りせ『また発明品ですか?』 西垣「あぁ」 (59)

中盤から終盤にかけて(ほぼ)オリキャラが登場するので、注意してください。

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りせ『この前校長先生にシバかれたばかりじゃないですか』

西垣「ふふ、そう思うだろう。しかし今回のは大丈夫だ。前みたいに無差別にロックオンした対象を爆破したりはしないからな」

りせ『はぁ……』シラー

西垣「いやいや、本当だぞ?」


りせ『はいはい分かりましたよ。で、なにを作ったんですか?』

西垣「よくぞ聞いてくれた。今回のは凄いぞー」ゴソゴソ

りせ『期待はしてませんけどね』

西垣「ふふん。吠え面かいていられるのも今のうちだ」


西垣「聞いて驚け、見て笑え! その名も――――」



西垣「“撃った対象が本音をベラベラ喋っちゃう光線銃”だ!」ジャーン



りせ『………………』


りせ『え、ヤバいですね』

りせ『さすがにネタとして使い古されすぎてません?』

りせ『しかもネーミングセンス0じゃないですか。うわぁ……』

りせ『なんというか最悪ですね。最悪という感想以外、出てきませんね』

りせ『うわー、ホント最悪。最悪の上塗りですよコレ。今年一番かもしれません』

りせ『もう純粋にヤバいですね』

りせ『あの、いい病院紹介しましょうか?』


西垣「そこまで言う?」




西垣「ええい落ち着け! 私だって考えなしにこんなものを作ったわけじゃない」

りせ『はぁ』


西垣「なぁ松本」

りせ『はい』

西垣「お前は、現代に生きとし生けるもの全て……。そう、この場合は人類だ」

西垣「現代に生きる人類はあまりにも余裕がなさすぎる、そう思ったことはないか?」

りせ『……? いえ、あまりそういった難しい話は……』

西垣「そうかそうか。まぁ、そうだろう。それが普通さ」


西垣「だが私は違った。この荒んだ社会の荒波に揉まれて、いろんなことを多角的な方面から見るようになった」

西垣「するとどうだ。受験、仕事、家庭、育児……」

西垣「人間すべからくそういった事象に阻まれ、時間的余裕、ひいては精神的な余裕まで失いつつあるじゃないか」

りせ『現代人は忙しいって言いますもんね』

西垣「そう。だから私は考えた」


西垣「どうしたら人類皆平和で心豊かな生活が送れるのかと」

西垣「世界中から戦争がなくなり、今この瞬間も空襲に怯えている人々を救えるのかと」

西垣「全宇宙の民と交易を交わし、地球という豊かで恵まれた星の発展が望めるのかと」

りせ『なんか壮大な話ですね……』

西垣「そうだろう」

りせ(さすが奈々さん……。普段はおちゃらけているけれど、考えることは考えてるんだ……)



西垣「で、そういった思想に基づいて考え抜いた結果、開発するに至ったのがこの“撃った対象が本音をベラベラ喋っちゃう光線銃”というわけだ」

りせ『あ、やっぱ全然わかんねぇや』


西垣「とまぁ冗談は置いておいて」

りせ『まぁ、だろうと思ってましたよ』


西垣「実は最近あまりにも校長が口うるさいんでな。コイツで本音を暴いて弱みを握り、色々揺すってやろうと思っているんだ」

りせ『うわ、思った以上に最低な理由』

西垣「そしてあわよくば実験費用の予算も上げてもらおうと思っている」

りせ『奈々さん……それ以上人間のクズっぷりを更新しなくてもいいんですよ……?』


西垣「そんな私だが、週末は近隣の方々と街のゴミ拾いなどをしている」

りせ『安っぽい良い人アピ』




西垣「しかし懸念事項があってな。この光線銃、本当に効果があるか試してないんだ。理論上はうまくいってるはずなんだがな」

りせ『あら、珍しいですね。実験してないんですか?』

西垣「あぁ。いつもなら松本に被験体になってもらうんだが、データを取ろうにも松本の声は私にしか聴こえない」

りせ『検証を取るには不十分ってことですかね』

西垣「その通り。それにこんなもの無くたって松本は正直だからな。……私“だけ”には」ニヤッ

りせ『…………///』カァァッ



西垣「と、まぁそういうわけだから、早速いつものメンツを利用して、この光線銃の効果を試したいと思いまーす」

りせ『わー』パチパチ

西垣「……自分から煽っといてなんだけど、ノリ気なんだな?」

りせ『生徒会の予算アップもお願いしますね』ニコッ

西垣「……さすが私の教え子だ」


西垣「というわけで最初の被験体を探そう」

りせ『ちょうどあそこにさくちゃんとひまちゃんがいますよ』


西垣「お、いいところに」コソコソ

りせ『ちょ、なんで隠れるんですか……』コソコソ

西垣「生徒で実験してるなんて校長にバレたら面倒だろうが」

りせ『まぁ常識的に考えたら解雇ものですよね』

西垣「そうだろう」


りせ『そう考えると私たちとんでもないことしてますよね』

西垣「なにを今さら。何度教室を爆破してると思っている」

りせ『本当になんで解雇されないんでしょうね……』


りせ『ところでその光線銃どうやって使うんですか?』

西垣「まあ見ていろ。こうやって照準を合わせてだな」キリキリ


西垣「……オラッ!」カチッ


ズブギャアアアアアアアアアアアアアアアアアンズガドガバリバリヒマサクラブラブ


りせ『!?!?!?!?!?』

櫻子「!?!?!?!?!?」

向日葵「!?!?!?!?!?」



りせ『ちょ、思ったより派手な光線ですね……。あんまり派手だったんで、逆にバレてないみたいですけど』

西垣「いや、出力調整を誤ってしまったらしい。本来はもっと地味な光線だ。赤座くらいは地味だ」

りせ『あかりちゃん地味なの気にしてるんですから……』


西垣「まぁまぁ。そのおかげで一発で二人に命中させられたんだ。怪我の功名ってやつだな」

りせ『違うと思います』

西垣「それよりもここからが肝心だ。さてさて、二人はお互いのことをどう思ってるやら……」ニヤニヤ

りせ(いや、ぶっちゃけ見るまでもないっしょ)


櫻子「ひ、向日葵! さっきのピカピカーってやつなに!?」

向日葵「わ、わたくしが聞きたいですわよ!! なんですのさっきの光は!?」

櫻子「明らかにわたしたちに当たったよね!?」

向日葵「そうですわね。特に怪我とか違和感はありませんけど……。櫻子は大丈夫?」

櫻子「うん、なんともないよ。いやビックリしたぁ」

向日葵「そ、そう。なにもないなら、とりあえずは良かったですわね」

櫻子「そうだねー」


向日葵「櫻子になにもなくて……本当に……良かった…………」ホロッ


向日葵「……」

櫻子「……」


向日葵「は?」

櫻子「え?」


櫻子「……」

向日葵「……」


櫻子「ま、まーあれだ、きっとなにかの見間違いだよね、うん」

向日葵「そそ、そうですわ! そうに決まってますわ!」

櫻子「まったく、向日葵ったらそそっかしいんだからさー」

向日葵「そんなこと言ったら櫻子だって!」


櫻子「あははは」

向日葵「うふふふ」


櫻子「よし、じゃーそろそろ帰ろっか向日葵!」

向日葵「ええ、愛してますわ櫻子!!」


櫻子「」

向日葵「」


西垣「ほう」

りせ(計画通りすぎる)


櫻子「ななななななななななななななななな!?///」

向日葵「え!? いや、なんですの今の!?/// ち、ちょっと待って!!!」

櫻子「お前、わたしのことそんな風に思ってたの!?」

向日葵「いや……ち、ちが……これはなにかの間違いで……」オロオロ

櫻子「いやいや、好きって、わたしの事好きって言ったよね!?」

向日葵「違うんですの!!! 口が、口が勝手に……!」

櫻子「わたしだって大好きだよ!!!」


向日葵「」

櫻子「」


西垣「ほう」

りせ(あ、この俳優結婚するんだー)ポチポチ


櫻子「たんまたんま!!! 今のなし! 今のなーし!!! 大好きだけど! 向日葵大好きだけど!」

向日葵「なしなんですの!? ありなんですの!?///」

櫻子「だからなしだって! 好き!! 大好きだけど!!」

向日葵「キャー!?!?!?!?///」

櫻子「叫びたいのはこっちだよ!?!?/// あいらぶ向日葵!」

向日葵「ア、あいら……ッ!」


向日葵「///」




櫻子「おちつけ……。おちつけわたし……」ハァハァ

向日葵「あ、あの……」


櫻子「あ、あはは!!! ごめんね向日葵! た、多分さ、さっきのピカピカのせいで変なこと言っちゃうだけだと思うから! いやいや本心だろーなに言ってんだわたし!!」

向日葵「…………」

櫻子「だから、だからさ、帰ろうよ向日葵。それでまた、明日からまたいつも通りに……」



向日葵「さ、櫻子!!!」

櫻子「……なに」



向日葵「あの、わたくしは……わたくしが言ったことは……」

櫻子「………………」

向日葵「嘘なんかじゃ、ありませんの」

櫻子「……!」


櫻子「ひ、向日葵、なに言って……」

向日葵「…………好きなんですの」




向日葵「櫻子のことが、好きなんですのぉ!!!」




櫻子「……向日葵」


向日葵「あなたはもしかしたら本当に変なことを口走っちゃってるだけなのかもしれません」

向日葵「けれど、でも、わたくしが発した言葉に偽りはありません。あなたの全てが好きなんです」


向日葵「たしかにワガママだし、勉強だってちゃんとしないし、料理はドヘタクソだし、胸はまるでまな板のようですけれど」

櫻子「本当に好きなのかお前」


向日葵「でもあなたは、櫻子は……」


向日葵「本当は誰より優しくって、いつだって明るくて元気をわけてくれて、友だちもたくさんいて、それなのに、ドン臭いわたくしなんかとずっと一緒にいてくれて」

向日葵「そんな貴女に、わたくしはいつしか惚れてしまいました」


向日葵「わたくし、櫻子が……大好きです。昔からお慕いしておりました」

櫻子「………………」



櫻子「わたしだって……」


櫻子「わたしだって、向日葵のことが大好きだよ! バーカ!!!」

向日葵「バ、バカって……」

櫻子「なんだよなんだよ! 全部先に言いやがって! 言っとくけどな!! わたしのほうが、ずーっと! ずーーーーっと前から向日葵のこと好きだったんだからな!!!」

向日葵「櫻子……」


櫻子「あーあ! せっかくロマンチックな告白の仕方をずーっと考えてたのに! 全部台無しになっちゃったじゃん!」

向日葵「ふふ、ごめんなさい」

櫻子「バツとして………………」


櫻子「バツとして、今日からお前はわたしの恋人だから///」

向日葵「よろしくお願い致します……///」


西垣「ほう」

りせ『実・験・な・う…………っと、送信!』ポチィ


西垣「なるほど、確かに効果は出ているようだな」

りせ『あ、終わりました?』パタン


西垣「あぁ。無事カップル成立したぞ」

りせ『予想通りすぎて面白みに欠けますね』ペッ

西垣「松本さっきから口悪くない?」


りせ『で、どうするんですか? 効果が出たなら早速校長室ですか?』

西垣「いや、そうしたいところなんだが、もう少し検証したい」

りせ『どうしてですか?』


西垣「今回は校長に対して使うからな。カチッてやってドカーンはマジでシャレにならん。だから出力を絞った状態でも爆発しないかどうかはちゃんと試しておきたいんだ」

りせ『はぁ……』


西垣「ってわけで次の実験体を探しに行こうか☆」パチンッ

りせ『あ、そのウインクかわいいですよ』

西垣「そ、そういうことを言うんじゃない///」






京子「あっはっは! あかりバッカでー!!!」

あかり「もぉー!! 京子ちゃんたらぁー!!!」プンプン


西垣「おっ歳納に赤座か」コソコソ

りせ『二人って幼なじみでしたよね? もうほとんど本音で話せる仲なんじゃありません?』コソコソ

西垣「いや、そういう奴らに限って裏ではなに考えてるか分からないもんなんだぞ?」

りせ『そうなんですか?』


西垣「特に歳納はああ見えて気ぃ遣いだからな。コイツを使ったらきっと面白いことになると思うぞー」

りせ『それは楽しみですね』ワクワク

西垣「おおう、ひまさくのときとは違ってずいぶんと興味深々みたいだな……」


りせ『だってあの二人って前からお互いを気にしてる様子ありましたし、結果も分かりきってましたし』

りせ『でも今回は京ちゃんのクズな一面が垣間見れるかもしれないわけじゃないですか』

りせ『そりゃ楽しみにもなりますよ』ワクワク


西垣「松本の育て方間違えたかな」


西垣「それじゃ出力をちゃんと調整して」キリキリ


西垣「……そりゃっ!」チョロチョロチョロ

りせ『うわっ本当に地味な光線』


チョピピピ


京子「んあ?」

あかり「どうしたの京子ちゃん?」

京子「いや今背中になんか当たった気がしたんだけど……」

あかり「んー別になにもついてないよ?」

京子「そっか。なら気のせいかな」


りせ『あれ、今度は京ちゃんにだけ当てるんですか?』

西垣「あぁ。赤座は本当に裏表がないやつだからな。それに片方だけが本音で喋るっていうのも面白いだろう?」

りせ『結構ゲスいことしてるって自覚してます?』

西垣「無論だ。科学者というのはいつの時代も狂気的なものさ」

りせ『あんた教師でしょ』


あかり「そういえば京子ちゃん。今日はごらく部行かないの?」

京子「んーそうだな。行ってもいいんだけど……」

あかり「だけど?」


京子「……今日は気分でもないし、このまま帰ろっかなー」

あかり「あれ、京子ちゃんが帰るなんて珍しいねぇ」

京子「なんだよあかりー。私がそんな気分じゃいけないってのかー?」

あかり「そ、そんなこと言ってないよぉ」アセアセ


西垣「ふむ、なかなか本性を表さないな」

りせ『やっぱり二人はもうとっくに本音で語ってるんじゃ……』

西垣「いや、そんなはずはない。もう少し観察してみよう」

りせ『…………』




京子「でもまあ一人でいるのもなんか違うんだよなー」

あかり「?」

京子「ごらく部には行かないけど、誰かうちで一緒に遊んでくれる人とかいたらいいんだけどなー」

京子「え、あ、あれ……?」

あかり「京子ちゃんどうしたの?」

京子「いや、なんか変なことを喋っtt……例えば私のすぐ近くにいる女の子がうちに遊びに来てくれたりすると最高なんだけどなー!」

あかり「!?!?!?!?」

京子「!?!?!?!?」


西垣「ほう」

りせ『ほう』


あかり「あの京子ちゃん……? あ、あかりでいいなら遊びに行くけど……」

京子「いやいやいや誰もあかりがーなんて言ってないけど!?」

あかり「え、あぁ、そっかぁ……。でしゃばった真似してごめんねぇ……」ションボリ

京子「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!!!」


京子「でもまぁ来てくれるんだったらそれに越したことはないっていうか」

京子「どうせ暇だしあかりの遊び相手になってあげなくもないっていうか」

京子「まぁあかりが暇だっていうなら? Win-Winの関係になるしちょうどいいっていうか」

京子「でもうちなんかに来たって精々ミラクるんのマンガとかアニメとかしかないっていうか」

京子「あかりみたいにお茶菓子とかそういうのも出せないっていうか」

京子「かと言って結衣ん家みたいに特別居心地がいいわけでもないっていうか」

京子「ぶっちゃけ私なんかがあかりを楽しませられるか自信、ないっていうか」

京子「あかりにはいつもちょっかい出してるから、本当は嫌われてるんじゃないかって心配だったりとか」

京子「いつも原稿とかやってて寝不足って言い訳してるけど、本当はあかりに嫌われてないか不安で寝れない日もあったっていうか」

京子「前にあかりに冗談で“嫌い”て言われた後も実は1ヶ月くらい引きずってたっていうか」

京子「だからこの機会にあかりの本心を聞いておきたいっていうか」

京子「その、だから別に……来てほしいとか、そんなんじゃなくって……」

京子「でもどうしてもって言うならうちに招いてやってもいいけど……?」


西垣「ほう」

りせ『本音めんどくさ』


あかり「……」

京子「え、え……なんで、わ、私があかりに抱いてる想い、全部吐いちゃった……」

京子「なんで……うそ、やだ、やだよ……あかり、あかりに嫌われたくない……。こんな暗いことばっかり考えてるやつだなんて、思われたくない……」

京子「幻滅される……あかりに、げ、幻滅されちゃ、う、ぅ……え、うぁ……ふぁ…………」ウルウル



あかり「京子ちゃん!!!」



京子「は、はい!?」ビクッ


あかり「……京子ちゃん」ギュッ

京子「あ、あかり!?!?///」


あかり「大丈夫、大丈夫だから……」

京子「え……?」


あかり「あかり、京子ちゃんのことを嫌ってなんかいないし」

あかり「これからも、京子ちゃんのことを嫌いになんてならないよ」

あかり「……絶対だよ」

京子「あ、あかり……///」


あかり「あかりね、京子ちゃんのこと、大好きだよ」

京子「あ、あうあう……///」


あかり「今日、遊びに行ってもいいかな…………?」

京子「……うん///」


あかり「えへへ、なんだか昔の京子ちゃんを思い出すなぁ」

京子「昔の私……?」

あかり「うん。自分に自信がなくて、いっつも結衣ちゃんとかあかりの後ろにひっついてた頃の」

京子「べ、別に今そんなの思い出さなくたっていいだろー?」

あかり「ごめんね。でも、ちょっと嬉しかったんだぁ。昔の京子ちゃんが、まだ今の京子ちゃんの中にもいるんだなって実感できて」

京子「は、恥ずかしいからそういうこと言うの禁止ー!!!///」

あかり「えへへ、ごめんね」


あかり「それじゃ、行こっか」

京子「うん///」


京子「あ、そうだ、あかり……」

あかり「なに?」

京子「手……繋いでもいいかな?///」

あかり「……もちろんだよ!」


ギュッ


西垣「……」

りせ『……』


西垣「いやはや、いいものを見せてもらった」

りせ『そうですね……。京ちゃんにあんな一面があったなんて、私、驚きです』

西垣「ふふ、たまには本音で語らうというのも、案外悪いものでもないのかもしれないな」

りせ『そうですね』


りせ『じゃあいよいよ、校長に使う感じですか』

西垣「あぁ! ……と、言いたいところなんだがな」

りせ『?』

西垣「もう一組、どうしても素直にさせておきたい連中がいるんだ」


りせ『……ふふ』

西垣「な、なんだ」

りせ『その顔』

西垣「顔?」


りせ『えぇ。奈々さんがいっちょまえに、義心に溢れた顔してらっしゃるので、おかしくって』

西垣「い、いいじゃないか……。私だって人間だ。たまにはそういう気にもなる」

りせ『ええ。だから悪いなんて一言も言ってませんよ』

西垣「まったく変なことを言わないでくれ。ほら、いくぞ」

りせ『はいはい』






ちなつ「それで……二人は結局来れないと?」

結衣「うん。京子のメールにはそう書いてあるね」ポチポチ

ちなつ「珍しいですね」

結衣「はは、そうだね。特に京子の奴はごらく部のことばっかりだから……」


ちなつ「……えへへ、結衣先輩二人っきりですね」スリスリ

結衣「う、うん……そうだね……」



西垣「よし、まだ帰ってないみたいだ」コソコソ

りせ『素直にさせておきたいってあの二人ですか?』コソコソ

西垣「ああ。正確には船見だけだがな」


りせ『結衣ちゃんかぁ……。見るからに素直じゃなさそうな顔してますもんねー』

西垣「私、顔までは言及してないからね」


りせ『でもどうして結衣ちゃんを素直にさせたいんです?』

西垣「ん、あいつはな……似てるんだ。昔の私に」

りせ『奈々さんに?』

西垣「あぁ。自分の気持ちを素直に吐露できないところなんかそっくりさ」

西垣「……怖いんだよ。一歩を踏み出して、周りの人間関係が変わっていくのが」

りせ『どういうことですか?』


西垣「好きなのさ、吉川のことが。なのに告白できない」


西垣「自分たちが付き合いはじめたら、ごらく部の関係が悪くなるかもしれない」

西垣「もう二度と四人で集まれなくなるかもしれない」

西垣「そんなことを恐れて、一人思考の渦の中でがんじがらめになって、なにもできなくなっている」

西垣「船見はそんなやつさ。だから……教えてやりたいんだ」


西垣「“大丈夫。お前の大切な友達たちはそんなことで関係が悪化するほど、やわな奴らじゃない”ってことをな」

りせ『奈々さん…………』


りせ『直接教えてやれよ』

西垣「てへっ☆」


西垣「それじゃ行くぞ……おらっ!」ピロピロピロピロ

りせ(相変わらず脱力感のある光線だなぁ……)


チョピピピ


結衣「んん……?」

ちなつ「どうかしましたか?」

結衣「ん、いやなんでもないよ。それより今日どうしよっか?」

ちなつ「そうですね……あ、じゃあこの前の続きで王様ゲームとかどうですか?」

結衣「二人しかいないよ!?」


ちなつ「やだなぁ先輩。二人だからいいんじゃないですかぁ」

結衣「う~ん……それはちょっと承諾できないなぁ……」

ちなつ「え~どうしてですか?」

結衣「だってもし私が王様になっちゃったら、王様命令で恋人になってくれとか頼んじゃいそうだし……」


ちなつ「……」

結衣「……」


ちなつ「えっ」

結衣「あれ?」


西垣「よしよしいい感じだぞ」

りせ『頑張れ結衣ちゃん……!』


ちなつ「ゆ、結衣先輩今なんと!?!?」

結衣「いや、ちが、なにも言ってなちなつちゃんと恋人になりたい! ちなつちゃん大好き!!!!」

ちなつ「ホアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!!?!?!?!?!?」

結衣「お、落ち着いてちなつちゃん! そんなところも可愛くて素敵なちなつちゃん!!」

ちなつ「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!!?!?!?!?!?」

結衣「待って待ってちなつちゃん!!! これは全部本音!!! ぜーんぶ本音だから!!!!!!!」

ちなつ「オギョピョピョピョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?!?!?!?!?!?!?!?」

結衣「ヤバい収集がつかない! けどいっか!!! ちなつちゃんの可愛い驚き顔が見れてるわけだから!!!!!!!!!!!!」

ちなつ「ベス!!! ベスベス!!!!!!!!! ベス!!!!!!!!!!!!!!!!」

結衣「付き合おう!!!!!! そんでもって突き合おう!!!!!!!!! 将来は白い一戸建てのお家を買って娘と三人、家族水入らずで幸せに暮らそう!!!!!!!!!!!」

ちなつ「うおおおおおおおおおお人生イージーモードかよおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


西垣「うむ。思ったよりもハイテンションだが上手くいってるみたいだな」

りせ『大丈夫ですかアレ。そのうち発情しだしておっぱじめたりしませんか?』

西垣「ふむ、それはそれで興味あるな」

りせ『デジカメ用意しとこ』


ちなつ「ハァーッ! ハァーッ!!!」

結衣「ほら落ち着いて過呼吸なっちゃってるから!!!! じ、人工呼吸してもいいかな……?」

ちなつ「ハァーッハァーッハァーッハァーッ!!!!」

結衣「うわああ逆効果だったぁ!!!! し、しっかりしてちなつちゃん!!!!!!!」


ちなつ「フゥ……フゥ……」

結衣「……」

ちなつ「オッケーオッケー、なんとか落ち着いてきました」

結衣「なんかゴメンね……」

ちなつ「いえ大丈夫です。それに……」

結衣「それに?」


ちなつ「えへへ、嬉しかったですから。結衣先輩の方から告白してもらうの、ずっと夢だったんで」

結衣「ち、ちなつちゃん……」

ちなつ「私だって女の子ですもん。想像してたのとはだいぶ違いましたけど、でもやっぱり言葉にしてもらうと、嬉しいです」

結衣「それじゃあ…………」


ちなつ「…………例えそれが、偽りの告白であったとしても」

結衣「えっ……?」


西垣「えっ」

りせ『えっ』


ちなつ「いやだっておかしいじゃないですか。急に“王様命令で恋人になってほしい”とか、普段の結衣先輩なら絶対言わないじゃないですか」

ちなつ「きっと誰かにそそのかされたんでしょう?」

結衣「いや違くて! 確かに言おうと思って言ったわけじゃないけど……」

ちなつ「でしょう。だから、そういうことなんです」


ちなつ「あ、でも大丈夫です。私このくらいじゃヘコたれませんから!」

結衣「ちなつちゃん……」

ちなつ「いつの日か、本当に結衣先輩に好きになってもらって、そのときは……」


ちなつ「そのときは、ちゃんと改めて告白してもらうんです!」


ちなつ「だから今日の告白は、幸福の前借りってことで。そういうことにしておいてください」ニコッ

結衣「…………」


ちなつ「さて、と、それじゃお茶淹れてきますね」スクッ

結衣「………………待って、ちなつちゃんッ!!!!!」


パシッ…



りせ『エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』

西垣「うわっ、周りに聞こえないと思ってお前」


ちなつ「結衣……先輩?」

結衣「……ちゃんと告白できなかったことは謝る。ごめん」

結衣「けど、誰かにそそのかされたとか、決してそういうんじゃない」

結衣「理由は分からないんだけど、自分が考えてること、急にベラベラ喋るようになっちゃったんだ。信じてもらえないかもしれないけど……」

結衣「それで、ずっと隠してた私の想いまで喋っちゃったんだ……」


ちなつ「……なんで、隠してたんですか?」

ちなつ「私の気持ち、知ってはいたんですよね……?」

結衣「もちろん。ただ……」


結衣「……怖かったんだ。この気持ちを伝えることで、なにもかもが崩壊してしまうんじゃないかって、恐れていたんだ」

結衣「私とちなつちゃんが付き合ったら、ごらく部はどうなる? 生徒会の子たちはどうなる?」

結衣「今まで通り、みんな仲良く一緒にいられるのか? 邪魔だなんて思われないか? 気を使わせてしまわないか?」

結衣「そんなことばかり考えてしまって……」

結衣「だから、ずっと逃げてた」

結衣「ちなつちゃんの気持ち、そして、私自身の気持ちからも」


ちなつ「そうだったんですか……」

結衣「けれど……」


結衣「ちなつちゃんの気持ちを、覚悟を聞いて、決心できた」


結衣「私…………ちなつちゃんのことが好きだ」

結衣「初めて会ったは、正直よく分からない子だなって思ってた」

結衣「けど話していくうちに、時を重ねていくうちに、その気持ちは恋心へと姿を変えていった」

結衣「私は、ちなつちゃんが思っているような、カッコいい王子様みたいな人間じゃない」

結衣「世界が変わってしまうことを恐れて、身動き一つ取れないでいた小心者の大馬鹿者だ」

結衣「だから、色んな局面でちなつちゃんを幻滅させてしまったかもしれない」

結衣「それでも……そんな私でも良ければ…………」


結衣「私の恋人になってください」


りせ『エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』

西垣「それはもういいから」


ちなつ「……えへへ、やっと本当のことを言ってくれましたね」

結衣「ダメかな?」


ちなつ「そんなわけないじゃないですか。ずっと、ずっと待ってたんですよ」

結衣「……そっか。なら私たちは、今から恋人同士だね」

ちなつ「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」

結衣「こちらこそ、よろしくね」


西垣「ふぅ、色々あったがなんとか収束しそうだな」

りせ『ぞーでずね゛ー゛』

西垣「喉枯らしてんじゃないよ」



ちなつ「あの、一つお願いしてもいいですか?」

結衣「ふふ、なんだい?」


ちなつ「ギュッて、力いっぱい抱きしめてほしいです。今この幸せな瞬間を、結衣先輩を、全身で感じていたいんです」


結衣「お安い御用だよ」

ちなつ「お願いします」


ギュッ


ちなつ「……結衣先輩、とても暖かいです」

結衣「それはちなつちゃんだって」

ちなつ「結衣先輩のドキドキ、すっごく伝わってきます」

結衣「ふふ、バレちゃってるかな?」

ちなつ「はい。こんなにも私のことを想ってくれてたんですね」

結衣「そうだよ。ずっとずっと、言いたかったんだ」

ちなつ「先輩、大好き」

結衣「私もさ……ちなつちゃん」


西垣「……」

りせ『どうしたんですか?』


西垣「フフ、若き時代の頃を思い出していた」

りせ『……』

西垣「私は船見のように告白こそできなかったが、それでも、いい思い出だった」

りせ『後悔してますか?』

西垣「バカ言うな。今はお前がいるじゃないか」

りせ『……嬉しいです』


ちなつ「ねぇ、結衣先輩」

結衣「なんだい?」

ちなつ「私、とっても幸せですよ」

結衣「幸せ……?」

ちなつ「はい。先輩にだったら、なにをされたって構わないくらい、幸せです……」

結衣「ちなつちゃん……」




結衣「それマジ? じゃあ今はいてるパンツくれない?」




ちなつ「……」

結衣「……」



ちなつ「は?」

結衣「……あ、あれ?」


西垣「あー、これはヤバいな」

りせ『結衣ちゃんそっち系の人かぁ』


ちなつ「あ、あの、結衣先輩……?」

結衣「……」サー


結衣「あ、いや、そのね……そ、そう! パン! ちなつちゃんの作ったパンがほしいなぁ!」

ちなつ「あ、あぁパンですか!!! そ、それくらいお安いごようです!!」


結衣「あはははははは」

ちなつ「あはははははは」



結衣「あとできれば下の毛もつけてくれると嬉しいなぁ。あ、もしかしてまだ生えてない?」



ちなつ「ははは……は…………」

結衣「…………」ダラダラ


ちなつ「……あの、やっぱりちょっと返事考えさせてもらってもいいですか?」ピクピク

結衣「待って待って!! これ本心じゃないから!!! ブラも欲しいなー!!!!」

ちなつ「いやー、別にドン引きとかしてないですからね? ちょっと気持ちを整理したいだけなので、心配しないでください!」ニコー

結衣「絶対嘘でしょ!!!! ドン引きしてる顔だもん!!!!! 分かってるとは思うけど、今着けてるやつね???」

ちなつ「うわっ、ちょ、いいから! ちょっと近づかないでください!!!!」

結衣「ウワーもう汚物扱いだ!!! ほんの数十秒で恋人から汚物にジョブチェンジした!!!」

ちなつ「あ、明日までには返事しますから、そ、それではー」ピュー

結衣「待ってええええちなつちゅゎーーーーーーん!!!!!!!!!!!」


結衣「…………」ポツーン



結衣「しにてぇ………………」



西垣「あれは紛れもなく本心だな」

りせ『どうするんですかコレ』


西垣「ま、まぁアレだ。恋人の趣味や性癖をちょっと早めに知っちゃっただけだと思えば……」

りせ『いやその恋人になれない可能性があるんですが』

西垣「とにかく! こういうのは気持ちの切り替えが大切だ。私たちは影からそっと見守ろうじゃないか」

りせ『うわわー収集付けないつもりだこの人ー』

西垣「光線銃の実験も、2回やれば十分だろ。それじゃー校長室へ行くぞ」

りせ『ひっでえ教師だぜ』







西垣「と、そんなわけで校長室の前までやってきたわけだが」

りせ『私は入らないほうがいいですよね? 怪しまれますし』

西垣「そうだな。ここからは私と校長、1対1の直接対決になるだろう」

りせ『頑張ってくださいね』

西垣「あぁ、だがその前に」ゴソゴソ


西垣「一応松本にはこのイヤフォンを渡しておこう。私の白衣に装着された盗聴器から内部の音声が盗聴できる」

西垣「もし私がヘマってやられそうなときはこの閃光弾を校長室に投げ入れてくれ。一目散に退散するぞ」

りせ『全然1対1じゃないし、手際がよすぎる』

西垣「やめろ褒めるな」

りせ『あ、はい』



りせ『それじゃ、健闘を祈ります』

西垣「ありがとう。行ってくる」


ガチャ


西垣「失礼しまーす」

校長「……西垣先生、ノックくらいちゃんとしなさい」


西垣「ふふ、いいじゃありませんか。私と校長の仲ですよ?」

校長「ノックはマナーだ。仲の良し悪しは関係ない。それに生徒も見ている。以後気をつけるように」

西垣「ご心配なく。生徒が周りにいないことは確認済みです」


りせ(私がいたんですがそれは)


校長「……そういうことを言ってるんじゃない。次やったら減点対象だからな」

西垣「くっ、いやぁー今日もお美しいですねー校長」

校長「媚びを売って見逃してもらおうとするな」


校長「あのな西垣先生。私は見ての通り仕事に追われて忙しいんだ。もし用事があるなら、手短に済ませてくれ」

西垣「それは校長先生次第ですかねぇ」

校長「……はぁ、どうせろくでもない用事なんだろう? さっさと要件を言いなさい」


西垣「えぇ~珈琲の1つも出してくれないんですか~?」

校長「忙しいって言ってるだろう。飲みたきゃ勝手に淹れてくれ」

西垣「ちぇっ、は~い」

校長「私の分もよろしくな」


西垣「おや、職権乱用ですか? それともパワハラかな?」

校長「おっと、度重なる報告書の山々が出てきたぞ。これは西垣先生のクビかなぁ……」

西垣「すぐお淹れしますわ」スタスタ


西垣「…………」


西垣(ふふふ……校長め、まんまと引っかかったな)

西垣(校長の席から珈琲セットの位置は死角)

西垣(つまりアンタは無防備にも、私に背を向ける形になったわけだ)

西垣(それがどういうことか分かるか?)

西垣(こうして珈琲を淹れるフリして背後から……)

西垣(光線銃を当てることができるってことなんだよォー!!!!!!!)スチャッ


校長「西垣先生」


西垣「――――ッ!???」ドクンッ


西垣「は、はいッ、なんでしょう?」

校長「…………」

西垣「………………」ドキドキ



校長「……ミルクは1つな」



西垣「あぁ、はいはい、分かりましたー」

西垣(ふぅ、ビックリした。悪運の強いやつめ)


校長「“はい”は一回でよろしい」

西垣「はぁーい」

校長「伸ばさない」


西垣(よし、とりあえずなんとかなったな)

西垣(見ていろ校長。今にそのキレイな顔をフッ飛ばしてやるからな)


校長「西垣先生、まだできないのか?」

西垣「もうすぐです、もうすぐ」


西垣(そう、もうすぐアンタは私に逆らえなくなるのだフハハハ!!!)


西垣(つーわけで、さらばだ校長)

西垣(……そりゃッ!)ピロピロピロピロ


チョピピピピ


校長「……ん?」

西垣(よっしゃ当たった、作戦成功!!!)


校長「西垣先生、今私になにかしたか?」

西垣「いいえなにも。珈琲どうぞ」コトッ

校長「そうか……。珈琲ありがとう。変な薬品とか入れてないだろうね」

西垣「はは、信用無いですね私は」

校長「当たり前だろう」ズズ


校長「ん、美味しいじゃないか。驚いたな」

西垣「そうですか? でもこれ、インスタントですよ?」

校長「そのインスタントを淹れられることに驚いているんだよ。つまり、皮肉さ」

西垣「あっはっは。校長には敵いませんね」


校長「で、要件はなんだ? 珈琲を淹れてくれたお礼に、話くらいなら聞いてあげようじゃないか」

西垣「はは、ありがとうございます。でもまぁ、要件ってほどのことじゃないです。ちょっと昔話でもしようかと思いまして」

校長「……ほう?」



西垣「たまには同級生だった頃のように……腹を割って話すのも悪くないじゃないか。――――なぁ、小川」

校長「…………」




校長「ったく、忙しいと言っているのに」

西垣「そう言うな。仕事のしすぎは身体に悪いぞ?」

校長「どの口が言うか。西垣先生はもう少し、真面目に仕事をしなさい」

西垣「はは、精進しよう」


校長「……でもまぁ、たまにはそういうのも悪くないかもしれないな」

西垣(よっしゃ、乗った!)

りせ(奈々さん……校長先生と昔からお知り合いだったんですね)


校長「志帆子はまだ部活中?」

西垣「あぁ。なんでもコンクールが近いんだと。部員と一緒に缶詰になってるよ」

校長「ふふ、志帆子は昔から変わらないな……」

西垣「絵のことになると未だにああだ」


西垣「……それに比べて、小川は変わったな」

校長「ん? そうか?」

西垣「大学在学中に結婚して子どもまで生むなんて、当時のアンタからは考えられなかった。今でも信じられん」

校長「ふふ、確かに。あの頃は一生仕事して行きていくんだって、息巻いてたからな」

西垣「こころちゃんだっけ? 元気にしてるのか?」

校長「あぁ。幸いなことに良い友人にも恵まれているみたいだ」


校長「こころはちょっと変わってるところがあるから、いじめられやしないかと少し不安だったんだがな」

西垣「ちょっと変わってるのは、アンタの教育が変わってたからじゃないのか?」ニヤニヤ

校長「あぁ、それは否定できない。間違ってるとも思っていないが」


りせ(普通に昔話してるんじゃないよ……)ソワソワ

西垣(なかなか本音を吐かないな……ちゃんと当たってなかったのか?)


校長「……」


校長「なぁ、奈々」

西垣「なんだ?」


校長「この前の話、まだ答えは出そうにないのか?」

西垣「…………」

りせ(この前の話……?)


西垣「なんのことだ? よく覚えていないな」

校長「とぼけるな。顔が引きつっているぞ」

西垣「いいじゃないか、今はそんな話は」

校長「逆だな。今だからこそ、話しておきたい」

西垣「どうして」

校長「私が話したいと思ったからさ」

西垣「私がそういう気分じゃないんだが」

校長「ふふ、だからその気にさせてやろうってんじゃないか。それとも……」



校長「そんなに私から校長を引き継ぐのがイヤか?」

西垣「……」



りせ(え、こ、校長!? 奈々さんが……!?)

西垣(くそ、松本には聞かれたくなかったんだが……)


校長「前にも話したと思うが、引き継ぎの準備は十分にしてある」

校長「今からでも奈々に仕事内容を教え込めば、明日にはお前を校長に仕立てあげることだって可能だ」

西垣「いや、いくらなんでも明日は無理だろ……」

校長「可能だよ。それくらい、奈々の実力を信用しているんだ」ズズ

校長「実力だけをな」コトン

西垣「地味にひどい」


校長「お前にかかれば校長の仕事なんて、この珈琲を淹れるよりも簡単だろうさ」

西垣「アンタ私を買いかぶり過ぎてないか?」

校長「はは、そう思うかね。実は初美やつばさにも同じことを言われた」


校長「だが私は本気でそう思っているぞ」


校長「……あまりこういうことは言いたくないんだがな、奈々。はっきり言ってお前は優秀だ。天才と言い換えてやってもいい」

校長「天才だからこそ、度重なる爆発事故にも目を瞑ってやってるし、色んな実験にもチャレンジさせてやってるんだ」

校長「それに……松本との関係もだ」

西垣「…………」

りせ(…………)


校長「お前が校長とか、そういった役職に縛られるのを嫌ってるのは重々承知している」

校長「だがな、奈々……お前は、お前なら……」


校長「きっと私より、何倍も、何十倍も、この学校を良くしていける」

校長「そう確信しているんだ」


西垣「……おだててもなにも出ないぞ」

校長「本心だよ。私は本心でしか会話をしない」


校長「それに私も娘が心配なんだよ。できればずっとそばで見守っててやりたいんだ」

校長「だが仕事柄、そういうわけにもいかない。こころの寝顔は見飽きてしまったよ」

校長「小学校には運動会や授業参観、遠足みたいな親子参加型のイベントがたくさんある」

校長「それらをこころ一人で参加させるのは忍びないし、あまりにも可哀想だ」

校長「だから奈々。これは校長からではなく、お前の一人の友人、いや、親友としての頼みだ」

西垣「………………」



校長「私を、親友を、助けるためだと思って校長になってはくれないか」


西垣「…………ふっ」

校長「……?」

西垣「小川。お前のそういうところ、嫌いじゃなかったよ」

校長「なんの話だ?」


西垣「……松本! 例のやつを頼む!!」

校長「おい、お前なに言って…………」



シュパァアアアアアアァァァァァァアアァァアァン



校長「……………………!?!?」

校長「奈々、お前ッ!?!?」


西垣「悪いな。魅力的な話ではあるが“明日からでも”というわけにはいかない」

校長「どういうことだ……ッ?」


西垣「小川がこころちゃんのことを大切に思っているように、私にもかけがえのない、大事なやつがいてな」

校長「……松本のことだろう?」

西垣「おいおい、そこで名前を出すんじゃあない。相変わらず野暮なやつだな」

校長「正直なやつ、と言ってくれ」


西垣「……とにかく、あいつが卒業するまででいい」

西垣「そのときまでそのお話はお預けにしておいてくれ」


西垣「一人の親友を助けるためと思ってさ。……じゃーな」

校長「………………おいッ! 待てって……ッ!!!」



パアアァァアァアァァァァァァァァ....



校長「やっと消えたか……」

校長「……ったく、ズルいやつだよお前は」






西垣「……」チラッ

りせ『……』


西垣(さっきから一言もしゃべらないな。やっぱあの話を黙ってたのは良くなかっただろうか)

西垣(しかし他に方法もなかった。松本の性格だ、そんな話が出てたと知れば“絶対受けるべき”って言うに決まっている)

西垣(それ自体は別にいいさ。校長になれば、むしろメリットのほうが大きい)

西垣(……)


西垣(だけどな、松本。私は…………)



西垣(私はただ、お前と一緒にいたかっただけなんだ)


西垣(校長になれば、一緒に過ごせる時間は間違いなく減ってしまう)

西垣(それも松本が三年生という一番忙しい時期に、だ)

西垣(私はできる限り松本のそばにいてやりたい)

西垣(せめて最後の一年くらいは、一緒に)


西垣(そう思うのは、いけないことだろうか?)


西垣(いやまあ教師としては間違いなくいけないことなんだが……)

西垣(クソ、盗聴器持たせたのが仇となったな……)


りせ『……はぁ』

西垣「どうかしたか、松本」

りせ『んー…………』

西垣「……」ドキドキ


りせ『いやぁ、結局失敗しちゃったなぁって思いまして』

西垣「失敗……?」

りせ『校長の弱みを握るって話です。……もしかして忘れてたんですか?』

西垣「え、あ、いやぁ別に忘れてなんかいないぞ!?」

西垣(ヤッベェ完全に忘れてた)


西垣「ったく、結局なんで校長には光線銃が効かなかったんだ……? 背中に鉄板でも仕込んでたのか?」

りせ『……いや、それは違うと思いますよ』

西垣「ほう?」


りせ『校長先生が言ってらしたじゃないですか。“私は本心でしか会話をしない”って』

西垣「……つまり常に本音で喋ってるアイツには、もともと効果の無いシロモノだったと」

りせ『そういうことだと思います』


西垣「クソッ……またしてもやられてしまった」

りせ『ふふ、次は頑張ってくださいね』

西垣「もちろんだ。このままやられっぱなしで終われるか!!!」

りせ『生徒会の予算アップ、期待してますからね』

西垣「あぁ。任せておけ」



りせ『で、そんなことよりも、校長になるって話です』

西垣「…………」


西垣「いや、あれはだな……別に隠してたとかそういうわけじゃなくって……」オロオロ

西垣「ま、松本も受験だろう? 余計な心配をかけたくなかったっていうか、その……」オロオロ

りせ『……嬉しかったです』

西垣「えっとだからつまり…………え、嬉しい?」


りせ『はい。きっと本当はいけないことなんでしょうけど、奈々さんがそこまで私のことを思ってくれてたことが、嬉しかったんです』

西垣「松本……」


りせ『……ごめんなさい』


りせ『校長になる話を“絶対受けるべき”なんてカッコいいことの言えない女の子で』

りせ『1秒でも長く一緒にいたいと思ってくれてる先生のこと、素直に受け入れてしまうような女の子で』

りせ『盗聴器持たされて、奈々さんのことが知れて、超ラッキーなんて思ってしまってる女の子で』

西垣「……え、ちょっと待て、私そんなこと言ってないぞ!?」


りせ『ごめんなさい。さっき、こっそり光線銃拝借して奈々さんに撃っちゃいまちゃいました』

りせ『だから校長室から逃げてきたあとの独り言、全部聞こえちゃってました』テヘッ


西垣「」


西垣「全く油断も隙もないな……」

りせ『奈々さんが、私をそうさせたんですよ?』

西垣「なるほど……一理あるな」


りせ『……と、いうわけで奈々さん?』ズイッ

西垣「こ、今度はなんだ?」


りせ『お聞きします。さっき言ってた、青春時代に告白できなかったって人』

りせ『そのお相手って、もしかして……』


西垣「そ、それは…………」





西垣「ふふ、それは内緒だ」ニヤッ

りせ『……!?』


西垣「バカめ、この私が解毒剤を作らないでいたと思うのか?」

りせ『……もう、意地悪です』

西垣「なんとでも言え。大人はみんな意地悪なんだ。よく覚えておけ」

りせ『ちぇっ……』


西垣「さて……それじゃ、帰ろうか」

りせ『…………はい、帰りましょう』



綾乃「あっ! いたいた!!!」

千歳「先生~! 会長~!!」


西垣「ん、どうした。二人して息を切らせて」

綾乃「もう大変なんです! とりあえず生徒会来てください!!!」ダッ

りせ『……?』







櫻子「ねぇんひまわりぃ……もっといっぱいちゅーしたいよぉ……///」

向日葵「それじゃあ……次はちょっと大人のキスにしましょうか///」

櫻子「わぁい! わたし、向日葵の大人のちゅー、だいすきぃ///」

向日葵「それじゃいきますわよ……ん、あぁ……ふぁ…………///」

櫻子「ぁふぁ……んにぁ…………らめぁ…………///」


西垣「」

りせ『』


櫻子「ねぇ~ひまわりぃ……/// おっぱい触ってい~い?///」

向日葵「だぁ~め/// 今度はわたくしが櫻子のおっぱいをふにふにする番ですわよ///」

櫻子「えへへ/// そうだったぁ/// さすが向日葵はあたまがい~なぁ///」

向日葵「そんなことありませんわぁ/// 櫻子のほうがかわいいですものぉ///」


西垣「」

りせ『』


綾乃「二人がさっきからずっとこの調子で!!!」

千歳「いやぁもう三百回くらいぶっ飛ばしたろうかと思ったわぁ~」


西垣「……はは」

りせ『どうします……? 解毒剤飲ませたら、それはそれで大変なことになりそうですけど』


西垣「ふふ、そんなの決まっているだろう?」チャッ

りせ『え、なんで光線銃構えるんですか?』

西垣「こうやって出力を最大に調整してだな…………」キリキリキリキリキリキリキリキリ

りせ『…………ッ!!!!』


りせ『………………ま、まさかッッッッ!?!?!?!?!?!?』

西垣「その“まさか”だ!! 覇アッ!!!!!!!!!!」カチッ


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                              ´
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                               END

終わりです。
ありがとうございました。

一応補足を。
校長をなんでこころの母にしたかというと、原作で西垣の過去話をやった際、背景に「小川」の名前が入っていたからです。
それだけです。
詳しくは2016年1月18日発売予定の「ゆるゆり 14巻」でお確かめください。

ありがとうございました。

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