魔王「暇潰しだ。」(126)


勇者「魔王ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」ダダダダッ

魔王「…………」

勇者「はぁっ!!」ブン

魔王「…………」ガキン ギリギリ

勇者「クッ……うっ……剣が……」ビキビキ

魔王「……飽きた。」デコピン

勇者「うぐぁぁっっ!!」ドオォン


魔王「毎度毎度、単身で乗り込んで来ては死に、女神の加護とやらで生き返る。」ツカツカ

勇者「あ、あぐぅ……」ヨロッ

魔王「何度殺せば良い?面倒なんだよ。」

勇者「諦めないっ!魔王、貴様を倒し、世界に平和を取り戻すまではっ!!」

魔王「そう言う暑苦しいノリもうざったいんでな。おい。」パチン

秘書「はっ。」スッ


魔王「計画に変更はない。当初の予定通り、地下室に連れていけ。」

秘書「はっ。」クルッ

兵士「おら、立て。」

勇者「や、やめろ!離せ!!」ジタバタ

兵士「この!」ガン

勇者「っ!…………」クター

秘書「分かってるな。地下室だ。行くぞ。」

兵士「はっ。」グィッ

勇者「」ズルズル


魔王「…………」

魔王(何の意味があるやら。こんな玉座の間に。)

魔王(魔王が代々勇者を迎え撃つ為の決戦の間、か。)

魔王(今となっては、勇者は勇者足り得ぬ腑抜け。馬鹿。)

魔王(俺が魔王をやる意味も、あの人間が勇者をやる意味も、何ら感じられん。)

魔王(だが、それも今日で終わりだ。)

魔王(魔王は玉座を降り、戦を始める。玉座の間で待ち受ける者はもう居なくなる。)


秘書「勇者の地下室への幽閉、完了致しました。」

魔王「ああ。くれぐれも、絶対に殺すなよ。殺さず、だが、生かさず、だ。」

秘書「はっ。仰せの通りに。」

魔王「よし。召集を掛けておけ。揃ったら俺の執務室に来させろ。」

秘書「はっ。」

 <執務室>

 コンコン

魔王「来たな。入れ。」

 ガチャ ゾロゾロ

魔王「良く来た。話は聞いてるな?」


魔剣士「勿論ですわぁ。こんなおもろそうな話、聞き逃せっちゅーんが、無理な話や。」ニコニコ

魔軍師「……」

魔騎士「俺は別に興味無かったんですがね。強制参加らしいんで、仕方なく。」

竜王「私は、魔王を、手伝いに、来たよ。」

魔楽士「……フフフ…………」


魔王「大体の話は聞いてるだろう。俺はもう飽きたんだよ。この退屈な城に。」

竜王「魔王、外へ、遊びに、行く。でしょ?」

魔王「ああ。そうだ。大規模な遠足だ。目的地は、天界。」

魔剣士「流石僕らのキングやぁ。言う事考える事、レベルがちゃいますねぇ。」ニコニコ

魔騎士「それは、要するに、天界の神やら天使やらに、喧嘩売るって事でよろしいんですね?」

魔王「ああ。そうだ。どうだ、ワクワクするだろ?血沸き肉踊る、最高の遊びだ。」

魔軍師「勝算は?」

魔騎士「おいおい、チェスに勝算が要るのか?」

竜王「仲間、ケガ、させるの、ダメ。」

魔王「分かってるさ。強制じゃない。何があるか分からないからな。」


魔騎士「強制参加、って聞いたんですがね。」

魔王「お前に限っては強制だ。」

魔剣士「ええんとちゃいます?僕もウチの連中も、退屈でしゃあないんですよ。」

魔騎士「何もする事が無いですからねぇ。」

魔楽士「フフフ…………」

魔軍師「目的は?」

魔王「目的?そんなもの無いさ。行ける所まで行き、やれる所までやる。」

竜王「仲間、ケガ、しない?」

魔王「無傷、ってのは無理だ。だから、来たい奴だけで良い。」

竜王「分かった。伝える。」


秘書「用意が出来ました。」

魔王「よし。これから大規模魔方陣を展開するぞ。」

魔騎士「何処行きの魔方陣です?」

魔王「天界と魔界、その二つの狭間だ。」

魔剣士「なんやワクワクしますねぇ。遠足なんて久し振りやぁ。」

~数十分後~

 <魔王城中央詰所>

魔王「参加希望者の数は?」

秘書「およそ60万。我が城の兵力の約七割です。」

魔楽士「フフフ……」

魔王「思ったより多いな。魔方陣に入りきるか?」

秘書「問題ありません。」

魔王「よし。行くぞ。」

秘書「移送魔方陣、開陣!!」

 フワアアァァァァ......カッ!!

 <???>

魔王「よし、上手く着いたな。」

魔剣士「なんや、狭間の世界言うても小綺麗な感じですねぇ。」

魔騎士「一面お花畑ですよ、これ。」

竜王「お花、苦手、クシャミし……」クチュン

魔楽士「フフフ……」

兵士「敵襲!敵襲!」

魔王「お、来たな。行くぞ剣士。」

魔剣士「僕ですかぁ?まあ、やる事無いなら、どうせですし、行きましょ。」

魔騎士「んじゃ、俺も行きますよ。仕事が無いのが一番辛いんでね。」


妖精王「止まれ!!」

 シーーーーーン

妖精王「我は妖精王。天界への門とも言えるこの世界を守護する、エルフの王だ!」

魔王「ご丁寧にどうも。俺は魔王。魔界一帯を預かってる者だ。」

妖精王「魔界を自らの手中に納めながら尚天界へ向かうその意気、傲慢極まりない!」

魔王「そりゃどうも。」

妖精王「お前達のような穢れを天界へは行かせぬ!ここで皆殺しにしてくれる!」

魔王「ほぉ……」チャキリ

妖精王「行け!我が屈強なるエルフの強者達よ!!」ブン


魔騎士「皆殺し、とは、穏やかじゃないねぇ。」

魔剣士「別に邪魔せえへん限りは、殺しもせえへんっちゅうのになぁ。」

魔王「面倒だ。一気にやるぞ。総員突撃!」ダッ

  オオオオオォォォォォォォォォォ!!!

~数時間後~

魔王「エルフ、ってのはこんなに弱いのか。」

妖精王「くっ、バカな!!」

魔王「で、誰を皆殺しにするって?」スラッ チャキ

魔剣士「そりゃあ、選りすぐりの魔王軍の中でも特に血の気の多いのが七割も来たんやから。」

魔騎士「勝てるわけもありませんよ、所詮戦闘種族じゃないエルフにはね。」

妖精王「我をどうする……?殺すか?」

魔王「そう、だ、なぁ……」

魔軍師「生け捕りにすれば良い。」

魔王「お、来てたのか。」

魔剣士「こっち来てから一言も発せへんから、機嫌悪いんかと思いましたわ。」

魔王「生け捕り、か。」

魔騎士「良いんじゃないですか?エルフの血は貴重ですし、魔族との交わらせても……」

妖精王「止めろ!!辱しめを受けるなら、いっそ死を……」

魔王「はいはい。」バキッ


魔王「舌を噛めないように猿轡をして、縛り上げろ。」

魔騎士「了解、です。」

魔剣士「簡易牢、確か僕の部下が持って来てますわぁ。」

魔王「エルフは纏めてそれに入れよう。」

魔騎士「次は何処へ?」

魔王「何処へ行くかな……どうすれば良いと思う?」

魔軍師「妖精王の城へ。」

魔王「ああ、なるほど。全軍、妖精王城へ進軍だ。」


 <妖精王城>

魔剣士「駐軍なら、途中通った砦で良かったんちゃいます?」

魔王「ここに妖精王、奴の妃やら、娘やらもいるはずだ。」

魔騎士「ああ、なるほど。」

魔楽士「フフフ……」

魔王「どうだ。策はあるか。」

魔軍師「特に。講じなくても損害は出ない。」

魔王「なるほどな。」

魔軍師「時間を掛けたくないなら簡易牢に入ってる妖精王さんを使えば?」

魔王「そうだな。そうしよう。名案じゃないか。」ヨシヨシナデナデ

魔軍師「べ、別に……」カアアァァ


エルフ兵士「な、なんだお前達は!!く、来るな!!」

魔王「これを見ろ。おい。」

兵士「はっ!」ズルズル

妖精王「…………」

エルフ兵士「こ、皇帝陛下!」

魔王「門を開け。全軍にこの事を伝えて、武装解除をさせろ。」

エルフ兵士「く、くぅっ……」

魔王「さっさとしろ。お前達の王の命は、この俺の裁量如何でどうにでも出来るんだぞ。」

エルフ兵士「…………はい……」

魔王「門を開けろ。今すぐだ。」

エルフ兵士「…………か、開門しろぉ!!」

魔王「よし。そうだ。それでいい。」

 <妖精王城・玉座の間>

妖精王妃「……なんですか、貴方達は。」

魔王「魔王、だ。」

妖精姫「……」チャキ

魔剣士「腰に剣差したお姫様なんて、珍しいもんやねぇ。おもろいわぁ。」ニタリ

魔騎士「王妃様の横にも魔法の触媒になりそうな杖がありますねぇ。」

妖精王妃「目的は?」

魔王「エルフの雄雌をそれぞれ……そうだな、せいぜい20匹ずつ魔界に連れていく。」

妖精王妃「その中には私や、夫が含まれて居ると?」

魔王「そうなるな。」

妖精姫「…………」スラッ チャキリ

魔軍師「止めた方が良いと思うよ。」

妖精姫「…………」


魔軍師「アンタの父親が率いてた軍は皆殺しにした。」

妖精姫「…っ!」ピクッ

魔軍師「この城の兵士の数はその軍より少ない。後は分かるだろ?」

妖精姫「…………」

魔騎士「まあ、悲しい話ですがね。弱い者の定めって事でね。」

妖精姫「ち、力があれば……」

魔剣士「?」

妖精姫「力があればどうなる!?」

魔王「ふむ……そうだな……」

妖精姫「私には力がある!それを示したら、どうなる!?」

魔王「お前に、繁殖や隷従化以外の利用価値があるなら、その選択肢が追加されるな。」


魔剣士「力を示す、言うんなら…………」スルゥッ ブン

魔剣士「僕が相手、したげるわ。」チャキン

妖精姫「…………」チャキリ

魔王「殺すなよ。刀背打ちか得物の無効化だ。」

魔剣士「分かってますって。でも…………」シャッ

妖精姫「!?」ガキン

魔剣士「多少の切り傷擦り傷は、堪忍やでぇ!!」ギリギリ

妖精姫「くっ……」ギリギリ ガキン


妖精姫「はぁっ!」ブン

魔剣士「下手やねぇ。」ガン

妖精姫「あっ!」フラッ

魔剣士「今、刀背でぶったの、分かる?」

妖精姫「……」

魔剣士「これ、刃やったら、死んでたで?」

妖精姫「…………」ブン

魔剣士「フフッ。」サッ

~二十分後~

魔王「アイツ、遊んでやがるな。」

魔騎士「ま、本気でやったら速攻で斬っちゃいますからねぇ。」

魔軍師「時間掛けすぎじゃない?」

竜王「あの子、強い?」

魔王「まあまあかな。精々俺らのお付きが良いとこ。」

竜王「使えないなら、殺せば?」

魔騎士「剣士兄さん、多分あの子の事、気に入ったんじゃないですか。」

魔楽士「フフフ…………」

魔王「アレを、か。」ハァ


魔剣士「さ、君のアピールタイムはもう充分やろ。」ブン

妖精姫「え……」ガギッ

 カランカラン

魔剣士「君の負けや。」ニヤッ

妖精姫「そ、そんな……」ガクッ

魔剣士「まあまあ、そんな落ち込まんでええよ。僕が助けたげるから。」

妖精姫「……え?」

魔王「……終わりだな。」

魔剣士「ええ、まあ。」

魔王「使えるか?」

魔剣士「正直、使えませんわ。」

妖精姫「!?」

魔王「だろうな。」

魔剣士「でも、おもろい子ですよ。僕のオモチャにさせてもろても、ええですか?」

魔王「そういうと思ったんだよ。」ハァ


魔王「まったく……好きにしろ。」

魔剣士「おおきに。」ニコッ

妖精姫「…………」ホッ

魔剣士「良かったなぁ、お姫様。僕に、感謝するんやで?」ナデナデ

妖精姫「…………」


魔王「よし。余興は終わりだ。雄雌20匹ずつ顔の良いエルフを選んで簡易牢に入れろ。」

兵士「はっ。」

魔騎士「余りはどうします?」

魔王「どうすれば良いと思う?」

魔軍師「放っておいて良いんじゃない?殺したら、補充出来なくなりそうだし。」

魔王「殺そうと思ってたが……それもそうだな。」

竜王「今夜は、ここで、寝るの?」

魔王「そうなるな。」

竜王「私の部屋、大きい、部屋に、してね。」

魔王「分かった分かった。」

~夜~

 <魔剣士の部屋>

魔剣士「はー、飲んだ飲んだ。眠なってきたわぁ。」フアァ

魔剣士「君は?」

妖精姫「あの……」

魔剣士「ん?」

妖精姫「なんで、私の部屋に居るの?」

魔剣士「何言うてるんや、ここは僕の部屋になってんやで?」

妖精姫「はぁ!?」

魔剣士「当たり前や。君らは負け組。負けた人に部屋なんて無いわぁ。」

妖精姫「お、お父様の部屋は……」

魔剣士「多分、僕らのキングが使うてるんちゃうかな。」

妖精姫「お、お母様の部屋は……」

魔剣士「軍師ちゃんと竜王さんかな。」

妖精姫「……っのぉ!!」チャキリ ブン


魔剣士「ちょぉ、何してんねん。危ないわぁ。」サッ

妖精姫「ふざけるなぁっ!」ブン

魔剣士「まったく……」ピッ

妖精姫「クッ…………」ググググッ

魔剣士「腕で掴んでるならまだしも、僕、指で挟んでるだけやで?」グッ

妖精姫「くぅっ……」ググッ

魔剣士「まったく……」パキッ

妖精姫「!?」

魔剣士「あんまり飼い主の手、煩わせたら、捨てられてまうで?」ポンッ

妖精姫「…………」ショボン

魔剣士「良く聞きぃ。今の君じゃ僕殺すんは無理や。」ポソッ

妖精姫「…………」

魔剣士「今は僕の飼い犬になっといて、力蓄えてから、僕の手噛んだ方がええやろ?」

妖精姫「…………」


魔剣士「分かったら寝よ。な?」

妖精姫「……」コクン

魔剣士「実は僕もうめっちゃ眠いんや。ほな。」スルッ

妖精姫「……」スルッ

魔剣士「……へぇ?」クルッ

妖精姫「?」

魔剣士「なんで君までベッド入って来てんねん。」

妖精姫「ここ、私の部屋だし。これ、私のベッドだし。」

魔剣士「いや、どう考えたって君は床でや……」

妖精姫「…………」ジー

魔剣士「僕の負けや。好きにしぃ。」ゴロン

妖精姫「…………」ゴロン

 <魔王の部屋>

魔王「……?」

魔王「誰だ。」

妖精王妃「…………」スッ

魔王「ほお。勇ましいな。」

妖精王妃「これ以上、この城で好き勝手はさせません。」カチャ

魔王「杖が武器のつもりか?魔法の触媒を得物にしてる時点で、お前の負けだ。」

妖精王妃「…………」バッ

魔王「……束縛の魔法や催眠の魔法がエルフの得意分野と聞いていたが…………」

妖精王妃「バカな……」

魔王「杖と言う触媒を使ってもこの程度か。」ツカツカ

妖精王妃「ち、近づくな!無礼な!」

魔王「乱暴の過ぎた夜這いはこれまでだ。」パチン

妖精王妃「あうっ!?か、体が……」


魔王「束縛魔法は苦手だが、上手くいって何よりだ。」

妖精王妃「くっ……早く解きなさい!」

魔王「お前を元の簡易牢に戻しても良いんだがな……」スッ

妖精王妃「ひっ……触らないで!!」

魔王「エルフの具合がどんなものか、味見するのも悪くない。」

妖精王妃「こっの……下衆!放せ!」

魔王「エルフの王に選ばれた位だ。楽しませろよ?」

~翌日~

 <魔剣士の部屋>

妖精姫「…」パチッ

妖精姫「!」ガバッ

魔剣士「やぁ。おはようさん。」

妖精姫「……」

魔剣士「朝御飯、食べにいこか。支度しぃ。君、殆ど裸やないか。」

妖精姫「!?」バッ

魔剣士「うーん、ほな、僕は先行ってるわぁ。」スタスタ

妖精姫「…………」

 <魔王の部屋>

妖精王妃「これで、勝ったつもりですか。」ギリッ

魔王「まあ、気分は良いな。」

妖精王妃「貴方の断末魔の叫びを聞くのが、より楽しみになりました。」

魔王「両手両足拘束されて、着物剥かれた女に凄まれてもな。」フン

妖精王妃「っ!この……」

魔王「やれやれ。」ズキュウゥゥゥン

妖精王妃「!?」ジタバタ

魔王「ふぅ。」

妖精王妃「……そんな事で、屈服させられるとでも?」

魔王「さあな。どうでも良い。これから毒で死ぬ雌の事なんてな。」

妖精王妃「…………」

魔王「飲まされた事にも気付いてなかったのか。おめでたい王妃様だ。」ツカツカ

妖精王妃「待ちなさ……!」ゲホッゴフゥ

 <会食場>

魔王「それで、昨晩は皆よく眠れたか。」

魔剣士「ええ。たっぷり、良い夢見させて貰いましたわぁ。」

妖精姫「…………」

魔王「そうか。それは結構。騎士は?」

魔騎士「それはもう、グッスリ。」

竜王「騎士の、部屋に、エルフの、女、沢山、出入り、してた。」

魔軍師「……してたね。」

魔騎士「あ、いやぁ、ハハハ。」

魔王「まあ、ゆっくり休めたのなら結構。」

魔軍師「これから天界に向かうの?」

魔王「ああ、そのつもりだ。」

魔剣士「楽しみやなぁ。」

魔騎士「ええ、ホントに。」

 <北門>

魔王「よし、時間だ。」

兵士「開門!!開門!!」

 ガラガラガラガラ......

魔王「行くぞ。」

魔剣士「遅れたらあかんで?」

魔騎士「天界、か。どんな奴等が居るやら。」

魔軍師「…………」

竜王「楽しみ。」

魔楽士「……フフフ…………」

 <天界・入口>

魔王「あの光を抜ければ、天界かな。」

魔騎士「食糧等の物資、兵力、士気、全て万全の状態です。」

魔剣士「ほな、行きます?」

魔王「ああ。突っ込めぇ!!」

兵士「オオオオオオォォォォォォォォォ!!」

 <天界>

魔王「ここが、天界か。」

魔剣士「思ったより、なんや、フワフワしてますわぁ。」

魔騎士「ここ、天界の中でどこら辺何ですかね?」

魔王「神とやらは、何処に居るんだろうな。」

魔軍師「あそこじゃない?」スッ

魔王「ん?」

魔騎士「おお、あれは……」

竜王「城が、空を、飛んでる。」

魔剣士「ほんま、何でもあるんやなぁ。」

魔王「よし、あれを目指すぞ。」


 ~数時間後~

魔騎士「ようやく、近くなってきましたね……」

竜王「遠い……」

魔軍師「距離も長いし、城もデカイからか、遠近感が掴めない……」

魔王「想定内と言えば想定内だが……」

魔剣士「大丈夫?疲れてへん?」

妖精姫「大丈夫、です。」

魔騎士「って言うか、剣士兄さん、なんで飛竜に二人乗りしてんですか。」

魔剣士「ええやん。ニケツやで、ニケツ。」

魔王「随分と可愛がってるな……」

竜王「魔王。」

魔王「ん?どうした。」


竜王「この子、疲れてきてる。」

魔王「まあ、お前は重いからな。」

竜王「むぅ。」

魔王「元に戻った方が良いんじゃないか。そろそろお前の飛竜、墜落しそうだぞ。」

竜王「うん。」

 カッ

龍王「コオオオォォォ……」

魔王「じゃ、少しペースあげるぞ。」

魔騎士「了解です。」


魔騎士「しかし、竜王さん、本当にデカイですよね。」

魔軍師「あんな格好にもなれるんだ。」

魔王「いや、あれが竜王の本当の姿だぞ。」

龍王「フシュウウゥゥ……」バサッバサッ

魔剣士「普段のロリロリな格好の時は、自分の力セーブしてんねやって。」

妖精姫「ロリロリって…………」

魔王「まあ体は小さくなっても体重は変わらんからな。」

魔騎士「だから竜王さんの飛竜だけ早々にバテてた訳ですか。」

魔王「ああ。」


魔騎士「前方約5キロ先に翼の生えた人……天使ですかね。」

魔王「よし。すぐに生け捕りにするぞ。居るだけ確保しろ。」

魔騎士「了解です。」

魔剣士「おもろくなってきたでぇ?」

魔楽士「……魔王。」

魔王「お、ようやく口を開いたな。どうした。」

魔楽士「前に出させてくれ。」

魔王「構わんぞ。一人か?」

魔楽士「ああ。適当な頃合いで乱戦にしてくれ。」

魔王「分かった。」

魔楽士「悪いな。」バサバサバサ


天使「なんだお前は……うぁっ!」

魔楽士「楽しませろよ!」ズバッ

天使「このぉ!」ブン

魔楽士「そら!」サッ ズバッ

天使「増援を呼べ!数が足りないぞ!!」

天使「了解!!」バサバサッ

魔楽士「させるか……よ!」スッ キリキリ ヒュオァッ

天使「うぐあっ!」ザクッ


魔騎士「大立ち回りですね。」

魔軍師「あの人、強いの?」

魔王「剣士程では無いが剣の腕も立つし、弓は俺以上、竜の慣らし方は騎士以上だ。」

妖精姫「あの人……凄い。」

魔剣士「とんでもない人やぁ。ホンマ。騎竜戦で勝てる気がせえへんもん。」

龍王「クウウウルルルゥゥゥゥゥ……」


魔王「さて、そろそろ俺らも混ざるか。」

魔剣士「行きましょか。」

魔騎士「頭も増えて来てますしね。」

魔軍師「どうでも良いけど……」

魔王「ん?」

魔軍師「あの人、生け捕りにしなきゃいけないのに、皆殺してない?」

魔王「何?」

魔騎士「ああ、そういや、さっきから何人か天使が落ちて行ってますね……」

魔王「まずい。生け捕りだ。全員進め。」バサバサバサ


魔王「まあ、大体必要な数は捕れたな。」

魔軍師「割りとギリギリだったけどね。」

魔騎士「さ、んじゃま、話して貰いましょうか。」

天使「穢れの為に利く口等無いわ。さっさと殺せ。」

魔王「やれやれ。」バキッ

天使「うぐっ……」

魔王「お前達天使にとって大事なのは己の責務。そうだろう?」

天使「…………」

魔王「ここで拷問され続けても、お前の責務は果たせない。違うか?」

天使「……何が聞きたいんだ。」

魔王「少しは協力的になったな。では聞こう。どこに神とやらは居る?」

天使「……カミ?」


魔王「お前達天使を束ねる親玉だ。何処に居る。」

天使「大天使長様の事か?そのカミと言うのは。」

魔剣士「なんや?この子、ふざけとんのかいな。」ニコニコ

魔騎士「本当に知らないのかもしれませんよ。大分下っ端のようですし。」

魔軍師「まずはその大天使長とやらの所に行くべきじゃない?」

魔王「まあ、そうだな。大天使長は何処に居る?」

天使「残念ながらそれは教えられない。」


魔王「……何?」

天使「そればかりは口にするわけには行かない。」

魔剣士「ハハハ、おめでたい子やで。ホンマに。」チャキ

天使「責務は大切だ。だからこそ、その責務に則って、お前達に大天使長様の……」

魔王「まだ分かってないんだな。」バキッ バキッ バキッ バキッ バキッ

天使「カハッ!」バタリ

魔王「仕方ない。拷問だ。まずは手足の爪を全部剥げ。」

魔騎士「了、解、です。」

魔剣士「やれやれ、やなぁ。」ガシッ ググググ

天使「や、やめろ!止めてくれ!!」

魔剣士「君が悪いんやで?捕虜なんやから、助かりたいなら言う事言わんと。」グリッ


天使「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」ジタバタ

魔騎士「煩いよ。」ガシッ バキッ

天使「ゲホッ!ゲホッ!」

魔剣士「どう?少しは言う気になった?」

天使「せ、責務を果たすのが私の……」

魔剣士「あっそ。」ボキッ

天使「うああああああああああああああ!!!」

魔騎士「煩い、ってば!」バキッ

天使「……」カクン

魔剣士「気絶してしもうた。」

魔騎士「水、水。」


魔騎士「それと、爪剥がず度に叫ばれちゃたまんないんで、猿轡も。」

魔剣士「流石は拷問のプロやなぁ。」

魔騎士「止めて下さいよ。本当は俺だってやりたくないのになぁ。」

妖精姫「あの、これ、水……」

魔剣士「あらら、ドン引きやねぇ。」

妖精姫「えっと……」

魔剣士「もしかしたら、君もされてたのかも知れへんのやで。」

妖精姫「……」ビクッ

魔剣士「冗談やって。水、ありがと。」

妖精姫「…………」

魔剣士「あ。せや。」

妖精姫「はい……?」

魔剣士「君もやってみ?」

妖精姫「え?」

魔剣士「これ、爪挟む奴。やってみ、拷問。」スッ


魔騎士「ほら、起きな。」グッ バシャン

天使「ブハッ!?」

魔騎士「次は電気ショックで起こしてやるよ。」

魔剣士「逃れたいなら、大天使長?とか言う人の居場所、言うんやな。」

天使「ヒッ……」

魔剣士「行ったって。ほら、早く。」

妖精姫「…………」グッ

天使「止めてくれ!!本当に言えないんだ!!」

妖精姫「生きる為。お互い様よ。」ビキッ

魔騎士「おっと。」グイッ

天使「んんんんんんんんんんんんっるるるる!!」バタバタ

魔剣士「猿轡忘れてたわ。」

魔騎士「ギリ、間に合いましたかね。」

~三十分後~

天使「…………」クタァ

魔騎士「よっと。」ビリビリ バチン

天使「んんん!?」

魔剣士「言う気になった?」

天使「……」ブンブン

魔剣士「ここまでやってそれならしゃあない。使おか。」

魔楽士「ほら。」

妖精姫「それは?」

魔剣士「自白薬。」

魔騎士「あんま使いたくないんだけどなぁ。」

魔楽士「その薬、体にどんな変化があるか分からんからな。使って喋らせたらすぐ殺せ。」

魔剣士「はいはい。」


魔剣士「よっと。」スッ

天使「もう止めてくれ!もう……」

魔騎士「はい口開けてー。」ガシッ グググ

天使「んんん!んん!んああああ!!」ゴクン

魔剣士「よし。確実に飲みましたわ。」

天使「あ、ああ、あああ……」カクン

魔騎士「なんだか起こすのも面倒になってきたなぁ。」

魔剣士「僕がやったろ。」スパァン

天使「…………」


魔騎士「大天使長さんとやらの居場所は、どこだ?」ガシッ

天使「う、うぐぅ……」

魔剣士「ほら、しゃべりぃな。」ゲシッ

魔騎士「薬、効いて無いんじゃないんですか?」

魔楽士「それはない。理性のある生物なら必ず話す代物だ。」

魔剣士「薬が効果出ても喋らんかぁ……」

魔軍師「もう少し痛め付けてみれば?」

???「その必要はない。」


魔騎士「うおっ!?っと。」

魔剣士「あらら、全く気付かんかったでぇ……」ニコッ

魔楽士「フフフ……」

妖精姫「あ、あれは……?」

魔剣士「さあ…?誰か分からんけど……どうやってウチの陣のど真ん中まで来れたんやろ……」

魔騎士「お前が……」

???「いかにも、私は、大天使長です。」

魔剣士「……まあ、そんな気ぃはしてたわ。」ニコニコ


大天使長「その者は私達の同胞。まずはその者を解放して頂きましょう。」

魔剣士「へぇ……」チャキ

魔騎士「……全く……なんでこんな事になってんだか…………」チャキ

魔楽士「フフフ……」チャキ

妖精姫「クッ……」チャキ

魔剣士「君は下がっときぃ。足手まといになるだけやで。」

魔王「おい。」


魔楽士「魔王。」

魔王「コイツは俺にやらせろ。」

魔剣士「それはそれで助かりますけどね……」

魔軍師「魔王。貴方一人では……」

魔王「やれるさ。とにかく、コイツは俺がサシでやりたいんだ。良いだろ?」

魔騎士「ま、いざとなったら邪魔させてもらいますよ。」

魔王「ふん。」チャキ

大天使長「まずは貴方ですか。」スルッ


大天使長「貴方が、魔を統べる者、ですか。」

魔王「ああ。別にそんな大した者じゃないがな。」

大天使長「貴方なら私を倒せると?」

魔王「まあな。魔族で一番強いから頭を取ってる。俺が負けちゃ勝てる奴が居なくなる。」

大天使長「そうですか。」スッ

魔王「ふん。やる気になったか。」スッ

大天使長「同胞を傷付けた罪は思いですよ。魔王。」バッ

魔王「ハッ、上等。」バッ

~十分後~

魔騎士「ハハハ……」

魔剣士「半端じゃないわぁ……」

魔楽士「…………」

魔剣士「えげつないでぇ…………」

魔騎士「ハハハハハ……」

魔剣士「どうすんねんこれ……キング、生きてはるん……?」

魔王「カハッ!」グラッ

大天使長「……所詮は、こんな物ですか。」

魔王「……クッ…………」

大天使長「終わりですね。ですが、殺しはしません。」

魔王「…………」

大天使長「ここに居る魔族、皆、送らせて貰いますよ。」

魔王「……送る?」

大天使長「何処へ、かは言いません。では。」フワッ


魔王「…………」

魔剣士「アカンなぁ、なんか体が何処にあるか分からんくなってきたわ。」

魔騎士「俺もですよ。」

魔剣士「ほら、危ないから、離れんとき。」

妖精姫「……」コクン

竜王「魔王!」

魔王「…………」

魔騎士「ああ、今あまり話しかけない方が……」

竜王「これ、どうなってるの?」

魔軍師「何処かに飛ばされるんだって。」

竜王「皆、何処か、分からない所に、飛ばされるの?」

魔剣士「らしいでぇ。」


竜王「魔王、大丈夫?お腹、痛いの?」

魔王「…………」

魔剣士「ぅわぁぉ…………」

魔騎士「…………」ハァ

魔軍師「なんか、周りの景色、こっちに来た時に似てない?」

魔剣士「と、なると、また違う世界飛ばされるんかぁ。」

魔騎士「魔界に送り返してくれるならありがたいんだけどなぁ。」

魔楽士「…………次の世界は……」

魔騎士「…?」

魔楽士「広い世界だ。中心に出口がある。」

魔剣士「……へぇ?」

魔楽士「だが俺達が飛ばされるのはその端だ。中心までは果てしなく遠い。」

魔剣士「さいですか……」

 <???>

魔騎士「黒い空、ですか。」

魔剣士「黒い空に紫じみた雲やで。凄い色使いやねぇ。」

魔軍師「今、何処に居るんだろう……」

魔王「…………」

魔騎士「兵の数が少ない……全体の6割程度に減っている……」

魔剣士「荷物や捕まえたエルフが居るんが奇跡的やね。」

魔騎士「あの大天使長とか言うの、囚われた天使は全員助けて、エルフは無視ですよ。」

魔剣士「下とは言え自分らの部族やっちゅーのに、な。」

魔軍師「食べ物はある程度あるみたい。まずは野営の準備をして、食糧と周辺の安全を確保。」

魔楽士「周囲に知性を持った生物は居ない。だが周りに獣が居る。食糧に出来るな。」

魔剣士「なら、暇やし狩りにでも行こか。」

魔騎士「お、良いですねぇ。」

妖精姫「…………」


魔軍師「野営設備設営の指示や状況整理は?」

魔剣士「任しますわ。堪忍やでー。」タッ

魔騎士「堪忍やでー。」タッ

妖精姫「…………」タッ

魔楽士「…………」

魔軍師「えっと、手伝ってくれる?」

魔楽士「……で。」

魔軍師「え?」

魔楽士「堪忍やで。」タッ

 <森林地帯>

魔剣士「ふぅ、ええなぁ。ジャングルやでジャングル。」

魔騎士「ちょいと木や草の色がおかしいですけどね。」

魔剣士「狩りとか出来んのん?」

妖精姫「得意、です。」

魔剣士「ほぉ。じゃ、お手並み拝見、やなぁ。」

魔楽士「…………まずい。」

魔騎士「はい?」

魔楽士「……あれだ。」

巨大竜「ル”ル”ル”ル”ル”ル”…………」

魔剣士「なんや、竜王さんの倍近くある竜なんて、初めて見たわ。」

魔騎士「こう言う地形なのかと思ったら、竜だったんですね。」

巨大竜「…」ピタッ

魔騎士「え?」


魔剣士「大丈夫。寝てるだけやで。ほっとけばええよ。」

魔騎士「はぁ、恐ろしいなぁ。」

魔楽士「……」

妖精姫「…………」

巨大竜「……」パチッ

魔剣士「へぇ?」

巨大竜「…………」

魔剣士「…………」

巨大竜「ゴアアアアアアアアア…………」

魔剣士「これは、あれやね。多分。」

魔騎士「ああ。分かりますよ、これは。」

魔楽士「ああ、これは、逃げた方が良い。」


魔剣士「三十六計逃げるが勝ち何とかや。」ダダダッ

妖精姫「いや”何とか”は要らないと思うけど……」ダダダッ

魔騎士「アイツ、追い掛けて来ますかね?」ダダダッ

魔楽士「いや、その心配は……」ダダダッ

巨大竜「ガアアアッ!!」ダッダッ

魔剣士「ホンマについてないわぁー。」ダダダッ

魔騎士「いや、でも、足はこっちのが……」

巨大竜「ググググググググ…………」バサッバサッ

魔騎士「飛んだ!?」

巨大竜「…………」ボワアアアアアア

妖精姫「火を吹い……た?」

魔剣士「気のせいやで。前だけ見とき。」

魔騎士「いや吹いてましたよ。」

 <荒野地帯>

魔族兵士「野営設備の設営、全て完了致しました。」

魔軍師「オッケー。後は周辺の安全を確認しつつ待機。基本は現場の判断で。」

魔族兵士「はっ!」ビシッ タタタタ

魔王「……………………」

魔軍師「…………」

魔王「…………………………」

魔軍師「………………」

竜王「魔王、一体、どうしたのかな?」

魔軍師「……………………」

竜王「ねえ、ねえ。」

魔軍師(帰りたい。)


魔軍師(何故こうなった。何故こんな目に遭わなければならないのだ。)

竜王「むぅぅ。」

魔軍師(問題だったのは何処だ。もしかして、今回の天界制圧計画自体か?)

魔軍師(いや、それは流石にないか。それを言っては元も子もない。)

魔軍師(いや、やはり最初に起きた想定外の事態と言えば……)

魔王「……………………」ボケー

魔軍師(いや、でも、うん。やっぱあの人が大天使長に負けた事が……)

魔軍師(しかし、それはしょうがないと言えばしょうがない……)

魔軍師(戦う前から結果を分かる事など実際は稀だ。人数が少ないなら少ない程だ。)

魔軍師(まあ、彼が負けた事でこの混乱に陥ったのは間違いないのだが。)

魔軍師(だからと言って、お前がボコられたせいで大変なんだぞ、なんて……)

魔王「…………」ビキビキ

魔軍師(言える訳がない。そんな事。)

魔軍師(もし言ってしまえば次の瞬間刀の錆、もしくは爪の垢にされるだろう。)


魔軍師(大体何が状況整理だ。出来るか。)

魔軍師(あー、イライラしてきた。燃えろ。何もかも燃えろ。)

ドラゴンガアラワレター カジダカジー ショクリョウダケハマモレー

魔軍師(そうだ。ドラゴンだ。ドラゴンに燃やして……)

巨大竜「グルルルルルルルルル…………」フシュウウゥゥゥゥ

魔剣士「あ、アカンわ、軍師ちゃん襲われてる。」

魔騎士「えぇ、ホントですか。面倒だなぁもう。」

妖精姫「……」

魔軍師「え?え?えぇ?」


魔軍師「え、ちょちょちょちょちょ、何コイツ何コイツ何コイツ。」

魔剣士「堪忍堪忍、さっき森で会うたんやけど、逃げたら付いてきてしもた。堪忍堪忍。」

魔騎士「堪忍堪忍。」

妖精姫「堪忍堪忍。」

魔楽士「堪忍やでー。」

魔軍師「お前ら割りとマジで心から死ね。」


魔剣士「しっかし、どないしよか。」

妖精姫「足元から狙って態勢を……?」

魔楽士「いや、デカイのは急所を狙うべきだ。頭か心臓だな。」

魔騎士「ですね。」

魔剣士「でも今飛竜居れへんで。」

魔騎士「あっ。」

魔楽士「…………足元から狙うか。」

妖精姫「足めっちゃ硬そうだけど。」

魔騎士「参りましたねえ。」

巨大竜「ゴアアアアアアアアア!!!」


巨大竜「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!」ボオオオ

魔王「………………さっきから……」

魔剣士「!」クルッ

魔王「うるせえ…………!!」バッ

巨大竜「ガアッ!?」

魔王「ぅぁらっ!」ズバッ

巨大竜「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」フラッ

魔王「イラつか……せんな!!」ズバッ ズバズバッ ズバババッ

巨大竜「…………ガアアッ……」グラッ ダン

魔騎士「うっひゃぁ……」


巨大竜「」クタァ

魔王「…………」チャキン

魔剣士「毎度ながら、流石キングやなぁー。」

竜王「あ、魔王。元気に、なった?」

魔騎士「竜王さん。どこ行ってたんですか。」

竜王「あっちで寝てた。」

魔剣士「寝て……?」

魔軍師「野営設備の損壊が激しい。補修作業が必要。」

魔剣士「じゃ、騎士君の所でやってくれる?」

魔騎士「いやいや、剣士兄さんの所の方が。力もありますし、数も多い。」

魔軍師「両方でやってもらう。楽士と、そこの。」

妖精姫「!」

魔軍師「アンタも手伝う事。はい作業始め。」


魔剣士「はぁ……しんど。」

魔騎士「のんびりやろうかな。」

魔軍師「言い忘れたけど、終わるまで食事は無し。」

魔剣士「え。」

魔騎士「おいおいマジかよ……」

魔剣士「い、急がんと。ちょ、全員集まりぃ!!」パンパン

魔騎士「はいはいウチも!!全員集合!!」

 ~二時間後~

魔剣士「終わったで……」グッタリ

魔軍師「お疲れ様。食事を取った後に本陣奥の司令部に集合。」

魔騎士「全員で?」

魔軍師「首脳陣全員集合。」

魔楽士「…………」

魔剣士「はーい。かしこまりー。」

魔軍師「あまり遅くならないように。」

 <司令部>

魔軍師「遅い。」

魔剣士「あら、皆早いなぁ。」

妖精姫「だからもっと早くした方が、って言ったのに……」

魔王「まあ良い。座れ。」

魔騎士(あ、喋った。)

魔軍師「それじゃ、始めるから。」

魔騎士「会議、ですか。一応の形としては。」

魔軍師「そう。」

魔楽士「議題は?」

魔軍師「えーっと。状況の通達と今後の行動について。」


魔軍師「まずは現状の通達から。」

魔剣士「まずここは何処なん?」

魔軍師「予測だけれど、恐らくここは、死者の集う世界。」

魔騎士「ふむ……」

魔王「…………」

魔剣士「ほんなら、僕ら皆死んだって事でエエの?」

魔軍師「それが、そうでもない。」

魔騎士「と言うと?」

魔楽士「ここからは、俺が説明しよう。」

魔剣士「お。」

魔楽士「ここは死界。死者が辿り着くべき地だ。」

魔王「……」

魔楽士「だが、我々は死んでは居ない。本来ここは死んだ物が霊魂となって浮かぶ場だ。」

魔剣士「肉体が付いてきてるっちゅう事は死んでない、と。」

魔楽士「恐らくはあの大天使長が魔力か何かで飛ばしたのだろう。」


魔騎士「ここに来た時点で兵の数が六割程度まで減っていた事については?」

魔楽士「大天使長の魔力でここへ送りきれなかったか、殺されたか。」

魔剣士「殺された?」

魔楽士「拷問中に大天使長は現れたが、ワープを使った痕跡はなかった。」

魔軍師「つまり奴は、こちらの兵士を斬りながら進んで来た可能性が高い。」

魔剣士「ウチらの四割を削った訳ですか。一騎で。」

魔王「それで、今は死界のどの辺だ。」

魔楽士「末端。中央に死界を束ねる者が居る筈だが、そこまではかなり遠い。」

魔王「どれくらい掛かる?」

魔楽士「全速で進軍して一週は掛かる。」

魔王「そうか。」


魔王「ここに来た原因は俺だ。俺が油断したばかりに、こんな寄り道をする羽目になった。」

魔剣士「…………」

魔王「次こそ奴を倒し、神について聞き出す。その為にまずはここを出る。」

魔騎士「…………」

魔王「中央に行けば何か分かる筈だ。まずはこの死界を我々の物にする。以上だ。」

 ~一週間後~

妖精姫「はっ!」ブン

魔剣士「よっ。」サッ

妖精姫「はっ!」ブン

魔剣士「ん。」キン

妖精姫「っく……」キリキリ

魔剣士「ええのん?そんなんで。そんなんじゃ、天使や敵と戦う時、死ぬで。」カァン

妖精姫「くぁっ!」ハァハァ

魔剣士「休憩なんてせえへんで。さっさと来んと。」スッ

妖精姫「クッ……はあああ!!」ブンブン サッ ブン キン

魔剣士「せや、そんな感じやで。死にたないんやろ?なら、強くならな。」ブゥン

妖精姫「うぁっ!?」ヒュア ドサッ

魔剣士「ほらほら、次。」

妖精姫「うっ……うあああああ!!」ダダッ


魔騎士「もうすぐ中心、なんでしょ?」

魔楽士「多分、な。」

魔騎士「最近、よく喋るじゃないですか。」

魔楽士「必要に応じて、な。」

魔騎士「退屈な魔界では無口だった。今は、この状況が、楽しいんじゃ無いんですか?」

魔楽士「フン。さあな。」ニヤリ


魔軍師「大分中心に近付いた。明後日には塔を方位してると思う。」

魔王「そうか。ありがとう。」

竜王「魔王、考えごと?」

魔王「ん、まあな。」

魔軍師「何考えてたの?」

魔王「大天使長、次に会えるのはいつだろう、と思ってな。」

魔軍師「……倒せるの?」

魔王「俺が倒せなければ、誰も倒せないからな。倒すしかないさ。」

魔軍師「まあ、いいけど。死なれるのは御免だから。」

魔王「珍しいな。俺を気遣ってるのか。」

魔軍師「…………魔界の中でクーデターやら跡継ぎ争いやらが起きるのが嫌なだけ。」

竜王「照れてる。」

魔軍師「照れてなんかないから!」

 <死界中央部・司令塔>

魔騎士「辺りに敵兵は見えません。恐らくは塔内の防衛に全兵力を費やしているのかと。」

魔王「分かった。」

魔騎士「罠もあり得ますが……どうしますか。」

魔軍師「それはこちらで計画済み。」

魔剣士「最前は僕らでええんですよね?」

魔王「ああ。」

妖精姫「……」グッ


魔王「……よし。そろそろ時間だ。」スッ

魔軍師「魔方陣展開!!」バッ

魔騎士「塔を囲む形での魔方陣、ですか。」

魔軍師「魔方陣の中心が塔になるよう設定してある。」

魔楽士「あの塔がこの世界の中心だ。得られる魔力はこの上ない物だろう。」

魔王「中心に拠点を置いたのが仇となったな。」

魔騎士「それで、あの魔方陣にはどんな効果が?」

魔軍師「見てれば分かる。」


 ゴゴゴゴゴゴ...... ボォン ボォン ボンボンボン ボボン ゴオオオォォォォ

魔剣士「へぇ、凄いなぁ。」

妖精姫「一体どうやって……」

魔剣士「魔法で仕掛けといた罠を一斉に暴発させてオーバーヒートさせたんやろ。」

妖精姫「それで、あんな火に?」

魔剣士「青い炎なんて綺麗やろ?下手な火薬よりよっぽど派手に爆ぜんで。」

妖精姫「……突撃は?」

魔剣士「んー、もうすぐあの塔崩落しそうやし、少し下がっとこか。」

妖精姫「……了解。」


 ゴゴゴゴゴゴ...... ボォン ボォン ボンボンボン ボボン ゴオオオォォォォ

魔剣士「へぇ、凄いなぁ。」

妖精姫「一体どうやって……」

魔剣士「魔法で仕掛けといた罠を一斉に暴発させてオーバーヒートさせたんやろ。」

妖精姫「それで、あんな火に?」

魔剣士「青い炎なんて綺麗やろ?下手な火薬よりよっぽど派手に爆ぜんで。」

妖精姫「……突撃は?」

魔剣士「んー、もうすぐあの塔崩落しそうやし、少し下がっとこか。」

妖精姫「……了解。」


 ゴゴゴゴゴ グシャアアアアアァァァァァ

魔剣士「ふぅん。まあ、八割は死んだやろね。」

兵士「な、なんだアイツは!?」

魔剣士「んー?何や?」クルッ

???「…………」ヒュウウウゥゥゥゥゥゥ

魔剣士「うわぁ、明らかにヤバそうやな。」

???「……」ストッ

魔剣士「あー、どうもぉ。」

???「これは、貴方達が?」

魔剣士「まあ、せやね。」

???「ふむ……」


魔剣士「アンタ、誰?」

???「私は、遥か昔、天界から追放された天使の末裔。」

魔剣士「堕天使、っちゅー事でええの?」

堕天使「ああ。それで構わない。」

魔剣士「で、堕天使さん。どないすんの?僕とやる?」

堕天使「私はここを守るのが生涯の務めだった。この、迷えし霊魂が辿り着く地を。」

魔剣士「ふぅん。」

堕天使「それを壊された以上、私は責務を失った訳だが…………」チャキン スルッ

魔剣士「!!?」ガギン ギギギギ

堕天使「このまま何も成さぬまま死ぬわけにも行かないな。」グアッ


魔剣士「へぇ……ええやん。良い太刀筋、って奴なんと違う?」

堕天使「光栄だ。」シュッ

魔剣士「ッツ!!」ガキン

魔剣士「一つ、質問させてぇや。」ガン ガン キン グアッ

堕天使「どうぞ。」サッ シュッ ガン

魔剣士「アンタ、天界から追放されたんろ?」ガガガッ ブオッ

堕天使「ああ。」ササッ キンキン キン

魔剣士「ほなら、なんで、神様のお手伝いみたいな事、してはるん?」グルン ブン

堕天使「…………」ガキン ギリギリギリ

魔剣士「あ、別に、答えたないんならええんやで?」ギリギリギリギリ

堕天使「そうだな……」ギリギリ


堕天使「特に理由はない。強いて言うなら、それが……」ガキン

魔剣士「っと!」サッ

堕天使「それが私の天命だから、なのだろう。」ブンブン

魔剣士「…………ふぅん。」


妖精姫(助けに入るべきか……?いやむしろ……)

魔騎士「止めときな。足手まといになるだけさ。」

妖精姫「…………」

魔騎士「やれやれ、ちょいと飛ばして来てみたらこれか。」

妖精姫「戦況は?」

魔騎士「楽士さんや竜王さんが働いてくれてるお陰で、ほぼ制圧済みさ。後は……」

妖精姫「ここ、くらい……」

魔騎士「だろうね。」

魔王「ふむ…………」

魔騎士「おっと、来てたんですか。」

魔王「今さっき、な。どうだ?勝てそうか。」

魔騎士「戦闘自体は勝てそうですが、剣士兄さんに至ってはほぼ互角なので、何とも。」

魔王「下手に手助けしてストレスを溜まらせるのもなぁ。」


妖精姫「……ストレス?」

魔王「アイツは自分がしてる一騎討ちを邪魔されんのが何よりのストレスなんだ。」

魔騎士「知らなかったなら、覚えておいた方が良い。ストレスを溜めさせると……」

妖精姫「溜めさせると……?」

魔騎士「いや、多少溜まる位なら問題ないんだけどもね。」

魔王「爆発すると、手当たり次第に人を斬るようになるからな。」

魔騎士「過去に何回か実績を残してるんだよ。」

妖精姫「実績?」

魔騎士「ウチの連中も、キレた兄さんに何人か殺されてる。」

魔王「竜王の一族が一度も殺されてないのは奇跡だろうな。」


妖精姫「もし殺されたら?」

魔騎士「間違いなく竜王さんもキレる。」

魔王「魔剣士と竜王が争ったら、まあえらい事になるだろうからな。」

魔騎士「竜王一家が殺されてないのは本当に奇跡としか言い様が無いですねぇ。」

妖精姫「そんな人だったなんて……」

魔騎士「君は今そんな危ないご主人に飼われてる事を、忘れるなよ。」

魔王「あまり生意気な態度を取ってキレさせると、真っ先に殺されるからな。」

妖精姫「……」


堕天使「……!」ガァン

魔剣士「……アカン、楽しいけど、上手い事行かんからイライラしてきた。」ガシガシ

堕天使「…………」

魔剣士「アンタ、強いけど、なんか、おもろくないんや。」

堕天使「…………」

魔剣士「信念、みたいなのも、プライドとかも無いし、死にたくない、とかもあんまないやろ?」

堕天使「……ない、な。」

魔剣士「だからな。負ける気がせえへんのや。僕。君に、全く勝ち目が無い、って知っとる。」

堕天使「……互角だと、思ったが。」

魔剣士「剣の腕は、な。でも、君が僕と張ってるのはそんくらい。他は何もない。」

堕天使「…………」

魔剣士「まあ、こんなん言われても分からんやろうし、見せたるわ。」チャキ

堕天使「……」カチャ

魔剣士「……」ダッ

堕天使「……」バッ


魔剣士「…………な?こう言う事や。」チャキン

堕天使「…………」ゴフッ

魔剣士「そんな強く斬ってないし、生きよ思たら死なずに済むから。ほな。」スタスタ

堕天使「ま、待っ……」ピクッ

魔剣士「…………何?」クルッ

堕天使「お前の……信念は……」グッ

魔剣士「信念……なんて、無いけど。僕はただ、強い人の肉に刃を突き立てたいだけや。」

堕天使「…………プライド……か……」

魔剣士「そうかも知れんな。僕、弱い上に見込み無い奴には興味無いんや。ほなな。」スタスタ

堕天使「…………」


魔王「遅い。」

魔剣士「すんません。」

魔軍師「死界中央に魔力統制システムがあった。」

魔騎士「魔力統制システム?」

魔楽士「それらをコントロールして、全下界から霊魂が流れて来ないように出来る。」

魔軍師「一部の下界からは流れ着けるようゲートも作れる。」

魔王「肝心の、天界への移動は?」

魔軍師「ここから直で飛べるワープ装置を発見。」

魔騎士「ほう。」

魔軍師「ただ、こちらの者とは違って、指定した座標を操作者に近付ける物に近い。」

魔剣士「何でもええわ。はよ行こう。こんな所もうまっぴらや。」

魔軍師「途中お前ら楽しそうだったけどな。」イラッ


魔王「魔界からのみ、ここに霊魂が流れ着くようゲートを設定しろ。」

魔軍師「もうやった。ついでに、魔界からこちらに防衛戦力を送れるようにした。」

魔騎士「それって、魔界からこっちへは直で来れるけど、帰りは……」

魔楽士「魔方陣を展開するか、天界経由で狭間から戻るか、だな。」

魔剣士「うっはぁ。」

魔王「まあ、後の問題は後で解決する。行くぞ。」



スアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


魔剣士「…………へぇ。」

魔王「準備は万全、らしい。」

魔騎士「敵数……ほぼ、互角ですかね。」

魔軍師「陣形形成!開翼型陣形!!」

魔楽士「フッ…………」

妖精姫「…………」グッ

竜王「…………」

魔騎士「突撃用意!」バッ

大天使長「その必要はありません。」

魔王「出たな。」


魔王「わざわざ出てきてくれてありがたいぜ。」

大天使長「私怨の為にわざわざ死界を荒らしここまで戻るその精神、理解に苦しみます。」

魔王「私怨、か。まあ、名誉挽回と汚名返上、って意味ではそうかもな。」

大天使長「負けた腹いせ程度の覚悟で私に勝てるとは、思わない事です。」

魔王「全ては太刀筋が語るさ。」バッ


大天使長「……ッ!」ガッ

魔王「…………」ギリギリ

大天使長「確かに、腕は上がっています。堕天使から何か吹き込まれましたか。」ギリギリ

魔王「まさか。俺は奴とは戦っていない。一度もな。」ガァン

大天使長「なっ……」

魔王「そこ。隙が出来たな。」ズバァッ

大天使長「うぅっ!?」グラッ


大天使長「多少は、手強くなったようですね……」

魔王「そう言うアンタは、前よりも隙だらけだ。」

大天使長「このっ……!」ダッ

魔王「良いか?そう言うのをな。」ガキン ギギギギ

大天使長「……クッ……オオッ!!」ギリギリ

魔王「慢心って言うんだよ。」ガキィィン

大天使長「……ウアッ!」

魔王「冷静さも余裕もない。今のアンタに、負ける気はしない。」

大天使長「…………」


魔剣士「あんな事言うてるけど、腕前間違いなく上がってるよね、キング。」

妖精姫「なんであんなに……」

魔騎士「速さも重さも、遠目で見て分かるくらい上がってますよね。」

魔楽士「剣を降るだけが、剣の鍛練ではない。器楽と同じだ。」

魔剣士「ほぉーん。」


大天使長「!?」ガァン カランカラン

魔王「終わりだ。」

大天使長「クッ……うおおお!」ダッ

魔王「今までお勤め……」

大天使長「こんな所で……!」グッ

魔王「ご苦労だった、な。」ザン


魔騎士「なんか、意外にあっさりですね。」

魔剣士「ま、キングが本気出したらこんなもんやろね。」

魔騎士「ラスボス感あったんですけどねぇ……」

魔軍師「天使のあの大軍、全く動きがない……」

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