鷺沢 文香「私....死んでも構いません」 (161)
いつも降りる駅より一つ手前で降りてしまった、先日見た旅番組の影響を受けたのかもしれない。
まだ自分に少年のような心があったのかと嬉しい反面恥ずかしくもあった。
一駅なら歩いてでも帰れるだろうという考えから改札口を通り帰路を目指す。
帰り道で小さな本屋を見つけた、本屋なら自宅の近くに大きなものが数あるのだが何故かその本屋に入りたいと思ってしまった。
本屋に入ると本独特の匂いに迎えられる、店員の姿はどこにも見られない。
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彼女...鷺沢さんと出会ってからわたしの生活は少し変わった。
k「すみません鷺沢さん、お邪魔します」
鷺沢「...どうも....こんばんはkさん」
k「この前教えていただいた本、とても面白かったです」
鷺沢「...そうですか..それは....よかったです」
鷺沢さんは少しずつ世間話などをしてくれるようになりました、鷺沢さんと話すためだけに電車を一つ前の駅で降り話し1時間ほど遅れて家に帰る、そんな生活が当たり前になりつつあった。
k「他に何かオススメの本はありませんか」
鷺沢「..そうですね、前に紹介した本の作家さんが書いた本があるのですが....」
すると鷺沢さんは考え込むように俯き。
鷺沢「...すみまん..うちには置いてなかった気がします」
k「そうですか、少し残念です」
鷺沢「....」
鷺沢「..........あの」
k「どうしました?」
鷺沢「.....もし...もしご迷惑でないなら...わ、わたしと...その...いっしょ...に....こ、今度の..日曜日に...わた..わたしと...その....と、図書館に...行ってくでさいませんきゃ」
嬉しかった、それしか言えない、本当に嬉しかった
k「もちろん!ぜひお願いします」
鷺沢「ええ..では....日曜に...」
彼女は俯きながらそう言ってくれる、日が落ちてきたせいか夕焼けが彼女の頬を赤く染めより美しく見せる。
日曜になり集合場所のバス停の前に着いた、人と待ち合わせなどしたことのない私は30分以上前に集合場所に着いてしまった。
>>20
訂正
鷺沢「...すみません..うちには置いてなかった気がします」
k「そうですか、少し残念です」
昔、学校でクラスの人がデートをしたと周りに話していたのを聞いたが緊張して1時間前に着いたと言っていた、まさか自分がそんな風になる日が来るとは思っていなかった。
そんなことを考えていてふと思う、これはもしかするとデートなのだろうか....いやそれはない、女性に誘われただけでデートと言うのはいかがなものだろう、私は鷺沢さんとお付き合いすらしていない、友達かどうかも怪しいぐらいなのに、だいたい彼女はまだ成人していないと言うのになぜ私は....
鷺沢「...あの..すみませんkさん....お待たせしてしまったみたいで」
そんなことを考えていると目の前に鷺沢さんがいた。
k「こんにちは鷺沢さん、いえ私が早くきすぎてしまっただけなのでお気になさらず」
鷺沢「いえ...でもお待たせしてしまったのは事実ですから」
k「そうですか、では少し早いですが向かいませんか、ちょうどバスも来るようですし」
鷺沢「そうですね...そうしましょう...」
バスに乗り込み図書館へと向かう、バスの中は席はほとんど埋まっていたが2席だけ空いていた、鷺沢さんに座るように促し自分は立っていると言うと
鷺沢「いえ...私は大丈夫なので...その...いっしょに....す...座りませんか..」
こんなことを言われて断れるはずがない、バスの中、距離にして広辞苑1冊分ほどしか離れていない状態でお互いに会話はなくバスは目的地へと進んでいった。
無事図書館に着き互いに好きな本を読みたまに休憩室で本の感想を言い合い、他の人からすればとてもつまらない光景だろう、でも私にとってはとても有意義で、とても満足のいく時間だった。
「間も無く閉館時間です、間も無く閉館時間です」
k「そろそろ帰りましょうか」
鷺沢「...そうですね..帰りましょうか」
k「鷺沢さんとのデートとても楽しかったです」
鷺沢「........」
周りが凍りついた気がした、私は何を言っているんだ、休憩室にいるときも何度かデートかと思っていた時はあったが否定したじゃないか。
しかし意識せずに言ってしまったということは、やはり本心では望んでいたのだろうか、しかしそのせいで鷺沢さんに迷惑をかけてしまってはダメだろう。
k「あの、これは、その」
鷺沢「...............私も.....楽し...かったです....kさんとの...その...で、デート」
この日改めて知った、鷺沢 文香はとても優しい女性なんだと、フォローしてくれるなんて、女性はとても冷たいものだと思っていたがどうやら偏見だったようだ。
k「...か、帰りましょうか鷺沢さん」
鷺沢「そ、そうですね...あの....その、一つお願いしてもいいですか」
k「私にできることなら」
鷺沢「......名前で...呼んで..もらえませんか...その.........文..香.....と」
鷺沢「あの...その....と、友達同士ですから名前で....呼び合えたらな...と....あ、ごめんなさい...ご迷惑でしたよねすみません」
k「私からも一つだけお願いしてもいいですか」
鷺沢「どうぞ.....私にできることなら...」
k「......これからも友達でいてください..」
鷺沢「...........」
鷺沢「...........はい......大丈夫です」
k「.....ありがとうございます、文香.......さん」
文香「....................はい」
真っ赤な顔をしながらも笑顔で微笑んでくれる鷺、文香.......さん、夕焼けのせいで顔に少しだけ影が見える気がするがそれもまた魅力的だった。
だいぶ前から分かっていたが確信したことがもう一つ...鷺沢 文香はとても魅力的な女の子だということを。
「あの子、いい笑顔をするなあ」
デートが終わりそれから何日か仕事の都合で文香さんと会える日がなくなっていた。
代わりに文香の叔父さんとよく話すようになった、何でも文香は毎日手伝っていたわけではなく元々はシフト制のような感じで手伝いをしていたらしい。
最近ではこの時間帯には毎日手伝いをしてくれたがね、と叔父さんにからかわれたのはつい最近だ。
叔父「そういえば知ってるかい」
k「何をですか」
叔父「最近、文香に付きまとう怪しいスーツの男がいるんだよ」
苦笑いをしながら答える。
k「私のことですか」
叔父「ははは、違う違う、前まではそう思ってたが違うよ、別の男さ」
怪しい男だと思われていたらしい。
k「..........それで、その男って誰なんですか、最近文香さんがいないのと何か関係が」
叔父「ああ、どうやらアイドルのプロデューサーらしい」
k「アイ....ドル.....」
叔父「そう、怪しいスーツの男はプロデューサーでうちの看板娘をスカウトしたってわけさ」
k「文香さんなら....勝手なイメージかもしれませんが断りそうですが」
叔父「僕もそう思ったよ、最初の方が断ってたらしいんだけど、何でも『自分を変えたい』って言ってアイドルになるって」
k「..そうですか...すみません、日が落ちてきたので今日はもう帰ります」
叔父「そうかい、そうだ明日文香が手伝ってくれるって言ってたから来てくれ、文香もきっと喜ぶ」
k「そうですか、では」
逃げるように店を出て帰路を急ぐ。
家に着き着替えもしないで布団に倒れ込む。
『自分を変えたい』
アイドルになったと聞いてとても驚いた、嬉しい反面悔しさもあった。
自分を変えたいと言い文香とは正反対の明るい場所に出るアイドルになると言った彼女の行動は止めも喜ばしいことだ、しかしそれで会えなくなってしまうのは寂しかった。
そして、私がいち早くプロデューサーよりも文香の魅力に気づいていたのに横からかすめ取られてしまったような気がして悔しかった。
....私はこんなに独占欲が強い方だったのか、苦笑いしながら起き上がり着替える。
明日になれば文香に会える、明日はいい日になりそうだ。
文香「こんばんは、kさん」
k「こんばんは文香さん」
文香「...今日は..来てくださったんですね」
k「ええ、文香さんの顔が見たくて」
文香「あ....ありがとう..ございます....」
k「最近会えませんでしたからね」
文香「そうですね...kさんのお仕事の都合や....」
k「文香さんがアイドルになったりでですね」
文香「し...知ってたんですか」
k「昨日叔父が教えてくれました」
文香「叔父さんが....そうですか....」
文香「....改めて....私...アイドルになりました」
k「おめでとうございます」
胸のあたりで針に刺されにようれ不思議な痛みが走る。
文香「...私、自分を変えたくって.....それで...アイドルを......やってみようかと....」
k「そうですか」
k「プロデューサーに付きまとわれていたらしいですが」
文香「....叔父さん....ええっと...付きまとわれてはいません..ただ...kさんが来なくなてから...代わりに....」
k「そうですか」
それから文香と久しぶりに談笑した、最近自分の身の回りで起こったことから始まり最近読んだ本の話、とても楽しい時間だった.....
文香「だいぶ...暗くなってきましたね」
k「そうですね」
文香「もう...お帰りですか」
k「暗くなってきたので」
文香「........そうですか」
k「では、またいつか」
文香「...............また....いつか」
踵を返し本屋から出る、辺りは街灯がまばらに設置されており照らされてはいるが視界が悪い。
胸の痛みは未だひかない。
急いで帰らなければ、そう思い足を進めようとした時後ろから声をかけられた。
文香「kさん、待ってください」
k「どうしたんですか、そんなに慌てて」
文香「あの、今度の日曜に....図書館に行きませんか」
デートのお誘い、また彼女から誘ってきてくれた、男として情けないと思うが今はそんなことはどうでもいい。
k「ええ、喜んで」
胸の痛みが消えた。
文香「また...バス停の前でいいですか」
k「ええもちろん.....遅れてきても私は怒ったりしませんから謝らないでくださいね」
文香「ふふふ、わかりました.......じゃあ....日曜日に」
k「ええ、日曜日に」
こうして文香とデートの約束をした、前の私ならデートでは無いと言っていただろうが認めよう、これはデートだ。
日が落ちただでさえ寒くなりつつあるのに余計に寒い....新しいコートを買った方がいいだろうか。
日曜日、前と同じ30分前にバス停前に着く、相変わらず家にいても落ち着かなかったので早く来すぎてしまった。
文香の姿はまだ見られない、暇つぶし用に持ってきていた本をバス停前のベンチに座り読む。
読み進めているうちにふと時計を見ると集合時間から15分遅れていた、ベンチから離れ周りを見渡すが文香の姿が見当たらない。
まさか集合場所を間違えたか、そんな考えが頭をよぎる、がすぐに否定する前に約束したのがこのバス停なのだから間違えないだろう。
そう考えていると足音が聞こえてくる、とても慌てた歩調だ。
文香「すみません....お待たせしてしまって....」
k「お気になさらず、遅れても構わないと言ったのは私ですから」
文香「でも....」
k「いえ、それに......普段と違う文香さんが見れてとても嬉しいです」
文香「.............すみません」
彼女はうつむき小さく体をよじる....普段の少し大きめの服とは違い今回の服は体のラインが少しわかるような服装だ......露出も少しある。
k「文香さんもそういう服を着るんですね」
文香「いえ..あの....事務所の方に....今日のことがバレてしまい.....出かけるならこれぐらいしないと..と言われて...その」
俯いてはいるが彼女の顔が真っ赤なのがわかる、相当恥ずかしいようだ、もう一つ気がつく、化粧をしている、下品な化粧の仕方ではなく彼女の魅力が一層際立つような綺麗な化粧の仕方だった。
k「綺麗ですね、化粧も事務所の方が」
文香「.............はい」
文香「あの...そろそろ.......行きませんか」
どうやら恥ずかしすぎて限界がきたらしい。
k「そうですね、では行きましょうか」
バスの中前回と同じように座る、文香が先に座り少し距離を置いて私が座る、文香がこちらの方に寄ってきた。
k「あの、文香さん」
文香「ば....バスの席が埋まっているみたいですから.....す...少しでも詰めないと」
そう言ってさらに寄ってくる、詰めてももう満席なのだからいくらこっちによっても子供1人座るスペースも空かない。
お互いに無言のまま図書館に着く。
k「では行きましょうか」
文香「はい」
図書館に入り席を確保する、私が席にコートをかけるとその横に文香がハンドバックを置く。
何やら今日は積極的だ、事務所の方々に何か悪い知恵でも入れられたのかと疑いたくなる。
それからは特に何事もなく本を読み、休憩室に向かい感想を言い合う(この時も近くに寄ってきた)。
そして閉館時間。
k「今日はありがとうございました、とても楽しかったです」
文香「私も....楽しかったです...」
前回来た時と同じ時間に退出したが前とは違い暗く寒い。
文香が肩を震わせる。
k「よろしければ、どうぞ」
そう言ってコートを渡そうとする。
文香「い...いえ...大丈夫です」
k「そうですか、おっさんくさいコートは嫌ですもんね」
自分で買ったものだがこのコートはどうもおかしい、首にあたる部分にモコモコとした部分があり男が着るものには思えない、しかし最近の流行らしく男の私が着ていても会社では何も言われない(自宅方面で着ていると白い目で見られる)
文香「い....いえ..そういうわけでは.........あの........ご迷惑じゃないですか」
k「ええ、大丈夫ですよ、さあどうぞ」
文香「ありがとうございます」
コートを大事そうに受け取るとそれを羽織る。
大きいせいかモコモコの部分が首ではなく頭の方にあたる.....可愛らしい。
文香「あったかいです」
k「よかった」
文香は何かを思い出したようにポケットに手を入れ携帯を取り出し操作する。
文香「あの....これ...私の....携帯のメールアドレスなんですが....その...ご迷惑じゃなければ....」
k「ありがとうございます、必ずメールさせていただきます」
文香「ありがとう...ございます..」
それからバス停に向かいバスに乗り本屋まで一緒に帰った。
k「今日はありがとうございました」
文香「いえ...私も......楽しかったです」
k「.......では、ま
「文香」
また」と言おうとした時に聞きなれない男性の声が店の方から聞こえた。
「文香、帰ってきたのか、ちょうど良かった今度の....」
「ええっと...そちらの方は」
文香「..........私の
きっと彼女は「私の友達です」と言うだろう、しかし仮にもアイドルの彼女が見ず知らずの男性に対して一緒に帰ってきた人を友人と言うのはまずい気がした。
k「この店の常連でkと言います」
「そうなんですか、初めまして私文香の担当プロデューサーのpと申します」
見ず知らずの男性ではなくプロデューサーだった。
p「それで、若い女性とこんな時間までどちらに」
文香「.....私が....誘って......それで.......」
k「文香さんと図書館に行っていました、ここでは扱ってない本の話などを読んで話し合っていたんです」
p「そうだったんですか、すみませんでした店主さん、たまに私のことをからかうものですからつい確認してしまいました。」
どうやら叔父さんはいろんな人をからかうらしい。
k「それで、担当プロデューサーさんがなぜこんなところに」
p「ええ、ちかじかラ....まあいろいろありまして、その打ち合わせをと」
k「そうですか」
さっきからなぜか文香がこちらを睨んでいるような気がするが気のせいだろう。
p「そうだ、一緒にお出かけするほど仲の良い常連さんに渡したいものがあります、ジャジャーンこれです」
プロデューサーが封筒を渡してくる。
k「これは」
p「中にチケットが入っています、文香さんの所属する346プロのライブのチケットなんですよ」
p「喜んでください、そのチケット、数分で売り切れた幻のS席のチケット....に匹敵するものなんですよ....叔父さんには断られましたが」
余りを渡されたらしい。
p「ぜひ見に来てくださいね、それで文香今時間大丈夫かな」
文香「.....ええ...大丈夫......」
k「では私はこれで、チケットありがとうございます」
p「いえいえ、では」
文香「あっ....」
家に着きまた布団に倒れ込む...胸の痛みは引かない、むしろ前より酷くなっていた。
プロデューサー....文香って普通に呼んでたな、叔父さんのことも途中から普通に呼んでいた。
心の奥底で嫉妬の感情が揺らめく、ポケットに入れた封筒を取り出す、中を見る紙が入っていた。
『346プロライブS席』コピー用紙を切り取ったような紙にボールペンでそう書かれていた、裏にはpと名前が書かれている。
叔父さんが断るわけだ。
本当にこれは使えるのか、まだ子供銀行とでも書かれていた方考えないで済む。
気になり確認したいと思う気持ちに駆られるがもうプロデューサーはあの店にはいないだろう。
携帯を取り出しメールを打つ...15分ぐらい悩んでから送信。
『夜分遅くにすみません、pさんに頂いたチケットなのですが紙にボールペンで書かれたもので本当に使えるか不安なのですが確認を取ることは可能でしょうか』
1時間後に返信は来た。
『遅くなってしまってすみませんでした、プロデューサーさんに確認したところ、冗談のように思えますが使えるそうです』
返信。
『そうですか、ありがとうございます』
着信。
『気にしないでください』
文香もやはり現代人という訳か、メールを返すスピードが速い。
返信。
『もう夜遅いですから風邪をひかないように気をつけてお休みください、今日はありがとうございました』
着信。
『ありがとうございます、私も今日はとても楽しかったです、またいつか一緒に行きたいでせ』
そんなやり取りをして夜が更けていく。
胸の痛みはもうしない。
また文香と会えない日が始まった、たまに会って話したりメールもするのだが目に見えて文香が疲れているようだった長話はしなかった。
叔父さんによるとレッスンで疲れているらしい、相当厳しいらしい。
レッスンがない時は休めと言っているのにこの時間の店番だけは手伝ってくれるがね、と叔父さんは意地悪そうに笑う。
会っても余りを話をしないようになってからいくらか経ちライブの日になった。
その日は休みだったので図書館に行こうと文香を誘ったのだが用事があると言い申し訳なさそうに断られてしまった。
家にある本もすでに読み終わってしまったのですることもなく部屋の掃除をしていると封筒を見つける。
中を見ると紙が1枚入っていた、気になってネットを使い346プロを調べているととてつもなく大きなプロダクションだということがわかった。
そんなところに文香はスカウトされたのか、驚きと同時に喜びが込み上げてくる、そして落ち込み。
文香の事を知ってくれるのは嬉しい......あまり嬉しくないが知名度が上がると今以上に会えなくなり話せなくなる。
それがとても悲しかった。
胸がまた痛む。
346プロの事も調べ終わりやることが本格的になくなってしまった。
『ぜひ見に来てくださいね』
あの日言われた言葉を思い出す。
ライブの時間を調べまだ余裕があることを知ると出かける準備をする。
あの人に言われたから行くわけではない、やることがないから行くだけだ、そう自分に言い聞かせながら家を後にした。
ライブ会場に着くと数えきれないくらい人がいた、チケット売り場では長蛇の列が、グッズ売り場では警備員とファンが言い争いをしている。
こういった場所に来たことにない私は数分間情報を処理できずにいた、そしてやっとこういうものだと納得すると入口の方に足を進める。
「こんにちは、チケットをお願いします」
封筒から紙を取り出し渡す。
「これは」
やっぱり使えないのか、そう思っていると係りの人は勢いよく頭を下げた。
「失礼いたしました、どうぞこちらへ」
係員が先導し進んでいく、周りの人が何事かとこちらの方を伺ってくる。
「どうぞ」
係員の案内で着いた場所は大きなステージの最前列さらにちょうど真ん中の席だった。
k「あの、これは」
係員「貴方様は346プロのプロデューサー様からの招待を受けております、この席にふさわしいお方かと」
k「そ...そうですか」
係員「では存分にお楽しみください」
今までに受けたことのない接客を受けまた処理できなくなる、仕事で乗った飛行機ですらこんなサービスはなかった。
開始時間が近づくにつれ会場に人が集まってくる、皆私の方を見るとボソボソと一緒に来た人と話したり舌打ちをしたり様々な反応を示す。
来るんじゃなかった。
頭の中でなぜ本屋に行き、からかわれるのを我慢して叔父さんと話さなかったのかと必死に過去の自分を責める。
そんなことをしていると会場が暗くなる、周りを見てもざわついていた人たちは皆一斉に静まり誰一人口を開こうとしない。
何があったのだろう、席を立ち係員に聞こうとした時。
ステージに光が降りそそいだ。
爆音、歓声、熱狂、それが初めて見たライブの感想だった。
会場の雰囲気に煽られ周りの人の真似をして腕を高く上げ前に上げたり倒したり、コールと言うものを教えて一緒に盛り上がった。
騒ぎ疲れて背もたれに身を預けているとステージの方でアイドルが喋り出す。
「今日、実はサプライズがあるんです」
「私たちの新しい仲間」
「紹介するよー、ふみふみどうぞー」
ステージの明かりが消え真っ暗になり周りがざわめき始める。
プログラムにない展開でファンの皆がざわめいているの。
そんな中私だけがやけに冷静に、ある事を考えていた。
新しい仲間、
『最近レッスンで疲れてるんだって』
サプライズ、
『今日は....用事がありますので...』
ふみふみ、
鷺沢 文香
...まさか。
バッ、と顔をステージに向けるのと同時にステージに青と白のライトが優しげにステージの闇を払う、そこには。
文香「初めまして....346プロ所属...鷺沢 文香です....」
彼女が立っていた。
彼女の姿はとても綺麗だった、彼女が一人で歌うことはなかったが周りのアイドルと一緒に歌って踊っている姿に見惚れる、贔屓かもしれないが彼女の歌は周りの誰にも負けていないと思えた。
ライブが終わりアイドルたちが退場していく中文香はこっちを見つめていた、目が合うと驚いたような顔をし、微笑み軽く手を振ってくれた。
隣の人が「俺に手を振ってくれたんだ」と感激していたが気にしない。
ライブが終わり会場を後にする。
「あの、すみません」
呼び止められる、最近聞いたことのある声だ。
p「kさんですよね」
k「プロデューサーさん」
p「pって呼んでくださいよkさん、プロデューサーさん、って呼ばれるとなんだかアイドルの子たちに呼ばれてるみたいで....別に男から呼ばれるのが嫌だとかそういうわけじゃないですよ、なんていうかそのほら、その」
k「わかりましたp、私もkで構いません」
p「了解ですk、どうでしたかライブ、すごかったでしょう」
k「ええ、とても素晴らしかったです...サプライズも驚かさせていただきました」
p「それはよかった、それでk、時間はありますか、これから呑みに行きませんか」
k「構いませんが仕事はいいのですか」
p「大丈夫ですよ、優秀な事務員さんがなんとかしてくれますって」
p「じゃあ行きましょう、しゅっぱーつ」
肩に腕を回され方を組んだ形で夜の街へと向かう。
連れて行かれたのは普通の飲み屋だった。
p「ライブの成功を祝して、かんぱーい」
k「おめでとうございます」
pは嬉しかったのかハイペースで酒を飲みに数分で出来上がってしまった。
p「k〜は文香とはどんな関係なんですか〜」
他人が見れば会社の飲み会でよく見る上司に絡まれる部下の図だろう。
k「ただの常連客とその....相談相手、ですかね」
p「相談...恋愛ですか〜」
k「本のですよ、オススメの本を教えてもらってるんです」
p「な〜んだてっきりkと文香はもう付き合ってるのかと思いました」
口に含んでいたお酒を吹き出しかける。
p「ふふ〜んなら大丈夫ですね」
k「何がですか」
一瞬だがpの目が酔っている目ではなく真剣な目をしていた。
p「私、文香のことをアイドルとしてではなく女性として愛しているんです」
..........
k「そうですか」
p「ええ」
k「彼女はまだ成人していないらしいですが」
p「愛さえあれば、ですよ」
..........................................
黙ってお酒を飲み続けると。
p「少し酔いが回って〜」
バタン、そんな音とともにpは机に突っ伏してしまった。
一人でお酒を飲んでいると緑色の服を着た女性がpの知り合いだと言ってpを回収していった(会計は女性がpの財布からお金を抜き取って私の分まで払ってくれた)。
家に帰り布団に倒れ込む。
胸は痛まない。
嫌に頭が冴えている。
....................................................
文香は自分を変えたいと言ってアイドルになった。
私は文香と過ごしていて止めも楽しかった。
文香さんは自分を変えたいと言ってアイドルになった。
私では文香さんを変えてあげられない。
pなら鷺沢さんに違う世界を見せて鷺沢さんを変えられるかもしれない。
私とは違って。
彼なら彼女にふさわしい
いやだ
彼なら鷺沢さんの願いを
やめてくれ
彼なら文香の
電話が鳴る。
メールが届いていた、彼女からだ。
『今日のライブ、来てくださったんですね、とても嬉しかったです。kさんを驚かせるためにプロデューサーさんに、叔父さんにもkさんにも内緒だって言われて、黙っていてすみませんでした』
返信。
『気にしないでください、今日のライブすごく素敵でした、それと明日から仕事が忙しくなるので会えなくなるかもしれません、ごめんなさい』
.............
数時間後
着信。
『そうですか、お仕事頑張ってくださいね』
もうメールを打つ気力もなく沈み込むように眠った。
嘘をついてしまった...電車にの中でそんなことを考えていた、いつも降りていた駅に降りず、そのまま家の近くの駅へと電車は進む。
そんな日が何日か続いたある日、久しぶりにメールが届いた。
『お仕事がお忙しい中すみません、明日、会ってお話できないでしょうか、少しお話したいことがあります。』
返信...
『ええ、大丈夫ですよいつの時間帯に帰れそうですからその時に』
着信。
『待ってます』
横になり、考え.........
結論が出る。
>>96
訂正
嘘をついてしまった...電車にの中でそんなことを考えていた、いつも降りていた駅で降りず、そのまま家の近くの駅へと電車は進む。
文香「kさん、お待ちしてました」
k「お久しぶりです」
k「それで、話したいこととは」
文香「実は私、好きな人がいるんです」
k「そうですか」
文香「はい、私プロデューサーさん、いえpさんが好きなんです」
p「僕も文香のことを好きだったんだ」
文香「嬉しいです、pさん」
文香「今までありがとうございました、kさん」
p「さようならk」
文香「さようなら、kさん」
嫌な夢を見た、今日の帰りに文香と会える....嬉しいはずなのに。
頭を振って思考を切り替える、そんなはずはない、と.......だがもし。
水を飲み考えを胃に沈める。
文香「お久しぶりです...kさん」
k「すみません...最近お話できなくて」
文香「いえ、気にしないでください私がお忙しい中無理を言って来ていただいたんですから」
k「.....それで、お話とは」
文香「えっと...その....こ、これですコート、返し忘れてしまったので」
k「ありがとうございます」
文香「そ、それと.....その.....えっと.....そう、実は前に話してた本が届いたんですよ」
k「そうですか、良かったですね」
文香「え...ええ、それで.....一緒に読みませんか」
k「文香さんの邪魔になるかもしれないので文香さんが読み終わってから貸していだだければと」
文香「そう..ですよね.....」
彼女は深呼吸を何度かすると意を決したように話しかける。
文香「あの....私....」
k「.......」
文香「け...kさんのことが」
違う
文香「kさんのことが...」
「それ」は違う
文香「す.......」
きっと「それ」はそんな感情なんかじゃない
もう一度深呼吸をする。
文香「私は....kさんのことが......す..きです」
k「.....」
k「文香さん....」
文香「......」
k「あなたはきっと勘違いをしてるんです」
文香「.....え」
最低だ。
k「文香さん....いえ、文香きっとあなたは勘違いをしているんです」
文香「え......どういう....こと..ですか..」
文香の困惑した目がこちらを見据える。
k「きっとあなたは大切な友達という感情と恋愛感情を一緒にしてしまっているんです」
知っているのに。
文香「......ます...」
k「大丈夫です、私はいなくなったりしませんよ、約束し
文香「違います」
文香が叫ぶ。
文香「私のこの気持ちは紛れもなく本物です、私はあなたのことを...愛して
k「本当にそう言い切れますか」
彼女の言葉を切るように強く言い放つ
文香「当然です」
k「友達のいないと言っていたあなたに」
最低だ。
k「恋愛をしたことのないあなたに」
だめだ。
文香「それでも...」
言うな。
k「私はあなたのことを
やめろ。
愛しいと思ったことは一度もありません」
...........................
文香「..なんで.....そんな...」
文香の目から力が消え、涙がこぼれ落ちる。
k「....私たちは友達です、これからもそばにいますよ」
下を向きスカートを握りしめる。
k「あの人ならあなたを変えてくれますよ」
違う、あの人は違う。
k「私と違って」
だめ、あなたじゃないと私。
k「『また』来ます.......さよなら文香」
『また』って.....いつ.....ですか........。
宙に伸ばした手が空を切り落ちる
店を出てから家に着くまでの記憶がない。
気がつくと部屋がめちゃくちゃになっていて腕や脚から血が出ていた。
胸が張り裂けそうになる程痛かった。
私は最低だ、彼女の気持ちを踏みにじった。
勇気を出し自分の気持ちを素直に伝えた彼女の.....
胸の痛みはなくなり体が冷えてくる。
手にカッターを持っていた。
ためらいなく自分の左手首を切る。
手首が熱く痛む、彼女はこれよりもさらに痛い思いをしただろう。
徐々に体の感覚がなくなっていく。
彼女に謝れなかった。
彼女を傷つけてしまった。
...............
身体がふらつき立っていられず本棚に背を預けそのままずるずると本棚を伝って床に座り込む。
もたれかかった衝撃で何冊かの本が外に出る。
薄れていく意識の中で血が広がっていくなか、一冊の本が目に入った。
『こころ』
......................
私が『k』で
pが『私』
文香が『お嬢さん』か。
私が最初に知り合ったのに後から来た彼に文香を取られてしまうんんだろうか。
『k』はどんなことを考え死んだのだろう。
意識が朦朧としてきた。
まぶたが重い。
考えがまとまらない。
............
意識が途切れ.........
さいごに...ふみかにあやまりたかったな....
...................___________
「kさん」
「しっかりしてください、kさん」
「今救急車を呼びます」
「kさん、お願いです、死なないでください」
「kさん」
「お願いです....」
「死なないで...」
ありがとう
ごめんなさい、文香。
_________
気がつくと私はベッドの上にいた。
.....生きている。
右腕を動かそうとするが動かない。
右腕の方を見ると彼女が私の右腕を抱きしめながら眠っていた。
.......あの時、聞こえた声は幻聴ではなかった。
文香「....k..さん...」
文香が起きたようだ。
k「おはようございます、文香さん」
頭に本が叩きつけられる(広辞苑だった)
文香「私...怒ってます...」
k「すみませんでした、あなたの気持ちを踏みにじってしまって」
もう一度頭に本が叩きつけられる(六法全書)
数分間頭を抱え悶絶。
文香「私が怒っているのはどこかに...行ってしまおうとしたからです」
k「すみませんでした.....勝手に..いなくなろうとしてしまって」
ビンタが飛んできた。
文香「いなくならないって、一緒にいてくれるって言ったじゃないですか」
文香に抱きしめられる。
k「ごめんなさい、あなたの気持ちに答えず逃げようとしてしまって」
文香「許しません」
文香「退院したら真っ先に本屋に来てください」
k「わかりました」
文香「ここにある本全部持ってきてくださいね」
周りを見渡すと本が山のように積まれていた。
k「...わかりました」
文香「.....本当に、よかった..」
さらに強く抱きしめられる。
左手が使えないので右手だけで彼女の背中に手を回す。
退院して真っ先に本屋に向かった。
あたりは暗く静まり返っている。
文香「kさん、待ってましたよ」
k「お待たせしてしまってすみませんでした」
答えると文香が微笑む。
文香「あの時と逆ですね」
k「...そうですね」
文香「じゃあ、行きましょうか」
k「どちらに」
文香「あの丘まで」
文香の指差した丘は歩いて30分ぐらいの場所にあった、結構高く見晴らしがいい。
文香「ここ...私のお気に入りの場所なんです」
k「きれいな場所ですね」
文香「今日は...月が綺麗に見えまね.....」
今日は満月で、いつもより高い場所にいるせいかやけに綺麗に見える。
k「そういえば、なぜ私の家がわかったのですか」
文香「それは...kさんのいつも帰っていく道の近くにいた人たちに、『モコモコしたコートを着た背の高い男性を知りませんか』...と聞いたらすぐにわかりました」
やはりあのコートは目立つらしい。
しばしの沈黙....深呼吸の音が聞こえる。
深呼吸の音が聞こえなくなると真剣な声が届く。
文香「....kさん、私..まだ告白の返事をしてもらってませんよ..」
k「..文香さ.....文香」
文香「......はい」
自然と言葉が出る、もしかしたら.....最初から準備をしていたのかもしれない。
k「『月が綺麗ですね』」
文香「.....『私...死んでも構いません...』」
最後まで見てくださった方、ありがとうございました。
これからは蛇足でちょっとずつ何かを書いていく予定です、何か矛盾が発生する可能性がありますので綺麗?に終わらせたい方はここでお別れです。
見てくださってありがとうございました
>>128
訂正
文香の指差した丘は歩いて30分ぐらいの場所にあった、結構高く見晴らしがいい。
文香「ここ...私のお気に入りの場所なんです」
k「きれいな場所ですね」
文香「今日は...月が綺麗に見えますね.....」
今日は満月で、いつもより高い場所にいるせいかやけに綺麗に見える。
乙 p放置なんか
『こころ』がよくわからんからかこれもよくわからんかった
蛇足1「デート前準備」
文香「...............」
「文香ちゃん」
文香「...............」
「文香ちゃんってば」
文香「あ、すみません.....少し考え事をしていました」
「ふ〜ん、文香ちゃん、乱読だと思ってたけどそういう本も読むのね」
文香「え」
目の前のテーブルには乱雑に広げられたファッション雑誌がたくさんあり、開かれたページはどれも露出の多い服ばかりだった。
「もしかして...デートでもするの」
一瞬で頭が真っ白になり顔が赤くなる。
「デートなのね、WAKARUWA」
文香「ち....違います...あの人とは...その.....ただの友達.」
「あー、初々しいわね、その反応良いわ」
「何々、何の話」
「おはよう、Mちゃん」
「おはようございます、KWSMさん」
>>146
少し長い作品ですが一度読んでみてはいかがでしょうか、私の書く駄文より何倍も面白いですよ
>>136
申し訳ありません、間違えてしまいました。
KWSM「聞いてよMちゃん、実は文香ちゃん、デートに行くんだって」
M「本当ですか」
文香「KWSMさん、デートじゃないですってば」
つい声を荒げてしまう。
KWSM「ごめん、ごめん、あんまりにも文香ちゃんが可愛い反応をするから」
M「でも、こういう雑誌を見てるってことは...男の人とお出かけってことですよね」
何も言えず下を向いてしまう。
顔が赤くなっていくのがわかる。
KWSM「いいわ、私がそのお出かけを成功に導いてあげるわ」
文香「え」
KWSM「デートじゃないとしても、こういう雑誌を見てるってことは大事な人なんでしょ」
文香「..........はい」
KWSM「よーし、お姉さん張り切っちゃうわよー」
KWSM「あ、Mちゃんも手伝ってくれる」
M「大丈夫です☆このカリスマギャルが文香さんを完璧にコーデしちゃいます☆」
文香「お...お手柔らかに...お願いします」
KWSM「なら私はお化粧の仕方を教えてあげるわ」
KWASM「待ってなさい、文香ちゃんのお出かけ相手、あなたのハートをゲットしちゃうんだから(文香ちゃんが)」
蛇足1「デート前準備」了
蛇足2 「酒は飲んでも飲まれるな」
「pさん、本当に良かったんですか」
仕事の手を止め同僚に尋ねる。
p「ちひろさん、別に私だって本気だったわけじゃないんですよ、だいたいアイドルのプロデューサーがアイドルに手を出したらダメでしょ」
お前が言うな、そう言おうとしかけ飲み込む。
p「まあkさんが煮え切らない様子だったので焚き付けてみただけですよ」
ちひろ「そのせいで人が一人死にけたんですが...」
p「....ノーコメントで」
p「そ、そういえば飲み屋を出た後になんか財布が軽くなってる気がするんですが...気のせいですかね」
ちひろ「気のせいじゃないと思いますよ、pさん酔っ払ってkさんの分まで奢ってましたから」
p「その倍の額は消えてるんですよ」
ちひろ「そのあと私と梯子したじゃないですか」
p「そうでしたっけ」
ちひろ「そうです」
p「そうですか」
.....少し間が空く。
なんとなく、本当になんとなく....
気になったことを口にする。
ちひろ「pさんは髪の長い女性が好きなんですね」
p「.....なぜ...そう思うんですか」
ちひろ「『あの時』の子も、髪が綺麗で長い子だったじゃないですか」
p「.........」
ちひろ「なんだか、kさんを見ていると、昔のpさんを見ているよな気がします」
p「..........」
ちひろ「あの子は
言いかけた時pさんの方から冷たい視線を感じた。
ちひろ「無駄話をしすぎましたね、さて、仕事を終わらせて...飲みに行きませんか」
p「そうですね、よし私お仕事頑張ります」
これで本当におしまいです。
また書くようなことがあれば、読んでいただけると幸いです。
最後までお付き合いくださった方、読んでくださった方、本当にありがとうございました、では、また。
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