツ姿のままだった。
荷物を受け取って、部屋に招き入れる。




母「すみません、お邪魔します」

先生「いえいえ、いらっしゃいませ」

母「いい匂いですね」

先生「ふふ、今日はカレーなんです」




お喋りしながら、リビングに向かう。
リビングでは少女ちゃんが、みんなのコップにお茶を注いでいるところだった。

少女「お母さん、お帰りなさい……は、ちょっと違うかな」

母「ふふ、そうですね」

先生「いいんじゃない? お帰りなさいで。 我が家だと思って」

少女「初めて来るお家で、さすがにそれは無理でしょ」

先生「そうかなあ……あ、たぶんわかるとは思いますけど、洗面所やお手洗いはあそこです。 ご自由にどうぞ」

母「ありがとうございます。 少しお借りしますね」




いそいそと、手を洗いにお母さんが洗面所に向かう。




先生「お母さんが来るまでもうちょっと待ってよっか」

少女「ん」

先生「お腹すいた?」

少女「結構すいてる」

先生「ふふ、そっか」




少ししてから、お母さんが戻ってくる。
それぞれの席について、手を合わせて。




先生「では、いただきまーす!」

少女&母「 「いただきます」 」




まずは、少女ちゃんとお母さんがカレーを口に入れるのを見守る。

少女「……ん?」

母「……?」




カレーを口に入れて、二人が同時に首をかしげる。




少女「これ……お出汁の味がする……?」

母「鰹節……ですか?」

先生「ふふ、正解。 このカレー、鰹節で出汁を取ってから作ってるの」

少女「だ、出汁入りカレー……初めて食べた……」

母「私も、作ったことないですね。 これはこれで美味しいです」

先生「ふふふ、ありがとうございます」

少女「どうして出汁入りなの?」

先生「おふくろの味ってやつかな」

少女「おふくろの……あ……」




はっとしたように、少女ちゃんが口を噤む。
少女ちゃんのお母さんも少女ちゃんから話は聞いていたのか、辛そうな表情をしている。

先生「と言っても、かれこれ二年くらい食べてないんだけどね。 みんなが来るから、食べさせてあげたくって」

先生「こうやって三人で食卓を囲むのって、本当に久しぶりだから……」




昔を思い出す。
まだお父さんとお母さんが生きていたころの食卓。
三人で他愛もない話をしながら、お母さんの作ったカレーを食べた。
温かかった、私の、大切な家族。
……それはもう、今では思い出と写真の中のものでしかなくなってしまった。




少女「……センセ」

先生「……うん?」

少女「センセは、独りじゃないから」




少女ちゃんが微笑む。




母「……そうですね。 先生には、私たちがいます」

先生「……ありがとうございます」




少女ちゃんのお母さんも、一緒に微笑んだ。




少女「今度は家に来なよ。 また三人でご飯食べよう?」

先生「……うん、そうさせてもらおうかな。 ありがとう、少女ちゃん」




私も微笑み返す。
……いい人たちだなあ、本当に。

―――――――――――――――――――――――




母「今日はありがとうございました。 娘がお世話になって、夕飯までご馳走してもらってしまって」

先生「いえいえ、私も楽しかったですし。 私が言い出したことですから」




そして、楽しかった夕食会も終わって。
靴を履いて、少女ちゃんたちと一緒に外に出る。




母「とても楽しかったです。 このお礼はいつか必ずしますね」

少女「センセ、ありがとね」

先生「うん。 おやすみなさい、お二人さん」

少女「おやすみなさい」

母「おやすみなさい」




手を振って別れて、部屋に戻る。




先生「……うーん。 こうして見ると、寂しげだなあ」




さっきまで三人いた部屋は、今では私一人。
これまでこの部屋でずっと一人だったのに、急に寂しく感じてしまう。

先生「……ん」




クレードルに差し込んでおいたケータイが、振動で着信を告げる。
ケータイを開いて確認すると、少女ちゃんからメールが来ていた。




少女『今日はありがとうございました』




それだけ。
さっき別れるときもお礼を言われたのに、改めてメールを送ってくるなんて。
律儀だなあ。




先生『こちらこそありがとう、楽しかったよ。 またいつでもおいで』

少女『はい。 おやすみなさい』

先生『おやすみ』

―――――――――――――――――――――――




さて。
そしてやってくる、テスト期間。




先生「はい、今からテスト用紙を配りますので、筆記用具以外はしまってくださーい」




生徒のみんなは、うわーとかぎゃーとか言いながら、教科書やらをしまう。
……懐かしいなあ。
学生の頃の私もこんな感じだった。




先生「両面印刷なので、不備があれば手を挙げてください。 無ければ、チャイムが鳴るまで名前を書いて待機していてください」




窓際に置いてあった椅子に座ると同時に、チャイムが鳴った。




先生「はい、始めてください」




一斉に、カリカリとテストに解答を書き込む音が響く。
授業の小テストとははるかに違う緊張感が漂っている。
今でこそこうして座って生徒たちを見ているだけでいられるけれど、ほんの数年前は私もひーひー言いながら勉強して、せめて赤点は取らないようにと願いながらテストを受けてたっけ。
高校までは赤点こそ無かったけど、結果は散々だったなあ。
高校から……先生になりたいって思うようになってからは必死に勉強して、成績もよくなった。

……そういえば、私に教えることの楽しさを教えてくれたあの子は、どうしてるかな。
私が教えたときは中学生だったから、今は……大学生だろうか。
どこの大学に入ったんだろう。
懐かしいな……。

―――――――――――――――――――――――




……あれは、私が高校生の頃だった。
私は、両親とマンションの一室に住んでいた。
その時のお隣さん……今と同じように片親だったけど、そこの人と両親が仲が良くて。
ある時、そこのお隣さんに勉強嫌いの息子さんに勉強を教えてやってほしいと頼まれて、承諾して。
それが私が誰かに勉強を教える、初めての体験だった。

先生「……ええと、それじゃ、数学から始めよっか」

男の子「……」




私はお隣さんの息子さんとあまり話したことがなかったから、最初はお互い緊張してあまり話せなかったし、教えるのもぎこちなかったと思う。
特に息子さんのほうは勉強のやる気なんて全く無さそうだったし、正直イラってくることもあった。
でも、一年が経つとお互いに慣れてきて。
息子さんは勉強が楽しいと思えるようになったみたいで、私が教えてるとき以外でも熱心に勉強をするようにまでなった。
そして、私の進路を決めなきゃいけなくなったり、受験勉強に取りかからなきゃいけなくなって、ボランティアの家庭教師をやめなきゃいけなくなった時。




男の子「……今日で最後なんだ」

先生「うん、ごめんね」

男の子「いや、いーよ。 おねーちゃんのお陰で、俺、勉強できるようになったし。 楽しいって思えるようになったし。 ……ありがとう、おねーちゃん」




その言葉だった。
教えるのは楽しいと、教師になりたいと思うようになったキッカケは。




先生「……そっか、よかった。 勉強頑張れ、少年!」

男の子「おねーちゃんもな! 彼氏作れよ!」

先生「余計なお世話だぞ、このガキー!」

―――――――――――――――――――――――




先生「お疲れさまでしたー!」

「お疲れさまー!」




仕事を終えて外に出て、校門をくぐる。
スーパーへの道をのんびりと歩きながら、夢を追いかけてたあの頃が一番楽しかったなあと考える。




先生「……あ」

少女「あ」




スーパーに着くと、出入り口のところで少女ちゃんが立っていた。

先生「やっほー、少女ちゃん」

少女「……こんばんは、センセ」




少女ちゃんが微笑んだ。
並んで、スーパーに入る。




先生「テストどうだった?」




今日が二日間あったテスト期間の最終日。
生徒たちはテスト結果に対する絶望の予感ともうすぐ夏休みが始まることへの興奮がごちゃ混ぜになっていたようで、いつもよりも学校中が騒がしくなっていたことを思い出す。

少女「難しかった。 国語の最後の問題」

先生「ん、そっかー……あれはオリジナルの問題だって作った先生が言ってたからね……それ以外は?」

少女「たぶん大丈夫」

先生「そっかそっか。 いっぱい勉強したもんね」

少女「うん」




テストの直前まで、少女ちゃんはちょくちょく私の部屋に勉強をしにやって来た。
役に立てたのなら、嬉しい。
もちろん、教えたりとかはしていない。
間違いは指摘したけど。




先生「もうすぐ夏休みだね」

少女「うん」

先生「少女ちゃんは予定あるの?」

少女「バイト」

先生「そっか」




片親だし、仕方ないのかもしれない。
……大変なんだなあ、本当に。

少女「センセは?」

先生「特に決まってないかな。 生徒ほど夏休み長くないし」

少女「そうなんだ」

先生「うん。 ちょこちょこ学校に行かなきゃいけないからね」




夕飯の食材を見繕いながら、おしゃべりをする。
今日は……肉豆腐にでもしようかなあ。




少女「そういえば、センセってお酒飲むの? 買ってるとこ見たことないけど」

先生「たまにね。 あんまり強くないから」

少女「ふうん……センセ、酔ったらめんどくさそう」

先生「なんか少女ちゃん最近失礼じゃないかな?? 私、一応先生で……」

少女「学校から出たら先生じゃないって言ったのはセンセでしょ」

先生「言ったけど! 言ったけど!! 私酔っても普通だし!」

少女「ふーん」

先生「信じてないなその目はー!」

少女「うん」




冷たく言い放って、少女ちゃんが特売のシールが貼られた豚バラ肉を手に取る。

先生「少女ちゃんはきっと良いお嫁さんになるよ。 毒舌だけど」

少女「なに、急に。 あと毒舌は余計」

先生「ここのセールとか知り尽くしてるし、料理もできるし。 あと毒舌だし」

少女「……そりゃね。 お母さん、買い物に行く暇なんてないし。 ご飯だって疲れて作れなさそうだし」

先生「うん。 その気遣いがさ、良いお嫁さんになれそうだなって。 毒舌だけど」

少女「……なんなの、最後の毒舌って。 褒めてるの? 貶してるの?」

先生「だって私に対してすんごい毒舌じゃん」

少女「だって全部事実でしょ」

先生「……そうだけどさあ」




必要なものをカゴに入れ終わり、レジに並ぶ。




少女「……まあ、お嫁さんは無いと思うよ」

先生「うん? どうして?」

少女「……」




少女ちゃんが目を伏せる。
言いにくそうだった。

先生「……そういえば、少女ちゃんのお母さんは、夏休みってあるの?」




助け船のつもりで、話題を変える。




少女「……ん。 あるにはあるけど、短いよ」

先生「ふうん……私とおんなじだ」

少女「社会人になると学生よりも休みが短くなるんだね」

先生「うん、痛感してる」




お会計を済ませて、スーパーから出る。
二人並んで、てくてくと帰り道を歩いていく。

先生「夕方も蒸し暑いね……」

少女「うん」




涼しげな表情で答える、少女ちゃん。
まったく暑そうに見えない……。




先生「少女ちゃんさ、海って好き?」

少女「あんまり行ったことないからわかんない」

先生「……そっか。 じゃ、夏休み中に一緒に行かない? もちろんお母さんも一緒に!」

少女「……」




少女ちゃんは思案するように顎に手を当てて。




少女「……いいかも。 お母さん、休ませてあげたいし」

先生「やった! じゃあ、日にちの候補はあとで伝えるから、無理だったら言ってね」

少女「わかった」




海へ行く約束を取り付けたところで、私たちの住むアパートに着く。

先生「それじゃ、また来週の授業でね」

少女「……うん」




なんとなく浮かない顔をして答える、少女ちゃん。




先生「……どうしたの?」

少女「……」




少女ちゃんが俯く。




先生「何か嫌なこととか、あった?」

少女「……ううん、違う」




首を振って、少女ちゃんが否定した。




少女「……センセ」

先生「うん?」

少女「相談したいことが……あるの」




初めてのことだった。
少女ちゃん自らが、相談を持ちかけてくるのは。
信頼……されてるのかな。

―――――――――――――――――――――――




少女「……お邪魔します」

先生「座って待ってて。 今飲み物出すから」

少女「……ん」




少女ちゃんが、私の家に来たら必ず座る位置に腰かける。




先生「はい、お待たせ」

少女「ありがと」




少女ちゃんの前にオレンジジュース入りのコップを置くと、少女ちゃんが早速口をつけた。




少女「……いつもオレンジジュースだよね」

先生「うん? ああ、ミカンとかオレンジとか、柑橘系の果物が好きだからだよ。 麦茶かオレンジジュースしか置いてないの。 嫌いだった?」

少女「ううん」

先生「それで、相談したいことって?」

少女「……うん、それを話す前に話さなきゃいけないことがあるの」

先生「うん?」

少女「わたしの家が、片親の理由」

先生「……」




なんとなく気になってはいた。
でも、あまりにもデリケートすぎる話だったから、聞けるわけがなかった。

少女「……その、重いというか、暗い話になっちゃうんだけど。 ……聞いてくれる?」




不安そうに、上目遣いで少女ちゃんが尋ねてくる。




先生「もちろん。 それで少女ちゃんが少しでも楽になるんなら」

少女「ありがと」




少女ちゃんが微笑んだ。
これまでにない、安堵しきったような微笑みだった。

少女「じゃあ、話すね。 まず、わたしにお父さんはいないの」

先生「……え?」

少女「いるにはいるんだけどね。 この世界のどこかに、わたしと血の繋がってるお父さん。 でも、わたしはその人に会ったことがないから」

先生「……そうなんだ」

少女「うん。 お母さんから聞いた話だけど、わたしのお父さんは既婚者だったみたいで、わたしのお母さんと不倫をしてたらしくて。 お母さんはお父さんが既婚者だって知らなくて、結婚まで考えてたみたいで……」




……正直、予想外だった。
少女ちゃんのお母さんがお父さんに浮気されて離婚したとか、死別したとか、勝手に予想してしまっていた。




少女「赤ちゃん……わたしがデキたことを伝えたら、逃げちゃったんだって。 まったく音沙汰なしになっちゃったけど、何ヵ月かしたら、向こうの奥さんから連絡があって」

少女「色々あって、向こうも離婚して、お母さんも慰謝料を受け取って。 それで……わたしが産まれて、今があるの」

先生「……そっか」




何て言えばいいのかわからない。
相談に乗ると言っておきながら、励ますことすらできないなんて。

少女「……それでね、ここからが相談なんだけど。 そういうことがあったから、わたしには……好きとか恋とか、わからないの」

先生「そうなの?」

少女「うん。 誰かを好きになったことはないし、家族以外で信頼してる人なんていないし」

先生「……ふうん」




信頼されてるわけじゃなかったんだ。
……寂しいな。




少女「……センセはもう、家族みたいなものでしょ?」




一人寂しさを感じていたら、それに気づいたのか、あるいはそれを狙って言ったのか。
悪戯っぽい微笑みを浮かべて、少女ちゃんが言った。

少女「それが、さっき言ったことの理由なの」

先生「さっき言ったこと……って、お嫁さんは無いって言ってたこと?」

少女「そう。 人を好きになるって、わからない。 どうして好きになるのか、どうやったら好きになるのか……わからない」

先生「……ふふ、そだね。 それはきっと、誰にもわからないよ」

少女「え?」

先生「私は昔彼氏がいたし、誰かを好きになったことはあるよ。 でも、どうして好きになったんだろうとか、どうやって好きになったんだろうだなんて考えたことなかったし、今考えてもわかんない」

先生「さっき少女ちゃんが言ってたみたいに、少女ちゃんはまず人を信頼するとこから始めないと。 そしたらきっと、その人の良いところが見えてくる。 うまくいけば……好きになるかもしれない」

少女「……好きになるって、どんな感じ?」

先生「すっごくドキドキして、好きな人のことばっかり考えちゃうよ」

少女「……そっか」




今の私の答えを噛み締めるように、少女ちゃんが目をつむる。




少女「ありがとう、センセ。 頑張ってみる」

先生「うん」




少女ちゃんが立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。

少女「それじゃあ、帰るね。 お邪魔しました」

先生「うん、またいつでもおいで」




靴を履いて、少女ちゃんが玄関のドアノブに手を掛ける。
そこで、くるりと私を振り向いた。




少女「そういえば……わたし、腹違いの兄がいるの」

先生「そうなの? 会ったことあるの?」

少女「うん、小まめにメールもくれるし、たまに挨拶に来てくれる。 最初は正直鬱陶しかったけど……お父さんのこと、ごめんなさいって何回も謝ってて。 その人はなにも悪くないのにね。 いい人なんだなって思った」

先生「……そだね。 きっといい人だよ」

少女「うん。 あとね」

先生「ん?」

少女「今日話したこと、秘密だよ。 お母さんにも、学校のみんなにも。 こんなこと話したの、お母さんとセンセにだけだから」

先生「……うん、おっけー」




少女ちゃんが人差し指をたてて、口に当てて言った。
素直に嬉しかった。
信頼されてるってことが。




少女「それじゃ、また明日……はセンセの授業ないんだっけ。 また来週だね」

先生「うん、また来週。 と言っても、その辺で会うかもしれないけどね」

少女「かもね」




笑い合って、少女ちゃんを見送った。

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――




先生「ふあー、あっつぅ……」




さてさて、やってきました夏休み。
ゴミ出しに朝から外に出たけど、ばっちり日が照っていてすごく暑い。




「……おはようございます、センセ」

先生「ん? あ、おはよう」




挨拶をされて振り向くと、少女ちゃんが立っていた。




先生「少女ちゃんもゴミ出し?」

少女「ううん、バイトに行くところ」

先生「えっ、こんな朝早くから?」

少女「うん、人手が足りないんだって。 行ってくるね」

先生「あ、うん。 行ってらっしゃい、気を付けてね」

少女「うん、行ってきます」




無理してないのかなあ。
心配だけど……私が口出しするのも余計だろうし……。

「おはようございます、先生」

先生「……あ、おはようございます、お母さん」




あれこれ考えていると、スーツ姿の少女ちゃんのお母さんが歩いてきた。




母「娘に会いました?」

先生「はい。 バイトへ行くと」

母「そうなんです、こんなに朝早くから……家のことは大丈夫だから遊んでおいでとは言ってあるんですけど」




少女ちゃんのお母さんが苦笑する。




母「いつもいつも、娘には迷惑と苦労をかけてばかりで……」

先生「……少女ちゃんは、何かしてないと申し訳ないって感じてしまう性格のようですから。 迷惑だとは感じてなさそうですが……無理をしてないか、少し心配ですね」

母「そうですね、気を配ってはいるんですが……あの子もなかなか強情なところがありますし。 言っても聞かないときというのがあってしまって」

先生「いい子なんですけどね~……もう少しだけ、肩の力を抜いてもいいと思うんですけど……」

母「ええ、本当に。 ……それでは、私も行って参りますね」

先生「はい。 お気を付けて」

母「ありがとうございます、失礼します」




ぺこりと頭を下げて、少女ちゃんのお母さんが立ち去っていく。




先生「うーん……何とかしたいとは思うけど、余計なお世話かもしれないし……」




難しい問題だった。

―――――――――――――――――――――――




そんなこんなで数日が経って、私もちょこちょこ学校へ行って。
ある日のこと。




先生「……ぷっ、あははっ」




朝。
休みだった私が、早く起きてしまったのでのんびりとテレビを観ていた時。
その時間帯に、珍しくインターフォンが鳴った。
何かの勧誘かな……?




先生「はい?」




インターフォンの受話器を取って、呼び掛ける。

『お隣の、少女の母です。 すみません、お願いしたいことがあるのですが……』

先生「あ、はい。 ちょっと待っててください!」




こんな時間にどうしたんだろう。
なんとなく不安を覚えながら、急いで玄関のドアを開けた。
困ったような表情をした、スーツ姿の少女ちゃんのお母さんが立っていた。




先生「すみません、お待たせしました。 何でしょう?」

母「朝早くにすみません。 実は、娘が体調を崩してしまいまして……」

先生「少女ちゃんが!?」




やっぱり、無理してたんだ。

母「はい。 それでもバイトへ行くと言って聞かなくて……今は寝かしつけてあるんですが、私は仕事を休むこともできなくて」

先生「……なるほど。 私が少女ちゃんの様子を見ていれば?」

母「はい。 お願いできますでしょうか……」

先生「私は構わないんですけど……いいんですか?」

母「いえ、先生だから、お願いしたいんです」

先生「……わかりました。 お母さんが帰ってくるまで……で、いいですか?」

母「はい。 ごめんなさい、お休み中でしたのに……」

先生「いえいえ、いいんです。 私も心配ですし。 少女ちゃんのことは私が責任持って看病してますね。 安心して、お仕事頑張ってください」

母「すみません、本当にありがとうございます。 あの子は入ってすぐ右側の部屋で寝ているので、お願いします」

先生「わかりました。 お気を付けて、行ってらっしゃい」




手を振って少女ちゃんのお母さんを見送ってから、少女ちゃんの家に入る。

先生「入るのは初めてだなあ……少女ちゃん、寝てるかな」




部屋のドアをノックしてみる。




『……どうぞ』




あ、起きてた。
そーっとドアを開いて、中を覗く。




少女「……センセ」




ベッドに寝転がって弱々しく微笑む少女ちゃんと、目が合った。




少女「話……聞こえてた。 ごめんなさい。 お母さん、過保護だから……」

先生「ううん、気にしないで。 いいお母さんだよ」




少女ちゃんが寝ているベッドの縁に腰掛ける。

先生「具合はどう?」

少女「あんまりよくないけど……少し寝たら楽になるから。 バイトお昼からだし、行きたいんだけど……」

先生「ダメ」

少女「……だよね」

先生「バイト先に電話は?」

少女「……まだしてない」

先生「じゃあ、しないと」

少女「……ほんとに行っちゃ、ダメ?」

先生「……実習中の時にいた学校でね、勤務時間中に熱で倒れた先生がいたの」

少女「……? うん」




よくわからないといった表情で、少女ちゃんが首をかしげた。




先生「その時、救急車呼んで、その先生の代わりで授業に出られる先生探して……って、すっごく大変だったんだ」

少女「……そう、なんだ」




何が言いたいのか、伝わったみたい。

先生「少女ちゃん、優しいよね」

少女「な、なに、急に」




恥ずかしそうに、少女ちゃんが布団を目元まで引き上げた。




先生「少女ちゃんは優しいから、バイト先に迷惑をかけたくなくて無理して行こうとしてるってわかるの。 でも、本当に迷惑をかけたくないなら、きちんと休もう? しっかり休んで、ばっちり回復して、それでバイトに行こう?」




少女ちゃんの頭を撫でる。
本当に熱があるようで、熱かった。




少女「ん……」

先生「ね?」

少女「……うん……」




私に頭を撫でられながら、しぶしぶ頷く少女ちゃん。
不覚にも……可愛いと思った。

先生「じゃ、電話しよう」

少女「うん」




少女ちゃんがスマートフォンを手に取って操作してから、耳に当てた。




少女「……あ、おはようございます、少女です。 すみません、今日のシフトなんですけど、体調を崩してしまいまして……はい、はい……すみません、ありがとうございます。 はい、失礼します」




少女ちゃんがスマートフォンを耳から離してから脇に置いて、寝転がった。




先生「なんて言ってた?」

少女「代わりは探しておくからゆっくり休めって」

先生「うん、じゃあゆっくり休もう」

少女「……いいのかな」

先生「うん?」

少女「お母さんは仕事で頑張ってるのに、わたしだけ休んでるなんて……」

先生「……少女ちゃんのお母さんだって、休んでほしいって思ってるから私を呼んだんだよ。 お母さん、心配してたんだから」

少女「……」




申し訳なさそうな顔をして、少女ちゃんが俯いた。

先生「……もうちょっとだけ、肩の力を抜いてもいいんだよ。 少女ちゃんは頑張りやさんなんだから、たまにはお休みしなきゃね」




少女ちゃんの頭をゆっくりと撫でながら、言う。




先生「無理しちゃダメだよ。身体は大事にしないと」

少女「ん……」




少女ちゃんが、心地良さそうに目をつむる。
そのまま少女ちゃんが眠るまで、私はずっと少女ちゃんの頭を撫でていた。

―――――――――――――――――――――――




少女「……んぅ……?」

先生「……あ、起きた?」




頭を撫でながら少女ちゃんの寝顔を眺めていたら、少女ちゃんがゆっくりと目を開いた。
時計を確認すると、時刻はお昼を回っていた。




少女「センセ……」

先生「おはよ、少女ちゃん。 お昼だけど、何か食べられそう?」

少女「おなかすいた……」

先生「そっか。 じゃあちょっと買い物に行ってくるね」

少女「うちの……使えばいいのに」

先生「んーん、晩ご飯の買い物もついでに行きたいし。 待ってられる?」

少女「うん……」

先生「食べたいもの、ある?」

少女「……ゼリー」

先生「……わかったけど、デザート系じゃないものは?」

少女「なんでもいい……」

先生「ん、わかった。 じっとしてるんだよ? 寝ててもいいからね」

少女「ん……」




ぽんぽんと少女ちゃんの頭を叩いて、立ち上がる。

少女「あ……センセ、これ……」




少女ちゃんがベッドの脇にある棚から鍵を取り出して、私に差し出した。




先生「……あ、そっか。 鍵かけなきゃだもんね」

少女「うん……」

先生「おっけい、ちょっとだけ借りるね。 行ってきます」




少女ちゃんから鍵を受け取って、家を出た。

―――――――――――――――――――――――




……行ってしまった。
あの人は、本当によくわからない人だ。
今まで会ったどの先生とも違う。




少女「……うう」




寝返りをうって、考える。
あの人は、何を思ってわたしを看病してくれてるんだろう。
先生生徒はもちろんのこと、普通、お隣さんだからってここまでするものだろうか。
本当にあの人はお人好しで、優しくて、すごい色々と損とかしてそうで、でもそれを平気平気って笑ってそうで、心配で……。




少女「……っ」




熱が上がってきた気がするけど、きっとこれは……風邪のせいだけじゃなさそうだ。
この胸の動悸もきっと、あの人が言っていた……。

―――――――――――――――――――――――




先生「ふうっ……」




買い物を終えて。
玄関のドアの鍵を開け、中に入る。
少女ちゃんは……寝てるかもしれないし、声をかけるのはご飯ができたらにしよう。




先生「失礼しまーす……」




リビングを経由して、キッチンに向かう。
キッチンで小さめのお鍋を拝借して、水を多めにしてお米を炊く。
その間に卵を溶いて、お米が炊けたら溶いた卵を入れて、塩で味付けして。

先生「うん……できた! 卵がゆ!」




食器棚から とんすい を一つ拝借して、卵がゆを盛る。
買ってきたお茶のペットボトルと一緒にお盆に乗せて持って行って、少女ちゃんの部屋のドアをノックする。
……返事はない。




先生「やっぱり寝てるのかな……」




静かにドアを開いて、中を覗く。
微かに寝息が聞こえるから、寝てるみたい。
起こさないと冷めちゃうけど、寝ているところを起こすのは申し訳ない。




先生「……うむ、どうしよう」

少女「んん……センセ……?」




悩んでいたら、もぞもぞと少女ちゃんが起き上がった。

少女「おかえり、センセ」

先生「ただいま。 卵がゆ作ったけど、食べられそう?」

少女「うん、ありがと」




少女ちゃんに卵がゆが盛られた とんすい とスプーンを手渡す。




少女「ふー、ふー……あむ」

先生「あ、食べさせてあげた方が良かった?」

少女「んぐっっ、けほっ、げほげほっ! なっ、何言ってんのっ」

先生「ふふ、冗談冗談。 美味しい?」

少女「……うん」




ふてくされたような顔で、少女ちゃんが卵がゆを口に運んでいく。
……可愛いなぁ。

少女「……センセ」

先生「うん?」

少女「ニヤニヤしてる」

先生「えっ」




慌てて頬を触る。




少女「また昔のことでも思い出してたの?」

先生「いや……」




否定しかけて、言い淀む。
『少女ちゃんが可愛かったから』と、何故か言えなかった。

先生「……うん、まあ、そうかな」

少女「なに、今の間」

先生「ほらほら、早く食べないと冷めちゃうよ。 そういえば、ゼリーは冷蔵庫に入れておいたからね」

少女「あ、うん」

先生「食べたくなったらいつでも言って。 取りに行くから」

少女「……ありがとう、センセ」

先生「気にしないで。 あ、ちなみにミカン味ね!」

少女「……うん、予想はしてた。 そういえば味言わなかったなって見送ってから思ったし」

先生「ふふふ、これで学んだね。 私に何も言わないと、ミカン味になるって」

少女「別にいいよ。 嫌いじゃないし」

先生「ちなみに、何味がよかったの?」

少女「なんでもよかったよ。 ……あ、ごちそうさまでした」




少女ちゃんが卵がゆを平らげた。




先生「まだちょっとおかわり残ってるけど、食べる?」

少女「今はいらない。 センセはお昼どうするの?」

先生「…………あっ、考えてなかった」

少女「……スーパーで何買ってきたの」

先生「少女ちゃんのお昼と、私の晩ごはん……」

少女「どうして晩ご飯は頭にあったのにお昼ご飯は抜けてたの……」

先生「……卵がゆ、食べていい?」

少女「……いいよ」

―――――――――――――――――――――――




『ただいま戻りましたー……』

先生「ん」




玄関から声が聞こえたので、少女ちゃんの部屋から出る。




先生「あ、お帰りなさい、お母さん」

母「ただいまです。 少女、どんな感じですか?」

先生「熱が上がってきてしまって。 今は眠ってますが……少し苦しそうです」




少女ちゃんのお母さんと並んで、少女ちゃんの部屋に入る。
少女ちゃんは苦しそうに息をしながら眠っていた。

母「そうですか……すみません、今日はありがとうございました、先生」

先生「いえいえ。 あ、晩ご飯はテーブルの上に置いてありますから。 さっき作ったばかりですけど、一応温めて食べてみてください」

母「本当にすみません、何から何まで……」

先生「いいんです。 困ったときはお互い様ですから」




少女ちゃんの頭をそっと撫でる。




先生「またね、少女ちゃん。 お大事に」

少女「ん……センセ……」




苦しそうにしていた少女ちゃんが、ふにゃりと微笑んだ。

母「……久しぶりに見ました。 少女のこんな安心しきった笑顔は」

先生「そうなんですか?」

母「ええ。 最近は何かとかまってあげられなかったものですから。 ……それでも不満を言わない少女に、私が甘えてしまうんですよね」

先生「……仕方ありませんよ。 お母さん、忙しいでしょうし」




話しながら、玄関に向かう。




母「いつも肩肘を張らせてしまってますから、どこかのタイミングで休ませてあげたいとは思っていたんです」

先生「そしたら、少女ちゃんが風邪を引いてしまったと」

母「はい。 こんな結果で休ませたくはなかったんですけどね……」




少女ちゃんのお母さんが、苦笑いを浮かべる。




先生「お母さんも気を付けてくださいね。 少女ちゃん、いつも心配していましたから」

母「……はい」

先生「では、失礼します。 おやすみなさい」

母「今日はありがとうございました。 おやすみなさい」

―――――――――――――――――――――――




その翌日。




少女『風邪、治りました。 昨日はありがとうございました』




仕事で学校に来ていた私が休憩中にケータイを開くと、少女ちゃんからそんなメールが来ていた。




先生『治って良かった。 しばらく安静にね』

少女『うん。 お礼に今夜、センセの家に晩ご飯作りに行きたいんだけど』

先生『えっ、いいよいいよ。 病み上がりなんだからじっとしてないと』

少女『センセには迷惑ばっかりかけてるから。 食べたいもののリクエストってある?』

先生『じゃあ、お言葉に甘えまして。 鶏肉が食べたいかな』

少女『わかった。 いつ頃帰ってこれそう?』

先生『19時は過ぎると思う。 20時までには帰られるかな』

少女『わかった。 それくらいの時間に行くね』

先生『うん、ありがとう。 お願いします』




ケータイをしまう。
実際、晩ご飯を作ってもらえるのはすごく助かる。
仕事から帰って、お風呂入って、洗濯して……ってやってたら、ご飯をきちんと作る気力なんてない。
少女ちゃんの作ってくれる料理を楽しみにしながら、私は仕事を再開させた。

―――――――――――――――――――――――




先生「ふへぇ、やっと帰ってこれた……」




時刻は21時過ぎ。
思っていたよりも仕事に苦戦してしまって、ここまで遅くなってしまった。




先生「うぅ……とりあえずシャワー浴びなきゃ……」




フラフラとガスのスイッチを入れたところで。
玄関のチャイムが鳴り響いた。




先生「……ん? はーい?」




こんな時間に誰だろうと思いながら、玄関のドアを開いた。

少女「……こんばんは、センセ」

先生「あ……」




思い出した。
少女ちゃんが晩御飯を作ってくれるって話。




少女「忘れてたでしょ」

先生「ぎくっ……ごめんなさい」

少女「別にいいよ。 忙しかったんでしょ」

先生「……待っててくれたんだ」

少女「うん、作るって言ったのはわたしだし。 上がっていい?」

先生「あ、どうぞどうぞ」




少女ちゃんを部屋に招き入れる。




少女「下ごしらえはしてあるから、焼くだけですぐできるよ。 センセはゆっくりしてて」

先生「そっか。 じゃあシャワー浴びてきてもいいかな?」

少女「うん。 キッチン借りてるね」

先生「うん、お願いします。 なんでも使って」

―――――――――――――――――――――――




先生「はふう……」




シャワーから上がって、服を着て。
頭にバスタオルを被ったまま、リビングに向かう。
リビングでは、少女ちゃんがお皿を並べているところだった。




少女「……あ、センセ。 もう少しででき――――っ!?」




少女ちゃんが私に気が付いて何かを言いかけて、すぐに慌てて顔を逸らせた。




先生「? どうかした?」

少女「……っ、ううん、なんでもない。 もう少しでできるから、早く髪乾かして」

先生「おっけー。 お腹すいたぁ」




洗面所に向かって、ドライヤーのスイッチを入れる。
横目でリビングを見ると、少女ちゃんがテキパキとした動作でテーブルの準備を整えていた。

先生「……好きがわからない、か」




以前に相談されたことを、思い出す。
私も誰かを好きになるまで、どうやって好きになるのか、好きってどんな感じなのかわからなかった。
でも、実際に誰かを好きになって、わかった。
どうやって好きになるのかなんてわからない、わかるはずない。
だってある瞬間に突然、その人のことを意識してしまうから。
……少女ちゃんにも、その瞬間が来るといいな。
誰かを好きになるって、きっと素敵なことだから。




先生「少女ちゃんにも体験して欲しいんだけど……難しいのかな」




少女ちゃんの家庭環境は複雑だ。
他人を信じられないというのも納得がいく。




少女「何か言ったー?」




と、少女ちゃんがリビングから尋ねてくる。




先生「んーん、なんでもなーい!」




ドライヤーのスイッチを切って、答えた。

―――――――――――――――――――――――




先生「ん、美味しい!」

少女「……よかった」




少女ちゃんが微笑む。
少女ちゃんは私のリクエスト通り、鶏肉を使った料理を作ってくれた。
誰かが作ってくれた料理を食べるのは、本当に久しぶりのことだった。




先生「ご飯作ってくれて、本当にありがとね。 少女ちゃんが作ってくれなかったら、きっと今日はカップ麺か晩ご飯食べないかのどっちかだったよ」

少女「そんなに疲れてたんだ」

先生「うん。 晩ご飯作る気力無いなあってくらいには」

少女「……そっか。 役に立てたんなら、嬉しい」




少女ちゃんがはにかんだ。

少女「これからもちょくちょく作りに来るね」

先生「えっ、それはさすがに申し訳ないよ」

少女「わたしがやりたいだけだし、お礼も兼ねてるから」

先生「うーん……無理させたくないんだけど……」

少女「別に、無理じゃないし」

先生「そう言って体調崩したの、誰だったっけ?」

少女「……でも、ほんとに。 これくらいは無理じゃないから」

先生「ううん、ダメ。 少女ちゃんには精神的にも時間的にも余裕を持って欲しいし」

少女「じゃあ、バイトのシフト減らすから。 そしたらいいでしょ?」

先生「んーん、そしたらその分休まなきゃ」

少女「……どうしても?」

先生「どうしても」

少女「センセは、嫌なの?」

先生「え?」

少女「わたしが、作りに来るの」

先生「……嫌じゃないよ。 嬉しいし、すごく助かる。 ただ……少女ちゃん、絶対無理してるから」

少女「……」




少女ちゃんが俯いた。

少女「……わたしの言葉、そんなに信用ない?」




顔を上げて、少女ちゃんが不安そうに訊いてきた。




先生「少女ちゃんの大丈夫って言葉は信じてないかなあ」

少女「……だよね」




少女ちゃんが、再び俯く。




少女「……それでも、わたしは作りに来たい」

先生「それは……無理してでもってこと?」

少女「……うん」

先生「別にいいんだよ? お返しとか考えなくても。 私はお礼のために少女ちゃんの看病をしたわけじゃないし」

少女「……じゃあ、どうして看病してくれたの?」

先生「どうしてって、それは……」




……どうしてだろう。
どうして、あそこまで心配になったんだろう。
私が先生で、少女ちゃんは生徒だから?
……ないない、生徒が風邪引いたからって看病しに来る先生なんていない。
じゃあ、お隣さんだから?
お隣さんなら、こういうこともあるのかな……?
わからない。
どうして私は、少女ちゃんのためにあそこまでやったんだろう。
同情してるから? 可哀想だから?
それとも……信頼に応えたいから?

少女「……センセ?」

先生「……ん、あ、あはは……どうしてなんだろうね」




わからない。
わからないけど……ただ、私は……。




少女「……うん、センセ、優しいもんね」

先生「……え?」

少女「センセは優しいから気にかけてくれてるんだって、わかってる。 お隣さんだから助け合おうって言ってくれた時も、相談相手になってくれるって言ってくれた時も……優しいなって、思った」




優しい微笑みを浮かべて、少女ちゃんが続ける。

少女「前に相談したこと、覚えてる? わたしの生い立ちから、『好き』がわからないって話」

先生「うん」

少女「その時から、ずっと考えてた。 わたしは本当に他人を信頼できるのか、好きになることができるのかって。 でもね……昨日、わかっちゃったの」

先生「昨日?」

少女「そ、昨日。 センセ、言ったよね。 好きになったら、すごくドキドキして、その人のことばっかり考えちゃうって」

先生「うん」

少女「わたしね、センセに頭を撫でられてた時、ずっとドキドキしてた。 センセが買い物に行っちゃった時も、帰っちゃった時も……ずっと、センセのことが頭から離れなかった」

少女「……気付いちゃったの。 わたし、センセが好きなんだって」




一瞬、理解できなかった。
私が、告白されてるんだってことが。

少女「……おかしいよね。 わたしも女の人を好きになるなんて、考えたこともなかった。 人を好きになるのって、こんなにドキドキして……こんなに、辛いんだね」

先生「少女ちゃん、私……」

少女「ううん、何も言わないで。 わかってる、いけないことなんだって。 ただ、わたしは伝えたかっただけ。 わたしでも人を好きになれたよって」

先生「……」

少女「わたしがセンセに料理を作ってあげたいのは、少しでも一緒にいたかったから。 好きだから……傍にいたいの。 それくらいは……許してくれるよね……?」




最後の方はほとんど泣き声で、少女ちゃんが懇願した。
私はただ、頷くことしかできなかった。

少女「よかった…………ぐすっ、ごめんなさい、わたし、帰るね。 また明日っ……」

先生「あっ……ま、待って!」




立ち上がった少女ちゃんの腕を、慌てて掴んだ。




先生「これっ、あげる……ご飯、お願いね……?」

少女「……うんっ」




渡したのは、この部屋の合鍵。
少女ちゃんは泣き笑いの表情でそれを受け取って、ぱたぱたと部屋を出ていった。

―――――――――――――――――――――――




先生「……」




ベッドの上でぼんやりと考えるのは、さっきのこと。
まさか告白をされるなんて思ってもいなかった。
これまでに何度か告白をされたことはあるけど、女の子にされたのは初めてだった。




先生「うぅん……」




何も言わなくていい、わかってるからと少女ちゃんは言っていた。
きっと、少女ちゃんは悩んだんだと思う。
だって私は女で、少女ちゃんも女の子で。
私は先生で、少女ちゃんは生徒で。

先生「私が少女ちゃんを気に掛けるのは……」




ただ、支えたかったから。
一人で頑張る少女ちゃんを支えてあげたかった、助けてあげたかった。
それだけだったはず。
それだけだった、はずなのに。




先生「……なのにどうして、こんなにドキドキしてるの……」




今までなんともなかったはずなのに。
同性となんて、考えたこともなかったのに。
なのに……ドキドキして、身体が熱くて……。
……ん?
あれ、ほんとに熱っぽい……?

―――――――――――――――――――――――




先生「……風邪引いた……」




けほけほと咳をしながら、呟く。




先生「とりあえず、少女ちゃんに伝えないと……」




ケータイを取り出して、『風邪を引いちゃったから、今日は作りに来ないように』とメールする。




先生「あたま痛ぁ……」




ケータイを枕元に置いて、目を瞑った。

―――――――――――――――――――――――




先生「……んぅ」




目が覚める。
いつの間にか眠っていたみたい。
今は何時かと時計を確認しようとしたら、額がじんわりと冷たいことに気が付いた。




先生「……あれ、これ……」




額に手を当てると、布のような感触があった。
冷えピタか何かだろうか。

少女「……センセ」

先生「ん? え」




聞き慣れた声がした方向を向くと、少女ちゃんがベッドに腰掛けて微笑んでいた。
その姿を見て、ドキリとした。
一瞬どうしてここにいるんだろうと考えたけど、昨晩合鍵を渡したことを思い出した。




少女「具合はどう?」

先生「ばっちり、とは言えないかなぁ……ごめんね、お見舞いに来てくれたんだ」

少女「うん……その、ごめんなさい。 きっと、わたしから感染っちゃったから」

先生「少女ちゃんのせいじゃないよ。 私が予防しなかったのが悪いんだし」

少女「……」




私がそう言っても、少女ちゃんは申し訳なさそうに俯いた。

先生「少女ちゃんは悪くない悪くない」

少女「ん……」




起き上がって、少女ちゃんの頭を撫でる。
少女ちゃんの髪の毛はとてもサラサラしていて指通りがよくて、撫でていて心地よかった。




少女「……あんまり、こういうことしないで」

先生「どうして?」

少女「……もっと、好きになっちゃいそうだから」

先生「……」

少女「あ……ごめんなさい、困らせちゃって……」

先生「……ううん、いいよ」




困っていたわけじゃない。
少女ちゃんの気持ちの表現があまりにストレート過ぎて……ドキドキしていた。
やっぱり私は、少女ちゃんが……。

先生「少女ちゃん、お見舞いありがとう。 ここにいたらまたぶり返しちゃうかもしれないから、帰った方がいいよ」

少女「平気。 ここにいる」

先生「ダメ」

少女「……心配なの」

先生「その気持ちは嬉しいよ。 でも、ダメ。 まだ病み上がりなんだから」

少女「…………わかった」

先生「うん、ありがとう」




少女ちゃんがベッドから降りて、部屋のドアノブに手を掛けた。




先生「……少女ちゃん」

少女「何?」




どことなく不機嫌そうな表情で、少女ちゃんが振り向いた。

先生「私もね、心配なの。 少女ちゃんのこと」

少女「……うん、わかってる」

先生「うん。 でも、わかってない」

少女「?」

先生「好きだから、心配なんだよ」




いつかのように、少女ちゃんが呆けたような顔をした。




少女「……え……」

先生「明日、晩ご飯お願いできるかな?」

少女「え、あ、う、うん……」

先生「じゃあ、お願い。 色々話したいこともあるし。 ね?」

少女「あ……う、うんっ!」




不機嫌そうだった少女ちゃんが、笑った。
これまで何度も少女ちゃんの笑顔を見てきたけど、ここまで無邪気な笑顔を見たのは初めてだった。

―――――――――――――――――――――――




先生「お疲れさまでしたー……」




翌日。
誰もいない職員室に挨拶をして、学校を出る。
昨日休んでしまった分の仕事を今日の仕事と一緒に片付けていたら、そこそこの時間になってしまった。
腕時計を確認すると、すでに22時を回っていた。




先生「うー……少女ちゃん、寝ちゃったかもなあ……」




今から帰ると少女ちゃんにメールを送る。
とぼとぼと歩いて、アパートに着く。
鍵を開けてドアを開くと、晩ご飯の良い香りが漂ってきた。
玄関には、見慣れた靴が一足。

少女「おかえりなさい、センセ」




靴を脱いでいたら、エプロン姿の少女ちゃんが出迎えてくれた。
よかった、待っててくれたんだ。




先生「ごめんね、遅くなっちゃった」

少女「ううん。 体調はどう?」

先生「全然大丈夫!」

少女「治って良かった……ご飯もうすぐでできるから、早くお風呂入ってきて」

先生「うん、ありがとう」

―――――――――――――――――――――――




先生「いただきまーす」

少女「いただきます」




手を合わせてから、少女ちゃんの作った料理をいただく。




少女「……それで、昨日の話だけど」

先生「ん? 食べてからじゃダメ?」




少女ちゃんが黙ってこくこくと頷いた。




先生「……うん、わかった」




一度箸を置いて、お茶を飲む。

先生「ん……えっと、どう話せばいいかな……」

少女「……昨日言ったことって、本気なの?」

先生「私が少女ちゃんに好きって言ったこと?」

少女「っ……うん」

先生「もちろん本気だよ。 少女ちゃんが好き」




自分でも噛み締めるように、想いを伝える。
間違いない。
この胸のドキドキも、少女ちゃんといる時の安心感も……全部、少女ちゃんが好きだから。




少女「本気、なんだ……」

先生「うん」

少女「……」




顔を赤くして、少女ちゃんが俯いた。

少女「わたしも、センセが好き……」




俯いたまま、か細い声で少女ちゃんが呟いた。




先生「うん、ありがとう。 私も好きだよ、少女ちゃん」

少女「……うぅ」




少女ちゃんの長い黒髪から少しだけ出ている耳が、真っ赤になった。




少女「……好きって言われるの、恥ずかしい……」

先生「ふふ、そっか。 私もドキドキする」

少女「全然そんな風に見えないから……」

先生「大人だもん」




もちろん、ただの虚勢。
少女ちゃんの作ったポテトサラダを一口。
美味しい。

少女「……わたしだけがドキドキしてるみたいなんだけど」

先生「そんなことないよ」

少女「え……えっ」




少女ちゃんの手を掴んで、私の胸に当てた。




先生「……わかる? 今、すっごいドキドキしてるの」

少女「……」

先生「少女ちゃん?」

少女「……やわ……らか……」

先生「こら」

少女「いたっ! ……あっ、ごっ、ごめんなさいっ!」

先生「少女ちゃんのえっち」

少女「ぅ……ごめんなさい……」




しょんぼりと少女ちゃんが俯いた。
なんだか今日の少女ちゃんは俯いてばっかりだ。

先生「女の子でも、おっぱいが大きい女の人って気になる?」

少女「……」




少女ちゃんが、ふるふると首を振った。




先生「あれ、そうなの?」

少女「センセのだから……気になって……」




蚊の鳴くような声で、少女ちゃんがそんなことを言った。




先生「……もう、恥ずかしくなるようなことばっかり言わないでよ」

少女「ご、ごめんなさい……」




お互いに顔を赤くして、俯く。

少女「……ほんとに、ドキドキしてた」

先生「……うん」




気まずい空気を感じながら、晩ご飯を再開させる。




先生「……美味しいよ、ご飯」

少女「……ありがと」




今までは普通に話せていたのに、今は色んな気持ちが邪魔をしてまともに少女ちゃんの顔すら見ることができない。
結局少女ちゃんと想いを伝え合ってからの初めての晩ご飯は、気まずい空気の中、無言で終わってしまった。

少女「……そろそろ、帰るね」




洗い物までしてくれた少女ちゃんが、手を拭きながら言った。




先生「ん……そっか。 今日はありがとね」

少女「ううん。 明日も来てもいい?」

先生「うーん……少女ちゃんがキツくない日は来てもいいよ」

少女「何それ」

先生「少しでも疲れたなって感じたら、来ちゃダメってこと」

少女「……センセは、どうなの?」




玄関まで歩きながら、少女ちゃんが恐る恐るといった感じに尋ねてくる。




先生「うん?」

少女「わたしに、来てほしくない?」

先生「……来てほしいし会いたいけど、少女ちゃんに無理はしてほしくない」

少女「……そ、そっか……」




少女ちゃんが靴を履く。

少女「……わたし、前に『好き』がわからないって言ったよね」

先生「うん。 あ、もうわかった?」

少女「……うん。 すごく、いいね」




少女ちゃんが立ち上がって、微笑んだ。




少女「でもね……好きって、不安だね」

先生「不安?」

少女「うん……言葉だけじゃ、不安。 だから……」




少女ちゃんが後ろ手に腕を組んで、私を見上げた。

少女「……証明、してほしいの」




少女ちゃんが顔を真っ赤にして目を閉じて、私に唇を差し出した。
私の顔が熱くなってきたのがわかる。
少女ちゃんの柔らかそうな唇が、私の唇を待っている。
それは……すごく私を、ドキドキさせた。




先生「……いくよ?」




私が言うと、少女ちゃんはより強く目を瞑った。
震える少女ちゃんの頬に手を当てて、顔を近づける。
そのまま私も目を閉じて、そっと唇を触れ合わせた。




少女「んっ……ぅ……」




唇と唇が触れ合った瞬間、少女ちゃんの身体が強張った。
それは一瞬で、その後はすぐに私に身を任せるようにキスに没頭した。

先生「ふ……ん……っ」




……少女ちゃんの唇はすごく柔らかくて、今までしたキスの中で一番心地がよかった。




少女「んぅ……」




少女ちゃんが後ろ手に組んでいた腕を私の首に回して、抱きついてくる。
その行為があまりに可愛くて、愛おしくて。
私も、少女ちゃんを抱きしめ返した。




少女「ん、は……はふ……」




唇が離れた。
余韻に浸るように、お互いに見つめ合う。

先生「……どう?」

少女「すご……かった……」




顔を真っ赤にして唇に手を当てて、少女ちゃんが言った。




少女「キスって……こんな、こんなに、幸せなんだ……」





うわ言のように、少女ちゃんが呟いた。
すごく嬉しい言葉だった。

先生「もう一回したら、もっと幸せになるかな?」

少女「え」

先生「ね、少女ちゃん」




少女ちゃんの顎に指を当てて、くい、と上を向かせる。




少女「だ、だめ……」

先生「どうして?」

少女「もったいない、から……」

先生「……ふふっ。 大丈夫だよ、少女ちゃん。 キスは、いくらしたって減らないから……」

少女「センセ……あ、ん……」




二回目の、キス。
柔らかくて、身悶えそうになる。




少女「ふぁ……せんせぇ……」




唇を離すと、少女ちゃんがすっかりとろけきって、うっとりとした表情で私を見つめてきた。
少女ちゃんのこんな表情、見たことない。
背筋がぞくりとして、頭の中で何かが弾けそうになった。
それを必死にセーブして、少女ちゃんから身を離した。

少女「あ……」




少女ちゃんから身を離すと、少女ちゃんが寂しそうな顔をして私を見た。
今の私にはそれを直視できなくて、目を逸らす。




先生「ほら、そろそろ帰らなきゃ。 お母さんも帰ってくるでしょ?」

少女「……うん。 そだね」




少女ちゃんが玄関のドアに手を掛けて、振り向いた。




少女「また明日ね、センセ」




甘えたような声で言って、少女ちゃんが微笑んだ。




先生「うん。 でも、無理はしないでね。 おやすみなさい」




さっきからドキドキしっぱなしの胸を抑えながら、私も微笑み返す。
手を振って、少女ちゃんを見送った。

―――――――――――――――――――――――




その日の、翌日のこと。
仕事を終えてスーパーに寄ったら、少女ちゃんがいた。
想いを伝え合った後なので若干の気まずさ……というか、気恥ずかしさを感じながらも、私は少女ちゃんに話しかけた。




先生「こんばんは、少女ちゃん」

少女「ん、あ……こんばんは、センセ」




少女ちゃんが私に気付いて、微笑む。




少女「ごめんなさい、センセ。 今日は……」

先生「ううん、気にしないで。 無理しないでって言ったでしょ?」




今日は少女ちゃんが晩ご飯を作ってくれるという約束だったけど、予定ができて無理になったとメールをもらっていた。
だから、私はこうしてスーパーに晩ご飯の食材を買いに来ている。

少女「急だったけど……今日はね、兄が来るの」

先生「お兄さん? ああ、前に話してたね」

少女「うん。 いっつも来るときは急なの。 その度にちゃんともっと前に連絡ちょうだいって言ってるのに」




少し膨れて、少女ちゃんがボヤいた。
こんな顔もするんだなあって思った。




少女「だから……本当に、ごめんなさい」




本当に申し訳なさそうに、少女ちゃんが謝る。




先生「いいよいいよ。 家族と水入らずの団欒なんでしょ? 大切にしないと」

少女「……センセだって、家族みたいなものだもん」

先生「うん、ありがとう。 その言葉だけで充分だよ」

少女「ん……」




少女ちゃんの頭を撫でる。




先生「さてと、今日の晩ご飯はどうしよっかなー」

少女「……センセ」

先生「ん?」

少女「……ありがとう」

先生「うん?」

少女「なんとなく」

先生「?」

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――




さて、スーパーからの帰り道。
少女ちゃんと並んで、日の落ちた道を歩く。




少女「ごめんなさい、荷物持ってもらっちゃって……」

先生「あはは、気にしないで。 一人じゃキツいでしょ」




いつもより倍くらいある、買い物袋。
それを二人で分けて持っている。
お兄さんは男の子だし、いっぱい食べるよね。




先生「お兄さん、いくつ?」

少女「大学生。 一年生だったかな」

先生「ふうん……」




そんな感じに話しながら歩いてアパートに着くと、少女ちゃんの部屋の前に男の子が立っていた。
その男の子がこちらに気付いて、歩いてくる。

少女「お、お兄ちゃん!?」




お、お兄ちゃん!?




兄「久しぶり、少女ちゃん。 元気してたか?」

少女「う、うん……というか、着いたなら連絡してってば! いっつも言ってるでしょ!」

兄「スマフォの電池、切れちゃったんだよ」




お兄さんがスマートフォンのストラップを摘まんで、ぶらぶらと揺らした。




兄「それで、そちらの方は……」

少女「あっ! えっと、こちら、わたしが通ってる学校で国語を担当してる先生だよ」

先生「初めまして。 少女ちゃんのお隣に住んでる者です」




少女ちゃんに紹介されて自己紹介すると、お兄さんは驚いたような顔で私を見ていた。

兄「……せ、先生……?」

先生「え? あ、はい。 一応学校の先生ですけど……」

兄「いや……覚えていないかもしれませんけど、俺です! あの、先生が高校生の時に隣に住んでて、片親で、勉強を教えてもらっていた……」

先生「……あー!! えっ、あのときのがきんちょ!? うそっ!? うわー、こんなイケメンになっちゃってー!」

兄「本当にお久しぶりです。 また会えるなんて思ってもいませんでした ……ずっとずっと、お礼を言いたかったんです!」

先生「あはは、お礼なんていいよ。 あの時の私なんて、ちゃんと教えられてたかも怪しいし」

兄「そんなことないっすよ。 先生のお陰で俺は勉強ができるようになったし、学校の先生になりたいって思うようになったんです」

先生「学校の先生に!? あのがきんちょが!?」

兄「でも、先生に先を越されてたなんて……」

先生「ふふふ、今年からね。 私もキミにお礼を言わなきゃいけないんだ」

兄「え? 俺に?」

先生「うん。 私もね、キミに勉強を教えたことがキッカケで先生になりたいって思うようになって、今こうして先生をやってるの。 だから、ありがとう」

兄「先生……」

少女「……むぅ。 ほらお兄ちゃん、家入るよ! こんなとこで話し込んでちゃ迷惑でしょ!」

兄「あっ、おい!?」




少女ちゃんがドアを開けて、がきんちょ――――お兄さんを押し込んだ。
少女ちゃん、お兄ちゃんって呼んでるんだ……。

少女「じゃあセンセ、またねっ」

先生「え? あ、うん……また……?」




怒ったように少女ちゃんが言って、少し乱暴にドアを閉めた。




先生「……世界って、狭いなあ」




静かになったアパートで、ぽつりと呟く。
本当に、少女ちゃんの家族……と言えるかどうかはわからないけど、少女ちゃんの家族には何かしらの縁があるみたいだった。

―――――――――――――――――――――――




先生「ぎゃーっ! 遅刻遅刻ーっ!」




翌日の朝。
見事に寝坊をかましてしまった私は、慌てて身支度を整えて部屋を飛び出した。
すると……。




少女「もうっ、時間ないんでしょ! 早く行かないとっ!」

兄「いーや! 聞かせてくれるまで帰らないね!」




ちょうど、少女ちゃんたちが部屋から出てくるところだった。




少女「あ」

兄「あ、おはようございます」

先生「おはよう。 これからお出かけ?」

兄「いや、帰るとこっす。 先生は?」

先生「あ、帰っちゃうんだ。 私はこれから仕事――――あっ!!」




腕時計を確認。
走ってギリギリ間に合うかどうか。

兄「どうしたんすか?」

先生「遅刻ギリギリなの! ごめん! 行かなきゃ!」




振り向いて走りだそうとすると、腕を掴まれた。
少女ちゃんかと思って振り向いたら、お兄さんだった。




兄「あの、俺の車乗っていきます?」

先生「えっ?」

兄「少女ちゃんと同じ学校ですよね? 場所わかりますし、送りますよ。 車で行けば間に合うでしょ?」

先生「あ、うん……たぶん……」

兄「じゃ、行きましょう。 また冬ごろに来るね、少女ちゃん」

少女「……むぅ」

先生「ま、またね、少女ちゃん」

少女「……ふんっ」




少女ちゃんにそっぽを向かれてしまった。
気になるけど、今は急がないと。

―――――――――――――――――――――――




先生「もう免許、持ってるんだ」

兄「そうっす。 受験が終わってすぐに取りました」




お兄さんの車の中。
思っていたよりも丁寧に運転するんだなあって、ぼんやりと思った。




先生「そっか……ふふ、成長したね。 もうがきんちょなんて呼べないか」

兄「先生のお陰ですよ。 あの時勉強を教わらなかったら、たぶんグレてました」

先生「あの時のキミ、酷かったもんねえ……だからこそ、びっくりしたな。 最後の日にキミが言ったこと」

兄「何か言いましたっけ、俺?」

先生「キミにとっては何気ない言葉だったかもだけど……私のお陰で勉強が楽しくなったって言ってくれたよ。 その言葉があったから、先生になろうと思ったんだ。 だから、ありがとう」

兄「……そうだったんすか」




私の言葉を噛み締めるように、お兄さんが呟いた。

先生「あ、ここでいいよ」

兄「あ、はい」

先生「ありがとう。 お陰で余裕でセーフ!」

兄「……変わってないっすね、先生は」

先生「ん? まあ、私は私だし」




ドアを開けて、車を降りた。




兄「でも…………綺麗になりましたね、先生」




運転席の窓を開けて顔を出して、はにかみながらお兄さんが言った。




先生「……ぷっ、言うようになったなこのガキー!」

兄「いてっ!」

先生「でも、ありがとう。 夢に向かって頑張れ、青年!」

兄「いてーってば!」

先生「ふふふ。 それじゃ、またね」

兄「……はい、また」




ばしばしとお兄さんの頭を叩いてから、手を振って校舎を目指した。

―――――――――――――――――――――――




先生「……つかれた……」




ふらふらと歩きながら、アパートを目指す。
あのあと、大変だった。
私が男の運転する車から出てきたとかなんとか、仲良さげに話してたとかなんとかで、先生方の間で噂になってしまっていた。
誤解を解くためにあれこれ弁明するはめになって、余計な体力を使うことに。




先生「もう、絶対に寝坊しない……」




そう心に誓って、アパートの部屋の鍵を開ける。




先生「……あ」




ドアを開けてすぐ、晩ご飯の良い香りが漂ってきた。
そっか、少女ちゃんがいるんだ。
今朝は不機嫌そうだったけど……今はどうだろう。
リビングまで行くと、キッチンでいろいろ作業をしている少女ちゃんを見つけた。


























先生「ただいま、少女ちゃん」

少女「……おかえり」




少女ちゃんはちらりと私を見て、すぐにそっぽを向いてしまった。
まだ不機嫌らしい。




先生「……ね、なんか怒ってる?」

少女「……」




少女ちゃんが、黙って首を横に振った。




先生「でも、機嫌悪そうだよ」

少女「そんなことないっ!」




少女ちゃんは強くそう言って、押し黙ってしまった。
少女ちゃんがここまで感情をあらわにするなんて珍しい。
だから……きっと本気で怒ってるんだと思って、不安になる。

>>160に謎の長ったらしい改行がありますが入力ミスですので気になさらないでください

先生「……少女ちゃん」

少女「……わっ、な、なにっ」




料理をしている少女ちゃんを、背中から抱きしめる。
少女ちゃんは男の人を抱きしめた時とは違って、柔らかくて、ふわふわしていた。




先生「どうして怒ってるのかわからないけど、私が何かしちゃったのならごめんなさい。 だから、お願い。 機嫌直して……?」

少女「せ、センセ……」

先生「ごめんなさい……」




知らなかった。
ここまで怖くなるなんて。
知らなかった。
ここまで不安になるなんて。
嫌われるかもって、離れていってしまうかもって。
知らなかった。
そうまでなってしまうほどに、少女ちゃんに夢中になっていたなんて。

少女「センセ……ちょっと苦しい」

先生「あっ、ごめん」




抱きしめていた腕を、少し緩める。




少女「あの……センセは、悪くないよ」

先生「え?」

少女「……その、わたしが勝手に不機嫌になってただけというか、その……し、嫉妬しちゃって……」




最後の方は消え入りそうな声で言って、少女ちゃんは恥ずかしそうに俯いた。




先生「し、嫉妬……?」

少女「っ……うん。 センセがお兄ちゃんと仲良く話してるのを見て、センセがお兄ちゃんの車に乗り込んだところを見て……むかむかして、もやもやして」

少女「センセをお兄ちゃんに取られたらどうしようって不安になっちゃって、怖くなって……ごめんなさい、わたしっ……自分でもわかんなくてっ……」




しゃくりあげながら、少女ちゃんが続ける。

少女「センセは、何も悪くないのっ……わたしが悪いのっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ……!」




ぐすぐすと泣きじゃくって、少女ちゃんが必死に謝る。
……可愛いと思った。
泣きじゃくる少女ちゃんもそうだけど、嫉妬してくれるほど私を想ってくれている、少女ちゃんが。




先生「少女ちゃん」

少女「ふえ……ん、む……」




泣きじゃくる少女ちゃんを振り向かせて、少し強引にキスをする。




先生「ん……ごめんね、少女ちゃん。 謝るのは私の方。 私がそこまで気を回せられなかったから」

少女「せ、センセは悪くない! わたしが勝手に……」

先生「ううん。 少女ちゃんのことをちゃんとわかってあげられてなかった私の責任。 ごめんね、辛かったよね……」




少女ちゃんの頭を優しく撫でる。

少女「センセは悪くないもん……証明だってしてくれたから……」

先生「ううん、私が悪いの。 少女ちゃんは悪くないよ」

少女「うぅ……センセ……」

先生「うん?」

少女「好き……」

先生「……私も好きだよ、少女ちゃん」

少女「センセ……んっ……」





少女ちゃんと、唇を触れ合わせる。
本当に、この柔らかい唇の感触は癖になる。




少女「ん、ちゅ……ふ……っ」

先生「んっ……」

少女「ふぁ……せんせ、わたし、もっとセンセに触ってほしい……」

先生「しょ、少女ちゃん……」




熱っぽい瞳で、少女ちゃんに見つめられる。
その瞳を見つめ返すだけで、頭がクラクラしてくる。

少女「センセ、お願い……」




熱っぽく潤んだ瞳、赤みが差した柔らかな頬、少し乱れた吐息と上目遣い。
少女ちゃんの頬に添えていた私の手に触れて、少女ちゃんがそう私に懇願した。
……私はそれほど性欲が強いほうじゃない、と思いたい。
ましてや女の子相手になんて、って気持ちもある。
でも……それ以上に少女ちゃんは魅力的で。
少女ちゃんが私を求めてくれているように、私も少女ちゃんを求めてしまっている。
だから……。




先生「……寝室、行こっか」




私には少女ちゃんの誘いを断る理由なんて、なかった。

続きはまたのちほど
次の投下でラストになるかと思います。

―――――――――――――――――――――――




少女「……ぅわ、ぁ……」




少女ちゃんが、感嘆の声を上げている。




先生「あ、あんまり見られると……恥ずかしいよ」




完全に服を脱いだ私は、ベッドに腰かけている少女ちゃんの前に立っている。
少女ちゃんは私の裸体に釘付けになっている……というより、凝視している。




先生「ほ、ほら……私は脱いだんだから、少女ちゃんも脱いで」

少女「う、うん……」




躊躇いがちに少女ちゃんが服を脱ぎ始め、少女ちゃんの白い肌があらわになっていく。
まだ発達途中の四肢や胸は……すごく、私の背徳感を煽る。




少女「み、見すぎ……」

先生「しょ、少女ちゃんだって、見てたし」

少女「う……」

先生「……少女ちゃん」

少女「あっ……」




少女ちゃんの隣に腰かける。
少女ちゃんが恥ずかしそうに顔を逸らして、身をよじった。

先生「私、女の子とは初めてで勝手がわからないから……痛くしちゃったら、ごめんね」

少女「ううん……わたしも初めてだし、センセは優しいから……」




そう言って、少女ちゃんは私に身体を預けるようにもたれ掛かってきた。




先生「……うん、優しくする」

少女「センセ……」




少女ちゃんと、キスをする。
少女ちゃんの閉じた唇を舌でつつくと、ゆっくりと開いてくれた。

少女「んっ……!」

先生「んむ……」




舌と舌が触れ合った。
そのまま少女ちゃんの口の中に舌を挿し込むと、恐る恐るといった感じに少女ちゃんが私の舌に舌を絡めてくる。




少女「ん、ぁ……ちゅむ……」

先生「んぅ……れろっ……」




いつ振りかな、こんなキスをしたの。
……なんて、ぼんやりと思う。




少女「んちゅ、ちゅ……ちゅる……」

先生「れるっ……ちゅくちゅくっ……」




にゅるにゅる舌が擦れて、絡まって、すごく気持ちいい。

少女「ん、ん……ふぇんへぇっ……んむぅっ……!」




時折切なげな吐息と声を漏らしながら、少女ちゃんがぴくぴくと身体を震わせる。




少女「んっ……んぷぁぁ……」

先生「ぷはぁ……」




絡み合っていた舌が唾液の糸を引いて離れ、唇が離れる。




少女「はーっ……はぁっ……」




とろんとした瞳で、少女ちゃんが荒い息を整えている。

少女「……んぇ? ひゃあっ」




その少女ちゃんの肩に手を置いて、そっとベッドに押し倒した。




少女「せ、センセ……」

先生「初めての大人のキスはどうだった?」

少女「す、すごかった……」

先生「そっか……」

少女「あ、あ、センセっ……んぅぅっ……」




少女ちゃんに覆い被さって、キスをする。
最初から舌を絡めて、吸って。




少女「んぷぁっ……ひら、おひゃひくなっひゃうぅっ……んちゅっ……」




くちゅくちゅと水音が部屋に響いて、頭がクラクラしてくる。

少女「んっ、んっ!?」




少女ちゃんの胸に手を伸ばす。
既に固くなっている乳首をころころと弄びながら、唇を離した。




先生「ぷはあ……っ」

少女「んはあっ、はっ……ふあぁっ!」

先生「ふふ、気持ちいい?」

少女「んっ、んんっ……! すごいっ……!」




乳首を軽くつまむたび、少女ちゃんが可愛らしく喘ぐ。
女の子って、こんな感じに喘ぐんだ。
なんか……すっごくやらしい。




少女「はあっ、はあっ……センセぇっ……」




切なげに、少女ちゃんが私を呼ぶ。
それに応えるように軽いキスをして、少女ちゃんの胸を弄っていた手を少しずつ下へと移動させる。

少女「んっ……!」

先生「わ……」




ぬるっとした感触を、指先で感じた。
割れ目に沿うように、指先でなぞる。




少女「んっ、ぁっ……ふぅぅっ……」




他の人のを触るのなんて、初めてだ。
一生触ることなんて無いって思ってた……というより、他の人のを触るなんて考えたこともなかった。




少女「ふぁっ、やっ、きもちいっ……!」




目尻に涙を浮かべながら、少女ちゃんが喘ぐ。

先生「……すごい濡れてるね」

少女「だ、だってっ、せんせがっ……!」

先生「私が?」

少女「せんせが、さわってくれるからっ……んんぅっ! わたし、きもちいいのっ……!」




私の愛撫に喘ぎながら、少女ちゃんがそんなことを言った。
……少女ちゃんは本当に、これを素で言ってるのかな。
私、そっちのケは無かったと思うんだけど……。




少女「あっ、ふあっ、せんせぇっ……!」




……こんなに一人の女の子を可愛いって、愛しいって思ったの、初めて。
私が私じゃないみたい。
私の身体に抱きついて気持ちよさに身体を震わせる女の子を、めちゃくちゃにしたい。
この子が気を失うくらい、イかせてあげたい。
そんな思いが、ゆっくりと私の頭の中を満たしていく。




少女「センセっ、わたしっ、イっちゃうっ……!」

先生「……うん、わかるよ。 すごい溢れてきてるもん」




少女ちゃんのアソコからとろとろと愛液が零れ、ベッドシーツに滴り落ちていく。

少女「あ、ぁっ! せんせっ、ふぁっ、せんせぇっ……!」

先生「イっていいよ、少女ちゃん……」

少女「んっ……!」




少し唾液の垂れた少女ちゃんの唇を舐めてから、キスをする。




少女「ん、んんっ! ん~~~~っっ!!」




シーツをぎゅっと握って、少女ちゃんの身体がびくんと跳ねた。




少女「んんんっ……んふっ、ちゅ……」

先生「ん……ちゅる……」

少女「ぷはっ、はっ、はあっ……はあぁっ……」

先生「……どうだった?」

少女「はあっ……はあっ……」




焦点の定まっていない目で、少女ちゃんが私を見た。

少女「……きもちよかったぁ……」




くて、と隣で寝転がっている私の肩に頭を乗せて、少女ちゃんが呟いた。




少女「……んっ、ふぁっ、せんせっ……んっ……」




その様子があまりにも可愛くて、思わず少女ちゃんにキスをしてしまう。




少女「んっ……せんせ……」




唇を離すと、少女ちゃんが甘えるように私に身を擦り寄せてきた。




少女「もっと……する?」




その言葉のあまりの破壊力に、また私の欲望がふつふつと沸き上がってくるけれど。




先生「っ……ううん。 少女ちゃん、そろそろ帰らなきゃ。 お母さん、大丈夫なの?」




その沸き上がってくるモノをぐっとこらえて、気がかりだったことを聞いた。

少女「あ……うん。 今日、帰ってくるの遅いから……」




言いながら、少女ちゃんが壁掛け時計に目を向けた。
時刻は0時を回ろうとしている。




少女「……でも、もうちょっとで帰ってくる」

先生「そっか。 シャワー浴びてく?」

少女「……ううん、平気。 帰ったら浴びるから」




少女ちゃんが抱きついてくる。




少女「……ほんとは、このまま寝ちゃいたいんだけど」

先生「……私も」




少女ちゃんの頭を撫でながら、答えた。

少女「……しちゃったんだね、わたしたち」

先生「……うん」

少女「センセに触られて、わたし……イっちゃったんだ……」




恥ずかしそうに、少女ちゃんが呟いた。




少女「うぅ……」

先生「嫌だった?」

少女「そんなわけ、ない……初めての相手がセンセで、嬉しかった……」

先生「初めてだったんだ」

少女「当たり前でしょ」




……そりゃそうだよね。




少女「……センセは、初めてじゃないんでしょ?」

先生「ん? うん。 でも……」

少女「でも?」

先生「女の子としたのは少女ちゃんが初めてって言ったでしょ?」

少女「……うん」

先生「だから、私も少女ちゃんが初めての相手で嬉しかったよ」

少女「……センセ」




少女ちゃんが、私の胸に顔を埋めた。

先生「そういえば、お母さんに私たちのことって話した?」

少女「話してない。 話したら……反対されそうな気がするから」

先生「ん……そっか」




先生生徒の関係は時間が経てば何とかなるけど、同性であるというのはどうにもならない。
……これからも少女ちゃんとの関係を続けていくのなら、少女ちゃんのお母さんに伝えるべきかな。




少女「……女の子同士ってさ、センセはどう思う?」

先生「……今まで考えたこともなかったんだよね、女の子と付き合うって。 でも、実際にこうやって少女ちゃんを好きになってみると……色々難しいんだなって思った」

少女「……ふうん」

先生「少女ちゃんは? どう思う?」

少女「わたしは別に……ただ、誰かを好きになるのはいいなって思っただけ」

少女「女の子同士とか、今はもうどうでもいい……センセと一緒にいたい……」




そう言って、少女ちゃんが目を閉じる。
そのまま頭を撫でていたら、少女ちゃんが寝息をたて始めてしまった。

先生「うわ、どうしよう。 少女ちゃーん?」

少女「ん……」




頬をつついてみても、起きる気配はない。
仕方ないから少女ちゃんのお母さんにメールを送ろう。




先生「とりあえず、私の部屋に遊びに来た少女ちゃんがそのまま寝てしまったのでそのまま寝かせてもいいですか……と」




文章を入力して、送信。
しばらくして、迷惑でなければお願いしますと少女ちゃんのお母さんから返信が来た。
ケータイを閉じてからクレードルに差し込んで、すやすやと眠る少女ちゃんの寝顔を眺める。




先生「……かわいいなあ」




幸せそうな寝顔。
私とくっついてるからこんな寝顔になっているのだとしたら、すごく嬉しい。

先生「……髪の毛、柔らかい」




少女ちゃんの髪の毛を、指でするするとくしけずる。
ほとんど抵抗もなく指が通って、気持ちがいい。




少女「せんせ……」




髪の毛を弄る私の手に頬を擦り寄せるように、少女ちゃんが身体と顔を動かす。
その際、掛け布団が少しめくれて、少女ちゃんのおっぱいが……。
……今思えば、少女ちゃん、裸で寝てるんだよね……。




先生「……ごくり」




私の目の前で、女の子で、教え子で、お隣さんで、恋人の子が裸で眠っている。
……私の劣情が再び沸き上がってきて、身体が熱くなってくる。




少女「すぅ……すぅ……」




私を完全に信頼しきったように、すやすやと眠り続ける少女ちゃん。
その信頼に応えたい気持ちと、このあまりに無防備すぎる少女ちゃんを今すぐにでも襲ってしまいたいという気持ちがせめぎ合う。




先生「……っ」




少女ちゃんの頬に触れていた私の手が、少しずつ下へと下がっていく。

少女「……ん……」




私の手が少女ちゃんの胸に到達すると、少女ちゃんはぴくりと身体を震わせた。
指先で、ころころと少女ちゃんの乳首を弄る。




少女「んっ……や……」




ぴくっ、ぴくっ。
小刻みに、少女ちゃんの身体が震える。




少女「ん、あ……? せんせ……?」

先生「……!!」




や、やば、起きちゃった!?




先生「う、うわっ、そのっ、ごめんなさいいいいいいっ!!」

少女「せ、センセっ!?」




私はダッシュで寝室を出て、お風呂に向かった。

―――――――――――――――――――――――




先生「はああああぁぁぁぁ……」




シャワーのお湯を頭から浴びながら、ものすごく長いため息を吐き出す。
……やってしまった。
まさか私が欲望に負けて、寝ている教え子に手を出してしまうなんて。





先生「なにしてんの……私……」




さっきからずっと、私が私じゃないみたい。
あんなことしちゃうの、初めてだし。
あんなに興奮してしまったのも……初めてかもしれない。

先生「あーもう……少女ちゃんの顔、まともに見れないかも……」

少女「……どうして?」

先生「んわあっ!!?」

少女「ひゃあっ!?」




急に声がしたので、思わず大きな声を出してしまった。
振り返ると、少女ちゃんが後ろに立っていた。
……裸で。




少女「び、びっくりした……おどかさないでよ」

先生「いやいや、それ私のセリフ……というか、なんでここに……?」

少女「だってセンセ、すごい勢いで部屋飛び出して行ったから……どうしたのかな、って」

先生「どうしたのって……それは……」

少女「……わたしの寝込みを襲っちゃったことに、罪悪感があったから?」

先生「……そんな感じ」

少女「……ふうん」

先生「わっ」




背中から、少女ちゃんが抱きついてくる。

少女「……いいのに」

先生「え」

少女「わたしは別に、嫌だなんて思ってない。 こんなことでセンセを嫌いになったりなんてしないし」

先生「少女ちゃん……」

少女「むしろ、嬉しい。 わたしの身体に、センセが反応してくれて」

先生「う……改めて言われると恥ずかしいんだけど」

少女「大丈夫だよ、センセ」

先生「えっ、しょっ、少女ちゃっ……」




私のお腹辺りに回されていた少女ちゃんの腕が、私の胸に移動して、揉んだ。




少女「……わたしも、同じだもん」

先生「あっ! ちょっと、少女ちゃっ……!」

少女「わたしも、センセの身体に触りたかった……こうやってセンセを感じてみたかったし、センセにわたしを感じてほしいって思ってた」

先生「んっ!」




きゅっと私の乳首を摘まんで、少女ちゃんが私のうなじにキスをした。

少女「だから……怖がらなくて、いいんだよ。 わたしはセンセが好きだから、なんでもしたい、なんでもしてあげたい。 なんでも……してほしい」




潤んだ瞳の少女ちゃんと、鏡越しに見つめ合う。




少女「センセ……我慢しないで……」

先生「っ……少女ちゃんっ!」

少女「あ……っ!」

―――――――――――――――――――――――




先生「……ごめんね、バイトとか大丈夫?」

少女「平気。 今日は休みだし」




その日の朝。
結局、日が昇るまで私と少女ちゃんは求め合ってしまった。




少女「センセは、お仕事大丈夫?」

先生「うん。 今日は午前中で終わりだから、頑張れる」

少女「そっか」




靴を履き終えて、少女ちゃんが立ち上がった。
急遽始まったお泊り会が終わりなんだと思うと、急に寂しくなってくる。

少女「……センセ?」




……少女ちゃんが、心配するような声で私を呼んだ。




先生「……なんでだろうね。 あんなに少女ちゃんに触れたのに、寂しいなって思っちゃう」

少女「センセ……」

先生「私、本当に……」




少女ちゃんが、好きだ。
私を見つめる少女ちゃんの頬に触れて、思う。
恋愛経験は乏しい方ではないと思うけど、ここまで誰かを求めてしまうのは初めてかもしれない。
それはきっと……少女ちゃんはどこか儚げで、少し離れてしまえばすぐに消えてしまいそうな、どこかへ行ってしまいそうな予感がするから。




少女「……」




どうしてここまで、少女ちゃんに惹かれるんだろう。
少女ちゃんは女の子なのに。
まさか私が、女の子を好きになるなんて……。
ほんと、考えたこともなかったな。
これまで何度も感じたことだけど……思わず、頬が緩んじゃう。

少女「……センセ」




少女ちゃんが私の首に腕を回して、キスをしてくる。
私も少女ちゃんを抱き締め返して、キスを返す。




少女「ん……センセ、わたしはどこにも行かないから。 ずっとセンセのそばにいるから。 だから、安心して」




唇を離して、少女ちゃんが微笑む。
……年下の、しかも教え子に励まされるなんて。
情けない気持ちもあるけど……それ以上に少女ちゃんの想いが伝わってきて、嬉しかった。




先生「ありがとう、少女ちゃん」

少女「ううん。 それじゃ、またね」

先生「うん、また」




少女ちゃんが手を振ってから、ドアノブに手を掛けた。

少女「……あの、やっぱりちょっと、いい?」

先生「うん?」




ドアノブに掛けていた手を離して、少女ちゃんが振り向いた。




先生「どうしたの?」

少女「あの……今日の午後は、暇なの……?」




頬を赤く染めて、少女ちゃんがそんなことを聞いてきた。
この質問の意味に気付かないほど、私は鈍感ではなかった。




先生「……うん、暇だよ」

少女「じゃ、じゃあ、午後はセンセと一緒にいたい……」




てっきりデートのお誘いかと思ってたけど、意外と甘えん坊な少女ちゃんだった。




先生「うん、もちろんいいよ」

少女「! そ、そっか……よかった。 じゃあ、また午後に」

先生「うん」




少女ちゃんを見送る。
……今日の午後、どうしようかなあ。
少女ちゃんはきっとうちに来るつもりなんだろうけど、どうせならどこかに連れていきたい。
生徒たちに会うことがないような、安心して行ける場所に。

―――――――――――――――――――――――




少女「ね、センセ。 どこ行くの?」




仕事を終えて、少女ちゃんと合流して。
少女ちゃんを車に乗せて、目的地までドライブ中。
少女ちゃんは少し不安げに、私に尋ねた。




先生「デパートだよ。 少し遠いところのね」

少女「遠いところ……」

先生「遠くないと、見られちゃったら大変だからね」

少女「……そうだね」




スーパーで食材の買い物をしてるくらいなら言い訳ができるけど、さすがにデパートで一緒に服とか見てたって噂がたったらちょっと厳しい。
特定の生徒と仲良くするなって勧告が来ると思う。
その勧告は正しいと思うけど、私はちゃんとその辺りは区別してるし。
少女ちゃんが恋人だからって、先生として贔屓にはしてないし。
……というのは、言い訳がましく聞こえてしまうかもだけど。

少女「……センセ、車持ってたんだね」

先生「うん。 うちの学校は駐車場が狭くて使えないんだ」




夏休みだからか、そこそこ道路が混んでいる。
進むのが遅いものだから、また信号に引っ掛かってしまった。
着くのにはもう少し時間がかかりそうかな。




少女「センセの運転、怖い」




怖がっているようには全く思えない口調で、少女ちゃんが言った。




先生「またそんなこと言って。 これでもゴールド免許狙ってるんだからね」

少女「でもセンセ、ドジだし。 コケてたし」

先生「じ、事故起こすほどではないと思うなあ!?」




くすくすと、隣で少女ちゃんが笑う。
隣に誰かを乗せたのはすごく久しぶりだけど、リラックスしてくれてるみたいで安心した。

先生「少女ちゃん」

少女「なに?」

先生「最近、よく笑うようになったよね」

少女「……そうかな」

先生「うん。 初めて会ったときはあんまり笑ってなかったどころか表情がなかったし」




初めて少女ちゃんと会ったときのことを思い出す。
……警戒されてたなあ。




少女「ほんとにそうだとしたら、センセのお陰だと思う。 前も言ったと思うけど、センセのお陰で心に余裕ができたわけだし」

少女「……うん、センセと会う前のわたしは余裕なんてなかった。 ストレスもあったから、心から笑うことなんてなかった。 頑張って笑ってたつもりだったんだけどね。 やっぱり……他の人から見ると、あんまり笑えてなかったんだね」

少女「でも、今はほんとに、毎日が楽しいの。 将来のことなんて怖くて考えられなかったのに、今では将来のわたしはどうなってるんだろうって考えるのが楽しくなった。 それは、センセに会って、センセに助けられて、センセに恋して……センセがわたしの何もかもを変えてくれたから、こんなに楽しいの。 だからきっと、自然に笑えるようになった」




横目で少女ちゃんを見る。
少女ちゃんは目を輝かせて、前を見ていた。

少女「ねえ、センセ。 本当にありがとう。 わたしに色んなことを教えてくれて、わたしを変えてくれて。 センセに会えて、ほんとによかった……」




少女ちゃんの想いが、伝わってくる。
じんわりとあったかくて、優しい想いが。
それが私の心を満たして、私を少女ちゃんでいっぱいにさせていく。




先生「……着いたよ」

少女「うん」




デパートの駐車場に入り、空いているスペースを見付けて駐車する。
車を出ようとした少女ちゃんの腕を掴んで、引き留めた。




少女「センセ……?」




黒い、綺麗な瞳が私を見つめる。
少女ちゃんの肩に手を置いて少女ちゃんの上体を引き寄せ、唇にキスをした。

少女「ん……!? ん、ふ……」




唇を触れ合わせるだけのキス。
でも、私の想いを伝えるには十分だったようで。




少女「せん、せ……好き……」

先生「うん……私も好きだよ、少女ちゃん……」




私たちは、しばらく車の中で抱き合っていた。

―――――――――――――――――――――――




少女「それで、どうするの?」




少女ちゃんと手を繋いで、モールを歩く。




先生「うん、欲しいものがあるんだ」

少女「欲しいもの?」

先生「そ。 欲しいもの」

少女「それって、何?」

先生「少女ちゃん、覚えてる? 夏休み前に、海に行こうって話したよね」

少女「……そういえば、話したかも」

先生「うん。 だから、少女ちゃんの水着を買いに行くの」

少女「……は?」

先生「だから、少女ちゃんの水着。 こればっかりは、本人が着てみないとわかんないし」

少女「……聞いてないんだけど」

先生「言わなかったもん」

少女「なんでよ」

先生「少女ちゃん、嫌がりそうだなって思って」

少女「うん、嫌。 学校のでいい」

先生「えー! だめだよあんなの! 少女ちゃんはもっと可愛らしいのを着ないと!」

少女「やだ、着ない」

―――――――――――――――――――――――




先生「……か、かわいい……」

少女「……っ」




少女ちゃんが着ているのは、ワンピース型の水着。
私はセパレートタイプの水着を着て欲しかったんだけど、恥ずかしいからそれだけはどうしても無理と言われて、しぶしぶ承諾。
でも、これはこれで破壊力があった。




先生「……」

少女「ちょ、ちょっと……見すぎ……」




恥ずかしそうに、少女ちゃんが身をよじる。
う、うわあ…………すんごい、なんというか、その格好でその動きをされたらそそるんだけど……。

少女「も、もうだめ! おしまい! これにするから!」




シャッとカーテンを閉じて、少女ちゃんが叫んだ。




先生「えー! もっと色んなの着てみようよー!」

少女「いらない!」

先生「えー!」

―――――――――――――――――――――――




少女「…………わあ」




少女ちゃんが感嘆の声をあげる。




先生「どう? 似合ってる?」

少女「うん……」




少女ちゃんが私のために選んでくれた水着は、パレオ付きのビキニだった。
なんだかすごく短いスカートを履いてるような感じがして、結構恥ずかしい。

少女「…………」

先生「……少女ちゃん、えっちな目してる」

少女「……えっ、なっ、そんなことないっ」

先生「そんなにいい? パレオ」




ぴら、と少しパレオをめくると、少女ちゃんは慌てて私から顔を逸らせた。




先生「やっぱりえっちだ」

少女「そんなことないってばっ」

先生「ふふっ。 うん、よし。 これにしよう」

少女「ほ、ほんとにわたしが選んだのでいいの……?」

先生「うん。 少女ちゃんの好みみたいだし?」

少女「……うぅ」




恥ずかしそうに、少女ちゃんが俯いた。

―――――――――――――――――――――――




そして。




先生「少女ちゃん! ほら、はやくはやくー!」

少女「ま、待って、まだ全部脱げてない……!」




私たちは夏真っ盛りの中、海にやってきていた。




先生「ほらほら、海が逃げちゃうよ!」

少女「海は逃げな――――わあっ!?」




服を脱いでいる途中の少女ちゃんを車から引っ張り出す。
もちろん、服の下には水着を着ているから大丈夫。

先生「ほら見て! すっごく綺麗!」

少女「……わあ」




少女ちゃんと一緒に、海に目を向ける。
水平線のかなたまで、太陽の光を受けて海水がキラキラと光っている。




少女「綺麗……」




少女ちゃんが呟く。




先生「んー……っ! やっぱり潮風は気持ちいいね!」

少女「うん……」

先生「少女ちゃんのお母さんも来られたらよかったのになあ……」




あいにく、少女ちゃんのお母さんは仕事の都合で来られなくて。
私と少女ちゃんとの思わぬデートになった。

少女「……」




黙って、少女ちゃんが海を見つめている。




先生「少女ちゃん?」

少女「……あ、何?」

先生「大丈夫? ぼーっとしてたけど……見とれてた?」

少女「あ、うん……すごく綺麗……」




上の空のように、少女ちゃんが呟いた。




先生「ふふふ」

少女「わ」




ぼんやりとしている少女ちゃんを、後ろから抱きしめる。




先生「海、好き?」

少女「好きになるかも……」

先生「私よりも?」

少女「……何言ってるの、もう」




顔を赤くして、少女ちゃんが首を振った。

先生「さすがに海に負けたくはないなぁ」

少女「……何になら負けていいの?」

先生「何にも負けたくないけど……少女ちゃんが私以外の人を本当に好きになった時は、負けを認めようかな」

少女「何それ」

先生「少女ちゃんを誰にも渡したくないってこと」

少女「……センセ」




少女ちゃんが私を見る。




少女「水着買ってくれた時のこと、覚えてる?」

先生「うん?」

少女「行く時の車の中で、話したこと」

先生「……私が少女ちゃんを変えたって話?」

少女「うん」




少し恥ずかしそうに、少女ちゃんが頷いた。

少女「私ね……将来の夢、決めたの」

先生「将来の夢? 海に来て進路相談?」

少女「もう、茶化さないで。 センセには話さなきゃいけないの」




少し怒った口調で、少女ちゃんが言った。




先生「ごめんね。 それで?」

少女「……うん。 わたし、先生になるよ」

先生「……え?」

少女「わたし、学校の先生になる」




決意を込めた瞳で、少女ちゃんが言い放った。

少女「センセみたいな、誰かを変えられるような先生になる」




……ああ。
いつかも聞いた。
私を見て、先生になるって。




少女「センセ。 わたし、頑張るよ」

先生「……うん、頑張って。 応援してる」




前にもあった気持ち。
私が、先生になろうと思ったキッカケ。
教えることは誰かの為になるって、信じてた。




少女「ありがと、センセ」




私の腕の中で、少女ちゃんが微笑む。
それは、初めて見る……心の底から嬉しそうな、少女ちゃんの笑顔で。
きっと、私も同じような顔をしてるんだと思う。
だって、本当に嬉しかった。
一番支えてあげたいと、助けになりたいと思っていた子を。
私が、好きになってしまった子を。
私でも支えてあげられていたんだって、わかったから。

少女「好きだよ、センセ」

先生「私も好きだよ、少女ちゃん」




キスを交わして、微笑み合う。




先生「さ、泳ごっか! ……その前に、少女ちゃんは脱がなきゃね」

少女「センセが無理やり引っ張ってくるから中途半端になっちゃったの」

先生「なんなら脱がしてあげよっか?」

少女「……それだけで済みそうにないからヤダ」

先生「何さそれー! 人をケダモノみたいにー!」

少女「だって、事実でしょ」

先生「……確かにそうなっちゃうかもだけど。 水着姿の少女ちゃん、可愛いし」

少女「うん、だから自分で脱ぐから……んしょっ、と。 そういうのは、終わってからね。 今日は海に来たんでしょ」

先生「もっちろん! がっつり海を満喫しないと! 行こ!」

少女「うん!」





おわり

終わりです、長々とすみませんでした

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