男「俺は確実に“弘法にも筆の誤り”をさせる技を編み出した」 (17)


友人「おい、聞いたぞ!」

友人「ついにあいつとケンカすることになったんだって?」

男「ああ、あいつとはもう殴り合うしかない」

男「これ以上いがみ合ってても、ラチがあかないしな」

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友人「やめとけって……あいつが空手やってんの知ってんだろ?」

友人「しかも並みの腕じゃない。段位持ってて、たしか大会でも優勝してんだぞ?」

友人「ボコボコにされちまうぞ。下手すりゃぶっ殺されるかも……」

男「心配すんな。ちゃんと勝算はある」


友人「いやいや、どうしてそんなことがいえるんだよ?」

友人「お前、格闘技なんかやってないだろ?」

男「ふっふっふ……答えは簡単だ」

男「どんな達人だって、凡ミスすることはあるってことだ」

友人(全然意味が分からん……)


男「たとえばさ、将棋のプロ棋士が、“二歩”で負けたなんてエピソードがあるじゃん」

男「二歩なんてルール知ってれば、素人でもそうそうやらないのにな」

友人「ああ、聞いたことある」

男「他にも、強打者が肝心なところで見逃し三振する、なんてこともあるじゃん」

友人「確かにあるな」

男「猿も木から落ちる、河童の川流れ、弘法にも筆の誤り、なんてことわざもある」

友人「あるある」

男「つまり……そういうことなんだよ」

友人「いや、どういうことよ!? もうちょっと説明がんばれよ!」


男「だからさ……」

男「もし……ケンカの時、あいつが凡ミスしまくったらどうなると思う?」

友人「パンチを外したり、コケたりするってこと?」

友人「もし、そんなことがあったら、お前にも勝ち目が出てくるな」

男「だろ?」

男「つまり……そういうことなんだよ」

友人「つまり……お前の勝算ってのは、相手の凡ミス待ちってことかよ!?」

友人「バクチにもほどがあんぞ!」


男「ちがうちがう」

友人「え?」

男「実はさ、俺は玄人がまれにやる“筆の誤り”を引き出す技を編み出したんだよ!」

友人「な、なんだって!?」

男「たしかに相手の凡ミスを待つのは単なるバクチで運ゲーだけど」

男「相手に確実に凡ミスさせられる術があるなら、それはバクチじゃないだろ?」

友人「まぁ……なぁ」


男「お、信じてないツラだな」

友人「そりゃそうだろ。そんな便利な技があるなんて、信じられないよ」

男「だったら、お前にやってみせてやるよ」

男「そういやお前、絵を描くのが得意だったよな? それをミスらせてやるよ」

友人「ようし、やってみせてくれ」


友人「……」サラサラ…

男「……」サササッ

友人「!」ズルッ

友人「あれ!? お前の手の動きをちらっと見たら、ペン先がずれた!」

男「な?」


男「……」サササッ

友人「……今度は遠近法がおかしくなった!」ズルッ

友人「……次はデッサンが狂った!」ズルッ

友人「うおおおっ! ホントだ! ヘンテコな絵しか描けない! すげえ!」


友人「たしかに、これならあいつに勝てる! 勝てるぞ!」

男「だろ?」

男「ま、あいつとの決戦当日には、お前も見に来いよ」

男「あいつが俺にボコボコにされる姿を見せてやるよ!」


……

……

……



男「い、いでえ……」ピクピク…

友人「大丈夫か?」

男「手の動かし方間違えた……。凡ミス、しちまった……」





おわり

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