八幡「346プロダクションに入社した」 (278)

ヒッキーが高校卒業後都内の大学へと進学、そして346プロに就職したら。という話。
デレマスアニメの流れに沿って構成していく予定。
俺ガイルキャラとの関係は勝手に妄想している。
ヒッキーとデレマスキャラを絡ませたいだけ。
平塚先生は独身。

以上の事柄にご注意の上、ご覧ください。
読みづらいとかあったら言ってください。企画検討します。

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「お兄ちゃん。会社の人に迷惑かけないようにするんだよ」

両親が出払っているいつもの比企谷家の食卓。机に並ぶ目玉焼きやトーストをかじっていると、小町が唐突にそんなことを言ってきた。


「まるで、気を付けてないと俺が会社に迷惑をかけるみたいに聞こえるぞ」

「だってごみいちゃんだよ?」


俺の人生の転機といっても過言ではない高校生活はもう過去の出来事だ。
都内私立大学の文系に進んだ俺は、芸能プロダクションに就職した。もちろんアイドルやモデルとしてではなく、裏方としてだ。つまりはサラリーマン。
芸能関係者というのは、賃金が非常に高い。日本人の平均年収は500万円程度といわれているが、実はそのデータの中央値というのは、平均から大きく下がって250万強なのだそうだ。では、どういった職種の人間が平均値を引き上げているのかというと、医者や政治家や公務員、芸能・テレビ関係といったものである。つまり、芸能関係者とは勝ち組なのだ。
まあ、面接を受けてみたら受かってしまったという話で、つまりは運が良かったというしかない。俺は、世間の大学生が避けて通れない道であろう就職というものを早々に切り上げることに成功した。就活生的に考えて、俺マジ勝ち組。
さんざん専業主婦が良いと喚いていたものの、現実はそういうわけにもいかないもので、しっかりと社会人としてやっていかなければならないのである。世知辛いったらありゃしない。
と、いうわけで、今日は比企谷八幡の記念すべき初出勤日なのだった。


「それにしても、まさかお兄ちゃんがアイドル事務所に就職するなんてね。小町、夢にも思わなかったなぁ…」

「俺もまさか受かるとは思ってなかったよ。大グループお抱えの事務所なわけだしな」


346プロダクション。総合芸能企業である346グループが持つ、アイドル関係の会社だ。規模でいえば業界でも5本の指におさまるほどのものであり、ありていに言えば大企業。順当にいけば、俺は勝ち組街道まっしぐらだ。

「お兄ちゃんがアイドルのお世話をするわけでしょ?コミュ障のお兄ちゃんにできる仕事だとは思えないんだよねー」


確かにな。プロデューサーやマネージャーというと、アイドルとのコミュニケーション、信頼関係が大切な事柄となるのだろう。俺にはあまり向いていないことは確かだ。しかし。


「ばか言え。俺は事務配属なんだよ。コミュニケーションなんて最低限に抑えるに決まってる」

「…まあ、平常運転で安心したというか、やっぱりごみいちゃんというか」

「ほっとけ」


食事と会話を早々に切り上げ洗面所へと向かい、首にネクタイを巻き付ける。シャツやスーツに変な折り目などはなし。寝癖も大丈夫…よし。


「小町―」

「はいはーい?」


ちょうど食事を終えた小町が洗面所に顔だけをひょっこり出す。あざといなぁ。


「お前、今日は何限から?」

「1限だよ。お兄ちゃんはもう出るの?」

「おう。送ってやるからそろそろ準備してくれ」

「りょーかいしましたーっ!いやー、優しい兄を持つと幸せだな~」


わざとらしくビシッと敬礼のポーズを決める小町を追い払い、俺も忘れ物がないかチェックをする。
大学時代は東京に一人暮らしをしていたのだが、卒業とともに実家へと戻ってきていた。どうせ会社も東京なので、もう一度独り暮らしを始めるのだが、前の借家は親名義のアパートであったため、そちらとは契約を切り、再度入居先を探すことになった。それまでは千葉の実家からの通勤となる。しかし満員電車に揉まれるのが嫌なので、車で通勤をすることにした。そして、小町の送迎に駆り出されてしまっているのだ。どうも、この妹は実家から通学することに心を決めているらしい。

「うし、忘れ物はないな?」

「もー、小町はもう子供じゃないんだよ?自分が社会人になったからって、ちょっと大人ぶりすぎー」


小町の言う通りだ。新しい環境に対して少し浮足立っているのかもしれない。俺自身、芸能界に足を踏み入れることにどこか幻想を抱いているのだ。有名人と会えるかもしれないというだけでテンションが上がってしまうのは、俺だけではないと思う。


「れっつごー!」

「はいはい」


家の鍵を閉め、車へと向かう。新天地に思いを馳せながら。

346プロダクションの事務所は、高層マンション丸ごと1つという、大変大規模なものである。その高さもさることながら、敷地面積もかなりのもの。駐車場も大きく、こうして車で通勤できるのも、その恩恵である。
フロントにて受付を済ませ、指定された階層へと向かう。そこが俺の、というより、事務員の作業スペースとなるわけだ。エレベーターの表示を見る限りでは、どうやらアイドルが使いそうなレッスンルームや各プロデューサーのデスク等は別階層にあるようで、アイドルたちとの接触は少ないのかもしれない。


「おはようございます」

「あ、おはようございます。比企谷君、改めてよろしくお願いしますね。事務員の千川です」

「お世話になります」

「こちらこそ」


この丁寧口調な蛍光色お姉さんは千川ちひろという。俺の直属の上司に当たる人だ。こうして正式に配属される以前から、研修としてライブや撮影の現場に行かされてはいた。その際、現場までついてきて様々な指南をしてくれたのがこの人だった。
…しかし、こうしてデスクに座っている姿を見ても本当にアイドルにしか見えないんだよなあ。最初に声かけられたときだって、アイドルかと思ってきょどりまくったもの。恰好が格好だから、こればかりは勘違いしても仕方がないと思う。


「比企谷八幡です。出身地は千葉です。わからないことばかりで迷惑をかけるとは思いますが、よろしくお願いします」


改めて他の事務員に自己紹介をし、まばらな拍手とともに迎え入れられた。これで第一印象は悪くないはずだ。そして、気に入られそうな挨拶でもない。仕事のことだけは普通に話し、休日に釣りなどに誘われないような関係を築いていきたいものだ。
新人の挨拶もそこそこに、それぞれが業務に入っていく。俺も机をあてがわれたことだし、早速書類の整理とかやらされるのかしら。


「とりあえず、今日は一通り業務について説明をしていきますから、頑張ってついてきてくださいね」

「はい。お願いします」


こうして俺の社畜道が始まっていくのかと思うと、なんともやりきれないものがある。

あー、疲れた。パソコンとずっとにらめっこしてたせいか、肩は痛いし目はごろごろする。昼休みになったので解放されたが、あと4時間は確実に束縛されるのかと思うと嫌気がさす。初日からすでにバックレたいまである。そのうち残業とかも当たり前のように課されることになるだろうから、やっぱり俺みたいな根性なしは働くべきではないな、うん。なんてぼやいても仕方がないので、会社の敷地内にあるカフェに行ってみることにする。


「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですかー?」

「……」


注文を取りに来たのは、十代後半くらいであろうメイドさんだった。え?ここってメイド喫茶なの?芸能界ではこれが当たり前なの?
戸惑っててもしょうがないか。とりあえず注文を済ませてしまおう。

「ランチセットAをください」

「はい!Aセットですね!お飲み物は何になさいますか?」

「MAXコーヒーで」

「ここは千葉じゃありませんよ!?」


ん?このメイド、千葉県民なのか。しかしいいつっこみだ。あと、よくわからないが平塚先生の顔が脳裏に浮かんだぞ。全然タイプ違うのに。


「ホットコーヒーで」

「あ、はい。承りました。少々お待ちください」


人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい。高校時代はそんなことを言っていたような気がする。いつからか、コーヒーの苦さが癖になっていた。自分の心境と溶け合うようで、心地よさを感じるほどになった。
今ではコーヒーに練乳も砂糖も入れていない。マッ缶は飲むけどね、うん。千葉県民のソウルドリンク…あれはコーヒーではないのだ。


「比企谷君、少しお時間いただけませんか?」

「はぁ…」


5時になり、まばらに人が帰り始めたので、俺も帰ろうかと思っていたら呼び止められてしまった。ちょっと初日から残業とか聞いてないんですけど。いやだわ。この会社ったら全然ホワイトじゃない!
エレベーターに乗り込み、俺たちが向かったフロアは、どうやらスタジオのようだった。


「今、比企谷君が担当するアイドルたちが宣材の撮影をしています。見学ついでに、彼女たちを紹介しようと思いまして」

「担当?」

「比企谷君には、主にシンデレラプロジェクトの14人を担当していただきます。とはいっても、書類作成や裏方がメインの仕事になりますから、残念ながら、あまりアイドルたちと関わる機会はないんですけどね」

「はぁ…そうですか」

「みんなデビュー前の新人さんで、初々しくってとってもかわいいですよ」


初々しいアイドルとか最高ですね!絶対に関わりたくないです!新人アイドルとかあれだろ。自己意識の塊みたいなもんだろ。自分がモテちゃうとか勘違いするあれ。ちょっと差し入れとか持って行っただけでその気になって、露骨に警戒とかしてきてうっとうしいことこの上なさそう。あれだからね?差し入れとかそういうのって、社交辞令の一種なのであって、接待みたいなもんだからね?
撮影現場に着くと、私服姿であろう女の子が14人と、明らかに衣装だろうなぁという格好の女の子が1人の合計15人いた。なんたらプロジェクトのメンバーが14人ということだから、おそらく私服の子たちがそれなんだろう。というか衣装の子は見覚えがある。カリスマギャルの…処女ヶ崎美嘉?だっけ?
それよりも、関係者らしき人に交じっている大男の方が気になる。


「…なんかやくざみたいな人いるんですけど」

「ふふっ、あの人は彼女たちの担当プロデューサーさんですよ」


へー、あれがプロデューサなんだー。確かに女の子を風俗嬢とかにプロデュースしてそうな貫禄はある。

「前川みくにゃ!よろしくにゃん!」

「城ヶ崎莉嘉だよー!カリスマJCモデル目指してまーす!」

「赤城みりあです!いっぱいかわいいお洋服着るんだー」

「ミーナザヴートアナスタシア。えっと、アーニャと呼んでください」

「新田美波です。よろしくお願いします」

「おっすおっす!きらりだよー!よろしくにー☆」

「多田李衣菜。ロックなアイドル目指してます」

「三村かな子です。あの、よかったらお菓子食べますか?」

「あ、あの、緒方智絵里…です。あの、よろしくお願いします」

「フッフッフ…我が名は神崎蘭子。血の盟約に従い、ともに魂の共鳴を奏でん!」

「島村卯月です!がんばります!」

「本田未央です!よろしくね!」

「渋谷凛。よろしくお願いします」

「…双葉杏―。なんか、同じ匂いがする気がするよ」


「…事務員の比企谷です。よろしく」


以上14名が、俺が事務担当をするアイドルたちだ。…濃いな。キャラ立ちすぎなんじゃないの。猫いるし。あのゴスロリの子とか、完全に邪気眼使いじゃねーか。高校の時にいた材何とかを思い出したぞ。思い出せてねーなこれ。
アイドルとしてはあれで正解なのかもしれないが、日常生活からあれなのだとしたらちょっと痛すぎる。あとそこの寝転んでるやつ。一緒にするな。もらったお菓子を食べながら、そんなことを思った。

新人アイドルたちの撮影は、どうやら概ね順調に進んでいるようだった。緊張の色も見え隠れするが、彼女たちの個性を存分にアピールできているということは感じられた。
しかし、3人だけ硬い。いや、厳密にいえば2人が硬くて1人は自由奔放すぎる。宣材にならなそうなポージングをとっていて、お前がセクシー路線で売るのはどうにも似合わない気がするぞ。カメラマンにも指摘を受けていて、結局時間をおいて撮り直すことに。


「なんか、上手くいってないみたいですね」

「まあ、彼女たちも慣れていないでしょうから。これから少しずつ慣らしていけばいいと思いますよ」


ほー。流石、慣れていらっしゃる。この千川さん、見た目はかなり若くて、ひょっとしたら同い年くらいかもしれないと思ってしまうほど。しかし、こういった余裕のある立ち振る舞いとか、そういったところが大人っぽい。どこかの高校教師とは違うのだ。あの人未だに電話とかメールよこしてくるからなぁ…。今ではいい飲み仲間です。ホント、いい加減誰かもらってあげてくれ。

休憩をはさんで取り直してみたのだが、やはりぎこちない。特に、黒髪の子なんかはいかにも渋々やっているといった感じが前面に出てしまっている。アイドルって好きでやるものじゃないのかしら。
と、ここでボールが投入された。どうやら例のプロデューサーが入れたらしい。


「3人一緒に撮るから、いつもみたいにワイワイやってみて」


なるほど。確かにぎこちない感じはあるから、一度体をほぐしてやった方がいいのだろう。ああ見えて、あのプロデューサーはアイドルの扱いに慣れているのかもしれない。
パス、トス、スパイク。バレーボールお決まりの三段アタックが決まったところで、今度はドッヂボールへ。つか、あのスパイクしてた子飛ぶなー。バレー部入った方がいいんじゃないですかね。あと、そのスカート丈でそれは(俺の精神衛生上)よくないと思いました。

ある程度体を動かしたところで宣材撮影に戻った。今度はうまくいっているみたいだ。自然に笑えていて、これならばOKが出るだろう。そして、各々の撮影が終わったところで集合写真を撮り始めた。プロデューサーと俺も誘われたが、辞退しておいた。ちょっとどんな顔して写ればいいのかわからないしな。


「ただいまー」

「お、社会人お帰りなさい」


やっとの思いで帰宅できた。ホントに疲れたんですけど。明日も明後日も毎日続くと思うと本当に気が滅入る。あと、案外大企業ってホワイトじゃないことがよく分かった。


「お風呂にする?ごはんにする?それともこ・ま・ち?」

「あ、飯外で食ってきたわ。連絡忘れてた」


道中に気になるラーメン屋があって入ってしまった。あと、何か聞こえた気がしたが全力でスルー。


「えー!食べてくるなら連絡してよー。作っちゃったじゃん」

「悪い悪い。明日の朝にでも食うよ。とりあえず風呂もらおうかな」


適当になだめて自分の寝室へと向かう。この部屋も大学時代には小町の物置へと変貌していたが、戻ってきた際にすべて持ち主の部屋に突っ込んでやった。よって今では普通の寝室へと元通りである。帰省の時とかはソファーに寝ざるを得なかったからなぁ…。
スーツを脱いでいると、内ポケットに入れていた携帯が震え出した。


「げっ」


平塚先生だった。この人、俺しか友達がいないんじゃないのってくらいの頻度でかけてくるんだよ。今度は何なんだろうか。また友達が結婚しちゃって~って話だろうか。毎回俺に愚痴るのはやめてくれないかな。かわいそうすぎてもらいたくなっちゃう。ホント誰かもらってあげて。


「…もしもし」

『おお、比企谷か。仕事はどんな感じだ?』

「…出勤日なんて話しましたっけ」

『いや、君の妹から聞いた』


ねえ。毎度毎度俺のプライバシーってどうなってんの?妹から全部筒抜けっておかしいでしょ。


『で、どうなんだ?君が周りに大きな迷惑をかけるようなことはないと思うが』

「まぁ、わからないことだらけですけど、とりあえずは大丈夫ですかね」

『ん、そうか。下っ端はいろいろと押し付けられるもんだからな。面倒だろうががんばれよ』

「…はい。あと、すみませんでした」

『は?なにが?』


友達いないとか売れ残りとか思っててすみませんでした。
この人は多分、心配でわざわざ電話をしてくれたのだ。卒業してなお、俺はこの人にとっては手がかかる問題児なのだろう。全く、面倒な先生に恵まれてしまったもんだ。


「いえ、こっちの話です。今度ラーメンでも食いに行きませんか。今日開拓したところが結構美味かったんでぜひ」

『お、いいな。楽しみにしとくよ』

いろいろと他愛のない話をした。今年度の奉仕部は新入部員が1人だけ入ってきたこと、それが奉仕部時代に会った鶴見るみであることなど。ちなみに、あの奉仕部は生徒会長にもなった小町の影響か大変人気があり、現在では10名以上の部員を抱えているという。
しかし、この人もなかなか異動にならない。いったい何年総武高に居座り続けるつもりだろうか。
そういった話の中で上がってきたのは、意外にも俺の職場の話だった。

『あ、そうそう。私の高校時代の同級生が346でアイドルをしていてな。もし知り合うことがあればそいつも含めて3人で飲みに行かんか』

「え?アイドルやってるんですか?でも先生と同い年ってことはおば――」

『あ”?』

「――なんでもないです」


怖え。
30超えてからというもの、歳の話に関しては本当に冗談が通じなくなってきた。早く誰かもらってあげてくれ。主に俺の安全のために。


『安倍奈々というやつだ。小柄で童顔だから、もしかしたら10代に見えるかもしれないな』

「まあ、アイドルのプロフィール資料とか見れるんで、わかると思いますよ」


社内の資料を私的に使うのはおそらくまずいのだろうが、しかし、悪用する訳でも外部に漏らすわけでもないのだから、ここは大目に見てほしいものだ。

『そうか。もし会ったら私が独身飲みに誘っていたと言っておいてくれ』


ああ、そのアイドルも独身なのか…。つか、自分で連絡すればいいんじゃないのか?


『いや、携帯の番号は知らないんだ。前は実家に電話していたんだが、最近家を出たらしくてな。今はどこに連絡したらいいのかわからん』


なるほど。先生の学生時代には携帯電話は普及してなかったんですね。

毎回このくらいの量を投下していく予定。週1くらいで投下できたらいいな~といった具合です。

いろいろと申し訳ありません

キャラの名前に関しては自信がなかったため調べながらの作業だったのですが、思い切り間違えてしまいました。
正直戸惑っています。どうしてこうなった

菜々さんの年齢はデレステにて27歳であることがほぼ確定しましたね。
しかし、アニメでは大分体にガタが来ている表現が多く、さすがに20代でこれはないだろうと。
そういった意図を込めての30歳前半という設定に落ち着きました。でも問題ないよね。だって永遠の17歳だもの。

エタりません(重要)


以下、投下します

宣材撮影が行われた日以来、特に大きなイベントはなかった。なにせ新人アイドルたちの担当であるため、まだ仕事らしい仕事がないのである。彼女たちに来る仕事のほとんどはどうやらプロデューサーが処理しているらしく、俺の仕事といえば先輩から押し付けられる雑務程度のものだった。なにこの会社。とってもホワイトじゃないですか!素敵!ホント、なんで雇われたのかわからないまである。
1つ強いて挙げるなら、城ヶ崎美嘉のライブに渋谷、島村、本田の3人がバックダンサーとして参加したことくらいだろうか。しかしそれも城ヶ崎美嘉の担当プロデューサーがほとんどやってくれたようなので、俺の出番などほぼなかった。現場に赴いてみているだけで終わってしまったので、非常に楽だったのだ。
しかしただ一つ不満なのは、芸能関係の仕事という関係上、基本的に土日は出勤になってしまうということだ。まあその分平日に休みが振り分けられるわけだが、俺のスーパーヒーロータイムとスーパープリキュアタイムが失われるという事実だけはいかんともしがたいものだ。ちなみに今日は休日出勤である。やっぱりあまりホワイトじゃなかったもしれない。
そして今は昼休み。すっかりおなじみとなってしまった社内カフェの一角に腰を据えている。


「…ご注文お伺いいたします」

「マッ缶」

「だからありませんってば!毎回このやり取りするつもりですか!?」


そしてすっかり顔なじみになってしまった店員と、すっかり定着してしまったトークをこなす。楽しいなぁ…。東京にいても千葉トークができるというのは実に心の癒しになる。
しかし、東京って本当にマッ缶が売ってない。どのコンビニに入っても陳列してなくて正直困る。あんなにおいしいのに…東京人の口には合わないのかしら。


「じゃあいつもので」

「最初からそう言ってください!」


Aセット入りましたー!遠ざかっていく声とともに、何かを忘れているような感覚に襲われる。誰かに何かを頼まれていた気がするのだ。しかし、なんだったかな。思い出せないということはそこまで大切なことではないのだろうが、むずがゆい感覚がしてなんとも言えない気持ちになる。


「あー!事務員さんじゃん!」

「あ?」


突然やたらと明るい声が聞こえたので振り返ると、本田が立っていた。その両端には渋谷と島村も一緒だ。

「今席が空いてなくてさー。相席してもいいかな?」

「まあ、別に…」

「じゃ、失礼しまーす!」


そういうと遠慮なく俺の隣の椅子に腰を下ろす。ちなみに俺が今座っているのは4人掛けの四角いテーブル席で、向かい合って2人ずつが座れるようになっている。つまり本田は俺の隣に躊躇なく座っている訳であって、この子の人懐っこさを感じる。


「お、お邪魔します」

「…どうも」


残りの2人は向かいの席に並んで座った。
島村は慣れない俺に少々委縮しているという感じだろうか。愛想もよくした覚えがないので怖がられているのかもしれない。しかし、少しでも距離を縮めようとしてくれているのは好印象だ。渋谷は完全に興味なしって感じだな。うんうん、無関心っていいね。


「んっふっふー。なにか私たちにいうことがあるんじゃいないかーい?」

「は?」


開口一番からこれである。突然何を言い出すんだこいつは。俺は静かにコーヒーブレイクを楽しみたいんだよ。3人でしゃべってていいから俺は放っておいてくれませんかね。


「未央、はしゃぎすぎ」

「いやー、だって私たちの時代がついに来たんだよ~?落ち着いていられるわけないじゃん」

「そうですね…。もっともっと頑張らないと」

「ほら、このスーパーアイドル未央ちゃんに何か言いたいことがあるんじゃないのかい?」


なんの話か全く分からなかった。大きな舞台に立ったことで「私、アイドルやってます!」などという自意識が生まれてしまったのだろうか。褒めろってことなの?バカなの?死ぬの?まあ、スキンシップの一種なのだろう。軽い冗談で返すことにする。


「あぁ、世界一可愛いよ」

「…へっ?」

何かしらツッコミが返ってくると思いきや、府抜けた声を上げるのみで反応が薄い。気になって様子を伺って見れば、口をぽかんと開けて固まっている。


「…なんだよ」


なに?キモかったの?そんなに驚愕の表情を浮かべるほどにキモかったの?泣いていいですか?
本田の顔を眺めながらどうしたもんかと思案していると、みるみるうちに顔が赤くなっていった。そして慌てたように顔を背けると髪をくるくるいじりながらなにかブツブツ言ってる。どういうことなの?と思って対面の二人を見たら島村は顔を真っ赤にして「あわわわ」とか言ってるし、渋谷はなんか冷たい目でこっち見てるし。


「い、いや。ちょっとびっくりしちゃったかなーって。あははは」


もじもじしながらいう仕草がいじらしい。ちらちらと上目遣いでこっち見てくるしぐさに関してはなかなかグッとくるものがありますね、うん。


「お前が褒めろって言ったんだろうが。なんでテンパってんだよ」

「だ、だってそんなこと言われると思わなかったんだもん…普通にデビューおめでとうとかそんな感じかなーって」


たはは、と笑って照れくさそうにしている。が、なに?デビュー?


「なんだそれ。初耳だぞ」

「えっ!?嘘!?」

「私たちのデビューが決まったってプロデューサーさんが…」

「…聞いてなかったの?」


ナニソレキイテナイ。下っ端の俺には必要ない情報と判断されてしまったのだろうか。しかし、デビューするとなれば俺の仕事量も必然的に増えるわけで、心構えができるか否かで結構違うと思うのだ。ちょっと後でプロデューサーに直接確認しに行こう。割と重要案件な気がする。
しかし、俺が勘違いをしていたとわかると先ほどの発言が異様に恥ずかしく思えてきた。自分の顔が熱くなっているのを感じる。

「あうぅ…」

「…」

「あ、あはは…」

「な、何か頼もうかな」


なんとも言えない雰囲気になってしまった。は…恥ずかしい!穴があったら入りたい!逃げたい!なんだこれ!また黒歴史が増えてしまったぞ。ターンAはどこだ。月光蝶で全部終わりにしてしまおうそうしよう。


「ご注文のAセットでーす…あれ?凛ちゃんたちも来てくれたんですね!」

「あ、菜々ちゃん。お疲れ様です!」


例のメイドが俺のターンしてないAを運んできた。いいタイミングだ。この空気をよくぶち壊してくれた。


「聞いてよ菜々ちゃーん!この事務員さんが突然私のことを――」

「はい!Aセットどうも!」


本田が口走ろうとするのを全力で阻止する。恥ずかしいからってネタに昇華するのはやめてくれ。俺はそのせいで壊滅的なダメージを負うんだから。メイドも頭に?を浮かべつつもとりあえずは商品の受け渡しを優先してくれた。よし、このまま話題を一気にそらしてしまおう。


「お前ら知り合いなのか?高校の同級生とか?」

「いえ。菜々ちゃんはアイドルの先輩なんです」


島村が説明をしてくれた。そういえばこの子は渋谷と本田よりも先輩なんだっけか。最初に見た時はむしろ年下と思っていたくらいなのだが。
つかこの子はバイトでここにいるじゃないのか?メイドの方を見ると不敵な笑みを浮かべていた。


「ふっふっふ…。メイドは世を忍ぶ仮の姿!そしてその正体は!」


バッ!とポーズを決め、メイドは高らかに宣言する


「うさみん星よりやってきた、歌って踊れる声優アイドル!うさみんこと安部菜々です!きゃはっ☆」


ぶん殴ってやろうかこの。
しかし安部菜々…どこかで聞いた名前だ。なんだっけ。テレビでみたわけじゃない気がするし…。


「ん?安部菜々?」

「あ、もしかして聞いたことあります?いやー、菜々も人気が上がってきましたかねー」

うんうん。と誇らしげに頷いている。随分と嬉しそうだ。しかし俺が彼女を知ったのは芸能関係の話ではない。


「平塚静って人知ってます?高校の教師なんですけど」


頷いていたメイドの動きが止まった。そしてギギギ…と潤滑油を失った機械のように首をこちらに向ける。額から流れる汗の量が異常だ。


「し、静ちゃんをご存じで…?」

「お世話になった先生なんだけど、伝言を預かっていまして」


小柄で童顔、そして千葉出身。このメイドが目当ての人間であると確信するにつれ、自然と敬語になっていく。そりゃそうだ。だってこの人は俺よりもずっと年上なのだから。


「『今度独身飲みをしよう』だそうです。あと、携帯の番号も預かってるんで連絡してあげてください」

「の、飲み?菜々は17歳なので飲めませんよ?」

「あべななさんじゅうななさいですもんね」

「悪意を感じますッ!」


他の3人は彼女の実年齢を知らなかったのか首をかしげているが、その方がこの菜々さんのためだろう。永遠の17歳(笑)とか痛すぎる。しかし、どこからどう見ても10代後半くらいにしか見えない。これはアイドルとして売っていく上ではおいしい武器になるのかもしれない。王国民ならぬうさみん星人が生まれる予感。

「でね、菜々ちゃん。この事務員さんが突然私が世界一可愛いって」

「おい」

「私たち、3人のユニットでデビューすることになったんです。夢に見たアイドル…いっぱいキラキラしたいです」

「この前のステージはかなり盛り上がっちゃってさ!あんな風になりたいよね」

「うん。あのステージはすごくドキドキした」

各々が注文したものに手を付けながら、彼女たちの抱負のようなものを聞かされていた。
城ヶ崎美嘉のライブは俺もスタッフとして行かされたが、あの1人のためだけにここまで集まるのかと驚いた。アリーナが人で埋まっている姿はまさに圧巻で、アイドルという存在の大きさが身に染みた。
ちなみに、さっきの本田の話を聞いた菜々さんは「女子高生…可愛いですもんね」とか言って去っていった。平塚先生のする仕草と同じで、やはりこの人は30代なのだとしみじみ思った。


「リハーサルの時はどうなるもんかと思ったけどな」

「うるさいなー。結果良ければすべてよし!ってね」


そう。ライブ本番は間違いなく成功だった。しかしその実、リハーサルではまるでうまくいかず、ハラハラさせられたものだ。


「美嘉ちゃんのアドバイスのおかげです。ステージに出るときに掛け声をつけるといいって」

「フライドチキンはちょっとどうかと思ったけど」

「なにおぅ!いいじゃんフライドチキン。手軽でおいしくて最高じゃん」


なかなか相性がよさそうで、これからやっていく中でのトラブルも少なそうだ。まあ、どうせ俺が直接かかわること自体少ないからあまり関係はないんだけどな。プロデューサーが何とかしてくれます。うん

「そういえば、どうして事務員さんはこの会社に入ったんですか?」


会話に混ざらずにいた俺に気を遣ってか、島村が話題を振ってきた。


「特に理由はないな。採用試験受けてみたら受かった。それだけ」

「へ、へえ~。そうなんですか~」


会話が終わってしまい、島村は困った顔でうう…と縮こまってしまった。
ちょっとそっけなく返しすぎただろうか。せっかく話を振ってくれたのにかわいそうなことをしてしまった。仕方ない。ちょっとくらい付き合ってやっても罰は当たらないだろう。


「あー、お前らはなんでアイドルになったんだ?」

「あ、はい!私のあこがれなんです。キラキラしてて、いつか自分もあんな風に輝けたらいいなぁって」


先ほどとは一転、咲き誇る花のような笑顔がまぶしい。


「私は友達にやってみたら、って言われてやってみた感じ。でも結構楽しいねー。私は満足だよ、うん」

「私は少し興味があったから、かな。特にやりたいこともなかったしやってみてもいいかと思って」


島村はともかくとして、渋谷と本田はなんとなくで始めただけのようだ。案外こんなものなのかもしれない。だって、自分から始めるってことは自分が少しでもアイドルらしいと思っているということで何それ痛い。
そう思うと、島村はそんな自意識過剰な部分がなさそうなので意外だった。どこぞのあざと可愛い養殖女とは違ってこの子は天然な気がするのだ。


「島村は自分からオーディション受けたってことか」

「そうなんです。まあ、補欠採用だったんですけどね…」



あはは、と少し自嘲気味に笑う。


「私、ずっと養成所にいたんです。3年くらい。周りのみんなはどんどんデビューしていっちゃって、私だけ取り残されて。でもやっとこうしてデビューできたんです!プロデューサーさんが私を見つけてくれたから。もっともっと頑張って、みんなに追いつかないと!」

3年。3年間もの時間、この子は光の当たらないところで努力してきたのか。アイドルという夢に対するあこがれだけでそこまで我慢し続けてきたってことか。
自分が輝く姿で周囲に希望を振りまく存在。それがこの子があこがれ続けてきたアイドル。だとすれば、俺の前にいるこの夢見がちな少女は、すでに立派なアイドルだ。見ているだけで元気がもらえる。応援したくなる。アイドルを追いかけるオタクたちの気持ちが俺にも少しわかった気がした。


「その意気だよしまむー!補欠合格同士頑張らないとね!」

「はい!がんばります!」

「なんだ。お前らみんなオーディション組か」

「私は違うよ。プロデューサーにスカウトされた」

「そうなのか?さっき興味があったって言ってたろ」

「ん、まあ…プロデューサーがちょっとね」

少し恥ずかしそうに髪の毛をいじりながら答える。よくわからないが、話題が別のことに移ったので追及はやめておいた。
まあとにかく、今日はこの仕事に対するやりがいが見えてしまった気がする。なあなあで入ってきてしまったこの業界だが、意外と悪くないのかもしれない。席を立ちながら、そんなことを思った。さて、働くか。

数日後、俺はプロデューサーがいるフロアへと向かっていた。
3人に聞いたデビューの話の資料は、今日本当に俺の方にも流れてきた。つまり、これから加速度的に忙しくなっていくということになる。なんたって14人もの仕事を管理していかなければいけないのだ。ならばデビューのスケジュールなど大まかなものを聞いておきたいと思ったのである。

「失礼します」


プロデューサーはこちらに気付くと、にらめっこしていたパソコンから顔を上げた。あの3人のデビューに関する資料でも見ていたのだろうか。
それにしてもこのプロデューサー、強面である。でかいし声は地響きのように低い。正直言ってめちゃくちゃ怖い。


「今時間大丈夫ですか?」

「はい。少しであれば」


あー、忙しいみたいだ。しかし、そこまで手がかかることならば事務員の方にでも回してしまえばいいのにとも思う。いや、楽だから個人的にはありがたいんですけどね。


「本田さん、渋谷さん、島村さんのデビューの件、本当ですか?」

「はい。少し時期尚早な気もしますが、城ヶ崎さんのライブの勢いもありますし、このまま押していきたいと考えています。それと、アナスタシアさん、新田さんも同時にデビューさせようと考えています」

「あ、5人ですか」

「はい。まだ企画段階なので書類等はまわせていませんが」


島村、渋谷、本田の3人がデビューできたのは大物に引っ張られる勢いがあってのことだったと思う。とすれば、他のメンバーが今デビューしても大した結果は残せないのではないか。


「とりあえずはその5人で様子見ってことですかね」

「いえ。他の方々にも順々にデビューをしていってもらおうと考えています」


しかし、プロデューサーの口から出てきたのは意外な言葉だった。。

「14人は1つのプロジェクトとして売り出していきますから、間があいてしまうことは好ましくないと考えています。なので、ある程度は間隔を詰めてデビューさせていこうかと」


なるほど。まだこの業界に入って日が浅い俺がでしゃばるべきではないのかもしれない。プロデューサーの中には明確なビジョンがあり、それはどうやら道理にかなったもののように思える。実は、無能な上司に当たってしまうという心配をしていたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
でも行動に移す前に教えてくれませんかね。ホウレンソウは常識だって新入社員の僕でも知ってるんですが。


「…他には、なにか」

「あ、いえ。もう大丈夫です。ありがとうございます」


なんてこと言えるわけねえだろ!こうして対面で話してるだけで足がガクブルだもの。
あの体躯の人間に殴られたらどうなっちゃうのかしら。俺はまだ死にたくない。


「失礼します」


入ってきた時と同じことを言って一礼。こうやってるだけでまじめそうに見えるのだから社会人ちょろい。なんなら俺はこの上の土下座まで習得しているため謝罪まで完璧である。もう謝るときの心配かよ。
俺が部屋を出た時に入れ違いで千川さんが入っていった。大分バタバタとしており、緊急事態なのかもしれない。そうと決まれば関わらないが吉。さっさとマイデスクに戻ってしまおう。見てなかった。俺は何も見ていなかった。

やってきたエレベーターには誰にも乗っていなかった。とりあえず事務員のフロアを指定し、閉じるボタンを押す。閉まる扉をぼーっと眺めながら今日の夕飯は何だろうかと考えていると、大きな手が生えてきて扉の進路を阻んだ。


「うお!?」


進路を阻まれた扉は再度開き、外の人物を招き入れようとする。果たしてそこから現れたのは鬼であった。ではなく、焦りの表情を浮かべるプロデューサーであった。
プロデューサーはエレベーターに乗り込むと1階、つまりはエントランスホールのボタンを押し、閉じるボタンを押し込んだ。乱れた呼吸を整えており、ここまで走ってきたのだろうか。


「あの、何かあったんですか?」

こんだけ走ってきた上司に何があったのか聞かないのはさすがに変だろう。聞かざるを得ない。さっき千川さんが慌ててた件かなー、やだなー。


「いえ…、シンデレラプロジェクトの方々が数人で下の喫茶店を占拠しているらしく…」


えー。なにやってんのそれ。何?クーデター?
しかしこれ、聞いといて「あ、僕事務フロアいくんで」とかいって出ていくのはさすがに心証が悪すぎやしないか。くっそう。結局巻き込まれるのか。

事務のフロアで一度扉が開くが、閉じるボタンを押してもう一度閉める。


「…あの、事務に戻られるのではないのですか?」

「あ、いや、何か手伝えることがあるかもしれませんし」


俺がそういうと、プロデューサーは大きく頭を下げてきた。


「すみません、助かります」


いや、あの、俺あなたの部下なんですけど…やりづらいんですけど…。

件の喫茶店まで駆けつけると、結構な人だまりができていた。
どうやら店を占拠しているのは猫の子のようだった。前川、とかいっただろうか。メガホンを持って、机で作ったバリケードの中に立っていた。


「みくちゃん、もうやめよ?みんな困ってるよ」

「デビューのこと、プロデューサーさんに相談してみよ?」


数人が、と聞いていたが、思っていたよりも少数、というより一人だけのようだった。ほかのメンバーは止める側としてこの場に立っているらしかった。
しかし、デビューの相談とは何だろうか。順番についてもめているのかもしれない。


「…したにゃ。何度も。でも駄目だった」


隣でプロデューサーが息をのむのがわかった。


「なんで?なんでダメなの?みくたちも頑張ってるのに何で?」


その言葉は要約すると、どうして島村達だけデビューが決まったのか。どうして自分たちはデビューできないのかという話だった。
気持ちはわからないでもないが、それは仕方のないことだろう。たまたま島村達が大物のバックダンサーを務めることになり、それによる後押しがあってこそのデビューだったのだ。運がなかったとしか言いようがない。


「何が違うの?もっと頑張ればいいの?もっとってどれくらい?」


頑張る。
俺には、あの子がどれほどの間、どの程度努力し、忍んできたのかなんてわからない。慰めたり叱責したりする権利などありはしない。だが、脳裏に浮かんだのは、周囲に置いていかれようとも一心不乱に努力したであろう少女の咲き誇るような笑顔。今もこのボイコットを固唾をのんで見守る少女。少なくとも、彼女の健気さを「頑張る」などという一言でまとめて欲しくはなかった。

足が動いた。勝手に、ではない。俺の意思に従って進む。バリケードによって塞がれた喫茶店の入り口に向かって。
前川は、突然近づいてきた俺に驚いたのか、抗議の言葉をやめてこちらを見つめている。


「お前さ、どれくらい頑張った?」

「…えっ?」


質問の意図がつかめないのだろう。軽く首を傾げている。


「お前より先にデビューした島村は3年間養成所にいたらしい。周りがデビューする中、ただひたすら自分が輝ける日を信じて頑張ってたってよ。…お前はどれくらい耐えたんだ?」

「に、2か月くらい…」


やっぱりな。こいつはそこまでついてない人間ではない。比較的、切羽詰まってはいない。
ただ、虚像におびえていただけなのだ。自分が落ちぶれてしまうことを恐れている。ならば実像を見せてやればいい。自分よりも不幸な人間がいると安心できるというのは万人共通の。法則なのだ。


「デビューが約束されてるお前なんかよりずっと悪条件の中で、お前よりずっと長い間耐えてたやつがいるんだ。そんな焦る必要はねーだろ」

「…はい?」


今度は意図がつかめないというよりは何を言っているのかわからないといった顔をして、先ほどよりも角度をつけて首を傾げた。
今のでわかりにくかったか?もっと端的に言ってやった方がいいだろうか。


「デビューすることは約束されてんだ。もう少しくらい、待ってみてもいいんじゃねーのか」

「デ、ビュー?なんのこと?」


はあ?
デビューの順番に難癖つけたのはお前じゃねえか。企画はちゃんとあるのに何が不満なんだ。少し言い方が乱暴だが、いい加減頭にきたのでそう言ってやろうと思った刹那、プロデューサーがこちらまでやってきた。


「すみません、前川さん!デビューについては皆さん全員分考えています!」

そうだ。だから前川がここまで焦りを感じる必要などないのだ。
俺もさっき聞いたばかりで、寧ろデビューすると聞いて少し焦ったくらいである。


「え…?」

「ホント!?」


なんだびっくりした!
前川しかいないと思っていたバリケードの裏側から1人、突然ひょっこりと顔を出してきた。1人じゃなかったのか…。
しかし、その反応はおかしくないだろうか。まるで今初めて聞いたかのように見えるぞ。


「まだ決定ではないので話せませんでしたが、新田さんたちは第一弾。続けて第二弾、第三弾とユニットデビューしていただこうと思っています!」


それを聞いた前川は糸が切れたかのようにその場に座り込み、涙ながらに喜びの声を上げていた。
…つまり、なに?まだデビューが決まったことを伝えてなくて、それで不安をあおってたってことですか?


「ほんとだよ…」


ホントだよ!全部プロデューサーのせいじゃねーか!前もって知らせておけばこうはならなかっただろうに!この人、ホウレンソウが全くできてないじゃないか。
さっき有能な上司に恵まれたみたいなこと言いましたね。撤回します。こいつダメだ。
ギャラリー一同が安堵の表情を浮かべる中、珍しく情熱的になり、その上完全に空回りした俺は羞恥に悶えていた。
何やってんだ俺は…!このバカっ、ボケナスっ、八幡っ!八幡が悪口に昇華した瞬間だった。

しばらく一人でしゃがみ込んで悶えていたが、小さい影が寄り添って、ぽんっと肩をたたいてきた。


「まあ、ドンマイ。普通伝えてると思うもんね」


双葉杏が慰めてくれた。
かと思ったら、突然「デビューが決まっているとは…メーデーだぁ…」とか言いだし、俺に並んでしゃがみ込んでしまった。なんでこいつアイドルやってるんだろう…。
しばらく2人でそうしていたが、双葉が諸星に回収されてしまったため、再び1人で打ちひしがれることになった。しかしああやってからんでいると、同じ17歳とは思えないな。2人ともサイズが規格外すぎる。
その後、バリケードとして使っていた机をもとの位置に戻し、迷惑をかけた各位関係者に謝罪をして回った(双葉も一緒に謝罪をしていたが、どうしてデビューをかけた抗議にこいつが参加していたのかは謎である)。
前川には、なかなか嫌味ったらしいことを言ってしまったことを謝罪したのだが、勘違いで動いていたことに関してはお互いさまということで快く許してくれた。他のメンバーよりも先にデビューできるよう、一生懸命頑張るそうだ。
そして、プロデューサーがすべて悪いという八つ当たりで盛り上がったのはここだけの話。

今回はここまでです。
杏可愛いよ杏

>>1「安倍奈々の年齢知らんけど30超えにしとくか」
モバマス信者「名前と名字間違っているじゃねーか」
>>1「すまんすまんwwwww安部菜々だったわwwwwあと大体の年齢分かったけどアニメじゃ30超えているように見えたから30歳以上にするからwwwwww
永遠の17歳だから別にいいよねwwww」
さらに内容も八幡が武内P批判しているだけでモバマス信者のぶちギレも当然なんじゃ

>>1「武内Pもアイドルも適当な扱いで八幡は有能、エタはありえない」

デレマスファン「は?」

俺ガイルファン「俺ガイルとコラボしてもらえてるだけでありがたいだろ、アニオタwwww」

デレマスファン「ふざけんなよ!」

こういう流れか、これは荒れるわ

まさかPも常務もさすはちが鬼の首取ったように揚げ足取ってくるような大ポカを4話そこそこからやらかすとは思わんかったからなぁ・・・
P「他人の努力に難癖を付け、困難に当たる様を見下す事が貴方の言う『本物』なら、我々のプロダクションにそのようなものは一切必要ありません」
常「君の出任せによる妨害に一々耳を傾け、はべらせた女に泣き言を代弁させる。君の学生生活は随分とお優しかったようだな。羨ましいくらいだ」

ここまで言える人達だと思ってたんだよ・・・

思い入れ()
にわか()
だから信者って言われるんだよ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月14日 (水) 00:21:28   ID: RagVHauR

ナナさんは27s…17才だから平塚先生よりも若いはz

2 :  SS好きの774さん   2015年10月17日 (土) 22:07:45   ID: -FVapMIz

ウサミンは17歳なのに平塚先生と
同い年ってこれもうわかんねぇな

3 :  SS好きの774さん   2015年10月18日 (日) 22:44:40   ID: UwM_sEzO

こういうの待ってた期待

4 :  SS好きの774さん   2015年10月18日 (日) 23:01:07   ID: YLUmUEev

平塚先生もウサミン星出身だったのかー

5 :  SS好きの774さん   2016年01月06日 (水) 15:47:51   ID: Q3TnmOAL

八幡信者によるきもい自己投影。
むしろ八幡の行動の方が問題があるってことに気付けない無能。

6 :  SS好きの774さん   2016年02月21日 (日) 06:44:06   ID: p5m3IOO4

私は面白いと思ってたけどな。ストーリーを書く上で、誰か欠点を持っていて(または持たせて)それをどうこうしていくというのは、やりやすい方法の一つだと思ってる。そう批判されるべきものではないと思う。

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