幼女「笛ぇ・・・」(10)
男「幼女、ついにそれを手にしてしまったか」
幼女「これ何?」
男「見ての通り"篳篥"だ」
幼女「ひらがなで書けばいいのに」
男「その篳篥はだな」
幼女「うん」
男「・・・知りたいか?」
幼女「そこまで言ったのなら言ってよ!」
男「では幼女だけに教えてやろう」
幼女「うん」
男「それは死んだ親父が愛用していたものだ」
幼女「汚っ!」ポイ
男「いやいやちゃんと除菌してあるから」
幼女「ほんとに?」
男「さすがに不潔だろ、俺が吹いた後ならまだしも」
幼女「男のキスはもっといらない」
男「そして親父は死ぬまでこれを持ち歩いていた」
幼女「死ぬまで歩いてるって・・・」
男「正確に言うと"肌身離さず持っていた"かな」
幼女「肌身離さずってことは、死ぬまで吹いてたの?」
男「ああ、厳密にはそうだな。最期の息を吐ききるまで演奏していた」
幼女「あのさあ・・・」
男「ん?」
幼女「包み隠さずにハッキリ話してくれる?詐欺師さんよ」
男「というわけで、うちの倉庫には色々な物が眠っているのでした」
幼女「ガラクタばっかりだったね」
男「幼女にはそう見えるのかもしれないな、飯にするか」
幼女「飯食おうか」
男「米だけなら山ほどあるぞ」
幼女「えっおかずは?」
男「それは俺の・・・」
パキポキ
男「なーんちゃってウソウソー!」
男「幼女、人参を切ってくれ」
幼女「うんいいよ」
男「と、その前に皮をむけよ」
幼女「わかってるよ、ちょっと隣行ってくるね」
男「・・・隣の家?」
ズリュリュ
幼女「男ー!隣人の」
男「ふぅ・・・またか」
隣人「また皮膚がなくなってしまいました」
男「お、おう」
隣人「ところで」
男「あの篳篥か?」
隣人「はい、それに付いてのことなのですが」
隣人「篳篥を返してもらえますかね」
男「何かあったのか?」
隣人「実はあれは、吹いた者は悪霊に取り付かれる"死の笛"なのです」
男「おい初めて聞いたぞその話」
隣人「ほら、後ろを見て」
男「後ろ?」
幼女「家が…」
男「燃えてる!?」
隣人「火はちゃんと消してから外出しましょう」
男「大変だ!冷蔵庫のガリガリ君が溶けてしまう!」
男「うおおお!待ってろ俺のガリガリ君!」
幼女「炎に飛び込んだ!」
隣人「あなたも後を追いなさい」
幼女「えっでも死ぬでしょやだよ」
隣人「大丈夫ですよ」
男「煙と煤で台所がどこか分からねえ・・・」
幼女「男・・・無傷・・・」
隣人「守りの笛ですからね」
男「守りの笛?」
隣人「もともとは2丁目の廟堂に奉られていたものですね」
隣人「しかし今から約30年前、あなたの父がそれを盗み出しました」
隣人「その直後に彼は地震・雷・火事・鼻血という四重苦に襲われ瀕死状態になるのですが」
幼女「守りの篳篥のおかげで一命を取り留めたと?」
男「運がいいんだか悪いんだか分からん」
隣人「彼はその後も何度か死にかけましたがすぐに息を吹き返しました」
隣人「そしてある時、篳篥に惚れ込んだ彼はそれを吹いてしまいました」
男「愛しのキス?笛に?」
幼女「キモイ・・・」
隣人「ですから、その笛は決して吹いてはならないのです」
男「うん、まあ俺はカビとか生えてたら最悪だから吹かなかった」
幼女「生理的に口が受け付けないし」
隣人「でしたら今は問題ありませんが・・・いつか」
隣人「いつか衝動的にそれを吹いてしまう時が来ます」
隣人「危ないのでそれを私に返してください」
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