女「どうか君が」(14)
初めに言っておこう。
この話はバッドエンドで終わる。
少なくとも僕にとっては。
だが、彼女にとってその終わりはハッピーエンドだったのかもしれない。
男「……何してるんですか?」
女「見れば分かるでしょう」
男「教室の窓の枠に足をかけてますね」
女「そういうことです。じゃ」
男「待て!」
女「うわぁっ」
咄嗟に走りより、何も考えずに腕を強く引っ張った。
バランスを崩し、彼女は背中から教室の床へと墜落する。
女「あいたた…」
男「あ…ごめんなさい、大丈夫ですか?」
女「大丈夫…ですが、手を貸してくれますか」
男「はい」
女「ありがとう」
男「それで、今なにをしようとしていたんですか」
女「内緒です。女の子にも秘密はあるんですよ」
男「どうみても飛び降りるようにしか見えませんでしたが」
そう言うと、僕の横を過ぎ去り今まさに教室を出ようとしていた彼女は動きをとめた。
女「そう見えましたか?」
男「はい」
女「ふむ……あなたにはそう見えましたか」
男「違うんですか?」
女「仕方がない、特別に教えましょう」
彼女は振り返って、僕と真正面から向かい合った。
女「飛び込みをしようとしていたんです」
男「同じじゃねぇか」
思わず素が出た。
女「同じようなものでしょう」
男「違います。明確にどこが違うとは言えませんが、違います」
女「頭が固い人ですね」
男「なんとでも言ってください」
女「めんどくさくなりましたね」
男「それで、ここから飛び込んだらどうなるか分かってたんですか。女さん」
女「……」
女「……何故ですか」
男「何故って」
女「何故、私の名前を知っているんですか」
男「…半年間同じクラスじゃないですか、僕ら」
女「えっ」
男「えっ」
女「いましたっけ?」
男「隣の隣の席の男ですよ!」
女「ああ、あの。異世界に飛ばされたらすぐ死にそうな顔の」
男「どんな顔ですか、というより本人目の前にその評価はどうなんですか」
女「すみません、ついうっかり」
男「舌出せばなんでも許されると思うなよ?」
女「わあ怖い。最近の若者はキレやすいですね」
男「あなたも最近の若者でしょうに」
地の文いる?
女「…というか、ちょっと敬語やめましょう」
男「どちらかというと丁寧語のレベルだけど」
女「私らしくないしゃべり方は疲れる」
男「確かに丁寧語は疲れるよね」
女「それで、ええっと…誰だっけ?」
男「君の中じゃ僕は存在抹消されてんだね」
男「男だよ。マイネームイズ男」
女「ああ、えっと……うん。よろしく、男君」
男「なに今の無言の時間」
女「気のせいだよ」
男「今『聞いたことない名前だ』って顔してたけど」
女「そんなこと思ってないよ」
男「ならよかった」
女「『誰だっけ』とは思ったけど」
男「同じじゃねぇか」
女「細かくは違う」
男「確かこれさっきも同じような話したよね」
女「そういえばどうしてあなたは教室に来たの?」
男「君という忘れ物を取りにね」
女「じゃあまた明日ね」
男「待って、自分ではちょっと上手かったなって思ったんだけど」
女「お笑い芸人だけにはならないほうがいいよ。バイバイ」
男「ドン引かれた」
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