【ラブライブ!】仮面ライダーμ’s (24)
前にエタッてしまった『【ラブライブ!】9人の仮面ライダー』を書き直しました。
今度は書き溜め結構あるし、あるし最後の展開も決まっているので、完結させます。
オリジナルライダー、オリジナル怪物、オリジナル設定、死ネタ、残酷な描写を含みます。
シリアス多めです。
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――酷い土砂降りですね
妖艶な声が閑散とした室内に響く。
そこは廃工場の一室のようで、床には割れたガラスや尖った破片などが散らばっている。
なのにその女性は、靴を履いていないどころか、一糸纏わぬ姿で窓際に立っていた。
「……もうすぐ」
窓から空を眺めながら呟く。一面を漆黒の分厚い雲に覆われた空は、まだ昼間だというのに夜かと思わせるほどに暗く、陽光を遮断していた。
「もうすぐですよ、―――……」
最後の呟きは落雷の轟音によってかき消された。一際大きな光を放った後、雲の隙間から光が漏れ始める。
一筋の日光が窓から入り込み、女性の持つ白い仮面を怪しげに照らしていた――。
ふわふわ
ふわふわ
宙に浮いているような感覚に、私は包まれる。
最近よく感じる。今夢の中にいると自覚する。メーセキムっていうんだっけ?
マーブルカラーの空間に漂いながら、映画館のようなスクリーンに映る光景を見ている。
土砂降りの中、傘もささずに座り込む女の子。両腕には見覚えのある青みがかった長い黒髪の子を抱えている。よく見ると着ている服は事故にでもあったみたいにボロボロで、体のあちこちから血が流れている。
女の子は泣きながら空に何かを叫ぶ。けど、何を言っているのかは雨の音でよく聞こえない。
画面のアングルが変わり、女の子がだんだんとアップになる。
『―――、―――っ!』
肩まで伸びている髪を右サイドでひとつにまとめているその女の子は―――
『―を―――て――、―み―!!』
―――私?
海未「穂乃果!!」
穂乃果「」ビクッ
海未「仕事の途中ですよ!まったく、最近たるんでます」
穂乃果「あれ?海未ちゃん、ここは…?」
海未「なに言ってるんですか、まったくもう!」
ことり「まあまあ海未ちゃん、穂乃果ちゃんも疲れてるんだし…」
海未「ことりは穂乃果に甘すぎます!」
穂乃果(生徒会室?そっか、私仕事の途中で寝ちゃってたんだ…)
———ひどく、長い夢を見ていた気がする。内容は覚えてないけど、すごく悲しくて、辛くて、苦しくて…
夢でよかったはずなのに、覚めてホッとしたはずなのに———
ポタ
海未「だいたい———っ、ほ、穂乃果…?」
ポタ、ポタ
ことり「ほ、穂乃果ちゃん、大丈夫!?どこか痛いの?」
穂乃果「えっ…あ、あれ?」ポロポロ
———なんで涙が止まらないんだろう?
理由のわからない涙が幾つも頬を伝って流れ落ち、書類にいくつかのシミを作っていた。
海未「本当に大丈夫ですか?」
穂乃果「うん、大丈夫!ちょっと怖い夢見ちゃっただけだから!」
海未「そうですか、では自業自得ですね」
穂乃果「それはそれでひどくない!?」
ことり「あはは…あ、そろそろ下校時間だね」
海未「おや、もうそんな時間ですか?」
穂乃果「え、まだ早くない?」
ことり「穂乃果ちゃん、今朝に先生が話していたでしょ?」
穂乃果「今朝…あっ!」
ことりに言われて朝のホームルームでのことを思い出す。最近、謎の行方不明事件が多発しているため、下校時間を早めるようにしたらしい。
一向に解決に向かわない事件に、一部では「怪物に襲われている」なんて噂も立っているらしいが…
海未「まったくバカバカしい、怪物なんているわけがありません」
ことり「でも怖いよね。未だに原因もわかってないみたいだし…」
穂乃果「だーいじょうぶ!怪物が出たって、穂乃果がやっつけて――うわぁ!?」バシャッ
ことり「あっ、だ、だいじょうぶ!?」
穂乃果「うぅ…靴の中まで濡れちゃった…」フキフキ
ことり「水たまり…お昼にすごい雨だったもんね…」
海未「……怪物をやっつけるが聞いてあきれますね」クスクス
穂乃果「もぉー!海未ちゃんひどいよー!!」
ことり「ふふっ――」
穂乃果「じゃあまたね!」
ことり「うん!ばいばい」
海未「ごきげんよう」
穂乃果「…ちょっと寄り道しよっかな」
神田明神
タンッタンッタン
穂乃果「ふぅ…」
軽快に階段を駆け上がり、上りきるとふうっと一息つき、その外観を眺める。
穂乃果(…いろんなことがあったなー)
音ノ木坂が廃校になると言われ、何とかしようとことり、海未とともに結成したスクールアイドル。当時は体力作りで毎朝階段を往復していた。あの頃は1往復でも辛かったのに、今では10往復でも余裕だ。
それから観客のいない講堂のライブを経て、仲間が増え、今ではラブライブの最終予選へと駒を進めるほどまでに成長した。
穂乃果「…」ウズウズ
体が疼く。
最近生徒会の仕事ばかりで、ろくに練習に参加出来ていなかった。
ブレザーを脱ぎ捨て、腕を捲くる。目を閉じ、深呼吸する。冷えた空気が肺を満たすのを感じながら、息をはき、目を開ける。
数日前にもらった新曲を口ずさみながらステップを踏み始める。タン、タンと軽やかに足を動かしながら、想像する。ここは舞台の上、周りにはμ’sの皆がいて、客席には満員。色とりどりのサイリウムが揺れ、会場は最高潮の熱気に包まれている。
軽く確認程度で終わらすはずだったのだが、気づけば全力で踊っていた。
踊りきるころには息は乱れ、汗だくになっていた。体力がついたとはいっても、歌いながら踊るというのは、やはり疲れる。
ビシッと最後のポーズを決めると、パチパチと拍手の音が背後から聞こえ、振り返る。
「お見事、穂乃果ちゃん」
穂乃果「希ちゃん!」
希「でも、寄り道したらあかんやろ?暗くなる前にはやくかえりぃや」
穂乃果「えー、希ちゃんだってバイトしてるじゃん!」
希「うちはええんや、最上級生やからな」
穂乃果「なにそれー!?」
文句を言う穂乃果。しかし、秋の空はすでに暗くなり始めており、しぶしぶながら希の言うことに従うことにした。
希「…穂乃果ちゃん」
穂乃果「ん、なぁに?」
希「……まっすぐ、帰るんよ?」
穂乃果「う、うん、わかった…」タタタ
穂乃果(なんだろう、希ちゃん、なんか怖かったような…)クルッ
希「」手フリフリ
穂乃果(…んーん、気のせいかな)スゥーッ
穂乃果「のぞみちゃーーーーーーん!!また明日ねーーーーーー!!」ブンブン
希「…ふふ、気をつけて帰るんよーーー!!」ブンブン
穂乃果「うーーん!わかったーーーー!!」タタタ…
希「…また明日、か……」
ヒュゥ――――
希「……―――」ボソッ
ドゴオオォォォーーー―――ン!!!
希「…」クルッ
希「行くで、晴人っち」ドライバーオーン
『あぁ、油断はするなよ?』
希「わかってる…」カチャ
\シャバドゥビタッチヘンシーン!/
希「『変身!』」
穂乃果「……花火かな?」キョロキョロ
穂乃果(すごい音したけど…別に何も見えないな…)グギュルルルル…
穂乃果(うぅ、それより動いたからお腹減った…あっ!)
『11月11日 ポキッツ半額フェア!!』
穂乃果「ポキッツ……」グギュルルルルル…
穂乃果(海未ちゃんに間食は控えるように言われてるけど…今日くらいいいよね!)ゴソッ
穂乃果「―――あれ?」
穂乃果(財布が無い…?確かにポケットに入れたはずなんだけど…)ゴソゴソ
穂乃果(カバンの中にも無い…あ、もしかして、神田明神に落として来ちゃったのかも…希ちゃんに電話してみよ…)プルルルル
穂乃果(…でない、まだバイト中なのかな?まぁいっか、戻ってみよ!)
再び神田明神
穂乃果「――えっ?な、なにこれ…?」
穂乃果(さっきまで希ちゃんと話してたのに…なんでこんなにボロボロになってるの?)
穂乃果(あちこち壊れてるし…隕石が落ちた後みたいなクレーターもある…)
穂乃果「な、なにが……」
ドコオォォン!
穂乃果「ひっ!?」
穂乃果(奥の方から…?)
希『……まっすぐ、帰るんよ?』
穂乃果「希ちゃん……!」タッ
境内の奥
穂乃果「確かこっちの方から……」
ギィン!
穂乃果「!?」
穂乃果(あれは…?)
銀色の仮面『―――』
蝙蝠の怪物『ッ…このっ!』
穂乃果(え、映画の撮影?でも、カメラも何もないし…)
穂乃果(それにあの怪物…空飛んでるし、どう見ても着ぐるみには見えない…)
穂乃果(あの銀色の仮面の人も、さっきから瞬間移動みたいに動いてるし、もう何がなんだか…)
穂乃果(見た感じ、仮面の人がおしてるみたいだけど…)
怪物『グッ…くソ!!』
小さく悪態をつく怪物。後退しながら口を開けると、そこに吸い込まれるように風が収束していく。大量の大気の塊が球体へと圧縮され、それが銀色の仮面に向かって放出される。一直線に向かってくる風の爆弾に、仮面は冷静に剣を振り降ろした。
真っ二つに切り裂かれた球体は左右に分かれ、不規則な軌道を描きながら仮面を逸れて通過する。
そしてその一つが穂乃果から1メートルほど離れた石灯籠に衝突し、圧縮された空気が弾ける。
穂乃果「えっ…きゃあ!?」ブワァ
仮面の剣士『!?』
穂乃果「いったぁ…」
穂乃果の宙体は大きく後ろに後退して尻餅をつく。その痛みに呻きながら顔を上げると、銀色の剣士は敵から顔を逸らし、穂乃果の方を見ていた。仮面のせいで表情は見えないが、驚愕しているように固まっている。
銀色の仮面『……穂乃果、ちゃん?』
穂乃果「えっ?」バッ
穂乃果(今の声って――)
???『希!よそ見をするな!!』
銀色の仮面『!』ハッ
蝙蝠の怪物『捕まえたゾ』ガシッ
蝙蝠の怪物は、仮面の首をつかみ、地面に押さえつける。
銀色の仮面『グッ――』
怪物『これデ、終わりダ!!』スゥーッ
ギイイイイイイイイイイイィィィィィィアアアアアァァァァァァ!!!!!!
ビシビシッ
穂乃果「うっ……あっ……!!!」イイイィィィン!
穂乃果(頭が……割れ、るっ…!!)
銀色の仮面『うああああああああああああ!!!』ビシビシッ
バァン!バァン!
アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ――――……
銀色の仮面『…ぅ、…ぁ……』シュウウウゥゥゥゥゥ…
希「…」シュウウゥゥゥ…
穂乃果「っ――!」
蝙蝠の怪物『指輪ハもらって行くゾ』スッ
穂乃果「の…希ちゃん!!」ダッ
怪物『魔法ノ指輪…コレさえあれバ…!』
穂乃果「希ちゃん…大丈夫?希ちゃん!!」
希「っ……ほの、かちゃん……寄り、道したら、あかんって、言うた……やろ?」
穂乃果(希ちゃん、酷い怪我…私の、せいだっ……)
穂乃果「ごめん…ごめんね希ちゃんっ…穂乃果が来なければ…」ポロポロ
希「ふふ、ウチが、不注意だっただけや……穂乃果ちゃんの、せいやないよ…」ググッ
穂乃果「ぁっ…希ちゃ――」
希「」グイッ
穂乃果「えっ?」
希「…早く、帰りや」
穂乃果「っ…」
希「…指輪を…晴人っちを返せ!」ギロッ
蝙蝠の怪物『』ピクッ
希「……」
蝙蝠の怪物『…』ギョロッ
穂乃果「ひっ…」
蝙蝠の怪物『…ふんっ。来イ、スケール』スッ
怪物の声に呼応するように、すぐ横の空間に漆黒の穴が開く。すべてを吸い込みそうな漆黒の闇の中から現れた新たな怪物に、穂乃果は息を呑んだ。
2メートル弱の体。真っ白の、ごつごつとした体に長い腕と足。体毛や性器などは存在せず、まるで粘土で作った失敗作の人間のようだ。顔には黒い仮面を被っており、目の所からは赤い眼光が覗いている。
白い怪物『……』
蝙蝠の怪物『コイツラを始末しロ』スッ
希「ま、待てっ…ぐっ」ガクッ
穂乃果「の、希ちゃん!に、逃げなきゃ!」
追おうとする希を震える手で引き止める。穂乃果の言葉に悔しそうな顔をするが、先ほどスケールと呼ばれた怪物が近づいて来るのを見ると、片足を引きずりながら怪物から距離を取る。しかし、満身創痍の体は思うように動かず、穂乃果に肩を支えられながら逃げる。穂乃果も希を気遣って一歩ずつ歩いている。怪物もゆっくりとした動きだが、それでも徐々に差は縮まっていた。
希「ほ、のかちゃん……穂乃果ちゃんだけでも」
穂乃果「嫌だよ!希ちゃんを置いていくなんて…できるわけない!」ダッ
希の言葉を途中で遮ると、体を沈ませ、希を背中に乗せる。「ちょっと我慢してね」と言うと、希を抱え全力で走り出した。それに合わせるように、怪物のスピードも上がるが、早歩きのような動きに徐々に差は開いていく。
階段を降りて、人通りの少ない路地裏なら、あの大きい体は通り抜けられないだろう。そう考えた穂乃果は一直線に階段を目指す。
あと数歩で階段までいけるという所で、足がもつれそうになるのをこらえながら振り向き、希に話しかける。
穂乃果「もう少しだよ!希ちゃ―――」
ヒュッ
穂乃果「えっ――」
穂乃果(なんで、もうこんなに近くに―――)
ドゴォ
穂乃果「がっ!?」ズシャ
穂乃果「な、何…が…っ!!」
白い怪物『ぅぅぅ…』
白い怪物『ぐるるる……』
穂乃果(…そんな、怪物が、もう一体いたなんて…)
ドロリ。生暖かい感触が額を這う。触れてみると、手が真っ赤に染まった。さっきの衝撃のせいか、頭から出血しているらしい。
ぼやける視界のなか、2体の怪物がノロノロとした動きで近づいてくる。一歩、また一歩と近づいてくるたびに、死の恐怖も増していくようだった。
逃げなきゃ――手に力を入れてなんとか起き上がる。幸い頭の出血以外は大した外傷はなかったが、強く殴られたせいか足元がふらふらするが、何とか逃げられそうだ。
何も背負わず、一人だけでなら、なんとか…
希「ほ…穂乃果ちゃん!?」
希が驚愕の声を上げる。そこには希の前で両手を広げて立つ穂乃果の姿があった。
希「な、なにしとるん!?は、早く逃げて!」
希の叫びには耳をかさず、近くに落ちていた木材の破片をバットのように握る。
穂乃果「絶対…諦めない!」
恐怖を振り払うように大声を出し、怪物に向かっていく。怪物が腕を伸ばして穂乃果を掴もうとするが、それをひらりと躱して肘を上から叩く。長い腕がガクンと下がり、体勢が崩れたところに全力でタックルする。しかし怪物は軽くよろけるだけで、大したダメージは与えられない。逆に穂乃果の体勢が大きく崩れ、怪物に首を掴まれる。
穂乃果「かはっ———っ!」
喉を強く押され、噎せ返る。そのまま怪物は首を握り穂乃果を持ち上げ、骨を握りつぶさんばかりに力をいれる。気道が塞がれ呼吸も出来ず、痛みも相まって意識が朦朧としてくる。霞む視界の中で、怪物が顔を近づけてくる。漆黒の仮面の奥、血走っているような赤い瞳に苦しそうな穂乃果の顔が映る。ふと、視界の端で、希の姿が見えた。上半身を起こし、何かを叫んでいるが、よく聞き取れない。焦点が合わずその姿はぼやけていたが、泣いていることだけは分かった。
穂乃果(死にたくないっ)
悔しげに歯を食いしばる。まだ、穂乃果は諦めていない。決して勝てないことなんて分かっていた。けど、ここで諦めるのは、自分らしくないと思ったから……
穂乃果(私にもっと、力があれば…)
穂乃果「うっ———あああああああああああ!!」
怪物の手首を掴み、蝋人形のような腹に蹴りを入れる。しかし怪物はびくともせず、つま先にコンクリートにぶつけたような鈍い痛みが走るだけだった。
———かのように思えた。
突如、赤い閃光が怪物の腹に突き刺さる。首に解放感を覚えると同時に、怪物が大きく吹き飛んだ。
首を抑えてせき込む穂乃果。何が起こったのか分からず、右目に入った血を拭い、倒れている怪物を見る。ふと、虫の羽音が聞こえ、後ろを向く。
穂乃果の目線より少し高い位置、そこには赤いカブトムシのメカが悠然と浮遊していた。
カブトムシ『よく頑張ったな、穂乃果。』
そこから聞こえてきたのは低い男の声。
穂乃果「貴方は……だれ?」
カブトムシ『天の道を行き、総てを司る男』
穂乃果の質問に、角を天に掲げて答えるカブトムシ。なんで自分の名前を知っているのか訊ねようとすると、どこからとり出したのか、機械性のベルトを投げ渡される。ズシッと重い感触に少しよろけながら、ベルトとカブトムシを交互に見つめる。
カブトムシ『話は後だ。穂乃果、それをつけろ』
穂乃果「えっ、で、でも…」
カブトムシ『早くしろ、奴が来てるぞ』
ハッとしてカブトムシが角で差す方を見ると、吹き飛ばされた方とは別の怪物が突っ込んできていた。
穂乃果「わあ!?」
間一髪でそれを躱すと、慌ててベルトを腰に巻く。長さを調節することなく、それは穂乃果の腰にぴったり固定された。
すると吸い込まれるようにカブトムシが素早くバックルに装着された。
カブトムシ『変身』
男の声と共に、穂乃果の体を装甲が覆っていく。全身を鎧のような重装甲に包まれ、体が重くなっていくのを感じるが、同時に体の内側から力が沸いてくる気がした。
穂乃果『これって…』
カブトムシ『来るぞ、右だ』
頭の装甲から聞こえるカブトムシの声。右を向くと、再び怪物が手を伸ばして突っ込んできていた。慌てて避けようとするが、間に合わない。怪物の拳が穂乃果の肩を捕らえる。しかし、階段近くでぶつかった時とは全く違う。もろに食らったにもかかわらず、肩が鈍く痛むだけだった。
間髪入れず怪物は長い腕を振り回し、遠心力にのせて殴りにかかるが、そんな大振りの攻撃が当たるわけもなく、余裕で躱す。懐に入り、拳を叩きつけると蹴りでもびくともしなかったのに、怪物は大きく後ろにのけ反った。
穂乃果(いける———!)
感じる手応えに俄然気合いの入る穂乃果。怪物に拳で連打を叩きこむ。怪物は為す術なく、応戦しても軽く躱され隙を生むだけだった。戦闘は明らかに穂乃果が押していた、しかし突如、背中に殴られたような衝撃を受ける。
穂乃果「ぐっ……」
倒れそうになるのを堪えて振り向くと、そこにはもう一体の怪物。そっちと戦おうとすれば今度は別の方の怪物から攻撃を受け、徐々に穂乃果が押され始めていた。
穂乃果(何か武器があれば…)
そう思いながら怪物から距離をとると、ふと腰に何かがあるのを感じて手にとって見る。
それは、見方によっては斧のような、銃のような…いや、そのどちらとしても使えるということを、穂乃果は知っていた。
銃口を怪物に向け、引き金を引く。もちろん銃なんて扱ったことのない彼女だが、的の大きい怪物に当てることは、素人の彼女でも容易だった。銃弾が当たるたびに怪物から火花が飛び散り、ついにその内の1体が膝をつく。
カブトムシ『仮面を狙え』
声の指示に従い、素早く持ち手を変える。膝をついた怪物に素早く接近し、斧の刃を怪物に振り下ろす。黒い仮面に斧がめり込み、音を立てて砕け、そのまま縦に真っ二つになる。ウオオォォォ!という低い叫び声とともに、怪物は光となって消えた。
穂乃果『や、やった―――!?』
ガッツポーズした瞬間、後頭部に強い衝撃を受けた。一体を倒したことで浮かれてしまい、もう一体のことを完全に忘れてしまっていた。倒れそうになるのをなんとか堪え、振り向きざまに斧を振るう。ギィンという金属音とともに、怪物の腕が弾かれる。その勢いにすら、足元がふらついてしまう。
霞む視界、焦点が合わずぼやける怪物の姿を見据えると、その奥に希の姿が見えた。
震える手で斧を握り締める。
穂乃果(希ちゃんは、私が―――)
―――守るっ!!
穂乃果「あああぁぁぁぁぁ!!」
地面を強く蹴り、怪物に接近する。怪物の攻撃は威力は強いが、単調だった。突き出された巨大な拳を、体を捻って避け、大股で踏み込みその刃を仮面に向かって振り下ろす。しかし仮面にはヒビが入るだけで、砕けはしない。既に慢心相違の体では、一撃で仮面を砕けるほどの十分な力が出なかった。
ゴッ―――!!
怪物の長い腕が横薙ぎに振るわれ、穂乃果の脇にめり込む。装甲である程度衝撃が緩和されてはいるのだが、不意に食らった攻撃に体からミシミシと嫌な音が聞こえ、口の中に鉄の味が広がった。
希「―――っ!!」
激痛に意識が飛びそうになる穂乃果の耳に、希の泣きそうな声が届く。グッと歯を食いしばり痛みに耐え、力任せに斧を振るう。しかし滅茶苦茶に振るった攻撃は怪物には当たらず、そのまま空を切る。
穂乃果『っ――』グルンッ
しかし穂乃果は片足を軸にして両手で斧を持ち、そのまま一回転する。
穂乃果『だああああぁぁぁぁ!!!』
ゴシャッ!!
渾身の一撃が仮面にぶち当たる。
メキッと仮面に刃がめり込み、そのまま頭部を横一文字に切り裂いた。
同じようにうめき声を上げながら光となって消えていく怪物を見ながら、ヘナヘナとその場に崩れ落ち、膝をつく。緊張の糸が切れると同時に装甲が解けていく。
穂乃果「か、かったぁ~……」
希「ほ、穂乃果、ちゃん……」
泣きそうな顔の希に笑顔で答えると、フッと体の力が抜けた。
穂乃果「ぁっ―――」
そのまま前に倒れてしまう。腕で支えようとしても体にまったく力が入らなかった。床のコンクリートが近づいてくるのを見ながら、しかし心の中で希の無事を安心し、静かに目を閉じる。
―――しかし、いつまで経っても痛みはやって来ない、誰かに肩を優しく支えられた。
穂乃果(……希、ちゃん?)
ゆっくり目を開けると、視界に映ったのは想像していた人物とはまったく違っていた。
フワフワの髪をした、見たことのない男性。逆光で顔はよく見えないが、穂乃果の体は、まるで日向にいるような暖かさに包まれていた。
その心地よさに身を任せながら目を閉じ、穂乃果はゆっくりと意識を手放した―――。
今日はここまで、2週間後くらいにまた
地の文ムジィ…
このSSまとめへのコメント
面白い!期待してます