【ミリマスSS】百合子「耳をすませば」 (41)

P「ふう、仕事もひと段落したな。ちょっと休憩室で休むか」

P「休日の午後だし、誰か暇なアイドルが来てるかもな」

ガチャッ

百合子「はあー……素敵なお話だった……」

P「おっ、お疲れ百合子。なにしてるんだ?」

百合子「私もプロデューサーさんと自転車で二人乗りして夜明けの街を走ってみたいなあ……」

P「おーい、百合子……?」

百合子「そして秘密の場所でプロポーズされるの……『百合子、大好きだ!』って、えへへ……」

P「ゆーりーこっ! 大丈夫か?」

百合子「はうっ!! も、妄想の世界に飛んでましたっ!」

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P「また本の世界にのめり込んでたのか?」

百合子「いえ、今日は本じゃなく映画を見ていたんです」

P「映画?」

百合子「はい、友達にすすめられて……これです」

P「へえ、『耳をすませば』か。いい映画だよな」

百合子「知ってるんですか?」

P「有名な映画だしな。ジブリ作品は一通り見てるぞ」

百合子「そうなんですか。私、見たのは初めてなんです」

P「まあ、公開されたのは20年くらい前だもんな。俺もリアルタイムで見たわけじゃないよ」

百合子「本が大好きな女の子が主人公で、すっごく共感したんです。ファンタジーが大好きなのも私と一緒で……」

P「ああ、確かに百合子と趣味は合いそうだよな。夢見がちなところも似てるかも」

百合子「映画の雰囲気もすごくよくて……ああ、あんな世界に行ってみたいなあ……」

P「ははは、映画の中へは無理だけど、モデルになった街ならあるぞ?」

百合子「モデルになった街?」

P「ああ。確か多摩の方だったかな」

百合子「プロデューサーさん! 行ってみたいですっ!!」

P「ん? 聖地巡礼ってやつか。まあいいんじゃないか? 暇なときにでも……」

百合子「今すぐ行きましょう!」

P「行きましょうって……、えっ? 俺も一緒に?」

百合子「もちろんですっ! もう今日のお仕事は終わりましたよねっ?」

P「まあ、そうだけど……時間の合うときに杏奈とでも行ったらいいんじゃないか?」

百合子「プロデューサーさんと行きたいんですよ……もうっ」

P「えっ?」

百合子「な、なんでもないですっ! ほら、行きましょう!!」

P「お、おいおいっ。背中を押すなって!」

☆聖蹟桜ヶ丘駅前

百合子「えへへっ、プロデューサーさんと二人でお出かけっ」

P「本当に来ちゃったよ」

百合子「まずはどこから見て回りましょうか、プロデューサーさんっ」

P「んー、はしゃいでるところ悪いけど、それほど時間はないぞ。もう夕方だしな」

百合子「はいっ、もちろんわかってます!」

P「百貨店が並んでてにぎやかだな。まずどこへ行こうか」

百合子「あっ、プロデューサーさん! この看板を見てください」

P「んっ? へえー、『耳をすませば モデル地案内マップ』か」

百合子「映画の舞台になった場所が紹介されているみたいです」

P「これはありがたいな」

百合子「きっと聖地巡礼に訪れる人が私たち以外にもいるんですねっ」

P「うん。写真に撮っておいて見ながら進もう」

百合子「あっ! そこの交差点を雫ちゃんが猫を追いかけて渡ったんだあ……」

P(楽しそうだなあ)

P(こんなに喜んでいる百合子が見られただけで、来て良かったって思うな)

P「えーと、あっちの方へ向かえばいいみたいだぞ」

百合子「知らない街を歩くのってドキドキしますっ」

百合子(プロデューサーさんと二人きりだから一層、ね……)

百合子「ここが映画で何回も出てきた坂道なんですねっ」

P「そうみたいだな」

P「歩道が狭いな。危ないからもっとこっちに寄ってくれ」

百合子「はい、プロデューサーさん」

百合子「……」

P「……」

百合子「自然と、手が触れちゃいそうな距離ですね……」

P「あ、あー、うん……」

百合子「……」

P「……」

百合子「こ、この坂はいろは坂って言う名前らしいですよっ!!」

P「そ、そうなのかっ!!」

P(むう……百合子が思わせぶりなことを言うから、妙に意識してしまった……)

百合子(手……つなぎたいなあ……)

百合子「作中だと坂の途中に図書館があるんですけど……」

P「実在するわけじゃないんだな」

百合子「そうですね、実際には公園がある場所みたいです」

P「ん? あの階段は見覚えがあるぞ」

百合子「あっ、雫ちゃんが駆け下りてた階段ですね!」

P「しっかし長い階段だな」

百合子「うう……インドア派の私にはこたえます……」

P「まあ、ゆっくりのぼろう」

百合子「そうですね。お話でもしながら」

P「そうだな。何の話をしようか」

百合子「あっ、じゃあこの前の私の誕生日の話をしていいですか?」

P「おう、いいぞ」

百合子「あの日、プロデューサーさんが自作の小説をくれたじゃないですか」

P「ぐふっ!! ……あ、ああ……そうだったな」

P(今思うと自作の小説をプレゼントするってちょっと恥ずかしいことしちゃったなあ)

百合子「しかも主人公の名前が私と同じ!」

P(ぐはっ! もうやめてくれっ……!!)

百合子「すっごく嬉しかったです」

P「…………え?」

百合子「『耳をすませば』でも、主人公の雫ちゃんが小説を書き上げますよね」

P「うん」

百合子「それってすごいことだと思うんです。情熱がないと物語を完結させるのは難しいはずです」

P「あー、まあ、そうかもな」

百合子「私のためにそれだけ気持ちを込めてくれたって思うと、嬉しくて……」

P(恥ずかしいけど、これだけ感激してもらえたのなら、まあ、良かったか……)

百合子「今度、プロデューサーさんの誕生日が来たら、私が贈るものはもう考えてあるんです」

P「えっ? それってもしかして……」

百合子「はいっ。今度は私が、プロデューサーさんに自作の小説を送ろうかな……なんて」

P「おお、それは楽しみだ」

P(読書家の百合子がどんな話を書くのか、純粋に興味があるしな)

百合子「あっ、そうだ。プロデューサーさんの小説に一つだけ不満な箇所があるとすれば……」

P「すれば……?」

百合子「プロデューサーさん自身が出てこないところですかね」

P「い、いやいやいや、さすがに作中に自分を出すようなことはしないぞ!」

P(そんなことしたら黒歴史確定じゃねーか!!)

百合子「私が自作小説を書くとしたら、私自身もプロデューサーさんも登場させます!」

P「お、おう……」

P(嬉しいことではあるが、すげー恥ずかしいな、それ……)

百合子「そして、二人で不思議な世界を旅して回るんですっ」

P「なんだか大長編になりそうだな」

百合子「はたして書ききれるかどうか……。妄想ならいつもしているんですけど」

P(してるんだ……)

P「そんなことを話しているうちに、階段の上までもう少しだな」

百合子「少し休みますか? プロデューサーさん」

P「ふぅ……いや……俺に構わず先に行っててくれ」

百合子「そうですか? じゃあ、ちょっとお先に」

P(さすがアイドル……。俺よりも体力あるんじゃ……)

百合子「うわあっ、すごいです! 街が一望できますよ、プロデューサーさん!」

P「ちょ……ちょっと待ってくれよ」

P(俺も営業で歩き慣れてるのにな……。ダンスやってる奴にはかなわないか)

百合子「ああ、風が気持ちいい……。今なら魔法だって使えそうです……」

P「ははは、試してみたらどうだ?」

百合子「はい、やってみます! …………風の精霊たちよっ!」

ブワッ

P「うわっ、本当に風がっ!?」

百合子「きゃっ! スカートが……!」

P「あっ」

P(風が百合子のミニスカートをめくり上げる……)

百合子「み、見ましたかっ!?」

P「な、なんのことかなあ……?」

百合子(とぼけてるけど絶対見られた……ううっ……)

P(ほう、白か……)

百合子「……は、恥ずかしいです」」

P「そ、そんなに顔を赤くしなくても……忘れよう、な!」

百合子「うぅ……前にもこんなことがあった気が……」

P「あの時は本でガードしたから見えなかったけどな」

百合子「と、とにかく……ようやく上り坂も終わりました……」

P「おっ、坂の上にある神社は映画のままだな」

百合子「作中ではここで杉村くんが雫ちゃんに告白して……」

P「そしてふられるんだよな」

百合子「届かない恋……切ないですね」

P「見てるこっちの胸が痛くなるよ」

P「百合子も同年代だよな。学校で告白されたりしないのか?」

百合子「わ、私ですかっ!? な、ないですよ、そんなのっ!」

P「ふーん、百合子はモテそうなのにな」

百合子(モテそうかどうかより、プロデューサーさんがどう思ってるか知りたいのに……)

百合子「プロデューサーさんの方こそ、そういう思い出はあるんですか?」

P「えっ、お、俺!?」

百合子「むぅー……」

P(な、なんでそんな責めるような目で見てくるんだ……?)

P「いや、それほど甘酸っぱい思い出はないよ」

百合子「……!! そうなんですか?」

P「まあ、恥ずかしながら」

百合子「……♪」

P(なぜか嬉しそうだ……)

百合子「えーと、住宅街を進んでいくと……」

P「映画では『地球屋』のあったロータリーに出るのか」

百合子「素敵だなあ、地球屋」

P「あの雰囲気には憧れるよな」

百合子「所狭しと並ぶレトロなアンティークに、優しそうな店主のおじいさん……」

百合子「でも……当たり前ですけど、実在しないんですね」

P「そうだなー」

百合子「やっぱり、映画と現実は違うんでしょうか……」

P「映画では、猫を追いかけていたらここへたどり着いたんだけどな」

百合子「猫を追いかけていたら未知なる場所へ、ですか。憧れます」

P「まあ、さすがに現実でそんな映画みたいなことが起きるわけが……」

百合子「あっ、あそこ!」

P「ん、どうした?」

百合子「猫、猫ですっ! 追いかけましょう!!」

P「ちょっと落ち着け、百合子」

百合子「追いかければきっと物語が始まるんですっ! きっと未知なる場所へ行けるんです!」

P「わっ、裾をひっぱるなって!」

百合子「異世界への入口が見つかるかもっ!!」

P「それはさすがに未知過ぎる!」

百合子「早くしなくちゃ見失います!! 一緒に冒険へと踏み出しましょう!」

P「だ、誰か百合子を止めてくれー!!」

十分後

P「えーと、落ち着いたか?」

百合子「………………すいませんでした」

P「結局、猫を追いかけて随分遠くに来ちゃったな」

百合子「ごめんなさい……つい暴走しちゃって……」

P「もういいって。だけど、ここはどこなんだ?」

百合子「わからないです、夢中で走っていたので……」

P「うーん、俺も土地勘がないからなあ」

百合子「ううっ、私のせいで迷子に……」

P(一応、未知なる場所へは来れたけどな)

P「まずいな、駅へ戻らないと遅い時間になっちゃうぞ」

百合子「ご、ごめんなさい……」

P「いや、俺はいいんだけどさ。早く帰らないと百合子の家族も心配するだろ」

百合子「あっ……いえ。両親には帰りが遅くなるって伝えてあるので……」

P「ん、そうなのか?」

百合子「本当ですっ! だからどれだけ遅くなっても大丈夫っ!」

P「うーん……じゃあ、のんびり行くか」

百合子「はいっ」

百合子「私、こうやって知らない道を歩いているだけでも楽しいですよ」

P「へえ、そうなんだ」

百合子「ええ、プロデューサーさんと一緒ならっ」

P「お、おう」

P(おいおい、勘違いしそうになる台詞はやめてくれよ……)

百合子「ふぅ……でも、さすがに疲れました」

P「ちょっとそこらへんで休もうか。公園があるみたいだ」

百合子「そうですね」

P「綺麗な場所だけど、人がいないなー」

百合子「そ、そうですね……」

P「向こうへ行ってみよう。高い所からなら駅の場所がわかるかも」

百合子「……はい」

百合子(プロデューサーさんと夜の公園で二人っきりなんて、ドキドキする……)

P(……百合子が妙にしおらしいな。何を話せばいいんだろうか)

百合子(……どうしよう、意識しちゃって何も言葉が出ないよぉ……)

P「……」

百合子「……」

P、百合子(き、気まずい……)

P「え、えっと……百合子」

百合子「あっ! プロデューサーさん! あっち、見てください!」

P「あっち……? お、おお!!」

百合子「すっごく綺麗な夜景です!」

P「絶景だな……丘の上からだから、街全体を見下ろせるんだ」

百合子「すごいですっ……銀河鉄道に乗って星を見下ろしているみたい……」

P(百合子が嬉しそうでなによりだ)

P「さて、駅の場所も確認できたし、これで戻れるな」

百合子「……はい」

百合子(本当はもう少し二人でいたいけど……)

P「ふう……夜になるとちょっと寒いな。百合子、寒くないか?」

百合子「平気です。ちょっと肌寒いですけど……」

P「じゃあ、温かい飲み物でも買ってこようか?」

百合子「いえ、大丈夫です。あの、その代わりに、そのっ……て、手を……」

P「ん?」

百合子「駅まで、手をつないで帰りませんかっ……?」

P「いや、それはさすがに……」

P(担当アイドルに手を出すわけには……いや、これくらいなら問題ないのか……?)

百合子「手をつないだらあったかいですよ……?」

P「そりゃそうだけど……」

百合子「わ、私じゃ嫌ですか……?」

P「そ、そんなわけないだろ!」

ギュッ

百合子(はわわわわわっ……!!)

P(さすがに照れるな……)

P「じゃ、じゃあ帰るか……」

百合子「は、はいっ!」

百合子(勇気、出してみてよかった……)

数分後

百合子「えへへ……プロデューサーさんの手、あったかいです」

P「さっきからそればっかりだな」

百合子「あっ、人通りが多くなってきましたね」

P「駅が近いからな。……そろそろ手、離すぞ?」

百合子「……はい、しょうがないですよね」

百合子(今日、楽しかったなあ……。でも、もうこの街ともお別れかあ……)

P「百合子、今日は誘ってくれてありがとな」

百合子「えっ?」

P「この街を歩いてみて楽しかったよ。百合子が誘ってくれたからだ」

百合子「そんな、私はただ自分のわがままで……」

P「お返しに、何か俺にできることがあったら言ってほしいな」

百合子「ええっ!? お願いを聞いてくれるんですか?」

P「うん、何でもとはいかないけど、俺ができることなら」

百合子「じゃあ……また私と二人でお出かけしてくださいっ!」

P「ははは、そんなことでいいのか?」

百合子「あっ、それと……私がトップアイドルになるまで一緒にいてください!」

P「もちろんだよ。こちらこそよろしくな」

百合子「ずっと……ずっと、私のそばにいてくれますか……?」

P「ああ、約束する」

百合子「えへへっ、大好きですっ! プロデューサーさんっ」


おわり

以上で完結です。

読んでくださった方々、ありがとうございました。

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