天海春香「0765小隊の日常」 (34)




一九四五年

第二次世界大戦は意外な形で終幕を迎えた。
「961月」の出現。
それに続く、人類の天敵の出現である。

人類の天敵、これを幻獣と言う。
確固たる目的も理由もなく、ただ人を狩る、人類の天敵。
人類は、存続のために天敵と戦うことを余儀なくされた。
それから五十年、戦いはまだ続いている。





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……早朝
-熊本電鉄、バス停


春香「ふぅ……ついた」

春香(……ここが熊本。幻獣と戦うために、要塞化された町……)

春香(ここに本来徴兵年齢に満たなかった学兵を集め、大人の兵士を育成するまでの時間稼ぎをする……)

春香(わたし、天海春香も、そんな学兵の一人……)

春香「大丈夫かな……ううん! くじけちゃだめ! 春香、ファイト!」

「そこのあなた」

春香「は、はい!」

千早「あなたが天海春香ね」

春香「え……あなたは?」

千早「私は千早。如月をやっているわ」

春香「千早……ちゃん」



春香「キサラギをやっている?」

千早「やめて」




もっと楽しく! もっとエンターテイメント!


みんなのGunparade M@rch 0765小隊の日常





千早「いい? 確かに私は戦車兵で、人型戦車のパイロットよ。けど私自身がロボットになったりしないわ」

春香「う、うん」

千早「あと、ロボットと一体化しようとしたりもしない」

春香「うん?」

千早「……行きましょう。遅刻するわよ」

春香「あ、待ってよ千早ちゃ……あっ」

千早「危ない!」ガシッ

春香「ご、ごめん」

千早「……なにもないところで転びそうになるなんて。あなた、ドジなのね」

春香「あ、あはは」

千早「確か、私と同じで戦車兵志願のハズだったと思うけど……そんなことで人型戦車のパイロットが務まるのかしら」

春香「……ごめん」

千早「…………教室に行きましょ」




……
-尚敬高校


春香「わー! ここが私達の通うがっこ」

千早「違うわ」

春香「え?」

千早「こっちよ」



……
-尚敬高校敷地端、0765プレハブ校舎


春香「わ、わー……」

千早「見ての通り、敷地の隅に間借りしただけのプレハブ。即席の部隊だから、当然ね」

春香「う、うん。……でも! 最初はこんなんでも、頑張って戦果を挙げれば立派な教室に」

千早「ならないわ」

春香「……ならないんだ」

千早「えぇ。たまに雨漏りしたりするから、自分達で補修する必要があるくらい。士気にも関わるし、生活環境の維持は大切ね。まぁ、どうでも、いいですけれど」

春香「どうでもよくないよ……」



「こらー! 待ちなさーい!」

春香「この声は……?」

千早「あぁ」


亜美「へへーんだ! 待てと言われて松の廊下でうぉんちゅーでござるー!」ダダダダ

律子「それを言うなら殿中! じゃなくて廊下を走るな!! ……でもなくて」


律子「今時、黒板消しトラップなんてベタな真似、よくもやってくれたわね!」

亜美「ひっかかるりっちゃんも、なかなかのものだと思うよ?」

律子「誰がりっちゃんか。いい? 私はね、秋月律子せんよく」

亜美「ぽちっとな」ポチッ


ヒュッ

律子「え……?」

ガゴベェーン!!

律子「あだぁ!? な、なによこれ……金ダライ!?」

亜美「わーいまたひっかかったぁ!」

律子「あんたねぇ……」プルプル

亜美「あ、やば……」



律子「罰として校庭二百週! 真! 連れてきなさい!」

真「アイサー。さ、一緒に鍛えよう! 亜美! 筋肉万歳!」

亜美「ひえ~勘弁してよりっちゃん~」

律子「それとも、随伴歩兵に転属したい? 懲罰大隊送りでもいいわよ?」

亜美「……二百週、走ります」

真「さーさぁ! 共に青春の汗を流そうじゃないか! わははははは!」グイグイ

亜美「りっちゃんの鬼軍曹~」ズルズル

律子「軍曹じゃない。秋月律子、千翼長。自衛軍の階級に直すと中尉相当よ。……っと、メガネどこいったかしら……」



春香「あ、私ひろいま……あっ!」コケッ

千早「春香!?」

グシャッ

律子「あ゛」

春香「あ……」

千早「あーあ」


春香「ごめんなさい! ごめんなさい!」

律子「……いいわよ。どうせ伊達だしね。遺伝子を改造されている私達第六世代には、視力的に眼鏡が必要な者はほとんどいないわ」

春香「そう……ですよね」

律子「あなたが今日入る新人ね。私は秋月律子千翼長。ここで学生ごっこをする時は、委員長なんて呼ばれたりもしてる」

春香「あ、はい。よろしくお願いします! 秋月千翼長!」

律子「よろしい。では私は仕事に戻りますから」

千早「ホームルームは?」

律子「……来てないのよ。先生」

春香「え?」

千早「また迷子ですか?」

律子「多分ね。あんたたちも、挨拶が済んだら仕事にかかりなさい。ここでは勉強なんかより、やることが山ほどあるんだから。それじゃ」スタスタスタ……


春香「先生が、迷子……?」

千早「奇跡の方向音痴と呼ばれる人よ。……それに、毎晩のようにお酒を飲んで、ずっと二日酔いみたいな状態だから」

春香「えぇ……」

千早「…………ストレスに弱いのよ。生徒を戦場に送り出す精神的苦痛に、耐えられないの。成体クローンは、所詮欠陥品なのよ。あのさっきのイタズラ娘、亜美を引きずっていった菊池真って子も」

春香「どこか、おかしいの?」

千早「四六時中筋肉を鍛えてばかり。かと思えば、整備班長に猛アタックを仕掛けたり。おまけに可愛さに関するセンスが壊滅的にズレてる」

春香「は、はは……」

千早「ホームルームもないようだし、先に整備テントに行って、整備班にあいさつしましょうか。行くわよ、春香」

春香「あ、うん!」




……
-整備テント


涼「わたしが、整備班のリーダー、副委員長の秋月涼です。よろしくね、春香ちゃん」

春香「はい! あれ? 秋月って……」

涼「……律子さんとは、従姉妹ですから」

千早「なんだかドロドロした過去があるらしいわ」

涼「ちょっと千早さん? コクピットに爆弾が仕掛けられても知らないからね?」

千早「整備班は敵に回さないほうがいいわ。私達戦車兵にとっては、命に関わることだから」

春香「そ、そうみたいだね」


「あーーー!!!! 新人パイロットさんですかぁーーーーーー!!!!!」

春香「わっ!? なに!?」


愛「あたし、日高愛です!!! 整備班です!!」

春香「あ、うん。よろしく……」

真美「ちょっと愛ぴょん、声大きすぎ」

愛「えーーー!!? でも整備テントの中は作業音でうるさいですから!!! このぐらい声を張っておかないとーー!!!」

伊織「それにしたってうるさすぎるわよ。もう少し声を絞って。……私は水瀬伊織。整備班よ」

真美「同じく双海真美! よろしくね~ん」

春香「あれ? 真美ちゃんって……さっきの」

千早「亜美は双子の妹だそうよ。ちなみに水瀬さんは、あの水瀬財閥のご令嬢で」

伊織「ふん、関係ないわ。私はただの、一介の十翼長ですもの」

春香「そ、そうなんだ……」

千早「変な人ばかりだけど、整備の腕は一流よ。安心していいわ」

伊織「変な人って、あんたね……」

真美「千早おねーちゃんだけには言われたくないっしょー」

千早「さ、次行くわよ」

春香「う、うん」




……
-整備員詰所


千早「こんにちは。萩原さん」

雪歩「ひっ……はい、こんにちは」

春香「はじめまして、天海春香です」

千早「萩原さんは指揮車銃手兼、衛生兵よ。男の人が苦手で、だいたいポエムを書いてるか穴を掘ってるわ」

春香「穴……?」

千早「あと、そこそこ素敵なスタイルしてるくせに「ひんそーでちんちくりん」なんて自虐を言うものだから、いじめられたりしてるわ。春香は仲良くしてあげてね」

雪歩「うぅ……」

春香(そのいじめてるのって、千早ちゃんなんじゃ……)

ガラガラッ

響「はいさい! ちょっといいかな?」

千早「あら、我那覇さん。ちょうどいいわ。春香、我那覇響さんはオペレーターよ。指揮車から作戦、戦況を伝えたり、私達を誘導したりしてくれるの」

響「あぁ、今日入る子か! 聞いてるぞ。よろしくな!」

春香「うん、よろしくお願いします!」

響「っと、そうじゃなかった。この子、ケガしてるんだ」

「バウッ」

雪歩「ひぃい! いぬぅう!」

千早「あぁ。あと、犬も苦手だったわ」

響「手当ては自分でやるから、薬だけ貸してくれるか?」

雪歩「あ、はい……うぅ、こんな役立たずな私なんてぇ…………穴掘って呪ってますぅ!」

響「うん。呪うのはやめような」

春香「ほんとに穴を掘るんだ…………なんで二つも?」

千早「人を呪わば……ってことね」

春香「そういう意味じゃないと思うけど……」




響「よい、しょっと。じっとしてろよー」

春香「あ、私手伝います!」

響「お、ありがとう! 春香はいいやつだな! ……っと、これでよし!」

「バウッ」

響「人族の味方するのはいいけど、気をつけるんだぞ?」

「バウッ」

千早「我那覇さんは動物とお話できるの」

春香「へぇ、すごいね……」

千早「幻視や同調技能を訓練すれば、あなたも話せるようになるわ」

春香「え……え?」

響「さ、春香。ここからは自分が案内するからなー。千早といると胸がなくなるぞ」

千早「ちょっと、我那覇さん」

響「如月には悪い噂が多いんだ。胸が大事なら関わらない方がいい」

春香「ち、近いよ響ちゃん」

千早「ソックスゴーヤー」

響「その名で呼ぶなぁ!!」


ガラガラッ

貴音「ふ、不潔です! 女同士でそのようなっ」

やよい「ふぇ? 響さん、汚いんですかー?」

響「何言ってるんさー。自分ほどの綺麗好きはいないぞ?」

千早「巫女さんのコスプレをしてるのが、四条貴音さん。かわいい方が高槻やよいさん。かわいいでしょ」

春香「う、うん」

貴音「如月千早。違います。これは断じて、こすちゅーむぷれいなどではありません。これは胴着なのです。四条家は代々あしきゆめと戦うさだめを」

やよい「うっうー! はじめまして! オペレーターの高槻やよいです!」

春香「はじめまして! よろしくね」

千早「高槻さんかわいい」

響「うんうん」

貴音「……」



貴音「あしきゆみと戦うさだめを」

響「やめろぉ!!」



……

春香(疲れた……あいさつが済んで、仕事や訓練の内容を教えてもらってたら、一日が終わっちゃった)

春香(なんだか、個性の強い人達だったなぁ……)

春香(生存率が高いからって、戦車兵に志願したけど……ここで大丈夫かなぁ)




……翌日
-0765プレハブ校舎、教室内


小鳥「今日も三浦先生は迷子みたいなので、教官の私が戦術について教えるわよー」

貴音「わたくしには戦術など必要ありません。ただ、敵を斬る……それだけです」

やよい「うー……せんじゅつってなんですかー」

美希「あふぅ……」

小鳥「……こほん。いーい? 戦争において、戦術というのはとても大切なことなの。特に人型戦車を使うあなたたちの小隊は、他の小隊とは異なる独自の戦術が求められるの。攻めるときも受ける……じゃなくて守る時も」

千早「人型の機動性を活かせ、ということですね」

小鳥「そう。前に走るだけでなく、左右にステップを踏み、ジャンプで障害物を越え、適宜武装を持ち変えて臨機応変に戦う。通常の戦車と比べて背が高くて、的になりやすい不利を、そうやってカバーしながら戦うの」

千早「そのためには敵の動きを予測して動くことが大切、ですよね」

小鳥「そうね。特に、千早ちゃんと春香ちゃんの三番機は、ジャベリンミサイルで付近の敵を一掃できる。使うタイミングを見切って上手く使えば、それだけで戦況を覆せるわ」

千早「けれど、逆に使いどころを見誤れば、敵に囲まれ集中攻撃を受ける……これは操縦者である、あなたにかかっているのよ、春香」

春香「う……すごいプレッシャー……」

千早「少なくとも、戦場の何もないところでこけるような真似は、しないでほしいわ」

春香「……気をつけるね」

小鳥「それから、重装甲の一番機と、軽装甲の二番機は」


高木『二〇一V一、二〇一V一。全兵員は現時点を持って作業を放棄。可能な限り速やかに教室へ集合せよ。繰り返す……』

貴音「敵襲!」

美希「なのっ」ガバッ

小鳥「……総員、ハンガーへ。秋月千翼長の指示に従いなさい。…………出撃よ」





……
-戦場

響「はいさい! みんなのお耳の恋人、我那覇響だぞ! 自分の完璧な誘導でみんなを勝利に導くから、よーく耳をすましておいてね!」

やよい「うっうー! がんばりまーす!」

響「敵はミノタウロス、ナーガらの混成した中型幻獣が10。それと小型幻獣が多数。既に友軍が交戦中だから、みんなは側面や背後から強襲して、挟み撃ちにするんだ!」

春香「りょ、了解!」

千早「春香、あせらないで。敵を撃つのは私の役目だから、あなたは指示通り動きながら、敵の攻撃をよけて。いいわね」

春香「うん……いくよ! 千早ちゃん!」

亜美「軽装甲、とっつげきぃー!」

貴音「参ります!」




響「千早機、ゴブリン撃破!」

やよい「貴音さん、ヒトウバン、ゴブリン撃破です!」

響「亜美、ゴブリンリーダー撃破! けど左足に被弾! 後退して! まだ動けるよね!」

亜美「うあうあ~……ごみんね……」

響「随伴歩兵は軽装甲の援護を!」

真「任せてよ! うおりゃあああああ!」

美希「……なの」


やよい「美希さん、ナーガ撃破! 真さん、ヒトウバン三体撃破! すごいですー!」

響「千早機もナーガ撃破! 押してるぞ! 友軍が持ち直してきた。あと少しだ!」

貴音「負けてはいられませんね……てやぁああ!」

響「貴音!? 出すぎだぞ! すぐ戻って!!」

やよい「貴音さん、ミノタウロス撃破……あぁ! 生体ミサイル被弾! 機動性が下がります!」

響「ミノタウロス接近! 早く逃げっ」

やよい「一番機、大破!!」


貴音「はやぁああああ!!」

響「貴音ぇええ!!!」



春香「貴音さんっ!?」

千早「大丈夫、脱出してるわ。美希と真が連れ帰ってくれる。……それより、これ以上長引かせるとマズい。一気に決めましょう」

春香「! ……一番敵が密集してる場所に突っ込むよ。いい?」

千早「えぇ。ダッシュ、狙いをつける、ミサイル発射。その後すぐに離脱よ。行きなさい!」


やよい「千早さん、ナーガ3、ミノタウロス2、ヒトウバン、ゴブリン多数撃破です!」

響「よし! 敵撤退開始! 追撃して少しでも敵を減らすんだ! ただし深追いは禁止、増援の危険を考えて……そうだな、川を越えた敵は追うな」

亜美「んっふっふ~、快速軽装甲の出番ですな~。やっちゃうよー!」

貴音「わたくしも、機体を失っていなければ……いいえ、このカトラスさえあればっ」

響「貴音は戦車兵用ウォードレスなんだから無茶しないで! 歩兵は美希と真で充分さー」

貴音「なんとっ……」





……



愛「せいびしたよーーーー!!!」




……翌日


春香「あ、おはよう。千早ちゃん」

千早「おはよう春香……いえ、如月にあいさつはないわ。教室へ行くのでしょう?」

春香「あー、うん。そうなんだけど……」

千早「どうかしたの?」

春香「昨日の戦闘で、貴音さんの一番機が大破したよね」

千早「そうね。整備班は昨日から徹夜で作業だそうよ。きっと授業は居眠りだらけね」

春香「……もっと安全に戦えるようにならないかな……ううん、戦争なのに、安全に、なんて変なこと言ってるのかもしれないけど」

千早「変なんかじゃないわ。仲間に戦死者を出したくないのなんて、当然よ」

春香「千早ちゃん……」

千早「そうね……できることと言えば、増加装甲を装備させること……かしら」

春香「増加装甲……? そっか、重装甲にさらに装甲を足せば、簡単にはやられないよね!」

千早「まぁ、そうね……」

春香「?」



千早「ともかく、展開式増加装甲を二枚陳情するには、発言力が足りないわね。私もミサイルパックや弾倉を頼むので、すっかり使ってしまったし」

春香「じゃあ、どうすれば」

千早「裏マーケットで買う、しかないでしょうね」

春香「お金もないんだけど……」

千早「……水瀬さんにあたってみましょう」




……
-整備テント


伊織「はぁ? お金貸して欲しい?」

春香「う、うん……増加装甲が欲しくて……」

伊織「無理よ。私だってないもの、お金なんて。私は一介の十翼長よ」

千早「ちょっとこっちへ」

伊織「なによ」

春香「?」


千早「高槻やよいの穴あき靴下」スッ

伊織「金塊よ。これを換金すればいくらかにはなるでしょ」ゴトン

千早「さすが、ソックスデコ」

伊織「うるさいわよ、ソックスウォール」




……


春香「これでよしっと……一番機に増加装甲二枚、装備完了! ……少し重すぎる気がするけど、いいのかな……?」

千早「大丈夫よ。むしろ、それでいいの」

春香「そうなの? ……でもよく金塊なんてもらえたね」

千早「……靴下」

春香「えっ?」

千早「あなたの靴下を頂戴。私はそれぐらいの働きをしたわ」

春香「いいけど……靴下が足りないなら金塊を換金した余りのお金で買えばいいのに。じゃあ明日にでも家から、まだはいてない靴下を」

千早「今、あなたがはいているのを、頂戴」

春香「……」

千早「……」



春香「いやだ」

千早「くっ……!」



……数週間後


春香(あれから、いろんなことがありました)

春香(訓練も、戦闘も……そして日常も)

春香(倒れるまで仕事と訓練をして、雪歩に介抱されたり)

春香(みんなでラーメン屋さんに行って、貴音さんが極楽昇天ラーメン十杯完食無料をやりとげたり)

春香(危うく千早ちゃんとえっちな雰囲気になりかけて、あわてていぬ美ちゃんを呼んだり)

春香(亜美と真美に「「どっち!?」」なんて詰め寄られたり)


春香(戦いも勝利を重ね、どうにか、誰一人かけることなく、私達0765小隊は、生き延びていました。……けど、戦況は有利になっていくのに、敵の侵攻は激しさを増し、苦しくなっていくばかり。これから、どうすれば……)




……放課後
-教室内


春香「ねぇみんな! 提案があるんだけど。……クッキー焼いてきたから、みんなで食べない?」

響「おぉ! 食べる食べる!」

貴音「ぜひに、いただきましょう」

伊織「合成甘味料(サッカリン)じゃないでしょうね?」

真「そんなこと言うなら食べなきゃいいだろ? これだからお嬢様育ちは」

伊織「なんですって!?」
真「なにを!?」

やよい「うー……けんかはめっですよ!」

春香「あはは、ちゃんとお砂糖使ってるから、安心していいよ」

千早「でも、高かったでしょう? また値上がりして」

春香「戦争中だもん、仕方ないよ。それに、たるき亭でアルバイトして、少しはお金あるんだ」

千早「そう……エプロン姿の春香、見たかったわ……できれば、はだかエプ」

春香「ち、千早ちゃん! 今はみんないっ……わわわぁっ!?」

ドンガラガッシャーン

真美「おぉ! 出ました! はるるんお得意の「なにもないところで滑って転ぶパターン」ですな!?」

亜美「うんうん~、シンプルにして王道。まさに、ベタですなぁ~。亜美たちも見習わないとねー」

春香「いたた……そんなつもりじゃないんだけどなぁ……」


高木『二〇一V一。二〇一V一。全兵員は現時点を持って作業を放棄。可能な限り速やかに教室へ集合せよ。繰り返す……』


真「敵だっ!」

伊織「また!? もう、なんなのよ!」

亜美「うあうあ~、最近出撃多すぎっしょ~」

真美「幻獣さんがこっちのジョージを考えてくれるわけもなし、ちかたないね……」

貴音「真美、それを言うならば事情、では?」

響「いいから出撃するさー!」

千早「行きましょう、春香」

春香「……うん! 千早ちゃん!」




……


律子「戦況は?」

響「戦況は……圧倒的不利! 友軍の陣地は壊滅状態! うぎゃー! 敵の数が多すぎるぞ!!」

やよい「敵の大攻勢です! 熊本全体に、幻獣が溢れかえってますー!」

千早「敵の狙いは、熊本城よ」

春香「ど、どうしてそんなことが分かるの!?」

千早「……幻獣の元になったモノ……オリジナル・ヒューマンの遺跡が、熊本城の地下にあるという情報が、敵に流れた。幻獣は、元の姿を取り戻すために、遺跡を目指しているの」

春香「元の姿って……」

貴音「なれば熊本城へ行きましょう! そこが決戦の舞台……!」

亜美「やるっきゃないっしょ! うまくいけば、幻獣を一毛男児にできるもんね!」

伊織「波平さんか!! 一網打尽、でしょ!」

千早「ぷっ……くく、一毛……」

春香「……熊本城、行くよ?」




……


真「くそっ……分かってたけど、敵の数が尋常じゃないっ!」

美希「戦線が、維持できないの……!」


亜美「こんにゃろぉおー! くらえ! くらえぇ!」

貴音「先代ヤーネフェルトの生まれ変わりとして、わたくしは最後まで戦います!」

千早「ミサイル発射! ……すぐに離脱して予備弾倉を装填! もう一度突っ込むわ!」

春香「うんっ……!」


伊織「きゃぁあーーっ!!」

愛「こ、こっちにも敵がっ……うわぁあああああん!!! もうおしまいだよーーーーー!!!」

涼「あきらめないで! 整備班も銃を持って、補給車を守るんだ!!」


律子「指揮車を補給車の盾に! 雪歩、銃手お願い!」

雪歩「は、はいぃ!」


響「貴音! 補給車が敵に襲われてる! すぐに戻って!」

貴音「っ……ですが、敵が行く手を……! このっ……道をあけなさい!!」

やよい「亜美機被弾! ばらんさー機能停止! 機動性低下……このままじゃやられちゃいますー!」

亜美「ちょ、ちょっとマズいかなーって……うわぁあっ!」


春香「千早ちゃん……!」

千早「くっ……どうすれば」



美希「ここはミキに任せて、二人は補給車に戻るの!」

春香「美希っ」

美希「士魂号の足の方が、速く戻れるし。整備のみんなや、律子……さん達を失うわけにはいかないって思うな」

千早「……分かったわ。三番機、補給車救助に向かいます!」

美希「千早さん! 助けるついでに補給いーっぱい積んで、すぐ戻ってきてね! ついでにおにぎりも!」

春香「美希ってば……うん! 必ず!」



涼「ぐぅっ……!」

愛「涼さぁーーん!! うわぁああああん! 死んじゃやだよぉおおおお!!!」

伊織「ばか! かすり傷よ! あんたも撃ちなさい!! ほんとに死ぬわよ!?」

雪歩「……歌が、聞こえる」

律子「なにを言って……ほんとだ」

響「……そうさ、未来はいつだって……このマーチと共にある」

やよい「うっうー! 突撃軍歌(ガンパレード・マーチ)ですー!!」

涼「そうだ……まだ戦える。僕らはまだ、負けちゃいない! 全軍抜刀、全軍突撃……アールハンドゥガンパレード!」

律子「アールハンドゥガンパレード! 0765の仲間を、誰一人死なせやしないわ!」


アールハンドゥガンパレード! アールハンドゥガンパレード!


千早「わーたしは笑わない、わーたしは信じられるー。あなたの横顔を見ているかーらー」

春香「千早ちゃん……はーるかなるー未来ーへの、階段を駆け上ーがる、あなたのー瞳をー知っているー」


 今ならわたしは信じられる あなたのつくる未来が見える
 あなたの差し出す手をとって わたしも一緒に駆け上がろう
 幾千万の わたしとあなたで あの運命に打ち勝とう

 はるかなる未来への 階段を駆け上がる わたしは今 一人じゃない


貴音「あーるはんどうがーんぱれいど!」

亜美「未来のために、マーチを歌おう!」

真「ガンパレード・マーチ! ガンパレード・マーチ!」

美希「ガンパレード・マーチ! ガンパレード・マーチ! なのっ!」




……翌日


千早「おはよう春香、教室に」

春香「千早ちゃん、あいさつは」

千早「あっ……」


千早「んん! ……如月にあいさつはないわ。教室に行くのでしょう? 私もよ」

春香「うん、それじゃ、行こっか」


春香(熊本城での決戦を越えて……私達の日常は続いていく)

春香(遠い空から歌を届けてくれた、どこかの誰かの、未来のために…………)



千早「ところで春香、靴下がボロくなってない? 新しいのと交換し」

春香「しないよ」

千早「くっ!」







END



ここまで読んで下さった方は、本当に有難うございました。

よろしければ
速水厚志「5121プロの日常」
もどうぞ。


速水厚志「ハッピーエンドを取り戻す」
もよろしく。

では。


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