咲キャラでいろいろ発散する (90)
@濡れ煎餅
照さんに、濡れ煎餅を食べますか、と聞いたところ、「食べる」とのことだった。
手近にあった煎餅を口の中に放り込み濡れ煎餅を作ったら、何かを察した照さんに距離を取られた。
照さんの口に自作の濡れ煎餅を突っ込もうとする僕、右手を回転させて威嚇する照さん。
睨み合いを続けていると、ソファーに座って呆れながらこちらを見ていた菫さんが、ふわ、とあくびをしたので、まあこっちでもいいかと濡れ煎餅を菫さんの口の中にねじ込んだ。
今、僕はアーチェリーの的の裏に固定されている。
生きて帰りたい。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1442679355
@因果応報
染谷先輩、染谷先輩、セクハラしてもいいですか?
そう尋ねたところ、汚物を見るような顔になる染谷先輩。
「あんたがしたことを、そのままやり返されてもええっちゅうんなら好きにしたらええわ」
と言うので、望むところです、と、あれやこれや到底口にはできないことまでし尽くして、大満足の一日だった。
後日、染谷先輩に呼び出された僕は、「約束通り、されたことをやり返すわ」と染谷先輩の知人の男性のところに連れていかれた。
染谷先輩がやり返すのでは?
僕の疑問に染谷先輩は、「されて嬉しかったらセクハラじゃないじゃろ」とのこと。
その後、セクハラはとても悪いことなのだと、僕は全身全霊をもって思い知らされた。
@純真
菫さんってくっころが似合いますよね
そう言ったところ、当の菫さんはくっころを知らなかったらしく首を傾げていた。
淡さんもそう思うよね!
同じく首を傾げている淡さんに振ったところ、「ああ、うん、私も常々そう思ってたんだよねー。スミレにはくっころが似合うってさ」などと知ったかぶりを始めた。
そこから淡さんと二人で、くっころSSS!、「よっ、世界一くっころが似合う女!」、菫さんはくっころのために生まれてきたようなものですね!、などと褒めそやしていたところ、よく分からないながらも菫さんは悪い気はしなかったようで、「照れるな」などと言っていた。
帰り際に、「ところで、くっころってなんだ?」と菫さんに聞かれたので、ネットで調べればすぐ分かりますよ、とだけ教えた。
翌日、意味を調べてくっころが何かを理解したらしく、淡さんは会うなり顔を真っ赤にしていた。
そんな淡さんを、むっつり100年生め、などと言ってからかっていたところ、地獄の使者のような顔で部室に入ってきた菫さんにみぞおちを抉られた。
@ショッキング
岩手のとある村を散歩していたところ、とても背の大きな女の子に出会った。
姉帯豊音さんという名だそうで、時間もあったので雑談に興じることにした。
話が弾んだ僕は、今はなきお昼の番組の真似事などをしてみたところ、「ちょーうけるよー」などと言いつつも、暑いですね、「そーですね!」、岩手は残暑が厳しく今日は30℃近いですね、「そーですね!」などと豊音さんものりのりだった。
気づくともう帰ろうかと言う時間になったので、さてそろそろお友だちを紹介してください、と言って切り上げようとした。
すると今まで喜色満面だった豊音さんの表情が翳ったかと思うと、ぽろぽろと涙をこぼしながら、「……ぼっちだよー」とだけ呟いた。
誰か、僕を殺してくれ。
@深刻な悩み
溜め息をついていたら、菫さんが優しく声をかけてくれた。
「どうした? 悩みがあるなら私で良ければ聞くぞ?」
その申し出をありがたく受けることにした僕は、悩みを打ち明けた。
駅のロータリーが、ロリーターに見えてどうしようもないんです
話し終わって、菫さんはと見れば、僕を見下げて「本当に、どうしようもないやつだな」と言って去っていった。
少し興奮した。
@花輪
春も近いというのにまだ雪が残る頃、久しぶりに岩手のとある村にいったところ、豊音さんと再会した。
雑談に興じていると、例の真似事を請われた。
少し迷ったが断りきれぬと思い、要望に応えることにした。
今日のゲストは半年ぶり、二回目の登場、姉帯豊音さんです、どうぞー
豊音さんは「わーい」と嬉しそうで、僕も嬉しくなったが、やはり終わりは近づき、そろそろ帰らなければならない時間になった。
僕はどうしようかと迷ったが、豊音さんはにこにこと僕の言葉を待っていて、ままよと、お友だちを紹介してください、と言った。
すると満開の笑顔を咲かせた豊音さんは、順番に四人の名をあげていき、最後に「もう、ぼっちじゃないよー」と微笑んだ。
僕は泣いた。
@同好の士
一糸纏わぬ姿になって煌さんをからかっていたところ、哩さんに叱られた。
当然折檻が来るものと思い身構えていたが、一向になにもされない。
どうしたことかと思い、折檻しないのですか、と尋ねたところ、
「なしかそげんご褒美ばやらんといけんね?」
などと訝しげに言う。
その後ろでは姫子さんが、その通りと言わんばかりに頷いている。
誰か、このドM共をどうにかしてくれ。
@抑止力
塞さんが白望さんのダルがりに困っていたので、僕が何とかしましょう、と言うと不安そうながらも任せてくれた。
部活が始まると、白望さんがさっそく「……だるい」と呟いたので、これ見よがしに上着を脱ぐ。
しばらくするとまた「ダルい……」と呟いたので、シャツを脱ぐ。
状況を察した白望さんは心底面倒くさそうに「そういうことか……だるいな……」と言うので、ズボンを脱いだ。
頬を朱に染めながらもだるいと言い続ける白望さん。
脱ぎ続ける僕。
意地の張り合いは、僕が一糸纏わぬ姿になるまで続いた。
僕がついに脱ぐものがなくなったのを、耳まで真っ赤にしながらも横目でちらりと確認した白望さんは、勝ち誇り「……だるい」と勝利宣言をした。
いや、まだだ。まだ脱ぐものはある!
そう叫んだ僕が棒テン即リー全ツッパ状態になった僕のリーチ棒を掴んだ瞬間、部室に入ってきた熊倉先生に窓から雪降る世界へと放り出された。
僕は悪くない。
@登録件数0
携帯番号を教えてもらおうとしたところ、照さんも、尭深さんも、誠子さんも、淡さんも、口を揃えて「何か怖いから嫌」と断ってきた。
携帯を放り出し、さめざめ泣いていると、携帯を拾い上げた菫さんが、「私と番号を交換しよう?」と微笑みかけながら言ってきた。
泣き止んだ僕が、
いえ結構です。僕にも相手を選ぶ権利がありますから
と言ったところ、真顔になった菫さんに携帯を窓から投げ捨てられた。
ひどい。
久しぶりにメモを見たら、未投下やら作成途中やらがあったので、暇なときに手直しして投下していきます
酉もないのに毎回一発でばれる
お久しぶりです
前と同じように雑多に投下するスタイルで行くので、当たり外れもありますが暇潰しにどうぞ
@美麗美句
染谷先輩とのデートの帰り道、遠空のうっすらとした赤紫色も夜に染められていく頃、天には月がかかり、月光に照らされた染谷先輩は絶佳なるものであった。
きっとその美しさを目にできたことで満足するべきなのだろうが、愛らしい唇に口付けをしたくなった僕を誰も責められまい。
かの文人は、月がきれいですねを愛の言葉の和訳としたが、きっと今はもっと直接的な言葉の方が心に響くのだと思った僕は染谷先輩の肩を抱いて、
染谷先輩、染谷先輩、僕は染谷先輩と粘膜同士を擦り合わせたいです
と囁いたところ、染谷先輩は塵芥を見る目になった。
勘違いされたと思った僕は慌てて、
粘膜同士と言っても僕のリーチ棒と染谷先輩の点棒入れを擦り合わせたいとの意味ではなくて、つまりは唾液交換をしたいという意味です。ああ、もちろんいずれは僕のリーチ棒を染谷先輩の点棒入れに収めてもらえるとありがたいです
と染谷先輩の助平な勘違いを正そうとしたが、染谷先輩はなにも言わずに走り去ってしまった。
日本語って難しい。
@檸檬
呆とした不安と焦燥を感じることはままあることではあったが、今回のばかりはいけなかった。
何がいけないのだというのでもなく、ただぼんやりと為したことの意味などを考えてしまい、結果自分そのものが不要であるかのような、そんなものがのし掛かってくるのだ。
こうなるともう手がつけられず、部活になど行ってどうなるものでもないとの有り様ではあるが、今日は大切な話し合いがあるからできる限り出席を、との菫さんの言葉を思い出し、自分なんかが出てもと卑屈なものが浮かんでくるが、不承不承身支度を整え家を出ることとした。
頭を垂れて憂鬱な通学をしていると、行き掛けの青果店の店頭にレモンが並んでいるのが目に入った。
手に取り、本屋で檸檬爆弾が破裂する様を夢想すれば気が晴れるのだろうか、などと思ったが、そんなものでは到底この鬱屈したものは去りそうもない。
結果として、手に取ったのならば、といたずらに小遣いを減らすだけとなった。
部室について、誰と話すでもなくレモンを掌で転がす。
転がって落ちそうで落ちないこのレモンは、きっと僕の不安と焦燥なのだ。
このまま何にもならず、ただぐずぐずと腐って、汚ならしい染みを残すのだろう。
そんなどうしようもないことを考えていると、菫さんが部室に入ってきた。
しばらくするとこちらに近づいてきて、「そのレモンはどうしたんだ?」などと聞いてくる。
道すがら買ったのです
「食べるのか?」
いえ、特に、何するともなく買ったのです
「なら貸してみろ。蜂蜜漬けにしてきてやろう。元気が出るぞ」
その言葉に先程のどうしようもない考えが頭を過り、可笑しさが込み上げてきた。
この人は、僕の不安と焦燥をどうすると言った?
食べるのですか、このレモンを?
僕の問い掛けに、当たり前だろうと頷く菫さんに、堪らずとうとう吹き出して、大笑いとなってしまった。
きょとんとする菫さんを見て、きっと彼女の作る檸檬の蜂蜜漬けが、僕にとっての檸檬爆弾だったのだろうと、なお笑い転げた。
@西瓜割り
とある夏の日、海に行ったときのことである。
一通り海遊びを堪能し、では西瓜割りをしようかとの話になった。
僕は西瓜にはうるさいですよ
その言葉に菫さんはにやりとし、「知人にもらったのだが、中々の品だぞ」と言う。
どれどれ、鑑定してみましょうか
言うや否や菫さんの両胸を揉みしだき、
西瓜にしては小振りですが、美味しそうに実って食べ頃ですな
と言った結果、僕は首まで砂に埋められている。
菫さん、西瓜割りは棒で叩くもので、アーチェリーで射抜くものじゃありませんよ
>>19の大切な話し合いが、ここの「僕」を追放する件に関しての裁判めいた何かだと思った俺は正常ですか?
誰か過去スレを教えてくれるとありがたい
>>22
咲の登場人物であるところの染谷まこに関する千夜一夜物語
咲の登場人物であるところの染谷まこに関する千夜一夜物語 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1362583370/)
咲の登場人物であるところの染谷まこ及び他の人物達に関する一千一秒物語
咲の登場人物であるところの染谷まこ及び他の人物達に関する一千一秒物語 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366716070/)
咲の登場人物である染谷まこ及びその他の人物についての撰集抄
咲の登場人物である染谷まこ及びその他の人物についての撰集抄 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1389307559/)
あと何個かあったかもしれない
>>21
その発送により素晴らしいオチがつくので、完全にこっち側の人間です
ようこそ
>>22
同じ形式のは>>23ので全部のはず
あとは咲系だと
abc in 咲
染谷先輩が可愛すぎて辛い
フランケン「そろそろ混ぜるです!」久「……」まこ「……」竹井「……」
球磨川『僕は悪くない』まこ「いや、どう考えてもおんしのせいじゃろ」
くらいだった気がします
我ながらスレタイの染谷先輩率が素晴らしい
今回は染谷先輩控えめの予定なのに、気がつくと染谷先輩の話になっている不思議
@虎姫グループは別に有り
菫さんに投げ捨てられて壊れた携帯をスマホに買い替えたので、改めて菫さんと連絡先を交換しようとしたが、
「よくもぬけぬけとそんなことが言えたものだな」
とけんもほろろ。
仕方なしに照さんにお願いしてみたところ、「まあ、良いよ」とのこと。
宮永先輩が交換したならば、と他のメンバーとも連絡先を交換した。
メッセージアプリのグループなんかも作成して和気藹々とやっていたところ、
「あれ、菫とは連絡先を交換してないの?」
と聞かれたので、僕には教えたくないそうです、と返したら、照さんは困った様子。
どうもグループに入れると間接的に僕が菫さんの連絡先を知ることになるようで、「それじゃこのグループには誘えないね」となった。
翌日、スマホを片手にこちらをちらちら見ながら、時折、「まあどうしてもと言うのなら……」と呟く菫さんがいた。
仲間外れのようで寂しいのだろうか。
その様子があまりにも可愛いので、しばらく放っておこうと思う。
@プロ雀士の朝は早い
1/4
茨城県のとある住宅街。
ここにトッププロの一人、元世界ランキング2位の小鍛治健夜プロがいる。
現在ではランキング戦から身を引いてはいるが、それでもなお、プロの中でも最強の呼び声が高い。
我々はそんな彼女の強さの一端を知るべく、小鍛治プロの一日を追った。
05:00
――プロ雀士の朝は早い
健夜「zzz」
――……プロ雀士の朝は早い
健夜「zzz」
05:30
――プロ雀士の朝は早い
健夜「zzz」
――……
06:00
――プロ雀士の朝は……
健夜「zzz」
――日々、戦いで削られる心身を癒すためには睡眠はとても重要なものである。
――朝早く起きれば良いというものではなく、戦いに備え、何をすべきか。
――常にそれを考えてこそのプロなのである。
2/4
07:00
――小鍛治プロはまだ寝ている。
――我々が入手している情報では今日の仕事は午後からの解説のみである。
――身支度に要する時間を考えると、もう少し睡眠を取って鋭気を養うのではないだろうか。
「すこやー、起きなさーい。ご飯の準備できたわよー」
――そのとき、小鍛治プロを起こしに来た人物がいた。
――母親である。小鍛治プロは実家暮らしなのだ。
――皆さんもどうぞ、とのお誘いに我々もお相伴にあずかることにした。
――テーブルにはすでに朝食の準備ができていた。
――ご飯、味噌汁、焼き魚、サラダ……、健康を考えたバランスのよい食事である。
――しっかり朝御飯を取ることで一日の活力を得る。
――しかし、自分で準備するには時間がとられてしまう。
――そこで実家暮らしを選択することで、自分は遅くまで牌譜検討などの鍛練が可能となる。
――ここにも小鍛治プロの思慮深さを垣間見ることができた。
「あの子はそんなことまで考えていませんよ。起こしたって全然起きてこないんだから」
――と言いますと?
「昨日も麻雀の勉強なんかじゃなくて、アナウンサーのお友だちと遅くまで飲んでいたんですよ、まったく。今日も昼まで起きてこないんじゃないかしら」
――ええと、そうしますとこの朝御飯は?
「もし起きてきたときにって作ってるんですよ。大概はそのままお昼ご飯になりますけど」
――……えー、このような家族の献身的な協力が、小鍛治プロの強さに繋がっているのだ。
3/4
11:00
――そうしますと、小鍛治プロには異性の影はないと?
「そろそろそういう年齢なのに、まったくないのよねえ。いたとしてもあの調子じゃ結婚なんてとてもとても……。親としては孫なんて夢のまた夢だわ」
――小鍛治プロの母親に貴重な話を伺っていると、すでに時刻は11時であるが、小鍛治プロが起きてくる気配はない。
――その時、インターフォンが鳴らされた。
――通されてきたのは福与恒子アナウンサーだった。
「あれ、おはよーございます。そういえば今日はすこやん……、小鍛治プロの密着でしたっけ」
――ええ、そうです。
――福与アナは今日の午後のお仕事が一緒でしたね。
「そうなんですよー。小鍛治プロはまだ寝てますよね。昨日は3時過ぎまで飲んじゃって、たぶん起きてこれないだろうなと思って起こしに来たんですよ」
――3時……、それはお仕事に関する打ち合わせ、もしくは麻雀に関するプロとしての重要なお話だったりするのでしょうか?
「いや、そんなことないですよ。昨日は友達から結婚式の招待状が来たとかで、『私は結婚できないんじゃないんだから。まだしないだけなんだから』とか管を巻いてただけですね」
「あと3年もしたらそんな強がりも言えなくなるわよ」
――小鍛治プロの母親も加わり、言いたい放題である。
――これすらも、プロ雀士としてメンタルを鍛える修行に、……いや関係ないか。
4/4
12:30
――小鍛治プロの裏話を聞いていると、すでに時刻はお昼を回っていた。
「あ、やばい。おばさま、すこやん借りていきますね!」
――福与アナは叫ぶやいなや小鍛治プロの元に走っていく。
――これからお仕事の打ち合わせを?
「いや、もう時間もないんで、着替えだけしてもらってあとは控え室で寝癖とってもらうだけですね。一応資料は準備してあるんで、行きの車の中で読んでもらいます」
――着替えをするということで、我々は中へは入らず、部屋の外で待機する。
――10分ほどすると、ぼさぼさ頭の小鍛治プロが部屋から飛び出してきた。
「おかーさん、どうして起こしてくれなかったの!?」
「起こしたわよ。すこやが起きなかっただけでしょ」
「ではおばさま、行ってまいります」
――そのまま小鍛治プロは、慌ただしく福与アナとともに午後の仕事へと向かった。
――こうして我々は小鍛治プロの、えーと……、小鍛治プロの強さの一端を垣間見ることができた、……のだろうか?
おわり
1レスに収まらなかった
@厳しいひと
部活も終わり談笑していたときのことである。
洋榎さんが「もっとびしっと突っ込まんかい」と言うので、
どうやら僕のリーチ棒の出番のようですね
などと言いつつ一糸纏わぬ姿になろうとパンツまで脱いだところで、すごい剣幕で叱られた。
洋榎さん曰く、「安易に下ネタへ逃げるんは3流以下やで。素人の脱ぎ芸なんてもってのほかや」とのこと。
そのままお説教が始まった。
リーチ棒丸出しのままでお説教されているこの状況に興奮し、僕のリーチ棒が棒テン即リー全ツッパ状態になったところで、洋榎さんがそれに気づいた。
「自分丸出しやん!」
真っ赤になって両手で顔を覆う洋榎さん。
今更!?
と言ったところ、「お、今のはええな」と親指を立ててきた。
なんだこれ。
@最強の敵
校庭にて、一糸纏わぬ姿になって煌さんを追いかけていたところ、哩さんに叱られた。
今日こそは折檻されるものと思い、気をつけの姿勢で待っていたところ、哩さんはなにやら思案気な様子。
やがて隣の姫子さんをちらりと見て、「野外露出、か……」と呟いた。
姫子さんは、と見れば、頬を染め、どことなく嬉しそうにもじもじとしている。
割と本気で、誰か、このドM共をどうにかしてくれ。
@壺
ひょんなことから壺を何種類か手に入れた。
どうしたものかと思ったが、菫さんをからかうのに使えそうだと思い、下準備をすることにした。
まずは照さんに、蓋付の壺があるんですが、なかなかおしゃれなのでお菓子入れに使いませんか? と持ち掛けると、「くれるなら使う」とのことだった。
ただでと言うのもあれなので、100円でどうです? と聞いてみたところ、「100円なら」と商談が成立したので、みんなには値段は内緒ですよ、とお買い上げいただいた。
次に尭深さんに、良さそうな漬物壺を手に入れたんですが、僕は使わないので、どうです? と持ち掛けると、「おばあちゃんがちょうど欲しがってたの」とのことだった。
ただでと言うのもあれなので、100円でどうです? と聞いてみたところ、「100円なら」と商談が成立したので、みんなには値段は内緒ですよ、とお買い上げいただいた。
最後に淡さんに、100円で壺を買いませんか? と持ち掛けると、「いらない」とのことだった。
買わないならそれでいいですけど、みんなには値段は内緒ですよ、と素直に引き下がり、準備が整った。
1ヵ月後。
菫さんに、壺を1万円で買いませんか? と持ち掛けたところ、「馬鹿かお前は。買うわけないだろう」とのことだった。
照さんと尭深さんは買ってくれましたよ、と伝えると、鼻で笑って「嘘をつくな」と疑う様子。
それならばとみんなが集まっている部室に行き、壺の具合はどうです? と聞いてみたところ、「ばっちり」、「おばあちゃんも大喜びでした」とのことで、動揺する菫さん。
「待て。こいつの持ってくる壺をそんな値段で買ったのか!?」
と二人に問いかけたが、照さんと尭深さんは口を揃えて「そんな高い買い物じゃなかったよ」と言うばかり。
動揺を隠し切れない菫さんに、さっきと同じ値段のこれでどうです? と指を1本立てると、そのやり取りを見ていた淡さんが、「あ、みんな買ってるなら私も買う」と口を挟んできた。
残念ながら壺は残り1個なんですよ、と言ったところ、「じゃあこれでどう?」と指を二本立ててくる。
本当に良い物なので菫さんに買って欲しいんですよね、と言いながら菫さんを見ると、菫さんは大いに悩みながら指を三本立ててきた。
五本くらいまでは引っ張れそうだけど、まあ良いか。
わかりました、菫さんにお売りします
と言ったところ、ほっとした様子の菫さんに、「えー、これくらいまでなら出すつもりだったのに」と両手の指を全部立てて不満げな淡さん。
菫さんに、大事にしてくださいね、と壺を渡すと、「そのつもりだ」とにっこり笑って受け取ってくれた。
ではお金は明日でとなり、くつろいでいると誠子さんに「おい、さっきの……」と声をかけられた。
今日の部活後にネタばらししますよ、と伝えると、「それなら良いけど」と引いてくれた。
部活後、重いですから僕が持ちますよ、と適当に理由をつけ寮の部屋までご一緒することにした。
部屋の前についたところで、一連の流れを説明し、
菫さんが将来、宗教や結婚詐欺師に騙されないか、本気で心配です
と伝えたところ、怒りのあまり無表情となった菫さんに壺で頭を叩き割られた。
後日、伝え聞くところによると、壺は菫さんの部屋に飾ってあるそうだ。
@拾ってください
学校からの帰り道、道路脇に大きなダンボールがあった。
なんだろうと見てみると、中には菫と『拾ってください』と書かれた紙が入っていた。
捨て菫だ。
うちにおいでよ、と拾って帰ったところ、玄関先でお母さんに「自分で面倒みれないんだから、元の場所に返してきなさい」と言われた。
ちゃんと面倒みるから! こんなに可愛いくて、シャープシュートだってできるんだよ! 返すなんてやだよ!
僕がそう反論しても、「シャープシュートはきちんと躾けなきゃできないのよ。あなたにそれができるの?」と渋面を崩さない。
そんなことない。菫はできるよ! シャープシュートできるよ!
言いながら菫にシャープシュートをさせようとしたが、菫は首を傾げているばかりだった。
菫、シャープシュートだよ! できなきゃ捨てられちゃうんだよ!?
泣きながら促しても菫はわからない様子。
そうこうしているうちにお母さんは溜め息をつきながら家の中に戻ってしまった。
家にも入れず、かと言って菫を返しにも行けず泣いていると、お父さんが家の中から顔を覗かせた。
お父さんは「お母さんは、お前に命に無責任になってほしくないだけなんだよ」と言い、僕が頷くと、「一ヶ月だけ時間をもらったよ。その間にちゃんと面倒をみて、シャープシュートを教え込めたら、お母さんも反対しないってさ」と微笑んだ。
それから、僕は必死に面倒をみて、シャープシュートを教え込んだ。
一ヶ月後、菫はシャープシュートを会得し、お母さんは「もう反対しないわ」と微笑み、二条泉はシャープシュートされた。
@品評会
――この道18年の彼は語る。
最近は養殖の菫ばかりが増えてね。でも天然じゃなきゃこの輝きは出ないんだよ。
――彼が示した黒髪は確かに艷やかで、清流を思わせる輝きを纏っていた。
山でこいつを見た時は身が震えたね。磨けば磨くほどに美しくなるだろう、と。まさに珠玉だよ。
――今年の品評会にかける彼の思いは、一際だ。
養殖物に、やれトリートメントだ、コンディショナーだっていう最近の風潮は好きになれなくてね。
櫛で髪の毛の一本一本を梳くように、ちゃんと手をかけてやらなきゃ駄目なんだよ。
何かあったら、「ケアすれば大丈夫ですから」。そんな甘いものじゃないんだよ!
――彼の語りは熱を帯びる。
大事なのは見かけじゃない。芯からの美しさだ。それがあって、初めてシャープシュートの鋭さも増すってものなんだ。
これ以上は何も言わないよ。明日の結果が、全てを語ってくれるだろう。
――翌日行われた品評会では、彼の菫が満場一致で最優秀に選ばれ、そのシャープシュートの鋭さには称賛の声のみがあがり、二条泉はシャープシュートされた。
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 ̄ \ ‘, `¨¨
\ ゚。、
㌧ノ }
ヽ./
@飄然
普段の彼女は明るく、飄々としていて掴みどころがない。
だからだろうか、憂えた色の今の彼女なら、僕でも掴まえられるのではと思ってしまったのは。
隣に座る彼女の肩を掴み、倒す。
柔らかなソファは音すらたてず、ただ静かに彼女を包んだ。
二度三度、目をしばたたかせた彼女に覆いかぶさる姿勢で、彼女の腹のあたりを撫でる。
和装で固められた彼女は、それでもその身の柔らかさを誇っていた。
彼女は僕の撫でる様子を眺めていたが、やがて「ふうん」とだけ呟いて、にっと笑い、いつもの彼女に戻った。
瞬間、ざあっと血の気が引いていくのがわかった。
彼女から飛び退き、頭を抱えて蹲る。
あとはもう、ひたすらに、ごめんなさい、と繰り返す他なかった。
彼女の顔を見ることができない。
繰り返される僕の謝罪を静かに聞いていた彼女は、やがて口を開いた。
「お腹空いたんだけどさ、今日は洋食の気分なんだよねー。作ってくんない? 洋食ならあんたの方が作るの上手いでしょ。知らんけど」
その言葉に顔を上げると、すっかりいつもの彼女は「ほれほれ」と閉じた扇子でキッチンを指し示す。
わかりましたと立ち上がり、キッチンへと向かうと、その背に声が投げられた。
「うぶなねんねじゃあるまいしさー。何されようとしたかはわかってんだよねー」
足が止まった。
「その上で、さっきみたいに言ったんだけど、理解してんだよね? わかんねーけど」
振り返ると、そこにいつもの彼女はいなかった。
「つまりさ、そーじゃねーだろってことなのよ」
鋭い視線で、薄っすらと笑みを浮かべて僕を見ている。
「知らんけど、さ」
その視線に貫かれながら、きっと今なら彼女を掴まえられるのだと、そんな確信が僕の中に満ちていった。
>>55
この高1最強さん可愛いすぎる
@晴空
朝、目を覚ますと何か違和感があった。寝ぼけたまま枕元の時計に目をやって、違和感の正体に気づく。カーテン越しにもわかるほど外が明るいのだ。
心の中で小さく毒づきながら布団を跳ね除け、立ち上がろうとした瞬間、世界が揺れた。なんとも足元が覚束ない。額に手をやると、明らかに熱をもっていた。ふらつきながらカーテンを開けると、そこには抜けるような青の秋空があった。
陽射しが入らず、常に暗さの纏うこの部屋からその空を見ていると、まるで自分だけが世界に取り残されたかのような錯覚に陥った。風邪のせいだと寂寥感を振り捨てて、物音がする台所へと向かう。
物音の主は小鍛治さんだった。おはようございますと声をかけると、忙しそうながらも、おはようと返してくれた。
立っているのが辛いため手近な椅子に腰を下ろすと、健夜さんは心配そうに眉根を寄せた。僕の発熱には気づいているようで、そのために起こすことをしなかったのだろう。
部屋で寝てて、と言われどうしようか迷ったが、今の自分に家事ができるでもなく、小鍛治さんに移してしまうことを危ぶめば、それ以外には僕ができることはなにもなさそうだった。
恒子ちゃんが早く帰ってきてくれる予定だから車で病院にいこう、とのことなので、じゃあ薬は飲まずに寝てますねとだけ返し、部屋へと戻った。
敷きっぱなしだった布団に転がり、窓越しに空を見上げる。僅かに白い雲があるだけの澄んだ青空はなお高くなり、どこまでも僕の孤独感を深めていくかのようだった。どこかで鳥の鳴く声を聞きながら、鬱々とした気分を潰すようにきつく目を瞑る。
ぴぃひょろろと暢気そうな鳥の声に苛立ちを覚えつつも、小鍛治さんは朝御飯をちゃんと食べたんだろうか、今熱は何度くらいあるのだろう、そういえばもうすぐお昼じゃないか、恒子さんは早引きできるのかな、せめてお昼は作らないと、などと頭の中が混乱を極め、とりあえず軽くなにかを作ろう、と目を開くと、いつのまにか枕元に小鍛治さんが座っていた。どうやらいつのまにか眠ってしまっていたらしい。
食べれそうなら少しでも食べて、と言われ、見ると小鍛治さんの脇には小さな丸盆が置かれており、そこに僕のご飯茶碗が乗せられていた。
身を起こし、では少しだけ、と茶碗を受け取って程よく温いお粥を口に入れる。舌が馬鹿になっていてまるきり味はしなかったが、美味しいです、と呟くと、心配そうにこちらを見ていた小鍛治さんはほっとした様子だった。
食べ終わり再び横になると、何かしてほしいことはあるかと聞かれた。
空の青が目に入り、寂寥感に圧されるように手を伸ばしかけたが、慌てて引っ込めて、特にないですとだけ告げる。
小鍛治さんは何か考えている様子だったが、何も言わずに丸盆を手に取り部屋を出ていった。
遠ざかるその後ろ姿を見送って、そのままぼうとしていると、丸盆を手に小鍛治さんが戻ってくるのが見えた。
喉が乾いたら飲んでね、とデキャンタに入れた水とコップが枕元に置かれた。ありがとうございますと言いかけて、はいこれ、と遮られる。手渡されたのは白いマスクだった。受け取ってもぞもぞと着けていると、同じように小鍛治さんもマスクを着けていた。
これで移らないよ、と小鍛治さんは、先ほど引っ込めた僕の手をとった。
今日はお姉さんが看ていてあげよう、と言った小鍛治さんに、いつも出てくる軽口の代わりに、素直な言葉を伝える。
軽口に備えていた小鍛治さんは一瞬きょとりとしたが、ややあってから微笑むと、特別に子守唄も歌ってあげる、と小さな声音でメロディを口遊んでいく。
あまり上手いとは言い難かったが、またいつか歌ってもらえる日を思って、それは胸の中に秘めておくことにした。
とんとんと僕の胸をあやすように叩く小鍛治さん越しに窓の外を見ると、雲の白すらなく透明な青一色となった秋空が僕と小鍛治さんを見守っているように思えて、一度だけ強く手を握って、僕は眠りに落ちた。
@襲い来る痴女
道を歩いていると迷子らしき子供と出会った。
話しかけてみると、どうも知人とはぐれたらしい。
自分は子供だと言うその子を連れて、とりあえず交番を目指していると、向かいの方から誰かがこちらに来るのが見えた。
見ると、大事なところだけをなんとか覆える程度の布を身につけた女の子だった。
手には長い鎖の手錠までついている。
痴女だ!
思わず声に出てしまったのを聞きつけて、痴女がこちらを睨んでくる。
すると痴女は僕の傍らの子供を見て、「子供!」と叫ぶやいなや、猛然と突進してきた。
どう見てもあの痴女の狙いはこの子だと判断した僕は、ちょっとごめんね、と断ってその子を抱えて、痴女から遠ざかろうと逃げ出した。
痴女はどこまでも追いかけてくる。
「子供を返せ!」
「子供を渡せ!」
叫びながら迫ってくる痴女に戦慄し、必死に逃げ続け、ようやく交番に逃げ込むことができた。
どこかの収容施設から逃げ出したであろう手錠をつけた痴女でレズでロリコンの変態がこの子を狙ってるんです! と子供の保護を警官に頼みこんでいると、痴女が交番に駆け込んできた。
すわ痴女の討ち入りか! と身構えたが、よくよく聞いてみると、どうもこの子の言う知人とやらがこの痴女のことのようだった。
誤解もとけ、その子にばいばいと手を振っていると、痴女が近づいてきた。
何用かと問うと、収まりがつかないという様相の痴女に、「誰が痴女だ!」と殴られた。
僕は悪くない。
@そこにいる
1/2
喫茶店にて、手紙を読み返しながら待ち人に備える。久しぶりにまとまった報酬を受け取れそうな仕事だが、その依頼内容は中々奇妙なものだった。知人の蒲原智美伝いの仕事で、前金も入っているし、担がれているわけでもなさそうだった。
手紙を胸ポケットにしまい、二人がけのテーブルで少しだけアイスコーヒーが残っているグラスを倒さないように、窮屈に耐えながら足を組みかえていると、すらりとした女性が入店してきて、きょろきょろと店内を見渡しているのが目に入った。目印の黒い帽子を掲げてみると、それに気づいた女性はひとつ頷いて、店員に何か話しかけてからこちらに向かってきた。
「はじめまして」
見た目に違わず凛とした声に思わず苦笑していると、メニューを片手に店員がやってきた。
「アイスコーヒーで良いかな?」
僕の問いかけに頷くのを見て店員にアイスコーヒーを二つ頼み、ついでに奥の四人がけのテーブルに移りたい旨を伝えると、「どうぞ」とのことだった。
飲みかけのグラスを片手にテーブルを移ってから、改めて「はじめまして」と挨拶を返して、それを合図に互いに自己紹介をした。女性の名は、加治木ゆみと言った。
「早速ですが、頼みたい仕事があります」
店員が運んできたグラスに一瞥だけを送って加治木さんはそう切り出した。ちらりと手紙が入っている胸ポケットに視線を送る。依頼内容についてはおおよそは把握していた。
「行方不明の、ご友人を探してほしいとのことでしたね。ええと、その……」
言い淀む僕を真っ直ぐに見て、加治木さんは僕の言葉を継いだ。
「そうです。探してほしいのは、透明人間の友人です」
事の発端は、こうだった。
加治木ゆみと、透明人間こと東横桃子は友人というよりも、それなりに深い仲であったらしい。
仲睦まじく過ごしていたそうなのだが、ほんの些細な仲違いの間隙に、加治木ゆみの友人である某が縫って入り、まあ要するに加治木ゆみが間違いを犯したのだ。
一夜のみならず、二度三度と繰り返されたそれは、しまいには東横桃子の知るところになった。
それ以来、東横桃子は加治木ゆみの前から姿を消したそうだ。
慚愧に堪えぬ様子でそれを語った加治木さんに「彼女に会って、どうするつもりなのですか?」と尋ねると、ぐっと拳を握って「謝りたいんだ」と呟いた。
「悪いのは私だ。むしのいいことを言っているのはわかっている。だが、それでも会って謝りたいんだ。それで決定的に別れることになったとしても、最後に一目見て、謝りたいんだ」
すがるような視線をかわすように、加治木さんの隣に視線をやってから、残っていたアイスコーヒーを飲み干す。
「こう言ってはなんですが、職業柄、よく聞く類いの話なんですよ。まあその経験から言わせてもらえば、おそらくは――」
「それでも、構わない。お願いします」
加治木さんは、僕の言葉を遮って頭を深々と下げた。どうしたものかと考えていると、店員がアイスコーヒーを運んできた。加治木さんの前と僕の前に置かれたアイスコーヒーを交互に眺めながら、ため息をついて、わかりましたと頷いた。
加治木さんはぱぁと顔を輝かせ、よろしくお願いします、と再び頭を深々と下げた。その様に、なんとも居た堪れなくなり、ごまかすように口を開く。
「店員さん、置き場所を間違えてますね」
僕の前に置かれたグラスを加治木さんの横に滑らせると、加治木さんは目を瞬かせたあと、驚愕の表情を浮かべた。
「どうして、グラスを私の横に?」
「どうしてって、僕は一杯で十分ですよ。それはお二人用に頼んだものです。それともお連れの方はコーヒーが飲めなかったのですか?」
「私の、連れ……。それは黒髪の?」
小さな声を震わせる加治木さんに、ええそうです、と答え、加治木さんの横に視線を滑らせる。そこには誰もいない。
「あれ? お連れの方、どちらに行かれました?」
加治木さんは俯いて、そうか、そうだったんだな、と何事か呟いている。
「モモ、お前はずっとそこにいてくれたんだな。今も、いてくれているんだな。……それならば私はお前が現れても良いと思えるその時まで、待とう。ただお前を想って待ち続けよう」
やがて立ち上がった加治木さんは「報酬はお支払いしますが、依頼はキャンセルします」と言った。
何もしていないから受け取るわけにはいかない、と固辞する僕に、加治木さんはそれでもと食い下がってくる。それならとここの支払いをお願いすると、渋々ながらも納得してくれた。
伝票の上に一番大きな紙幣を置いた加治木さんは、「それでは失礼します」と去っていった。喫茶店から出ていくのを見届け、一息つく。
これで依頼は完了だ。
2/2
胸ポケットから手紙を取り出す。蒲原智美に僕のことを聞いた旨の書き出しから始まるその手紙は、東横桃子からのものだった。分厚い札束とともに届いたその手紙の依頼内容は、奇妙なものだった。
いずれ加治木ゆみなる人物が訪ねて来たなら、彼女の隣に誰かがいるような振りをしてくれ、と、それだけだった。
手紙には、東横桃子の加治木ゆみへの愛憎が綴られていた。この依頼は、加治木ゆみが東横桃子だけを見てくれるように、とのおまじないなのだ、と。
窓の外を見ると、加治木さんの後ろ姿が見えた。彼女はきっと、いつか現れることだけを祈って、いもしない東横桃子とともに、東横桃子だけを想いながら、日々を過ごすのだろう。
彼女の自業自得とはいえ、あまりに残酷な――。
「ああ、そうか」、思い当たって呟く。
おまじないと源を同じにする言葉。
「呪い、か」
からりと氷が鳴った。見ると、空席に置かれた飲みかけのアイスコーヒーが揺れている。
黒い水面に、なお暗い女性の微笑みが見えた気がした。
@羞恥
和解した痴女、もとい一さんと海に行く機会に恵まれた。
普段があの格好ならば、と戦々恐々としていると、「おまたせ」と現れた一さんは可愛らしくもごく一般的な水着姿であった、手錠以外は。
驚いている僕の様子に「どうしたの?」と問うてくる一さん。
いえ、もっと紐とか布切れみたいな格好でくるかと思ってました
それを聞いた一さんは顔を歪ませて、「やだよ、そんなの。この格好でも十分恥ずかしいのに」とのこと。
恥ずかしいってなんだっけ。
@冤罪
部活も終わり、尭深さんと話していると、淡さんがこっそり近づいてきた。
いたずらっぽい笑みを浮かべた淡さんは、尭深さんのお尻をさわさわと撫でて、またこっそりと逃げていった。
羨ましいと心底思っていると、尭深さんが静かに泣いているのに気づいた。
ぎょっとしていると、「どうした?」と菫さんが声をかけてきた。
僕が、淡さんが――、と口に出す前に、尭深さんは震える声で、「お尻を……触られました……」と泣き崩れた。
まずいと思ったのか、犯人の淡さんと、目撃者の誠子さんが慌ててこちらに駆け寄ろうとしてくれたが、それよりも早く「お前というやつは……!」と般若の如き形相となった菫さんに、誰もいない準備室へと引っ張られていった。
「今度という今度は許さんからな」、誤解です冤罪です、「誤解も冤罪もあるか!」、違うんですって、「いいや、違わない」、じゃあ違ってたらどうするんです、「本当に冤罪なら私の尻でも胸でも好きなだけ触らせてやる。だがそうでなかったら相応の処罰は覚悟しておけよ」、などとやり取りをしていると、ドアが開いて尭深さんが顔を出した。
「もう大丈夫なのか?」と心配する菫さんに、尭深さんはいつもの調子で、「触ったの、かれじゃなかったみたい」と告げた。
続けて尭深さんの影から淡さんが顔を出し「ごめん、触ったの私。てへっ」と舌を覗かせた。
呆然とする菫さんに「じゃ、そういうことで」と、淡さんは尭深さんを引っ張っていった。
閉まるドアと残された僕と菫さん。
動かない菫さんに、冤罪だったらどうするんでしたっけ? と声をかけると、びくりと体を震わせた。
顔だけをどんどん紅潮させていくだけで、何も動かなかった菫さんだったが、とうとう「約束通り、好きに触ったら良いだろう!」と叫んだ。
僕が菫さんに一歩近づくと、頬をなお朱に染める。
そんな菫さんを見ながら、
尭深さんのお尻を触れるならともかく、どうして冤罪をかけられた挙句、そんな罰ゲームを受けなきゃいけないんです?
と言ったところ、強烈なビンタをくらった。
メモ書きが簡潔すぎて一人で三題噺をしている気分になってきた
というわけでいったん終わり
言うなれば、行き過ぎた小学生男子の心境ですかね
@プロポーズ
健夜さんに、
僕のリーチ棒を健夜さんの点棒入れに出し入れするのを前提に、結婚してください
と言ったらぶん殴られた。
@そうじゃない
恒子さんに指導を受けて、言い方が不味かったと反省した僕は、改めて健夜さんに、
結婚を前提に、僕のリーチ棒を健夜さんの点棒入れに出し入れさせてください
と言ったらやっぱりぶん殴られた。
@ピクニック
穏乃さんと雑談に興じていたら、天気も良いしピクニックに行こうなどとなった。
健脚と噂の穏乃さんについていけるか不安がる僕に、「ピクニックにそんな大袈裟な」と笑う穏乃さん。
結局、では明日行きましょうか、となった。
今、僕は富士山の八合目にいる。
誰か、助けて。
@猫
部室に行くと淡さんが櫛で髪を梳かしていた。
風でぼさぼさになってしまったらしい。
じっと見ていると、「やらせてあげてもいーよ」と櫛をこちらに突き出してきた。
猫じゃあるまいし、毛繕いに興味はないよ
と言って拒否すると、「もう絶対にやらせてあげないんだから!」と憤慨の様子で、その後の部活では3回ほど箱にされた。
部活も終わり牌磨きなどをしていると、静かな寝息に気づけば僕と菫さんしか残っていなかった。
菫さんはお疲れのようで、ソファにもたれ掛かって寝ているようだ。
放って帰るのも意地が悪いと思い、起こそうと近づいたところ窓から入り込んだ夕風が菫さんの長い黒髪をさらりと揺らした。
何気なく髪の一房を手に取り、するりと流す。
滑らかな手触りが心地好い。
一房、また一房と手櫛で梳っていくとさらさらと流れるその清廉さに心が奪われていく。
夢中になって、気づくと菫さんがうっすらと目を開けて僕を見ていた。
慌てて身を離すと、菫さんは微笑んで、「毛繕いに興味はないんじゃなかったのか?」などど言う。
真っ赤になった顔を悟られぬよう、そっぽを向いて、にゃあ、と言ってやると、菫さんはくすくすと笑いながら僕の頭を一つ撫でて、「戸締まりはよろしく。また明日な」と帰っていった。
残された僕は、菫さんが撫でてくれたところに手をやって、遠くなる菫さんの背に、にゃあ、と呟いた。
@釣り
誠子さんと釣りに行くことになった。
当日、手ぶらで現れた僕に「あれ、釣竿は?」と不思議そうな誠子さん。
竿ならここに自前のがありますよ
言いながら、リーチ棒を取り出したところ、誠子さんは顔色一つ変えず、「釣糸は貸してやるよ」と言う。
大好きな釣りを侮辱されたことで怒り心頭に発した誠子さんは、
いや、冗談ですよ
との僕の言葉など聞き入れず、「釣れよ、それで」と冷たく言い放った。
重症を負ったリーチ棒、薄れゆく意識。
誠子さんだけは二度と怒らすまい、と心に誓った。
@敬老の日
部活のみんなは妖怪や伝承をモチーフとした能力を持っているらしい。
仲間外れが嫌だった僕はついうっかり、僕もそうなんです、などと言ってしまった。
途端、豊音さんが「えー、そうだったの!?」と食いついてきて他の人も興味津々といった様子だった。
引っ込みがつかなくなった僕は覚悟を決めて、
ええ、実は尻目と言いまして
とズボンに手をかけた瞬間、熊倉先生に股間を蹴りあげられた。
お元気そうで、なによりです。
以上です
またメモがたまったらスレたてます
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