エイ「まよっちゃった ぐすん」 (19)
ある日、1匹のエイの男の子が海を漂っていました。
エイ「きょうのひるごはんなににしようかな
そうだ かいにしよう
かい、おいしいもんね
かいいないかな
う~ん、いないなぁ…
もっととおくにいってみよう
う~ん、やっぱりいないなぁ…
もっともっととおくに…
あっ!いた!
ばりばり
うんおいしい!
あれ ここどこだろう
まよっちゃった
ぐすん」
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タコ「坊や、どうしたの?」
エイ「ぐすん、おねえさん…ぼく、まよっちゃったの」
タコ「あらあら。一体どこから来たのかしらねえ。坊やの住んでいた所は、どんな所?」
エイ「ええと、ううん…あれ、どうしてだろう、おもいだせない!」
タコ「自分の住んでいた所が思い出せないなんて、おかしいわねえ。からかってるのかしら。ぷんぷん。ぷううーーー」
エイ「うわっぷ、ごほごほ」
タコさんは、スミを吐いてどこかへ行ってしまいました。
エイ「ひどいよ、からかってないのに。ぐすん、ううう…
わあああん、わあああん…」
ウツボ「うるさいぞ、坊主!気持ちよく昼寝をしてたのに!」
エイ「ぐすん、ごめんなさい。でも、ぼくまいごなの」
ウツボ「なんだ、思ったよりずいぶんと小さな子供じゃないか。仕方ねえ、ここで見捨てちゃ男がすたる。俺が力を貸してやろう」
エイ「どんなところにすんでたか、おもいだせないの。ぼく、どうしちゃったんだろう」
ウツボ「坊主、本当に何も思い出せないか?ささいなことでもいいんだぜ」
エイ「ええと、ううん…なんだか、もっとあったかいところだったようなきがするよ」
ウツボ「ふうむ、暖かいところか。そんなら、南の方角かね」
エイ「みなみって、どっちだろう?」
ウツボ「何、それも分からんか。よく聞け坊主、あそこに太陽が見えるだろう?とすると、こっちが南だな」
エイ「おじさん、ありがとう!」
ウツボ「俺はまだお兄さんだ!いいか、太陽は少しずつ動いてるから気をつけるんだぞ」
ウツボさんは、見た目は怖いけれど、優しいお魚でした。
エイ「みなみ、みなみ…
どうしよう、およいでもおよいでもしらないところだよお」
フグ「ねーねー、いっしょにあそぼうよー!」
エイ「あわわ、ええと、ぼくはまいごだからいまはだめだよ」
フグ「まいごなのー?なーんだ、つまんなーい」
エイ「ひどいなあ。ぼくはほんとうにこまってるのに」
フグ「どんなところにすんでたのー?」
エイ「ええと、ううん…なんだか、もっとあかるいところだったようなきがするよ」
フグ「あかるいー?おかーさんが、あかるいところはあぶないってゆってたよー」
エイ「そうなの?ぼくは、あぶないところにすんでたのかな」
フグ「うみのうえはすごくあかるくて、そこにはニンゲンっていうのがいるんだって!」
エイ「ニンゲン…なんだか、きいたことあるような…」
フグ「ニンゲンはこわーいいきものだから、あかるいかいめんにはぜったいにちかづいちゃいけないんだよー!」
エイ「そうなんだ。ありがとう、きをつけておくよ」
フグ「あたし、そろそろかえるー!おかーさんがしんぱいするといけないから!あんたも、はやくかえれるといーね!」
フグの女の子は、ひれをフリフリして帰っていきました。
エイ「ばいばい…
おかあさんか。ぼくもおかあさんにあいたいなあ
…あれ、おかあさんってどんなかおだったっけ
ぼく、ほんとうにどうしちゃったんだろう
ええと、ううん…おかあさんは、かおがまるくて、ながいけがはえてて…
おかしいな。おかあさんもエイのはずなのに、まるでニンゲンみたいだ
あれ、ぼく、ニンゲンにあったことないのに、どうしてニンゲンみたいだっておもったんだろう
ウミガメ「坊や、何を悩んでいるのかね」
エイ「おじいさん。ぼく、おかあさんがニンゲンだったようなきがするの。おかしいよね、ぼくはエイなのに」
ウミガメ「ふうむ、それは、前世の記憶かもしれんのぉ」
エイ「ぜんせ?ってなんだろう?」
ウミガメ「生き物は、死ぬと別の生き物として生まれ変わるんじゃよ
何度もそれを繰り返す、これが輪廻転生じゃ
今の自分が誕生する前に生きていた時のことを、前世と言うんじゃよ
坊やの前世は、もしかするとニンゲンだったのかもしれんのぅ」
エイ「なんだかぜんぜんわかんないや。ぼくは、どうしたらいいんだろう」
ウミガメ「坊やには少し難しかったかね。そのうち、前世の記憶は薄れてくるじゃろう
そうすれば、エイとしての記憶が思い出せるはずじゃ
ま、気長に待つことじゃな。ふぉっふぉっふぉ」
ウミガメさんは、笑いながらふらふらとどこかへ泳いでいってしまいました。
エイ「くらくなってきちゃったなあ。おなかもすいてきたし、まだまいごだけどばんごはんにしよう
う~ん、なにかないかなぁ
あれ、なんだかうえのほうがひかってる
あっおいしそうなこざかなだ!
いただきまーす!
…いてっ!」
エイの口の中に、かえしのついたJ字型の頑丈な針が突き刺さりました。
釣り人「おっ!かかったな!」
エイの体はどんどん海面へと引き寄せられていきます。
エイ「いたい、いたいよ!たすけてえ!」
ざばーん!エイは、船の上へと釣り上げられてしまいました。
エイ(ううう、くるしいよ…
そういえば、フグのおんなのこがあかるいかいめんはあぶないっていってたっけ
どうしてもっときをつけなかったんだろう、ぼくのばか!)
釣り人「小さいけど、美味そうなエイだな。あいつも喜んでくれるだろう」
釣り人はエイを家に持って帰りました。
若い夫婦の家
釣り人「おーい!今帰ったぞー!」
奥さん「お帰りなさい、あなた。今日は何が釣れました?」
釣り人「見てくれ、エイだ!ちょっと癖があるが、煮付けにすると美味いんだぞ」
奥さん「まあ、エイなんて珍しいですね。早速捌いてしまいましょう」
エイはまな板の上に置かれました。
エイ(ぼく、たべられちゃうんだ。このニンゲンに…
あれ、なんだか、もしかして!
このひと、ぼくのおかあさんだ!
それに、あっちはおとうさん!
おかあさん、おとうさん、ぼくだよ!きづいて、おねがい!)
エイは尻尾を切り落とされ、粗塩でヌメリを落とされ、腹を切り開かれ、内臓を取り出され、皮を剥がされ、食べやすい大きさに切り分けられ、鍋で煮付けにされてしまいました。
釣り人「美味い!やっぱり、お前は料理上手だなあ!」
奥さん「あなたが、美味しいエイを釣ってきてくれたおかげですよ」
釣り人「本当に美味い!…あの子にも、食べさせてやりたかったな」
奥さん「あなた…
あの子の仏壇に、お供えしておきましょう。きっと、喜んでくれるはずですよ」
若い夫婦は、息子の仏壇に煮付けをお供えしました。
釣り人「さあ、後片付けをして風呂に入ったら、今日はもう寝よう」
奥さん「うふふ。もう沸かしてますよ」
釣り人「そうか!なんなら、一緒に入るか?」
奥さん「もう、あなたったら…」
その晩、若い夫婦は仲良くしました。
~10ヶ月後~
奥さん「ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!」
医者「もう少しです!頑張って!」
釣り人「がんばれ…!がむばで…!」
釣り人はすでに号泣している。
赤ん坊「……………おぎゃあ!」
医者「産まれましたよ!元気な、男の子です」
奥さん「私の、赤ちゃん…」
釣り人「よく頑張ったな…!ありがとう…ありがとう…!」
奥さんは赤ん坊を抱き、釣り人も赤ん坊の顔を覗きました。
奥さん「あなたに、似てますね…」
釣り人「お前に似てると思うぞ、俺は」
幸せそうな若い夫婦を見上げながら、赤ん坊は一際大きな産声を上げるのでした。
赤ん坊(おかあさん、おとうさん、ただいま!)
おわり
駄文、失礼致しました。転載自由です。
補足
エイは忘れていますが、エイの方の両親は既に亡くなっているのでご心配なく。
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