神官「転職を希望か?」女武道家「あたし、僧侶になりたいっす!」 (100)

神殿

神官「僧侶?」

武道家「うっす。僧侶っす」

副官「これが彼女の経歴です」

神官「うーん……」ペラッ

武道家「気合と根性と体力だけは誰にも負けないっす!! オスっ!!」

神官「その心意気はいいんだが、僧侶や魔法使いは知識のほうが重要になってくるからのぉ。おぬし、ちゃんと勉強してきたか」

武道家「おすっ!!」

副官「見るからに僧侶には向いていないと思うのですが」

神官「そうじゃなぁ……」

武道家「どうしても僧侶になりたいっす!! お願いします!!」

神官「おぬしはまだ若い。どんなことにも挑戦するのはいいことだ。やってみなさい。辛く苦しい道のりになるだろうが」

武道家「あたし、絶対に弱音とか吐かないっす!! がんばるっす!!」

神官「そうか。では、しっかりと修行を積みなさい。おぬしが立派な僧侶になれることを願っておるぞ」

武道家「あざっす!! おーし!! がんばるぞー!!」

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副官「こちらに」

武道家「これから、どうするっすか?」

副官「ここは新たな道を拓くために用意された神殿だ。どのような道でも歩いていけるように、指導者が複数人いる」

武道家「おぉー」

副官「これより、お前を指導する者はこの部屋の向こうにいる。しっかりと研鑽を積むように」

武道家「おっす!!」

副官「それから、修行期間は最長で三か月だ。三か月以内に僧侶としての芽が出なければ、諦めてここを出てもらう」

武道家「マジっす!?」

副官「転職を希望するものはお前だけではないのでな」

武道家「うぅ……それはきいてなかったっすぅ……」

副官「やめてもいいんだぞ」

武道家「……いや、絶対に逃げないっす!! 中途半端な覚悟でここへきたわけじゃねえっすから!!」

副官「よろしい。では、入れ」

武道家「たのもー!!!」ガチャ

副官(駄目だろうな……)

僧侶「はい。初めまして。私はここで僧侶になる者を導いています」

武道家「おっす。よろしくおねがいします」

僧侶「では、早速ですが、こちらの服に着替えてください。神に仕える者にはそれなりの礼装がありますので」

武道家「りょうかいっす!!」 ヌギヌギ

僧侶「……」バシーンッ

武道家「いて!? な、なんすか、その妙に硬い棒は……」

僧侶「神に仕える者が人前で肌を晒していいと思っているのですか」

武道家「だ、ダメなんすか? 先生さんは女ですし、別に恥ずかしくないっすけど」

僧侶「そういう問題ではありません。我々の純潔は神にささげる。そうしなければ神聖な術を使いこなすことはできません」

武道家「よくわかんねえっすけど、つまりは女の子らしくしろってことっすね」

僧侶「平たくいえばそうですね」

武道家「わかったっす!! それじゃあ、部屋の隅できがえるっすね!!」

僧侶「更衣室を使いなさい!!」

武道家「おぉ……。そんなものが。いってくるっす!」

僧侶(中々面白い人が来ましたね)

武道家「着替えたっす。でも、これ、足がスースーして落ち着かないっす」

僧侶「すぐに慣れます。それでは早速、始めましょうか」

武道家「まずはストレッチからっすかね」

僧侶「ここで必要なのは、紙とペンです」

武道家「ほうほう」

僧侶「最初は僧侶とは何か、貴女に教えていきたいと思います」

武道家「はい!! 知ってるっす!!」

僧侶「それは感心です。答えてみてくれますか?」

武道家「うっす! 僧侶とは傷を治すことができる人のことっす!!」

僧侶「……」

武道家「あたしもあんなことして褒められたいっす!!」

僧侶「確かにそうしたことができる者を僧侶と呼びますが、私が伝えたいのはそういうことではありません」

武道家「どういうことっすか」

僧侶「僧侶とはすなわち、神の使いでなくてはならないのです」

武道家「いずれは神様になれってことっすかね」

僧侶「そうではありません。人が神になることはできないのです」

武道家「よくわかんねえっす」

僧侶「神に仕えることで、私たち僧侶は聖なる力を使うことができるのです」

武道家「なるほど」

僧侶「分かっていただけましたか」

武道家「神に仕えて力が使えるっていう高度な駄洒落っすね。うまいっすねぇ。いやぁ、頭のいい人は洒落もキレッキレっすね」

僧侶「……」バシーンッ

武道家「いてっ」

僧侶「ふざけているのなら、即刻出て行ってください」

武道家「ふざけてないっす!! 大真面目っす!!」

僧侶「そう見えませんけど」

武道家「あたしは本気で僧侶になりたいんっす!! マジで!!」

僧侶「それはどうして?」

武道家「そ、それは……あの……言うのはずかしいっすけどぉ……」モジモジ

僧侶「……もしや、不純な動機で僧侶になりたい、などということはありませんね?」

武道家「ありえないっす。あたしが僧侶になりたい理由は、純粋っすから!」

僧侶「よければ教えて頂けますか?」

武道家「じ、実は……あの……あたし、この前、旅に誘われて……」

僧侶「旅に?」

武道家「なんでも、海を越えた先にある遺跡のチョーサとかするらしくて」

僧侶「そのような旅を個人でするというのですか?」

武道家「いえいえ。お城の勇者様に誘われたんっすよね。でへへ」

僧侶「……」

武道家「結構、危険な旅みたいですし、あたしの腕っぷしだけじゃ不安だなと思って、僧侶に転職希望したんすよ」

僧侶(勇者様に同行を依頼されるほど有能な人物なのでしょうか。人は見かけによりませんね)

武道家「この通り、全然、不純ではないっすよ」

僧侶「確かに長旅になれば魔物と遭遇することも多々あるでしょう。貴女の考えは至極真っ当なものですね」

武道家「恐縮っす!」

僧侶「では、講義を続けましょうか」

武道家「よろしくおねがいしまっす!!」

僧侶「――であるからして、僧侶とは神から力を寄与することが許されたわけです」

武道家「……」

僧侶「わかりましたか?」

武道家「……」

僧侶「……」バシーンッ

武道家「いたっ!?」

僧侶「居眠りをするとは何事ですか。やる気がないようですね。であるのなら、ここから退室してください」

武道家「ちがうっす!! やる気はあるんっす!! やる気しかないと言ってもいいぐらいっす!!」

僧侶「私の話は退屈でしたか?」

武道家「い、いえ……別に……」

僧侶「正直に」

武道家「はっ。とても退屈でした!」

僧侶「……」ブンッ

武道家「そう何度も叩かれてたまるかっす!!」ササッ

僧侶「ていっ」バシーンッ

武道家「いでっ!?」

僧侶「こちらも貴女の動きぐらいは読めます」

武道家「まさかのフェイント……先生さん……強い……」

僧侶「これでも様々な人に教授する立場ですから」

武道家「すげー」

僧侶「退屈なら、もうやめましょう。私もやる気のない人に教えたくはありませんので」

武道家「えぇ!?」

僧侶「それでは、さようなら」

武道家「まって!! まって!! まってください!!」ギュゥゥ

僧侶「なんですか」

武道家「も、もう少しだけチャンスを!! あたし、バカなんで小難しい話とは聞くと睡魔と戦闘することになるんっすよ!! 次は睡魔をやっつけますから!!」

僧侶「あのですね……」

武道家「どうしても僧侶になりたいんっす……」

僧侶「……次、眠ったら本当にやめますからね」

武道家「おっす!! 次はまけないっす!! 見ててください!! 先生さん!!」

僧侶「――治癒術は祈りから始まります」

武道家「ふー……ふー……」

僧侶「その祈りは神に向けることで……」

武道家「う……うぅ……ふー……」

僧侶「……」

武道家「はっ!! はっ!! やぁ!!」

僧侶「気合は入りましたか」

武道家「睡魔を撃退したっす!!」

僧侶「よかったです。続けますね」

武道家「うす!」

僧侶「祈りとは私たちの想い。それを聞き届けてくれる神がいるからこそ、治癒術は発動するといわれて――」

武道家「あ……あっ……あ……」ウトウト

武道家「ふんっ!!!!」ゴンッ!!!!!

僧侶「きゃぁ!? な、なんですか、いきなり頭を机に叩き付けて……」

武道家「睡魔を頭突きでこらしめただけっす。さぁ、続けてください、先生さん」

僧侶「そうはいきません」

武道家「どうしてっすか!! あたし、ねてないっす!!」

僧侶「ほら、血が出ています。じっとしていてください」

武道家「え……」

僧侶「……」パァ

武道家「おぉー痛みがひいていくっすぅ」

僧侶「これでよし。痛くありませんか」

武道家「おぉぉ」

僧侶「な、なんですか?」

武道家「これっす!! あたし、これがしたいっすよぉ!!」

僧侶「治癒術ですか?」

武道家「傷口を癒すために近くまでいってもいいし、顔を近づけたって別に変じゃないっす!!」

僧侶「まぁ、ある程度は近づかないと治癒はできませんからね」

武道家「あー、早くおぼえたいっすぅ」

僧侶「しかし、貴女は本当にやる気だけですね。僧侶になる以前に、人として色々なことが足りていないように思えます」

武道家「マジで!?」

僧侶「その言葉遣いもどうにかなりませんか」

武道家「ダメっすかね」

僧侶「貴女は僧侶になりたいのでしょう。淑女になることをおすすめします。貴女のように粗暴な僧侶はいません」

武道家「いやっす!! あたしは僧侶になりたいんっす!! しゅくじょにはならないっす!!」

僧侶「……」

武道家「先生さん、どうしたら、手のひらからあったかい光を出せるようになるんすかね?」

僧侶「貴女、バカですね」

武道家「はい」

僧侶「とにかく座ってください」

武道家「おす!」

僧侶「貴女に僧侶としての適性があるかないかは別にして、今のままではとても僧侶として世に出せません」

武道家「えー!? やだー!!」

僧侶「方針を変更します。起立」

武道家「はい!」ガタッ

僧侶「礼」

武道家「おっす!」

僧侶「……」グイッ

武道家「おぉぅ」

僧侶「おっす、ではありません」

武道家「す、すんません」

僧侶「違う。すみません、というのです」

武道家「す、すみません」

僧侶「そう。では、もう一度。礼」

武道家「よろしくおねがいしゃっす!!」

僧侶「真面目にやってます?」グイッ

武道家「おぉぉ……」

僧侶「どうなのですか?」

武道家「で、でも、あたしは、小さい頃からこんな感じであいさつしてて……」

僧侶「骨の髄まで染みついているわけですか……。骨が折れそうです」

武道家「うまいっすねぇ」

僧侶「……」

武道家「す、すみませんっ!」

僧侶「よろしい。改めて、礼」

武道家「よろしくお願いしまっす!」

僧侶「……」バンッ!!!

武道家「ひっ」ビクッ

僧侶「よろしくお願いします」

武道家「こちらこそ」

僧侶「復唱しなさい!!!」

武道家「すんません!!」

僧侶「違うと言っているでしょう!!」

武道家「あぁ!! すんません!! 一生の不覚!!」

僧侶「どれだけ一生の不覚をとれば気が済むのですか!!」バンッバンッ

武道家「せ、先生さん、落ち着いてくださいっすぅ」

僧侶「申し訳ありません。ほんの少し、取り乱しました」

武道家「あたしは気にしてないっす。先生さんが取り乱したことも口外しないっす」

僧侶「講義は中止にしましょう。この教室の掃除を行いましょう」

武道家「えー!? 僧侶になるための授業を聞きにきたんすけどぉ」

僧侶「箒と塵取りと雑巾は倉庫にあります。とってきてください」

武道家「先生さぁん、後生っすから、講義を続けてくださいっすぅ」

僧侶「掃除をしなさい」

武道家「ふぇぇ」

僧侶「そんな声を出しても続けません。ほら、掃除」

武道家「ぶぅー。わかったっすぅ」

僧侶「全く」

武道家「とってきたっすー」

僧侶「塵一つ残さないように」

武道家「うぃーっす」

僧侶(疲れました……)

武道家「うぃー」ザッザッ

僧侶「……」ペラッ

僧侶(この人の家族は格闘家ばかりですね。生粋の武闘派家系ということですか)

武道家「ふんっ! ふんっ!」キュッキュッ

僧侶(あまりこういうことは思いたくありませんが、粗野な家柄なのでしょう。なのにどうして正反対ともいえる僧侶になんて……)

武道家「はぁー。先生さん。これくらいでいいっすかね」

僧侶「どれどれ……。手際はいいのですね」

武道家「そりゃ掃除は武道の基本っすからね。朝は道場の掃除から始まって、夜は道場の掃除をして寝る。そんな毎日だったっす」

僧侶「なるほど。全てが乱暴というわけではないようですね」

武道家「それより! 講義! 講義してくださいっす!!」

僧侶「外に出て草むしりでもしてください」

武道家「えー!? 講義ぃー! 先生さん!! 講義してほしいっすぅ!!」

僧侶「草むしりです。ほら、外に出てください」

武道家「いやっす!! あたしは講義を受けるまで絶対に外に出ないっすから!!」

僧侶「分かりました。では、僧侶になるのは諦めてください」

中庭

武道家「うおぉぉぉぉぉ!!!!」ブチブチブチブチ!!!!!

僧侶「流石ですね」

武道家「僧侶になりたいっすぅー!!!! うおぉぉぉぉぉ!!!!」

僧侶「……」

神官「どうかね?」

僧侶「はい。今はまだ何もわかりませんが、彼女が心から僧侶を目指しているのは間違いないようです」

神官「そうか、そうか。それで草むしりを?」

僧侶「どうやら座学は苦手のようなので」

神官「そういうことか。三か月後が楽しみだ」

僧侶「私は不安しかありません」

神官「そういうものだろう。よろしくな」

僧侶「はい」

僧侶(私の役目は彼女を立派な僧侶にすること。ですが、この調子では……)

武道家「でやぁぁぁ!!! 回復の術つかいたいっすぅ!!!」ブチブチブチブチ!!!!!

教室

武道家「つかれたぁ……」

僧侶「ご苦労様です。本日はこれで終了にします」

武道家「え!? 僧侶になるための講義は!?」

僧侶「しません」

武道家「してっす!! してっすぅ!!」

僧侶「しません。また明日」

武道家「もう寝ないっすからぁ!!」ギュゥゥ

僧侶「離れてください」

武道家「講義してくれるまで離さないっす!!」

僧侶「ていっ」バシーンッ

武道家「いて!」

僧侶「しつこい生徒は好きではありません」

武道家「あたしは先生さんのこと嫌いじゃないっす!!」

僧侶「ありがとう。さようなら」

武道家「せんせいさぁーん!!! やだー!!! うわーん!!!」

武道家「うぅぅぅ……あたしがなにしたっすかぁ……確かに講義中は寝ちゃったっすけどぉ……」

僧侶「……っ」

武道家「あんまりっすぅ……あんまりっすよぉ……」

僧侶「……座りなさい」

武道家「へ……?」

僧侶「席につきなさい」

武道家「先生さん……!!」

僧侶「今日だけの特別補習です。一度でも瞼を閉じたら、即座に中止です」

武道家「おっす!!! 絶対に閉じないっす!!」

僧侶「おっす、はやめなさい。はい、と返事をするのです」

武道家「おっす!!! はい!!」

僧侶「では、起立。礼」

武道家「おねがいしゃっす!!!」

僧侶「違う」グイッ

僧侶「慈しみの心は治癒術にとってなくてはならないものです。万物を愛すること、これが重要になるわけです」

武道家「……」プルプル

僧侶「神は私たちのことを常に見ています。慈愛の精神を忘れてはなりません」

武道家「せ、先生さん、ちょっと、いいっすかね」

僧侶「どうかしましたか」

武道家「あの、目がかわいて……かわいて……」

僧侶「瞬きはしても構いません」

武道家「いいんすか!? んもー!! 先にいってくださいよぉー!! ちょー目がかわいたっすぅ」

僧侶「はぁ……」

武道家「どうしたっすか?」

僧侶「なんでもありません。そろそろ頃合いですね。今日は終わりましょう」

武道家「おっす!!」

僧侶「はい」

武道家「はいっ!!」

僧侶「そう。では、お疲れさまでした。気を付けてお帰りください」

武道家「あざっした!!」

僧侶「あ、り、が、と、う、ご、ざ、い、ま、し、た」グイッ

武道家「ふぁふぃふぁふぉうふぉふぁふぃふぁふぃふぁ!!」

僧侶「そう。明日は言葉遣いを矯正していきますので、そのつもりで」

武道家「僧侶になるための講義は!?」

僧侶「言葉遣いを正すことも僧侶になるために重要なことなのです」

武道家「そうなんっすか。じゃあ、がんばるっす!」

僧侶(この人の扱い方が分かってきた気がします)

僧侶「さようなら」

武道家「先生さんっ! 先生さんっ!」

僧侶「なんです?」

武道家「この近くに眠れる場所ってあるっすか?」

僧侶「自宅に戻ればよろしいでしょう」

武道家「いえ。あたしの自宅は山を4つ越えた先にあるんで、今から帰っちゃうと明日の講義には間に合わないっす」

僧侶「そんなに遠くから……。近くの宿屋を紹介しましょう」

武道家「宿屋はむりっす!!」

僧侶「え……? 他人が使ったベッドは使えないと? 潔癖症なのですか」

武道家「お金がないっす」

僧侶「どうして? ここまではそれなりの道のりだったはずです。多少なりともお金はもってきたでしょう?」

武道家「いえ、あたしはお金がなくてもなんとかなるっすから」

僧侶「しかし、お風呂にも入れないし、お手洗いだって」

武道家「お風呂は川があれば十分っす。雨が降ればその日はラッキーっすよね」

僧侶「……」

武道家「トイレはもう、草むらで――」

僧侶「あなた、屋根があれば十分眠ることができるということですか?」

武道家「うっす!! よゆーっす!!」

僧侶「あぁ……」フラッ

武道家「先生さん!? どうしたっすか!?」

僧侶「乙女がすることではありません……」

武道家「なにがっすか?」

僧侶(まさか、ここまでとは……。予想外でした……)

武道家「先生さんは外でトイレしなっすか? 結構、開放感があっていいんっすよ」

僧侶「や、やめなさい!! 貴女は乙女なのですよ!! そういう行為を恥だと思いなさい!!!」

武道家「はぁ……ダメなんっすかぁ……。きもちいいんっすけどねぇ」

僧侶「確かに気持ちいいかも……って!! 違います!! 何を言っているのですか!! 不潔です!! フケツ!!」

武道家「フケツって!! ちゃんとお尻はふいてるっす!!」

僧侶「そーいうもんだいじゃないの!! 女の子がそんなことをするのが問題なんです!!」

武道家「あぅ……先生さん、落ち着いてください……」

僧侶「んんっ。少々、取り乱してしまいました。申し訳ありません」

武道家「いえ。気にしてないっす」

僧侶(このままでは僧侶になるなど、夢のまた夢ですね……)

武道家「ま、いいっす。今日は神殿の前で寝るっすから」

僧侶「よくありません。私についてきなさい」

武道家「講義の続きっすか!? やったー」

僧侶「違います」

宿舎 僧侶の部屋

僧侶「入りなさい」

武道家「うぉー。すっげー! ひっろーい! ここにはどんな王様さんが寝泊まりしてるっすか?」

僧侶「ここは私の部屋です」

武道家「マジで!? ちょ、マジで!?」

僧侶「この神殿にいる指導者に与えられる部屋です。確かに一般に比べれば少々広いとは思いますが、王族が住むには狭いでしょう」

武道家「かっこいいっすぅ。あたしもいつか、こんな部屋に……でへへへ……」

僧侶「そういった予定でもあるのですか?」

武道家「それは、あの、わかんないっすけどぉ……あたしが僧侶になれたら……もしかするかもって……感じっすぅ……」モジモジ

僧侶(王族に仕える僧侶になる夢でもあるのでしょうか。意外に立派な志を持っているのですね)

武道家「えへへ……勇者さまぁ……」

僧侶「さて、ともかく旅の汚れをお風呂で落としてきなさい」

武道家「おっす。近くに川はあるっすか?」

僧侶「その通路の突き当りに浴室があります!! 川になんていかないでください!!」

武道家「いいんっすか!? マジっすか!?」

武道家『せんせいさーん!! これすごいっすー!! うっひょー!!! きもちぃぃぃ!!』

僧侶「喜んで頂けてよかったです」

武道家『ほぉぉぉ……!! 奥まで洗えるっすよー!! ひゃぁぁぁ……』

僧侶「一体、今日までどのような場所で生活してきたのやら……」

僧侶(とはいえ、国を代表する兵士である勇者に誘われるほどの実力者であり、家も高名なのでしょう)

僧侶(そういった家に生まれながらも悪辣な環境で育ってきたのは、教育方針……? それとも……)

武道家『ふわぁぁ……きもちいぃっすぅ……』

僧侶「どちらにせよ、私の使命は変わりません。彼女を立派な僧侶にする。それだけです」

僧侶(そのためにも様々なことを学んでもらわなければいけませんね)

僧侶「どうしたらいいのもか……」

武道家「いやー、さっぱりしたっすぅ。とってもきもちよかったっす、先生さんっ。あざす」

僧侶「な!! 貴女!! 早く拭きなさい!! 服をきなさい!!!」

武道家「え? お風呂のあとはこのまま寝るっすよ?」

僧侶「ふざけないでー!!!」

武道家「す、すんません……」

僧侶「まだ夕食だってあるでしょう。一糸纏わぬ姿で就寝するまでいるつもりですか」ゴシゴシ

武道家「だめっすか?」

僧侶「ダメです! ほら、正面を向きなさい」

武道家「うぃーっす」

僧侶「どうして私がこんなことをしなければならないんですか。全く」ゴシゴシ

武道家「うぇぇ……せんせいさん、くるしいっすぅ……」

僧侶「我慢しなさい!」

武道家「うぅ……」

僧侶「これでよし。服を着なさい」

武道家「おっす! えーと、脱いだ服はー?」

僧侶「何故、脱いだ衣服を探すのですか」

武道家「下着も服も一枚しかないっすよ?」

僧侶「……」

武道家「あ、でも、服は今日貰った礼装があるっすね! やったー」

僧侶「私のを着なさい!! 下着も何枚かあげます!!」

僧侶「貴女のような手のかかる生徒は初めてです」

武道家「マジっすか。あざっす」

僧侶「褒めてません!!」バンッ!!!

武道家「ひっ」ビクッ

僧侶「これが夕食です。召し上がってください」

武道家「いいっすか!? でも、お金とかないんで……」

僧侶「無一文の人から要求なんてしません」

武道家「先生さんって、優しいっすね!! あたし、感激っす!!」

僧侶「はい。それではいただきましょう」

武道家「うーっす! いっただきまーっす!!」

僧侶「こらっ」バシーンッ

武道家「ふぐっ!?」

僧侶「食事の前は手を組み、神に祈ります」

武道家「なんでっすか?」

僧侶「いいから、私の真似をしなさい」

僧侶「神よ、今日も平穏な一日でありました。感謝いたします」

武道家「しますっ」

僧侶「今日の恵みにも感謝いたします」

武道家「しまーすっ」

僧侶「全ての尊き生命に感謝いたします」

武道家「しゃっす」

僧侶「はい、いただきましょう」

武道家「いっただきまーっす!!!」

僧侶「……」

武道家「ハフッ! ハフッハフッ!!」

僧侶「あなた……」

武道家「ふぁんふふぁ?」

僧侶「お行儀よく食べなさい」

武道家「ふぁーふぇん」

僧侶「サーセン、じゃありません!! すみません、でしょう!?」バンッバンッ

武道家「さー!! 先生さん、寝ましょう!!」

僧侶「そうですね。今日は、疲れました」

武道家「じゃ、寝てくるっす」

僧侶「待ちなさい。外へ行くつもりですか」

武道家「そ、そうっすけど?」

僧侶「ここで寝なさい。貴方がどれほどの実力者かは知りませんが、女の子が夜に外で寝れば何が起こっても不思議ではないのですよ」

武道家「例えばどんなことがおこるっすか?」

僧侶「たとえば……」


武道家『やめて!! やめてー!!!』

『うるせぇ!! じっとしてろ!!!』

武道家『おかあさん……ごめんなさい……』


僧侶「お、おかしな質問はしないでください!!! フケツです!!」

武道家「えぇ……? なんで怒ってるっすかぁ……」

僧侶「いいから貴方はここで寝るんです!!!」

武道家「こんなフカフカのベッドで寝てもいいんすか、マジで」

僧侶「いいんです。二人で寝ても余裕があるぐらい大きいですし」

武道家「やっほー!!」

僧侶「暴れない」

武道家「ふかふかーっすぅ。はぁー……」

僧侶「明日からはもっと厳しくいきます。いいですか、朝は夜明け前に起床です。起床後はミサを――」

武道家「すぅ……すぅ……」

僧侶「この人は……」

武道家「しあわせ……っすぅ……」

僧侶「……」

僧侶(苦労してきたのでしょうね。お手洗いすら不自由していたようですし……)

武道家「でへへ……ゆうしゃ……さまぁ……」

僧侶「……安心してください。必ず、貴女を僧侶にしてみせます」

僧侶「必ず……」

武道家「えへへ……だい、すきっすぅ……」

翌朝

「いっち! にー! さんっしー!!」

僧侶「うぅ……うるさい……」

武道家「ごーろくっ!! しっちはちっ!!」

僧侶「一体、何事ですか……」

武道家「先生さん! おはざっす!!」

僧侶「あ、ええ……おはようございます……」

武道家「先生さんもどうっすか? 朝の体操は気持ちいいっすよー」

僧侶(私より早起きとは、やりますね。武道を進んでいただけに、心技体は整っているということですか)

武道家「いっち! にー! さんっしー!!」

僧侶「貴女のそれには感心しますが、まだ午前四時です。近所迷惑なのでやめてください」

武道家「えー?」

僧侶「掛け声はなしでお願いします」

武道家「うぃーっす」

僧侶(これなら毎日のミサも問題なく行えそうですね)

教会

僧侶「早くきなさい」

武道家「ねむいっすぅ」

僧侶「貴女、さっきはあれほど元気だったじゃないですか」

武道家「体操のあとは朝寝の時間なっすよぉ」

僧侶「朝寝って……」

シスター「おはようございます。今日は生徒さんとご一緒ですか」

僧侶「はい。よろしくお願いします」

武道家「しゃっす」

僧侶「……」バシーンッ

武道家「ごふっ!?」

僧侶「お願いします」

武道家「お願いします」

僧侶「そう」

シスター「では、お座りになってください」

武道家「なにがはじまるっすか?」ブラブラ

僧侶「足をブラブラさせない。大人しくしていなさい」

武道家「うぃーっす」

司祭「おはようございます。礼拝に参加していただき、感謝いたします」

武道家「だれっすか、あの人」

僧侶「教会で最も偉い人です」

武道家「へぇー」

司祭「それでは祈りましょう」

シスター「……」

僧侶「……」

武道家「……僧侶になれますように……僧侶になれますように……」

僧侶「そういうことを祈るのではありませんから」

武道家「マジっす?」

シスター「あの、私語は慎んでください」

僧侶「し、失礼しました」

司祭「――皆さんに幸多からんことを」

シスター「ありがとうございました」

僧侶「ありがとうございました」

武道家「あざーっす」

僧侶「こら!!!」

司祭「新しい生徒さんですか」

僧侶「は、はい。昨日から面倒を見ることになって」

司祭「そうですか。貴女も立派な指導者になれたようで、私もうれしいです」

僧侶「いえいえ、私はまだまだ若輩者です」

司祭「そんなに謙遜しなくてもいいのですよ」

武道家「そうっす。先生さんはすげーいい人っす! あたしには分かるっす!」

司祭「とても純粋な目をしている。貴女はきっと素晴らしい聖職者になれます」

武道家「なにいってんすか。あたしは僧侶になりたいんっす。せいしょくしゃーなんてならないっす」

僧侶「こら!! 司祭様になんてことをいうのですか!!」

司祭「面白い人ですね。この人の言うことをよく聞いていれば、すぐに僧侶になれますよ。がんばってください」

武道家「あざーっす!」

僧侶「やめなさい!!」

司祭「それでは」

僧侶「本当に申し訳ありませんでした!!」

武道家「さーせん」

僧侶「ちょっと!! もう少し礼儀というものをですね!!」

武道家「あたし、なんかしたっすか?」

僧侶「はぁ……」

シスター「大変みたいですね」

僧侶「ええ、そうなんです……」

シスター「このあとは講義を受けるのですか?」

武道家「もちっす!! あたしは一日も早く僧侶になって治癒術を使いまくるっすから!!」

僧侶「今日は神殿内の掃除をしていただきます」

武道家「えー!? 講義は!? 僧侶になるための講義は!? 先生さん!!」

僧侶「掃除です」

神殿 廊下

武道家「講義ぃ……講義ぃ……」ゴシゴシ

僧侶「泣き言を言わない。ほら、そこも汚れています」

武道家「うぅぅ……」ゴシゴシ

僧侶「早くしなさい。これが終われば……」

武道家「僧侶の講義っすか!?」

僧侶「庭の手入れをしていただきます」

武道家「ぶぅー」

僧侶「顔を膨らませても予定は変わりません」

武道家「先生さんのいじわるっ!!」

僧侶「掃除も手入れも僧侶になるために必要なことです」

武道家「じゃ、仕方ないっすね」

僧侶「それから、言葉づかいをどうにかしましょう」

武道家「どうにかって?」

僧侶「今からおかしな言葉遣いをすれば、ペナルティを与えます。いいですね?」

武道家「うっす!!」

僧侶「はい、ダメっ」バシーンッ

武道家「ひぎぃ!」

僧侶「そこは「はい」か「わかりました」です。いいですね?」

武道家「うっす! わかりやした!!」

僧侶「はいっ」バシーンッ

武道家「あんっ」

僧侶「わざとですか?」

武道家「そういうわけじゃ……」

僧侶「まずは掃除を終わらせてください」

武道家「おっす! じゃなくて、はい! わかりました!!」

僧侶「よろしい。そうやっていれば私も心を鬼にすることはないのです。いいですね?」

武道家「うっす! わかったっす!!」

僧侶「えいっ」バシーンッ

武道家「あひぃ!」

中庭

僧侶「雑草を抜いてください。花は絶対に傷つけないように」

武道家「分かりました!!」

僧侶「その調子です」

武道家「でやぁぁぁ!!!」ブチブチブチブチ!!!!!

僧侶「……」

武道家「あ、花も一緒に抜けちゃった」

僧侶「……」

武道家「はぁ!!!」ババッ

僧侶「まだ何もしていません」

武道家「そう何度も叩かれると、バカになっちゃうっす」

僧侶「貴女は既にバカです。気にしなくてもよろしいかと」

武道家「そっすね」

僧侶「抜いてしまった花はちゃんと元の場所に埋めてください」

武道家「分かりました。お花のお墓をつくるっす」

僧侶「そうじゃない」バシーンッ

武道家「きゃふん!」

僧侶「いえ。貴女のそうした考え方は立派なことなのかもしれませんが、まだその花は生きています。土葬なんてもってのほかです」

武道家「そ、そうなんっすか」

僧侶「花に謝りなさい」

武道家「お花さん、サーセン」

僧侶「で、花はこうして元に戻します」ザッザッ

武道家「おぉー。なるほど」

僧侶「はい。続きを」

武道家「分かりました!!」

僧侶(優しいというよりは、穢れが全くない心を持っているようですね。純心は僧侶としては最も重要な力ではありますが……)

武道家「お花は傷つけないように……」

武道家「でやぁぁぁぁ!!!!」ブチブチブチブチ!!!!!

僧侶(この野性味溢れる乙女を僧侶にするのは難解ですね)

武道家「あ!? お花さんをまた抜いちゃったっす!! お花さん、サーセン」

>>47
僧侶(この野性味溢れる乙女を僧侶にするのは難解ですね)

僧侶(この野性味溢れる乙女を僧侶にするのは難問ですね)

教室

武道家「つかれたぁ……」

僧侶「今日はこれで終了です。お疲れさまでした」

武道家「待ってくださいっす!!」

僧侶「なんですか」

武道家「まだ今日は何も教わってないっす!!」

僧侶「今の貴女に私の口から説明することは何もありません」

武道家「……」

僧侶「帰りますよ」

武道家「先生さんの講義を聞くまでここから動かないっす!!!」

僧侶「……」

武道家「うごかないっす!!!」

僧侶「そうですか。また明日お会いしましょう」ガチャ

武道家「……」

武道家「せんせいさぁーん、まってっすぅ」テテテッ

神殿 廊下

武道家「せんせいさぁーん、講義ぃ、講義ぃ」ギュゥゥ

僧侶「離れてください」

武道家「講義してくださいっすぅ」

僧侶「すぐ寝てしまうでしょう」

武道家「寝ない自信はないっすけど、でも、眠らないように努力するんで、そこを評価していただきたいっす!!」

僧侶「どこを評価するのですか」

武道家「あーん!! 講義してくださいっす!! 僧侶になりたい! なりたい!!」

僧侶「……」

神官「この神殿で騒ぐ者は久しぶりだな」

僧侶「すみません」

神官「気にしておらん。静かな神殿だからな、こうしたことはありがたい」

武道家「僧侶になりたい!! 治癒したい!! したいっす!!」

僧侶「はぁ……。分かりましたから、とにかく立ちなさい」

武道家「いいんすか!? 流石、先生さん!!」

宿舎 僧侶の部屋

僧侶「――これをあげます」ドサッ

武道家「この本はなんっすか」

僧侶「僧侶になるためには、この分厚い本を十数冊は読破しなければなりません」

武道家「マ、マジで……」

僧侶「貴女にできますか」

武道家「……」

僧侶「どうなのです」

武道家「やるっす!! やってみせるっす!!」

僧侶「よろしい。では、読み始めてください」

武道家「分かりました!!!」

僧侶(もしも本当に読破することができれば、かなりの逸材ということに……)

武道家「先生さん!!!」

僧侶「なんですか」

武道家「一行目の意味がわかんないっす!! なんてよむんっすかね、これ」

僧侶「はっきり言います。貴女は僧侶になれません」

武道家「えー!? なんでっすか!? なんでっすかぁ!!」

僧侶「最初の文言すら理解できないのでは……」

武道家「おねがいっすぅ……見捨てないでぇ……」ギュゥゥ

僧侶「そう言われても。服を掴まないでください」

武道家「あたし、なんとしても僧侶になりたいっすぅ」

僧侶「今のままでは無理です」

武道家「……」

僧侶「とりあえず夕食を……」

武道家「うっ……うぅ……うぅ……」ウルウル

僧侶「え? あ、あの、ちょっと」

武道家「むり……なんすかぁ……あたし、じゃあ……むりなんすかぁ……」ポロポロ

僧侶「あ、えと、無理、というか、その……今のままでは、難しいかなぁ……なんて……」

武道家「うぇぇぇぇん……」

僧侶「ごめんなさい!! 言い過ぎました!! ごめんなさい!! 泣かないでください!!」オロオロ

武道家「うっ……ぐすっ……」

僧侶「落ち着きましたか?」ナデナデ

武道家「うす……」

僧侶「とにかくご飯を食べましょう。手を組んで、神に感謝を」

武道家「あい……」

僧侶(まさか泣き出してしまうとは……。指導していて泣かせてしまうなんて初めてです)

武道家「かみさま、あざっす」

僧侶(今まで厳しく言っても泣き出す生徒はいなかったのですが、指導するというのは奥が深いですね)

武道家「先生さん」

僧侶「な、なんでしょう?」

武道家「神様には感謝したっす」

僧侶「あ、ああ。そうですか。では、いただきましょう」

武道家「うっす。いただきまっす」

僧侶(けど、厳格にならなければこの人のためにもならないし……うーん……)

武道家「ハフッハフハフッ!!」

ベランダ

僧侶「教えるって、難しい……」

武道家「先生さんっ」

僧侶「お風呂はお先にどうぞ」

武道家「すみませんでした!!」

僧侶「え? ど、どうしたの?」

武道家「あんなかっこ悪いところを見せてしまって、恥ずかしいっす!」

僧侶「あれは私も悪いですから」

武道家「女が泣いていいのは、親が死んだときと夫に先立たれたときだけだと、教わっていたのに……!!」

僧侶「なんとも限定的な泣き所ですね」

武道家「先生さん、この際ですからはっきりいってくださいっす。あたし、僧侶になれないっすか?」

僧侶「それは……」

武道家「正直に言ってください。何を言われても、覚悟はできてます。泣くこともないっす!! おっす!!」

僧侶「では、言います。貴女は僧侶を目指すべきではありません」

武道家「……ふぇ」

僧侶「あ、えと……」

武道家「うっ……ぐっ……なかないっす……なかない……なか……な……い……もん……!」ウルウル

僧侶「ただし!! 私の言うことを素直に聞くことができるのなら!! まだ僧侶になれる可能性は十分にあります!!」

武道家「……マジっすか?」

僧侶「当たりまえです。私は僧侶になる者を導く者ですよ。どんな人であろうとも、僧侶になりたいという気持ちがあるのなら、導いてみせます」

武道家「おぉー、先生さん、かっけーっす!!」

僧侶「明日から、私の言うことは聞けますね?」

武道家「うっす!!」

僧侶「……」

武道家「はい!!」

僧侶「理不尽な要求をされても、それに応えることはできますね」

武道家「はい!!」

僧侶「よろしい。なら、大丈夫です。絶対に僧侶になれます」

武道家「やったっすー!! これであたしも僧侶っすよー!! ひゃっほー!!」

僧侶「こら、暴れない」

武道家「これであたしも僧侶っす!! 回復の術とか使って……えへへへ……」

僧侶「明日はまた神殿の掃除と中庭の手入れをしてもらいます」

武道家「えー!? 僧侶になるための――」

僧侶「理不尽な要求にも応えるといったばかりでしょう」

武道家「それは……そうなんっすけどね……」

僧侶「掃除とお手入れです。そのあとはここで……」

武道家「講義っ!!」

僧侶「言葉遣いのお勉強をします」

武道家「先生さん!! それはイジメっすか!?」

僧侶「私の言うことがきけないのなら、僧侶になるのは諦めなさい」

武道家「むぅ……」

僧侶「僧侶になるには必要なことだと、何度も説明したはずです」

武道家「わぁーったっす」

僧侶「わかりました」バシーンッ

武道家「あふっ!? わ、わかりましたでぇす!!!」

数日後 中庭

僧侶「またお花も一緒に抜けましたよ」

武道家「お花さん、サーセン」

僧侶「いつになったらその雑さが抜けてくれるのですか」

武道家「いつになったら僧侶の講義をしてくれるっすか」

僧侶「口答えしない」

武道家「先生さん、サーセン」

僧侶「……」

武道家「まちがえたっす!! すみません!」

僧侶「はい」

副官「ここにいたか。今日も草むしりとはな」

武道家「ちぃーっす」

僧侶「やめなさい。何か御用ですか?」

副官「君に会いたいと言ってる者が来ている」

武道家「あたしにっすか? わかりました、すぐいくっす」

僧侶「親御さんでしょうか。貴女のことを心配して……」

武道家「それはないっすねー」

僧侶「どうして?」

武道家「だって、ウチの親は大賛成してくれたっすからね」

僧侶「だからって、心配していないとは限らない。親にとって子供はいつまでも子供なのですから」

武道家「哲学っすね。わかります」

僧侶「違います」

勇者「おぉ。やっと会えた」

武道家「おぉぉ!?」

勇者「よかった。急に「僧侶になるっす」と言って街を離れたから心配していたんだ」

僧侶「貴方は、この子のお兄さんですか?」

勇者「いえ。自分は城に仕える一兵士です。一応、勇者の称号を頂いていますが」

僧侶「これはこれは、勇者様でしたか」

武道家「うぅ……」モジモジ

僧侶「どうしたのですか? ほら、私の後ろに隠れていないで、挨拶ぐらいしなさい。貴女の心配をして勇者様が来てくださったんですよ」

勇者「……」

武道家「うぅー」

僧侶「どうしたのですか。ほら」グイッ

武道家「い、いや! やめて!!」

僧侶「え……」

武道家「な、なにか、用っすか?」

勇者「だから、君のことが心配で様子を……」

武道家「べ、別に勇者様に心配されたくないっすもん! ひとりでなんとかなるもんっ!」

勇者「な……。そ、そうか……」

武道家「……すみません」

僧侶(いつもと様子がおかしい……。これは……もしや……)

武道家「うぅ……」モジモジ

僧侶「勇者様、少しよろしいでしょうか。貴女は草むしりの続きをしていなさい」

武道家「わかりました!!」テテテッ

僧侶「勇者様、こちらへ」

僧侶「彼女はどうやらかなり緊張しているようですね。普段の言動からは考えられないのですが」

勇者「緊張、ですか」

僧侶「ええ。相手が勇者様ともなれば、粗暴な彼女でも萎縮してしまうようです」

勇者「それならいいのですが……」

僧侶「どういうことです?」

勇者「彼女とは古くから知り合いでして、小さいのときはよく遊んだものです」

僧侶「まぁ……」

勇者「それがある日を境に彼女に避けられるようになって……。真意を確かめようと、遺跡調査の任務に同行してほしいと依頼をしました」

僧侶「彼女はその調査にいくため、僧侶になると言っていましたが」

勇者「そうなのですか? そのようなことは一言も……。自分は僧侶になることを口実に断られたとばかり思っていました」

僧侶「しかし、どうして勇者様に対してあのように失礼な態度をとるのでしょうか」

勇者「わかりません。でも、任務に同行してくれる意志があると分かっただけでも良かったです。嫌われているわけではないようですね」

僧侶「自身の立場を理解し、勇者様とは距離を置こうとしているのではありませんか」

勇者「そんな……。それこそ余計な気遣いなのに」

僧侶(全く。私に対してならまだしも、勇者様にあの態度はダメですね。注意しておかなければ)

中庭

武道家「はぁ……」ブチッ

武道家「あ、お花が……。お花さん、ごめんなさい」

僧侶「はい」コツンッ

武道家「いてっ。なんすか?」

僧侶「勇者様が貴女のために会いにきたというのに、あの対応はどういうことですか。そんなことでは、僧侶になれませんよ」

武道家「マジで!?」

僧侶「マジで。いえ、本当です」

武道家「そんなぁ……」

僧侶「勇者様とは長いお付き合いらしいですが、何かあるのですか?」

武道家「それはぁ……あのぉ……」モジモジ

僧侶「はい?」

武道家「勇者様を目の前にすると……胸がくるしくなっちゃうようになったっす……。だから、あまり、その……えへへ……」

僧侶「貴女でも緊張することがあって安心しました」

武道家「ご心配をおかけしたっす」

僧侶「とはいえ、あのままでは勇者様に嫌われて、遺跡調査の任務に同行させてもらえなくなるかもしれませんね」

武道家「えぇー!? それだけは!! それだけはいやっすぅ!! 先生さぁーん!!」ギュゥゥ

僧侶「嫌なら直接勇者様に謝りなさい。ほら、あそこにいますから」

武道家「あそこって……」


勇者「……」


武道家「ホントにいるっすぅ……」

僧侶「ほら、いきなさい。勇者様が待っていますよ」

武道家「勇者さまー!!! サーセーン!!!」

武道家「ふぅ。これでよしっと」

僧侶「よくありません」バシーンッ

武道家「あひぃ!」

僧侶「どこの世界に遠くから大声で謝る僧侶がいるのですか」

武道家「あたしはまだ僧侶じゃないっす」

僧侶「そうでした。うっかりしてました。って、そういう意味ではありません!!! 僧侶を目指しているのでしょう!!! あんたは!!! 違うの!?」

武道家「そ、そうっすけど……」

僧侶「近くまで言ってきちんと謝りなさい。今のも聞こえていないようですし」

武道家「先生さんもきてくれるっすか?」

僧侶「何故……」

武道家「お願い!! 先生さん!! 一生のお願いっす!!」

僧侶「一生のお願いをここで使うのですか。分かりました。そこまで言われては無碍にできませんね」

武道家「あざす!!」

僧侶「……」

武道家「ありがとうございやす!!」

僧侶「まぁ、いいでしょう。では、行きましょう」

武道家「うっす!!!」

僧侶「――お待たせしました、勇者様」

勇者「いえ」

僧侶「ほら」

武道家「ゆ……さ……サー……ン……」モジモジ

勇者「え?」

僧侶「聞こえていないようですよ」

武道家「先生さんの背中に言いたいことを伝えるっす」

僧侶「は?」

武道家「指で文字を書くようにすれば伝わるっす」モジモジ

僧侶「はぁんっ」ビクッ

武道家「これ、言ってくださいっす!!」

僧侶「くすぐったいだけです!!! やめなさい!!!」

武道家「いってくださいっすぅ!! 一生のお願いっすからぁ!!!」

僧侶「一生のお願いを何度も使うなんて卑怯ですよ!! 私が許したとしても神が許しません!! 私も許しませんけど!!!」

武道家「えー!? 先生さんのいじわるー!!」

僧侶「違うでしょう!? 貴女が無礼なだけなのです!!」

勇者「あ、あの」

僧侶「なにか」

勇者「自分はこれで帰ります。元気にしていることがわかれば十分だったので」

僧侶「待ってください。せめて一言だけでも謝らせますから」

勇者「いえ。結構です。別に気分を害してもいません」

僧侶「そういう問題ではありません。これは礼儀の問題です」

勇者「いいんですよ。本当に。それでは」

僧侶「行ってしまいますよ」

武道家「うぅー」カキカキ

僧侶「ぁんっ……!」ビクッ

武道家「これ、言ってくださいっすぅ」

僧侶「言いません!!! 背中を指でなぞらないで!!!」

武道家「ケチぃ」

僧侶「もー!! 勇者様!!!」

勇者「は、はい?」

僧侶「ありがとうございました。気を付けて帰ってください。と、この子が申しています」

武道家「……」オロオロ

勇者「ありがとう。僧侶になるためにがんばってくれ。君の帰りを待っている」

武道家「もう行ったっすか?」ヒョコ

僧侶「ええ」

武道家「はぁー……。息苦しかったっすぅ」

僧侶「あれだけ私に密着していれば、呼吸も上手くできないでしょう」

武道家「なるほどっ。流石、先生さん。頭いいっすぅー」

僧侶「ふんっ!」バシーンッ!!!

武道家「ふぎゅ!?」

僧侶「礼節を重んじない人に神は力を貸してくれませんよ」

武道家「いたぁい……」

僧侶「当たり前です。今までで一番力をこめましたから」

武道家「でも、勇者様に会うとああいう風になっちゃんすよ……」

僧侶「病気ですね」

武道家「先生さん、治してくださいっす」

僧侶「早く一人前の僧侶になって、自分で治療しなさい」

武道家「あーん、せんせいさぁーん。治してくれなきゃ、あたしはいつまでも勇者様の顔すらまともにみれないっすよー」

夜 僧侶の部屋

武道家「ふむふむ。なるほど」ペラッ

僧侶(あら。あの本をあそこまで読んでいるなんて。それに理解しているようですし、これはもしかして……)

武道家「ほうほう。ほぉー」

僧侶(分からないなりにも努力し、自分を高めようとしているのですね。感心です)

武道家「よし。やっぱり意味がわかんないっすね! ごはんにしよう!」

僧侶「……」

武道家「あ、先生さん。おつかれーっす」

僧侶「晩御飯にしますか」

武道家「あいっ!」

僧侶(この子が僧侶になる日が想像できませんね)

武道家「かみさまー、今日はすっごく良い一日だったっす。かんしゃ、かんしゃ。なんていっても勇者様が心配してあたしに会いにきてくれたっすもん」

武道家「マジであざっす」

僧侶「いただきます」

武道家「いただきまーっす!! ハフッ!! ハフハフッ!!」

武道家「ふぃー、さっぱりっすぅー。先生さん、お風呂どーぞ」

僧侶「もうそんな時間でしたか。そろそろ休みましょう」

武道家「あれ、地図みてたんっすか」

僧侶「ええ」

武道家「すげーっすね。あたし、地図なんてどこを見ればいいのかわかんないっすよ」

僧侶「どうやってここまで来たのですか」

武道家「父が「神殿なら南へまっすぐいけばつくぜぇい」って」

僧侶「それで、真っ直ぐ来ただけ?」

武道家「うっす」

僧侶「……」

武道家「先生さん!! 頭痛っすか!? 大丈夫っすか!?」

僧侶「明日は庭の手入れや掃除はしなくていいです」

武道家「ぃやったぁー!! ついに僧侶の講義っすねー!!」

僧侶「ハイキングに行きます」

武道家「ハイキング!? おぉぉ!! それは楽しそうっす!! いくいく!! いくっす!! やったぁー!!」

翌日 街道

僧侶「この道を進めば、目的の山に行けます」

武道家「おっす!!」

僧侶「ところで荷物、重くないですか? 私の分まで持ってくれていますが」

武道家「先生さんのお荷物になっている分、今日は私が荷物をもつっす!!」

僧侶「そうですか。ありがとうございます」

武道家「いまのどうっすか!? うまくないっすか!? お荷物と荷物をかけてるわけっすけど」

僧侶「行きましょう」

武道家「はい!!」

僧侶(そろそろ試してみましょう。期限はあるわけですし)

武道家「先生さん!! 先生さん!!」

僧侶「なんです?」

武道家「お花がたくさんさいてっるっすぅー」

僧侶「そうですね」

武道家「かわいいっすねー」

山道

僧侶「はぁー。少し疲れましたね」

武道家「もう少しで頂上っすよ!! がんばりましょう!!」

僧侶「ええ。そうですね」

武道家「おぉ」ピクッ

武道家「先生さんっ」

僧侶「どうかしましたか?」

武道家「おしっこ」

僧侶「ダ、ダメに決まっているでしょう!!! 何を考えているのですか!!!」

武道家「でもぉ」

僧侶「頂上には小屋があります!! そこにはお手洗いもありますからそこでしなさい!!!」

武道家「どうしてもっすか?」

僧侶「恥ずかしいと思いなさい!!」

武道家「先生さんも一緒にどうすっか? 二人なら恥ずかしくないっすよ」

僧侶「あ。確かに。いや!! そんなわけないでしょー!!!」

頂上

僧侶「到着しました」

武道家「もれるっもれるっ」テテテッ

僧侶「こら!! そんなところで手で押さえない!!!」

武道家「あぅー」ヨチヨチ

僧侶「全く……」

僧侶「……」

僧侶(さてと、始めましょうか)

僧侶(もし、彼女に僧侶としての素質が備わっているなら、この十数日間で身についているはず)

僧侶(いえ、彼女は最初から持ち合わせていたはず。あとはそれを引き出せるかどうか……)

僧侶(最初の試験です。これで駄目なら、終わりです)

僧侶「……」スッ

僧侶「行きます」

僧侶「くっ……」プルプル

僧侶「こ、こわい……でもやらなきゃ……あの子のために……」

武道家「ふー。危うく大洪水になるところだったっす」

武道家「先生さーん! そろそろお弁当――」

僧侶「う……いたぃ……」

武道家「先生さん!?」

僧侶「も、戻ってきましたか……」

武道家「ど、どうしたっすか!? あぁぁ……!! 指から血が……!!」

僧侶「植物を観察していたら、ナイフのように鋭い葉があったようで……それで切ってしまいました……くっ……」

武道家「これは大変っす!! 先生さん!! 早く治癒術でなんとかしないと!!」

僧侶「そうしたいのは山々ですが……指から出血していては……術を上手く使えないので……」

武道家「えぇー!?」

僧侶「貴女に……治療をお願いしたい……」

武道家「えぇぇぇ!?」

僧侶「でき、ますね……?」

武道家「ムリっすよぉ!! あたし、まだ何も教わってないのにぃ!!!」

僧侶「大丈夫……貴女の思うようにやればいいのです……そうすれば、この程度の傷ぐらい、治癒できますよ……」

武道家「思うようにって言われても……」オロオロ

僧侶「できるはずです……慈愛の心が……あるのなら……」

武道家「先生さん……。おっす!! なんとかするっす!!!」

僧侶「がんばってください……くっ……! 指の出血が止まらない……」

武道家「えーと……あたしはまだ治癒術なんて使えないから……えーと……」ガサゴソ

僧侶「なにを……」

武道家「水、あったっす!! ちょっと待ってくださいっす!! んぐっ」

僧侶「え?」

武道家「ふぃふぃふぁふ」

僧侶「あの……」

武道家「ぶぅぅぅ!!!!!」

僧侶「きゃ!?」

武道家「よしっ!! これで消毒できたったっす!!!」

僧侶「……」

武道家「次は濡れたところを拭いてっと」フキフキ

武道家「包帯をして……」ギュッ

僧侶「……」

武道家「できたっ! 先生さん、もう痛くないっすか?」

僧侶「あの、私は骨折したわけじゃないんですから、こんなに包帯をまく必要はありません」

武道家「なにがあるかわかんないっすから!!」

僧侶「まぁ、そうですけど」

武道家「もう大丈夫っすか?」

僧侶「ええ。これならすぐに血も止まるでしょう」

武道家「よかったぁ」

僧侶「……」

武道家「あ、でも、これじゃあお弁当たべられないっすね。せっかく先生さんが早起きして鼻歌交じりで作ってたのに」

僧侶「わ、わたし、鼻歌うたってました!?」

武道家「うっす。楽しそうに作ってたっす」

僧侶「完全に無意識……はずかしい……」

武道家「そだっ。先生さん、あたしが食べさせてあげるっす! ちょっと待っててください!!」

武道家「はい、あーん」

僧侶「はむ……」

武道家「美味しいっすか!?」

僧侶「そうですね。いつも通りの味を出せています」

武道家「おぉー。あたしもいつか先生さんみたいに料理が上手になりたっすぅ」

僧侶「誰かに作ってあげる予定でも?」

武道家「え!? あ、それは……あの……えと……」モジモジ

僧侶「なにか?」

武道家「ゆ、勇者……さま……に……つくって……あげ、たいなぁ……なんて……」

僧侶「いいことですね。長旅になれば野宿も必須になります。限られた食材で美味しい料理を作れるようになれば、それだけで戦力です」

武道家「で、でも今は僧侶になるのが先っす!! 僧侶の勉強をがんばるっす!!! おっす!!!」

僧侶「そうですね。まずはそれを頑張りましょう」

武道家「おっす!!!」

僧侶「違います」

武道家「はい!! わかりました!!!」

僧侶「そろそろ戻りましょうか」

武道家「戻ったら掃除っすか?」

僧侶「今日は掃除も手入れもなしといったでしょう」

武道家「では何をするっすか!?」

僧侶「……」シュルッ

武道家「あ、先生さん。まだ包帯をとっちゃダメっすよ」

僧侶「もう治りましたよ。貴女のおかげで」

武道家「マジっすか? 念のため、あと小一時間はしておいたほうが」

僧侶「大丈夫ですよ。それより、戻ってからの予定ですが、貴女に渡した本がありましたね」

武道家「おっす。何を言いたいのかわからない本っすね」

僧侶「今日中に一冊を読破していただきます」

武道家「毒破っすか。いきなり新しい治癒術を……」ゴクリッ

僧侶「荷物、片付けてください。自分のものは自分で持ちましょう」

武道家「先生さん、荷物は全部あたしがもつっすよ。結構重いっすから」

僧侶「バカにしないでください。これぐらい余裕で持てます。……ふんっ!!!」グイッ

僧侶「はう!?」

武道家「よっこらしょっと。先生さん、いくっすよ」

僧侶「ま、まって……」

武道家「どうしたっす?」

僧侶「腰……いたいの……」

武道家「あちゃ……。急に重いものを持とうとするからっすよぉ」

僧侶「すぐに治癒を――」

武道家「さっ。先生さん」グイッ

僧侶「え? なにを……」

武道家「先生さんも荷物も、あたしが持って帰るっす!!」

僧侶「やめてください!!」

武道家「遠慮はしないでくださいっす。あたし、先生さんの役に立ててうれしーっすから!!」

僧侶「そうじゃなくて!! 恥ずかしいし、治癒をすれば――」

武道家「下山するっす!! しっかりつかまっていてください!!」ダダダッ

僧侶「やめてぇ!! 走らないでぇ!! 腰にひびくぅ!!」

神殿

副官「今日は静かですね」

神官「寂しい感じがするな」

副官「そうですか? まぁ、すぐに騒がしくなると思いますが。あの娘の所為で――」

武道家「しっかりしてっす!! 先生さぁーん!!!」

神官「む? 何事だ」

武道家「先生さん!! 誰か!! 先生さんを助けてくださーい!!」

僧侶「や、やめて……いいから、人目に触れないよう部屋に……運んで……」

副官「なにがあったんだ?」

ザワザワ……

僧侶(あぁぁ……人が集まってきたぁ……)

武道家「すぐに診てもらうっすよ!!! だれかぁー!! だれかぁー!!!」

神官「どうしたのだ?」

僧侶「……ま、魔物に遭遇いたしまして……腰を……」

武道家「先生さん!? どうしてそんなウソを!?」

僧侶の部屋

僧侶「うぅー!! かっこ悪いところを大勢に見られたー!!」バタバタ

武道家「かっこ悪くなんてないっす!! 先生さんはちょーかっこいいっす!! 自信をもってください!!」

僧侶「お嫁にいけません……」

武道家「いけるっすよ!! 先生さんは美人っすからぁ!!」

僧侶「ありがとね……」

武道家「それはそうと、この一行目はなんてよむっすかね?」

僧侶「それはね、もくじと読みます」

武道家「なるほど!! ここ、重要っすかね?」

僧侶「覚えておいて損はありません」

武道家「そっすかぁー。メモしとこっと」

僧侶「……」

僧侶(治癒術を使えるだけの素質はやっぱりある。あとはこの子にどう教えるか……)

僧侶「いたたた……」

武道家「大丈夫っすか? なんなら、おもみするっすけど?」

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