杏子「今日からこの一帯はあたしの縄張りだ。いいな」
さやか「なによ。いきなり出てきて勝手なこといわないでよ」
QB「杏子、ここはマミのテリトリーだよ」
杏子「いいじゃん、別に。そのマミだって、くたばったんだろ?」
さやか「それは……」
ほむら「……」
杏子「文句があるなら、戦ってもいいんだぜ?」
さやか「戦うって、魔法少女同士で?」
杏子「ああ。強い奴がここを仕切ることができる。それでいいだろ?」
さやか「ここはマミさんが守ってきたんだから、あんたなんかに渡せない!!」
杏子「分かった、わかった。なら、守ってみせろよ。自分の力でな」
さやか「うっ……」
ほむら「待ちなさい、杏子」
杏子「あん?」
ほむら「魔法少女同士で戦うのはいいけれど、魔法はなしよ。不毛な魔力消費は避けるべきよ」
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杏子「それじゃあ、どうやって戦うっていうんだよ」
ほむら「そうね……」
QB「ただ殴り合うだけかい?」
さやか「それはなんか嫌だなぁ……」
ほむら「純粋な力比べができれば、満足なんでしょう?」
杏子「そうだな」
ほむら「なら、腕相撲なんてどうかしら?」
杏子「腕相撲ぉ?」
ほむら「そう。肘を立て、互いの手をしっかりと握って組み、相手の手の甲が台面に着くまで倒し合う競技のことよ」
杏子「それは知ってるけどよ」
ほむら「それでいいんじゃないかしら?」
杏子「お前はどうなんだ?」
さやか「う、腕相撲ならいいけど」
杏子「おーし、んじゃ、やろうぜ。おら、こいよ」クイックイッ
さやか「よ、よーし、やってやる! マミさんのためにも絶対に勝つ!」
QB「僕が審判をやろう」
杏子「おう」
さやか「いつでも!」
杏子「やる前に、一ついっておいてやるよ」
さやか「な、なによ」
杏子「あたしは腕相撲で負けたことがないんだ」
さやか「な……!?」
杏子「大人の男にだって勝ったことがある」
さやか「ま、マジ……?」
杏子「腕を折っちまうかもしれないけど、別にいいよな?」
QB「レディー……」
さやか「ちょっとま――」
QB「ゴー」
杏子「うりゃぁぁぁぁ!!!!」ググググッ
さやか「……?」
杏子「なかなかやるじゃないか……!! ここまであたしの攻撃に耐えたやつは久しぶりだ……!!」グググッ
さやか「……」
ほむら「どうしたの?」
さやか「いや、あの……」
杏子「おりゃぁぁぁぁ!!!!!」ググググッ
さやか「……」
ほむら「なるほど。どうするの? 貴女の選択肢は二つよ」
さやか「で、でも……あの……」
QB「杏子。大人にも勝ったことがあるって言ったね。その大人って誰のことだい?」
杏子「お、やじ……だぁぁ……!!」グググッ
ほむら「父親に勝ったというの?」
杏子「そう、だぁ……!!! れん、せん、れんしょう……したんだぁぁ……!!!」ググググッ
さやか「あの……」
ほむら「厳しい決断を迫られることもある。これが魔法少女になるということよ」
さやか「そ、そんな……」
杏子「こんのぉぉぉ!!!!」ググググッ
さやか「これが魔法少女の運命なの……」
QB「どうするんだい、さやか? 君はマミのために戦うと言っていたけど」
さやか「だって、まさかこんなことになるとは……」
杏子「うおぉぉぉ!!! んー!!!」ググググッ
ほむら「時間はないわ。早く決めなさい」
さやか「私は……私は……!!」
杏子「倒れろぉぉぉぉ!!!!」ググググッ
さやか「……マミさん、ごめんなさい」パタッ
QB「杏子の勝ちっ」
杏子「よっしゃぁぁぁ!!! どーだ!!! あたしは最強なんだ!!!」
さやか「……」
ほむら「よくやったわ」
さやか「くっ……こんなことって……こんな……!!」
杏子「よーし、今日からこの一帯はあたしのモノだからなー。文句ないよな」
QB「約束だからね」
杏子「やったぜ。これでしばらくは退屈せずに済みそうだな」
ほむら「杏子の強さはそれほどまでだったの?」
さやか「もう想像を絶するぐらい」
杏子「腕、大丈夫か? お前が結構強いから手加減とかできなかったんだ。悪いな」
さやか「ああ、うん……」
ほむら「杏子。次は私と腕相撲をしましょう」
杏子「はぁ? なんでだよ」
ほむら「私もこの辺りを自分のテリトリーにしようと思っていたところだったのよ」
杏子「ふぅん。で、弱ったところを狙ってきたわけか」
ほむら「そういう賢しさも、魔法少女には必要でしょ」
杏子「否定はしねえ。あたしだって、そうやって生きてきたんだしな」
ほむら「理解してもらえてよかったわ。さ、やりましょう」
杏子「悪いけど、手は抜けないぜ。こっちはさっきの死闘で疲弊してるんだ」
さやか「疲れたんだ……」
QB「レディー……」
杏子「折れても恨むなよ」グッ
ほむら「……」
QB「ゴー」
杏子「おらぁぁぁぁぁ!!!!!!」グググググッ
ほむら「……」
杏子「流石だな……!! さやかと互角じゃねえか……!!!」
ほむら「……」
杏子「でもなぁ……ここからが……あたしの……ほん、き、だぁぁぁぁ!!!!」グググググッ
ほむら「……」
さやか「ちょっと……」
ほむら「……」
杏子「うおぉぉぉ!!! んんんー!!!」ググググッ
ほむら「……っ」
さやか「ね? 想像以上でしょ? こんなの勝てないって」
ほむら「迂闊だったわ。杏子の力がこれほどだったなんて……」
杏子「だ、だろ……? だから、もう……あきらめろ……やせがま、ん、なんて、すんなぁぁぁぁ……!!!!」グググッ
ほむら「杏子……」
さやか「杏子のお父さんって、とっても優しい人だったんだね」
ほむら「ええ。そう思うわ」
QB「どうするんだい?」
ほむら「……でもね、ここで負けても杏子のためにはならないわ」
さやか「え……!?」
ほむら「現実を知ってもらいましょう」
さやか「ちょっと待って!!」ガシッ
ほむら「離しなさい」
さやか「それはダメ!! 絶対!!」
ほむら「貴女の気持ちは分かるわ。でも、こんなことをしていたら杏子はいつまでも自分の力を過信し続けるだけになる。その先にあるのは、絶望だけよ」
さやか「だからって、ここで圧勝したら、それこそ絶望しか残らない!!」
杏子「このぉぉ……!! つえぇぇ……!!!」ググググッ
ほむら「美樹さやか。貴方は優しすぎる。その甘さがいつか命取りになるのよ」
さやか「分かってる! けど!! けど、今はいいでしょ!!」
ほむら「……」
さやか「お願い……」
ほむら「……」
杏子「おんりゃぁぁぁ!!!」グググッ!!!
ほむら「……」
杏子「はぁ……はぁ……はぁ……。せーのっ。ふーんっ!!!」ググググッ
ほむら「負けたわ……」パタッ
QB「杏子の勝ちっ」
杏子「うらよっしゃぁぁぁ!!! これで魔法少女界腕相撲ナンバーワンはあたしだー!!」
さやか「ありがとう……」
ほむら「今回だけよ。もし、次があれば容赦なんてしないわ」
さやか「うん……」
杏子「やった、やった」
QB「今のは聞き捨てならないね」
杏子「あ? なんのことだよ」
QB「魔法少女界で最も強いっていう部分だ」
杏子「いや。それでいいだろ。こんだけの強敵を倒したんだから」
ほむら「強敵……」
さやか「ありがとう、そんな風に褒めてくれて」
杏子「強い奴は強いって素直に認める。当たり前だ」
ほむら「そう」
さやか「杏子とはなんか、友達になれそうな気がする」
QB「でも、まだこのエリアには二人、魔法少女がいる。いや、正確には一人か。もう一人は魔法少女候補だね」
ほむら「まどかを含めないでもらえるかしら?」
さやか「そ、そうだ! マミさん本人と戦ってからにしなさいよね」
杏子「マミはくたばったんだろ? そう聞いたから、来たんだぜ?」
QB「その表現が正しいのかどうかはわからないけど、今のマミは戦える状態でないのは確かだね」
杏子「なら、あたしの不戦勝でいいじゃねえか。あとはまどかってやつをぶっ倒せばいいんだろ? 楽勝とはいかないかもしれないけど、あたしはやってやる」
マミの家
マミ「いたいぃ……」
まどか「大丈夫ですか?」
マミ「恥ずかしいわ。この私が、まさか首を寝違えてしまうなんて……」
まどか「無理はしないでください。さやかちゃんとほむらちゃんがこの町を守ってくれますから」
マミ「そうね……いたた……」
まどか「今日はお休みでいいじゃないですか」
マミ「そうよね。たまには後輩に甘えましょうか」
まどか「そうしてください」
ピンポーン
マミ「お客さん? ごめんなさい、鹿目さん。出てくれるかしら?」
まどか「あ、はい」
まどか「はーい、どちら様ですか?」
杏子『佐倉杏子だ。ここにまどかってやつがいるってきいてきた』
まどか「私……?」
杏子「――ってわけで、腕相撲ナンバーワンがあたしってことを証明するために、勝負しろ」
まどか「そ、そんなこと急に言われても……」
マミ「佐倉さん。この一帯は私に譲ってくれたじゃない」
杏子「戦える状態じゃないくせにつよがんなよ」
マミ「そんなこと……うっ……!?」
まどか「マミさん!!」
マミ「この首さえ……寝違えていなければ……」
杏子「さぁ、まどか。あたしとやろうぜ。腕相撲」
まどか「で、でも、私はまだ、魔法少女じゃない、けど……」
杏子「そんなの関係ねえ。魔法は一切なし。純粋な力くらべをしたいだけだからな」
まどか「そ、そうなの?」
杏子「こい」
まどか「う、うん」グッ
杏子「マミ、レフェリー頼む」
マミ「分かったわ。レディー、ゴー」
さやか「どうして杏子を煽ったのよ!!」
QB「いいじゃないか。杏子も満足するだろうし、まどかだって魔法少女がどれぐらい強いのか実感できる。そうなればまどかだってきっと魔法少女になってくれるよ」
さやか「なんでそうなるかなぁ!?」
ほむら「無駄口はそこまでよ。早く行きましょう。あの室内で何が起こっているのか、想像したくもないわ」
さやか「どうして?」
ほむら「杏子はかなり好戦的な態度でまどかに向かっていくはず。そんな相手を前にしたまどかが緊張しないわけがない」
さやか「まさか……!!」
ほむら「勢いで杏子を倒してしまうかもしれない」
さやか「それはまずいって!!! 急がなきゃ!!!」
ほむら「ええ」
QB「不思議なことをいうね。君は杏子に現実を教えると言っていたじゃないか。自分の発言を忘れてしまったのかい?」
ほむら「そういうわけじゃ……」
さやか「着いた!! 早くマミさんの部屋に!!」
マミ『レディー、ゴー』
ほむら「遅かった……!!」
ダンッ!!
さやか「あ……」
ほむら「……」
まどか「あれ?」
杏子「……」
マミ「鹿目さんの勝利ね」
まどか「わ、わーい……」
杏子「……」
QB「これで分かっただろ、杏子? 魔法少女で一番強いのはまどかなのさ」
さやか「ちょっと黙ってて!!」グイッ
QB「うぐっ」
ほむら「杏子……?」
杏子「……」
まどか「あの……えっと……」
杏子「い、今のはなしだ!! 油断しちまっただけだ!! もう一度勝負だ!!!」
マミ「佐倉さん、何を言っているの? 勝敗は決したわ」
杏子「違う!! 力を込める前に、まどかがバンッてしてきたんだ!! フライングだ!! フライング!!」
まどか「あ、ごめんなさい」
杏子「仕方ねえから、仕切り直しだ。ほら」
まどか「はい」
杏子「マミ、しっかりジャッジしてくれよ。頼むから」
マミ「それじゃあ、レディー……」
まどか「……」グッ
杏子「いくぜ……」
マミ「ゴー」
杏子「おりゃ――」
まどか「えいっ」ダンッ
杏子「……」
さやか「あ……あぁぁ……」
マミ「今度こそ、鹿目さんの勝利ね。鹿目さんはフライングなんてしていないわよ」
杏子「……」
まどか「あの……杏子ちゃん……?」
ほむら「まどか、まどか」
まどか「な、なに?」
ほむら「杏子の力は、どうだったの?」
まどか「えっと、なんていうか、その……すごいよね……」
ほむら「だったら……」
さやか「やめてよ。まどかは杏子がどうやって育ってきたのか、知らないんだから」
ほむら「けれど、貴女は杏子の過去を知る前にも躊躇っていた」
さやか「そうだけど……」
まどか「あの、私、悪いこと、しちゃったの……」
さやか「よく聞いて、まどか。杏子は今まで腕相撲で負けたことがないんだって」
まどか「え……?」
さやか「それもさ、自分のお父さんを相手にしてたんだって」
まどか「そ、そんな……!!」
ほむら「絶対の自信が今、絶望に変わってしまったようね」
マミ「あの、そういうことは事前に言ってもらわないと……」
まどか「ど、どうしよう……!?」
QB「何を慌てる必要があるんだい? まどかは杏子に勝ったんだ。さぁ、魔法少女になってよ」
ほむら「キュゥベえは黙ってなさい」
まどか「わたし……取り返しのつかないことをしちゃったの……」
杏子「……」
マミ「相当なダメージを受けているようね」
さやか「まぁ、当然といえば当然かぁ」
ほむら「一つだけ方法があるわ」
まどか「ホント!?」
さやか「なになに?」
ほむら「今から、私とまどかが腕相撲をする。そして私が圧勝する」
さやか「なるほどね。杏子は私たちには勝ってるから……!!」
ほむら「そう。敗因を疲れの所為にできるわ」
杏子「……」
さやか「やめてよ!! 二人とも!!!」
杏子「え……?」
ほむら「最強の杏子を倒したまどかを倒せば、私が最強になれる」
まどか「ほむらちゃん、そんなの間違ってるよ!!」
ほむら「問答は無用よ。来なさい、まどか」
まどか「どうしても、やるの……」
ほむら「悪いのはあなたよ、まどか。貴方が強すぎるから悪いのよ」
まどか「ほむらちゃん……」ギュッ
ほむら「まどか……」ギュッ
マミ「レディー、ゴー」
ほむら「まどかぁぁ!!!」ダンッ
まどか「あー」
ほむら「これで魔法少女界№1の称号は私のものね」
マミ「ホントね。暁美さんってすごいわ」
杏子「……」
さやか「でも、ちょっと待ってよ。杏子はあんたを倒してるけど?」
ほむら「あ……」
杏子「確かに」
ほむら「ということは、まどかを負かした私に勝利した杏子こそが、最強ということに……」
マミ「佐倉さんが鹿目さんに負けてしまったのは疲労のせいだったのね」
杏子「そっか……そうだよな……」
さやか「そうそう。最強は杏子なんだよ」
マミ「佐倉さんしかいないわ」
ほむら「負けたのは事実ね。貴女に№1は譲渡するわ」
杏子「やっぱり、あたし、腕相撲、強かったんだな」
まどか「もう絶望する必要なんて、ない!!」
杏子「だよな!! あたしが最強だー!!」
まどか「そうそうっ」
QB「なんだい、この茶番は?」
ほむら「キュゥべえ……!!」
QB「全くわけがわからないよ。暁美ほむら。君は言っていたじゃないか。現実を教えたほうが杏子のためでもあるって」
ほむら「くっ……」
QB「その甘さが命取りになるんじゃないのかい?」
さやか「今だけ!! 今だけ!! もう少しぐらい希望を見せてあげてよ!!」
QB「その先にあるのは己の限界という絶望だけ。そのことだってわかっているんだろう?」
さやか「うっ……」
マミ「キュゥべえのいうことは正論よ。けれど、それでは誰も幸せにならないわ」
QB「果たして杏子にとって今の茶番は幸せに値するのかな」
マミ「なんですって……」
QB「杏子の中では一時と言えど迷いと戸惑いが生じた。もしかしたら自分は弱いんじゃないか。親は手加減してくれていただけなんじゃないかってね」
まどか「違う!!」
QB「君たちは強引にその迷いに靄をかけただけなんだ。杏子はきっと心の底で考え続ける。ひょっとして、もしかして。そしていつかは己の限界を知るときがくる」
まどか「やめて!! キュゥべえ!!」
QB「あのとき、みんなは自分に気をつかってくれていただけだったんだ。ああ、なんて恰好の悪い自分なんだろう。恥ずかしい。そうして杏子の心は濁っていくんだね」
杏子「え……あ……あたしって……弱いのか……」
まどか「やめて!! やめてよ!!」
QB「杏子を救いたいのなら、まどかが魔法少女になるしかないんだ。さぁ、僕と契約して魔法少女になってよ」
まどか「どうして!?」
QB「まどかが願うしかないんだ。杏子を腕相撲№1にしたいって。そう願えば杏子は救われる。まどかは魔法少女になれるんだ」
まどか「それしか……ないの……」
ほむら「騙されてはダメよ!! まだ方法はきっとあるわ!!」
まどか「でも……ほむらちゃん……私の所為で杏子ちゃんは……」
杏子「腕相撲……負けたことなかったのに……」
QB「杏子なんて僕の尻尾でも十分倒せるよ。試してみるといい」
杏子「うわぁぁぁぁ!!!」
マミ「それ以上は言わないで!!」
QB「何度でも言うよ。杏子なんて僕の尻尾でも十分だ。さぁ、まどか。杏子を救うために魔法少女になってよ」
まどか「私が……魔法少女に……」
杏子「うぅぅ……よわい……あたしって……弱いのか……」
QB「そうだ。杏子は弱いんだ」
杏子「うるさい!!」ドガッ!!!!
QB「きゅっぷぃ!?」
杏子「はぁ……はぁ……」
まどか「杏子ちゃん……?」
杏子「お前ら……もう一度だ……もう一度、あたしと勝負しろ……」
ほむら「え……」
杏子「明日、もう一度腕相撲で勝負だ……」
さやか「どうして?」
杏子「本気で戦え。嘘はなしだ」
マミ「でも……」
杏子「いいから戦え!!! あたしは今日、確かめてくるから!!」
ほむら「なにを?」
杏子「親父と腕相撲してくるんだ!! 大人にだって負けないってことをもう一度確かめてきてやる!!!」ダダダッ
まどか「杏子ちゃーん!!!」
ほむら「私たちに逃げ場はなさそうね」
マミ「どうするの? 明日、本当に腕相撲をするの?」
ほむら「それしかないわね。なによりも杏子がそれを望んでいるのだから」
さやか「圧勝しちゃっていいわけ?」
ほむら「それは……」
まどか「杏子ちゃんのパパ次第じゃないかな……」
マミ「どういう意味かしら?」
まどか「今日、杏子ちゃんはきっとパパにお願いすると思います。『本気でやって』って」
ほむら「そうなるでしょうね」
まどか「杏子ちゃんに現実を教えるのか、それとも夢を見せてあげるのか……」
マミ「そうね。佐倉さんの父親がどちらを選択するのかで、私たちの行動も決まる」
さやか「現実を教えていれば勝ってもいいけど、もし夢を見せてあげたのなら……」
ほむら「私たちに敗北以外の道はないわね」
マミ「問題は、それをどう見極めるかね」
さやか「それは、あれですよ。きっと勝ったかどうか質問しちゃえばいいと思います」
翌日 教会
杏子「来たか」
まどか「杏子ちゃん、あの……」
杏子「待ってたぜ。さぁ、腕相撲しようぜ」
ほむら「親とは勝負したの?」
杏子「ああ。した。親父だけじゃない。おふくろとも妹ともした」
さやか「い、妹って……」
杏子「なんだよ?」
さやか「いや、なんでも」
マミ「結果はどうだったの?」
杏子「圧勝に決まってるだろ。妹なんて秒殺だぜ」
まどか「そ、そうなんだ」
ほむら「私たちは負ければいい。それで杏子の絶望は希望へと変わる」
マミ「……待って。佐倉さんが本当のことを言っているとは限らないんじゃないかしら?」
さやか「あ……確かに……」
杏子「おら、どうしたんだ。こいよ」クイックイッ
まどか「もし、嘘だったら……」
ほむら「私たちが気を遣っているかどうかを調べるために、嘘をついたことになる」
さやか「えぇぇ!? そこまでするぅ!?」
マミ「可能性は決してゼロではないわ。佐倉さんも魔法少女だもの。その程度のことは考えているでしょう」
ほむら「そうね……」
杏子「なんだよー、はやくしろよー」
さやか「ちょっと、待ってて。作戦会議中だから」
杏子「そうか? なら、イメージトレーニングでもしとくか」
マミ「安易に判断しては危険だわ」
ほむら「そうね。杏子がどうなるかわからないもの」
まどか「今日は中止にしておいて、ご家族に直接結果を聞くとか」
ほむら「そんな猶予はないわ。杏子を見なさい」
杏子「こう、きたら、こう! こう、きたら、こうっ!!」
まどか「杏子ちゃん、やる気満々なんだね……」
マミ「とはいえ、可能性の話をしだしたらキリがないわね。佐倉家の中では本当に最強かもしれないもの」
さやか「あぁー。ありえそうですね」
ほむら「そうね。悩んでいても問題は解決しないわ」
まどか「そう……だね……」
杏子「いっきに……倒す!! いっきに……倒す!!」
ほむら「杏子、この四人と戦うの?」
杏子「それ以外にないだろ」
マミ「分かったわ。行きましょう、みんな」
まどか「はい」ギュッ
さやか「行きましょう!!」ギュッ
杏子「え?」
ほむら「負けないわ」ギュッ
マミ「さぁ、勝負よ!!」
杏子「なんでお前ら、四人でかかってくるんだ!!! 一人ずつこいよ!!! ひとりずつ!!」
ほむら(くっ……。私たちが四人でかかれば杏子は色んな言い訳ができたのに……)
さやか「ダメなの?」
杏子「ダメだろ」
マミ「第一の作戦は失敗ね」
まどか「いいと思ったんですけど」
ほむら「まだよ。諦めないで、まどか」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「まずは私とよ」
杏子「いいぜ。こい」
ほむら「審判をお願い」
さやか「う、うん。それじゃあ、レディー」
杏子「……」グッ
ほむら「……」グッ
さやか「ゴー」
ほむら「はぁぁぁぁ!!!」
マミ(暁美さん……!! まさか、声だけは気合十分だけど、力は全くいれない……。声だけ作戦ね)
さやか(なんの意味があるのかよくわかんないけど!! がんばれ!!)
ほむら「やぁぁぁぁ!!!」
杏子「……」
ほむら「はっ……」
ほむら(杏子の表情が冷めきっている……!?)
杏子「お前、力いれてるかぁ?」
ほむら「い、いれて、ますけど……?」
杏子「本当だな?」
ほむら「ほ、本当よ。声を出して力をいれないなんて器用なことはできないわ」
杏子「なんだ、そうなのか。それじゃあ、遠慮なく!!!」グイッ
ほむら「きゃっ」
杏子「ロッソ・ファンタズマ!!!」ダンッ
ほむら「ふっ。完敗ね」
杏子「……次は?」
さやか「私がやるよ」
杏子「さやか、か。手加減なんて、絶対にすんなよ」
さやか「するわけないじゃん。何言ってるわけ?」
杏子「だよな」
さやか「ほら、あんたこそ本気でこないと腕が折れちゃうよ。昨日の私と一緒だとは思わないでよね」
マミ「レディー、ゴー」
杏子「おりゃぁぁぁ!!!」
さやか「でやぁぁぁ!!!」
マミ(美樹さんの作戦は、拮抗作戦だったわね)
ほむら(相手の能力に合わせて力を調整し、頃合いを見計らって敗北する。もっとも無難な戦術……)
さやか「や、やるじゃない……!!」
杏子「ふぅーん……!!! くたばれぇぇ……!!」
さやか「まけない!!」
杏子「ロッソ・ファンタズマ!!!」ダンッ!!!!
さやか「あぅぅ」
杏子「おし。次だ」
マミ「私の出番ね」
杏子「マミ……」
マミ「私は前の二人のように甘くはないわよ」
杏子「知ってる」
まどか「レディー、ゴー」
マミ「ふんっ」グイッ
杏子「おぉぅ!?」
マミ「この程度なの?」グググッ
杏子「あ……ぅぅ……くそぉ……まけるぅ……!!」
マミ「うふふ。さぁ、もうすぐ手の甲がついてしまうわよ?」ググッ
杏子「うぁぁ……」
マミ「トドメよ。ティロ・フィナ――」
マミ「あぅ!? いたたた……」
杏子「……!!」
ほむら(昨日、首を痛めたことを利用したのね。上手い作戦だわ)
杏子「ロッソ・ファンタズマ!!!!」ダンッ
マミ「あぁー。まけちゃったぁ」
杏子「あたしの勝ちだな。マミ」
マミ「強くなったわね、佐倉さん」
杏子「お前が弱くなったのさ、マミ」
マミ「そうかもしれないわね……」
杏子「最後だな、まどか」
まどか「……」
杏子「お前を倒す」
まどか「負けないよ」
さやか「まどか、やっちゃえー」
マミ「私たちの敵をうって!!」
ほむら「全力でやりなさい、まどか」
杏子「こういう逆風が意外と心地よかったりするんだよな」
まどか「杏子ちゃん。私、絶対に手を抜いたりしないから。私を信じて」
杏子「マミ、頼む」
マミ「ええ。いいわよ。両者、準備はいいかしら?」
まどか「はい」ギュッ
杏子「……」ギュッ
マミ「レディ……」
杏子「……ありがと」
まどか「……!」
マミ「ゴー!!」
杏子「うりゃぁぁぁぁ!!!」ググググッ
まどか「くっ……」
さやか(まどかの作戦は私の一緒だ!)
ほむら(まどからしい手ね)
杏子「おりゃぁぁぁ!!!」
まどか「……」
マミ(どうしたのかしら、鹿目さん……。耐える演技をしているようにはみえないけれど……)
杏子「これであたしがナンバーワンだぁぁぁ……!!!」
まどか「……」
杏子「ロッソ・ファンタズマ!!!!」グイッ
まどか「……っ」グッ
ほむら「え……!?」
さやか(杏子の必殺技っぽいのが出たのに、まどかが耐えちゃった!?)
マミ(ここではまだ負けるつもりはないということなの)
杏子「やるなぁ……流石はまどか……だぁぁ……」
まどか「杏子ちゃん……」
杏子「このぉぉぉ……!!」
まどか「私……どうしたらいいの……」
さやか「どうしたんだろう、まどか。これ以上、引き延ばす必要なんてないのに」
ほむら「……そういうことなのね」
マミ「暁美さん?」
ほむら「杏子は全てを悟っているようね。私たちが手を抜いていたことに気が付いている」
マミ「そんな……!?」
さやか「なんでよ!? 気が付いているなら言うはずでしょ!?」
ほむら「杏子は……優しい子なのよ……」
マミ「私たちのことを想って……演技を……」
さやか「杏子……」
杏子「もう一撃だ!! ロッソ・ファンタズマ!!!!」
まどか「……」
杏子「まだ耐えるのかよ!! このぉぉぉ!!!」
まどか「……えいっ」ダンッ
杏子「あ……」
ほむら「まどか……」
杏子「……」
まどか「私たち、杏子ちゃんに酷いことしちゃってたよね」
杏子「……」
まどか「ごめんなさい……」
杏子「いいんだ。あたしのほうこそ、気を遣わせたな」
まどか「そんなことない!!」
杏子「昨日、妹を問い詰めたら言われたよ。お姉ちゃんが弱すぎるから、みんなは負けてくれたんだって」
まどか「……」
杏子「おかしいとは思ってたんだ。小学生のあたしが親父を負かせることが可能なのかってな」
杏子「でも、親父はいつも言ってた。毎回、奇跡が起こっているから勝てるんだってな」
さやか「杏子はそれを信じたの?」
杏子「ああ。腕相撲の神様に愛されているんだって解釈してた。でも、ホントは見向きもしてなかったんだ」
マミ「佐倉さん……」
杏子「頼むよ、神様。みんなが優しくなるぐらいの弱さなんていらなかった。みんなと同じぐらいの強さが欲しかった」
ほむら「腕相撲の神様がいるとするなら残酷ね。佐倉杏子という優しい女の子がみんなから愛されるよう、弱くした。けれど、それは杏子自身を苦しめる」
杏子「もういいさ。認めてやるよ。あたしは魔法少女界でも腕相撲ワーストワンなんだ」
マミ「私たちは佐倉さんの気持ちをきちんと汲んであげるべきだったわね」
さやか「そう、ですね……」
杏子「みんな、サンキュ。この一帯は諦めるよ。じゃあな」
まどか「待って!!」
杏子「あん?」
まどか「奇跡を信じることができるなら、きっと杏子ちゃんだって腕相撲で勝つこともできるよ!!」
杏子「やめてくれ。もういいんだ」
まどか「諦めたら終わりだよ!!」
杏子「まどか……」
まどか「奇跡はあるよ」
杏子「……あるのかな」
まどか「うん。杏子ちゃんの傍に」
杏子「そこまで言われると、もう少しだけ信じてもいいような気がしてきたな」
まどか「やろう。奇跡が起こるまで」
杏子「手加減なんて、絶対にすんなよ」
まどか「しないよ。もう、杏子ちゃんには嘘はつかない」
杏子「おしっ! こい!!」ギュッ
まどか「うんっ!」ギュッ
まどか「えいっ!」ダンッ
杏子「あぅ」
まどか「まだまだだよ!!」グイッ
杏子「お、おう!」
まどか「えいっ!!」ダンッ
杏子「あぅ」
ほむら「もう何連敗しているかしら」
さやか「100から先は数えてない」
マミ「奇跡はいつ起こるのかしらね」
ほむら「さぁ……」
まどか「えいっ!!」ダンッ
杏子「あぅ。ま、まどか、そろそろ……」
まどか「まだがんばれるよ!!」
杏子「……お、おう!!」
まどか「えいっ!!」ダンッ
杏子「……」
まどか「あの、ごめんなさい」
杏子「まどかは強いよな……」
マミ「鹿目さん。痛めつけてどうするの」
まどか「逆にこれぐらいしたほうがいいかなって」
ほむら「まどか……」
杏子「魔法も奇跡もないんだよな」
さやか「そ、そんなことないってば!!」
杏子「ありがと」
まどか「そ、そうだ! 杏子ちゃん、他に得意なことってないの!? それで勝負しようよ!!」
杏子「……」
マミ「いい考えね。腕相撲は、ほら、ノーカウントにするしかないじゃない!」
杏子「いいのか? 腕相撲では負けたんだぜ?」
ほむら「気にしなくていいわ。遠慮なく言ってみて」
杏子「……ゲーム、かなぁ。やっぱり」
ゲームセンター
さやか「ゲームするなら、やっぱりここだね!」
ほむら「こういう賑やかなところはあまり好きじゃないけれど……」
マミ「たまにはいいじゃない」
ほむら「そうね」
まどか「杏子ちゃんの一番得意なゲームで対戦しよう!」
さやか「おー!!」
杏子「いいのか? 100円が無駄になっちまうぜ?」
さやか「100円ってことは格闘ゲームってやつ?」
まどか「それ、苦手だなぁ……」
杏子「ちゃんと手加減してやるよ」
まどか「それはダメ! 杏子ちゃんは本気でこなきゃ!!」
杏子「いいのか? 1プレイで100円もするんだぜ?」
まどか「うん! 杏子ちゃんは本気できて!!」
杏子「……わかった。本気でやるぞ、まどか」
『KO!!!』
杏子「うらよっしゃぁぁぁぁ!!!」
マミ「もう一回やるしかないじゃない!!!」チャリンチャリン
ほむら「連コインはマナー違反よ」
さやか「よかったぁ。杏子が元気になって」
まどか「私たちのお財布は萎んじゃったけど」
QB「楽しそうだね」
まどか「キュゥべえ、居たの?」
QB「問題は何も解決していないと思うけどね」
さやか「いいの。杏子は腕相撲は弱いけど、格闘ゲームはすんごく強い。それだけ」
QB「僕には理解できないよ。嫌なことから目を背けているだけじゃないか」
まどか「そういわれると」
杏子「勘違いすんなよ。あたしは、逃げないぜ」
QB「え?」
杏子「今日から筋トレする。それで、まどかたちをぶっ倒す。腕相撲でな」
さやか「その意気だ!!」
まどか「がんばって!」
杏子「おう!」
マミ「いけー!」ガチャガチャ
ほむら「エリアルコンボができていないわね」
QB「やれやれ。僕は退散しようかな」
まどか「あ、このぬいぐるみ、かわいいなぁ」
QB「これが欲しいなら魔法少女になってよ」
杏子「少し待ってろ。それぐらいなら一発でとってやるよ」
まどか「ホント!? わーいっ」
さやか「私の分もとってよー」
杏子「わかった、わかった」
さやか「やっりぃ」
杏子「それぐらい、簡単に取れるだろ」
QB「バイバイ、まどか。また明日ね」
まどか「ありがとう、杏子ちゃん。こんなに大きなぬいぐるみをとってくれて」
杏子「気にすんな。まどかにはできないからなぁ」
マミ「ま、それをとるために費やした資金は、格闘ゲーム30回分ぐらいかしら?」
杏子「うるせぇよ。アームの設定が悪かったんだよ」
さやか「私の分もありがとー」
杏子「別にいいよ。色々、迷惑かけちまったからな。一応、礼ぐらいはしねえと」
ほむら「貴女はキュゥべえに言ったわね。逃げない、と」
杏子「ああ。今から家で腕立て伏せだ!」
マミ「いつでも挑戦を受けるわ」
杏子「今度こそ、この一帯をあたしのものにしてやる!!」
マミ「その日が来ることを祈っているわ」
杏子「じゃあな!!」
まどか「バイバーイ!! たのしかったよー!!」
さやか「またあそぼー!!」
杏子「またなー!」
ほむら「帰っていったわね」
マミ「結局、今日はみんなで遊んだだけになったわね」
さやか「すっごく楽しかったですけどね」
マミ「そうね」
ほむら「これからが大変ね、まどか」
まどか「なにが?」
ほむら「杏子はしつこいわよ」
まどか「えぇ……」
ほむら「近いうちに彼女は力をつけて再戦を挑んでくるでしょうね」
まどか「……そのときは、戦う」
ほむら「魔法少女ではないのに?」
まどか「魔法少女かどうかは関係ない。私は佐倉杏子ちゃんって人の挑戦を受けるだけだから」
ほむら「それもそうね」
さやか「また挑んでこないかなぁ、杏子」
マミ「きっとすぐに現れるわ。そういう子だもの」
数日後 公園
さやか「ここだよね?」
まどか「うん」
杏子「――やっと来たか」
ほむら「杏子……」
マミ「この果たし状。読ませてもらったわ。随分と自信をつけたようね」
杏子「あの日、あたしは負けてから地獄のような特訓をしてきたんだ」
まどか「ど、どんな?」
杏子「毎日腕立て20回。腹筋15回を2セット。懸垂5回。おかげで今も体のあちこちに痛みが走ってやがる」
ほむら「筋肉痛かしら?」
さやか「そうなんじゃない?」
杏子「だが、今日こそはお前らを倒してやる!! もうあたしは負けねえぞ!!」
マミ「いいわ。受けて立ちましょう」
ほむら「来なさい、杏子」
杏子「楽しくなってきたぜ!」
まどか「えーい」ダンッ
杏子「あぅ……」
ほむら「まどかの圧倒的勝利ね」
杏子「くそっ!! まだ足りねえっていうのかよ!! ざけんなぁ!!」
さやか「ま、それだけじゃ足りないよね」
マミ「その回数で筋肉痛になるようならもう少し時間が必要ね……」
杏子「くそっ! くそっ!! 今日こそは勝てるはずだったのに!! ちくしょう!!」
まどか「杏子ちゃん……。次は杏子ちゃんの得意なことで勝負しようよ!!」
杏子「そうだな! 今日も行くか!」
さやか「いこういこう!」
マミ「昨日も行った気がするのだけど……」
ほむら「杏子が負け続ける限りはこのままでしょうね」
マミ「腕相撲が私たちと遊ぶ口実になっているのね。うふふ」
まどか「今日も私が圧勝だったね」
杏子「いうなよー」
おしまい。
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