提督「どうしてこうなってしまったのか」 泊地水鬼「……」 (49)

――執務室
提督「ズルい」

大和「……はい?」

提督「艦娘だけ釣りに出掛けるのは不平等だ!」

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大和「提督もご存知の通り、これは大本営からの任務ですので……」

提督「大和は俺の趣味を知っているだろ?」

大和「魚釣りですよね。ですがそれとこれとは……」

提督「沿岸部は深海棲艦のせいでどこも立ち入り禁止だ」

提督「だから俺は提督になって、本部には内密に釣り仲間を集めて趣味を楽しんでいたんだ」

大和「内密にって……えっ?」

提督「だがしかし! なんだこの任務は!」

提督「外洋で秋刀魚漁だと!? ふざけるな! 俺に行かせろ!」

大和「いえ、その前に本部に黙って一般の人と魚釣りをするのは……」

提督「……大和」

大和「なんですか?」

提督「出撃、したくはないか?」

大和「――っ!?」

提督「俺もお前達に同伴する」

提督「俺は秋刀魚釣りを楽しむ」

提督「大和は久しぶりに出撃できる」

提督「お互いwin-winでいこうじゃないか」

大和「ですが、そうなると船の手配ですとか――」

提督「――手配してある」

大和「……本部への言い訳ですとか」

提督「大丈夫だ。俺の釣り仲間を口実にする」

大和「一般の方も連れて行くつもりですか!?」

提督「甘く見るな。俺の布教は艦娘にも及んでいる」

提督「彼女達なら快く協力してくれるだろう」

大和「……ですが」

提督「大和、秋刀魚は回避魚だ」

提督「神出鬼没でほとんど沖でしか釣る事ができない」

提督「拠点が必要になる。ならば船が必要だ。そうだろう?」

大和「いえ、出撃のついでに獲れるようなので」

提督「秋刀魚を舐めているのかっ!」

大和「――っ!」

提督「大和よ。釣りとはそこまで甘くはない」

提督「素人だけでなんとかなるなど極々稀に過ぎないんだ」

大和「……でしたら、その提督の釣り仲間の艦娘を艦隊に組み込めばいいのでは?」

提督「……」

大和「……提督?」

提督「嫌だぁあああああああ! 俺も行きたいぃいいいいいいい!」

大和「ええ……わかりましたから駄々こねないでください!」

提督「準備はできたかぁあああ! 野郎共おおおおおお!」

「「「「おぉー!」」」」

曙「はぁ……」

大和「……」じー

曙「何?」

大和「いえ、今日は随分重装備なんですね……」じー

曙「そう?」

提督「それじゃ行くぞおおおおおおおお! 抜錨だぁあああああああ!」

「「「「おー!」」」」

――北方海域Aポイント

提督「それでは各自報告せよ」

飛鷹「モーレイ海に反応はなし。ハズレね」

龍驤「いちを北方棲姫の所にも偵察しといたけど、たぶん今回は持ってないで」

提督「なに!?」

龍驤「なんか妖精さんに向かって首を横に振っといてたわ」

提督「しかし、彼女が嘘をついてる可能性は……いや、でも幼女だしなぁ」

提督「北方棲姫の奥のマスは偵察できたか?」

龍驤「あのなぁ、それは流石に無茶な注文だと思わんか?」

提督「だよなぁ」

漣「ご主人様!ご主人様!」

提督「どうした弟子2号!」

漣「サボ島で採れるってネットに書いてありました!」

提督「ええい、吹雪にでも行かせてろ!」

漣「ラジャー!」

瑞鶴「あのー、提督さん」

提督「どうした! 弟子6号!」

瑞鶴「アルフォンシーノ海域で複数の反応があったみたい」

提督「お前を連れてきて本当に良かった!」ダキッ

瑞鶴「ちょっ、そういうのは2人っきりの時に……」

漣「ご主人様! ご主人様!」

提督「どうした! 弟子2号!」

漣「中部海域でも採れるってネットに書いてありました!」

提督「ええい! ゴーヤにでも出撃させろ!」

漣「ラジャー!」
大和「はぁ……」

――アルフォンシーノ海域

大和「海域! 確保しました!」

提督「良くやった大和! だが余り派手なことはするな! 魚が逃げる!」

大和「……」

提督「サビキ仕掛けで8号? いや9号だ……」ブツブツ

提督「総員! これより秋刀魚漁を開始する! 奴らは群れで行動する! 心してかかれ! 作戦開始!」

飛鷹「ふぅ……あら、どうしたの?」

大和「……いえ、魚が逃げるから航行するなと言われまして」

飛鷹「あー、あの人釣りキチだからね」

大和「そうなんですか」

飛鷹「まあ、みんなもこの船に乗り込んだし、気にしなくていいんじゃない?」

大和「そうなんですが、その……」

飛鷹「……?」

大和「出撃したらその、少しお腹が空きまして」

飛鷹「なら大和も食べてみる?」

大和「……はい?」

漣「漣と!」

龍驤「まな板の!」

「「料理教室コーナー」」

龍驤「って誰の胸がまな板やねん!」

漣「あははは! さて、今回は秋刀魚の塩焼きでございます!」

龍驤「まずはエラに手を入れて、エラを除いて〜っと」

龍驤「ほらほら、ぐにょ〜んと内臓が……ちょっち文字にするとグロいな」

漣「メタファーな要素は禁止ですよ!」

龍驤「おっと、せやった。背びれに近い穴に箸入れて洗って〜と」

漣「背中からお腹に向けて切り込みを入れて塩を振り〜」

龍驤「焼いた物がこっちやで!」

漣「ちょっ、それ漣の分!」

龍驤「まあ、まあ、後でウチの分けたるから我慢してな?」

漣「はーい!」

漣「と言うわけでどうぞ! 大和さん!」

大和「あっ、はい。ありがとうございます」

大和「美味しい……」

龍驤「釣れたてほやほや、焼きたてほやほややからな!」

漣「その秋刀魚は漣が釣ったんですよ!」

大和「そうなんですか!? 漣さんはスゴイですね」ナデナデ

漣「えへへー」

龍驤「まぁ、姉には勝てへんみたいやけどな」

漣「今日のぼのは絶好調みたいだしね」

大和「そうなんですか?」

漣「そりゃもう。提督に迫る勢いで」

大和「曙ちゃんは釣りが上手いのですね」

飛鷹「まあ、今日の本番は彼女が寝てからなんだけどね」

漣「チート乙」

龍驤「瑞鶴のラックは計り知れんからなぁ」

瑞鶴「うーん。ちょっと疲れてきたかも」

提督「よし、瑞鶴こっちに来い。膝枕してやろう」

曙「ちょっ!」

瑞鶴「いいの?」

提督「ああ、もちろんだ。さぁ、いつでも良いぞ!」

瑞鶴「それじゃお言葉に甘えようかな」

曙「ぐぬぬ」

瑞鶴「……」スヤァ

提督「ふはは、きてる! きてるぞ! さあ、今のうちに差を詰めるがいい曙よ」

曙「この卑怯者!」

提督「なんとでも言うといい。今の俺には幸運の女神の力を溜めてるのだからな!」

曙「ぐぬぬぬぬぬ」

提督「幸運の女神が俺に囁いてるぞ! 秋刀魚大漁に釣るのですと!」

曙「雪風、雪風がここにいれば」

提督「残念ながら曙と俺では雪風の好感度が違うのだ。曙の膝より、俺の膝を選ぶぞ」

曙「はっ、雪風が居なくても潮がいるからいいもん! クソ提督のバーカ!」

提督「ふふ、それでも瑞鶴付きの俺より下。それに潮は今遠征の最中」

提督「勝負は見えたな」

曙「この……今に見てなさいよ!」

提督「また勝たせてもらうぞ曙よ!」

飛鷹「……この反応は敵? でも反応も小さいし、気のせいかな」

――現在

提督「それから敵襲があって、船が攻撃されて……」

提督「釣りの道具はなんとか守れたが海に投げ出されて……」

泊地水鬼「これでいいのか?」

提督「ああ、後はこうやってだな」ビュッ

泊地水鬼「ふむ」ビュッ

提督「おお、スジがいいじゃないか!!」

泊地水鬼「なるほど、この後は魚が釣れるまで待てばいいんだな?」

提督「ああ……なんで泊地水鬼と釣りしてるのだろうか」ボソッ

――数時間前

イ級【――っ】

泊地水鬼「人間……? 後で適当な街に届けか」

イ級【――っ】コク

泊地水鬼「それまで私が預かる。まだ余裕はあるか?」

浮遊要塞【――っ】コクコク

泊地水鬼「そうか。その人間を乗せろ」

イ級【――っ】イエッサ-

提督「……ここは」

泊地水鬼「起きたか。人間よ」

提督「どわぁっ!?」

泊地水鬼「暴れるな。落ちたらどうする」

提督「な、なんだ。これは……浮遊要塞!?」

泊地水鬼「何故浮遊要塞だとわかる? もしかして……提督か?」

提督「そうだと言ったら……?」

泊地水鬼「殺す。アイツのせいで私はな。私はな!」

提督「ただの釣り人です」

泊地水鬼「釣り人?」

提督「魚釣りを愛するただの人間ですヨ」

泊地水鬼「提督じゃないのか?」

提督「はい」

泊地水鬼「そうか。ならいい」

提督「……えっと、その提督って人は何かしたのですか?」

泊地水鬼「ああ、奴は極悪人だ」

泊地水鬼「私の泊地を襲撃して破壊した挙句、再建中の泊地まで攻撃してきた極悪人だ」

提督「(アカン)」

泊地水鬼「私が根無し草なのも、こうして放浪してるのも全部アイツのせい」

提督「それは……お気の毒ですね」

泊地水鬼「おお、分かってくれるか」

泊地水鬼「お前はいい人間だ!」ダキッ

提督「(柔らか――冷たっ!)」

泊地水鬼「お前だけは必ず陸に届けてやる。私の名にかけて守ってやるぞ」

提督「あ、ありがとうございます」

泊地水鬼「ところで……」

提督「……?」

泊地水鬼「それはなんだ?」

――現在

提督「(まさか浮遊要塞の上で泊地水鬼と秋刀魚釣りをする事になるとは……)」

提督「(事実は小説よりも奇なり、か)」

提督「(しかし、他の皆は大丈夫だろうか)」

提督「(帰ったら大和の大目玉をくらうんだろうなぁ)」

泊地水鬼「……何かくる」

提督「魚か?」

泊地水鬼「たぶん――っ」

提督「――おお! 30cmぐらいの秋刀魚だな」

泊地水鬼「大きいのか?」

提督「普通ぐらい。大物になると40cmを超えるぞ」

泊地水鬼「わりと簡単だな」

提督「人はそれをビギナーズラックという」

泊地水鬼「むむむ……」

提督「釣りは一日にしてならず、運も多少いるがな。ほら、また釣れた」

泊地水鬼「ズルしてないか?」

提督「これが経験と知識と幸運の女神の差だよ」

泊地水鬼「……」

泊地水鬼【イ級】

イ級【――っ】

提督「うおっ!?」

泊地水鬼【他の深海棲艦と連携を取って秋刀魚を探せ。決して逃すな】

泊地水鬼【そして秋刀魚がいる場所の真上に顔を出せ】

イ級【――】コク

提督「……」

イ級【〜〜】

泊地水鬼「そこにいるのだな。ならこの辺で待てば」

泊地水鬼「――ちょろいものだ」

泊地水鬼「人間よ。釣りもなかなか楽しいものだな」

提督「むむむ、レギュレーション違反と見るべきか……いやしかし」ブツブツ

泊地水鬼「〜〜」

提督「そういえば今夜はどうするんだ?」

泊地水鬼「北方棲姫のところに行く予定だ」

提督「……」

泊地水鬼「安心しろ。あれは子供だが、深海棲艦は上の命令を守るように出来ている」

泊地水鬼「彼女を怒らせなければ問題ない」

提督「心配だなぁ」

泊地水鬼「――っ!」

提督「どうした?」

泊地水鬼「偵察機、艦娘のだ」

提督「――っ!」

泊地水鬼「今浮遊要塞を堕とされるとマズイ。逃げるぞ」

提督「堕とされるとどうなるんだ?」

泊地水鬼「海に投げ出される。私は泳げないからな。」

提督「なるほど(浮遊要塞にそういう用途があったのか)」

北方棲姫「カエレ!」ガルル

提督「……ビクッ!」

泊地水鬼「落ち着け。こいつは悪い人間じゃない」

北方棲姫「――悪い人間じゃない?」

北方棲姫「ゼ、ゼロと烈風置いてけ」

提督「て、提督でもないんだ」

北方棲姫「……? でもいつも襲ってくる提――」

提督「ぼくはわるいにんげんじゃないよ」

北方棲姫「……」

提督「……」

北方棲姫「カエレ!」

泊地水鬼「どうしたものか」

提督「なんかすまない」

泊地水鬼「子供の機嫌は気まぐれなんだ。気にする必要はない」

提督「本当にすまない」

泊地水鬼「さて、追い返されたとなると艦娘と正面から衝突するわけだが……」

提督「……えっ?」

泊地水鬼「……お前だけなら逃すことはできる」

提督「お前はどうなる」

泊地水鬼「無理だな。私は保っても、この子が保たない」

浮遊要塞【……】

泊地水鬼「海上で足を失ったらそこで終わりだ」

泊地水鬼「――どのみちお前は助かるから安心するといい」

提督「だが……」

提督「泊地水鬼、釣りは好きか?」

泊地水鬼「釣りか? 確かに楽しかった」

泊地水鬼「機会があればもう一度やるのもやぶさかではない」

提督「そうか。なら、俺が助けてやる」

泊地水鬼「……?」

瑞鶴「艦載機より入電! 前方より浮遊要塞らしき深海棲艦を確認!」

瑞鶴「そして、提督と姫級の深海棲艦が一人!」

龍驤「もしかして北方棲姫なん?」

瑞鶴「いや、どうやら違うみたい」

龍驤「うーん。そうなると……」

大和「とにかく、提督は人質――というわけですか」

飛鷹「辺りに他の深海棲艦はいないみたいだけど、どうするの? 」

大和「……」

瑞鶴「ちょっと待って! 妖精さんが何か――っ!」

漣「どうしたの?」

瑞鶴「提督から――これより帰投する。周囲を警戒されたし、だって」

曙「……えっ?」

提督「ただいま」

大和「言いたいことは山ほどあります」

大和「ですが、無事で安心しました」

泊地水鬼「……」

大和「それで、この後どうするつもりですか?」チラ

提督「彼女――泊地水鬼を鎮守府に招く」

大和「……は?」

泊地水鬼「……」

提督「助けてもらったし、その恩を返したい」

提督「それに彼女は話せばわかる深海棲艦だ。なにより――」

提督「釣り好きに悪い奴が居るはずがない」

大和「聞いた通りの釣りキチですね」

提督「……」

大和「……どうなっても知りませんよ」

提督「よし、それじゃ行こうか」

泊地水鬼「待て」

提督「……」

泊地水鬼「お前は"提督"なのか?」

提督「……ああ、俺は"提督"だ」

泊地水鬼「そうか。なら私はお前を――」

提督「泊地水鬼、俺と一緒に来てくれないか?」

泊地水鬼「私の泊地を潰したお前達とか?」

提督「ああ。代わりに俺の城(鎮守府)に来い」

提督「誰にもお前を渡さないし、絶対に不自由させない」

提督「お前が名をかけて守ろうとしたように、俺も俺の全霊をかけてお前を守ろう」

泊地水鬼「……」

提督「俺が信用できないか?」

泊地水鬼「ああ、お前は一度私を裏切った。お前は信用できない人間だ」

大和「……」

泊地水鬼「……だが、そうだな」

泊地水鬼「私の泊地ができるまでなら考えてやらんでもない」

泊地水鬼「後、次また裏切ったら今度こそお前を殺す」

泊地水鬼「その条件ならついて行こう」

提督「了解した。いいな? 大和」

大和「わかりました。もう提督の好きにしてください」

瑞鶴「むむむ……」

提督「泊地水鬼――はやっぱり長いな」

提督「はくちーが助けてくれなかったら俺は生きていなかったんだ」

提督「気持ちはわかるが抑えてくれ」

泊地水鬼「はくちー?」

提督「駄目か?」

泊地水鬼「好きに呼べばいい」

瑞鶴「――知らない! 提督のバーカ!」

――後日
提督「さぁ、準備はできたかお前らぁあああああ!」

「「「「おおおおおおお!」」」」

泊地水鬼「なんだこれは……」

曙「本当、五月蝿くて適わないわ」

泊地水鬼「お前も行くのか?」

曙「当然。今日こそあのクソ提督にリベンジするんだから!」

提督「今日の目玉は鯵だ! お前ら行くぞぉおおおおおおお!」

「「「「おおおおおおおおお!」」」」

泊地水鬼【さて、行くぞ。出発しろ】

浮遊要塞【――っ!】

こうして釣りキチの提督は無事いいアッシー(浮遊要塞)を手に入れ、執務がない休日に外洋での釣りを楽しむのだった

この後瑞鶴と泊地水鬼とで提督の取り合いが起きたり、起きなかったり



本編と関係ないけどさ
榛名って俺の事大好きだよなぁ

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