青年「起きろ。」
勇者「んむー。」
青年「国王陛下がお待ちだ。」
勇者「……なんで生きてるの?キミ。」
青年「……おはよ。いくら寝起きだからって、その言い草はないだろ勇者。」
勇者「ユメ、か。魔王を倒したユメみてたんだー。」
青年「これから倒しにいくんだっつの。魔王はまだぴんぴんしてるっつの。」
勇者「そっかー。ゆめかー。よかった」
青年「魘されてたな。一体、どんな夢を見ていたんだ。」
勇者「ないしょー。行こ。王が待ってるんでしょ。」
青年「?、勇者、いつも王『様』って……まだ、寝ぼけてるのか……。」
王「よくぞ参った。」
勇者「『とうとう魔王が復活し、世界が危機に瀕している。』」
王「とうとう魔王が復活し、世界が危機に瀕している。」
勇者「『今こそ、旅立ちの時だ。勇者よ、見事魔王を討ち取って帰ること、期待しておるぞ。』」
王「今こそ、旅立ちの時だ。勇者よ、見事魔王を討ち取って帰ること、期待しておるぞ。」
青年「……?」
勇者「100gと銅の剣だったら要りません。行ってきます。」
王「ま、待て勇者よ!……支度金は確かに100gと剣だが……誰か話したか?」
青年「大変失礼いたしました。きっと勇者も、緊張しているのでしょう。どうかお許しください。」
王「あ、ああ。そなたがサポートしてやれ。」
青年「承知いたしました。」
勇者「だいたい、わかってきた。」
勇者「これは、やっぱりボクの人生の二周目なんだ。」
勇者「同じ選択をすれば同じ反応が返ってくるし」
勇者「違う方を選べば違う道ができる。」
勇者「わりとおもしろい。」
勇者「せっかくだから、違う選択肢を選び続けてみよう。」
子供「ステータスが知りたかったら、スタートボタンでメニュー画面を開くんだ。おいらこどもだから、なんのことだかさっぱりわからないや。」
勇者「知ってたけど。ありがと。」
勇者「むー。見事なまでに9がいっぱい並んでるなあ。何桁あるんだろ。次のレベルまで『exp:-------』か。」
勇者「やっぱりなー。ユメだけど!ユメじゃなかった!」
勇者「レベルはこれ以上上がらないってことだね。ちなみに、と。」
勇者「『青年:魔法使い lv.5』ご……。』
勇者「出発した段階ではボク1だったからなあ。頼もしく見えたけど。五倍だし。」
勇者「5、かあ。」
魔物「グルルルル……」
勇者「おっ。狼っぽい魔物が現れた!なんか魔物とか久しぶりー。」
勇者「見逃してあげるからさ」
魔物「ウー……」
勇者「ニンゲンみたいに愚かじゃないから、力の差くらい、わかるよね?」
魔物「きゅーん……」
勇者「うん。イイ子だ。」
勇者「ふっふふふーん、ふっふふふふーん、ふふふーふ、ふふふー♪っと」
村長「村の外に穴など掘って、何をしているのだ、勇者。」
勇者「今晩、ちょっと。明日には埋め戻ししておきます。」
村長「あ、ああ。ちゃんと戻すのだぞ。」
勇者「はーい。」
青年「探したぞ勇者。一体どうしたんだよ。旅立ち前とはいえ、今日のお前、少し変だぞ。」
勇者「……ねえ。」
青年「あ?」
勇者「今度の旅はボク、ひとりで行くよ。」
青年「は?急に何を言い出してんだ。昨日、村の外でスライムに襲われて瀕死になってたのはどこの誰だよ。」
勇者「そんなこともあったね……懐かしいな。」
青年「そんなおまえがひとりで旅なんぞできるわけが無いだろ。」
勇者「……だって、キミは一緒に行ったらボクを庇って死んじゃうじゃん……」
青年「なんだ?もっとおーきな声で言え。」
勇者「キミはさ、ボクと違って、村に家族がいるじゃん。旅先で何かあったら、悲しむ人がいるからだめだよ。」
青年「それはおまえも同じだろ。おまえは俺の妹同然なんだから。」
勇者「図書館の司書さん。」
青年「……ッ」
勇者「今夜、待ってるんだよね?」
青年「なぜそれを」
勇者「オンナの勘だよ。好きなんだよね?司書さんのコト。」
青年「……勇者。」
勇者「……あの時、キミがボクの方を選んだのは間違いだったんだ。」
勇者「だから」
勇者「今度は正しい方の選択肢を選ぶべきだね。」
勇者「ばいばい。」
魔族「ここが、勇者の村か。ほかの人間どもには罪がないが、炙り出すために火をはな……どうあ!?」
魔族「何でこんなところに穴が……」
勇者「『縛!12時の方向!』」
魔族「なんだ!?高位魔術だと!?」
勇者「ちーっす。勇者屋でーす。」
魔族「お前が勇者!?」
勇者「えへへー。捕まえた。ちゃんと出てきてあげてるから、村を火事にする必要はないよ。」
魔族「なぜこちらの行動を読まれている!?」
勇者「ないしょ。さ、『ワレラシテンノウノナカデイチバンノコモノ』さん。立って立って。穴、埋めなきゃいけないから手伝って。」
コモノサン「なぜオレが人間の言葉に従わなければなら……体がいうことを聞かない!?」
勇者「バッヂつけてると、ちゃんと言うこときくらしいよ。」
コモノサン「何の話だ!?」
勇者「よし、埋まったね。流石は四天王のひとり。仕事が早いね!あ、もうすぐ朝になっちゃう。日光浴びるときついんだろ?帰っていいよ。」
コモノサン「ぐっ……なんなのだ貴様。」
勇者「ご褒美に勇者レーダーあげるね。ボクの居場所がすぐわかるし、ボクと通信できるスグレモノ!」
コモノサン「う、うん?」
勇者「じゃ、コモノサンはボクに用があったらこの番号にかけてきてね!絶対だよ!」
コモノサン「えっ、ちょっ、ええ?」
司祭「まずは、伝説の防具を集めなさい。聖なる力で、魔族の攻撃から勇者殿を護ってくれるだろう。世界七箇所に散らばって」
勇者「これ?」
司祭「フル装備……?」
勇者「アイテムも持越しだったから。」
司祭「……ならば、地の果ての禁じ」
勇者「禁じられた森のエルフしか知らないっていう魔法ならもう覚えてる。ちなみに南の砂漠に埋まってた古代魔法も。スペルブック全部埋まってる。」
司祭「そっ、それなら、この大聖堂の地下に刺さっている聖剣を抜く資格がある。さあ、勇者殿、あの岩に刺さった剣を抜いてみなさい。」
勇者「同じの持ってるからいいや。」
司祭「は……」
勇者「ほら。全く一緒。あとこれ売れないやつだし、ボク剣2本は装備できないからいいや。」
司祭「聖剣と全く同じ力を感じる……。まさか、聖剣はふた振り存在していたのか……?」
司祭「いやしかし」
司祭「……???」
勇者「あー……うん。なんかごめん。」
勇者「隣の大陸まできちゃった。なにこれ超楽勝。」
女王「あなたが、不殺の勇者ですね。」
勇者「コロサズノユウシャ?なんかタイソーな名前だね。」
女王「女の身でありながら、大層強く、それでいて魔物を相手にしてすら殺めることがないと聞きます。」
勇者「……まあ、一周目はいっぱい命を奪ってきたからね。今回は、なんかやだ。」
女王「?実は、折り入って頼みが」
勇者「はい。玉。」
女王「こっ……」
勇者「一周目のだけど。でもこれでボクが龍の城を荒らしてあそこに眠るドラゴンを起こしたりしなくていいから、いいよね。」
女王「ほ、本物のようですね。ありがとうございます……。」
勇者「じゃっ、ボクは先を急ぐんで!」
女王「お、お待ちください!勇者様!」
勇者「仔竜も、これでおかあさんと一緒にいられる、よね……。この街の人も、ドラゴンの攻撃で死ななくて、いい……。」
勇者「どうして」
勇者「魔王を倒したのに!」
勇者「仲間もたくさん喪ったのに!」
勇者「これじゃ、ボクのやってきたことって……」
勇者「何の意味もない、ことだったの……?」
勇者「もう、いやだよ……!」
勇者「ボクは人間同士のセンソーの、兵器なんかじゃない!」
勇者「もう一回、やりなおすんだ。最初から!」
勇者「最初から!」
勇者「じゅるっ……はっ。ユメか。」
勇者「『やっほー、コモノサン、起きてるー?ボクは今日、最後の大陸にきてみました。お金持ってると、船旅が捗るね!』、と。」
勇者「あ。返信早いな。『なんなんだよお前。マジなんなんだよお前。』」
勇者「『コモノサンはどうしてるかなって思って。ボクはベッドが硬いせいで怖いユメを見ちゃいました。』、と。」
勇者「『いいから寝ろ。』……優しいなあコモノサン。」
勇者「やりなおせる。ぜんぶやりなおせるよね。」
勇者「ひと月くらいで最後の街ー。所要時間1/36(当社比)!」
勇者「ダンジョン突破がないからね。必要なアイテムは全部持ってるし。」
勇者「で、あれが魔王の城。」
勇者「あ!コモノサンくーん!」
コモノサン「ばっ!ばかおまえ!でかい声出すな!」
コモノサン「ほんっとーに、こんな細っこい小娘がこんなとこまで来れんのな。」
勇者「まーね。ボク、こーみえて結構強いんだ。」
コモノサン「実績、聞いたことねえんだけど。」
勇者「いろいろ、コトが起こる前に阻止したんだよ?誰も知らないけど。」
コモノサン「いちいちメールで知らせてくんのヤメろ。」
勇者「へへへっ。いろいろ計画がうまくいかなかったのは『偶然』だったでしょ?天候の関係とかそういう。」
コモノサン「種明かしをいちいち報告してくんな。オレ超冷や汗だっての。」
勇者「ボクも、その分ちゃんと各国の軍備状況とか教えてあげたでしょ?」
コモノサン「ほとんどが対人兵器だってのがよくわからんが、まあ潰しておけるものは潰しておいた方がいいよな。」
勇者「ねー。」
コモノサン「で……やっぱ魔王様んとこいくのか。」
勇者「ボクは、勇者だからね。最後の選択はしないといけないんだ。止める?」
コモノサン「……オレは、四天王の内でも一番の小物なんだよ。それにオレは、無駄なことはしない主義なの。」
勇者「そっか。キミたち魔物は本当に、身の程を知っているよね。」
コモノサン「魔王様が倒されたら、オレらも消えるし、ここでお別れかね。」
勇者「そうとも、限らないよ?」
勇者「この短時間なら、軍備拡張も間に合わないはず。」
勇者「ボクが魔王を倒そうって必死に旅している間に、いろんな国が戦争準備してるなんてね……。」
勇者「だけど今回は、『なぜか正確に位置を知っていた』魔物の襲撃を受けて、各国の武器庫や訓練施設や兵器製造工場は壊滅している……。」
勇者「魔王討伐完了後のあの世界には、ならないはずなんだ。」
勇者「まさか、死ぬ思いで戦って倒した魔王が」
勇者「抑止力として必要なモノだなんてね。」
勇者「笑っちゃう……」
勇者「というわけで」
勇者「君の側につくからさっきの宣言通り、世界の半分おーくれ。」
魔王「は……?」
勇者「犬と呼んでください。」
魔王「はあ……?」
魔王「ほんっとーに、我の側につくというのだな?」
勇者「うん、信用してくれないよね。はいこれ!」
魔王「なんだ、これは。」
勇者「首もらってきた!」
魔王「人の王の……。」
勇者「『闇堕ちしました』って挨拶したついでに。」
魔王「な、なぜだ?」
勇者「あのね、ボクのおとーさんとおかーさん実は生きてて、城の地下施設に『あった』んだけどね。」
勇者「ああいう生物兵器にされたらもう元には戻らないし。」
勇者「それに、うちの国は、子供を買って狂戦士や精神を壊して魔法を吐き出す兵器を作ってるし。」
勇者「腹いせと、魔王くんへの持参金も兼ねて!」
勇者「魔王のほうがより人道的ってなんのジョークだろ。とにかく、この回初めての殺生だよ。」
勇者「……魔王くんが望むんだったら、もっととってこようか?」
魔王「……いらぬ。」
勇者「どうしたの?なんで抱きしめたりするのさ?」
魔王「我の元に在れ、勇者よ。」
勇者「うん?うん。だからそう言ってるじゃない?で、お土産がこれ。」
魔王「そなた、傷だらけだな」
勇者「さすがに多勢に無勢ってやつ?ただの人間の兵士相手でも、無傷ではなかなかねー。」
魔王「愚かな……」
勇者「どうしよう、キミのこと、利用してやるつもりだったのに。頭撫ぜたりしないでよう。」
魔王「人を泣かせるのも魔王の仕事ぞ。泣け。」
勇者「……見せてくれる?ボクに、違う道を。」
魔王「ああ。約束しよう。」
魔王「ところで……」
勇者「ん?」
魔王「その、そなたが付けている首輪と鑑札はなんだ?『飼い主:魔王」って……。」
勇者「ボクは、キミのモノだし////」
魔王「え、ちょ、なにを跪いている。」
勇者「これからよろしくね、ご・主・人・サ・マ!」
魔王「やめろ床に頭をこすりつけるなー!」
勇者「さあ!踏んでください魔王様!」
魔王「我に精神介入するな!踏まぬ!踏まぬぞ!」
勇者「強情だね……でもボクのレベルのが上だもんね!ボクにキミは逆らえないよ!」
魔王「や、やめ……!」
魔物「あ。魔王様が勇者倒したんだねー。」
魔物「魔王様が勇者踏みつけてるもんねー。」
魔族「なんであんなにたのしそうなんだろう、あのひとたち……」
魔族「魔王様って、特殊性癖をお持ちだったんですね。勇者を痛めつけて笑ってらっしゃる。」
側近「……ひくわー。」
魔王「なんだ、その、おまえたちに紹介しておこう。」
魔王「……妻だ。」
勇者「魔王様の下僕です!」
魔王「妻だ!」
勇者「闇堕ちしました!よろしくね!」
魔物「えっ。」
側近「ひくわー。」
勇者「まだ、こっちのルートの先になにが待っているのかわからないけれど」
勇者「ああ!魔王くん!とりあえず、もっと痛め付けて!乱暴にして!」
勇者「ボク、勇者なのにキミの前ですべてを曝け出してイケナイ子なんだ!魔王くんの手が直接肌のありとあらゆるところに触れて」
魔王「……治療で傷薬を塗っているだけであろう!誤解を招く声と発言は慎め愚か者!」
勇者「へへ……どうしよう、幸せだ。」
側近「ひくわ。」
以上、おそまつさまでした。
∥ω・)!
おっと、終わってた
なかなか興味深いssだった
乙♪
>>33 こういうところ初めてなんで、死にそうでした!ありがとうございましたー。
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