――卯の月、広場の外れ――
外套=侍従E「始まるようです。王が姿を見せました」
【かつて世界は滅亡の危機に瀕していた。闇の住人である魔王の軍勢が光ある我らが大地に侵略を開始したのだ】
【残忍な魔族の通った後には、破壊と暴虐に焼き尽くされた村々の残骸だけが残った。勇敢にも立ち向かった男たちは虚しく野辺に骸を晒し、女子供は連れ去られて、帰るものは誰もいなかった……】
侍従E「私たちへの所業も忘れたような顔で、ぬけぬけと……!」
外套=侍従D「不愉快。――まだ間に合う。わたしなら、仕留められる」
外套=侍従F「いやいや、ドラちゃんは大事なトコでトチるでしょー? あたしに任せなさいって、誰にも気付かせずに終わらせるから」
侍従D「心外。こういうのは、得意」
外套=侍従H「あ、もう、火! 気をつけてよね、また羽根が焦げちゃうじゃない! だいたいあなたたちじゃ遅いわ、私なら一瞬よ」
侍従E「声が大きいですよ。旦那様、どうなさいますか」
「だめだな」
侍従達「……!」
「今あれを殺れば、それこそ魔王の仕業になって収拾がつけられん」
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【……だが、神は我々を見捨ててはいなかった。絶望の只中にあってまさに息絶えなんとする我々に、救いの手を差し伸べてくださった。魔王を打ち倒すべく祝福を授けた、奇跡の申し子を地上に遣わされたのだ!】
侍従D「勇者伝説……」
「そうだ。やつらがそんな古ぼけた馬鹿話を持ち出した時点で、どんな手立てもご破算だ」
【百年前、祝福を受けし者が我が国を旅立った。幾多の困難を乗り越え、数年に及ぶ旅路の果て、ついに勇者はその身と引き換えに魔王を滅ぼした】
【以来、我らは悲願だった平和を手に、魔を打ち破った勇気ある若者の偉業を語り継いでいる。――はずだった】
侍従E「事を起こすなら神託が下る前だった、ということですか」
侍従F「でも勇者伝説の再現だなんて、あたしの耳にも入ってないよ? 教団本部にも結構出入りしてたんだけど」
侍従H「またあなたはそんな……教団の人間は魔力感知に長けているのだから、あまり無茶はするなっていつも言われているでしょう」
侍従F「だいじょぶだいじょぶ、バレるようなヘマしないって」
侍従E「……たしかにこの娘を欺くのは至難です。それでは、神託は教団が関わっていない? あり得るのですか?」
【……魔王はまだ滅んではいない。魔の瘴気に蝕まれ、心身を消耗させてしまう者は後を絶たない。魔族の動静も近年になって活発化しているし、先だっては天地が胎動する災異さえ起こった】
【勇者は魔王を弱らせはしたが、その悪しき魂を消し去ることはできなかったのだ】
侍従D「……あ。一人、いる」
侍従H「けれども、そこの狐にも勘付かせない情報封鎖となると、かなり大掛かりよ? 教団はこの国の三竦みの一柱で、口出しできる勢力なんて、それこそ――って、え?」
侍従F「あーあー、なるほどね。そもそも神託が下りる人間なんて、本当は一人しかいないよね。王さえも従える、この国の実質上の支配者様」
侍従D「……勇者」
【……ここに、魔王討伐の宣旨を下す。神々の祝福を受け継ぎし勇者の子孫よ、神託に従いて、必ずや魔王を討ち、世界に真の平和をもたらすのだ!】
侍従E「王家は勇者の直系ではありませんから発言権も低い。直系は勇者一族と騎士団、教団ですが、騎士団は王家の飼い犬、教団は性質上勇者に傅きます。勇者が神託を受けたと言えば、その内容がどうあれ、真実になってしまう」
侍従H「『三人の供をもって魔王を滅ぼせ』。神託で言う供が騎士団と教団から一人ずつ選出されるのは当然として、もう一人。――あなたを随行させるための神託、というわけね」
侍従F「供というより従者よねー。だってキミ、全然戦えないもの。良くて荷物持ち、順当に行けば謀殺。どうするの?」
侍従D「私たちが目を離すとすぐ死ぬ。行くなら私も連れて行って」
「お前たちの素性が割れたら俺は縛り首だぞ。……ふん、つまらん儀式も終わったようだな。行け」
侍従E「ッ――、この件は後ほど。失礼します」
【勇者様だ】【勇者様がこちらに】
【あの男は――】
綺羅びやかな鎧兜=勇者「こんにちは。よろしく頼むよ、『従者』殿」
【従者だと? あの男が?】【汚いことばかりしているあいつが従者?】
【勇者様の品位が汚れるぞ】【やめろ、聞こえたら何をされるか……】【くわばらくわばら】
【なぜあいつなんぞが勇者様の従者に――】
「こちらこそ、『勇者』様」
続きは今日中に頑張る
しばらくは非安価で進行
イベント毎に安価取って行くつもりなのでよろしく
『じゃあ、行ってくる』
女=侍従服・黒のエプロンドレス=侍従長『……』ぎゅっ
『あ、こら』
侍従長『ッ……』
『……わかった。俺も、気を付ける。大丈夫だ。だから、心配するな』
侍従長『……』こくり
『うん。――留守を頼む』
侍従長『……』
侍従長『…………』
――
―
柔らかな声=頭上「……起きて。起きて」
「ん……?」
女=法服=教団の神官「起きた。……どうか、した?」
「いや、なんでもない。すぐ行く」
神官=幌から出る――顔が誰かと重なった。(発った日の夢、か)
(馬車から出る。通りの両脇は群衆で埋めつくされ、歓声に湧いている)
(馬車でひと月、王都以来最大の都市――『国境の都』)
御者=女・軽鎧=騎士団団長「やっと起きたか無能者。領主殿が参られる前に起きなかったら馬車から蹴りだすところだぞ」
「人が多いな。これではまるで出征だ」
騎士「当然だろう、我々は魔王討伐の旅に赴くのだぞ? 見ろ、道にはみ出すほどの民の希望に満ちた眼差しを。皆我々が、今度こそ魔を地上から滅ぼすことを祈っている」
「……」
(整然と敷き詰められた石畳、調和の取れた美しい建物。この都市は豊かだ。交通の要衝、この都市を通って、あらゆる物品が流通する。……だが)
(手を振る勇者――この人々の熱狂ぶり。熱に浮かされたような絶叫……)
(前方に集団――歩み出た男の装束は集団の中で最も豪奢だった。国境地方一帯を治める領主はこの都市に拠点を構えている)
領主「ようこそ我が都市においでくださいました、勇者様」
中性的な声=勇者「はい、(…)殿。必ずや魔王を滅ぼしてみせます」
領主「さあさ、どうぞこちらに。長旅でお疲れでしょう、ひとまずごゆるりとお身体をお休めなさるといい。祝宴の準備も整っておりますゆえ」
勇者「はい。ありがとうございます」
(勇者に媚を売る領主は臣下に言い付けて、騎士と御者を替わらせる。騎士とも二言、三言言葉を交わす。領主が俺の姿を認めた)
領主「……噂は耳にしておりましたが、本当に貴殿が同行しておられるとは」
「非力なる身ではありますが、神託に従い、私も微力を尽くすつもりです。領主殿は国境地方を治める大領主であられるから、是非お力添えを頂きたいものだ」
領主「もちろんでございます。我ら王国臣民にとって、いやこの世界に生きる者にとって、魔王討滅は宿願なのですから。微力ながら、我々にできることでしたら何でもお申し付けください」
(領主は胸に手を当てて一礼する。ちら、と神官に向けた目が数秒動かない)
領主「お噂はかねがね、女神のごとき美貌とはまさにこのことですな。神通力も歴代随一であるとか。いやはや、本当にお美しい」
勇者「はい、これまでの道中でも、彼女には何度も危ういところを救われました。……」
(割って入った勇者は神官を気にする素振りを見せる。勇者の顔色が変わる)
勇者「どうかした? 顔色が良くないよ」
神官「う……」
勇者「領主殿。申し訳ありませんが、彼女の体調が良くない。少し休ませてあげたいのですが」
領主「なんと、それはいけない、すぐに拙宅までご案内いたします。おい、道を開けさせよ! 勇者様たちを邸宅までお連れする!」
勇者「大丈夫? 無理はしなくていいからね」
(勇者は神官に優しく声を掛ける。勇者は、神官が弱々しく首を振るのに何度か頷きを返して、馬車に乗せた)
(突き刺さる視線を感じて顔を向けると、騎士が馬車を睨んでいる)
(にわかに慌ただしくなった。群衆がざわつく)
「……ふん」
――領主私邸――
勇者「さあ、横になって。どこか痛いところはない? 欲しいものは? ああ、飲み物がいるかな、待ってて、すぐに用意させるから」
神官「え……ぅ……」
騎士「ふん、日頃の鍛錬が足りんからそうなるのだ。勇者様に恥をかかせおって」
勇者「そういう言い方はないだろう。彼女は繊細なんだから、あんなに人が多い所に連れ出すべきじゃなかったんだ。僕が気を配ってあげられなかった。謝るのは僕の方だ。……ごめん」
騎士「勇者様! 勇者様は少し甘すぎます、ここはビシっと言ってやらねば――」
「俺は用事があるから出る」
騎士「なっ……貴様、どこに行くつもりだ! これから領主殿の催してくれた宴があるのだぞ、それを――まさか、出ないつもりか!?」
「どうせしばらくは始まらん」
騎士「だからと言って……貴様、常々思っていたが、勝手な行動が目に余るぞ! この前の村でもそうだ、折角の村長殿のお誘いを貴様だけ無碍にして、一体どこをほっつき歩いていた!」
(ぎりぎり、と騎士の歯が軋む音)
勇者「……そうだね。僕も、同じ旅の仲間として知りたい。それに、今はこんな状況だ、彼女の心を乱すようなことは避けてくれないか」
「お前たちには関係ない」
騎士「貴様ぁ……!」
(騎士が腰の剣に触れる。勇者が何事か言おうとして、神官が起き上がるのに気付く)
勇者「大丈夫だよ、心配しなくてもいい。少し揉めているだけだから――」
(神官がこちらを見る。ただでさえ白い顔が蒼白だった)
(……変に気に病まれても困る、か)
「今は、寝ていろ。……お前は悪くない。むしろ、時間稼ぎになったから、良かった。だから、今は休め」
神官「……うん」
(神官が寝台に横になるのを見て、俺は部屋を出る)
(通りに添って歩く)
(角を曲がって路地に入る。入り組んだ道は進むほどにうらぶれていく。この都市は豊だが、決して末端まで豊かさが行き渡っているわけではない……)
(前方に人影。外套のシルエットに見覚えが、声には聞き覚えがある)
外套=女「お待ちしておりました。……尾けられていますね」
「撒けるな?」
外套「すでに人払い術は済んでいます。たかだか一地方の術者に破られるわけはありません」
「よし。……で、納得のいく説明はしてもらえるのだろうな」
(外套の女は笑ったようだった。顔の半ばまでを隠した覆いを後ろに払う)
(現れたのは金の髪、碧の瞳。尖った耳は恐ろしく長かった)
外套=従者E(エルフ)「まさか旦那様をお一人で行かせるわけがないでしょう? 旦那様に死なれて、困るのは私達なのですから」
ここまで
びっくりするぐらい進まないなあ
まあいいや、今月中には安価まで辿り着こう、頑張ろう
投下いたします
――領主居館――
(居館に戻り、広い玄関に這入ると、男の一団と鉢合わせた)
男=上質な衣装=領主(?)「おや、いったい何処においででしたかな。神官様の具合はいかがかと、これよりお見舞い申し上げようと思っていたのですが」
「なに、少し街をぶらついていただけです」
(領主(?)の一団と、勇者たちの部屋へ向かう)
「やはりこの都市は豊かですな。港なども拝見致しましたが、あれほど活気に満ちたものはここを置いて他にない。領主殿の手腕が偲ばれます」
領主(?)「いやいや、私などとてもとても。父から家督を受け継いで二十年余りになりますが、これがなかなか思い通りにならないものです」
「ご謙遜なさるな、あれほど巨大な船ははじめて見ました。聞けば領主殿手ずからお立ち上げなさった港湾組合のものだというではないですか。船乗りも、なぜか領主殿の船には海魔が寄り付かないと感心しておりました」
領主(?)→領主「はは、女神様の加護あってのものです、我が信仰に、情け深くも慈悲を垂れてくださっているのでしょう。私などには恐れ多いことです」
「私も海運事業の真似事をしているのですが、海魔のため沖に出られませんので、あんな大きな船などとてもとても。もっぱら小舟で沿岸に張り付いているような有様で、それでは海路を選ぶ利点がない。陸路では運べぬものを運ぶなら、やはり大型の艦船でなければ」
領主「ほう。陸では運べぬもの、とな」
「私の祖父が存命だったときは、私どもにも女神様の加護があったのか、領主殿のように海魔の被害を受けなかったらしいのですが。是非私も、亡き祖父が賜っていたという女神様の寵愛を取り戻したいものです」
領主「お祖父様が身罷られたのは十年前でしたかな。私も若い折、お祖父様には大変お世話になったものだから、あの方のお孫様である(…)様の苦労なさっている姿を拝見するのは心苦しい」
(領主がこちらを見る。周囲の男たちが一気に緊張する。懐に手をやるもの、手を腰の後ろに隠すもの。一様に、合図に即応できる態勢に入っている)
(領主の落ち窪んだ眼が俺を観察している)
「祖父は領主殿と親しい間柄だったのですね? 領主殿さえよろしければ、是非祖父の存命中のお話をお聞かせ下さい。祖父の所有していた大型艦の話や、祖父がどういう事業をしていたのか、お聞きしたく思います」
領主「(…)様がお望みであるなら、喜んでお教えいたしましょう。ええ、私が今手掛けている商売の話なども交えながら。祝宴が終わったら、私の居室までおいでなさい。面白いものを見せて差し上げよう」
「楽しみにしています。きっと滅多に見られない稀少品であることでしょうから。……おっと、もう着いてしまった。領主殿とはもっとお話がしたかったのですが」
領主「なに、まだまだ時間はたっぷりとある。今後とも、よい間柄であれば、ね」
「ええ。……私もそう願います」
(ドアをノック。領主の来室を告げて、部屋に入る)
――領主居館・裏口――
騎士「待て、貴様、宴に出ないとはどういうことだ!」
「静かにしろ。俺達がこんな所にいることがバレたら面倒だ」
騎士「何を勝手な……!」
「騒ぐなと言っている。なんなら、お前は神官と一緒に部屋に篭もっていてもいいのだが。神官の敷いた結界を破らなければ、それでいい」
(脱出の手引きをした男が裏口のドアを開ける。外に出ようとした俺の手を騎士が掴む)
騎士「……いいから来い、と連れ出した挙句、館を出て宴には出ないという、目的も理由も何も言わないで、何をどう従えというのだ!」
「時間がない。邪魔をするな」
騎士「貴様ァ……!」
勇者「……最初から祝宴に出るつもりがなかったね? 僕達をここまで連れて来てくれた人も、君の手の者だろう。領主殿が開いてくれるという、この宴の裏で、何かがあるのかい?」
「一目見ればわかる類のものだ。木を隠すなら森の中、人目に付きたくないなら群衆の混乱の中に隠す。大胆ではあるが、巧みさに欠ける粗末な出来だったが。――離せ。お前にもすぐに分かる」
騎士「ッ……」
勇者「今は彼の言うとおりにしよう。何でもなければ、すぐに領主殿のところに戻ればいいだけのことなんだから」
(騎士は頷いて手を離す)
(外に出てしばらく進む。そのまま城壁を抜けると行く手には森が広がる。その前に人影、こちらの姿を認めると一礼する)
外套=従者E「準備は完了しています。が、森に潜む者たちが、こちらに気づきました」
「やれ」
従者E「はい」
(従者Eが両手を組む。祈るような格好、高まる魔力で従者Eの身体が燐光を発する。澄んだ緑光が輝きを増していく)
(森の中から異音。樹木が破砕する音、葉の擦れる音、巨大なものが動く音。――すぐに人の悲鳴が上がる)
従者E「囚えました。一人も逃がしていません」
「よし。やはり森はお前の独擅場だな。――行くぞ」
(暗い森の中を進む。怒号とも悲鳴ともつかない複数人の声に近付いていく)
(目の前に異常繁殖した樹木。十人ばかりの男たちが絡め取られている。傍らに馬車。幌の隙間から鉄格子が覗く)
勇者「これは……」
騎士「樹木を……いや、森を操った? しかもこんな大規模に……そこの女、何者だ……?」
「殺していないな?」
従者E「はい。多少手足が捥げているかもしれませんが」
「口さえ動けばいい。尋問して知っていることを洗いざらい吐かせる」
(馬車に近づく。幌を払う。荷台に載っているのは鉄格子の檻、その中身は――)
騎士「……金髪。長い耳、碧い瞳。そんな……」
勇者「攫われたエルフ、か。確かに、一目見れば、わかる」
(勇者がこちらを見る。歯噛みするような表情)
勇者「異族売買だね? これからこの町に入って、この娘はどこかに売り飛ばされる。君はそれを止めに来た。この現場を押さえる段取りを付けるために、館を出ていたのか」
騎士「この国で異族が売買されている、という噂が流れているのは知っていたが……まさか、ここが異族密売の拠点……?」
「今の元締めはここの領主だ。人混みに紛れて『荷』を運び入れ、船に乗せて、売り先まで運ぶ。誰にも見つからないように『荷』を輸送するための巨大艦船であり、そのための港だ。それが領主の商売だ」
(鉄格子の中の虜囚を検める。窶れた細い手足、痩けた頬。手枷、足枷は鉄製、足には鉄球が鎖で繋がれている。禍々しい漆黒の首輪に目を留める)
「情報は掴んでいたが、なかなか手が出せなかった。――異族売買は重罪だ。関わる奴らも死に物狂いで抵抗してくる。下手を打つと、こちらが反撃を受けかねない……」
(従者Eが鉄格子の鍵を探し出した。錠を開けさせる)
「そこで、お前の出番というわけだ」
勇者「……僕の、『勇者』という看板を使う、ってことかな」
「無論、そうだ。『勇者』の威光を前に、平伏さない者はいない――」
(勇者に振り向く。背後から物音(引き摺った音……土を蹴った?)――衝撃。首に枯れ枝のような腕が食い込む)
女の声「『勇者』? 『勇者』、『勇者』……私達を地獄に落とした、死神の名前! お前のせいで、私達は……!」
(身構える勇者と騎士。視界の端で従者Eが構えた。小さく右手を挙げて制する)
女=虜囚エルフ「お前のせいで何人が死んだと思っている! 私の家族は皆、人間に殺された! 里を焼かれ、森を失い、命も、尊厳も奪われて、――私達が何をしたっていうの!? ただ平和に暮らしていただけなのに!」
勇者「……そんなことをしても、何にもならない。君が恨んでいるのは僕なんだろう? なら、彼を離してあげてくれないか」
騎士「勇者様!?」
勇者「君たち異族を殺したのは、間違いなく『勇者』だ。君には復讐の権利がある。けれど、彼には関係がない。勇者は、僕なんだから」
騎士「……ッ、いけません、それぐらいなら、私がその男ごと――」
勇者「(…)! いけない、やめるんだ!」
虜囚エルフ「殺してやる……お前だけは、絶対に……!」
(従者Eが目配せする。手に燐光。従者Eなら背後の虜囚だけを殺せる。だが、大切な証拠品が死んでしまうのは困る)
「おい、お前。お前だ、俺を捕まえている、お前」
虜囚エルフ「殺してやる……家族の仇……」
「お前の欲しいものをくれてやる。だから俺を離せ」
騎士「いいえ、勇者様を危険に晒すわけには――貴様、こんなときに何を言っている!?」
「命乞いだ。俺も死にたくはない。俺の命以外ならなんでもいいぞ。望むなら、そこのいけ好かない男の首でも何でもくれてやる」
(首に加わる力が弱まる。そもそも、虜囚の体力は限界だろう。自棄を起こされる前に、さっさと言う)
「お前のお仲間の墓前に勇者の首を捧げれば満足か。本当にそれで良いのか? お前が欲しい物は他にあるだろう」
虜囚エルフ「私が……欲しいもの……」
(勇者が俺を凝視している。どうでもいい)
「元の暮らしを取り戻したい。さすがに死者を蘇らせるのは不可能だが、誰にも侵されない平和な日々、安息な暮らし。それを、お前にくれてやる」
虜囚エルフ「嘘……そう言って、人間は……また、私達を騙して……」
「俺を誰だと思っている。王国評議会議長代理、兼枢密府筆頭顧問だぞ。まあ、元、が付くがな」
(従者Eが外套の頭巾を下ろす。息を呑む音)
勇者「森の魔法……森の民。エルフの術か、あれは」
虜囚エルフ「どうして、同族が……誇り高いエルフが、人間に、協力を……?」
「目的のためだ。俺がお前に、お前の失ったものをくれてやる。だから俺に協力しろ。とりあえずはこの賊共を捕縛、領主を捕らえて尋問。この俺を舐め腐って、この俺の眼前でふざけた商売をやったツケを払わせてやる」
「よし。お前の演説はすべて筆写している。これで明日には王国全土に行き渡る」
(湧き上がる歓声を背に、男が壇上から降りてくる)
男=勇者「これで、本当に上手くいくのか? こんな、ただの言葉で」
「上手くいかせるのが俺の仕事だ。この国の人間にとって、勇者の言はそれ自体が法のようなものだ。それを背景に、一気に事を進める」
勇者「本気で、やるつもりなのか。たしかに広場の皆は歓声を上げているが、だからといって、皆が皆、遺恨を捨てられるわけじゃないだろう? 異種族排除は我が国の国是で、皆そうやって今まで生きてきていたんだから」
女=騎士「失敗は目に見えているぞ! 人の心はそう簡単には変わらんのだ、こんな急激なやり方で、民がついてくると思っているのか?」
「はあ? 別に、そんな大層なことをやるわけではないだろう。異族を見つけ次第殺す、なんていう馬鹿騒ぎをやめるだけだ。最終的に共生の方向に向かおうと、棲み分けて互いの独立を脅かさない程度の関係に落ち着こうと構わん」
(都城の中を歩く。傍らの従者Eは外套を身に着けていないから、誰もが従者Eを見る。神官が従者Eを隠すような位置で従いてきていた)
騎士「……どうしてそこまで、異族との関係改善に固執する。あの時、領主――元、領主か――が言おうとしていたことと関係があるのか。お前の祖父がどう、とか」
「もともと、異族売買は俺の爺の商売だったのさ」
騎士「なっ、貴様、そんなことを大声で――」
「聞かれても構わん。初めて聞いたような奴など相手にならんし、聞かれて困る奴はすでに知っている。あの糞爺は十年前に叩き斬ってやったから、詳しい商売の中身も散逸してな。そこをあの領主に奪われた、というわけだ」
(従者Eを見遣る)
「爺は異族を売るだけではなく、自分でも囲っていた。爺を殺したときに、その場に居合わせたのが、こいつというわけだ」
(従者Eがほんの少し、頭を下げるようにする。神官も目を伏せた)
勇者「……では、君は彼女たちを助けるために、こうして異族の立場を慮っているんだね」
「なぜ俺がこいつらを助けてやらねばならん。一銭の得にもならんのに」
騎士「なんだと? では、なぜこんな大それたことをやるのだ? 義侠心に駆られたからではないのか?」
「あいつらの偉そうなツラが気に食わんからだ。糞爺は自分が世界の中心で、何をしても許されるとでもいうような顔していたからぶっ殺した。あの領主や、領主から異族を買っていた連中も、何かにつけて俺を見下してきやがって虫が好かなかった」
騎士「……」
勇者「……」
(騎士と勇者はそれきり黙った。従者Eを振り向くと、笑みを噛み殺すような顔をしていた)
「いったん王都まで帰るぞ。これから評議会も荒れる。お前が屋敷から出て、誰が法案の起草をするのだ? 全く」
(頷く従者E)
「……あのエルフの様子はどうだ?」
従者E「じきに回復いたします。……帰りましょう、私達の家に」
(神官が頷くのを見る。ふと、屋敷に戻ったら、まずは泣くだろう侍従長を宥めるのか、と思うと、多少気持ちが重かった)
チュートリアル終了
だいたいこんな世界観で進みます
普通に安価するのもつまらないから、こうします
下1-3まで安価とります
行先、イベント、好きにどうぞ
ただし、コンマによって実現度・難易度が変わります
1~33 実現度低・イージー
34~66 実現度中・ノーマル
67~99 実現度高・ハード
ゾロ目は倍率ドンです
……けど、人が集まんなかったら仕方ないので、そこらへんは適当にやります
このSSまとめへのコメント
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