ゼロス「目が覚めたら知らない世界にいた」(36)

ゼロス「……ここは……」

目が覚めるとそこはしらない屋敷だった。
俺さまは確かにロイドに殺されたはずなのだ。
しかしこの胸のクルシスの輝石を壊す瞬間、俺は確かにみた。
輝石から放たれた光が己を包み込むのを。

ゼロス「とりあえずここがどこなのか調べねーと、にしてもきもちわりーくらいのマナだな…深呼吸するだけでかすり傷程度なら治っちまう」

体のダメージはあの時のままだ、しかし有り余るマナが己の体に取り込まれるたび小さな傷が治っていく。
ついでとばかりにマナを集めてファーストエイドをかけたがなぜかその時違和感を感じた。
しかしその違和感の正体がわからない。

きょろきょろとあたりを見渡す、もう使っていない屋敷だろうか。
おそらく、別荘だろう、似たようなものを俺も持っていたと思う。
己の腰掛けている場所を含め全てが石畳で囲われ、蔓が覆い茂っている。手放されたのだろうか。

ゼロス「……!人か…?」

???「ふふ…哀れなレプリカめ…私の手の中で踊るがいい」

ゼロス「あれは…子供?」

天使化の恩恵である並はずれた聴力と視力、それらがこんなところで役に立とうとは。
建物から人の足音が聞こえた瞬間思わず茂みに隠れる。
そのさい傷口が痛んだがなんとか声は押さえた。
そっと耳と目を凝らし、見えたのは己と同じ赤い髪をした子供が屋敷の入り口に置き去りにされるところだった。

何も見ていないような、虚空を見つめるその眼は遠く。いつかの日の己と重なった。
そのせいだろうか、大きな男の影が立ち去ると自然と子供に足を向けたのは。

ゼロス「お前、名前は?」

赤い髪の少年「…………。」

ゼロス「お前、きれーな髪してんな、俺さまと同じ赤だ」

少年「………。」ぎゅっ

ゼロス「どうした少年、俺さま男は対象外なんだけど。あーでも、お前はまだガキんちょだし少しくらいは許してやるよ。大丈夫、お前は俺さまが……ッやべ」

ぐらりと視界が傾く、痛みを感じない体と言うのはいけない。どうやら血を流しすぎたみたいだ。子供を胸に抱いたまま意識はぷつりと切れた。

tos×toaです
両作品のネタばれ及び捏造含みます

ゼロス「……ん…ここは…」

???「目が覚めたか?包帯、取り替えたいんだが体起こせるか?」

ゼロス「あー…うん、てか誰、つーかここどこ」

ガイ「俺はガイ、この屋敷に仕えてるもんだ。あんたのことは俺らも色々と聞きたいしあんたも聞きたいだろ?旦那様に話をつけてくるからもう少し横になってていいぞ」

そういうと手際よく己の包帯を取り変えるガイと名乗った男。
ああ、そういや俺さまガキ抱えたまま気失ったんだっけ。
つーことはおそらくあのガキの家か、こりゃまあ俺さまんちよりもすごいんじゃねーの。
頭を掻いてゆるりと体動かせばもうほとんど傷は回復していた。
流石と言うべきか。

ガイ「みたとこ元気そうだな。歩けるか?旦那さまがお待ちだ」

ファブレ「…つまり、何物かがルークを置き去りにしたというのか」

ゼロス「俺がみた限りは…ですが」

ファブレ「ふむ…なんにせよルークが無事であってよかった」

シュザンヌ「そうだわ、まだあなたのお名前を伺っていませんでした。あなた、お名前は?」

ゼロス「ゼロス、ゼロス・ワイルダーと申します、マダム」にこ

シュザンヌ「ゼロス、さん…。ルークを助けていただいてありがとうございます。あの子を思うと夜も眠れなくて……」

ファブレ「ところで、何故貴方はあんなところで?みたところ酷い傷も受けていたようですし…」

ゼロス「……それが、私にもわからないんですよね。気がついたらあそこに倒れていて、そしたら男がルーク坊ちゃんを置いていったんです。ほっておくわけにもいかず手を差し伸べた瞬間恥ずかしながら気を失ってしまいましたが……」

ゼロス「自分が何者で、どうしてここにいるのか。そう言ったことが解らないんです。」

シュザンヌ「まあ……!」

ファブレ「記憶喪失と言うやつか…傷もひどかったし、もしかしたら余程ショックなことが起きたのかもしれんな」

もちろん、全部真っ赤な嘘だ。俺はゼロス・ワイルダーで、神子で、クソみたいな人生送ってきた男で、ロイドに殺された。

目が覚めてから色々と考えた。ここがどこなのか、何故自分は生きているのか。
まずメイドの話に耳を傾けた、聞こえてきたのはスコアやオールドラントといった聞き慣れない単語。
そして目を凝らせば窓の外の宙に浮いた巨大な石。どれもが見慣れないものだった。
なによりもこの濃いマナ、それはシルヴァラントにもテセアラにもないものだった。
そして出した答えがここが異世界だという信じがたい確信だった。

シュザンヌ「あなた、少し提案がありますの」

ファブレ「なんだ?」

シュザンヌ「ゼロスをここで雇ってはどうです?みたところ行くあてもないようですし、ルークを助けてくれた人ですもの」

ファブレ「ふむ……ガイ一人に任すのも大変だろうしな…。それにあの髪と目、下手に外をうろつくよりも安全だろう。よし」

シュザンヌ「ということでゼロス、ここで働きませんか?もちろん記憶を取り戻すお手伝いもいたします」

ゼロス「いいのですか…?」

シュザンヌ「ええ、ガイとともにルークの教育係件遊び相手にでもなってくださいな」

こうして俺はファブレ家の使用人として召し抱えられることになったのだ。


ガイ「へえ、あんたここで働くことになったのか。さっきも言ったけど俺はガイ・セシル。あんた名前は?」

ゼロス「ゼロス・ワイルダー、ゼロスでいいぜぇ。ま、働くっつってもだいぶお客様待遇だけどな。あ、そうだ、俺さま記憶がはっきりしなくてよー、たまに変なこと聞くかもしんねーけどできれば答えてくんねぇ?」

ガイ「記憶が?大変だな…。ああ、構わないぞ、何でも聞いてくれ。改めてよろしくな、ゼロス」

それから数日がたった。その間俺は解らないことを埋めるように図書室に籠った。
わかったのはここがオールドラントという異世界だという確信といくつかのこの世界での"常識"。
特に預言【スコア】の存在は衝撃だった。しかもそれをほぼすべての国民が盲信しているなんて。

ゼロス「この世界にも、こんなクソみたいなもんがあんだな……」

生まれた時から決められた運命なんて、くそくらえだ。

ガイ「ゼロス、いいか?」

ノックに顔を上げると壁に寄りかかってガイが立っていた。
どうやらあの時助けたガキが目を覚ましたらしかった。

ルーク「…………」

ガイ「事件のショックか、何も覚えていない。体は大きいが赤ん坊みたいなもんだ」

ゼロス「ルーク、な。ゼロスだ、わかるか?」

ルーク「………ゼロ、ス」

ゼロス「ああ、よろしくな。」


それから、俺とガイのルークの教育が始まった。
ガイはこの世界のことを、俺は勉強全般を。何も知らないルークと一緒にいることで図らずも得られたこの世界についての知識はガイに感謝してもしきれないほどだ。
しかし最近気になることがある。最初はここがどこなのかという疑問で一杯で気がつかなかったのだが、メイドや他の使用人たちが俺を見る目がどこかおかしいのだ。
何か、気持ち悪いものを見るような、まるで自分がハーフエルフにでもなったかのような気分だ。

ガイ「自分を見る目が変?そりゃそうだろう、あんたは王族の証の赤い髪と緑の目をもってるからな。まぁ目の方は光の加減によって緑に見えるって感じだが…」

ゼロス「なーるほど、俺さまは王族に見られてたわけか」

ガイ「ま、俺も最初は疑ったけどな。赤い髪と緑の目は王族しか持ってないもんだ。事実確認のために何度城を行き来したか……。まぁ、今でもあんたが隠し子かもしれないって疑いはあるんだけどさ」

ゼロス「ふぅん…俺さまの髪と目、ねぇ…そういや公爵もそんなこといってたっけ」

ふさりとひと房髪をとる。ルークの燃えるような赤よりも濃い己の髪色。
まるで血のようだと揶揄したのはいつのことだったか。

ガイ「ま、俺からもいっとくからさ。そのうちなれるだろうし暫くは我慢してくれ」

ガイの働きかけもあってかひと月もするころには奇異の視線は少なくなった。
まぁたぶん俺さまの態度もろもろも関係してるんだろうけど。

それから毎日が流れるようにすぎて行った。
ルークの勉強を見る傍ら俺が興味を持ったのは預言についてだ。
生まれた時から決められた運命、そしてそれに従う人々。純粋に狂っていると思った。
酷いやつになれば晩飯すら予言に頼るなんて馬鹿げている。
こんなものを掲げて王族よりもあがめられてる奴はどんなやつなのか。
それが気になるころにはもうここにきてから3年と半年がたっていた。

ルーク「ていっ!たぁっ!」

ゼロス「まだまだ脇が甘いぜ?ほらもういっちょう!」

ルーク「うおおおお!……うわっ!ってて…」

ゼロス「はん、そんなもんかぁ?」

ルーク「まだまだっ!」

ガイ「おーい、そろそろ休憩にしないか?メロンもってきたんだ」

ゼロス「メロン?!おい、休憩にしようぜ!」

ルーク「あーん…。けどよー、ゼロス強いよな!ヴァン先生ほどじゃねぇけど!どこで習ったんだ?」

ゼロス「んー…俺さまの剣術は生きていくのに必要だったからなぁ」

ガイ「覚えてるのか?」

ゼロス「まあ、ちょっとね。あ、そうだ、俺さまさー、暫く旅に出たいんだよね。いろんなとこ歩いたら記憶も戻るかもしんねーし」

ガイ「ああ、それはいいかもしれないな。ここにきてからルークとともに籠りきりだったし。旦那さまには?」

ゼロス「これから。でもたぶん大丈夫でしょ、行きたいところがあったら行っていいって言ってたし」

ルーク「えっ?!ゼロスいなくなるのか?!」

ゼロス「あら、俺さまがいなくなると寂しいの?ルークは」

ルーク「ばっ、そんなんじゃねーよ!ただ、お前の授業は解りやすいし…なによりつえーし」もご

ゼロス「ハハッ、そのうち帰って来るさ。そしたらまた相手してやるから、それまでにちったぁ強くなっとけよ?」

ルーク「むっ、ぜってー強くなってすぐ追いぬいてやっからな!」

ガイ「はは、けど本当寂しくなるなぁ、ここ数年はお前らと居る時間が一番長かったから」

ゼロス「ま、それは俺さまもだけどね。さて、そろそろもうひと勝負と行くか?」

ルーク「おう!」

ゼロス「では旦那さま、行ってまいります」

ファブレ「気をつけろよ」

ガイ「気ぃつけてな」

ゼロス「おう」

ルーク「すっげぇ強くなってやっから、ぜって―戻って来いよな!」

ゼロス「そりゃあ楽しみだこと。そんじゃ行ってくるわ」

決めてからは早いもので、ルークたちにここを出ることを話してから2週間とたたず俺は屋敷を後にした。
目指すはローレライ教総本山、ダアトだ。
バチカルからの直行便に乗り、俺ダアトを目指す。
この船は、音機関、という動力で動いているらしい。
俺さまのところにも船はあったが、動力となるエクスフィアの元は人間だ。
いくらそれが当たり前だったとは言え、知ってしまっては後味が悪い。

潮風が心地いい。本当ならば髪を隠すローブもまとめた髪もほどいてしまいたいくらいだ。
こうして風に吹かれていると、いやでも思い出す。
もう、遠い昔のような、かつての仲間と旅した記憶を。

ゼロス「おっ、あれがダアトか。はー…なぁんかオールドラントってどこのかしこもなんつーか芸術的だねぇ」

音叉をかたどったかのような印象的な本山が遠目に見える。おそらく、あれがダアトだろう。
間もなくダアト港に接岸される、どうやらここからは歩きらしい。

ツインテールの少女「はぁーい、こちらがダアト港になりまぁーす!港から教会内部まで、ダアトの魅力をたっぷりお伝えしちゃう観光案内はいかがですかぁ?」

ゼロス「あーらかわいいこねこちゃん、あぶないんじゃな~い?ここの街道って魔物とかでるんでしょ?」

少女「きゃわ~ん、かわいいなんて照れちゃいますぅ!大丈夫ですよぉ、私こう見えても神託の盾【オラクル】騎士団なんです!用心棒代わりにもなっちゃいますよぉ、どうですおにいさん?」

ゼロス「自分の身は自分で守れるけど…こーんなかわいいこと一緒にいけるならついでだしあんないしてもらっちゃおーかなー!俺さまダアト初めてなんだよね」

少女「ありがとうございますぅ!それじゃあこのアニスちゃんが責任もって案内しちゃいますね!」

ゼロス「ほー、アニスちゃんって言うんだ。見た目とおんなじかわいい名前!俺さまゼロスって言うの、よろしくしちゃって~?」

アニス「はーい、ゼロスさまですね?それじゃ、ダアトへ向けて出発進行~!」

別に乗っ取る人もいないと思いますが、
一応見分け用に酉つけておきます

整備された道とは言え脇はうっそうとして魔物の気配を感じる。
しかしこの程度なら目の前の少女の手など借りずとも楽に倒せるだろう。
というよりいくら騎士と言えどまだ10歳前後の少女を戦わせるわけにはいかない。
ゆらゆらと揺れる茶色のツインテールの2歩後ろ、後ろ手に腕を組んでついていく。

ゼロス「そーいやアニスちゃんっていくつなのよ」

アニス「私ですかぁ?今年で11になりまぁす、ぴっちぴちですよぉ~」

ゼロス「11?!そりゃぴちぴちにも程があるぜぇ?なんでまたそんな年で騎士に……」

アニス「うちの両親がお人よしで私も働かないとキツキツなんですぅ、というわけでアニスちゃんの予約はいつでもおっけーですよぉ!」

ゼロス「あ~ら、それじゃ7年後くらいを楽しみにツバつけとこうか」

アニス「きゃわ~んゼロス様ったら大胆!あっ、そろそろ見えてきましたよー、これが大四石碑の丘です!」

少し開けた丘には石碑がぽつんとあるだけだったが、そこからの眺めは素晴らしいものであった。
遠くに見える音叉にあれが教会であると悟る。

ゼロス「おー、これが。おっ、あれがダアトか?」

アニス「はい、この丘からダアトが見渡せるんですよ!ここまでくれば到着したも同然です!」

ゼロス「そんじゃもうひと踏ん張りいこうぜ、疲れたら俺さまがお姫様だっこで運んでやるよ」

アニス「もう、ゼロスさまったらぁ~」

そこからは本当にあっという間で、すぐにダアトに到着した。
始めてみるダアトは遠くから見るよりもずっと荘厳で美しく独特の雰囲気に包まれていた。
教会の総本山の街と言うことで観光方面に特化はしていなかったが統一された雰囲気が美しく見ていて飽きない。
この世界の建築物は元居た世界とは全く違ったデザインと雰囲気で俺はこの世界の建造物がひそかにお気に入りだった。
アニスに街を一通り案内してもらって、宿屋に荷物を下ろす。
今日は休んで、明日は導師とやらに会いに行こう。
そうきめてダアトでの初めての夜が更けていった。

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