ヒルメス「アンドラゴラスの小倅めに呪いを掛けろ」(63)


魔道士「……呪いとな?」

ヒルメス「そうだ」

ヒルメス「アトロパテネの時の様な、大掛かりな魔術でなくとも良い」

ヒルメス「今のお主ででも出来る 呪いを奴に掛けてやれ」

魔道士「…………」

魔道士「……よかろう」

魔道士「だが、掛ける呪いは こちらの裁量に任せてもらうが?」

ヒルメス「軽い物では、こちらの溜飲も下がらぬ」

ヒルメス「できれば日常生活にも困る物を頼む」

魔道士「わかった」


ヒルメス「ふん……」

     ザッ ザッ ザッ…

魔道士「…………」

弟子「……尊師。 よろしいので?」

魔道士「良い。 ちょうど試してみたい呪いがあったのでな」

弟子「左様でしたか」

弟子「準備は? 何を用意致しましょう?」

魔道士「女子(おなご)の身に付ける下着を用意せい」

弟子「…………」

弟子「……すみませぬ、尊師。 今一度おっしゃってください」

魔道士「女子(おなご)の身に付ける下着だ。 使用済みであれば なお良い」

魔道士「用意せい」

弟子「……御意」



―――――――――――


ペシャワール城


ルーシャン「――となりまして」

ルーシャン「いささか時間をいただきたいのです」

アルスラーン「ふむ……」

アルスラーン「ナルサス、少々予定が遅れるが問題はないだろうか?」

ナルサス「はい。 このくらいならば予測の範疇(はんちゅう)にございます」

アルスラーン「では、その様に取り計らってくれ、ルーシャン」

ルーシャン「はっ。 ありがとうございます」

アルスラーン「うむ」


アルスラーン「他に議題はあるだろうか?」

     …………

アルスラーン「では、本日の会議は終了とする」

アルスラーン「解散」

     ゾロ ゾロ ゾロ…

アルスラーン「ふう……」

ダリューン「お疲れ様でした、殿下」

アルスラーン「ダリューン」

アルスラーン「この程度で疲れていては、王(シャーオ)などには成れぬ」

アルスラーン「とは言え……まだまだ、という気がするが」 クスッ

ダリューン「大丈夫でございます、殿下」

ダリューン「なあ? ナルサス」


ナルサス「まったく……お主は過保護にすぎる」

ナルサス「たまには殿下をお諌(いさ)めするのも臣下の務めだぞ?」

ダリューン「もちろん心得ている」

ダリューン「俺は自分の思った事、言った事に偽りなどないぞ」

ナルサス「やれやれ……」

ダリューン「おい、ナルサス」

アルスラーン「ナルサス、そのくらいで良いだろう」

アルスラーン「私の事でケンカなどしないでくれ」 クスッ

ダリューン「め、滅相もございませぬ」

ナルサス「分かっておりますとも、殿下」


アルスラーン「では……少し早いが」

アルスラーン「皆で食事を……」

     フラッ…

ダリューン「!」

ナルサス「!」

     ガシッ!

ダリューン「殿下! 大丈夫ですか!?」

アルスラーン「す、すまない、ダリューン」

アルスラーン「たぶん立ちくらみだろう。 大丈夫だ」

ダリューン「そ、そうですか……なら良いのですが」

アルスラーン「うむ。 つまらない事で心配をかけた」

アルスラーン「本当にもう大丈夫。 一人で歩けるから」

ダリューン「はっ……」

アルスラーン「では、食事を取ろう」



―――――――――――


エラム「あ、殿下。 それにナルサス様、ダリューン様」

アルスラーン「エラム。 少し早いが、食事にしようと思って来た」

アルスラーン「構わないだろうか?」

エラム「ええ、もちろんいいですよ」

エラム「少々お待ちください」

アルスラーン「すまないな」

ダリューン「メニューは何になる?」

エラム「良い鴨肉が手に入りましたので、それのシチューを」

エラム「それとパン、良ければチーズも付けましょうか?」

ダリューン「頼む」


アルフリード「んー! いい匂い」

アルフリード「美味しそうだね!」

エラム「出たな女狐」

アルフリード「いいじゃない。 食事の時くらい大目に見なさいよ」

アルフリード「ねーナルサス!」

エラム「このっ……!」

アルスラーン「ま、まあまあ、エラム」

アルスラーン「そのくらいで……」

     ズルッ

アルスラーン「うわっ!?」

アルフリード「へっ?」

     ドササッ!!


ダリューン「で、殿下!?」

ダリューン「大丈夫で……」

ダリューン「」

アルスラーン「むぐぐっ」

アルフリード「痛た……んっ!?」///

ナルサス「」

エラム「」

アルスラーン「もがもがっ!(ど、どいてっ!)」

アルフリード「やんっ! な、何で殿下がそんなところに顔をっ!?」///

ダリューン「と、ともかく! どくんだ、アルフリード!」

アルフリード「は、はいっ」///


アルスラーン「……ぶはっ!!」

アルスラーン「はあっはあっ……」

アルスラーン「し、死ぬかと……思った……」

アルフリード「……っ」///

エラム(いい気味だ……と、思えない程の事故だった……)

ナルサス(殿下が足を滑らせた、と思ったら)

ナルサス(アルフリードの履いているズボンに手が引っかかり、それを下着ごと脱がし)

ナルサス(なおかつ、彼女の股間に顔をうずめる様に倒れこんでしまうとは……)

ダリューン(器用……というより、狙ってもできん芸当だ……)

アルスラーン「す、すまない、アルフリード……」

アルスラーン「怪我は無いか?」

アルフリード「なっ!? ちゃ、ちゃんと生えてますよ!!」///

アルスラーン「え? 生えている?」


ナルサス「お、落ち着くんだ、アルフリード」

ナルサス「ともかくファランギース殿のところに……」

ファランギース「……何の騒ぎじゃ?」

ギーヴ「何か催し物でもやってるのか?」

ナルサス「おお、ファランギース殿。 良いところに来てくれた」

ナルサス「事情は後で。 とにかくアルフリードを……」

アルスラーン「私からも頼……」

     ズルンッ!

アルスラーン「わわっ!?」

ファランギース「っ!?」

     ドササッ!!


ダリューン「」

ナルサス「」

エラム「」

アルフリード「」

ギーヴ「」

アルスラーン「ふががっ!?」 ジタ バタ

ファランギース「っ!」 ビクンッ!

ファランギース「なっ、で……殿下っ……」///

ファランギース「!?」

ファランギース(この気配……もしや!)

ギーヴ「何て羨ま……もとい、大変な事態に!」

ギーヴ「今、お助けしますぞ! 殿下!」


ファランギース「待て」

ギーヴ「いやいや、この状況。 一人では何とも出来ま」

ファランギース「待てと言っておろう」

     ドゴォッ!

ギーヴ「ヘボォッ!?」

ナル・ダリ・エラ・アル(安定のギーヴ……)

ファランギース「殿下」

ファランギース「慌てず、落ち着いて、大きく息を吸ってくだされ」

アルスラーン「ふが?」

     スー…

ファランギース「今度は、ゆっくり吐いて……」

     フゥー……


ファランギース「……ふむ」

ファランギース「そのまま……ゆっくりと目を閉じ、身をお引きくだされ」

アルスラーン「あ、ああ……」

     スッ…… ススッ

アルスラーン「……これで良いだろうか?」

ファランギース「しばらくそのままで……」

     サッ ササッ…(服を整え)

ファランギース「……では、目を開けてくだされ、殿下」

アルスラーン「う、うむ……」

ファランギース「…………」

ファランギース「殿下、しばらくその姿勢のまま、地面に座り込んでいていただきたい」

アルスラーン「……? 分かった……」


ファランギース「ナルサス卿、ダリューン卿」

ダリューン「む?」

ナルサス「……何か問題が?」

ファランギース「おそらく、殿下は”呪い”を受けておる」

ダリューン「呪い……だと?」

ナルサス「魔導の類(たぐい)か?」

ファランギース「うむ……」

ファランギース「何度か祓いの義を行って来た事がある故、気づけたが……」

ダリューン「……どの様な禍いが起こるのだ?」

ファランギース「あまり口にしたくなのじゃが……」


ファランギース「これはユウ・キーリトという呪いじゃろう」

ファランギース「この呪いを受けると、女性(にょしょう)の大事な部分に」

ファランギース「本人の意思とは無関係に顔をうずめてしまう様になるのじゃ」

ダリューン「…………」

ナルサス「…………」

ダリューン「……何か、くだらない事の様に感じるのだが」

ファランギース「この呪いは場所や時間を選ばぬ」

ファランギース「公務や謁見の場など、相対した姫君相手ですら例外なくそうなるのじゃ」

ナルサス「ならば、対処として女性(にょしょう)を近づけぬ様にすれば良いのでは?」

ファランギース「……この呪いの恐ろしいところは、な」

ファランギース「触られた女性(にょしょう)の……気分を高揚させてしまう効果がある」

ファランギース「女性(にょしょう)の方から無意識に近づいてしまうのじゃ……」

ダリューン「段々と恐ろしさが分かってきた……」

ナルサス「このままでは日常生活すら危ういな……」


ギーヴ「なんと羨ま……もとい、危険な呪いがあったものか!」

ギーヴ「代われるものならば、このギーヴ。 ぜひ代わって差し上げるのに!」

ファランギース「……お主の存在の方が余程危険じゃ」

ファランギース「殿下、少々お時間をくださいませ」

ファランギース「すぐにでも祓いの儀式を準備致しましょう」

アルスラーン「う、うむ。 頼む、ファランギース」

ダリューン「では、俺は殿下をお部屋までお連れしよう」

ナルサス「それがいい」

ナルサス「儀式が終わるまで、食事を殿下のお部屋へお運びしましょう」

ナルサス「エラム、頼めるか?」

エラム「はい、ナルサス様」


アルスラーン「みな、苦労をかけるな……」

ナルサス「いえ。 殿下のせいではございま……」

ナルサス「!」

ファランギース「ナルサス卿?」

ナルサス「……そうだ」

ナルサス「少々バカバカしいが、この呪いを使った者に仕返しが出来るやもしれぬ」

ギーヴ「どんな方法だ?」

ナルサス「ファランギース殿、少々待ってくれ」

ナルサス「ギーヴ。 お主にも手伝ってもらいたい」

ギーヴ「……?」



―――――――――――


ヒルメス「これはどういう事だ!?」

魔導士「……騒々しい奴よ」

魔導士「いったい何事か?」

ヒルメス「アンドラゴラスの小倅めが、奇妙な呪いにかかったが」

ヒルメス「逆にそのおかげで、美女を侍(はべ)らせておると報告があったのだ!」

魔導士「……ほう」

ヒルメス「説明しろ!」

―――――――――――

魔導士「……という呪いだ」

ヒルメス「」


ヒルメス「貴様ァ……誰がそんな まー○ゃん先輩の様な呪いを掛けろと言った!?」

魔導士「メタ発言とは らしくないの、ヒルメス」

ヒルメス「黙れ!」

ヒルメス「もうよい! その様な呪いなら要らぬ!」

ヒルメス「即刻やめよ!」

魔導士「……分かった」

魔導士「では、他の呪いを試すか?」

ヒルメス「……くだらぬものなら殺すぞ?」

魔導士「簡単に説明するのならば、所構わず女子(おなご)に殴られる、というものだ」

ヒルメス「…………」

ヒルメス「先のモノよりはマシか……」

ヒルメス「よし。 やるがいい」



―――――――――――


ダリューン「殿下。 体調の方はいかかですか?」

アルスラーン「うむ。 それは問題ない。 が……」

アルスラーン「自分が美女を侍(はべ)らせている、などという噂を広められるのは」

アルスラーン「呪いのせいに出来るとしても気持ちのいいものではないな……」

ダリューン「後でナルサスめを懲らしめておきます」

アルスラーン「それにギーヴ」

アルスラーン「本当に呪いを代わってもらって良かったのだろうか……?」

ダリューン「本人が望んだのですから、構わないでしょう」

ダリューン「それにしてもファランギース殿は有能ですな」

アルスラーン「ああ。 本当にありがたい」


ギーヴ「おおっと!」

     ズルンッ!

女官「きゃあっ!」///

ギーヴ「いやぁすまぬ。 これも呪いのせいでなぁ」

     サワサワ

女官「んっ……! はっ……んんっ……!」///

ギーヴ(ふふふ、何と都合の良い呪いだ!)

ギーヴ(事情は説明してあるし、何もしないでも勝手に向こうから美女がやってくる!)

ギーヴ(これほどの役得があろうものか!)

ギーヴ(女性(にょしょう)を知らぬとはいえ、アルスラーン殿下も惜しげ無いものよ)

ギーヴ(……だが、ひとつ心残りなのは)

ギーヴ(ファランギース殿に警戒されて近づいてこぬ、という事)


ギーヴ(……夜、寝所へ忍び込んでみるか?)

ギーヴ(今ならばこの呪いの効果で、いかなファランギース殿といえど)

ギーヴ(抗うのは容易では無いはず)

ギーヴ(…………)

ギーヴ(ふふふ……どうやらこのギーヴ)

ギーヴ(いよいよ身命を賭してやる事が出来た様だな……!)

     …クラッ

ギーヴ「おっ……?」

ギーヴ「…………」

ギーヴ(今……多少目眩がしたような?)

ギーヴ(まあ、いいか)


女官「……あの」

女官「早くどいてくれませんか?」

ギーヴ「おお、これはすまぬな」

     ススス…

ギーヴ(……あれ?)

ギーヴ(いつもならもっと約得な出来事が起こるのに……?)

女官「ふう……」

ギーヴ「いやはや、災難であったな」

ギーヴ「どれ、着付けを手伝って……」

     バシッ!

ギーヴ「へブァッ!?」

女官「それでは、失礼します」

ギーヴ「…………」


―――――――――――

     バゴォッ!

ギーヴ「ハギャアッ!?」

踊り娘「あっ!? ごめんなさい!」

踊り娘「練習していて気がつきませんでした……」

ギーヴ「い、いや、大丈夫だ。 ははは……」

―――――――――――

     ゴインッ!

ギーヴ「ブゲェッ!?」

給仕娘「ちょっとー気をつけてよ」

ギーヴ「す、すまん……」

―――――――――――

     ドゴォッ! バグンッ!


ファランギース「…………」

     ドンッ ドンッ!

ギーヴ「ファ、ファランギース殿!」

ファランギース「……何をしに来た」

ファランギース「私の部屋には近づくなと言っておいたはずじゃ」

ファランギース「その扉を開けた瞬間に切るぞ?」

ギーヴ「わ、分かっている!」

ギーヴ「だが、どうにも様子がおかしいんだ!」

ファランギース「……聞くだけは聞いてやろう」

―――――――――――

ギーヴ「という訳で、何故か女性(によしょう)から痛い目に合わされるんだ!」


ファランギース「ふむ……」

ファランギース「少し待て」

ギーヴ「あ、ああ……」

―――――――――――

ファランギース「原因がわかったぞ」

ギーヴ「! そ、それは!?」

ファランギース「お主に新しい呪いが掛けられたせいじゃな」

ギーヴ「」

ギーヴ「新しい呪い!?」

ファランギース「うむ。 殿下には魔除けを持たせておるし」

ファランギース「どうやら敵は呪いを掛けている者を辿って、かけ直した様じゃ」


ギーヴ「ど、どんな呪いなんだ?」

ファランギース「お主から聞いた出来事を鑑みると、おそらく」

ファランギース「ワンサ・マーという呪いであろう」

ファランギース「理由もなく女性(にょしょう)から理不尽な暴力を受けるという呪いじゃ」

ギーヴ「」

ギーヴ「そ、そんな!?」

ギーヴ「ファ、ファランギース殿! さっそく祓いの準備をしてくれ!」

ファランギース「今日はもう遅い」

ファランギース「それにナルサス卿に伝えてから判断しなければな」

ギーヴ「」

ギーヴ「ファ、ファランギース殿!?」

ファランギース「今日くらい我慢するがよかろう。 すぐに死ぬという呪いでもないのでな」

ギーヴ「ファ、ファランギース殿ぉぉぉっ!!!」




     結局

     ギーヴの呪いが解かれたのは3日後だった。

     以降はアルスラーン以外も魔除けを所持し

     こうして、呪いの騒動は収まった。



     ヒルメスが魔導師のところへ

     怒鳴り込みに行ったのは言うまでもない。




     終わり!

呪いってこわいね!
以上!

何か魔道士の変換がめちゃくちゃになってる……
短いから、もう一度投下します。


魔道士「……呪いとな?」

ヒルメス「そうだ」

ヒルメス「アトロパテネの時の様な、大掛かりな魔術でなくとも良い」

ヒルメス「今のお主ででも出来る 呪いを奴に掛けてやれ」

魔道士「…………」

魔道士「……よかろう」

魔道士「だが、掛ける呪いは こちらの裁量に任せてもらうが?」

ヒルメス「軽い物では、こちらの溜飲も下がらぬ」

ヒルメス「できれば日常生活にも困る物を頼む」

魔道士「わかった」


ヒルメス「ふん……」

     ザッ ザッ ザッ…

魔道士「…………」

弟子「……尊師。 よろしいので?」

魔道士「良い。 ちょうど試してみたい呪いがあったのでな」

弟子「左様でしたか」

弟子「準備は? 何を用意致しましょう?」

魔道士「女子(おなご)の身に付ける下着を用意せい」

弟子「…………」

弟子「……すみませぬ、尊師。 今一度おっしゃってください」

魔道士「女子(おなご)の身に付ける下着だ。 使用済みであれば なお良い」

魔道士「用意せい」

弟子「……御意」



―――――――――――


ペシャワール城


ルーシャン「――となりまして」

ルーシャン「いささか時間をいただきたいのです」

アルスラーン「ふむ……」

アルスラーン「ナルサス、少々予定が遅れるが問題はないだろうか?」

ナルサス「はい。 このくらいならば予測の範疇(はんちゅう)にございます」

アルスラーン「では、その様に取り計らってくれ、ルーシャン」

ルーシャン「はっ。 ありがとうございます」

アルスラーン「うむ」


アルスラーン「他に議題はあるだろうか?」

     …………

アルスラーン「では、本日の会議は終了とする」

アルスラーン「解散」

     ゾロ ゾロ ゾロ…

アルスラーン「ふう……」

ダリューン「お疲れ様でした、殿下」

アルスラーン「ダリューン」

アルスラーン「この程度で疲れていては、王(シャーオ)などには成れぬ」

アルスラーン「とは言え……まだまだ、という気がするが」 クスッ

ダリューン「大丈夫でございます、殿下」

ダリューン「なあ? ナルサス」


ナルサス「まったく……お主は過保護にすぎる」

ナルサス「たまには殿下をお諌(いさ)めするのも臣下の務めだぞ?」

ダリューン「もちろん心得ている」

ダリューン「俺は自分の思った事、言った事に偽りなどないぞ」

ナルサス「やれやれ……」

ダリューン「おい、ナルサス」

アルスラーン「ナルサス、そのくらいで良いだろう」

アルスラーン「私の事でケンカなどしないでくれ」 クスッ

ダリューン「め、滅相もございませぬ」

ナルサス「分かっておりますとも、殿下」


アルスラーン「では……少し早いが」

アルスラーン「皆で食事を……」

     フラッ…

ダリューン「!」

ナルサス「!」

     ガシッ!

ダリューン「殿下! 大丈夫ですか!?」

アルスラーン「す、すまない、ダリューン」

アルスラーン「たぶん立ちくらみだろう。 大丈夫だ」

ダリューン「そ、そうですか……なら良いのですが」

アルスラーン「うむ。 つまらない事で心配をかけた」

アルスラーン「本当にもう大丈夫。 一人で歩けるから」

ダリューン「はっ……」

アルスラーン「では、食事を取ろう」



―――――――――――


エラム「あ、殿下。 それにナルサス様、ダリューン様」

アルスラーン「エラム。 少し早いが、食事にしようと思って来た」

アルスラーン「構わないだろうか?」

エラム「ええ、もちろんいいですよ」

エラム「少々お待ちください」

アルスラーン「すまないな」

ダリューン「メニューは何になる?」

エラム「良い鴨肉が手に入りましたので、それのシチューを」

エラム「それとパン、良ければチーズも付けましょうか?」

ダリューン「頼む」


アルフリード「んー! いい匂い」

アルフリード「美味しそうだね!」

エラム「出たな女狐」

アルフリード「いいじゃない。 食事の時くらい大目に見なさいよ」

アルフリード「ねーナルサス!」

エラム「このっ……!」

アルスラーン「ま、まあまあ、エラム」

アルスラーン「そのくらいで……」

     ズルッ

アルスラーン「うわっ!?」

アルフリード「へっ?」

     ドササッ!!


ダリューン「で、殿下!?」

ダリューン「大丈夫で……」

ダリューン「」

アルスラーン「むぐぐっ」

アルフリード「痛た……んっ!?」///

ナルサス「」

エラム「」

アルスラーン「もがもがっ!(ど、どいてっ!)」

アルフリード「やんっ! な、何で殿下がそんなところに顔をっ!?」///

ダリューン「と、ともかく! どくんだ、アルフリード!」

アルフリード「は、はいっ」///


アルスラーン「……ぶはっ!!」

アルスラーン「はあっはあっ……」

アルスラーン「し、死ぬかと……思った……」

アルフリード「……っ」///

エラム(いい気味だ……と、思えない程の事故だった……)

ナルサス(殿下が足を滑らせた、と思ったら)

ナルサス(アルフリードの履いているズボンに手が引っかかり、それを下着ごと脱がし)

ナルサス(なおかつ、彼女の股間に顔をうずめる様に倒れこんでしまうとは……)

ダリューン(器用……というより、狙ってもできん芸当だ……)

アルスラーン「す、すまない、アルフリード……」

アルスラーン「怪我は無いか?」

アルフリード「なっ!? ちゃ、ちゃんと生えてますよ!!」///

アルスラーン「え? 生えている?」


ナルサス「お、落ち着くんだ、アルフリード」

ナルサス「ともかくファランギース殿のところに……」

ファランギース「……何の騒ぎじゃ?」

ギーヴ「何か催し物でもやってるのか?」

ナルサス「おお、ファランギース殿。 良いところに来てくれた」

ナルサス「事情は後で。 とにかくアルフリードを……」

アルスラーン「私からも頼……」

     ズルンッ!

アルスラーン「わわっ!?」

ファランギース「っ!?」

     ドササッ!!


ダリューン「」

ナルサス「」

エラム「」

アルフリード「」

ギーヴ「」

アルスラーン「ふががっ!?」 ジタ バタ

ファランギース「っ!」 ビクンッ!

ファランギース「なっ、で……殿下っ……」///

ファランギース「!?」

ファランギース(この気配……もしや!)

ギーヴ「何て羨ま……もとい、大変な事態に!」

ギーヴ「今、お助けしますぞ! 殿下!」


ファランギース「待て」

ギーヴ「いやいや、この状況。 一人では何とも出来ま」

ファランギース「待てと言っておろう」

     ドゴォッ!

ギーヴ「ヘボォッ!?」

ナル・ダリ・エラ・アル(安定のギーヴ……)

ファランギース「殿下」

ファランギース「慌てず、落ち着いて、大きく息を吸ってくだされ」

アルスラーン「ふが?」

     スー…

ファランギース「今度は、ゆっくり吐いて……」

     フゥー……


ファランギース「……ふむ」

ファランギース「そのまま……ゆっくりと目を閉じ、身をお引きくだされ」

アルスラーン「あ、ああ……」

     スッ…… ススッ

アルスラーン「……これで良いだろうか?」

ファランギース「しばらくそのままで……」

     サッ ササッ…(服を整え)

ファランギース「……では、目を開けてくだされ、殿下」

アルスラーン「う、うむ……」

ファランギース「…………」

ファランギース「殿下、しばらくその姿勢のまま、地面に座り込んでいていただきたい」

アルスラーン「……? 分かった……」


ファランギース「ナルサス卿、ダリューン卿」

ダリューン「む?」

ナルサス「……何か問題が?」

ファランギース「おそらく、殿下は”呪い”を受けておる」

ダリューン「呪い……だと?」

ナルサス「魔導の類(たぐい)か?」

ファランギース「うむ……」

ファランギース「何度か祓いの義を行って来た事がある故、気づけたが……」

ダリューン「……どの様な禍いが起こるのだ?」

ファランギース「あまり口にしたくなのじゃが……」


ファランギース「これはユウ・キーリトという呪いじゃろう」

ファランギース「この呪いを受けると、女性(にょしょう)の大事な部分に」

ファランギース「本人の意思とは無関係に顔をうずめてしまう様になるのじゃ」

ダリューン「…………」

ナルサス「…………」

ダリューン「……何か、くだらない事の様に感じるのだが」

ファランギース「この呪いは場所や時間を選ばぬ」

ファランギース「公務や謁見の場など、相対した姫君相手ですら例外なくそうなるのじゃ」

ナルサス「ならば、対処として女性(にょしょう)を近づけぬ様にすれば良いのでは?」

ファランギース「……この呪いの恐ろしいところは、な」

ファランギース「触られた女性(にょしょう)の……気分を高揚させてしまう効果がある」

ファランギース「女性(にょしょう)の方から無意識に近づいてしまうのじゃ……」

ダリューン「段々と恐ろしさが分かってきた……」

ナルサス「このままでは日常生活すら危ういな……」


ギーヴ「なんと羨ま……もとい、危険な呪いがあったものか!」

ギーヴ「代われるものならば、このギーヴ。 ぜひ代わって差し上げるのに!」

ファランギース「……お主の存在の方が余程危険じゃ」

ファランギース「殿下、少々お時間をくださいませ」

ファランギース「すぐにでも祓いの儀式を準備致しましょう」

アルスラーン「う、うむ。 頼む、ファランギース」

ダリューン「では、俺は殿下をお部屋までお連れしよう」

ナルサス「それがいい」

ナルサス「儀式が終わるまで、食事を殿下のお部屋へお運びしましょう」

ナルサス「エラム、頼めるか?」

エラム「はい、ナルサス様」


アルスラーン「みな、苦労をかけるな……」

ナルサス「いえ。 殿下のせいではございま……」

ナルサス「!」

ファランギース「ナルサス卿?」

ナルサス「……そうだ」

ナルサス「少々バカバカしいが、この呪いを使った者に仕返しが出来るやもしれぬ」

ギーヴ「どんな方法だ?」

ナルサス「ファランギース殿、少々待ってくれ」

ナルサス「ギーヴ。 お主にも手伝ってもらいたい」

ギーヴ「……?」



―――――――――――


ヒルメス「これはどういう事だ!?」

魔道士「……騒々しい奴よ」

魔道士「いったい何事か?」

ヒルメス「アンドラゴラスの小倅めが、奇妙な呪いにかかったが」

ヒルメス「逆にそのおかげで、美女を侍(はべ)らせておると報告があったのだ!」

魔道士「……ほう」

ヒルメス「説明しろ!」

―――――――――――

魔道士「……という呪いだ」

ヒルメス「」


ヒルメス「貴様ァ……誰がそんな まー○ゃん先輩の様な呪いを掛けろと言った!?」

魔道士「メタ発言とは らしくないの、ヒルメス」

ヒルメス「黙れ!」

ヒルメス「もうよい! その様な呪いなら要らぬ!」

ヒルメス「即刻やめよ!」

魔道士「……分かった」

魔道士「では、他の呪いを試すか?」

ヒルメス「……くだらぬものなら殺すぞ?」

魔道士「簡単に説明するのならば、所構わず女子(おなご)に殴られる、というものだ」

ヒルメス「…………」

ヒルメス「先のモノよりはマシか……」

ヒルメス「よし。 やるがいい」



―――――――――――


ダリューン「殿下。 体調の方はいかかですか?」

アルスラーン「うむ。 それは問題ない。 が……」

アルスラーン「自分が美女を侍(はべ)らせている、などという噂を広められるのは」

アルスラーン「呪いのせいに出来るとしても気持ちのいいものではないな……」

ダリューン「後でナルサスめを懲らしめておきます」

アルスラーン「それにギーヴ」

アルスラーン「本当に呪いを代わってもらって良かったのだろうか……?」

ダリューン「本人が望んだのですから、構わないでしょう」

ダリューン「それにしてもファランギース殿は有能ですな」

アルスラーン「ああ。 本当にありがたい」


ギーヴ「おおっと!」

     ズルンッ!

女官「きゃあっ!」///

ギーヴ「いやぁすまぬ。 これも呪いのせいでなぁ」

     サワサワ

女官「んっ……! はっ……んんっ……!」///

ギーヴ(ふふふ、何と都合の良い呪いだ!)

ギーヴ(事情は説明してあるし、何もしないでも勝手に向こうから美女がやってくる!)

ギーヴ(これほどの役得があろうものか!)

ギーヴ(女性(にょしょう)を知らぬとはいえ、アルスラーン殿下も惜しげ無いものよ)

ギーヴ(……だが、ひとつ心残りなのは)

ギーヴ(ファランギース殿に警戒されて近づいてこぬ、という事)


ギーヴ(……夜、寝所へ忍び込んでみるか?)

ギーヴ(今ならばこの呪いの効果で、いかなファランギース殿といえど)

ギーヴ(抗うのは容易では無いはず)

ギーヴ(…………)

ギーヴ(ふふふ……どうやらこのギーヴ)

ギーヴ(いよいよ身命を賭してやる事が出来た様だな……!)

     …クラッ

ギーヴ「おっ……?」

ギーヴ「…………」

ギーヴ(今……多少目眩がしたような?)

ギーヴ(まあ、いいか)


女官「……あの」

女官「早くどいてくれませんか?」

ギーヴ「おお、これはすまぬな」

     ススス…

ギーヴ(……あれ?)

ギーヴ(いつもならもっと約得な出来事が起こるのに……?)

女官「ふう……」

ギーヴ「いやはや、災難であったな」

ギーヴ「どれ、着付けを手伝って……」

     バシッ!

ギーヴ「へブァッ!?」

女官「それでは、失礼します」

ギーヴ「…………」


―――――――――――

     バゴォッ!

ギーヴ「ハギャアッ!?」

踊り娘「あっ!? ごめんなさい!」

踊り娘「練習していて気がつきませんでした……」

ギーヴ「い、いや、大丈夫だ。 ははは……」

―――――――――――

     ゴインッ!

ギーヴ「ブゲェッ!?」

給仕娘「ちょっとー気をつけてよ」

ギーヴ「す、すまん……」

―――――――――――

     ドゴォッ! バグンッ!


ファランギース「…………」

     ドンッ ドンッ!

ギーヴ「ファ、ファランギース殿!」

ファランギース「……何をしに来た」

ファランギース「私の部屋には近づくなと言っておいたはずじゃ」

ファランギース「その扉を開けた瞬間に切るぞ?」

ギーヴ「わ、分かっている!」

ギーヴ「だが、どうにも様子がおかしいんだ!」

ファランギース「……聞くだけは聞いてやろう」

―――――――――――

ギーヴ「という訳で、何故か女性(によしょう)から痛い目に合わされるんだ!」


ファランギース「ふむ……」

ファランギース「少し待て」

ギーヴ「あ、ああ……」

―――――――――――

ファランギース「原因がわかったぞ」

ギーヴ「! そ、それは!?」

ファランギース「お主に新しい呪いが掛けられたせいじゃな」

ギーヴ「」

ギーヴ「新しい呪い!?」

ファランギース「うむ。 殿下には魔除けを持たせておるし」

ファランギース「どうやら敵は呪いを掛けている者を辿って、かけ直した様じゃ」


ギーヴ「ど、どんな呪いなんだ?」

ファランギース「お主から聞いた出来事を鑑みると、おそらく」

ファランギース「ワンサ・マーという呪いであろう」

ファランギース「理由もなく女性(にょしょう)から理不尽な暴力を受けるという呪いじゃ」

ギーヴ「」

ギーヴ「そ、そんな!?」

ギーヴ「ファ、ファランギース殿! さっそく祓いの準備をしてくれ!」

ファランギース「今日はもう遅い」

ファランギース「それにナルサス卿に伝えてから判断しなければな」

ギーヴ「」

ギーヴ「ファ、ファランギース殿!?」

ファランギース「今日くらい我慢するがよかろう。 すぐに死ぬという呪いでもないのでな」

ギーヴ「ファ、ファランギース殿ぉぉぉっ!!!」




     結局

     ギーヴの呪いが解かれたのは3日後だった。

     以降はアルスラーン以外も魔除けを所持し

     こうして、呪いの騒動は収まった。



     ヒルメスが魔道士のところへ

     怒鳴り込みに行ったのは言うまでもない。




     終わり!

これも呪いのせいなのか……!
呪いって怖いね!
以上!

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