【咲-Saki-】恭子「蝉時雨」 (58)

かなり短めですが咲さんと末原さんのお話。
話の構成上、独自な設定やオリキャラが出てきますのでご了承下さいませ。

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――8月 長野 電車内

ガタンゴトン…ガタンゴトン…


恭子「おー、めっきり山ん中やな……」


インターハイが終わって数日、姫松高校は準決勝敗退やった。
2回戦では清澄の宮永に好き放題やられて屈辱やったけど、準決勝ではまともに戦えてた……と自分では思う。
少なくとも無様な試合では無かったし、勝てんかったけど後悔はしてへん。


……いや、やっぱり後悔だらけやな。

漫ちゃん、絹ちゃん、ゆーこ、主将…洋榎、そして善野監督。
ついでに代行も。
最後の夏…皆ともっと麻雀やってたかったわ。

恭子「やめやめ、こんなこと考えててもしゃーないわ。もう終わったことや」

恭子「これから久々にばーちゃんに会えるんや、しばらくは麻雀のことは忘れてそっちを楽しも」


3年の私らはインターハイが終わったこともあって麻雀部は引退。
私はこれから受験が控えとるけど、その前に麻雀漬けでロクに会いにもいけんかった祖母に会いに行くために、単身長野に向かっとる。

祖母は大好きやけど、正直山奥の田舎に2週間近くもいるのはちょっと気が滅入る。
リフレッシュするには調度エエんやろか。

……それにしても


恭子「長野か……、何かと縁があるな」

恭子「うーん、やっと着いた……長かったな~」

恭子「さて、ばーちゃんはっと」

祖母「恭ちゃん!こっちこっち!」

恭子「あ、おばーちゃん!めっちゃ久しぶり!」

祖母「遠いところよく来たねえ!こんなに可愛らしくなって……何も無いとこだけどゆっくりしていって!」

恭子「うん、ありがとうな」

祖母「さあさあ、家の方まで案内するよ」

祖母「さ、長旅で疲れたでしょう!荷物だけ置いてきたらお茶を出すからね」

恭子「わざわざごめんな」


カレンダー「○日恭ちゃんが来る日、○日恭ちゃん帰る日、がんばれ!!恭ちゃん」


恭子(ばーちゃん……)

?「ごめんくださーい」

祖母「あら、この時間だから宮永さんかね?ちょっと行ってくるわ!」

恭子「あ、うん」

恭子(宮永……?それにこの声どっかで)

咲「どうもこんにちは~、今日もお野菜持って来ました」

祖母「あらあら咲ちゃん帰ってきてたのね!いつもごめんね」

咲「いえいえ、いつも父がお世話になってます」

恭子「おばーちゃん、これって何処に置いとけば……」

咲「え……末原さん!?」

恭子「あ……清澄の、宮永……?」

祖母「あれまあ、二人はお友達だったかねえ?」

恭子「いやその……に、荷物整理してくるわ!」

咲「あっ、末原さん!」

祖母「ちょっと恭ちゃん! ご、ごめんねえドタバタしてて」

咲「い、いえっ!その、今日はこの辺で失礼します」

祖母「はいはい、またよろしくねぇ」

咲(末原さん、ここの家の人だったんだ……おばーちゃんって言ってたしお孫さんかな)

咲(インターハイの時もやたら厳しい視線送られてたし、あの態度だし、やっぱり嫌われてるのかな……)

咲(二回戦の時あんなことしちゃったしなぁ……)

咲「ううっ、気まずいよぉ…」

咲(でもまたお野菜持ってかないといけないし……はぁ、憂鬱だなあ)

恭子(アカン、妙に気まずうて咄嗟に逃げ出してしもうた……ばーちゃんに申し訳ないわ)

恭子(それにしても宮永……あの様子だとご近所さんやろな、まさかすぎるで)


祖母「恭ちゃん、さっきは突然どうしたの?」

恭子「おばーちゃん、ごめんな。急だったからびっくりしてもうて」

祖母「そうだったの……咲ちゃんまた来ると思うから、その時にはちゃんと挨拶しておいてあげてね」

恭子「そうや、あの宮永…さん、ご近所さんなん?」

祖母「そうよぉ、すぐそこの畑をやってる農家さんでね。咲ちゃんはよく配達のお手伝いをしてるの」

祖母「前に恭ちゃんが来たときは、お父さんが持ってきてくれてたから覚えてないかねぇ……ほら、あの眼鏡をかけた優しそうな」

恭子(うーん、そうやって言われてみると確かに定期的に訪ねて来てた人がいたような…うろ覚えやけど)

祖母「宮永さんところもねぇ……奥さんがお姉ちゃん連れて出て行っちゃってから大変だから。なるべく優しくしてあげてね」

恭子「え、そうなんか……ってお姉ちゃん?」

祖母「そうそ、照ちゃんって言うの。よく本を読んでた物静かで賢い子でねぇ……でも咲ちゃんにはいつも優しくてねぇ……」


恭子(照…宮永照?それってあの宮永照なんか!? あの二人、何かしらの親戚関係かと噂されとったけど姉妹だったんか……)

恭子(ってか家庭事情ちょっと複雑そうやな……この話題はあんま触れん方が良さそうや)


宮永……宮永、咲。

忘れもしない、あの他者を蹂躙する圧倒的な麻雀と笑顔。
……そして、その笑顔の奥にあるどこか寂しそうな、何かに追いすがる様な瞳。

長くなりそうなばーちゃんの話を話半分に聞きながら、私の頭の中には宮永咲のあの瞳が焼きついて離れんかった。

――

恭子(ゆっくりできるんはええけど、流石にちょっと暇やな)

恭子(今日やろうと思ってた分の勉強はもう終わらせてまったし)

恭子(引退した身とは言え最近まで麻雀漬けやったしなー……正直はよ帰って麻雀打ちたいわ)


咲「ごめんください、宮永ですー」


恭子(この声、宮永か)


祖母「あら咲ちゃんこんにちは!」

恭子「……どーも」

咲「あ、お世話様です。いつものお野菜持って来ました」

祖母「はいはい、いつもありがとうねぇ。お父さんによろしく伝えといてね」

咲「はい、それじゃあこの辺で失礼します」

祖母「そうだ咲ちゃん!これから畑仕事の方に戻るんでしょ?」

咲「はい、そうですけど……」

祖母「それなら家の恭ちゃん行かせるから、こき使って」

咲「え、はい?」

恭子「ええええええ!?」

祖母「恭ちゃんもお世話になってるんだから。少しはお手伝い、ね!」

恭子「ええええ……」

咲「はあ、わかりました。それじゃ末原さん、お願いします」

恭子(言われるがままに畑仕事手伝ってるけど気まずいな……何で私がこんなこと…)

恭子(ってこの間のこと謝らなアカンな、流石に悪いことしたし)

ズルッ

恭子「うわっ!」

ズテーン

恭子「あいたたたた」

咲「もう、何やってるんですか……」

恭子「しゃーないやろ、こちとら畑なんて初めて入るんやから…うぅ」

咲「はぁ……」

恭子「はーあ、今のでスマホ割れたりしとらんかな……」

恭子「ってもうこんな時間か、そろそろ戻らんと」

咲「じゃあ今収穫した分を洗い場まで持ってくの手伝ってください。 それだけやって貰えれば十分なので」

恭子「あ、あぁ」

恭子「ふー、中々疲れるもんやなぁ」

咲「お疲れ様でした。あの……これ、よかったら持って行ってください」

恭子「え、これ今日収穫した分やんか!悪いわ流石に」

咲「いえ、末原さんにも迷惑かけてしまったみたいですし。手伝ってもらったお礼だと思っておいてください」

恭子「……分かった、ありがとう」

咲「それじゃ、私はこの辺で」

恭子「あ、あとこの間はいきなり逃げてごめんな。何かどうにも気まずうて……」

咲「大丈夫ですよ、そんなに気にしてませんから」

恭子「ああ、すまんな……って、そんなにってことはちょっとは気にしてるって事やんか!」

咲「そうかもしれませんね」フフッ

恭子(あ、今の笑顔…)



以前見た他人を蹂躙するような威圧感のある笑顔ではない、純粋な少女のイタズラっぽい笑顔。
その笑顔と、さりげない優しさ。
最初に宮永咲から受けた印象とはまったく違う。

私は何故か宮永咲の事が気になってしゃーなかった。
もっと知りたい、と思ってしまった。

――
あれから何日か経った。

一応宮永とまともにコミュニケーションをとることに成功した私は、それからは毎日宮永の家の畑に手伝いをしに行っとった。
最初はぎこちなかった会話も、まともに成立するレベルまではまともに話せるようになった、と思う。
多分、きっと、おそらく、やけど。

今日も私は、宮永の畑仕事を手伝いに来とる。


恭子「なあ、その鍬で土を耕すのやらしてくれんか?」

咲「鍬じゃなくてレーキって言うんですよ…、それにそんな簡単じゃ…」

恭子「まあまあ、見とってや!」

バッ

咲「あっ!」

恭子「んしょ、んしょ、こんな感じでええんか?」

咲「はぁ、もう……結構コツがいるんですよ。ほら、こんな感じです」

恭子「ふむ…難しいもんなんやなぁ」


恭子(何日か見てて思ったけど…)

恭子(こいつ普段は頼りない感じなのに、仕事中の横顔はやたら凛々しく見えるんやなあ)

恭子(ふふっ)

恭子「そんでな、その時ゆーこの奴がな…うわっ!」

ズルッ

咲「え?うわわっ」

ガッシャーンガラガラ


恭子「あいたたた……うぅ、すまん宮永」

咲「いったー……気をつけてくださいよもう」

恭子「何か私こっち来てからこけてばっかやな、ははは」

咲「ぷっ……末原さん、顔泥だらけ…くくっ」


咲「はい、末原さん立てますか?」

恭子「ああ、ありがとうな。すまんな、またやってもうたわ」

ゴシゴシ

咲「……ほっぺた、ついてますよ」

グイッ

恭子「うわ、やりよったな!お返しや!」

ゴシゴシ

咲「うわっ、もう!何するんですか!」

恭子「へへん、どうや!こっちやこっち!」

咲「こらー!」

――
咲「えーと、ここがこうだから……うーん」

恭子「何や宮永、そんなんが分からんのか?高校数学の基本やで」

咲「数学苦手なんですよね…、文系科目なら大丈夫なんですけど」

恭子「私で教えられる範囲なら教えたるわ、横失礼するで」

咲「え、あ、はい」

恭子「ええか?基本は公式を覚えるところからやけど…」


咲(う、末原さん顔近いよ……何か良い匂いするし……)

咲(前から思ってたけど、末原さんって無頓着な格好してるけどすっごく可愛いんだよね)

咲(もっとそういう格好すればいいのにな、頼んだら準決勝の時みたいな格好してくれたりしないかな)

咲(っ、私何考えてるんだろ……)

咲(何かここ数日で一気に親密になった気がする。最初にあった苦手意識ももう全然感じないし、会話に詰まらなくなったし)

咲(……末原さんの事、もっと知りたいな)


恭子「みーやーなーがー?聞いとるんか?」

咲「えっあっ…すみません、ちょっとボーっとしてました」

恭子「もう、折角人が教えてやっとんのに……ちゃんと聞いてくれな困るで?」

咲「反省してます、先生」

恭子「ホンマ調子のええ奴やで」

――
恭子「なあ、ホンマに私がお邪魔しちゃってええんか?」

咲「大丈夫ですよ、きっと皆喜ぶと思います」

恭子「所詮私は準決勝敗退の戦犯やで……インハイ優勝の清澄の面々になんて……」カタカタ

咲「もう、そういうのいいですから」


ガラッ


咲「失礼します」

優姫「じょ?咲ちゃんだじぇ!」

京太郎「よう咲、今日は早いんだな」

和「あれ、そちらの方は…?」

まこ「姫松の末原さんじゃないか、どうしてまた?」

咲「はい、実は私のご近所さんのお孫さんだったらしくて、数日前からこっちの方にいらしてたんです。折角だし皆に紹介しておきたいなと思って」

まこ「ほほ~、世間は狭いちゅうかなんちゅうか…奇妙な縁もあったもんじゃな」

恭子「ど、どうも…姫松の大将やってた末原恭子言います。今日はよろしゅうお願いします」

まこ「ワシは染谷まこじゃ、一応ここの新部長ってことになっとります。そっちの真瀬さんには世話んなりました」

和「原村和です、よろしくお願いします」

優希「片岡優希だじぇ!インターハイでは同じ速攻派として痺れる打ち回しだったじぇ!」

京太郎「どうも、須賀京太郎です!お客さんなんて珍しいから嬉しいですよ」

恭子「男子部員がおるんですね、姫松は部自体が男子と女子で分かれとったから新鮮ですわ」

京太郎「まあ男子部員って言っても俺一人だけなんですけどね。もっぱら雑用係ですよ」

咲「こんなこと言ってますけど、京ちゃんは進んでやってくれてるんです、任せっぱなしは悪いんで皆で手伝ってはいるんですけどね」

京太郎「まあたった一人の男子部員なんかより、全国に出た女子の方を優先させなくちゃな!」

恭子「随分親密なんやな…」

京太郎「ああ、咲とは中学の時からの付き合いなんですよ」

咲「学食のレディースランチが食べたいから~、って無理矢理付き合わされたり大変なんですよ」

京太郎「まあまあ。4年間同じクラスなんだしそのよしみって事で、な!」

咲「もう…、そんな調子乗ってるともうやってあげないよ?」

京太郎「さ、咲様!お許しください!」

咲「え~どうしようかな~」

優希「調子付いた犬にはお仕置きが必要だじぇ!」


恭子(……何でやろ、ただ仲の良いやりとりを見てるだけやのに……めっちゃモヤモヤするわ、蚊帳の外に置いてかれとるからかな?)

恭子(ついでに京ちゃんって呼ばれ方、私もばーちゃんにそう呼ばれとるから何やムズムズするわ)

恭子「まあ、なんや。図々しい言い方になってしまうけど、あんまり自分を卑下た事言うもんやないと思うで」

京太郎「えっ?」

咲「末原さん?」

恭子「一人だけの男子部員で、部自体もこれだけの規模や。そう言いたくなる気持ちも分からんでもないけどな」

和「………」

恭子「でも、かけがえのない同じ部活の仲間なんやろ? そんな仲間が自分の事を「なんか」なんて言いよったら須賀君はどう思う?」

京太郎「俺は……」

恭子「少なくとも、私は嫌やわ。そういうこと言ってまう須賀君もやけど……言わせざるを得なくなった状況を作った自分も嫌に思う、と思うで」

まこ「末原さん、あんた……」

恭子「だからな、自分のこと「なんか」て言うて諦める事、したらアカンよ。仲間……友達は大事にしたらな、な?」

京太郎「……はい。すみません、ありがとうございます」

恭子「いや、こっちこそ外部のモンが事情も知らんのに勝手なこと言ってごめんな」

恭子「ただ須賀君が「なんか」言うた時の、皆さんの表情な……あんまり明るくなかったから」


恭子(本当は焼もち半分に思ったことそのまま言わせてもらっただけなんやけど、言わんといた方がええ雰囲気やな……)


まこ「末原さん、あんたアツい人なんじゃのう」

和「でも、献身的に働いてくれている須賀君には言い出し辛いことでしたし……ありがたいです」

優希「感動したじぇ!」

まこ「なら、アンタはもう少し京太郎をコキ使うのはやめんさい」

優希「う……分かったじぇ……」


咲(自分の事を卑下って部分、末原さんには言われたくはないんじゃないかと思うけど)

咲(……でも、カッコいいなぁ)

恭子「そういえば、もう一人おったやろ?ウチの主将とやりあっとった…」

ガラッ

久「私ならここにいるわよ~」

咲「うわわ、びっくりした」

まこ「なんじゃ、部屋の前で待ち構えとったんか?」

久「ちょうど自己紹介しあってる声が聞こえたから、今入るのも悪いかな~と思ってね?」

久「というわけで私が元部長の竹井久よ、よろしくね末原さん」

恭子(何や奔放な感じの人やな、闘牌通りのイメージっちゃあそうかもしれんな)

恭子「ええ、よろしゅうお願いします」

久「しかし末原さん、あなた中々言うわねぇ」

恭子「…しっかり聞かれとったんですか。すみません、まだ会ったばかりやのに思わず……」

久「良いのよ、いつか誰かが言わなきゃいけないことだったと思うし」

久(本当は、私が言わなきゃいけなかったんだけどね……申し訳ないわ)

久「今のやりとり聞いてて、貴方の事一気に気に入っちゃったわ。是非仲良くしましょ!」

恭子「え、ええ。よろしゅう…」

恭子(お願いしてええんやろか、何か代行みたいな匂いを感じるわ)

咲「………部長?」ゴゴゴ

久(ッ、あんまりチョッカイかけたら怒られそうね)

久「それで、今日はここで打っていくのかしら?」

咲「そのつもりで案内しました」

恭子「その、ええんか?私なんかで」

咲「もう、末原さんが「なんか」だなんて言い出しちゃってどうするんですか……」

恭子「そうは言うてもな……いや、すまんな。私の癖なんや、これ」

恭子「さっきのは若干自戒の意味も込めとったんよ」

優希「アグレッシブだったり弱気だったり忙しい人だじぇ」

和「あの強豪姫松の大将を務められてたんですから、もっと自信を持ってください」

久「さぁさぁ、折角来てくれたんだし今日はがっつり打つわよ~!勿論須賀君にもバンバン入ってもらうから!」

まこ「こういうの、本来は新部長のワシの台詞なんじゃがのう……」

――
咲「ねえ、末原さん。川の方とか行った事ありますか?」

恭子「川?そういえばばーちゃんから近くに流れとるとか聞いたけど……行った事ないな」

咲「折角ですし良かったら一緒に行きませんか? ちょっと距離あるんで自転車出しますよ」

恭子「宮永、自転車とか運転できるんか…?」

咲「ちょっと、それどういう意味ですか? 山育ちだし都会っ子よりは体力ありますよ、多分」

咲「それに普段の配達は自転車で回ってるんですよ! 乗ったらビックリしますよ!」

恭子「すまんすまん、冗談やって。せやな、お願いしてもええ?」

咲「じゃあしっかり捕まっててくださいね。行きますよ!」

恭子「安全運転で頼むわ、おお~風が気持ちいい…」

咲「この辺は自然も多いですから、景色とかは見ててもつまらないかもですね」

恭子「そんなことあらへん。むしろ普段街中で生活しとるから何もかも新鮮やし落ち着くわ」

咲「姫松高校の辺りはどんな感じのとこなんですか?」

恭子「あの辺は典型的な大阪の下町って感じやね、近くに動物園とかあるで」

咲「へぇ…動物園って行った事ないです」

恭子「機会があったら遊びに来てや、案内するで」

咲「私方向音痴なんで都会とか行ったら二度と帰ってこれなさそうで…あ、この坂下ったら川ですよ」

恭子「都会にどういうイメージ持っとんのや、うわっ……」

――その時見た景色は、今でも忘れられへん。

生い茂る山の緑と、白い河原と川のコントラスト。
月並過ぎる言葉やけど、あまりの美しさに言葉を失ってしまった。

そして小さいようで、めっちゃ大きく見えた宮永の背中。
弱弱しいようで、儚げなようで、でも意外と意地悪で、意外と芯も強くて。
……誰よりも優しい。

そんな背中。


全てが合わさって、今まで見たどんな景色よりも素晴らしい物に見えた。


恭子「綺麗や……」ギュッ

咲(……ッッ!!)カァァァ

それからは二人で色んなことをやった。

自分の勉強ついでに宮永の勉強を見たり。
畑の手伝いも気がついたら大分手慣れて来た。

清澄の面々と遊びに行くこともあれば。
染谷さんの実家の雀荘にお邪魔もした。


――気がついたら、もう大阪に帰るまであと1日やった。


恭子(何かこっち来てからあっちゅう間やったな……もう明日には帰らなアカンのか)

恭子(宮永ともこれでお別れ、か)

恭子(何やすっきりせえへんわ)

恭子(数日一緒に居ただけやのに、もう離れたくないって思っとる)

恭子(どうしたんや私、こんな女々しい性格やったか)

恭子(……宮永………)

恭子「はぁ……」

祖母「恭ちゃん、恭ちゃん」

恭子「おばーちゃん、どしたん?」

祖母「今日ね、花火大会があるのよ。よかったら咲ちゃんでも誘って行って来たらどう?」

恭子「そういえば言うとったね。せやな、挨拶もせんといかんし…な」

祖母「ならばーちゃんのお古の浴衣を着付けてあげる!うんと可愛くしてあげるからね!」

恭子「え…えっ?」

優希「きょーたろー!こっちだじぇ!」

京太郎「こら、待てよ優希!」

久「本当に優希は元気ね~」

まこ「咲ももうちょっと見習ってほしいもんじゃな」

咲「私はこれでいいんですよ」

久「あら?あれって…」

咲「え?」

恭子「…………」(浴衣+いくのんカスタムVer)

咲「末原さん!」

優姫「なんと、カスタム末原さんだじぇ!」

京太郎「おぉ…おぉぉ!めっちゃ綺麗ですね!!似合ってますよ!!」

京太郎(そんなにおもちはない筈なのに、見とれちまった……!!)

久(あらあら、随分とおめかししちゃってまあ)

恭子「な、なあ宮永……今日の花火大会……一緒に、行かへんか……?」

咲「……………」

久「咲?」

咲「えっああ……すみません。…はい、行きましょう」

咲(可愛い過ぎて思わず固まっちゃったよ……)

優希「なら私たちも元から行く予定だったし、皆で一緒に行くじぇ~!」

京太郎「おお、いいなそれ!」

久「えっ」

咲「えっ」

恭子「えっ」

まこ「お前さんら……まあええじゃろ」

久(もうっ、そこは空気読みなさいよ!言い出しちゃったら一緒に行かざるを得ないじゃない!)

ヒュ~~~~ドォン
ドォン……パラパラパラ……
ドォン……ドドドォン……

ワイワイガヤガヤ
ワイワイガヤガヤ


優姫「ひょ~、今年も綺麗だじぇ!」

和「これで3回目になりますが、何度見てもここの花火はいいですね」

京太郎「町の規模で考えてもスゲー気合入ってるよな」

まこ「絶景じゃのぉ」

咲「そうですね。ねえ、末原さん……末原さん?」

恭子「……」ギュッ

咲(えっ……泣い、てる…?)

咲(……そっか、そういえば末原さん、明日帰っちゃうんだっけ)

咲(もう、居なくなっちゃうんだっけ……)

咲(…………)

咲(………………)

咲(よしっ)



咲「末原さん!こっち!」ガシッ

恭子「えっ?ちょ、宮永!?」

和「咲さん!?」

優姫「二人とも何処行くんだじぇ!?」

久「良いのよ、そっとしておいてやんなさい」

久(頑張りなさい、咲)

ヒュ~~~~ドォン
ドォン……パラパラパラ……
ドォン……ドドドォン……


恭子「みっ宮永っ!どこにっいくんやっ!」ハァハァ

咲「………」ハァハァ

恭子「宮永っどうしたんや!?」ハァハァ

咲「咲」

恭子「えっ?」

咲「私のこと、咲って呼んでください。私も恭子さんって呼びますから」

恭子「え、えええ?」

咲「ダメ、ですか?」

恭子「そんなことない!そんなことないで!」

恭子「…………咲」

咲「はい、何ですか恭子さん?」

恭子「あんな、私な……あ、その……」

咲「大丈夫、ゆっくり待ちますから。落ち着いて話してください」

恭子「ごめん……私な、明日には帰らなアカンねん。でも折角仲良うなれたのにこのままお別れなんて嫌や」

咲「はい」

恭子「だからな……あーその……携帯の番号とか…教えてくれへんか!?」

咲「……………」

恭子「……………」

咲「………恭子さん」

恭子「は、はひっ!」

咲「私、携帯持ってませんよ」

恭子「……はぁ?」

咲「携帯っていうか機械がどうにも苦手で」

恭子「そういや直接連絡したことは一回も無かったな…。はぁ~、何やそれ……人が折角一大決心したっちゅうのに……」

咲「すみません、腰折っちゃって」

恭子「ええよ、お陰で緊張抜けたし。なら……手紙書いて送っても、ええか? その、私なんかが送って迷惑やなかったら、やけど」

咲「あ、また「なんか」って言い方してる……」

恭子「いや、その…すまん。どうにも抜けんくって」

咲「ふふっ冗談ですよ。私、待ってますから」

恭子「ああ、必ず書くわ!必ず……」



恭子「だからまた…また、会ってくれますか?」

咲「……はいっ」



ヒュ~~~~ドォン
ドォン……パラパラパラ……
ドォン……ドドドォン……

浴衣いくのんカスタムの参考画像ください

このタイミングで寝落ちしてまいました…陳謝

カレンダー「○日恭ちゃんが来る日、○日恭ちゃん帰る日、がんばれ!!恭ちゃん」

カレンダー「おばあちゃんありがとう またね~~!!」


ガタンゴトン…ガタンゴトン…
ガタンゴトン…ガタンゴトン…


――ホンマ、あっちゅう間やったな。

長野、最初はインハイの事もあったしあんま行きたくないと思うとったはずなのにな。
今となってはあの青々しい山々も、けたたましく降る蝉時雨も、何かもが名残惜しいわ。

はは、再会だって誓ったっちゅうに……ホンマ女々しいことやな。


恭子「ん?あそこは…」


「……ほっぺた、ついてますよ」
「うわ、やりよったな!お返しや!」
「うわっ、もう!何するんですか!」
「へへん、どうや!こっちやこっち!」
「こらー!」


――またいつか、な


最後の最後で寝落ちやらかすとは……大変失礼しました

これをそのまま置き換えようとした感じの話でした

ココロオークション「蝉時雨」
https://www.youtube.com/watch?v=aAuSKalGKcw

>>45
僕も欲しいです、カスタム末原さん可愛過ぎる

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