勇者「メラ…?」(34)


勇者「なんだそれは?」

魔法使い「火属性の初期魔法ですぞ」

勇者「ああ、それなら…」

勇者が横に手を伸ばすとその先に
火の柱が激しく空に向かって燃えだした

魔法使い「!?」

勇者「これだろ?」

魔法使い「メ、メラゾーマ…」

勇者「ん?」


戦士「ではこれより剣の練習を始める」

勇者「剣って必要なくね?」

戦士「なっ…貴様なにを!?」

勇者「ちょっと来てよ」

戦士「ん?」

そう言うと、勇者は戦士と街の外に出て
野生モンスターが出現する場所に来た。

すると、そこにスライムが現れた!

戦士「ククク…武器無しでは1の
   ダメージも通せまい」

勇者「ふんっ」

勇者が拳を突きだすとその風圧で
3匹いたスライムは遙か彼方に
飛んでいってしまった。

戦士「素手で…バシルーラ…」

勇者「ん?」


王様「なに、旅に出るじゃと!」

勇者「はい」

王様「ならばこの防具と武器を」

勇者「いりません」

王様「なぬ!?」

勇者「素手で十分ですから」

王様「な、仲間のために…」

勇者「お前は一人で十分だ!
   …と連れて行こうとしたら
   そういう風に言われました」

王様「そ、そうか…」


王様「むむ…ではせめてこの王の右腕…
   側近を倒してからにしてみよ!」

王様(側近は高レベルの賢者。そう易々と…)

勇者「えっ」

王様「む?」

勇者「まぁいいや。お願いします」

王様「うむ」

王様の横にいた側近は、颯爽と前に出て
そして勇者の類稀な身体能力と魔法の
数々によって颯爽と負けてしまった。

王様「つ、強すぎる…?」

勇者「ん?」


勇者は、とても強かった。
人間としては言うまでもなく
誰よりも、何よりも強かった。

スライムなどでは相手になるはずもなく─
また、人間界にいた高レベルの魔物の
やまたのおろち、ボストロール、
表の支配者のバラモスでさえも
勇者の手にかかれば瞬殺であった。

勇者は本当に誰よりも強かったのだ。

─そう、魔王さえも例外ではなかった。


魔王「ぐっ…何故だ…なぜこんなにも…」

勇者「強いのかだって?」

魔王「そう…だ…」

勇者「答える必要はないね」

魔王「ぐ…だが、魔王は何度でも
   復活する…何度でもな…!」

勇者「……」

勇者は静かに剣で魔王の首を切り払った。

勇者「…わかっているさ。そんなこと」


─それから勇者は、何度も復活する魔王を
復活の度に旅に出て、魔王城まで出向き
魔王を消滅させていた。

何年、何十年、何百年と─。

精霊の加護で勇者は半分、不死となって
いる。魔王を倒し続けるためだけに
与えられた能力。その驚異的な戦闘力を
買って、精霊の長が与えたものだ。

魔王が復活する毎に全盛期に
若返りするというものであった。

魔王が復活するまでに寿命が来たら
死ぬ、というものであった。


その長い時間の中で勇者が発狂しても
妖精きっとそれを助けようとしない
だろう。勇者はその事をよく理解している。

何故なら、妖精に心は無いから。

ただ、善と悪を分け、悪を滅ぼす
ためだけに存在する──正義の鉄槌。

悪を滅ぼすなら善の犠牲など気にもしない。
言葉は通じても、そこに心はない。

勇者はそれを理解しているからこそ
考える必要があった。

─あの日の、あの出来事を。



─勇者が初めて魔王を消滅させたその日。

─妖精は目の前に現れた。

魔王を倒した直後に現れたその妖精は
妖精のイメージとは少し異なる、白い髭を
生やした無表情のおじさんであった。

「少年よ、世界を救いたいか?」

勇者「うん、救いたい!」

「そうか。では、これから平和は
 来ると思うかね?」

勇者「う~ん…魔王倒したから
   来るんじゃないかな?」


「半分正解じゃ。しかし、勇者よ。
 これだけは覚えておいて欲しい」

勇者「なぁに?」

「魔王は何度でも復活する」

勇者「え?うそ…」

「うそではない。魔王は勇者が存在
 する限り、何度でも復活する」

勇者「なら、僕が何回でも倒すよ!」

「ふむ…しかし、魔王は何百年経っても
 復活するぞ?それこそ1年に一回
 なんてものではないぞ」

勇者「…それでも、僕が倒すよ」

「その決意、本物のようじゃな」

勇者「うん。だって僕は勇者だから!」


…その後、妖精の力によって
勇者は今の不死身のような体を
手に入れた。幸か不幸か、魔王が復活する
のはいつも早く、勇者は百年経った
今でも死ぬことはなかった。

妖精から力を得たことを後悔した日も
あった。ただ、それでも勇者は自分の
正義を信じて生きてきた。

──ある一人の魔王に出会うまでは。


その魔王と出会ったのは、何年前に
なるだろうか。その時すでに
何度も魔王を倒し、消滅させることが
全てになっていた勇者に、時間を
覚えることなど必要でなかった。

その魔王は、とても優しかった。

魔物に人を襲わせないようにして
また、それらを徹底するために
魔界に魔物を全て引き連れて、
さらには魔界と人間界を結ぶ"軸の歪み"と
呼ばれるものは死にもの狂いで塞いだり
もした。とにかく優しかった。

魔物も、魔王の優しい魔力を何度も
注がれて、いつしかかつての荒い気性は
無くなっていた。


だけども人は愚かで、かつての
魔王の姿が忘れられず、報復を恐れて
魔王討伐のため、勇者を旅立たせた。

勇者も自分の正義を信じるが故に
魔王を討伐せんと、賛同して旅に出た。

魔王が塞いだ"軸の歪み"さえも
無理矢理こじあけて城に突撃して。

そうして、あっという間に魔王の玉座
まで着き、魔王を斬りにかかった。

心優しき魔王は抵抗もせず、
それどころか、斬りにかかる勇者に対して
微笑み続けたまま、斬られてしまった。

そのまま魔王は倒れ、涙をうっすらと
浮かべながら横たわっていた。


倒された魔王はしばらくすると
頭の方からどんどんと空気に
とけ込むように消滅していった。

それと同時に、勇者の回りに魔王の
魔力が溢れて身体に流れていく。

勇者「これは…」

しかし、何も起こらない。

勇者「あたたかい…?」

そう、暖かかったのだ。身体ではなく
心がとても暖かくなった。
それは魔王の優しさや気持ちが
流れてくるようで、とても心に響く。

気がつけば、勇者の目から大量の涙が
溢れ出していた。それは魔王の優しさに
気づいた勇者の暖かさかもしれない。

勇者「なんだよ、これ…」

涙を拭っても拭ってもそれは溢れていく。

勇者「ああ、そっか…こんなにも
   大切なことを忘れて…
   …いや、知ろうともしなかったのか」


明日の朝からまた書きます

壁]ω・`)ノシ


─何百年経った今でも、勇者はその魔王の
ことを思い出す。思い出す、というよりは
忘れられないといったほうが
正しいのかもしれない。

今まで数え切れないほどの魔王を
倒してきて、優しい魔王に会った
のは、その一度きりだったから。

勇者は、その優しい魔王に再び
会おうとするために魔王を倒し続けている。

…優しい魔王が生まれる、奇跡を信じて。


─魔王城。

勇者「…魔王」

魔王「…勇者か」

勇者「そうだ」

魔王「……戦うつもりか?」

勇者「?…もちろんだ」

魔王「…なら、その前に少し話を─」

しないか、と言い切る前に勇者の剣に
よって魔王の首は斬られてしまった。

首を斬られても、体の構造が違うのか
魔王は首より上だけの顔で喋り続けた。


魔王「…や…はり…おま…え…の…ゆう…
   しゃ…の…こころは…むし…ば…
   …まれ…て…いる…よう…せい…の」

そう言って、その魔王は息絶えた。
そして、空気となって消滅した。

その時、不意に勇者の目に涙が流れる。

勇者「あ、あれ…おかしいな。悲しく
   なんてないはずなのに─」

その涙とともに勇者はあの優しい魔王の
ことを思い出した。
何故か忘れていたそれを──。

勇者「…危ない。忘れるところだった」

しかし、何故忘れてしまいそうになって
いたのか?と勇者は考える。


忘れるはずがないあの魔王のことなのに─

勇者「…心が蝕まれる…」

先ほどの魔王の言葉を思い出すように
その場で静かに呟く勇者。

勇者「…妖精…?」

妖精、といった言葉が妙に引っかかる。

勇者「─まさか!」

─もし、もしも妖精が心の中を
覗けることが出来るとするならば。

絶対的な悪の存在である魔王を
消滅させるためだけの存在ならば。

『ただ、善と悪を分け、悪を滅ぼす
ためだけに存在する──正義の鉄槌。』

─勇者の心は、不必要とされたのかも
しれない。そんな考えが巡った。


妖精は、悪を滅ぼすために手段を
選ばない。だから、それを手伝おうと
する──主に勇者のような存在に力を貸す。

ただし、あくまで善の者に
力を貸すのではなく、悪を退治する者に
妖精はその力、加護を与えるのだ。

そう、絶対的悪の象徴である魔王を
消滅させるためならば、例えどんな
心の持ち主でも加護を与える。

─それ以上の悪は存在しないから。

しかし、それでも勇者はなかなか
世界中を探しても現れない。
それは、魔王だけは加護を打ち破る
可能性を秘めているという事ともう一つ。

──魔王を倒す意志がなくなったと
判断された者は、加護が尽きて…死ぬ。


それから勇者は、魔王を倒し続けた。

あの優しい魔王のことを忘れないように
心に深く刻みながら、何度も何度も─。

加護が消えて自分が死んで新たな勇者が
優しい魔王を消滅させないためにも
魔王を倒すという思いも刻みながら。

もちろん、勇者はこの世の誰よりも
何よりも強いので魔王に殺されるなんて
いうことはなかった。


─それから、何年の月日が経っただろうか。

また、魔王が復活した。
しかし、勇者はそこに違和感を覚える。

──どこにも魔物が存在していない。

今まで魔王城まで進むには魔物がいた。
復活までに時間がかかるのと食料が
ないため、魔王城に住むことは
出来なかったため、いつも魔王城に
復活の度に進まなければならなかった。

さらに勇者はあることに気がついた。
魔界に住んでいて気がつかなかったが
"軸の歪み"がいつの間にか塞がれていた。

勇者「…もしかして」


魔王は復活してからすぐのおよそ3日間は
魔力が弱っているため、復活してすぐには
勇者は魔王に気が付かない。

気付いたとしても、勇者の住む場所から
魔王城までは何日か必要とする。

移動魔法も勇者はなるべく使わない。
優しい魔王が現れた時、そう、例えば
あの時のように"軸の歪み"を塞ぐための
時間を少しでも魔王に与えるために。

勇者は確信していた。今回の"軸の歪み"を
塞いだのは魔王である、と。

勇者「…ここまで長かった」

そうして勇者は、ようやく辿り着いた
魔王の玉座への扉を開ける。


魔王「…あなたが勇者ね」

勇者「ああ」

魔王「あなたは…私と戦うつもりかしら?」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「…そうだな。戦わなくちゃいけない」

──それがたとえ、あの時と変わらない
優しい魔王の姿をしていた相手でも。

魔王「私の…いえ私たちの罪は…
   …数え切れないほどだものね」

勇者「…"軸の歪み"は…あなたが?」

魔王「…そうね。罪滅ぼしにはならない
   だろうくど、完璧に塞いだつもりよ」

勇者「…それなら、安心かな」


勇者は瞬く間に魔王に近づき、斬り払った。
その速さは、魔王ですらも捉えきれない
ほどで、本当に一瞬の出来事であった。

勇者「…ありがとう」

勇者の剣から黒い血が流れていく。
そこから暖かい魔力が溢れている
ようにも思えた。ただ、魔王が消滅
すると同時に消えていってしまった。

勇者「…ごめんな」

だけども、次の瞬間に勇者の剣には
赤い血が流れ続けていた。
それはしばらく辺り一面、床にしばらく
広がり続けた。赤い血は勇者の首のない
身体から流れていた。


─勇者が生まれる時、魔王は復活する。

勇者という存在は、魔王がいる象徴。
だから、魔王は何度でも復活する。

だから、勇者は勇者がいなくなれば
いいと考えた。魔王の消滅と同時に。

妖精は死なない。触れることもできない。
声が聞こえるだけ。心のない声が。

そして、妖精が見えるのは勇者だけ。

勇者がいない今、また魔界と人間界を
繋ぐ"軸の歪み"がない今は、妖精を
除いて真実を知るものはいない。


──真実なんて誰も知らなくていい。

優しい魔王がいたことも。

自分という勇者がいたことも。


ただ一つ、願うとすれば──





──あの優しい魔王に、一番
始めの頃に出会いたかった。


出会った時にはすでに狂っていた。

涙なんて、流れただけだった。

心に響いても、心の傷は癒えなかった。



──でも、もう一度会えた時、
本当に心から嬉しかったと思えたよ。

…ありがとう。そして、ごめん。


少しアレな終わり方ですが、これにて
完結といたします(ノд`)

当初の予定では、勇者強すぎワロタww
といった展開を考えていましたが…

どうも苦手なみたいで…。


では、みなさん。
また出会える日まで、さようなら。

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