雪ノ下「もしかして……比企谷くん?」 (168)
八幡「お前………雪ノ下か?」
雪ノ下「ええ……久しぶりね」
八幡「そうだな……もう十年くらい経つか?」
俺ガイルssです
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雪ノ下「もうそんなに経つのね」
雪ノ下「私たちが、総武高を卒業してから……」
八幡「そうだな……」
八幡「俺の感覚だったら、やっとそれだけ経ったのかって感じなんだがな」
雪ノ下「ずいぶんと退屈な日々を送っていたようね?」クス
八幡「うっせ。そういうお前は随分とお忙しそうなことで」
八幡「まさか銀行員になってるとはな」
雪ノ下「あら、意外?」
八幡「結局お前法学行ったじゃねぇか。てっきり政治家かなんかになってると思ってた」
雪ノ下「……あのときは、そう思ってたのだけれどね」
雪ノ下「だからこそ、わざわざ東京の大学を選んだわけだし」
八幡「由比ヶ浜寂しがってたな」
雪ノ下「えぇ……よほど私が遠くに行くのが嫌だったのでしょうね」
雪ノ下「上京当日から怒涛のメールが届いたわ」
八幡「うっわぁ」
雪ノ下「さすがにしんどかったけれど……私を慕ってくれてたと思えば、悪い気はしないわよ」
雪ノ下「最近ではちょくちょく会っているし」
八幡「へぇ、そうなの」
雪ノ下「あなた由比ヶ浜さんと同じ大学だったんでしょう?」
雪ノ下「付き合いはまだ続いてないの?」
八幡「そもそも由比ヶ浜とは大学でサークル別れたとたん疎遠になった」
雪ノ下「えっ……?あの由比ヶ浜さんが?」
八幡「まぁ仕方ないだろ。遊びも人間関係もサークル単位になるし、始めのうちは俺も誘ってもらえてたんだが」
雪ノ下「事ある事に断ったのね」
八幡「………おい、どうしてわかった」
雪ノ下「『由比ヶ浜のサークルに俺という異物はいるべきではないから距離をおこう』……あなたの考えそうなことじゃない」
八幡「伊達に2年も同じ部活やってねぇなお前」
雪ノ下「由比ヶ浜さんの嫉着から逃れられるって相当よ。一体何をしでかしたの……」
八幡「俺がなにかやらかした前提で話進めるのやめてもらえませんかね……」
雪ノ下「でも、事実でしょう?」
八幡「だからちげーって……」
雪ノ下「信じられないのだけれど」
八幡「いや、信用ないのはわかってるけどね?」
八幡「………ほら、まぁ、あれだ」
八幡「由比ヶ浜に好きなやつができた」
雪ノ下「…………えっ?」
雪ノ下「そんな、由比ヶ浜さんそんなこと一言も……」
八幡「まぁ話を聞けよ」
八幡「そいつは由比ヶ浜のサークルの先輩でな。顔は普通くらいなんだが、とにかくいいヤツでさ」
八幡「困ってるお婆さんがいたら助けるし、子供が溺れてたら川に飛び込む。行方不明になった猫を探すために学校休んだりまでするやつだ」
雪ノ下「気持ちの悪いくらいの聖人君子ね」
八幡「まぁそんなのに由比ヶ浜が惚れても、おかしくはないわな」
八幡「ある時期を境に、しつこかった由比ヶ浜が俺に全く誘いをかけてこなくなった」
雪ノ下「あら、それはm9(^д^)ね振られ谷くん」
八幡「雪ノ下、お前にそのキャラは似合わん上に俺は振られたわけじゃない」
八幡「仮病とか架空の予定とかで苦し紛れの回避しなくて良くなったぶん、むしろ朗報と言える」
八幡「で、由比ヶ浜はその半年後にそいつに告白して、めでたく2人はカップルとなった」
雪ノ下「………私が六法全書とにらめっこしている間に、あの子はやることやってたのね…」
雪ノ下「ところで、自分から彼女と距離を置いた割に彼女のこと知りすぎじゃないかしらストーカー谷くん」
八幡「由比ヶ浜は目立つからな。情報は嫌でも入ってくる」
雪ノ下「それでもその彼氏の素性まで詳しく知っているのはどうかと思うわ…」
八幡「ストーカーなんかじゃないぞ。ただ俺は由比ヶ浜が心配で…」
雪ノ下「ストーカーは皆そういうのよね」
雪ノ下「あの今のあなたがそれ言っても何も説得力がないわ」
×あの→〇あと
八幡「で、元から目立つ由比ヶ浜と、サークルの良心と呼ばれた男とのカップルは一躍大学内でも有名になり、千葉大ベストカップルとまで言われるようになった」
雪ノ下「おかしいわね……大学4年間は少なくとも由比ヶ浜さんとはメールのやり取りが続いてたし、そんなことがあったなら私に報告しないはずがないのだけれど」
八幡「たぶん最初由比ヶ浜がお前にそれを伝えなかったのは、罪悪感からだろうな」パキッ
八幡「ごくごくごく」
雪ノ下「罪悪感?」
八幡「………っぷー。そ、俺と由比ヶ浜が疎遠になった上、由比ヶ浜は俺以外の男と恋仲になってしまった」
八幡「薄々、っつーか絶対勘づいてただろあいつなら。もう昔の奉仕部に戻ることは出来ないって」
八幡「お前も飲むか?マッ缶」
雪ノ下「………いえ、この状態では飲めないし」
八幡「まあ、それでもそのときはいつかは話すつもりだったんだと思うぜ」
雪ノ下「……何かあったの?」
八幡「……話していいかわかんねぇが、まぁ口止めもされてねーし」
八幡「それ以前に口もきいてないんだけどな」
雪ノ下「……………」
八幡「率直に言うと、そのサークルの先輩、どうしようもないクズだった」
雪ノ下「クズ?」
八幡「あぁ……それも、DVとか結婚詐欺とかそういう類のもんじゃない」
八幡「『女の奴隷化』……っつったら理解できるか?」
雪ノ下「は、はぁ?結局DVということではないの?」
八幡「いや、それよりもっとえげつない」
八幡「言葉、暴力、テクニック……あらゆる能力を用いて相手を自分に"心酔"させる」
八幡「早い話が、自分の命令には逆らえないように調教するんだ」
雪ノ下「………そんなことが出来る人が、現実に存在するの?」
八幡「いたから、悲劇が起きたんだよ」
雪ノ下「……………」
八幡「由比ヶ浜は、最初は何とも思っていなかったらしい」
八幡「こいつの手口が実に巧妙でな、違和感を覚えないように、少しずつ、少しずつ追い詰めていくんだ」
八幡「だんだんそのクズと由比ヶ浜の関係性が歪んでいくのは、見ているだけでわかった」
雪ノ下「でもあなたは、何もしなかった」
八幡「……できなかったんだよ」
八幡「今までさんざん由比ヶ浜を遠ざけておいて、『そいつは危険だから別れろ』なんて言えるわけがないだろ」
雪ノ下「……高校生のあなたなら、迷わず助けていたでしょうね」
八幡「…………昔のことだろ」
八幡「話の続きだ。由比ヶ浜自身はその歪んだ関係性に何の疑問も抱いてなかった。そのクズがどれだけ恐ろしいかわかるよ。何の疑問も感じさせないんだから」
八幡「周囲も、由比ヶ浜自身が特に拒絶してないから、直接口出しすることは無かった」
八幡「ただ三浦は違った」
雪ノ下「まぁ、でしょうね」
八幡「大方予想通りだと思うけど、あのときの三浦はすごかったわ」
八幡「危機感をまったく感じてない由比ヶ浜にブチ切れて3時間くらい説教」
八幡「んで解きやがったんだよ、クズの洗脳を」
八幡「その後はクズのところに殴り込みに行って」
八幡「まずそのクズを一発ぶん殴って」
八幡「そいつの犯罪の証拠を押収してそいつもろとも警察につき出した」
八幡「『次アタシの友達に手出したら殺すよ』ってな」
雪ノ下「どこの少年漫画よ……」
八幡「で無事由比ヶ浜はクズから開放されたわけだが、その一件以来男性不信になっちまって」
雪ノ下「え…………?」
雪ノ下「いま、なんて………」
八幡「……だから、男性不信」
八幡「男が怖くて、目も合わせられねぇようになっちまった」
八幡「もちろん俺も例外じゃないぞ」
雪ノ下「…………なるほどね」
雪ノ下「どうりで話してくれないわけだわ」
八幡「今の話は全部戸部から聞いた話だけどな」
八幡「戸部のことだから少し……いやかなり脚色してる可能性もあるが」
雪ノ下「比企谷くんは……由比ヶ浜さんに会いに行った?」
八幡「………………」
八幡「会いにいけるわけないだろ、そんなもの」
雪ノ下「……あなたは」ギリッ
八幡「責任は感じてるさ。こうなった一端は俺に責任がある」
八幡「だからこそ、どの面下げて会いに行けばいいんだよ」
八幡「行ったところで、目を瞑られて、耳を塞がれる」
八幡「そんな自己満足な慰めより、するべきことがあるだろ」
雪ノ下「……で、あなたはどうしたの?」
八幡「大学辞めた」
雪ノ下「それはけじめ?」
八幡「いいや、ただの自己犠牲だ」
雪ノ下「自己満足となんら変わりないわね」
八幡「大学中退の経歴は響いたぞ。どの会社受けても書類で落とされるし」
八幡「で、何十社も受けて、ようやく内定もらって、社会人になった」
雪ノ下「あら、そこでヒッキーendかと思いきや、一応はちゃんとしてるのね」
八幡「由比ヶ浜が原因でヒッキー化とか
洒落にならんだろ…」
雪ノ下「で、そこはブラックだったのよね」
八幡「マジかすげぇなお前。エスパーかよ」
雪ノ下「何十社も落ちる社会のゴミを拾ってくれるのなんてそれくらいしかないでしょう……」
八幡「その頃は、昔お前に言われた"生きる産業廃棄物"っつー悪口思い出して毎晩枕を濡らしたもんだ」
雪ノ下「とんでもない時間差ね」
八幡「ブラックながらも頑張ったんだよ俺。まぁ半分自己犠牲に酔ってたおかげかもしれないけど」
八幡「その頃の俺は尋常じゃなく目が死んでたそうだ。心なしか満員電車内でも俺の周りだけ人がはけてた」
雪ノ下「それはある意味才能ね」
八幡「超社畜級の生きる屍です……」
雪ノ下「今のあなたのそれよりも酷かったの?」
八幡「もうね、こんなもんじゃなかったよ。濁ってるっていうのか、なんだろうな」
雪ノ下「比企谷くんの眼球事情はそれくらいでいいわ」
雪ノ下「で、ブラック企業は何年続いたの?」
八幡「なんで俺がリタイアしてる前提なんですかね…」
雪ノ下「あら、違うの?」
八幡「3年続けたぞ」
雪ノ下「比企谷くんにしては頑張ったわね」
八幡「いや、違うんだって。言っただろ
、これは自己犠牲の一種。俺は一生をこのゴミ会社に捧げるって誓ってたんだよ」
雪ノ下「……?ならなぜ辞めたの?」
八幡「だから自主的にやめたわけじゃないんだって……」
八幡「会社が倒産したんだよ」
雪ノ下「あら、それは………ご愁傷様」
雪ノ下「と、いうべきなのかしら……おめでとうというべきなのかしら……」
八幡「何も言わなくていいんだよ」
八幡「だから友達すくねぇんだよ…」
雪ノ下「そのセリフ、あなただけには言われたくなかったわね……」
八幡「だが事実だ」
雪ノ下「で、何でいきなり会社が倒産なんてしたの?」
八幡「ブラック企業にはよくある話だろ」
八幡「労働基準法違反」
八幡「社員の誰かが告訴した。それで会社は裁判に負け、会社は倒産、俺たちは再び路頭に迷うことになった」
雪ノ下「………あぁ、重いわね」
雪ノ下「だけど、そんな急に告訴なんて起こるものなのかしら……」
雪ノ下「そういうところって、徹底的にそういうのが起こらないように手配するんじゃ……?」
八幡「まぁ、人死んだからな」
雪ノ下「はっ?」
八幡「過労で社員の一人が死んだんだよ。ちなみにその人は俺の直属の上司だった……」
雪ノ下「……………」
八幡「優しくて真面目な人でさ。死んだ目をしてる俺にも唯一気軽に話しかけてきてくれた」
八幡「仕事で辛いときとか、飲みに誘ってくれたりした。仕事は丁寧に教えてくれた。どんな時も笑顔だった」
八幡「さっき俺がブラック企業で頑張った理由の半分が自己犠牲つったろ」
八幡「残りの半分がこの人の存在だ」
雪ノ下「………性別は?」
八幡「女だけど、なんで?」
雪ノ下「い、いえ、別に……」
八幡「………そして、その人は会社に殺された」
八幡「誰よりも会社を思ってて、誰よりも働いてたのに、会社はその人を酷使し続けたんだ」
八幡「その人が死んだとき、社長はなんて言ったと思う?」
八幡「『〇〇君は命を懸けてこの会社のために働いてくれた。君たちも彼女を見習い、これからも頑張ってくれたまえ』」
八幡「ふざけんな、だよな」
八幡「慈しみも後悔もないんだ。ただあるのは"死ぬまで働いてくれてありがとう"……何だよそれ。先輩はオセロの駒なんかじゃねぇんだよ」
雪ノ下「………だから、告訴したのね?あなたが。会社に復讐するために」
八幡「いいや、違う」
雪ノ下「ええ?」
八幡「大好きな先輩が死んだ。その時は憎しみなんかよりも先にとんでもない喪失感に襲われた」
八幡「何もする気が起きなかった」
八幡「ただ言われた仕事をこなすだけ……頭の中は空っぽ」
八幡「ようやく気持ちの整理がついた時には、会社が潰れてた」
八幡「先輩は会社内でかなり人気のある人だったらしい。どんな仕事も笑顔で引き受ける彼女は、従業員たちにとって太陽みたいな存在だったんだと」
八幡「そんな人が死んだんだ。俺なんかが動くまでもなく、他の奴らが勝手に騒いで勝手に潰してくれたよ」
八幡「俺はまた何も出来なかった」
雪ノ下「…………………」
八幡「気付いたらなんもなくなってたよ」
八幡「数少ない友だちも」
八幡「尊敬できる先輩も」
八幡「そしてついに家族からも見離された」
雪ノ下「……………………」
八幡「仕事がなくなって実家に帰ったら、お前みたいな穀潰しは我が家にはいらない、って追い出された」
八幡「小町は川なんとかと結婚して新婚だ。迷惑かけるわけにも行かない」
八幡「そこでようやく考えたよ」
八幡「何も出来なくて、何もかも失って、からっぽな俺に、今出来ることはなんだろうってさ」
雪ノ下「………………その答えが」
prrrrrrrrrrrr
八幡「おっと、すまん電話だ」
八幡「………うん」
八幡「……おう」
八幡「……………なるほどな、わかった」
八幡「雪ノ下」
八幡「残念だけどお喋りはここまでだ」
雪ノ下「その答えが………ッ!」
八幡「交渉決裂だ。人質を殺せ」
雪ノ下「それなのッ………!?」
テロリスト「イエッサー」
ドン
女「」
八幡「まずは一人」
雪ノ下「比企谷くんッ!やめなさい!」
八幡「あー、あー、聞こえてるか?警察の皆さん」
八幡「ていうか監視カメラの映像は見えてますよね、ご覧の通りです。あなたたちがこの包囲を解かない限り、十分に一人ずつ人質を殺していきます」
雪ノ下「比企谷くんッ!!」
八幡「あー、雪ノ下、今は黙ってろ」
八幡「我々の要求は1つ。警察を撤退させ、我々をこの銀行から逃亡させること」
八幡「我々が人を殺すのを躊躇するような人間でないことはわかってもらえたはずである」
八幡「要求を呑め。さもなくば人質も……あなたの可愛い妹の命もありませんよ?」
雪ノ下「ッ……!?姉さんがいるの?」
八幡「さぁな、だがこの声明を聞いたならあの陽乃さんは黙ってないだろ」
雪ノ下「まさか……あなた最初から私を狙って?」
八幡「いや、それは偶然。ただ利用できるものは何でも利用するタイプなんでね」
雪ノ下「……私を殺さないつもり?」
八幡「俺がそこまで甘く見えるか?」
雪ノ下「さぁ。でも少なくとも、あなたは弱い」
八幡「………………」
雪ノ下「あなたが銀行強盗どころではないことをしでかそうとしているのはなんとなくだけどわかるわ。でもこんなやり方……自分に自信の無い、心の弱いもののやり方よ」
雪ノ下「そんなあなたに、私は殺せない」
八幡「…………はっ、なんとでも言えよ」
八幡「俺だってこんなやり方が正しいなんて思っちゃいない」
八幡「でも何が正しいかに囚われて何も出来ないのはもう嫌なんだ」
八幡「俺は必ず革命を起こすぞ、雪ノ下」
八幡「たった一つのゴミクズのせいで善良な人間が人生を棒にふるなんて間違ってる」
八幡「この世界をこわして、新しい世界を作ってやる」
捕捉
八幡たちはテロリストですが、今やっていることは銀行強盗です
銀行強盗で得た資金を使い革命を起こそうとしています
少しわかりづらかったですね、すいません
雪ノ下「あなた……狂ってるわ」
八幡「百も承知だよ」
雪ノ下「こんなもので得た新世界なんて間違ってる!」
八幡「どんなプロセスがあろうと、新世界は新世界だ」
八幡「武力行使での内戦の鎮圧は間違っているか?」
雪ノ下「内戦と今の世の中を同列に語らないでちょうだい」
八幡「同じだよ。俺から見ればね」
八幡「銀行員なんていう安定した職につけてるお前らにはわからないさ」
八幡「わかりたくもない。こんな嘘と詭弁と欺瞞で満ち溢れた世界なんて」
八幡「警察は?」
テロリスト「……未だに動きを見せません」
八幡「……そうか」
八幡「警察の諸君、そろそろ20分が経過する。我々としても無駄な血など流したくはない」
八幡「我々の要求を呑め。それとも、罪のない一般人を見殺しにするか?」
雪ノ下「やめなさいっ!!比企谷くん!!」
八幡「はぁ……、そいつの口を塞げ」
テロリスト「はっ」
雪ノ下「ん、んくぐ、んぐぐあーー」
八幡「……カウントダウンだ」
八幡「10」
八幡「9」
八幡「8」
八幡「7」チラ
テロリスト「……コクッ」チャキ
子供「ひっ………!?や、やだ!!」
雪ノ下「んんんんんんんん!!!!」
八幡「6」
八幡「5」
八幡「4……」
陽乃「そこまでだよ、比企谷くん」
おやすみなさい
雪ノ下(…………姉さん!)
八幡「……おっと」
八幡「来ましたね、陽乃さん」
陽乃「比企谷くん、今すぐ人質を解放しなさい」
八幡「だからするって言ってるじゃないですか。あなたたちが撤退してくれないと解放できないんですよ」
陽乃「君たちは自分の立場がわかってないようだね」
八幡「そちらこそわかってないのでは?」
八幡「どんな脅しを使おうと、このまま撤退する気がないというのなら、人質を殺します」
八幡「俺は嘘はつきませんよ」
陽乃「どの口がそれを言うのかな?」
陽乃「嘘に嘘を重ねていろんなことから逃げ続けて」
陽乃「欺瞞なのは世界じゃない。他ならない君のことじゃないのかな?」
八幡「……………」
八幡「悪いですけど陽乃さん、俺はお喋りをするためにあなたを呼び寄せたわけじゃないんです」
sageてどうすんだ……
八幡「やれ」
子供「あ、あ………」
陽乃「ま、待って!!」
八幡「初めてあなたの人間らしい声が聞けたと思いますよ」
八幡「今度は何ですか?こうしてる間にも三十分目は近づいてきているんですよね」
陽乃「…………撤退」
雪ノ下(…………!?)
陽乃「人質の命が最優先よ。銀行を包囲している全ての警察組織はその場から撤退しなさい」
雪ノ下「ん、んぐ!んぐぐぐ!!」
雪ノ下(ダメよ姉さん………!この男の言いなりになってはダメ!!)
八幡「ふっ」
八幡「やはりあなたは話がわかりますね」
八幡「オイ、お前ら逃亡準備だ!」
テロリスト「イエッサー」
雪ノ下「ぷはっ!はぁ、はぁ………」
八幡「よし、警察は全員撤退したな?」
八幡「わかった、お前らはアジトで次の準備だ」
雪ノ下「比企谷くんッ!」
八幡「あー……雪ノ下。せっかくの再会がこんな形でごめんな」
八幡「今日お前と会話できて楽しかったわ」
雪ノ下「比企谷くん………あなたは、変わってしまったのね」
八幡「そりゃそうだろ、変わらない人間なんていない……」
八幡「お前だってずいぶんと丸くなったじゃないか」
雪ノ下「高校時代のあなたは、もっと強かった!だからこそ危なっかしくて、友だちも少なくて、傷つくことも多かったと思うけれど……」
八幡「そいつぁ、ただのお前の願望ってやつだ」
八幡「俺は弱い人間だよ。今も昔もな」
雪ノ下「……でも昔のあなたなら絶対にこんなことをしない」
雪ノ下「そもそも、由比ヶ浜さんが男に騙されたり、会社の先輩が過労死したりしないように、手を打とうとしたはず」
八幡「だから人は変わるんだ」
八幡「昔の俺の弱さと、今の俺の弱さは根本的に違うからな」
雪ノ下「………なにが、あなたをそうさせてしまったの?」
八幡「…………さぁな」
テロリスト「準備が整いました」
八幡「おっと、お別れの時間みたいだ」
雪ノ下「…………ッ!」
雪ノ下(この拘束さえなければっ……!)
八幡「じゃあな、雪ノ下」
八幡「またいつか会おう、雪ノ下」
警察A「うわっ、なんだこれ……」
警察B「奴ら、本当にやりやがったのか」
人質「ブルブルブルブル……」
警察C「はい、もう大丈夫ですよ」
雪ノ下「………ありがとう」
雪ノ下(比企谷くんたちが去りしばらく経った後、すぐに警察が駆け込んできた)
雪ノ下(彼らは脱出した後、ご丁寧に『脱出したので人質救出どうぞ』と言ってきたらしい)
警察D「……大丈夫っすか?雪ノ下さん」
雪ノ下「え、ええ……」
雪ノ下「あら?あなた誰だったかしら?」
警察D「雪ノ下さんもっすか!?川崎大志っす!」
雪ノ下「あ、ふーん………」
雪ノ下「ってええ!?あの大志くん?」
大志「他にどの大志がいるんすか……」
大志「……まさかあのお兄さんがね」
雪ノ下「そういえば正式に弟になれたよね。おめでとう」
大志「えっ?誰から聞いたんすか?」
雪ノ下「………今さっき、比企谷くんからね」
大志「……話したんすか?」
雪ノ下「ええ。そこでいろいろ教えてもらったわ。彼の身に、何があったか」
大志「俺も小町も、断片的なことしか知らないっすが……」
大志「だいぶ辛い人生みたいだったっすね」
雪ノ下「だからといって、こんな事件を起こしていいわけがないわ」
雪ノ下「……罪のない人間まで殺して」
大志「………それは、そうっすよね…」
警察B「あの、ちょっといいですか、川崎巡査部長」
大志「えっ、なんすか?」
警察B「あのですね………死体がないのです」
雪ノ下「はっ?」
大志「えっと……どういうことっすか」
警察B「ええ……最初に見せしめとして殺された女性がいたじゃないですか」
雪ノ下「………」
警察B「硝煙の匂いや、床に広がっている血液から、撃たれたのはほぼ間違いないはずなのですが…」
大志「撃たれたはずの、女性の死体がないってことっすか?」
警察B「え、えぇ……だから俺たちもわけがわからなくて」
雪ノ下「………………まさか」
雪ノ下「ねぇ、床の血液って、本物なの?」
警察B「はっ?いえ、詳しくは調べてませんが……状況的に本物かと」
雪ノ下「今すぐに調べて」
警察B「は、はぁ……」
大志「ゆ、雪ノ下さん、何を……」
雪ノ下「……あの男。一体何をしたいの?」
女「うまくいきましたねー」
八幡「あの程度の仕掛けで簡単に騙されてくれるとはな」
女「ですねー。あの人ももう少し頭が回る人だと思ってたんですけどー」
八幡「空砲とはいえど音もするし、血糊といえどあれだけの量ならいくら陽乃さんでもな」
女「おまけに普通人質の中にテロリストがいるだなんて思いませんもんねー?」
八幡「ま、後はお前の死んだふりもうまかったわ。15分もよく耐えたな」
女「なんですかそれ口説いてるんですかごめんなさいテロリストと結婚するとかあとが怖いので無理です」
八幡「お前もテロリストだろ……」
女「これからアジト戻るんですよね」
八幡「あぁ、そのことなんだが……」
八幡「作戦は変更だ。アジトは捨てる」
女「………えっ?」
八幡「あの陽乃さんが、あんなにあっさり俺たちを見逃すと思うか?」
女「…………まさか」
八幡「とっくにアジトなんて特定されてるんだろうな、おそらく今アジトは警察に包囲されているだろう」
女「そんな………じゃあどうするんですか」
八幡「慌てるな、ここまでのことをしたんだ。その可能性についてもちゃんと考えていたさ」
八幡「すぐそこの駐車場で、もう一台車を待機させてある」
八幡「一色、お前と金はそっちに乗り換えろ」
一色「………まーた逃げるんですか?」
八幡「俺がそうやすやすと捕まると思うか?」
一色「自分だけ顔を晒した上で警察と交渉したのも、誰が主犯格なのかを認識づけるため」
一色「自分が捕まることで、他のみんなを逃がすことができるようにするため」
八幡「一人の犠牲で大勢の仲間が助かるんだぞ?合理的に考えてこれが最善だよ」
一色「高校卒業してから、私とってもつまんなかったんですよ」
一色「先生に媚売って、男の人を弄んで、女子からはしつように苛められて」
一色「大学でも社会人になってもずーーっと一緒」
一色「毎日毎日、同じ笑顔の繰り返し」
一色「そんな私を見かねて、先輩はすっごく面白いことに誘ってくれました」
一色「あのとき先輩の誘いに乗らなかったら……なんて思うときもありますけど」
一色「それでも、先輩にはすっごく感謝してますし、今とっても楽しいんです」
八幡「………………」
一色「………私をこんなのにしちゃったのは、他ならない先輩なんですよ」
一色「私たちを焚きつけるだけ焚きつけて、後は全部私たちに任せて逃げるんですか?」
一色「そんなの絶対許しません」
八幡「………お前」
八幡「でも、これ以外に方法はないんだよ。全員捕まるか、俺だけ捕まるか。どっちがいいか考えろ」
一色「全員笑って帰る。これが私の考える最善です」
八幡「…………だから!それができないからこうやって…」
一色「できますよ」
一色「やってみせます」
八幡「だからどうやって……」キキーッ
一色「ドンッ」
八幡「わっ!何すんた、お前!がっ!?」
一色「先輩はそのバッグと一緒にコンクリートの上で寝転がっててください」バタン
一色「よし!アクセル全開!」
八幡「やめろっ!!一色!それは1番最悪な手だ!!」
一色「わたしはっ!!」
八幡「………ッ!?」
一色「みんなで捕まるのと、先輩だけが捕まるのだったら、先輩だけが捕まる方が断然嫌です!」
ブルルルルルル………
八幡「………………」
八幡「ははっ」
八幡(強いな、一色は……)
八幡(昔の俺と、今の俺の弱さの違い。そんなものは簡単な話だ)
八幡(昔の俺は、常に手に入れることに怯えていた)
八幡(手に入れようとして、失敗して、傷ついてきたから)
八幡(手に入るんじゃないか?と期待して、裏切られて、傷ついてきたから)
八幡(だから予防線をはっていた)
八幡(俺が何も手に入れようとしない、その理由付けが欲しかった)
八幡(だから率先して我が身を犠牲にした)
八幡(人助けのためだから。俺は優しいから。そんな言い訳をするために)
八幡(だが、今の俺は。いや……高校卒業してからの俺は、だ)
八幡(手に入れた。手に入れてしまった)
八幡(心の底で俺が望んでいた、"本物"を)
八幡(今だから、はっきりと言える)
八幡(俺は失うことに怯えていた)
八幡(高2の三学期………俺が唯一"強かった"といえる時期だ)
八幡(そこで、手に入れることに怯えていた俺が、やっとの思いで手に入れることが出来た"本物")
八幡(それを失うのがどうしても怖かった)
八幡(そんな怯えは"本物"なんかじゃないと気付いていた)
八幡(だけれど俺は怯え続けた)
八幡(怯えて怯えて怯えて………)
八幡(そして全部なくなった)
八幡(大学をやめたのも罪悪感なんかじゃない)
八幡(結局はただの逃げだ)
八幡(由比ヶ浜のことを忘れたかった)
八幡(全てを失った、この喪失感をどうにかして埋めたかった)
八幡(だけど、その喪失感はいくら働いても、いくら先輩への想いを募らせても消えることはなく……)
八幡(そうこうしているうちに、その喪失感は倍になった)
八幡(そしてまた、最初の俺に戻る)
八幡(その喪失感を埋めるための、理由を探した)
八幡(世界を変える)
八幡(その理由が頭に浮かんできた瞬間、俺の中の何かが崩壊した)
八幡(……俺は、一色に感謝されるようなことは何もしてない)
八幡(ただの自己満足で、一色を始めとした、たくさんの人の人生を狂わせただけなのだから)
八幡(そうして……こうやって組織が大きくなっちまえば)
八幡(今度は仲間を失うのに怯えている)
八幡(生まれてきてから今まで、俺は自分の弱さに振り回されっぱなしだ)
八幡(………ははっ!改めて振り返れば振り返るほど、俺はどうしようもねぇクズだってことがわかるな!)
八幡「…………でも」
八幡「俺だって……まだやれるはずだ」
八幡(自分の弱さに抗い、奉仕部との"本物"を手に入れようとしたあの頃を思い出せ)
八幡「俺は最後にもう一度………強くなってやる」
八幡(車を走らせる)
八幡(一色に向かわせる予定だった所に)
八幡(今すぐにでも車を引き返し、一色たちを助けに行きたい衝動に駆られる)
八幡(だけど、その弱さは捨てろ)
八幡(逃げるな、比企谷八幡)
八幡(俺を待ってる人がいるんだ)
ーーーーーーー比企谷家
八幡(………懐かしの我が家)
八幡(今は父さんと母さんの二人暮らしだ)
八幡「ピンポーン♪」
??「………はい」
八幡「俺だ」
??「えっ……?」
八幡「トラブルで計画が変更になった。開けてくれ」
??「………わかった」
ガチャ
八幡「…………………」
??「お前の言ったとおり」
比企谷父「」
比企谷母「」
??「拘束しておいたよ。殺しはしてない」
八幡「……あぁ、ありがとな」
八幡「葉山」
八幡(葉山隼人……)
八幡(家督を継いで弁護士になってた彼だったが、弁護士になりたかったわけでもなく、ただ期待に答えるままに生きてきた結果、人生の目標を見失ってしまったのだと)
八幡(正直、こいつがあんな簡単に落ちるとは思っていなかった)
葉山「いろははどうしたんだ?」
八幡「……金と俺を車から放り出して、1人でアジトに突撃してった」
葉山「…………それって」
八幡「あぁ。俺も抵抗はした。だが止められなかった」
葉山「なぜ助けに行かなかった!!」
葉山「もう一つの車を使えば、いろはを追えたはずだ!!」
葉山「君が犠牲になれば、いろはたちもっ………!」
葉山「…………すまない」
八幡「いいや、その通りだ」
八幡「だけど、俺はあいつを信じることにしたんだよ」
八幡「『みんな笑って帰る』……それが私の最善ですってさ。あいつのあんな表情初めて見たよ」
八幡「ここで信じてやんなきゃ、仲間とは言えねぇだろう」
葉山「……………君は、強いな」
八幡「よせ、俺は強くなんかない」
八幡(そう………これはただの強がり)
八幡(それでも、この1歩で、何かが変わってくれるはずだ)
葉山「……その強さが、君の命取りだ」
八幡「何?」
陽乃『やっぱり比企谷くんはこっちに来たねー』
八幡「なっ………!?」
八幡(陽乃さんの声………!?まさか、ここもっ………!?)
警察『テロリストどもに告ぐ!』
警察『この家は包囲されている。君たちに逃げ場はない。大人しく投降しろ』
八幡(なぜここがバレた………!?葉山たちはあくまで俺の友達としてこの家に侵入した。後は通報する間もなく制圧できただろう)
八幡(………考えられる可能性は!)
八幡「葉山、やってくれたな」
葉山「なんで俺なのかな?」
八幡「陽乃さんと一番近い人物」
葉山「ははっ!ほとんど勘の域じゃないか。まぁ黙っててもあれだから言うけど、スパイの正体は俺だよ」
テロリスト「クッ……!だがこちらには人質が3人いる!」
八幡「…………………………」
八幡(恐らく陽乃さんは俺たちが"殺せない"ことがわかってる………マズいぞ、どうすればいい)
テロリスト「とりあえずこの裏切り者を殺して、残りの2人で交渉だ」
八幡「やめろ」
テロリスト「はっ……?」
葉山「…………」
八幡「投降しろ」
テロリスト「は、はぁ?」
八幡「投降するんだ」
テロリスト「そりゃねぇだろリーダー!だったら俺たちは今まで何のために……」
八幡「人を殺すためじゃない」
テロリスト「…………」
八幡「………どけ、葉山」
葉山「………君は、本当に強いよ」
八幡「よせっつってんだろ」
葉山「今の君なら、結衣や先輩さんも助けられただろうに」
八幡「黙れ」
葉山「……………」
八幡「\()/」ガチャ
陽乃「………へぇ」
陽乃「普通に出てくるんだ」
八幡「……お前らも、続け」
テロリスト「\()/」ゾロゾロ…
陽乃「…………なるほどね」
陽乃「それが君の抗い?」
八幡「………何のことですか」
陽乃「ふふ、話す気はないんだね」
陽乃「――――――比企谷八幡。強盗罪及び脅迫罪で、あなたを逮捕します」
ーーーーーーーーー面会室
警備員「入れ」
八幡「………………」
雪ノ下「…………………」
雪ノ下「あなた、比企谷くん?」
八幡「………んだよ」
雪ノ下「い、いえ……。あなた坊主姿全然に合わないわね………」
八幡「笑ってんじゃねぇよ」
八幡「で、なんか用か」
雪ノ下「あれだけ大口叩いて結局葉山くんと姉さんに追い詰められて捕まった哀れ谷くんを笑ってあげようと思ってね」
八幡「面会は以上のようです」
雪ノ下「あぁ、冗談よ冗談!」
八幡「だったらなんだ!この姿あんま人に見られたくないんだよ!」
雪ノ下「それは、その……」
雪ノ下「心配で」
八幡「……………槍でも降るのか?」
雪ノ下「勘違いしないで欲しいのだけれど、あなたは一応私の数少ない知人の1人であって、その人が波乱万丈な人生を送ったあげく牢獄に入れられたとあっては嫌でも心配になるのが普通でしょう。私が普通の感性を持ってないとでも思っているのかしら?」
八幡「ははっ、変わんねぇな、お前」
雪ノ下「それはそうよ。人なんてそう簡単に変わらないのだから」
八幡「……………」
雪ノ下「あなたは自分の弱さに振り回され、人としての道を踏み外してしまったかもしれない」
雪ノ下「でも、あなたの根本にあるものは、何も変わってないと思うわ」
八幡「………それが慰めになるとでも?」
雪ノ下「さぁね。ただ私はそのことをあなたに知って欲しかった」
雪ノ下「こうなった今でも、あなたを"優しい"と思える人もいるのよ」
八幡「………優しい、ねぇ」
八幡「それも、お前の願望か?」
雪ノ下「客観的事実よ」
雪ノ下「葉山くんがあなたの弁護をしたのも、そういう理由からじゃないかしらね」
八幡「嫌なこと思い出させんなよ……すっげぇ気まずかったんだぜ、あれ」
雪ノ下「一色さん含む、あなたの組織の生き残りは、あなたを英雄として祭り上げてるくらいだし」
八幡「………!あいつら、逃げれたのか……」
雪ノ下「顔は割れてしまったようだけれどね」
雪ノ下「私や、彼女らだけじゃない」
八幡「はっ……?」
ガチャ
戸塚「……えへへ、久しぶり」
材木座「わーーっはっは!!哀れだな八幡!!この年で世界を変える(笑)とか痛いぞ!!」
結衣「う、うぅ……耳が、耳が」
小町「よーしよし結衣さん、ちょっと材木座さんうるさいですよ。怯えてるじゃないですか」
川崎「……ぶはっ!何その頭wねぇねぇ大志みてあれ!」
大志「事情聴取で見慣れてるんだよね…」
戸部「うっわー!ヒキタニくんマジ罪人じゃん!パないわーマジパないわー」
三浦「戸部、うるさい。結衣が怯えんだろ」
海老名「ぐふふふ……比企谷くんやっぱり刑務所って毎日看守に犯されたりするの?ネタのために聞きたいんだど……」
八幡「お…………」
八幡「おま、お前ら………」
八幡「雪ノ下、お前……」
雪ノ下「私が集めたんじゃないわよ」
雪ノ下「みんなが、自分から、比企谷くんに会いに来たいと思って来たの」
雪ノ下「とはいっても比企谷くんの過去とかを考えた上で、みんなで行くことになったみたいだけれど」
戸塚「う、うん……」
戸塚「でも、思ったより八幡元気そうで安心したよ」
戸塚「なんか、もっと、どろーってしてるのかと思った」
八幡「俺はゾンビか」
戸部「目元はガチゾンビっしょー!」
結衣「ビクッ」
三浦「戸部あんたもう黙ってな」
戸塚「あ、あはは……」
戸塚「って!言いたいのはそんなことじゃない!」
八幡「表情ころっころ変わって可愛いなお前」
結衣「そこ面白いな、じゃないんだ……」ボソッ
戸塚「え、ええっとね」
戸塚「八幡がしたことは犯罪だし、許されることじゃないと思うけど……」
戸塚「僕が、八幡が大好きなのは変わらないよ」
八幡「…………戸塚」
海老名「キマシ」
三浦「擬態」ペシッ
海老名「ひゃうっ!?」
戸塚「えへへ、恥ずかしいねこういうの」
八幡「ああ俺も恥ずかしい」
八幡(大勢の知り合いの前で慰められるってどんな拷問?)
小町「小町も似たような気持ちかな」
小町「殺してないとはいえ、罪のない人たちを怖がらせたわけだし、お父さんやお母さんにまで手を出した」
小町「小町ね、すっごく怒ってる。呆れ通り越して軽蔑してる」
八幡「…………すまん」
小町「謝るくらいなら最初からしないで。だいたい……そんな悩んでたのなら、なんで相談してくれないの」
八幡「……………………それは」
小町「小町が新婚だったから?じゃあ結婚した小町が悪いの?プロポーズした大志くんが悪いの?」
大志「えっ」
八幡「違う、そういうことじゃ!」
小町「だったら小町を頼ってよ!たった一人の妹じゃん!どれだけお兄ちゃんがクズでも、私にとってはたった一人の大好きなお兄ちゃんなの!こんなことになったら、一番辛いのは誰かくらいわかるでしょ……」
八幡「……………すまん」
小町「謝罪禁止」
八幡「すま…………はい」
小町「………次何かあったら、必ず小町に相談すること!」
八幡「ああ…………わかったよ」
八幡(やばい、これは来る。意識的にしろ無意識的にしろ、こいつら完全に俺の心を折りに来てる)
結衣「…………あのさ、ヒッキー」
八幡「………由比ヶ浜」
三浦「結衣………ほら、隠れてな」
結衣「いや………こういうのは、やっぱりちゃんと目を見ないと、ダメだと思うから」
八幡(…………震えてる)
八幡(七年近くたった今でも、まだこれだけ酷いのか……男性不信)
結衣「あのね、ヒッキー」
結衣「ごめんなさいっ!」
八幡「はっ!?」
八幡「いや、お前が俺に謝られても困るというか……謝るべきなのはどちらかというと俺というか……」
結衣「あたしがしっかりしてたら、ヒッキーはこんなことになっちゃわなかったんでしょ?」
結衣「だったらそれはあたしの責任。だから謝らないと!」
八幡「違う!俺が大学を辞めたのも、テロリストになったのも、ただの自己満足で……!」
結衣「それでもっ!!」
結衣「ごめんなさいっ!」
八幡(…………こいつは、アホだ)
八幡(アホなゆえに、純粋)
八幡「クソッ!」
八幡「俺も、ごめん!」
八幡「見て見ぬふりして、ごめん!」
結衣「だから、それはあたしが……」
八幡「それでもっ!!」
八幡「ごめん!!」
結衣「……………」
結衣「……やっぱり、ヒッキーは優しいね」
八幡(……………ッ!)
八幡(その笑顔は………)
八幡(彼女の、それまでのどの笑顔よりも魅力的で)
戸部「………結衣が男に笑った」
海老名「………比企谷くんは、やっぱりおもしろいね」
三浦「あーしはね、あんたが大っ嫌い」
八幡「………あぁ、そうだろうな」
八幡「俺はお前よりも由比ヶ浜の近くにいることが出来たのに」
八幡「それを遠ざけて、結局由比ヶ浜を傷つけた」
三浦「は?何言ってんの?あーしそんなことが言いたいんじゃないんだけど」
八幡「はっ?」
三浦「あんたが何かいろいろ考えすぎる性格なのは知ってるよ。結衣から身を引こうとしたのも、あんたなりに結衣のことを考えた結果だろうし、そこは別に責めたいわけじゃない」
八幡「でもそれは、ただ由比ヶ浜から逃げてただけで……」
三浦「逃げるのがそんなに悪いこと?」
八幡「えっ?」
三浦「考えて考えた結果が、結衣から離れることだっていうならそれは別に問題があることじゃないよ」
三浦「あーしが許せないのは、その後」
三浦「あんたが大学やめてから、結衣がどれだけ塞ぎ込んでたか知らないでしょ?」
八幡「……由比ヶ浜が?」
三浦「ヒッキーが辞めちゃったのはあたしのせいだーってさ。あたしもやめるーとか言い出して大変だったんだから」
結衣「あ、あはは……そんなこともあったね」
三浦「結衣の人生は結衣の人生。自分の人生で起こったことは全部自分の責任でしょ。それを何、その責任を全部肩代わりしたのを見せつけるように退学しやがって」
三浦「肩代わりされた方はたまったもんじゃないって話だ」
三浦「さっきの話聞く限り、その退学もただの自己満足なんだってね?」
三浦「その自己満足で、どれだけの人が傷つくかも考えられない」
三浦「あーしはあんたのそういうところが大っ嫌いなの」
八幡「…………………」
材木座「ふ、ふむぅ……三浦氏、その程度にするべきでは」
三浦「あ?」
材木座「ひぃっ!?」
中途半端ではありますが
今日はこれで終わらせてもらいます
明日たぶん終わる!
八幡「三浦」
三浦「なんだよ」
八幡「ありがとな」
三浦「はっ?」
八幡「お前が言ってくれなかったら、俺は一番大事なことに気付けないままだった」
三浦「……別にあんたのためとかじゃないし。ただむかつくから」
海老名「それが優美子の優しさだもんねー♪」
三浦「はっ!?ちょ、何言って」
海老名「比企谷くん、一つ誤解して欲しくないのはね、優美子はどうでもいい人間に怒ったりしないよ」
八幡「………あぁ、それくらいは理解してるよ」
三浦「何勝手なこと言ってるし!ヒキオとかどーでも……」
海老名「ちょっと人生につまづいてさ、テロなんて起こしてさ、普通の人間なら見捨てられてもおかしくないんだよ」
海老名「でも、こうやって君のために集まってくれてる人がいる。怒ってくれる人がいる。それはね、君がどれだけの人に好かれてきたかってことなんだと思うよ」
八幡「………俺が?」
三浦「な、何か変な方向に話しが行ってる気がする……」
戸部「難しいことはよくわっかんねーけどーー」
戸部「たぶん、ヒキタニくんと関わって嫌いになる人間なんていないと思うべ?」
八幡「……それは、ないだろ」
戸部「あるある!俺が言うんだから間違いねーって!」
八幡「戸部、お前はそろそろ自分に信用がないことを自覚しろ」
戸部「ちょ!ヒキタニくんそりゃないべ~」
雪ノ下「いつになったら彼は比企谷くんの名前を覚えるのでしょうね……」
結衣「あ、渾名として定着しちゃってるんじゃないかな」アハハ
大志「…………ほら、姉ちゃん」
川崎「……えっ?いや、アタシは別に…….」
小町「まーたそれですかお姉ちゃん」
川崎「小町まで…いや、本当にいいんだって。元気でやってるようなら、それで……」
大志「じゃあ昨日部屋にひきこもって何書いてたのさ…」
川崎「…………!!??何でそれを!?見たの!?まさか見たの!?」
小町「ふふふっ、今ここで私たちに内容をばらされるのと、自分から言うの、どちらがいいですか?」
川崎「あ、あ、あんたたち…………」
八幡(小町が小悪魔から魔王に成長してる……)
雪ノ下「観念しなさい川崎さん」
大志「小町には勝てないよ」
八幡「おい、何ナチュラルに小町呼び捨てにしてんだオイコラ」
小町「ちょっとお兄ちゃん空気読んで」
川崎「………その、さ」
川崎「覚えてる?スカラシップのこと」
八幡「ああ」
川崎「よかった………。あんたさ、あんとき私と大志と……あとみんなをマクドに集めて話し合わせたよね、しかも午前の5時に」
八幡「そんなこともあったな」
川崎「アタシにスカラシップのこと教えてくれるだけでも十分問題解決になっただろうに、それをあんな面倒くさいやり方でさ…….」
川崎「うん、アンタって面倒くさいやつだよ」
川崎「でも、その面倒くささに私たちは救われて……で、そういうアンタの面倒くさいところを、ね」
川崎「アタシは好きなんだと思う」
八幡「………川崎」
川崎「今も、アンタは面倒くさいこといろいろ考えてるんだろうけど」
川崎「もっと自信持っていいよ」
川崎「こんなことになった今でも、アンタを嫌いになれない人間もいるんだからさ」
八幡「…………………お前」
大志(ついに言ったぁぁぁぁぁぁ)
小町(長かったぁぁぁぁぁぁ)
川崎「アタシさ、待ってるから」
川崎「アンタが、アタシたちのところに戻ってくるのを」
八幡「………戻っていいのか?」
雪ノ下「何を言っているの」
雪ノ下「もともとここはあなたの居場所よ」
雪ノ下「だけれど、あなたはそれが見えてなかった」
雪ノ下「それだけの、話なのよ」
八幡「……………俺は」
八幡「…………………俺はっ」
警備員「時間だ」
警備員「面会者は、全員外へ」
八幡「ッ」
雪ノ下「………その続きは、出たときにお願いするわ」
雪ノ下「面会にはまた来るわ。さよなら比企谷くん」
材木座「えっ?ちょ、我!我まだ何も言ってない!」
戸塚「八幡!またたくさんお喋りしようね!」
結衣「ヒッキー、絶対この病気治して、今度は1人で、来るからね」
大志「悪いっすが小町はもう俺の物っす!それだけは譲らないっすよ!」
小町「やだもう、大志くんたら…」
川崎「こいつら……」
三浦「はー、疲れた疲れた。んじゃサイゼ行かねー?」
戸部「サイゼ!それあるっしょ!」
海老名「サイゼとガストってどっちが攻めなのかな……」
材木座「ぬぅぅぅぅっ!時間がなぁぁぁい!」
材木座「はちまーん!!何があっても、俺たち友達だからなーーっ!!」
バタン…………
八幡「……………………」
八幡「はは、は」
八幡「ははっ…………なんだこれ」ポロポロ
八幡「なんなんだよ………」ポロポロ
警備員「………ほら、立て」
八幡「………はい」
八幡「あの、警備員さん、陽乃さんに伝えてくれませんか」
八幡「話がしたいと」
警備員「………まさか、全て、話すつもりか?」
八幡「ええ」
八幡「ようやく、自分のしなければいけないことが見えました」
八幡「一色たちを、助けないと」
警備員「………結局、先輩はそっちを選ぶんですね」
八幡「―――――!?お、お前は……」
警備員「自分の言葉には責任を持ってくださいよ……あとに残された私たちはどうなるんですか」
八幡「………まだ、誰も殺していない」
八幡「極刑は免れられるだろう」
警備員「そういうことじゃありません!!」
警備員「……先輩が、ただ居場所を探していただけなことは勘づいていました」
八幡「…………な、そんなことは」
警備員「あります」
警備員「私も、結局はそうでしたから」
八幡「……………」
警備員「ねぇ、先輩」
警備員「わたしたちじゃ、ダメなんですか?」
警備員「先輩が自ら作った居場所なんですよ」
八幡「たぶんさ、俺もお前も、大きな勘違いをしてたんだと思うんだ」
一色「……は?勘違い?」
八幡「居場所なんてさ……作る必要なかったんだよ。俺も、お前も」
一色「何いってんですか……居場所がなかったから作ったんじゃ……」
八幡「違う。居場所がなかったんじゃない。俺たちがただ気付いてなかっただけなんだよ」
一色「………それが、さっきの面会でわかったことですか?」
八幡「あぁ、そうだ」
一色「あれは、先輩の居場所じゃないですか……私には、そんな居場所なんて」
八幡「」
誤投
八幡「奉仕部だって、三浦たちだって、生徒会だって、れっきとしたお前の居場所だったはずだ」
一色「違いますっ!!」
八幡「…………」
一色「………中途半端なんですよね、わたしって」
一色「奉仕部も、サッカー部も、生徒会も……」
一色「全部楽しかったんです」
一色「だから、全部わたしの居場所にしたくて……」
一色「結局、わたしの居場所はできませんでした」
一色「………だから、あの場所が、私にとって初めての、ちゃんとした居場所だったんですよ」
一色「それが、こんなふうに終わっちゃうなんて、嫌です!」
一色「先輩、ここから出ましょう」
一色「先輩に拒否権はありません」
一色「責任は、とってください」
八幡「…………一色」
一色「……先輩にとって、わたしたちは所詮雪ノ下さんたちの代わりだったんですよね」
八幡「………違う」
一色「それならそれでもいいんです。それでも先輩がわたしたちのところに居てさえくれれば」
八幡「違う!!」
一色「じゃあなんで今さらになってわたしたちを捨てるんですか!」
一色「わたしたちを助ける?間違いは正す?そんなの先輩の自己満足でしょう!また自分の勝手で人を振り回すんですか!」
八幡「………そうじゃねぇんだよ」
八幡「俺が、お前たちを助けるのは、別に贖罪のつもりでも、自己満足を押し付けようってわけじゃねぇ……」
一色「だったら、なんだっていうんですか」
八幡「俺の居場所には、お前たちだって必要なんだよ!」
一色「…………………」
一色「なんですかそれ、口説いてるんですか?」
八幡「ああ」
一色「自己満足より身勝手じゃないですか……自分の好きな居場所を作るために、お前らの居場所を壊せと」
八幡「わかってる」
八幡「でも、俺はどちらかを選ぶなんてできない」
八幡「両方だ。どっちも欲しい。だけどそれは今のお前らを救わないことにはどうにもならない」
一色「………子供のわがままですね」
八幡「何とでも言え」
一色「………ずるいです、先輩」
一色「こんなの、揺らがないわけがないじゃないですか……」
八幡「……そうだよ、俺はずるい」
八幡「だから、どんな手を使っても、お前たちを俺の居場所に引き込む」
一色「…………先輩の考えはわかりました」
一色「ですが、わたしたちは先輩を絶対に諦めません」
一色「わたしたちには、先輩さえいればいいんです」
八幡「なら、俺も絶対お前をあきらめない」
八幡「いつか絶対、あの頃に戻ろう」
八幡「雪ノ下や、由比ヶ浜、戸塚、材木座、小町、川崎、葉山、海老名さん、三浦、あとついでに戸部」
八幡「みんなと一緒にな」
一色「………えぇ、できるものならやってみてください」
一色「負けません」
八幡「おう」
ジリリリリリリリリリ………
一色「チッ!バレたか!」
一色「みんな!撤退です!」
八幡「拉致られるかと思ったが」
一色「そんな時間ないですよ!」
一色「世界を変えて、もう一度迎えに行きます!」
一色「そのときまで待っててください!」
ボンッ!
八幡「消えた……?」
八幡(………これが、俺の選択)
八幡(一昔前の俺ならば、絶対に取らなかったであろう、最も愚かな選択)
八幡(これを成長と呼ぶか、堕落と呼ぶかは人それぞれだろう)
八幡(それでも、これは未来へ繋がる第1歩になるのは間違いない)
八幡(怯え続けて、過去に囚われて、前に進めない弱い自分は、捨てた)
八幡(これまでたくさん間違えてきたし、これからもたくさん間違えるかもしれない)
八幡(だけど、俺はもう逃げない)
八幡(ずたぼろになるまでぶつかって、足掻いて、そして……)
八幡(俺は、もう一度"本物"を手に入れる)
end
以上で完結となります
初めてのssということで、拙いものでありましたが最後まで見てくれてありがとうございました
手厳しいアドバイスも、様々な感想も励みになりました
みなさまの批判は一言一句噛み締めて糧にしていきたいと思います
屑親は年金で穏やかな老後を過ごしました
八幡が大学をやめた理由は
表向き:由比ヶ浜を救えなかったことに よる罪悪感で、自分に罰を与えたかった
本心:由比ヶ浜のことを一刻も早く忘れたくて、環境を一新したかった
こんな感じで理解してもらえるとありがたいです
ちなみに由比ヶ浜の失敗をなぜ八幡が責任を感じる必要があるのか、という意見がありましたけれど
そこは八幡だから、としか言いようがないです
このSSまとめへのコメント
うーん、微妙な出来
わろた
元中二病で高二病でヘタレの八幡がテロリスト(笑)
なんかになるわけないだろ
大志氏ね
小町と大志が結婚してるから、このssはゴミです。