鶫「惚れ薬は以前にもありましたが、超強力とは一体……?」
クロード「うむ。以前は効果時間が短いという欠点があったが、それを改良したらしい。ついでに効果も強化したとのことだ」
鶫「さすがビーハイブの開発部は優秀ですね。それでこれをなぜ私に?」
クロード「ああ、貴様にはこれをあの小僧に食わせて欲しい」
鶫「あの小僧というと一条楽ですか?」
クロード「当然だ」
鶫「しかし一条楽はお嬢の恋人ですよ? 惚れ薬を食わせずとも既にお嬢のことをす、好きだと思うのですが……」
クロード「何を勘違いしている。あの小僧にこれを食わせてお嬢以外の者に惚れさせるのがお前の役目だ」
鶫「え?」
クロード「お嬢が一条楽に騙されているのは間違いないが、なかなか尻尾を出さないからな」
クロード「この薬で他の女に惚れさせればお嬢も愛想を尽かして別れてくれることだろう」
鶫「し、しかしそれではお嬢が悲しんでしまわれるのでは……」
クロード「ああ、確かにそのときは悲しまれるだろう。だが真にお嬢の将来を考えるならば、たとえお嬢が悲しまれるとしてもしなければならないことがあるはずだ」
鶫「それはそうですが」
クロード「あいつが私から受け取ったものを食べるとは思えんからな。誠士郎、これはお前にしか出来ない仕事だ」
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鶫「ですがやはりこれは……」
クロード「貴様はお嬢と昔から仲がいいからやりづらい気持ちはわかる。が、これは命令だ。貴様が責任を感じる必要はない」
鶫「いえ、そこを気にしているわけでは……」
クロード「私はこれから別の用事がある。頼んだぞ」スタスタ
鶫「あ、クロード様!?」
鶫「行ってしまった……」
鶫「惚れ薬……」チラッ
鶫(一条楽をお嬢以外の者に惚れさせる……誰でもいいのだろうか。例えば私でも……)ハッ
鶫「わ、私は何を考えているんだぁぁーー!! 私は別にあいつのことなんかどうとも思っていないというのに!」
鶫「だ、だがまあ、クロード様のご命令だ。無視するわけにはいかないな。とりあえず持って行こう」
鶫「別に期待しているわけでは……何も期待することなどないわ!!」
鶫「学校に持ってきたはいいが、どうするべきか」ウーン
鶫(クロード様の命令なのだから、一条楽に食べさせるべきなのだろう)
鶫(そう、あいつに食べさせて、他の誰かに惚れさせてしまえばいいのだ)
鶫(私が食べさせるわけだから、一条楽が最初に見るのが私になってしまってもそれは不可抗力で……って違ぁーう!!)ブンブンッ
鶫(と、とにかく。食べさせるだけなら簡単だ。効果は以前ので証明されているし、さらに強力になったのなら確実にお嬢以外の誰かを好きになるはずだ)
鶫(……しかし)チラッ
千棘「でねー。そのときの楽の反応がまた傑作で」アハハ
小咲「あはは。そんなことがあったんだ」クスクス
万里花「まあ、お可哀想な楽様。私が慰めて差し上げないといけませんわね!」
千棘「あんたは強引に話を持って行くんじゃないわよ!」
鶫(楽しそうに一条楽の話をしておられる。お嬢の気持ちを考えるとやはり惚れ薬を使うのは……)
楽「おい鶫? なにグミ見て難しい顔してんだよ」
鶫「ほわぁっ!? きき貴様! いきなり話しかけるな!!」
楽「お、おお? そんないきなりだったか?」
鶫「まったく人が考えごとをしてるときに……なんの用だ?」
楽「いや、グミなんか見て考え込んでるから気になったんだよ」
鶫「それは……」
鶫(今、グミを食べてみろと言えば確実にこいつは食べるのだろうな。だが……)チラッ
千棘「でねー」アハハ
鶫(……うん、考えるまでもなかった。将来のことは確かに大事だが、今だって大事だ)
鶫(お嬢の笑顔を曇らせるようなことをしていいはずがない)
鶫(そうと決まればこいつに事情を話しておかなければな。さすがに何もしませんでしたとクロード様に報告するわけにもいかん)
鶫「実はクロード様からある命令を受けているのだが、それで困っていたんだ」
楽「お前にしちゃ珍しいな。どんな命令なんだ……って聞いても大丈夫なやつか?」
鶫「ああ、構わん。実は……いや、ここではお嬢に聞かれるかもしれん。教室の後ろの方に行くぞ」テクテク
楽「お、おう。千棘に聞かれちゃマズイのか?」テクテク
鶫「そうだ」
楽「それで何に困ってたんだよ? 良ければ力になるぜ」
鶫「別に助けてもらうようなことはない。実は貴様に惚れ薬を使うよう命令されていたのだ」
楽「へー、俺に惚れ薬を……はあぁぁぁ!?」
鶫「ば、バカ! 声が大きい!」
楽「ほ、惚れ薬? んなもん実在してんの?」
鶫「ビーハイブの科学力を甘く見るな」
楽「甘く見るなというか、惚れ薬なんて実現したら世界中大騒ぎになるレベルのもんだと思うんだが……」
鶫「まあ時間制限があるからな。……ほら、前に私が保健室で貴様に、だだ、抱きついたことがあっただろう?」カアァァ
楽「あ、ああ。そんなこともあったっけな」カアァァ
鶫「あのとき私は誤って惚れ薬を食べてしまっていたんだ。そのせいで貴様に抱きつくなどという失態を演じてしまったわけだ」
楽「あ、なるほど。だからあんなことしてきたのか。いやーなんであんなことされたのか、さっぱりわかんなかったんだよなー」
鶫「そのとおり。だからあれは私の本意ではなかったのだ。いいな!」
楽「わかったよ。……ところでその惚れ薬ってどんなやつなんだ?」
鶫「おっと、話がそれてしまったな。今私の机の上にある、瓶に入ったグミのようなものが惚れ薬だ」
楽「へー、見た目はグミみたいなのか。錠剤かカプセルなイメージだったぜ。どれどれ……」チラッ
鶫「まああまり薬っぽい見た目では摂取させづらいだろうからな。それよりクロード様には貴様が怪しんで食べなかったということにして伝えるつもりだから、貴様もそのつもりで……」
楽「……なあ、ちょっといいか?」
鶫「うん? なんだ?」
楽「お前の机の上にあるグミ。なんか千棘たちが食べちゃってるみたいなんだけど……」ダラダラ
鶫「はあ!?」バッ
千棘「おいしそうなグミねー」パクッ
万里花「ひとつくらいいただいても構いませんわよね」パクッ
小咲「鶫ちゃん、頂きます」パクッ
鶫「ストーーップ!」ダダダッ
千棘「わっ。ど、どうしたのよ鶫?」ビクッ
鶫「い、今すぐ吐き出してください! 小野寺様も、橘万里花もすぐに!」
万里花「……と言われましても」
小咲「ご、ごめんね。もう食べちゃった」
鶫「あああぁぁ……」
鶫(なぜ私は置きっぱなしにしてしまったんだ!?)
千棘「どうしたのよ、そんなに慌て……て……」
千棘「……鶫、あんたほんとに可愛いわね~。こっち来なさい」ウフフ
小咲「ねぇ、鶫ちゃん。ちょっと勉強教えて欲しいんだけど」ウフフ
万里花「……鶫様、少しお話があるのですが」ウフフ
鶫「……どうすればいいんだ」
楽「……本当に惚れ薬ってあったんだな」ポカーン
鶫「ボーっと見ていないで助けてくれ!」
楽「助けろったってどうすりゃいいんだよ」
鶫「とりあえずお嬢たちを引き離すのを手伝って……」
千棘「鶫? あんた何楽と話してるのよ」ゴゴゴ
鶫「え?」
小咲「私以外を見るなんて嫌だよ?」ゴゴゴ
万里花「浮気は許しませんわ」ゴゴゴ
鶫「お、小野寺様まで? 橘万里花も……?」
楽「お、おい。どうなってんだこれ?」ビクビク
鶫「いや、私にもさっぱりわからん。以前はこのようなことは……」ハッ
鶫「そういえばクロード様が効果も強化したとか言っていたような……。まさかこうなるとは」
楽「それってマズイんじゃ……」
千棘「そう、そんなに楽と話したいんだ」ゴゴゴ
小咲「嫌だって言ってるのに」ゴゴゴ
万里花「許しませんわよ?」ゴゴゴ
鶫「と、とりあえず逃げるぞ!!」ダッ
楽「お、置いてくなよ!」ダッ
千棘「こらー! 待ちなさーい!」
小咲「待てー!」
万里花「逃がしませんわよー!」
鶫「はぁ、はぁ……な、なんとか逃げ切ったか」
楽「みたいだな……疲れたー」ハァ
鶫「まさかこの薬の効果があんなに強化されていたとは……」
楽「ほとんど別人みたいになってたな。橘はまあ俺にするのと似たような感じだったけど、小野寺まであんなになるとはなあ」
鶫「ああ、そうだな」
鶫(ほとんど別人か……。私もこれを食べれば別人のようになって、我慢せず思いっきりこいつに……)ハッ
鶫(な、何を我慢しているというのだ! 私は別になにも我慢などしていないし惚れ薬など必要ない!)ブンブン
楽「鶫?」
鶫「な、なんでもない!」
楽「そっか。まあ責任とか感じるなよ。あんなところに置いてるの食うほうが悪いんだから」
鶫「私はなぜこの薬を置きっぱなしにしてしまったのか……」
楽「効果を無くす薬とかあればいいな」
鶫「ああ、クロード様に聞いてみよう」ヒュー…
楽「おい、危ねえ!」
鶫「え?」ガシャーン!
鶫「……わっ!?」パクッ
楽「大丈夫か!? なんで急に野球ボールが……」
鶫「……」ゴクッ
楽「……ちょっと待った。今惚れ薬にボールがぶつかったよな? しかもお前が口抑えてるのはもしかして……」
鶫「……」コクン
楽「お前までかよ!」
鶫「し、仕方ないだろう! 私だって食べたくて食べたわけじゃないんだ!」ギューッ
楽「つ、鶫!? なんで抱きついてきてんだよ!?」
鶫「こ、これは違う! 惚れ薬のせいだとわかっているのだが、どうしても抑えられないんだ!」
楽「と、とりあえず離れてくれ!」
鶫「離れろだと……そんなに嫌なのか?」ウルッ
楽「い、嫌なわけじゃねえけど……」
楽(とりあえず離れてえけど鶫から逃げるのは無理だろうし……しょうがねえ)
楽「ああもう、じゃあ千棘たちに見つからないうちに隠れるぞ。そこの保健室でいいよな」
鶫「それならわかった」ギュッ
楽(近い近い! というか当たってるし! すげー柔らか……いやいや、意識するな俺!)
楽「……先生はいねえみたいだな。運がいいのか悪いのか……」
鶫「少なくともこの姿を見られなくていいのだから、運がいいんだろう」
楽「そりゃそうか」
楽(……2人きりだと別の意味でマズイけど、そんなの言うわけにはいかねえか)
楽(つーか惚れ薬のせいとはいえ俺のこと好きな女の子と2人きりって……)ドキドキ
鶫「まったく、貴様相手にこんなことをしてはいけないのに……」スリスリ
楽「言ってることとやってることが全然違うんだけど!?」
鶫「体をくっつけたくて仕方ないんだからしょうがないだろう!」スリスリ
楽(なんでこいつの体こんなに柔らかいんだよ! こんなの身が持たねえって……!)
楽「わ、わかった。とりあえず一度離れてみようぜ。な?」
鶫「……なぜ離れなきゃいけないんだ」ギュ
楽「お前もこんなことしてちゃいけないって思ってんだろ? 試しに離れてみたら案外耐えられるかもしれないからさ」
鶫「……わかった。そこまでいうなら試してみる」
楽「……」
鶫「……」ソー
楽「どうだ? 大丈夫だろ?」
鶫「……うん、まあこれでも我慢できないことはなさそうだ」
鶫「それに」
楽「それに?」
鶫「今まではこんなに近くで2人きりになることもほとんどなかったしな」ニコッ
楽「お、おう。そうだな」ドキッ
楽(普段とのギャップが心臓に悪い!)ドキドキ
鶫「しかし貴様も大胆だな」
楽「は? 何の話だよ」
鶫「こんなベッドがあるところで2人きりになったということは、その、そういうことなんだろう?」モジモジ
楽「ちげーよ!!」
鶫「しかしまだこういうのは少し早い気がするぞ? それはまあ、貴様がしたいというのなら私もやぶさかでは……」モジモジ
楽「だから違うっての!」
鶫「……なんだ、違うのか?」
楽「当たり前だろ! いくらなんでも薬のせいでこうなってる相手にそんなことしねえって」
鶫「薬のせいなどではない」
楽「どう見ても薬のせいじゃねえか。普段俺のこと嫌ってるお前がこんなことするわけないだろ?」
鶫「本当に薬のせいじゃないんだ。ただ、いつもよりちょっとだけ」
鶫「……ちょっとだけ、薬のお陰で素直になれているだけだ。我ながら、情けないが」
楽(……調子狂うな。薬のせいなんだろうけど、こんなふうに落ち込まれると対応に困る)
鶫「まあ私のことはどうでもいい。一条楽、貴様はお嬢のどんなところが好きになったんだ?」
楽「いきなりどうした?」
鶫「私は貴様のことが好きでたまらないが、貴様は私よりお嬢のことが好きなのだろう? だから、貴様がお嬢のどんなところが好きなのか聞いてみたいんだ」
鶫「私がお嬢のいいところを真似れば、私のことも好きになってくれるんじゃないかと……。まあ、お嬢の良さの100分の1も真似できるとは思っていないが」
楽「どんなところが好きって言われてもなあ。すぐには……」
鶫「何か具体的な理由があるのだろう? 貴様の好みは黒髪のショートで気が強くて腕っぷしが良くて、ちょっと怖がりな子だったはず」
鶫「こ、好みだけでいえば私がぴったりじゃないか。まあもちろん、お嬢は好みなぞ超越するほど魅力的ではあるが……」
楽(んなこと言ってたっけ!? 何やってんだ俺のバカ! あ、あんまり適当なことは言えねえな……)
鶫「貴様に振り向いてもらいたいんだ。教えてくれないか」
楽「えーっと……まあ暴力はよく振るうけどほんとは優しいところとか、後は感情表現が素直なところとか……かな?」
鶫「……それだけか? もっとこう、よく食べるところが可愛いとか、寝顔が美しいとかないのか?」
楽「いや、別にそれがないとは言わねえけど、なんでそこ選ぶんだよ」
鶫「そこが魅力だと思うのだが……まあそれは感性の違いか。ありがとう、参考になった。今後はより暴力を振るうように――」
楽「するなよ! なんでよりにもよってそこ真似するんだよ!」
鶫「違うのか? てっきり暴力を振るわれないと優しくされても満足できないのかと」
楽「ちげーよ! ほんとは優しいってところを言いたいだけだって! ……大体暴力ってお前からも十分受けてるからな?」
鶫「それは……本当にすまない。お嬢の事で頭に血が上ったり、言い訳になるとも思っていないが照れ隠しでしてしまったりして……」
楽「い、いや、別に責めるつもりじゃ……ああもう、なんにしろ俺がハニーのどこを好きかなんてどうでもいいんだよ!」
鶫「ど、どうでもいいなんてことはないだろう。私はお嬢のように貴様に好かれたいんだ!」
楽「そういうことじゃねえって。千棘には千棘のいいところがあるように、鶫にだって鶫のいいところがあるだろ?」
楽「なのに千棘の真似することばっか考えてたら、鶫のいいところがあんまり目立たなくなっちまうんじゃねえかな」
鶫「……確かにそういう面はあるかもしれん」
楽「だろ?」
楽(ふう、これで落ち着いてくれれば……)
鶫「だが、貴様は私のことは好きではないのだろう?」
楽「えっ。……い、いや、それは……」
鶫「ほら、言葉に詰まったではないか。まあいい、じゃあ私のいいところをどこか思い浮かべてみろ」
楽(いいところってええと……)
楽(スタイルがめちゃくちゃいいよな。運動神経も抜群だし、頭もいい。料理もうまいし、歌もすげえうまい)
楽(他にも大人っぽくて綺麗だな。船に乗ったときのドレス姿は、なんつーかドキドキした。あとは素直というか、純粋なところとかか)
鶫「……いくつかは思い浮かんだか?」
楽「あ、ああ。当たり前だろ」
鶫「……そうか。ではそれを踏まえた上で、私の事が好きだと思えるか?」
楽「ちょ、ちょっと待てって。お前だって知ってるだろ? 俺にはハニーというれっきとした恋人が……」
鶫「そんなことは知っている。もとよりお嬢より好きになってもらえるなどという不遜なことは考えておらん」
鶫「お嬢と比べて好きかそうではないかじゃない。私のことが好きかどうか聞いているんだ!」
楽(千棘と比べてじゃなくて……いや、この場合小野寺と比べてじゃなくてになんのか?)
楽(って、んなのどっちでもいいんだよ! 俺が鶫のことどう思ってるか、か……)
楽(……考えたことなかったな。まあ、鶫が俺のことを好きになるなんて薬でも飲まなきゃあり得ねえから、わざわざ考えようなんて思わなかったんだけど)
楽(……一体、俺は鶫のことどう思ってんだ?)
鶫「……もう十分だな」
楽「え?」
鶫「やっぱり、貴様は私のことを好きとは思えないのだろう? 私のよいところを思い浮かべてもそうなのだ」
鶫「私が私のままでは好きになってもらえない。ならば私が変わるしかないではないか。……違うか?」
楽「い、いや、今回は急だったから……」
鶫「それなりに待った。それとももっと時間をかければ好きだと言ってくれるのか? まさか諦めろとでも言うつもりか?」
楽「それは……」
楽(何にもいえねえな……)
鶫「なあ、一条楽。私に好かれるのは迷惑か?」ズイ
楽「それだけは違う。迷惑なんかじゃねえよ」ススス
鶫「そう言うくせに近づくと避けるじゃないか。やっぱり迷惑だと思っているんだろう?」
楽「迷惑じゃねえけどさ、惚れ薬のせいで好きになられたってベタベタするわけにはいかねえよ」
鶫「……そうか」
楽「お前は薬のせいじゃないって思ってるみたいだけど――」
鶫「まあ、薬のせいかどうかはもはやどうでもいい」
楽「え?」
鶫「さっきから胸が苦しくて、切なくて、頭もクラクラする。必死で体を抑えつけていたがもう限界だ」
鶫「私が変わるというなら今こそ変わるべきだろう。お嬢を見習うつもりだが、優しさを見せるのは時間がかかりそうだから……とりあえずは感情表現を素直に」
楽「つ、鶫さん?」
鶫「黙って私に抱きつかれていろーー!」ギュー
楽「うおぉぉ!?」
鶫「一条楽ぅ……」スリスリ
楽(やばいやばいやばい! 胸に顔を擦り付けられてる!)
鶫「……好きだ。好きぃ」スリスリ
楽「お、おい鶫! 冷静になれ!」グイッ
鶫「なんで離すんだ……」グスッ
楽「っ!?」ドキッ
楽「だ、だからさ。今のお前は惚れ薬でおかしくなってるんだって。あとで絶対後悔するからな?」
鶫「そんなことはない! 私は薬と関係なく貴様のことが好きなんだ。それはまあ、恥ずかしくて殴ったりはしてしまうかもしれんが……」
楽(それが一番問題なんだよなあ)
鶫「だから後悔なんてしない。おとなしく私に従え!」
楽「だからそれはおかしいだろ!?」
鶫「そんなに私が貴様を好きだということが信じられないのか」
楽「信じられないっていうか、そもそも薬で俺のこと好きになってるだけだからさ」
鶫「それは違うと何度言えば……ええい、これでどうだ!」ムニュッ
楽「ぶっ!? つつ鶫!? な、なんでお、俺の手を胸に押し付けてんだよ!?」アワアワ
楽(て、手で触ると一層柔らかさを感じ……じゃねえって!)
鶫「こ、これで私が貴様といてどれだけドキドキしているかわかるだろう!? これでも私の気持ちを疑う気か?」カアァァ
楽「確かにわかるけど、別にそれは疑ってねえよ! それが薬のせいだってだけで!」カアァァ
鶫「ああ言えばこう言う奴だな。……まあ、そんなに嫌だというなら離してやろう」パッ
楽「お、おう」
楽(た、助かった。あのままだったらどうなってたか……)フゥ
鶫「代わりに後ろを向け」
楽「後ろ? まあいいけど」クルッ
鶫「えい」ギュー
楽「お、おい!?」
鶫「後ろからなら離すことは出来ないだろう?」フフッ
楽(鶫の手が外れなくて逃げられねえ……!)グイグイ
鶫「なあ、一条楽。私は少しだけ積極的になれたと思う。今までの自分とは多少なり変わったと思うのだが、今の私なら好きになってもらえるだろうか」
楽「それは……悪いけど、まだわからねえ」
鶫「そうか……。なら、私が確かめてやろう」
楽「た、確かめる?」
鶫「ああ、じっとしていろ」サワッ
楽「~~っ!? お、お前なに服の中に手を入れてんだよ!?」
鶫「直接のほうが分かりやすいだろう」サワサワ
楽「な、何の話だよ!?」
鶫「心臓の鼓動だ。私のことを好きと感じてくれているのなら、鼓動が速くなっているはずだ」
楽「鼓動が速く……ってなってるから! なるに決まってんだろ!?」
鶫「なにが決まっているんだ?」
楽「女子に抱きつかれたら誰だってドキドキするっての!」
鶫「例えばポーラに同じように抱きつかれたとして、そんなにドキドキするのか?」
楽「い、いや、それはしねえと思うけど……でもあいつは子供だろ?」
鶫「要するに恋愛対象外ということだろう? 私の場合はドキドキするということは、私のことを恋愛対象として見てくれているということ」
鶫「つまりは私のことを好きだと多少なり思っているということだ」
楽「そう……なのか?」
鶫「そうだ。私だって今は死にそうなくらい心臓がドキドキしているが、同じことを舞子集にしたとしても微塵もドキドキしないだろう。ただ殺意を覚えるだけだ」
楽「集には厳しいな」ハハ…
鶫「当然だ。私が好きなのは貴様だけなのだから。さあ、話は終わりだ。おとなしく私に確かめさせ――」ハッ
鶫(わわ私は何を大胆なことをしているのだ!? 一条楽の服の中に手を入れ、心臓の鼓動を直接調べるなど、まるでこいつのことを好きみたいでは――)
鶫(い、いや。違う。私の心臓はまだドキドキしている。つまり私は一条楽が好きだということだ。そもそも惚れ薬を飲んだのだから、好きであって当然だ!)
鶫(以前のように時間制限があったならともかく、今のものは欠点を改良しているのだから!)
楽「鶫? 急にどうかしたのか?」
鶫「な、何でもない。そ、それより鼓動を調べ……」プルルル
鶫「こんなときに電話とは……クロード様?」ピッ
クロード『誠士郎か。この間伝えた惚れ薬をヤツに食わせる作戦だが、あれは中止だ』
鶫「え? な、なぜですか?」
クロード『欠点を改良したなどと言っていたが、詳しく確認したら効果時間を倍にしただけとのことだ』
鶫「倍……」
クロード『ああ、要するに20分しか効かないらしい。とてもじゃないが使い物にはならん。よって作戦は中止。薬は処分しておくように』ピッ
鶫「……」
楽「……鶫? 今なんか20分しか効かないとかどうとか聞こえたような……」
楽(20分……経ってるよな?)チラッ
鶫「……」ギュウゥゥ
楽「えっ!? つ、鶫!?」
鶫「私の鼓動、感じるか?」
楽「あ、ああ……じゃなくて!」
鶫「私の鼓動はさっきと変わらず速いだろう?」ドキドキドキ
楽「そ、そうだな」
鶫「なら私は貴様のことがまだ好きだということだ。だから薬の効果はまだ続いている。クロード様が間違っておられるのだ」ギュッ
楽「えーと……?」
鶫「私が貴様を好きになるはずがない。それなのにまだ鼓動が速いということは、薬の効果が残っていて貴様のことが好きになってしまっているということだ」
鶫「だからこのまま、貴様に触れさせていてくれ」
楽「だ、ダメだって! 薬の効果がいつ切れるかわかんねえんだから!」
鶫「良いではないか。貴様が嫌というならまあ考えないこともないが……」サワサワ
楽「ちょ、鶫!」ドキドキドキ
鶫「……ああ、鼓動が分かる。速い。貴様もドキドキしてくれていたのだな」
楽「そりゃするに決まってんだろ……」ドキドキドキ
鶫「そうか。貴様も私のことを好きでいてくれているんだな。お嬢の何分の一かわからんが……それでも嬉しい」ニコッ
楽「っ!?」ドキッ
楽(俺が好きなのは小野寺だ。それは間違いないけど……俺は鶫のことも気になってんのか?)
楽(……本当に気にならないならドキドキしないだろうし、気になってるのは間違いねえな。けど)
楽「俺は、その、お前のこと、確かに気になってると思う。でも、それが好きに入るのかどうかはまだわかんねえ」
鶫「私も最初は貴様のことが気になっていただけだった。だが薬を飲んでそれが恋だということに気付いたのだ」
鶫「……貴様もそうだとは言わんが、そうであって欲しいと私は思う」
楽「……」
鶫「……一条楽。改めて言うぞ、私は、私は貴様のことが好――」
千棘『鶫どこ行っちゃったのかしらね?』
小咲『うん。全然見当たらないね』
鶫「お、お嬢が廊下に!?」ビクッ
楽「こ、声を抑えろ!」ヒソヒソ
千棘『さっき追っかけちゃったから逃げちゃったみたいねー』
小咲『うん、それにしてもさっきのはなんだったのかな?』
千棘『前にもあったわよね。なんでか鶫のことしか考えられなくなっちゃって……』
小咲『私も。鶫ちゃんがすっごく可愛く見えちゃって……あ、もちろん普段から可愛いんだけど』
千棘『万里花は悪い夢を見たとか言って早退しちゃったけど、ホントそんな感じよねー』
楽(……あれ? これってもう……)
鶫「……」ギュッ
千棘『……私ってそっちのケがあるのかしら』ボソッ
小咲『ち、違うんじゃないかな!? そしたら私もそうだってことになっちゃうし……』アワアワ
千棘『じょ冗談よ冗談! そういう人もいるみたいだけど私は違うから!』アハハ
鶫(やはりあの薬の効果はもう切れているのか……なら私はこいつのことが本当に)
小咲『そ、そうだよね。千棘ちゃんには好きな人もいるんだし』
楽(こ、この話の流れはまずくねえか? 止めたいけど、この状況を見られるわけにはいかねえし……)
千棘『そうそう。もちろん女の子じゃないわよ』
小咲『好きな人……そういえば一条くんにはそのこと言ってるの?』
楽(やべえ! 後のことはともかく、今止めねえと鶫にバレちま……)
鶫(言わなくても通じあっているということか。……羨ましいな)ギュウゥゥ
楽(な、なんで急に力が強く!? い、息ができなくて声も出せねえ!)ジタバタ
千棘『え?』
小咲『ほら、偽物とは言っても恋人をしてるんだし、ちゃんと言ったほうがいいんじゃないかなって』
千棘『あ、ああ。そういうことね! まあ一応、好きな人がいるってのは言ってるわ』
鶫「……え?」
楽(あっちゃー……)
千棘『……あいつには上手く伝わってないみたいだけど』ボソッ
小咲『え?』
千棘『なななんでもない! 偽物とはいえ恋人だもの。黙ってっていうのは悪いしちゃんと言ってるわよ』
鶫「偽物……」
小咲『そっか。ごめんね、変なこと聞いちゃって』
千棘『気にしないで。鶫たち教室に戻ってるかもしれないし、私たちも戻りましょうか』
小咲『うん、わかった』
鶫「…………」
楽「…………」
鶫「言いたいことが色々とあるのだが、ひとつずつ整理させてもらっていいか?」
楽「……おう」
鶫「まずその、惚れ薬の効果は……クロード様の言うとおり20分だけのようだ」
楽「……千棘も小野寺も落ち着いてたもんな。……その」
楽「……く、薬の効果が続いてると勘違いして暴走しただけだったり――」
鶫「だと、思うか?」
楽「……」
鶫「……意地の悪い聞き方をしたな。すまない」
楽「いや、俺が悪かった」
鶫「まあ、普段の行動からは私が貴様のことを嫌っていると思うだろうから、貴様の反応ももっともだと思う」
鶫「……実際、私が気付いたのも薬を飲んで効果が切れてからだ。ついさっきだな。……わかっていたのにわからないフリをしていたような気もするが」
楽「……」
鶫「ともかくだ」フゥ
鶫「さっきは薬の効果で、薬のせいだと思おうとして、勢いに任せて言おうとしたが、今度は改めて」
鶫「改めて、私自身の言葉で、私自身の想いを」
鶫「貴様に、一条楽に伝えたい。……聞いてくれるか?」
楽「……ああ」
鶫「ありがとう」スゥ
鶫「一条楽。私は、貴様のことが好きだ。たとえお嬢の恋人であってもこの気持ちは抑えられない」
鶫「私の初恋の相手は貴様だ。……一条楽、私の恋人になってくれ」
楽「……俺は――」
鶫「などという告白は、本来するつもりではなかったのだ」
楽「う、うん?」
鶫「薬のせいということにしてウヤムヤにしようとしていたのだが……一条楽! 貴様、小野寺様とお嬢のおっしゃっていた偽物の恋人とはどういうことだ!!!?」
楽「このタイミングでそれかよ! 告白の返事は!?」
鶫「ごまかすな!」
楽「ごまかすつもりで言ってるんじゃねえよ!?」
鶫「私のことなど後回しで構わん。先ほどの2人の発言が本当なのかどうかはっきりさせろ!」
楽「……千棘のやつ油断しやがって」ハァ
楽「まあ、好きだって言ってくれたのに誤魔化すわけにもいかねえしな」
鶫「それではやはり……」
楽「ああ、俺と千棘は本当に付き合ってるわけじゃない。家の都合で付き合ったフリをしてんだよ」
鶫「どんな都合でだ」
楽「うちとお前のとこが抗争始めないようにだよ」
鶫「そんなもの、お互いのボスが言って聞かせればよいではないか」
楽「うちの竜とか、お前のとこのクロードとか見てればわかるだろ? 若い衆なんてもっとだろうし、言ったって聞かねえよ」
鶫「……確かに否定できんな。それで、ボスの子同士が付き合っていれば仲を引き裂きかねんことはしないだろうということか」
楽「そういうこと。嘘だと思うなら後で千棘にでも確認してくれ」
鶫「いや、必要ない。そんな嘘をつく意味もないだろう」
楽「まあそうだな」
鶫「そうか。本当に……」
楽「……その、わかってくれたんなら、さっきの返事。してもいいか?」
鶫「……ああ」コクン
楽「好きだって言ってくれたのはすげえ嬉しかった。今までお前には嫌われてると思ってたから余計に」
楽「鶫のことは綺麗だと思うし、料理が上手かったり、家庭的だったり、意外と女の子らしいところも可愛いと思う」
楽「さっき言った気になってるってのは本当のことだし、もしかしたら好きなのかもしれねえ」
楽「でも、俺にはもっと好きな相手がいるんだ。千棘とは偽物の恋人だけど、それとは別に」
鶫「……そうか。相手を聞いてもいいか?」
楽「……ああ。俺は小野寺のことが、中学の頃からずっと好きなんだ」
鶫「小野寺様か……。なるほど」
鶫「……実は、少しだけ期待したのだ。お嬢とは偽物の恋人だと分かって、今本当に付き合っている相手がいないのならば、私と恋人になってくれるのではないかと」
鶫「考えてみれば馬鹿な話だな。告白なんて、ずっと前から橘万里花のを受けているのだから、それを考えれば私からの告白など今さらだろうにな」ハハ
楽「……」
鶫「小野寺様なら、まあ惹かれるのも当然だろうな。お嬢に劣らず可愛らしい方だからな。……うん、仕方がないな」
楽「……悪い」
鶫「謝るな。こういうのは初めてとはいえ、私でもそのくらいはわかるぞ」ムッ
楽「うっ」
鶫「まったく、これだから貴様は。……それに、このくらいで諦めるつもりはないからな」
楽「えっ?」
鶫「何を驚いた顔をしている。別に1度フラれたからといって諦めなければならないわけではないだろう。橘万里花などどうなる」フフッ
楽「そ、それはそうだけど、まさかというか……」
鶫「とりあえずだ。私と恋人になってもらおう」
楽「……は?」
鶫「聞こえなかったか? 私と恋人になってもらうと言ったんだ」
楽「いやいやいや、今断ったばっかりなんだけど!?」
鶫「別に本物の恋人になるわけじゃない。お嬢の代わりに私が偽物の恋人になるのだ」
楽「ち、千棘の代わり?」
鶫「そうだ。ビーハイブと集英組の人間が付き合っていれば良いのであれば、別にお嬢でなくとも構わんだろう」
楽「付き合ってればっていうか、抗争を止められなくちゃいけねえんだぞ?」
鶫「無論、お嬢と私とでは組織にとっての重要性に天と地どころではない差があるが、そこはなんとかする。クロード様さえ説得できればなんとでもなるはずだ」
楽「確かにクロードのやつが暴走しなけりゃ千棘の親父さんが抑えてくれそうだけどさ。わざわざそんな危険なことするとは……」
鶫「そもそもだな。私が貴様のことを好きか嫌いかなど関係なく、お嬢が好きでもない相手と恋人をさせられているなど、見過ごせるわけがない」ズイッ
鶫「どうしてもそれしかないのであればともかく、他に手段があるのなら、何としてでも偽物の恋人などという役目から解放して差し上げたいと思うのは当然だろう」
楽「……まあ、そりゃそうだよな。千棘の親友なんだから、ほっとけるわけねえか」
鶫「しし親友などと恐れ多いことを!!」ワタワタ
楽(千棘も苦労してそうだな)ウーン
鶫「ま、まあ親友はともかく、要はそういうことだ。それにお嬢には他に好きな相手がいるのだろう?」
楽「ああ、それもあったな。……いつまでも偽物の恋人なんてやってたら迷惑か」
鶫「うむ。そのとおりだ」
鶫「……その、ほ、本物の恋人なら諦めもつくが、偽物なのに私以外の女性と仲良くしている姿を見ていたくない、というのもないわけではないのだが……」ゴニョゴニョ
楽(こいつたまにすっげえ可愛いこと言うな……)ドキドキ
鶫「と、ともかく! 私欲がないわけではないが、何よりもお嬢が自由に恋できるようにするためにも必要なのだ!」
鶫「……一条楽。偽物で構わない。私を、あなたの恋人にしてください」
楽「……鶫。俺も、お前の言うとおりだと思う。千棘に好きな相手がいるってのに偽物の恋人なんて続けてるのは、千棘にとっちゃいい迷惑だよな」
楽「千棘とは別れてお前と偽物の恋人になるのが、千棘にとって一番いいんだと思う」
鶫「ああ」
楽「けど俺は、やっぱり小野寺のことが好きだから、お前と偽物の恋人になったとしても、小野寺よりお前のことを好きになるなんて、少なくとも今は考えられねえんだ」
楽「だから……その、中途半端に付き合ってお前のことを傷つけちまうのは嫌なんだよ」
鶫「私は別にそれでもいい。お嬢が偽物の恋人を演じている方がよほど嫌だ」
楽「まあそりゃお前にとっちゃ自分より千棘のほうが大切なんだろうけど、俺にとっちゃお前も千棘もどっちも同じくらい傷つけたくねえんだよ」
鶫「……貴様があっさりとそういうことを言うから私は……」ドキドキ
楽「え?」
鶫「なんでもない。それより現状維持だとお嬢は偽物の恋人を続けて傷つく、私は貴様とお嬢を見て傷つくと2人とも傷つくのだが?」
楽「うっ……い、いやほら。偽物とはいえ一度付き合ってやっぱりごめんってのは傷の深さが違うというか……」ワタワタ
鶫「まったく。一条楽、私は偽物の恋人で構わないと言ったが、別に最後までそれでいたいわけではないのだぞ」
鶫「出来るなら本物の恋人になりたいのだ。そのためにはなるべく一緒にいるほうがいいだろう?」
楽「あ、ああ」
鶫「だからまずは偽物の恋人になって、貴様と一緒にいる時間を増やしたい」
鶫「……確かに傷つく結果に終わるかもしれんが、本物の恋人になれるチャンスが増えるならそれでいい」キュッ
楽(こいつそんなに俺のこと……)
鶫「まあ、はっきり言って貴様にはなんの得もない話だ。私とお嬢の事情ばかり言ってしまったが、嫌だというのなら断ってくれて構わん」
鶫「私のことはともかくお嬢のことがあるから、出来れば私の頼みを聞いて欲しいとは思うが、無理強いの出来ることではないからな」
鶫「……一条楽。もう一度返事をくれないだろうか」
楽「……鶫。お前ってカッコいいな」
鶫「な、なんだ急に」
楽「千棘と俺が偽物の恋人だって聞いてから、すぐ千棘が偽物の恋人をやめられる方法思いついたところとかさ」
楽「他にも、俺は小野寺が好きだってことフラれるのが怖くて中学のころからずっと言えなかったから、お前がフラれてもいいなんて覚悟決めてるのもすげえカッコいいって思った」
楽「……さっき言った2人とも傷つけたくないからってのは本心だけど、正直好きって言われたお前から逃げてるのもあったような気がする」
楽「だからお前のこと見てるとこのままじゃよくねえなって思ったんだ」
鶫「!」
楽「自分でも自分の気持ちがどうなるかわかんねえけど……俺で良ければ、俺をお前の恋人にしてくれ」
鶫「……本当にいいのか? 説明はするつもりだが、小野寺様に余計な誤解を与えるかもしれんのだぞ?」
楽「わかってるって。というか今さら言うことかそれ?」
鶫「それは……すまない」シュン
楽「い、いや、別に怒ってるわけじゃねえって。んなこと全部わかってるから大丈夫って言ってるんだよ」
鶫「そうか」シュン
楽「と、ともかく! 鶫、最初はちょっとぎこちないかもしれねえけど、これからは恋人としてよろしくな」
鶫「……ああ。ありがとう、一条楽。こちらこそよろしく頼む」ニコッ
楽(この笑顔にも慣れねえとな……)ドキドキ
鶫「さて、これから頑張らないといけないな」ボソッ
楽「ああ、ウチのやつらとお前んとこのボスはともかく、クロードをどうやって納得させりゃいいんだろうな……」ハハ…
鶫「き、聞いていたのか。……まあ、確かにそれもあるな」
楽「確かにって他にあるのか?」
鶫「うむ。そちらはクロード様に私が女だと明かせば、クロード様が動揺してる間になんとかなるだろうからな。多分」
楽「いくらなんでも雑過ぎねえか」
鶫「まあ貴様は苦手かも知れんが、クロード様は身寄りの無い私をここまで育ててくださった方だ。貴様にはそうは見えんだろうが本来優しい方なのだぞ」
楽「優しいねえ……。まあいいか。それで他のはなんなんだよ?」
鶫「本物の恋人になれるよう、これから貴様の恋人として頑張らねばならんからな。こちらのほうがよほど難しい」
楽「!」
鶫「私は貴様に小野寺様より好きになってもらわなくてはならない」
鶫「橘万里花より貴様のことを幸せにできると感じてもらわなくてはならない」
鶫「奏倉先生より貴様のことを理解しなければならない」
鶫「……そして何より、お嬢より付き合ってよかったと思ってもらわなくてはならない」
鶫「どれも難しいことだが、私は頑張るから。だから一条楽。これからは前より私のことを見ていて欲しい」
楽「……」
鶫「一条楽? な、なにか変なことを言っただろうか」オロオロ
楽「い、いや、なんつーか……サラッとそんなこと言えるのがすげえなって」カアァァ
鶫「なっ!? き、貴様が言うな!!」カアァァ
楽「俺は別に言ってねえよ!?」
鶫「ついさっきも言っていただろうが!」
楽「そんな覚えはねえんだけど!?」
鶫「あるわ馬鹿者! ……う~」ウルウル
楽「わ、悪かった。あんな風に思ってくれてるのは素直に嬉しいと思ってるよ」
鶫「……本当か?」
楽「本当だって。お前のこともこれからはちゃんと恋人……というか、そういう風に見るようにするから」
鶫「……信じるぞ?」
楽「おう」
鶫「……うん、ならいい」
楽「じゃあとりあえず教室に戻ろうぜ。千棘と小野寺もそろそろ戻ってんだろ」
鶫「……だ、ダーリン、待った!」カアァァ
楽「ぶっ! つ、鶫!? どうした急に!?」
鶫「うむ、教室に戻るより先にやることが……」
楽「そっちじゃねよ!」
鶫「お、お嬢と貴様の真似をしたのだが……思ったより恥ずかしかったな」カアァァ
楽「言っとくけど2人きりのときはそんな呼び方してねえからな」
鶫「そ、そうなのか」
楽「お前だって普段はダーリンとか言ってないの聞いてたろ?」
鶫「む、言われてみれば」
楽「あれはクロードとかお前を騙すためにやってたんだから、無理しなくていいからな。それで先にやることってなんだよ」
鶫「ああ、早速帰ってボスとクロード様を説得するぞ」
楽「え、今から?」
鶫「今からだ。お嬢のためを思えば少しでも早くするべきだろう。それにクロード様に説得する前に見つかってしまっては面倒だ」
楽「それはわかるけどよ」
鶫(なぜ少しでも早く恋人になりたいという気持ちがわからんのだ!)ムー
楽「……まあ確かに見つかったら説得するの大変そうだしな。そっち先済ませるか」
鶫「なら善は急げだ。行くぞ、だ、ダーリン♪」
楽「気に入ってんのかそれ!?」
鶫「……貴様はハニーと呼んでくれないのか?」
楽「そっちもかよ! ……まあそのうちにな」
鶫「……仕方ない。待っているぞダーリン♪」
楽「マジでそれやめて!」
<次の日>
鶫「お嬢ー!」
千棘「あ、鶫。楽も」
楽「おう」
千棘「昨日どうしたのよ。いつの間にか2人とも早退しちゃって」
鶫「私と一条楽でボスとクロード様のところへ行っていました」
千棘「珍しい組み合わせねー……ってちょっと楽!?」グイッ
千棘「あんたまさか鶫に私たちのことバレたんじゃないでしょうね!」ヒソヒソ
楽「……バラしたのはお前だけどな」ハァ
千棘「え?」
楽「昨日保健室の前で小野寺と話してたろ? あのとき保健室の中にいたんだよ」
千棘「え!?」
楽「まあ大丈夫。悪いようにはなってないから安心しろ」
千棘「ほ、ホントでしょうね?」
楽「本当だって」
鶫「お嬢、ご安心ください」
千棘「鶫! その、黙っててごめんなさい」
鶫「気になさらないでください。私こそ2人が偽物の恋人だと気づかず申し訳ありませんでした」
千棘「まあ、隠してたわけだしね。それよりパパとクロードに何話したの?」
鶫「長くなりますので詳細は省きますが……結論としては今日から私が一条楽の偽物の恋人になることになりました」
千棘「……ん?」
鶫「ボスからはそれでよいと了承を得ました。クロード様には今度こそ本物の恋人だと説明していますが、とりあえずは信じていただけています」
楽「何度か命の危険を感じたけどな……ちなみにウチの親父も別にいいってよ」
千棘「……んん?」
鶫「そういうわけですので、今後は一条楽の恋人のフリなどなさらずとも大丈夫です。自由に高校生活をお楽しみください」グッ
楽「好きな相手いるのに恋人なんてやってもらってて悪かったな」
千棘「……んんん?」
鶫「それではこれから小野寺様と宮本様に私が代わりになることを説明してきますので、失礼致します。行くぞダーリン」
楽「普段からダーリンって言うのやめろって!」
千棘「……」
千棘「……」
千棘「……」
千棘「どうしてこうなった!」
終わり
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ああー