【やれやれ】村上春樹風プロデューサー【モバマス】 (49)

千川ちひろが持って来たカフェ・オ・レを一口啜った。

今日もアイドルの相手をしなければならない。

思春期の女の子たちの嬌声を聞きながら、レッスン風景を眺める。

大人からすれば他愛もないが、少女たちからすれば重大な悩みの相手をする。

真剣な面持ちで少女たちは悩みを僕に打ち明ける。

こうした僕の仕事がまた始まろうとしている。

やれやれ、と僕は思った。

「プロデューサーさん。一緒にお茶しませんか?」

島村が部屋に入って来て言った。

彼女の長いくせ毛は今日もゆるやかに波打っていた。

良く晴れた日の砂浜の波のように。

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僕はアイドルたちが集まる部屋に行った。

そこでは、三村を中心に茶会の準備が進められている。

ふくよかな丸みを帯びたティーポットは、持ち主の三村にそっくりだと僕は思った。

甘い菓子のような微笑みを浮かべながら、三村は紅茶を淹れる。

少し渋みを感じるダージリンの香りが、僕を刺激した。

「今日は美味しい紅茶を持って来たんですよ。
それと、パンケーキを作ったので持ってきました」

三村は嬉しそうにタッパウェアからパンケーキを取り出した。

何も掛かっていないパンケーキを。

パンケーキをそのまま食べるつもりか!

やれやれ。

「三村さん。パンケーキの美味しい食べ方を御存じないのですか?」

僕は呆れながら言った。

「美味しい食べ方ですか? このままじゃいけないのですか?」

三村は首をかしげた。

「そのままでも美味しいかもしれない。でも、もっと美味しい食べ方があります」

そう言って僕は立ち上がった。

そして、部屋の隅に置かれた冷蔵庫からコカ・コーラの瓶を一本取り出した。

「まあ、見ていてください」

呆然としている女の子たちを無視して、僕はパンケーキにコカ・コーラを掛けた。

「プロデューサー! 何をしているんですか!」

島村が驚いて素っ頓狂な声を上げた。

僕は島村に構わず瓶入りコーラを一本まるごと注ぎ込んだ。

コーラを吸ったパンケーキは、

海から上げたばかりの軟体動物のようにふやけた。

そんなパンケーキを眺めた三村は、今にも泣きそうになった。

「そんな……せっかく作って来たのに……」

傍にいた三村の友人の緒方が、三村の肩に手を当てた。

「プロデューサー! あんまりですよ!」

島村は怒った様子で僕を非難した。

そんな様子を眺めながら、緒方が弱弱しい声で僕に訊ねた。

「これ……美味しいんですか……」

「美味しいかもしれないし、美味しくないかもしれない。
味の好みは人それぞれだからね」

僕は当り前の事をあえて言った。

「私、プロデューサーさんが、こんなことする人だなんて思っていませんでした!」

眉を吊り上げた島村が僕に抗議した。

やれやれ、コーラを掛けた位でそこまで怒らなくてもいいと思った。

「とりあえず食べてみよう。僕への非難はそれからでも遅くないだろう」

島村、緒方、三村は、フォークでコーラ・パンケーキを切り取った。

口に含んだ少女たちは皆、

未知との遭遇を果たしたような複雑な顔をした。

「意外と食べられなくはないかも」

怒りが収まった島村が言った。

怒ってはいないが、決して嬉しそうな顔ではなかった。

「こういうのも有りなんでしょうか……」

緒方が僕に訊いてきた。

「あるいは」

僕はやる気のない返事を返した。

「すごく甘いです」

三村が感想を言った。

「これは糖分補給に最適な食べ物です。三村さん。甘いのはお好きでしょう」

僕は疑問符のない疑問を発した。

「ええ……まぁ……」

三村は困惑した様子で僕を眺めた。

一旦休憩です。

書いてみたものの需要あるのか、これwwwwwwwwww

あるよ(断言
しかし村上風のPってことは結構音楽にうるさそうだなww

内容的にも文体的にも興味をそそられるンゴねぇ……

このPバナナダイキリ好きそう

村上春樹風にしてはメタファーが足りないな、と僕は思った。
好むと好まざるとにかかわらず、村上春樹はメタファーが全てなのだ。
それは僕に、太古の昔に涸れてしまった井戸を連想させた。

続けて続けて続けてどうぞ

やれやれ僕は課金した

>>10
空き家にある井戸の底にハシゴで降りて
うたた寝してる間にJKにハシゴを回収されたい……(ねじまき鳥クロニクル感

「おっはよー!」

ハウリングを起こしたスピーカーみたいな甲高い声が大音量で響いて、
本田が部屋に入って来た。

「え? みんな辛気臭い感じでどうしたの?」

ル・コルビジェがデザインした黒革張りのカッシーナ製ソファが部屋にあり、

モダニズム様式のそのソファに荷物を置きながら、

本田はテーブルを囲む皆に訊いた。

「プロデューサーさんが、かな子ちゃんが作ってきたパンケーキにコーラを掛けたんです」

「なにそれ!? コーラ?」

本田は呆気に取られてきょとんとした。

パンケーキとコーラという組合せは、

本田にとって予期せぬ物だったようだ。

好天の中を進む船が不意に座礁したような意表だったらしい。

「未央ちゃんも食べてみてください」

三村が申し訳なさそうな表情を浮かべた。

その顔からは、トラブルの中に本田を巻き込む罪悪感が見て取れた。

三村はコーラ・パンケーキの味を本田にも知って欲しかった。

それが良い事だとは思わなかったが、三村はあえて食べさせようとした。

プロデューサーの所業を知る者が増えることで、

自分達が被った被害を一人でも多くの人に共有して欲しいからだ。





フォークを取った本田は、恐る恐るパンケーキに近付いた。
震えるフォークが徐々に近づく様子は、本田の躊躇いを表していた。
僕から見た本田は、初めて敵と対峙した兵士が銃剣を敵に向けている様に見えた。

「これ、本当に食べられるのか~?」

本田は戸惑いながら言った。

「私たちは皆食べました!」

島村が強い口調で言った。

明らかに本田にコーラ・パンケーキを食べさせることを急かしている。

「未央ちゃん! 一気に!」

三村が本田をはやし立てた。

本田は周りに乗せられてコーラ・パンケーキを口内に放り込んだ。

口を閉じた本田の目は、コンパスで描いたように丸くなった。

それから、急降下するジェットコースターみたいな勢いで、口内の物を飲み込んだ。

「うわー! なんかビミョー! まずくもないけど美味しくもない!」

島村は本田を見て肯いた。

「かな子ちゃんのパンケーキをプロデューサーさんがそうしたんですよ」

島村は、きのこが生えてきそうなくらい湿っぽい眼で僕を見た。

「ひどいことするな~」

口直しのダージリンを啜りながら、本田は僕を見つめた。

その目は失態を犯した道化師でも見るかのような目だった。

今日はここまでです。
読んでくれてありがとうございます。


タブ追加しておくよ

「プロデューサーさん。かな子ちゃんに謝りましょう」

島村は言った。

とてもべたついた声色だった。

まるでコーラに浸したパンケーキの生地のように。

「プロデューサーさ、こんなのウケると思ったわけ?」

本田は困惑しかない笑顔を向けて言った。

レシピを披露して空振りした僕に呆れ果てた様子だった。

緒方は理解できないクリーチャーを見る目で僕を見つめた。

僕は、友達が持って来た手作りパンケーキを台無しにした怪人なのだろう。

三村は困惑の表情を僕に向け続けた。

眉を下げ、口を固く結び、頬を膨らませ、僕へ無言のクレームを送り続けた。

少女たちは僕に心底呆れている様子で、

僕は絶海に漂流するいかだに乗っている気分になった。

「す、す、すまなかった」

圧力に耐え切れず僕は謝った。

沸騰した鍋から煮汁が溢れるように、僕は謝罪した。

それでも少女たちは沈黙を保って雄弁に抗議の意思を伝えた。

やれやれ。

僕の評判はリーマンショック時の株価のように下がってしまったようだ。

僕がパンケーキをコーラの沼に沈めたことで、

女の子たちの茶会はすっかり冷めてしまった。

その冷たさと連動するように、

僕に向けられる彼女たちの目線も冷たくなって行く様に思えた。

そして、僕は居場所をすっかり失ってしまったようだ。

何としてでもこの場から離れたいと思った。

「そうだ。仕事の続きがあるから、そろそろ自室に戻るよ」

僕はワゴンセールの靴下みたいに安っぽい嘘をついた。

戦略的撤退の為にはチープな嘘も必要だと自分に言い聞かせた。

足早に部屋を出てドアを閉めた。

ドアを閉めた後、何気なく元居た部屋を振り返った。

すると、ドアの向こうから黄色い声が聞こえて来たので、

僕は自分の事を言われている気がして立ち止まった。

悪趣味だと思ったが、好奇心には勝てなかったので、

僕はドアに耳を当てて女の子たちの会話を盗み聴いた。

今日の夕方は渋谷に出かけなければいかんので
すいませんが、今日はこれだけです

「かな子ちゃん。ごめんね。私がプロデューサーさんを連れてきたせいだよね」

三村を慰めるように、島村が言った。

「ううん。卯月ちゃんは悪くないよ」

島村をかばうように、三村が言った。

「まさかコーラ掛けるとは思わないもんね。普通は予想外じゃない?」

ドア越しでも良く聞こえる大きな声で、本田が言った。

「もうプロデューサーさんをティータイムに誘うのは止めにします」

呆れた口調で、島村が言った。

その一言は僕の心を大きく抉った。

巨大重機のバケット・ホイール・エクスカベーターみたいに。

「そうだよね。いきなりパンケーキにコーラなんか掛ける人だもん。最低だよ」

さも当たり前の様に、本田が言った。

声の大きさも相まってか、ドアを貫通した本田の声が僕の鼓膜に響いた。

その一言は、物理的にも心理的にも、徹甲弾のごとく僕に突き刺さった。

鼓膜から入った声が認識へと溶け込んで行き、僕の心を傷つけた。

鎧を貫いた後の銃弾が体の中でうずく様な気分になった。

それ以上はつらくて聞いていられなかった。

ドアから耳を離した僕は、自分の部屋へ戻ることにした。

ノモンハンの荒野を歩く敗残兵の様に失意に満ちた重い足取りで、

僕はうな垂れながら孤独に廊下を歩いて行った。

そうしてドアの前までたどり着くと、

僕の部屋の前に、銀髪で猫目の少女が立っていた。

「プロデューサー。待っていました」

「アナスタシアさん」

アナスタシアは僕の帰りを待っていたと言った。

「何の用でしょうか?」

「ダー……はい。新曲について相談に来ました」

アナスタシアは言った。

彼女は、ロシア語と日本語を混ぜた独特の喋り方をする。

「お入りください」

僕はアナスタシアと一緒に部屋の中へ入って行った。

「それで、どういった相談でしょうか?」

「はい。新曲のイメージについてです」

「イメージ」

「コースマス……宇宙をイメージした曲です」

「そういえば、今朝データを受け取りました」

「まだ聞いていませんか?」

「今すぐ聞きましょう」

アナスタシアを見ながら、僕は言った。

僕は、パソコンのMP3プレイヤーを起動し、

千川から今朝預かった新曲を流した。

大河のようなリズムを持った曲で、何か神秘的な感じがした。

曲を聞き終わった頃、一瞬の放心状態が訪れた。

その後も美しい旋律が僕の心に固着した。

船底に固くこびりついた牡蠣のように。

「プロデューサー。どうですか?」

アナスタシアが言った。

「うん。良い曲だと思います」

僕は肯いた。

「この曲、どういうイメージで歌いますか?」

アナスタシアが僕に訊ねた。

「エカテリーナ宮殿のようにエレガントに」

「エレガント」

「ツンドラみたいな涼しい広がりも大事でしょう」

「広がり……宇宙みたいですか?」

「宇宙の事はよく知りませんね」

「それはとても大切な事ですね?」

「旋律が生み出すケミストリーを大事にするわけです。
 風の中でマッチの火を消さないように」

「ケミストリー?」

「曲が生み出す場の力です。それは突如大きく拡がるのです」

「ビッグバンみたいなものですか?」

「ビッグバンの事もよく知りません」

「えーと……広くてエレガントでしたっけ?」

「広範囲に輝く感じです。銀河みたいに」

「ガラクーチカ……銀河ですか。何か分かった気がします」

そう言ったアナスタシアは、満足そうな顔で一礼してから部屋を去った。

アナスタシアが去った後、

部屋に残った僕は書類整理に勤しんだ。

ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」を掛けながら、

ピアニストのような手つきでキーボードを叩いた。

こうしている時間が何より幸せだ、と僕は思った。

「失礼します」

そう言いながら、渋谷が僕の部屋に入って来た。

「渋谷さん」

「プロデューサー。聞きたいことがあるんだけど」

やれやれ。

今日は相談が多い日だ、と僕は思った。

「この仕事が終わったら早めに夕食を食べる所です。
  もし良かったら、食事をしながらお話しませんか?」

「いいよ」

少し嬉しそうな顔をしながら、渋谷は言った。

「プロダクション併設のカフェでパスタでもどうですか?」

僕の問いに対し、渋谷は肯いた。

今日はここまでです。
風邪ひいたので仕事休んで一日寝る予定です。

きらりと相性良さそう(中の人感)

ヤクルト優勝記念SSかな?

とりえず女と寝まくるんだろ?
んで本文中にそんなこと書いてないけど実は菜々さんは死んでるとか研究者に言われるんだろ?

プロダクションの施設内にあるカフェに入り、

僕と渋谷は向かい合う形で席を取った。

渋谷は、緑色で薄手のサマーセーターを着ている。

それがぴったりと体に張り付いているので、

上に突き出た美しい形の乳房が、服の上からでもよく分かった。

渋谷の顔は、緑がかった色をした大きな目が特徴的で、

真っ直ぐな鼻筋とともに大人びた印象を醸し出している。

「プロデューサーは何を食べるの?」

真っ直ぐ伸びた長い黒髪を片手で撫でながら、渋谷が言った。

「ハムのパスタがいいですね」

「それ好きなの?」

「大好物です。家でもよくパスタを茹でていますから」

「へえ、プロデューサーって料理するんだ」

意外そうに渋谷が言った。

「料理は得意ですよ。ハムのパスタは特に美味しい」

「そうなんだ。それじゃあ、私もそれにするよ」

二人ともメニューが決まったので、店員に注文を出した。

注文した料理を待っている最中、渋谷が僕に訊ねた。

「プロデューサー。私、和風な感じを学びたいんだ」

「和風」

「そう。今度のライブは和風がテーマだから」

渋谷は、そう言ってから何冊かの本を鞄から取り出した。

「蘭子や文香に相談したら、日本文学を読んでみると良いって言われた」

渋谷が言った。そして、机の上に本を並べ始めた。

「川端康成、三島由紀夫あたりが有名かと思って買ってみた」

川端に三島だって!

どうして僕の前にそんなモグラの糞みたいな本を並べるのだ。

やれやれ、と僕は思った。

「川端も三島もおすすめ出来ませんね」

「どうして」

渋谷は疑問符のない疑問を発した。

「文章が下手だし、まわりくどいし、鬱陶しいだけですよ」

「そうなんだ……」

残念そうな顔をして、渋谷が言った。

「日本文学なら漱石や谷崎のほうがおすすめですよ」

僕は言った。

「それってプロデューサーの好みじゃない?」

「あるいは」

僕は、回答に隠された真意を否定はしなかった。

「まあ、いいけど。どうせなら全部読んでみるよ」

「それも良いかもしれません」

「私は完璧なライブにしたいから、やれることは全部やる」

「そんなに意気込む必要はありませんよ」

「そうかな?」

「完璧なライブなど存在しません。完璧な絶望が存在しない様に」

「なんだか……よく分からないな」

困惑した顔で、渋谷は言った。

そうこう話している内に、注文したハムのパスタがやって来た。

テーブルに置かれたそれを、僕と渋谷は無言で食べた。

食事が終わって会計を済ませてから、僕と渋谷は店を後にした。

「今日は相談に乗ってくれて助かったよ。ありがとう」

「お役にたてれば幸いです」

「じゃあ、私は先に帰る」

そう言って渋谷は帰って行った。

去って行く渋谷を眺めていたら、

突如ケータイが鳴った。

メールが来たようだ。

やれやれ。誰からのメールだ。

差出人を見ると、高垣楓の名前が表示されている。

「高垣さん」

僕はそのメールを見た。

「今夜、いつものバーで一緒に飲みませんか?」

メールにはそう書いてあった。

僕は「付き合います」とメールを返した。

今日はここまでです。
次辺りで完結させるつもりです。

安部公房はウサミンの弟

仕事を終えた僕は、高垣がいるバーへ入って行った。

M.J.Qのレコードが流れる薄暗い店内は、

人が多く賑やかだが、落ち着いた雰囲気だと思えた。

こういう店もジャズも高垣によく似合っている、

と僕は思った。

「高垣さん」

僕は、先に席に着いていた高垣に挨拶した。

高垣は、コム・デ・ギャルソンのチュニックを着て、

椅子の脇にコーチのハンドバッグを置いていた。

「プロデューサーさん」

高垣に挨拶された僕は、彼女の対面に腰かけた。

僕と彼女は、赤いベルベット貼りの座椅子に座って向かい合う。

よく磨かれて光沢を放つチーク材のテーブルの上には、

アペタイザーのアヒージョが置かれていた。

「今日は飲みながらゆっくり語り合いましょう」

僕は言った。

「そうですね。まずは何か頼みましょう」

高垣が言った。

「それじゃあ……カティサークをボトルで」

「ウイスキーですか」

高垣が僕に訊いた。

「ウイスキーは嫌いですか?」

「いえ。たまには日本酒以外も良いですね」

高垣は笑顔で答えた。

僕と高垣は今日の出来事を話し合った。

「まあ、卯月ちゃん達に嫌われてしまったんですね」

「そうです。僕がパンケーキにコーラを掛けたせいで」

「コーラを掛けてこーらって怒られたんですね」

高垣は駄洒落を言った。

ノルウェイの森に吹きすさぶ寒風の様な駄洒落だが、

女の子たちに付けられた僕の心の傷には心地が良かった。

「僕は孤独ですよ」

「まあ、そんなことないですよ。私はプロデューサーさん好きですから」

「女の子たちを傷つけてしまった。プロデューサー失格です」

「傷」

「そして僕も傷ついてしまった」

僕は、かなり情けない顔をしてしまったかもしれない。

高垣は、そんな僕を気の毒そうに眺めていた。

「そんなに気にすることじゃないですよ」

「いつもだったら、もっと気楽に飲みに来るのですけどね」

「一人でも飲みに行かれるのですか?」

「チーズやナッツを摘まみたい時に、よく行きますよ」

「こういうお店にも慣れているんですね」

「そうかもしれません」

世間話をしていると、カティサークのボトルが運ばれてきた。

僕は、高垣と自分のグラスにカティサークを注いだ。

もちろん、オン・ザ・ロックで飲むつもりだ。

「乾杯」

はにかみながら高垣がグラスを掲げた。

「乾杯」

高垣に応えて、僕もグラスを掲げた。

「……あの、卯月ちゃん達は、謝ったら許してくれそうですか?」

「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」

「ちゃんと謝れば大丈夫だと思いますよ」

「そうだと良いのですが……」

僕はとにかく自信を失くしていた。

「マカロンでも差し入れしたら、見直してくれるかもしれませんね」

「あるいは」

「かな子ちゃん達、マカロンが大好物ですから」

「それで傷が癒されれば良いですね」

喪失感がマカロンで埋まるなら、

それは簡単な事だ、と僕は思った。

「とにかくやってみる事ですね」

僕は言った。

「そうです。プロデューサーさん。前向きに行きましょう」

高垣が僕を励ました。

「明日、マカロンを持って謝りに行きます」

僕は言った。

「それがいいでしょうね」

高垣が微笑んだ。

酔いが回ってきた頃、高垣が突然訊ねた。

「プロデューサーさん。今、欲しい物があるんです」

「何でしょうか?」

「拳銃」

何の抵抗もなさそうに、高垣が言った。

「冗談でしょう?」

狼狽しながら、僕は言った。

「もちろん、本物じゃありませんよ。玩具のです」

「なんだ……」

僕は一安心した。

「今度、アクション物の劇に出るので、役作りの為に欲しいのです」

「練習熱心なのですね」

「私、モデルガンの事はよく知りません。男の人なら詳しいかなって」

「僕はガンマニアって程じゃありませんが……」

「何かお手頃な価格のモデルガンはありませんか?」

「そうですね……ヘッケラー&コッホのピストルでも買って来ます」

「ありがとうございます」

嬉しそうに高垣が言った。

「ただ、大事なことがあります」

勿体ぶった様子で、僕は言った。

「何でしょう?」

「物語の中に拳銃が出てきたら、それは必ず発射されなければならない」

「そうなんですか?」

「チェーホフの言葉です」

「うーん、それじゃ、買ったら撃たないといけませんね」

「高垣さんは物語の人物じゃないですから、別に良いのでは?」

「それもそうですね」

「何となく言ってみたかっただけです」

微笑みながら、僕は高垣に言った。

「プロデューサーさんって本当に親切ですよね」

高垣が言った。

「プロデューサーとして当然の仕事をしているだけですよ」

「その謙虚さが貴方のレゾンデートルですね」

「そこまで言われると照れますね」

僕は言った。

「あなたの良さ、きっと卯月ちゃん達も分かってくれます」

高垣が言った。

「高垣さんに言われると自信が湧いてきます」

「うふふ、ありがとうございます」

僕は高垣との酒席を楽しんだ。

気が付けば、終電間際まで飲んでいた。

やれやれ、今日もあまり眠れなさそうだ。

翌日、僕は昼休みにマカロンを買った。

それを島村達に持って行った。

「プロデューサーさん……」

島村は怪訝そうな顔で僕を見つめた。

「あの、昨日のお詫びにお持ちしました」

僕は、両手で持ってマカロンを前に差し出した。

「それ大好物です!」

大喜びしながら、三村が言った。

「昨日はすいませんでした」

僕は謝った。

「プロデューサーさん……ありがとうございます……」

緒方が言った。

「また一緒にお茶会しましょうね」

満面の笑みを浮かべ、島村が言った。

「マカロンもコーラに浸したら美味しいかもしれません」

僕は提案した。

「もうコーラは勘弁してください!」

困惑した顔で、島村が言った。

「どれだけコーラすきやねん!」

三村が僕にツッコミを入れた。

「鋭いツッコミ。三村かな子さんにアドバンテージ!」

僕は言った。

「あの……マカロンはそのまま食べましょう……」

緒方が言った。

「プロデューサーさんのコーラ好きにも困ったものです」

島村が言った。

「そんなにおかしいですか?」

僕は島村に訊いた。

「やれやれ、と呆れるほどですよ」

島村が言った。

やれやれ、と思っているのは僕だけではなかった。

人はそれぞれ「やれやれ」を抱えて生きている、と僕は思った。

                                 ―完―

何日か掛かりましたが、完結しました。
お待たせしてすいませんでした。

読んでくれた方、ありがとうございます。

面白かったら幸いです。
実は村上春樹は「1Q84」と「パン屋再襲撃」位しか
まともに読んだことがなかったりしますww

村上龍のほうは、もっと色々読んでるんですけどね。
「村上龍風プロデューサー」も
リクエストがあれば挑戦します。

こういうの大好きだぜww

アイドルじゃなくPを主眼に置いたSSは味があっていい
…喩えの殆んどがわからなかったが、読んでて楽しかったよ

乙!
ぜひとも書いてくれ

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