男「…どこだここ…」神「やあ」 (28)
男「…うげぇ…気持ち悪い」
神「あはは、ごめんごめん」
神「無理やり連れてきたからね、君の意識とこの空間の認識に齟齬が生まれちゃったみたい」
男「…誰だ?お前」
神「僕は神様だよ」
男「…頭大丈夫か?」
神「大丈夫さ」
神「それよりも、どうして君がここに連れてこられたか気にならない?」
男「身代金?」
神「違うよ」
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神「もう一度言うよ、僕は神様だ」
男「…」
神「その目は、信用してないって事かな」
男「…違う、どうでもいいってことだ」
神「なるほど」
男「どうして俺をここに連れてきた」
神「うーん」
神「確かに連れてきたのは僕だけど」
神「「ここ」は僕の場所じゃないよ」
男「は?」
神「君が望んだ空間だ」
男「…意味がわからないな」
神「あはは、次期にわかるよ」
男「…」
神「君はさ」
男「…ん?」
神「自分の命を投げ打ってでも、叶えたい願いは、あるかい?」
男「無いね」
神「即答か」
男「今まで好き勝手生きてきたんだ」
男「…いいや」
男「「好き勝手せずに」、生きてきた」
男「そんな俺にかなえたい願い事なんてあるわけねぇ」
男「神様ならわかるだろ、それくらい」
神「ふふ、まぁね」
神「だからこそ、君がふさわしい」
男「…」
男「…生まれは平凡、勉学は並、運動はそこそこ」
男「顔は中の下、性格は普通、財力はまあまあ」
男「何も無いんだよ、俺には」
神「そうだね」
神「だから僕は君に色を塗りに来た」
男「色?」
神「何も無い君に、命を捧げてまで叶えたい願い事を見つけてあげようってこと」
男「…死ねってか?」
神「ま、僕としては、見つかってくれればいーなーくらいだけど」
男「そもそもお前神様か?」
神「そうだよ」
神「と言っても、人の生死に関わる神様だけどね」
男「…まだ種類があるってか」
神「あるよ、戦い、食べ物、色物でいえばゲームなんて者もいたかな」
男「…」
神「さ、叶えたい願いは決まったかい?」
男「馬鹿かお前」
男「ねーっつってんだろ」
神「だろうね」ポイッ
男「…?」
神「ふふ、神様がこんなもの使うなんてがっかり?」
男「…iPhone?」
神「ま、特殊な仕様を施してるからさ」
神「ある程度は神としての僕の力を使えるってわけ、受信限定だけどね」
神「さ、覗いてご覧」
男「…」ポチッ
男「…こりゃあ…」
神「君と同じように、集められた5人の人間だ」
神「彼らがいかにして自分の命を使うのか、見てご覧よ」
神「ね?」
男「…」
(生まれた時から不幸だった)
(何をしても、不幸だった)
(何でもできたから不幸だった)
(親や友人、先生は私のことをまるで神童のように扱ったけれど)
(そんな物は、無意味だった)
(私が、何を出来ても)
(それでも、影は消えてはくれない)
(何をしても、彼女がつきまとうから)
女「馬鹿なお姉ちゃんを許して…」
女(妹は何でもできた)
女(私にできないことを、なんでも)
女(その度に私は妹のことを妬ましく思った)
女(悔しかった)
女(妹ばかり注目されて、私が注目されない)
女(憎かった)
女(みんなの視線を独り占めする当時5歳の女の子が)
女「…」
妹「あ、出来た」
親「あらあら、凄いわね」
親「女ちゃんは出来た?」
女「…出来ない」
妹「お姉ちゃん、これはね…」
女「うるさい!」
妹「…」ビクッ
女「こ、こんなものが出来たからなんなの!」
女「たかが遊びじゃん!」バァン!
親「…あらあら」
妹「…お母さん」
妹「…お姉ちゃん、出ていっちゃった」
親「そうねぇ」
妹「…見つけて…来る」
親「ふふ、だったら任せるわね」
親「お姉ちゃんを早く見つけてきて、今日はシチューよ」
妹「…シチュー…!」
妹「…行ってくる…!」
親「気を付けてね」
妹「…」フンス
妹「…お姉ちゃん…」
妹「…おねえちゃーん…!」
妹「…みっかんない…」
妹「…お腹、空いた」
シチュー
妹「…」
妹「…んしょ」
妹「…ご飯は…」
妹「みんなで食べたほうが…美味しい…!」トテトテ
女「…帰ろっかなぁ」
女「…ひどいこと、しちゃったもん」
女「…お母さんにも、妹にも、謝って」
女「…許してもらおう…」
女「…ごめんって、言おう」
タッタッタッ
パァァァーーーー!!!
女「…」
女「え?」
ドンッ
ガシャァァァァァァン!!!!!
女(…うぅ)
女(…痛い)
運転手「お、おいおい!大丈夫…」
女「…あれ?」
女「私に」
女「け」
女「が、は」
女「無…い…」
運転手「…嘘だろ、おい」
女「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!!」
女(妹は、私が殺した)
女(何がなんだか分からなくなるくらいの、何かになって)
女(文字通り、肉塊になった)
女「生まれた時から不幸だった」
女「妹が、生まれた時から、不幸だった、不幸だと思ってた」
女「妹が死んでからは、本当の不幸というものを知った」
女「何でも出来る妹の代わりになろうと思って、何でもやった」
女「優秀なあなたの、お姉ちゃんはもっと優秀なんだよ」
女「そう、伝えたかった」
「それだけ?」
女「天まで届くくらい、私が有名になって」
女「そしていつか、謝りたかった」
女「伝えたかった」
「…」
女「ねぇ、お母さん」
親「ん?どうしたの?」
女「もし、今妹が生きてたら、どうする?」
親「…」
親「…どうもしないわ」ニコッ
女「…」
親「あなたがいてくれるから」
女「…そう」
「じゃあ、いいじゃない」
女「ううん、それじゃダメなんだ」
女「死ぬべきなのは私、なんて寒いことを言うつもりは無いけれど」
女「それでも私は、妹に生きて欲しかったから」
女「…」
「…なるほどね」
女「できる?」
「僕を誰だと思ってるんだい?」
「できないわけが無い」
女「そ」
「さぁ、その命の灯火の変わりに、君の妹を蘇らせよう」
「生を死に、死を生に」
女「妹、愛してる」ドサッ
妹「…」
クラスメイト「ね、妹ちゃん」
妹「…ん?」
クラスメイト「ここの問題なんだけど…」
妹「…ここは…この公式を使えば解けるよ」
クラスメイト「あ、なるほど」
妹「…昨日習ったばっかりなのに、忘れるなんて、クラスメイトちゃんはお茶目…だ」
クラスメイト「えへへ」
ガラッ!!
先生「妹!」
妹「…?」
先生「…お前に電話だ…!」
妹「…え?」
妹「…お姉ちゃん…?」
妹「…ね、え…お姉ちゃん…」
「話に聞くと、突然倒れたらしく」
「外傷はないことから、何らかの病気ではなかったのかと」
妹「…嘘、でしょ?」
妹「…どうして」
妹「…お姉ちゃん…、お姉ちゃん…」
妹「…うっ、ううぅぅぅぅ…!」
妹「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
神「はいおーしまい」
神「うーん、なかなか後味の悪い話だったね」
男「…」
神「ま、でもこれで彼女の願いは叶ったんだ」
男「…なんで」
神「ん?」
男「…なんで、あんなことをした?」
神「何が?」
男「とぼけんな」
神「…」
神「だって仕方がないよ」
神「僕が与えられている権限は、人を殺すことと、人を生き返らせる事だけだ」
神「妹が生きている世界ができた後に、女が死ぬ」
神「その結果、妹が悲しむ結末になってしまっただけだよ」
神「そもそも神は絶対じゃない」
神「何かの悲しみを無かったことにすれば、どこか関係性のある所で同じ悲しみが生まれる、それだけの事なのさ」
男「…」
神「要は順序の問題だ」
神「あと一つ勘違いして欲しくないのは」
神「僕は願いを叶えてあげると言っただけだ」
神「そりゃあ一部の神は人間に対して馬鹿な感情を抱く奴もいるけどさ」
神「僕はそうじゃない」
神「君たちの悲しみは、僕にとっては取るに足らない、芥にも満たないただの無意味なものだ」
男「…クソッ」
ここまで
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