勇者「《ひのきのぼう》で、魔王を倒すぞ!」 (155)
初です。ヨロピコ
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プルルル〜
まもののむれを たおした!
それぞれ
6ポイントの経験値を かくとくした!
6ゴールドを 手に入れた!
勇者「武闘家! 何ゴールド溜まった?」
武闘家「えっと、今ので……ちょうど270Gだな」
勇者「ほんとか! よっしゃ、これでお目当ての《どうのつるぎ》が買えるぞ!」
魔法使い「はいはい、よかったわね〜」
武闘家「これで勇者の初期装備である、《ひのきのぼう》ともおさらばだな」
勇者「ああ、この先のモンスターだってスイスイ倒せるぜ! そうとなればさっそく買いに行こう!」スタスタ
魔法使い「ちょ、ちょっと待ってよ! 私もうクタクタよ。今日は宿に泊まりましょ」
勇者「何言ってんだ。買って、試さなきゃダメだろ」
魔法使い「試すって、まだ戦うつもりなの!?」
勇者「そりゃそうだろ」
魔法使い「今日半日戦ってたのよ? あんたたち脳筋バカは元気でいいけど、私みたいな乙女はデリケートなの。それにMPも残ってないし、もう無理よ」
勇者「えー、でも」
武闘家「たしかに、魔法使いのも一理ある。それに日が暮れはじめたし、もう店は閉まってるぞ。勇者、今日は諦めて休もう」
勇者「……ちぇ、しょうがないか。――でも、今合計270Gだろ? 宿代は何Gなんだ?」
武闘家「えっと、確か《はじまりの町》の宿屋は……9Gだ」
勇者「ってことは、あと2回ぐらい戦わないと」
魔法使い「今日はもう嫌よ」
勇者「じゃあ明日にするか」
魔法使い「宿代ぐらい、あんたたちで稼ぎなさいよ。たった1、2回の戦闘でしょ」
勇者「おいおい、そりゃないぜ。チームだろ」
魔法使い「無理。だいたい今日はあんたのために付き合ってあげたんだから、それぐらいやりなさいよ。私、先に宿屋に行ってるから、ぱぱっと稼いじゃいなさい」トコトコ
勇者「……ったく」
武闘家「しょうがない。さっさと終わらよう」
勇者「悪いな、付き合ってもらって」
武闘家「気にするな。チームのためだ」
次の日
武器屋「らっしゃい!」
勇者「オヤジさん、《どうのつるぎ》をくれ」
武器屋「《どうのつるぎ》だね。270Gだよ」
勇者「ほい」ポイッ
武器屋「毎度あり!……よっと、ほらよ。誰に持たせるんだ?」チラッ
魔法使い「なんで私見て言うのよ。こんなか弱い乙女が、そんな物騒なもの装備できると思ってるの?」
武器屋「はははっ、冗談だよお嬢ちゃん。で、どっちに持たせるんだい?」
勇者「もちろん俺だ!」
武器屋「……おや? あんたは装備できないけど、いいのかい?」
勇者「えっ! 装備できない!?」
武器屋「ああ、装備できないことになってるよ」
魔法使い「ちょっと勇者! 買う前に装備できるかぐらい確認しときなさいよ!」
勇者「いやいや、普通そうびできるだろ!」
武器屋「っていわれてもな〜。隣のあんちゃんは装備できるみたいだよ」
武闘家「私が? でも私は今の武器で満足してるしな……」
武器屋「じゃ、じゃあとりあえずふくろに入れとくね」
勇者「まてオヤジさん! じゃあオヤジさんの売り物の中で、俺はどれをそうびできるんだ?」
武器屋「この中で? うーんそうだね、……この中だと、《ひのきのぼう》だね」
勇者「ひ、ひのきのぼうだけか?」
武器屋「う、うん。そうみたいだよ」
勇者「……」
魔法使い「まったく、とんだ無駄遣いね。ほら、もうここで買えるものは揃えたんだし、さっさと次の町に行くわよ」
勇者「そ、そんな……」ションボリ
武闘家「元気出せ、勇者。私がサポートする」
魔法使い「……しょうがないわね。ちょっとは手伝ってあげるわよ、ちょっとだけね」
勇者「悪いな、みんな……」
勇者 (これじゃあ主人公の俺が、完全に足でまといじゃねえか……)
僧侶だったら神ssだった
>>7
あるのは知ってたけど、まだ最初しか読んでないんだ
内容が被ってたらごめんな
武闘家「勇者、見ろ。村だ」
勇者「おっ、やっとあったか!」
魔法使い「はぁ〜、久しぶりにちゃんとしたベットで寝れるわ」
勇者「見た感じ、結構賑わってるな」
武闘家「そうだな。あれぐらいならきっと武器、防具屋や道具屋が栄えているはずだ。勇者に合った武器が売っているといいな」
勇者「ああ。でも《どうのつるぎ》も持てない俺が、使える武器があるのかなぁ」
魔法使い「ぷぷ、言えてる(笑)」
武闘家「《どうのつるぎ》だけ装備できないって可能性もある。そう悩むことじゃない、心配するな」
勇者「ありがとよ。それに、防具も揃えておかないと。ここらの敵は割と強かったし、これからもっと強くなると思うぞ」
魔法使い「そうね。勇者の回復魔法が追いつかなくなったら、本当に勇者の存在意義がなくなるからね」
勇者「その場合は、お前が最初に死ぬけどな」ボソ
魔法使い「な……なによ! ちゃんと聞こえてるんだからね!」
勇者「本当のことを言っただけだよー」
武闘家「まあまあ。とにかく行ってみよう」テクテク
村人A「ようこそ旅人さん。ここは《二の村》よ」
勇者「へぇ〜、《二の村》っていうのか」
魔法使い「村の割には人が多いわね。それに私たちの村より何倍も大きいわ」
武闘家「生き生きとした村だな」
魔法使い「こんなに広いと、お店さんを探すのが大変そうね」
勇者「そうか? 歩いてればすぐ見つかると思うぞ」
魔法使い「ここまで散々歩いてっていうのに、まだ私を歩かせるつもりなの?」
勇者「はいはい、乙女はデリケートでしたね〜」
魔法使い「ふんっ、そうよ。わかってるならいいわ」
武闘家「といっても、たしかに広いな」
勇者「なら、そこの人に聞いてみよう。――なあ、あんた。この村に武器屋や防具屋はあるか?」
村人A「ようこそ旅人さん。ここは《二の村》よ」
勇者「あ、ああ。そっか。《二の村》っていうのか。ところで、武器屋や防具屋はあるか?」
村人A「ようこそ旅人さん。ここは《二の村》よ」
勇者「???」
魔法使い「ちょっと、この女、言葉通じてるの?」
武闘家「だいたい入り口に立ってる人は、後先ずっとこんな感じなんだ。違う人に聞こう」
勇者「お、おう……」
村人B「武器屋? この村に武器屋はないぞ」
勇者「えっ、ないの?」
村人B「ああ、その代わりっちゃなんだが、教会が全般的にそういう類のものを扱ってる」
魔法使い「教会が?」
村人B「おお。武器や防具に限らず、酒や食べ物なんかもな。それに、この村に訪れたあんたたちみたいな旅人のために、寝床を供給したりなんかもしてる」
勇者「そんな村、はじめてだ」
村人B「そうなのか? おいら達はなかなか村の外に出ないからな。外の様子はわからねぇ」
武闘家「他の村や国とは交流しないのですか?」
村人B「うーん、そういうのも全部教会の司教様がやってくれるんだ」
武闘家「なるほど。この村は教会によって成り立っているのですね」
村人B「まあ、そんな感じだな」
武闘家「ちなみにその教会はどちらに?」
村人B「あれだよ、あのひときわ大きい、レンガ造りの建物さ」
勇者「あー、あれか」
武闘家「ありがとうございました」
村人B「いやいやなんの。ゆっくりして行ってくれ」トコトコ
魔法使い「さっそく行ってみましょ。全部あそこにまとまってるなんて、これでいちいち歩き回らなくて済むわ」
勇者「お前、ほんと歩くの嫌いだな」
魔法使い「なによ、じゃあ勇者が背負って、私を運んでくれるの?」
勇者「やだよ、重いじゃん」
魔法使い「なっ!?」
武闘家「それにしても、不思議な村だな。教会が管理してるとは。どこかの国に属しているわけでもなさそうだし……」
魔法使い「なんでもいいわよ。ほら、早く行くわよ」イライラ
ガラガラ
魔法使い「わぁー! 中も相当広いわね!」
勇者「おっ、人もたくさんいるな〜」
武闘家「すごいな、教会とは思えん」
僧侶「ようこそ、我が教会へ。旅のお方ですね?」テクテク
勇者「あ、はい」
僧侶「お疲れでしょう。ここには食事処やお休みになるベッドも用意しております。遠慮なさらず、ぜひご利用くださいね」ニコッ
武闘家「どうもありがとうございま――」
魔法使い「じゃあさっそくだけど、何か食べたいわ。連れてってもらえる?」
僧侶「はい、こちらです」トコトコ
魔法使い「ということで、私さき行ってるわ。武器や防具のことは任せたわよ」スタスタ
勇者「お、おい!」
< ァ、チャントワタシノソウビモカッテオクノヨ〜
勇者「……自由だな」
武闘家「私たちと違って彼女はこの旅を気ままに考えているのだろう。少し危ういが、その方がいいかもしれないな」
勇者「そうか?」
武闘家「きっと長い旅になる。息抜きも大事さ」
勇者「ん〜、まあとりあえず、武器防具を見てみるか」
勇者「うおー、すげーぞ! 《てつのやり》が売ってる! それに《ブーメラン》もだ!」
武闘家「防具もすごい。《うろこのたて》や、《うろこのよろい》なんかもある」
勇者「なあ、いま合計何Gあるんだ?」
武闘家「うーんと、……2035Gだ」
勇者「えっ、そんな溜まってたのか!?」
武闘家「ああ、ここまでの道のりは長かったからな。まものも知らずに相当倒してたのだろう」
勇者「そっか。これだけあれば全部は無理だけど、ほとんど揃えられるな」
武闘家「ああ、その前に勇者の武器だ」
勇者「おっと、そうだった。――なあ、これいくらだ?」
シスター「《てつのやり》ですね。750Gになります」
勇者「けっこう高いな。でも攻撃力は高そうだ」
武闘家「待て勇者。その前に装備できるか確認しないと」
勇者「あ、そっか。――えっと、これを装備できるか?」
シスター「《てつのやり》ですね……そうですね、《てつのやり》を装備できる方は、この中にはいませんね」
勇者「……そっか。じゃあこの《ブーメラン》どうだ?」
シスター「《ブーメラン》ですね。えっと……これも装備できる方はいませんね」
勇者「……」
武闘家「……」
勇者「じゃ、じゃあ売り物の中で、俺が装備できるのはどれかな?」
シスター「少々お待ちください。……私の取り扱っている商品の中で、あなた様が装備できる武器として挙げられるのは……《ひのきのぼう》です」
勇者「……《ひのきのぼう》だけか?」
シスター「はい、《ひのきのぼう》だけですね」
勇者「……」
武闘家「勇者……」
勇者「……そっか、まあこういうこともあるさ。な、武闘家。俺の武器はいいから、みんなの防具を見てみよう」
武闘家「……あ、ああ」
魔法使い「あ、お疲れ〜。どう、買えた?」
勇者「ああ、だいぶ金がたまってたからいいものが買えたぞ」
武闘家「……」
魔法使い「どれどれ……あ、これ私の新しい武器? へー、《いばらのむち》かぁ〜。強そうじゃん」
勇者「全体攻撃ができる優れものだ」
魔法使い「へぇ〜、じゃあわざわざ貴重なMP消費して、魔法を使わなくても良さそうね! ところで、勇者の武器は買えたの?」
勇者「……」
武闘家「そ、それなんだがな。勇者の武器は――」
魔法使い「え、もしかしてダメだったとか?」
武闘家「えーっと……」
魔法使い「《ひのきのぼう》だけだったとか(笑)」
勇者「……あー、みたいだ」
魔法使い「ぷっ、ちょっと勇者のあんたがこの先も《ひのきのぼう》って……」クスクス
勇者「……」
武闘家「……」
魔法使い「」クスクス
武闘家「よせ魔法使い、一番気にしてるのは勇者自身だ」
魔法使い「でも《ひのきのぼう》って……」クスクス
勇者「……」
武闘家「魔法使い!」
魔法使い「!?」
勇者「……」
魔法使い「ごめん……なさい……」
勇者「……別に魔法使いが謝ることないさ、逆に俺が謝らないと。これからみんなに迷惑かけることになる」
武闘家「迷惑だなんて、別にそんなことは思っていない」
勇者「だけど……」
武闘家「勇者、まだ《ひのきのぼう》だけしか装備できないって決まったわけではない。この世界には宝箱があって、そこでしか手に入らないレアアイテムも存在するみたいだ。もしかして、そのレアアイテムしか装備できないってこともあるだろう」
勇者「……だが」
魔法使い「……そ、それに、パーティにはどっちみち、一人回復役が必要だわ。回復魔法覚えてるの、あんただけでしょ」フンッ
勇者「……」
魔法使い「ほら、しっかりしなさい。私たちで魔王を倒すんでしょ。こんな最初からやる気なくしてどうするの」
武闘家「そうだ勇者。物理攻撃じゃなくとも、勇者には勇者の役割がある。王様が勇者を選んだのも、きっと何か理由があるからに違いない。自信を持て」
勇者「……ありがと、な」
武闘家「心配するな、私たちはチームだ」
魔法使い「ふん、まあ一応ね」
勇者「みんな……」
???「あ、あの!」
勇者「ん?」
魔法使い「あら、あなたはさっきの僧侶さんじゃない」
僧侶「お話の最中に申し訳ございません。つい内容が耳に入ってしまいまして……魔王を倒すとかなんとか……」
武闘家「ああ、そうだ。実は、私たちはある方の命を受けて、魔王討伐の旅をしている」
魔法使い「(ちょっと、勝手に喋っちゃっていいの?)」
武闘家「(別に問題ないだろう、喋るなとは言われていない)」
僧侶「そのことで、相談があるのですが……」
勇者「そうだん?」
僧侶「あの……私も仲間に入れてもらえないでしょうか!」
武闘家「……わけを、聞いてもよろしいか?」
僧侶「はい、実は……」
魔法使い「なるほどね、まものに妹をさらわれて、一人この教会に拾われたと」
僧侶「はい……」
魔法使い「でも、魔王がさらったとは限らないわよ」
僧侶「……それが、まものの一匹がこう言っていたを聞いたんです。『これは魔王様の貢物にしよう』って」
武闘家「魔王の?」
僧侶「はい。だから、妹が生きているなら、きっとその魔王のところだと思って……」
勇者「でも、一人で行こうにも、行けなかったわけか」
僧侶「はい。私一人の力じゃ、おそらく……ですが、あなた方と一緒なら」
武闘家「なるほど、わかりました。ですが、魔王だけでなく、旅にはいろいろと苦難が待ち受けているはずです。それにこの先、あなたを守ることができない時もあるかもしれない」
僧侶「そ、それは平気です! 自分の身は自分で守ります。もちろん、微力ながらあなた方の支えにも……ですから、お願いします!」
武闘家「……」チラッ
魔法使い「私は別にいいわよ。男一人に、よくわかんない奴と一緒じゃ、ちょっとむさ苦しいと思ってたところなの。女の子は歓迎だわ」
勇者「俺も別にいいぞ」
武闘家「ふむ、私も別に異論はない」
僧侶「それでは!」
テテテテテテン テテテテテテン テカテカテンテンテンテンテンテンテン テン♪
僧侶が なかまに くわわった。
テテテテテテン テテテテテテン テカテカテンテンテンテンテンテンテン テン♪
武闘家「ちなみに、魔法とかは使えるか? 戦闘の際に、お互い使える能力を知っておいたほうが連携しやすいからな」
僧侶「あ、はい。一応みなさんみたいに、剣で攻撃したり――」
勇者 ズキッ!
僧侶「魔法で攻撃したりはできませんが――」
勇者 ズキッ!
僧侶「回復や、補助魔法は使えます」
勇者 ズキッ!
魔法使い「……」
武闘家「そ、そうか……ちなみに回復魔法はどういったものを?」
僧侶「はい、一応《ベホマラー》までは……」
勇者「」
武闘家「す、すごいな。そんな高度な魔法まで……」アセアセ
僧侶「いえいえ、それしか取り柄がないので……」
勇者「……」
魔法使い「……」
武闘家「……」
僧侶「あの、私はこのことを司教様に伝えてきます。身寄りのない私をここに置いてくれたのも、司教様のおかけなので……最後にお礼をと」
武闘家「あ、ああ。今日出発するじゃないから、焦らなくても平気だ」
僧侶「はい……」トットットッ
勇者「……」
魔法使い「……ちょ、ちょっと勇者。別に回復役はたくさんいても、損はしないわよ」
武闘家「そ、そうだ勇者。回復役はまず二人は必要だ」
勇者「ああ、わかってる……」
今日はここまで
司教「皆様方、どうか僧侶をよろしくお願いします……」
勇者「おう! まかせとけ!」
魔法使い「私がついているから安心していいわよ。ねっ、僧侶ちゃん」
僧侶「は、はい!」
武闘家「では行こう。次はここから南東にある、《三の町》に向かう」トコトコ
勇者「《三の町》かぁ〜。どんなところだろうな」
武闘家「うわさによると、魔法が栄えているらしいぞ」
僧侶「あ、私も行ったことはないですが、司教様から聞いたことがあります。なんでも、住人のほとんどが魔法を使えるとか」
魔法使い「へぇ〜、まあこの魔法使い様ほどではないと思うけどね」
勇者「誇れるほどじゃないけどな」ボソ
僧侶「あの、ところでみなさんは、なぜ魔王退治を?」
勇者「ああ、俺たちか? 俺たちは国の王様に頼まれたんだ」
僧侶「王様に?」
武闘家「ああ。私たちの国は、海を挟んで魔王の国と隣にあってな。魔王からの侵略が後を絶えない。だから、私たちが大陸をぐるっと回って魔王を討伐することになったんだ」
僧侶「へぇ〜、すごいです。王様から任せられるなんて」
魔法使い「っていっても、王様たちも期待してないと思うわよ、私たちのこと。ほとんど駄目元みたいなものだし」
勇者「そうだなぁ〜。国は魔王との戦いで精一杯だから、はずれ村で一番若い俺たちが、兵士の代わりに行くことになったんだ」
僧侶「そうなんですか……あっ、てことはみなさん同じ村の出身で?」
勇者「おう、そうだ」
魔法使い「っていっても、武闘家とはほとんど喋ったことがなかったけどね」
武闘家「私は、そのはずれ村のはずれに住んでいたからな」
勇者「でもひでーよな。仮にも魔王を退治するんだから、もっといい装備を準備しとけよ、王様もよ」
魔法使い「まあ、しょうがないんじゃない。あっちもあっちで余裕ないみたいだし。それに、勇者はどうせ《ひのきのぼう》しか装備できないでしょ」
勇者「う、うるせ!」
僧侶「ひのきのぼう?」
武闘家「いやいやなんでもないんだ、僧侶。さあ、先を急ぐとしよう」
とある洞窟で
魔法使い「まったく、勇者が入ってみたいって言ったからついて行ってあげたけど、何もないじゃない。なんなのこの洞窟?」
僧侶「私も、こんな洞窟が村の近くにあるなんて知りませんでした」
武闘家「まあまあ良いじゃないか。もしかしたら、奥に宝箱があるかもしれない」
勇者「そうだぞ〜。それに冒険ってのは、やっぱこうでなくちゃ」
魔法使い「ちょっと勇者、私たちは魔王を倒すために旅をしてることを忘れないでよ」
勇者「忘れてねーよ。でも、魔王って強いんだろ? なら、焦ってもしょうがねえ」
武闘家「勇者の言う通りだな。宝を見つけ装備を整え、こういうところで経験値を稼いでおけば、魔王を倒せるほど強くなれる」
魔法使い「まあそうだけど……ん? ねえ、ちょっと何よあれ」
勇者「何って、なんだよ」
魔法使い「あれよ、あれ。あの光ってるやつよ」
僧侶「あ、本当だ。なんでしょう、あの銀色の小さなものは……石? でしょうか?」
武闘家「……いや、あれは……っ! あれは、《メタルスライム》だ!」
魔法使い「えっ! あれがメタルスライム!? すごい、初めてみたわ……」
勇者「メタルスライム? なんだそりゃ」
武闘家「メタルスライムはスライムの仲間で、倒すと大量の経験値がもらえる。一気にレベルアップしてしまうほどだ」
僧侶「す、すごいです……」
勇者「ほんとか! よっしゃ、ならさっさと倒そ――」
武闘家「待て勇者! だがその代わり、尋常じゃない素早さと防御力を持っている。一度逃げたら追いかけるのは不可能だ。それに、ダメージもなかなか与えられない……」
勇者「おい、じゃあどうすんだよ」
武闘家「メタルスライムといえど、眠らせることはできる。僧侶、魔法使い。やつに気づかれないよう《ラリホー》をかけてくれ。チャンスは一度きりだ」
魔法使い「わかったわ。あの銀ぴか野郎を必ず眠らせてあげる」
僧侶「あ、はい! 了解ですっ!」
武闘家「勇者、私たちは彼女たちの魔法が成功したら、一気にやつを叩く。わかったな?」
勇者「お、おう。でも、俺の《ひのきのぼう》なんかで、ダメージ与えられるのか? ただでさえ防御力が高いんだろ?」
武闘家「大丈夫だ。防御力は高くても、体力は少ない。少しでも傷つけることができればそれでいい」
勇者「そうか、わかった」
武闘家「よし……いくぞ!」
プルルルルル♪
__________________
メタルスライムが あらわれた!
しかし まだこちらに きづいていない!
__________________
プルル (o_o)彡
プルル(o_o)彡
ジュバジュバシッ!)`Д゚)・;'
プルルゥ〜♪
パパパパッパッパーン
__________________
ひのきのぼうは レベルが あがった!
パルプンテの じゅもんを おぼえた!
武闘家は レベルが あがった!
まわしげりを おぼえた!
魔法使いは レベルが あがった!
ヒャドの じゅもんを おぼえた!
僧侶は レベルが あがった!
__________________
僧侶「すごいです! みなさん一気にレベルが上がりました!」
武闘家「さすがメタルスライム。まさか倒せるとは思わなかったが、倒した恩恵もバカにならない……」
魔法使い「やった! 私また新しい魔法覚えたわよ! 《ヒャド》っていうのね」
武闘家「ヒャドは氷の呪文だ。メラより威力が高いから、きっと使えるな」
魔法使い「そうなの? ふふーん、また一歩魔法使い様がみんなよりリードしたってわけね!」
勇者「おいおい、競争じゃねーぞ。それより、俺も一個魔法を覚えたみたいだ」
魔法使い「勇者が? どんな魔法?」
勇者「うーんと、《パルプンテ》っていうらしい」
魔法使い「パルプンテ?」
武闘家「パルプンテ……聞いたことないな」
僧侶「どんな魔法でしょう?」
魔法使い「勇者……あんたってなんか変よ。《ひのきのぼう》しか装備できないし、変な呪文覚えるし……まあいいわ、ちょっと使ってみなさいよ」
勇者「パルプンテをか? ああ、じゃあちょっとやってみるぞ」
__________________
勇者は パルプンテを となえた!
しかし ここでは 使えない!
__________________
勇者「ダメみたいだ」
武闘家「戦闘中にしか使えないってことか」
僧侶「いったいどんな魔法でしょう……」
魔法使い「なら次の戦闘に使ってみることね。さっ、この調子でもう一匹あいつを倒すわよ!」
こいつら今レベルどのくらいだろ?
なかなか辛いな
これで勇者以外の性別が女なのも辛い
__________________
まもののむれが あらわれた!
__________________
魔法使い「きたわよ勇者!」
勇者「よし、まかせろ!」
__________________
勇者は パルプンテを となえた!
てきぜんたいに 400のダメージ!
__________________
プルルゥ〜♪
まもののむれを たおした! ▼
それぞれ
28ポイントの経験値を かくとくした!
30ゴールドを 手に入れた! ▼
武闘家「す、すごいなその魔法……敵が一瞬で消えてしまった……」
僧侶「勇者さんさすがです!」
魔法使い「な、なかなかやるわね……」
勇者「お、おう。自分でも驚きだよ……それにしても何なんだこの魔法は?」
武闘家「敵に固定で400ダメージ与える呪文かもしれない。どちらにせよ、かなり使えるな」
魔法使い「ちょっと、固定で400っておかしいわよ! 敵の防御力が低かっただけじゃないの?」
武闘家「いや、さっきのまものたちはどれも種類がバラバラだった。にもかかわらず、ぜんたいに400ダメージを与えていたから、おそらく間違いない」
勇者「なんかすげー呪文覚えちゃったな……でもこの呪文、相当MPを消費するみたいだ。もう一度使える気がしねえ」
武闘家「それほどの呪文なんだ、MPは大量にいるだろう。勇者、その魔法、次からは、強敵があらわれたときだけに使ったほうがいいかもしれない」
勇者「おう、そうするよ」
魔法使い「ふん、一回しか使えないなら大して意味ないわね」
勇者「なんだ魔法使い、俺が強い呪文覚えたからって妬いてるのか?」ニヤニヤ
魔法使い「……っ、この魔法使い様が嫉妬なんてありえないわ!」
勇者「はいはい、そうですか〜」
僧侶「ところでみなさん。どうやらここが一番奥みたいです」
魔法使い「もう! 結局宝箱も何もなかったじゃない! とんだむだあしだったわ」
武闘家「まあそういうな。おかげでメタルスライムを倒せたじゃないじゃないか」
魔法使い「一匹だけね、いっぴきだけ! さ、もうこんな洞窟にはようないわ。早く出ましょ」
武闘家「たしか、洞窟を出る呪文があったな。《リレミト》だったか?」
僧侶「はい、洞窟に限らず、ダンジョンなどからも脱出できます」
勇者「リレミトなら覚えてるぞ」
魔法使い「じゃあ勇者お願い」
勇者「よし、まかせろ」プルル♪
_________________
勇者は リレミトを となえた!
しかし MPがたりなかった!
_________________
勇者「……あれ?」プルル♪
_________________
勇者は リレミトを となえた!
しかし MPがたりなかった!
_________________
勇者「……」
魔法使い「ちょっと勇者……あんたまさかMPが足りないとか言わないわよね」
勇者「MPが足りない……」
魔法使い「……」ギロッ
武闘家「ほ、他に覚えている人はいるか?」
魔法使い「覚えてないわ。主に攻撃、補助専門だもん」
僧侶「すみません……私も覚えてません……」
武闘家「私はもちろんのこと、魔法さえ覚えていない……」
勇者「……」
僧侶「あ、あの! 私大丈夫ですよ、まだ元気ですし……それにまたメタルスライムにあえるかなーって思えばがんばれます!」フリフリ
武闘家「私も問題ない」
勇者「わ、わるいな……」
魔法使い「まったく……あんな変な呪文使うからよ。僧侶ちゃんにまで気を遣わせて」
僧侶「あっ、私は全然平気ですよ!」アワアワ
勇者「おいおい、最初に使えっていったのは魔法使いだろ」
魔法使い「あんなすご……へんな呪文だとは思わなかったのよ!」
勇者「そんなの俺だって……」
魔法使い「……」
武闘家「……ほら、いこう」
魔法使い「やっと着いたわ! ここが《三の町》ね!」
武闘家「……みたい、だな。うん、ここで間違いないだろう」
僧侶「すごい活気にあふれてますね」
勇者「あ〜、ここまでの道のりは長かったなー」
魔法使い「もー散々だったわよ。洞窟から抜けた思ったら、出口が知らない場所だったし。これも勇者があの洞窟に入りたいって行ったせいよ!」
勇者「ごめんごめん、そのことは何度も誤ったじゃないか」
魔法使い「ふん! 本当に反省してるのかしら」
僧侶「でも、無事たどり着けたわけですし……」
武闘家「そうだぞ、魔法使い。それにおかげでゴールドをたくさんためることができた。この町が噂通りなら、きっといい買い物ができる」
僧侶「噂って、魔法のことですよね?」
武闘家「ああ。魔法が栄えているなら、きっとここには魔法武器やアクセサリが売っているはずだ」
魔法使い「へぇ〜、アクセサリかー。私ピアスなんかがいいわ」
僧侶「私は杖が欲しいです。いまの《ブロンズナイフ》だと、魔法が十分に使えないので……」
勇者「俺は――」
魔法使い「あんたはまずは武器よ、武器」
勇者「わ、わかってるよ……」
武闘家「よし、さっそくいってみよう」
よろず屋「いらっしゃい!」
勇者「おーさすがにそろってるな!」
武闘家「ああ。武器も防具も、どれも性能が高いものばかりだ」
魔法使い「見てみて僧侶ちゃん!」
僧侶「あ、可愛いですね、これ!」
よろず屋「お、嬢ちゃんたちお目が高いな。それは《スライムピアス》っていって、攻撃力が上がる代物だ!」
魔法使い「攻撃力かぁ〜。私たちにはあんまり縁がなさそうね」
僧侶「そうですね、ちょっと残念です」
魔法使い「そっちはどう、勇者」
勇者「……《はがねのつるぎ》か、どうのつるぎが装備できない俺に装備できるかな……」
武闘家「勇者、《ホーリーランス》なんかがあるぞ。これなら装備できるんじゃないか?」
勇者「《ホーリーランス》かぁ、でもこれ槍だろ? 俺、てつのやりさえ装備できなかったからな〜」
武闘家「とりあえず聞いてみろ。ここは種類もたくさんあるし、一つぐらい装備できるだろう」
勇者「そうだな。――なあ、よろず屋さん。俺が装備できそうなもの、この中にあるかな?」
よろず屋「おにいさんにか? ちょっと待ってな……これなんかどうだ? 《せいどうのよろい》だ。防御力はこんなかじゃピカイチだぞ」
勇者「いや、防具じゃなくて――」
よろず屋「ああ、武器だな! ほいほい、ちょっと待ってろ……っと。あれー、おかしいな」
勇者「どうしたんだ?」
よろず屋「いやぁ〜、それがおにいさんが装備できる武器が見つからねーんだ」
勇者「えっ、こんなにたくさんあるのに?」
よろず屋「ああ。あれ〜、こんなことめったにないんだけどな〜」
勇者「……じゃあ、《ひのきのぼう》。あるか?」
よろず屋「《ひのきのぼう》? ははは、そんなガラクタ、うちじゃ売ってないよ」
勇者「……そっか。そうだよな! あははー!」
武闘家「……」
魔法使い「……」
僧侶「……あの、魔法使いさん」
魔法使い「……あ、ん? 何?」
僧侶「……あの、勇者さんってもしかして、《ひのきのぼう》しか装備できないんですか?」
魔法使い「あー、うん。そうみたい……」
僧侶「……だから戦闘中も、《ためる》を繰り返していたんですね……」
魔法使い「う、うん……」
僧侶「……」
魔法使い「……」
僧侶「……で、でもすごいですよね! それなのにパルプンテっていう、すごい呪文使えますし!」
魔法使い「あ、うん……」
僧侶「……」
チッ
今日はここまで
が、できたら投稿したいと思っています
僧侶のひのきのぼうは名作には違いないが二度と読む気になれない
登場人物にクズが多すぎるんだよなぁ
>>44
ごめんな……わざわざコメしてくれたのに……
僧侶「だいぶいい物が買えましたね〜」ニコニコ
武闘家「ああ、これで戦闘中も楽になるな」ワイワイ
アハハハ ウフフフ
勇者「……」ボー
魔法使い「……ちょっと勇者、元気だしなさいよ」
勇者「……ん? あ、ああ」
魔法使い「別に《ひのきのぼう》しか使えないからって、あんたにはパルプンテがあるんでしょ」
勇者「……う、うん」
魔法使い「認めたくないけど、その呪文は私のより、す、凄い呪文よ。ちょっとは誇ってもいいと思うわ」フンッ
勇者「……でも、お前の言った通り、今のMPだと一回しか使えないから、意味ないし……」
魔法使い「あ、あれは別に言ってみただけよ! レベルアップすれば、そのうちMPぐらい増えるわよ!」
勇者「でもなぁ……」
魔法使い「まったく……勇者、昔から根はネガティヴなんだから」
勇者「そうか?」
魔法使い「そうよ、ポジティブに振舞ってるけど、内心はすぐ落ち込むでしょ? 私にはわかってるんだからね。何年一緒にいると思ってるの?」
勇者「うーんと、16年ぐらいか?」
魔法使い「17年よ! とにかく、しっかりしなさい。この先もまだ長いんだから」
勇者「……」
魔法使い「べ、別に心配してるわけじゃないけど、いつも元気なあんたがしょげてたら、気持ち悪いわよ! 元気だしなさい!」
勇者「……っふ、お前も、昔からなんだかんだ言って世話好きだよな、でもそういうところが、魔法使いのいいところだと思うぞ」
魔法使い「なっ!///」
勇者「ありがとよ」
魔法使い「……フンッ」プイッ
武闘家「……」
勇者「よし、次はどこへ行くんだ?」
武闘家「えーっと、次は海を渡って、《四の国》だな」
勇者「へー、海渡るのか」
僧侶「定期船があって、それで向こうの大陸に渡れるみたいです」
魔法使い「じゃあまずは船着場に行かないとね。どこにあるのかしら?」
武闘家「ここからちょっと南に歩いたところらしい」
勇者「じゃあさっさといこーぜ〜」スタスタ
魔法使い「はぁ〜、また歩くのね……」
武闘家「距離はさほどない。すぐ着くさ」トコトコ
僧侶「あ、そういえば勇者さん!」
勇者「お?」
僧侶「あの、魔法使いさんから聞きました……《ひのきのぼう》しか装備できないって……」
勇者「あー、それな。ごめんな、勇者の俺がこんなんで」
僧侶「いえいえそんな! そのことなんですが、実は先ほど町の人から教えてもらったんです」
勇者「ん? 何を?」
僧侶「《四の国》には、職業を変えられる《ダーマ神殿》っていうところがあるみたいで……」
勇者「ダーマ神殿?」
僧侶「はい。そこでは、資格さえあれば自分の好きな職業にかえられるとか……」
勇者「へー、知らなかった。でもそれが俺となんかあんのか?」
僧侶「あ、はい。勇者さんが《ひのきのぼう》しか装備できないのは、勇者さんの職業に関係あるんじゃないかと思いまして……」
勇者「……」
僧侶「だからそこで職業を変えれば、もしかすると……」
勇者「僧侶ちゃん!」
僧侶「は、はい!」ビクッ
勇者「それだよそれ! きっとそれだ!」
僧侶「え、あ……」
勇者「くぅ〜、いいこと聞いた! ありがとう僧侶ちゃん!」
僧侶「い、いえ。私は……」
勇者「よっしゃ、こうなったら行くしかないな! ダーマ神殿へ!」
魔法使い「……なに騒いでるのかしら、勇者ったら」
武闘家「僧侶と話しているようだな。私たちは邪魔しないようにしよう」
魔法使い「なによ、盛り上がっちゃって……」ボソッ
武闘家「まあ、よく考えれば、そうだろうな」
魔法使い「え、何が?」
武闘家「いや、勇者のことだ」
魔法使い「?」
武闘家「聞いていないのか? 勇者、僧侶のことが好きらしい」
魔法使い「……え」
武闘家「やはり好きな人と一緒だと、楽しいのだろう。自然と勇者が明るく見える」
魔法使い「……」
武闘家「このところ元気がなかったからな」
魔法使い「……ねえ、それ、ほんと?」
武闘家「え、ああ。本当だ。いや、私に相談してきたときは驚いたが、彼も彼で本気らしい」
魔法使い「……」
武闘家「どうした魔法使い? 顔色が悪いが……」
魔法使い「ううん、なんでもないわ」
武闘家「そうか……」
フッ
武闘家「ここが定期船が出る、船着場か」
魔法使い「へー、ちょっとした町みたいになってるのね」
僧侶「わぁ〜、海が見えます!」
勇者「僧侶ちゃんは海見るの初めてなのか?」
僧侶「あ、はい!」
魔法使い「……」
武闘家「聞いた話だと、定期船は朝と夕方にそれぞれ一便しか出ないそうだ。今ちょうど昼だから、夕暮れにはまだ時間があるな」
僧侶「それまで何しましょうか……買い物は《三の町》でほとんどしてしまいましたし……」
勇者「みろみろ、市場が開いてるぞ!」
僧侶「ほんとです! 魚がいっぱい並んでます!」
魔法使い「……」
武闘家「なるほど、ここは漁港としても使われてるのか」
勇者「船乗る前に、ここでなんか食っていこうぜ。せっかく新鮮な魚が食えるんだ」
僧侶「そうですね。私もちょうどお腹が減ってきたところです」
武闘家「私も賛成だ」
魔法使い「……」
武闘家「魔法使いはどうする?」
魔法使い「……私パス。魚好きじゃないの」
勇者「え、お前好きじゃなかったか?」
魔法使い「……っ、嫌いになったのよ。その辺ブラブラしてるから、時間になったら呼んで。じゃ」スタスタ
勇者「……どうしたんだ、あいつ」
武闘家「まあまあ、魔法使いにもいろいろとあるのだろう。さあ、いこう」
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勇者は 新鮮なカキをくちにした!
しかし
勇者は 毒におかされた! ▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「うぇ〜」ドクドク・゜
僧侶「大丈夫ですか? 勇者さん……」
武闘家「しっかりしろ、もうすぐ教会だ。そこで毒を治してもらえる」
僧侶「こんなときに《どくけしそう》がきれていたなんて……すみません、私が《キアリー》を覚えていれば……」
武闘家「誰にも非はない。あるとすれば、あのカキだ。とにかく急ごう、勇者の体力も無限じゃない」タッタッタ
キーバタンッ
武闘家「神父さん!」
神父「おお、どうなさった。そんな息を切らして……生きとし生けるものは、みな神の子。我が教会にどんなご用かな?」
僧侶「ゆ、勇者さんのどくのちりょうを……」
勇者「……ウェー」ドクドク・゜
神父「おお、なんと。さすれば我が教会に5Gの寄付をよろしいかな?」
武闘家「あ、はい。どうぞ」
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勇者の からだの どくがきえた!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「おお、治った!」
僧侶「よかったですね、勇者さん!」
武闘家「これでひと安心だな」
神父「ほかに何かご用かな?」
武闘家「いえ、ありがとうございました」
神父「ん? ほんとうによろしいか?」
勇者「ああ、もう大丈夫だ、神父さん。ありがとよ」
神父「いやいや、毒のことではなく――」
武闘家「いえいえ本当に大丈夫です! ありがとうございました。では」
イコウ ユウシャ オ、オウ… ア、マッテクダサーイ!
神父「……神のご加護があらんことを」
シスター「どうかなさいましたか、神父さん」
神父「いや、世の中には好きものもいるのだなと思ってなぁ……」
シスター「はぁ〜……?」
ちょいと書き溜めてくる
魔法使い「……ハァ」
聖騎士「――おやおや、美しい女性がため息を吐くとは、なにか悩みでも?」ニコ
魔法使い「……」ジロッ
聖騎士 「?」ニコォ
魔法使い「……誰よ、あんた」
聖騎士「おっと、名も名乗らないとは失礼したね。僕の名前は、聖騎士。この世に蔓延る魔物の王、魔王を倒すため旅をしている者さ」
魔法使い「……魔王を?」
聖騎士「そうだよ。魔王を知っているのかい?」
魔法使い「まあね。――それで、私になんのよう?」
聖騎士「用という用はないさ。ただ遠くに君が見えたからね、ちょっと気になったのさ」
魔法使い「はー、つまりナンパね」
聖騎士「そう解釈しても、あながち間違いじゃないかもしれないね」ニコ
魔法使い「……悪いけど私、ツレがいるの。残念だけど違う人をあたって」
聖騎士「あ〜、それは残念だよ。君みたいな美人には滅多に会えないというのに……」
魔法使い「それよりあなた、魔王を倒すって言ってたわね」
聖騎士「ん? ああ、僕の話かい。うん、そうだよ」
魔法使い「じゃあ魔王の国へ行くつもりなの?」
聖騎士「そうだよ。ここから歩いて、《一の国》から海を渡って行くつもりさ」
魔法使い「そう。ならやめといたほうがいいわよ」
聖騎士「どうしてだい?」
魔法使い「今《一の国》は魔王との戦いの最中だわ。それに海はまものでいっぱいで、船なんか出せないの」
聖騎士「……それは初めて知ったよ、じゃあ《一の国》からじゃ行けないのか」
魔法使い「ええ」
聖騎士「だとすると、引き返さないと……でも、どうしてそのことを?」
魔法使い「私が《一の国》から来たからよ」
聖騎士「……そうか、だから美人だったのか」
魔法使い「はぁ?」
聖騎士「いやいや、《一の国》は美人が多いと聞いていたからね。どうやら本当だったようだ」キリッ
魔法使い「おぇ。あんた女の子対して、いつもそんな感じでしょ……あからさますぎるわよ」
聖騎士「はははは! そんなことないよ、君だけださ」
魔法使い「とにかく、そういうことだから。じゃあ私いくわ。待ち合わせしてるの」スタスタ
聖騎士「ああ、忠告ありがとう。また、会えるといいね」バイバイ
勇者「……」モグモグ
魔法使い「……」トコトコ
勇者「っお、来たか魔法使い」
魔法使い「……あれ、みんなわ?」
勇者「それがな〜、なんか夕方の便が欠航らしくて、明日にならないと乗れないみたいなんだ。だから二人とも近場の宿を取りに行ってる」
魔法使い「へぇ〜、あんたはいかなくてよかったの?」
勇者「え、俺が? どこに?」
魔法使い「どこにって、宿よ。武闘家と僧侶ちゃんの二人で行ったんでしょ?」
勇者「おう、俺はここで魔法使いを待ってろって、武闘家に言われた」
魔法使い「ったく、そんなんだと取られちゃうわよ?」
勇者「っえ? 何が?」
魔法使い「何って……はぁ」
勇者「?」
魔法使い「………」
勇者「……くうか?」ホイ
魔法使い「……なによ、それ」
勇者「アンチョビサンド。うめーぞ」
魔法使い「いいわ、お腹すいてないし」
勇者「そっか……」モグモグ
魔法使い「……」
勇者「……」モグモグ
魔法使い「……ねえ、勇者」
『助けてくれー!』
勇者「!?」
魔法使い「なに!?」
勇者「こっちだ魔法使い! 行ってみよう!」
\キャー! タスケテー!ワー ママー!/
勇者「くそ! 人混みが邪魔で前に行けない!」
魔法使い「!?」
勇者「魔法使い、何か見えるか!?」
魔法使い「……」
勇者「魔法使い? 魔法使い!」
魔法使い「……そ、そんな、なんでこんなところに……」
勇者「どうした魔法使い!」
魔法使い「あれよ……あれよ!」
勇者「あれって……っ!?」
魔法使い「あ、ああ、あんなでかい魔物、初めてみたわ……いったいどこから……」
勇者「……きっと海だ……やばい! このままだと町の人々が!」
魔法使い「待って勇者! あの敵相手にどうやって戦えっていうのよ! それに今、私たち二人だけよ!?」
勇者「でも、このままにするわけには――」
『えーん! ママー!』
勇者「!?」
魔法使い「あんなところに子供が!」
勇者「」ダッ
魔法使い「ちょっと勇者! ダメよ!」
勇者「俺たちがやらなきゃ、誰がやるんだよ!」タッタッタ
魔法使い「も、もうっ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
クラーゴンが あらわれた!
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勇者「俺は回復魔法でサポートする! 魔法使いは、とにかく攻撃に集中してくれ!」
魔法使い「そんなのわかってるわよ! こうなったらやるしかないわね!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
クラーゴンの こうげき!
勇者は 43のダメージをうけた!
クラーゴンの こうげき!
魔法使いは 54のダメージをうけた!
クラーゴンの こうげき!
勇者は 40のダメージをうけた!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「」グハッ
魔法使い「ちょっ! なによこいつ! なんで3回も攻撃してくるのよ!」
勇者「」
魔法使い「勇者? 勇者平気!?」
勇者「くそ、ダメだ……こんなんじゃ回復が追いつかない……」ハァハァ
魔法使い「ど、どうするのよ!」
勇者「……っく、任せろ!」
勇者「これでもくらえ! パルプンテ!!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者は パルプンテをとなえた!
あたりいちめんに 天空から
りゅうせいが ふりそそいだ!
クラーゴンに 449のダメージ!
勇者は 21のダメージをうけた!
魔法使いは 31のダメージをうけた!
魔法使いは きぜつした!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「……そ、そんな」ゼェゼェ
魔法使い「……」
勇者「まほ……つか……い……」
魔法使い「……」
勇者 (だめだ……このままじゃ、ぜんめつしてしまう……せめて魔法使いだけでも……)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士の こうげき!
クラーゴンに 120のダメージ!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「なにっ!?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
クラーゴンを たおした!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「……」
スタッ
聖騎士「……ふぅ、危ないところだったね、大丈夫かい?」
勇者「お前は……」
ストーリーが繋がってるかどうか、心配になってきた……
◆
魔法使い「……うっ、ぅ……っ……」
武闘家「魔法使い!?」
僧侶「魔法使いさん!?」
魔法使い「ここは……っい!……」
僧侶「そんな、まだ無理しちゃダメですよ魔法使いさん! 寝ていてください!」
武闘家「無理はするな魔法使い。ゆっくり休んでいろ」
魔法使い「僧侶ちゃん、それに武闘家……私……ここはどこ……?」
武闘家「心配するな魔法使い。ここは宿屋だ」
魔法使い「宿屋……」
聖騎士「どうやら気づいたようだね」
魔法使い「……あんたは」
武闘家「魔法使い、こちらは聖騎士さんという」
聖騎士「ああ、武闘家さん。いい忘れてたけど彼女とは知り合いなんだ。といっても、僕は彼女の名前を知らなかったけどね」
武闘家「そうでしたか。何にせよ、あなたがいてくれて助かりました」
聖騎士「いやいや、僕は別に――」
魔法使い「なんで、あんたがここに……」
武闘家「ん、覚えてないか? 突然あらわれた魔物と戦って、君は瀕死の重傷を負って……」
魔法使い「重傷?……」
武闘家「でも運良く聖騎士さんが助けてくれたんだ」
聖騎士「覚えていないのも無理はない。なんせ相手があのクラーゴンだったからね。それに僕が来た時には、すでに魔法使いちゃんは倒れていた」
魔法使い「クラーゴン……」
聖騎士「あのイカの魔物だよ。普段は遠海に住んでいるんだけど、最近は魔王のせいで、近海にも出るようになったんだ」
武闘家「クラーゴンとは、それほど強い魔物なのですか?」
聖騎士「うん。海にでる魔物の中でも、強敵といえるね。とにかく凶暴なんだ」
僧侶「そんな相手と戦って、よく無事に……よかったですぅ……ぼんどうによがっだでずぅぅうぅう……」ポロポロ
武闘家「ほらほら泣くな僧侶」
聖騎士「はははは、僧侶ちゃんは優しいんだね。泣き顔も可愛いよ」キラッ
魔法使い「……ちょっと待って、勇者は?」
武闘家「……」
僧侶「……」
聖騎士「……」
魔法使い「ねえ、勇者は? 勇者もいたでしょ?」
武闘家「……勇者? 勇者もいたのか?」
僧侶「え、勇者さんもいたんですか?」
聖騎士「……僕が来た時には、魔法使いちゃん一人だけだったよ」
魔法使い「そんなはずないわ! 勇者も一緒に戦っていたもの!」
武闘家「っと、言われてもな……」
僧侶「……」
聖騎士「……もしかして、あの人のことかな? とても印象的だったから、よく覚えているよ」
僧侶「あの人?」
武闘家「あの人とは?」
聖騎士「いや、僕が行く前に、ボロボロの姿で走っている人を見かけたんだよ。それも木の棒っきれを持ったまま」
魔法使い「!?」
僧侶「……それって」
武闘家「……」
聖騎士「それで尋ねてみたんだ。『どうかしたのかい?』ってね。そしたら、『まものに襲われた! あんな奴勝てっこない!』って言って、走り去っていったんだよ」
僧侶「そんな……」
武闘家「信じられないが、見た目からして……」
聖騎士「それで向かってみたら君がいたんだ。傷ついて倒れている、魔法使いちゃんが、ね」
魔法使い「……」
聖騎士「一緒に戦ったとすると、その人のことじゃないかな? 彼は、《ひのきのぼう》で戦っていたのだろ?」
魔法使い「……えっ、あ、うん」(あれ、今なんて……)
武闘家「魔法使い。残念ながら、おそらくそれは勇者のことだろう……」
魔法使い「……え?」
武闘家「ひのきのぼうを持って、なおかつボロボロの姿。そして今までの話からして考えると、きっと勇者のことだ」
僧侶「……ひのきのぼうっていえば、そうですよね……でもそんなことって!」
武闘家「僧侶。死の恐怖は、時に人を狂わせる。きっと勇者は恐怖に負けたのだろう……」
魔法使い「そんな、でも!」
聖騎士「死とは経験しなきゃわからないものだけど、きっと彼はそれがどれだけのものか、あの戦いでわかったんだね……だから、その恐怖から逃げだして……」
僧侶「じゃあ勇者さんは本当に……」
魔法使い「そんなわけない!」バンッ
僧侶「!?」
武闘家「!」
聖騎士「……」
魔法使い「勇者は目の前の小さな子供を助けようと、一人で飛び出したのよ!? そんな彼が今更恐怖なんかに負けるわけないわ!」
僧侶「……」
武闘家「……魔法使い」
聖騎士「……」
魔法使い「だいたいみんなも知ってるでしょ!? 勇者は、勇者ったらいつもいい加減でだらしないけど、誰よりも仲間想いなだったはずよ!?」ポロッ
聖騎士「……」
武闘家「……魔法使い、もうよせ」
僧侶「魔法使いさん……」
魔法使い「そんな彼が……そんな勇者が、仲間を見捨てるなんて……しないって……」ポロポロ
武闘家「もういいんだ魔法使い。別に私たちも勇者をせめているわけではない……彼は、《ひのきのぼう》でここまでよくやったさ」ソッ
僧侶「そうですよ……勇者さんは勇敢でした。ただ、今回ばかりは相手が悪かっただけです……」
聖騎士「恐怖は人を変える。しかし、それは人間当たり前のことだ」
魔法使い「ぅ……うぅ……ゆうしゃぁ……」ポロポロ
武闘家「今は存分に泣け。私たちがそばにいる……」ニギッ
「わたしたちが、な」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
クラーゴンを たおした!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「……」
スタッ
聖騎士「……ふぅ、危ないところだったね、大丈夫かい?」
勇者「お前は……」
聖騎士「ん? 僕かい?」
勇者「……あ、ああ」
聖騎士「おっとその前に、君もこの子も、随分怪我をしているじゃないか。ちょっと待っててね……」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士は べホマをとなえた!
勇者のきずが かいふくした!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「……すまない、助かった」
聖騎士「いやいや、なんの……っと、まずいね。この子の傷は、普通の回復呪文じゃ治らないな」
勇者「っ! それって……」
聖騎士「ああ、彼女は瀕死だよ。今すぐ治したいけど、僕の覚えている呪文だとリスクがかかるからね。中途半端になっても困るし……」
勇者「そんな……」
聖騎士「でも大丈夫。僕の泊まっている宿に行けば、彼女をちゃんと治せるよ。秘蔵のアイテムがあるんだ」
勇者「ほ、ほんとか?」
聖騎士「ああ、心配ないさ」
勇者「よかった……本当に。でも……」
聖騎士「ん?」
勇者「でも……俺のせいだ、俺があんな無茶しなければ……魔法使いもこんなことに……」
聖騎士「あの場でパルプンテはいい判断だと思うよ。パルプンテを使わなかったら、確実に二人とも死んでいたからね」
勇者「……あんた、パルプンテを知っているのか?」
聖騎士「うん。見たのは君のが初めてだけどね」
勇者「なあ、教えてくれないか? パルプンテっていったいなんの呪文なんだ?」
聖騎士「……もしかして、知らなかったのかい?」
勇者「ああ、前使ったときは一発で敵を倒したんだ。だからてっきりすごい呪文なんだと思って……」
聖騎士「なるほど、それで使ったんだね」
勇者「……」コクリ
聖騎士「教えてもいいけど、まずは彼女が先だ。宿屋に運ぶから、手伝ってくれ」
勇者「ああ、もちろん!」
タッタッタ
武闘家「勇者!」
僧侶「勇者さん!」
勇者「あっ、みんな!」
聖騎士「ん?」
勇者「聞いてくれ! 魔法使いがたいへんな――」
武闘家「勇者! またお前あの呪文を使ったのか!?」
勇者「え、あ、パルプンテのことか? ああ、だけど様子がおかし――」
僧侶「あの呪文は使っちゃダメって言ったじゃないですか!」
勇者「えっ? そうだったのか?」
武闘家「お前それで一回、魔法使いに大怪我を負わせたろ!」
勇者「は? え、ちょっと何言って――」
僧侶「最低です勇者さん! いくらピンチだったからといって!」
勇者「お、おい。さっきからなんの話を――」
聖騎士「本当かい、それは」
勇者「え、あ、パルプンテを前にも使ったのは本当だ。でも俺は魔法使いに――」
武闘家「勇者、いくらお前が魔法使いのことを怪訝に思ってたからといって、それは酷いだろ!」
僧侶「魔法使いさんはずっとそのことで悩んでいたんですよ!? それに私知ってたんです。勇者が影でばれないように、魔法使いさんのことをいじめていたのを!」
勇者「え?」
僧侶「表向きは仲間として接しているのに、影では魔法使いさんの物を隠したり、壊したり……私気付いていたんですよ!?」
勇者「まて、なんだよそれ!」
僧侶「でも魔法使いさんは、勇者がそんなことするわけないって、言ってました。毎日夜遅く、一人泣いていたのに、ずっとあなたのことを信じて!」
聖騎士「……だから彼女は悩んでいたのか」ボソ
武闘家「確かに、お前が《ひのきのぼう》しか装備できないからといって、そのことを笑った魔法使いにも非はある」
勇者「おい、別にそれは――」
武闘家「でも、それはちゃんと魔法使いがあやまったじゃないか!」
僧侶「なのに、勇者さんはネチネチそのことで魔法使いさんにちょっかい出して……挙げ句の果てには!」
勇者「おい! 冗談にもほどが――」
武闘家「もう我慢できない! 勇者、これ以上お前と旅はできないよ!」
僧侶「私もです。魔法使いさんが傷つくのをこれ以上見てられません!」
勇者「ちょっとまて、なにがどうな――」
聖騎士「今のことが本当なら……」
勇者「え、ま」
聖騎士「僕も、君を彼女の元に近づかせるわけにはいかないね」
勇者「待て! 何かの冗談だ!」
聖騎士「冗談? 冗談で彼らがこんな必死になるのかい?」
勇者「いや、それは!」
聖騎士「それとも……今のことが全部、君には冗談だと思えるのかな?」
勇者「違う! そもそもが――」
武闘家「もういなくなってくれ! 限界なんだ!」
僧侶「私も、勇者さんが怖いです……ただただ怖い! 一緒に旅なんかできません……」ポロポロ
勇者「お、おい!」
聖騎士「女の子まで泣かせるか……どうやら君は、悪逆非道の冷酷極まりない人間のようだ。悲しいね、姿形は人間でも、心はまものだなんて……」
勇者「ふざけんなよ! 冗談もいい加減に――」
聖騎士「去れ魔物よ。ここは君のいる場所ではない!」
勇者「待てよ! 全部嘘だ! こいつらの言っていることは全部――」
聖騎士「嘘? っふ、僕には君が嘘をついているようにしか見えないよ。醜いな、魔物よ。追い詰められると、自分を保守するのか」
勇者「嘘なんてついてねーよ! おい、お前ら! いったいどうしちゃったんだよ!?」
聖騎士「今すぐ消えろ、まものよ。でなければ、私が実力を持って排除する……」
勇者「ふざけんな! だいたいお前、今まで何も知らないだろ!」
聖騎士「知らなくても、彼らから十分伝わったよ。君への思いをね……さあ、ここから消えるか、僕に消されるか、自分で決めたまえ」
勇者「……あんた消されるのもごめんだが、訳のわからないまま消えるのも納得いかねぇ。俺はみんなから事情を聞くまで、ここから離れない!」
聖騎士「そうか……なら、覚悟しろ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士が あらわれた!
▼
聖騎士の こうげき!
勇者は 120のダメージをうけた!
勇者は たおれた!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今日はここまで
僧侶「……これで、よかったんですよね」
武闘家「ああ。魔法使いのためにも、私たちのためにも……」
勇者「」
武闘家「迷惑をかけました。そして、魔法使いを救ってくれ、ありがとうございます」
聖騎士「いや、構わないさ。困った人を、しかも女の子を、見過ごすわけにはいかない」
僧侶「それで……勇者さんは……」
聖騎士「……殺してはないよ。ただ彼女のように、瀕死の状態さ」
武闘家「申し訳ない。私たちのために、お手を汚してしまって……」
聖騎士「平気だよ。それに、僕は彼のことを人間とは思っていないからね。人の皮を被った魔物だよ、彼は」
武闘家「……そう、ですか」
聖騎士「うん。魔物なら散々斬ってきたし、これからも斬っていく。そんなこと、いちいち気にしてはいられないでしょ?」
武闘家「……はい、そうですよね」
僧侶「……」
聖騎士「さて、早く彼女を運ばないと……手伝ってくれないかい?」
武闘家「ええ、もちろん」
僧侶「……あの! 勇者さんはどうするんですか? ここに置いていくんですか?」
聖騎士「……そうだね、彼のこともあった」
武闘家「ここに置いていけば、目覚めたとき、また私たちを追ってくる……」
僧侶「そんな! せっかく終わったと思ったのに!」
聖騎士「……そうはさせないさ。彼については僕に任せてくれないかい? 大丈夫、二度と君たちの前には現せないよ」
僧侶「ほ、本当ですか?」
聖騎士「ああ、約束する。ってことで、君たちは彼女を頼むよ。僕の宿屋に置いてあるふくろに、《せかいじゅのは》が入ってる。それを煎じて飲ませれば、きっと治るから」
武闘家「なんと《せかいじゅのは》を……そんな貴重なものを……」
聖騎士「命がかかってるからね……さあ、あとは任せたよ」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士は 返事のない勇者をかかえた!
聖騎士は ルーラをとなえた!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ビュン
僧侶「すごいですね……ルーラも使えるなんて……」
武闘家「ああ、あの呪文は並大抵の者ではあつかえないからな」
僧侶「……」
武闘家「……」
僧侶「……それはそうと武闘家。ふふっ、思いの外、うまくいったわね」
武闘家「……ああ、こんなに上手くいくとは……あの聖騎士が単純でよかった」
僧侶「ね、私の目に狂いはなかったでしょ? あの聖騎士も、私たちと同じように闇を抱えているのよ……」
武闘家「さあ、魔法使いを運ぼう。勇者はいなくなった。これで私の思い通りに……」
僧侶「いいえ、私たち、よ。それに魔法使いはあげるけど、あの聖騎士は私の獲物だから」
武闘家「っふ、わかってるさ……」
◆
とある洞窟にて
魔法使い「もぉ〜、疲れたわ! 疲れたっていってるの! ねえ、勇者!」
勇者「耳元で叫ばなくても聞こえてるよ……」
魔法使い「結局宝の一つもなかったし、勇者はリレミト使えないし……歩かされるし……」ブツブツ
勇者「だからごめんって、そんな怒るなよ。またメタルスライムがいるかもしれないだろ?」
魔法使い「ふんっ、いたらいいけどね! ――まったく、勇者は昔から計画性がないんだから……」プンッ
勇者「まあ、そういうなよ……」アハハ
ジャアオンブシナサイヨ! ソレハカンベン…
武闘家「……」スタスタ
僧侶「……」トコトコ
武闘家「……」スタスタ
僧侶「……」チラッ
武闘家「……」スタスタ
僧侶「……あの、武闘家さん」
武闘家「……ん、何か?」
僧侶「勇者さんと魔法使いさんって、なんだかんだいって仲良いですよね。いつも魔法使いさんは怒ってるみたいですけど……」
武闘家「ああ、昔からさ」
僧侶「小さい頃から二人とも、仲よかったんですか?」
武闘家「ああ。家が隣同士だったからね、よく遊んでいるのを見かけた」
僧侶「へ〜……でも、何で魔法使いさんはいつも勇者さんに、厳しいというか、鋭いというか……」
武闘家「あれは魔法使いなりに、好意を示してるんだ。彼女は素直じゃないからな」
僧侶「素直じゃないと、あんな怒った態度になるんですか?」
武闘家「まあ珍しいとは思うが、彼女の場合はそうなんだ。それに、あれは本当に信頼している人にしか見せない態度だよ」
僧侶「へぇ〜、魔法使いさんって勇者さんのことが好きなんですね」
武闘家「……ああ」
僧侶「……」トコトコ
武闘家「……」スタスタ
僧侶「……」トコトコ
武闘家「……」スタスタ
僧侶「……でもね、武闘家さん。私にはわかっているんですよ?」
武闘家「ん? どうしたんだ急に……」
僧侶「あなたも、魔法使いさんのことが好きってことを」
武闘家「……」
僧侶「そうですよね? 見ていて、一目でわかりました。勇者さんと魔法使いさんを見るあなたの目。嫉妬心で溢れています……」
武闘家「……そんなこと」
僧侶「私、わかるんですよ。産まれて今までの環境が、きっとそうしたのだと思いますが……特に敏感なんです」
武闘家「……何に」
僧侶「人の負の感情です。恨み、嫉み、怨嗟、憎悪、自棄、そして殺意。あらゆる負という負の、感情です」
武闘家「……」
僧侶「ふふっ、驚きましたぁ? 礼儀正しく、人当たりの良い少女に、こーんないちめんがあったなんてぇ」
武闘家「……」
僧侶「でもあなたは、そんな私を心地よく思うはずよ……だって、あなたも私と同類だもの」
武闘家「……」
僧侶「そうでしょ? 武闘家さん」
武闘家「……みたいだ、な」
僧侶「……ふふふ、だから私、この仲間に入ろうと思ったの」
武闘家「……というと?」
僧侶「仲間に入った理由、あれ嘘よ。妹は攫われてなんかないわ。教会に拾われたのはほんとだけどね」
武闘家「……じゃあ」
僧侶「妹は、殺されたの。随分前の話だけどね。まあ、そんなことはどうでもいいのよ」
武闘家「……なら、何が目的なんだ。お前が私たちの仲間に加わった理由は?」
僧侶「……まあ第一に、お宝が目当てねぇ。魔王なんだから、きっとお金持ちなんでしょ? 魔王に勝ったらそのお宝全部私たちのものだもの」
武闘家「……なるほど、金目当てだったか」
僧侶「それだけじゃないわ。というより、むしろこっちの方が、わたし的には本命かもっ」
武闘家「……それは?」
僧侶「私やあなたみたいな人間を、もっと増やすのよ」
武闘家「……」
僧侶「…ふふっ」
武闘家「……なぜそんなことを?」
僧侶「そうね……面白いから、じゃダメかしら?」
武闘家「……っふ、どうやらとんでもないものを仲間にしてしまったようだ」
僧侶「あら、そうかしら。私からみたら、あなたの方がやばいと思うわ。まあ、個人限定だけどね」
武闘家「?」
僧侶「ふふっ、気づかないと思った? 私これでも教会にずっといたのよ?」
武闘家「ああ、あれか……」
僧侶「どうやったか知らないけど、あれ、相当やばいわね。早くしないと、一生離れなくなるわよ」
武闘家「……」
僧侶「まあそれがあなたの目的ですものね! ふふっ」
武闘家「……まあな」
僧侶「改めてよろしくね、武闘家。私とあなたは、運命共同体よ? わかってるわよね」
武闘家「……ああ、もちろんだよ」
やばいねむいねる
また明日
僧侶「……それで、どうするつもりなの?」
武闘家「……」
僧侶「まさか、あそこまでしてあのままってわけじゃないわよね」
武闘家「もちろんだ。考えがある」
僧侶「考え?」
武闘家「ああ……悪いが、勇者にはこのパーティから抜けてもらう……」
僧侶「……ふふっ、面白そうね。でも聞いてもいい?」
武闘家「何だ」
僧侶「なぜそこまで勇者を? あなたのその憎しみ……嫉妬からくるものだけじゃないわよね?」
武闘家「まあな、いろいろとあったんだ」
僧侶「…へぇ〜」
武闘家「そのことはまた今度話すとしよう。簡単いえばあいつが光で、私が影ということだ」
僧侶「あぁ〜、そういうこと。――で、具体的にはどうやって勇者を追い出すのかしら」
武闘家「……今このパーティが抱えている問題は何だと思う?」
僧侶「そうね……お金? かしら」
武闘家「お前は何でも金だな……答えは勇者だ」
僧侶「……彼が?」
武闘家「勇者は今、《ひのきのぼう》しか装備できないという決定的な弱点を持っている」
僧侶「ふふっ、よくいうわ」
武闘家「奴自身も、そのことで負い目を感じているはずだ。自分は足手まといだ、とな」
僧侶「そうね、確かに今になっても武器が《ひのきのぼう》なんて、頼りないわね」
武闘家「ああ。だが、本来ならこの状態を維持し続け、最終的には勇者本人が、自らこのパーティを抜ける手はずだった」
僧侶「ふーん、面倒くさいことやるのね」
武闘家「その方が自然だからだ。このまま奴が負い目を感じ続ければ、そのうち奴の方から抜けていく。自分に向けられる、優しさや不満が耐え切れなくなってな」
僧侶「でも、事情が変わった……」
武闘家「そうだ、お前の加入だ。まさかこんな悪女が、パーティに入ってくるとは思わなかったからな」
僧侶「あら、褒め言葉として受け取っておくわ」
武闘家「しかも、私に協力してくれるという。これにより、勇者をもっと早くに抜けさせることができるようになった」
僧侶「……というと?」
武闘家「鍵を握るのは魔法使いだ。今、魔法使いの頭の中は、勇者のことでいっぱいだろう」
チョットユウシャ〜 ナンダヨサッキカラ…
僧侶「……そうみたいね」
武闘家「あれは、勇者が《ひのきのぼう》しか装備できないのことを心配してのことだろうが……ここでもう一つ、彼女にはある感情を生み出してもらう」
僧侶「ある感情?」
武闘家「ああ。私がもっとも得意とするものだよ……」
僧侶「あぁ〜わかったわ、それ。……嫉妬ね」
僧侶「あなたの計画、なんとなくわかってきたわ。そりゃー女の私が必要になるわね。あなたも女みたいな髪型してるけどっ」
武闘家「魔法使いは勇者が好き。この関係を利用させてもらう」
僧侶「だいたい私にやってほしいことはわかったわ。けど、それでどうなるというの?」
武闘家「勇者を心配に思う気持ちに、嫉妬が渦巻けばどうなると思う? 普段から素直になれない彼女の性格なら、耐え切れなくなるはずだ」
僧侶「それで関係をこじれさせ、よくよくは……って、あなた魔法使いのことが好きなんでしょ? なのに苦しめるなんて酷いわね。まあ、楽しいからいいけど」
武闘家「確かに、私は魔法使いを愛している。だが、それよりも勇者に対する憎しみの方が大きいんだ」
僧侶「ふ〜ん。まあいいわ、とにかく私は勇者にちょっかい出せばいいんでしょ?」
武闘家「ああ、そういうことだ」
僧侶「あっ、もっといいこと思いついたわ」
武闘家「?」
僧侶「あなたが魔法使いに、勇者は僧侶のことが好きって嘘をつくのよ」
武闘家「……」
僧侶「そうしたほうが確実だわ」
武闘家「……それはいいな」
僧侶「ね、そうでしょ?」
武闘家「よし、なら魔法使いには私から言っておく。お前は勇者を頼んだぞ」
僧侶「りょうかぁ〜い」
船着場、宿屋にて
宿屋「えーっと、4名様ですね……承知しました。予約しておきます」
武闘家「はい、よろしくお願いします」
キーバタンッ
武闘家「よし、これで宿はとれた。あとは……」
僧侶「そっちはどうなの? 魔法使いに勇者のこと、伝えた?」
武闘家「え、ああ、そのことか。問題ない、うまく伝えた」
僧侶「っふふ、じゃあ後は私の腕の見せ所っていうわけね」
武闘家「そういうことだな。だが、思ったより早く効果は出始めてる。このまま行けば次の町ぐらいで、関係は悪化するぞ」
僧侶「そうね、でも――」
『助けてくれー!』
僧侶「なに!?」
武闘家「どうやら市場の方からだ。行ってみよう」タッタッタ
僧侶「……なんだか素敵な予感がするわ」ウキウキ
▽
タッタッタ
武闘家「っ!?」
僧侶「!!!」
武闘家「……なんだあれは!?」
僧侶「すごいわ! あんな大きなイカみたいことない!」
武闘家「どこからあんなのが……待てッ! あそこ!」
僧侶「勇者と魔法使いだわ……なんで……って、あのイカと戦ってるわよ!?」
グハッ チョ! ナニヨコイツ!
武闘家「っ! まずい、このままでは勇者が殺られる……」
僧侶「いいじゃない。勇者が死んでこのパーティから抜ければ、あなたの目的も達成でしょ?」
武闘家「馬鹿言うな。勇者が死ねば、魔法使いまで抜けかねない……くそ、どうすれば……」
僧侶「ねえちょっと、勇者、あの呪文やるみたいよ」
武闘家「……あの呪文?」
コレデモクラエ! パルプンテッ!!
武闘家「……」ハァハァ
僧侶「……な、なによ……今の……」フゥフゥ
武闘家「……すごい、衝撃波だった。くそ、耳がキーンとする……」
僧侶「一瞬何か降ってきたように見えたけど……気のせいよね」
武闘家「……それより、魔法使いは」
僧侶「煙が立ってて見えないわ。けど待って……何か聞こえる」
…ダイジョウブカイ?
オマエハ……
武闘家「どうなったんだ?」
僧侶「待って、勇者ともう一人、知らない人の声が聞こえるわ。どうやら、その人が勇者たちを助けたみたい……」
武闘家「それで、魔法使いは?」
僧侶「まって……」
ソレッテ……
アア、カノジョハヒンシダヨ……
僧侶「生きてるけど、瀕死みたいよ」
武闘家「……」
僧侶「どうするの? 私たちも行ったほうが……ん、ちょっと待って!」
武闘家「?」
アノバデパルプンテハ……ッタラフタリトモシンデ……
僧侶「……彼らの話によると、パルプンテがさっきのを引き起こしたみたいだわ」
武闘家「パルプンテが? だがあれは……いや待てよ。……魔法使いは意識がないのか?」
僧侶「ええ、そうみたいね」
武闘家「……っふ」
僧侶「?」
武闘家「……ふふははは! これはいける。いけるぞ!」
僧侶「ちょっとどうしたのよ!」
武闘家「私はな、自分では使うことができないが、魔法には詳しいんだ」
僧侶「まあ、あんなもの作るほどだからね……多少その手には詳しいと思ってたけど」
武闘家「それで勇者が洞窟で、初めてパルプンテを使った時、その効果を私は『固定で400ダメージ与える呪文』といったのを覚えているか?」
僧侶「ええ、覚えてるわよ」
武闘家「だがよくよく考えてみると、そんな呪文ありえないんだ」
僧侶「なぜかしら?」
武闘家「本来魔法とは、術者の魔力に応じてその威力も変わる。そして、相手によってダメージも変わるものだ」
僧侶「まあ、そりゃそうよね」
武闘家「しかし、あの呪文は違う。洞窟ではちゃんと、てきぜんたいに400ダメージ与えていた。だが、さっきはどうだ?」
僧侶「?」
武闘家「敵ではなく、自分たちがダメージを受けている」
僧侶「……」
武闘家「強力すぎる呪文は、自分の魔力にも応じないし、制御することもできない。もしパルプンテがその手の呪文ならば、この呪文は……いわば……そう、スゴロクのようなものだ」
僧侶「スゴロク?」
武闘家「出た賽の目によって、自分に不利か有利かが変わる」
僧侶「……つまり、その時によって呪文の効果が変わるってこと?」
武闘家「そうだ」
僧侶「……でも、それがどうしたのよ」
武闘家「これを利用するんだ。パルプンテの効果をな」
僧侶「……もうっ! 回りくどい言い方はやめてよ! はっきり言って」
武闘家「ならよく聞け。これは私たちの演技によって完成する」
僧侶「……わかったわよ。ほら、話して」
僧侶「っふふ、楽しそうだわ!」
武闘家「お前、こういうの得意だろう?」
僧侶「ええ! でっちあげるのも、演技するのも、どちらも好きよ!」
武闘家「あとは、その勇者を助けた人物だ。彼を信じ込ませれば確実だが……」
僧侶「……それは大丈夫みたいよ。彼単純そうだし、私と同じ臭いがするもの」
武闘家「っ!? ほんとうか?」
僧侶「ええ。煙の隙間から、彼の顔が見えたの。間違いないわ」
武闘家「……なら、お前のことを信じよう。よし、実行するぞ」
僧侶「うん!」ニコリ
タッタッタ
武闘家「勇者!」
僧侶「勇者さん!」
勇者「あっ、みんな!」
◆
スタッ
***「……おや?」
聖騎士「久しぶりだね、元気にしてたかい?」トタトタ
***「これはこれは、懐かしいお顔が……あなたが再びこの地に訪れるとは思いもしませんでした」
聖騎士「故郷なんだ、訪れても不思議じゃないだろう?」
***「ははは、ここはあなたにとって、あまり良い思い出があるようには見えませんでしたから……そうですか、あなたにも郷愁があったのですね」
聖騎士「まあね。それより、頼みがあるんだ」
***「はて、何でしょうか?」
聖騎士「彼をお願いできるかな?」
勇者「」
***「……ほう、そういうことでしたか。この男が何か?」
聖騎士「いろいろとね。けどこれだけは言える、彼を二度と地上に出してはいけない……」
番人「……なるほど、あなたがそういうならきっとそうなのでしょう。わかりました。この番人、謹んでお受けいたします」
聖騎士「お願いするよ」
勇者「」
聖騎士「……勇者くん、っていったかな。君はこれから地獄を味わうことになるだろう……でも、それは君がいけないんだ。人にうまれながら、魔物になった君がね」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士は 番人に勇者を わたした!
番人は 勇者をうけとった!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
番人「確かに受け取りました……」
聖騎士「じゃあ、頼んだよ」
番人「……ええ」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士は ルーラをとなえた!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ビュン
番人「……あなたも不運ですね。なんせこの中で一生を過ごすことになるんですから」
勇者「」
番人「ここは名もない地下牢獄。中は迷路のように入り組んで、一度迷い込んだら二度と日の目をみることはないでしょう……」
勇者「」
番人「もっとも、瀕死のあなたが生きられるかどうかですが……さてと、運ぶとしましょう……」
ズッズッズ
一旦ここまで
ガチャ
バタンッ
聖騎士「やあ、すまないね。ちょっと時間がかかってしまって」
武闘家「あっ、あなたは……すみません汚れ仕事を押し付けてしまい……」
聖騎士「いやいや、だから良いんだよ。それで、彼女の様子はどうだい?」
僧侶「はい。言われた通り、《せかいじゅのは》を煎じて飲ませました。不思議と顔色が良くなってきたと思いますが……」
聖騎士「どれどれ……」スッ
僧侶「……」
聖騎士「……うん、これならもう大丈夫。きっとすぐに良くなるよ」
僧侶「本当ですか!? はぁ〜、よかったぁ……」
武闘家「……ふぅ」
聖騎士「これで一安心だね」ニコッ
武闘家「はい、本当にありがとうございました」
僧侶「ありがとうございました」ペコリ
聖騎士「いえいえ、どういたしまして。良かったよ、助かって」
武闘家「改めてになりますが、私は武闘家と言います。よろしくお願いします」
聖騎士「よろしく武闘家さん。僕は聖騎士」
僧侶「僧侶です。お願いします」
聖騎士「僧侶ちゃんって言うんだ。よろしくね」ニコッ
僧侶「は、はい///」
聖騎士「で、彼女が魔法使いちゃんだね」
武闘家「はい」
聖騎士「この3人……4人だったのかな。君たちは今まで旅をしていたんだよね?」
武闘家「……はい」
聖騎士「……ごめんね、話したくなかったら、話さなくていいよ」
武闘家「いえいえ。我々の恩人にそんな無粋なことは……」
僧侶「……」
武闘家「今までのこと、全て話します。聞いてもらえますか?」
聖騎士「……もちろんさ」
聖騎士「なるほどね、そんなことが。勇者くんは、魔法使いちゃんの前だけ、格好が良かったんだね」
武闘家「はい。……だから魔法使いも勇者のことを信用していて……」
聖騎士「裏切っていた、と。ひどい話だ」
武闘家「確かに、《ひのきのぼう》しか装備できなかった彼を笑ったのは魔法使いです。しかし、それだけの理由で……」
聖騎士「彼は《ひのきのぼう》しか装備できなかったのかい?」
武闘家「はい。原因はわかりませんが」
聖騎士「でもちゃんと、誤ったのだろ?」
武闘家「はい……」
聖騎士「なら、どうして彼は……って、考えても、まもののこころはわからないよね……」
武闘家「それに……あのパルプンテ、きっとあわよくば魔法使いを殺そうと考えていたのかもしれません」
僧侶「……」
聖騎士「……本物の魔物か」
武闘家「……」
僧侶「あの、それで勇者さんは……」
聖騎士「ああ、彼なら……殺してはないよ。殺そうと思ったけど、魔法使いちゃんの今までの苦しみを考えれば、それだけじゃ済まされないからね」
武闘家「では、どうしたのですか?」
聖騎士「二度と出られない迷宮に閉じ込めた、とでも言っておこうかな。とにかく、安心して。彼がもう、君たちの前に姿を現わすことはないから」
武闘家「そうですか……私たちもこれで安心できます」
聖騎士「……それはそうと、君たち、魔王を倒す旅をしているって言ってたね」
武闘家「あ、はい」
聖騎士「そっか……いや、実はね、僕もそうなんだよ」
武闘家「と、言いますと?」
聖騎士「僕も君たちと一緒で、魔王討伐の旅に出ているんだ。それで《一の国》から海で魔王の国まで渡ろうと思ったけど……」
武闘家「今、《一の国》から船を出すことはできませんよ」
聖騎士「そうそう、そのことを聞いてね。あちゃー、また戻らないと。って滅入ってたんだよ、あははは」
武闘家「なるほど……」
僧侶「しかし、聖騎士さんにはルーラがあるのでは?」
聖騎士「うん。でもあれは魔力使う癖に、二人までしか運べないんだ。それに別の理由もあってね」
僧侶「別の理由?」
聖騎士「僕は《十の国》からここまで来たんだけど」
武闘家「《十の国》といえば、魔王の国までそんな距離はないはず……」
聖騎士「そう。けど、そこから魔王のとこまで行くのが大変でね。精鋭という精鋭の魔王軍が壁となって、対峙しているんだ」
武闘家「……だから海を越えて」
聖騎士「そう、直接魔王城に乗り込もうと思った」
僧侶「……」
聖騎士「あー、でもそれができないとなると……僕も彼ら相手に一人で行くのは無理があるなぁ〜」
武闘家「……」チラッ
僧侶「……」コクリ
聖騎士「どうしよっかな……あれもダメだし……これも……」ブツブツ
僧侶「あの、聖騎士さん」
聖騎士「ん? 何だい、僧侶ちゃん」
僧侶「もしよければ、私たちの仲間に加わってもらえませんか? どうやら目的は同じですし……足手まといになるのは、私たちの方ですが……」
聖騎士「い、いいのかい!? いやぁ〜、願ってもないことだよ! 是非是非喜んで!」
僧侶「ですが、まだまだレベルが低く、その精鋭の魔王軍とはとても……」
聖騎士「ああ、大丈夫だよ。ルーラで一気に《十の国》までは行かないさ。確かに魔王討伐は急がなければだけど、焦ってもしょうがないからね」
武闘家「では、どうすると?」
聖騎士「君たちと一緒に歩いていくよ。きっと《十の国》あたりまで行けば、君たちも僕ぐらい強くなってるはずだから」
武闘家「……わざわざ申し訳ない」
聖騎士「良いんだよ。むしろこっちが礼を言わなくちゃ。これからよろしくね、みんな」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聖騎士が なかまに くわわった!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
武闘家「あの、聖騎士さん。一つお願いがあるのですが」
聖騎士「ん? なんだい?」
武闘家「魔法使いが目覚めた時のことです」
聖騎士「?」
武闘家「魔法使いのことなので、勇者がいなくなった原因を知れば、きっと自分を責めるはずです」
聖騎士「……」
武闘家「もう私は、彼女が苦しむ姿はみたくない……」
聖騎士「わかったよ。適当な事情を作るって言うことだね」
武闘家「はい。嘘を吐くのはあまり気持ちの良いものではありませんが……」
聖騎士「うん、わかった。それについては君たちに合わせるよ。僕もこれ以上、彼女を苦しめたくないからね」
武闘家「……ありがとうございます」
聖騎士「ううん、いいってことさ。……おっと、水がきれたみたいだから汲んでくるね」
ガチャ
バタンッ
僧侶「……全部あなたの企み通りね……どう? 感想は?」
武闘家「正直、勇者をこの手で始末したかったが、贅沢は言わないさ……っふ、最高にいい気分だ」
僧侶「これからどうするつもりなの?」
武闘家「私か? あとは魔法使いのそばにいてあげるだけだ。僕が村の、国の、そして彼女の光となってな」
僧侶「……」
武闘家「お前はどうするんだ?」
僧侶「私は……あの聖騎士ちゃんの闇を広げるわ。もっと深く、黒くね」
武闘家「……お前も好きだな。どうだ? 俺を真っ黒に染め上げてみて」
僧侶「あら……あなたは最初っから真っ黒だったわよ」
武闘家「……そう見えてたのか」
僧侶「ええ」
『……うっ、ぅ……っ……』
僧侶「どうやら目を覚ましたようよ、あなたのお姫様がね……」
武闘家「そのようだ」
今日はここまで
といっても、明日まであと20分ぐらいだが
だいたい今日ので、前半の1/3が終わりました
魔法使い「……」
武闘家「……」トコトコ
魔法使い「……」
武闘家「……」ピタッ
魔法使い「……」
武闘家「……」
魔法使い「……」
武闘家「……魔法使い、そろそろ船が出発する」
魔法使い「……」
武闘家「……勇者は……その、きっと生きている。だから……」
魔法使い「……」
武闘家「……」
魔法使い「……そう、よね」
武闘家「……」
魔法使い「あいつの事だから、きっとどこかで適当にやってるか、今頃もう村に……そうよ、きっとそうよ」
武闘家「……」
魔法使い「でもやっぱり……ねえ武闘家。本当に勇者を探しに行けないの?」
武闘家「……魔法使い、私たちには魔王を倒す使命がある。急ぎではないといえ、勇者を探している余裕はない……」
魔法使い「……」
武闘家「私たちが魔王を倒さなければ、村や国の人間が殺されてしまうのだ。勇者一人の命より、ずっと思い……」
魔法使い「……」
武闘家「だから……わかってくれ」
魔法使い「……ええ」
武闘家「行こう、船が出る」
魔法使い「……よしっ、じゃあパパッと魔王を倒しちゃいましょ!」
武闘家「……」
魔法使い「勇者、あんたはそれからよ! きっと見つけ出して、お説教するんだから! ちゃんと……待ってなさいよ……」
武闘家「……」
魔法使い「さぁっ、行くとしましょ!」
武闘家「……ああ」
ブトウカ、ツギハドコヘイクノ? ヨンノクニニアル……
僧侶「手に入れたとはいえ、まだ気持ちは彼のもののようね……っふふ、これからが楽しみだわ」
聖騎士「ん、何かいったかい?」
僧侶「あ、いえ! なんでもないです!」
◇
カンッ カンッ カンッ
オーイ! ソレハヤクソッチハコベェ! ワカッテルヨー!
カンッ カンッ カンッ
イイカゲン、コイツヲドウニカシロ ッテイワレテモナァ……
カンッ カンッ カンッ
***「……水でもかけるかぁ?」
***「なら早くやれ。ここで伸びててもらっても、困る。作業の邪魔なんだ」
***「ったく、人使いが荒れーなぁ。……ほらよっと」
バシャッ
***「……」
***「……」
***「……起きねーぞ」
***「……だなぁ」
***「ったく、しょうがねえ。おい老騎士! 老騎士はどこだ!」
ピタピタピタ
老騎士「……呼んだか」
***「こいつをお前のとこに運んどけ。新入りだ」
***「確か、今回の新入り係はあんただったろぉ?」
老騎士「そうだったか?……まあいい」スッ
***「起きなかったらちゃんと処分しとけ」スタスタ
***「じゃあ頼んだぞぉ」テクテク
老騎士「……」チラッ
勇者「」
老騎士「……フン、まだ若いな。可哀想に」
ズリズリズリ
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……ぅ…………」
老騎士「っ?」スタスタ
勇者「……」
老騎士「……」
勇者「……ゴホッゴホッ!」
老騎士「……」トントン
勇者「……ぅ…………」
老騎士「……」
勇者「……っ……ここは……」
老騎士「最悪の寝起きといったところだな……とりあえず、これを飲め」スッ
勇者「……ん」ゴクゴク
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者は アモールの水をのんだ!
勇者のキズが かいふくした!
▼
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者「……ふぅ」
老騎士「どうだ? マシになったろ」
勇者「……ん、ああ」
老騎士「しかし大したものだ。あれほどの傷から起き上がれるようになったとはな」
勇者「?」
老騎士「お前のことだ。ここにボロボロのまま捨てられてたんだぞ」
勇者「……俺が?」
老騎士「そうだ。あの番人にでもやられたのか?」
勇者「番人?」
老騎士「はぁ、どうやらそれ以前の話みたいだな」
勇者「……」
老騎士「まあいい、まだ寝てろ。あの水はもうないし、俺も仕事がある。無駄な力は使いたくないんだ。自力で治せ」ヨイショ
勇者「ぁ、おい、待ってくれ。ここはどこなんだ」
老騎士「あ?……そうか、それも知らないのか……」
勇者「……」
老騎士「……はぁ、それはまたあとで教える。今はいいから寝てろ」
勇者「寝てろって……あんた、名前は?」
老騎士「……老騎士だ」
勇者「そうか、老騎士。なんか助けてもらったみたいだ、ありがとう。俺は勇者っていう」
老騎士「……そうか」スタスタ
勇者「……なんなんだいったい」
トコトコ
ピタ
老騎士「どうだ、良くなったか」
勇者「……ぁ、あんたか。ああ、おかげさまで。立ち上がれるぐらいに」
***「そうか、そりゃよかった」
***「へっへっへ、最初見たとき死んでると思ったのによぉ」
勇者「っ! 誰だお前ら」
罪人A「おい、新入り。口の利き方には気をつけろ。俺は、今日からお前の先輩にあたる、罪人Aだ」
罪人B「同じく罪人Bだぁ。新入りしっかり働けよぉ」
勇者「先輩? 働く? 一体なんのことを……」
罪人A「あぁ? なんだこいつ」
老騎士「……実は、詳しくはわからないが、ここに来たわけも知らされてないらしい」
罪人A「……」
罪人B「……ぇ」
勇者「……?」
罪人A「……っはははは! こりゃあ傑作だ! 何も知らないでここに来たのか!」
罪人B「傑作ぅ傑作ぅ!」
勇者「な、なんのことだよ。それよりここどこだ」
罪人A「じゃあ教えてやるよ新入り。いいか、耳の穴かっぽじって良く聞け」
罪人B「良く聞けぇ新入りぃ!」
罪人A「ここは許されぬ罪を犯した人のみが入れられる、牢獄さ」
勇者「は? 牢獄?」
罪人A「そうだ。ここに入ったらもう二度と出ることはできないし、一生鉱夫として働かせられる」
勇者「何言って……」
罪人A「お前もここに入れられたってことだから、きっとたいそうなことをやらかしたんだろうな。その若さで残忍なやつだ。はっはははは!」
勇者「待て、俺は何も!」
罪人B「何もぉ? じゃあなんでここに連れてこられたんだぁ?」
勇者「なんでって……そういえば………」
罪人B「ぁ?」
勇者「っ!? そうだっ! 俺は船着場で魔物と戦って、それで!」
罪人A「まもの?」
罪人B「?」
老騎士「……」
勇者「そうだ……なんであいつらあんなこと……」
罪人A「おい、何ブツブツ言ってんだ」
勇者「俺は何もやってない! 物の盗んだわけでも、人を殺したわけでもない! ただ、魔王を倒すために旅をしていただけだ……なのにあいつら……」
罪人A「よくわかんねぇが、とにかくだ。これから毎日、お前はこのツルハシを持って金を掘るんだ。わかったな?」
勇者「……」ブツブツ
罪人A「……っち、まあいい。老騎士、詳しいことはお前が教えとけ。――せいぜい頑張ることだな、新入り」トコトコ
罪人B「がんばれよぉ」テクテク
勇者「どうして……あんな嘘を……」
老騎士「……」
勇者「……」
老騎士「……おい」
勇者「……」
老騎士「なんだか知らないが、身に覚えがない罪で連れてこられたようだな」
勇者「……」
老騎士「だがこれだけは言っておく。罪人Aの言っていた通り、ここからは二度と出られない」
勇者「……」
老騎士「だから、あとのことを考えるより、今のことを考えろ。じゃなきゃ死より悲惨な目にあうことになる」
勇者「……」
老騎士「……おい、聞い――」
勇者「俺は、あいつらのことみんな仲間だと思ってた」
老騎士「あ?」
勇者「なのにあいつら、俺が魔法使いに酷いことしたって……それで……」
老騎士「……」
勇者「俺にもさっぱりだよ。なんでああなったかもわからないし、何でここに連れてこられたのかもわからない……もう、何もわからねーよ……」
老騎士「……と、言われてもな」
勇者「……」
老騎士「……お前、その仲間とやらに裏切られたんだろ?」
勇者「……」
老騎士「違うのか?」
勇者「……そう、なのか?」
老騎士「なのか? って聞かれてもな……じゃあ、その仲間から酷い仕打ちにあったんじゃないのか?」
勇者「……ああ。たぶん」
老騎士「じゃあそうだ。お前は仲間にハメられたんだ。それでここに連れてこられた」
勇者「なんでそんなことを」
老騎士「わけなんて知らない。お前がそいつらに何かしたんじゃないのか?」
勇者「そんなことしてねーよ! 確かに、戦闘では足手まといだと自覚していた……だけど!」
老騎士「戦闘? そういえばお前、何かの旅をしていたとか言ってたな」
勇者「ああ。王様から魔王を倒すためにって、旅に出されたんだ。それで俺、《ひのきのぼう》しか装備できなくて、魔物との戦いで……」
老騎士「待て、《ひのきのぼう》しか装備できない?」
勇者「え? あ、ああ。《ひのきのぼう》しか装備できないみたいなんだ、俺。……ほらこれだよ。この《ひのきのぼう》」
老騎士「……」
勇者「って、あれ? なんで他の防具は脱がされてたのに、これだけ持ってるんだろ……」
老騎士「おい、それかしてみろ」
勇者「えっ、これか?」
老騎士「ああそうだ。早くしろ」
勇者「……別にいいけど。ほら」スッ
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勇者は ひのきのぼうを わたそうとした!
しかし 不思議な力で わたせなかった!
▼
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勇者「……あれ? あれ??」ポンッポンッ
老騎士「……」
勇者「なんでだ? くそっ」
老騎士「……もしかして、手から離れないのか?」
勇者「ああ、よくわかねーけど、手が握ったまま離そうとしないんだ」
老騎士「……やはりな」
勇者「え?」
老騎士「お前の仲間は裏切ったというより、最初からそのつもりだったようだ」
どんちき♪└(^ω^ )┐・┌( ^ω^)┘どんちき♪
勇者「おい、それってどういう……」
老騎士「……ハァ、これまでそれに気づかなかったってことは全員グルってことか……」
勇者「?」
老騎士「……まあいい。そんなのことはもう関係ないだろう」
勇者「お、おい! そこまで言ったなら教えてくれよ!」
老騎士「いいだろう、だがまた今度だ」
勇者「え、なんで」
老騎士「言ったはずだ。後のことを考えるより、今のことを考えろとな。どうせここからは出られないし、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり話してやるよ」
勇者「な……出られないって、そんなのまだわからないだろ!」
老騎士「出られない。お前こそ、ここに来たばかりで何がわかる」
勇者「……」
老騎士「いいか、勇者とやら。ここに入ったら一度、出ることはできない。それだけは頭に入れとけ」
勇者「……」
老騎士「……あと、そうだな。もう一つ頭に入れよくといいものがある。それはここでも役に立つことだ」
勇者「……なんだよ」
老騎士「他人を信じないことだ。どんなに優しく、親切にされてもな」
勇者「……」
老騎士「絶対に、他人を信じるな」
勇者「……んで、さっきの罪人A? たちが言ってた、一生鉱夫として働かされるって……なんのことだ?」
老騎士「ああ、それは話しておかないとな」
勇者「ここは牢獄なんだろ? なのに働くって……」
老騎士「たしかに牢獄だが、地獄でもある。なんせ俺たちはここで一生、金を掘らなきゃいけないからな」
勇者「金を掘る?」
老騎士「そうだ。このツルハシでな」スッ
勇者「……なんでそんなこと」
老騎士「この牢獄は、もともとは坑道だったらしい。しかしあまりにも深く掘り進めたため、迷路のようになってしまったそうだ」
勇者「迷路……」
老騎士「それが罪人を入れとくには都合が良かったのだろう。あいにく、金はまだ掘れば出るし、長い迷路になっているから脱走の恐れもない」
勇者「……」
老騎士「それがここから出られない理由の一つだ。地図がなきゃ先に進むことさえできない」
勇者「……じゃあ、他の理由は?」
老騎士「……看守たちの存在だ。これが厄介でな、俺たちを日々監視し、管理する」
勇者「なら、みんなで団結して暴動を起こせばいいんじゃないか? ここにいるのは相当やばい罪人なんだろ。看守ぐらい……」
老騎士「簡単に言うが、看守たちを見ればそれができないとすぐにわかる」
勇者「……な、なんでだよ」
老騎士「その看守たちが人間じゃないからだ。俺たちより数倍でかくて強い、魔物だからだ」
勇者「っ!?」
老騎士「そんな奴ら相手にツルハシ一本でたち向えると? 捕まって罰を受けるだけだ」
勇者「……」
老騎士「それができないとわかっているから、皆ただただ従うだけなのさ」
勇者「……」
老騎士「それにその罰ってのがやばい。それを避けるために、みなサボらず働らいている」
勇者「罰?」
老騎士「ああ。その時によって違うが、とにかく酷く、苦痛を味わうものだ」
勇者「一体どんなことを……」
老騎士「そうだな。俺はここに来て40年になるが……」
勇者「40年!? 40年もこんなとこにいんのか!?」
老騎士「ああ、20の頃に連れてこられてからずっとだ」
勇者「そんな長くいるんだな……」
老騎士「まあな。だが、ここではこれぐらい普通のことだ。もっと長いやつだってウジャウジャいる。……まあそんなことはいい」
勇者「……」
老騎士「俺が罰を受けたのは全部で3回。どれも死にたくなるほど辛かった。1回目は、魔法で幻覚を見せられたよ。自分の心の中で最も大切な人を、自分自信が拷問する幻覚をな……」
勇者「……」
老騎士「その時の俺は罪を犯して入れられたばかりだった。思わず殺してくれと叫んだよ」
勇者「2回目は……」
老騎士「2回目はいろんな動物の屍と一緒に、何日間も狭い空間に詰め込まれた」
勇者「……」
老騎士「そのうち腐臭とともに、ハエやウジがたかり始めるんだ。それが身体中を動き回るのが苦痛でしょうがなかったな」
勇者「……3回目は」
老騎士「3回目は何度も皮を剥がれた。で、剥がれるたびに呪文で回復された。それをどれくらいだったか……とにかくずっとやられてたな」
勇者「……」ゴクリ
老騎士「……ッフ、なぜそこまでやられて、自ら死なないのか、といった顔だな」
勇者「……」
老騎士「皆誰でも一度罰を受ければ、考えるさ。けどな、ここでは死ぬことすら許されない」
勇者「……死ねないのか?」
老騎士「ああ。このツルハシで首を掻き切ろうと、岩に頭をぶつけようとな」
勇者「それって……」
老騎士「看守がすぐにやってきて、ザオリクをかけるんだ」
勇者「ザオリクって……瀕死の状態から復活させる呪文のことか?」
老騎士「そうだ。完全に魂があっちに逝かないかぎり、人間というのは死なない。奴らはそうさせる前に、呪文をかけてくる」
勇者「……」
老騎士「それに死のうとしたら罰を受ける。死ねないとわかっていて、自ら罰を受けるほどここの連中は馬鹿じゃないんだ」
勇者「……」
老騎士「これでわかったろ。お前が働かないといけない理由を。ただ黙って働けば、苦痛を味わうこともない」
勇者「……あ、ああ」
勇者「それで、このツルハシを使って金を掘ればいいのか?」
老騎士「そうだ。毎日、休憩の時間までずっとだ」
勇者「……大変そうだな」
老騎士「まあな。だが罰を受けるよりかはマジだ。それに、1日に4回の休憩がある。1、2、3回目はそれぞれ1時間、4回目は睡眠を含めた4時間だ」
勇者「それしかないのか!?」
老騎士「あるだけマシだ。――今でちょうど2回目の休憩だ。お前には次から参加してもらう。わかったな?」
勇者「あ、ああ。そのツルハシで掘ればいいんだろ?」
老騎士「そうだ。掘り方や、金鉱石の見極め方は周りの連中を見て覚えろ。とにかく、サボらないことだ」
勇者「……わかった」
老騎士「……お前には同情する。俺も覚えのない罪でここに来たからな。だが忘れろ。ここで求められるのは働く手足のみだ」
勇者「……」
ゴォ〜〜ン……
老騎士「休憩の終わりの合図だ。行くぞ、さっさと立て」
勇者「……ああ」
看守「時間だ囚人どもぉおおお! 働けぇぇえええ!」
老騎士「見ろ、あれが看守だ」
勇者「……」ゴクリ
老騎士「勝てる気がしないだろ?」
勇者「……ああ」
老騎士「あれに加えて、もっとおっかない看守長。さらにここの入り口に番人という怪物がいる。脱走なんてもう考えないことだ」スタスタ
勇者「……」トコトコ
罪人A「おっ、きたな新入り」
罪人B「来たなぁ新入りぃ!」
勇者「……」
罪人A「だいぶ状況は理解したみたいだな……ちゃんと教えたんだろ? 老騎士」
老騎士「ある程度はな」
罪人A「……フン。ならあとは、サボらずひたすら作業に励むことだ。ほらよ」ホイ
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罪人Aは ツルハシをわたした!
▼
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罪人A「お前のツルハシだ。これでどこでもいいから掘れ。壊れたら看守にいえば、新しいのと交換してもらえる」
勇者「……」
罪人A「わかったらさっさといけ。ほら!」
老騎士「行くぞ。こっちだ」スタスタ
勇者「……」トコトコ
罪人B「ははぁ、がんばれよぉ〜」
カンッ カンッ カンッ
老騎士「……」カンッ
勇者「……」
老騎士「……」カンッ
勇者「……」
老騎士「……」カンッ
勇者「……」
老騎士「……おい、勇者。何やってんだ!」
勇者「いや、それが……」
老騎士「言ったはずだぞ。サボったら罰を受けるとな。まさか……掘り方がわからないとか言うんじゃないだろうな」
勇者「いや違う! 掘り方の前に、ツルハシが使えないんだ!」
老騎士「ツルハシが使えない? そんな馬鹿なこと…………っ!」
勇者「……」
老騎士「そうかお前! くそ、厄介なことになった……」
勇者「お、俺どうすりゃ……」
老騎士「とにかく、働かなければ罰を受けることになる。そこにネコがあるだろ、それで俺たちの掘った金鉱石を集めて運ぶんだ」
勇者「ネコ? ネコなんてどこに……」
老騎士「違う、そうじゃない。ネコとは手押し車のことだ。ほら、そこにあるだろ。何個か金鉱石が入っている……」
勇者「これのことか」
老騎士「そうだ。みんなのとこにいって、金鉱石を集めてこい」
勇者「わ、わかった」
ガラガラ
老騎士「……呪いとは厄介なものだ」
今日はここまで
また書き溜めてから投下します
休日なのでちまちま投下
ガラガラガラ
罪人A「あ? おい新入り! お前ネコ持って何やってる!」
勇者「え……いや」
罪人A「まだ全然入ってねえじゃねーか。そんなぽっちで持ってく気か? サボりと思われるぞ」
勇者「ちがう、みんなから金鉱石を集めてる」
罪人B「金鉱石を集めてるぅ?」
勇者「訳あってツルハシが使えないんだ。だからその代わりに、金鉱石をみんなから回収して、運べって老騎士が……」
罪人A「ツルハシが使えない? 何言ってんだこいつは」
罪人B「はっははは! 傑作だぁ〜!」
勇者「……」
罪人A「まあいい。ならさっさと持ってけ。俺たちはその分、楽になるだけだからな」
罪人B「ありがとなぁ〜、新入りぃ!」
勇者「……」
罪人A「……フン、不思議そうな顔をしているな新入り。まさか、採掘作業より運ぶ方が楽だと思ったか?」
勇者「……」
罪人A「ここに楽な仕事なんてない。そのネコが、金鉱石でいっぱいになればわかるはずだ。押すだけでもひと苦労ってことがな」
罪人B「そうだぞぉ〜。あとそいつは坂を登った先まで運ばなきゃなんねぇ〜からなぁ。キッツイぞぉ〜」
勇者「……だけど、俺にはこれしかできない。やらなければ、罰を受けるんだろ?」
罪人A「ああそうだ。よくわかってるじゃねえか――まあ、罰を受けないよう頑張ることだ」
罪人B「がんばれよぉ〜」
勇者「……」ガラガラガラ
ガラガラガラ
ドサッ
勇者「……」ハァハァ
看守「ほぉー、随分たくさん持ってきたな。でかい鉱脈にでも当たったか?」
勇者「……いや……これは俺が掘ったわけじゃ…………」ハァハァ
看守「あん? そういえばお前、見ない顔だな」
勇者「……ああ、来たばかりだから」ハァハァ
看守「あー、じゃあお前があの……。そうか、生きていたか」
勇者「……」ハァハァ
看守「あの時死んでいればよかったのにな。もう二度とあんなチャンスはないぞ」
勇者「っ? それって、どういう……」
看守「聞かされてないのか?」
勇者「……何を」
看守「何って、お前が瀕死の状態で、ここに連れてこられた時、俺たちは手を出さなかった。ザオリクで一発で治せたけどよ」
勇者「……」
看守「番人のおっさんが、手を出すなって言ったんだ。だから俺たちも、お前を放ったらかしにしたんだよ」
勇者「え……」
看守「運が悪かったな。あの時死んでたら、これから地獄を味合うこともならなかったのによ。恨むなら、助かった自分を恨め」
勇者「……」
看守「それにしても大した生命力だ。あんな状態から復活するとは……でもその力は、ここでは役に立つ。――ほら、話は終わりだ。さっさと仕事に戻れ!」
勇者「あ、ああ……」スタスタ
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期待!