錬金術士「世界を救うのなんて到底無理…」 (75)

~森の奥~


魔物熊1「グルルルル……」

魔物熊2「……グル…」ジリ

女剣士「……どうしたの?早くかかって来なよ……私、先を急いでるんだから」スッ


魔物熊1「グル……グヴァァアアッ!!」ゴオッ

女剣士「っ……はぁっ!」ザシュッ

魔物熊1「グゴッ?!グボォアアアッッ!!?」ブシュウッ

魔物熊2「!?」

魔物熊1「…グ………ッ」ドサッ


女剣士「……次はそっちの番、大人しくその首を……差し出してもら」


錬金術士「ぃぃいやぁぁああああああっ!!おたすけぇぇええっ!!!」タッタッタッ

魔物熊3「グブァァアアアアアっ!!」ドドドドドドドドドッ


女剣士「おう、か……って…へ?」



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女剣士「ちょっと!なんでそんな追いかけっこなんかして、何やってるの!」

錬金術士「それは後ろの奴に聞いてくれぇぇええええいっ!!」タッタッタッ

魔物熊3「グブァアアアアァァアアアアアッ!!」ドドドド


女剣士「………はぁ、もう」

魔物熊2「グルル………ガァアッ!」バッ


ザシュッ!

魔物熊2「ギャヒンッ!?……ッ」ブシュウゥ


女剣士「まったく、世話の焼ける……」カチャッ

女剣士(……やっぱり、これと組んだのは失敗だったの、かな……)


魔物熊3「グボォアアアッ!!」ドドドドドッ

錬金術士「ひぃ、ひぃ!い、いい加減にしろっての!そ、そっちがその気ならこっちだって……!」ゴソゴソ

魔物熊3「グオァアッ!!」ババッ

錬金術士「このっ!わたしのこの爆弾的な物をくらえ!!」ポイスッ


魔物熊3「!?」

ボボムッ!!


錬金術士「よっし命中!やったか……な?」

魔物熊3「ッ!………ブォァオオアアアッ!!」グォオッ

錬金術士「きゃあっ!!やってない全然効いてない!むしろただ怒らせただけ?!」


魔物熊3「グガァァアアアァァアアアアア!!!」ガバッ

錬金術士「ひぃいっ!?お許しを!せめて命ばかりは見逃してぇ!!」

魔物熊3「ガアゥアアッ!!」

錬金術士「に゛ゃぁぁいああああああっ!!?」


女剣士「……たぁぁあああっ!!」シュパッ

ザンッ!
魔物熊3「グッ!?ガ……ァ…」


錬金術士「……ふぇ?」

女剣士「……クマ相手に命乞いって、やるなら死んだふりにしないと……」カチッ

魔物熊3「…………」ドサッ


錬金術士「あ、あれ?……敵は?倒した、の?」

女剣士「ん…」クイッ

魔物熊3「」ドクドク


錬金術士「……うへぁ、首ちょんぱって……怖いくらいイイ腕前してるね、やっぱり」

女剣士「別に……こんなの大したことない、こんな大きな的目隠しと耳栓してたって斬れる…」

錬金術士「へぇ、そっか」ツンツン


錬金術士「さてと、何か討伐の証になりそうな物を……よっ、うへぁ、グロい……」ゴソゴソ

女剣士「…………」フキフキ

錬金術士「ふぅ……よし、これで依頼は完了!戻ってギルドに報告しにいきますか」

女剣士「……そうだね」

錬金術士「はぁ、お腹すいた……別に何もしてませんけど……って、やや?」


女剣士「?……どうかした?」

錬金術士「おーっ、こんなところに珍しい植物が!……ちょっと採取をば」ゴソゴソ


女剣士「はぁ……そうやってフラフラしてるとまた魔物に追いかけられるよ?ろくすっぽ戦う力もないのに」

錬金術士「ぐむっ………さ、さっきのはちょっと火薬の配合を間違えただけだから、硝石と木炭と、あとその他鉱物が」


女剣士(私に錬金、術……だっけ?の話されても分からないんだけど)

錬金術士「……って、なんだただのうにか、ちぇ」ポイッ

女剣士「……うに?」


~街中~

錬金術士「樽!」ビッ

女剣士「……何してるの?」

錬金術士「いや別に、ただなんとなく?やっといたら色々とあやかれるような気がして……」

女剣士「……??」


錬金術士「それよりも、無事街に着いたことだし……わたしは受付に行ってくるけどそっちはどうする?」

女剣士「……別に、いつも通り外で待ってる」


錬金術士「あっ……そう、じゃあまた後でね」

女剣士「報酬は山分けだからね、ネコババしないように」ジー

錬金術士「わ、わかってるって……怖いなぁもう」


受付嬢「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件でしょうか」

錬金術士「依頼達成したから、その報告に」

受付嬢「はい、ご苦労さまでした、では確認のため少々お待ちを」

錬金術士「はいよ、っと……ふぅ………よしよし」


魔法使い「…………あら?貴方…もしかして」シャナリ


錬金術士「ん?……げっ、お前は」

魔法使い「やっぱり……久しぶりね、たしか魔術学園の卒業式以来かしら?……落ちこぼれさん」

錬金術士「……そういうそっちは学年主席だった縦ロールさん、ホント久しぶりですね」


魔法使い「その慇懃無礼な物言いに、人を髪型で呼ぶあたりも相変わらずねぇ」

錬金術士「それはお互い様でしょう?」

魔法使い「フンッ……」

錬金術士「……フッフッフッ」


魔法使い「……貴方みたいな人がギルドに何の用なのかしら、貴方に務まるような依頼があるとは思えないけれど」

錬金術士「残念、もうとっくに依頼達成していま報酬をもらうところだよ」

魔法使い「あら、それじゃあ随分と腕の立つ仲間を雇ったのかしらね、ふふん」

錬金術士「…………フン」

錬金術士(言い返せない……)


魔法使い「まあ世間話はこれくらいにして、ちょっとそこを退いてもらえるかしら?私もここに用があるので」

錬金術士「これはこれは気が利かないですみませんねお嬢様、どうぞどうぞ」

魔法使い「ありがとう、ちょっと……受付さん?」


受付嬢「はい只今……あっ、どうも魔法使い様、依頼達成のご報告ですか?」

魔法使い「ええそうよ、確認してもらえるかしら?」

受付嬢「はい喜んで、えーっとご依頼の方は……ホワイトドラゴンの討伐依頼ですね」

錬金術士「!?」


錬金術士(ほ、ホワイトドラゴンって……ドラゴンの中でも結構な上位種だったような、それをこいつ何でもないような風に……)

受付嬢「はい確かに、ホワイトドラゴン10頭の討伐を確認いたしました」

錬金術士「じゅっ……?!?」

魔法使い「ふふん、まぁ私くらいにかかればこんなものよね……」チラリ


錬金術士「……ぐ、ぬ」

受付嬢「こちら報酬の1万コールになります、ご確認くださいませ」ジャラリ

魔法使い「どうもありがとう」

受付嬢「こちらこそ、ありがとうございました……またのお越しを心よりお待ちしております」ペコリ


魔法使い「それじゃあまた、今度はゆっくりお茶でも飲みましょう……落ちこぼれさん」ニッコリ

錬金術士「あ、あぁ……うん、はい」



錬金術士「………………」


受付嬢「あの、もしかして……あの方とお知り合いなんですか?何やらただならぬ雰囲気でしたけど……」

錬金術士「へ?ああまぁ……別に、ただ昔同じ学校にいたってだけの話」

受付嬢「へぇ、え?ということは……貴方も中央王都の名門魔術学園に……?」


錬金術士「それにしても……なに?アイツってもしかして、結構な有名人なの?」

受付嬢「ええそれはもう……ギルド業界では知らぬ者はいない超優秀、超高ランクの冒険者ですよ、彼女は」


錬金術士「……そっか、それは知らなかった……相変わらず遠いとこにいるなぁ」

受付嬢「そのご様子、やっぱり何か由々しい関係では?……はっ!もしや」


錬金術士「うん?」

受付嬢「お二人は閉ざされた全寮制学園という閉鎖空間の中で、片や優等生、片や不良生徒として常日頃から激しく反目し合いながらもいつしか互いに認め合いそして絆を深めていくような、そういうベタなご関係では……っ!」キラキラ

錬金術士「………なんでそうなる、というか不良生徒って……あぁわたしか」


錬金術士「あいにく、別にそういうのじゃないから……アレとは」

受付嬢「そ、そうなのですか……それは残念」

錬金術士「それよりも、わたしの手続き後回しにされてない?早くして欲しいんだけど」


受付嬢「あっ、はいはいそうでした申し訳ありません」

錬金術士「まったくもう…」

受付嬢「はいこちら報酬の800コールになります、お確かめください」チャリーン

錬金術士「……………うん、はいどうもお世話様」

錬金術士(もう嫉妬心も起きないな、これは)チャリーン


受付嬢「ありがとうございました、またどうぞ」

錬金術士「はい」



魔法使い「……………」スタスタスタ


魔法使い(……人って、思わぬところで思わぬ相手に会うものなのね、まさかこんな所で遭遇するなんて)

魔法使い(別にアレには会いたかったわけでも、会いたくなかったわけでもなかったのだけど……ふぅ)


女剣士「……………」

魔法使い「……あら?」

魔法使い(あれは、あまりこの辺りでは見かけない身なりをしているわね……異国の方かしら)

魔法使い(剣を下げているところをみると剣士のようだけれど……)ジロジロ


女剣士「?……なに、私の顔に何かついてる?」

魔法使い「へっ?あ、あぁいえ別に、何も……」

魔法使い「……それ、いい帽子ね…とてもよく似合ってるわ……と、そう思っただけよ」

女剣士「……そう」


魔法使い「それだけ、えと……ジロジロ見て悪かったわね、それじゃあ」

女剣士「…………?」

……


錬金術士「おーい!」フリフリ

女剣士「……ん、やっと来た……ふぁ」クァー

錬金術士「お待たせ、んじゃあ取り敢えず今日の宿をとって休もうか」

女剣士「……ん」

錬金術士「……はぁ、なんかどっと疲れた……まいったなぁ、ったくもう」


女剣士「………明日はさ、どうするの?またギルドの依頼?」

錬金術士「ん?んん……そうだね、納品依頼がいくつかあるから……それとついでに自分用の採取もしときたいし」


女剣士「……………そう」

錬金術士「それがどうかしたの?」


女剣士「…………別に、ただ…」

錬金術士「ん?」


女剣士「もしかして忘れてるんじゃないかと思って、私が貴方と一緒にいる理由……」

錬金術士「あっ……あぁなるほど、そのことね」

女剣士「私は、私の目的のために貴方と行動を共にしてるの……そこは忘れないで」

錬金術士「そ、そうだったね……分かってるよ?これでもちゃんと、物覚えはいい方だし、わたしって」


女剣士「それならいいけど……もし私を騙してたって言うのなら……」ジロリ

錬金術士「あ、あははは……こ、恐い目しちゃってやだなぁもう」

女剣士「……………」ジー


錬金術士「分かった分かったってば!そっちの探してる"右目の所に傷のある男の人"についてもちゃんと情報集めるから」

女剣士「……ん、ならいい……そうしてくれれば私も心置きなくこの剣の腕を貸すことができる」

錬金術士「……あははは、心強い限りです」


女剣士「……それにしても、やっぱり私みたいな異国人って珍しいのかな……やたらジロジロ見られてる気がする」


錬金術士「ああ、まぁね……原因はそれだけじゃないと思うけど」

女剣士「どういう意味?……女が帯刀してるのがこの国じゃ珍しい、とか?」

錬金術士「そうじゃなくて、なんというかこう……目を引く容姿してるってこと」


女剣士「……はぁ、そう……目を引く」

錬金術士(並んで歩いてると、こっちが少し惨めになりそうなくらいにね、少しだけよ……ほんの少しだけ)


錬金術士「……もうさっさと宿を見つけて休もう今日は疲れた明日もやることあるし眠いし疲れた」

錬金術士「……ふぅ」

女剣士「…………?」


……
………
~数ヶ月前~

錬金術士「ひいふう、みい……よし、とりあえず忘れ物はなさそうかな」

師匠「……ホントーに行くのか、お前さえよければいつまでも此処にいていいんだぞ?」

錬金術士「いえ大丈夫です、わたしは師匠の元でのんべんだらりとするために弟子入りしたわけではないですから」


師匠「そうか、それもそうだな……お前がいなくなると思うと、この工房も寂しくなるな……」


錬金術士「師匠……」

師匠「洗濯とかしてくれる人間がいなくなるなぁ……あと部屋の掃除とか」

師匠「やだなぁ、実験器具に埃とか積もるのやだなぁ……ご飯も作ってもらえなくなるのかぁ、はぁ……」


錬金術士「……いいかげんそれくらいは自分でやるようにしてください、お願いですから」

師匠「すまんすまん、つい……な」

錬金術士「まったくもう、見かけ通りの子供なんですから師匠は……」


師匠「あっはっはっは」ケラケラ



錬金術士「さてと……持ち物の確認終わったし、これで準備は万端かな」


師匠「そうだ、ちょっと待て我が弟子よ、お前に渡したい物がある」

錬金術士「はい?なんですか師匠、渡したい物って…」

師匠「なに…ちょっとした餞別だ、ほれ」スッ

錬金術士「はぁ、はて?……これはなんですか?師匠」シゲシゲ


師匠「これは"双眼鏡"といってな、レンズを筒の中で重ね合わせることによって遠くの景色を近くに見ることのできる道具だ」


錬金術士「そうなんですか、どれどれ……」

錬金術士「おおっ、はぁ……これはまた便利な道具ですね」

師匠「これから広い世界を生きていくのに、双眼鏡に頼ることが多くなるだろう……大事にしなさい」

錬金術士「師匠……」ジーン

師匠「ふっふっふ」


錬金術士「……はい、では師匠……どうかお元気で、いってきます」

師匠「……うむ、気をつけてな」

錬金術士「そっちこそ、変なモノ食べてお腹壊さないようにしてくださいよ」フリフリ

……


錬金術士(とかいって師匠の元から独り立ちしたのはいいものの……)


~酒場~

戦士「ふぅん、錬金術士って職業なんだ……それで?それってなんの役に立つのかな?」

錬金術士「えっと、その辺の素材とかから道具を作ったりとか、あと色々な知識をもってる、ってところ……とか、かな」


戦士「うーん、アイテム作成かぁ………あれ?でも君って王都の名門魔術学校卒って書いてあるけど、魔法は?」


錬金術士「うっ、えっと……魔法はその、あまり得意じゃないというか、使えませんというか……」

錬金術士(あぁ、もう……今度から学校の名前出すのやめよう……うん、そうしよう)


戦士「そっかぁ、いやこっちとしてもさ、やっぱり戦闘に役立つような仲間がいいかなって、だから魔法が使えないなら……うーん」

錬金術士「ですよね、はい……あ、でもわたし火薬の扱いなら」


カランコロンカラン

僧侶「……あっ、いましたいました、戦士さーん」

戦士「ん?ああなんだ僧侶ちゃんか、どうかしたの?」


僧侶「いえ、特に用というわけではなくて、ただお姿がなかったようでしたから………その方は?」

錬金術士「ど、どうも」ペコ

戦士「いや、実は仲間にしようかと思って話してたんだけど……どうも条件に合わなそうでさ」


錬金術士「うぐ……」

僧侶「まぁ、それは残念ですね、すみません……お時間を取らせてしまって」ペコリ

錬金術士「い、いえこちらこそ……あ、あははは」


僧侶「稚拙ながら、貴方の今後の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げさせてください」ナムー


錬金術士「それは……どうも、恐縮です」


戦士「よし、それじゃ、俺たちはこれで……行こうか僧侶さん、えーっと、ナントカさんもまたどこかで」

僧侶「はい、では失礼します」


錬金術士「……はい、さようなら………ふっ」



錬金術士「ふふ……と、ニヒルに笑ってみても現実はどうなるわけでもなく……」

錬金術士「やっぱり一人旅はツラいなぁ、仲間になってくれる人も全然いないし……どうしよう」


酒場の主人「あら、貴方またダメだったの?この間紹介してあげた子たちとは上手くいかなかった?」

錬金術士「まぁ、はい………まるで氷河期がきたような寒々しい結果で……」


酒場の主人「そう、でもまぁきっと貴方にも素敵な出会いが訪れるはずだから、気を落とさないでね」

錬金術士「…………はぁ、だといいんだけど……ん」ゴクゴク


酒場の主人「それはそうと、いま飲んでるジュースの代金はちゃんと払えるのよね?」ニッコリ


錬金術士「うぐ、は……はいそれはもう勿論、です」

酒場の主人「ならよかった、飲み逃げなんてしたらそれこそタダじゃおかないけどね」


錬金術士「あ、あはは……はぁ」

錬金術士(そろそろ路銀の方も限界だな……決断するなら早めに決めなくちゃ、師匠に泣きつくか、それかお水を売って日銭を稼ぐか……)


酒場の主人「あっ、そういえば……さっき仲間を探してるって子がいたんだったわ」


錬金術士「んぐ………へぇ、そうなんですか……」グビグビ

酒場の主人「ええ、なんでも前に組んでた人達とそりが合わなかったみたいでね、愛想がなくて協調性に欠けてるとかなんとかで」

錬金術士「……なるほど、けぷ」


錬金術士(そりが合わなかった、ねぇ……)

酒場の主人「なんなら貴方ダメ元で会ってみる?もしかしてもしかしたらってこともあるだろうし」

錬金術士「ダメ元って、でもまぁ………はい、会ってみます一応」


酒場の主人「よしよし、ならえっと……確か向こうの奥の席に座ってたはずだから、頑張って」

錬金術士「……ふぅ………よしっ」ガタッ


錬金術士「えっと奥の席奥の席……ってあの人かな?剣を下げてるけど、もしかして剣士とか……?」


女剣士「………………」

錬金術士(あ、なんか綺麗というか、女のコ?……この辺じゃあんまり見ない顔立ち、異国の人かな……なんとなく話しかけづらい雰囲気)


錬金術士「………あの」オズオズ

女剣士「……?」

錬金術士「えっと、酒場の人から、仲間を探してるって聞いて……それで、会ってみたらってことで……その」

女剣士「…………………」


錬金術士「……えっと、それいい帽子だね……似合ってる、とっても」


女剣士「…………私……人を、探している………協力、欲しい」

錬金術士「………へ?」


錬金術士(覚えたてみたいな、ずいぶんとたどたどしい言葉づかい……この子、本当によその国から来たのかな?)

女剣士「人、探している………私…協力、欲しい……私、は」


錬金術士(何かを伝えようとしてる……多分、人探し?……なのかな)

錬金術士「ふむぅ……」

錬金術士(……まだ使えるかどうか、どうかな……通じるといいんだけど)



錬金術士「………えっと、そう……『こんにちは、本日は晴天なり、本日は晴天なり』……かな」

女剣士「!?」ギクッ

錬金術士「『あーあー、こっちの方が……話やすいでしょうか』……じゃなくて『ですか?』」


女剣士『ぁ、貴方……言葉が通じるの?私の国の言葉が……』

錬金術士『……えーっと、はいすこーし。色々と教えてくれた師匠がいて……ある程度は』


錬金術士『けど、聞き取る方はすこーし苦手なので……すこーしゆっくり話してくれると、ありがたい筈なので』

女剣士『ぁ、ああ……っ!』

錬金術士「……?」


女剣士『お、お願い!私に力を貸して欲しい、いま人を探してて……でも私、この国について詳しくないから、それで……だから!』ガバッ


錬金術士「うわっと、っとおお落ち着いて!じゃなくて……『落ち着いて、下がって下がって。とりあえず話をしましょう、まずはそこからという』」


女剣士『……えっ、あ』


錬金術士『……ね?だからとりあえず座って座って』

女剣士『………うん、分かった……そうする』


錬金術士「ふう、急に詰め寄られたからびっくりした……えと、あー…こほん」

錬金術士『それで、協力してほしいっていうのは……またどういうこと、ですか?』

女剣士『……実は』



酒場の主人「………ふぅん、あらあら……これはこれは」

………
……


錬金術士「初めて会った頃に比べたらさ、話すの上手くなったよね…この国の言葉」ゴリゴリゴリ


女剣士「まぁ、うん……それでもやっぱり故郷の言葉の方が話しやすいけど…」

錬金術士「やっぱあれか、教える人間が優秀だと上達が早いんだろうね、きっと♪」ゴリゴリゴリ


女剣士「まさか、単に私の覚えが早いだけだと思うけど?」

錬金術士「……ぬ」

女剣士「……………」フフーン


錬金術士「………なんか、口を利くのが上手になるにつれ段々と辛辣になっていってるよね、最近は特に」


女剣士「そうかな?」

錬金術士「そうだよ、最初会ったときはもっと素直で純朴そうな態度だったのに……すっかり横柄になっちゃって」


女剣士「あれは……ちょっとその、故郷から遠く離れて久しぶりに国の言葉を聞いたから……懐かしくなったというか、安心したというか」


錬金術士「……そっか母国語に想う郷愁のノスタルジックってやつか……なるほどなるほど」ゴリゴリ

女剣士『……別に、寂しいとか悲しかったとかじゃないから……私は、そんなに弱い人間じゃない』

錬金術士『それはもうそうでしょうとも……その剣の腕ならなおさらでしょうな』ゴリゴリ


女剣士「あと思ってた以上にそっちが頼りにならないことが分かった……ってのもあるかな」

錬金術士「…………うぐぅ」



女剣士「……ところで、さっきから何やってるの?それ」

錬金術士「これ?……見ての通り、錬金術の調合作業だけど」ゴリゴリ

女剣士「そうやって乾燥した葉や実をすり潰して混ぜ合わせるのが錬金術なの?」


錬金術士「まぁその一部というか一端というか、大元になった術はまた少し違ったらしいんだけどね……」ゴリゴリゴリ

女剣士「?……はぁ」


錬金術士「人から見たら無価値な素材を混ぜ合わせて価値ある物に変える……それこそ路傍の石を黄金に化けさせるようにね」

女剣士「だから『錬金術』……ってこと?」

錬金術士「そういうこと、みたい……わたしも師匠に聞いたままの受け売りだからさ、あはは」

女剣士「………師匠に、か」


女剣士「ふぅん……けど、そんなものが本当に役に立つの?」

錬金術士「まぁ確かに剣術に比べたら目に見えて有用かどうかは理解されないよね……けど」

女剣士「?」

錬金術士「この爆弾とか、戦闘に役立つアイテムもそれなりに作れるし、錬金術ならば!」スッ

女剣士「ああそれ、昨日失敗したやつだ」

錬金術士「あ、あれとは違うってば
!今度のはちゃんと素材をケチらず調合したから威力もバッチリ、のはず…」

女剣士「だといいけど……」


錬金術士「それと……治療に役立つ回復薬とかも一応常備してあるよ、軟膏とか……こっちは経口薬」ゴソゴソ

女剣士「……ふぅん、こういうのはいいかもね、効果があればだけど」


錬金術士「ケガしたらいってね、すぐ処置してあげるから……そういう技術も含めて錬金術士だし」フフン


女剣士(もう何が錬金術なのか分かんないな……もう道具屋にでも転職すればいいのに)


錬金術士「よし、あとはこれを釜で煮詰めて……ろ過してまた乾燥させて出来上がり!っと」

グツグツグツ

女剣士「うぐ、酷い臭い……ぅ」ツーン

錬金術士「そう?まぁ確かにこの作業は宿の部屋じゃ出来ないかな……前やったらこっぴどく怒られたし」

女剣士「そりゃそうだよこんなの……うぐ、これはもう……頭が痛くなりそう」ズキズキ


錬金術士「まぁでも慣れれば別に平気だよ、それに嗅いでるとだんだんいい気分になってくるし…」

女剣士(やばいやつじゃないのかな、それは……)


錬金術士「あ、なんかボーっとしてきた……完成したらモノをギルドに納品しにいくからそれで報酬をもらって、何か美味しいもの食べよ~うね?」

女剣士「げほごほ、わ、わかってると思うけど……昨日の話、人探しのこともちゃんと」


錬金術士「分かってるって、そういう情報の交換もギルドのサービスの一つだからついでに……うぷ」

女剣士(本当に大丈夫、なのかな……)

~ギルド前~

錬金術士「着いたけど、そっちはいつも通りギルドの外で待ってる?」

女剣士「ん、そうさせてもらうよ……」

錬金術士「よし、と……それじゃあさっさと……あ」


女剣士「?」

錬金術士「あー………あのさ、今回はちょっとついてきてくれないかな?受付のとこまで」

女剣士「……私、あんまり人の多い場所とか苦手なんだけど……なんで?」

錬金術士「いや……ほらさ、人探しの情報を仕入れるのに当事者がいた方が都合がいいでしょ?とか思ってさ……」


錬金術士(それに、また昨日みたいなのに出くわしたら一人だと心細いし……)

女剣士「……そっか、分かった……そういうことなら」

錬金術士「よし、じゃあ行こう」

女剣士「了解……」


受付嬢「ご苦労様です、あら?今日は別の女の子をお連れなんですね」

錬金術士「そんないつも女はべらせてるみたいな言い方、まぁいいや……納品依頼の確認をお願い」

女剣士「…………」

受付嬢「かしこまりました、少々お待ちください」


錬金術士「はいどうも」


女剣士『………ねぇ、ちゃんと情報収集の方はするんだよね』

錬金術士『まぁまぁ慌てないの、これが終わったらちゃんと聞き込みするから…』

女剣士『………ん』


受付嬢(何かしら、この二人だけで通じ合ってる感じ……一体何なのかしら、気になる……)ジー


受付嬢「はい、こちら納品依頼の完了を確認いたしました、報酬の方をお受け取りください」チャリーン


錬金術士「よしよし……っと、あとそれともう一つ用があるんだけど」

受付嬢「はい、何でしょう?」

錬金術士「実はいま人を探してて、こう右目のとこに傷のある男なんだけど……何かしら情報ってないかな?」


受付嬢「右目に傷の男……ですか?……はて、あぁそういえば」


錬金術士「もしかして、何か心当たりが?」

受付嬢「ええ、確かに最近そういう人の噂を耳にしたような……そちらの方と同じような細身の刀剣を下げていたとか」

女剣士「!!」

錬金術士「ほぅほぅ、それで?その男の人は今どこに……」


女剣士「それは本当なの!?」グイッ

受付嬢「うわ、ひえぅ!?」ビクッ


錬金術士「えっ、ちょっと何やってんの!ギルドの人間相手にそんな掴みかかっちゃダメだってば!」

女剣士「それは一体いつの話なの?!そいつは、今いったい何処にいるの!!」グイグイ

受付嬢「ひ、ひぇぇ…」ビクビク


「おい、あれ見ろよ……」

「なんだなんだ、なに騒いでんだぁ?」


ザワザワザワザワザワザワ

錬金術士「ひぇ、なんか注目浴びてる……と、とりあえず落ち着いて話を聞こうよ、ね?」


女剣士「答えて、早く!」グイッ

受付嬢「ひっ…」

受付嬢(こ、こわい……というかか、顔がちか…)

女剣士「……っ!」ギリ

受付嬢「…………ぁ」ポッ


ギルド警備「そこ!一体何をやっている、今すぐ彼女から手を離しなさい!」

錬金術士「うわーったった!何でもないです、問題ありませーん!大丈夫ですから」

ギルド警備「問題ないわけないだろ、今すぐ大人しくしないとお前ら騎士団に突き出すぞ!」


受付嬢「あ、あの……それ、素敵なお帽子ですね」

女剣士「帽子のことなんかどうでもいいから、早く、情報を教えて」

錬金術士「教えてほしいならさっさとその手を離しなさいっての!」グイッ

女剣士「!」パッ

受付嬢「……あん」パッ


錬金術士「すみません、申し訳ありません、ほら一緒に早く謝って!」ペコペコペコ

女剣士「いてて、そんなに引っ張らないでよ……」ペコリ


ギルド警備「ふん……次に不審な行動をしたらタダじゃおかんからな、よく覚えておきなさい」

錬金術士「はい、それはもう重々承知の助で………ふぅ、危ない危ない」


錬金術士「すみませんウチの連れが……馬鹿みたいに乱暴な真似をはたらいて」

女剣士「ば、馬鹿……って、ぐぬ」

受付嬢「い、いえ私は大丈夫ですので……むしろもう少し激しくても私は、その……」


錬金術士「えっ?」


受付嬢「…あっ、えっとその男の人の話できたよね、えへへ、へへ……」

女剣士「……?」


受付嬢「あの……ところで、その」

錬金術士「?」


受付嬢「その男の人は、もしかして恋人か何か……なんですか?ずいぶん熱心に探しておいでのようですけど……」

錬金術士「さぁ、その辺は実はこっちもさっぱりで……どうなの?」


女剣士「関係ないでしょ、いいからさっさと情報だけ教えて……早く」ジロ

受付嬢「ぁ、は、はい分かりまひた……その男の人はですね……」

……

~街道~

錬金術士「はぁ、もうあそこのギルドには近寄れなくなっちゃったかな……他のトコにも変な噂が届かなきゃいいけど」


女剣士「……………」

錬金術士「まあ、いいか……なんとかなるさ、それよりあの受付の子が言ってたこと……」

女剣士「うん……」


~~

受付嬢「その人なら、ひと月ほど前にここから北西の町に向かって出発したとかで……」

女剣士「北西の町……ってどこ?」

受付嬢「え?えっと、それは……」


錬金術士「ちょっと待って、いま地図で確認するから……」ガサゴソ


錬金術士「よし、今わたしたちがいるのがこの町、そこから北西っていうと……」

受付嬢「山を挟んで、その先のここの町ですね……恐らくここに向かったんだと思います」


女剣士「………そう」

女剣士(全然分からない、というか地図って……どう見たらいいの、かな)


受付嬢「もし行かれるのなら、今はこの山を迂回する街道しかありませんね」


錬金術士「ふーん……あれ、ここは?……こっちの渓谷を抜ける道はダメなの?」

女剣士「確かに、そっちの方が距離は短いみたい…」


受付嬢「いえあの、そこは……」

錬金術士「もしかして何か問題が?……あるなら別にすぐにでも諦めるけど」


受付嬢「その……今この谷には非常に凶悪な魔物が住みついているらしく、すでに幾人もの行方不明者が出ていまして」


錬金術士「ひぇ、そ、そうなんだ……」

受付嬢「なので、こちらの道を使うのは危険です……たとえ腕に覚えがある方であっても、やめておいた方が…」


錬金術士「そっ、かぁ……それならまぁ仕方ないね、町へは迂回路を使って向かうことに」

女剣士「関係ない……そんなの、私は行くから」


受付嬢「えっ!」

錬金術士「……え゛っ」


錬金術士「あのさぁ、いま彼女の話ちゃんと聞いてた?それとも『わたしの語学講座が不十分だったのかな?……ねぇ』」


女剣士「話はちゃんと聞いてたよ……けど、私はもう一分一秒だって時間を無駄にしたくない……から」スッ

錬金術士「そう、なんだろうけどさ………ぬぅ」


女剣士「教えてくれてありがとう……それと、さっきは手荒なことして……ごめん」

受付嬢「ぁ、は……はい、こちらこそ……ご馳走様でした」


女剣士「?……ああ、うん……それじゃあ」

錬金術士「はぁ………もう、ちょっと待ってよ!置いてかないでってば!」



受付嬢「……はぁ、ステキ…………はっ!じゃなくて、わ、私は一体何を!?」

~~


錬金術士「見えてきた……あれが話にあった渓谷みたいだね」


~山間の渓谷~

錬金術士「取り敢えず、道の先の方を確認確認……っと」ゴソゴソ


女剣士「何それ?……また錬金術の道具なの?」

錬金術士「いんや、これはただの双眼鏡っと……どれどれ」スチャ

女剣士「そう、がんきょう?……」


錬金術士「……ふむふむ、地形はなだらかで歩いて行くのは問題なさそう……上からの落石だけ注意かな」


錬金術士「あとは、例の魔物の件だけど……」

女剣士「別に、そいつが何であれ行くのに変わりないから……っと」ズザザザ

錬金術士「でしょうけどさ、だから置いてかないでってば!もう…」

今更ながら別にガストとかそういうのじゃないです


錬金術士「…………」ザッザッザッ

女剣士「……………」ザッザッザッ

……シーーーーーーン

錬金術士「…………………………」ザッザッザッザッ

女剣士「……………………………」ザッザッザッザッ


錬金術士「……あー、ごほん……なんていうか……すごく静まり返ってるね、本当に人っ子一人いない感じで、その」

錬金術士(いや、人間だけじゃなく……それ以外の気配も全くしない……うぅん)

女剣士「………………」


錬金術士「ねぇ、これってなんかマズいんじゃないかな?やっぱり引き返した方が…」


…………………キシッ

女剣士「!……しっ、静かに…」ザッ

錬金術士「なっ、なに急に……いったい何が」

女剣士「だから静かにして……静かに、できるだけ物音を立てないで……」ボソボソ


錬金術士「え?……ああ、うん」ムグッ

女剣士「…………………」

………シィィーーーーーーーン


女剣士「……いま確かに何か聞こえた、それに……どこかから見られてる気がする」


錬金術士「そう、なの?そんなのまるで感じなかったけど……」

女剣士「間違いない……何かが、いる」

錬金術士「何かって、まさか」


女剣士「気をつけて、敵の居場所が分からない以上」

ガラッ
錬金術士「ぅわっ」ズポッ

女剣士「どこから襲われるかわからないから……周囲に警戒を、って……聞いてる?ちょっ、と……」


シイィーーーーーーーン

女剣士「いない……なっ、なんで!?いつの間に」

……キシッ
キシシシシシッ

女剣士「!?」

ブォオンッ


女剣士「ぐっ、くぁあっ!?」ガキンッ


大グモ「キシッ!キシャァアアッ!!」グァバッ

女剣士「危なかった、何こいつ……でかい蜘蛛の、化物?」

大グモ「キシシシ、ギシャアッ!」


女剣士(周囲に他に目立った気配はない、とするならまさかコイツが……)

女剣士「例の魔物とやら……ってわけ?熊より大きい蜘蛛なんて、何の冗談なんだか…」


大グモ「キシャァアアアアッ!!」バッ

女剣士「っ!!」カチャッ

ガキンッ!

~高級酒場~

魔法使い「……マスター?今日のランチは何があるのかしら」

マスター「はい、今日は新鮮な良い海老が手に入りましたので、むきエビのソテーがメインとなっております」

魔法使い「それはとても美味しそうね、じゃあ今日はそれをいただこうかしら」

マスター「かしこまりましたお客様、ただちに用意させま」

…ダダダダダダダダダダッ

受付嬢「た、たたた大変!大変です!一大事ですっ!!」バーンッ

マスター「うおっ?!」ビクッ


受付嬢「ぜぇ、ぜぇ……はぁ、あぅあぅ……あの、あの…」ワタワタ

マスター「だ、大丈夫ですか?お客様、随分と慌てているご様子ですが……大丈夫ですか?」

受付嬢「い、いえ……大丈夫です…そ、それより……ここに、魔法使い様はいらっしゃいませんか?」


マスター「え?ええ……その方ならご来店中ですけれど、すみませんが店内では出来るだけお静かに」

受付嬢「あっ、す、すみません……お騒がせして、急いでてその…それで魔法使い様はどこに」


魔法使い「何かしら騒々しい……って、貴女は確かギルドの」


受付嬢「あっ!よ、よかった……まだこの町にいらしてたんですね魔法使い様!」

魔法使い「まぁね、流石の私もドラゴン退治は骨が折れたからしばらくはゆっくりしようと思って」

受付嬢「そう、だったんですか……ほっ」


魔法使い「まぁ世間話はこのくらいにしておきましょう、それで……ギルドの人間が私に何の用なのかしら?」


受付嬢「あ、そそうでした!……実はその、北西にある山間の渓谷のことでお話が」


魔法使い「渓谷って、ああ……あの噂の、私もいずれは調査しようと思ってたところだけど、もしかして何かあったの?」

受付嬢「それが、つい先刻……件の渓谷に向かわれてしまった方々がいまして、その…二名ほど」


魔法使い「渓谷に?向かってしまったって、あそこがいま危険だってこと知らなかったの?そいつらは」

受付嬢「いえ、私も注意したのですが聞き入れてもらえずそのまま……あぅ」

魔法使い「そう、なるほどね……」

受付嬢「どうか救援に向かっていただけませんか、魔法使い様」


受付嬢「このままではきっとあの方たちも他の行方不明者のようになってしまいます、ですから…」

魔法使い「………ふぅん」

受付嬢「……………」


魔法使い「はっきり言って、イヤよそんなのは……そんな奴らの尻拭いなんて私は御免ね」

受付嬢「そんなっ!こ、これは人命に関わることなのですよ!それなのに……そんなあっさり」

魔法使い「自分の身の丈に合わない危険を冒すような連中、どうせ遅かれ早かれどっかで死ぬのよ……わざわざ出向いて助ける価値なんてないわ」


受付嬢「で、でも…っ!」

魔法使い「くどいわね、私は今から昼食を食べるところなの……だからこれ以上ジャマしないで」

受付嬢「………~~っ」

魔法使い「……騒がせてしまったわねマスター、けどもう用は済んだから気にせず調理を続けてもらってちょうだい」

マスター「はぁ、ですが本当によろしいのですか?……ただならぬご用件のようでしたけど」

魔法使い「いいのよ、どうせ私には関係のない話だから」

マスター「そうでございますか、ではそのように」


受付嬢「……けど、ですけど」

魔法使い「……何よ、まだ何か言うことが」

受付嬢「そのうちの一人はこの前ギルドに訪れていた魔法使い様の知り合いで、そ、それでもいいんですか魔法使いさ」

ガタッ!

受付嬢「!?」ビクッ



魔法使い「貴女ねぇ!それを先に言いなさいよっ!!」ダンッ

受付嬢「ひぇっ?!ご、ごめんなさ…………へっ?あ、あの……魔法使い、様?」

魔法使い「ったく……何をやってるのよ、魔法の才能もないクセにチョロチョロといつまでも人の周りをうろつき回って!アレは本当に…」

魔法使い「身の程をわきまえてさっさとどこぞにでも嫁入りしてしまえばよかったのに……チッ、あぁもう!!」


受付嬢「あ、あのぅ……」オズオズ

魔法使い「……ごめんなさい、少し取り乱してしまったわね……私としたことが」

受付嬢「いえ、私は別に…」

魔法使い「………分かったわ、救援に行けと言うなら行ってあげる、特別にね」


受付嬢「!……そ、それでは」パァァ

魔法使い「ただし、行くのは私が食事を食べ終えてからよ……それで間に合わないようなら、アレもその程度の器だっただけのこと」


受付嬢「え?は、はぁ……アレ、ですか…」

魔法使い「……と、いうわけだからマスター、申し訳ないのだけど急いでもらえるかしら?どうも急用が出来たみたいだから」

マスター「かしこまりました、それでは厨房にもそのようにお伝えいたします………それとお客様」


魔法使い「……何かしら?」トントントントン

マスター「差し出がましいようですが、貧乏ゆすりはいささか行儀が悪いのではないかと…」

魔法使い「…………それもそうね」ピタッ

受付嬢「??」

……

~?~

ズザザザザザザザッ
錬金術士「あただだだだっ!?痛っ?!」ドテッ


錬金術士「……ん、うぐぅ……うぉぉ腰打った痛い、って……どこだここ、真っ暗で何も見えない」

錬金術士(えーっと……確か、さっきまで渓谷の道を歩いてたら……急に足元が崩れて下に落ちて)モゾモゾ


錬金術士「どこかの洞窟?……じゃない、壁が木材で補強されてる、坑道かな……ずいぶん前に打ち捨てられてるみたいだけど」


カサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサ

錬金術士「?……今なにかカサカサって這い回るような気配、が……あっ」


?「キキュッ、キュキュッ!」カサカサ

錬金術士「へっ?……ひっ!ひゃわっはあっ!」ゾワゾワッ


錬金術士(うっ、ううう腕からぁああ足元から何かが這い上がってくる!!……ま、まさか!)

子グモ達「「キキッ、キシャァアッ!」」カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサッ


錬金術士「こ、子グモの群れ!?まさかここはクモの巣窟なんじゃ?!」サーッ

子グモ達「「キシキシキシキシャァアッ!!」」カサカサガサッ

錬金術士「ひえっ!?」


ニ゛ャァァアアアアア~ッ

女剣士「?!……この声はまさか!……一体どこから」

大グモ「キシャァアッ!!」ガバッ

女剣士「しまっ!……ぐっ!?」ガキンッ


女剣士(くそ、少しでも油断すればこちらがやられる……探すのは後回しにするしか)


大グモ「……キシシシシシ」サササッササッ


女剣士「図体が大きい割に、機敏な動きを……っ!」スチャッ

女剣士(……けど勝てない相手じゃない、焦らずに相手の動きをよく見れば必ず)


大グモ「……キシャァアッ!!」バッ

女剣士「はぁぁああっ!!」タッ

……


錬金術士「このっ、寄んな来んな!このぉ!しっしっ!!」ブンブンッ

子グモ「「キシャァアッ!」」


錬金術士(む、向こうに光が……よ、よかった出口だ!)

タッタッタッタッタッタッ


錬金術士「はぁ、はぁ……くそっ、まさか運悪く落ちた先がクモ型魔物の巣窟なってたなんて!」

錬金術士「なんとか外に出られたからいいものの、危うくクモたちの餌になるところだった……ひぃい」


子グモ「キシャァアッ!」

錬金術士「っ、ふんっ!」

グシャッ

錬金術士「うぇ………さてと、それで……連れの姿は今どこに」


タタタタタッ
……ハァァアアアッ!

ドドドドドドッ
ギシャァアアアアッ


錬金術士「!……あっちか、坑道の中を走り回って変に距離が離れちゃったのか、ったくもう」タッタッタッ

錬金術士(無事だよね、多分……わたしよりずーっと強いんだし心配するだけ無駄か)


女剣士「たぁぁあああっ!」シュバッ

大グモ「ゥギャシャァアアアアッ!!」グォオッ

ザンッ!

大グモ「ギ、ギギギ……シ、ャ…」ドサッ


女剣士「~~っ!ぷはっ!……ぜぇ…ぜぇ……よし、なんとか倒した…っ」


錬金術士「おーい、おーい!」タッタッタッ

女剣士「!……あ、あれ……よかった、無事だった」


錬金術士「おぉいたいた、って……うおなんだそれキモ怖っ!あれが親グモかな?……さすが、もう倒してるし」


女剣士「おーい!」フリフリ

大グモ「………………」


大グモ「………………ッ…」ピクッ

錬金術士「……ん?」


女剣士「どこ行ってたの?心配してたんだけど、一応……こっちも」


大グモ「………ギ…」ユラァ

錬金術士「!?あっ、危ない!後ろ!!」

女剣士「えっ?……ぁ、なっ!?」


大グモ「……ギジャァアアッ!!」ガパァアッ

ズシュッ
女剣士「ぐっ!……っ、こいつまだ…息が」

大グモ「……ギジャァァ…ギギギ、ギ」

錬金術士「だ、大丈夫?け、ケガは…!」


女剣士「平気……ちょっと腕を掠っただけ、あいつの牙、が……?」

錬金術士「牙?……!」

……カランッ

女剣士「あ、あれ?……手に、力が……はいら、な……ぁ」


錬金術士「えっ、ち、ちょっと!……もしかして牙って」

女剣士「手が、手の先が痺れて………剣が、握れ、ない……」カタカタ

錬金術士「そんな、き、傷口を……!」


女剣士「あ、あぁ……か、は…」

大グモ「ギギ………」ジリッ


錬金術士(やっぱりこの傷、さっき掠ったときに牙の毒がはいったんだ、それで腕が麻痺して……)

女剣士「こん、な……『こんなのって……嘘』」


錬金術士「だ、大丈夫!あの類の蜘蛛は毒で相手を殺すような事はしないから、麻痺させた獲物を生きたまま内臓から溶かし食べる習性が……じゃなくて!」

錬金術士「たしか蜘蛛の毒に効く薬がまだ……あ、あった!はいこれ、これ飲めば治るから早く飲んで、はやく!」ゴソゴソ


女剣士『こ……これじゃあ、私……わた、し』ギュッ

錬金術士「!……ふぇ?」

女剣士『……イヤ……ここまで来たのに、剣が握れなくなったら私、わたしは…』フルフル

錬金術士「え、え……えぇ?」

女剣士「………っ…」ギュウ


錬金術士(これ、剣が握れなくなったくらいでこの狼狽えよう……こっちの声がまるきり聞こえてないのか)

錬金術士(こんな弱々しい姿……今まで見たことない、まるで小さな…子供みたいな)ソッ


大グモ「ギジャァアアッ!!」クワッ

錬金術士「!?」ビクッ


錬金術士「あ、わわわわしまったこんな悠長に構えてる場合じゃなかった、まだ相手は生きてるんだった!?」

大グモ「ギジジシシッ!」ジリリ

錬金術士「こっちに近づいてきて、マズいヤバいなんとかしないと……!」

錬金術士(逃げなきゃ!……ぁ、ああでも、今は…)

女剣士「っ……う、ぅ」ギュッ

錬金術士「これじゃ逃げることも………も、もうこうなったらやるしか、わたしが……」


大グモ「……ッ!!」ジッ


錬金術士(せめて少しだけでも時間を稼ぐことができれば……よ、よーし)

錬金術士「剣の腕や魔法の才能がなくても……わたしだって、わたしだって!」


大グモ「ギジャァアアアァァァ!!」グォオッ

錬金術士「ひっ!く、くぅ……このっ!!」ギッ


錬金術士(もとよりこのくらいの窮地、切り抜けられないでか!)

錬金術士「これならばっ!!」バッ

大グモ「ギィシャァアアアアアッ!!!」


……プシュッ

大グモ「ッ!……ギ?ギ、ピギィ?!」ザザザッ

錬金術士「……おっ、き…効いてる?効いてるのか?たったいまわたしが噴霧した香水の匂いで、怯んでる?」

プシュッ
プシュップシュッ


大グモ「ギジッ!?ピギッ、ピギィイイイッ!!」ズザザザザザッ

錬金術士「えいっえいっ!」プシュップシュッ

大グモ「ピギーーーーーーッ!!」ドタドタドタドタバター


錬金術士「は、はぁ……なんとか効果はあったみたい、図体がデカいから効くかどうか半信半疑だったけど…」

大グモ「ピギッ!ピギッ!ビギィイ!」ヒクヒク


錬金術士「でもまさかクモに香水が効くなんて、てっきり師匠の作り話だとばかり……」

錬金術士(どうりで巣の中でもクモの大群に囲まれたのに逃げ切れたわけだ、香水のおかげだったのか…)

女剣士「……くっ、ぅ………う」


錬金術士「って、そんなことよりこっちを早くなんとかしなきゃ、早くこの解毒薬を……飲んでってば、ほら!」グイグイ

女剣士「んぐ、ん……んむっ……ぅ」


錬金術士「ダメだ、ぜんぜん薬を飲んでくれそうにない……どれだけ剣に対して固執、いや依存か…」

錬金術士(多分、ここまで剣だけを拠り所にして生きてきたんだろうな……きっと)

女剣士「うぅ、うう………」


錬金術士「……仕方ない、こうなったら……ごめん、ーーーっ!」スッ



女剣士(……カラダが、重い……気だるい……力が入らない、何も感じない……)

女剣士(肩も……腕も上がらない……拳ひとつ、握ることさえ……かなわない)


女剣士(どうしたら、いい……どうすれば……)


錬金術士「……仕方ない、こうなったら……ごめん、ーーーっ!」スッ


女剣士「……………っ、ぇ?」

女剣士(……いま、誰かに呼ばれたような……気が、し)


錬金術士「うらぁあっ!!」ドゴッ!

女剣士「!?ごはぁああっ!!?」ブーーッ

錬金術士「今だ!腹にパンチいれその衝撃で開いた口へ即座に薬を流し込む!!」ダバーーッ

女剣士「むごっ!?ごぼぼぼっ!ごほっごほぉぇ!!」


錬金術士「よし飲んだ!!」

女剣士「ぶへっ!?ごほっ!な、なにこれ……ん、ぐ……苦い!何なのこれ急に!!」


錬金術士「何ってだから麻痺を治す薬だってば、って……本当に何も聞こえてなかったのか」

女剣士「麻痺?薬??……いったいなんのことを言って」

錬金術士「ほら、ここをこう」ポンポン

女剣士「えっ?……あ、あれ?」ピクッ


錬金術士「ほら、動くでしょ?さすがわたしの薬は効き目が早いっ♪……まぁ師匠の製法そのままなんだけどね」


女剣士「………………」グッパグッパ

女剣士(動く、手も……指先までしっかり感覚がある……そっか、そっか………)


女剣士「…………よかった」ボソ

錬金術士「さて、治ったんならさっさとここから逃げよう、香水の効果もそう長くはもたないだろうし」

大グモ「ビギィイッ!ギジャァアアッ!?」ヒクヒク

女剣士「………………」

錬金術士「効き目の強い薬だから副作用で少し体がだるいかもしれないけど……早く行かないと」


女剣士「………いや、逃げない……このままでいい、この場ですぐ決着をつける」

錬金術士「……えっ、ちょっとそんなの大丈夫な」


女剣士「私に……あんな思いをさせたあいつを、今度はきっちり一分の隙もなく絶対、確実に」ギラリッ

錬金術士「ひっ」ゾクッ


大グモ「ビギィイッ、ギ……ギシ?」

女剣士『………殺す』カチャッ

………
……



魔法使い「………………」

受付嬢「ま、魔法使い様……いったいこれって、何なのでしょうか」


大グモ「」


魔法使い「巨大なクモ型の魔物の死骸、かしらね……ダメージが酷くて判別が難しいけれど」

魔法使い(執拗に身体中を滅多斬りにされているわね、激しく発火させた跡もあるけどその割には魔力の残滓が感じられない……これって)

受付嬢「もしかして、この渓谷に潜んでいた魔物というのは……これのことなのでしょうか」


魔法使い「恐らくね、他に際立った気配も感じられないし……向こうにあった洞窟を根城にしていたみたい」

魔法使い「中にはこいつの子供と……その犠牲になったであろう人達の死体も転がっていたわ」

受付嬢「そんな……そ、それであのお方、じゃなくてお二人は、無事なんでしょうか」


魔法使い「……死体はどれも古くて白骨化したものばかりだったから、彼女達があそこで骸になってるってことはないはずよ」


魔法使い「それに向こうへ続く足跡もあったわ、まだ新しくて元気な足取りのものが二人分ね」

受付嬢「それって……ということは、お二人はこの魔物を倒して無事先に進めたってことなんですよね?」


魔法使い「まぁ、可能性とそれが妥当でしょうけど……けどまさかね」

魔法使い(そういえば、さっき洞窟を調べていたとき何だか甘い香りがしていた……懐かしいような、そんな香りが…)


受付嬢「魔法使い様、どうかなさったのですか?」

魔法使い「……別に、とにかく心配して損したというのは間違いなさそうね」


受付嬢「そうですか、よかった……なんだか心配事がいっぺんに解決してしまいました、渓谷のことも、あのお方も無事なようで……はぁ~」ヘナヘナ

受付嬢(ああでも、最後にもう一度だけお会いしたかったような気も……えへへ)


魔法使い「フンッ……こっちは飛んだ肩透かしよ、まったくまだ休暇中だったのに…」


魔法使い「残った巣の駆除と遺体の回収はギルドの方で手配してちょうだい、私はもう帰るから…」

受付嬢「へ?あ、あぁちょっと待って!ちょっと、置いてかないでくださいよ魔法使い様!」

……



女剣士「もういいってそんな大げさな、このくらいの傷はツバつけとけば治るから」

錬金術士「ダメダメ、そうやって油断した冒険者達が何人もひどい目にあってるんだから、傷の手当はちゃんとしないと」


錬金術士「消毒して、破傷風予防と……あとはい、化膿止めも一応飲んどいてね」

女剣士「薬ならさっき無理やり飲まされたけど、かなり強引なやり方で」

錬金術士「あれはただのマヒなおし、はいぐっと一思いに」

女剣士「んぐっ……ん、にがい」

錬金術士「よし、っと……これでなんとかひと段落ついたね、いやーお互い無事でなによりだよ」

女剣士「そうだね」


女剣士「でもさ、香水なんて便利な物があったなら最初からさっさと使ってくれればよかったのに」

錬金術士「だってこの香水お気に入りなんだよ?それに調合するも手間がかかるし材料だって高いしで…」

錬金術士「香りの調合はやっぱりその道のプロでないと簡単にはいかないんだよ…」

女剣士「ふぅん、そうなんだ」


錬金術士「あーあ、もうビンの中ほとんどからっぽになっちゃった……トホホ」

女剣士「それは、ごめん……次で埋め合わせするから、助けてもらった借りも一応あるし」

錬金術士「一応って……んー、まぁせいぜい期待しておくよ」フリフリ


錬金術士「それにしても、意外というかなんというか……よもやああいう一面があったなんて知らなかったなー、知らなかったなー」

女剣士「……なんのことだか」

錬金術士「またまたーとぼけちゃって、あんな縋るように抱きついてきたくせに……まるで捨てられた子犬みたいにさー」

女剣士「とぼけてないし、縋ってないし抱きついてもないから」プイッ


錬金術士「別にごまかさなくても、人間誰しも心のどっかに弱い部分は必ずあるんだからさ、仕方ないって」

女剣士「そんなことない……私は別に弱くなんか、弱くは…」

錬金術士「それにメソメソしてる姿も案外カワイイもんだったよ、歳相応に子供っぽくて」クスクス



女剣士「……………………」スタスタスタ

錬金術士「ってこら!無視して行くのはやめて!せめて構ってってば」

女剣士「いいかげんしつこい、それよりも早く先に進もう……あの蜘蛛のせいで酷く時間を浪費させられたんだからさ」

錬金術士「あぁちょっと、もう…」

女剣士「……………」スタスタスタ


錬金術士「はぁ……はいはいはい分かりましたよ、行きますよ行けばいいんでしょ行けば……しょうがないんだから」

女剣士「………ふふ」

とりあえず前回よりは進んだからよしとしよう
士か師は予測変換で上に来てただけなので

あと経営難とは別の人です、ああいう面白いのは書けません

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