奈緒「志保、ぱんつがあらへん」 (26)
ミリマスの奈緒と志保のSSです。
二回目の投稿なので、いたらないことあるかもです。
よろしくお願いします。
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「志保、ぱんつがあらへん」
「は?」
レッスンを終え、シャワーを浴び終え、更衣室に戻ったところだった。
隣の奈緒さんが何かごそごそやっている――裸のままだったので上からバスタオルをかけたのだけど、
作業を止めることはなかった――ので気にはなっていた。
「ぱんつがみつからへんねん」
着替え諸々が押し込まれたスポーツバッグをひっくり返しながら、奈緒さんが不思議そうな顔で言う。
色とりどりの飴が幾つも散らばったり、スマホも床に当たって遠くへ滑っていく。
あーもう壊れたらどうするんですか。
拾って返してあげる。ありがとう、と関西のイントネーションで返事。どういたしまして。
「みつからないって……ちゃんと穿いてきたんですよね?」
「志保は私を何だと思ってるねん。痴女か」
憮然とした表情で言う奈緒さん。
バスタオルは肩にかかっているだけなので、痴女と言えば痴女だった。
「おっかしいなぁ。ありえるんか、こんなこと」
「トンネル効果ですかね。百合子が喜びますよ」
適当なことをいう。
どうせシャツの間に挟まってるとか、そのくらいの話だろう。
ちゃんと畳んで入れないからそういうことになるんですよ。
反省を促すという意味もあるので敢えて捜索は手伝わず、私は自分の着替えを終えた。
鏡台に移動して、髪をドライヤーで乾かしブラシでとく。
鏡の端に映る奈緒さんは、おっかしいなぁ、と何度も呟きながら、鞄を隅々まで探していた。
あんまりじろじろみるのもあれか。
っていうか服着てくださいよ。
「本当にないんですか?」
「ないなぁ。盗みとかはいったんやろか」
「……ありえなくは、ないですね。あとでプロデューサーに……いや、律子さんに相談しましょうか」
「せやなー。あー、私も髪かわかそ。風邪引いてまう」
そんな事を言いながら、奈緒さんが私の隣に腰掛けた。
流石に上はもうTシャツを着て、下にはバスタオルを巻いていた。
未開の地から出てきた原住民みたいだ。
「髪、手伝いますよ」
「おぉ、助かるわー」
ドライヤーとブラシを受け取り、奈緒さんの髪をすく。
緩やかな癖っ毛はどうも私と似ているらしく、
奈緒さんが髪をおろしていると後ろ姿を偶に間違われる。
髪質とかは全然違っているんだけど。
「はー。生き返るなぁ。なんか、人に髪をといてもらうの、気持ちええわ」
「それはなんとなく分かりますね。美容室とか」
「なー? 頭洗ってもらうのって、なんであんな気持ちええねんやろな。
……はっ、あのテクをマスターすれば、風呂でヒーローになれるんとちゃうか!?」
大まじめに検討し出す奈緒さんに苦笑いする。
このまま美容師を目指すと言いかねない勢いだ。
今度ヘアメイクさんにきいてみましょう、と奈緒さんの肩を叩く。
別に名残惜しくはないけど、髪は乾いた。ドライヤーの電源を切る。
「で、どうするんですか」
「なにが?」
「下着ですよ。まさかその格好で外に出るつもりですか」
奈緒さんは鏡に映る自分の姿を眺める。
さすがの私でも無理や、と呟いた。せやね。違う。そうですね。
「律子さん呼んできましょうか?」
「あ~、だって事務所まで遠いやん。私、ここでずっとひとりなんてやや」
「じゃあ、電話で呼ぶとか」
「ぱんつこうてきてもらうんか。子どもやん」
「子どもでも下着はなくさないと思いますけど」
「なくしたんやなくて消えたの! ……まぁ、でも最終的にはそれしかないか」
最終的にも何も、既にそこまで追い込まれているのでは、という気がしなくもない。
「他に何か手があるんですか」
「あるよ」
笑顔でじっと私の方をみつめてくる。
後ろに何かあるんだろうか。何もない。私をみてるの?
「……何をニヤニヤしてるんですか。私、何も協力できませんよ」
「そんなことないやろ。志保には重大な任務がある」
そんな風に言って、奈緒さんはいっそうイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「というわけで、志保のぱんつ貸して」
「……はぁっ!?」
「私は知っているねんで。
志保はレッスン前にスポーツタイプのぱんつとブラにわざわざ替えていることを」
なんでみているんだ。へんたいなのかこのひと。
「いや、っていうか、換えを持ってくるとか普通ですから。
そもそもなんで持ってないんですか」
「か、換えのぱんつも消えたんや」
目を逸らしている。子どもか。
怒られてる時の弟と同レベルなんですけど。
「じゃあ逆に聞くけどな? 志保は私がこのままノーパンで外に出てもええんか」
「自業自得、因果応報って言葉がありますけど」
「百合子ー! 四字熟語より上手いこと返せる逸話とか教えてくれー!」
ここにいない人に蜘蛛の糸を要求するカンダタ。なんと哀れ。
っていうか蜘蛛の糸くらい思いついて。いや、あれは途中で切れちゃうけれど。
「いつもの私ならここまでいわへん。ノーパンでもなんでもどんとこいや」
なんでもどんとこい……。
ティーバックとかガーターベルトでも穿いているんだろうか……。
いや、なにを考えているんだ私は。
「せやけど今日はあかんねん! 珍しくスカートなんや!」
「はぁ……スカートで、ノーパン……」
「風が吹いてラッキースケベが起きたらどうなる!?」
「ノーパンがばれますね」
「アイドルとしてあかんやろ! スキャンダルや!」
更衣室で下着が消えている事自体が既にお笑いスキャンダルな気がするけど黙っておこう。
「私、そんなスキャンダルで消えとうない……もっとがんばって、故郷に錦を飾りたい……」
顔を掌で覆い、しくしくとしおらしくなる奈緒さん。
時折鼻を啜る音。
嘘泣きしたいなら指の間からちらちらみるのをやめた方がいいですよ。
「コンビニまででええかから……そこでぱんつ買ってトイレで穿いてくるから……」
「いや、私が買ってきますよ……協力するところはそこだと思います……」
「ひとりはいやや! 冷静に考えてみて?
どう考えても変質者の仕業やないか! まだ敷地内におったらどうしてくれんねん!」
「……ちょっと、怖いこと言わないでくださいよ。本当にそんな気がしてきたじゃないですか」
「私も自分で言ってこわなってきたわ。ここ警備とか本当に大丈夫なんか」
静まる。
かちこちと時計の音が響く。
「はやく出ましょう」
「見捨てないで!」
「蜘蛛の糸は切れるものなんですよ」
「お釈迦沢志保はまだ糸を垂らしてないやないか!」
あ、知ってるのか。
っていうかお釈迦沢志保ってなんですか。
「カンタも暴れたり下を蹴落とさなければ天国へいけたんやで。
私も大人しく昇っていくから!」
「えー……」
そんな単純な話だったろうか。あとカンダタです。
「この通りや! これからはちゃんと替えも持ってくるし、ロッカーの鍵もしめるから!」
「しめてなかったんですか! やっぱり自業自得じゃないですか!」
よよよ、と泣き崩れる奈緒さん。
「わかった。みんなには伝えておくよ。
志保は私をノーパンで外へ放りだし、変質者の肩を持つ変態さんやったと」
謂われのない誹謗中傷で、垂れてもいない糸が切れる寸前までいっている気がしなくもない。
私は鞄を抱えながらぐるぐる部屋の中を回り悩む。
うーん、どうすればいいんだろう。
自業自得の面もあるけど、奈緒さんが被害者なのは確かだし……。
いや、そもそも、ぱんつ……下着の貸し借りとかはありなのか。
いま鞄の中に入っているのはレッスンの時に穿いていた下着だから汗で湿ってるし……。
それよりは今穿いているやつの方がまし、かな……?
いやいや待て待て、それだと今穿いているのを脱いで奈緒さんに渡すのか。
なんかそれ変態っぽくない?
「志保、一つ言いたい事があるんやけど」
「なんですか」
「そんなに顔を真っ赤にされて唸られると私も恥ずかしい」
「だ、誰のせいでこんなことに!」
しかも別に自分は顔赤くなってないじゃないですか。不公平ですよ!
「なにを想像しとるかしらんけど、別に大したことないやろ。
下着の貸し借りくらい、みんな普通にしとるで」
そうなのか? そうなんだろうか。
もう何だか考えるのもつらくなってきた。
あとでみんなに笑われた方がまだ楽な気がする。
「分かりました。じゃあもう心を無にします」
「お、おう。なんか大仰やな」
何も考えない。
スカートの中にそっと手を入れ、いつも脱ぐように下までおろす。
ただ、スカートが捲れるのはいやなので気をつけていたら、随分とゆっくりになってしまった。
ある程度までおろしたら、右足を軽く上げてくぐるように。
そのまま開いた穴に指を入れ、左足からも抜いた。
ちょっと温かい。
こ、これを奈緒さんが……いや考えるのはやめよう。
私はぱたぱたと小さく折りたたみ、奈緒さんへはいっと突き出す。
「ま、まだ温かいですけど、気にしないでください」
なにをいっているんだ私は。いや、そもそも、なにをやっているんだ私は。
しかも奈緒さん、今度は何故かちょっと頬を赤くして、ちらちらと私をみているんだけど。
もしかして私、何か間違えたの。
「あ、あのな、志保……その、私が貸して欲しかったのは、もう脱いでいたスポーツタイプの方なんやけど……」
見事に間違えていた。脱ぎ損だった。
いやでもちょっと待って、これ認めたら私本当に恥ずかしい人なんだけど! 抵抗しなきゃ!
「あ、あっちは駄目ですよ! 汗かいてるんですからっ!」
「だからって、脱ぎたてを渡してくるとか、私も、その、ちょっと恥ずかしいねんけど……」
「いやいやいや私の方がどう考えても恥ずかしいですから!
そっちが受け取らずにもじもじするとかおかしいでしょう!」
「志保、ぱんつもボーダーっていうか縞パンなんやね。好きなん?」
「いいじゃないですか別に何か悪いことでもありますか!?」
「脱ぎたて縞々ぱんつ」
「一々言わなくていいですから! っていうか受け取ってくださいよ!
私もいまノーパンなんですよ! ノーパン沢志保なんですよ!」
何か笑いの壺に入ったのか、もじもじしているところから一転、お腹を抱えて笑い出す。
はらりとバスタオルが落ちて、私は思わず目を剥いた。
「は、穿いてる……」
「あ、バレてもうた」
「えっ、なに、どういうことなんですか!?」
奈緒さんが楽しそうに笑顔を浮かべる。
「いやぁ、志保はからかいがいあるなぁ。最初にみつからへんかったのは本当やけど。
志保が鏡向いた辺りでみつけたんやで。気づいとらんかったから、こう、からかえるかなって……」
このカンダタ、糸であやとりしてるんですけど!?
私が切るまでもなくコイツは地獄行きですよ!
「…………」
「あ、志保、怒った?」
「怒っていません。呆れているだけです」
「じゃあまずぱんつ穿こうか。ノーパン沢志保さん」
「えぇ、穿きますとも。このまま外に出て風が吹いたら痴女スキャンダルですからね」
いそいそと穿く。鞄を手に取った。
「じゃあ、お疲れ様でした。また明日、お元気で」
「怒っとるやんけ!」
「ぜんぜん怒ってないですけど。呆れてるだけです」
「ご、ごめん、からかいすぎた! あ、ちょっと待って、まだ私スカートはいてない! 置いてかないで~!」
奈緒さんの声が徐々に遠くなる。
まったく、変なことばっかりするんだから。
冷静に考えたら下着の貸し借りとかおかしいでしょ。
すぐに奈緒さんが息を切らしながら追いついてくる。
ごめんな~って素直に謝ってくるけど、どうせ3日後、いや、明日にはすぐ忘れているんだ。
建物から出たら、夏の日射しが強い。
じりじりと焼けるような熱。
さっきまでレッスンで沢山汗をかいていたから、のどが渇いた。
冷たいものが欲しいな。
「……謝罪をする際は、誠意をみせるべきだって思いますけど」
「みせるみせる! コンビニでぱんつでもこうたろうか?」
3分も経たずに煽ってくる奈緒さんに再び呆れながら、
まぁ、こういう人だから別にいいんですけど、とひとりごちる。
「志保、なにかいった?」
「いえ、別に。ハーゲンダッツが食べたいなって思っただけです」
「容赦なさすぎやろ……あっ、せや!」
奈緒さんが何か思いついたように走り出す。
私より速かったらハーゲンダッツやって声が夏に響いた。
今更走っても追いつけないし、別になんだってよかった。
ハーゲンダッツでも、爽でも、スーカーカップでも。
この暑さなら、二人でなら、何を食べたって美味しいだろう。
全力疾走してちらちら下着がみえそうになっている奈緒さんに、
夏の日射しが細い線になって降り注ぐ。
糸みたいなそれは、あるいはコットンだろうか。
そんな馬鹿な事を考えながら、私も少しだけ歩く速度をはやめた。
~おわり~
ぱんつぱんつ!
以上です。
読んで頂きありがとうございました。
ふりまわされる志保カワイイ
乙でした
>>2
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