仮面ライダーぼっち&ぼっちライダーディケイド(完結編)   (635)

以前こちらに投稿していた『ぼっちライダーディケイド』

(仮面ライダーディケイドとなった八幡が、アニメやラノベの世界と融合してしまったライダーの世界をめぐります)

の完成版、及び、その前日譚に当たる『仮面ライダーぼっち』(仮面ライダー龍騎とオレガイルのクロスです)

の改稿版となります。

前作を読んでくださっていた皆様、スレを落としてしまい申し訳ありませんでした。

今作ではそのようなことがないようにしますが、更新速度は遅くなるかもしれません。

それでも良いという皆様、どうぞお付き合いください。

なお、作品の都合上、一部設定を変更する可能性があります。

また、作品への批判、感想、質問などをいただけると、とてもうれしいです。

(あまりないとへこんであまり更新できないかも……?)






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439474059

『青春とは、嘘であり欺瞞である。

青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。

自らを取り巻く環境すべてを肯定的にとらえる。何か致命的な失敗をしたとしても、それ

すら青春の証とし、思い出の一ページにするのだ。

例を挙げよう。彼等は万引きは集団暴走などの犯罪行為に手を染めては、それを若気の至

りという。試験で赤点を取れば、学校は勉強をするためだけの場所ではないという。

彼等は青春のニ文字の前でなら、どんな一般的な解釈も捻じ曲げてみせる。

彼らにかかれば、いかなる出来事も青春を彩るスパイスでしかない。

仮に失敗することが青春の証だというのなら、友達作りに失敗したものもまた、青春ど真ん中でなければおかしいではないか。しかし彼等はそれを認めないだろう。何のことはな

い。すべては彼らのご都合主義でしかないのだ。

なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も、糾弾されるべきものだ。彼等は悪だ。

結論を言おう。青春を謳歌せし者たちよ、砕け散れ。』

「高校生活を振り返って」という作文の課題に対して以上の物を提出した俺こと比企谷八

幡は、職員室で説教を受けていた。

「なぁ、比企谷。私が君たちに出した課題は何だったかな?」

現代文担当の教師平塚静が俺に詰問する。

「……はぁ、高校生活を振り返って、だったと思いますが」

「それで、どうしてこんなものが出来上がるんだ?」

「どうしてといいましてもね……俺は素直に思った事を書いただけですよ?」

「君は素直になると犯行声明を書いてしまうのか?」

静がため息をつく。

「犯行声明って……ずいぶん物騒なことを言いますね」

「物騒なことを書いたのは君なんだがな。……君の眼は腐った魚のような目をしているな」

なんでいきなり俺の眼の話になるの?今までの流れとまったく関係ねぇだろ。

「そんなにDHA豊富そうに見えますか?賢そうですね」

ぴくっ、と、静のこめかみに青筋が現れる。

おーこわ、怒りっぽい人だなぁ。

「比企谷、一応言い訳くらいは聞いてやる」

「言い訳、ね。その時点で俺の意見を認める気がないじゃないですか。そんな人に言うことはありませんよ」

「ほう、言うじゃないか。だがこういうときは普通、自分のことを省みると思うのだがな」

「普通、ね。嫌いなんですよその言葉。俺いっつも集団からはじかれるような人間なんで」

「屁理屈を言うな、小僧」

「小僧って……そりゃあなたの歳からしたらゴフゥッッ!」

腹パンされた。なんだこいつ……。

「何すんすか……」

「言葉では伝えられないこともあるだろう」

「あんた国語教師だろうが。早々に言葉の力をあきらめてんじゃねぇよ」

「ふっ、国語教師だからこそさ。言葉にはできることとできないことがあると知っている」

「わかりましたよ、書き直せばいいんでしょう書きなおせば」

「当たり前だ。それと比企谷、きみに質問がある」

「なんですか?」

不機嫌さを隠さずに俺は言う。

「君は、部活とかやっているのかね?」

「いいえ」

「友達とかはいるのか?」

「平等を重んじるのが俺のモットーなんで、特に親しい人間は作らないようにしてるん

すよ」

「つまりいないんだな?」

「まぁ、そういう解釈もできますね」

「やはりそうか!私の見立て通りだな!」

そんな俺を傷つけるだけの事実確認がしたかったのか?

「彼女とか、いるのか?」

「今はいないですね」

まぁいたことないけどね!

「そうか……よし、こうしよう。レポートは書き直せ」

まぁ、異論はない。さっき自分で認めたしな。

「はい」

「だが、君の心ない言葉に私が傷ついたのも事実だ。女性に年齢の話をしないのは常識だろう」

「そっちは俺の体を傷つけたんだからお相子でしょう」

「体の傷はすぐに治る、だが心の傷は一生治らないんだよ」

知ったこっちゃねぇよんなもん。

「罪には罰を与えないとな。君には、奉仕活動をしてもらう」

「奉仕活動……?」

なんだよ、面倒くせえな。こいつ俺の揚げ足とって自分の仕事手伝わそうとしてるんじゃ

ねぇの。仕方ない……今後は当たり障りのないことを書くようにしよう。

そう自分に言い聞かせる。

「付いてきたまえ」

平塚先生に連れられて、我が総武高校の特別棟の廊下を歩く。

嫌な予感がする。というかこの人といて嫌な予感がしなかったことがない。

階段を上り、ついに最上階の四階まで来た。

「着いたぞ」

先生が立ち止ったのは何の変哲もない教室。プレートには何も書かれていない。

俺が不審に思っていると、先生はがらりとそのドアを開けた。

教室内には机と椅子が無造作に積み上げられており、そのスペースの約半分が埋め尽くさ

れている。

物置代わりか何かだろうか。特別な内装などは一切ない、普通の教室。

その中心に、彼女はいた。

座って本を読んでいる少女は、まるで世界の終わりが来ても彼女だけはそうしているんじ

ゃないかと思わせるような、そう錯覚させるような雰囲気。

不覚にも俺は見とれてしまった。

彼女は来訪者に気付くと、本を閉じてこちらを見上げる。

「平塚先生、ドアを開ける時にはノックをお願いしたはずですが。いつになったらあなた

には常識が身につくんですか?」

端正な顔立ち。しかしそこから放たれた言葉は刺々しかった。

「ノックしても君は返事をしないだろう?」

「返事をする前に先生が入ってくるんですよ」

彼女は不満そうな顔をする。

俺は、この少女を知っている。二年J組雪ノ下雪乃。常に学年一位をとる秀才。その上容

姿端麗で、この学校で知らない者はいないというほどの有名人だ。

「それで、そのぬぼーっとした人は?」

ぬぼーって、お前。俺は水地面タイプのポケモンじゃねぇッつーの。

「彼は比企谷八幡。入部希望者だ」

「二年F組比企谷八幡です。って、おい、入部ってなんだよ」

「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは認めない」

「そうですか……」

俺はくるりと背を向けて歩き出す。俺は早々と帰ることにした。

「おい!どこへいく!」

「いや、口答えすんなっていったのはそっちじゃないですか。だから行動で示してるんで

すよ」

「そんな言い訳が通じると思うのかね」

「俺は別に悪いことしてませんからね。先生に年齢の話をしたからって理由だけで部活なんてまっぴらごめんですよ」

「知らないのか?女性に年齢を聞くというのは、それだけでセクハラになるんだぞ?」

「別に聞いたわけじゃねーし。なら訴えるなりなんなりご自由にどうぞ。次は法廷で会い

ましょう」

ったく。こんな茶番に付き合っていられるか。

「デス・バイ・ピアーシングッッ!!」

何故ブラックロータスの必殺技を?と聞く前に俺は勢いよく蹴り飛ばされていた。

「何すんだよ!」

「うるさいうるさい!口答えするな!いいからここで部活しろ部活しろ部活しろー!」

なんだこの人……子供かよ。

平塚先生に腕を掴まれ、再び教室内に引き戻される。

「というわけで、彼はなかなか根性が腐っている。そのせいでいつも孤独な哀れむべき奴

だ」

こいつ本当に殴ってやろうかな。

「人との付き合い方を学ばせれば少しは変わるだろう」

暴力でしかコミュニケーション取れないあんたが言っても全く説得力ねーけどな。

「こいつを置いてやってくれ。彼の孤独体質の改善が私の依頼だ」

「それなら先生が殴るなりなんなりして躾ればいいじゃないですか」

なんてことを言いやがるんだこの女は。

「私だってそうしたいが最近そういうのはうるさくてなぁ」

テメェさっき思いっきり俺に攻撃しただろうが。

「お断りします。その男の下卑た目を見ていると身の危険を感じます」

雪ノ下が襟元をなおながら、俺を睨みつけながら言う。

「はっ!言ってくれるなぁ自意識過剰女」

「自意識過剰、ね。仕方ないじゃない。私はあなたと違って美しいんだから」

その通りなのが腹正しいところである。

「安心したまえ、その男は自己保身にかけては長けている。決して刑事罰に問われるよう

なことはしない。こいつの小悪党ぶりは信用していいぞ」

「釈然としねぇ……。それは常識的判断ができるとか言えないんですかね」

「小悪党……。なるほど」

なんで初対面の相手にこんなに罵倒されなならんのだ。

「まぁ、先生からの依頼とあれば無碍にはできませんね。いいでしょう、その依頼、受け

ましょう」

「そうか、なら後は頼んだぞ」
あーああ、面倒事に巻き込まれちゃったよ。ポツンと取り残される俺。

なんだあいつは。もしかして美少女と二人で同じ部活をやっていれば、アニメやラノベよ

ろしく人気者になる!とでも思っているのだろうか。だとすればとんだ見当違いである。

訓練されたぼっちは甘い話など断じて持ち込ませない。

それに俺は、好きで一人でいるのだ。他人にどうこう言われる筋合いはない。

……つーか俺は、ここでこの美少女様と何をすればいいんだろう。

「何か?」

俺の視線に気づいたのだろうか。雪ノ下が声をかけてきた。

「ああ、どうしたものかと思ってな」

「何が?」

「いや、俺何も説明受けてなくてな。ここがなにする場所なのかもいまだにわかってない」

俺がそういうと、雪ノ下は不機嫌そうに本を閉じ、こちらを睨みつけた。

こいつ睨まないと会話できねぇのか?

「では、ゲームをしましょう」

「ゲーム?」

「そう、ここが何部かを当てるゲームよ」

「あんた以外に部員は?」

「いないわ」

ふむ、そうだな……。本物のぼっちには、常人にはない能力が一つだけある。それは、深

い思考力だ。普段の生活で他人との会話にエネルギーや時間を使わないため、その分自分

の中での思考は高度なものとなる。

特別な道具を必要とせず、一人でも活動が成り立つ。

ピカンと来たぜーッ!

「文芸部、だな」

「違うわ。……[ピーーー]ばいいのに」

なんでクイズに失敗しただけで死ななならんのだ。

「あー、お手上げだお手上げ。わかんねぇよ」

「今私がこうしてあなたと会話していることが最大のヒントよ」

なんだそりゃ?さっぱり正解に結びつかない。

「比企谷君、女子と最後に会話したのはいつ?」

……そう、あれは二年前の六月のことだ。

女子『ねぇ、ちょっと暑くない?』

俺『ていうか、蒸し暑いよね。』

女子『え?あ、うん。』

まぁ、俺に話しかけられてたわけじゃないんだけどね。俺の黒歴史の一つである。

「持つ者が持たざる者に救いの手を差し伸べる。これを奉仕というの。ホームレスには炊

き出しを、もてない男子には女子との会話を。困っている人に救いの手を差し伸べる。そ

れがこの部活よ」

「ようこそ奉仕部へ」

ふむ、つまりはスケット団みたいなものか。

「優れた人間には、哀れな人間をすくう義務がある。あなたの問題を強制してあげるわ。感謝なさい」

憐れむべき人間……か。そんなふうに思っている奴には、誰も救うことなんかできねぇよ」

「へぇ……口だけは立派ね」

「つーかお前俺とあってから十分もたってねぇだろうが。俺が口だけかどうかなんてわか

らないんじゃねぇの?」

「……やはり、あなたの孤独体質はそのひねくれた考え方が原因のようね。それに、目も腐っている」

こいつも俺の眼のこと言うんだ……。なに?俺の眼が腐ってるっていうのは人類の共通認

識なの?

「目のことはいいだろ」

「そうね、今さら言ってもどうしようもないものね」

「そろそろ俺の両親に謝れよ」

「確かにそうね。いちばん傷付いているのはご両親よね」

「もういい、お前には罪を認めるということができないんだな。なら、これ以上話すこと

はない」

「そうね、ある程度の会話シュミレーションは終了ね。私のような美少女と会話ができた

のだから、大抵の人とは会話できるはずよ」

雪ノ下は満足そうな表情を浮かべている。

「はいはいそれはどうも」

「納得していないようね……」

突如、がらりとドアが開けられる。

「雪ノ下、苦戦しているようだね」

「この男がなかなか自分の問題を認めないんです」

問題ね……。

「いい加減にしろよ、あんたら。さっきから変革だの問題だのと好き勝手に言いやがって。

俺はそんなもの求めてない。あんたらの自己満足のために俺を巻き込むな」

「はたから見ればあなたの人間性には大きな問題があると思うわ。そんな自分を変えたい

と思わない?向上心が皆無なの?」

「少なくとも、お前らよりはまともな人間だと思ってるよ。変わるだの変われだの、他人

に俺の『自分』を語られ宅たくねぇンだよ。つーか、人に変われと言われた程度で変わる

なら、そんなもんは『自分』じゃねぇ」

「自分を客観視できないだけでしょう?」

「あなたのそれは、ただの逃げよ」

「変わることだって、現状からの逃げだ」

「それじゃぁ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」

「ああ、その通りだ。お前にはだれかを救うことなんてできない」

俺と雪ノ下は激しく睨みあう。

「二人とも、落ち着け」

険悪な状態の俺達を、平塚先生が止める。

「それではこうしよう。今から君たちのもとに悩める子羊たちを送り込む。彼らを君たち

なりに救ってみたまえ。そして自分の正しさを証明するといい。スタンドアップ!ザ!ヴ

ァンガードっ!!」

「お断りです。それと先生、年甲斐もなくはしゃぐのはやめてください。見ていて気分が

悪いので」

「と、とにかくっ!勝負しろったら勝負しろっ!お前らに拒否権はないっっ!」

俺達は表情を曇らせる。こんなとこだけは息ぴったりである。

「むぅ……なら君たちにメリットを用意しよう。勝った方がなんでも命令できる、という

のはどうだ?」

なんでも……か。

「この男が相手だと貞操の危険を感じるのでお断りします」

「貞操、ね。そんなもんじゃないさ。俺が勝ったらお前には、死んでもらう」

「へぇ、おもしろいわね。いいわ、その勝負、受けてあげる」

「決まりだな」

しまった……いつの間にか乗せられていた……。

そんな俺達を見て、平塚先生は嫌らしい笑みを浮かべていた。

「勝負の裁定は私が下す。まぁ、適当に頑張りたまえ」

そう言って、平塚先生は部室を去った。残された俺達は、それ行こう一切口を利かずに、読書をして、チャイムが鳴ると帰路に就いた。

ああ、面倒臭いことになっちまった。

さて、あんなことがあった次の日のことである。

今日もやっと、最後の授業が終わった。早く帰ること風のごとし!

部活?何それ。食べられるの?

教室のドアを開けるとそこには、悪魔がいた。

「やぁ、比企谷。今から部活かい?」

「……ええ、その通りです。」

「そうかそうか。それは良かった。逃げたらどうなるか、わかっているな?」

「わかってますよ。」

しぶしぶ俺は、奉仕部の部室へと向かう。その足取りは当然重い。

「ん?なんだこれ?」

三階から四階へとつながる階段で、俺は黒いバックルを見つけた。拾い上げてみてみるが、

表にも裏にも何も書かれていない。真っ黒だ。

よく見てみると、バックルには2枚のカードが挟まれていた。

「SEAL」と書かれたカードと、「CONTRACT」と書かれたカードだ。

トレーディングカードか何かだろうか?まぁいいや。後で紛失物入れに入れといてやろう。

そう思い、ポケットの中にバックルを入れる。

部室に着くと、その鍵は開いていた。

椅子にすわり、一人読書をする。まぁ、こんだけでいいんならさほど生活に支障はないかな。

それは、突然の出来事だった。

「うっっ」

今までに味わったことのないような激しい頭痛に襲われた。

気持ちわりい。なんなんだこれ……。

次の瞬間、俺は自分の目を疑うことになる。

教室の窓から、突如糸が伸びてきて、俺の体に巻きついたのだ。そしてその窓の中には、巨大なクモの化け物が。

「が…はっっ…」

ものすごい力で糸に引っ張られる。

「や、めろ……くそ、ほんとに何なんだよ……」

そして俺は、

鏡の中に入った。

何を言っているんだと思うだろうが、事実なのだから仕方がない。

間違いなく、俺は鏡の中に入ったのだ。

その瞬間、重力が消えた。謎の浮翌遊感に見舞われる。頭痛はいつの間にか消えていた。

浮翌遊感が消え、目を開けるとそこは、先ほどと変わらぬもとの奉仕部の部室だった。

いや、変わらないわけではない。そこには、俺を引きずりこんだクモの怪物がいた。

「ひうっっ……」

俺は情けない声をあげてしまう。ふと、自分の手を見ると、それは先ほどまでの自分の物ではなかった。

灰色なのだ。手が、灰色。灰色で、金属質な感じがする。

「ああ?」

これは、夢だ。そうに違いない。いやだって鏡の世界なんて存在するはずがないし、俺の体おかしくなってるし。

すると、クモが巨大な脚で俺に攻撃を仕掛けてきた。

「ガァッ!」

痛い。めちゃくちゃ痛い。たとえ夢だとしても痛いのは嫌だ。俺は逃げようと思い、動こうとしたがその前に蜘蛛が糸を吐き出し、再び俺の体を拘束した。

身動きが取れない俺に、蜘蛛は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

「ガキィン!」
その足が、俺の体を抉ろうとしたまさにその時。
何者かがその攻撃を止めた。
「驚いたわ。まだ契約していないライダーがいるなんて。」
どこか蝙蝠を連想させるような体の色をした、俺と同様金属で身を覆われたそいつは、俺にそう語りかけた。
「け、契約……?」
「どうやら何も知らずにきてしまっているようね。後ろで隠れてなさい。」
「Swword Vent」
そいつは俺が手にしたのと同じようなバックル(ただ、そいつのそれには中央に蝙蝠型のマークがあった。)からカードを取り出し、持っていた短剣にスキャンさせると、空から細長い槍が降ってきた。
その槍で蜘蛛に攻撃を繰り出す。
なるほど、あれで武器を出すのか。
「Swword Vent」
俺もバックルからカードを取り出し、(いつの間にかカードが一枚増えていた。)左手の機械にスキャンする。
同じように、空から剣が降ってくる。
「よしっっ!」
しっかりと剣を両手で握る。
「ウオオオオオオオッッ!」
「馬鹿、やめなさい!」
俺の振るった剣が、蜘蛛の足を切断する。
……そうはならなかった。無残にも砕け散ったのは俺の剣の方だった。
「ブランク体でモンスターが倒せるわけないでしょう!いいから下がってて!」
「す、すまん……。」
「キン!ガキィン!」
そいつは、蜘蛛と激しい戦いを繰り広げる。すげえ迫力だな。
「これで決めるわ!」
「Final Vent」
すると、どこからともなく蝙蝠が他のモンスターが現れる。
「ま、またモンスター!?」
「ダークウイングッ!」
そいつはそう叫び、高くジャンプする。すると、その体を蝙蝠が覆った。どうやらあいつは味方らしい。
蝙蝠と合体し、ドリルのような形で、敵に向かって急降下する。
「飛翔斬っっ!」

すると、クモが巨大な脚で俺に攻撃を仕掛けてきた。

「ガァッ!」

痛い。めちゃくちゃ痛い。たとえ夢だとしても痛いのは嫌だ。俺は逃げようと思い、動こ

うとしたがその前に蜘蛛が糸を吐き出し、再び俺の体を拘束した。

身動きが取れない俺に、蜘蛛は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

「ガキィン!」

その足が、俺の体を抉ろうとしたまさにその時。

何者かがその攻撃を止めた。

「驚いたわ。まだ契約していないライダーがいるなんて。」

どこか蝙蝠を連想させるような体の色をした、俺と同様金属で身を覆われたそいつは、俺

にそう語りかけた。

「け、契約……?」

「どうやら何も知らずにきてしまっているようね。後ろで隠れてなさい。」

「Swword Vent」

そいつは俺が手にしたのと同じようなバックル(ただ、そいつのそれには中央に蝙蝠型の

マークがあった。)からカードを取り出し、持っていた短剣にスキャンさせると、空から細

長い槍が降ってきた。

その槍で蜘蛛に攻撃を繰り出す。

なるほど、あれで武器を出すのか。

「Swword Vent」

俺もバックルからカードを取り出し、(いつの間にかカードが一枚増えていた。)左手の機

械にスキャンする。

同じように、空から剣が降ってくる。

「よしっっ!」

しっかりと剣を両手で握る。

「ウオオオオオオオッッ!」

「馬鹿、やめなさい!」

俺の振るった剣が、蜘蛛の足を切断……そうはならなかった。無残にも砕け散ったのは俺

の剣の方だった。

「ブランク体でモンスターが倒せるわけないでしょう!いいから下がってて!」

「す、すまん……」

「キン!ガキィン!」

そいつは、蜘蛛と激しい戦いを繰り広げる。すげえ迫力だな。

「これで決めるわ!」

「Final Vent」

すると、どこからともなく蝙蝠が他のモンスターが現れる。

「ま、またモンスター!?」

「ダークウイングッ!」

そいつはそう叫び、高くジャンプする。すると、その体を蝙蝠が覆った。どうやらあいつ
は味方らしい。

蝙蝠と合体し、ドリルのような形で、敵に向かって急降下する。

「飛翔斬っっ!」

その攻撃は、蜘蛛の銅を貫いた。

大きな爆発を挙げて、蜘蛛が消滅する。

「すげぇ……」

戦いを終えたそいつが、俺の方に向かってくる。

「あなた、いったい何者?どうも巻き込まれただけのようだけど」

「な、なぁ!これっていったい何なんだよ!教えてくれ!」

「本当に何も知らないのね。まぁ、いいわ。元来た道を戻りなさい」

「元来た道?」

「鏡からこの世界に入ったでしょう。入ってきた鏡に体を触れれば、もとの世界に戻れる

わ」

「そ、そうか……グオッッ!」

突如空から、炎が降ってきた。見上げると、赤い龍のモンスターが空からこちらを見上げ

ていた。

「無双龍、ドラグレッダー……」

そいつはつぶやく。

「ハアアァァァッッ!」

叫び、龍のモンスターに向かっていく。

しかし、相手は空中にいるんだぞ?攻撃届くのか?

「Advent」

少女がカードをスキャンすると、再び蝙蝠のモンスターが現れる。

そして、そいつの背中にくっつくと、そのまま空中に飛び上がった。

なるほど、こうやって空中戦をするつもりか。

しばらくは力が拮抗していたが、敵は炎攻撃という遠距離技を持つのに対し、どうもあい

つはそれを持たないようだ。

徐々に押されていた。

「グガァァッッ!!」

龍が頭からそいつに突進を仕掛ける。その勢いを殺しきれず、そいつは思い切り地面に叩

きつけられる。

「ガァァーーーッ!」

追い打ちをかけるように、龍が空中から炎を吐く。

やばいだろ。このままじゃあいつやられちまうぞ。

俺はとっさにそいつのそばに駆け寄る。

「や、やめなさい。あなたでは何も……」

いや、一つだけ可能性がある。おれがもっている「Contract」というカード。こ

れは確か、「契約」とかそういう意味だったはずだ。

あいつが蝙蝠のモンスターを味方にしているのを見る限り、このカードを使えば、龍のモ

ンスターを味方にできるかもしれない。

まぁ、この状況ではそれ以外に手はないだろう。

「おい!龍野郎!これを見ろっ!」

「ば、バカ……そんな事をしたら!」

龍が、俺に突進してくる。

くそ、無理だったか……?

しかし、俺が吹き飛ぶことはなかった。

龍のモンスターは、俺がかざしたカードに吸い込まれていった。

カードの絵柄が変わる。

先ほどまで渦が描かれていたそこには、赤き龍の絵が。

「Drug Redder」

「ドラグ……レッダー……」

突如、俺の体に変化が起きる。

さっきまで灰色だったその体は、深紅の色に染まる。

力が、みなぎる。最後に、真っ黒だったバックルに、龍の紋章が浮かび上がった。

「仮面ライダー……龍騎……」

そいつは静かに、つぶやいた。

「龍騎、ライダーになったからには、あなたは私の敵よ!」

そいつはいきなり、俺に攻撃を仕掛けてきた。

「な、何だ!何のつもりだ!」

「ライダーは、共存できないっ!」

「なに言ってやがる!」

「冥土の土産に聞きなさい。私は……仮面ライダー、ナイトっ!」

そいつ、いや、ナイトは、鋭敏な動きで槍を突き出す。

「くっそっ!とち狂いやがって!」

俺はバックルのカードを探る。契約したことで、そのカードは増えていた。

「何かないか……これだ!」

「Guard Vent」

龍の腕を模した楯2つを手に持ち、攻撃をしのぐ。

しかし、守るだけではジリ貧だ。

「この野郎、いい加減にしろっ!」

「Strike Vent」

龍の頭を模した武器を、左腕に装着する。

「くらえッッ!」

それを突き出すと、勢いよく炎が噴き出した。

「グウウッッ!」

敵がのけぞる。

ったく、こっちには戦う気なんかないっつーの!

「ちょっとだけ時間を稼いでくれよ」

「Advent」

契約した龍が、敵に襲いかかる。

その隙に、俺は窓と俺の間にいたナイトを通り過ぎる。

「あばよっっ!」

入ってきた奉仕部の窓に飛び込み、俺は元の世界に戻った。

謎の世界から帰還した俺は、龍の紋章が浮かび上がったバックルを眺める。

「ガララッ」

そこに、雪ノ下雪乃が入ってきた。

「よお」

「こんにちは、もう来ないと思った……え?」

「ん?どうした?」

「あなた、それ……」

「ああ、これか。俺もよくわかんねぇんだけどよ」

「そう、ふふ。奇妙な縁もあったものね」

「あ?何言って……」

雪ノ下はそう言って、ポケットに手を突っ込む。

「本当に、奇遇よね」

彼女が手にしたのは、俺と同じようなバックル。そしてその中央に描かれているのは、蝙

蝠のエンブレム。

「お前……」

「そう、私は仮面ライダーナイトよ。比企谷君。いいえ、仮面ライダー龍騎」

「お前!さっきは何なんだよ!いきなり襲ってきやがって!」

「当然でしょう?ライダーは共存できないって、言ったじゃない」

「それが訳わかんねぇッつってんだ。何だよライダーって!」

「……そうね、別に教えてあげる義理はないけれど、何もわかっていない相手を攻撃する

というのも卑怯かもしれない。いいわ、教えてあげる」

「私も細かいところまでは知らないけどね。このバックルを手にして、モンスターと契約

したものは、仮面ライダーと呼ばれる存在になる。そしてライダーは、モンスターや他の

ライダーと戦うのよ」

「モンスターと戦うってのは、なんとなくわかる。だが、なんで同じ人間であるライダー

同士が戦うんだよ」

「最後に生き残ったライダーは、なんでも願いをかなえることができるのよ」

「は、はぁ?なんでも願いがかなうって、お前それ本気で言ってんのか?」

「そうね、確かに普通ならあり得ないし、信じる方がおかしいんでしょう。でも、それで

も、それにすがるしかない。そんな者がライダーになるの。どうしてもかなえたい願いが

ある者だけが」

そうつぶやく雪ノ下の表情は真剣そのもので、とても茶化すことなどできなかった。「まぁ、

そんなこと私の知ったことじゃないわ。というわけで、ライダー同士が戦う理由はわかっ

たかしら?それじゃぁ、戦いましょう」

「ま、待てって!それで、負けたライダーはどうなるんだ?」

「死ぬのよ」

いとも簡単に、彼女はそういってのけた。

「戦いに負けたら死ぬ。戦うことから逃げて、モンスターにえさを与えられなくなったら、

契約モンスターに食い殺される」

「えさ?」

「倒したモンスターやライダーのエネルギーが、契約モンスターの力になる。エネルギー

を与えれば与えるほど、モンスターの力は強くなり、それに比例してライダーも強くなる。

さぁ、もういいかしら?」

「だから待てって!俺は戦う気なんてない!」

「あなたになくても私にはあるのよ。それに昨日言ってたじゃない?勝負に勝ったら私に

は死んでもらうって。そんなことを言っていいのは、死ぬ覚悟のある人間だけよ」

「あれは……それとこれとは話が……ウオッ!」

鏡の世界から、蝙蝠のモンスターが飛来し、俺を襲った。幸い回避できたが、一瞬でも遅

れたら危なかった。

「なんのつもりだ?」

「わかっているでしょう?戦わないというなら、私はこうしてあなたを襲わせるわよ?」

「言ってもわかんねぇ奴だな。なら、一発ぶん殴って無理矢理にでも言うことを聞かせて

やる」

「その言葉を待っていたわ」

俺達二人は鏡の前に立つ。

雪ノ下が、バックルを前にかざす、すると、鏡の中からベルトが出現し、彼女の腰に巻き

つく。

「ミラーワールドに行く時はこうするの。まぁ、あなたは今日で行くのが最後でしょうけ

どね」

「変身!」

バックルをベルトに入れると、彼女の姿は雪ノ下雪乃から、仮面ライダーナイトへと変わ

った。

「まっているわ」

そう言い残して、彼女は鏡の中に入って行った。

「くそ!やるしかないのか!」

バックれたいが、あんな化け物にしょっちゅう襲われてはやってられない。それに、家で

襲われたら家族にも危険が及ぶ。

小町への危害は絶対に許さない。

雪ノ下がしたように、俺もバックルをかざす。

「変身!」

俺は再び、謎の世界へと入って行った。

「来たのね。しっぽを巻いて逃げると思っていたのに。

「あんなふうに脅されちゃあかなわんだろうが。こんなバカなこと、俺が止めてやる」

「戦いを止めるために戦うライダー、ね。馬鹿なのかしら」

「馬鹿はそっちだろうが。テメェにどんな願いがあろうと、絶対止めてやるからな。こん

なこと、認めてたまるか」

「なら、あなたは勝っても私を殺さないのかしら?」

「悪いかよ」

「ふん、お人よしね。そんなことを言ったら私が手加減するとでも思っているのかしら?

だとすれば甘すぎると言わざるを得ないわね」

「別にんなこと思ってねぇよ。お前には昨日会ったばかりだが、そんなことをする奴じゃ

ないということくらいはわかる」

「そう、それはよかったわ。なら、そろそろ始めましょうか」

「Swword Vent」

ナイトが再び槍を手にする。

「Swword Vent」

こちらも剣を手にする。先ほどのよわっちい武器ではなく、龍のしっぽを模した立派な剣

だ。

「行くぞ!」

先に動いたのは俺だった。

「Nasty Vent」

ナイトが新たなカードをスキャンすると、契約モンスターである蝙蝠が飛来する。

「キィィィィィィィィィンッッ!」

とてつもなく高い音が、俺の耳を襲う。

平衡感覚を失う。何だ、これ……。

「ガキィ!ガキィ!ガキィン!」

まともに動けない俺を、ナイトが何度も槍で痛めつける。

剣で応戦しようとしたが、どうやらいつの間にか放してしまったようだ。

「ウアアッッ!」

最後に思い切り振りあげた彼女の攻撃で、俺は勢いよく吹き飛んだ。

「くそ……」

「Strike Vent」

先ほど彼女を撃退した龍の頭型の火器を呼び出す。

「くらえええっっ!」

しかし彼女はジャンプして、軽々とそれをよける。

「Advent」

蝙蝠が再び現れ、彼女の背中に装着される。

そして、彼女は空高く跳びあがる。

くそ、空中戦?そんなのできね……いや、そうでもないか。

「Advent」

「ガアアアアアアァァァッッ!!」

けたたましい咆哮をあげ、ドラグレッダーが現れる。

その背中に乗り、俺も空中へと舞い上がる。

「頼むぞ!ドラグレッダー!」

龍のはきだす炎と、俺の左手から出す炎で、ナイトに遠距離攻撃を仕掛ける。

「そっちに遠距離武器がないのはわかってんだよ!」

彼女はさっきから、回避行動しかとれていない。

「蝙蝠が龍に勝てると思うなッ!」

「そっちこそ、あなたごときが私に勝てると思わないことね!」

「Final-Vent」

やべぇ、さっき見たあいつの必殺技だ。

ドリル状になって急降下する超威力の技だ。あんなもんくらってたまるかよ!

どうする?もうあいつは攻撃態勢に入っている。

俺はカードを取り出し、眺める。

これだっ!

龍のエンブレムが描かれた、他のカードとは少し仕様が違うカード。

俺はそのカードを急いでスキャンした。

「Final-Vent」

そのカードをスキャンすると、俺は自然と高くジャンプした。

そのまま、キックの体制をとる。そんな俺の後ろから、ドラグレッダーが勢いよく炎を吐

く。その炎が俺にあたったが、不思議と何の痛みも感じない。

「飛翔斬っ!」

「ドラゴンライダーキックっ!」

即座に命名したはいいが、何ともダサい。

俺とナイトが激突し、大きな爆発が起きる。

「グアアアアァァッッ!」

「うううううっっ!」

俺達二人は、無様に地上を転がる。

何とか立ち上がるが、完全に肩で呼吸している状態だ。

「はぁ……はぁ……まだ、やるつもりかよ」

「そうしてもいいんだけどね。まぁ、いいわ。今日はこのあたりにしておきましょう」

「へっ、そりゃよかった」

俺とナイト、雪ノ下は元の奉仕部部室へと戻った。

「はぁぁぁ……酷い目にあったぜ」

「ライダーになった以上、それは宿命ね」

「けっ、戦いを仕掛けてきたお前のせいだろうが」

「勝手に契約したあなたが悪いわ」

さっきまで命がけの戦いをしたというのに、彼女の態度は昨日と寸分たがわない。

何というか、きもの座った女である。

そういう俺も、あんな戦いをしたというのに、彼女に対して悪感情は抱いていなかった。

むしろ昨日よりも好感を持っているとさえいえる。

本気で戦ったら友情が芽生えるというあれだろうか。

なら、なら、俺と彼女は。

「なぁ、雪ノ下。俺と友達に」

「ごめんなさい。それは無理」

「えー、まだ最後まで言ってないのに」

この野郎、断固否定してきやがった。こいつ、全然可愛くねェな。

やはり、俺の青春ラブコメはまちがっている。

自分に迎合しようとする人間を強く否定する者は少ない。

しかし雪ノ下はそんなことお構いなしだ。味方を作らず、しかもそれでいて、一人で乗り切れ

る能力を持った彼女は、人の痛みなどわからない。いや、わかっても気にしないというのが正

しいのかな。だから彼女には、人が救えない。

彼女たちは、まったく正反対の存在なのだ。相入れなくて当然だろう。

俺には、由比ヶ浜が怒って帰る未来が見えていた。

「か……」

ほらね、やっぱり。帰るっていい出すんだろ?そのくらいわかってるわかって

「かっこいい……」

「「は?」」

俺と雪の下の声が重なる。

「建前とかそういうの全然言わないんだ。そういうのって、すごくかっこいい!」

由比ヶ浜が熱い目線で雪ノ下を見つめる。

雪ノ下は若干、いやかなり戸惑っていた。

「な、何を言っているのかしら。私、結構きついこと言ったと思うのだけれど……」

「ううん!そんなことない!確かに言葉はひどかった。でも、本音って気がするの」

違う。こいつは言葉をオブラートに包めないだけだ。

「ごめんなさい。ちゃんとやるから、力を貸してください」

由比ヶ浜は逃げなかった。どころか、あの雪ノ下が押されている。

雪ノ下にとっては初めての経験だっただろう。本音を言われてちゃんと謝るやつは少ない。

「正しいやり方を教えてやれよ」

「一度手本を見せるから、その通りにやってみて」

「うん!」

彼女たちの表情は一様に明るかった。

ま、料理がうまくいくかどうかは別だけどな。

出来上がった雪ノ下のクッキーはとてもうまかった。

「もうこれを渡せばいいんじゃねぇの?」

「それじゃ意味ないじゃない。さ、由比ヶ浜さん、やってみて」

「うん!」

そして、二回目の彼女の挑戦が始まった。

「そうじゃないわ、もっと円を描くように……」

「違う、違うのよ、それじゃ生地が死んじゃう」

「由比ヶ浜さん、いいから。そういうのはいいから。レシピ以外の物を入れるのは今度にしま

しょう」

「うん、だからね、それは……」

あの雪ノ下が困惑し、疲弊していた。額に汗が浮かんでいる。

何とかオーブンに入れた時には、肩で息をしていた。

「なんか違う……」

焼きあがったクッキーを見て由比ヶ浜が言う。食べてみると、雪ノ下が作ったものとは明らか

にレベルが違う。

「どうすれば伝わるのかしら……」

雪ノ下は持つ者ゆえに、持たざる者の気持ちがわからない。優秀な人間は教えるのもうまいと

いうのはただのまやかしだ。あやかしだ。あやかしがたりだ。みんな買ってね!

「フッ!」

「あら、何かしら比企谷君。喧嘩を売っているの?」

「いやいや、お前らのやってることがあまりにもバカらしくてなぁ。思わず笑っちまったんだ。

わりい」

「なんかムカつく!」

「まぁ見てろよ。俺が本物ってやつを教えてやる」

「そこまで言うからには、たいそうなものができるんでしょうね。楽しみだわ」

雪ノ下が完全に冷たい目をしていた。

「ああ、十分後にここにきてくれ。格の違いを教えてやるよ」

そして十分後、彼女たちが戻ってきた。

「ほら、由比ヶ浜。食ってみろ」

「ええ?あんだけ言ってたわりにはしょぼくない?形も悪いし色も変だし……」

「ま、そう言うなって」

「そこまで言うなら……」

由比ヶ浜は恐る恐るという感じでクッキーを口に運ぶ。雪ノ下もそれに倣う。

すると、雪ノ下の表情が変わった。どうやら彼女は察したようだ。

「別にあんまりおいしくないし、焦げててジャリってする!はっきり言っておいしくない!」

「そっ…か、おいしくないか。わりい、捨てるわ」

「べ、別に捨てなくても」

その言葉を無視して、俺はゴミ箱の方に向かっていく。

「まってったら!」

由比ヶ浜が俺からクッキーをひったくる。

「捨てなくてもいいでしょ!言うほどまずくないし……」

「そうか?なら、満足してくれたか?」

「うん」

「ま、お前が作った奴なんだがな」

「……へ?」

「比企谷君。説明してくれる?」

「男ってのはな……お前らが思ってる以上に単純なんだよ。自分のために女の子が頑張ってお

菓子を作ってくれた、それだけで舞い上がっちまうもんさ。だから、手作りの部分を残しとか

ないと意味がない。雪ノ下が作ったような完璧な奴より、少しくらい汚くても、気持ちがこも

ってるってわかる物の方が、もらう側としてはうれしいもんだぜ?」

「今までは、目的と手段を取り違えてたってことね」

「そういうこった。だから、あんまりうまくなくてときどきジャリってするクッキーでも、そ

れでいいんだよ」

「~~っ!うっさい!ヒッキー腹立つ!もう帰る!」

由比ヶ浜が鞄を手に持つ。

「由比ヶ浜さん、依頼の方はどうするの?」

「あ、ごめん。それはもういいや。ありがとね、雪ノ下さん」

「またね。ばいばい」

そう言って由比ヶ浜は去って行った。

「……あれでよかったのかしら?自分ができるところまで、力をのばすべきだと私は思うけど」

「それは違うだろ。あいつの目的は、うまいクッキーを作ることじゃなくて、相手に喜んでも

らうことだろ?ならこれでいいんだよ」

「そうかしらね」

「ああ、そうさ」

そう言って、俺は笑った。

「やっはろー!」

俺と雪ノ下が奉仕部の部室で読書をしていると、明るい声とともにドアが開いた。

由比ヶ浜結衣だ。

「……何か?」

「あれ?あんまり歓迎されてない?ひょっとして雪ノ下さん、あたしのこと嫌い?」

すると、雪ノ下が顎に手を当てて、少し考えてから言う。

「……別に嫌いではないけれど、決して好きではないわね。少し苦手、といったところかしら」

「それ、嫌いと同じだからね!この正直者めっ!」

由比ヶ浜は雪ノ下戸の胸をぽかぽかと叩く。

「で、何か用かしら?」

「うん、こないだのお礼って言うの?クッキー作ってきたんだー!」

「え?」

雪下は怪訝な声を挙げる。

しかし由比ヶ浜は気にしている様子はない。

「いやー、料理って意外と楽しいね!今度お弁当とか作ろうかな!あ、それでさ。ゆきのんも

一緒にお弁当食べようよ!」

「私はお弁当は一人で食べることにしているから。後、ゆきのんって呼ぶのやめてもらえる?」

「ええ、さびしくない?ゆきのん、どこで食べてるの?」

「ねぇ、話聞いてた?」

「あ、それでさ。暇なときはあたしも部活手伝うね!あ、気にしないで!これもお礼だから!」

「……話、聞いてる?」

由比ヶ浜の連続攻撃に雪ノ下が困惑している。

と、その時だ。頭を裂くような高音が俺を襲った。

そして、奉仕部の窓からモンスターが飛び出してきて、雪ノ下を襲った。

「ゆきのんあぶない!」

由比ヶ浜が雪ノ下を突き飛ばす。

攻撃をかわされたモンスターは、鏡の世界に戻っていく。

「大丈夫!?ゆきのん!……待っててね、すぐ戻るから」

そう言って由比ヶ浜は、ポケットから赤いバックルを取り出す。

こいつ、まさか!

「ゆきのんを危険な目に合わせるなんて、絶対許さないんだから!」

そう言ってバックルを前に突き出す。

「変身!」

由比ヶ浜の姿が変わっていく。それは、昨日雪ノ下と交戦したライダーだった。

由比ヶ浜が、鏡の世界に入っていく。

「驚いたわね……。こうしている、場合でもないわね。変身!」

雪ノ下が、仮面ライダーナイトに変身する。

こいつ、まさかまた戦うなんていわねぇよな?

とにかく、俺も黙って見てるわけにはいかないか。

「変身!」

俺達も、鏡の世界へと向かう。

由比ヶ浜と戦っているのは、猿のモンスター。少し押されているようだった。

「Swword Vent」

雪ノ下が槍を持ち、走っていく。

そしてそのまま、モンスターを切りつける。

「あ!昨日の!あたしは戦う気なんてっ!」

「わかっているわ。由比ヶ浜さん」

「ほえ?どうして私のこと……」

「仮面ライダーナイト。雪ノ下雪乃よ」

「ゆ、ゆきのん!?あ、昨日はごめんね」

「いいわ。私の方から攻撃したのだし。とにかく今は、こいつを倒しましょう」

どうやら、雪ノ下に争うつもりはないらしい。よかった。なら俺も、思いっきり戦える!

「Strike Vent」

龍の頭の形をした、火器を右手に装着する。

「お前ら!どいてろ!」

「あれは、昨日ゆきのんと一緒にいた……。もしかして、ヒッキー!?」

「そう、仮面ライダー龍騎。比企谷八幡」

「そうだったんだ……」

「おい!さっさとどけって!」

「あ、ごめんごめん」

二人はさっと左右に飛ぶ。

「デヤアアァァァッッッ!」

全力の一撃。巨大な炎がサルを飲み込む。

「ぐぎゃぁぁっっ!」

猿が爆発し、光の球が生まれる。モンスターのエネルギーだ。

俺の契約モンスタードラグレッダーが球を飲み込もうと向かっていく。

「待ちなさい!」

雪ノ下が、手にしていた剣をドラグレッダーに投げつける。回避のために横にどいたすきに、

雪ノ下の契約モンスターダークウイングがエネルギーを吸収した。

「この野郎……なんのつもりだよ!」

「あなたが余計なことをしていなくても倒せていたわ。横どりはさせないわ」

「それを言うならあれは由比ヶ浜の物だろうが……」

雪ノ下雪乃。案外ちゃっかりした奴だった。

「ま、まぁまぁまぁ。とりあえず、戻ろうよ」

由比ヶ浜の言葉に従い、俺達は部室へと戻る。

「しかし、驚いたな。由比ヶ浜がライダーなんて……」

「そうね。基本的にライダーは、どうしてもかなえたいと思う人間がなるはずだけど……。あ

なたにも、願いがあるの?」

「ううん、これはもともとあたしのじゃなかったの。あたしの、いとこの物だよ。その子はね、

こんな戦い馬鹿げてるって言って、モンスターと契約しなかったの。そうしているうちにモン

スターに襲われて……死んじゃった」

「……そう」

「うん、だから私がこれを受け継いでね、ライダーバトルを止めるんだ!」

「でも、他のライダーはあなたたちのようには考えていないと思うわ」

「うん、そうだと思う。それでも、止めたい。って……え?達って?」

「そこにいる比企谷君も、ライダーバトルを止めようとしてる。あなたたち、わかってる?他

のライダーは、あなたたちを[ピーーー]気で来るのよ?」

「わかってるさ。最後になったら、お前も俺と戦おうとするんだろう。それでも、止めたい。

そうだな、それが正しいとかじゃなくて。それが、ライダーとしての俺の望みなんだ」

「……フフ、なら、私には止められないわね」

「そういうこった」

「えへへ、これからよろしくね!ゆきのん!」

そう言って由比ヶ浜は雪ノ下に抱きついた。

「ねぇ、ちょっと、暑苦しいのだけど……」

んじゃ、俺は帰るとするか。ドアに手をかけた、その時。何かが飛んできた。

「ヒッキーもありがとね!お礼の気持ち!」

それは、黒々としたクッキーだった。ま、くれるっつーンならもらってやるか。

俺は廊下でクッキーを口にした。

「……にが。でもまぁ……ちったぁましになったんじゃねーの」

俺はひとりごちた。

「ふう……」

今日も長かった。授業が終わっても部活しないといけないとか地獄すぎる。

我ながらよくやっていると思う。

しかし!明日は土曜日!待ちに待った休日である。自然と家へ帰る足取りも軽くなる。

「キィィィィイイイン!」

ハァ……。休みの前にもう一仕事入ってしまった。冗談じゃないぜ、ったく。

「キャァァッッ!」見ると、蟹のモンスターに、一人の女性が首を絞められている。

「オラァッッ!」

蟹に向かってとび蹴りを放つ。その衝撃でカニはとらえていた女性を放した。

「早く逃げろ!」

俺に言われて女性は逃げだした。モンスターは鏡の中へと戻っていく。

「変身!」

本当に、冗談じゃねーよな。こんなの。

憂鬱な気分で、俺は戦場へと向かう。

「ガァァァッッ!」

蟹のモンスターが、両手のハサミを使って攻撃を仕掛けてくる。

「Swword Vent」

「デヤッッ!!」

「キィン、キィン、キィンッ!」

「ブロロロロロロロ……」

しばらく戦いを続けていると、車の音が聞こえた。

ライドシューターの走る音だ。ライドシューターとは、俺達ライダーが鏡の世界へと向かう時

に使う車のことである。

「来てくれたか……」

雪ノ下か由比ヶ浜か。どちらにしたって助かる。

「キィィィィッッ!」

俺と蟹の間で車が止まる。

そしてその中から出てきたのは……。

「え?」

蟹のモンスターと同じ黄土色をした不気味なライダー。右手には、カニのハサミを持っている。

「……やべぇな」」

十中八九、このモンスターと契約しているライダーだ。

ていうかこいつ、モンスターに人間を襲わせてたのか!

「タァァッッ!」

ライダーが、その手に持ったハサミで攻撃を仕掛けてくる。

「オラッッ!」

俺も剣、ドラグセイバーで応戦する。

「グゴォォォッッ!」

背後からモンスターの方が攻撃を仕掛ける。

「ウアッッ!」

「ちっくしょ……」

「Advent」

俺も契約モンスターを呼び出す。

「いけっ!」

空から巨大な炎を吐き出す。

「グッッ……」

ライダーとモンスターがともに吹き飛ぶ。

「Strike Vent」

さらに俺が炎で追い打ちをかけると、ライダーは鏡から戦線離脱した。

「ふぅ……」

まだ体の節々が痛む。冗談じゃないぜ、明日はせっかくの休みなのに気分が台無しだ。

……あいつ、モンスターに人を襲わせてたな。早く何とかしねェと、取り返しのつかないこと

になる。

いろいろと考えることにして、俺はサイゼリアに入る。考え事ならここですると中学時代から

決めている。

「どうしたもんか、な」

飯を食いながら考える。もちろん小町へ飯はいらないという旨の連絡もした。

「デート?」とか聞いてきたがそんなはずがないのである。毎度毎度あいつはそんなことを聞

いてくるが、もはや嫌がらせかと疑うレベル。

「あれ?比企谷じゃん。レアキャラはっけーん!」

声をかけられ振り返ると、

「……お前……は」

折本かおりが、そこにいた。

「好きです、付き合ってください」

「友達じゃ、だめかなぁ?」

ふと、思い出がよみがえる。放課後の教室。俺が告白した女の子は、気まずそうな顔を浮かべ

る。

ちなみにその翌日には、クラス全員がその出来事を知っていて、俺は泣きそうになった。

中学時代の数あるトラウマの中でも屈指の一つである。

振られるだけなら、まだいいのだ。だが、好きだった女の子が、そのことを他人に言いふらす。

これはかなり、来るものがある。

俺が女子を信用できなくなった一番の要因になった出来事かもしれない。

その少女の名こそが、折本かおりである。

その少女が、今俺の目の前にいる。

何故俺に声をかけたのか。その魂胆がわからない。ただの気まぐれ?ただ、そこにいたからか?

どちらにしても、俺にとっては迷惑でしかない。

「よいしょっと」

言って、折本は俺の前の席に座る。

は?なんなのこいつ。

「……ンだよ。なんかようか」

「いや、別に用ってわけでもないんだけどさ。なんか懐かしいなーと思って」

そうかよ。俺にとっては嫌な思い出でしかないけどな。

「ほら、比企谷って総武高行ったじゃん?あそこってうちの中学からあんまり行った人いない

よね?」

「ほら」の意味が全く分からん。それに、そりゃあそうだろう。同じ中学の奴がいるとこには

行きたくなかったんだから。

「……ああ、そうだな」

「おーい、かおりー!」

店の入り口から、周りの迷惑を考えないような大声が聞こえる。

「あ、おーい」

折本がそういうと、俺の席に一人の女子と二人の男子が寄ってきた。

男の一人には、見覚えがある。確か、俺の中学でバスケ部のキャプテンをやってたやつだ。永

山、だったか。

「あれ?比企谷じゃね?うっわー、うけるわー!」

何が面白いんだ?俺の存在がかよ。

「え?これが噂のキモ谷君?うっわー、わかるー」

……。何故初対面の女子からキモイといわれなあかんのだ。こいつら、高校でも俺を笑い物に

していたのか。

「ははっ、そういえばさ、比企谷って中学ん時、かおりに告ったよなー。あれ笑ったわー!ち

ょっと優しくされただけで勘違いするとか、脳内めでたすぎンだろ」

「……昔のことだ。自分でも馬鹿だったと思うよ」

「あれ、クラス中の奴らが知ってただろ?ごめんなー、あれ俺が言ったんだわ。あん時からお

れたち付き合っててさー。面白半分でさー。でもま、自分の彼女が告白されたってんだから穏

やかじゃねーよな。まぁ比企谷にはとられるなんて思わないけどさー」

「そうだな」

右手で契約モンスター、ドラグレッダーのカードを強く握りしめる。意思をしっかり持ってい

ないと、今すぐにでもこいつらを襲わせそうになる。

「しっかし比企谷お前……うおっ!?」

鏡の中から突如出てきた何かに、永山が吹き飛ばされる。

あれは……あのモンスターは、雪ノ下の、モンスターだ。

永山はさっきの衝撃で体を思い切りテーブルに体をぶつけた。

窓の外を見ると、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣が、こちらを見つめていた。

あいつらには、見られたくなかったな。

こんなところを。むかしの俺の、残像を。

茫然としている俺を置いて、彼女たちは店の中に入ってきた。

「うわ、何あの二人。すごく綺麗」

折本の連れの女子が感嘆の声を挙げる。

彼等は、何が何だか分からないといった様子だ。

「んだよ。何か用か」

「いえ、少し言いたいことがあってね」

「え?この子達、比企谷の知り合い?」

永山が素っ頓狂な声を挙げる。

「あ、どうも。俺、永山智っていうんだ。比企谷の、友達です。えっと、バスケ部で、キャプ

テンやってるんだ」

汚い笑みを浮かべて、さりげなく雪ノ下の肩に手を置こうとするのを、彼女はパシリとはじく。

「あなたの名前なんてどうでもいいわ。それと、彼をあまり馬鹿にしないことね。友達は少な

くても、あなたのようなクズを味方にする人ではないわ」

永山の笑顔が崩れる。

「それと、随分彼に言っていたみたいだけど……彼は、あなた達が見下していいような人じゃ

ない。ねぇ、あなた」

雪ノ下が折本へと話す対称を変える。

「自分に思いを寄せてくれた人を貶めるなんて、恥ずかしくはないの?でもまぁ、報いは受け

ているようね。こんなクズを恋人にしているんだもの。これ以上にない辱めだと思うわ。ご愁

傷さま。見る目がなかったのね。彼を選んでいれば、もっとましだったはずなのに。でももう

遅いわよね、今の彼は、本物を見分けることができるもの、あなたのような人を選ぶはずがな

いわ」

「てんめぇぇぇっっ!!」

散々にこきおろされた永山が雪ノ下に殴りかかる。

「キィィィィッッッ!!」

再び現れた蝙蝠のモンスターが、主人への攻撃を止める。

「な、何だ今の!!ば、化け物だ!化け物が出たぞぉ!」

周りにいた客が騒ぎ出し、どたばたと店から去っていく。

あとには、俺達だけが残った。

「な、何なんだよお前ら。意味わかんねぇよ」

すると、今まで黙っていた由比ヶ浜が口を開いた。

「ねぇ、あなたたちは知らないと思うけど、ヒッキーはね、とってもすごい人なんだよ。自分

が傷ついても、人を救っちゃうような、そんな人。普段はそっけない態度をとって、周りに興

味なさそうにしてても、一度も会ったことないような人を、命をかけて守ってくれるような、

そんな人」

……。違う、違う。俺は、お前らにかばってもらえるような、そんな立派な奴じゃないんだよ。

……?命をかけて守る?そんなこと、後にも先にも一度だけだ。でも、それをこいつが知って

るわけないし……。

まぁ、今はそんなこと些細なことか。

「なんなのよあんたたち!突然現れて好き勝手言っちゃってさぁ!」

折本が激興する。

そして、ポケットからカードを取り出す。

蟹の、カード。

人を襲わせてたライダーは、こいつ、だったのか。

窓から蟹のモンスターが出現する。

由比ヶ浜に襲いかかるのを、ダークウイングが止める。

「なんだ、ほんとに……。かおり、お前も、化け物なのか?」

永山はそう言い残すと、そそくさとその場を去って行った。残りの二人も同様だ。

「あんたらのせいで、全部台無しじゃないっっ!」

「それは、あなたの自業自得でしょう」

「うるさいうるさい!あんたは、私が倒す!」

デッキを、かざす。

「変身!」

「……いいわ、けしてあげる。変身!」

二人が、鏡の世界へと向かう。

折本に誤算があったとすれば、この場にいたライダーが、雪ノ下一人ではないということだろ

う。

「ヒッキー、少しだけ、待っててね。……変身!」

由比ヶ浜も変身する。

俺は一人、取り残された。

「……。はぁ」

しばらく俺は、茫然としていた。なんとなくぼうっと、鏡の中を見ていた。

折本は、雪ノ下一人にも押されていたが、由比ヶ浜が加勢してからは、もうまともな勝負にな

っていなかった。

「ああああっっ!」

二人とも、折本の叫びを聞いても、攻撃の手を緩めることはなかった。

それだけ怒っていたのだろう。

そうしたのが俺のせいだと思うと、何とも言えない気分になる。

どうして彼女たちは、出会ったばかりの俺の為にここまでしてくれるのだろう。きっと、とて

もとても優しいのだろう。

折本が中学時代に俺にした偽りの、計算された汚い優しさではなく、本物の優しさ。

ならば、だからこそ、彼女たちの手を汚させてはいけないだろう。

「……変身!!!」

過去と決別する時が、きっと今なんだ。

「Trick Vent」

「Coppy Vent」

分身した雪ノ下と、その分身技をコピーした由比ヶ浜、計十六人の彼女たちが、折本を攻撃

していた。

「はぁぁぁっっっ!!」

「とうっっ!!」

「グゥッッ……」

休むことなく折本に攻撃を浴びせる。

「これで……」

「させないっ!由比ヶ浜さん、耳をふさいで!」

「Nasty Vent」

「キィィィィィッッ!!」

「ウウゥゥッッ……」

カードをスキャンしようとしたかおりを、超音波攻撃で雪ノ下が遮る。

「Advent」

「いけぇっっ!!」

「クァァァッッ!!」

由比ヶ浜のエイのモンスターが、突進を仕掛ける。

「ああ…あ……」

折本はもう死亡寸前だ。

……。

「やめろ……」

それは、お前たちがやることじゃない。

俺がこの手で、やらなきゃいけなかったんだ。

だから……。

「Strike Vent」

「やめろぉぉぉっっっ!!!」

俺の放った炎が三人に襲いかかる。

雪ノ下も由比ヶ浜もほとんどダメージを受けていなかったので、この攻撃でどうということは

ないはずだ。

「え!?」

「ヒッキー!?」

二人はとっさに攻撃を避ける。

俺はかおりのもとへと駆け寄る。

庇うようにしてその前に立つ。

「比企谷君……、どういうつもり?まさか、その女をかばうというの?」

「ヒッキー……」

「ひ、比企谷……。ありがと。私、ほんとはね、あなたのこと……好き…」

「黙れ」

「え?」

「勘違いするなよ折本。俺はお前を助けたんじゃない。ただ、お前は俺自身の手で倒したかっ

た。他の誰かに手を汚させたくなかった。それだけだ。……雪ノ下、由比ヶ浜、すまない。そ

ういうわけなんだ。悪いが、手を引いてくれないか?」

「……そう、この件に関してはあなたの問題よね。いいわ。由比ヶ浜さんも、それでいいかし

ら」

「うん。ねぇ、ヒッキー、無理、しないでね?」

「わかってる。ありがとう。……折本、一週間後、この場所に来い。一対一で、決着をつけよ

う。三対一で狙われるよりは、ずいぶんいい条件だろ」

「……わかった」

「それじゃぁな」

そして俺達は、鏡の世界を去った。

「雪ノ下、由比ヶ浜、今日は、ありがとな。その、さ……すげぇ、うれしかった」

こんなに自分を肯定してもらったことは今まで一度もなかった。

本当に、本当にうれしかった。涙が出そうになった。

まったく、これでもぼっちの道を突き進んできたつもりだったんだがな。

「別に。私はやりたいようにやっただけよ。……それでも、あなたが私たちに恩を感じている

というのなら、絶対に勝ってきなさい」

「そうだよ!また三人で部活やるんだからね!……応援してるから」

「ありがとう」

今までにない満たされた気持ちで、俺は帰路についた。

折本、あの時俺を振ってくれてありがとな。おかげで俺は、最高の仲間に出会えたよ。

しないなあ。ああ、しない。

「負ける気が……しない」

約束の一週間後は、あっという間に来た。

「よう、折本」

俺の呼び掛けに彼女は答えない。まぁ、今から殺し合いをするというのだから当然だろう。

「……あの二人は、来てないんでしょうね?」

「ああ、約束は守る」

「そう……。なら、もう始めましょう」

「そうだな」

「「変身っ!!」」

黄土色の蟹のライダーと対峙する。

「そうだ、名前を、聞いていなかったな。教えてくれよ」

なんとなくだが、ふと気になった。雪ノ下は仮面ライダーナイト、由比ヶ浜は仮面ライダーラ

イア。彼女にもきっと名があるのだろう。戦うための名が。

「シザース、仮面ライダーシザース」

「そうか、シザースか、俺は、龍騎。仮面ライダー龍騎だ」

「いくぞ!」

「Swword Vent」

「Strike Vent」

俺は剣を、シザースはハサミの武器を装備する。

「はぁっっ!!」

ガァン、キィン、キィィンッ!

激しい衝突。

純粋な力のぶつかり合いが20合ほど続く。

少しマンネリ化してきたので、俺は少し戦法を変えることにした。

「Trick Vent」

雪ノ下が使ったのと同様の分身技だ。5体の分身体とともに彼女に波状攻撃を繰り出す。

「はぁっ!」

「うっっ!」

6対1では多勢に無勢。分身体は、一撃でも攻撃を与えれれば消えるのだが、なかなかそれが

できない。

「やぁぁっっ!」

6人を円の形で囲み、いっせいに剣を振り下ろす。

「ぐうっ!」

彼女はその場に倒れ伏す。

それと同時に、役目を終えた分身体が消滅した。

「だぁぁっっ!」

無防備なその背に、剣で追撃する。

「ま、待ちなさい!」

「そう言われてやめると思うかっ!」

キィン!キィン!キィィンッッ!

「ぐはっっ…こ…れで……」

「Advent」

突如、蟹のモンスターが出現する。

「お、おまえ……」

蟹の両手に、一人の女性が捕われていた。

「こ、攻撃をやめないと、あの女がどうなっても知らないわよ?」

「お前……卑怯な真似をっっ!」

気を失っているその女性は、間違いなく俺の妹、比企谷小町だった。

「命がかかってんのよ。このくらい、当然よ!」

「……抵抗するんじゃないわよ」

まずい、これは……どうしたものか。これじゃぁ俺は攻撃できない。

「ハァッッ!」

ザッ!ガッ!ガキィッッ!

鋭利な蟹のはさみが俺の体を抉る。

「がはぅぅっ!」

「ふんっ!マヌケね!あの時三人がかりでかかってくればよかったのに」

どうする?一か八か反撃するか?どうせこいつは俺を倒した後で小町も始末するだろう。なに

せモンスター強化のために一般人を襲わせているような人物だ。どう考えても小町を開放する

とは思えない。

しかし、しかしだ。今俺が攻撃すれば、まず間違いなく小町はやられる。

そんなことは……

「ほら!ボサッとするなッ!」

ガキィィィッ!

攻撃は止まない。どうしようも、ないのか……。

「キィィィィィィッッ!!」

突如聞こえた、聞きなれた超音波。

「ううっっ……図ったな……」

シザースが頭を押さえる。

「まったく、心配して来てみれば……。やはりあの時確実に始末するべきだったようね」

「大丈夫!?」

雪ノ下が蟹のモンスターをおさえ、由比ヶ浜が小町を救出する。

「由比ヶ浜さん、この子を連れてもとの世界に戻って」

「わかった!すぐ戻るからね!」

「ええ。でももう、その心配もないと思うわ」

そして由比ヶ浜は消えた。これでもう、俺を縛るものはない。

「ハァァッッ!」

強く剣を握り、シザースの胴を斬りつける。

「比企谷君、いえ、龍騎。助太刀するわ」

「いや、俺にやらせてくれ」

「でも、卑怯な手を取ったのは相手の方よ?」

「それでもさ。こいつは、俺だけの力で倒さないと」

「…そう。わかったわ。まったく、以外と頑固なのね」

雪ノ下はそう言って、後方に下がる。

「これで……終わりだ。折本かおり」

「Final Vent」

「クッッ……」

「Final Vent」

シザース、いや、折本も覚悟を決めたらしく、必殺のカードをスキャンする。

高くジャンプし、ドラグレッダーの炎を浴びて急降下からのキック攻撃、「ドラゴンライダーキ

ック」を繰り出す。

対して折本は、契約モンスターの蟹のハサミに持ち上げられ、クルクルと回りながら上昇しな

がらの攻撃、シザースアタックを放つ。

「ダァァアアアアアァァァァッッ!!」

「ハアアァァァァァァッッ!!」

「ドガッッッ!ガァァァンッッッ!!」

激しく衝突し、爆発が起きる。

「グオッッ……」

着地するも、受けたダメージに耐え切れずその場に倒れる。

「フッッ……勝った」

振り向くと、折本は着地し、その場にしっかりと立っていた。

その、次の瞬間。

パリィィィィィィインッッ!!

「え?何よ、何よこれっっ!」

彼女のバックルが、こなごなに砕け散った。

そう、これこそが俺の狙い。雪ノ下から聞いたのだ。このバックルとベルトがライダーの生命

線、つまりこれを失えばライダーの力を失うと。

まぐれ?偶然?奇跡?違う、最初から狙ってた。

最初から、彼女のバックル、それだけを。

「アアアアアアァァッッ!」

ライダーの力を失った彼女が、もとの人間の姿に戻る。

「そんな……」

「ガァァァァッッ!」

すると、折本のすぐそばにいた蟹のモンスターが、彼女に襲いかかった。

「や、やめなさい!私よ!私がわからないの!?あっ、あっ、ああああああああああああああ

あああっ!!」

断末魔を挙げて、彼女は捕食された。

「おおよそ、人間を見境なく襲うように命令していたのでしょう。自業自得ね」

「グルアアアァァッッ!」

契約が解除され、野良モンスターとなった蟹が雪ノ下に襲いかかる。

「ボルキャンサー、ね。比企谷君。このモンスターは私が始末してもいいかしら?」

「あ、ああ」

「ありがとう。それじゃ、早速決めましょうか」

「Nasty Vent」

「キィィィッッッ!!」

「ガァァッッ!」

「Final Vent」

超音波によりまともに相手が動けないうちに、雪ノ下は必殺技を繰り出す。

「飛翔斬っっ!!」

ドリル状になった雪ノ下とダークウイングが、ボルキャンサーとかいう蟹のモンスターの堅い

甲羅を突き破った。

ドガァンっ!というけたたましい爆発を残して、蟹のモンスターも消滅した。

そのエネルギーをダークウイングが吸収した。

ドラグレッダーには申し訳ないが、えさは少しの間がまんしてもらおう。

「……終わったわね」

「そうだな。あいつを殺したのは、俺だ。だけどなんだか、すっきりした気分だよ」

「そう。彼女も、命をかけて、そのリスクをわかった上でこの戦いに望んでいた。だからあな

たが気に病むことは何もないわ」

これが彼女なりのフォローなのだろう。

「ありがとな、雪ノ下」

「……。戻るわよ。由比ヶ浜さんが待ってるわ」

「ああ」

「ゆきのん!ヒッキー!そっか、終わったん、だね」

「ああ、いろいろと心配かけたみたいで悪かったな」

「ううん、気にしないで」

「今日は、少し疲れた。俺、帰るわ。また、部活でな」

「ええ、さようなら」

「……ちょっと、待って」

「どうした?」

「ヒッキーは、昔に、決着をつけたんだよね」

「ん?あ、ああ。そうだな。そうなるんだろうな」

「そう、だよね。……私も」

「は?」

「私も、けじめをつけるよ」

なに言ってんだ、こいつ。さっぱり話が読めない。けじめって何だ。指でも切るつもりかよ。

「私、ヒッキーに言わなきゃいけないことがあるの」

「なんだ?」

「ねぇ、ヒッキー、入学式の日のこと、覚えてる?」

入学式……だと?

「キャン!キャンキャン!」

その日俺は、新たな生活に胸を躍らせ、本来よりも一時間早く家を出た。

それが運のつきだったのかもしれない。

どこかのバカな飼い主が犬のリードを放し、その犬が道に出た。

そこに運悪くいかにも金持ちが乗ってそうな黒いリムジンが襲来。その犬の窮地を、俺がその

身を呈して守ったのだ。

そして俺はしょっぱなから三週間の入院。入学ぼっちが確定した瞬間である。

「いや、俺入学式でてねぇんだわ。その日は交通事故にあってな」

「ごめんなさい」

「は?」

「ヒッキーが助けた犬の飼い主って、私なの」

「……」

「ごめんなさい。本当は、もっと早く言わなきゃいけなかったのに、どんどん言いづらくなっ

て……」

彼女の眼に涙が浮かぶ。

「いいんだ。もう。あの事故がなくても俺はどうせぼっちだったしな。それに……いまは、お

前らがいるから」

恥ずかしい。なんて恥ずかしいセリフだろう。言ったあとで後悔する。こんなの俺じゃねぇぞ。

「ヒッキー……」

だがまぁ、その笑顔が見れたんならよしとするか。

「ま、気にすんなよ」

「ありがと」

「……比企谷君、由比ヶ浜さん。私もあなたたちに、言っておきたいことがあるの」

「ん?なんだ?」

「由比ヶ浜さんの犬、比企谷君を轢いてしまったのは、私の家の車なの」

「雪ノ下……」

そうだ、こいつのおやじ、建設会社の社長で、県議会の議員だったっけ。

「でも、それはゆきのんのせいじゃないよ!車道に走って行ったサブレが、、そのリードを放し

た私が悪いんだし」

「だけど……。やっぱり、加害者は私よ」

「それに、ゆきのんは乗ってただけで、運転してなかったんでしょ。なら、ゆきのんは悪くな

いよ」

「ねぇ、ヒッキーはどう思う?」

「雪ノ下も由比ヶ浜も自分が悪いっていう。俺も、自分に悪いところがあると思ってる。なら、

全員が同じように悪いってことでいいじゃねぇか。それで、これからやり直していけばいいだ

ろ。これから過ごす時間の方が長いんだから」

「ヒッキー……」

「比企谷君……」

「そういうことで、いいんじゃねぇか?」

「あなたが、そういうなら」

「うん、わかった」

「よし、んじゃぁそういうことで。さて、んじゃぁこれからどうする?三人でどっかいくか?」

「うん!そうしよう!」

「私、そういうのは経験がないのだけれど……。あなたたちとなら、楽しく過ごせそうでわ」

「じゃぁ、決まり!」

なんだ、以外と俺の青春ラブコメも間違ってねぇじゃねぇか。

「おいーっす」

「ヒッキー、やっはろー」

「あら、今日も来たのね」

「んだよ。文句あんのかよ」

「よくわかったわね、その通りよ」

あの日以来、俺の奉仕部へ向かう足取りは軽い。

居心地がいい。まさか学校でそんなふうに思える場所ができるなんてな。

キイイイイィィィン!

「モンスターか」

「行きましょう」

「がんばろう!」

モンスターが現れると、三人で討伐へ向かう。

学校にいる時はそのスタイルが確立しているので、随分楽に撃破できる。

しかし倒したモンスターのエネルギー配分、俺だけちょっと少ない気がすんだけど……。

基本的に雪ノ下はエネルギーに貪欲だ。あと、その雪ノ下がやたらと由比ヶ浜に甘い。

結果的に俺の取り分が減っている。

いや、別にそれはまぁいいんだよ。ただ、ドラグレッダーがさぁ。あいつちょっとえさやらな

いと俺を食おうとしてくるんだよ。信頼関係も何もあったもんじゃない。

まぁ、今日は俺が貰おう。

「「「変身っっ!!」」」

敵は、ヤギ型のモンスターだ。

「Trick Vent」

「Coppy Vent」

これが一番の王道パターンだ。雪ノ下が分身してそれを由比ヶ浜がコピーする。この技は、最

大で8体まで分身できるので、計16人での袋叩きが可能になるのだ。

それを、

「Strike Vent」

「Advent」

俺が、ドラグレッダーと俺自身の一人と一体で火炎放射攻撃を行い、追撃をかける。

だいたいのモンスターはこれで倒せる。

生き残った場合は、俺達三人の誰かがファイナルベントを使ってとどめをさす。

エネルギー配分は前述のとおりだ。

「グギャァァァッッッ!」

今回は、これで倒せたようだ。

「ふう、他愛もないわね」

「えへへ、三人なら負けなしだね!」

そう言って由比ヶ浜が雪ノ下に抱きつく。

あれ?僕は?俺も戦ったよ!とどめ刺したよ!?

まぁ、抱きつかれても困るけどよ。困るけどいやじゃない。むしろ推奨。

「あのさー、今日は俺がエネルギーもらってもいいか?ドラグレッダーが荒れてる」

「仕方ないわね。ペットは飼い主に似るというし。あの龍も比企谷君ににて欲求不満なんでし

ょう」

おい、あのモンスターをペットと言うのか?あと俺は別に欲求不満じゃねぇ。

……ほんとだよ?

「まぁ、とにかくすまんがこれはもらうぞ」

「ガァァァッァァァッ!」

ドラグレッダーがエネルギーを吸収する。

「んじゃ、そろそろ戻るか」

と、その時である。

「ドガァァン!」

俺達三人の中心で、巨大な爆発が起きた。

「グアアアアァァァアッッ!」

「ウワアアアアアッッ!」

「きゃぁぁぁっっ!」

俺達はその場に転がる。

ドガァン!ドガァァァン!

連続で爆撃が怒る。

なんだ!?

「どこから攻撃してる!?」

「とりあえず防具を!」

「「Guard Vent」」

「Coppy Vent」

雪ノ下には契約モンスターダークウイングの翼がマントとなって装着される。俺は龍の足

を模した盾ドラグシールドを出現させ、由比ヶ浜は俺の盾をコピーした。

とりあえずの防御体制である。

爆撃は止まない。

「あそこよ!」

雪ノ下の指し示す方、少し高くなった建物の上に、ライダーが大砲を持ってこちらに向けてい
た。

緑色の、ごつごつしたシルエットのライダー。

ドゴォン!ドゴォン!ドゴォォン!

「とりあえず、接近するぞ!こっちにはあんまり遠距離武器がない」

「わかったわ」

「うん!」

三方向に分かれて敵に接近する。

それにしても、三人いるところに攻撃を仕掛けてくるとは。なかなかの自信家のようだ。

「Nasty Vent」

移動の際に、雪ノ下が超音波攻撃を仕掛ける。

その攻撃に、敵の攻撃の手が止まる。

「今のうちよ!」

どんどん彼我の距離を詰めていく。

「Shoot Vent」

敵の方に、新たな武器が装着される。キャノン砲だ。

キャノン砲と大砲。2つの高火力武器で攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃は苛烈を極めた。

俺たち全員基本的に近距離戦タイプのライダーなので、少々分が悪い。

「調子に、乗るなッ!」

雪ノ下が斬りかかる。

「ハァッッ!」

敵はその腹部に向けて、大砲を放った。

「クッッ!」

勢いよく吹き飛ばされる。

かなり高威力の技のようだ。

「ゆきのん!」

「ライア!名前を呼ぶな!」

敵に正体がばれてしまう。本名呼びはどう考えてもこのライダーバトルではタブーなのだ。

「オラァッ!」

横に回り、ドラグセイバーで斬りかかる。

俺の攻撃が、敵の右手をかすめた。

その衝撃で、敵は大砲を手放す。

「やぁぁぁっっ!」

「Swwing Vent」

由比ヶ浜固有の鞭の武器、エヴィルウィップで追撃を仕掛ける。

「ガァァッッ!」

「チィッッ!」

大砲を手放した敵は、キャノン砲で迎撃を試みる。

俺も由比ヶ浜もすんでのところでそれをかわす。

ドゴォォッッ!

敵は地面に向けて思い切りキャノン砲を放つ。

煙幕がたちこめ、視界が一瞬で悪くなる。

「くそっ!どこに行った!」

「もう!これじゃ見えない!」

「龍騎!ライア!遠距離攻撃に警戒して!」

「了解!」

「わかった!」

少しすると、煙幕が晴れた。

少し離れたところに、さっきのライダーが。

「Final Vent」

敵ライダーの前に、緑色の牛型の巨人が出現する。

敵の契約モンスターだ。

敵は、右手に持っていた銃を巨人に接続する。

「来る……」

どんな技か細かいことはわからないが、今までのあいつの傾向を見るに、大火力遠距離技だろ

う。

「はい、おしまい」

キュゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!

巨人の腹部にエネルギーが集まっていく。

「敵射線上から離れなさい!」

雪ノ下の警告は、しかしもう遅かった。

ドガァァァァァッッッ!!

それは、あまりに強力な技だった。

何本もの極太のビーム、無数のミサイル、爆弾、大砲攻撃……。ありとあらゆる遠距離攻撃。

それが一斉に、俺達を襲う。

無限とも思える爆発。

「うおあああああっっ!」

「わぁぁああああぁあっっ!」

「きゃぁあぁぁぁぁっっ!!」

とても防げるようなものではない。

「あれ?もう終わり?」

敵がつまらなさそうにこちらに寄ってくる。

「Advent」
最後の力で、契約モンスターを呼び出すカードをスキャンする。

「Advent」

「Advent」

同様に、雪ノ下も由比ヶ浜も契約モンスターを呼び出す。

三体のモンスターが敵ライダーを襲う。

「今の、うちだ……」

俺達三人は肩を組んで元来た道をたどる。

こんな状況でなければ胸躍るシチュエーションだが、全員死にかけである。

まったく楽しくはない。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

命からがら、もとの世界へと生還した。

「ヒッキー、ゆきのん、大……丈夫?」

「そういうあなたこそ、大丈夫なの?由比ヶ浜さん」

「え、へへ。うん、なんとかね」

「嘘つけ。お前肩で息してんじゃねぇか」

「あはは……。あの技、すごかったね」

「遠距離戦が私たちにはできない。それを差し引いても、三体一でも押されるなんて……」

「あのライダー……。なんとかしないといけないな」

「そうだね。戦いを、止めないと」

「ハァ……。殺されかけてもそんなことが言えるなんてね」

「うん!初志完結ってやつだよ!」

「それを言うなら初志貫徹な。ま、お前はそれでいいんじゃねぇの」

「ま、あなたたちがどんなスタイルでもかまわないけれど、早急に駆除しないと……」

駆除って。さっすが雪ノ下さん!ぶち[ピーーー]気満々だ!

「おーい、やってるかねー」

ノックもなしに入ってきたのは平塚先生だ。

「どうした君たち、三人で息を荒げて。……はっ!まさか3Pか!?」

「「3P?」」

「おいお前ちょっと黙ってろよ」

思わず口調が荒くなってしまった。二人が意味を知らなかったからよかったものの……。

「まぁそうかっかするな。なにがあったんだね?」

しかしその質問に答えるわけにはいかない。

鏡の世界で殺し合いをしていました、なんて言ったら間違いなく精神科を勧められる。

いや、案外この人なら興味しんしんで聴くのかもしれないな。

「別に、大したことではありません。先生には関係のないことです」

「私は顧問なのだが……。おいっ!私だけ仲間はずれにするなよぉっ!」

ちょっと涙目だった。何なんだこの人……。豆腐メンタルかよ。

思わず話してしまいそうになるが、事が事だからな。

「あ、あー。あたし、今日ちょっと用事があるんだったぁ。ば、ばいばーい」

「由比ヶ浜さん、私も途中まで一緒に行くわ」

「うん!一緒に帰ろう!」

ヒシッ、と由比ヶ浜がいつものように雪ノ下に抱きつく。

ふたりはナチュラルに教室を去ろうとする。冗談じゃない!

俺だけ残されてたまるか!

「お、おれも病院いかないと」

「比企谷、今日は木曜日だぞ?」

木曜の午後はほとんどの病院は休診だ。

「知り合いの医者が特別に見てくれるんです。失礼しまーす」

逃げるようにして教室を出る。

「ううう!もっと私にかまえよー!」

面倒臭い教師だなぁもう。誰かもらってあげて!

さて、平塚先生の魔の手から逃れた翌日のことである。

今日は来ないだろうな、と少し警戒しながら部室へと向かう。

すると、雪ノ下と由比ヶ浜が教室の扉から中の様子をうかがっていた。

「どうした?おまえら?」

「ひゃぁっ!」

「きゃぁっ!」

「……比企谷君。いきなり声をかけないでくれるかしら」

「はいはい、で、どうしたんだよ」

「中に不審人物がいるの」

「不審人物はお前らの方だろ」

「いいから、そういうのいいから」

雪ノ下は俺の背中をぐいぐいと押す。

この野郎面倒な役割を押しつけやがったな!

ていうかだいたいのことはモンスターがいるから大丈夫だろう。

自分で行けよ。

そう思いつつも仕方なく扉をあける。

その瞬間、フワサッ、と、白い紙が風に舞って部室中に散らばる。

「ククク、まさかここで会うとは驚いたな。待ちわびたぞっ!比企谷八幡っ!!」

な、何だと!?驚いたのに待ちわびた!?こっちが驚くわ。

そこにいたのは・……。知らない、こんなやつは知らない。材木座義輝なんて俺は知らないぞ!

もうすぐ初夏だというにもかかわらず汗かきながらコートを羽織って指抜きグローブなんては

めてるやつなんて俺の知り合いなわけがない。そんな奴は知ってても知らない。

「比企谷君。彼はあなたのことを知っているようだけど?」

雪ノ下が怪訝な表情で材木座を見ながら言う。

「いや、こんなやつしらねぇよ」

「まさかこの相棒の名を忘れるとはな……、見下げ果てたぞっ!比企谷八幡っ!」

フルネームを連呼すんなよ暑苦しいなぁ。

「相棒って言ってるよ?」

由比ヶ浜が嫌悪の感情を隠さずに言う。

「クズは[ピーーー]」と、その目が語っている。

「そうだぞ相棒。あの地獄のような時を共に過ごしたではないか」

「体育でペア組んだだけだろ……」

「まったく、あのようなもの、悪習以外の何物ではないわ。我はいつ果てるともわからぬ身、

好ましく思うものなど作らぬっ!あれが愛なら、愛などいらぬっ!」

「はぁ……。それはわかったけど、いや、わからないけど分かったことにしてやるけど。それ

で、お前が何の用だよ」

「む、我に刻まれし名を読んだか、いかにも、我は剣豪将軍材木座義輝だぁぁっ!」

なんでこいつはいちいち大声を上げるんだよ……。

「なんでもいいけれど、あなた何か用があるのではないの?」

「ムハハハハハハ、すっかり失念しておったわ。時に八幡、奉仕部とはここでよいのか?」

「ああ」

「そうであったか。ならば八幡よ、きさまには我の願いをかなえる義務があるな。時を超えて

もまだ主従の関係にあるとは……。これも、八幡大菩薩の導きか」

「別に、奉仕部はあなたの願いをかなえるわけではないわ。ただお手伝いをするだけよ」

「ふむ、そうであったか。いやぁこれは失敬失敬!」

「比企谷君、ちょっといいかしら」

「ん、どうした」

「ねぇ、あの剣豪将軍って何?」

なるほどな、雪ノ下はこういうのを知らないのか。

「ああ、あれはな、厨ニ病っていうんだ」

「ちゅーにびょう?」

由比ヶ浜が首をかしげる。

「病気なのかしら?」

「別に本当の病気ってわけじゃない」

厨ニ病。アニメやラノベのキャラにあこがれて、さも自分にもそのような能力があるようにふ

るまうこと。

基本的に、発病中よりも治ってから苦しむことが多い。

ざっくりと二人に説明する。

「つまり、自分で作った役になりきって演技をするということね」

なんかそういうふうに聞くとちょっとカッコいいな。

さすがはユキぺディアさん。

一を聞いて十を知るとはこのことか。

「うー?」

そして、十聞こうが百聞こうが一も理解しない女、由比ヶ浜結衣。

「あ、ヒッキー今私のこと馬鹿にしたでしょ!」

「馬鹿になんてしていないと思うわ。ただ、由比ヶ浜さんの理解力は著しく劣っていると思っ

たのではないかしら」

「それだめじゃん!もう!二人とも!馬鹿にしすぎだからぁ!」

「…材木座君、だったわね」

「ふむ、いかにも」

「あなたの依頼は、その心の病を治すということでいいのね?」

「…八幡よ。我は崇高な依頼を持ってここに来た。そのようなことではない」

なんで俺に言うんだよ、雪ノ下に直接言えばいいだろ。いや、なんとなくわかるけどさ。

「話しているのは私よ?話す方の人を見て話は聞く。小学校で習わなかったのかしら?」

「モハハハハ、これはしたり」

「あと、その喋り方もやめて」

「クク、それはできぬ相談だなぁ。雪ノ下嬢。我の生き方を変えることなど、もう誰にも出来

ぬわ!そう、今となっては我でさえもな」

こいつなかなかやるな。雪ノ下相手に引けを取っていない。

「……仕方ないわね、それは百歩譲って許してあげましょう。それで、なんでこの時期にコー

トを着ているの?」

「ふむ。このコートは、障気から身を守るための外装だ。もともと我の体の一部だったが、こ

の世に転生する際にこのような形になった」

「じゃぁ、その指抜きグローブは?意味あるの?指先防御できていないじゃない」

「これは我が前世より受け継ぎし十二の神器の一つ。プラチナムシューターが射出される特殊

装甲で、操作性を保つために指先の部分は開いているのだ。モハハハハハハッッ!」

「……そう。やはり、あなたの病気は治した方がいいと思うのだけど」

「そしてこれがっ!我が最強の武器だっ!」

そう言って材木座はコートからバックルを取り出した。

「「「!!!?」」」

「フフ、これから発せられるオーラに恐れを抱いているようだな。それも仕方ないことよの。

見ておれい貴様ら!

変身っ!!」

そうして材木座は灰色の屈強な姿のライダーになった。

頭部には赤い角が付いている。体の色とつのから推測するに、おそらくサイのモンスターと契

約したのだろう。

「モハッ!モハハハハはっ!これこそが我の真の姿!仮面ライダー、ガイだっっ!!」

「「「……」」」

「驚きのあまり声も出ぬか。これで分かったようだな、我は真の戦士であると」

ああ、驚いたぜ、材木座。

その時、キィィィィッ、とモンスター襲来時独特の音が鳴る。

「見ておれ八幡よ。我の雄姿をっっ!」

そう言い残し、材木座は鏡の世界に入って行った。

「とりあえず、俺らも行くか」

「ええ」

「うん」

「「「変身!」」」

襲来者は、熊のモンスターだった。そのモンスターは、走って材木座に接近し、そのまま攻撃

を繰り出す。

「っ、あのバカ!なんでよけないんだ!」

材木座は回避行動を取ろうとしない。

「厨ニ、何考えてんの!?」

厨ニというのは材木座のあだ名なのだろうか。ちょっとひどすぎる。

さて、その厨ニこと材木座は……、がしっ!と、敵の振り下ろしてきた腕を掴んで攻撃を止め

た。

「モハハハハハッッ!」

そして身動きが取れない敵に、とがった角がついた頭で頭突きを繰り出す。

「グルァァッ!」

「ゴラムゴラム、一気に終わらせるでおじゃる」

「Strike Vent」

材木座の右手に装着されたのは、サイの頭を模した打撃武器だ。

ガァン!ガァン!ガァァン!

一撃の威力が相当大きいのだろう。敵は見る見るうちに弱っていく。

「これで終わりだ……」

「Final Vent」

必殺のカードをスキャンすると、壁を突き破ってサイのモンスターが現れる。

サイの頭に足の裏をつけるようにして、材木座とモンスターが合体する。

そしてそのまま、すごい勢いでサイが突進を繰り出す。

「材木座クラッシャァァァーっ!」

とがった頭の角を敵に向けた態勢で、材木座が敵に激突する。

ドガァァアアッ、と、大きな爆発を立てて敵が爆発四散する。

「ダークウイング!」

材木座と契約した際のモンスターがエネルギーを吸収しようとするのを、雪ノ下の契約モンス

ターダークウイングが奪う。

ええええええええ……。それはさすがにないですよ雪ノ下さぁん。

「ム、ムムムムムムムッッ!なんだお主はぁ!それは我の物だったのだぞ!」

激興した材木座が雪ノ下に襲いかかる。雪ノ下も材木座の方に向かって走っていく。俺と由比

ヶ浜はとっさのことに判断できず、動けなかった。

「Swword Vent」

槍と材木座の武器が激しく衝突する。

「む、我のメタルホーンを受け止めるとは……」

どうやらこの武器はメタルホーンと言うらしい。

「セアアッッ!」

パワーは材木座が上でも、スピードでは雪ノ下が勝る。一瞬でその身を引き、そして即座に槍

を突き出す。

「やばっ!」

材木座が素に戻る。

「Confine Vent」

そのカードがスキャンされると、雪ノ下の槍が消滅した。

「な、なんなの!!?」

ガキィ!ガキィ!ガキィィ!

武器をなくして動揺していた雪ノ下に、材木座は容赦なく重い攻撃を見舞う。

「くぅぅっっ!」

雪ノ下は体勢を崩す。

「ま、まだよ」

「Final Vent」

おい雪ノ下、お前!

契約モンスターダークウイングが飛来する。

雪ノ下の身をダークウイングが包んだその瞬間。

「ファイナルベントは、撃たせぬっっ!」

「Confine Vent」

再び使われた打ち消しのカードにより、ダークウイングが消滅する。

「なっっ!?」

ダークウイングの力で宙に浮いていた雪ノ下の体が落下する。

再び無防備になった雪ノ下に対し材木座は、

「これで終わりだ!盗人め!」

「Final Vent」

容赦なく、いや、彼にとっては当然なのだろうが、(倒したモンスターのエネルギーを奪

われ、自分を攻撃してきた敵なのだから。)もちろん俺はそれを見過ごすわけにはいかない。

「やめろぉぉぉっ!」

「Guard Vent」

楯を両手に持ち、雪ノ下と材木座の間に割り込む。

あの超威力の突進を受け止められるかは分からない。だが、やらないわけにはいかなかった。

「材木座、クラッシャー!」

ガキィィン!楯は割れ、材木座の体は吹っ飛んだ。

「ハァ、ハァ、ハァ……。何とか、セーフか」

「なんなんだ貴様らはぁ!人の物を横取りしたと思ったら、次は二体一か!卑怯者どもめ!」

メタルホーン片手に、今度は俺に襲いかかってくる。

「落ち着け!馬鹿ぁ!」

「Advent」

由比ヶ浜が召喚したエイのモンスターエビルダイバーにより、材木座の体は再び大きく吹き飛

ばされる。

「げ、げほげほげほっっ!さ、三体一じゃとぉ!すみません僕が悪かったです許してください!」

材木座が驚くべき速度で土下座する。いや、それやられたからって見逃さないだろ普通。

「落ち着け材木座、俺だ。比企谷八幡だ」

ちなみに相手が俺の声だけを聞いてもわからないのは、ライダーの仮面によって随分声質が変

わってしまうからだ。

「八幡!?」

「そうだ、俺達は奉仕部の三人だよ。だから争う必要なんてないんだ」

「むぅ……、しかしそちらの御仁は我のエネルギーを強奪したぞ!?」

「さっさと取らない貴方が悪いのよ」

「いや、それに関しては完全にこちらが悪いんだけどよ、何とか穏便にさ」

「む、仕方あるまい。以後気をつけてくれよ?」

「ああ、説得はしてみるよ」

たぶん無理だけど。

「ゆきのん大丈夫!?」

由比ヶ浜が雪ノ下に駆け寄る。

「え、ええ」

「ちょっと宙に!女の子になんてことするのよ!」

「え!ええええええ!?先に襲ってきたのはそちらではないか!」

正論である。あの材木座が正論である。

「うるさい!もう!反省してよね!」

理不尽すぎる。材木座、ドンマイ。

「Final Vent」

俺の聞き間違いだろうか、どこからかそんな音が聞こえた。

周囲を見渡すと……

「おい!緑のがいるぞ!」

離れた高台に、いつの間にか昨日戦った遠距離戦ライダーがいた。

その前には、牛型の巨人が。

「あの必殺技が来るぞ!」

「……もう遅いんだよ。じゃぁね」

ビーム、ミサイル、マシンガン、キャノン、大砲……。

全身武器でできたその体からありとあらゆる武器が射出される。

もう回避は無理だ!あの技は射程範囲が広すぎる!

しかし俺の盾は先ほど破壊された。

「おい材木座!あの消す奴は!?」

彼が使っていた「Confine Vent」とかならなんとかなるんじゃないか?

雪ノ下のファイナルベントも消してたし。

「あ、あれは二枚しかない!」

「つっかえねぇ!」

「Guard Vent」

「Coppy Vent」

雪ノ下が黒のマントを装備する。防御効果があるらしい。それを由比ヶ浜も複製して装備する。

「ヒッキー私の後ろに隠れて!」

「すまん!」

「材木座君!」

「あ、ありがとう!」

雪ノ下に手を引っ張られる材木座。何だ、やっぱり優しいじゃないか、あいつ。

「ほら!こっちよ!」

雪ノ下は、材木座を自分の前に引っ張った。

「プギャ!?」

「これがわたしのガードベントよ!」

ゆ、雪ノ下……。材木座を楯に使いやがった。

と、そこで攻撃が俺達に到達した。

「「「「ウワァァァァァァァァ!!!」」」」

鼓膜を破るような轟音をたてて、緑色のライダーゾルダのファイナルベントが炸裂する。

爆発、爆発、爆発。

「「「「ウワアアアアアアア!!!」」」」

運が良かったのかどうなのか、俺達はその攻撃の衝撃で鏡に入ってもとの世界に戻れたので、

それ以上の追撃を受けることはなかった。

「ぽふっ!もふぅ……。何なのだあの技は。リアルで死ぬかと思ったぞ」

「ったく……。お前がコンファインベントとっとけばあんなことには……」

「そうだよ!しっかりしてよね!」

「もふぅ!?そもそも我のエネルギーを横取りしてなければこんなことには……」

「何かしら?財津君?」

「……。材木座です」

「ま、過ぎたこと言ってもしゃーねーわな。んで、材木座。お前なんかようがあってここ来た

んじゃねぇの?」

「もほっ!ゴラムゴラム。これは失念しておったわ。いかにも!これを……」

言って材木座は、分厚い原稿用紙の束を渡してきた。

「なに……。これ?」

「小説の原稿みたいだな」

「いかにも!これはライトノベルの原稿だ!とある新人賞に応募しようと思ったが友人がおら

ぬゆえ感想が聞けぬ。読んでくれ」

「今とても悲しいことを言われた気がするわ……」

なるほど、な。厨ニ病になるくらいだからそういうものを目指すのも当然と言えば当然か。

「なんで俺達?投稿サイトとかあるだろ」

「それはできぬ相談だなぁ……。あいつらは容赦がないからな」

メンタル弱ぇー……。

「でもなぁ……」

ちらりと雪ノ下の方を見ておれはつぶやく。

「投稿サイトよりひどいのがいると思うんだけど……」

俺達はそれぞれ原稿を預かり、家で読むことにした。

小説の内容は、学園異能バトルラブコメもの。何というか詰め込みすぎ感が出てた。文体も終

始一貫してないし。

読むのが朝までかかったせいで、一日中授業に集中できなかった。由比ヶ浜の奴は元気そのも

のだったのでどうせ読んでないんだろう。

俺が部室のドアをたたくと、雪ノ下は珍しく船をこいでいた。

「お疲れさん」

俺のねぎらいの言葉にも反応を見せない。

そのほほ笑む表情は優しく微笑んでいて、普段とのギャップに驚かされた。

このままずっと見ていたいという思いに駆られる。

好きになっちまうぞ!

と、その時。雪ノ下がゆっくりと目を開いた。

「……驚いた、あなたを見ると一瞬で目が覚めるのね」

ああ、俺も目が覚めたよ。永眠させてやりたい、この女。

「その様子だと、随分苦労したようだな」

「ええ、徹夜なんて久しぶりよ。私、この手の物は好きになれそうにないわ」

「材木座のをライトノベルのすべてだなんて思うなよ。面白いのなんていくらでもある。よか

ったら……」

「気が向いたら、ね」

これ絶対読まないフラグだわ。

「やっはろー!」

「由比ヶ浜さん、よくこれを読んでそんな状態でいられるわね」

「え?あ、あー……。いやー、あたしもマジ眠いからー。あー、眠い眠い」

急いで目をこすりだす由比ヶ浜これほど嘘が下手な奴も珍しい。

「たのもぉう!」

うっとうしい挨拶とともに材木座が入室してきた。

「さて、感想を聞かせてもらおう。好きに言ってくれたまへ」

自信満々といった材木座の表情とは対照的に、雪ノ下が珍しく申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさい。私こういうのはあまりよく知らないのだけれど……」

「構わぬ。俗物の意見も聞きたかったのでな」

「そう。では……。つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」

「げふぅっ!」

一刀のもとに材木座を切り捨てた雪ノ下。

「ふ、ふむ……。参考までに、どこがつまらなかったのか教えてもらえぬか?」

「まず、文法がめちゃくちゃね。小学生よりひどいわ。てにをはの使い方知ってる?」

「ほふぅ……。それは読者に読みやすいよう平易な文章に……」

「そういうことは最低限の日本語が使えるようになってから考えなさい。あと、ルビの誤用が

多すぎる。『能力』に『ちから』なんて読み方はない」

「わかっとらんなぁ。それが近ごろの流行というものよ」

「そういういのをなんというか知ってる?自己満足よ。そもそも完結していない物語を人に読

ませないで。文才の前に常識を身につけることから始めたら?」

「げべらぼらずッダガバディィガバディィ!」

何故突如カバディを始めた……。痛いところを突かれたらしく、材木座は床をごろごろと転が

っている。

「まだまだ言い足りないけど、このくらいにしておきましょう。では、由比ヶ浜さん」

「え?えー……。難しい言葉をいっぱい知ってるね」

「ゲロボェッ!!」

由比ヶ浜……。それは作家志望にとっちゃ禁句なんだよ……。

だってそれ以外にほめるところがないってことだからな。

「じゃ、じゃあ、ヒッキーどうぞ!」

「は、八幡?お主はわかってくれるよな?我が文章の高尚さを……。

ああ、わかってるぜ材木座。俺が今、お前にかける言葉は……。

「で、あれって何のパクリ?」

「ゲヤボッサァァヌッッ!!!」

転がっていた材木座は壁にぶつかり、その動きを止めた。ピクリともしない。ただの屍のよう

だ。

「あなた、容赦ないのね。私より酷薄じゃない」

「ま、大事なのはイラストだから、中身はあんま気にすんなよ」

材木座はしばらくひぃひぃと肩で息をしていた。そして、

「……また、読んでくれるか?」

耳を疑った。何を言っているのか分からず俺が黙っていると。

「また、読んでくれるか」

もう一度、そう言った。

「お前……」

「どMなの?」

由比ヶ浜が雪ノ下の後ろに隠れながら嫌悪の表情を浮かべている。

「お前、あんだけ言われてまだやんの?」

「無論だ。確かに酷評されはした。もう死のっかなー、とも思った。むしろ我以外[ピーーー]と思っ

た。だが……。それでも嬉しかったのだ。誰かに感想を言ってもらえるというのはうれしいも

のだよ」

そう言って材木座は笑った。それは剣豪将軍ではなく、材木座義輝の笑顔。ああ、こいつはも

うかかっちまってるんだ、立派な作家病に。

書きたいものがあるから書く、それが誰かを少しでも笑顔にできたらなおうれしい。たとえ認

められなくても書き続ける。それを、作家病というのだろう。

だから、俺の答えは決まっていた。

「ああ、読むよ」

読まないわけがない。だってこれは、材木座が、白眼視されても病気扱いされてもやり続けて

きたことの証なのだから。

「また新作が書けたら持ってくる!」

言い残して、材木座は去って行った。案外あいつの夢がかなうのも遠くないのかもしれない。

そう、材木座義輝は変わらなくていいのだ。

「ていやっ!せいっ!お主らに加護があらんことを!」

……あの気持ち悪い部分を除けばな。

あれから数日がたった。

「のう八幡、流行の神絵師は誰だろうな」

「気が早い。まず賞とってから考えろアホ」

体育の時間は相変わらずこいつと組んでいる。

「フム。まずはどこからデビューするかか……」

「だからなんでしょう取る前提なんだ……?」

「売れたら声優さんと結婚できるかな……?」

「いいから。そういうのいいから。まずは原稿書け、な?」

こんな感じでグダグダやっている。きっと青春と呼べるものには遠いんだろうけど、それでも

少なくとも、嫌な時間ではなくなった。

ただ、それだけの話だ。

チャイムが鳴り、四時間目の授業が終わる。

昼休みに突入し、一気に弛緩した空気が流れる。

ニ年F組の教室は、今日も喧騒に包まれていた。

いつもはぼっち飯のためのベストプレイスがあるのだが、今日は雨なので仕方なく教室でむし

ゃむしゃと飯を食っている。

しかし本当に昼休みの教室というのはうるさいな。

そして、そんな喧騒の中心にいるのが教室の後ろでたむろしている連中だ。

サッカー部の男子ニ名にバスケ部男子ニ名。そして女子三人。

その華やかな雰囲気から、彼らが上位カーストに位置する連中だと一目でわかる。

ちなみに由比ヶ浜もここに属している。

その中でもひときわまばゆい輝きを放つ二人がいた。

葉山隼人。

それがあの連中の中心にいる人間の名だ。

サッカー部エースで次期部長候補。

眺めていて気持ちのいい人物ではない。女子の目線からすると、雪ノ下雪乃も同じように映る

のかもしれない。

「いやー、今日は無理かな。部活あるし」

「別に一日くらい良くない?今日ね、サーティーワンでダブルが安いんだよ。あーしショコラ

とチョコのダブルが食べたい」

どっちもチョコやないかーい!はっはっはっはは!ルネッサーンスッ!

そう言ったのは葉山の相方三浦優美子。

金髪縦ロールに、風俗嬢かと思わせるほど着崩した制服。スカートなんて、履く意味がないほ

どに短い。

三浦の顔立ちは整っているが、その派手な格好と頭悪そうな言動のせいもあり、俺の嫌いなタ

イプだ。

「悪いけど、今日はパスな。それに優美子、あんま食いすぎると太るぞ?」

「あーしいくら食べても太んないし」

そう言っていた某行列ができる女弁護士は今ぶよぶよに太ってるけどな。

三浦のそんな姿を想像すると、笑いが吹き出る。

「食べ過ぎて腹壊すなよ?」

「だーからー、いくら食っても大丈夫なんだって。ね、結衣?」

「やーほんと優美子マジ神スタイルだからねー。足とかきれいだし。……で、あたしちょっと」

「えー、そうー?でも雪ノ下さんとかの方がやばくない?」

「確かに!ゆきのんはっ」

「……」

三浦の無言の圧力により、由比ヶ浜が黙る。

何これ封建社会?こんな気使わないといけないなら俺一生ぼっちでいいわ。

「あの……あたし、お昼ちょっと行くところがあるから」

「あ、そーなん?じゃぁ帰りにあれ買ってきてよ。レモンティー。あーし今日飲み物買ってく

るの忘れちゃってさー。パンだし、飲み物無いときついじゃん?」

そんぐらい自分で行けよ。

「けどあたし帰ってくるの五限の直前になるからちょっと無理っていうか……」

由比ヶ浜がそういうと、三浦が飼い犬に手をかまれたような表情を浮かべた。

「は?ユイさー、この前もそんなこと言ってなかった?最近付き合い悪くない?」

「やー、やむにやまれぬ事情というか……」

由比ヶ浜のその弁解も、三浦の怒りの炎に油を注ぐ結果となった。

「それじゃわかんないから。あーしら友達じゃん?隠し事とかよくないと思うんだよねー」

なんだそれは。

友達どころか家族にだって言えないことはあるはずだ。三浦のそれは、ただの脅迫だ。

「ごめん……」

「だからごめんじゃなくてー、なんか言いたいことあるんでしょ?」

あほくさい。こんなの相手をいじめたいだけじゃねぇか。

普通ならスルーするところだが、由比ヶ浜には借りがある。

それにあいつは、もう俺の仲間だ。

それから、もう一つ。

気にいらねぇンだよこの野郎。

「おい、そのへんで」

「るっさい」

だが俺も男だ。そう言われて引くわけにはいかない。

「いい加減にしろよ、三浦。お前は由比ヶ浜の上司にでもなったつもりか?誰にだって隠し事

の一つや二つあるだろうが。それともお前は聞かれればなんだってこいつらに話すのか?違う

だろ?」

三浦の眼光が強くなる。俺を敵として認識したのだろう。

「何?あんたいきなり出てきて偉そうに」

「比企谷八幡。通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

「ひ、ヒッキー。いいよ。あたしなら大丈夫だから。優美子……ごめんね?」

「はぁ、またそれ?あんたさっきから謝ってばっかだけど」

「謝る相手が違うわ。由比ヶ浜さん」

キィィィっ!と、いつものけたたましい蝙蝠の鳴き声とともに現れたのは、雪ノ下雪乃だ。

すいません、登場シーンもうちょっと何とかなりませんか?

三浦も耳を押さえている。

「由比ヶ浜さん、自分から誘っておいて待ち合わせの場所に来ないのは人としてどうかと思う

けど。遅れるなら連絡の一本でもしたら?」

「ごめんね。でもあたし、ゆきのんの連絡先知らないし……」

「そうだったかしら?では今回は不問にしておきましょう」

「ちょっと!あーしたちまだ話し終わってないんだけど?」

「話、ね。これは笑わせてくれるわ。てっきり類人猿の威嚇だとばかり思っていたから」

「なっ!?」

「気付かなくてごめんなさい。あなたたちの生態系にくわしくないものだから」

「あんたねぇ……。もう許せない!行け!ベノスネーク!」

三浦の声に呼応して、鏡から紫色の蛇のモンスターが現れる。

そしてその口から毒液を放射する。

あの野郎っ……!

しかし流石は雪ノ下。とっさにその場で身を転がしてその攻撃を回避する。

毒液がかかった床が溶けた。

「驚いたわね。こんな芸当ができるなんて」

「……にするの……」

由比ヶ浜がつぶやく。

「は?何よユイ。言いたいことあんなら言えば?」

「あたしの友達に、何してるのって言ってるのっ!」

それは言外に、もう自分と三浦は仲間ではないと言っていた。

「……へぇ、そういうこと言うんだ。なら、二人まとめてっ!」

ベノスネークが再び毒液を放射する。

「ドラグレッダー」

その蛇に向かって、ドラグレッダーが体当たりをくらわす。

「はぁ!?」

ドラグレッダーがそのまま三浦に攻撃する。

教室内が今までとは全く別の喧騒に包まれる。

大慌てで逃げ出すクラスメイト達。

あとには俺達三人と、三浦、葉山が残った。

「へぇ……。驚いたわ。この龍、誰のモンスター?」

「俺だよ。三浦」

「通りすがりの仮面ライダー、ね。あれ冗談じゃなかったんだ」

「冗談にしたかったんだけどな」

「だったらあんたも」

「やめろ」

唐突に口を開いたのは葉山だ。

「お前たちが何をしようとしてるのかは知らない。でも、危ないことだというのはわかる。や

めろよ、そんなの。争う理由なんてないだろ!」

おいおい、この状況でそんなことが言えるのか。

「葉山君、関係ない人は黙っていてくれないかしら。それにね、戦う理由ならあるわ。私はこ

の愚かな類人猿に殺されそうになったのだから。

それから……私の大切な友達を傷つけた罪は、許せない」

「ゆきのん……」

「だ、だが。やられたからやり返すんじゃ、何も解決にはならないだろ」

「解決するわ。この女を、消せばいいのよ」

雪ノ下さんまじぱねぇっす!

「はぁ?偉そうなこと言ってるけどあんたに何ができ」

「できるわ」

ポケットから蝙蝠のカードデッキを取り出す。

「へぇ……。そういうこと」

「あなたの罪、償ってもらうわよ?」

「気に食わないんだよ。あんたみたいなやつ」

「「変身!!」」

氷の女王と煉獄の女王。長きにわたる争いの始まりであった。

鏡の世界ミラーワールドへ雪ノ下と三浦が飛び込む。

「比企谷君、これは一体……」

「葉山、……お前は知らない方がいい。これは、俺達の問題だ。由比ヶ浜、お前はここにいろ。

友達と戦うのはつらいだろ」

「ううん、友達だけど、友達だからこそ、止めないと」

「そうか、なら、行くとするか」

「うん!」

「「変身!!」」

ミラーワールドでは、二人が間合いを確認しながら、攻撃のタイミングをはかっていた。

三浦は、全身紫色で、どこまでも不気味な蛇を連想させるような姿だ。

「「Swword Vent」」

ほとんど同じタイミングで両者が武器を取り出す。

「あーしあんたみたいなの見てるとさー、イライラするんだよ」

コキコキと音を立てて首を回しながら、三浦が挑発する。

「そう。それなら私を消してみなさい」

「言われなくてもっ!」

二つの剣が激突して火花を挙げる。

「あーしこう見えてもさぁ、格闘技とかやってたんだよねー」

「あらそう、それにしては弱いのね」

雪ノ下はそういうが、三浦の強さは本物だ。まったく無駄のない動き。

何合か斬りあい、両者が間合いを取る。

二人ともこっちには気が付いていない。奇襲をかけるなら今だ。

「Advent」

「グガァァァアーーッ!」

けたたましい咆哮を挙げながら、ドラグレッダーが三浦に襲いかかる。

「なっ!ヒキオの分際でっ!」

三浦は大きく吹き飛ばされる。

「これで終わりよ!」

「Finalvent」

「って、ちょっと待て雪ノ下!」

「やめて!ゆきのん!」

「悪いけど、この女に情けをかけるつもりはないわ!」

ダークウイングと合体して、空中からの急降下ドリル攻撃を放つ。

由比ヶ浜が走りだすが、この距離では間に合わない。

「くっっ!」

まさに攻撃が直撃しようというその時、

「Freeze Vent」

機械音が響き渡ったと思った瞬間、雪ノ下の攻撃が止まった。

正確には、雪ノ下を包んでいたダークウイングの動きが。

「な、何なの!?」

「よくわかんないけど、ここは引いた方がいいっしょ!」

そう言い残し、三浦はミラーワールドを去って行った。

「今のは一体……」

「Finalvent」

またか!しかも今度はファイナルベント、必殺技の発動音声。

どこだ、どこにいる?

俺達三人が周囲を見渡していると、物陰から急に、青色の虎が襲いかかってきた。

その虎は俺の体勢を崩し、そのまま引きずる。地面で体が削られる。

「がっ!あっ!ああぁぁぁぁっ!」

「比企谷君!」

「ヒッキー!」

二人が虎の存在に気付き攻撃を仕掛けようとするが、その時にはすでに彼女たちの横を通り過

ぎて行った。

引きずられていった先の物陰から、今度はライダーが現れた。

水色と白を基調とした猛々しい姿だ。

そのライダーは、両手に装備した巨大な爪状の武器で俺を突き刺し、高く掲げる。

「がっっ!はっ……」

痛みが全身を駆け巡る。

「比企谷八幡。君はこの世界に必要のない存在だ」

「てめぇ、いったい誰だ……」

「僕は仮面ライダータイガ。英雄になる男だ」

「Advent」

由比ヶ浜の契約モンスターエビルダイバーがこちらに向かってくる。

「デストワイルダー!」

タイガの声に呼応して、虎のモンスターがエビルダイバーを迎え撃つ。

「Swwordvent」

「Swwingvent」

「あなた、覚悟はできているんでしょうねっ!」

「絶対に許さないんだからっ!」

二人がタイガに襲いかかる。

「おっと、君たちと戦うつもりはないよ」

タイガは彼女たちの相手をすることなくこの世界を去る。

「比企谷君!大丈夫!?」

「ヒッキー!しっかりして!」

「大、丈夫だ……。すまない、肩を貸してくれ」

「三浦さんだけではなく、あのライダー……」

「緑のライダーのことも解決してないのに……」

不安要素ばかりが増えていく。俺は改めて、ライダーバトルの恐ろしさを実感した。

「ずいぶん大変だったみたいじゃん。あーしに手ぇだした罰じゃない?ヒキオ?」

三浦がいやらしい笑みを浮かべる。ライダーベルト所持者は、鏡を通してミラーワールドを見

ることができるのだ。

「るせぇよ……」

「あんたら、絶対つぶしてやるから」

「やれるものならやってみなさい」

「優美子」

由比ヶ浜が口を開く。

「あたしは、ライダーバトルを止める。そして、優美子とももう一度友達になるから」

「あんた、それマジでいってんの?」

「うん、本気だよ」

「あっそ。なら好きにすれば。言っとくけど手加減なんてしないから」

「由比ヶ浜さんに手を出したら私が許さないわ」

「へぇ、言ってくれんじゃん」

雪ノ下と三浦が懲りもせずに睨みあう。

「……ったく、お前ら……。あれ?葉山はどこいった?」

「逃げたんじゃないかな。モンスターとか見たら、仕方ないよ……」

由比ヶ浜の表情は悲しげだ。

同じグループで親しくしてきた友人を失ったと思っているのだから当然だろう。

だが……。

「本当に、そうか……?」

「え?それどういう意味?」

「いや、なんでもねぇよ……」

「仮面ライダータイガ、ね」

「は?あんた何言ってんの?」

雪ノ下は俺の言わんとすることを察したらしい。

「いいえ、ただの独り言よ」

俺の見当違いであればいいんだがな……。

「あれ?ヒキタニ君達、戻ってたのか。みんな、どこに行ってたんだ?」

教室に入ってきた葉山が俺達に問う。

「……いや、別に」

「大したことじゃねーし。つーか女子の秘密聞くとか隼人らしくねーべ?」

「はは、それもそうだな」

葉山は真剣な表情を消し、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる。

「昼食がまだだったわね。行きましょう、由比ヶ浜さん」

「え?あ、うん!ゆきのん大好き!」

あんなことの後だというのにこいつらゆりゆり始めやがったぞ……。

「ハハハ、一件落着、かな?」

「ま、そういうことでいいんじゃねぇの?」

「そっか、でもやっぱり気になるな。……比企谷君のことは」

「気にすんなよ、英雄野郎」

「なんのこと?」

そう言った彼の笑顔は、先ほど以上に欺瞞に満ちあふれていた……。

気持ちを変えれば態度が変わる。

態度が変われば行動が変わる。

行動が変われば周りが変わる。

周りが変われば世界が変わる。

世界が変われば人生が変わる。

そして……月が変われば体育の種目が変わる。

我が校の体育は三クラス合同で行われ、男子総勢60名をにたつの種目に分けて行う。

今月からはテニスとサッカー、いかにもリア充といったスポーツだ。

「よーーし、それじゃ二人組作って練習やれ」

出たな、ぼっちに言ってはいけない言葉の代名詞!

だがそれは、逆にいえばいくらでも対応策を考える時間があるということでもある。

受けてみろ!我が奥義!

「すいません、俺調子よくないんで壁打ちしていいっすか?みんなに迷惑かけることになっち

ゃうんで」

そう言って、教師の言葉も待たずにさっさと歩きだす。

特にこの『迷惑かけたくない』が、集団行動を重んじる体育会系には有効だ。

「うわぁっ!今のやばくね!?マジやばくね?」

「マジやばいわー。激熱だわー」

一際大きい声のする方を見ると、そこには葉山たちの集団があった。

「うわ、隼人君すげー」

「やっぱ違うなー」

その集団は、葉山を目印にしてどんどん数を増していく。

その数はあっという間に二桁となった。

優に六分の一が葉山王国の国民だ。

そして体育の授業は彼の王国に支配された。

彼らは一様に騒いでいるが、それ以外は反比例するように静かになる。

葉山グループにあらずンば人にあらず。

だが、歴史が語るように、そんなものは長続きしない。

英雄になる、などという男が王ではなおのことだ。

ふと、葉山と目があった。

その目が凍てつくような冷たさを一瞬持ったのを、俺は見逃さなかった。

昼休み。いつものように、マイベストスポットで一人飯を食う。

購買で買った大してうまくもないパンをもぐもぐと咀嚼する。

視界の隅に移るテニスコートから聞こえる打っては返すラケットとボールの当たる音が眠気を

誘う。

レモンティーをすすっていると、ふと風向きが変わった。

天候にもよるが、海の近くにあるこの学校では、昼を境に風の方向が変わる。

この風を一身に受けながら過ごす時間が俺は嫌いじゃない。

「あれー?ヒッキーじゃん」

風に乗って聞きなれた声が聞こえる。

「なんでこんなとこにいんの?」

「普段ここで飯食ってんだよ」

「なんで?普通に教室で食べればよくない?」

……察せよ。

「つーかお前こそなんでこんなとこいんだよ」

「そうそう、それそれ。ゆきのんとの罰ゲームに負けちゃったんだー」

「罰ゲーム……俺と話すことがかよ」

「ち、違う違う!負けた人がジュースを買ってくるの!」

「そうか、よかった。危うく契約のカード破り捨ててドラグレッダーに食われるとこだったわ」

「ちょっ、でもそうなったらあたしがヒッキーを守ってあげる!」

「そりゃどうも」

俺がそつない返事を返すと、由比ヶ浜が微笑を浮かべる。

と、そこに、とたとたと誰かの走る音が聞こえてきた。

「おーい、由比ヶ浜さーん!」

「あ、さいちゃーん!」

「さいちゃん、練習?」

テニスウェアを着たその少女に由比ヶ浜が問う。

見りゃわかんだろ……。

「うん。うちの部弱いから、いっぱい練習しないと……。お昼も使わせてくださいって申請し

て、最近オッケーが出たんだ」

「授業でもテニスやってるのに偉いねー」

「ううん。好きでやってることだから。そういえば比企谷君、テニス上手いよね」

なんでこいつ俺の名前知ってるんだ?

「そーなんす?」

ソーナンスって……お前はポケモンかよ。

「うん、フォームがとってもきれいなんだよ」

「いやー、照れるなー……。で、君は誰?」

「はぁぁっ!?同じクラスじゃん!ていうか体育一緒でしょ!?信じらんない!」

「いやお前あれだよ、俺はみんなの平和とか守ってるから一人ひとりの名前までは覚えられな

いんだよ」

「あはは。やっぱり覚えてないよね。同じクラスの戸塚彩加です」

「ごめんなー……。ほら、でも、クラス変わったばっかだし」

「一年の時も同じクラスだったんだよ……。えへへ、僕、影薄いから」

「いやそんなことないさ。俺女子とほとんどかかわりないし。何ならこいつの本名も知らない

し」

言って由比ヶ浜を指さすと、

「ファイナルベントォッ!」

思い切り方を叩かれた。

お前、そこはスイングベントくらいにしとけ……。いや、やっぱやめてください。

「由比ヶ浜さんとは仲いいんだね」

「ええっ!?全然よくないよ!むしろファイナルベントで倒した後にコピーベントで化けて悪

評を立てまくるレベル!」

お前それガチの奴じゃねぇか……。

「ホントに仲いいね」

ぼそりとつぶやいて、戸塚は俺に向き直る。

「僕、男なんだけどなぁ……。そんなに弱そうに見える?」

ぴたりと俺の思考が停止した。

わお、びっくりドンキー。

由比ヶ浜に目で問うと、うんうんとうなずいている。

マジかー……。

「とにかく、悪かったな。知らなかったとはいえ女扱いして」

「ううん、大丈夫」

「それにしても戸塚、よく俺の名前知ってたな」

「うん、比企谷君目立つから」

「どこが?」

由比ヶ浜が真顔で問う。

ちょっと傷付くんですけど……。

「一人で教室にいたら目立つだろうが」

「あ!それは確かに目立……ごめん」

そういう態度の方が傷つくと彼女は学ぶべきだ。

「比企谷君、テニス上手だけど、経験者か何かなの?」

「小学生のころマリオテニスやったぐらいかな。リアルでは特に……」

「あ、あのみんなでやるやつだ!」

「は?俺は一人でしかやったことねぇぞ?」

「あ、あー……。ごめんなさい」

「お前わざとやってない?」

「わざとじゃないもんっ!」

と、その時昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「もどろっか」

戸塚が言って、由比ヶ浜がそれに続く。

それを見て少し不思議に思う。

教室が同じなんだから一緒に行くのが当然なんだと。

そしてふと、自分たちのことを思う。

俺達奉仕部は、向かう場所は一緒なのだろうか……と。

数日の時を置いて、再び体育の時間がやってきた。

度重なる一人壁打ちの末、俺はすでにテニスをマスターしつつあった。(ただし一人専用)

今日もけなげに一人練習に打ち込んでいると、

とんとんと肩をたたかれる。

振り返ると、頬に誰かの人差し指が当たる。

「あはっ、ひっかかった」

可愛い笑顔を浮かべるのは戸塚彩加その人である。

えー、何この気持ち。恋かな?ピンときたら、セイ、恋かなえって!

これが男じゃなかったら告白して振られるとこだった。

よかった、戸塚が男で。

「どした?」

「うん、今日ね、ペアの子が休みだから、よかったら僕と組んでくれないかな?」

そう言われて断る理由は俺にはない。

「じゃぁ、始めよっか」

戸塚はテニス部だけあってそれなりに上手い。

壁相手に会得した正確な俺のサーブを受けて、正面に正確にレシーブしてくる。

何度もやっているうちに、単調に感じたのか戸塚が口を開く。

「やっぱり比企谷君上手だねー」

「相当壁打ちしたからなー、テニスは極めたー」

「テニスじゃないよー、それはスカッシュだよー」

他愛もない話をしながら、戸塚とのラリーは続く。

他の連中が打ちミスなどしてとぎれとぎれになる中、俺達だけが長いこと続いていた。

「少し、休憩しよっか」

「おう」

二人で地面に座る。なんでお前は俺の隣に座るんだ?なんか距離近くない?近くなーい?

「比企谷君に、ちょっと相談があるんだけど」

「なんだ?」

「うん。うちのテニス部って、すっごく弱いでしょ?それに人数も少なくて……。人が少なく

て自然とレギュラーになるから、モチベーションも上がらないし……」

「なるほど、な」

頷ける話だ。弱い部活にはありがちなことだ。

休んでもさぼっても大会には出られて、試合をすればそれなりに部活をしている気分になれる。

勝てなくてもそれなりに満足してしまう。

そんな奴らは決して強くならない。だから人が集まらない。

負の連鎖は止まらない。

「だから……比企谷君にテニス部に入ってほしいんだ」

「は?」

だからって何?なんでそうなるんだよ。

「比企谷君テニス上手いし、もっと上手になると思う。それにみんなの刺激にもなると思うし

……」

なるほどね、俺をカンフル剤にしようってわけか。

だが……

「悪いな。それは無理だ」

俺は自分の性格をよくわかっているつもりだ。毎日部活に行くなんて意味がわからないし、集

団の中にいることを苦痛に感じるような人間だ。

仮に入ったとしても一ヶ月経たないうちに退部する自信があるし、戸塚をがっかりさせてしま

うこと請け合いだ。

「……そっかぁ」

戸塚は本当に残念そうな声を出す。

「まぁ、何だ。代わりと言っちゃなんだが何か方法を考えてみるよ」

「……ありがとう。比企谷君に相談してみて気が楽になったよ」

「無理ね」

雪ノ下は開口一番にそう言ってのけた。

「いや、無理ってお前さー」

「無理なものは無理よ。ブランク体でドラグレッダーに勝とうとしたあなたぐらい無理よ」

その話をほじくり返すなよ……。

ことの始まりは、俺が戸塚から受けた相談を雪ノ下に話したことだ。

「でもよぉ、俺を入部させようとする戸塚の考えはあながち間違ってないと思うぞ。要はテニ

ス部の連中を、このままじゃ危ないぞ、って脅かしてやればいいんだから」

俺のその言葉を、雪ノ下は鼻で笑う。

「あなたという共通の敵を得て集団が団結することはあっても、それは排除するための努力で、

自身の向上ぬそれが向けられることはないわ。ソースは私」

「確かにな……。ん、ソース?ソースならウスターが好きだが」

「そのソースじゃないわよ。あなた本当に国語学年三位?」

「ちょっとしたジョークだろうが」

「私、中学時代に海外からこちらに戻ってきたの。そこで転入先の女子たちは、私を排除しよ

うと躍起になったわ。誰一人として私に勝てるよう努力をした者はいなかった。あの低能共、

ダークウイングに捕食させたいわ……」

お前何折本みたいなこと言ってんだよ。

俺は話題を変えようと試みる。

「戸塚のためにも、何とかできねぇかな……」

「珍しい。あなたが誰かのために何かするなんて……」

「いや何、相談されたのなんて初めてだからな。うれしくってさ」

「そう、私もよく相談されたけどね」

雪ノ下が少しだけ胸を張って言う。しかしあれだな、貧乳の奴が胸を張るというのはそこはか

とない滑稽さがあるな。

「久しぶりに戦いたいのかしら……?」

こちらをキッと睨んでバックルを取り出す雪ノ下。やめてくださいおっかないから。ていうか

なんで俺の考えてることがわかんの?

「まったく……。言っておくけどね、人の価値はそんなものでは決まらないのよ」

「誰もそこまで言ってねェだろうが……。でもあれだよな、気にしなくていいもんでもないよ

な」

「なに?喧嘩売ってるのかしらゲス谷君?」

「だって考えてもみろよ。人間の雌のホルモンは胸から出るんだぞ?それが小さいってことは

問題なんじゃないか?」

「それは科学的根拠でもあるのかしら?あるのなら早く言ってみるといいわ。断じて気になる

なんてことはないけれど」

あれだよな、こいつ焦った時とかとにかくまくしたてるよな。

「普通の生物は尻からフェロモンが出るけどよ、人間は二足歩行だからそれを見れねェだろ。

あ、ちなみにこれは視覚に訴えかけるホルモンだからな?

で、尻以外にそのホルモンを出す場所として、人類は胸を選んだんだよ。だからそれが小さい

ってのはほっといていいことじゃないと思う」

「……なら、どうしろって言うのよ」

雪ノ下はぼそりとつぶやき、そしてそれを隠すようにして続けてる。

「ああ、だから比企谷君はいつも由比ヶ浜さんの胸をじろじろ見ているのね」

「そうだな、それも仕方ないことだよな。だからそんな非難の目で見られる覚えもないんだが」

「これは後で由比ヶ浜さんにも教えてあげないと」

「好きにしろ。こちとら好感度なんてドブに捨ててんだよ。いまさら誰にどれだけ嫌われたっ

て痛くもかゆくもないね!」

「やっはろー!」

そこに頭の悪そうな挨拶とともに由比ヶ浜が入ってきた。

と、その後ろに不安そうな顔をした人物が目に留まる。

「あ……比企谷君っ!」

瞬間、透き通っていた肌に血の色が戻り、花が咲くような笑顔を浮かべる。

「戸塚……」

トテトテと俺に近づいてきて、そっと俺の袖口を握る。

「比企谷君、ここで何してるの?」

「ん、部活だけど。お前はどうしたんだ?」

「今日は依頼人を連れてきたよ!」

戸塚に代わって由比ヶ浜が答える。

「やー、ほらなに?あたしも奉仕部の一員として?ちょっとは働こうと思ってさー。そしたら

さいちゃんが悩んでるみたいだから連れてきたの!」

「由比ヶ浜さん」

「ゆきのん、お礼なんて全然いいよー。部員として当たり前のことだから?」

そういう由比ヶ浜は言葉とは裏腹に自信満々といった様子だ。

「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど……」

「違うんだっ!?」

え!?違うの!?おいこら、思わずスリムクラブみたいな声出しちまったじゃねぇか。

「ええ。入部届けをもらっていないし顧問の承認もないから部員ではないわ」

「書くよ!そのくらい書くから仲間に入れてよっ!」

涙目になりながら由比ヶ浜は「にゅうぶとどけ」とひらがなで紙に書き始めた。そのくらい漢

字で書けないのか……?

「で、戸塚彩加君だったかしら?」

「あ、あの……。テニスを強くしてくれるん、だよね?」

「由比ヶ浜さんがなんて言ったかは知らないけれど、奉仕部は便利屋ではないの。強くなるも

ならないもあなた次第よ。信じるか信じないかも、あなた次第よ」

お前それ言いたかっただけだろ……。

「そう、なんだ……」

少し落胆したように肩を下げる戸塚。由比ヶ浜が調子のこと言ったんだろうな……。当の由比

ヶ浜は、「はんこはんこ」と呟きながら鞄をごそごそと探している。なに、お前いつも持ち歩い

てんの?

と、その由比ヶ浜を雪ノ下がちらりと睨む。その視線に気づいた由比ヶ浜は顔を上げる。

「ん?どったの?」

「どったのじゃないわよ由比ヶ浜さん。あなたの無責任な発言で一人の少年の淡い希望が打ち

砕かれたのよ?」

「んん?でも、そうした方がいいってあたしの占いでもそう出たし!あたしの占いは当たるん

だー。

それに、ゆきのんとヒッキーなら何とかできるでしょ?」

由比ヶ浜は何の考えもなしにあっさりと言った。それは受け取り方によっては「できないのか?」

と挑発しているようにも聞こえる。

そして、そういう風に捉えるやつがここに入るのだ。

「……ふうん、あなたも言うようになったわね、由比ヶ浜さん」

「え?えへへー。照れるなー」

別にほめられてはないぞ?

「いいでしょう。戸塚君、あなたの依頼を受けましょう。テニスの技術向上を助ければいいの

ね?」

「はい。そうです。僕がうまくなれば、きっとみんな頑張ってくれると思うから」

「ま、手伝うのはいいけどよ。具体的にはどうするんだ?」

「簡単なことよ」

にやりと笑って雪ノ下は告げる。

「死ぬまで走って死ぬまで素振り、死ぬまで練習よ」

翌日の練習から地獄の特訓は始まった。

テニスコートのは雪ノ下と由比ヶ浜、戸塚がすでにそろっている。

「では、始めましょうか」

「よろしくおねがいします」

雪ノ下に向かって戸塚がぺこりと頭を下げる。

「まずは戸塚君に致命的に足りていない筋力を上げましょう。まずは腕立て伏せを死ぬ寸前ま

でやって見て?」

「し、死ぬ寸前……?」

由比ヶ浜が驚きの声をあげる。

「ええ。筋肉は痛めつければ痛めつけただけ強くなるの。これを超回復というわ」

「あー、つまりサイヤ人みたいなもんか」

「まぁ、すぐに筋肉がつくわけではないけれど、基礎代謝を挙げるためにもこのトレーニング

はする意味があるわ」

「基礎代謝?」

「簡単に言うと、運動に適した体になるのよ。カロリーを消費しやすくなる、エネルギーの変

換効率が上がるの」

「カロリーを消費しやすく……つまり、やせる?」

「……まぁ、そうなるわね」

「あたしも一緒にやる!」

戸塚と由比ヶ浜は横ばいになってゆっくり腕立て伏せを始める。

「んっ……くっ、はぁ」

「うっ、はぁっ……んんっ!」

二人の吐息が聞こえてくる。薄く汗をかいて頬は上気している。

何というか……いけない気分になるな。

「……あなたも運動してその煩悩を振り払ったら?」

「はっ、笑わせるな雪ノ下よ。人間というのは煩悩あってこそだ。それをなくしたらもうそれ

は人間じゃねぇよ」

そう言って俺は二人の観察を続ける。

「はぁ……」

雪ノ下はため息をついて俺を睨み続ける。

……いや、なんてーの?これはあいつが怖いわけじゃないよ。ないけど、まぁそのなんだ?ラ

イダーバトルには体力がいると思うし……?

俺は黙って昼休み中筋トレを続けた。

そんなこんなで日々は過ぎ、俺達の練習は実戦練習へと移行していた。

雪ノ下は一切容赦がなく、戸塚はもうへとへとだ。

雪ノ下が投げる球は不規則で一切予測ができない。それをとらえようと戸塚は走るが、途中で

ずざっと転んだ。

「うわ、さいちゃん大丈夫!?」

由比ヶ浜が戸塚に近寄る。

戸塚はすりむいた足をなでながら、にこりと笑って無事をアピールした。

「大丈夫だから、続けて」

それを聞いて雪ノ下は顔をしかめる。

「まだやるつもりなの?」

「うん、みんな付き合ってくれるからもう少し頑張りたい」

「……そ。じゃぁ由比ヶ浜さん、あとはよろしくね」

そう言って雪ノ下はくるりと背を向けてどこかへ行ってしまった。

「何か怒らせるようなこと、しちゃったかな?」

「いや、あいつはいつもあんな感じだよ」

「もしかしたら、呆れられちゃったのかな……。僕、ちっともうまくならないし」

「それはないよー。ゆきのん、がんばってる人を見捨てたりしないもん」

「ま、それもそうだな。由比ヶ浜の料理に付き合うくらいだ。まだ可能性のある戸塚を見捨て

たりしないだろうさ」

「どーゆー意味だっ!」
由比ヶ浜が近くにあったボールを投げつけてくる。

足元に転がってきたボールを軽く放ってやる。

「そのうち戻ってくるだろ。続けようぜ」

「うんっ!」

そう答える戸塚の笑顔は輝いていた。

「あ、テニスしてんじゃんテニス!」

聞き覚えのあるいやな声が聞こえてきた。振り返ると、そこにいたのは三浦と葉山のグループ

だった。

「嫌なのが来やがった……」

「あ、結衣たちだったんだー」

三浦は俺と由比ヶ浜を軽く無視して戸塚に話しかける。

「ね、戸塚ー。あーしらもここで遊んでいいー?」

「三浦さん、僕たちは別に遊んでるわけじゃ……」

「え?何?聞こえないんだけど?」

この野郎……。

ポケットのドラグレッダーのカードを握りしめる。

戸塚は怯えているようだったが、なけなしの勇気を振り絞ってもう一度告げる。

「練習、だから……」

だが、女王は民の声になどもとから耳を貸すつもりがない。

「へー、練習ねぇ。でも部外者混じってんじゃん。ならあーしらもやってよくね?」

「……」

戸塚は黙ってしまう。三浦のにらみが彼の抗弁を封じ込めている。もう黙って見てはいられな

い。

「悪いが、このコートは戸塚が頼んで使わしてもらってるもんだから、他の奴は無理だ」

「は?じゃぁなんであんたは使ってんの?」

「俺達は戸塚の練習に付き合ってるだけだ。業務委託っつーかアウトソーシングだ」

「なに意味わかんないこと言ってんの?キモいわ」

「気持ち悪いのは、自分のわからないことをすべて排除しようとするお前みたいな考え方だよ」

「は?やろうっての?」

「まぁまぁ、あんま喧嘩腰になんないでさ」

バックルを取り出した三浦を葉山が諌める。

「じゃぁこうしない?あーしとあんたが戦って、勝った方が戸塚の練習に付き合う。これなら

文句ないっしょ?」

何故ライダーバトルの勝ち負けで決めるのかは理解できないが、こいつの態度には目に余るも

のがある。ここらで一度お灸をすえる必要があるだろう。

「いいだろう。じゃぁ、俺とおまえの一騎打ちでいいな」

バックルを取り出した俺の手を、誰かが後ろからつかむ。

「戸塚?」

「八幡、僕が戦うよ。ここは、僕の大切な場所なんだ」

言って、制服のポケットから白いバックルを取り出した。

「へぇ、戸塚。あんたもか」

戸塚が、ライダー!?

「八幡もだったんだね。でも僕、ライダー同士で戦うつもりはないんだ。少しでも男の子らし

くなれたらと思って」

「そうか。でも、お前大丈夫なのか?」

「うん、今はきっと、無理してでも戦わなきゃいけない時だから」

なら、俺には何も言うべき言葉はない。

「勝ってこい」

「うん!」

「「変身!」」

戸塚が変身したのは、真っ白な白鳥のようなライダーだった。とても可憐で美しく、戸

塚のイメージに合っていた。

仮面ライダーファム、か。

葉山達の方を見ると、誰も驚いた様子の者はいない。どうやら彼等はライダーバトルのことを

知っているようだ。

「さいちゃん、大丈夫かな……」

由比ヶ浜の声を聞き、俺も鏡の中に注意を向ける。

「Swword Vent」

「Swword Vent」

両者が武器を召喚する。

戸塚の武器は、槍に近い形状だ。

「はぁっ!」

「おらぁっ!」

数号切りあうと、徐々に力量の差が出てきて、戸塚が押され始めた。

「あっはっはっ!弱い弱い、弱すぎっしょ!もっと楽しませろって!」

「ま、まだだっ!」

「Guard Vent」

戸塚が盾を手にすると、ものすごい勢いで白い羽が舞い始めた。

「な、どこいった!」

大量の羽で視界を奪われ、三浦は戸塚を見失う。

「はぁっ!」

その三浦の背中を戸塚が思い切り斬りつける。

「くそがっ!」

「Advent」

三浦の契約モンスター、紫色の大蛇「ベノスネーカー」が現れる。

「甘いよ!」

大蛇が放出した毒液を楯で受け止める。

と、見る見るうちにその楯が溶けていく。

それと同時に羽の放出も止まる。

「ははははははっ!終わりだぁっ!」

「Final Vent」

三浦が高く跳びあがる。

「僕は、負けられないっ!」

「Advent」

戸塚の後ろに白鳥のモンスター『ブランウイング』が現れる。

その翼を思い切り動かし、突風を起こす。すると、その影響で三浦の攻撃が中断する。

「これで決める!」

「Final Vent」

ブランウイングが三浦の後方に移動し、もう一度翼をふるう。

そして三浦は空中をクルクルと回りながら戸塚の方に飛ばされる。

「はぁっ!」

戸塚は手にしていた剣で三浦を斬りつける。

「がぁぁぁっ!」

大ダメージを負った三浦は、そのまま現実世界へと戻ってきた。

「ちっ!今回は、引いてやるよ」

言い残して、三浦たちは去って行った。

「八幡!やったよ!」

「ああ、すごかったぜ。戸塚」

「うん。……依頼は、もう大丈夫」

「え?」

「今ので少し、自信がついたから。ここからは、自分ひとりの力で頑張って見るよ」

「そうか」

「がんばってね、さいちゃん」

「なら、これはもう必要ないかしら」

振り返るとそこには、救急箱を持った雪ノ下がいた。

「あ、雪ノ下さん」

「それで手当てをするといいわ」

「うん、ありがとう」

「ではこれで、今回の依頼は終わりかしらね」

「本当に、ありがとうございました」

そういった戸塚の笑顔は、今までで一番輝いていた。

朝からセミがミンミンミンミンと五月蠅い。

セミなのに蠅とかどういうことだよ……。

なんとなく見ているテレビからは、今日はこの夏一番の暑さだというレポーターの声が聞こえ

てくる。

そのセリフお前昨日も言ってなかったか?

なぜか毎年現れる十年に一度の逸材という奴か?

季節は少し流れ、今は夏休みだ。

最近ではモンスター以外と戦うことがなくなり、ライダーバトルも小休止の様子を呈している。

日常ではなかなか得られない自由を俺が満喫していると、突如携帯の着信音が鳴った。

俺の携帯が鳴るなんて珍しい。スパムメールか何かと思って画面をタッチすると、差出人には

『平塚静』の三文字が。

あー、これ面倒臭い奴だー……。

俺は黙って携帯をテーブルの上に置く。

よし、あとは夜中にでも「ごめん寝てたー」とかうっとけば大丈夫だ。

ごろりと再びソファに横になると、またも携帯が鳴る。

んだようるせぇな。

ニ度目の無視を決め込むが、形態は鳴りやまない。どうやら電話のようだ。

一分ほどたつとその音がやむ。

ふう、やっとか。

すると次は、短期間で何度もメールが。

何この人怖っ!ヤンデレかよ。アラサーのヤンデレとか需要がないにもほどがある……。

恐る恐る最新のメールをチェックする。

『差出人 平塚静

 件名 連絡をください。

 本文 比企谷君、夏休み中の奉仕部の活動について至急連絡を取りたいので折り返し連絡を
ください。もしかしてお昼寝中ですか(笑) 先ほどから何度もメールや電話をしているので

すが……。  ねぇ、本当はみているんでしょう? 

 でんわ でろ」

怖っ!マジで怖いよ!軽くトラウマになるレベル。軽くどころじゃねぇな……。

彼女が結婚できない理由の一端を知ってしまった。

過去のメールを見直すと、『長期休暇中のボランティアに参加しろ』とのことだった。

『ざけんじゃねぇ!』某ドラマの小学生や教師のように机を蹴っ飛ばさなかった俺は大したも

のだと思う。

こんなもの相手にしてはいられない。俺はそっと携帯の電話を切った。どうせ他には連絡な

ど来ないのだ。ぼっち最高!

俺は背伸びをして、一回のリビングに降りる。

「およ?お兄ちゃん!」

そこでは可愛い妹の小町が一服しているところだった。

「おう、宿題はどうだ?」

「うん、大体終わったよ。小町は頑張っているのです!」

「そいつはご苦労なこって」

「さて、お兄ちゃん」

小町の顔つきが急にまじめになる。

「ん、どした?」

「小町はすごく頑張って勉強しました」

「まぁ、そうだな。受験生なら当然だと思うけど」

「がんばった小町には、自分へのご褒美が必要だと思うのです!」

「お前は今どきのOLかよ」

「とーにーかーくー、小町にはご褒美が必要なの!だからお兄ちゃんは小町と一緒に千葉に行

かなければならないのです!」

「だからの前後の文章が意味不明なんだが……」

そう言うと、小町は顔を膨らませる。

うわ、面倒臭いパターンだ。

俺は黙って階段を上り、自分の部屋へ避難しようとする。

すると、肩をグイッとつかまれる。爪がくいこんでいたいんですけど……。

「お兄ちゃん!最近付き合い悪いよ!?」

ライダーバトルとかで結構精神持ってかれるからなぁ……。それに奉仕部の面々や戸塚と過ご

す機会も増えたし。材木座……?誰それ知らない。

小町と過ごす時間が減ったのは事実だろう。

家族サービスができなくなるのも仕方ないことなのだ。

ライダーバトルのせいでかなり精神持ってかれるし……。

昨日なんて、風呂に入ってふと鏡を見たら、ドラグレッダーが俺のことガン見してたからな。

少しえさをやらなかっただけなのに……。

だが、それを言い訳にしてばかりもいられない。ここらで一つ相手をしてやりますか!

「わーったよ、付き合ってやるよ」

「やった!小町的にポイント高いよ!じゃぁ、動きやすい格好に着替えてきてね!小町も準備

するから!」

動きやすい格好?スポーツでもするつもりだろうか。

ほどなくして、小町が戻ってきた。

「それじゃ、レッツラゴー!」

レッツラゴーって……古くないか?

「はいお兄ちゃん、これ持って!」

「えー……?」

言って小町は、大きなバッグを俺に手渡す。

「レディーに荷物を持たせるなんてポイント低いよ!」

「ヘイヘイっと……」

だがまぁ、妹のためにいろいろしてやるというのもやぶさかではない。

しばらく歩いて駅につき、改札へ向かおうとすると、小町に止められる。

「ん?どした?」

「お兄ちゃん、こっちだよ!」

「あ?千葉に行くなら電車だろ」

言って振り返る。すると小町が『あっちあっち』と指をさしている。

見るとその先には、行き遅れアラサー教師の姿が……。

うわぁ……。

「さて、電話に出なかった言い訳を聞こうか」

サングラスを外して俺に話しかけてきたのは、間違いなく平塚静その人だ。

「いや、そもそも電話をかけたら相手が必ず出るという前提がおかしいんですよ。俺と先生は

仕事上の付き合いがあるというわけではないんですから、こっちが気が向いたときだけ……」

「ファイナルアタックライドォッ!」

「ぐぶぉっ!!」

言う途中で腹を殴られ、俺の発言は中断される。

「ふぅ、もういい。最初からまともな言い訳など期待していなかったからな」

「なら何故聞いた……」

「最近いらいらしててな」

「最低の理由じゃねぇか……。つーか俺、今から妹と千葉行くんすけど」

「心配するな。我々も千葉に行くからな」

「我々?」

何故一人なのに複数形?と疑問に持っていると、背後から声をかけられる。

「ヒッキー遅いし」

振り返ると、そこにはやたら布面積の狭い服を着た由比ヶ浜が。

その陰に隠れるようにして雪ノ下もいる。

「え、なんでお前らいんの?」

「なんでって、部活じゃん。小町ちゃんから聞いてないの?」

なるほど、そういうことか。

「小町、お前俺を騙したな?」

「てへぺろ」

うっわー、すっげぇ腹立つわー。かわいさ余って憎さ百倍。でも結局かわいいから許しちゃう

のが俺の甘いところである。

「はちまーん!」

すると、再び後ろから聞きなれた声が。

息を切らせて、朗らかな笑みを浮かべながら戸塚がやってくる。

「と、戸塚ぁぁあっ!」

さっきまでのイライラなんて一瞬で吹っ飛んだぜ!合宿最高!

「僕も呼んでもらえて……うれしいな」

「当たり前じゃねぇか!戸塚を呼ばずに誰を呼ぶんだよ!」

「我もいるぞっ!はちまーんっ!」

太った体でぜいぜい言いながら材木座義輝が走ってくる。

「お前、なんでいるの?」

「それは愚問だぞ八幡っ!八幡のいるところには、大体いるぞぉっ!」

「それほとんどストーカーじゃねぇかよ……」

「よし、これで全員そろったな!それではいくぞ、レッツラゴーだ!」

だからそれ古いって……。

俺達は七人乗りの大型車に乗って目的地へと向かう。

ちなみに一番後ろの後部座席に男子三人で乗った。

材木座、スペース取りすぎ……。

「戸塚氏、お主もライダーらしいな」

「え?うん。材木座君も?」

「うむ!だが安心せよ!お主の身は我が守って見せる故」

「あは、ありがとう」

「でも材木座君、かなえたい願いがあるんじゃないの?」

「うむ、ラノベ作家になりたいと願おうと思ったが、それは自分の力でかなえてこそだと思っ

てな。我は人を守るためだけに変身するのだ!」

「甘いな、材木座。そんなことでは生き残れないぞ?」

突如、平塚先生が口を開いた。

「平塚、先生……あんたは、いったい?」

その声はとても冷たくて。俺に嫌な予感を感じさせるに十分だった。

未だその正体がわかっていないライダーが、現時点で二人いる。

一人は虎のモンスターと契約した仮面ライダータイガ。だが、この正体は十中八九葉山隼人だ。

そして、一切見当もついていなかった緑のライダー。重火器を多用し、俺と雪ノ下、由比ヶ浜

の三人がかりでも圧倒された戦士、ゾルダ。

もしかして、その正体は……。

「人のためなんて、そんな心意気では作家なんぞなれんぞ?もっと積極的にいかないとな!」

そういった彼女の声はすっかりもと通りだった。

だがそれを、決して認可しない人物がこの中に入る。

「このようなものに見覚えはありませんか?」

言って雪ノ下は、バックルを取り出す。

「ばっ、お前っ!」

「なんだそれは?まったく見たことがないな」

「こんなくだらないやり取り、やめませんか?平塚先生、いえ、仮面ライダーゾルダ」

「仮面ライダー?ハハ、雪ノ下まで興味を持っていたとはね。驚いたよ」

「ダークウイング!」

雪ノ下の声に呼応して、平塚先生の目の前のガラスの中にダークウイングの姿が現れる。

「……」

「驚いた様子がありませんね。普通なら……」

「やめろ雪ノ下。今の君たちでは、私には勝てないよ」

「……っ。やはり」

「せんせー、なんでそんな……?」

「人にはいろいろ望みがあるということさ。だが、今私は君たちと戦うつもりはない」

平塚先生が仮面ライダーゾルダ、か。

「さっきから皆さん何の話をしてるんですか?」

ただ一人事情を知らない小町が口をはさむ。

「ハハ、ちょっと材木座の厨ニごっこに付き合ってただけさ。なぁ、雪ノ下?」

「……ええ、そうですね」

「えー、雪乃さんがそういうことに付き合うなんて意外ですねー」

「……たまには、ね」

何とも言えない空気の中、ライダー六人が同乗した車は進んでいく。

着いた先でさらにライダーと合流することになるだなんて、この時の俺にどうして予想ができ

ただろうか。

車がついた先は、小中学生の宿泊学習などでよくつかわれる施設『千葉村』だった。

「千葉に行くんじゃなかったのかよ……」

「一体いつから千葉駅に向かうと錯覚していた?」

「いや、普通千葉っつったら……」

「残念!千葉村でした!」

まさに、G・E・D・O・U!

平塚先生の態度は既に元に戻り、俺達もこの件は一端忘れて、この合宿に専念しようというこ

とになった。

雪ノ下だけはけげんな表情を浮かべたままだったが……。

なにはともあれ、俺達は宿泊する本館へと向かう。

到着すると、そこには俺達以外の集団もいた。その中には、見覚えのあるやつらも……。

「やぁ、比企谷君」

「……葉山」

葉山と三浦にその取り巻きども。

この場にライダーが、八人だと!?

「平塚先生ですか、彼らをここに招いたのは」

「ああ、そうだが」

どういうつもりなんだ。あんたは。

「ここね、祭りの場所は。ほんと、楽しみだわー」

三浦がにやりと笑みを浮かべる。

「この間は戸塚君に負けたばかりだというのに、随分威勢がいいのね。仮面ライダー王蛇?」

「雪ノ下っ。何なら今からやってもいいのよ?」

「あら、望むところだわ」

「やめろ、雪ノ下」

「まぁまぁ優美子、ここは落ち着こうよ」

葉山になだめられて三浦も渋々引きさがる。

「……平塚先生」

「なんだね、比企谷」

「あんたの狙いは何だ、何を考えている」

「簡単なことだよ。ライダーバトルの加速だ」

「ライダーバトルの、加速……?」

「13人の仮面ライダーで戦うライダーバトルが始まってからすでに四カ月ほどがたった。な

のにこの現状は何だ、いまだ脱落したライダーはたったの一人。その上君たちは不戦同盟のよ

うなものまで作っている。ライダー同士は共存できないって、わかっているだろ?」

13人?仮面ライダーは、全部で13人なのか?何故この人は、そんなことまで知っている?

「そこで私は考えたのさ。ここらで誰かが刺激を与えなければ、とね。幸い仮面ライダー王蛇 

三浦優美子は好戦的な性格だ。君たちが一堂に長い時間を連続して過ごせば、必然的にライダ

ーバトルが起きる。ま、もし起きなければその時は私が」

「あんた、それでも教師かよ」

「勘違いするなよ比企谷。私は教師である前に一人の人間だ。自分の欲望を優先させるのは当

然のことだ」

「……っ」

「そういうことなら平塚先生、自分が倒される覚悟も当然のありですよね?」

それまでこのやり取りには参加していなかった雪ノ下が口を開く。

「ああ、もちろんだとも。だが今は興が乗らない。それに運転で疲れていてね。またの機会に

しよう。それよりほら、君達には自己紹介をしてもらわなければならない」

「自己紹介?」

「ああ、これから君達には三日間、小学生の宿泊学習のサポートをしてもらう」

「宿泊学習?」

「ああ。ま、総武高校としてのボランティアのようなものだよ」

少し進んでいくと広場にいると、確かにそこにはたくさんの小学生が騒いでいた。

動物園かよ……。

生徒たちの真ん前に教師がたっているが、なかなか収まる気配がない。

数分すると、やっとだんだんと静かになっていく。

「302秒。それがお前達の絶望への時間だ」

な、なんか変な奴が教師やってるなぁ……。

「絶望がお前達のゴールだ!」

最後にそう叫び、その教師は俺達の方へと向かってくる。

「今日はよろしくお願いします、私の名前は照井竜です。早速ですが、子供たちに自己紹介を

お願いします」

「これから三日間、皆さんのお手伝いをします。困ったことがあったらいつでも言ってくださ

いね」

そう言って葉山はにこりと笑う。

女子どもはキャーキャーと騒いでいる。

流石は葉山といったところか。人心掌握が上手いというかなんというか……。

「お前も奉仕部の部長として、あいさつすれば?」

雪ノ下に声をかける。

「……いえ、遠慮しておくわ」

「あっそ」

こいつが嫌だというのなら、無理強いする理由もない。

そうして、オリエンテーリングが始まった。

「いやー、小学生マジ若いわー。俺ら高校生とかもうおっさんじゃん」

「ちょっと戸部、それだとあーしがばばあみたいじゃん」

「いや、ちげーって。マジ言ってねーって」

三浦に威嚇されて戸部が弁解を始める。

「あー、いいかね」

そんなこんなのくだらないやり取りをしていると、平塚先生がやってきた。

「このオリエンテーリングでの君たちの仕事だが、ゴール地点での昼食の準備などを頼む。生

徒たちの弁当や飲み物の配膳なんかもな」

言い残して、自分は車でさっさと山頂へと向かって言った。

オリエンテーリングとは、フィールド上のチェックポイントを通過していき、ゴールまでのタ

イムを競う競技だ。

本来はかなり殺伐としたもののようだが、小学生がやるのだからもっとのほほんとしたものだ。

数人の班で山中を歩きまわってクイズに答え、その正解数とタイムを競う。

「ねー隼人。あーし意外と子供超好きなんだよねー」

はいはい、お前が好きなのは子作りの方だろ。このビッチ野郎が。

「そうなんだ」

「子供ってさ、超可愛くない?」

出た、可愛いって言ってる自分ってかわいいアピール。ほとほと嫌になる。

雪ノ下は三浦の声を聞くだけでも嫌らしく、先ほどからずっと顔をしかめている。

「ねーねー、おにーさんおねーさん」

しばらく歩き続けていると、一つの女子集団から話しかけられた。

ほとんどマンツーマン状態だ。

もちろん僕と雪ノ下さんにはだれも話しかけてきませんよ、ええ。

話を聞いていると、ファッション話やらスポーツの話やらもろもろだった。そしてそのまま話

の流れで、一緒に近くのチェックポイントを探すことになった。

「じゃぁ、一個だけな?みんなには内緒だよ?」

葉山の声に、小学生達は一斉に元気のいい返事をする。

距離を縮めるにはいい手だ。秘密の共有は、人と人を強く結ぶ。いい意味でも、悪い意味でも、

だが。

暇つぶしに小学生たちを観察していると、俺と雪ノ下同様、集団からあぶれている一人の子を

発見した。

その子はみんなから一歩下がって、つまらなさそうにカメラをいじっていた。

すらりと健康的に伸びた手足、紫が混じった闇色の髪、綺麗に整った顔立ち。他の子たちより

も垢抜けて可愛い。わりと目立つ子のはずだ。

だが、誰も彼女の相手をしない。

時折そろって彼女の方を振り返っては、意地の悪い笑みを浮かべる。

「……はぁ」

雪ノ下が小さなため息をつく。

どうやらこいつもこの状況に気付いたようだな。

まぁ、別に悪いことではない。孤独でいることでしか学べないものというのは、少なからず存

在する。

だが、問題なのは、おそらく彼女が悪意によって孤立させられていることだろう。

「チェックポイントは見つかった?」

その子に話しかけたのは葉山隼人だった。

「……いいえ」

その子は困ったように笑って返事をする。

「そっか、じゃぁみんなで探そう。君の名前は?」

「鶴見留美」

「俺は葉山隼人、よろしくね」

言いながら葉山は留美をみんなの方に誘導していく。

……またくだらないことしてるな、あいつは。英雄様にとっては自分のまわりすべてが順

調じゃないと納得しないのかね。

「なんであんなことをするのかしらね」

雪ノ下が再びため息を漏らす。

留美は葉山につれられるまま、グループの真ん中にいた。が、決して楽しそうには見えない。

楽しそうでないのは何も留美だけではない。自分達の中に彼女が入ってきた途端、他の奴らの

表情がけわしくなった。決してあからさまにさけたりはしない。とがめられるようなことはし

ない。

ただただ、空気で断罪を行う。

お前はこの空間にいらないのだと、その無言の圧力はある意味暴力よりもはるかにたちが悪い。

「本当に、くだらないわね……」

「それが人の本質だ。だから俺は、他人とのかかわりを極力排除してきたんだ」

「そうね」

「それでもあいつは、つながりを求めてるんだろうな」

「……どうかしらね。人の気持ちなんてわからないわ」

「そりゃそうだ。でも俺は、お前達といるのは悪くないと思ってるよ」

「そういうこと突然言わないでくれるかしら。怖気が走るわ」「ヘイヘイ、そりゃすいませんで

したね」

俺達が話している間に、チェックポイントの問題は解けたようだ。

振り返ると、またしても集団から一歩後ろを歩く留美の姿が見えた。

キャンプといえばカレーだ。

これは全国共通の認識といっても過言ではないだろう。

実際、ルーさえ入れてしまえばどんなものでもカレーになるのだから、すべての食材はカレー

の材料といっても差し支えないはずだ。

だから、誰が作ってもある程度の完成度は見込める。

そんなわけで、今晩の夕食はカレーです。

小学生に火のつけ方を教えるところから始まる。

「まずは私が手本を見せる」

言って平塚は新聞紙にさっさと火をつける。

その中に油をぶち込み、一気に火柱が上がる。

あっぶねぇな……。

唇にたばこをくわえ、ドヤ顔を浮かべる。

「ざっとこんなもんだ」

「慣れてますね」

「ま、大学時代にはよくサークルでキャンプやってたからな。私が必死に火をつけてる横であ

いつらイチャコラいちゃこらと……」

嫌なことを思い出したようで、静かにちっと舌打ちをする。

「男子は火の準備、女子は食材の用意をしてくれ」

大丈夫?個人的な恨みで男女を引き離してない?

なんとなくの分担ではあったものの、カレーの下ごしらえが終了した。

これで俺達の分は準備完了だ。

飯盒をセットし、野菜をいためていると、三浦グループの一人海老名さんが、「野菜ってやおい

に似てる……卑猥」などと言っているのが聞こえた。

こいつ、腐ってやがるっ!

ちなみに彼女は三浦にぺちぺちと頭を叩かれていた。

周囲を見渡すと、煙が当たりにちらほらとみられる。

しかし、この段階になるともうやることがない。

「暇なら見周りでもして来い」

「えー……」

「いいですね、小学生と話す機会なんてほとんどないし」

「超面白そー」

なんでリア充ってこんなにアクティブなの……?

「でも、なべに火かけてるしな」

「そうだな、一か所だけにしとこうか」

な・ん・で・そ・う・な・る・の?

「じゃぁ俺なべ見てるから」

「気にするな。私が見といてやるから」

チッ、退路を断ちやがったな。

面倒臭い……。

小学生達のもとへ行くと、自分達のカレーがいかに特別であるかを熱心に語られた。

俺は早々に戦線を離脱したが、葉山達は和気あいあいとやっている。

さすが英雄様だな。

その英雄様は、橋でポツリと一人でいる少女に話しかけた。鶴見留美である。

「カレー、好き?」

「別に」

彼女はぼそりとつぶやく。そう、彼女はこうするしかなかったのだ。

肯定すれば『調子に乗ってる』となるし、すげなく答えても、『何様のつもり?』となる。

だから葉山が打ったのは悪手。

むしろあえてこのようなことをして留美を追いつめているとすら思える。

葉山は不穏な空気を今察したふりをして(俺の穿ち過ぎかもしれないが)、次はみんなに問いか

ける。

「じゃぁみんな、せっかくだから隠し味でも入れてみようか!」

聞いた者すべての注意を自分に向けるためのリア充特有のどこかうそくさい明るい声。

小学生達は、はいはいっ!と挙手しては思い思いの意見を言っていく。

「はいっ!オレンジ入れようよオレンジ!オレンジアームズ!花道オンステージ!」

なに言ってるんだあいつは……。

「あっ!レモンもいいかも!レモンエナジーアームズ!ミックス、ジンバーレモン!」

「あっ、でもパインも捨てがたい!パインアームズ!粉砕、デストロイ!」

先ほどからあほな発言を繰り返しているのは由比ヶ浜だ。

さすがの葉山の笑顔もひきつっている。

「あのバカは……」

「ほんと、バカばっか」

そうつぶやいたのは渦中の人鶴見留美だ。

仲間外しにされてるんだから『渦中の人』はおかしいか。

「ま、世の中大概そうだ。早めに気付いてよかったな」

俺が言うと、留美は少し不思議そうな顔でこちらを見る。こいつ結構可愛いな。

しかし、値踏みするかのような視線はいささか居心地が悪い。

その視線に雪ノ下が割り込んでくる。

「あなたもその大概でしょ?」

「はっ、あまり俺をなめるなよ。大概やらその他大勢の中でも一人になれる逸材だぞ、俺は」

「そんなことを誇らしげに言えるのはあなたくらいのものでしょうね」

「そりゃお前だって同じだろうが」

俺達のやり取りを聞いて、留美が少し近づいてくる。

「名前」

「あ?」

「名前聞いてんの。普通わかるでしょ」

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

俺のギャグを無視して、雪ノ下は口を開く。

「人に名前を尋ねる時はまず自分から、最低限の礼儀よ」

「……鶴見留美」

「私は雪ノ下雪乃。そこにいるのは、ヒキガエルくんよ」

「おい、なんで俺の昔のあだ名知ってるんだよ。初めてあだ名つけられてそんなのでも喜んじ

ゃった当時の俺の残念さと一緒に思い出しちゃうだろうが」

「思った以上に悲惨な過去を持ってるのね……」

「で、結局あんたなんて言うの?」

「比企谷八幡だ」

このままでは小学生にヒキガエル呼ばわりされてしまいそうなので、俺はあわてて名乗った。

「で、こいつが由比ヶ浜結衣な」

「ん?どったの?」

近くに来ていた由比ヶ浜を指さす。

由比ヶ浜は俺達三人の様子をして、大まかな状況を把握したようだ。

「そうそう。あたしが由比ヶ浜結衣ね。よろしく、留美ちゃん!占いがしたい時は言って!あ

たしの占いはすっごく当たるんだー」

お前まだそんなこと言ってたのか……。

だが留美は、由比ヶ浜にはあまり興味がないようだ。

「なんかそっちの二人はほかの人たちと違う気がする」

二人、というのは俺と雪ノ下のことだろう。

「私もあのへんのとは違うの」

「違うって、何が違うんだ?」

留美はかみしめるように告げる。由比ヶ浜の顔つきが真剣なものに変わる。

「みんなガキなんだもん。私もその中で結構うまくやれてたと思うんだけど……。なんか、そ

ういうのくだらないって思って。一人でもいいかなって」

「で、でもさ。小学校の時の友達とか大事だと思うなぁ」

「別に思い出なんかいらないし。中学で他の学校から来たこと友達になればいいし」

そういった留美の眼には、一筋の希望が宿っていた。

だが、現実はそうではない。

そんな希望は、まやかしだ。

「残念だけど、そうはならないわ」

留美のうらみがましい視線にたじろぐことなく、一切つくろわずに雪ノ下は淡々と告げる。

「あなたを仲間はずれにしている子たちも同じ中学に進学するのでょう?なら、その別の学校

の子たちも一緒にあなたを仲間はずれにするわ。……敵が増えるだけよ」

少し間をおいて、彼女は告げる。

「そのくらい、あなたにはわかってるんじゃないかしら」

「……やっぱり、そうなんだ」

まるで過去の自分を哀れむかのようにして留美は続ける。

「ほんと、バカなことしてたなぁ」

「何か、あったの?」

由比ヶ浜は優しく問う。

「誰かをハブるのは何回かあって、でも、しばらくしたら終わって。マイブームみたいなもん

だったの。誰かがいい出して、なんとなくみんなそれに乗る」

くだらない。本当にくだらないが、人間という生き物がくだらない存在なのだから、それに乗

るのも仕方ないこと、なのだろう……。

「仲良かった子がハブられた時は私も距離置いちゃって」

「そしたらいつの間にか、ターゲットが私になってた。私、その子にいろいろ話しちゃってた

から……」

昨日の友は今日の敵。人の大切な秘密を、彼女達は仲良くなるためのツールとして使う。

言ってほしくないことほど言いふらされてしまう。

出川哲郎か上島龍平かなんかかよ。

信頼して相談した仲間が、敵として自分を攻撃する。

それは、悪夢以外の何物でもないだろう。

『戦わなければ生き残れない』とは、何の言葉だったか。

雪ノ下がこのライダーバトルについて教えてくれたときに言った言葉だったっけ。

確かにそうだろう。あの熾烈な戦いの中では、敵をつぶし、自分が生き残るために画策しなく

てはいけない。

だが、それはこの現実世界にもいえることじゃないのだろうか。

自分の身を守るために仲間を売って……。

「中学校でも、こんなふうになるのかな……」

呟いた彼女の声はどこまでもはかなくて。

たかが十メートルも離れていない場所での賑やかな笑い声が、遥か異郷の地での出来事のよう

に思えた。

「大丈夫かな……」

夕食を食べ終わった後、唐突に由比ヶ浜が呟く。

何のことかなどとうまでもない。鶴見留美のことだろう。

彼女が孤立していることには、皆気づいている。

あんなのは、見れば誰にだってわかる。

「なにかあったのか?」

「少し孤立しちゃってる子がいまして……」

平塚先生の問いに答えたのは葉山だ。

「ほんと、かわいそーだよねー」

三浦は当然のようにその言葉を発したが、俺はそれを肯定できない。

「それはちげぇよ。孤立すること、一人でいることは決して悪いことじゃない。問題なのは、

他人の悪意によってその状況を作りだされていることだ」

「は?何が違うわけ?」

「好きで一人でいる人間と、そうでない人間がいる。そういうことかなヒキタニくん」

「ああ、そうだ」

だから変えるべきは、彼女の周りの環境だ。

「それで、きみたちはどうしたいんだ?」

平塚先生に言われて、皆一様に口をつぐむ。

別に具体的にどうしたいというわけではないのだ。要は感動する映画を見て泣いて、いい話だ

ったと話すくらいの、それだけのことでしかない。

俺にとっても三浦にとっても葉山にとっても。雪ノ下と由比ヶ浜は違うかもしれないが、他の

面々は同じように考えているはずだ。

自分達には関係ないが、知ったからにはせめて憐れむくらいは……。

という、一見高尚に見えて、これ以上になく汚い感情だ。

「できれば、可能な範囲で何とかしてあげたいです」

その言葉は実に葉山らしい。いや、偽善者らしいというべきか。誰も傷つかない優しい言い方。

できなくても、誰にも責任を背負わせない、そんな欺瞞に満ちた言葉だ。

「あなたでは無理よ。そうだったでしょう?」

そんな言葉を一刀両断に斬り伏せて見せたのは言わずと知れた雪ノ下雪乃だ。

理由の説明などしない、確定した事実としてただ彼女はそう言ってのけた。

葉山は苦虫をすりつぶしたような顔を一瞬だけ浮かべた。

「そう、だったかもな。……でも今は違う」

「違わないわ。あなたは変わっていないのよ。あの時から、ずっと。英雄気取りの偽善者で…

…」

「あんさー、雪ノ下さん、あんた調子乗りすぎじゃない?」

雪ノ下の言葉に割って入って行ったのは、炎の女王三浦優美子。

「あら、私のどこが調子に乗っているというかしら?」

「……そういうとこだよ。いっつも人を見下したようなその態度、イライラするんだよ」

「見下している?そんなつもりはないのだけれど。劣っているという自覚があるからそう感じ

るだけではないの?」

「……っ、ベノスネーカー!」

三浦が契約のカードをかざし、紫色のコブラが現れる。

場の空気が一瞬にして緊張に包まれる。

「ダークウイング!」

雪ノ下の蝙蝠のモンスターも現れ、コブラと対峙する。

二体とも相手を激しく威嚇している。

他の面々も不測の事態に備えて、鏡の中に契約モンスターを呼んでいる。

葉山は何のアクションも起さなかったが……。

「ほんっとイライラする。あんた、今日で終わりなよ」

「あら。望むところね。あなたの汚い言葉を聞くのにはうんざりしてたの」

二人がバックルをかざし、変身しようとしたその時だ。

「ルァァァァッッ!」

けたたましい声をあげて、エイのモンスターが二体のモンスターの間を通り過ぎていく。

コブラと蝙蝠はそれぞれ少し後退し、わずかだが空間に余裕ができた。

「やめてよゆきのん!優美子!今はこんなことしてる場合じゃないでしょ!」

由比ヶ浜の必死の声に、二人はしぶしぶバックルをしまう。

「……ちっ!」

「……命拾いしたわね」

重たい空気が流れ、自然と皆散り散りになる。

見上げた夜空は、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。

風呂から上がった俺は今、バンガローにいる。

俺、戸塚、葉山、戸部の四人の男子の相部屋だ。

「いやー、さっきの雪ノ下さんと優美子激熱だったわー」

「戸部、楽しそうに話すことじゃないぞ」

「わーってるよー。はー、俺もそろそろかねー」

言いながら戸部は、一枚のカードをクルクルと回している。

「アドベントカード!?」

そのカードに移っていたのは、見間違いようもない契約のカード。一瞬見ただけだが、レイヨ

ウ(牛と鹿の中間種のようなもの)のモンスターだった。

「あ、やべー。ばれちったか。ま、そういうことだから」

戸部はそう言ってへらへらと笑う。

これで、このキャンプ場にいるライダーは九人。

「いつかは比企谷君ともやるかもなー」

シュッシュッとシャドウボクシングをしながら、大したことでもないようにそう告げた。

「戸部君……」

戸塚も驚きを隠せない様子だ。

「ハハ、戸塚君もよろしく~」

「戸部、そうやって場をかき乱すようなまねはやめろ」

「うぃーっす」

何とも言えない空気のまま、俺達は床についた。

「なぁ、好きな人の話しようぜ」

電気を消した数分後、戸部が口を開いた。

「嫌だよ」

葉山が意思のこもった声ではっきりと拒絶した。英雄様が珍しいこともあるもんだ。

「あはは、恥ずかしいよね」

「なんで!?いいじゃん!じゃぁ俺からいきまーす!」

ああ、自分が言いたかっただけか。

戸塚と葉山も少し笑ってため息をついた。

「俺、実はさ……」

少しだけ間をおいて

「海老名さん、いいと思ってんだよねー」

「まじか!?」

思わず声を出してしまう。

海老名さんというのは、三浦のグループに所属する、ありていに言うと腐女子だ。

容姿はなかなか良く、ギャルゲーで言う図書委員タイプ。

「あ、ヒキタニ君聞いてたのかよー。寝てたかと思ったわー。罰としてアドベントカード没収

~」

それイコール死だからな!?

「でも意外だな。戸部君は三浦さんのことが好きなんだと思ってた」

「いやー、優美子はちょっと怖いしなー。すぐ蛇出すし……」

確かに……。

「でも、よく三浦さんと話してるよね?」

「あー、それはあれだよ。将を討つならまず馬をってやつ」

将を射んと欲すればまず馬を射よ、な。

「まぁ、三浦の方が明らかに武将っぽいが」

誠に遺憾ながら、戸部の思いには共感できる。好きな子ほど話しかけられなかったり、いたず

らしてしまったりするものあのだ。

「結衣もいいけどさ、あいつはアホだし」

お前も大概だと思うんだが……。

「それに結構人気あるしな」

まぁそうだろうな。あいつは誰にでも優しいから、勘違いしてしまう男子は多いはずだ。

アホなのに魔性の女、由比ヶ浜結衣、恐ろしい子!

「その点海老名さんは、男子でも引いてるやつ多いから狙い目っつーか」

いけそうだから好きになるってのは人としてどうなんだろう。

「お前らはどうなんだよ!俺にだけ言わせるなんてずリーっしょ!」

お前は自分から言いたがったんだろうが……。

「好きな女の子は、特にいないかなぁ」

それでこそ俺の戸塚だぜ!

「隼人君はー?」

「俺は……いや、俺はいいや」

「それないわー。いるんでしょー。言ってよー」

「……」

「イニシャルだけでいいからさー」

ハァ、とため息をついては山は小さくつぶやく。

「……Y」

「Yってちょっ、Y・M・C・A!?」

それはヤングマンだろ……。

いつの歌だよ。

つーか、Yっつったら……。

「もういいだろ、寝よう」

その声にはどこか反論できない威圧感があった。

「八幡、起きてよ八幡!」

目を開けるとそこには、麗しい天使の顔が。

ああ、ついに俺も天に召される時が来たのか……。

「もう、朝ごはんなくなっちゃうよ!」

「って、なんだ戸塚か。天使かと思ったぜ」

「え?」

「あ、いや何でもない」

「八幡、夏休み不規則な生活してるでしょ」

少しだけ咎めるようにして戸塚が言う。

「え?ま、まぁそうかもな」

「運動とかしてる?」

運動……ライダーバトルならばっちりやってますよ?

「今度さ、一緒にテニスしようよ!」

「ん、ああ。そのうち適当に連絡くれ」

「うん!」

こう言ったらほとんど連絡されることはないのだが、どうやら戸塚は違うようだ。

「じゃぁさ、八幡の連絡先教えて?」

ついに、ついにこの日が!ついに俺の携帯に戸塚のアドレスを入れる日がぁっ!

僕の、僕の赤外線受信部は君の番号を入れるためだけにあるんだぁっ!普段の何気ないことを

電話で話したり……

「アドレス、これな」

画面に自分のアドレスを表示させる。

すると、「ピコン」という音が、メールの着信を告げた。

『初めてのメールです、これからもよろしくね!』

思わず涙が出てしまった。

これは絶対に保存して、さらにバックアップも取っておかねば!

「じゃぁ、食べにいこっか」

そして俺達は二人で朝食を食べた。

他の奴らはすでに食べ終えてそれぞれどこかに行ったようだ。

俺は戸塚との楽しい朝食をゆっくりと終え、一人山の方へ向かった。

何故かだと?そこに山があるからさ!

いや、そんなもんじゃない。ただ何もやることがなかったというだけだ。

と、山の中腹に差し掛かったころだ。

キィィンと、突如頭痛に襲われた。

モンスターか!

「まいったな、ここらで鏡ってーと……」

あたりを見渡すが、当然そんなものはない。

「どうすっか……あ!」

俺はある考えを思い付き、水筒の水を地面に少したらした。

ミラーワールドへの移動は、なにも鏡を使わなくても、その役割を果たすものであればいい。

「変身!」

どこにモンスターが現れたかは知らないが、今この辺りにはたくさんの小学生達がいる。どこ

であってもとても危険であることは間違いない。

俺は急いでミラーワールドへと向かった。

ライドシューターを全力で走らせてモンスターを探す。

「くそっ、どこだよ……」

俺がつぶやいた次の瞬間、車体に衝撃が走ったので、急いでブレーキをかける。

すると、車の上から何者かが飛び降りた。レイヨウ獣のモンスターだ。

……戸部の仕業か!?

「って、今はそんなこと考えてる場合じゃねぇな……」

それは後に考えることと判断し、俺は戦闘モードに頭を切り替える。

「いくぞ!」

「Swword Vent」

俺の横なぎのひと振りを、モンスターは高くジャンプして軽々とかわす。

そしてそのまま俺の頭の上に着地し、からかうような声をあげる。

「このやろ……」

何度も剣をふるうが、なかなか当たらない。

というか相手には、あまり攻撃してくる意思がないように見える。俺の攻撃を受けながら少し

ずつ後退して、まるでどこかに誘い込むかのような……。

「ちっ、らちがあかねぇ」

「Strike Vent」

「グリャヤァッ!?」

炎が直撃し、敵が絶叫を上げる。

そしてそのまま、さらに勢いを増して逃走を図った。

「逃がすかよ」

モンスターが逃げ込んだのは、とても広い、古びた工場だった。

以前は稼働していたようだが、千葉村ができてからは操業を停止したらしい。

どこにいる……?

「リャォォッ!」

またも上方から、敵が飛びかかってくる。それを床に転がってかわすと、さらに二匹目のモン

スターが飛び降りてきて、俺に強烈なけりをくらわせた。

「二体目……?」

色合いは違うが、同じレイヨウタイプのモンスターだ。

ライダーが契約できるモンスターは一体だけのはず。こいつらは、戸部のモンスターじゃない

のか……?

「「リャゥゥッ!」」

二匹が前後から同時に杖上の武器で攻撃が来る。

「Guard Vent」

とっさに二つの盾を出してそれを防ぐ。

「龍騎!」

苦戦していた俺のもとに現れたのは、雪ノ下雪乃、仮面ライダーナイトだった。

「すまない!助かる!」

「あなたはそっちを相手して!」

「わかった!」

一対一ならモンスターにそうそうひけはとらない。

徐々に俺達が押していく。

「ナイト!一気に決めるぞ!」

「わかったわ!」

「「Advent」」

同時にモンスターを呼び出す。

ドラグレッダーが火を吐き、弱った敵をダークウイングの翼で斬り裂く。

「「リャォォッッ!?」」

モンスターが爆発してエネルギーになり、それを吸収させようとしたその時、

「Return Vent」

その音声が響き渡った瞬間、エネルギーの球になったモンスターがもとの姿に戻った。

そして、物陰から出てきたライダーは……

「仮面ライダー、タイガ……」

「君はこの世界に必要のない存在だ。消えてもらうぞ、龍騎!」

*注釈 

本来「リターンベント」は、「コンファインベント」で打ち消されたカードを再び使う、一度使

ったカードを再び使えるようにするというものですが、本作では展開の都合上、「倒されモンス

ターを生き返らせる」という能力も付加しています。ご了承ください。

「あなたは……」

「君にはこいつらの相手をしてもらう、やれっ!」

モンスターたちが俺と雪ノ下の間に割って入り、俺達は分断されてしまう。

「お前、今日で終われ」

「えらく嫌われたもんだな、俺も」

「いくぞっっ!」

「Strike Vent」

「Swword Vent」

ガキィ、という激しい金属の衝突音が響き渡る。

「Advent」

「Advent」

たがいに契約モンスターを呼び出す。

タイガは二体のモンスターが攻撃動作に入った瞬間を見計らって、

「Freeze Vent」

一枚のカードをスキャンした。

その瞬間、ドラグレッダーの動きが止まる。

「なに?」

その間に敵のモンスターはこちらにきて、その鋭い爪で腹部にきつい一撃を見舞ってくれた。

「モンスターの動きを止める技……?んなもん反則じゃねぇのかよ」

意味がないとわかっているのについつい口に出してしまう。

「お前の声は聞きたくない。……永遠に黙れ」

「Final Vent」

来たるべき攻撃に備えて体勢を立て直す。モンスターと戦っている雪ノ下も、固まったままに

なっているドラグレッダーの支援も望めない。

何とか自力で耐えるしかない。

「ググァガァッ!」

虎が飛びかかってきたその時、

「Final Vent」

「はぁぁぁああっ!」

エビルダイバーに乗った由比ヶ浜が、虎の体を吹き飛ばす。

「デストワイルダー!」

必殺の一撃をくらったモンスターは、息も絶え絶えといった様子だ。

「くそ、またしても邪魔を……。ここは引くか」

言い残して、タイガは現実世界へと帰って行った。

「由比ヶ浜、助かった。すまない」

「ううん、これも占いで出てたからね。それより、厨ニは!?」

「材木座が、どうかしたのか?」

「占いで出たの!このままじゃ次に消えるライダーは、厨ニなんだ!」

由比ヶ浜結衣の口癖は、「私の占いは当たる」だ。

これまでも何度もその言葉を使ってきた。

雪ノ下も俺もそういった類の物を信じる方ではないが、確かに彼女の占いが外れたところを見

たことがない。

それに加えて、彼女はこんな重大なことで冗談を言うような人物ではないということもわかっ

ている。

つまりこの状況下において、由比ヶ浜結衣のこの言葉は、十分信用に値するのだ。

「材木座が、やられるだと……?」

「うん!それも近いうちに!だから速く見つけないと……」

「また占いかしら、由比ヶ浜さん?」

いつの間にかモンスターを倒した雪ノ下がこちらに来た。

「誰が何と言おうと、そんなものを私は信じない」

「ゆきのん、だけど……」

「でもね、私はあなたの言葉は信じるわ」

「ゆきのん!」

「そうと決まれば急ぎましょう、時間がないのでしょう?」

「うん!」

最後にお互いの顔を見て、俺達は走りだす。

と、倉庫のどこかから爆発音が聞こえた。

しかしこの倉庫、広い上に入り組んでいて、なかなか場所の見当がつかない。音もあらゆる方

向に反響してしまうのだ。

「ここは別れましょう」

「わかった!」

「了解だ」

「どこにいる、材木座……」

あいつは自分勝手で空気を読まなくて、すっげぇうっとうしい奴だけど、それでも、それでも

決して悪い奴ではないのだ。

もしも俺に同性の友達と呼べる者がいるなら、それはきっと……。

「ぎがぁぁぁっ!」

突如、上空から声が響き渡る。

「このモンスター、また……」

レイヨウ型のモンスターだ。先ほどのとは色や姿が若干違うので別固体だろう。

「今はお前達にかまってる暇なんてないってのに……」

「Swword Vent」

「アアアァァァアッッ!!」

手にしたドラグセイバーで一心不乱に斬りつける。しかし、怒りにまかせた単調な攻撃は、い

ともたやすく敵の杖に受け止められてしまう。

「クキキッ!」

右足のけりが俺の鳩尾にヒットする。

「Advent」

凍結から復活したドラグレッダーが現れ、勢いよく炎を吐く。

しかしその攻撃も、高くジャンプすることでよけられてしまう。

さらにそのジャンプを利用した急降下キックをくらわせてきた。勢いよく吹き飛ばされた俺は、

壁を突き破って隣の部屋(?)に出た。

そこでは、

「おらぁっ!」

「はぁっ!」

「ゴラムゴラムッ!」

「きぃぃっ!」

仮面ライダーファム 戸塚と、仮面ライダーインペラー 戸部が、そしてそこから少し離れた

ところでは、レイヨウタイプではない別のモンスターと仮面ライダーガイ 材木座が戦闘を繰
り広げていた。

「はぁぁぁっ!」

「消えろ、雪ノ下ぁっ!」

さらにそこから少し場所を開けたところでは、雪ノ下と三浦が激闘を繰り広げていた。

もう一度見渡すが、由比ヶ浜の姿はない。

「すごいことになってるな……」

だが、現状を見た限り、材木座に危急の危険が迫っているようには見えない。

「しかし、これは……」

憎しみの感情をあらわにして争いあう姿は、まさにライダーバトルの壮絶さを物語っていて…

…。

その光景に、思わず圧倒される。

でも、俺は……。

「そうさ、俺は、戦いを止めるためにライダーになったんだ。だから……」

ドラグセイバーを右手に強く握りしめる。

たとえお前たちにどんな戦う理由があっても!

戦闘を止めるため、割って入ろうとしたその時、俺は視界に不吉な赤い光をとらえた。

……なんだ?

目を凝らしてもう一度その光を見つけようと試みる。

「あれはっ!」

「こういうごちゃごちゃしたのは、嫌いだ。みんなまとめて行ってしまえ」

「Final Vent」

緑の牛の巨人が出現する。

「みんな、伏せろぉっ!」

「はい、おしまい」

耳を裂くような轟音とともに、大量の火器が放出される。

何度も死の淵へと追いやられた、最強の技。

「「「うわぁぁぁぁあぁっっ!!」」」

皆の激痛を訴える叫び声が、倉庫内に響き渡った。

倉庫内のあらゆる場所で爆発が起きる。

それは、その攻撃の強烈さをありありと物語っていた。

ゾルダから一番近くにいたのは、確か三浦だったが、大丈夫だっただろうか……。

そう思い、顔を上げると

「な、なぜ、我を……」

三浦につき放された材木座が倒れこんだ。

「あ、あいつ、材木座を楯にしたのか……」

ガイの体は、王蛇よりもいくらか大きい。どうやら彼女は材木座を利用して、被弾を免れたら

しい。

「近くにいた、お前が悪い」

「く、こんな、事が……」

「ちょうどいい、お前、消えろ」

「Final Vent」

「や、やめろぉぉっ!」

だが、俺の叫びは届かない。

彼女達の近くには、皆先ほどの攻撃で吹き飛ばされたこともあり、誰もいない。

つまり、この攻撃を止められるものは……。

「い、嫌だ……」

三浦が高く跳びあがる。

「ベノクラッシュ!」

毒液を体にまとって放たれたその攻撃を、無防備に受ける以外に、彼にできることはなかった。

「あっっ……はっ……ぐあぁぁぁっ!」

絶望に塗りつぶされたその叫びが響き渡り、彼の体が爆発四散した。

後には、砕けたベルトのバックルだけが残った。

「材木座ァァァっっ!」

場の空気が凍りつき、一瞬誰もが動きを止める。

その沈黙を破ったのは、三浦優美子だった。

「あんさー、あんた何おセンチな気分になってんの?これがライダーバトルなんだよ。だから、

おもしろい」

「三浦、お前ぇッ!」

「そうだよ、これがライダーバトルだ」

「平塚、先生……」

「違う、今の私は、仮面ライダーゾルダだ。……ライダー同士は共存できないんだよ、お前ら

のように仲良しごっこでつるんでる方がおかしい」

「へぇ、あんた平塚だったんだ……」

「今言っただろう?今の私は」

「ライダーバトルに教師はいらないんだよっ!」

手にした剣で突如王蛇がゾルダに襲いかかる。

ゾルダは手に持った銃で受け止めようとしたが、

「キィン!」

それを止めたのは、仮面ライダーナイト、雪ノ下雪乃だった。

そしてそのまま王蛇に一突きを浴びせ、一瞬油断したゾルダに同様の攻撃を仕掛ける。

「そうね。あなた達の言う通りよ。なら、当然自分がやられる覚悟もあるのでしょうねっ!」

「はっ、おもしろい。やってやろ……って、時間切れか」

王蛇の体から、小さな粒子のようなものがこぼれおち始める。

ミラーワールドにいられる時間には制限がある。

この現象が始まったら、急いで現実世界に戻るべきなのだ。

そういう俺の体にも、同様の現象が起き始めた。

「あんたもあーしがぶっ殺してやるよ」

「では、私もこれで。次に会うときは、先生と生徒の関係だ。仲よくしてくれたまえ」

どの口が、そんなことをっ……。

言い残して、彼女達はこの世界を去って行った。俺達は誰も何も言わず、黙ってもとの世界へ

と帰還した。

「材木座……」

俺の目からぼろぼろと涙がこぼれおちる。

最初は体育の時間にペアを組むだけだった。

それから、あいつのラノベの相談などを通じて、少しずつ一緒に過ごすようになった。

お気に入りのぼっち飯プレイスにあいつが乱入してきた時は腹を立てたものだが、だが、それ

でも少しだけうれしかった。

あいつはもう、戻ってこない。

ニ度とその姿を見ることはできないのだ。

「くっっ、うっっ……」

膝をついてその場に崩れ落ちる。

そんな俺の肩を、不意に後ろから肩をたたかれた。

「……どうしたの、八幡?」

「鶴見、か……?」

「留美でいい」

「そ、か……。悲しいことが、あってな」

「そうなんだ。泣きたいときは、思いっきり泣くといい」

「ハハ、まさか幼女に慰められる日が来るなんてな……」

「子供扱いしないで」

「悪い。お前は、どうしてこんな所に……?」

「今日自由行動だけど、朝ごはん食べ終わって部屋に戻ったら、もう誰もいなかった……」

「そりゃ、ひでぇな……」

「ちょっと驚いた。そんなことより、八幡はどうしたの……?」

「……」

「ごめん、言いたくないなら言わなくていい」

「ああ。すま、ない……」

再び勢いよく涙があふれ出す。

しばらく黙っていた留美が、俺に何かを手渡してきた。

「これは……。水筒?」

「うん。泣きすぎたら、喉かわいちゃうから」

「ありがとう、助かる」

ゆっくりと飲み口に口をつけると、自分でも驚くくらいすんなりと体に入って行った。

自分の体の状態にも気付けないほどだったんだな……。

「……あ、間接キスだ」

「おま、小学生がそんなこと……。なんか、ごめんな」

「ううん、別に問題ない」

「……お前、ビッチの才能あるかもな」

「こんなの、初めてだよ……」

「申し訳ない……」

「少しは、落ち着いた……?」

「……ほんとだ、ありがとな、留美」

「うん、よくなかったなら、私も、うれしい」

「この礼は、きっと返すよ。今夜の肝試し、楽しめるといいな」

「うん、でも、無理、かな……。じゃぁね、八幡。元気、出してね?」

言い残して、留美は去って行った。

とても、救われた。さっきまでと比べて、気持ちがだいぶ落ち着いた。

あいつの死への思いが薄まったわけではない。

ただ、悲しみに暮れて涙することが、今するべきことじゃない。

そう気付くくらいには、沈めてくれた。

俺の手には、彼女の水筒だけが残った。

「わたし、止められなかった。厨ニのこと、わかってたのに……」

俺達奉仕部の面々は、バンガローの一つに集まって材木座の死について話し合っていた。

「由比ヶ浜さん、あなたのせいではないわ。平塚先生が言っていたことも、間違っているとは、

言えないし……。もしも責任があるというのなら、私たち全員に等しく責任があるわ」

「そうだな……。俺達はまちがえた。だから、これからその分間違わないよう気をつけないと

いけない。立ち止まってる暇はない……」

「うん、そうだね。これ以上、誰も死なせない。絶対に、ライダーバトルを止める」

由比ヶ浜の目は、真っ赤に染まっていた。

「あー、ちょっといいかね?」

先ほどのことなど、まるで何もなかったかのように彼女は俺達のもとを訪れた。

「平塚っ!」

「おいおい比企谷、教師に向かってその口のきき方はあんまりだろう」

「あなたにそんなことを言う資格があるのかしら。材木座君が死んだ原因を作ったのは、あな

たですよ?」

「それについては何も思うことはないよ。言ったはずだ、それがライダーバトルだ、と。その
覚悟がないのなら、変身する資格はない」

「人が死んだんですよ!」

由比ヶ浜が我慢ならないといった感じで大声を上げる。

「おいおい由比ヶ浜、そう熱くなるな」

「熱くなるなって……」

雪ノ下もけげんな声を上げる。

「今日来たのは、例のあの子の件だよ」

「留美のことですか」

「留美?ずいぶん親しげだな、比企谷。小学生に手を出さないでくれよ?」

そう言って彼女はおどけて見せるが、当然俺達は誰も笑わない。

「君達はあの子のことに関して、何かするつもりなのか?」

「何かするって……、人が死んだんですよ?小学生の宿泊学習もなくなるに決まって……」

「それはないよ、雪ノ下」

「え?」

「ライダーバトルで死んだ者に関する記憶はなくなる」

「どういう、ことだ……」

「そのままの意味だよ、最初からこの世界にいなかったことになり、ライダー以外の記憶から
は抹消される」

「そんなのウソだよ!」

「由比ヶ浜、少し考えてみろ。私がこの場で嘘をつくメリットが一つでもあるか?」

「で、でもそんなこと……」

「それを言い出したら、このライダーシステムこそがそもそもあり得ない存在だろう」

「そんなことまでできるのかよ……」

「ま、彼女に何かやるのなら、やってみたまえ。多少のことなら、もみ消してやるさ」

言って、平塚先生はドアに手をかける。

「待てよ」

「なんだね?」

「そうまでして、あんたが戦う理由は何だ?」

「それを話してやる義理はないが……だがまぁ、可愛い教え子の頼みだ、聞いてやる。私が戦

う理由、だったな?」

「ああ」

「……永遠の命だよ」

「永遠の、命……?」

「そうだ。それが、私の戦う理由だよ。話は以上だ。じゃぁな」

「永遠の、命……。それが、先生の戦う理由、か。……ゆきのんは、何のために、戦うの?」

「私の、戦うわけ、ね。それは……」

「あ、ごめん。言いたくないことなら、いいんだ」

「いいのよ、あなた達には、いつか話しておかないといけないと思っていたし……」

「雪ノ下……」

「私が幼い頃、家庭教師がいたの。その人の名前は、小川絵里。私の家族は、誰もかも自分の

ことしか考えていないように人たちだった。父はまだ、私をかわいがってくれていたけど、母

と姉がひどくてね……。母は、私と姉を所有物として完全に制御しようとしていた。自由なん

て、何一つないような生活だったわ。そんな母の魔の手から逃れるために、姉は私を囮にした。

だけどね、地獄のような生活の中でも、一筋の光があったの。それが、彼女だった。殆ど家に

閉じ込められていた私に、彼女は本当にたくさんのことを教えてくれた。周囲は打算で近づい

て来るような人ばかりだったけど、彼女だけは、私にやさしくしてくれた……」

「ゆきのん、大変だったんだね……」

「ええ。彼女がいなければ、今の私はいなかった。この世界にも、いなかったかも……」

「ゆきのん……」

「そんな彼女が、交通事故にあった。私が中学一年生の時だったわ。そして彼女は意識を失っ

て、今も植物状態のままよ。そんな彼女の意識を取り戻して、きちんとお礼を言う。あなたの

おかげで、私は今生きている、と。そのために、私は仮面ライダーになったの」

「じゃぁ、戦いを止めようとしてる私達は……」

由比ヶ浜は、気まずそうにうつむいた。

「あなたが気にすることではないわ。それはきっと、最後に私が決めることだから……」

※注釈

雪ノ下の過去に関係する「小川絵里」ですが、これは「仮面ライダー龍騎」本編に置いて、「仮

面ライダーナイト」に変身する秋山連の恋人で、同様に意識を失っており、彼の戦う理由とな

る女性です。

雪乃のエピソードでは登場しますが、登場人物として何かを語ったりすることはありませんの

で、彼女のことを知らなくても物語を読むうえで支障はありません。

「それより今は、鶴見さんのことよね。どこぞのロリコンさんも心配しているようだし」

そう言って雪ノ下は軽く笑みを浮かべる。

そうだ、今は、未来のために戦う時だ。

「留美ちゃんを、みんなと仲直りさせてあげればいいのかなぁ」

「それは無意味よ。誰かを仲間はずれにすることでしか絆を確かめられないような連中と一緒

にいても、決して彼女にとってプラスにはならない」

「でも、周りが集団で、自分だけ孤立してるって言うのは、つらいと思うな……」

「そうね、どうしたものかしら……」

「そんなもん、ぶっ壊しちまえばいいだろ」

「え?」

「だってそうだろうが。その集団に入れば害される、かといって放置していても着実に負担を

与えてくる。この二つを連立させて解けば、出てくる解は一つ、その集団を消滅させること。

こんなもん数学学年最下位の俺でもわかる」

「……あなたらしいわね」

「そりゃどうも」

「別にほめてはいないのだけど」

「え?俺らしいって、けなされてるんですか?」

「比企谷君みたいなんて、これ以上の侮辱の言葉もないと思うのだけれど……」

「あはは、なんか、調子戻ってきたね!」

「そうだな、俺達はこれでいいんだ」

「あなたと同類にされるのはとても不愉快なのだけれど……」

「お前は俺のこと嫌いすぎるだろ……」

「そうね、嫌いすぎて、一周回って殺したいレベルよ」

「普通一周回ったら好きになりませんか……?」

「……ごめんなさい、悪寒が走ったわ」

「おかん?お母さんのこと?」

あほだ、あほの子がいる。

「由比ヶ浜さん、悪寒というのは君が悪い時に寒気を感じる現象のことよ。決して母親をさす

わけではないわ」

「雪ノ下、由比ヶ浜もいるんだから、難しい言葉使うなよ」

「それもそうね。ごめんなさい、由比ヶ浜さん」

「もうっ、二人ともっ!馬鹿にしすぎだからぁっ!」

「ふふ、ごめんなさいね。ところで比企谷君、具体案はあるのかしら?」

「ん、まぁな。あんまり話したいようなことじゃないが……」

-------

「なかなか卑劣ね、流石比企谷君」

「ちょっと、ドン引きかも」

「お前ら人の意見聞いといてその反応はあんまりだろ」

「だけど、少し人手が足りないわね。まさかその役を私達三人だけでやるわけにもいかないし

……」

「その話、聞かせてもらったよ」

ドアを開けて入ってきたのは、にやにやと笑いを浮かべた葉山三浦グループだった。

「なにそれ、超面白そうなんだけど」

「三浦ぁぁっ!」

俺はその瞬間、すべての理性が吹き飛んだ。相手が女子だとかなんだとか、そんなことは一切

頭になかった。

「貴様、どの面下げてここにっ!」

三浦をつかもうとした俺の腕を、葉山が冷静に止める。

「お前が、お前が材木座をっっ!」

「比企谷、……少し黙れよ」

「葉山っ!」

「何むきになってんの、超うけるわー。きもいんですけど」

「ハハっ、ヒキタニ君それはないっしょー。ヒキタニ君だって、ライダー殺したんでしょ?仮

面ライダーシザース、だったっけ?」

「なんで、テメェがそれをっ!」

「ヒキ夫ー、あんただって一緒じゃん!あははははっ!」

「……黙りなさい。比企谷君はあなたのような人とは違うわ」

「なにが違うってーの?」

「人を殺めた理由と、それに対する覚悟よ」

「はぁ?」

「あなたが材木座君を殺した理由は、ただ単にライダーバトルで勝ち残るため。しかも、その

先に何の目的もなく、ただただ人殺しを楽しんでいる。その死を背負おうとすら思っていない。

そんなあなたが、比企谷君と同じなはずないわ」

「じゃぁなに?[ピーーー]けどしっかり覚えてるから許してねって、それが正しいっての?

笑わせんなっての。ほんっと、あんたってむかつくわ。もう、死んでよ」

三浦はバックルを取り出す。

雪ノ下もそれに応じて、ポケットに手を入れる。

俺はそんな彼女の手を止めた。

「比企谷君?」

「こいつの相手は、俺にやらせてくれ」

「……いい目ね、あなたらしくもなく、感情が宿っているわ」

「ヒッキー、……[ピーーー]、つもりなの?」

「どう、かな。でも、こいつを一発ぶん殴ってやらねぇと、俺はあいつに顔向けできねぇンだ

よ」

「面白いじゃん、やってやんよ」

「優美子ー、俺もやった方がいい?」

「いい、こいつはあーし一人で[ピーーー]から」

戸部の申し出を三浦は退ける。

「じゃぁいくよヒキ夫ー、遺言とか残しとかなくて大丈夫ー?」

「……」

「はっ、シカトかよ。ま、いーわ。……変身!」

「材木座、お前の思いは、継いで見せる。必ず、ライダーバトルを止めてみせる。だから、見

ててくれ。俺の……変身!」

ミラーワールドでは、三浦がコキコキと首を回して待っていた。

紫色のまがまがしいその姿を見ると、俺の胸に、憎しみの炎が激しく燃え上がった。

「うおおおおおおぉっ!」

「Swword Vent」

「ラァッ!」

「ぶっ殺してやんよ!」

「Swword Vent」

二つの剣が激しくぶつかり合う。戦闘に置いて怒りに身を任せることはタブーだが、怒りほど

パワーを引き出してくれる感情がないのもまた事実である。

「くっ!」

苦悶の声を上げて、三浦は少し後方に下がる。

「……逃がすかよ」

「Strike Vent」

「はぁぁぁぁーっ!」

龍頭型の武器から、灼熱を放出する。

「がぁぁっ!」

攻撃が三浦の体に直撃する。

バンガローから出て、崖の近くで戦っていたので、三浦はその衝撃で落下した。

「お前は、間違ってるから……」

「Final Vent」

「でいやぁぁぁぁっ!」

崖の上から、三浦に向かい、ドラゴンライダーキックを放つ。

「くっそっ!」

「Advent」

三浦がコブラを呼び出し、落下中の俺は思い切り毒液をかぶってしまった。

毒液と俺をまとっていた炎が相殺し、l俺の攻撃はただの急降下キックへと弱体化し、おしく
も三浦に回避されてしまった。

「はっ、今のはさすがに、やばかったわ。でもねっ」

三浦が言った、その時である。

「グオラァァッッ!」

突如咆哮を上げ、一匹のモンスターが三浦に向かい、襲いかかってきた。

「あれは……」

材木座の契約モンスター、『メタルゲラス』だ。

「くっ!」

サイの突進を受け、三浦の体が吹き飛ぶ。

そしてモンスターは再び三浦に突進する。

「お前も、あーしのしもべになれ!」

言って三浦は、カードデッキから一枚のカードを抜き取った。

「そんな、あのカードは……」

彼女が手にしているのは、「Contract」と書かれたカード、すなわち、契約のカードだ。

「二枚目、だと……?」

メタルゲラスはしばらく三浦を見つめ、そしてカードの中に吸い込まれていった。

「契約、完了」

なんであいつにだけ、複数の契約カードが……?

「反撃、いくよっ!」

「Strike Vent」

材木座が愛用していた武器、メタルホーン。

「くっ!」

ドラグセイバーで受け止めるが、パワー特化のその武器に対しては、防御側ではどうにも分が

悪い。

「はっ!とりゃっ!はぁあっ!」

俺は無様に地面を転がる。

「さいっこうだわ、殺した相手の武器で追いつめるってさぁ!」

「この、外道が……」

「なんとでもいえっつーの」

仮面の下からでも、三浦がいやらしい笑みを浮かべているのが想像できる。

「二枚ある、どっちがいい?」

彼女が見せてきたのは、二枚のファイナルベントカード。

それぞれ、サイとコブラのエンブレムが描かれている。

「舐めた、まねを」

「んじゃ、今日はこっちでいくか」

「Final Vent」

再びメタルゲラスが出現する。

そして三浦は、そのまま必殺技の体勢をとる。

「うおらぁぁっ!」

「Advent」

ドラグレッダーに飛び乗り、こちらも突進攻撃を繰り出す。

ドガァン、という激しい爆発が起きる。

俺も三浦も、立ち上がるのが精一杯という様子だった。

「ちっ、今日は、この辺にしとくか」

三浦はそう言い残し、ミラーワールドを去った。材木座のことを少しだけ考えた後、俺もそれ

にならった。

「比企谷君、大丈夫?」

「ヒッキー、けがは?」

「ん、大したことねぇよ」

材木座の受けた痛みに比べれば……。

「優美子、大丈夫か?」

「ん、余裕っしょ。契約モンスターも増えたし、まずまずってとこ。あんな邪魔がなければ、

今頃ヒキオ殺せてたのにな」

「そう、か」

「……今すぐ帰ってくれないかしら。あなた達と同じ空間にいるのは、苦痛以外の何物でもな

いのだけれど」

「ま、まぁそう邪険にしないでくれよ雪ノ下さん。僕たちはただ、留美ちゃんのことが心配で

……」

「人を嬉々として[ピーーー]ような人に、誰かを救おうという心があるとはおもえないのだけれど」

「そ、そんなことない。ライダーバトルに関係なければ、優美子だって……。それに、君達の

作戦には人手が必要なはずだ」

「……」

「でも……」

「なぁ葉山、どうしてお前こんなことするんだ?」

「どうしてって言われても……。俺はみんなに笑っててほしいだけだよ。みんなの笑顔の為な

ら、俺は何だってやってみせる」

彼の表情から見る限り、嘘を言っているようには見えない。

……酔っているのだ、こいつは。自分と、それを取り巻く環境に。だから普段はどこまでも善

人だが、その世界を乱すようなものには、どこまでも冷酷になれる。

彼の優しさはきっと、どこまでも欺瞞なのだ。

ならばこの場この件に関してだけ言えば、彼は信用できるのかもしれない。

「……受けてみないか、雪ノ下」

「……本気なの?」

「ああ、俺は、あいつの世界を変えてみたい。いや、変えるなんてのは、傲慢だな。あいつを

縛る鎖を少しだけ緩めてやりたい、その手助けがしたいんだ」

「そう、……由比ヶ浜さんは?」

「わたしも、留美ちゃんのこと気になるし……。受けてみても、いいと思う」

「葉山君、では、あなた達の協力を許可するわ」

「はぁ?あんた何様のつもり?頭下げるのはそっちっしょ?」

「まぁまぁ優美子、あの子を助けたいっていう気持ちは同じなんだ。ここは、穏便にいこう」

「ちっっ、わーったよ。隼人が、そういうなら……」

言って三浦は一種頬を赤らめた。

こんな殺人鬼でも、普通に恋をする。そのことが、少しだけ気にかかった。

鶴見留美の周囲の環境を変えるため、俺が考えた案はこうだ。

人は、極限状態でその本性を出す。

その状況に陥った時、普段はひょうひょうとしていても、いきなり頼りになるような奴もいる。

だが、その大半は逆だ。醜い姿をさらけ出す。保身のために、簡単に近くの人間を売る。

だからあいつらをとことん精神的に追い詰めて、そのくだらない関係をぶち怖す。

一度醜い部分を見せあった者たちは、もう二度と仲良くなどできない。

『みんながぼっちになれば、誰も傷つく者はいなくなる』

戸塚や小町も含めて、俺の考えと具体案を再び話してみると、周囲はほとんど引いていた。

あれ?さっき聞いた人もいますよね?なんで二回もドン引きするの?

「八幡はよくいろんなこと思いつくね!」

ただ一人戸塚だけが感心したような声を上げた。

普通の奴が言ってもい闇にしか聞こえないが、戸塚が言うと額面どおりの意味として受け止め

られる。

これにもし裏があったら、ライダーバトルで勝ち残って世界の破滅を願うレベル。

「だけどそれは、問題の解決にはならない」

葉山が異を唱える。

それはそうだ、だが

「解決にはならなくても、解消にはなるだろ」

そういった俺をじっと見つめてくる葉山の視線に、思わずそらしてしまいそうになるが、何と

か耐えた。

俺は、間違っていない。

逃げちゃだめだなんて言うのは、強者かどこかのパイロットだけだ。

人間関係に悩みがあるならば、そんなものは壊してしまえばいい。

『俺は悪くない、世界が悪い』なんて言葉があるが、あながち間違っていないと思う。

世界、世間が間違っていることなんて往々にしてある。

「そういう、考え方か。それが、彼女が気にかける理由……」

葉山の表情が一瞬儚げなものになる。

「いいよ、それでいこう。ただし、みんなが一致団結してそれに対処する可能性にかけて、ね」

それがあり得ないなんてことは、お前が一番わかっているんじゃないのか……。だからお前は

英雄になるなんて、思ったんじゃないのか。葉山のことはよく知らないので、憶測にすらなら

ないが、俺は何となくそう思った。

「留美ちゃんの班だけ最後にした方がいいよな、くじを作って細工でもするか?」

「いや、それはあんまり現実的じゃない。こっちで指名するようにしよう。スリルとか何とか、

理由はいくらでもでっち上げられる」

「わかった、誘導はどうする?」

「そうだな、俺がカラーコーンいじってあいつらだけ別のルートに生かせるようにするよ。葉

山達はその奥で待っててくれ」

「ああ。後は戸部と優美子か……。あんまり細かい指示は覚えられないぞ?」

「携帯をカンペ代わりにしたらいいだろ、面倒臭そうにいじってた方が雰囲気でると思うし」

「なるほどな、よく考えてるな」

「別に、んなことねぇよ」

「じゃぁ、優美子達に伝える内容はそんなもんでいいな?」

「ああ、頼む」

俺と葉山は、今夜行われる肝試しの最終打ち合わせをしていた。

「小悪魔衣装に巫女に、なんだこれ……。メイド服か?猫耳と、魔女の帽子……?」

小学校教師、照井さんが用意してくれた服装の数々は、まるでコスプレ大会に出演するかと思

うほどの奇抜なものだった。

「肝試し大会でも振り切るぜ!」

と、意味がわからないことを言い残してこの衣装を俺達に渡していった。

女子高生のコスプレ姿が見たかっただけじゃねぇのか……?

最後に、「コスプレの可愛さも振り切るぜ……」とか小声で言ってたし確信犯だろ。

隣にいて、そんな彼の頭をスリッパで叩いていた女性は一体誰だったんだろうか……?

「魔法使いって、お化けかなぁ……」

魔法使いの衣装を手にした戸塚がけげんな声を上げる。

「まぁ、大きいくくりでいえばそうなんじゃねぇか?」

「でも、怖くないよね」

「いや、大丈夫だ。十分怖いぞ?」

本当に怖い。いよいよ戸塚に本気で惚れそうだ。

「おにいちゃんおにいちゃん!」

ふと、後ろから背中をたたかれる。

「なにそれ、化け猫か?」

「たぶん……でも、かわいいでしょ?」

「ああ、世界一可愛いよ」

「むー、その反応ポイント低いよー……え?」

そんな猫の姿をした小町の頭を、雪ノ下が愛でるようにしてなでる。

その雪ノ下の恰好は、白い浴衣を着た雪女だ。……不覚にも見とれてしまった。

「あ、あの……雪乃さん?」

雪ノ下は今度はしっぽを触っている。

そして、コクリと頷く。それは何に対しての肯定なの……?

本当に猫好きだな、こいつ。

俺も猫の恰好したら……いや、そんなくだらない妄想はやめておこう。

「あなたが猫の恰好をするなんて、それは私に対する侮辱かしら?その腐った目をつぶしてし

まいたいのだけれど」とか、すごい笑顔で言われる未来が見えるもん。

「お前、その衣装なかなかにあってるな。何人か人殺してそうだわ」

「そういうあなたもゾンビがずいぶん板についているじゃない。初めてあなたに感心したわ」

えー、初めてなんですか……?しかもそれ絶対感心してない。

「ああ、なんなら味方のドラゴンが死んだら墓地から復活するレベル」

「たとえが全く分からないのだけれど……」

と、そんなやり取りをする俺達の耳に、『うーん、うーん』という声が聞こえてきた。

小悪魔の恰好をした由比ヶ浜だ。

いろいろなポージングをしていて、初めてコスプレ大会に参加する人みたいだ。

「忙しいやっちゃなお前は」

「あ、ヒッキー。その……どう?」

「少しでも変だったらとことんからかってやろうと決めてたんだがな。そうできなくて残念だ」

「え?う?う?……って、ほめるならちゃんと言えばいいのに!ヒッキーのバーカ!」

「お兄ちゃんは捻デレですなぁ」

「変な言葉を作るな」

「そろそろかしらね」

「ああ、葉山」

「そうだな、最終確認を始めよう」

雰囲気を出すためか、スタート地点には篝火がたかれている。

「よーし!じゃぁ次はこのチームだぁーっ!」

小町の声に、わぁぁっと盛り上がる小学生達。

肝試し開始から三十分ほどがたち、7割のグループが既に出発している。

小学生達を最初に待ちかまえているのは由比ヶ浜だ。

「ガオー!食べちゃうぞーッ!」

……何その脅かし方。全く怖くないんですけど。

小学生達は笑って通り過ぎていく。

「なんか、あたし馬鹿みたい……」

何とも哀れな格好で、由比ヶ浜は立ち尽くしていた。

作戦のため、俺が進んでいくと、そこにははかなげに立っている雪ノ下がいた。

すると突如、彼女が振り向いた。

「ひゃうっ!」

「よぉ」

「……比企谷君、驚かさないでくれるかしら」

「別に脅かすつもりはなかったんだが……幽霊なんていないんじゃなかったのか?」

「そうね、そんなものは脳の思い込みよ。だから、いないと思えば絶対にいないのよ、……絶

対」

なんで二回言ったかは気にしないことにしよう。目がめちゃくちゃ怖いし。

「それにしても、いつまで続くのかしらね……」

「七割方終わってる。もう少しだよ」

「そう、ならいいわ」

「んじゃ俺、そろそろ行くから」

「ええ、またあとで。……できれば会いたくないけれど」

「その最後の一言は言う必要があったんですかね……」

「冗談よ、それじゃ」

その場に雪ノ下を残して、俺は先を急ぐ。

「にーしーおーいーしーんーのー、ばーけーもーのーがーたーりー」

最後の祠の前では、海老名さんが青々とした棒を振っている。

何故に販促?

だが、思った以上に雰囲気が出ている。

ある程度コースを見回ってスタート地点に戻ると、残るは後ニチームとなっていた。もちろん、

留美達もいる。

彼女達は楽しそうに話しているが、その輪の中に留美はいない。

「はい!じゃぁ次はこのグループだーっ!」

そしてついに、留美達がスタートした。

俺は先ほどのコースをたどり、コーンを移動させる。

山へ至る道には、三浦達がたむろしている。

「そろそろ出番だ、頼む」

「はいはい」

三浦がだるそうに返事をする。

この場で二人がかりで戸部と三浦に襲われたらやばいな、などと考えていたが、どうやらそれ

は杞憂だったらしい。

葉山には基本従順だからな、こいつら。

三人がスタンバイしたのを見届けて、俺は再び木陰に隠れる。

するとそのすぐ後に、少女達の楽しそうな声が聞こえてきた。

当然、留美の声はない。彼女達が視界に入ると、留美は真一文字に唇を噛みしめていた。

だけど、今日でそれも終わりだ。

グループの先頭が分岐に差し掛かる。

カラーコーンでふさがれた道を怪訝に思いつつも、足は道なりに進んでいく。

俺は気配を殺して、その後をついていこうとした。

「比企谷君、状況は?」

と、小声で後ろから名前を呼ばれた。

振り返ると、雪ノ下と由比ヶ浜がそろって立っている。

「今、葉山達の方に向かってるよ。お前らも来るのか?」

「当然よ」

「あたしも」

雪ノ下と由比ヶ浜に頷き返し、ゆっくり静かに移動を開始する。

留美達のグループは、恐怖を紛らわすためか、ことさら大きな声で会話をしている。

そんな中、誰かがふと、「あ」と声を上げた。

グループの前方に人影があった。

葉山達だ。

「あ、お兄さんたちだ!」

葉山達の姿を認めると、小学生達は駆けよっていく。

「超普通の恰好してるしー!」

「だっさーい!」

「もっとやる気だしてよー!」

「高校生なのに頭悪ーい!」

見知った普段の顔があることで緊張が溶けたのだろう。まくしたてるように彼女達は口を開く。

しかし、駆け寄ってきたその体を、戸部は乱暴に振り払った。

「なにため口聞いてんだよ、アアン?」

茂みの中から、数匹のレイヨウモンスターと、コブラのモンスターが現れた。

「え……」

小学生達の動きが一瞬にして止まった。

「ちょっとちょーしのってない?別にあーしらあんたらの友達じゃないんだけど」

主人の怒りの声に反応してか、コブラもキシャァッと威嚇する。

「な、何これ……」

「騒ぐなよ、もし大声出したりしたらそっこーこいつらが[ピーーー]から」

「つか、さっきあーしらのこと馬鹿にしてたやついるよね?あれ誰?」

問うたところで、彼女達は何も答えない。

ただ顔を見合わせるだけだ。

「ねー、あーしのこと無視してんの?誰が言ったか聞いてんの!」

ベノスネーカーが毒液を吐く。

すると、地面がジュジュッという嫌な音を立てて蒸気を上げる。

「ごめんなさい……」

誰かがぼそりと謝罪の言葉を口にする。

「なに?聞こえないんだけど?舐めてんのか?あ?おい」

戸部の声に合わせて、レイヨウモンスターたちが一斉に咆哮する。

「葉山さん、こいつらやっちゃっていいすか?」

言いながら戸部は、シャドーボクシングを始める。

小学生達は最後の希望を込めて、葉山の方を見る。

だが、彼が放ったのは残酷な、ともすれば彼の本質を表すような一言だった。

「こうしよう。この中の半分だけは見逃してやる。あとの半分はここに残れ、誰を残すかは自

分たちで決めろ」

「うっわー、葉山さん超優しいっすねー」

「さっすが隼人、わかってるー」

静まり返った空気の中で、誰かが涙を交えて行った。

「すいませんでした」

「謝ってほしいんじゃない。選べと言ったんだ。……早くしろ、全員やられたいのか」

びくっと肩を震わせて、彼女達は再び沈黙する。

「ねー、聞こえてないの?それとも聞こえてて無視してんの?」

「早くしろよ、誰が残んだよ、お前か?お前か?あ、おい」

そんな中で、最初の犠牲者が決定した。

「鶴見、あんたのこんなよ」

「そうだよ」

言われて、留美は前に押し出される。

「あと二人だ」

「ここからが、あなたの狙いなのね」

「ああ、それにしても、モンスターを使うってのは予想してなかったが……」

「本当に壊しちゃって、いいのかな」

「いいさ。あんなくだらない関係なんて、あっても害にしかならない。留美にとっても、他の

子たちにとっても」

「壊せるの?」

「ああ。あいつらが葉山の言うように本当の絆で結ばれているなら、協力してこの状況を打開

しようとするだろう。だが、そうじゃない」

「そうね、誰かを陥れて自分の価値を確認するような輩のもとには、同じような人しか集まら

ない」

「さっさとしろよ、おい!」

「……美咲があんなこと言わなければ」

そして、魔女裁判が始まった。

「そうだよ!ミサキーヌが悪いよ!」

「ち、違う!先に言いだしたのは、園田マリ!あんたでしょ!」

「あたし何も言ってない!何も悪くない!ハナさんの態度が悪かったんだよ!ハナさん、先生

とかにもいっつもそう!」

「はぁ?普段のことなんて関係ないでしょ!最初に言い出したのがミサキーヌで、次に言った

のがナツメロン!」

「私の名前は夏ミカンです!違う、夏美です!というか、私は何も言ってません!でまかせ言

うなら、士君が黙ってませんよ!」

「それならあたしだってつるぎ君がぼこぼこにしちゃうんだから!」

「そんなやつ、私の巧の敵じゃないわよ!」

その光景に、場違いとわかっていても思わず尋ねてしまう。

「いまどきの女子ってのは、小学生でもあんなに彼氏がいるもんなのか?」

「今聞くことだとはとても思えないのだけれど」

「そうだよ!今は関係ないでしょ!」

「すまん……」

今にも殴り合いに発展しそうな空気で言い争う。

「もうやめようよ。みんなで謝ろうよ……」

恐怖と絶望、そして憎悪がないまぜになって彼女達は泣き始める。

だが三浦はその涙を見ても、許すどころかさらに機嫌を悪くして言い放つ。

「あーしさー、泣けばいいと思ってるやつが一番嫌いだから。どーする隼人?まだあんなこと

言ってるよ?」

「……あと二人、早く選べ」

「葉山さーん、もう全員ぼこった方が早くないっすかー?」

「そうだな……あと三十秒だけ待ってやる」

「謝っても許してもらえないよ……。先生、呼ぶ?」

「先生にこいつらが何とかできると思ってんのか?犠牲者が増えるだけだと思うけどなー」

モンスターたちが一斉に咆哮する。

その提案も、一瞬で沈められる。

「残り二十秒」

「やっぱ、ミサキーヌだよ」

「うん、私もミサキーヌが悪いと思う」

「え!?ちょっ、ちょっ!」

周囲に押し出される形で、ミサキーヌと呼ばれた少女が留美の横に並ばされる。

「ごめん、でも、しょうがないから」

そう、しょうがないことだ。誰も空気には逆らえない。たとえそのせいで誰かがつらい思いを

していても。

『みんな』がそういうから、『みんな』がそうするから。だから自分もそれに従う。本当はその

『みんな』なんていないのに。

それは、集団が作り出す魔物だ。

日本のスポーツ選手はその能力に比べると、オリンピックでの成績が低い。これは、日本人が

気が弱いとかそういう理由ではない。

国民が、過度にオリンピックに対して熱くなるからだ。

普段大して興味がない競技にも、みんなが騒いでいるから注目する。

そして自分も同じように大騒ぎする。戦時中の「非国民」と同様のレッテルを、盛り上がらな

いものは張られてしまう。

かつて、俺も彼女も、そしてきっと彼さえも、その被害者だった。

だから俺は憎悪する。空気なんてものを作りだす者を、そしてそれに従って他人をたやすく貶

める者を。

たとえみんなを変えることができなくても、それをぶち壊してやることはできる。

「十、九……」

葉山のカウントダウンは続く。

後は俺が「ドッキリでした~」とでも言って出ていけば万事解決だ。モンスターに関しては、

まぁ着ぐるみかなんかということにしておこう。

「グォっ……」

出て行こうとすると、襟元を由比ヶ浜につかまれる。

「なんだよ」

「ちょっと、待って……」

「三、ニ……」

「あの……」

その時だ。ずっとカメラをいじってうつむいていた留美が葉山の声を遮るように声を上げる。

葉山達の視線が留美に集まる。

突如、光が奔流した。シャシャッと連続で機械音が鳴る。

暗闇に訪れた真っ白な選考が、視界を奪う。

「みんな逃げて、急いで!」

留美は自分一人その場にの頃、他の少女達を逃がした。

「留美ちゃん……」

「こんな世界は間違ってる。だから、私が変える!……変身!」

瞼を開けると、そこには留美の姿はなく、かわりに黄緑色の

新たな仮面ライダーがいた。

「あなたたちみたいな人を、私は絶対に許さない!」

「あんたも仮面ライダーだったんだ……。戸部ー、あーし疲れてるから相手よろしくー」

「えー、マジないわー。ったく、しょうがねぇな。予定にはないが、やりますか!……変身!」

「仮面ライダーインペラー。エクスタミネーートっ!」

「仮面ライダーベルデ、あなたを絶対に、倒す」

「これって……」

由比ヶ浜は驚いたように声をもらす。

「まさか、鶴見さんがライダーだったなんてね……」

「世界を変える、それがあいつの、戦う理由か……」

「どうする?ヒッキー、ゆきのん」

「どうするもこうするも、とりあえずは行ってみないことにはな。変身!」

「その通りね、変身!」

「変身!」

「Spin Vent」

「Hold Vent」

そこではまさに、戸部と留美が戦闘を開始しようとしていた。

戸部はさすまた状の武器を、留美はまるでヨーヨーのような武器を使っている。

そのかわいげな見た目とは裏腹に、ヨーヨーはずいぶん強力な武器だった。

伸縮自在でリーチも広く、さらには糸の部分を敵の武器に巻きつけたりして、行動の幅を狭め

ている。

「想像以上の手だれだな……」

「そうね、あれはそうとうに厄介な武器よ」

「調子にノンなぁっ!」

武器を失った戸部は、怒りにまかせて留美に襲いかかる。

「はぁっ!」

そんな彼の頭に堅いヨーヨーが直撃する。

「Advent」

留美に応じて出現したのは、全身緑色のカメレオン型のモンスターだった。

モンスターはとてつもなく長い舌を出し、戸部の体に巻きつける。

「な、なんだと……!?」

それをそのままグルんグルンと回して、戸部は放り投げられてしまった。

「くそっ、ここは引くか……」

「Advent」

戸部は大量のレイヨウモンスターを呼び出し、自分はその隙にもとの世界へと戻った。

「留美……」

「また、ライダー……しかも三人も」

近づいて行った俺を見て留美はつぶやいた。

「留美、俺だ。比企谷八幡だ」

戦意がないことを示すため、俺は両手を上げる。

「なにしに来たの?」

「何しにって……お前と戸部が変身するのを見たから」

「そう、でも私はたとえあなたが相手でも戦う。……かまえて」

留美はそう言って、ヨーヨーを握り直す。

「三体一というのは卑怯ね、ここは私が」

「いや、雪ノ下、すまないが俺にやらせてくれないか?話したいことも、あるしな」

「……そうね、これはあなたがけりをつける問題ね。どのような結果になろうとも、私達は干

渉しないわ」

「ヒッキー……信じてるから」

「あまり信じられても困るんだが……。ま、見ててくれ」

「うん!」

「それでは由比ヶ浜さん、行きましょうか」

二人はミラーワールドを後にした。

「行くよ、八幡」

「その前に、一つだけ聞かせてくれ」

「なに?」

「もし俺がライダーだと知っていたらあの時、お前は俺のそばにいてくれなかったか?」

「それは……多分、変わらなかったと思う。辛い時に一人でいると、もっと辛くなるから……」

「ははっ、そいつが聞ければ十分だ。さぁ、戦おうぜ!」

「Swword Vent」

剣を構えて走る。留美の放ったヨーヨーを、重心を左にずらすことでかわす。

すると留美はそのまま手を右に引き、俺の体に糸が巻きついた。

「なんだと!?」

留美はさらにヨーヨーを巻き、俺の自由を奪う。

俺はその場で、身動きが取れなくなる。

「はっっ!」

留美はヨーヨーを持ったまま飛び上がり、降下キックを放つ。

当然俺は回避できるはずもなく、その場に転がる。その際にヨーヨーの束縛が解けたことは、

僥倖と呼んでいいだろう。

「Strike Vent」

一端距離を置こうと、炎攻撃を放つ。

「Coppy Vent」

この技は知っている、由比ヶ浜が使う、他のライダーの武器を複製する技だ。

何を使うつもりだ……?

次の瞬間、俺は眼をみはった。

そこに留美の姿はなく、かわりにいたのは雪ノ下が変身するはずの仮面ライダーナイトだった

からだ。

「姿までコピーできるのか……」

ちなみに彼女は、羽織っているマントで炎を見事に防いでいた。

「はぁっ!」

留美が、雪ノ下の武器ウイングランサーを片手に突進してくる。

剣と剣が激しくつばぜりあう。

「留美、ライダーバトルで勝ち残って世界を変えても、そんなもんには何の価値もない!」

「ライダーバトルとか、そんなのは関係ない!」

「なに……?」

「人間はみんなライダーなんだよ!自分が得するために、醜く他人を蹴落とす!だから、ライ

ダーになってもならなくても私のやることは変わらない!」

「そんな、力だけじゃっ!」

「権力を求めて何が悪いのっ!そうしなきゃ、この腐った世界は変わらないから!」

彼女の悲痛な叫びにひるんだ俺は、押し切られてしまった。

「はぁぁぁっ!」

「Final Vent」

留美の姿がもとにもどり、その傍らに契約モンスターが出現する。

どんな攻撃が来るのかと身構えると、留美が空中に飛び上がり、その足をカメレオンの舌がつ

かむ。

伸縮自在なその舌を使い、留美はあっという間に俺のもとにやってくる。そしてそのまま、俺

は腰を掴まれた。

そのまま俺と留美は空中でクルクルと回る。

「デス・パニッシャーっ!」

と、俺の頭部が下になったところで回転が止まり、そのまま勢いよく地面にたたきつけられる。

「がっ、あぁっ……」

「もう、戦えないでしょ?諦めて、もとの世界に戻って。バックルをくれれば、八幡も戦いか

ら……」

「それは無理だな」

悲鳴を上げ続ける体に鞭打って、俺はよろよろと立ちあがる。

「俺はまだ、ライダーとしてやるべきことをやってない。だからここで、終われないっ!」

「Final Vent」

「どうして、なんでそんな力がっ……」

「今倒れたら、お前に俺の言葉は届かないだろうが。だからっ、今だけはっ!くらえっ!ドラ

ゴンライダーキックッ!」

茫然と立つ留美の前方一メートルほどのところに、全力で必殺技をたたきこんだ。

「……どうして、当てなかったの?」

「本当に当てちまったらやばいだろうが。俺はお前と、話をしたいだけだ」

「話……?」

「ああ、そうだ。この力でゆがんだ世界を正す、か。すごいことだと思うぜ、素直に。でもさ、

そうやって作られた世界は、どうしようもないひずみを生みだす。不可能だとわかっていても、

一歩ずつ理想に近づいていくしか、お前の夢をかなえる方法はない」

「だけど人は、汚いよ……」

「ああ、その通りだ。でもな、それが人だ。……お前が思う、理想の人物を想像してみろ。欲

がない、誰にでも優しい、差別しない、なんだってうまくこなすでもなんでもいい。いいか、

考えたか?でもな、そんな人間は存在しない」

「そっか……」

「だから、人がいる限り、正しい世界を作るなんてのは、無理な話なんだよ。もがいてもがい

て、それしかない。だけどさ、留美。それはお前一人で抱え込むことはないんだぞ?人が変え

られるのなんて自分自身、よほど頑張ってその周りの環境を少しだけ変えるくらいが限界だ。

お前はお前のまわりの世界だけを……」

「でも私にはできなかったよ。だから、こんなことに……」

「……こんなセリフは無責任だからすごく言いにくいんだけどな、……お前にならできるよ。

あの時、お前は周りの奴らを見捨てる選択だってできた。それどころか、自分のモンスターを

呼んで、どさくさに紛れて他の奴らを[ピーーー]ことだってできた。でも、お前はしなかった。あい

つらのせいで世界を変えたいと思うほどに悩んでいたにもかかわらず、だ。

だからお前は変われる、環境だって変えていける。俺は、そう信じてる」

「八幡……」

「って、かなりくさいこと言ったな。また黒歴史が増えた……」

「ううん、かっこよかったよ。八幡……わかった、私、ライダーバトル、やめるよ」

「本当か……?」

「うん、私のモンスターは、八幡が倒して?」

「わかった」

「じゃぁ、呼ぶよ?」

「Advent」

再びカメレオンのモンスターが現れる。

こいつを倒して、留美をライダーバトルの呪縛から解く!

「Final Vent」

「はぁあぁあぁぁっ!」

俺の全力の一撃はカメレオンの腹部を貫き、留美を縛っていた鎖とともに、勢いよく爆発した。

ミラーワールドを出た直後、留美は俺に語りかける。

「ねぇ、八幡」

「なんだ?」

「さっき八幡は、理想の人なんていないって言ったよね?」

「ん?ああ」

「いいこと教えてあげるから、ちょっとしゃがんで」

「ん?」

唐突に、留美の唇が俺のそれに触れた。

「な、お前……」

「私の理想は、八幡だよ?」

「なっ、おっ、お前、な……」

「ありがと、八幡。大好き」

俺がたちつくしていると、由比ヶ浜と雪ノ下が歩いてきた。

「終ったようね」

「おつかれ!」

どうやらさっきのは見られていないようだ。よかった……。

「じゃぁ、八幡。おやすみ。またね」

とたとたと走っていく彼女の背中からは、もう不安なものは感じられなかった。

また俺達は出会えると、何の根拠もなくそう思った。

そうして、一つの秘密を残して、合宿最後の夜は更けていった。

帰りの車内は静かなものだった。

皆疲れたのか、後部座席は全滅していた。

ただ俺一人だけは、隣に座る平塚に無防備な姿を見せないよう、

しっかりと目を開けていた。

「今回はずいぶん危険な橋を渡ったな」

「そのくらいの処理はお願いしますよ。教師なんですから」

「ははっ、随分と嫌われたもんだなぁ」

「もとは好かれてるとでも思ってたのかよ」

「ふふ、そういういい方はポイント低いぞ?」

「うちの妹の口癖を使わないでもらえますか?気分が悪い」

「まったく、今は一人の教師なのだがなぁ」

それ以降俺は口をつぐみ、彼女と会話をすることはなかった。

それから数時間車に揺られ、学校に到着した。

「みんな、ご苦労だったな。家に帰るまでが合宿だから、気を抜くことがないように」

こいつこれが言いたかっただけだろ。

「お兄ちゃん、何で帰ろっか?」

「ん、バスでいいだろ。帰りに買い物して行こう」

「あいあいさー」

びしっと元気のいい返事をする小町。

「方向一緒ですし、雪乃さんも一緒に帰りません?」

「そうね、ではそうしようかしら。……いらないおまけも付いているようだけど」

なんですか、それは僕のことですか。

「じゃ、あたしとさいちゃんは電車かな。ばいばーい!」

二人が去ろうとした、その時だ。

突然真っ黒なハイヤーが俺達の目の前に横付けされた。

運転しているのは初老の男性。

しかし、後部座席はこちらからは見ることができない。

「金持ってそうな車だな」

先頭には変なしゃちほこみたいなのがついてる。……あれって。

中から出てきたのは、その体から光を放っていると錯覚させるような女性。

「はーい、雪乃ちゃん」

しかしなぜだろうか。声もとても親近感あふれるものであるのに、俺の頭の中ではけたたまし

く警戒アラームが鳴っている。

「姉さん……」

こいつが、雪ノ下の、姉……。雪ノ下を、自分の目的のために利用したという女。

「はぁー、すっごい美人。雪乃さんにそっくりだぁ」

小町も感嘆の声を上げる。

「雪乃ちゃんってば夏休み全然帰ってこないんだから。お母さんかんかんだよー。だからこう

して迎えに来ちゃった」

自分で言うのもなんだが、俺は人を見る目があると思う。幼いころからのおやじからのすりこ

みと、自身の数多くのトラウマがそれを構成しているのだろう。

その俺の目から見て、彼女の笑顔はうすら寒い。

その仮面の下に、素顔を隠している。しかもその仮面は、一枚ではない。

「あっ、あなたが比企谷君だね!雪乃ちゃんと仲良くしちゃってー、このこのー!」

雪ノ下の姉は俺に近づいて、肘でつついてくる。

絵にかいたような、非モテ男子が喜ぶ行動だ。

だからこそ、嘘くさい。彼女は、存在自体が空々しい。

俺はとっさに彼女の体を振り払った。

「やめろっ!」

「あれれー、嫌われちゃったかなー。ごめんね、龍騎」

最後の一言は、俺にだけ聞こえる小さな声で。

その時の彼女はとても冷たく、思わずのけぞってしまう。

「もー、そんなに警戒しないでよー。雪乃ちゃんから聞いただけだよ」

そんなはずがない。雪ノ下はこんな重要なことを言いふらしたりしない。ましてや激しく憎悪

するこの姉になど。

「あ、名前言ってなかったね。私の名前は雪ノ下陽乃。よろしくね!」

「よ、よろしくおねがいします」

由比ヶ浜がぺこりとお辞儀をする。

「えーっと、あなたは?」

「ゆきのんの友達の、由比ヶ浜結衣です!」

「ふーん、友達、ねぇ……」

一瞬値踏みするような表情を浮かべ、すぐにまた笑顔に戻る。

「仲良くしてあげてね!」

「久しぶりだな、陽乃」

「あっ、静ちゃーん!どう、いい人は見つかった?」

「静ちゃんはやめろと何度も言ってるだろ……その質問は受け付けん」

「知り合いですか?」

「昔の教え子だよ」

「じゃぁ雪乃ちゃん、そろそろ行こっか。お母さん待ってるよ」

「ええ」
最後にこちらを振り向いて、ひどく悲しそうな表情で彼女は言う。

「ごめんなさいね小町さん、またの機会ということで」

「あっ、いえ、おうちのことなら……」

「じゃぁね比企谷君!ばいばーい!」

雪ノ下雪乃を乗せたその車が、まるで地獄に向かう霊柩車のように見えたのは、きっとおれの

錯覚ではないだろう。

ピンポーンと、突如インターホンが鳴った。

この家に誰かが訪ねてくるなんて珍しい。アマゾンかなんかだろうか。

玄関に行き、戸をあけると、そこには意外な人物がいた。

「や、やっはろー」

夏らしい服に身を包み、キャリーバッグを両手で持って、由比ヶ浜結衣は所在なげに立ってい

た。

「おう、何か用か」

彼女が俺の家を訪れるのはこれで二回目のはずだ。一度目は、あの交通事故の後お礼に来た時。

「あ、あのさ、小町ちゃん、いる?」

「小町ー、由比ヶ浜が来たぞー」

「結衣さん、いらっしゃい!ささ、どうぞ上がってください」

「じゃ、じゃぁ、お邪魔します……」

由比ヶ浜は少しためらってから玄関に上がった。

「うわー、本がいっぱいるねー」

「そりゃぁお前に比べればな」

「む、なんか失礼な言い方!」

由比ヶ浜は頬を膨らませる。

「で、お前何しに来たの?嫌がらせ?」

「嫌がらせってなんだし!あたしが来たら嫌なの?」

「別に嫌じゃねぇけど、……迷惑?」

「この正直者めっ!」

ぽかぽかと肩をたたかれる。

「もー、お兄ちゃん。そんなこと言うからもてないんじゃないの?」

「ふ、バカめ。俺は基本女子とかかわらないから、俺の態度で嫌われることなんてない!」

「悲しいことを自信満々で言ったー……」

「そいで、結局何なんだ?」

「うん、小町ちゃんにお願いしてたサブレのことなんだけど……」

彼女は大事そうに抱えてきたキャリーバッグを指さした。ちなみに、サブレというのは由比ヶ

浜の愛犬だ。

そのまま、バッグを開ける。

サブレは周囲を見渡して、俺の姿を認めるなり、すごい勢いで走ってくる。

「キャンッ!キャンキャンッ!」

「お兄ちゃん、動物には好かれるのになぁ……」

「なんだそれ、言外に人には好かれないって言ってるの?」

「言外じゃなくってまんま言ってるんだよ!でも小町はお兄ちゃんのこと大好きだよ!あ、今

の小町的にポイント高い!」

そういうと小町は、俺の腕をギューッとつかむ。

「はいはい、可愛い可愛い」

「むー、つれないなー」

「んで、由比ヶ浜。なんでこの犬連れてきたんだ?」

「うち、これから家族旅行に行くんだ」

家族旅行。ずいぶん懐かしい言葉の響きだ。

「仲いいんだな。お前の家族」

「お兄ちゃんが愛されてないだけだよね」

「なっ、バカっ!超愛されてるっつーの!なんなら寵愛されてるまである!じゃないと、これ

から脛かじっていくつもりなんだから困っちゃうだろうが!」

「嫌な息子だなぁ」

「つーかよ、なんでわざわざうちに預けるんだよ」

由比ヶ浜には仲がいい友達なんていくらでもいるはずだ。

「優美子も姫菜もペット飼ったことなくてさ。ゆきのんにも頼んでみたんだけど、今、実家に

いるからって……」

そうだ、今あいつは……。

「ペットホテルも探してみたけど、今、シーズンだからすごく混んでて……」

「そこで小町の出番ですよ!お兄ちゃん!……未来のお嫁さん候補には優しくしとかないと」

「それを聞いたら引き受けたくなくなるんだが……」

「まぁまぁ」

「はぁ、小町がいいってんならいいけどよ」

抜け目ない妹のことだ。どうせ母親への根回しもすんでるんだろう。この家での序列は、俺が

圧倒的に低い。母さえクリアすれば、あとは小町に甘々の親父だけだ。

「それで、飼い方なんだけど……」

「大丈夫ですよ!打ちも昔犬飼ってましたから!猫もいますし!」

猫と犬の飼い方は結構違うんだが……。

「へぇ、ちょっと意外。ヒッキーが何か飼うなんて……」

「兄は動物好きですよ?……人間以外は」

「そ、そうなんだ……。じゃぁ、安心かな。サブレ、ヒッキーのこと大好きだし」

「ま、少しの間なら仕方ないな。家族旅行、楽しいといいな」

「うん!ありがと!じゃぁ、お母さん達待たせてるからこれで」

「ではでは、お見送りしますよ」

八月も中盤に差し掛かり、夏休みという感じもなくなってくる。

残り日数を数えて憂鬱な気分になる。

深いため息をつくと、足元に何かが這い寄ってきた。

「なんだよ……」

うちの飼いネコかまくらだった。

なんだ、何か用か?

見つめあうこと数秒。

うん、すげぇ邪魔。

普段は小町にかまってもらっているのだが、今うちにはサブレがいるので、小町はそちらにか

まうことが多い。

あれ?うちの妹受験生ですよね。

「ま、お前の方がお兄ちゃんなんだから我慢しろよ」

幼いころから言われ続けてきたセリフを口にして、自分でも噴き出してしまう。

しかしあれだよね、俺がその年だった時よりも、小町の方がはるかに甘やかされている気がす

るんですが……。

俺、五歳ごろから家事やらされてたのに、小町の小学生時代家事をしているのを一度も見たこ

とがないんだけど。何ですか、僕の思い違いですか。

「おにいちゃーん、およ?珍しい組み合わせだね」

「どうした、何か用か?」

「よ、用がなければお兄ちゃんになんて話しかけないんだからねっ!」

「なにそのツンデレ……。お兄ちゃんちょっと傷ついたよ」

「冗談だよ冗談。お兄ちゃん、スマホ貸して」

「別にいいけど、何に使うんだ?」

「うん、イヌリンガルっていうアプリがあるから使ってみたいの!」

「なんかあやしいな……。ま、いいけど」

小町にせかされ、机の上のスマホを手渡す。

「サブレ、何かしゃべってみて!」

「キャンキャン!(遊んで!)」

「他には?」

「キャンっ!(遊んで!)」

「ヒャンッ!(遊んで!)」

「……お兄ちゃん、これ壊れてるんじゃないの?」

「壊れるほど使ってないんだけど……」

「お兄ちゃん、何か言ってみてよ!」

「ワンっ!(働いたら負けだ!)」

精度高すぎだろ……。

「うん、間違ってるのはお兄ちゃんの方だね」

「とにかく、遊んでほしいみたいだな。……散歩にでも連れてってやれば?」

「じゃぁお兄ちゃんも一緒にいこ!決定!」

「えー、俺読みたい本あるんだけど……」

小町が可愛い顔をして首をかしげる。

「はいはい、わかりましたよ。お兄ちゃんも行きますよ」

「わーい!」

すでに空は赤くなり、月がうっすらとその姿を見せている。

昼間タップリと日を浴びて、水も十分に吸収した稲をかき分けるように風がピュウっと吹く。

「いやー、お兄ちゃんと散歩するなんて久しぶりですなー」

「そうだなー」

確かに二人で、目的もなくぶらぶら歩くのはご無沙汰かもしれない。

「お帰りって言ってくれる人がいるのって嬉しいよね」

「ま、基本的にはな。例外もあるけど」

「うわー、面倒臭いなー」

小町は、でも、と言って続けた。

「そんなめんどくさいお兄ちゃんでも、いてくれると嬉しいよ」

その言葉を聞いて、俺はふと小町が小学生時代に家出をしたことを思い出す。

家に帰って誰もいないのはさびしいと、幼い小町は大泣きしたものだった。

それ以来俺は、学校が終わるとすぐに帰宅するようになった。もともと友達がいなかったとい

うのが大きな理由だが。

「別にお前の為じゃないさ。ついでだ、ついで」

「それでもね、いいんだよ」

「そうか」

「……お兄ちゃん、小町に隠し事してるでしょ?」

「お前はアホか。秘密が一つもない人間なんていねぇんだよ」

「んー、そりゃそうだけどね。……言いたくないなら、いいけどさ。でも、一つだけ」

「なんだよ」

「無理、しないでね。お兄ちゃん昔から、冷たい振りしてすぐ困った人助けちゃうんだから。

自分を犠牲にして、さ」

「覚えがないな……」

「もう、捻デレさんなんだから!」

「少なくともデレてはいないと思うが……」

「本当、無理しすぎないでねっ!」

「はいはい」

「いつまでも、そばにいてよねっ!あっ、今の小町的にポイント高い!」

普段のように冗談めかして言ったが、それはきっと彼女の本心だったのだろう。

玄関のドアを開くと、そこには由比ヶ浜がいた。

「やっはろー!」

「お兄ちゃん、何か言ってみてよ!」

「ワンっ!(働いたら負けだ!)」

精度高すぎだろ……。

「うん、間違ってるのはお兄ちゃんの方だね」

「とにかく、遊んでほしいみたいだな。……散歩にでも連れてってやれば?」

「じゃぁお兄ちゃんも一緒にいこ!決定!」

「えー、俺読みたい本あるんだけど……」

小町が可愛い顔をして首をかしげる。

「はいはい、わかりましたよ。お兄ちゃんも行きますよ」

「わーい!」

すでに空は赤くなり、月がうっすらとその姿を見せている。

昼間タップリと日を浴びて、水も十分に吸収した稲をかき分けるように風がピュウっと吹く。

「いやー、お兄ちゃんと散歩するなんて久しぶりですなー」

「そうだなー」

確かに二人で、目的もなくぶらぶら歩くのはご無沙汰かもしれない。

「お帰りって言ってくれる人がいるのって嬉しいよね」

「ま、基本的にはな。例外もあるけど」

「うわー、面倒臭いなー」

小町は、でも、と言って続けた。

「そんなめんどくさいお兄ちゃんでも、いてくれると嬉しいよ」

その言葉を聞いて、俺はふと小町が小学生時代に家出をしたことを思い出す。

家に帰って誰もいないのはさびしいと、幼い小町は大泣きしたものだった。

それ以来俺は、学校が終わるとすぐに帰宅するようになった。もともと友達がいなかったとい

うのが大きな理由だが。

「別にお前の為じゃないさ。ついでだ、ついで」

「それでもね、いいんだよ」

「そうか」

「……お兄ちゃん、小町に隠し事してるでしょ?」

「お前はアホか。秘密が一つもない人間なんていねぇんだよ」

「んー、そりゃそうだけどね。……言いたくないなら、いいけどさ。でも、一つだけ」

「なんだよ」

「無理、しないでね。お兄ちゃん昔から、冷たい振りしてすぐ困った人助けちゃうんだから。

自分を犠牲にして、さ」

「覚えがないな……」

「もう、捻デレさんなんだから!」

「少なくともデレてはいないと思うが……」

「本当、無理しすぎないでねっ!」

「はいはい」

「いつまでも、そばにいてよねっ!あっ、今の小町的にポイント高い!」

普段のように冗談めかして言ったが、それはきっと彼女の本心だったのだろう。

玄関のドアを開くと、そこには由比ヶ浜がいた。

「やっはろー!」

「よう」

「はい、これお土産」

がさりと紙袋を渡された。

「地域限定なんだよ!」

にこにこと笑って、本当に楽しそうな様子だ。

「おう、ありがと」

中身を確認すると、彼女の言う通りご当地お菓子だった。旅行先を示しながらも、苦手な人が

少ないであろう無難なチョイスだ。

「悪いな、気使わせちゃったみたいで」

「ううん、サブレの面倒みてもらったお礼だから!あ、それでサブレは?」

「元気にしてるよ。おーい、小町ー!」

俺が呼ぶとサブレを腕に抱えた小町が走ってくる。

「小町ちゃん、ありがとね」

「いえいえ」

「迷惑かけてなかった?」

「全然大丈夫ですよー。イヌリンガルとかで遊べましたし楽しかったです!」

「イヌリンガル?懐かしいー」

「今アプリで出てんだよ」

実際に起動して由比ヶ浜に見せてみる。

「サブレー、お姉ちゃんですよー。ただいまー」

「ワフ?(誰?)」

「ひどいよ!三日しか離れてないのに!」

「んじゃ、またな」

そんなにかかわったわけでもないが、いざ別れるとなると胸にくるものがある。

「結衣さん、また遊びに来てくださいね~」

「うん、絶対行くよ!そうだ小町ちゃん、ほしいものとかない?今回のお礼に」

「お礼ですか?そんなの気にしなくても……。はっ!小町、明日のお祭りのお菓子とかほしい

です!」

「お祭り?いいね、一緒に行こっか!」

「あ、あー……。そうしたい気持ちはやまやまなんですけど、小町これでも受験生なんですよ

……。だから、買ってきていただけませんか?」

「うん、わかった!」

「あっ、でも、結衣さんみたいな女性が一人で行くのは危ないですよね……。どこかに予定の

空いている男性がいないものか……」

言って小町は、ちらりと俺の方を見る。おいおいマジか。

「行こうよヒッキー!ヒッキーもいつも小町ちゃんのお世話になってるんだし!」

そうだな、俺も小町の世話に……あれ?これといって世話になってないぞ?

「えー……」

「いいじゃんお兄ちゃん、お願い」

「へいへい、行けばいいんだろう。わかったよ」

「やった!じゃぁ後でメールするね!」

その日、ライダーバトルを根底から揺るがす事件に会うなどと、俺には到底予想できなかった。

俺と由比ヶ浜は寿司詰め状態の電車を乗り継いで、祭りの会場にやってきた。

由比ヶ浜に小町に頼まれた「ほしい物リスト」のことをすっかり忘れて、無邪気にはしゃいで

いる。

本当、子供だよなこいつ……。

ちなみに欲しいものリストは、

『焼きそば、ラムネ、わたあめ、タコ焼き、りんご飴、etc……花火を結衣さんと見た思い

で』

だそうだ。ちなみにこの代金は全額俺持ちらしいんだけどどういうことなの?

つーか最後のなんだよ……。

ドヤ顔で妹が書いたシーンを思うと、兄として恥ずかしくなる。

ほんとに余計なことばっかしやがって。

どんなに鈍感なラノベの主人公でもここまでやられればわかるだろう。

つーか俺は鈍感じゃない。どころか敏感まである。

世の男子の大半は女子に対して、「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」という妄想とともに生き

ているのだ。

だからこそ、その想いを戒めないといけない。

常に冷静に、「そんなわけないだろ」とたしなめる必要がある。

そうしなければ、後から傷つくのは火を見るより明らかだ。

「とりあえず順番に買っていくか……」

「ヒッキー、りんご飴食べようよ!」

「えー、これ以上出費増やしたくないんだけど」

「もう、けちけちしないの!」

由比ヶ浜に押されるまま、俺も飴を購入する。

ついでに由比ヶ浜の分の代金も払う。

「あ、いいよ。そんなつもりで言ったんじゃないし」

「気にすんな。買い物に付き合ってもらってるお礼だ」

ま、このくらいはな。

「……ありがとう」

顔を少し赤らめて由比ヶ浜が礼を言う。

三百円でこの笑顔が見られたならば、十分おつりがくるだろう。

「えっと、次は焼きそばだね」

後ろを振り向いたとき、こちらを見ている人に気付いた。

そいつはこちらに手を振って近づいてくる。

「あ、ゆいちゃんだー!」

「おーい、さがみーん!」

見たことねぇ奴だな……。

そう思ったのは相手も同じらしく、由比ヶ浜に視線で説明を求めてくる。

「この人は、同じクラスの比企谷君。で、こっちが同じクラスの相模南ちゃん」

へぇ、同じクラスの人だったのか。

軽く会釈をする。

その時、気がついた。

一瞬だが、俺と目があった時に彼女は嫌らしい笑みを浮かべたのだ。

「そうなんだー!一緒にきてるんだねー。いいなー、うらやましいなー」

「あはは、違うよー。全然そんなんじゃないよ~」

……しくじったな。

先ほどの相模の汚い笑みは紛れもない嘲笑だ。

こいつは、「由比ヶ浜結衣の連れている男」をみて笑ったのだ。
よく知らない人間を判断する際の判断材料は何か。

社会人にとってそれは、収入であったり実績だったりするのだろう。

そして、学生にとってそれは、『所属するカースト』だ。

由比ヶ浜は誰にでも隔てなく接するから忘れがちだが、彼女の所属カーストは最高位のものだ。

たとえば雪ノ下雪乃であれば、どのようなカーストにも属していないが、彼女を笑うことがで

きる者はいないだろう。

その容姿、能力、財力がカーストを叩き伏せられるレベルにまで達しているからだ。

だが、この俺比企谷八幡は……。

当然彼女のようにはいかない。他者にとって俺は、『最底辺のカースト』に所属する中の一人で

しかない。

そして今のこの状況は、淑女たちの社交場のようなものだ。

連れている男子というのは、バッグや身につけている物以上に大きなステイタスとなる。

たとえば彼女が連れているのが葉山隼人であれば状況は全く違っただろう。

それこそヒーローインタビュー並みである。

だが俺なら、軍法会議で欠席裁判レベルだ。

俺はいくら笑われてもいい。こんなやつらにどう思われようと痛みも何もないから。

だが、そのせいで由比ヶ浜結衣が嫌な思いをするのは避けたい。

「焼きそば、並んでるみたいだから先行くな」

「あ、あたしも行くよ。じゃぁね、さがみん」

「うん、ばいばーい」

最後にもう一度クスリと笑ったのを俺は見逃さなかった。

「よかったのか?着いてきて。話すことあったんじゃねぇの?」

「ううん、別に。……ちょっと、苦手だし」

由比ヶ浜がこんなことを言うのを俺は初めて聞いた。

よほど苦手ということなのだろう。そんな相手ともうまくやっている彼女には素直に感心して

しまう。

「そんなことより、もうすぐ花火だよ!楽しみだね!」

屋台の連なっている道から続くメイン会場はすでに人であふれかえっていた。

座る場所も身の置き場もない。

俺一人ならどうとでもなるが、連れがいるとなると話は別だ。

「いやー、混んでるねぇ」

たはは、と彼女は笑う。

「こんなに混むならビニールシートでも持ってくりゃよかったな」

「ヒッキーって、気、使えるんだ」

驚いたように由比ヶ浜が言う。

「はぁ?失礼なやっちゃな。気ぃ使ってるから迷惑かけないように隅っこにいるんだろうが」

「そういうことじゃなくてさ……。その、何というか、優しい?じゃん」

「よく気づいたな。そうそう、俺は超優しいんだよ。今までいろいろ嫌なことがあったが、誰

一人何一つ復讐せずに見逃してきてやってるからな。俺が並の人間だったら毎日ドラグレッダ

ーが暴れまわってるまである」

冗談のつもりだったが、そんなことをしている奴がかつていてので、いささか不謹慎だったか

もしれない。

しかし彼女はそれを気にしているふうもない。

「ま、なんでもいいや。あっちすいてるから行ってみようぜ」

しばらく歩き、俺は立ち止まる。

「どったの?」

「すいてんのはいいけどよ、ここ有料エリアだ」

虎模様のロープが張られ、明らかに区切られている。

バイトの警備員が見回っており、とどまっていたら追い払われるだろう。

少しだけ離れてみることもできるが、エリア内は小高い丘となっており、とても見晴らしがよ

さそうだ。

「お祭りなんだから、こんなことしないでみんなで楽しめばいいのに……」

由比ヶ浜が不満交じりの声を上げる。

確かにそうだ。それは正しい。だが、金持ちや権力者というのは常に自分の力を誇示したがる

ものだし、こういう場ではそんな思いも強くなるのだろう。

絶対に間違っているが、この世界を牛耳っているのはそんな奴らなのだから仕方ない。

「留美が壊したかったのは、こんな世界だったのかもな……」

「ん?なにかいった?」

「いや、別に。もう少し探してみるか」

由比ヶ浜を促して歩き始めると、

「あ、比企谷君だー!」

俺が一番合いたくない相手、雪ノ下陽乃に声をかけられた。

「由比ヶ浜、行くぞ」

彼女の手を取って再び歩き出す。

普段の俺ならとてもできないことだが、この時はそんなことを考える余裕もなかった。

「え?で、でも……」

「いいから」

「もう、まってよー」

唐突に雪ノ下陽乃が、俺達に二枚のカードを投げてきた。

見間違いようもない、ライダーバトルに置いて使用されるカードだ。

「え?なんでこれを陽乃さんが……?」

「……っ」

「もー、そんなに邪険にしないでよー。少し話そうよ、ね?」

結局俺は観念するしかなく、彼女に連れられて有料エリア内の丘の上に上がった。

周囲に人はいない。

「父親の名代でね。挨拶ばっかりで疲れてたんだー。比企谷君達が来てくれてよかったー」

「そ、そうなんですか……」

由比ヶ浜はこんな時も律儀に挨拶をする。

「で、何の用ですか?まさか世間話をするために俺達を呼んだわけじゃないだろう」

「ひどいよ比企谷君、用が無いと呼んじゃいけないの?」

「当然だ。あんたみたいな人とは一秒たりとも話したくない」

「ひ、ヒッキー。そんな言い方ひどいよ」

「で、何なんだこのカードは」

由比ヶ浜の言葉には答えず質問する。二枚のカードには一枚ずつ翼が描かれており、それぞれ

対になっている。

絵柄の上には、『Survive』と書かれている。

「んー、雪乃ちゃんからの預かり物?」

「ふざけるな」

「雪乃ちゃんと仲良くしてくれてるお礼かな」

「……なんであんたがこのカードを持ってる」

「フフ、内緒」

「なにが、目的だ」

「それも内緒」

俺が彼女を睨むと、彼女はへらへらと笑って続けた。

「ガハマちゃーん、比企谷君が怖いよー」

「……」

由比ヶ浜も何も答えず、ただ陽乃を見つめる。

「もー、二人して怖いなー。しょうがない、教えちゃおっかな……」

言葉を告げる前に、彼女はわざとらしいため息をついてみせた。

「二人は、ライダーバトルの邪魔をしてるでしょ?」

「当然だ、殺し合いなんて続けさせてたまるか」

「だ・か・ら、お姉さんからのプレゼント。このサバイブカードを使えば、すっごく強くなれ

るんだよ。このカードがあれば、ライダーバトルに勝ち残れるよ?」

「そんなつもりはないと言ってるだろうが」

「どんな願いもだよ?ま、少しでも戦ってくれるようにっていう配慮かな。それが理由」

言って彼女は再び笑った。

「……陽乃さん」

それまでひたすら沈黙していた由比ヶ浜が口を開いた。

「あたしは、たとえどんな力を手に入れても、絶対にライダーバトルを止めますから」

「フフっ、おもしろいなー二人とも。流石雪乃ちゃんのお友達だよ。でも、そんなことも言っ

てられなくなるかな」

「どういうことだ?」

俺の質問には答えず、彼女は手にしていたペットボトルの水を地面にこぼした。

「何のつもりだ?」

「まぁまぁ、見てみてよ」

言われたとおり、たった今できた水たまりを眺める。

するとそこに、一人の人物が映った。

「え?」

それは、意外な人物だった。いや、人物、といういい方は少し語弊があるかもしれない。

それは、変身後のライダーだった。

「お、俺……?」

その姿は、俺が変身するライダー龍騎に瓜二つだった。シルエットなどは全く同じで、体の色

が少し違う。俺のメインカラーは赤だが、そいつの色は真っ黒で、目だけがあやしく赤く光っ

ていた。

「そう、彼は最凶のライダー、仮面ライダー、リュウガ」

「リュウガ……」

「面白いことはまだあるよ?リュウガー」

「ハァァッ!」

陽乃の声を聞いて、リュウガは咆哮した。

すると彼の変身が解けて、

「そ、そんな……」

彼の姿は、俺と寸分たがわぬものだった。

「なんで、俺が……」

「少しだけ、違うかな。彼はね、中学時代のあなただよ。周囲に虐げられ続けて、世界を憎む

ようになった、あなた」

「これ、なんなんですか!」

「熱くならないでよガハマちゃーん。今言ったじゃない、それは二年前の比企谷君だよ。比企

谷君が今のように世界を許容せず、壊したいと願った、もう一つの、鏡の世界の比企谷君だよ」

「……」

「じゃ、そういうことだから。きっと彼が、ライダーバトルをもっと面白くしてくれるよ。じ

ゃぁね、ばいばーい」

来る時と同様一方的に、雪ノ下陽乃は去って行った。

後には、大きな戸惑いだけが残った。

悪魔が去った後も、俺達はしばらく何も言うことができなかった。

花火大会が終わったころに、由比ヶ浜が口を開いた。

「……そろそろ、帰ろっか」

「ああ、そうだな」

帰りの電車は満席で、立ってるだけでも辛い。

「それで、その……あ」

由比ヶ浜が何か言おうとしたときに、彼女が降りる駅についた。

俺も黙って下車する。

「降りて……、よかったの?」

「あんないいかたされたら降りるしかないだろうが。なに?わざと?」

「わ、わざとじゃないしっ!」

少し間をおいて、彼女は再び俺に話しかける。

「……これから、どうなるのかな?」

「さぁ、どうだろうな」

「このカードのことも、リュウガ、のことも……」

「最凶のライダーか、随分な役目に抜擢されたもんだな。俺の分身とやらは」

「で、でもあれは、ヒッキーじゃないよ」

「わかってるつもりだ」

「そ、それならいいんだけど」

「で、そのサバイブとかいうカードは、まぁ、なるべく使わないようにすればいいんじゃない
か」

「そ、そだね」

またも沈黙が場を支配する。それを破ったのは、やはり由比ヶ浜だった。

「陽乃さんって、何者なんだろう……」

「ライダーバトルにかかわってるのは、間違いないけどな。ライダーなのか、それとも……」

「それとも?」

「もっと上位の存在か、だ」

「どういうこと?」

「一ライダーなら、俺達にこのカードを渡したりしないだろ。……これは俺の単なる推測だが
な、俺は、雪ノ下陽乃が、ライダーバトルを始めた者だと考えている」

「ライダーバトルを、始めた……」

「あくまで予想だ。それに、考えてどうにかなることでもない」

「それは、そうだけど……」

「とにかくだ、俺達がやるべきことは変わんねぇよ」

「そう、だね。……ゆきのんは、しってるのかな」

「知らないだろうし、知らせる必要もないだろ」

「知らないままで、いいのかな……」

「知らないことは、悪いことじゃない。知ってることが増えるだけで、面倒事も一気に増える」

「……そっか。ねぇ、ヒッキー」

「なんだ?」

「ゆきのんが困ってたら、助けてあげてね?」

真剣なまなざしで彼女は俺を見つめる。

「いや、それはないだろ」

彼女が助けを求めることも、俺が自ら踏みこむことも。

「それでも、きっとヒッキーは助けるよ」

「何の根拠があってそんなことを」

「だって、あたしのことも助けてくれたじゃん」

「あれはただの偶然だ。救える命があるなら、誰だって手を伸ばすだろ」

「自分が危険な目に会ってまでは、なかなかできないよ。だからきっと、ヒッキーはゆきのん
を助けるよ」

「俺にそういうの、期待すんな」

失望させるくらいなら、希望を持たせない。それもきっと、相手を思う一つの形のはずだ。

「事故がなくても、ライダーバトルがなくても、ヒッキーはきっとあたしを助けてくれたよ」

「いや、そんなの助けようがないだろ」

人生にもしもはない。

たらればに価値がないのは、カードゲームの世界だけじゃない。

「ううん、そんなことないよ。だってヒッキー言ったじゃん、事故がなくても一人だったって。

あたしもこんな性格だからさ、いつか限界が来て、奉仕部に行ったと思うの。そしてね、三人

で友達になるの」

少しうるんだ彼女の瞳は、とても美しくて、俺は言葉を失った。

「それで、あたしはきっと……」

その時、由比ヶ浜の携帯が鳴った。

「そして……」

「電話、いいのか?」

「あっ、うん。……もしもし、ママ?あっ、うん、もう着いたよ。すぐ、帰るね」

電話を切って、彼女は俺に別れのあいさつを告げる。

「それじゃ、またね。送ってくれてありがと」

「おう、じゃぁな」

これからどうなるかなんて、さっぱりわからない。

だけど俺はきっと、自分の信念を貫かなければならない。

それがきっと、俺と彼女達をつなぐ絆なのだから。

「こんなのはどうかなっ!?」

珍しく大きな声でクラスのみんなに語りかけているのは、三浦グループの構成員海老名さんだ。

季節は秋。今は、文化祭で行うクラスの出し物を決めている。

そして彼女が提案しているのは、ミュージカル『星の王子様』。

しかし、問題はその内容だ。

台本のあらゆる場面にホモホモしい描写がなされている。

彼女の腐女子っぷりがいかんなく発揮されている。

……こんなもんやれるわけねェだろ。

他のみんなからも戸惑いの声が上がっている。

「いや、俺はいいと思うぜ!」

戸部……。お前ってやつは……。

恋する男子のちょろさは異常。

「こういうのの方がおもしれぇじゃん!普通に劇やるより受けるって!」

その甲斐あり、クラスメイト達も考える姿勢に入る。

こうした文化祭での出し物の状態は、「ウケる」ことと「他とは違う」ということだ。

この脚本では二つの条件が十分に満たされている。

「とりあえず、笑いの要素を強めていくっていう方針でいいかな?」

葉山が意思確認を行うと、誰からも反対の声は上がらない。

「じゃ、決定ってことで」

ロングホームルームの時間をすべて費やし、クラスの方向性が決まった。

文化祭まであと一カ月近く。

憂鬱な気分で俺は席を立った。

何だ、これ……。

休み時間になり教室に戻り、俺は驚嘆した。

なんと、文化祭実行委員会の名に比企谷と書かれていたのだ。

事の発端は、ロングホームルームの時間の前に頭痛がしたので、保健室に行ったことが原因だ

った。

なんと、俺がいない間に最も面倒臭い仕事を押し付けられていたのだ。

仲のいい連中同士でするのはまだいい。

でもこれを、ぼっちにやったら終わりだ。

戦争だろうがっ……!ノーカウントっ……!ノーカウントっ……!

きっと誰かが言いだして、『ざわざわ』ともせずにすんなり決まったのだろう。

黒板の前で立ち尽くしていると、肩をたたかれた。

「説明が必要か?」

振り向くまでもなく声でわかる。

俺の大嫌いな教師ランキング堂々の第一位、平塚静だ。

「もう次の授業だというのにまだ決まっていなかったからな、比企谷にしておいたぞ?」

「こっちの世界ではちゃんと教師やるんじゃなかったのかよ……。思いっきりあっちの世界の

確執を持ってきてんじゃねぇか」

「おいおい、言いがかりはよしてくれよ?これは一教師として君を信用しているからこそだよ」

「あんたなんかに信用されてもこれっぽちもうれしかねぇンだよ」

「そういうな、ほら、座りたまえ。これは決定事項だ」

彼女は汚い笑みを浮かべているが、引くつもりはないらしい。

放課後の教室は紛糾していた。

文化祭の係を決めるのだ。

男子の委員がなかなか決まらず、結局あの極悪ライダー教師のせいで俺に決まった。

というわけで、女子の委員も決めねばならない。

「えー、じゃぁ女子の委員やりたい人、挙手してください」

言われたところで誰も反応しない。視界の男子は諦めたような溜息をつく。

「このままだと、じゃんけんに……」

「はぁ?」

言いかけた彼の言葉を、三浦優美子が無理矢理遮る。

何こいつ、モンスター出してないのに迫力ありすぎだろ。何ならモンスターより怖いまである。

「……それって大変なの?」

ひるんだ視界に、由比ヶ浜が優しく尋ねる。

「普通にやればそんなに大変じゃないけど……、女子は結果的に大変になっちゃうかもしれな

い」

何こいつ、失礼すぎじゃない?

「ふーん……」

「正直、由比ヶ浜さんがやってくれると助かるな。人望あるし、クラスをちゃんとまとめてく

れると思うし、適任だと思うんだけど」

「いや、あたしは別に……」

「えー、結衣ちゃんやるんだー」

耳につく声でそう言ったのは相模南だ。

「そういうのいいよねー、仲いい同士でイベントとか面白そー」

「はぁ?」

先ほど司会に向けられたのと同じ迫力満点の声が再び。

「結衣はあーしと呼びこみやるから無理っしょ」

堂々と、それが確定事項であるかのように三浦は言い放つ。

その言葉に、相模は笑いながら迎合する。

「そーだよね、呼び込みも大事だよねー」

「え!?あたしが呼び込みやるの決まってるんだ!?」

「え?一緒にやんないの……?あーしの早とちり?」

この世界での三浦は俺と雪ノ下に対する敵意は変わらないものの、由比ヶ浜に対しては友人と

して接している。

正直何とも言えないのだが、ライダーバトルを最終的に止めたい俺としては、止めることもで

きない。

「あ、ううん。一緒にやろっか」

その後また空間に沈黙が流れる。

「つまり、こういうことでいいのかな」

それまで黙っていた葉山がたちあがる。

「リーダーシップを発揮してくれそうな人にお願いしたいってことだよね?」

いや、そんなの誰でもわかってんだろ……。

しかしそう思ったのは俺だけなのか、周囲の人間は葉山の言葉に熱心に聞き入っている。

どんなことを言ったのかではなく、誰が言ったのかが問題なのだ。この理不尽な世界は。

「んー、じゃぁ、相模さんとかいいんじゃね?」

「いいかもな。相模さんなら、ちゃんとやってくれるだろうし」

戸部が言うと、葉山もそれに賛同の意を示す。

クラスの王葉山の発言により、教室内は一気に相模ムードに染まる。

こいつらマジか……。こんなのに任せたら失敗するのは火を見るより明らかだろう。

そしてこの葉山、それがわからないほど愚かではない。

おそらく、意図的にこの状況を作り出している。

別に文化祭が失敗しようと俺にとってはどうでもいい。

だが、今俺は実行委員になってしまった。

彼女の尻拭いをするのは、俺だ。

……それが理由か?葉山。

「えぇ?うちぃ?ぜーっ対無理やってぇ」

しかしその声は本気でいやがるものではない。

女子がいやがる時というのは、もっと静かな声をだすものなのだ。

あれを言われると死にたくなるからなぁ……。

「相模さん、そこを何とかお願いできないかなぁ?」

「……まぁほかにやる人いないなら仕方ないけどー。でも、うちかー」

聞えよがしにぶつぶつつぶやくその声が、果てしなく癪に障る。

「じゃぁ、うちやるよー」

その声を合図に、皆銘々に教室を後にした。

そして、早速今日から実行委員会が始まる。

会議室に入ると、すでに半分ほどが集まっていた。

その中には相模の姿もある。

もともと友達だったのか、それともこの場で意気投合したのかは定かではないが、三人ほどで

集まって話している。

人が増えるたびに、ざわめきの声は大きくなっていく。

だが、次に入ってきた人物の時はまるで違った。

圧倒的な静寂の中、雪ノ下雪乃は音も立てずに歩く。

誰もが声をひそめてその様子を見つめていた。

見慣れているはずのおれでさえ視界を奪われる。それは彼女の美しさのせいだろうか、それと

もこの場所に彼女が現れたという意外さからだろうか。

時計の針がさらに進み、開始時刻が近くなると、数人の生徒と二人の教師が入ってきた。

二人のうちの一人は平塚だ。

目が合うと、彼女はにこりとほほ笑んだ。

ふざけやがって……。

そして最後に、一人の女性とが入室して来て、前方の席の中心に行き、すっと息を吸ってから

声を出した。

「それでは、文化祭実行委員会を始めまーす」

なんだかほんわかした雰囲気の人。それが彼女に抱いた第一印象だった。だが、その下に何か

隠している気がするのは、少し前に雪ノ下陽乃とあったからだろうか。

「生徒会長の城廻めぐりです。え、えっと……、みんなでがんばろー!おーっ!」

彼女の最後のやっつけとも取れる挨拶を聞くと、皆は一斉に拍手をする。

当然俺はそれに参加しなかったが。

その拍手が鎮まると、彼女は再び話しだす。

「知ってる人も多いと思うけど、例年、文化祭実行委員長は二年生がやることになってます」

そりゃそうだろうな。三年の秋にこんなことやってるとしたらそいつはよほど余裕のあるやつ

かただのアホだ。

「それじゃぁ、誰か立候補者はいますかー?」

とは言うが、誰も手を上げる者はいない。

当然だ、皆やる気があったとしても、それを発揮したい場はここではない。

できればクラスや部活で、といったところだろう。

「おいおいみんな、どうしたんだよ。こういうことはやってみた方がいいって。失敗なんか恐

れなくていいんだよ。明日のパンツさえあればどうにだってなるんだから!ね、アンク?」

女子の前で平気でパンツとか言い出したのは、社会教師の火野映司だ。若くて男前なのだが、

突然『アンク』とか言い出して、何もない空間に話しかけたりするちょっと変わった人だ。

「火野先生、女子生徒の前でパンツパンツと連呼するのはやめた方がいいと思うのですが」

「あっ、ごめんね?セクハラとかそういうつもりはないんだけどさ……。死んだおじいちゃん

がよく言ってたんだ、男はいつ死ぬか分からないから、パンツだけは一張羅をはいとけって」

よ、よくわからない……。

「そ、そうですか……。変わった方だったようですね」

雪ノ下の頬が珍しくひきつっている。

「せっかくだからやってみない?……手が届くのに、手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔す

る。それが嫌だから、手を伸ばすんだ」

「よく、おっしゃることが分からないのですが……」

「俺、教師になる前、いろいろ世界を回ったんだけどさ。

貧しい国に募金してたつもりが、悪い人に使われてたり、ひどい時は内戦の資金になってたり

する。

だから、人が助けていいのは、自分の手が伸びる範囲までだって、そう思うんだ。……だから、

君のできる範囲でできることがあるんなら、きっとやってみた方がいいと思うんだ」

「どうかな、雪ノ下さん?」

城廻が火野先生の言葉を遮るようにして雪ノ下に話しかける。

「実行委員として善処します」

一刀両断!火野先生結構頑張って説得してたのに……。

ちょっと涙目になってるじゃねぇかよ。

あっ、また『アンク』とか言ってるし。

彼女に拒否されて困ったのは城廻だ。

「うーん……、えっと、そうだ!委員長やると結構お得だよ?ほら、内甲とか、推薦書とか…

…」

そんなこと言われてやるやつなんているわけねェだろ……。

「えーっと……。どう?」

皆の方を見まわした城廻の視線が、雪ノ下の前でとまる。

雪ノ下の眉根がピクリと動いた。

どうやら不機嫌になっているようだ。

そりゃそうだ、大嫌いな姉に重ねて見られているのだから。

「あの……」

と、その時小さな声が室内に響いた。

「みんながやらないんなら、うち、やってもいいですけど」

その声の主は、相模南だ。

申し出を聞いた城廻はうれしそうに手をたたいた。

「本当?嬉しいな!じゃぁ、早速自己紹介してくれる?」

「二年F組の相模南です。こういうの、少し興味あって……。うちもこの文化祭通して成長し

たいっていうか……、その、前に出るのもあんまり得意じゃないんですけど、そういうとこも

変えていけたらなーって……スキルアップのチャンスだと思って頑張ります!」

……なんでこっちがお前みたいなやつの成長に協力しなきゃいけないんだよ。

だが、他の連中は城廻にしたように歓迎の拍手を送っている。

その中で手を叩いていなかったのは、俺と雪ノ下だけだった。

「さ、じゃぁ後は残りの役割を決めます。五分ぐらいしたら希望をとるので、議事録の説明を

見てください」

ざっと目を通す。この中で一番楽そうな仕事は何だろうか。楽をするためならどんな努力も惜

しまない!

宣伝広報、食品衛生、会計監査……おっ、これはっ!

記録雑務の四文字が俺の目にとまった。当日写真撮ったりするくらいでいいらしい。どうせ当

日の予定もないので暇つぶしにちょうどいい。

俺が希望する係を決めるとほぼ同時、またしても耳障りな声が聞こえてくる。

「ノリで実行委員長になっちゃったー、どうしよー」

「だいじょぶだよー、さがみンならできるよー」

「そうかなー、できるかなー。ていうか打ち、さっきめっちゃ恥ずかしいこと言ってなかった?」

「そんなことないって、よかったよー。ね?」

「うんうん、よかったよかった」

ああ、素晴らしい友情だ。

「うかない顔だね、比企谷君、だったっけ」

「どうも……」

俺に話しかけてきたのは火野先生だ。

「彼女達のことかな?」

「……ええ、まぁ。なんか、嘘くさいですよね」

こんなことを言ったことに自分が一番驚いている。俺はそういうことは思っても、決して他人

に言ったりはしないのに。

この人には、そうさせる何かがある。だが、雪ノ下陽乃や平塚静、葉山隼人のような気味の悪

さはない。

裏表を一切感じない、信頼できるような語り口と表情だ。

いい人なんだな、と直感する。

「誰かと仲良くしたいっていうのも、欲望だからね……」

「欲望?」

「うん、欲望。人は、欲望をかなえるために生きる」

彼の言葉にはとても実感がこもっていて、すんなりと胸の中に入ってきた。

「だけど、欲望に支配されちゃいけない」

「……」

「まぁ、それってすごく難しいことなんだけどね。欲望っていうのは、目標と同じようなもの

だから。俺は一時期欲望が何もない時期があってさ。その時の人生は、乾いてた気がするんだ。

今日を明日にするのだって欲望だから。

だからそれと、うまく向き合っていかなきゃいけないんだよな……」

「……先生の今の欲望は何ですか?」

俺がそう言うと、火野先生は黙ってポケットから一枚のメダルを取り出した。

中心にひびが入って二つに割れてしまっている赤いメダルだ。

鳥の絵が描かれている。

「これをもとに戻すことが、今の俺の目標かな」

「……大事な、物なんですね」

「ああ。とてもとても、大切なものだ」

最後にもう一度メダルを見つめて、再びポケットの中にしまう。

「……っと、そろそろ行かないとな。それじゃ比企谷君も頑張ってね。期待してるよ」

「どうも」

そう言い残し、火野先生は前に戻って行った。

何故だろう、ただの社交辞令のはずなのに、この人に言われると本当にそう思ってくれている

と実感できる。

「そろそろいいかなー?」

城廻の声はなぜか聞き取りやすい。大きくはないが、皆がそちらに自然と注意をひきつけられ

るような、そんな声だ。

「みんななんとなく決めたかな?それじゃ、相模さんここからはよろしくね?」

「えと、うちですか?」

「うん、ここからは委員長の仕事だと思うし」

「は、はい……」

生徒会の一段に紛れるようにして、相模が着席した。

「それじゃぁ、決めていきます……」

消え入りそうなその声は、先ほどまで騒いでいた彼女と同じ人物の物とは思えないほどだった。

そんな声も、静寂の中ではちゃんと聞こえる。

だがこの静かさは、安定感のある物でもなければ、彼女を歓迎してのものでもない。

異物を糾弾する冷酷な静かさだ。

「じゃぁまずは、……有志統制」

有志のバンドなどは文化祭の花形なので、かなりの数の手が上がった。

「え、えっと……」

「多い!多いよ!はい、じゃんけんじゃんけん!」

戸惑う相模に、すかさず城廻がフォローに入る。

ほんわかとした空気の中でじゃんけんが行われた。

よくわからない彼女独自のノリであるが、次々に場をさばいていく。

一年間の生徒会長としての経験か、それとも生まれ持った天性か。

終始そんな調子で役割が決まっていく。

ちなみに俺は、きちんと記録雑務に収まっていた。

この係、俺に似たような奴ばかりが集まった、積極性の墓場とも呼べる体をなしている。

各担当に分かれての顔合わせなんてもう見ていられない。

「えっと、どうします?」

「自己紹介、いりますかね?」

「一応、やりましょうか」

「そうですね」

「じゃぁ、私から……」

なんだよこれ。今すぐ帰りたいわ。

当然のように、雪ノ下雪乃もそこにいた。

自己紹介が終わると、担当部の部長を決めるじゃんけんが始まった。

負けた人がやる、という先ほどとはまるで意味合いが違う勝負。

しかもここの三年生がひどく、平気で一年生にもじゃんけんをさせていた。

何度かあいこが続いたのち、三年生に決まり、即時解散。

教室を出る前に、ふと隅を見ると、落ち込んだ様子の相模南がいた。

実行委員長としての仕事がうまくいかなかったことを気にしているのだろうか。

その傍らにはつるんでいるお友達(笑)二人もいる。

そしてそんな彼女のもとに火野先生がやってきて、

「大丈夫、明日のパンツさえあればね」

と、すっかりお決まりになったセリフを言っていたが、彼の言葉が彼女を救うことはないだろ

う……。

不憫だ……。

そんな光景をしり目に、俺はすたすたと家路についた。

文化祭まで一カ月を切った教室内は忙しい。

只今我がF組では、ミュージカルのキャスト決定が行われていた。

が、当然海老名さんの台本を見た後ではやりたがろうとする者はいない。

「えっと、この間の説明は気にしなくていいからな?そういう描写をあからさまにやったりは

しない」

葉山が取りつくろうものの、状況は変わらない。

「しょうがないなあ、ぐ腐腐腐腐……」

海老名さんが腐敵な笑みを浮かべ、黒板に勝手に名前を書いていく。

なんという職権乱用!

「いやだぁ!」「地理学者だけは勘弁してくれ!」「そんな、なんで俺が阿部さんをっ!」

……星の王子様に阿部さん出てないですよね?

そしてついに、メインキャストの発表である。

王子様:葉山隼人

彼の笑顔が固まっていた。

女子たちからは色めきだった声がわきあがる。

まぁ、集客に葉山の人気を利用するというのはいい手だろう。

そして問題は、もう一人の主人公だ。

ぼく:比企谷八幡

「え?なんだって?」

思わず某難聴系のセリフを口にだしてしまった。

ちなみに彼のモデルは佐村河内らしい。

「え?なんだってじゃねーよバカ」

海老名さんが発明変態少女のように帰す。

「つーか俺、文実だから」

「そ、そうだな。ヒキタニくんには文実やってもらってるし、稽古とかは出られないだろ」

ナイスフォローだ葉山、初めて役に立ったな!

「そっか……残念」

「だから他のキャストももう一回考えた方がいいと思うんだ……特に王子様とか」

それが目的か。

海老名さんは葉山の言葉を聞き終わらないうちに、黒板の文字を消して書き直した。

王子様:戸塚

ぼく:葉山

と、戸塚だとっ!?

「俺は結局出なきゃいけないんだな……」

戸塚が出るなら俺もやりたかったっ……!

俺は盛り上がるクラスのみんなをしり目に教室を去る。

「ヒッキー、部室行くの?」

由比ヶ浜に声をかけられ、少し歩調を緩めて答えた。

「ああ、委員会までまだ時間あるし、これからしばらく部活出られなさそうだからな」

「そっか、そだね……。じゃぁ、あたしも行くよ」

「仕事、いいのか?」

「忙しくなるのは、実際に動き出してからだと思うから」

そうか、と短く答え、部室までの廊下を歩いた。

「やっはろー!」

扉を開けると同時、もうすっかりおなじみになった挨拶を由比ヶ浜がすると、雪ノ下は静かに

こんにちはと返す。

これも見慣れた光景だ。

「おう」

俺もいつも通りの返事をする。

「そういや、お前も文実なんだな」

「え?そうなの?」

「ええ……」

「ならあたしもやればよかったなー」

由比ヶ浜の何気ないつぶやきに、雪ノ下は少しだけ顔を赤くする。

何あれ、あんな表情僕向けられたことないよ?どういうことなの?

ゆるゆりなの?

コホン、と一息ついて雪ノ下は言葉を紡ぐ。

「私としては、あなたがいることの方が驚きだったけどね」

「あ、だよねー。超似合わない」

「俺は完全に強制だったんだよ。……あのクソ平塚」

「あの人、普通の生活でもライダーバトルのことを持ちこむのね……」

「奉仕部の顧問として、だとよ」

「まともにその責を果たしたことはないというのにね。義務は果たさず権利ばかりを主張する、

聞いているこちらまで恥ずかしくなるような生き方だわ……早く消さないと」

雪ノ下さん、マジパないっす。

そんな微妙な空気を振り払うように、由比ヶ浜が努めて明るい声を出す。

「えっと……、委員会って今日もあるんでしょ?部活は、どうするの?」

「あ、俺も出れそうにないわ」

「そうね、文化祭が終わるまでは休部という形にするべきだと思うわ」

「ま、妥当だわな」

「うーん……、そっか、仕方ないね」

由比ヶ浜は少し考えてから、納得したように言う。

「んじゃ、今日はこれで終わりか」

鞄を持って立ち上がると、呼びとめるように由比ヶ浜に声をかけられた。

「ヒッキー、時間がある時はクラスの方も手伝ってね?」

「それは、その……。約束はしかねるな」

そそくさと歩き出す。ここは逃げるが勝ちだ。

「って、ちょっとー!」

「時間があればなー」

最後はほとんど走るようにして俺は部室を出て行こうとした、その時だ。

コンコンコン、とドアがノックされる。

耳を澄ますと、扉の向こうではくすくすと笑うような声が聞こえてくる。

「どうぞ」

雪ノ下が返事をすると同時、扉が開かれる。

「失礼しまーす」

聴く者を不快にさせる声、この声には聞きおぼえがあった。

入ってきた人物を見ると、予想通りそいつは相模南だ。

「あれ?雪ノ下さんと結衣ちゃん?」

「さがみん?どうしたの?」

おっと?ここにもう一人いるぜ?少人数の中でもその存在を把握されないとは、流石はステル

スヒッキーだぜ!

「へぇ~、奉仕部って雪ノ下さん達の部活なんだ~」

その汚い声をこれ以上発するな、という思いを込めて睨むが、彼女は歯牙にもかけていない様

子だ。

「何の用かしら?」

いつもながら、まったく知らない相手に対してもあたりの強い雪ノ下の声音。

彼女のそれはどこまでも冷たさを連想させるが、相模の物とは対極的にいつまでも聞いていた

い心地よさを内包している。

「あ……、ごめんなさい」

相模の勢いがそがれる。

「ちょっと相談ごとがあって、来たんだけど……」

雪ノ下とは視線を合わせようとせず、傍らの仲間たちと目くばせしながら彼女は言葉をつづけ

た。

「うち、実行委員をやることになったんだけどさ、なんて言うのかな……。自信がなくて。だ

から、助けてほしいんだ」

昨日の委員会の後、相模は火野先生と話していたが、もしかするとあのあと彼がアドバイスし

たのかもしれない。

余計なことを・……。

しかし恨むにうらめないのは、きっと彼の人格がなすものだろう。

まぁ、彼女の言うこともわからないではない。誰だって始めてやることというのは緊張するも

のだ。まして相模は、そういうことをするタイプではない。責任があることは他人になすりつ

ける。それが彼女という人間の生き方だったはずだ。

相模のことはよく知らないが、その程度のくだらない人間ということくらいはわかる。

こいつは、救うべき人間なのか?

そんな思いも込めて、俺は雪ノ下の目をじっと見る。

「自身の成長、といったあなたの掲げた目標からは外れると思うのだけれど」

「そうなんだけどぉ、やっぱりみんなに迷惑かけるのはまずいっていうかぁ。それに、誰かと

協力して何かを成し遂げるっていうのも成長だと思うし」

みんなに迷惑?テメェが恥をかくのが嫌なだけだろうが。

それにお前が言う協力は、ただの依存だ。

「それに、うちもクラスの一員だしー。やっぱりクラスの方にも協力したいっていうか?ね?」

「……うん、そだね」

言葉を投げかけられた由比ヶ浜は、少し考えてから小さく言った。

協力の前に自分の仕事を一人でやる努力をしろよ。

こいつが言っていることはとどのつまり、自分が調子に乗ってやってしまったことの尻拭いを

雪ノ下にさせようとしているだけだ。

相模が欲しがっているのは、『文化祭実行委員長』という肩書だけ。

それに伴う努力や責任などはいっさいするつもりもなければ背負う気もない。

こんなやつに手を貸す必要はない、それに、きっとゆくゆくは彼女の為にもなるはずだ。こい

つがどうなろうと知ったことではないが。

「……要約すると、あなたの補佐をしろということかしら」

「うん、そうそう!」

「なぁ雪ノ下」

「わかったわ。私自身、実行委員だし」

俺の言葉をさえぎって、彼女は依頼を引き受けた。

……何故だ?

そう問いかける俺の視線を、しかし彼女ははねのける。

「本当に!?ありがとー!」

相模は一気に喜びをあらわにする。

それと対照的だったのは由比ヶ浜だった。驚きを内包した表情で雪ノ下を見つめている。

「じゃ、よろしくねー」

相模は軽いノリで言うと、さっさと部室を出て行った。

「……部活、中止じゃなかったの?」

由比ヶ浜が少しだけ咎めるような声を出す。

「……私個人でやることだから、問題ないわ」

「でも、いつもなら」

「……相模さんだけでやらせたら、十中八九、いえ、100%失敗するでしょう。学校行事な

んてどうでもいいと思っているけどね、失敗するというのがわかっているものを放置すること

はできない」

「……それだけじゃねぇだろ」

「何のことかしら?」

「お前は、今のこの状況をあの姉と比べてんじゃねぇか?あいつの時の文化祭は大成功だった、

それが自分の時に失敗では、あいつに負い目を感じる……そんなとこか?」

「黙りなさい」

そういった彼女の声は今まで聞いた中で最も冷たかったかもしれない。

「お前とあいつは違うだろ?」

「黙ってと言ったはずよ。……そんなことわかってるわ」

最後の声は先ほどとは打って変わって消えそうな小ささで。

「で、でもさ、みんなでやった方がいいんじゃないかな」

由比ヶ浜はその場の空気を何とかしたかったのか、声を出した。

「結構よ。私一人でやった方が効率がいいし」

「効率って……。そりゃ、そうかもしれないけど……」

由比ヶ浜は少しだけ悲しそうな顔をして、

「でも、それっておかしいと思う」

そう言って、踵を返す。

「……あたし、教室戻るね」

「俺も、行くわ」

俺と由比ヶ浜が教室を出て、雪ノ下一人だけが残った。

差し込む夕日に移った彼女の姿はどこまでも美しく、そしてどこまでも物哀しい光景だった。

「なんかもう!なんかもう!なんかもうっ!」

部室から十分離れた廊下で、突然由比ヶ浜は声を上げた。

「おい、いきなりどうしたんだ、お前」

「……なんかさ、ゆきのん、いつもと違ったよ。ヒッキーの言った理由があったとしても、あ

たしを頼ってほしかった……」

「そうか……」

「ねぇ、ちょっと嫌な話していい?」

「なんだ?」

「……嫌いに、ならないでね?」

「心配すんな、もう嫌いだから」

「え!?ええええええっ!?ヒッキーあたしのこと嫌いなの!?」

「冗談だ、真に受けんな」

「そ、そっか……よかったぁ」

「で、なんなんだよ」

「その、ね。あたし、ゆきのんにさがみんの依頼受けてほしくなかったの。もしあたし達が協

力してやる依頼だったとしても」

「え?あ、ああ」

「あ、あの、さ。その理由っていうのが、あたしが、相模んのこと苦手だからなんだ……。だ

から、ゆきのんの近くにいてほしくないっていうか……」

「そう、で、嫌な話って何?」

「え?い、今のがそうなんだけど」

「それのどこが嫌な話なんだ?」

「え?だ、だって、嫌じゃない?女の子同士でいざこざしてるのって」

「はぁ、お前アホか?ああ、あほの子だったな、そういえば」

「あ、アホじゃないしっ!」

「あのなぁ、人間、苦手な奴がいるのなんて当然じゃねぇか。むしろいないっていう奴がいた

ら、俺はそんな奴のこととても信頼できないね」

「で、でも、いいことじゃないよね。……そういうとこ、見せたくなかったっていうか」

「ほんとアホだな、お前……。つーか、俺だってあいつのこと嫌いだ。死んでほしいとすら思

ってる」

「そ、それは言いすぎじゃ……。あたし、さがみんのこと好きじゃないんだよね。でも、友達

だからさ……」

「はぁ?好きじゃないのに友達?お前それマジでいってんのかよ」

「あ、あたしは、思ってるよ?相手はそうじゃないと思うけど……」

「そりゃそうだろうな。見てりゃわかる。あいつはお前のこと確実に嫌いだよ」

「え?み、みてるの?」

「見てるっつーか、花火大会の時、実行委員会決めの時、んで、さっきの態度。その三つだけ

で判断しても十分なほど、あいつはお前のこと嫌ってる」

「なんだ、いつも見てるのかと思った……」

「お前も雪ノ下の自信過剰が移ったか?」

「ゆ、ゆきのんは自信過剰じゃないよっ!本当にかわいいもん!そ、それにヒッキー、結構あ

たしの胸見てるよね!?」

「見、見てないけど?」

うっそ、ばれてたのかよ。

「女の子って結構視線に敏感なんだからね、気をつけた方がいいよ?」

「ま、もとからくそみたいな好感度だ、今さら嫌われたってどうってことねーよ」

「なにそのじめじめしたポジティブ……」

少し笑った後に、由比ヶ浜は言葉を続ける。

「さがみんとは、一年の時も同じクラスだったんだ」

「ふーん、仲良かったのか?」

「まぁ、そこそこ、かな?」

「……つまり仲良くなかった、と」

「なんでそうなるのっ!」

「じゃぁ、仲良かったんだな?」

「うん、まぁ、結構……」

また微妙な顔で言うよな、こいつも。

「つまりは仲良くなかったんだろ?」

すると、由比ヶ浜は諦めたようにして言う。

「……もうそれでいい」

それでもいいっていうかまさしくそうだろ。

「その時はあたしもさがみんも、わりと目立つグループでさ……。なんか結構そのことに自信

持ってたみたいなんだよね」

相模と由比ヶ浜。二人がクラスの中心的グループに属していたというのは想像に難くない。

由比ヶ浜はその容姿もさることながら、人とうまくやる、合わせるのが得意だ。だから、どん

なノリにもある程度ついていける。

一方の相模も、同類と仲良くなる能力には目を見張るものがある。それが彼女の人生でプラス

になるのかは分からないが、高カーストを狙うことは可能なはずだ。

そしてそれは、二年になって変わった。

最大の違いは、三浦優美子だろう。

二年F組になった時から、クラスの女王は彼女に決まっていた。

後は彼女の大臣役の選出だ。

そして、彼女のその選考基準は「かわいさ」だった。

女子間の人間関係など一切無視して、自分の都合だけで女子のカーストを一人で決めてのけた。

良くも悪くも、どこまでも女王様だ。

その女王と相模の相性はお世辞にもいいとは言えない。

女王に選ばれなかった彼女は、カーストニ軍グループのトップとなった。

それは、カーストに重きを置く彼女にとって耐えがたいことだったはずだ。

それでも、それだけなら、二軍になっただけならまだ耐えられたのかもしれない。

しかし、自分と同列だった由比ヶ浜は一軍になった。

それが、彼女が由比ヶ浜を嫌う理由だろう。

「だから、かな。なんかさがみんのこと嫌で、だから、そのお願いをゆきのんが聞くのも嫌で

……」

言った後で、由比ヶ浜は納得したようにうなずいた。

「あたし、思ってたよりもずっとゆきのんのこと好きなんだ……」

「お前、何言ってんだ……」

ゆるゆりはともかくガチゆりは、いや、それはそれで見たい気もする。

「そ、そういう意味じゃなくってっ!」

少し顔をうつむかせてから、彼女は言った。

「女の子って面倒臭いからさ、いろいろあるんだよ」

「おいおい、めんどくさいのは男子だって同じだぜ?まぁ俺には友達いないから関係ないけど」

「出た、じめじめポジティブ」

また少しだけ彼女は笑って、

「ゆきのんが困ってたら、助けてあげること!」

「お前、前もそんなこと言ってたよな」

「うん、改めて、お願い」

「……できる範囲で、な」

「そっか、なら、安心だ」

そう言って満面の笑みを浮かべる。

言葉を尽くさない方が効果があることもあるらしい。

彼女のそんな表情を見た後では、打算も何も見出すことができない。

それは、ずるいだろ……。

「じゃ、あたし教室戻るから。文実、頑張ってね!」

駆けだす由比ヶ浜に手を挙げてこたえて、俺はまた歩き始めた。

雪ノ下雪乃が文化祭副委員長に就任するとの伝達があったのは、相模が奉仕部を訪れてから数
日後のことだった。

定例ミーティングの席で、彼女は自慢げに発表した。お前の手柄でもなんでもないというのに

……。

火野先生、城廻が一目置いていた存在として、文実メンバーはおおむね肯定的だった。

特に火野先生は、『アンクーっ!』と叫び、平塚にたしなめられていた。

見ていて飽きない人だ。

そう、まさに満を持しての登場といっていい。

俺の担当部署からは一人人員が減ってしまうことになるが、そもそも大した仕事量ではないの

で、問題はないだろう。

就任するや、彼女は早速仕事に取り掛かった。

スケジュールを切り直し、各部署の進捗状況を日報で提出させるようにした。

業務は滞りなく進んでいった。

そうした中で、何度目かの定例ミーティングを迎えた。

集まったメンバーを見渡して、相模が号令をかける。

「それでは、定例ミーティングを始めます」

まずは各部署からの報告からだ。

「宣伝部長、お願いします」

「提示予定の七割を消化し、ポスター制作も半分ほど終わっています」

「そうですか、いい感じですね」

相模が満足げにうなずく。しかし、それに異を唱える者がいた。言わずもがな、雪ノ下雪乃だ。

「いいえ。少し遅い」

予期せぬ声に、室内がざわめく。

「文化祭まであと三週間。来客がスケジュール調整する時間を考慮するなら、この時点で終わ

っていないといけない。提示か所への交渉、ホームページのアップは既に済んでいますか?」

「まだです……」

「急いでください。社会人はともかく、受験予定の中学生や保護者はホームページを頻繁に確

認しますから」

「は、はい。わかりました」

その場に沈黙が訪れる。みなぽかんとして雪ノ下を見つめている。

「すごいよ!流石は雪ノ下さんだ!」

「大したことではありません。相模さん、続けて」

火野先生の賞賛の声を軽く受け流す。

しかし、その大したことでもないことすらできなかった彼女はどのように感じるだろうか。

雪ノ下は強者ゆえにそれがわからない。いや、わかったとしてもそれを考慮しない。それが、

雪ノ下雪乃を彼女たらしめている要素であるのかもしれないが。

「じゃぁ、有志統制お願いします」

「はい。参加団体は現在十団体」

「わぁ、増えたね!地域賞のおかげかな」

ちなみにその地域賞も雪ノ下の提案である。

「それは校内のみですか?地域の方々への打診はしましたか?去年までの実績を洗い出して連

絡を取ってみてください。地域とのつながり、とうたっている以上参加団体の減少は避けたい。

それから、ステージの割り振りはすんでいますか?タイムテーブルを一覧にして提出してくだ

さい」

先へ移ろうとするや否や手厳しい追撃が来る。なぁなぁで進めることを決して彼女は許さない。

終始そんな感じでミーティングは進んでいく。

「次、記録雑務」

気づけば、議事進行も雪ノ下が行っている。

「とくにないです」

記録担当はごく簡潔に述べた。

実際俺達の仕事は当日の記録が最大の仕事で、この時点での仕事はほとんどない。

それは相模も理解するところであり、軽くうなずくと周囲を見渡して会議を終えようとする。

「じゃぁ、今日はこんなところで……」

「記録は、当日のタイムスケジュールと機材申請、だしておくように。有志団体も撮影するつ

もりなら、バッティングする可能性も考慮して機材受け渡しまで話して置いてください」

相手が三年生であろうと雪ノ下の態度は一切変わらない。

そのせいで雰囲気は微妙だ。

「それから……、来賓対応は生徒会でいいですか?」

「うん、大丈夫だよ」

城廻は気を抜いておらず、即座に答える。

「では、そちらはお願いします」

「うん、わかったよ」

城廻は快くうなずく。

それからポツリと感想を漏らした。

「いやぁ、雪ノ下さんすごいねぇ。流石はるさんの妹だ」

彼女は気づいているだろうか。

そう言われた時の雪ノ下の表情がどうしようもなく苦り切っていることに。

そして、懸念すべき点もある。

確かに雪ノ下の手腕はすごい。

大したもんだ。だが、このやり方は、どこか危うさを孕んでいる。

「では委員長」

最後に雪ノ下が相模に声をかける。「あ、うん……。じゃぁ、明日からもお願いします」

みな背筋を伸ばし、そして次々に雪ノ下の辣腕をほめたたえた。

あまりに鮮烈だったからか、どちらが委員長かわからないという者さえいた。事実、その通り

ではあるのだが。

流石は雪ノ下。生徒会メンバーの中には、次の生徒会長は彼女だという者もいた。

その中で一番いたたまれなかったのは間違いなく相模南だったはずだ。

条件は寸分たがわず同じだった。

同じ二年生で、突然議事進行をやる。

一方は後れをとり、もう一方はその遅れさえ十分すぎるほどに取り戻した。

雪ノ下一人が辣腕をふるうのであれば何の問題もなかった。

しかし、相模と雪ノ下。比較対象が存在することで、両者の差は浮き彫りになる。

雪ノ下を褒めるということは、そのまま相模を蔑むことになる。

と、あらかた人が出て行ったそんな時だ。

近くにあった鏡から、突如としてサメ型のモンスターが雪ノ下を強襲した。

「っ!!」

雪ノ下はとっさに横に転がりその攻撃をかわす。

今ここに残っているのは、俺と雪ノ下、相模に火野先生、平塚と城廻だ。

その光景を見た相模は、そそくさと教室を出ていった。騒いだり慌てふためいた様子はない。

平塚は静かに笑い、火野先生も驚いているが、普通の反応がするような反応ではない。

「見たことないヤミーだな……」

まるで、モンスターに似たものを見たことがあるかのような口ぶりだ。

そう言って、三つの穴が開いたベルトを取り出した。

「変身!」

雪ノ下は、周りにライダーバトルに関係がないものがいるのも気にせずに変身した。

「おいおい雪ノ下、それをここでやるかよ……」

平塚がため息をつく。

火野先生は三つのメダルを取り出してベルトに入れた。そして、右手にバレンのような円型の

物を持つ。

と、そこでその動きを止めた。

「いや、この世界には、この世界のライダーがいる、俺の出る幕じゃないか……」

ぼそりとつぶやいて、彼はそのままベルトを外した。

そして次の瞬間、驚くべき事態が起きた。

「ミラーワールドは、私が閉じる……変身っ!」

そう言って、城廻めぐりが鏡に向かって立ち、ベルトを装着したのだ。

しかしそのベルト、俺達の物とは若干作りが違う。

俺達がカードデッキを入れるはずの四角の部分は、円型になっていて、象徴となるエンブレム

が刻まれていないのだ。

だが、次の瞬間彼女の姿がライダーになったことから、彼女も仮面ライダーであるということ

を否応なく知らされる。

そしてそのままミラーワールドへ向かう。

俺もこうしてはいられない。

先ほどのモンスターは明らかに雪ノ下を狙っていた。

誰か新たなライダーの契約モンスターである可能性が高い。

「変身!」

「比企谷君」

変身しようとカードデッキを前に突き出したその時、火野先生に声をかけられた。

「なんですか?」

「がんばってね。彼女を、守ってあげて」

「火野先生、先生は、何か知っているんですか?」

「そう、だね……。俺も仮面ライダーだ。ただ、また別の世界のライダーだ。ライダーバトル

には関係ない。まぁいつか、話す日は来ると思う。とにかく、気をつけて」

「心配してくれてありがとうございます。それじゃ俺、行きます」

「うん」

「変身!」

現実世界を後にする際、平塚の方を見たが、にやにやと笑っているだけだった。

ミラーワールドについて周囲を見渡すと、雪ノ下を襲ったサメのモンスターと戦っているのは

城廻の変身したライダーで、雪ノ下の姿は見えない。

「あいつ、どこにいる……?」

と、しばらく進んでいくと、見慣れた藍色のマントが目に入る。

と、その先。雪ノ下の前方には、初めてみる水色のライダーがいた。そのフェイス部分はサメ

の面影を残しており、彼(彼女?)が雪ノ下を襲わせた犯人なのだと判断する。

「あなたね、私を襲わせたのは」

「あんたもライダーだったのか……邪魔なんだよ、あんたっ!」

「Swword Vent」

「Nasty Vent」

勢いよく襲いかかったそのライダーに対し、雪ノ下は超音波攻撃で冷静に対処する。

「くぅっっ」

「Swword Vent」

うろたえる敵に対し、雪ノ下は鋭い突き攻撃を放つ。

たじろいだ敵に、連続攻撃を仕掛ける雪ノ下。

「Strike Vent」

攻撃を受けつつ、敵はサメの頭型の武器を右手に装着する。

その口の部分から勢いよく水が噴出された。

その勢いと大量の量に雪ノ下は大きく後退する。

そして水は、ある一定の勢いを越せば刃物をはるかに上回る鋭利さを持つ。

彼女が受けている痛みは尋常のものではないだろう。

雪ノ下の援護に入ろうとしたその時、視界の隅に緑色が移った。

急いで周囲を見渡すと、周りより少し高くなった階段の上に平塚、仮面ライダーゾルダがいた。

大砲をこちらに向けて照準を合わせている。

「やらせるかよっ!」

「Advent」

ドラグレッダーを呼び出し、平塚に強襲させる。

大砲を持って防御態勢が取れなかった平塚は攻撃を受け、階段の上から勢いよく落下する。

急いで平塚のもとへと駆け寄る。

「Swword Vent」

「材木座が受けた痛み、あんたにも受けてもらうぞっ!」

「人を殺した貴様が言うか……。笑わせるなよ、比企谷ぁぁっ!」

「Guard Vent Strike Vent」

左手に大型の盾を、右手に牛の角を模した武器を持ち、ゾルダも応戦する。

「ウオオォォォォォッッ!」

憎しみをこめて、全力で攻撃する。

[ピーーー]気はない、だが、死の恐怖は味わわせるっ!

「お前みたいなやつがっ!」

「私がなんだぁ!?」

敵の武器が、勢いよく俺の胸をついた。

「くぉっ、まだだぁっ!」

「Strike Vent」

剣を持っていない左手に新たな武器を装着し、そのまま火炎放射攻撃を放つ。

しかし平塚は、大型の盾で見事にそれを防いでみせる。

と、その時だ。

「Advent」

突如物陰から現れたサイのモンスターが背後から平塚に思い切り突進した。

直後、右手に剣を携えた三浦が飛び降りてくる。

「おっらぁ!行くよぉっ!」

「三浦、お前もぉぉっ!」

龍のあぎとの部分で突き攻撃を放つ。

「Steal Vent」

三浦がそのカードをスキャンすると、俺の手元から龍頭の武器がなくなり、かわりにそれは三

浦の左手に装備されていた。

「はぁっ!」

俺はとっさのことに対応できず、自らの武器による攻撃を思い切り受けてしまった。

攻撃を受けて転がりながら立ち上がる際に周囲を確認すると、雪ノ下と新たなライダー、それ

から城廻とモンスターとの距離がずいぶんと近くなっていた。

俺の体を緊張が走る。

と、それは唐突に起きた。

俺達のほぼ中心に位置する場所から、まばゆい場からの金色の光が放たれた。

俺が思わず閉じてしまった目を開けると、そこには全身金色の、神々しく荘厳ないで立ちの一

人のライダーがいた。

「わたしは、14人目のライダー、仮面ライダーオーディン」

「なに、あんた?調子に乗ってんの?[ピーーー]っ!」

三浦が剣を携えて勢いよく襲いかかる。

「無駄よ」

三浦の攻撃が到達しようとしたまさにその瞬間、オーディンの体がその場から消え、かわりに

金色の羽がその場に舞った。

直後、三浦の背後にオーディンが現れ、その背に蹴りを放つ。

それほど勢いがあったようには見えないが、彼女の体はとてつもない勢いで飛ばされていった。

「ハァッ!」

雪ノ下も手に槍を持って突き攻撃を放つ。

オーディンはそれを、素手でたやすく受け止める。そしてその状態のまま言葉を紡いだ。

「最後に生き残ったライダーは私と戦う。今はまだその時ではない。このまま、戦い続けろ」

そう言い残すと、来た時と同じように金色の光を放ってオーディンは消えていった。

「なんだったんだ……」

俺がつぶやくと同時、その場にいる全員の体から砂粒のようなものが流れ出す。

「ここまでか」

平塚をはじめとして、俺達はもとの世界へと向かう。

それにしてもまた厄介事が増えた。

雪ノ下を襲った新たなライダー、城廻めぐりが変身した俺達とはまた少し違ったタイプのライ

ダー。そして、14人目を名乗る仮面ライダーオーディン。

「はぁ……」

俺がため息をつくと、雪ノ下は何事もなかったかのように部屋を後にしようとしていた。

器量が違うのかね……。

俺もそんな彼女を追うようにして部屋を出た。

と、そんな俺達を待ちかまえていた人物がいた。

由比ヶ浜結衣である。

「由比ヶ浜さん……」

「ゆきのん、今日契約モンスターに襲われたんだって?」

「ええ、まぁね。でも、ライダーバトルの中でなら当然起こりうる事態よ」

「……」

由比ヶ浜はしばらく沈黙する。

「どうしたの?私のことなら心配いらないわ」

雪ノ下がいつくしむような声をかける。

「ねぇゆきのん、これ、使って?」

由比ヶ浜が差し出したのは、俺達がこの間雪ノ下陽乃に渡された「Survive」のカード

だった。

彼女が持つのは、蒼の翼のカード、サバイブ『疾風』だ。

「由比ヶ浜さん、これ……」

「あたし、ゆきのんに戦ってほしくない。だけど、それでもきっとゆきのんは戦うから……。

だから、負けないで?」

雪ノ下は黙ってカードを受け取り、それから力強く由比ヶ浜を抱きしめた。

「ありがとう……」

「絶対生きてね?約束だよ」

「ええ、あなたとの、友情に誓って……」

最後の声が小さくなったのは、実に彼女らしい。

「だからあなたも、生き抜いて」

「うん!」

二人は笑って手をつなぎ、そのまま去って行ってしまった。

あの、俺は……?

立ち尽くしていると、唐突に由比ヶ浜が振り返った。

「ヒッキー、何してるの?一緒にかえろーよ!」

俺は苦笑して、二人のもとに駆け寄った。

雪ノ下にストーカー呼ばわりされたが、それすら心地よかった。

こんな日々がいつまでも続いてほしいと、俺は心から願った。

「なにかあったのか?」

あの襲撃から数日後、文実の会議室に入ってきた葉山が俺に尋ねた。

俺は黙ったまま顎を動かす。

会議室には、ピリピリとした緊張感が走っている。

避けるようにして隅にいるギャラリーがそこそこいて、中央に立つのは三人。

雪ノ下雪乃、城廻めぐり、そして、雪ノ下陽乃。

雪ノ下と陽乃は、三歩ほど離れた位置で対峙している。

城廻は陽乃の後ろでおろおろとしている。

「姉さん、何をしに来たの」

雪ノ下の声音は冷たい。

「有志団体募集のお知らせを受けたから来たんだよー。管弦楽部のOGとしてね」

そう答えた陽乃を雪ノ下はきつく睨む。

しかし睨まれた彼女は、そんなもの歯牙にもかけない。

すると、いづらそうにしていた城廻が間に割って入る。

「ごめんね、私が呼んだんだ。たまたま街で会って、有志団体が足りてなかったからどうかな

ーと思って……」

余計な事をしたな、生徒会長。……いや、そうでなくても何らかの手段で彼女はここに来たの

だろうが。そう思わせるところが、雪ノ下陽乃の恐ろしいところだ。

「雪ノ下さんは知らないと思うけど、はるさん、三年生の時に有志でバンドやったの。それが

すごくってね、で、どうかなーって」

城廻が「どうかな?」と、雪ノ下を遠慮がちに見る。

すると陽乃が、恥ずかしそうに話に割って入る。

「駄目だよめぐり、あれは遊びみたいなものなんだから。けど、今年はもう少しちゃんとやる

つもりだから、ちょくちょく学校で練習させてもらってもいいかな?ねぇ、雪乃ちゃん、どう?

有志も足りないし、悪い話じゃないと思うんだけど?」

そういう彼女の口調はどこか挑発的だ。

それからダメ押しとばかりに、雪ノ下の肩を抱く。

「かわいい妹の為に、してあげられることはしてあげたいんだよ~」

「ふざけないで。だいたい姉さんが……」

「私が、何かな?」

雪ノ下の冷たい視線を一切そらさず、逆に陽乃は一歩距離を詰める。

怖い。ただ純粋に、そう感じている自分に気付いた。

「ッッ、また、あなたはそうやって……」

雪ノ下は悔しそうに唇をかむ。そらした視線が俺とぶつかった。

そんな雪ノ下の視線で気付いたのか、それとも最初から気づいていたのかは定かではないが、

「あれ、比企谷君だ、ひゃっはろ~!」

俺の方に陽乃が歩み寄ってくる。

ここで逃げてはいけないと思い、背筋を伸ばして対峙しようと身構える。

右手でポケットの中のカードデッキを握る。

と、その時だ。俺の後ろにいた葉山がすっと前に出た。

「陽乃さん……」

「あ、隼人~!」

「どうしたのかな?」

「有志で管弦楽でもやろうかと思ってさ~。OB、OG集めたら面白そうじゃな~い?」

「また、そうやって思いつきで……振りまわされる方の身にもなったら」

「ん、な~に?」

彼女のその言葉で、彼の言葉は遮られる。

軽く舌打ちし、葉山は視線をそらす。

俺が葉山と陽乃を交互に見ていると、それに気付いた陽乃がにやりと笑った。

「あー、隼人は弟みたいなものなのよ。比企谷君もため口でいいよ~?あ、八幡って呼んだ方

がいいかなぁ?はちま~ん」

「黙れ。くだらないことを言うな。いい加減にしろよ、次はこの場も乱しに来たのか?」

「うわ~ん、比企谷君が冷たいよ~。雪乃ちゃ~ん」

俺が陽乃にそのような態度をとったのが意外だったのか、雪ノ下と葉山は驚くような目で俺達

を見ている。

陽乃はひとしきりからかった後で、新手めて雪ノ下と対峙する。

「ね、雪乃ちゃん、いいでしょ~?」

「好きにしたら?私に決定権はないわ」

「あれ?そうなの?てっきり委員長やってるうかと思ったよ~。だって私がやったことだから

ね」

その言葉には、隠すつもりもさらさらない悪意が多分に含まれていた。

「どういう、意味かしら?」

怒りをその体に必死に抑えて雪ノ下は努めて冷静に言った。

「そのままの意味だよ~。雪乃ちゃんってば、いっつも私のまねばっかりしてさ~。ずっとお
下がりで、ずっと負けっぱなしで」

その時、俺の中で何かが切れた。

「黙れぇぇッ!」

鏡から出現したドラグレッダーが陽乃を襲う。

しかしそんな状況でも彼女は一切動じない。

龍が彼女を飲み込もうとしたその時、ドラグレッダーの体を黒くしたような、どこまでも不気

味な暗黒龍が鏡から現れ、陽乃を守る。

「「ググガァァァアアッ!」」

ニ頭の龍が激しく咆哮する。

「駄目だよ比企谷く~ん、女性をいきなり襲うなんて~。お姉さん怖かったぞ?」

彼女はへらへらと俺に笑いかける。

その後ろの鏡の中では、例のライダーリュウガがたたずんでいる。

「姉さん、あなたも……」

「もぉ、こんなとこじゃぁ騒ぎになっちゃうでしょ?そんなにしたいんなら後でたっぷりやっ

てあげるから、ね?」

艶やかな声で彼女は言うが、状況を知る者にとっては死刑宣告にしか聞こえない。

「陽乃さん、やっぱりあんた……」

葉山が小さくつぶやく。

そんな中、ニ頭の龍は鏡の中へと帰っていく。

「あれれー?ところで、雪乃ちゃんがやってないなら誰が委員長なのかな~?もしかして比企

谷君?」

彼女の言葉にはとりあわない。それがくだらないものであるならばなおさらだ。

極度の緊張が張り詰める中、唐突に教室のドアが開いた。

「ごっめんなさ~い、クラスの方に顔出してたら遅れちゃいました~」

どこも悪びれているふうがなく言うのは相模南。

「はるさん、この子が委員長ですよ」

城廻に言われ、陽乃が相模に視線を向ける。

価値を推し量るような、底冷えのする目。

「……あ、相模南です」

陽乃の眼光に圧倒されて、彼女の声はしぼんでいく。

「ふぅん……」

一息ついて彼女は相模に歩み寄る。

「文化祭実行委員長が遅刻?それもクラスに顔を出してて?へぇ……」

身体の芯から捻り出されるような低く威圧的な声が相模に襲いかかる。

雪ノ下陽乃の恐ろしいところだ。普段は明るくふるまうくせに、突如として凍てつくような表

情を浮かべる。

恋愛はギャップだというのはすっかり当たり前のように定着しているが、恐怖というのもまた

同じなのだろう。

従順である限りは友好的に接するが、刃向かおうものなら容赦なくたたきつぶす。

「あ、その……」

相模は必死にいいわけを探そうとする。

「いいねー。委員長はそうでなきゃねー。文化祭を最大限に楽しめる素質こそ大切だよね~」

「あ、ありがとうございます……」

おそらく相模はこの数十秒で雪ノ下陽乃との格の違いを思い知らされたはずだ。そして彼女の

ようなものにできるのは、ただひたすらに相手を肯定するだけ。

「で、委員長ちゃんに相談なんだけど、私有志団体として出たいんだよね。雪乃ちゃんに相談

したんだけど、私嫌われてるからさー……。どうかな?」

気持ち悪い。そのクスンとしたしおらしい態度は、あざとくも可愛い。誰もがそう感じるよう

な仕草だ。だからこそ、それに気付いた時、どうしようもなく気持ちわるく感じるのだ。

「いいですよ。有志団体足りてないし、OGの人が出てくれれば、地域とのつながりもアピー

ルできるし」

それは誰が言った言葉だったかな。

「ありがとー!委員長ちゃん話せるー!」

わざとらしく陽乃が相模に抱きつく。

「うんうん、卒業しても戻れる母校って素敵だなー。友達にも教えてあげよーっと」

葉山と雪ノ下が諦めたような溜息をつく。

陽乃の友人というだけで気味悪く感じてしまうのは俺だけだっただろうか。

「あ、じゃぁそのお友達の方とかも誘ったらどうですか?」

「お、いいねいいねー!さっそく連絡してもいい?」

「どうぞどうぞ」

「ちょっと、相模さん」

相模の暴走を雪ノ下が止めようとする。しかし彼女はあっけらかんと言ってのけた。

「いいじゃん。有志団体足りてないんだし。これで地域とのつながりもクリアでしょ?」

手柄顔の相模だが、気づいているだろうか。ここまで、彼女自身が成し遂げた功績などただの

一つもないということ。

「それにぃ~、お姉さんと何があったかは知らないけどぉ、それとこれとは別でしょ~?」

彼女がそう言った時、葉山の表情が苦り切った。

「っ……」

このしまいのやり取りを見ていれば仲が悪いのは誰の目にも一目瞭然だ。これまで雪ノ下に負

い目を感じていた相模にとって、これを利用しない手はない。

「やはり、こうなるか……。どこまで人を不幸にすれば……」

葉山はそっと目を伏せて、どこかへ行ってしまった。

陽乃はその場にとどまり、城廻や相模達と話し続けていた。

雪ノ下雪乃は、決してそちらを向こうとはしなかった。

俺も不快さを紛らわすため、自分の仕事に取り組むことにした。俺が自ら仕事をしようとする

なんて、この世も末だな。

するとそんな俺のもとに彼女はやってきた。

雪ノ下陽乃の恐ろしいところだ。普段は明るくふるまうくせに、突如として凍てつくような表

情を浮かべる。

恋愛はギャップだというのはすっかり当たり前のように定着しているが、恐怖というのもまた

同じなのだろう。

従順である限りは友好的に接するが、刃向かおうものなら容赦なくたたきつぶす。

「あ、その……」

相模は必死にいいわけを探そうとする。

「いいねー。委員長はそうでなきゃねー。文化祭を最大限に楽しめる素質こそ大切だよね~」

「あ、ありがとうございます……」

おそらく相模はこの数十秒で雪ノ下陽乃との格の違いを思い知らされたはずだ。そして彼女の

ようなものにできるのは、ただひたすらに相手を肯定するだけ。

「で、委員長ちゃんに相談なんだけど、私有志団体として出たいんだよね。雪乃ちゃんに相談

したんだけど、私嫌われてるからさー……。どうかな?」

気持ち悪い。そのクスンとしたしおらしい態度は、あざとくも可愛い。誰もがそう感じるよう

な仕草だ。だからこそ、それに気付いた時、どうしようもなく気持ちわるく感じるのだ。

「いいですよ。有志団体足りてないし、OGの人が出てくれれば、地域とのつながりもアピー

ルできるし」

それは誰が言った言葉だったかな。

「ありがとー!委員長ちゃん話せるー!」

わざとらしく陽乃が相模に抱きつく。

「うんうん、卒業しても戻れる母校って素敵だなー。友達にも教えてあげよーっと」

葉山と雪ノ下が諦めたような溜息をつく。

陽乃の友人というだけで気味悪く感じてしまうのは俺だけだっただろうか。

「あ、じゃぁそのお友達の方とかも誘ったらどうですか?」

「お、いいねいいねー!さっそく連絡してもいい?」

「どうぞどうぞ」

「ちょっと、相模さん」

相模の暴走を雪ノ下が止めようとする。しかし彼女はあっけらかんと言ってのけた。

「いいじゃん。有志団体足りてないんだし。これで地域とのつながりもクリアでしょ?」

手柄顔の相模だが、気づいているだろうか。ここまで、彼女自身が成し遂げた功績などただの

一つもないということ。

「それにぃ~、お姉さんと何があったかは知らないけどぉ、それとこれとは別でしょ~?」

彼女がそう言った時、葉山の表情が苦り切った。

「っ……」

このしまいのやり取りを見ていれば仲が悪いのは誰の目にも一目瞭然だ。これまで雪ノ下に負

い目を感じていた相模にとって、これを利用しない手はない。

「やはり、こうなるか……。どこまで人を不幸にすれば……」

葉山はそっと目を伏せて、どこかへ行ってしまった。

陽乃はその場にとどまり、城廻や相模達と話し続けていた。

雪ノ下雪乃は、決してそちらを向こうとはしなかった。

俺も不快さを紛らわすため、自分の仕事に取り組むことにした。俺が自ら仕事をしようとする

なんて、この世も末だな。

するとそんな俺のもとに彼女はやってきた。

「ちゃんと働いてるかい、小年よ」

「……何のようだ」

俺の言葉には答えず、陽乃は続ける。

「お姉さん意外だな~。比企谷君はこういうことしない子だと思ってたよ~」

「あんたは人を不快にする天才だな。あんたに知ったような口をきかれると本当に殺したくな

ってくるよ」

「そうしようとした君が言うと笑えないな~」

「もうどこか行ってくれないか?本当に我慢ならないんだ、あんたみたいな人間の顔を拝み続

けるってのは」

「ひどいよ~。お姉さんはこんなに比企谷君のこと好きだっていうのに~」

言って、彼女は俺の手を胸に当ててくる。

即座に振り払おうとするが、思ったよりはるかに彼女の力は強い。

「なんのつもりだ」

俺はこの短期間で同じ質問をした。

「またまた~、本当はうれしいくせに~」

「……あまり人をなめるな」

「舐めるな?あはは、チューしちゃおっかな~」

イライラが極限に近づき彼女を睨むと、そこにはどこまでも冷酷な彼女の瞳があった。しかし、

決してそらすことはしない。

こんな人間に、屈してなるものか。

そう自分を鼓舞するものの、先ほどから膝はずっと笑っている。

と、その時だ。

「みなさ~ん、ちょっといいですか~?」

相模が立ち上がり、室内を見渡していた。

「少し考えたんですけどぉ、文実は、自分達が文化祭楽しんでこそかなって思って」

また、誰かさんの受け売りか。

「文化祭を最大限楽しむためには、クラスの方も大事だと思います。予定も順調ですし、少し

仕事のペースを落としませんか?」

相模の提案に、皆肯定的な声を挙げる。

しかしその案に、雪ノ下雪乃だけが異を唱える。

「相模さん、それは考え違いというものよ。バッファを持たせるために……」

バッファ!ゴー!バッファ!ババババッファ!

っといけない、ふざけている場合じゃないな。

そしてそんな雪ノ下の声を、無遠慮なまでに明るい声が遮った。

「いやー、いいこと言うねー。私の時も、クラスの方みんな頑張ってたな~」

雪ノ下はそう言った彼女に咎めるような視線を送る。

それがさらに相模を調子づかせた。

「ほら、前例もあるしぃ。それにその時、すっごく盛り上がったんでしょ?」

それはその通りだ。

だがその時と今では、状況がまるで違う。

その時は委員長が雪ノ下陽乃だった。

彼女はみなに自由を与えながらも、そうとは意識させずに、しっかりと仕事をさせたはずだ。

あるいは、雪ノ下雪乃が委員長を務めていたならばそれも可能だったかもしれない。

だが今回は、無能の女王ともいえる相模南が委員長だ。

この差はどうやったって覆せない。

雪ノ下雪乃のサポートのおかげで、何とか問題が表面化していないだけなのだ。

とどのつまり、その提案は無謀以外の何物でもない。

その無謀を名案だと信じて疑わない彼女はさらに続ける。

「やっぱいいところは受け継いでいくべきだと思うしぃ。先人の知恵に学ぶっていうの?私情

を交えないでみんなのことを考えようよ」

文実のメンバーは誰からともなく拍手の手を打ち始めた。

皆がそれに従うのであれば、雪ノ下雪乃にできることはない。

「本当にいいこと言うね~。ね?比企谷君?」

俺の横に座っていた陽乃が耳元でそう言った。

おそらくこの案は、先ほど相模と話していたときに彼女が授けたものだ。

だが、……認めるのはしゃくだが、聡明な彼女が、この案のせいでどのような事態が起きるか

理解していないはずはない。

妹が取り仕切る文化祭をぶち壊し、さらに追い詰めるつもりなのだ。

「これが、あんたの狙いかよ、雪ノ下、陽乃……」

「あっ、名前で呼んでくれた~。嬉しいな!それじゃぁね!比企谷君」

好きなだけ災いの種をまき散らして言った彼女は、意気揚々とした足取りで去って行った。

陽乃が巻いた災いの種は早速その芽を出した。

彼女が現れて数日のうちに委員会を休む者がちらほらとで始めた。

相模の話が全体に伝わった結果がこれだ。

仕事量に、明らかな偏りが出始めていた。

そして、特に面倒な問題を片づけるのは執行部。そして、そのメインウェポンが雪ノ下だ。

雪ノ下の力は群を抜いていたが、それでも作業の量があまりにも多すぎる。

俺も記録雑務という名目のもと、雑務の仕事が増えてきている。

おかしいよ?僕、楽できると思ってこの仕事にしたのに……。

「君、雑務係だよね?これもお願いしていい?」

見知らぬ上級生から声をかけられた。

「ハァ、でもこれ俺の仕事じゃ……」

「文化祭はみんなでやるものだから!」

そう言って彼はさっさと去って行こうとする。

俺は無意識にその肩を掴んでいた。

「……待てよ」

「なに?仕事はみんなで」

「みんな?みんなって誰だよ。お前は俺の仕事を手伝ってくれんのか?」

雪ノ下陽乃によってこの状況が作り出されていたということが、俺から冷静な判断力を奪って

いた。

(殺してやる……)

俺の頭の中に、不吉な言葉がよぎる。

「そんな屁理屈言わずに黙ってやればいいんだよ、お前後輩だろ?」

「ドラグレッダー!」

鏡の中からドラグレッダーが現れてその先輩に向かって思い切り咆哮を挙げる。

「比企谷君!」

雪ノ下のその叫びに、俺は正常な意識を取り戻した。

「……仕事、ちゃんとやれ」

俺が睨むと、先輩は黙って首を縦に振り、逃げるようにして走り去って行った。

「比企谷君……」

「すまない、雪ノ下。どうか、してた……」

「なにあれ?」

「自分が仕事したくないだけなんじゃない?」

周囲でささやかされたとその声に、思わず俺は答えた。

「俺が楽できないのはこの際仕方ない。でも、俺以外の誰かが楽してるのだけは許せない!」

俺は脅しの意味も込めて少し大きな声で言った。

「その結果が、これ?モンスターで脅して、無理矢理意見を通して……。君、最低だね?」

ツカツカと歩み寄ってきた城廻が蔑むような目でそう言った。

「……最低、か。よくもまぁそんなこと言えるよな、あんた」

「どういう、ことかな?」

「この委員会での指揮系統に置いて、あんた、生徒会長は委員長に次ぐ権限を持っている。そ

れでいて、委員長の命令を絶対に守るべき立場でもない。つまり、あんたは委員長と同レベル

の権限を持ち、責任があるってことだ。この状況を作り出した原因は、あんたにあると言える。

そしてその尻ぬぐいを、俺達下っ端がしてる。そんな俺に向かって最低とは、よく言えたもん

だ。俺なら恥ずかしくてとてもできないね。……命令や偉そうなこと言う前に、まともに仕事

したらどうだ?」

「……その通りかもしれない。だけど、それでも……、あなたのやったことは許せない!変身!」

「[ピーーー]気はない、だけど、責任の重みくらいは、感じてもらうっ!変身っ!」

「こんなこと、絶対間違ってる。だから、ミラーワールドなんて閉じる!」

「その考えには賛成だがな……、今はあんたを思いっきりぶん殴ってやりたい気分だ」

「「Swword Vent」」

城廻の召喚機が発した音声は、今までに聞いたものとはいくらか違うものだった。

彼女が出現させたのは、ギザギザに刀身がとがった剣。

俺のドラグセイバーよりもはるかに大きく、少しつばぜった後、だんだんと押されていく。

このままでは押し切られると判断した俺は、とっさに後ろに下がる。

しかし彼女の追撃が俺の顔をかすめる。

強い……。

「Strike Vent」

さらに距離をとり、龍頭の武器、ドラグクローを呼び出す。

城廻がこちらに走ってくる。

今俺は、逃げてきたままの姿勢なので、彼女に対して背中をさらしている状態だ。

もう少し、もう少し、もう少しっ!

極限まで引きつけて、振り向きざまに炎攻撃を放つ。

「ドラグクローファイヤーッ!!」

「ガァアァァァッ!」

腹に思い切り衝撃と炎攻撃を受けて、彼女の体がゴムボールのように吹き飛ぶ。

剣を落とし、あおむけに倒れている。

俺は黙って、ミラーワールドを去ろうとした、その時だ。

「Accel Vent」

それは、本当に一瞬の出来事。

一秒にも満たないはずだ。

そのわずかな時間の中で、彼女は武器を拾い、そして、俺の腹部にそれを突き刺した。

「かはっ、はっ、ぁぁっ……」

「油断したみたいだね。これで、終わりだよ」

まだ、まだ俺は[ピーーー]ない。

ほとんど無意識のうちに、俺は一枚のカードを取り出した。

召喚機にそのカードを近づけるとドラグバイザー(召喚機)の形が変わり、新たな武器となる。

そして、俺の周囲を灼熱の炎が包んだ。

俺は静かに、新たな召喚機「ドラグバイザーツヴァイ」にそのカードを入れる。

そしてそれは、今までよりも少し高い機械音で告げた。

「Survive」

俺の全身を包んだ炎がはじける。

その瞬間に、体中に、言葉では表現できないほどのエネルギーがほとばしる。

変化は体にも及び、全体的に金色の装飾が施され、頭部からは触覚のようなものも生えている。

そしてもとあった赤は少し黒みがかった深紅の色となった。

「これが、サバイブ……」

「……?どんなトリックか知らないけど!」

城廻が剣での攻撃を仕掛けてくる。

「はぁっ!」

相手の攻撃が到達する前に、召喚機で手首を殴りつけ、攻撃を止める。

彼女の剣が空中に舞う。

「今度はこっちの番だ」

「Swword Vent」

カードをスキャンすると、ドラグツヴァイから鋭い刀身が伸びた。

「たぁっ!」

がら空きになった敵の懐を切りつける。

それほど力を入れたつもりはないのだが、城廻は勢いよく吹き飛ばされた。

「これは、なんて力だ……」

「Shoot Vent」

ドラグツヴァイの刀身が収納され、かわりに口の部分が開く。

そしてドラグレッダーが現れ、俺の後ろで攻撃態勢をとる。

と、その途中、ドラグレッダーがまるで脱皮するかのように装甲(?)をパージし、俺同様金

色の混じった新たな姿になった。

驚いてアドベントカードを確かめると、その名は「ドラグランザー」というらしかった。

「……いくぞ」

ドラグランザートドラグツヴァイ、二つの口から同時に灼熱の炎が発射される。

「ウワァァアァァッッ!」

城廻は攻撃を受けて倒れた。

何とか立ち上がろうとしているが、それすらままならない。

(殺せ!殺せ!殺せ!)

頭の中で再び声がこだまする。

そうだな。こいつは自分の役目も果たさず人を責めてばかりだ。

それに、雪ノ下陽乃の仲間だ……。

「Final Vent」

ドラグランザーが再び炎を吐き、空中に舞い上がる。

俺もジャンプしてそれに飛び乗る。

「終わりだぁぁっ!」

ドラグランザーの腹部から車輪のようなものが出て、バイク型に変形する。

ドラグランザーは炎を吐き続ける。このまま引き倒す!

「うおぉぉぉぉっ!」

もう少しでとどめの一撃が炸裂するという、その時だ。

「キィィィイイイィィッッ!」

鼓膜を突き破るような、耳障りな超音波。

これは……。

ダークウイングに背中を預け、飛翔している仮面ライダーナイト、雪ノ下雪乃が俺と城廻の間

に立ちふさがった。

「雪ノ下……?」

俺はあわてて攻撃を中断する。

「戦いを邪魔してごめんなさい。……でも、文実の現状に腹を立てて彼女を倒そうとしている

というのなら、それは倒すべき相手が違う。糾弾されるべきは、私よ」

「違う!お前のせいじゃない!雪ノ下、陽乃の」

「それも、私の責任だわ。私にもっと力があれば、姉さんの妨害を阻止することができた。そ

れに、彼女が文実、文化祭を壊そうとするのは、私がいるからだもの。……だから、あなたが

戦うべき相手は、私だわ。あなたがやるというのなら、私は誠心誠意、全力を持ってあなたと

戦う」

「そんなこと……、できるわけないだろうが」

俺は逃げるようにして、ミラーワールドを去った。

「比企谷君」

どうしようもなくいたたまれなくなって、そのまま帰ろうとしたところを、雪ノ下に声をかけ

られた。

「なんだ?」

「……本当に、ごめんなさい。私の、せいで。……ごめんなさい」

何をやってるんだ、俺は。目の前の大切な彼女は、凛として立っている。儚げな様子で、今に
も崩れてしまいそうな様子で。

その目は、とても見続けられるようなものではなかった。

俺はこいつに、こんな顔をさせてたのか。

なんて、事を……。

自分のふがいなさに、次から次に嫌悪感がわいてくる。

「俺の方こそ、悪かった。本当、最近の俺はどうかしてる」

また、逃げるようにして俺は教室を出た。

「比企谷君!」

玄関で靴をとった時、後ろから声をかけられた。

火野映司、異なるセカイの、仮面ライダーだった。

「火野、先生……」

「ごめん、君の戦う様子、見せてもらったよ」

「見えるんですか、ミラーワールドが」

「うん、どんな理屈かは分からないけど」

「嫌なとこ、見せちゃいましたね……」

「……多分、君のせいじゃないよ」

「え?」

「君が少し変わってしまったと思ってるなら、それはあの、サバイブのカードのせいだと思う」

「あの、カードが……」

「うん。あまりに大きな力は、使用者を飲み込んでしまう。っていうのも、俺も昔同じような

経験があってさ。強力すぎる力を手に入れてしまった時、暴走して、大切な人たちに見境なく

攻撃するようになってしまった」

「そうなん、ですか……」

「でも、そんな俺を元に戻してくれたのも、その仲間だったんだ」

「……」

「そこで、さ。比企谷君。……俺と、戦わないか?」

「え?」

「思いっきりその力を使って、そして、自分で制御できるようにするんだ。……多分俺なら、

その相手ができる」

「でも……」

「今のままじゃ、君はそのうち破綻する。そして、大切な人も……。俺は何度も、そんな人た

ちを見てきた。君には、そうなってほしくない」

その言葉が、決め手になった。俺は、人を守るために、大切な人を守るために戦うんだ。

「……お願いします」

「よし!そうと決まれば早速やろう!俺を敵だと、憎い敵だと思って!」

「そうですね、そうじゃなきゃ意味ないですよね。……変身!」

「その意気だ、行くよ!変身!」

言って火野先生は、三枚のメダルをベルトにセットした。

「タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ タ・ト・バ!」

火野先生の姿が変わると同時、奇妙な歌が流れた。

「……何ですか、それ?」

「歌は気にしないで! って、なんかあいつに会った時のこと思い出すな……」

最後の方は俺には聞き取れなかったが、思い出に浸っているようだった。

しかしそれも一瞬だったようで、火野先生はすぐに俺に向き直る。

「じゃぁ、行こうか!」

俺達は、ミラーワールドへと向かった。

「ファァーーーーッ!」

銀色の剣を持ち、火野先生、もといオーズが向かってくる。

「Swword Vent」

俺もドラグセイバーで対抗する。

一合、ニ合、三合と打ち合って、俺達は少し距離をとる。

「このメダルで!」

オーズは鷹と虎のメダルを抜いて、かわりに緑色のメダルをベルトに入れた。

「クワガタ!カマキリ!バッタ!ガ~~タガタガタキリッバッ!ガタキリバッ!」

今の歌を聴く限り、昆虫の力を使った姿らしい。

全体の色は黄緑で、目だけが赤く光っている。

「ハッ!」

両腕についたカマキリの鎌で攻撃してくる。

それも剣で受ける。

また数合打ち合ったのちに、オーズは少し下がった。

今度はメダルを変えるのではなく、右腰につけていたバレンのようなものでベルトをスキャン

した。そういえばあれ、変身する時にも使ってたな……。

「スキャニングチャージッ!」

その音が響くと同時、オーズの分身体が7体現れた。

「「「「「ファーーーッ!!」」」」」

「ならこっちも!」

「Trick Vent」

これは、サバイブのカードを手に入れた時、いつの間にか加わっていたカードだ。

分身を呼び出し、こちらも合計8。

条件は同じだ。

しばらく攻防を続け、それぞれ分身体がすべて消えてしまったところで、オーズは新たなメダ

ルを取り出した。

「ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ ラトラ~~タ~!」

ネコ科動物?そんなメダルまであるのか。雪ノ下が好きそうだな。

ラトラーターコンボとなったオーズのボディの色は黄色、目は美しい水色だ。

「ハッ!」

と、突如、彼の姿が消えた。

そしてその直後、腹部に何度も衝撃を受けた。

吹き飛ばされた俺がたちあがると、先ほどまで俺がいた場所にはオーズが立っていた。

「……今のはチーターの力ですか」

「そうだよ!このメダルはすっごく使えるんだ!まだまだいくよ!」

また、衝撃。

どうする……?

「Advent」

ドラグレッダーを呼び出し、俺の周りに炎を吐かせる。

俺を囲むようにして、灼熱の防御壁が完成する。

「わぁ、やるなぁ。これじゃ近づけない……。ならっ!」

「シャチ!ウナギ!タコ!シャ・シャ・シャウタ!シャ・シャ・シャウタ!」

水棲生物……。これじゃ炎は効かない……。

シャウタコンボは、全体が水色と藍色、目が黄色に光っている。

予想通り炎を突破したオーズは、手にしていた鞭を振るった。

「がぁぁぁああっ!」

鞭が振れると同時、体にすさまじい電流が走る。

……ウナギの、電気の力か……。

「Strike Vent」

「ハァッ!」

俺が炎を放つと、オーズは頭を振り下ろした。

すると、そこから水球が発射され、炎が消された。

この姿は相性悪いな……。

こうなりゃ、力ずくだ。

「Final Vent」

「必殺技か……。なら、」

「サイ!ゴリラ!ゾウ!……サッゴーッゾッ!……サッゴーッゾッ!」

太鼓の音が混じった派手な音楽が流れる。

「スキャニングチャージ!」

ドラグレッダーの炎を浴びて急降下して行った俺の体が、突如地面に吸いつけられた。

まるで、重力がいきなり何十倍にもなったかのように。

「ぁっ!」

俺はその力にあらがうことができず、技を中断されて地面に衝突された。

「サゴーゾコンボは、重量計生物の力をつかさどるコンボ。重力だって操れるんだ」

そんなのありかよ……。

「まだまだだよ、比企谷君」

「タカ!イマジン!ショッカー!タ~マ~シ~!タマシータ~マ~シ~!ライダー ダ~マ~

シ~!」

上半身が赤く、下半身は黄色と黒だ。目は緑。

「魂ボンバーッ!」

砂が混じった灼熱の炎が放たれた。

「Guard Vent」

とっさに盾で防ぐが、炎が触れた瞬間にそれはこなごなに砕け散り、俺の全身を超高熱が襲っ

た。

炎を司るドラグレッダーと契約している俺は、炎攻撃にはかなりの耐性を持っている。盾だっ

て、炎攻撃には特別強いはずだ。

なのに今の攻撃には、一切対抗できなかった。

なんて強さ……。

「こうなったら……」

オレンジ色の炎が俺の周囲を包む。

ドラグバイザーが、ドラグツヴァイへと変化する。

「行きますよ!先生!」

「Survive」

変身を終えると同時、先ほどまでのダメージがどこかへ吹き飛んでいった。

「よし、全力で来い!そしてその力を、完全に君の物にするんだ! 俺も……」

「コブラ!カメ!ワニ!ブラカ~~ワニッ!」

全身黄土色で、目は紫色の、仮面ライダーオーズブラカワニコンボ。

「Swword Vent」

「ヘビ苦手だけど……。いけっ!」

俺の剣を、頭部から伸ばしたヘビで受け止める。

「トァッ!」

腹部に蹴りを入れるが、あまり効いていないようだ。

流石はカメの防御力といったところだろうか。

「これもいいけど、勝負決めれそうにないな……。こっちで行くか!」

「ス~~パー!スーパータカ!スーパートラ!スーパーバッタ!ス~パー、タトバ タットッ

バッ!」

最初に変身したタトバコンボと似ているが、最初は眼が緑だったが、今は真っ赤だ。

そして、体の色もより鮮明になっている。

「一気に行くか」

「スキャニングチャージ!」

バッタの跳躍力を生かし、はるか高くに飛び上がり、そこから急降下キックを放ってくる。

「Guard Vent」

ドラグランザーが現れ、俺の体を超高音の炎で包む。

すごい、とてつもない高温であることはわかるが、俺には一切ダメージがない。

と、そんなことを思った直後、オーズのキックが炎の壁面(?)に衝突した。

それぞれの力は拮抗して、中心部で爆発が起きた。

俺もオーズも勢いよく吹き飛ばされる。

「この攻撃を防ぐか……。流石だな」

「プテラ!トリケラ!ティラノ!プ・ト・ティラ~ノザウル~ス!」

紫色の、少し不気味なフォルムだ。

と、オーズがその動きを止めた。

「……火野先生?」

「これは、この姿はね……。俺がかつて自分を失ったコンボなんだ」

「……」

「本当にひどい有様だったよ。誰も殺さずに済んだのが奇跡に思えるくらいにね。……でも今

は、きちんと向き合えている。だから君も、きっと」

「はい、絶対に」

「よし!いくよ!」

大型の斧を持って突進してくる。

「Swword Vent」

力は完全に拮抗している。

と、その時オーズが背中の翼をふるった。

すると、突如そこから目に見えて冷気が噴射され、俺の足元が凍った。

防御態勢が取れなくなった俺の胸をオーズの斧が深々と抉る。

「ぅっ……ほんと、強いですね」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。でも、サバイブの力が使いこなせてない。まだ、力に

比企谷君の方が動かされてる」

「わかって、ますっ!」

「Advent」

お返しにと、灼熱攻撃を返す。

「うぉっ……。やっぱり、強いなぁ。……比企谷君、次が俺の、最後の、最強の姿だ。[ピーーー]気

でこいっ!……アンク、いくよっ!」

そう言って取り出したのは、この間見せてくれた、真ん中で割れてしまっていた赤いメダルだ。

「タカ!クジャク!コンドル! タ~ジャ~ド~ル~!」

深紅の瞳が神秘的で神々しい。真っ赤に染まったその姿は、まるで太陽のようにまばゆく輝い

ている。

「これが、オーズの……俺とアンクの、最強の力、仮面ライダーオーズタジャドルロストッ!」

「タジャドル、ロスト……」

「ああ、俺の親友がその命を形にしたコンボだ」

「なるほど……でも俺だって負けられない!」

「お互い、次の一撃に全てをかけようか」

「……俺もそう思ってたとこです」

カードデッキから最強の必殺のカードを取り出す。

「Final Vent」

「ハァッ!」

そう叫び、オーズは自らの体から出た六枚の紫色のメダルを放出した。

そしてそれを、右手の円盤型の武器にセットする。

「ウォォォォォッ!」

「プテラ、トリケラ、ティラノ!プテラ、トリケラ、ティラノ!……ギガスキャンッ!」

その声が鳴り終わると同時、オーズは翼を広げて飛び上がる。

「行くぞ!ドラグランザー!」

俺も契約モンスタードラグランザーに飛び乗る。

「ドラグストームファイヤーッッ!」

炎を吐きながらの突進攻撃。これが俺のサバイブ体でのファイナルベントだ。

「セイヤァァーーッ!!」

勢いのある掛け声をオーズが挙げたその瞬間、その背中から何かが分離した。

全身真っ赤の鳥型の化け物だ。

俺は直感的に理解した。これが、火野先生の言っていた「アンク」だ。

アンクはまるで力を分け与えるかのように両手をオーズにかざす。

炎と炎の全力の一撃が衝突する。

瞬間、これまで見たことがないほどの大爆発が起きた。

まさに命をかけた一撃同士がぶつかったというのに、俺の心はむしろ落ち着いていた。

その時、何かが俺の胸の中にストンと落ちて行った気がした。

「この、感覚は……」

「比企谷くん」

「先生」

「……もう、大丈夫みたいだね」

「はい、ありがとうございました」

「俺はこの世界ではあんまり大したことはできない……。だから、っていうのも変だけど、頑

張ってね。大切なものを守るために。この世界の、仮面ライダーとして」

「はい。……ところで、一体火野先生は……?」

「俺は、この世界とは別の世界から来た仮面ライダーだ。……この世界には、本来ライダーは

存在しないはずだった。それを滅茶苦茶にしたのが、この世界の14号ライダー『オーディン』

だ」

オーディン……金色のあいつか。

「本来、龍騎の世界のライダーは13人なんだ。……アビスとリュウガが共存する世界はあり

得ない」

「アビスと、リュウガ……」

「うん、これもオーディンがやったことの弊害だよ。詳しい原理とかは分からないんだけどね、

とにかくそのオーディンを倒さないと、大変なことが起きる。この世界にも、他の世界にも」

「……」

「ごめん、いきなりこんなこと言っても困るよね。とにかく比企谷くんは、今までどおりでい

いんだ。ただ、オーディンにはくれぐれも注意して」

わかってる、あいつのとんでもなさは、俺だって。そしてその正体は、おそらく……。

「はい、わかりました」

「うん、それじゃ、俺はこれで。またね」

「今日は本当に、ありがとうございました」

変身を解いて、火野先生はにっこりと笑った。

「なんだ、これ……」

文見の会議室に入った俺は驚愕した。中には二十人もいなかった。

ひどい連中だとは思っていたがここまでとは……。

「参ったわね……このままじゃ……」

俺のもとにやってきた雪ノ下がつぶやいた。

彼女が言ったことはもっともだが、状況はさらに悪い。このままどころか、これからはもっと

人が減るはずだ。さぼっていいと認識されたら加速度的に出席率は下がる。

俺に脅された先輩は流石に来ていたが。

何らかの手を打たなければならない。

だが、どうすればよいのか、それが誰にもわからない。

なんせ、委員長本人がここにはいないし、副委員長の雪ノ下はさぼってる奴らを補ってなおあ

まりあるほどに優秀だ。

だが、それは大きなリスクをはらんでいる。

エースの雪ノ下がダウンしてしまったら、それが即座に致命傷となる。

もともと彼女は、人よりも極端に体力がない。

このままオーバーワークを続けていれば倒れるのは自明の理だ。

俺もそうさせないよう全力で働いているが……。

と、憂鬱な気分になっていたその時だ。

「失礼します」

良く通る声とともに入ってきたのは、葉山隼人だった。

「有志の申し込み書類を提出に来たんだけど……」

「申し込みは右奥へ」

キーボードを打ちながら、顔を一切上げないままに雪ノ下が告げた。

「……人、減ってないか?」

書類の提出を終えた葉山がふとつぶやいた。

「ああ、まぁな。……誰かさんがステキな委員長を立ててくれたおかげだよ」

「え、なんのことかな?」

葉山は皮肉なまでに輝かしい笑顔を向けてくる。

「……だが、彼女にここまで負担をかけるとは予想外だったな……」

彼のその言葉はとても小さく、ほとんど俺は聞き取ることができなかった。

そして葉山は再び口を開く。

「欠席者が多く、仕事の大半を雪ノ下さんがやっている。これは……」

「ええ、その方が効率がいいし」

顔を上げた雪ノ下が答える。

「……でもそれも、もうすぐ破綻する」

その点に関しては俺も全くの同意見だ。

「そうなる前に、誰かをちゃんと頼った方がいいよ」

にっこりと、今度は心からの笑みで彼は雪ノ下に微笑む。

「そうか?俺はそうは思わない」

俺がそう言うと、葉山は雪の下に気づかれないくらいの一瞬、俺を睨んだ。

「実際、雪ノ下が一人でやった方が早いことも山ほどある。ロスが少ないのは大きなメリット

だ。何より、信じて任せるのは難しいぞ。能力差があり過ぎる場合は特に。……それに、この

文実の連中に、信じるに足る人間はいない」

俺は、人を信じて任せるということができない。その結果うまくいかなくても、自分一人を責

めればいい。あの時あいつがああしていれば、そいつがちゃんとやっていれば、そう後悔する

のはやりきれない。人にされたことでは諦めがつかない。

なら、一人でやった方がいい。

葉山は声には出さず嘲笑し、憐れむような眼で俺を見た。

「それでうまくいくのか?」

「あ?」

「それでうまく行くならそれでもいい。でも、現状回って無いわけだろ?そして、何より失敗

できない訳だ。なら、方法を変えていくしかない」

「っ……」

正論、まごうこと無き正論だ。

こいつの言ったとおりにしたとしても結局のところは失敗するだろう。だが、こちらが間違っ

ているというのも否定できない。

「そう、ね……」

痛いところを突かれたのは雪ノ下も同じようだった。

だが、彼女に頼れる人間はいない。

俺は、現状ですでに手一杯。由比ヶ浜がいれば違っただろうが……。

「だから、手伝うよ」

「部外者にやってもらうのは……」

「有志団体の取りまとめだけ。有志側の代表ってことで」

その提案は魅力的だった。だが、いかんせんその相手が葉山隼人だ。

俺を苦しめる為だけに、ポンコツ相模を委員長にした男。

だが、今回だけは信頼にたるかもしれない。

こいつはどうやら雪ノ下に好意を抱いているらしく、彼女の妨害をするような風には思えない

からだ。

「そういうことなら、やってもらえると助かるな」

いつの間にか近くに来ていた城廻が口をはさんだ。

「どうかな?」

葉山に言われて、雪ノ下はあごに手を当ててしばし黙考する。

「……」

「雪ノ下さん、誰かを頼ることも大切なことだよ?」

彼女は諭すように言った。

葉山の言うことも城廻の言うことも間違っていない。

最高だ、感動ものだ、素晴らしい仲間意識だ。

人に助けられることになれている奴はいい。

躊躇なく人を頼ることができる。

だが、それを盲信的に称賛する気にはならない。

だってそうだろ。

みんなでやることが素晴らしいなら、じゃぁ、一人でやることは悪いことなのか?

どうして、今まで他人の分まで一人でやってきた奴が責められなきゃならない。

どうして、雪ノ下雪乃が責められなければならない?

そのことが、俺は許せない。

「頼るのは大切だが、頼る気しかない奴がいる。頼るんならまだいい。単純に使ってるだけの

奴がいる」

城廻が俺を睨み、腰元に手を当てる。

「……やめろ。あんたじゃ俺に勝てないことはわかってるはずだ。それに、もうそういうのは

やめだ」

戦う意思がないことを示す為、俺は両手をぶらぶらと振ってみせた。

「……確かに、雑務などにもしわ寄せが行っているようですし、一度振り分けを考え直します。

それと、葉山君の申し出、受けさせてもらいます。……ごめんなさい」

その謝罪は、誰に向けられたものだったろうか。

彼女が謝る必要など、無いのに……。

「……」

会議室の中を見回した俺は、再び嘆息せざるを得なかった。

出席者はさらに減っている。比較するまでもない。

雪ノ下を除けば、残りは執行部と数人しか見当たらない。

「そう、ね……」

痛いところを突かれたのは雪ノ下も同じようだった。

だが、彼女に頼れる人間はいない。

俺は、現状ですでに手一杯。由比ヶ浜がいれば違っただろうが……。

「だから、手伝うよ」

「部外者にやってもらうのは……」

「有志団体の取りまとめだけ。有志側の代表ってことで」

その提案は魅力的だった。だが、いかんせんその相手が葉山隼人だ。

俺を苦しめる為だけに、ポンコツ相模を委員長にした男。

だが、今回だけは信頼にたるかもしれない。

こいつはどうやら雪ノ下に好意を抱いているらしく、彼女の妨害をするような風には思えない

からだ。

「そういうことなら、やってもらえると助かるな」

いつの間にか近くに来ていた城廻が口をはさんだ。

「どうかな?」

葉山に言われて、雪ノ下はあごに手を当ててしばし黙考する。

「……」

「雪ノ下さん、誰かを頼ることも大切なことだよ?」

彼女は諭すように言った。

葉山の言うことも城廻の言うことも間違っていない。

最高だ、感動ものだ、素晴らしい仲間意識だ。

人に助けられることになれている奴はいい。

躊躇なく人を頼ることができる。

だが、それを盲信的に称賛する気にはならない。

だってそうだろ。

みんなでやることが素晴らしいなら、じゃぁ、一人でやることは悪いことなのか?

どうして、今まで他人の分まで一人でやってきた奴が責められなきゃならない。

どうして、雪ノ下雪乃が責められなければならない?

そのことが、俺は許せない。

「頼るのは大切だが、頼る気しかない奴がいる。頼るんならまだいい。単純に使ってるだけの

奴がいる」

城廻が俺を睨み、腰元に手を当てる。

「……やめろ。あんたじゃ俺に勝てないことはわかってるはずだ。それに、もうそういうのは

やめだ」

戦う意思がないことを示す為、俺は両手をぶらぶらと振ってみせた。

「……確かに、雑務などにもしわ寄せが行っているようですし、一度振り分けを考え直します。

それと、葉山君の申し出、受けさせてもらいます。……ごめんなさい」

その謝罪は、誰に向けられたものだったろうか。

彼女が謝る必要など、無いのに……。

「……」

会議室の中を見回した俺は、再び嘆息せざるを得なかった。

出席者はさらに減っている。比較するまでもない。

雪ノ下を除けば、残りは執行部と数人しか見当たらない。

「相模さんの提案、ちゃんとだめっていうべきだった……」

近くにいた城廻がため息をついた。

そして視界に俺の姿を認めると、こちらに近づいてきた。

……何だ?

「比企谷君」

「なんだよ」

「この間は、ごめんなさい。あなたを、最低なんて言って……。間違ってたのは、私だったね

……」

「わかればいい。ただ、手遅れ感はあるけどな……」

「ちゃんと来てくれてる人もいるから、頑張らないと……。比企谷君にも期待してるよ?」

「そいつはどうも」

「……2F担当者。企画申請書類がまだ出ていないのだけれど」

と、雪ノ下の声に我に返る。

その担当は相模だったはずだが、まぁ彼女が仕事などするはずもない。

「……悪い、俺書くわ」

「そう、本日中に提出」

記入事項をサーっと呼んでいく。

……なるほど、わからん。

書類に記入するため、俺は教室へと向かった。

文化祭前の教室と言うのはバタバタしている。

「もう男子、ちゃんとやってよ!」

葉山グループに所属する大岡(童貞風見鶏)をはじめとする数人の男子が相模に怒られていた。

あいつ、こっちに来てたのか。

まぁ、居てもいなくても同じだが。能力差というのは、どこまでも残酷だ。

と、本来の目的を思い出し、由比ヶ浜の姿を探す。

ガハマ、ガハマ……っと。

あ、いた。

「由比ヶ浜」

「あれ?ヒッキ―、仕事終わったの?」

「仕事に終わりは無いんだよ」

「何言ってんの?」

「……まだ仕事だ。すまんが、ちょっとこれ教えてくれ」

由比ヶ浜に書類を見せる。

「それって急ぎ?ていうか、隼人君達もいるの?」

「ああ」

「ならそっちでやろうよ。ここ騒がしいし」

会議室に戻り、由比ヶ浜に企画のレクチャーを受ける。

まさかこいつにものを教わる日が来るとは……。

言われたとおりにやっているつもりなのだが、由比ヶ浜はイラストなどにうるさかった。

美術2の俺にそんなに求めるなよ……。

「だから違うって!装飾はもっとバーンと!」

「わかんねぇ……」

ていうか、俺の能力以前にこいつの説明能力が低すぎる気が……。

「それにここ、人数も間違ってるよ」

「由比ヶ浜に指導されると言うのは、堪える物があるな……」

「なんだと!?いいから早くやる!」

まじめにやっている生徒がいると言うのは執行部にも励みになるのか、今日はずいぶんいい雰

囲気が流れていた。

そして、その空間を引き裂くように、扉を開く無機質な音がした。

「遅れてごめんなさーい。あ、葉山君こっちにいたんだー」

文実を滅茶苦茶にした元凶、相模がやってきた。

いつもの二人のお供を従えて、久しぶりの登場だった。

「相模さん、ここに決裁印を。不備は無いと思うわ。こちらで直しておいたから」

「そう?ありがとー」

葉山との会話を邪魔されたからかいきなり仕事の話をされたからか、相模はしばし無表情でい

たが、すぐに取り繕うと笑顔で書類を受け取った。

ろくに確認もせずに相模はハンコを押していく。

「ほらヒッキー、速くやってよ」

由比ヶ浜が俺の目の前でポンと手を叩く。

「そもそも俺の仕事じゃないんだけどな……」

だが、それを由比ヶ浜に言ってもどうにもならない。

これ、相模の仕事だったんだけどな……。

「ヒッキー、手止まってるよ。ほら、急いで」

「下校時刻まで後二十分……」

雪ノ下と由比ヶ浜にそろってせかされる。

「まぁ、クラスの方出れてないから多少手間取るのは仕方ないよな」

葉山が俺をフォローするが、お前それここに雪ノ下がいるからだよね?

「うち、実行委員長だから―。任せちゃう部分もあるけどよろしくねー」

相模が汚い声で俺に言う。

「……ああ、そういえばお前実行委員長だったのか。全然仕事やって無いから気付かなかった

わ」

「はぁ?今あんたなんて?」

「その通りだろうが。テメェがやった仕事、いくつあるんだよ」

「……っ!お前みたいなやつが、私に意見するなっ!」

怒った相模がそういうと同時、鏡からサメのモンスターが出現した。

こいつが、雪ノ下を襲った犯人だったのか。

「ドラグレッダーッ!」

現れた炎の龍が敵の攻撃を阻止する。

「グガァァアーッ!」

「……あんたもライダーだったのか。だったら、潰すっ!」

「お前のせいで、文実も俺らもめちゃくちゃだ。そのむくいは、受けてもらうぞ」

「「変身!」」

相模南には思うところが多々ある。

こいつのせいで雪ノ下は苦しんだ。

文実は空中分解し、俺は毎日仕事に追われている。

そして何より……お前みたいな生き方、気に入らないんだよこの野郎。

「「Swword Vent」」

「自分の自己満足のために他人を犠牲にし、全てを台無しにした……さぁ、お前の罪を数えろ!」

「今更数え切れるかっ!」

激しい衝撃音を立て、俺と相模の剣が衝突する。

それから数号斬り合ってわかったことがある。

こいつと契約しているモンスターの力は強大だ。だが、ライダー本人の力が著しく欠如してい

る。

動きにあまりに無駄が多い。

見事にライダーの力を使いこなしていた火野先生との戦闘の後だったから、俺の目には余計そ

れが目立った。

「現実世界でもダメなら、こっちでもダメダメライダーだな、相模っ!」

「教室の隅っこで黙ってるしかできないぼっちのお前が何を偉そうにっ!」

ああ、やはり彼女はわかっていない。

「そうさ、俺はどんなことだって一人で受け止めてきた。お前らが熱いだの寒いだの登下校中

に話し合ってごまかしてるのを、俺は一人で耐えていた。わかってたまるかよ、テストのたび

にバカだのガリ勉だのと茶化しあっているのに、俺だけは真摯に自分のやってきた結果と向き

合って来たんだぜ?……その俺が、お前なんかに負けるはず無いだろうがっ!」

想いをこめた一撃が、相模の胸を深々とえぐる。

「これが、俺とおまえの積み重ねてきた物の違いだっ!」

「あんたなんかに、説教される覚えは無いっ!」

「Advent」

「ドラグレッダー!応戦しろ!」

「Advent」

サメのモンスターが俺を襲うのを、ドラグレッダーが止めた。

一瞬、油断していたかもしれない。

「ガァァァアアッ!」

「なっ!?」

後方から出現したサメの体当たりを、俺は何の防御態勢もとらずに受けてしまった。

「二体目の、モンスター……?かはっ」

「甘いんだよ、あんた。目障りだから、とっとと[ピーーー]っ!」

鋭い剣を携えて、相模がこちらに走ってくる。

「負けられないんだよ、俺はっ!」

「Survive」

業火が俺の周りを包む。

突如現れた炎に、相模も止まらざるを得ない。

「絶望が、お前のゴールだ。相模」

「何わけの分かんないこと言ってっ!」

「Shoot Vent」

「行くぞ!ドラグランザー!」

俺の持つドラグツヴァイとドラグランザーの口から放たれる二重の高火力攻撃。

「うっっ!」

胸部を狙ったその攻撃は、彼女の両手で阻まれてしまったが、それでも相当のダメージを与え

られたはずだ。

「くそっ!」

「Strike Vent」

相模の右手に装着されたサメ型の武器から大量の水が放射される。

以前見た物より勢いは無いが、おびただしい量を出している。

水に押されるようにして、俺も相当の距離後ろに下がってしまった。

少しすると収まって、彼女の姿を探したが、相模はもうどこにもいなかった。

「逃げたか……まぁ、[ピーーー]つもりなんて無かったしな」

「うっ……」

現実世界に帰還した俺は、突如虚脱感に襲われた。

不思議に思い、全身を見渡すと、右手から血が流れていた。

「なんだ、これ……」

こんな場所に攻撃は受けていないはずだ。

と、俺が思索にふけろうとしていたまさにその時。

ドアを開く無機質な音が再び響いた。

「ひゃっはろ~!」

雪ノ下、陽乃っ……。

「あっ、比企谷君だ~。ひゃっはろ~!」

「……んだよ」

「おやおや~、その傷はどうしたのかな~?もしかして、サバイブのカードを使いすぎてるの

かなぁ~?」

「んなっ、てめえ、そんなものを渡しやがったのかっ!」

「当たり前じゃな~い。強大な力にはリスクが伴う物なのです。使えば使うだけ、体がむしば

まれていくよ?」

何でもないことのように、さらりと言ってのけた。

「……姉さん、何の用かしら」

「もう、雪乃ちゃん、そんなに邪険にしないでよ~」

「あなたがやってきたことを思えば、その位当然だと思うのだけど」

「ひどいな~。せっかくすごいニュースをもってきてあげたのに」

「……ニュース?」

「そうだよ~。雪乃ちゃんの大好きな小川絵里さん、意識が戻ったみたいだよ?」

「……っ!?それは、本当かしら?」

「大好きな妹に嘘なんかつくわけないじゃな~い。それに、そんな嘘ついて私に何か得がある

の?」

「……」

陽乃に言葉を返すことは無く、雪ノ下は駆けだした。

「あっ、ゆきのんっ!」

「ガハマちゃ~ん。雪乃ちゃんの行った場所、知りたい?」

「はい!教えてください!」

「うんうん、ガハマちゃんは素直でいいね~。場所はね……」

雪ノ下陽乃に場所を聞いた俺達は雪ノ下の後を追った。

「ゆきのん……」

たどり着いた俺と由比ヶ浜が見たのは、病人服を着た一人の女性と、そんな彼女に向けて今ま

で見たことがないほどの笑顔を向けている雪ノ下の姿だった。

「……よかったよな。これで、あいつが戦う理由もなくなる」

「うん、ほんとに」

雪ノ下は俺達に気づいていないようだった。

と、そんな彼女に一人の男が近づいていった。

服装から見るに、この病院の医者だろう。

彼は二言三言話すと、雪ノ下とともに別室に移動した。

「俺達も、今日は帰るか」

「そだね。本当に、よかった……」

病院を出ようとロビーに降りた時、見知った顔を確認して俺は足をとめた。

それは、医者と話している平塚静の姿だった。

会話を終えて彼女がこちらに近づいてきたので、俺はとっさに由比ヶ浜とともに身を隠した。

幸い平塚はこちらに気づくことなく通り過ぎていった。

「すいません」

先程まで平塚と話していた医者に俺は声をかける。

「ん、どうしたんだい?」

「先程の女性……平塚静さんはどこか悪いんですか?」

「ん?君達は彼女の知り合いかい?彼女はね、心臓に重い病を患っているんだ。どんなに長く

ても、一年ともたないだろう」

「そんな……」

由比ヶ浜が驚嘆の声をもらす。

「っと、僕は次の診療があるからこれで」

言い残し、気のよさそうな彼は去っていった。

「……平塚の戦う理由、永遠の命って……生き延びる、ため、だったんだな……」

「うん……。平塚先生のやったことって、許せない、けど……やらなきゃ、自分が死んじゃう

ん、だったら……なんか、わかるって、いうか……」

「そう、だな……」

どんな理由があっても彼女の罪は消えない。だが、彼女にもきちんとした戦う理由はあったの

だ。それをエゴだと言いきるには、俺はあまりにも死というものに触れあいすぎた。

「今日はもう、帰ろうぜ。家まで送る」

「うん、ありがと」

由比ヶ浜を自宅まで送り、自室で仮眠をとっていた俺は、メールの着信音によって起こされた。

『今から学校で会えませんか? 雪ノ下雪乃』

時刻はすでに八時を回っている。彼女が俺に連絡を取ってくるなんてとても珍しいことだし、

しかもこんな時間に会うなどということは、なかなか考えられることではない。

何かあったのかと不安に思った俺は、とる物もとらずに家を飛び出した。

俺が校庭につくと、そこにはとてもはかなげな様子で立っている雪ノ下の姿があった。

「どうしたんだ、こんな時間に」

告白などという考えは毛頭ないのがぼっちの悲しいところではある。

「……今日病院で、絵里さんの病状についての説明を受けたわ」

「ああ」

「今は偶然意識が戻っているだけで、またすぐに意識を失う、とのことだったわ」

「……」

それじゃ、何も解決してない、ってことか……。

「私はもう、あの人の苦しむ姿を見たくない……。こんなことをいう自分に、とても嫌気がす

るのだけど……比企谷君」

彼女の眼には、もう迷いは無く。その瞳はどこまでも美しくて。

「私と、戦って」

初めて彼女と戦った後のあの部室の様子が俺の脳にフラッシュバックする。

あの時とは、随分変わった。

俺は彼女を認めるようになったし、そして、きっと彼女も……。

なら、だからこそ俺は。

「わかった。お前の戦いの重さ、俺が受け止めてやる!戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」

カードデッキをかざす。これがきっと、彼女に俺がしてやれる一番のことだから。

「比企谷君……」

「全力で行くぞ、雪ノ下」

「ええ」

「「変身!」」

ミラーワールドに移っても、俺達はしばし互いを見つめあっていた。

「Swword Vent」

雪ノ下が槍をつかむ。

しばし逡巡した後、彼女は少しずつこちらに近づいてくる。

「Swword Vent」

「うおおぉぉっ!」

「はぁぁああっ!」

互いの思いを込めた一撃がぶつかり合う。

相模の攻撃とは重みがまるで違う。

彼女もまた、一人で果敢に挑んできた者だから。

理不尽で腐った世界を変えようと、自らの力だけを信じて、努力を続けてきた者だから。

「「はぁぁぁあぁぁっっっ!」」

互いに剣を交えるこの瞬間、俺は彼女との心の距離が近づいているような気すらしていた。

雪ノ下は男女の力の差など物ともしない。

彼女に対してそんなことを考えることさえ、冒涜に当たるだろう。

俺達の力は完全に拮抗し、そしてのちに互いに距離をあける。

そしてまた、衝突。

そんな攻防が三度ほど続き、

「Strike Vent」

俺は攻め手を変えた。

距離をあけての炎攻撃。

雪ノ下の苦手とする間合いでの戦闘。

彼女は、全力の、一切手抜きなどしない勝負を望んでいる。

ならば、自分の得意なフィールドに持ち込もうとすることは、決して悪いことではないはずだ。

立て続けに炎を放射する。

しかし、雪ノ下はさすがだった。

見事な身のこなしで攻撃をことごとくかわし、次第に接近する。

当然、彼我の距離が狭まれば被弾率も上がるはずなのだが、彼女にとってはそれすら関係ない。

「Nasty Vent」

ある程度距離がつまったところで、彼女得意の超音波攻撃が放たれた。

ふらつく俺に、彼女は容赦なくやりでの一撃を浴びせる。

だが、俺だって伊達に彼女と居たわけではない。

攻撃を受ける瞬間、ドラグクローで雪ノ下の腹部を全力で突いた。

「うっっ……」

俺達は二人して倒れ込む。

「やるわね、比企谷君。まさかあそこでカウンターとは……」

「へっ、ぼっちの適応力なめんな」

「ふふ、それはあなたの力よ」

「ありがとよ」

「やはり、あなたは……」

彼女の最後の言葉は聞こえなかった。代わりに俺の耳に入ってきたのは、激しい風の音。そし
て、

「Survive」

水色と金色のフォルム。『ナイト』の名の通り、騎士を思わせる姿だ。

「やめろ、その力はっ!」

「わかってるわ。この力が危険なものだということくらいは」

「なら、なんでっ!」

「あなたとの戦いで、一切出し惜しみしたくない。持てる力、全てを使いたい」

「見込まれたもんだな、俺も」

そんなこと言われたら、こっちだって応えない訳にはいかない。

激しい業火が俺を包む。

「いくぜ、雪ノ下」

「Survive」

「Shoot Vent」

「Blast Vent」

俺とドラグランザーが吐き出した炎が、雪ノ下の契約モンスター、ダークウイング、いや、ダ

ークレイダーが生み出した強風によって軌道をそらされる。

「はぁっ!」

そして雪ノ下はその風を利用して、高威力の急降下キックを仕掛けてきた。

とっさに腕でガードしたが、なかなかのダメージだ。

「……やるなぁ」

「感心している、場合かしら?」

「わーってるよ」

「「Swword Vent」」

再び剣と剣が衝突する。

その体勢のまま、俺は口を開く。

「……なぁ、雪ノ下」

彼女は言葉を返さない。

「何言ってんだって思うかもしんねぇけどさ、俺、今最高に楽しいよ」

「何を言ってるのかしら?あなた、マゾヒスト?」

「こんな時まで、変わんねぇな」

「人の本質は変わらない、というのはあなたの弁ではなかったかしら?でも、私も同感よ。他

のライダーと戦うのとは違う。あなたとこうしてぶつかり合うのは、最高に楽しい」

彼女のその言葉を引き金にして、俺達は少し身を離す。

「……なぁ、雪ノ下」

「なにかしら」

「もしよかったら、俺と、俺と友達に……」

「ごめんなさい、それは無理」

「またかよ……。最後まで言ってないのに」

「でも、この戦いが終わってあなたが立っていられたのなら考えてあげてもいいわ」

「そりゃ、俄然やる気が出るな」

「さぁ、おしゃべりは終わりよ。そろそろ、決めましょう」

「ああ、そうだな」

万感の思いを込めて、カードデッキから一枚のカードを抜き取る。

「「Final Vent」」

「グガァァアァッッ!」

「キィイィイイッ!」

俺達のモンスターがたがいににらみ、咆哮を上げる。

ほぼ同じタイミングで、俺と雪ノ下はモンスターに飛び乗った。

そして、ドラグランザーとダークレイダーがバイク型の姿に変形する。

ドラグランザーはウィリー走行をしながら炎を、ダークレイダーは機首部からエネルギー弾を

放出し、互いに向かって距離を縮めていく。

「「ハアアアァァァァッッ!」」

バイクとバイクが、互いの必殺技が激突する。

刹那、今までにないほどの規模の爆発が起きた。

爆風によって思い切り吹き飛ばされる。あまりに負荷が大きく、サバイブ体から通常の姿に戻

っていた。

薄れていく意識の中で、俺は立ち上がった雪ノ下を見つけた。

彼女はふらふらとした足取りで、だが確かな意思をもって、こちらに向かってくる。

その手には、彼女の得物「ウイングランサー」が握られている。

「……こ、れで」

「くっ」

「Swword Vent」

正直もう抗う気はないが、最後までしっかり戦わなければ、彼女は戦いのあとで自分を責める

だろう。

それは俺の本意からは程遠いものだ。

剣を胸の上に掲げ、そして静かに目を閉じた。

仮面の上からはわからないはずだ。

終わりを飾ってくれるのがお前だったというのなら、俺の人生もなかなかに良いものだったの

だろう。

「カァン!」

雪ノ下の槍が俺の剣をはじく。

感覚で、喉笛の上に槍が構えられていることが分かる。

いよいよか……。

「……?」

しかし、いつまでたっても攻撃は訪れない。

その時、カランカラン、という槍が地面に落ちる音がした。

「雪ノ下……?」

「絵里姉さん……ごめんなさい、私には、できない……」

その場に崩れ落ちようとする雪ノ下をあわてて受け止める。

「おい!大丈夫か!」

「……殺し合いをしていた相手に救われるなんて、私も落ちたものね……昔のわたしなら、こ

んなことは無かった。弱く、なったのかしら……」

「そんなこと無い、お前は、間違ってないよ。絶対」

「比企谷君……」

「今はまだ、保留でいいんじゃねぇの?お前がどうしてもって思ったら、またいつでも相手に

なるから」

「そう、ね。友の言うことなら、聞いてあげるのもやぶさかではないわ」

「お前、今……」

「ふふ、冗談よ。でも……」

「んま、今はそれでもいいや。戻ろうぜ、俺達の世界に」

そして翌日の実行委員会。

心なしか雪ノ下の表情は晴れやかだ。

そんな彼女が視界に入ると、俺は気恥ずかしくて思わず目をそらしてしまう。

何これ、こそばゆい……。

と、俺達がいつもと変わろうと文実の様子は変わらない。

今日の議題は、文化祭のスローガンだ。

結構前に決まっていたのだが、これにいちゃもんがついたのだ。

『目覚めよ、その魂!~総武高校文化祭~』

……そりゃアウトだろう。だってこれアギトの奴まんまだし。

なんなら、人類の為に!とか言い出すまである。

どこぞの奴をそのまま持ってくるのはどうなのかという話になり、最終的にNGとなった。

NG、NG、GN粒子っ!俺がっ、俺達がっガンダムだっ!

この問題に対して対策すべく、急遽招集がかかった。

久しぶりに全員がそろったのではないだろうか。

オブザーバーとして、葉山と陽乃という超特大の余計な物まで付いてきたのが悩みの種だ。

そしてこのことは、文実に秩序が失われていることの何よりの証でもあった。

少なくなる一方のメンバーで何とか回していたこの状況でこの一件はとどめの一撃となった。

「それでは会議を始めます。本日の議題は、連絡の通りスローガンについてです」

雪ノ下の凛とした声が響き渡る。

まずは挙手でアイデアを求めるが、積極性の墓場と化したこの集団ではそれも難しい。

その様子を見かねた、というか雪ノ下のポイントを稼ごうとした葉山が発言する。

「いきなり発表っていうのも難しいと思うし、紙に書いてもらったら?説明は後でしてもらっ

て」

「そうね……。では、時間を取ります」

各自に紙が渡される。時期を見て雪ノ下がそれを回収して、生徒会執行部が内容をホワイトボ

ードに書いていく。

『みんなの笑顔の為に!』

『Open your Eyes For The Next φ」

『運命の切り札をつかみ取れ!』

『ウェーーイ!』

『天の道を往き、総てを司る』

『さぁ、お前の罪を数えろ!』

……ふざけ過ぎだろ。何でスローガンがアウトになったから考えろよ……。

ていうかウェーイってなんだウェーイって。ただの口癖じゃねぇか。

『小夜子ぉぉぉっ!』

これは書くまでもなかったよね?

何で橘さんの決め台詞を持ってきちゃったの?

そんなふざけた中でも、いくつかは真面目に書かれたと思われる物もある。

『八紘一宇』

うわぁ、誰が書いたか一発でわかるぅ。これが友情の力か!……絶対に違う。

と、みんながそれぞれのスローガンの案を見ている中に、これ見よがしの咳の音が響き渡った。

相模南だ。

「じゃぁ、最後。うちらの方から。『絆~ともに助け合う文化祭~』

相模は自分たちで考えた案を発表し、板書しはじめる。

「ははっっ!」

それを見た瞬間に、全くの無意識で笑いがこぼれ出た。

俺の反応に周囲がざわついた。

その嘲笑めいたざわめきが彼女の神経を逆なでする。

となれば、その発端であり立場が弱い俺のもとに矛先を向けるのは自明の理。

「……何かな?何か変だった?」

どうにか笑顔を取り繕ってはいるが、相模はだいぶ頭にきているらしく、頬がひきつっている。

「いやぁ、別に……くくっ」

言いかけてやめる、それも文句ありげに。これが相手を最も苛立たせる反応であることは経験

で知っている。

言葉では伝えられない物がある。

それはいつか平塚が言った言葉だった。

国語教師だからこそ、言葉の無力さを知っている、と。その時俺は皮肉交じりの返答をしたが、
その言葉は全くもって正鵠を得ている。

俺は知っている。言葉を用いずとも意思を伝える方法を。

休み時間の寝たふり、頼みごとをされた時のいやな顔、仕事中のため息。

語らずとも、いつだって俺は言外に意思表示をしてきた。

「何か言いたいことあるんじゃないの?」

「いや、まぁ、別にぃ」

最後の語尾を伸ばす彼女の腹立たしい口調の真似もしてやった。

「ふーん、そう、いやなら意見だしてね」

そうかい、なら言ってやんぜ!

『人~よく見たら片方楽してる文化祭~』

瞬間、世界が凍った。

あれ、俺って葉山だったっけ?おーい、フリーズベント使ってませんよ~?

雪ノ下でさえ、ポカンと口をあけている。

「あっははははははっっ!バカだ!バカがいるっ!もう最高!あっははは!」

雪ノ下陽乃が彼女らしくもなく大笑いする。

火野先生は驚いた様子で俺を見ている。

「えっと……、比企谷君、説明してもらっていいかな?」

火野先生に促されて、俺は彼に軽く頭を下げてから説明を始めた。

「いや、人という字は人と人とが支え合って、とか言いますけど、片方がよりかかってるじゃ

ないですか。だから、誰かを『犠牲』にすることを容認しているのが人という字だと思うんで

すよ。だからまさに、この文実にふさわしいんじゃないかと」

「……犠牲っていうのは、具体的には?」

「俺とか超犠牲でしょ。アホみたいに仕事させられてるし、ていうか人の仕事押し付けられて

るし。それとも、これが委員長の言うところの『助け合う』ってことなんすかね。俺は少なく

ともこの場にいる誰にも助けられたことが無いので分かんないんすけど」

まぁ、正確にいえば火野先生と雪ノ下は別だがそれは今はいいだろう。

全員の視線が相模へと集中する。

彼女を信用している者は、委員長に値すると思っている物は一人もいない。

ざわつきが駆け巡る。

と、しばらくすると視線の行く先は相模から雪ノ下へと移動する。

一人で今まであらゆる問題を片付けてきた彼女はいったいどんな決断を下すのか。

「比企谷君」

俺を見つめる吸い込まれそうな瞳。

ほのかに上気した頬。ほころぶような笑みをたたえた口元。

そんなどこまでも美しい彼女が紡いだ言葉は、

「却下。下の下ね」

最後の一言はいらなかったんじゃないですかね……。

と、思い出したように彼女は付け足す。

「ただ、面白くはあったわ。少なくともどこかの誰かが出した欺瞞だらけのアイディアよりは

ね」

そう言って彼女は相模を一瞬見て、侮蔑の表情を浮かべる。

「今日は、解散にします」

「え、でも……」

相模があわてて雪ノ下の言葉を止める。

「どの道この場では決まりっこないわ。各自で考えてきて、明日決めましょう。以降の作業は

全員参加に戻せば、遅れは十分に取り戻せる」

雪ノ下は教室を見渡す。

「異論はありませんね?」

その迫力に、誰も言い返せる者はいなかった。

僅か一瞬の間に、全員が強制参加を承諾させられた。

やはり彼女の辣腕には舌を巻かざるを得ない。

「残念だな……少しわかりあえてた気がしてたのに。まじめな子だと思ってたよ」

悲しそうに城廻めぐりがつぶやいた。

「少し相手のことを知っただけでわかったような気になってたら、いつか手ひどいしっぺ返し

を食らう。早く気付いてよかったな」

俺の言葉に、彼女は返さない。

こんな空気に耐えられなくなって、俺はバッグを持って立ち上がった。

会議室から出ようとすると、雪ノ下に呼び止められた。

「いいの?」

「何がだ?」

「……誤解は解いた方がいいと思うわ」

「解が出てる以上、もうその問題は終わってんだ。それ以上はどうしようもない」

「どうでもいい時ばかり言い訳して、大事な時ほど何も言わないのね」

「不言実行って奴だ。それに、俺はあいつが嫌いだ」

「でも、それは少し卑怯だと思うわ。それじゃぁ相手も言い訳できないじゃない。私だって、

最初はあなたのこと嫌いだったけど……」

言ってる途中で恥ずかしくなったのか、雪ノ下は口を閉じた。

「言い訳なんて意味ねぇよ。大事なことほど人は勝手に判断する」

「そうね、そうかもしれない……」

少し間をおいて、彼女は言った。

「なら、もう一度問い直すしかないわね」

初めてできた友のその言葉の意味をかみしめながら、俺は帰路に就いた。

翌日の委員会で新たなスローガンが決定した。活性した長時間の議論の末、最後は皆疲れ果て

ながらも何とか一つの形にまとめられた。

『すべとを壊し、全てをつなげ!青春スイッチオン!』

なんか最後の一言が材木座の声で再生されたのは俺だけだろうか。

ていうかこれ本当にいいんだろうか……。

多少不安に思わないでもないが、これが委員会の出した結論だ。

一応は相模の指示のもと、文実が再スタートする。

この前までとは別人のように皆やる気に満ち溢れていた。

「野郎ども!ポスターの再制作だ!」

このスローガン決めが結束を固める儀式にでもなったようだ。

「ちょっと待てぃ!予算が追いついてない!」

「馬鹿野郎!そろばんなんて後で引け!俺は今なんだよ!アストロスイッチ、オーーン!」

いや、アストロスイッチは押しちゃダメだろ。

一方俺はボロカスに陰口をたたかれ、シカトにハブにされていた。

が、これはいじめではない。我が校にいじめは存在しない。

仕事を振ってくる際も声をかけずにそっと置いていく。

非難はするが仕事はさせる。

大したもんである。

「やぁやぁ、しっかり働いてるかね?」

雪ノ下陽乃が俺のもとにやってきた。

「見たらわかんだろうが。どっかいけ」

「あー、なるほど……しっかりはやってないみたいだね」

「なんでだよ、超やってんだろうが……」

「だってこの議事録には比企谷君の功績が入ってないじゃない」

「はぁ……。俺は特に何かやったつもりはねぇよ。それにそういうのは、言葉にすればするほ

ど泡より軽くなる」

「ふふ、やっぱり面白いなぁ君は。さてここでクイズです!集団を最も団結させる存在はなん

でしょう!」

「さぁな、あんたと問いかけなんかしたかねぇよ」

「ふ~ん、わからないんだ~?」

「もうそれでいいわ。俺はあんたの妹と違ってそんな挑発には乗らない」

と、その瞬間。

俺の目の前に大量の書類が積まれた。

「私が、何かしら、比企谷君?」

こっわぁぁぁぁっ!雪ノ下さんマジパねぇ!

「いや、多すぎだろ」

「私はあなたの能力を評価しているのよ」

そんな笑顔で言うんじゃねえよ。思わずひきうけちまいそうになるだろうが。

「絶対に嘘だ……」

「本当よ、とにかく、それを今日中に」

「ああ、世界の悪意が見えるようだ……」

雪ノ下のもとで働いていると、ブラック企業の労働環境がぬるま湯にさえ思えてくる。

「しょうがないな~、私も手伝ってあげましょー!」

「姉さん(あんた)は邪魔だから帰って(帰れ)」

「ひっど―い!でも二人とも息ぴったりだね!お似合いですな~、ま、勝手にやっちゃうんだ

けどね」

そう言って俺の書類を半分かっさらう。

おお、こいつ初めて役に立った!

「……はぁ、やるなら予算の見直しがあるから、そっちにして」

そう言って、別の書類を陽乃に渡す。

当然のごとく俺のもとに仕事が帰ってくる。

「あ、比企谷君」

満面の笑みで彼女は、

「これ、おまけ」

更なる書類をご丁寧に渡してくれた。

ブラック委員会に努めているんだが、俺はもう限界かもしれない。

一日一日と過ぎていき、寒くなる気温とは裏腹に文実はどんどん熱を帯びていく。

ドアも終始あけっぱなしだ。

中ではてきぱきと仕事をさばく雪ノ下がいる。その横では飾り物のように座っている相模の姿

もある。

そして今日も奴は、雪ノ下陽乃は当然のごとく来ていた。

城廻と相談しているようだ。

俺も教室に入りシフト表を確認していると、その間にもひっきりなしに人が出入りする。

「副委員長、ホームページ、テストアップ完了です」

「了解。相模さん、確認して」

言いながらも、雪ノ下自身でもチェックをする。その気持ちは手に取るようにわかる。

「問題無いですね。本番移行してください」

相模の指示を待たずに雪ノ下が発言する。

相模はそれを当然のように見ていた。

「雪ノ下さん、有志の方、機材がたんない!」

一つさばくとまた一つ。

しかしその中には、相模に許可を求める声は無い。

「それは管理部と交渉を。こちらへは報告だけで結構です」

そんな彼女に、後ろから忍び寄った陽乃が声をかける。

「さっすが雪乃ちゃん、やっぱりわたしの妹だね~。私が委員長だった時みたい」

それは何と、不遜な発言だろうか。俺は頭に血が上るのを感じていた。

「……あなたの妹だから、ではないわ。思い上がりも大概にしてほしいわね」

「……ふ~ん、言うようになったね」

「いつまでも相手を取るに足らない物と断ずる。それがあなたの弱さよ、姉さん」

「ふふっ、なら、私に勝てるつもりでいるのかな?」

笑ってはいるが、その目はすでに冷たい色を放っている。

そして静かに、ポケットに手を入れた。

「「……っっ!!?」」

近くで見ていた雪ノ下と、その様子を眺めていた俺は、同時に驚嘆の声を漏らした。

彼女がとりだしたのは、やはりというかなんというべきか、ライダーである証のカードデッキ

だった。

そして、その色は茶色。中央には、金の不死鳥のエンブレム。

「仮面ライダー、オーディン……」

世界をゆがめた、張本人。

おそらく、ライダーバトルを始めた者。

「お前がオーディンだったのかっ!」

走ってこっちに向かって来たのは、火野先生だ。

今までに見たことのないような怖い顔で、陽乃を睨んでいる。

「お前は、お前だけはっ……」

メダルをデッキに入れて、変身の動作を取る。

そんな彼の肩を、陽乃はゆっくりと叩いた。

「やめようよ、オーズ。この世界のライダーじゃないあなたには、何もできないんだから」

「……くっ」

悔しそうに唇をかみしめて、火野先生は一歩後ろに下がる。

そんな彼に変わるようにして、雪ノ下が一歩前に出る。

「あなたがどんな力を持っていようと、私がやることに変わりは無いわ。あなたを倒す、それ

だけよ」

「ふ~ん、あの弱そうなコウモリで?」

「甘く見ないことね、私にはまだ、由比ヶ浜さんからもらった」

「サバイブ疾風、だね?フフッ、どの道一緒だよ~。サバイブのカードは、オーディンの力を

一部使えるようにするだけの物なんだから。オリジナルに勝てるわけないでしょ?って、喋り

過ぎちゃったかな?はぁ~、可愛い妹にはつい甘くなっちゃうんだよね~」

サバイブが、オーディンのもの……。確かにそれは頷けることではあった。

サバイブの力は確かに圧倒的なものだが、それをもってしてもあのオーディンにはかなう気が

しなかった。

だからといって降参する気もさらさらないが。

「だったらそれが本当かどうか、試してみる?」

「もぉ~、雪乃ちゃんったらせっかちなんだから。しょ~が無いな~、他ならぬあなたのいう

ことだし、その勝負、受けてあげるよ。特別なんだからね?最後に残ったライダーと戦う予定

だったのになぁ~」

「御託はいいわ」

「待て、俺も一緒に戦う」

俺も雪ノ下の元に駆け寄る。

「比企谷く~ん。うーん、残念だけど今は遠慮かな~。かわりは、彼がしてくれるから」

陽乃が指差した鏡の中には、仮面ライダーリュウガがいた。

「比企谷君、この人とは、私一人で戦うわ」

「雪ノ下……」

俺は彼女のこの表情を知っている。何を言っても聞き入れない時の顔だ。

「負けんなよ」

「あなたもね」

「うんうん、友情っていいな~」

「お前が俺達を語るな」

「「「変身!」」」

ミラーワールドについた俺は驚いた。

ほぼ同じ地点で変身したにもかかわらず、雪ノ下と陽乃の姿が見えないのだ。

……オーディンの仕業か。

「待っていたぞ、龍騎。いや、俺よ」

「……誰だよ、お前」

「俺はお前自身、鏡の中の、比企谷八幡だ」

「……」

「貴様が受けた、抱いた負の感情を全て抱いた存在だ」

「よくわかんねぇけど、自分そっくりの奴がいるってのは気持ち悪いんだよ。それに、そいつ

があんな奴のもとについってんのは、もっと気にいらねぇ」

「別に俺はあいつの部下というわけではないがな。まぁ今はどうでもいい。貴様を倒し、そ

の体、俺がいただく」

「「Swword Vent」」

聞き慣れた俺の召喚機と、それをいくらか下げたような気味の悪い音が響き渡る。

武器の形状もそっくりそのままだ。違うのはその色だけだ。

「「はぁぁぁああっっ!」」

炎と漆黒の剣が交差する。

その力量もまさに互角。

しばし拮抗した後、リュウガが俺の腹部に拳を入れてきた。

「ちっ……これでどうだ!」

「Strike Vent」

炎玉を放射する。

「Guard Vent」

リュウガは盾を使った防御と回避を駆使して、見事にそれを防ぐ。

「今度はこちらから行かせてもらおう」

「Strike Vent」

「Guard Vent」

俺も盾を呼び出す。

さながら、直前の光景の焼きまわしだ。

しかし、俺も無事耐えて見せた。

「Advent」

直前にリュウガがカードデッキに手を伸ばしていなかっただろうか、俺は迂闊にもその音声を

聞き逃してしまった。

俺は背中から黒龍の口にくわえられて、そのまま地面に打ち付けられたまま引きずられる。

「がぁぁあぁああああっっ!」

致命傷と言えるダメージだった。

「くっ……なんで……」

「ハッ、簡単だろ。俺はストライクベントで武器を呼び出した後、攻撃前にアドベントカード

を入れてたのさ。ネタばらししてやったんだ、これで満足して消えてくれるなぁ!」

「まだに、決まってんだろっ!」

「Survive」

「チッ、虎の子の一枚か」

俺の体を灼熱が包む。

瞬間、痛みが引いていく。これが変身解除後に体を壊す原因なんだよな……。

だが、考えるべきは「今」を生き延びることだ。

「サバイブを使ったからと言って、俺に勝てると思うなぁっ!」

「Final Vent」

リュウガの周囲を黒龍『ドラグブラッカ―』がぐるぐると駆け昇っていく。

それに対応するように、リュウガの体も浮いていく。

禍々しい瘴気が周囲にまき散らされる。

「Final Vent」

ドラグレッダーが現れ、装甲をパージしてドラグランザーとなる。

その背に乗り、俺も必殺の態勢に入る。

「ダークドラゴンライダーキック!」

「ドラグトームファイヤーッ!」

煉獄と瘴気の衝突。

俺も相当の衝撃を受けたものの、吹き飛ばされたのはリュウガの方だった。

「く……仕方ない、ここは引くか」

どういう理屈かは知らないが、まるで蜃気楼のようにリュウガは姿を消した。

「Survive」

ミラーワールドへ着くと同時、私はサバイブのカードを使った。

以前比企谷君が言っていたように、このカードは使えば使うほど体をむしばむ諸刃の剣だ。

だがそれでも、この相手を前にして使わないという選択肢は無い。

かつて憧れ、そしてそのあまりの汚さに失望し、最も憎むようになった相手。

彼女は、大きなことを成し遂げる人間だと思う。歴史にその名を残しても、何の不思議もない。

私が彼女を判断するにあたって、身内の欲目ということは無いだろう。

彼女はどこまでも有能な人間だ。

だが、大事を成す際にたくさんの犠牲を強いる。

自分の気に入った物は壊れるまで使いまわし、敵対したものは徹底的にたたきつぶす。

私はそれを、そんな生き方を認めたくはない。

断じてそれを認めるわけにはいかない、それはわたしが、以前壊されかけたものだからだろう

か……。

彼女の隠し持つ一面に気づかぬ者は彼女に無邪気に追従し、そのダークサイドに気づいた者で

さえも、その能力としたたかさに魅せられてひかれていく。

幼いころから、私は彼女の代用品でしかなかった。

大切なものは、すべて奪われていった。

……だが、今のわたしの中には大切なものがある。

彼女の本性を知っても、私より力があるとわかっても、変わらず私の仲間でい続け、彼女と敵

対することを選んでくれた二人の親友。

由比ヶ浜さんと、比企谷君。

二人がそばにいてくれる限り、私はきっと何だってできる。

「あなたに引導を渡す」

「Swword Vent」

光を浴びて美しく光る鋭利な剣を引き抜く。

「Swword Vent」

姉さん、いや、オーディンが手に取ったのは、黄金に輝く二対の剣だ。

「行くよ、雪乃ちゃん」

彼女の声を聞き終える前に、私は動き出していた。

「はぁぁっっ!」

迷いなく心臓部を狙った一撃。

完璧なタイミングなはず。

だが、手ごたえは無かった。

オーディンの体に触れると同時、そこに黄金の羽根が無数に舞ってその姿が消えた。

「ぅっ!」

と、後方から衝撃を受ける。

無防備な背中を切りつけられた。

「ハッ!ハァッ!」

二発、三発と連続で攻撃を繰り出すが、そのいずれも当たらない。

私の攻撃が少しゆるむと、すかさずオーディンは攻撃を繰り出してくる。

「……っ!」

「Blast Vent」

辺り一帯にダークレイダーの起こした強風が吹き荒れる。

「……」

オーディンの姿が消えて、しばらく出現しなくなる。

「……っ!」

気をゆるめてしまった一瞬を見計らったかのように、オーディンは上空に現れた。

そして、風を利用して威力を高めた空中からの降下キックを繰り出してくる。

くしくもそれは、私が比企谷君との戦いで使った技だった。

彼との戦いに踏み込まれたような気がして、私の頭に血が上った。

「Trick Vent」

弱った自分のカバーをさせるように、7体の分身を呼び出す。

分身たちは、オーディンが現れた先から攻撃していく。

これにはいささかオーディンも戸惑ったようだった。

「Advent」

だが、その状態は一瞬にして終わった。

オーディンの契約モンスターであろうフェニックスが出現して周囲を飛び回り、その羽に当た

って分身はことごとく消された。

「ファァァッッ!」

甲高い声で鳴き、フェニックスは私に向かってくる。

衝撃に耐えられず、私は吹き飛ばされる。

その衝撃で、サバイブ体が解けてしまった。

「……っ!」

「Swword Vent」

倒れてしまった状態でも、何とか武器を手にすべく、使い慣れた得物『ウイングランサー』を

出現させる。

「ふふっ、ゲームセットだよ、雪乃ちゃん」

顔は見えないが、勝ち誇った笑みで彼女は言った。

剣をわたしの上で交差させる。

すぐに喉元や心臓部につき刺さないのは、彼女の余裕の表れだろう。

「バイバイ、雪乃ちゃん」

オーディンの剣が持ち上げられたその瞬間、私が狙っていた、その一瞬。

私は右手もとにころがしてあったウイングランサーを手に取った。

そして可能な限りの速さで、それをオーディンのベルトにつき刺した。

「う、ぐ、……ああぁっ!」

オーディンが、金色の粒子となって消えていった。

「終わった……の?」

確かにオーディンは消えたはずだ。だが、何か嫌な感じがぬぐえない。

姉を殺したからなどという思いでは決してないはずだ。

そうではなく、まだ終わっていない、というか。

姉の生死を確認するため、私はミラーワールドを後にした。

「はぁっ、はぁっ」

先の戦闘とサバイブを使ったことによる代償とで、俺は満身創痍の状態で元の世界へと戻った。

俺が戻ったのとほぼ同時、雪ノ下もミラーワールドから帰還した。

その隣に陽乃の姿は無い。

「やったのか!?」

彼女の力を過小評価していたつもりはないが、まさか本当にオーディンを撃破しようなどとは

思っていなかった。

例え無駄だとしても、雪ノ下が戻ってきていなかったら再び戦いに行くつもりだった。

「ええ、一応、ね」

そう言った雪ノ下の表情はしかし曇っている。

「ただ、あの人のことだから、この程度のことで終わるとは思えない……」

「倒しは、したんだよな……?」

「ええ、ベルトを突き刺したら、そのまま消えたわ。……材木座君やシザースの時と同じだっ

たから、多分、間違いは無いと思うけど……」

「そう、か。まぁ、今考えても仕方ないことだな」

周囲の生徒は、俺達とは別の世界を生きるかのように騒いでいる。

熱狂と欺瞞と虚構、そしてほんの少しの真実が入り混じる祭典の開幕まであとわずか。

ついに、明日は文化祭だ。

暗闇の中、生徒達のざわめきが響く。

一つ一つには意思が込められたものであっても、それらが無数に集まると意味をなさない。

真っ暗でなにもはっきりとしない。

太陽のもとでは違いが映し出され、どうしようもなく別物だと思い知らされるが、互いの姿も

曖昧な今は、闇の中で誰もが一つになっている。

なるほど確かに、行事の際に暗くするのは理にかなっている。

であるならば、漆黒の中でスポットライトを浴びるという行為は、そのものが他とは別である

ことを示唆する。

さればこそそこに立つ者は特別な存在と言えるし、そうであるべきだ。

生徒達の声が、一つ、また一つと消えていく。

『十秒前』

インカムの先の誰かが告げた。

「五秒前」

息をするのを止める。

「三」

そこでカウントダウンがやんだ。

舞台袖から見上げた二階の窓から、雪ノ下がステージを見下ろしている。

瞬間、目も眩むほどのまばゆい光がステージを照らす。

「お前ら、文化してるかー!!!?」

「うおおおおぉぉーっ!」

突如そこに現れた生徒会長の城めぐりの姿に、会場の熱は一気にわきあがった。

「すべてを壊し――?」

「すべてをつなげー!!」

そのスローガン浸透してるんだ……。

「俺達の旅は―――!?」

「終わらなーい!」

「青春スイッチ―――?」

「オーーーーン!!!」

うわー、バカだなーうちの学校。

宇宙き、たと言っておいてやるか……。

「それでは、委員長よりご挨拶でーす」

ステージ中央へと歩く相模の表情は硬い。

千人超の視線を一身に背負う。

センター位置に到達しないうちに、彼女の足は止まった。

マイクを持つ手は震えている。

がちがちの腕がようやく上がり、相模が一声を放とうとしたその瞬間。

き―――んと、耳をつんざくハウリング。

あまりのタイミングの悪さに観衆はどっと笑う。

その笑いに悪意が無いのははたから見れば明らかだ。

だが、ステージに立つ彼女はそうは感じていないだろう。

ハウリングが終わっても話しだせずにいた。

「では気を取り直して、委員長どうぞ―!」

城廻の声で再スタートがかかったのか、相模は握りしめていたカンペを開いた。

焦った指先は簡単に狂う。

カサリと音をたてて落ちたカンペが、またも生徒たちの笑いを誘う。

真っ赤な顔で拾い上げる相模に、観衆からは「頑張れ―」などという無責任な声が飛んでくる。

彼らにはその額縁どおりの意味しかないはずだ。

だが、それは決して励ましにはならない。

みじめさを味わっている者にかけるべき言葉など無いのだ。

相模のあいさつは、カンペを見ながらだと言うのに、つかえ噛みながら、予定時刻を大幅にオ

ーバーして進んでいった。

前途多難な幕開けだ……。

「さっきから仕事してるふりしてるみたいだけど、やること無いの?」

文化祭本日程が始まり、教室内をうろうろしていると、海老名さんに声をかけられた。

「やること無いなら受付お願いしていい?それともユー出ちゃう?」

出ない出ない。首のふりだけで意思を伝える。

「なら受付よろしくね。公園時間の案内、聞かれたら答えるだけでいいから」

「わかった」

時間帯は把握していなかったが、教室前にポスターが貼ってあるからそれを見れば大丈夫だろ

う。

ていうか書いてるのにわざわざ俺に尋ねる奴もいないだろう。

うわ!座ってるだけでいいとかどんな仕事だよ。この経験を生かして将来はそんな職業につこ

うと思います!

公演をしていない時は教室の扉を閉める。

どうやら受付には留守番的な役割もあるようだ。

クラスメイト達が休憩をしてたり、他のクラスの出し物を身に言っている間も俺はパイプいす

に座っていた。

明日は文実で一日中狩りだされるので、クラスの方に参加できるのは今日だけだ。

事前の準備もしていない、二日目も働けないのだから、このくらいは仕方ないだろう。

まぁ、どっちともあのアラサ―が俺に押し付けたから悪いんだけどね!

ただ、これでクラスの出し物に参加したという名目が立つのだから、こういう役回りにはむし

ろ感謝すべきだ。

「おつかれー」

由比ヶ浜が机にどさっとビニール袋を置いた。

机に立てかけていたパイプいすを広げて俺の横に座った。

「どうだった?」

「よかったんじゃねぇの。特に戸塚とか戸塚とか戸塚とか」

「何でさいちゃんしか見てないし……」

演劇としてのできはともかくとして、観客の盛り上がりは良かった。

面白さを追求したエンターテインメントとしては十分に成功と言っていいだろう。

葉山をはじめとしたリア充グループを主要キャストに据えることで、多くの客を集めることが

できた。

「みんなずっと頑張ってたからね」

「ま、そうだな。頑張ったんじゃねぇの。俺いなかったからよくわかんねぇけど」

「ヒッキーは文実だったから仕方ないよ。あ、何でクラスの円陣に入らなかったの?」

「例え文実といってもやってないのに参加すんのはおかしいだろ」

「やっぱりヒッキーはヒッキーだなぁ」

ため息交じりに彼女は笑う。

「そうだ、もうお昼ごはん食べた?」

「いや、まだだけど」

「なら、これ一緒に食べようよ!」

机に置いていたビニール袋を持ち上げて由比ヶ浜はいう。

「ん、なにそれ」

「じゃじゃーん!ハニト―だよ!」

パンだった。一斤丸々の食パンだった。

それに生クリームやらチョコやらが塗りたくられている。

色々トッピングはあるが、ようはこれただの食パンだな。

「はいっ!」

にこにこ笑って、手でちぎったパンを俺に渡してくる。

あ、素手でやっちゃうんですね。別にいいけど。

「まいう―!」

いつからお前は[ピザ]芸人になったんだよ……。

食パンを食べるその顔は幸せそうだ。甘いもの好きなのかな。

そんな表情を見ていると、俺もこれが美味い物のように見えてくる。

少しだけワクワクしながら口に入れた。

……パンだ。まぎれもねぇ食パンだよ。しかもなんか硬いし、中まで蜂蜜しみてないし……。

これをうまそうに食う由比ヶ浜の味覚が信じられない。

料理もだめなら舌もか……。

「うっまぁ!」

俺の視線も気にせず彼女は次々と平らげていく。

そんな由比ヶ浜を見ていると、批判する気にもなれない。

彼女が食べ終わるのを見計らって、俺は口を開く。

「そういや、これいくらだった?」

「あ、いいよいいよ。別にこれくらい」

「そういうわけにはいかねぇだろ。俺は養われる気はないが施しを受けるつもりはない!」

「ど、どう違うの?」

「ばっか全然違うだろうが、いいか、そもそも」

「あ、じゃぁ私がヒッキーを養ってあげるよ!」

「お前はバカであんま稼げなさそうだから断る」

「理由がひどすぎるっ!?」

「ま、つーわけで半分ちゃんと出すから」

「も―、ヒッキーめんどくさいな―。じゃぁ今度なんかおごって?それならいいでしょ?」

「えー、こういうのあんま伸ばしたくないんだけど……」

それは、友人として言った言葉ではないだろう。だからこそ、その距離感を測りあぐねてしま

う。

「いいから!決定!」

「……ヘイヘイ、わかったよ」

いつもなら断るところだが、今日は皆が羽目を外す文化祭だ。

だからこのくらいは、な……。

文化祭も二日目を迎えた。

生徒たちだけで行われた一日目とは違い、今日は近所やら他校の生徒やらも来る。

当然、その分だけトラブルも多くなる。

よって、今日は末端の俺も文実として終日駆り出されることになる。

そんな俺の仕事といえば、記念撮影だ、。

各クラスの出し物や観客の様子を撮影する。

適当に何枚か取れば終わりだと思っていたのだが、なかなかそうもいかない。

いざ撮影を始めると、「あの、やめてください……」とか普通に言われるからだ。

そのたびに俺は文実の腕章を見せる羽目になった。結構傷ついたぜ……。

そして、何枚目かの写真を撮り終わった時、突如背中に衝撃を受けた。

「うぉっ!」

「おにいちゃん!」

「ぉぉ、なんだ小町か」

抱きついて甘えてくる様子は非常に可愛い。同じ千葉に住む兄として妹相手に町中でプロポー

ズとかしはじめるレベル。

「一人で来たのか?」

「うん、だって、お兄ちゃんに会いに来ただけだから……。あ、今の小町的にポイント高い!」

「それさえ言わなければなぁ……」

「マジレスすると、受験前のこの時期に友達誘うのは気が引けちゃってね」

「女の子がネット用語を使うな」

ペシリと頭をはたく。

「あれ、そういうお兄ちゃんも一人?」

「ばっかお前、俺が一人じゃない時の方が珍しいだろうが」

「結衣さんや雪乃さんは?」

「あいつらは仕事だろ」

「おにいちゃんは何で教室にいないの?居場所がないの?」

「俺の友達は愛と勇気だけなんだよ」

「わー、すごーい」

何その棒読み。傷つくからやめてくれる?

「で、何してんの?」

「仕事だよ」

「なん、だと……?」

「んだよ、文句あんのかよ」

「仕事、お兄ちゃんが、仕事……」

小町は感慨深げにつぶやく。

「バイトも大概長続きしないでやめて、ばっくれてそのまま黙ってやめちゃうお兄ちゃんが、

仕事……」

お兄ちゃんに対する認識ひどすぎない?何一つ反論できないのが悲しいことではあるが。

「小町、嬉しいよ……。でも、お兄ちゃんが遠くに行っちゃったみたいでさびしいな」

なんでこの子は妹なのに親目線なの?

すっごい恥ずかしいからやめてくれ。

「ま、仕事っていっても下っ端の使いっ走りみたいなもんだ。社会の歯車の一つ、って奴だな」

「ああ、なら納得だ」

そこで納得しちゃうのかよ……。

言った俺も自分で納得しちゃったけどさ……。

そのまま俺達は二人で廊下をだらだらと歩く。

と、小町が感心したような声を出す。

「はぁー、やっぱり高校は違うね―」

「予算とかが違うだけだろ。やろうと思えばお前らだってできると思うぜ?」

「うーん、確かにそうかもね。じゃ、お兄ちゃん、小町いろいろ見てくるから」

言うが早いか、小町はとっととどこかに行ってしまった。

小町は周囲とのコミュニケーション能力もかなり高いが、それでいて単独行動をこのむ方でも

ある。

下の子特有の容量の良さが彼女にはある。俺というキングオブぼっちを見て育ったからか、そ

のメリットデメリットを正しく理解しているように思う。

そして、ぼっちであることのメリットと集団にいることのメリットを上手に使いこなしている。

小町の役に立てたのならば、俺のぼっちライフも悪くなかったのだろう。

まぁ、兄弟・姉妹にもさまざまな形がある。

俺のように、一般的にいえば失敗作と言える兄であれば、彼女の気も楽だっただろう。

むしろ小町の為にあえてダメ人間になったまである。

俺のような人間となら、比較されても苦ではないだろう。

だが、俺が度を越して優秀であったならどうだっただろうか。

そんなことを考えたのは、視線の先に彼女の姿を認めたからだろうか。

どんなに周りに人がいても一目でそれとわかる。

雪ノ下雪乃は一つ一つの教室を見回っているようだった。

その相貌は常よりもいくらか暖かい。

経緯はどうあれ、自分のやったことの結果が出ているのだからそりゃぁ暖かくもなるだろう。

委員長の相模は何も仕事をしなかったのだから、この成果は彼女一人の物といえる。

彼女でなければ、文実はいつまでもダラダラとして、この文化祭をぶち壊しにしていただろう。

それに、葉山隼人と雪ノ下陽乃の妨害工作を乗り越えてみせた。それは間違いなく、彼女の力

だ。

と、彼女は視界に俺を捉えたらしい。

よ、と俺は軽く手を上げる。

すると、その視線が冷気を帯びた。

なんでだよ……。

胡乱なまなざしのままで、彼女はこちらに寄ってきた。

「今日は一人なのね」

「俺は基本いつでも一人だ」

あれ、こんなことさっきも言った気が……。

「ところで、何をしているのかしら」

「仕事だよ。見りゃわかんだろ」

「わからないから聞いてるのよ」

わからないのか……。ちょっとショックだよ。

が、よく考えれば今は対して何かをしているわけでもなかった。

「で、そう言うお前は?見回り?」

「ええ」

「クラスの方はいいのかよ」

「私に文実を押しつけておいてそちらまで手伝えというのはおかしな話でしょう」

こいつも俺と同じ感じだったのか。

「それでは、私はこれで」

「ああ、じゃぁな」

「ええ、また」

他愛もないことではあるが、『また』と言いあえる関係もなかなかいいものだと俺は思った。

ぶらぶらと歩いていると、案外あっという間に時は過ぎる。

「そろそろだな」

俺の午後からの仕事後半は、体育館でのタイムキーパーだ。

有志のバンドなどは時間オーバーすることが多々あるので、しっかりと制限時間を伝える人間

が必要なのだ。

ていうか聞かない人間には言っても無駄だと思うんだけどな……。この仕事本当にいるか?

まぁ、文句は言うまい。社畜は黙って働くからこそ社畜なのだ。

体育館に近づくと、観客の耳を割くような叫び声が聞こえてきた。

ステージに立っている人間を見て俺は驚かずにいられなかった。

「雪ノ下、陽乃……」

どこまでそこが知れない奴なのだろうか。ベルトを破壊しても、あの世界で倒しても、蘇る。

こんなの、反則だ。

と、そんな時見知った姿を見つけたので俺はそいつに歩み寄った。

「よぉ、雪ノ下」

「比企谷君……」

「案の定というかなんというか、生きてたな」

「……ええ」

彼女の顔が暗くなったので、俺はこの話題を打ち切ることにした。

「それにしても、すげえな、あいつ」

雪ノ下陽乃は管弦楽部のOB、OGを集めて、自身は指揮をしている。

観客は一体となって、競うように叫び声をあげている。

そこにいる人間を無理やり取り込んで内輪にしてしまうと言うか、何というか。

そしてそれに乗ってしまうのはあの楽団の実力と、そして何より雪ノ下陽乃の圧倒的なカリス

マ性だろう。

「……わ」

周りの声にかき消されそうな小さな声で、彼女は呟いた。

「あん?」

「流石だわ、と言ったのよ」

「意外だな、お前が素直に褒めるなんて」

「これでも、あの人のことは評価してるのよ……長い間、追い続けていたわ」

「私もああなりたいと、願っていたものよ……」

「なんなくていいだろ。お前は、お前のままでいい」

雪ノ下自身は気づいていないかもしれないが、彼女は遥かに姉よりも魅力的だ。

そんな彼女があんな奴に穢されるのを、黙って見ていることなどできない。

「お前はずっと、お前のままで……」

そのつぶやきも観衆達の声でかき消されてしまったのか、雪ノ下から返事は無かった。

俺のタイムキーパーとしての仕事は終わり、今再び記録雑務として、ステージの様子を収める

ためカメラを構えている。

充電を終えたインカムを整理していると、雪ノ下があっち行ったりこっち言ったりと非常に目

障りだった。

「んだ、なんかあったのか?」

問いかけると、ハッとしたような表情で雪ノ下が聞き返してきた。

「相模さんがどこにいるか知らないかしら」

言われて辺りを見回してみる。

確かに見てないな。

「エンディングセレモニーの最終打ち合わせをしないといけないのだけど……」

「ちょっと連絡してみるね」

城廻が電話をするが、どうやら反応は無いようだ。

「みんな、いる?」

城廻の声に、生徒会メンバーがどこからともなく現れる。

「相模さんを探してくれる?」

「御意」

御意って……そんな話し方する奴初めてみたな。

しかしこれはまずいな……。次の葉山達のステージが終われば過ぎにエンディングセレモニー

が始まってしまう。

もう時間はほとんど残されていない……。

雪ノ下が腕を組み、小さな唸り声をあげていると、それを見た由比ヶ浜がパタパタとやってき

た。

「どったの、ゆきのん」

「相模さんがどこにいるか、知らない?」

「さぁ、見てないけど……。いないと困るの?」

雪ノ下がうなずくと、由比ヶ浜は携帯を取り出した。

「んー。ちょっと聞いてみるね」

由比ヶ浜の人脈は広い。

もしかしたら見かけた奴がいるかもしれない。

「放送とか入れてみたらどうだ?」

「そうね」

放送室を手配してアナウンスをかけてはみたが、一向に応答は無い。

「雪ノ下さん!」

アナウンスを聞きつけたのか、火野先生がやってきた。

「相模さんは来た?」

雪ノ下は黙って首を振る。

「……そっか。こうなったら……」

火野先生は三枚のメダルを取りだした。

緑と黄緑色、昆虫系のメダルを使うガタキリバコンボだ。

「火野先生?」

「このガタキリバコンボは、分身体をたくさん作ることができる。これで一気に探せば多分」

「しかし、観客達のパニックを引き起こすかと」

「マスコットキャラみたいなことで何とかならないかな……」

「ちょっと難しいでしょうね」

「なら、ラトラーターコンボならどうかな。チーターメダルの力があれば」

「それも、多分厳しいと思います。もし人にぶつかったらしゃれにならないし……きっとない

とは思いますけど、万が一、ということもありますし……」

「そっか……そうだね」

「参ったわね……。このままじゃエンディングセレモニーができない」

「さがみん、いないとまずいの?」

「ええ。挨拶、総評、賞の発表。これが彼女の仕事なのよ」

それらは代々委員長の仕事だ。例え相模がどんな人間であろうとそれは変わらない。

「最悪、代役として、私か雪ノ下さんが……」

「それは難しいと思います。優秀賞と地域賞の結果を知っているのは相模さんだけ」

「じゃ、賞の発表は後日に回すか」

「最悪の場合はね。でも、地域賞はここで発表しないと意味がない」

地域とのつながりを売りにした文化祭だ。地域賞の新設一年目から後日発表ではしゃれになら

ない。

何にせよ、相模を見つける必要がある。

だが、いまだに連絡が取れておらず足取りもつかめていない。

雪ノ下が唇をかみしめる。

あの野郎、最後まで迷惑掛けやがって……。

「どうかした?」

発表直前だというのに余裕しゃくしゃくの葉山が問いかけてくる。

「相模さんに連絡がつかなくて……」

城廻からその言葉を聞いた彼の行動は早かった。

「副委員長、プログラムの変更申請をしたい。もう一曲追加でやらせてもらえないか?

時間もないし、口頭承認でいいよね」

「……そんなことできるの?」

「ああ。優美子、もう一曲弾きながら歌える?」

「え、ムリムリムリ!絶対無理だから!」

緊張したところにそんな提案がされ、三浦は素で驚いている。

「頼むよ」

しかし葉山に微笑みかけられると、困ったように唸る。それから頭を抱え出す。

「……恥を忍んで、頼めるとありがたいのだけれど」

雪ノ下のそんな様子を受け、三浦は彼女を睨みつけた。

「別に、あんたの為じゃないからね」

それは、照れ隠しでも何でもないただの本心だっただろう。

禍々しいまでの敵意だ。

しかし、どうやらこの依頼は受けてもらえるようだ。

「ほら、スタンバるよ」

三浦に声をかけられた戸部達が不満の声をあげながらも歩いていく。

その様子を見て、葉山がふうっと息を吐く。

「……感謝するわ」

「気にしないでくれ。俺もいいところ見せたいしね。それより……時間を稼げてもせいぜい十

分が限度だ」

十分だ、十分待ってやる!目が、目がぁぁっ!

「わかっているわ」

何の手がかりもない状態で、十分以内に彼女を見つけ出し、そしてここに連れ戻す。

……あまりにもハードルが高すぎる。

「あたし、探してくるよ!」

「闇雲に探しても見つからない」

由比ヶ浜が走りだそうとするのを止める。

すでにある程度の人数が探し、様々なつてを使っている。

それでも見つからないということは、彼女は人目のつかないところに隠れているということだ。

ミラーワールドにでも隠れられたらもうお手上げなのだが、制限時間もあるしそれは無いだろ

う。

こうなれば、相模を見つけるのを諦めて次善策を取った方がいいだろう。

「誰か代役を立てて、賞の結果もでっち上げればいいだろ。認めるのは癪だが、雪ノ下陽乃の

管弦楽演奏でいいんじゃないか?」

「比企谷君……」

「さすがに……」

「それはちょっと……」

「ヒッキーまじきもい……」

おい!俺がキモイことは関係ないだろ!

火野先生、葉山、城廻、由比ヶ浜に立て続けに否定される。

と、こんな時いの一番に俺をディスってくる雪ノ下は口を閉ざしたままだ。

「比企谷君」

「なんだ?」

「あと十分あれば、見つけられる?」

「……」

その可能性を検討する。

相模を見つけたとして、ここに連れてこなければならない。

つまりは十五分以内には彼女を見つけないといけない。

俺の脚で行ける場所はせいぜい一ケ所が限界だ。

もし相模が校外に出ていればその時点でアウト。

「……わからん、としか言えん」

「そう、できないとは言わないのね。その言葉だけで十分だわ」

雪ノ下はしばし瞑目し、そしてカッとその目を見開いた。

「姉さん?今すぐ舞台裏に来て」


雪ノ下が電話をかけてからすぐに陽乃は現れた。

「ひゃっはろー、雪乃ちゃん。何か用かな?」

そう言って彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべた。

まさかとは思うが、今の状況を把握しているのだろうか。

いや、彼女でなくとも、自分を嫌っている人間に急に呼び出されれば尋常ではないことが起き

ているということも分かるかもしれない。

「姉さん、手伝って」

あまりに直截ないい方に、陽乃も驚いているようだった。

黙ったまま凍てつくような眼差しで雪ノ下を睨む。

雪ノ下はその視線をそらさない。かつてそむけてしまったことを悔やむように。二度と間違わ

ないと言うかのように。

その視線の交錯は、あまりにも冷ややかだ。

ふと、陽乃の頬が緩む。

「へぇ……、いいよ。雪乃ちゃんがわたしにお願いするなんて初めてだし。今回はそのお願い、

聞いてあげる」

遥か高みからかけられるその言葉に甘さは無い。

すげなく断るよりも、はるかに辛辣だ。

と、そう言われた雪ノ下はおかしそうにわずかに笑った。

「……お願い?勘違いしないでほしいわね。これは実行委員としての命令よ。組織図を覚えて

いないの?指示系統上、私の方が立場で上であるということをわきまえなさい。有志団体代表

者の協力義務は校外の人間でも適用されるのよ」

絶対の自信を持ってそう言い返す。

自分から頼んでいるにもかかわらず、絶対上位の姿勢を崩さない。

その姿が、出会った頃の彼女の姿を思い起こさせる。

決して媚びず、自らの正しさを振りかざし、絶対の刃で相手を斬り伏せる。その姿こそは雪ノ

下雪乃。

それこそが仮面ライダーナイト。誇り高きその名にふさわしい。

一方の陽乃は、実に楽しそうに笑う。

「で、その義務に反したらどうなるの?出場許可を取り消されても今更なんてこともないし。

あ、静ちゃんに言いつけちゃう?」

その正しさこそは幼さだと、箱庭論にすぎないと告げるように彼女は嘲笑う。

雪ノ下の正義は、原理原則に忠実な、本来あるべき姿を相手にも求めるものだ。つまるところ、

陽乃のようなリアリストには通じない。

ならここは、ニヒリストの俺の出番かね……。口を開こうとした、その時だ。

「そうね、いうなれば、あなたの正義、かもしれない」

「……?」

陽乃は怪訝な顔をする。

俺もなにを言わんとしているのか分からない。

「あなたは幼いころから言っていたわね、強さこそが正義だ、と。そんな大義名分のもと、ず

いぶんとわたしにくだらないことをしてくれたわね。そして今、私はあなたを倒した。

仮面ライダーとして、真に、あらゆる力が求められる決闘で」

言って、彼女はカードデッキを取り出す。

雪ノ下の姿を照らすかのように、蝙蝠のエンブレムが金色に光る。

「そんな私に、貸しを作れるのよ?これをどうとるかは、あなた次第だけど、ね」

……。二の句が続かなかった。

流石だ、それでこそお前だよ、雪ノ下。

「ふぅん……言うようになった。本当に成長したのね、雪乃ちゃん」

「前にも言ったはずよ?私は昔からこうだった。あなたが気づかなかっただけよ」

「ううん、変わったよ。誰が変えたのか変わったのか……で、どうするつもりなの?」

「場をつなぐわ」

「だから、どうやって?」

「私と姉さん、あと二人いれば何とか……。できればもう一人」

雪ノ下はそう言って、ステージ脇にある袖の楽器を見た。

「おい雪ノ下、本気か」

その意外さに思わず尋ねてしまう。

「ふふ、面白いこと考えるねぇ。で、曲は?」

「あなたが学生時代にやった曲。今もできる?」

「あー、その曲か―」

陽乃は感心したような声を上げる。

「誰に物を言ってるの?そう言う雪乃ちゃんこそできるの?」

「それこそ愚問だわ」

言うと雪ノ下は不敵に笑った。

それを聞いて陽乃は頷いた。

「そう。じゃああと一人か」

いやいや、今後二人って言ったばっかだろ……。

すると、陽乃は大きく手を振った。

「静ちゃ―ん」

「……仕方ない。私がベースをやろう。まぁ、まだできるだろ」

さらに陽乃は振り返って言う。

「めぐり、キーボード、できるね?」

「任せてください!」

「これで後はボーカルだけだね」

その声を聞いた雪ノ下は、静かに口を開いた。

「……由比ヶ浜さん」

「うぇい!?」

まさか自分が声をかけられるとは思っていなかったのだろう。心底驚いたような声を出す。

そして彼女は、さらに一歩近づいて言う。

「あなたを頼らせてもらっても、いいかしら」

「えっと、その……全然自信ないし、多分うまくできないと思うけど、でも……」

意を決したような表情で、

「そう言ってくれるの、ずっと待ってたよ」

しっかりと、雪ノ下の両手を握った。

「ありがとう」

「あ、でもわたし歌詞とかうる覚えだからね?その辺は期待しないでね!?」

「……正しくはうろ覚えというのよ。少し不安になってきたわ……」

「ゆきのんひどいよ!?」

「冗談よ。その時はわたしも歌うわ。だから、……頼ってもらってもかまわない、から」

「ゆきのん!」

由比ヶ浜がいつものように雪の下に抱きつく。そんな彼女の背中を、雪ノ下はいつくしむよう

に優しくなでる。

「でも、それでも十分ちょっとか……」

ふと、思いつめたように火野先生が声を出した。

「よし!俺も何か一曲やるよ!そうすれば比企谷君が探す時間も、十五分は取れるはずだ」

「できるんですか?」

「多分、だけどね。あ、でもトリとかは恥ずかしいから葉山君達、順番変わってもらってもい

いかな?」

「はい、わかりました」

「比企谷君、こんな言い方はあんまりよくないんだけど、信じてる」

「ヒッキー、任せたよ!」

「比企谷君、私の、ゆう、友人として……失敗は許さないわ」

火野先生、由比ヶ浜、雪ノ下、三者三様のエールを受けて俺は歩き出す。

それから火野先生はゆっくりとステージへ向かっていく。

スポットライトの当たるその場所は、俺の居場所じゃない。

薄暗い出口から続く、人気のないその道こそは俺の立つべき舞台。

仮面ライダー龍騎、比企谷八幡の独り舞台だ。

「You count the medals 1,2、and 3

Life goes on! Anything goes!Coming Up OOO!

いらない持たない夢も見ない、フリーな状態、それもいいけど

運命は君、ほっとかない。結局は進むしかない。

未知なる展開Give me energy

大丈夫、明日はいつだってブランク!自分の価値は自分で決める物さ!

OOO!OOO!OOO!カモン!」

火野先生の歌い声と、観客達の歓声が聞こえてくる。

どうやら出だしは好調のようだ。

今この時間、校舎に人影はほとんどない。

どの道すぐにエンディングセレモニーが始まるから、最後にみんなでひと騒ぎしようと考えて

有志ステージを見に行く人が増えるというわけだ。

こうして人が減ったのは相模を探すのには好条件だ。

だが、だからと言って色々な場所に行くことはできない。

身体を限界以上に速く動かすこともできない。

高速化できるのは、思考のみだ。

ぼっちが他に誇れるものは、その深い思考だ。

本来他人とのコミュニケーションに使われるべきリソースをすべて自己の中で完結させるため、

やがてその思考は哲学ともいえるレベルにまで達する。

その思考を全て費やして、あらゆる可能性を模索し、反証を繰り返す。

その中で否定しきれなかった物を、全力で立証していく。

それをひたすらに繰り返せば、おのずと解は出る。

今相模は一人でいるはずだ。ならば、その思考を読めばいい。

なんせぼっちに関して言えば、俺はベテラン中のベテランだ。

なめんじゃねぇ。 

相模はその能力からは考えられないほどに自意識が強い。

一年時では派手なグループに属していて、その環境、序列になれてしまった。

だが、二年になってからは三浦という女王によってその立場を失ってしまった。

その事態が彼女にとって面白いはずがない。かといってそうした階級意識は自身でどうにかで

きるものではない。

さればこそ、自分より下の階級の者を求める。

せめて二番手のトップになろうとする。そして、それには成功したはずだ。

だが、一度上げた生活レベルを戻すの至難を極める。それは、スクールカーストにおいても同

様だ。

ならば、彼女がとるのは代替行為だ。

そこで今回の文化祭。

そしてその、文化祭実行委員長というポストは彼女の願いを満たすに足りただろうか。

足りたはずだ。仕事は何一つしていないにしても、葉山隼人の推薦を受けて、校内で知らぬ人

はいない雪ノ下雪乃の協力も取り付けることができた。

さらには、伝説ともなっている雪ノ下陽乃に褒められもした。

ただの嫌味や皮肉だったが、彼女が気づいていないのだから問題は無い。

だが、それすらも上手くいかなくなったら。代替品すら、失ってしまったら。

文実のせいでクラスの方にはあまり出られない。そして渋々文実に行けば、相模の代わりを十

分に、いや、過剰と言えるほどにこなしてしまう雪ノ下がいる。

そして、彼女のよりどころとなっていた葉山でさえも雪ノ下を求める。

さらには、格下と思っている俺からも散々にけなされ、ライダーの力で排除しようとするも、

返り討ちにあう。

ならば、彼女の自尊心は。大きくなりすぎた自己承認欲求は。

その考えは手に取るようにわかる。甘いよ相模。

俺の前に道は無い、俺の後に道はできる、という有名な言葉があるが、相模が今通っている道

はまさに俺がかつて歩んだ道だ。

誰かに見てほしくて、認めてほしくてたまらなかった自意識が爆発した、そんな俺の苦い思い

出と同じだ。

さればこそわかる。お前がどうしたいのか、どうしてほしいのか。

そして、どうして欲しくないのかも、俺にはよくわかってる。

自分の居場所を見失った人間が望むこと。それは、誰かに自分を見つけてもらうことだ。

お前みたいなやつの『自分』なんてないことにも気付かずに……。

探してほしいからこそ、学校の中にいる。

それも、きちんと探せば見つかる目のつくところに。

物理的に考えて入れない場所にはいかないし、心理的に考えてそう遠くにもいない。

なら、どこだ?考えろ、考えるんだ。決して思考を止めるな。

あいつの思考レベルは、中学時代の俺に近い。

そんな時、あの頃の俺は一人でいたい時はどこにいた……?

ベランダや図書室、か?

図書室は今は入れない。

この学校で言えばベランダに当たる場所は……屋上か。

あそこには以前行ったことがある。

最短ルートもわかっている。

ならばあとはもう、走るだけだ!

屋上へと続く階段は文化祭の荷物置き場になっていて、容易には登れない。

だが、人一人が通れるほどの隙間ならある。きっとそれが、彼女の足跡。

相模はきっと、雪ノ下や由比ヶ浜の様になりたかったのだろう。

誰かに求められて、認められて、頼りにされる存在に。

それに伴う責任を背負う気なんて、さらさらないくせに。

委員長というラベルをつけることで自らに箔をつけ、そして他者にレッテルを貼って見下すこ

とで自分の優位性を確かめたかったのだ。

それが、いつか彼女が言っていた『成長』の正体だ。

……ふざけんな。

安易な変化を成長なんて言うな。

妥協の末の割り切りを、『大人になる』などとほざくな。

一朝一夕で人間が変わってたまるか。

変われ、変わる、変わらなきゃ、変わった。

そんなのは全部嘘っぱちだ。

昔や今の、最低の自分を認められないで、一体いつ誰を認められるのだ。

今までの自分は否定するくせに、未来の自分なら肯定できる。

それが欺瞞でなくてなんだ。

実態のない肩書に終始して、認めてもらえるとうぬぼれて、自らの境遇に酔って、自分が勝手

に作った鎖に縛られて、誰かに教えてもらわなければ自分の世界を見いだせない。

きっと彼女には、変身願望があったのだろう。

仮面ライダーになったのも、それが関係しているのかもしれない。

……やっぱり俺はお前が嫌いだよ、相模南。

だからお前は、俺が倒す。

階段を上り続け、終点、開けた踊り場に出た。

かくれんぼはおしまいだ。

見つけようぜ、俺達の答えを。

扉の南京錠は壊れていた。

扉を開くと同時、心地よい風が俺を吹き抜ける。

相模はフェンスに寄りかかるようにしてこちらを見ていた。

その表情が一瞬驚愕に変わり、そして落胆する。

そりゃそうだろう。お前が見つけてほしかったのは俺なんかじゃないだろうから。

だがそれはこっちだって同じだ。

今は、ライダー同士でではなく、ただの生徒として話を進めさせてもらおう。

「エンディングセレモニーが始まるから戻れ」

「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」

「俺もそう思うんだがな。残念ながらそうもいかない。時間がないから急いでくれ」

「時間って……もうセレモニーは始まってるんじゃないの」

「本当ならな。今はみんなが頑張って時間を稼いでる」

「それ、誰がやってるの?」

「三浦や雪ノ下や火野先生達だ」

今頃は三浦達の演奏の中盤くらいだろうか。

「ふーん……」

「わかったら戻れ」

「じゃぁ、雪ノ下さんがやればいいじゃん。あの人何でもできるし」

「そういう問題じゃねぇ。お前の持ってる集計結果とかいろいろあんだよ」

「じゃぁ、集計結果だけ持ってけばいいでしょ!」

俺の手に紙を叩きつける。

一瞬、本気で帰ろうかとも思った。

それでこいつを徹底的に終わらせる。

だが、それはできない。

文実に俺しか関わっていなかったなら、俺は迷わずそうしただろう。

だがそれは、雪ノ下雪乃のやってきたことを、友のやってきたことを台無しにすることになる。

それはできない。

あいつが受けた依頼は、相模南に文化祭実行委員長としての責務を全うさせること。

だからこそ、俺のなすべきことは一つなのだ。

解決策はわかっている。

だが、俺にはそのカードがない。

ここにきて、手詰まり。

俺が思わず頭をかいたその時だ。

後ろから、扉を開く重い音がした。

「ここにいたのか……。探したよ」

おそらく彼女が待ち続けていた人物、葉山隼人だ。後ろには相模の取り巻き二人も控えている。

「葉山君……。二人も」

相模が期待していた展開だ。

「連絡とれなくて心配したよ?みんな待ってるから、早く戻ろう。ね?」

「そうだよ!」

「うんうん!」

葉山も時間がないことは重々承知している。

相模が望んでいる言葉を真摯に伝える。

そもそもこれは、お前が仕組んだことなんだがな……。

彼のその姿は、どこか道化じみている。

「でも、今更戻っても……」

「そんなことないって」

「一緒にいこ?」

「そうだよ。みんな相模さんの為に頑張ってるんだから」

「でも、迷惑かけちゃったし合わせる顔が……」

相模はまだ渋る。

「大丈夫だって。さ、行こう」

「うち、最低……」

相模が自己嫌悪の言葉を吐き、またその足をとめた。

タイミングは、ここだ。全く、つくづく嫌になる。こんなことを考えつく自分に、そして、そ

れを案外嫌っていない自分に。

「ガアアアアアァァァァッッ!」

空で、炎龍が咆哮した。

そこにいた全員が首を上げた。

「本当に最低だな、お前」

上に向いていた視線が俺に集まる。

観客は四人。俺にしては上等な客入りだ。

「相模、お前はちやほやされたいだけなんだよ。かまってほしいだけなんだ。泣き真似してる

今だって、誰かに慰めてもらいたいだけなんだろ?仕事はしない、責任もとらない、でも尊敬

してほしい、大事にしてほしい。そんな奴が委員長として扱われるわけねぇだろうが。本当に

お前は最低だ」

「何、言って……」

「みんな気づいてるぞ?お前のことなんて興味ない俺がわかるくらいだからなぁ」

「あんたなんかと一緒にしないでよ!」

「一緒にすんな、だと?それはこっちのセリフだよ。俺は自分のやるべきことからも、現実か

らも逃げ出したことは一度も無い。お前みたいなやつとは違う」

反論を許さぬよう、言葉を慎重に選びながら紡いでゆく。

「よく考えてみろ。お前のことなんか全然知らない俺が、一番早く見つけられた」

「つまりさ、誰も真剣にお前を探してなかったってことだよ。そりゃそうだよなぁ、お前の代

わりなんて誰でもできるんだから」

相模の顔色が変わった。これは彼女が一番言われたくなかった言葉だろう。

「わかってるんじゃないか?自分がその程度の」

俺の言葉に呼応して、ドラグレッダーが相模に襲いかかる。

と、その時だ。

「比企谷、少し黙れよ」

葉山の右手が俺の胸ぐらをつかんだ。

そのせいで俺の言葉は途切れた。

そうだ、それでこそ葉山隼人だ。

裏切らない奴だ。

「……はっ!」

カードデッキを取り出して葉山とにらみ合う。

「葉山君、もういいから、そんな奴ほっといて、行こ?」

相模が葉山の背に掌をつける。

その言葉をきっかけにして、葉山はつかんでいた手を離す。

「……早く戻ろう」

相模は友人二人に囲まれてその場を去っていく。

彼女達がいなくなり、葉山がその扉を閉めた。

「……どうしてあんなやり方しかできないんだ」

「どの口が言うんだよ、葉山。お前があの場で取るべき行動は、モンスターを呼び出して相模

を守ることだったろ。自分の正体がばれることなんて厭わずに、な。やっぱりお前は欺瞞だら

けだ」

「……」

「なんなら今からやるか?俺の仕事は終わったんでね」

ドラグレッダーが葉山に向かっていく。

と、それを、葉山の持つ手鏡から現れたトラのモンスターが止めた。

「……はっ、やっぱりか」

「俺は英雄になる男だ。その世界に、お前はいらない」

そう言って葉山はくるりと踵を返す。

「英雄なんてなりたいと思ったことなんて無いからよくわかんないけどよぉ、俺にも一つわか

ることがあるぜ?」

葉山がその足をとめた。

「英雄ってのは、なろうとした瞬間失格なんだよ。お前、いきなりアウトってわけ」

葉山は黙って振り返り、親の仇でも見るかのような目で俺を見た。

「お前には一生、わからないさ」

葉山は言うと、黙って再び歩き出す。

その背を追う者は、もういない。

体育館に向かう足は自然と速くなる。

校舎全体に響くかのようなベースとドラム。

腹の底にまで響くような振動は、しかしその音だけではない。

歓声だ。

打ち鳴らす手、踏みしめる足、そして大きな叫び声が、空間にビートを生み出す。

俺は体育館の扉に手をかけた。

聞こえてきたのは、二つの歌声。

聞くもの全てを勇気づけるような由比ヶ浜の明るい声と、ただひたすらに美しい雪ノ下の美声。

『朝焼けに包まれて走り出した行くべき道を情熱のベクトルが僕の胸を貫いていく

どんな危険に傷つくことがあっても!』

やりたい放題のリズム隊を牽制するかのように正確なギター。

いつの間に着替えたのか、全員おそろいの服を着ている。

それはしかし、彼女達の正体を知っている物からすれば、どこまでも滑稽なものかもしれない。

命をかけて、願いをかなえるために殺し合うライダー。

その四人が、今同時に音を紡いでいる。

プロさながらの、いや、アマチュアだからこその熱狂。

今この瞬間、闇の中で誰もが一つになっている。

『夢よ踊れ、この地球(ほし)のもとで。憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど。

夢に向かえ、まだ不器用でも生きている激しさを体中で確かめたい』

俺が入ってきたことになど誰も気づかない。

ステージの上からなど、到底見えないはずだ。

『愛を抱いて、今君の為に。進化する魂が願っていた未来を呼ぶ』

長かった文化祭の終焉。

これですべてが終わる。

俺の仕事は、記録雑務だった。

だからせめて、覚えていよう。

彼女達の姿を、その音色を。

ただ一人で、一番後ろで壁に寄りかかって見ているだけだけど。

でもきっと、いや、決して忘れない。

エンディングセレモニーはつつがなく行われている。

相模のあいさつは目も当てられない散々なものだったが。

とちる噛むは当たり前。

内容は飛び、優秀賞の発表も忘れる。

雪ノ下に冷静にカンペを出され、ついに彼女は泣きだしてしまった。

その姿は他の生徒たちからは、感動の涙に見えたようだった。

「頑張れ!」やら「良かった!」などの声が飛びまわっている。

だがそれは、的外れもいいところだ。

きっと彼女が流していたのは、悔し涙だったのだろう。

なぜ自分がこんな目に逢わねばならないのか、という思いを含んだ。

最低の気分を味わった後の優しい言葉は何より心にしみる。

まぁその最低な気分は俺が味あわせたものだが、彼女がやってきたことへの報いとしては甘す

ぎるとは思う。

「大丈夫?」

「あいつがなんか言わなければよかったのにねー」

俺の言ったことはすぐさま文実中に広まった。

更にそれはクラスにも伝播したようで、2Fの連中は俺を見ては何かひそひそとささやき合っ

ている。

「いや、まじヒキタニ君ひでぇから。夏休みとかもさー……」

戸部、テメェ……。

「確かに、ちょっとやり過ぎだったよな」

葉山は絶賛俺のネガティブキャンペーン実施中である。

「隼人が言うってことは相当だねー」

そんな中、由比ヶ浜は三浦達のグループを離脱し、俺を見て苦笑いを浮かべ、戸塚は心配に俺

を見つめている。

そんな二人を心配させないよう、軽く手を振る。

皆にとっての文化祭が終わっても、文実の仕事はまだ残っている。

さまざまな機材の撤収作業だ。

文実全員で仕事に当たっていると、

「みんな、集まって!」

火野先生に招集をかけられた。

「まだ少し仕事はあるけど、とりあえずお疲れ様!すっごくいい出来だったと思うよ!打ち上

げではしゃぎ過ぎないようにね。それじゃ、本当にお疲れ様でした!」

その声音はどこまでも優しい。

互いの努力をたたえ、全員が一丸となった感動の嵐。

「ほら、委員長」

城廻が相模の背を叩く。

「えっと……色々迷惑かけて、すみませんでした。でも、無事に終わって本当に良かったです。

お疲れ様でした、……ありがとうございました」

相模の礼に合わせて、皆が盛大に手を叩く。

相模が犯した失敗も、彼らの怠慢も、全て等しく青春の一ページに刻まれるのだろう。

俺はそんな光景を尻目に、教室に戻る。

疲れで重くなった俺の歩みは、次々と人に抜かれていく。

相模とその友人が俺の横を通り過ぎる時、その会話を一瞬止めた。

無視をしているという俺への意思表示だろう。

やっぱり甘いし、お前はどうしようもなく偽物だよ、相模。

本気で人を無視するってのは、意識することなくやるもんだ。

と、人ごみの中に城廻を見つけた。

彼女も俺に気づくと歩み寄ってくる。

「……お疲れさま」

「ああ、お疲れ」

話す彼女の表情は暗い。

「やっぱり君は不真面目で最低だよ」

「ハッ、あんたにどう思われようと知ったことじゃないね」

「私もずいぶん嫌われたなぁ……」

「返愛機能というものが人にはあるらしい。好意を向けられたら、向けられた方も好意を抱く

ようになるっていうあれだ。それと同じだな、誰かを嫌いになればそいつからも嫌われる。当

然だろ」

「でも君は、元から私に好かれる気なんてさらさらないよね」

「ああ、初めて見た時から、お前が嫌いだったよ。お前がやってることは欺瞞だらけの、偽物

だからな」

「なら君は、本物を知ってるの?」

「……」

言われて、二人の少女の顔を思い出す。

「ああ、知ってるさ」

「そう」

短く彼女は呟いた。

「色々あったけど楽しかったよ。最後にいい文化祭ができて嬉しかった。ありがとね」

そう言うと彼女は笑みを浮かべ、手を振って去っていく。

俺はそれを黙って見ていた。

「いいの?」

背中から掛けられた言葉に返す言葉は決まっている。

「ああ、これでいい」

「そう……」

誤解は解けない。だが、新たに問いかけることはできる。

そうして出した答えは、きっと正解ではないだろうが、彼女とともに出したその解は、俺好み

の回答だ。

「本当に、誰でも救ってしまうのね」

「なんのことだ?」

「本来なら、仕事を放棄して逃げだした相模さんは糾弾されるべき存在だった。

だけど戻ってきた時の彼女に当てられたのは、気遣うような同情の目線だった。

文化祭を壊そうとした加害者から、ひどい言葉によって傷つけられた被害者になっていた。取

り巻きだけでなく、葉山隼人という証言者までいる、完璧な被害者」

「深読みしすぎだ。ただの偶然だよ」

「でも、結果としてはそうなったわ。だから、あなたが救ったと言っていいと思うわ」

「……ま、なんたって俺は人類の愛と平和を守る仮面ライダーだからな」

「そんなライダーは、あなたと由比ヶ浜さんくらいのものよ」

「お前もだろ、雪ノ下」

「それこそ何の事だかわからないわ」

「だろ?なら一緒だ。俺が思ってるのもそういうことだよ」

「またまたご謙遜を」

少し雪ノ下に似た、しかしどこまでも不快な声が聞こえた。

「……姉さん、早く帰ったら?」

「いやー、比企谷君はいいねー。そのヒールっぷり、最高だよー」

「お前に言われたかねぇんだよ、悪党野郎」

「そういうところも好きだなー。雪乃ちゃんにはもったいないかも」

「もったいないのはあなたと話す時間だと思うわ。いいから帰りなさい」

「冷たいなー。一緒にバンドやった仲でしょ?」

「よく言うわ。勝手に好き勝手やってくれて、誰が合わせたと思っているの?」

「盛り上がってたからいいじゃん、ねぇ比企谷君」

「ま、確かに盛り上がってはいたな」

「……見てたの?」

「後ろの方でな。いい歌だったよ。お前らが歌うと妙にリアリティがあって怖かったけど」

「Alive a Lifeね。私も好きだわ」

「雪乃ちゃん小さい頃からよく聞いてたもんねー」

「いいからあなたはもう帰ったら?」

「はいはい、帰りますよ。今日は楽しかったよ。お母さんに話したら、どうなるかな、ね?」

その試すような口ぶりに怒りがわきあがってくる。

だが、雪ノ下の表情は揺るがない。

「好きにするといいわ。私はもう、あなた達に利用されるだけの存在じゃない。運命があなた

達の手の中にあるなら、私が奪い返す」

「……本当に変わったよ、雪乃ちゃん。でも、最後に笑うのは私よ」

カードデッキをかざしてそう言い、彼女は去っていった。

……本当に強いよ、お前は。

「おーいみんな、そろそろホームルームの時間だよ。教室に戻って」

陽乃と入れ替わるようにして火野先生が走ってきた。

俺達は軽く挨拶をして歩きだす。

「比企谷君、ちょっといいかな……」

呼びとめるその声は彼らしくもなく重苦しい。

振り返ると、彼は少し困ったような笑みを浮かべている。

「なんて言えばいいかな……。スローガン決めの時も相模さんの件も、君の力がなければ文化

祭は確実に破綻してた。君の活躍は、雪ノ下さんと並んで一番だと思う」

そこで言葉を切る。きっとその言葉に嘘は無いだろう。

だが、それはこれから言う言葉の前置きでもあるはずだった。

「でもね、素直に称賛する気にはなれないんだ」

火野先生はじっと俺の瞳を覗き込んでくる。

「比企谷君。君のやり方はすごいと思う、俺にはとても思いつかない。……だけど、いつも君

が、君だけが傷ついてる」

心の先まで見つめるようなそんな視線からは、陽乃や平塚のような気味の悪さや威圧感は無い

というのに、決してそらすことはできなかった。

「別に、傷ついてなんか……」

「もし、君が痛みになれてても、だよ。君が傷つくのを見て、心を痛める人もいるってことも、

知るべきだと思う」

「俺にはそんな奴……」

言いかけて、やめる。確かに、少し前までの俺にはいなかった。

だが、今は違う。

雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚、そして今目の前にいる火野先生も……。

俺のそんな表情を見て、火野先生はにこりと笑った。

「話は終わりだよ、説教臭くなっちゃってごめんね?」

「いえ、ありがとうございました」

少々気まずくなって教室へと向かう。

ただ、いつまでもあの優しい瞳は見つめ続けてくれているように思えた。

帰りのホームルームは形だけのもので、すぐに終わった。

ルーム長が挨拶をすると、後は打ち上げの話で盛り上がっていた。

となれば、俺には関係ない。

さっさと帰り仕度を終え、教室を後にする。

その際に由比ヶ浜と目があったが、軽く手を振ってそのまま踵を返した。

今日で文化祭は終わったが、俺には報告書を書くという仕事がまだ残っている。

家ではすぐ寝てしまうし、ファミレスなんかに入って打ち上げの奴らと鉢合うのもお断りだ。

足は自然と、静かに集中できる場所へと向かっていた。

それにあそこには……

思った通り、彼女はそこにいた。

予想はしていたというのに、―不覚にも見とれてしまった。

立ち尽くしたままの俺に気づいて、雪ノ下はペンを置く。

「あら、ようこそ。こうない一の嫌われ者さん」

「喧嘩売ってんのか……」

「打ち上げはいかないの?」

「聞かなくてもわかることをいちいち聞くんじゃねぇよ……」

俺のその答えを聞くと、雪ノ下は楽しげにほほ笑む。

意地の悪い奴め……。

「どう?本格的に嫌われた気分は」

「ふっ、存在を認められるってのはいいもんだな」

「なんというべきか……。やっぱりあなた変ね。その弱さを肯定してしまう部分、嫌いじゃな

いけれど」

「ああ、俺も嫌いじゃない。むしろこんな俺が大好き、愛していると言ってもいいね」

「ナルシスト?気持ち悪いから近付かないでくれるかしら」

「お前の毒舌も相変わらずだな……」

「ところで、あなた何しに来たの?」

「報告書まとめるんだよ。ここは静かで集中できるしな」

「へぇ……似たようなことを考えるものね」

「選択の幅が少ないだけだ。俺とお前が似てるわけじゃねぇよ」

同じように一人でいても、俺と雪ノ下は全くの別物と言える。

だから、だからこそ俺と彼女は真の友たりえるのだろう。

俺と彼女は、お互いのことをよく知らなかった。

何を持って知ると言うべきか、わかっていなかったかもしれない。

ただお互いのあり方を見るだけでよかったというのに。

大切なものは目には見えない。

つい、目をそらしてしまうから。

俺達は半年近い時間をかけて、やっと互いを知ったのだ。

そして、そして俺は、彼女のことが……

「やっはろー!」

そこに、聞き慣れた明るい声が届いた。

「由比ヶ浜?なんのようだ?」

「文化祭お疲れ!というわけで、後夜祭に行こう!」

「いかねーよ」

「行かないわ」

「え~~!?せっかくなんだから行こうよ~!」

「冗談じゃねぇよ。俺なんてその他大勢からすれば来てほしくねぇ奴ナンバーワンだろ」

「その他大勢って……誰かあなたを待ってくれてる人がいるとでも思っているのかしら」

「ばっかお前……たくさんいるよ!戸塚とか戸塚とか戸塚とか、後戸塚とか」

「一名しか該当者がいないと思うのだけど……」

「あっ、でもさいちゃんは用事で行けないって言ってたよ」

「はぁ?ならもう俺が行く意味0じゃねぇか」

「で、でも思い出になるし!」

「ああれな、思い出って書いてトラウマって読む奴な」

「そうね、やはりわたし達にはいくメリットがあるとは思えないわ」

「うぅ……ゆきのんまで……。あっ!ならさ、私達3人だけでどっかいこうよ!奉仕部の打ち

上げとして!」

「そうね……でも、比企谷君もいるのよね……」

ちょっと雪ノ下さん?俺に対する扱いがひどすぎませんか?

「ゆきのん、お願い!」

言って由比ヶ浜はいつものように雪ノ下に抱きつく。

「しょ、しょうがないわね……。わかったわ、わかったから離れてちょうだい」

出た―!ちょろノ下ちょろ乃!

「やったー!ゆきのん大好き!じゃぁ決定ね!」

「あ、あれ……?俺の意思は?」

「そんなものあるはずがないでしょう?」

「そうだよ!ハニト―奢ってあげたでしょ!」

ま、確かに約束したな。なら仕方ねぇか……。

「わーったよ、ったくしょうがねぇな」

部室には美しい夕日が差しこんできている。

祭は終わり、後の祭り。

人生はいつだって取り返しがつかない。

こんな一幕だって、いずれは失うのかもしれない。

だが、本物の絆があれば、俺達は、いつまでも……。

そんな俺らしくもないことを考えて、俺は報告書の結びを記した。

打ち上げが終わった後、相模南は上機嫌で夜道を歩いていた。

比企谷八幡の策により、彼女は文化祭実行委員長としての面目を保ってこのイベントを終わら

せることができた。

無論、愚かな彼女がそれに気づくことは一生ないだろうが。

と、そんな彼女を突如頭痛が襲った。

「……こんな時にモンスター?はぁ、今日くらい休ませてよ」

ため息交じりに彼女は呟き、仮面ライダーアビスに変身すべく近くにあった鏡にその姿を映し

た。

「……っ!あんたは!」

彼女の眼に映ったのは、憎き敵『比企谷八幡』が変身した仮面ライダー龍騎であった。

否、その目は怪しく血の色に染まっている。

彼女が知る由もないが、それはもう一人の比企谷八幡『仮面ライダーリュウガ』だった。

「……さぁ、戦え」

リュウガがそう言うと、契約モンスタードラグブラッカ―が鏡から現れ、相模に襲いかかった。

すんでのところでそれをかわし、相模はカードデッキをかざす。

「うち、あんただけは許せない!よくも恥をかかせて……。変身!」

夜の闇に染められたリュウガの姿は、さながら闇の化身。

「「Sword Vent」」

数合うちあうと、力の差が如実に表れてきた。

リュウガの剣が相模の体をかすめる。

「クッッ……」

「Advent」

「Advent」

呼び出したサメのモンスターは、ドラグブラッカ―によって撃退される。

しかし、相模の攻撃は終わらない。

彼女の契約モンスターは二体いるのだ。

「Strike Vent」

しかし、それすらもリュウガは読んでいた。

手にした漆黒の龍頭の武器からダーククローファイヤーを放ち、もう一匹のモンスターも異空

間へと還す。

「ちっ……」

「Strike Vent」

大量の水で、ひとまず距離を取ろうとするが、リュウガは見事な跳躍力でそれをかわした。

「な……」

「クク、どうした?もう終わりか?なら、次はこちらから行かせてもらおう。……この力を初

めて使う相手が貴様の様な小物だということにはいささか複雑な思いがあるが……まぁいいだ

ろう」

リュウガが一枚のカードをかざすと、召喚機の形が変わった。

「Survive」

その声が響き渡ると同時、彼の体を夜色の闇に包まれた。

そしてそれが晴れると同時現れたのは、黒と金に彩られた、どこまでも不吉な戦士だった。

「クク、素晴らしい。これがサバイブの力か。これで、俺が最強のライダーだ!」

そのあまりの威圧感に、相模はしばらく立ち尽くしていた。

「Final Vent」

その気味の悪い音で、ようやく相模は我を取り戻す。

「Final Vent」

急いで彼女もカードをスキャンする。

禍々しい黒龍『ダークランザ―』が現れ、リュウガはそれに飛び乗る。

相模も自らの二体の契約モンスターとともに、必殺技の態勢を取る。

しかし彼女はすでに、自らの敗北を無意識のうちに悟っていた。

それが死に直結するものだと認識できていなかったのは、やはりどこまでも彼女が甘いという

ことの証明であったが。

自らの死に対してさえも、彼女は無責任だった。

彼女がライダーバトルにおいて敗北するのは、まさに当然の帰結といえた。

「はぁぁぁっっ!」

「ダアアァァッ!」

激突と同時、世界は暗黒の爆発に包まれた。

「うわぁぁぁあぁああっっ!」

それは相模南がこの世界に残した最期の言葉であった。

何一つこの世界に遺すことなく、彼女はその生涯を終えた。

原作には登場しない仮面ライダーリュウガサバイブを出してしまい、申し訳ありません。

色々考えたのですが、物語の進行上あった方がいいと思ったので登場させました。

技は、龍輝サバイブの暗黒versionだと思ってください。

本来サバイブは、オーディンの力を使うものなので四枚目が存在することはあり得ないんです

が……。

ホビージャパンからフィギュアが出ているので、そちらの画像を見て補完していただければ幸

いです。

文化祭、体育祭が終わり、気温はめっきり下がり、涼しいというよりは寒い風が学校には吹い

ている。

さらにいうと、俺の周りは更に寒々しい。

教室の中心(あくまで位置的な意味でね!)にある俺の席の周りには誰もいない。

いつもは俺を無視して俺の近くに人がいることもあるのだが、今俺は認識されていないのでは

なく、『意識などしていない』という意図的な視線を注がれている。

文化祭の後、相模はどうやら他のライダーによって倒されたようだった。

記憶の改変が行われたが、彼女の存在だけが消され、皆が俺に持った悪印象までは無くならな

かった。

ほんの一瞬だけちらりと向けられる嘲笑を含んだ視線。

どこから向けられたものかと見返せば、ばっちりと目が合う。

そんな視線に対しては自分からそらさないのが俺だ。

となれば、相手が外してくるのが普通だ。

今までは、そうだった。

だが、自分が優位に立っていると思っている相手はそうはならない。

それどころか数秒目線があった後に、周囲の連中とくすくす笑う。

「なんかこっち見てる(笑)」「何あいつ(笑)」だのというくだらない会話を交わしながら。

そんな悪意に慣れはしても腹が立つことには変わりない。

文化祭で、雪ノ下を傷つけてしまったことからカードをめったなことでは使わないと決意して

いなければ、何度かドラグレッダーを呼んでいただろう。

とはいっても、もともと周囲からほとんど認識されていない俺のことだ。

このアンチ比企谷ブームが去るのも速いだろう。

大きなあくびをして文庫本に視線を戻すと、周囲よりもいくらか大きい話声が耳についた。

「っベー、修学旅行どうするよー」

葉山グループに所属する戸部、仮面ライダーインペラ―だ。

「京都だろ?U・S・J!U・S・J!」

「それ大阪やないかーい!はッはッはッ!ルネッサーンス!」

……最後だけ面白かったな。

三人は話題を変えて会話を続けている。時折女子の方を見ながら、「俺達今面白い話してね?」

と目で語っているのが何とも残念だ。

「つか、大阪まで行くのめんどいわ―」

「せやな、せやせや」

「……戸部だけ行けばいいんじゃね?」

「っか―!俺だけハブとかそれナニタニくんだよ~!」

よし、ドラグレッダー、行って来い。あいつライダーだから多少のことは大丈夫だ。

見ると、他の生徒達も笑いを洩らしている。

はいはい、面白い面白い。こいつらモンスターに襲われてても絶対助けねぇ。

とまぁ、最近の俺の扱いはこんなもんだ。

ちなみに我が校にいじめは存在しないので、これはただからかっているだけだ。

どんなひどいことを言おうが、『ネタだろ?』の一言で済ませられてしまう何とも素晴らしい

文化だ。

受け入れがたいことに折り合いをつけるため、彼らは何もかも笑い話にする。

それは、ヤンキーだった奴らが久々に再開した際に、『俺達も昔は悪やったよなー』というの

と同じである。

自らの行動を反省することなく、ただただ笑い飛ばす。

きっと彼女はそれをしないだろう。

そんな行為はまさに欺瞞であり、俺の忌み嫌うところだ。

そうやってごまかしてうわべだけ取り繕って、そうやって得た物に一体いかほどの価値がある

のだろう。

そして、こうやって騒いでいることにさえも、彼らはすぐに飽きる。

そうやって標的にされた者が受けた傷とともに忘却のかなたに追いやるのだ。

「つーか、修学旅行やべぇよなー」

「やばいな」

何がやばいかなんて聞いてはいけない。やばいもんはやばい。そんなことを聞けばそいつの扱

いがやばいことになる。

「そういや戸部、お前あれどうすんの?」

大岡が聞きたくてたまらなかったというようにその質問をした。

「聞いちゃう?それ聞いちゃう?まじ?困ったなー」

その反応は聞いてほしくて仕方なかった奴の反応だ。

「……って言うか、決めるでしょ」

したり顔で戸部はいい、カードデッキを取りだした。

「最初はこの力で、すんげぇ美人と付き合おうと思ってたけどさー、やっぱこういうのは、自

分の力で手に入れてこそでしょ」

戸部、お前、そんなことの為に……。

「八幡!」

突如、天使に声をかけられた。

クラス内では、いつもにも増して比企谷シカトオーラが出ているが、天使である戸塚にはそん

なもの関係ない。

むしろ戸塚に冷たくされたら死ぬまである。

「今度のロングホームルームで修学旅行の班決めするんだって」

「へぇ……まぁみんな大体決まってるだろ」

「そうかな……僕まだ決まってないんだ」

威牙がいまだに決まっていないことを恥じるかのように戸塚は言う。

「……なら、一緒に組むか?」

「うん!」

花のような眩しい笑顔が広がった。

「なら、後二人だね」

「ま、余った奴らと組めばいいんじゃないか」

「そっか、あっ、もうすぐ時間だ。また後で!」

思いもよらず戸塚と同じ班になることができた。

こいつは少し楽しみになってきたな……。

「そう言えば、修学旅行どこ行くか決めた―?」

奉仕部部室で由比ヶ浜が唐突に訪ねた。

その言葉に雪ノ下が眉をひそめる。

クラスの話題も最近そればかりだ。

「これから決めるところよ」

「俺は班の奴らしだいだからな―」

こういう行事で意見を求められたことがない。

周囲が決めた内容に黙ってついていくだけ。

楽なことには違いないが、楽しいのとは違う。

それは、ここにいる彼女も同じではないのだろうか。

「そういや雪ノ下。お前こういう時どうしてんだ?」

「……どうとは?」

「お前、クラスに友達いないだろ?」

「ええ」

こんな質問をする方もそれに即答する方もどうなのだろうと思わないでもないが、まぁ俺達は

そんなことを気にするような人間じゃない。

「だから?」

「いや、グループどうしてんのかと思ってよ」

「ああ、そういうことなら、誘われるままにしているわ」

「え?誘われんの?」

「ええ、こういうグループ決めで困ったことはないわね」

「あ、でもわかるかも。J組って女子多いからゆきのんみたいなカッコイイ子って好かれると

思うな―。あっ、でもあたしがゆきのんを好きなのはそれだけじゃないからね!」

そう言って由比ヶ浜はいつものように雪ノ下に抱きつく。

またそうやってお前らは……。

いいぞ、もっとやれ。

まぁ確かに、同性が多いということのメリットはある。

男子の場合、女子の目を気にして奇行に走るということが多々ある。

教室での戸部達のバカ騒ぎや、材木座がやっていた厨二病もそれに含まれると言っていいかも

しれない。

そしておそらく、それは女子にも同じようにあるはずだ。

「はぁ~。うちの学校も沖縄とか行きたかったな~。よさこ~い」

「由比ヶ浜さん、よさこいは沖縄と何の関係もないのだけど」

「え!?そうなんだ、やっぱりゆきのんは物知りだね!」

「お前が知らなすぎるだけだろ……」

「む、ヒッキーいつも通り失礼だなぁ。でもさー、京都とか行ってもどうしようもなくない?

お寺か神社しかないし。ミックス、ジンジャーレモン!」

「お前、何言ってんの?後半部分全く理解できなかったんだけど……」

「ええ!?ヒッキー遅れてない!?レモンエナジーだよレモンエナジー!」

「余計わからん……」

「由比ヶ浜さんがよくわからないことを言い出すのはいつものことだから放っておきましょう」

「ゆきのんひどいよ!?」

「そもそも修学旅行とは遊びに行くのではないのよ?あくまで学習の一環なんだから」

「いや、修学旅行ってそんなもんじゃないだろ」

「あら、ならどういうものなのかしら?」

「あれはだな、高い金払って好きでもない奴と寝食を共にすることにより社会の理不尽さに耐

えられるようにする訓練なんだよ」

「うわぁ、ヒッキーの修学旅行全然楽しくなさそう……」

「そんな悲観的な目的で行われるとも思えないけれど……」

「で、でもさ!ヒッキーの言う通りだとしてもそれを楽しむかどうかは自分次第でしょ?」

「……まぁ、そうだな」

「あなたにも楽しみにしていることの一つや二つあるのではないかしら」

「ん、まぁな。戸塚と戸塚と、後、戸塚だろ?一緒にお風呂に入れるかもしれないしな!」

「ヒッキーまじきもい……」

「気持ち悪い、近寄らないでくれるかしら」

「けっ、世の人は、我のことを、言わば言え。我がなすことは、我のみぞ知る」

「成し遂げようとしていることが変態行為以外の何物でもないのだけど……」

「で、そう言うお前はなんか行きたいとこあんのか?」

「そうね、龍安寺の石庭や清水寺、金閣……見ておきたい所は結構あるわね」

そう言って、手元の雑誌に視線を向けた。

こいつが雑誌読むなんて珍しいな……。

というか、呼んでる本が『じゃらん』だった。どんだけ楽しみにしてんだよ……。

「あ、そうだ!ゆきのん、三日目一緒に回ろうよ!」

「一緒に?」

「うん!」

「クラスが違うけど……いいのかしら」

「え?いいんじゃない?自由行動だし!」

超適当だな、こいつ……。

「あっ、もちろん、ゆきのんがいやじゃなければ、だけど……」

雪ノ下は微笑を浮かべて言った。

「私は、構わないわ」

「やったぁ!決まり!」

クラスの大して親しくもない奴らと一緒に回るよりは、雪ノ下にとってもいいだろう。

ま、俺なりにこいつらの旅が楽しくなるよう祈っててやるか。

「ヒッキーも一緒に回ろうね!」

「え……」

雪ノ下がすごく嫌そうな顔をした。

「お前その反応はひどすぎんだろ……」

「冗談よ。それも面白いかもしれないわね」

と、その時扉が叩かれる音がした。

「どうぞ」

雪ノ下のその声で扉が開かれる。

そこに現れたのは、俺達と因縁浅からぬ人物だった。

「てめぇらっ」

俺の語気が荒くなったのもしょうがないことだろう。

葉山、戸部。それから取り巻きの大岡と大和だ。

「……何か用かしら」

雪ノ下は落ち着いているように見えるが、先程より明らかに語調が強い。

「ああ、ちょっと相談事があってさ」

そんな空気をものともしないように口を開いたのは葉山だ。

冗談じゃない。こんな奴らに力を貸す気はないぞ。

「ほら、戸部」

「言っちゃえって!」

横の二人に促されて戸部が前に出る。

「……いや、ないわ―。ヒキタニ君に相談とかないわ―」

……ああん?

あまりの怒りにスーパーサイヤ人にでもなりそうだったが、ここは部長である雪ノ下の顔を立

てる意味でも何とかそれを抑えた。

「戸部、頼みに来たのはこっちだろ」

「や、でもほら、ヒキタニ君にはこういうこと話せないでしょ~。信頼度ゼロだし~」

と、そのとき同時に立ち上がる音が聞こえた。

「それ、あんまりじゃない?もっと他に言い方あるでしょ」

由比ヶ浜が珍しく怒りを含んだ声で言う。

そしてそれに、身も凍るような声が続いた。

「帰りなさい」

言わずもがな、雪ノ下雪乃だ。

「……え?」

戸部が驚いたような声を上げる。

「礼儀も知らない、礼節もわきまえない、つるむしか能がないような低能どもの頼みを聞いて

やる必要なんてないわ」

「な、そこまで言わなくても」

そう言った戸部の言葉を雪ノ下がさえぎる。

「ねぇ、忘れてない?私達は、敵なのよ?それを抜きにしても、私はあなたたちみたいな人間

が大嫌いなの。今すぐここから出て行きなさい」

カードデッキを取り出してそう言った。

それは、これ以上にない意思表示だ。

由比ヶ浜も雪ノ下の隣に立ち並ぶ。

ライダーの数はこちらが三であちらは二。不意打ちやらなんやらの卑怯な手段でしか戦ってこ

なかったこいつらがその勝負を受けるとは思えない。

「まぁ、待ってくれ。俺達もなにもタダでやってもらおうなんて考えてない」

場を取りなすように葉山が言った。

そんな葉山を雪ノ下は冷たい目で見つめる。

「この依頼を受けてもらえるんなら、インペラ―のカードデッキをそちらに譲渡する」

「……」

俺は少なからず驚いた。カードデッキの破棄、つまりそれはライダーバトルからの退場を意味

する。

「契約モンスターはこちらで処理するが、君達にとってもライダーが一人減るんだ。悪い話じ

ゃないと思う」

「そんな話を信じるとでも?」

「だから、担保としてこれを預ける。……大和」

「ああ。……これを」

大和が雪ノ下に手渡したのは仮面ライダータイガのカードデッキだった。

こんな猿芝居打つ意味あんのか……?こっちはその本来の持ち主が葉山であることは確信して

いる。

「これでどうかな?もし俺達が約束を破っても結局ライダーは一人減る。信用して、もらえな

いか?」

「……あなた達の言い分はわかったわ。でもそれとは別に、私は単に、あなた達の様な人の

依頼を受けたくはない。奉仕部は、便利屋じゃないの」

その声音はどこまでも冷たい。

嫌悪感が溢れ出ている。

「……頼むっ!どうしても、失敗するわけにはいかないんだっ!」

それまでとは打って変わった真剣な表情で戸部がいい、頭を深く下げた。

「……話聞くぐらいなら、いいんじゃねぇの」

別にこいつの態度に心打たれたとかじゃない。

だが、殺さずにライダーが減るというのは、逃したくない取引だった。

雪ノ下は、いまだ小川絵里の意識を取り戻すことを諦めていない。

俺や由比ヶ浜と戦う気はないだろうが、それ以外のライダーに向ける闘志は一切鈍っていない。

雪ノ下は力があり、倒そうという意思もあるが、いまだにライダーを自らの手で葬ったことは

ない。

俺はこの少女に、人を殺めてほしくない。

「受けるかどうかは、それから決めればいいだろ」

雪ノ下は俺の言葉を受け入れてくれたようだ。

黙って再びいすに座った。

その様子を見た由比ヶ浜も彼女にならう。

「あの、実は俺……海老名さんのこと、いいなーって思ってて……それで、修学旅行で決めた

いなーって……」

うつむきながら戸部は言った。

以外に純情なとこあんのな……。

ほう、夏休みに言ってたことは本気だったのか。

そういったことに興味がある由比ヶ浜と、前情報があった俺は理解できたが、雪ノ下は怪訝な

顔をして首をひねっている。

そんな彼女に由比ヶ浜が耳打ちをする。

俺の方でも要点をまとめてやるとしよう。

「つまりあれか。海老名姫菜に告白して恋人になりたいと、そういうことだな」

「そうそう、そんな感じ。流石に振られるとかは避けたいわけ。ヒキタニくん話早くて助かる

わ―」

何という手のひら返し……。わかってはいたことだが……。

「振られたくない、か……」

中学時代の自分と、自らの手で殺めた少女の顔が頭をよぎる。

そして、この話題に由比ヶ浜が興味深々といった様子で立ち上がった。

「いいじゃん、いいじゃんすげぇじゃん!うん、いいよ!そういうの、すっごくいいよ!」

「由比ヶ浜さんの口調が一瞬変わった……?」

「雪ノ下、そこはつっこまないでやってくれ」

そしてそのまましばらくして彼女は再び口を開いた。

「付き合うって、具体的にどういうことすればいいのかしら」

そこからか……。と思ったが俺も似たようなものだ。

しかし、こういうことに協力するというのはどうなのだろう。

小学校のころからこういう話題はたびたび上るが、人に協力してもらってうまくいったという

前例を聞いたことがない。

「やっぱりそう簡単にはいかないか……」

葉山が苦笑交じりで言う。

「そりゃそうだろ」

「……わたしたちでは、役に立てそうにないわね」

「だな」

はい、これで話は終わり。無理なもんは無理だ。

これはもう努力でどうにかなることじゃない。

「そうか……。そうだな」

葉山も納得したようにうなずいた。

だが、その決定に不服の者もいるようだ。

「ええー、いいじゃん、面白そうだし手伝ってあげようよー」

面白そうって、思ってても本人の前で言うか、普通。

由比ヶ浜に袖をひかれた雪ノ下がこちらを見る。

ええー、そこで俺に押し付けるの?

彼女の視線の意味に気付いたのか、戸部が俺に向かってくる。

「ヒキタニくん、いや、ヒキタニさん!オナシャス!」

「ゆきのん、困ってるみたいだし……」

「そうね……そこまで言うなら考えてみましょうか」

雪ノ下、由比ヶ浜に甘すぎぃ!

こうなるともう駄目だ。奉仕部内の過半数を超える二人が賛成しているので、俺が何と言おう

と変わらない。

「じゃ、やるか……」

「やっりぃ!マジサンキュー!」

「まぁ、受けるのはいいんだが、具体的に俺達は何をすればいい?」

「んっとさー、俺が告るじゃん?だからそのサポート的な?」

えっと……話聞いてた?俺具体的にって言ったんだけどな……。

「お前の思いの丈は、思いの丈だけはわかったが、告白ってかなりリスキーなんじゃないのか?」

「リスキー?ああ、リスキーね、リスキー」

こいつ、本当にわかってんのか……?

「リスキー……?」

由比ヶ浜が不思議そうに首をかしげる。

「リスクというのは、危険度や損失を被る可能性のことよ」

「意味くらいわかるし!どういうリスクがあるのかってこと!」

仕方ない、ここは俺が説明するしかないみたいだな……。

「まず告白するだろ?で、振られるだろ?」

「ええ!?もう決まっちゃってるの!?」

「それだけじゃない。もうその先まで決まってる。……さぁ、地獄を楽しめ」

一呼吸おいて俺は口を開く。

「告白した次の日には、そのことをクラスのみんなが知ってるんだ。それだけならまだいいが、

時たまその話をしているのが聞こえてくる……」

『昨日比企谷、かおりに告白したらしいよ』

『うわー、かおり可哀想……』

かわいそうって、一番かわいそうなの俺だろ……。

『しかもメールだって』

『何それビビり過ぎ。ぶっちゃけありえなくない?』

お前は初代プリキュアの人かよ……。

『あたしアドレス教えてなくてよかったー。圧倒的、感謝……』

『ざわ、ざわざわ……』

『本当に悪いと思っているのならどこでだって謝罪できる。たとえそれが、血を焼き、肉焦が
す、鉄板の上でもっ……!』

「と、こんな具合で愉快なおしゃべりのネタにされる」

「て、最後の方カイジじゃん!」

まぁそんなことは今はどうでもいい。

このように、失恋で傷ついているところに更に追い打ちを喰らわせられるのだ。

「ちなみに、告白しても『え?なんだって』と繰り返されて、挙句の果てに逃亡されることも

ある」

「わかったか?」

俺は少しだけ優しい目で戸部を見る。

こいつのことはどうでもいいが、おわなくてもいい傷を負わせるのは忍びない。

「それは、比企谷君でしょ……」

「ばっかお前、結構な数の男子学生が経験してると思うぞ?」

が、戸部にはそんな経験はなかったようだ。

「オーケーオーケーおっけー牧場。つまりは直接言えば問題ないってことっしょ。それに俺、

何言われても結構平気って言うか?鬼メンタルって言うの?」

「まぁ、リスクはそれだけじゃない。仲いい子に振られた場合、その後の関係性が」

「まぁまぁ、もうわかったからさ」

葉山……お前は本当に俺の邪魔をするのが好きだな。

まるで慰めるかのように、憐れむかのように俺の肩を叩き、言葉をさえぎった。

「その辺はわかってるから、うまくやるさ」

確かにこいつがその気になれば相当うまく立ち回れるだろう。

問題は、その気になるかどうかという点だが。

「じゃ、俺は部活あるから悪いけど後は頼むな。戸部もあんま遅くなるなよ」

「あ、俺も行くわ」

「俺も部活だ」

大岡と大和も葉山に続いた。

どうやらただの付き添いだったらしく、共に色々と考える気はないらしい。

ま、居ても居なくても一緒か。

「りょーかい。俺もすぐ行くわ」

三人に軽く返した戸部は俺達に向き直った。

「っつーわけで、バシッとよろしく!」

「そう言われても、何をしたものかしらね……」

確かにこういった恋愛がらみのことに関しては俺達は全く経験や知識がない。

この中で言えば由比ヶ浜が一番詳しいだろうが、彼女だって交際経験はない。

「というか、なぜ俺達のところに来たんだ?」

「え、そりゃあれっしょー。隼人君のおすすめだし?」

「その葉山に相談した方がよほど適任だと思うがな」

「……いや、なんつーの?隼人君は超いい奴だし、すんげぇイケメンじゃん?だからそういう

ことで悩まないっていうか……」

戸部の言わんとすることはわかる。

イケメン無罪なんて言葉があるが、実際葉山はそういった話に困ったことはなさそうに見える。

戸部の様に『頑張ってもてたいです!』といった、チャラ男や雰囲気イケメンとは格が違う。

容姿は抜群で気配りもでき、すさまじい人望がある。

何もしなくても女の方から寄ってくるというものだ。

ただ、あくまでその優しさは彼の味方である限り、という条件付きではあるが。

「確かに隼人君はそういう苦労なさそうだよねー」

「だっしょ?」

何その相槌……すげぇ腹立つんだけど……。

「なるほど、だから比企谷君に相談する、と」

「おいお前、俺が恋愛で苦労が多いみたいに言うんじゃねぇよ」

「……ふっ」

雪ノ下のその勝ち誇った顔がとても癪に障る。

こんのあま……。

ちなみに由比ヶ浜は気まずそうに俺から視線をそらした。

おいやめろ、深刻さが増しちゃうだろうが……。

「ま、そういうことでよろしくね!ヒキタニくん!」

言って戸部は教室を後にした。最後まで名前間違ったままだったな、あいつ……。

戸部の相談を受けた翌日から俺達は依頼内容の分析と具体策の検討を始めた。

正直、というか全く気乗りしない内容だ。

他人の恋路ほどどうでもいい物もない。

俺達三人で吟味した依頼内容がこれだ。

『戸部が海老名さんに告白するのでそのサポートをする』

何これ、ざっくりしすぎでしょ……。

ここからどうもっていけばいいんだよ……。

「まずは情報収集をしないとね。私たち、海老名さんのこと何も知らないし……」

「あ、ゆきのん!あたしわかるよ!」

「ああ、そうだったわね。では、教えてくれる?」

「えーっとねー、姫菜はねー、えーっと……男の子同士でエッチするのが、好き……?後は…

…あとは……うん、特にないね」

半年一緒にいて思いついたのがそれだけ!?

「それだけでは何とも言えないわね……」

そうだね、わかったのは海老名さんが腐女子ってことだけだね。

「後は、戸部君についても……」

「ちょりーっす!」

と、まさにその時扉が開いた。

戸部翔その人だ。

「戸部君、入る時はノックを」

「あ、わりぃ」

「戸部君、簡単に自己紹介を」

「うっす。二年F組戸部翔。サッカー部」

「では、あなたのアピールポイントは?それをうまく使っていければあいての気を引くことも

できると思うわ」

「アピールポイント……隼人君と友達?」

「それはあなたの長所じゃないじゃない……。他には?」

「他?他か―……。うーん、後は―、特にないでちょりすねー」

「由比ヶ浜さん、あなたから見て戸部君のいいところは?」

「えっと―……明るい、とか?」

うっわ―、これダメな奴だ―……。

しかし、近くにいすぎて逆にわからない、ということもあるかもしれない。

「雪ノ下、なんかないか?」

「随分な難問を押しつけてくれたものね……。うるさい、いえ、騒がしい……?にぎやかなと

ころかしら」

途中の思考回路は言わないであげた方が良かったんじゃないかなー?

しかも難問って……。

「そういうあなたは?」

「おいおい、ない物を出せと言われてもそれは無理だろ」

「ないのはあなたのやる気でしょう?」

「ば、ばっかお前、やる気とか超あるよ!なんなら元気といわきもある!」

「なぜいわきのぶこ元参議院議員が……」

「やる気!元気!いわきです!」

戸部、うるさい……。

「戸部のいいところを探すより、海老名さんに目を向けてみないか?」

ないものはどうしようもないしな……。

「弱みを突いていくということね。流石比企谷君、卑怯な手段を考えさせたら右に出る者はい

ないわ」

「それお前褒めてるつもり?」

「ただの皮肉よ」

「で、どうなんだ、海老名さんは。由比ヶ浜曰く男同士の恋愛が好きということなんだが」

「や、なんてーの?そういう部分もエキセントリックでファンタスティック!的な?」

恋は盲目、というやつか。

だがまぁ、目がくらむほどには彼女のことが好きということなのだろう。

「戸部君の心情はともかくとして、海老名さんは戸部君のことをどう思っているのかしら」

「ど、どうだろうね……」

その質問に由比ヶ浜が動揺した。

うっわ―、もうこれ答え出てますねー。

「やばいわ―、それ気になりまくりんぐっしょー」

「おいお前、これはあれだぞ。いわゆるファイナルジャッジメントって奴だぞ」

「エル・カンタ―レへの道は遠いわね……」

「エロカンターレ?」

「エルカンターレよ、由比ヶ浜さん」

「なにそれ?」

「幸福の科学総裁大川隆法氏の……」

「おいやめろ、お前信者だったの?」

「小さい頃に姉さんが色々と吹き込んだのよ……」

妹に布教するとかどんな姉だよ……。

「ちなみに怪しい宗教団体をいくつかつぶしたらしいわ」

雪ノ下陽乃マジパねぇ……。

「って、宗教の話はいいって!今は俺のことを海老名さんがどう思ってるかって話っしょー」

戸部……。ひどい結論しか出ないと思ってせっかく話をそらしてやったのに……。

「じゃぁ、由比ヶ浜、どうだ?」

「……いい人、だとは思ってるんじゃないかな」

目をそらしながら彼女は言った。

うっ……涙が……。

女子のいう『いい人』というのは99%『どうでもいい人』のことだ。

つまりこれはもう駄目だということである。

しかし、戸部はそうは受け取らなかったらしい。

「いい人って……。やべぇじゃん!それ恋人まであと一歩じゃん!」

絶対に違う……。

こいつどこまでプラス思考なんだよ……。薄っぺらいだけか……。

「で、でもまぁ、嫌われてないってのはいいことだよね!」

由比ヶ浜が明るく言うが、俺と雪ノ下の間ではすでにあきらめムードが充満している。

『目標達成には努力あるのみ』といってのけた彼女が諦めているのだから、もうこれは完璧に

アウトである。

アウト!アウトお前アウト!スリーアウト、チェンジ!

「これは私達だけでは限界があるわね……」

「まぁ、戸部と海老名さんの間の溝が深すぎるよな……」

「そんなもん、愛の力があれば余裕っしょ!」

その愛はお前からの一方通行だから……。アクセラレータだから……。

ここで海老名さんに関してもう一度考えてみよう。

いわゆる『腐女子』のとしてトップカーストに位置しているというのは珍しい。

その趣味を隠してその位置にいるのはありそうだが、彼女の様に大っぴらにしてというのは珍

しい。

だが、この常識を覆したのがクラスの王者(王蛇)三浦優美子だ。

三浦はグループ編成の際に、ただただ可愛さという基準だけでメンバーを選んだ。

そしてこの状況を作り出した村は、今回の件のキーパーソンになりうるかもしれない。

「誰かほかに協力者がいた方がいいかもね。優美子とか」

「……王蛇?」

うっわ―、雪ノ下さんの機嫌が一気に悪くなった―……。

「でも、優美子こういう話好きだし」

「……やめとけ」

もちろん俺や雪ノ下があいつと関わりたくないという主観的な条件もあるが、客観的に見ても

この提案には問題がある。

この依頼、十中八九うまくいかない。

そして失敗した時、海老名さんからすれば由比ヶ浜や三浦がけしかけたと思うだろう。

由比ヶ浜だけならあるいは、『奉仕部』だからという言い訳ができる。

だが、三浦がこの件に絡んだ時その言い訳は使えなくなり、彼女達の関係に悪影響が出る

だろう。俺としては、由比ヶ浜にはあまりあいつらと関わってほしくないが、彼女自身がそれ

を望んでいない以上、俺がそれに加担するようなまねはしたくない。

「まぁ、とにかくやめとけ」

「……うん、わかった」

説明を求められなくて助かった。

まずうまく言えないだろうから。

「となると、完全に手詰まりね」

「もう諦めろ」

「っか―。ヒキタニくんマジひどいわ―。隼人君の言うとおりひどい奴だわ―」

葉山……俺のネガティブキャンペーンをしてくれてどうもありがとう。

「でも、あれっしょ?そういうキャラなんっしょ?」

「いや、大マジだよ」

「でもさー、よくいうべ?好きの反対は無関心って」

「お前はどこのマザーテレサだよ……」

好きの反対はどう考えても嫌い、だ。

あるいは憎悪、殺意。俺が葉山や三浦、雪ノ下陽乃に抱いているような……。

「俺、結構マジなんよ……。告白の台詞とかも考えてて―……。『僕につられてみる?』とかど

う?」

「か、軽い……」

「それはあんまりだよ……」

「下の下、といったところね」

「あっ、じゃぁこれは?『お前僕と付き合うよね?答えは聞いてない!』とか」

「お前それ本気で言ってんのか?」

「絶対無理だと思う……」

「下の下ね」

「っか―、言われちゃってるー。いわれちゃってるよ俺―」

と、その時携帯のバイブ音が鳴った。

「はいもすもす。え、ガチンコ!?おっけ、すぐ行くわ!」

あわてた様子で電話を切り、荷物をまとめ出す。

「どしたの?」

「部活の先輩が来てるらしいんだわ。つーわけでごめん、じゃ、また!」

「まったく騒がしい……」

戸部がいなくなったことで、部室に静寂が訪れる。

「あっ、そうだ!」

唐突に由比ヶ浜が手を叩く。

「どうしたの?」

「修学旅行の班を一緒にすればいいんだよ!姫菜京都好きだし、見て回ってるうちにいい空気

になるかも!」

「それはなかなかいいかもしれないわね」

「一日目はクラス行動だから大丈夫だね。で、グループは多分あたしと姫菜と優美子が一緒に

なるのはほとんど決まり」

ま、そりゃそうなるよな。

「で、男子の方はヒッキーが一緒になればいいよ。そしたら二日目も一緒にいられるし」

「え……俺もう戸塚と組んでるし」

「そうね、それに戸部君達はもう四人組決まっているんじゃないの?そこにこんな男を放り込

んでも誰も幸せにならないと思うけど」

お前はいちいち俺をディスらないと発言できないの……?

「うーん、でもサポート役は二人いた方がいいと思うんだよね」

「なるほど……。まぁあの……何だったかしら、大和、君?と風見鶏の……」

「大和と大岡、な」

「そう、その二人は一緒に相談に来たくらいだし事情を話せば了解してくれそうね」

おい待て、なんで俺が関わってるのに俺抜きで話が進んでるの?

「ちょっと俺の話も……」

「じゃ、班分け男子の方はあの四人を二つに分けて、そこにヒッキーとさいちゃんを入れるっ

てことで」

……上の上ですね。

「あたし達はあと一人だね」

今は修学旅行の班決めの真っ最中である。

由比ヶ浜がそういうと、三浦が返す。

「別に三人でよくね?」

よくないから、全然よくないから。

さらっとルールを破ろうとする当たり流石は王蛇。

「おまた~」

「あ、姫菜。四人組なんだけど……」

と、そこには海老名さんに連れられた一人の少女がいた。

「サキサキも一緒でどう?」

川崎沙希。青髪ポニーテールが特徴的だ。俺と同じであまり友達が多いタイプではない。

奉仕部ともかかわりがある人物だ。まぁその件に関しては割愛してもいいだろう。

重度のブラコンで、この弟の大志とかいうクソガキは、マイラブリーエンジェル小町に好意を

抱いているクソ野郎だ。

「あ、あたしは別に……。後、サキサキ言うな」

「川崎さんさえよければ一緒にどう?」

「まぁ、いいけど。どうせ他に組む人いないし……。笑えよ」

わ、わらえねー……。

「どうせあたしは、日向の道を歩けない」

あれー?この人こんなネガティブ思考だっけ……?

川、川……川なんとかさん。

「じゃ、決まりね!」

海老名さんが明るい声でそういった。

「う、うん……」

「あ、男子も一緒だけどいいかな?」

「男子?」

「うん、葉山君とヒキタニ君のはやはちが間近で見れるんだよ!」

「そ、それはどうでもいいけど」

「とにかくグループ決まったってことで」

こいつらと一緒に修学旅行行くの嫌だなぁ……。

いよいよ明日からは修学旅行だ。

奉仕部部室では最終確認が行われていた。

といっても、お勧めスポットを探すくらいの簡単な仕事だが。

「じゃぁ考えよう!」

由比ヶ浜がずらっと観光ガイドやら旅行雑誌やらを並べる。

「何でこんなにあんだよ……」

「え?ゆきのんが持ってたやつと、図書室から持ってきたのと、後は火野先生から」

「火野先生……。そういえばあの人旅好きだったな」

「どういうところがいいかなぁ……」

「それこそ火野先生に聞いてこなかったのかよ」

「あっ、そうだね。でも火野先生、いいムードの場所とか考えたことなさそうだし」

まぁ、そりゃそうだな。何せ女子に平気でパンツだの言いだす人だ。

セクハラをする気が皆無なのでなおさら性質が悪い。

「そうね……。まだあちらも紅葉の季節でしょうし、嵐山なんかいいかもしれないわね。近く

に伏見稲荷もあるし」

「お前詳しいな、行ったことあんの?」

「無いわ。だからこそいろいろ調べるのが楽しいんじゃない。それに、あなたと一緒だし……」

雪ノ下の照れたような視線の先にいるのは、当然由比ヶ浜だ。

おい、一瞬ドキッとしちゃっただろうが!

ドキドキプリキュア!ちなみにあれブレイド意識しすぎだよな……。

「ゆきのん!」

抱きついてきた由比ヶ浜の背中を雪ノ下がトントンと叩く。

やばい、雪ノ下が百合化してきている……。

と、その時扉が叩かれた。

急いで雪ノ下は由比ヶ浜から体を離す。

すると由比ヶ浜は残念そうな顔をした。

大丈夫だよね?お前らノーマルだよね?

「どうぞ」

「失礼します」

部室に入ってきたのは一人の少女。

肩までの黒髪、赤フレームの眼鏡。

レンズの先の瞳はすんでいる。

「って姫菜じゃん」

「あ、結衣。はろはろ~」

何その挨拶。どこかのロボアニメにでも出るの?

「やっはろー!」

しかし由比ヶ浜は気にすることなく挨拶を返す。

「雪ノ下さんも比企谷君もはろはろ~」

雪ノ下は彼女を見て少しいやな顔をする。

三浦の仲間である彼女に好印象を持っていないのだろう。

それはまた俺もしかりだが。

「どーも」

「どうぞ、好きにかけて」

「ふぅん、ここが奉仕部……」

呟いて部室内を見回すと、俺達に向き直る。

「ちょっと相談したいことがあってさ……」

普段ならばあまり聞きたくないが、戸部の件があるので今は話が違う。

彼女に関する情報は少しでも多く集めておきたい。

「あのね……戸部っちのことで相談があって」

「と、ととべっち!?」

ととべっちってなんだよ。たまごっちに出てきそうだな。

うわ、絶対育てたくねぇ。

おいおい、なんか海老名さんの顔赤くないか?まさかの戸部大勝利なのか?

「とべっち、最近隼人君やヒキタニくんと仲良すぎじゃない!?大岡君や大和君とのただれた

関係がみたいのに!」

のに!のに!のに……。

まさに絶句。無言絶句。ZECKって書くとなんかかっこいい。

「えっと、つまりどういうこと……?」

口を開いたのは由比ヶ浜だ。

さすが普段から一緒にいるだけあって慣れている。

「最近戸部っち、ヒキタニ君とよく話してるじゃない?それにグループ決めの時とかも意味あ

りげな視線を送ったりしてたし。ぐ腐腐腐腐」

うわぁ……ダメだこいつ……。

と、少し真剣な表情になって彼女は言う。

「仲良くするのはもちろんいいんだけど、大岡君達と距離置いたのが気になってさ」

なるほど、そういうことか。

確かにすでに出来上がっているグループに俺と戸塚が入るというのは不自然な構図だ。

「まぁ、人にはいろいろ事情があんのさ」

「うーん、まぁそうなんだろうけどね。あのね、誘うならみんなを誘ってほしいの。そして、

全部受け止めてほしい!ふふ、ヒキタニ君総受けとかきましたわ―」

「冗談じゃねぇよ……」

「それで、結局何がいいたいのかしら?」

流れる空気をすべて無視して雪ノ下は問いかける。

「うーん、なんかね、今までいたグループがちょっと変わっちゃったなぁって……」

彼女の声が憂いを帯びたものに変わる。

「さっきも言ったけど、人には色々ある。仲良くする相手が変わるなんてよくあることだろ」

言ってから思う。今居るこの居場所は変わらずにいてほしい、と。

だから、海老名姫菜の想いも理解してしまった。

「それでも、今までどおり仲良くしたいから」

その笑顔は腐ってもなく邪気もなく、どこまでも自然な笑顔だった。

みんな仲良く、たとえそれが上っ面だけの関係だとしてもその継続を望む者はいるだろう。い

や、ほとんどの者がそうだ。

しかし、だ。

今目の前にいる海老名姫菜という人間の真意がそんな単純なものなのか、俺は測りあぐねてい

る。

「それじゃヒキタニ君、よろしくね。あ、修学旅行でもいいホモシーン楽しみにしてるから!

それでは~!」

「なんだったのかしら……」

「さぁ、な。ま、あいつらみんな仲良くしてやりゃぁいいんじゃねぇの。上っ面の関係だ。き

れいに見せるのは難しいことじゃない」

「変わらないわね、あなたも」

「でもさぁ、男子同士ってどうやって仲良くなるのかな?」

由比ヶ浜が首をかしげて俺を見る。

「由比ヶ浜さん、そんな質問を比企谷君にするのはあまりに酷だと思わない?もう少し気を使

った方がいいと思うわ」

「本当、もっと気を使えよな、お前が」

なにはともあれ、明日は修学旅行だ。

抱えている懸案は戸部の告白だけ。

つまりは何の心配もないということだ。

戸塚とともに京都を歩く自分を想像し、少し高揚しながら俺は帰路に就いた。

そして翌日、いよいよ修学旅行当日だ。

新幹線に乗るため、いつもより少し早く家を出た。

快速に乗り越え、扉が閉まって一息ついたところで、青い瞳と視線がぶつかった。

「……」

「……おい、今私を笑ったか……?」

「いや、別に笑ってねぇけど……」

「笑え、笑えよ……」

やだ、この人怖い……。

川崎沙希。こんな奴だったっけなぁ……。

京都駅までは新幹線で二時間ほど。

俺は寒さを感じながらバス乗り場へと向かった。

ちなみにこの時点で班の連中とも合流している。

本日の予定では、これから清水寺に向かうらしい。

クラスごとにバスに乗り込む。

ちなみに戸部と海老名さんは通路をはさんで隣に座っている。

しかし進展は見込めそうにない。

目的地まであまり時間がかからないし、席の自由度が比較的高いからだ。

紅葉のピークは過ぎたものの、観光客の数は多い。

どうやらここで集合写真を撮るようだ。

適当にそれを流し、清水寺拝観入り口に並ぶ。

しかし人が多く、これは少し待ちそうだ。

「ヒッキー!」

声をかけてきたのは由比ヶ浜だ。

というかこのクラスで俺に声をかけるのは戸塚か由比ヶ浜くらいしかいない。

「どうした?おとなしくならんどかないと抜かされるぞ?」

「うーん、でもまだしばらく進みそうにないからさ。ちょっと面白そうなところ見つけたの。

行ってみない?」

「また後でな」

「もう戸部っちと姫菜呼んでるからさ」

「ああ、そういうことか……」

「うん!そういうこと!」

「なんでこいつらまでいるんだ……?」

由比ヶ浜につれられるままに行くと、そこには葉山と三浦もいた。

この二人の顔は、見たくない。

「だって戸部っちたちだけ呼んだら不自然じゃん」

「ま、そうだが……」

「ほら、行こ行こ」

由比ヶ浜にうながされ、施設内に入る。

RPGのダンジョンの中のようだ。

「んじゃ、優美子と葉山君が最初ね。あたし達は最後に行くから」

「ああ、わかった」

「結構楽しそうじゃん。隼人、早くいこいこ!」

「うっわ―、これ結構くらいしテンションあがりまくりっしょー!」

お前はいつもテンション高いけどな……。

「やばっ!暗い暗いくらい!これやばいって!ヒキオくらい暗いって!」

先行する三浦が他人も気にせず大声で騒ぐ。

なんでお前も俺をディスるの……?

しばらく歩くと、明かりがともった少し開けた場所に出た。

「ここで石を回しながらお願いするんだって」

願い……か。

ライダーバトルの終結、というのも一瞬浮かんだが、それを神に祈るのは何か違う気がする。

「お願い事、決まった?」

「ああ」

「じゃぁ、一緒にまわそっか」

ま、小町の受験合格でも祈っとくか。

そこから少し歩くと、出口が見えてきた。

「どうです?生まれ変わった気分でしょう?」

受付のおじさんから声をかけられたのは戸部だ。

「いやー、マジすっきりっすわ―。なんてーの?生まれ変わった、的な?」

うん、何一つ変わってないな。

気づいた時には布団に横になっていた。

「何でこうなったんだっけ……」

記憶を整理する。今日は修学旅行初日だったはずだ。

清水寺に行き、銀閣やらなんやら他の寺社仏閣も回った。

戸部と海老名さんの雰囲気も決して悪くなかったと思う。

で、宿に入って飯食って……

「あ、八幡、起きた?」

横で体育座りをしていた戸塚が顔を覗き込んでくる。

「お風呂の時間過ぎちゃったけど、内風呂使っていいって」

「なに!!?」

戸塚とのお風呂タイムが終わってしまった……。何という失態。

「ユニットバスはあっちだよ」

「ああ、ありがと」

軽くシャワーを浴びて風呂からあがると、戸部が横になっていた。

「おお、ヒキタニくん。一緒にマージャンやんね?こいつらみんな強くてさー」

「いや、俺良くルールわかんねーから」

適当にあしらうと、戸部も深追いしてこなかった。

のどが渇き、手荷物を確認したが、飲み物はもう残っていない。

「買いに行ってくるか」

軽い音をたてて階段を下りていく。

上の階は女子の部屋になっているらしい。

そして、俺が目指すジュースの自販機は一階にある。

就寝時間前ならここまでの移動は許可されているが、皆友達との交流で忙しく、ほとんど誰も

いない。

押し寄せる疲れをいやすべく、好物のMAXコーヒーをチョイスした。

……?

自販機を上から確認するが、目的の物が見つからない。

どうなってんだ……?

仕方ないので、俺は妥協してカフェオレを買った。

控えめな甘さに一息ついていると、ロビーの一角に見知った人物が現れた。

やけに堂々とした様子で歩くのは雪ノ下雪乃。

風呂上がりの後だからか、珍しくラフな格好だ。

雪ノ下はそのままお土産コーナーへと向かった。

やたら真剣な目で何かを見つめている。

まぁあいつがあんな目をして見る物は一つしかないんだけど。

商品に手を伸ばしたその時、周囲を見回した。

無論、ずっと見ていた俺と視線が合う。

と、彼女はこちらに寄ってきた。

「こんな夜中に奇遇ね」

「そうだな」

「どうしたの?部屋に居辛くなったの?」

「そんなんじゃねぇ。後は若い人だけで、って奴だ」

「あなたに仲人なんてできるとは思えないのだけど」

「うるせぇな。そういうお前は?」

「クラスメイトの話題の矛先がこちらに向かってきてね。本当にどうしてああいう話が好きな

のかしら」

「まぁ、修学旅行の夜なんてそんなもんだろ」

「他人事のように言うけど、そもそもあなたが……」

「おいちょっと待て。俺絶対関係ないだろ」

「はぁ……。まぁいいわ。で、ここでなにしているの?」

「休憩、ってとこだな。お前は?お土産買うんじゃねぇの?」

「別にそういうことでもないけれど」

そう言って彼女は視線をそらす。

そうですか……まぁ本人がそういうならそういうことにしておこう。

「あなたこそお土産は?」

「今買っても邪魔になるだけだから帰りに買うわ。まぁ、小町に頼まれた物買うだけだからそ

んな多くはなんないけどな」

「そう、それで、依頼の調子はどう?」

「何とも言えん、可もなく不可もなくって奴だ」

「すまないわね、クラスが違って手伝えなくて……」

「気にすんな。俺だって同じクラスだけど何もしてない」

「それは気にしなさい……」

と、そんな話しをしていると火野先生が通りかかった。

「あ、君達」

「こんばんは」

「こんばんは、どうしたんですか?こんな時間に」

「うん、ラーメンを食べに行こうと思ってね。ラーメン二郎のラーメン、ずっと気になってた

んだ」

「そうなんですか」

「あ、よかったら比企谷君と雪ノ下さんもどうかな?一人で行くのもいいけど、修学旅行の夜

にっていうのは少しさびしい気もするし」

修学旅行っていうかあなたは引率者の側なんですけどね……。

ただ、ラーメン二郎は俺も気になっていた店である。

「いいですね、お供します」

「雪ノ下さんは?」

「……私も行きます。店のラーメンというものは食べたことがないから気になるし……」

ラーメン食ったこと無いってどんだけお嬢様なんだよ。

「あ、でもこんな恰好で……」

雪ノ下は自分の服装を思い出したらしい。確かにラーメン屋に行くのにはあまりふさわしくな

い。

「あ、ならこれを着るといいよ」

そう言って火野先生は自分の羽織っていた上着を渡す。

「風邪引くといけないしね」

火野先生SUGEEEEEE!しかし顔も振る舞いめっちゃ男前なのに女性の影がないのはな

んでなんだろう……」

ホテルから出ると、冷たい夜風を感じる。

「さ、乗って乗って」

タクシーを止め、先に俺達を乗せてくれる。

「一条寺までお願いします」

タクシーに乗ること十数分。

「ここがラーメン二郎……」

「そんなに有名なお店なの?」

「ああ、まぁな」

「いやー、楽しみだなぁ!さぁ、入ろう!」

店内に入った途端に広がる濃厚な豚骨スープのにおい。

「……」

雪ノ下は怪訝な顔をしている。

「券買わないとね。大と小、どっちにする?」

「あー、俺は大で」

「……」

「雪ノ下さん?」

「ごめんなさい、私は結構です。食べられそうにありません」

「そっか……。わかった」
そう言って火野先生は二枚の「大」食券を買う。

「あ、払いますよ」

「いいっていいって。俺が誘ったんだしさ」

「すいません……ありがとうございます」

注文してしばらくすると、ラーメンが運ばれてきた。

「……豚の餌」

「おい雪ノ下、それは禁句だ!」

しかし、想像していたよりも遥かに量が多い。

何これ、野菜で麺が見えないんだけど?

「い、いやー、これは食べ応えがあるなぁ」

火野先生の顔も少しひきつっている。

「「いただきます」」

多い。これはあまりに多すぎる。

三分の一くらいしか食べていないのにもう満腹だ。

「こ、これ多すぎんだろ……オエっ」

「確かにこれはきつい……うっ」

「というかこれ、一食分にしては桁違いの量なのだけど……」

「すいません先生、俺もう無理です」

「うん、俺もちょっと……」

残すのは忍びないが、これを全部食べるなんて到底無理な話だ。

「「ごちそうさまでした」」

と、その時。

「ギルティ!」

俺達の席に一人の男性客がやって来てそう言った。

「「ギルティ!ギルティ!」」

さらに二人の客もやって来て異口同音に言う。

それを近くにいた店員が腕を組んで見ている。

「ギルティ……罪……どういう意味かしら」

「何この人たち、頭おかしいの?」

「どうしたんだ……まさか洗脳系のヤミーに」

「俺はロッドマスターの剣崎一真だ!お前達はギルティを犯した!ウェーイッ!」

何だこいつ……ちなみに最後のウェーイはチャラ男たちが使うそれではなく、気合を入れる為

の声のようだった。

「……これ食ってもいいかな?」

「橘さん!何人の食べ残し食べようとしてるんですか!今はこいつらのギルティを責める時で

しょう!」

「その通りだ、食べ物を残すのは幼女だけの特権……」

「黙れ始!このロリコンアンデット!」

「……」

何これ、コント?しかし三人とも男前だな……。

「橘さん!小夜子さんとよく食べたっていう思い出の一品なんでしょ!黙ってていいんです

か!」

「ザヨゴォォォォッッ!」

「その意気です橘さん!」

いや、その意気ですじゃねぇよ……。

「この距離ならバリアは張れないな!」

そう言って、橘と呼ばれた男が俺の頭に手で銃の形を作って押し付けてきた。

「俺は全てを失った。信じるべき正義も、組織も……愛する者も、何もかも……だから最後に

残った物だけは……失いたくはない!二郎の、ラーメンだけはっ!」

「最後に残ったのがラーメンだったのね……」

雪ノ下が憐れむような眼をしていた。

「統制者が言っている。アンデッドを二体確認、バトルファイトを再開しろ、と」

「二体の、アンデッド……?」

始という男と剣崎という男が会話を始める。

「ああ、ヒューマンアンデッドと、ラーメンアンデッドだ」

「ラーメンアンデッド……」

「四枚のカテゴリーキングがそろった時に現れる、伝説のアンデッド……」

「それフォーティーン……」

「黙れ剣崎」

「ウェイ……」

「だが今俺は、戦わなくていいと思っている」

「ラーメンがそこにあるんだ!倒すしかないだろ!」

「剣崎、俺は思った。きっとこの二つのアンデッドは共存できる。それが、それこそが運命な

んだ……」

「もし、もしそれが運命だというのなら……俺は運命と戦う!そして、勝ってみせる!」

「それが、お前の答か……」

「ああ……さぁお前ら、ラーメンを食うんだ」

「すいません、もう食べれないです……」

「俺も……」

「なんという根性無し……所長!烏丸所長!何とか言ってください!」

「確かにわたしのラーメンは多すぎたかもしれない。だがわたしは謝らない!それが君達の為

になると信じてるからだ!」

「その通りだ!この大量のラーメンこそが、ラーメン二郎の、いや、BOARDの誇りだ!」

「確かに、残したのは悪かったですけど……ならどうすればいいんです?」

火野先生が穏やかな口調で聞くと、剣崎という男が答える。

「ラーメン二郎の鉄の掟!残した者は土下座!」

「……あなた、頭がおかしいんじゃないの?確かに食べ物を残すことはよくないことだわ。で

も、だからといって土下座を強要するなんて筋が通ってないわ!」

……キュアマーチ?

「な、なんだと!もう許せない!変身!」

「Change」

その音が響き渡ると同時、剣崎の体に変化が起きる。青と銀の金属質の体。

見まがいようもない、仮面ライダーだ。

「あなた達も、仮面ライダー?」

「いや、あのベルトは、龍騎の世界のものじゃない。この人たちも、俺と同じように……」

「なにはともあれ、正義は拳で語れということかしら?なら、受けて立つわ。……変身!」

雪ノ下がナイトに変身する。

「お前達……剣崎、俺も加勢する」

「Change」

ロリコンアンデット、もとい始と呼ばれた男が、黒と赤の少し不気味なフォルムのライダーに

変身する。

仕方ない、俺もやるしかないようだ。

「変身!」

「剣崎、……俺も戦おう」

「Turn Up」

赤と銀色のクワガタの様なフォルムに橘が変身する。

「三対二……俺も行くよ!変身!」

「タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!」

「私はこの黒いのを相手するわ!」

「俺の名はカリス、仮面ライダー、カリスだ!」

「Sword Vent」

「Bind」

雪ノ下が剣を呼び出すと、カリスも弓状の武器にカードをスキャンする。

「あなた達も、カードで戦うライダー……」

「それだけじゃない、俺達にはコンボがある!行くぞ!オーズ!」

「Drop Fire Jemini……Burning Devide」

「ギャレン……炎には、このコンボだ!」

「シャチ!ウナギ!タコ! シャ・シャ・シャウタ!シャ・シャ・シャウタ! スキャニング

チャージ!」

飛び上がって二体になったギャレンにオーズが電気の鞭で応戦する。

「二郎をコケにしたこと、後悔させてやる!」

「Kick Thunder Mahha……Ritning Sonic」

すると剣崎、ブレイドが高速で走って飛び上がり、雷の力を宿したキックを放ってきた。

「みすみす食らうかっ……」

「Guard Vent」

体勢を崩すも、何とか攻撃を防ぐ。

「今度はこっちの番だ!」

「Advent」

「グガアァァァァッッ!」

突進するドラグレッダーにブレイドは強烈な蹴りを放つ。

しかし体格差は歴然。ブレイドの体が大きく吹き飛ばされる。

「くそっ、ならこれでどうだ!」

「Absorb Queen Fusion Jack」

二枚のカードをスキャンすると、ブレイドの姿が変わり、背中から二対の翼が生えた。

「いくぞっ!」

「Thunder Srash……Ritning Srash」

ブレイドの剣に雷の力が宿る。

空中に舞い上がり、加速をつけてこちらに突進。受け止めようと剣を構えた俺のすぐ横をしか

しブレイドはすりぬけていく。

「……え?」

「ウェーーーーイッ!」

ブレイドはそのまま俺の背中で高度を上げ、背後から再び同様のも攻撃を放ってきた。

相手の狙いに気づき身をひるがえそうとするが、間に合いそうにない。

襲い来る衝撃に備えたその時、

「ハァッ!」

ブレイドの攻撃が何者かによって止められた。

「ま、真琴……」

「兄さん、何をやってるの!」

俺達の様子に気づいた雪ノ下達も戦いの手を止めている。

剣崎の攻撃を止めたのは、白と紫の衣装を着た見目麗しい少女だった。

あれ?というかこの子見覚えが……。

何かを思い出しそうになったその時、突如俺を激しい頭痛が襲った。

それは一瞬のことだったが、直前に何を考えていたのかがすっぽりと抜け落ちていたようだっ

た。

この少女に関して俺は何か知っているはずなんだが……。

「兄が失礼しました、私はキュアソード……いえ、剣崎真琴です」

「ダビィ!」

「ダビィ、少し静かにしててね」

ひとりでに音を出した携帯のようなものを彼女が触ると、彼女の装いが変わり、奇抜な衣装か

らありふれた(それでも持ち主のセンスは大いに感じ取れるが)服装になった。

「兄さん、あなたいったい何をしていたの?橘さんと、相川さんも一緒になっていたようだけ

ど……六花とマナに言いつけるわよ?」

「それはやめてくれ……ダイヤヒーローの先輩としての面目が立たん……」

「そんなことをやってみろ。俺はお前を、ムッコロス!マナちゃんは俺の嫁だからな……」

「ふざけたことを言わないでくださいロリコンアンデット。それにあなたには天音ちゃんがい

るんじゃないですか?」

この人がロリコンであることは共通認識なのか……。ていうかさっきからこの人達滑舌悪くな

いか……?

「天音ちゃんはもう、おばさんだから……」

「おばさんって年じゃないだろ……ジョーカーがロリコンとか本当かっこ悪いから勘弁してく

れ……」

橘が頭を抱える。

「……あなたは、この人達とどういう関係なのかしら」

いつの間にか変身を解いていた雪ノ下が真琴に尋ねる。

「さっきも言った通り、私の名前は剣崎真琴。ここにいる剣崎一真の妹よ」

「あなた、何者、なの?見たところ、仮面ライダーではないようだけど」

確かにこんなふうに素顔が見えるライダーなど知らない。そもそも仮面をしていない。

「私は、プリキュア。伝説の戦士、プリキュアよ」

……プリキュア?

その時再び俺の頭にノイズが走った。

「プリキュア?」

「ええ、まぁ、仮面ライダーと同じように人を助ける存在のことよ」

「そうなの……これも姉さんがやったことに関係あるのかしら」

「プリキュアとライダーが同じ世界で、しかも兄弟……?世界のバランスの崩壊は、思わぬと
ころで思わぬところでも起こってるみたいだな……」

火野先生がぼそりと一人つぶやく。

「おいお前達、もう時間も遅い。残したことに関しては特別に許してやるからさっさと帰れ」

店から出てきた烏丸が言う。

「あっ、ベール!あなたまた何かしたの!?」

「今の私はベールではない、烏丸だ。そんなことよりキュアソード、貴様もさっさと帰れ。ハ

ート達が心配しているんじゃないか?」

「まさかあなたに心配される日が来るとはね」

「……今とやかく考えてもどうしようもないか、比企谷君、雪ノ下さん、ホテルに戻ろう」

「はい」

「わかりました」

「……待て」

剣崎兄が俺達を呼びとめた。

「何でしょうか?」

雪ノ下が冷たい声音で答える。え?お前この短時間でこの人のこと嫌いになったの?

「悔しいことに、俺達はこの世界では大して何をすることもできない。こんなこと初対面の奴

に言うようなことなのか分からないが……色々あると思うが、頑張ってくれ。どんな困難でも

乗り越えられるはずだ、お前達に、ライダーとしての資格があるなら」

「はい」

「お~い、剣崎く~ん。僕の牛乳しらな~い?」

「小太郎、仕方ない奴だ……」

最後に小さなため息をつき、剣崎は俺達のもとを去っていった。

「それじゃ、俺達も行こうか」

今日起きた謎の頭痛と見たこともないライダーについて考えながら、俺はホテルへと戻った。

修学旅行も二日目だ。

太秦映画村を出て、次なる目的地は洛西エリアだ。

金閣やらなんやらがの観光スポットが数多くあるスポットである。

俺達はタクシーに分乗して目的地へと向かっている。

俺が乗っているタクシーには俺、由比ヶ浜、戸塚、川崎。他は戸部、海老名、大岡が乗ってい

るのと葉山、三浦、大和が乗っている物の計3台で向かっている。

と、その時だ。

運転手が悲鳴を上げたかと思うと、車がスリップした。

見ると、鏡から出てきた腕に運転手が腕を掴まれていた。

こんな時にっ……!

俺と由比ヶ浜、戸塚でモンスターの腕から何とか救出する。

「あんたら、勇気あるね」

川崎が称賛の声を漏らし、車の外に出る。

「ここからはあたしがやる。来い!ホッパーゼクター!」

川崎が叫ぶと、どこから現れたのか黄緑色の、バッタを模した小さな機械が現れた。

「変身!」

「Change Kick Hopper」

全身緑で、両目が赤く光る少し不気味な姿。

しかしそれは、見まがいようもなく、仮面ライダーそのものだった。

「ハッ!」

川崎は、タクシーの窓からミラーワールドへと向かう。

「あいつもライダーだってのか……?」

「でも、なんかあたし達とは違う感じがした。ベルトも違うし……」

「と、とにかく。今は僕達も変身しないと」

「っと、そうだな。一緒に頑張ろうな!戸塚!」

「って、何でさいちゃんだけ!?ヒッキーまじきもい!」

「由比ヶ浜、いつまでバカなこと言ってんだ?……変身!」

「ひ、ヒッキーが悪いんでしょ!?もぉ……変身!」

「あ、あはは……大丈夫かな……変身」

珍しく笑いながら変身したこの時の俺は、ミラーワールドの恐ろしさをすっかり忘れていたの

かもしれない。

悔やんでも悔やみきれない、あんなことが起きるなんて……。

ミラーワールドにいたのは赤い猪型のモンスターだった。

先に来た川崎と様子をうかがいあっている。

「グルアァァァァッッ!」

耳を割くような咆哮とともにイノシシが突進する。

「……おい、今私を笑ったか?」

それとは対照的に川崎は落ち着いてつぶやく。

そしてクルリと回り、敵に蹴りを放つ。

「ライダー……ジャンプ」

「Rider Jump」

ベルトに軽く手を触れて、川崎は高く跳び上がる。

「ライダー……キック」

「Rider Kick」

大きな音を立てて敵が爆発する。

「「「「グルアァァアアッッッ!」」」」

それと同時、物陰から同種のモンスターが四体出現した。

「なっ……こいつら群れで動くタイプか……」

「四人で協力して倒そう!」

由比ヶ浜が陽々として言うと、すかさず川崎が返す。

「協力して……?パーフェクトもハーモニーもないんだよ」

どうやら協力するつもりはないらしい。

「なら、一人一匹ずつってことでいいか?」

川崎は黙って首肯する。

「イノシシども……いいよなぁお前らは。そんなに仲間がいてさぁ」

……やさぐれてるなぁ。

「じゃぁ、行くか。戸塚、危なくなったらいつでも言えよ!」

「うん、ありがとね、八幡」

「むぅ……ヒッキー……」

「いいよなぁあんたらは。仲がよさそうで」

いかん、このままでは川崎が一層やさぐれてしまう。

「Sword Vent」

一匹の敵に斬りかかる。

「Swing Vent」

「Sword Vent」

「Rider Jamp」

三人もそれに続く。

イノシシの巨体と剣が衝突する。

こいつ、かなりのパワーだな……。

「デァッッ!」

力に比べるとスピードはそれほどでもないので先程から何発も体を切りつけているが、ほとん

どダメージが通っていない。

「ガァッ!」

敵が大きく体を動かすと、その衝撃で俺は空中に投げ飛ばされる。

イノシシは俺の落下地点を予想して突進を繰り出してくる。

こんなもんまともに食らってられるかっ!

「Advent」

ドラグレッダーを呼び出してその背に背中から着地しその上で体勢を戻す。

そして頭からこちらも突進する。

今度は相手が体勢を崩した。

「Strike Vent」

距離を取ってからの炎攻撃で追撃する。

「これでっ、終わりだ!」

「Final Vent」

再びドラグレッダーを呼び出し、必殺技を放つ。

「ダァァアアァァッ!」

俺の蹴りが当たると同時、敵が爆発する。

そして周りを見渡すと、それぞれとどめを刺すところらしかった。

「よし、片付いたな」

「でも、みんなでいる時でよかったね。一人の時にあんな数に襲われてたらどうなってたか…
…」

「大丈夫だ、戸塚は俺が守るから」

「もーヒッキー」

由比ヶ浜がいつものように俺を軽く叩こうとした、その瞬間。

「Advent」

突如として地中から黒龍が現れ、戸塚にかみつきそのまま地面に当てながら猛スピードで進ん

でいく。

こいつは……ドラグブラッカ―!?

「あぁぁぁああっ!」

「戸塚っ!?」

「さいちゃん!?」

「おい!」

龍は戸塚にかみついたまま高く舞い上がる。

そして、少し離れたビルの屋上に吐き捨てた。

「おい由比ヶ浜!アドベントカードは使えるか!?」

「無理!さっき使ったばっかだからしばらくは……」

モンスターの力がなければ俺達はあそこまで登れない。

内部の階段を使うにしてもかなりの時間が経ってしまう。

「っ、川崎!お前のあのジャンプで何とかできないか!?」

「あの高さはさすがに無理だ……」

「くそっ!」

俺は急いで走りだす。

とにかく今は一刻も早く戸塚のもとに行かなければ。

俺の分身、仮面ライダーリュウガは、戸塚よりも戦闘能力が高い。

サバイブのカードを所持しているうえ、戸塚は先程の戦いで無視できないダメージを受けてい

た。

……このままでは、確実に負ける。

自らの出せる最大限の力で階段を駆け上がる。

由比ヶ浜と川崎は俺の後を追っていくらか下の階を上っている。

と、その時だ。

俺の視界に空中から落ちてくる戸塚の姿が目に入った。

背中の翼を広げて無事着地に成功したようだ。

それから一秒もせず、ドスンという嫌な音が聞こえた。

リュウガが地面に着地した音だ。

彼の足もとはかなり沈んでいる。

あれだけの高さから落りて、少しもダメージを受けた様子がない。

そしてリュウガは、あらかじめカードをセットしていたであろうバイザーを引く。

『Final Vent』

聞こえるはずなどないのに、俺の耳にその音は明瞭に聞こえた。

リュウガの周りをドラグブラッカ―が回りながら上昇していく。

壁を力ずくで壊し、そこから飛び出る。

だが、……間に合わない!

闇をまとったリュウガが戸塚に向かっていく。

戸塚は深刻なダメージのせいか、まともに防御姿勢もとれていない。

「やめろぉぉぉぉぉぉっっっ!」

「でいやぁぁああぁぁっ!」

それは、俺がつい先ほどモンスターを倒した時の焼き直しのように、リュウガの攻撃が届くと

同時、大きな爆発が起きる。

戸塚がいたはずの場所には、カードデッキすら落ちていなかった。

……何一つ、残ってはいなかった。

「と、戸塚ぁぁぁぁっっっ!」

「……よぉ、久しぶりだな。ったく、お前らはダラダラしすぎなんだよ」

「よくも、よくも戸塚をっ!絶対にゆるさねぇ!」

「Survive」

「Final Vent」

「今日はもうこれ以上戦う気はない。じゃぁな」

リュウガはドラグブラッカ―の背に乗り去っていった。

「そんな……とつ、か……」

「嘘、でしょ……?さいちゃんが……」

「くっ……」

由比ヶ浜が地面に膝をつき、川崎が顔を下に向ける。

突然の出来事に俺は茫然としていた。

涙さえも出てこない理由は、変身しているからではないはずだ。

その時、俺の体から粒子が流れだした。

この世界にいられるタイムリミットが近づいた合図だ。

「比企谷、由比ヶ浜!とりあえずここを出るよ!」

「また、守れなかった……ここで朽ちるのも俺らしいかもな……」

「馬鹿言ってんじゃないよ!そんなことを知ったら戸塚はどう思う!あいつは自分を責めるだ

ろ!死者への礼儀すら分からないのか!」

「っ……」

そうだ。今俺達が死んだら戸塚は……重い腰を上げて、三人でミラーワールドを去る。

「と、つか……戸塚ぁあああああっっ!」

元の世界に戻った俺は、周囲の目など全く介さずに叫んだ。

「うっ、ううっ……」

こうして大切な人を失うのは二度目だ。

材木座が死んだ時、もう二度とこんなことは起こさせないと決めたのに。

「……二人とも、とにかく旅館に戻るよ」

半ば強引に川崎に連れられて、俺達は旅館の自室へと戻った。

そのまま俺は何をするでもなく、無為に時間を過ごした。

いつの間にか涙は枯れ果てていた。

と、そんな時。

こんこん、と、俺の部屋の扉が叩かれた。

腕時計を見るが、まだ他の連中が戻ってくるには早すぎる。

「失礼してもいいかしら」

聞き間違えるはずもない、雪ノ下雪乃の声だ。

「……何のようだ」

「……戸塚君のことについてよ」

「……今じゃなきゃだめなのかよ」

無意識のうちに声が攻撃的になる。

「わたしだってこんな状況で聞きたくはない。だけど、残念ながら私達には悲しんでる暇さえ

与えられない」

「……っ!お前わかってんのかよ!人が死んだんだぞ!」

「わかってるわよ!だから、だからこれ以上被害を増やさないために聞いてるのよ!」

「……そうだな、すまない。お前が正しいよ」

「頭で理解できても、心では納得できないことがある。それは承知のうえよ。その上で、あな

たに話を聞きたい」

彼女だって、こんな話はしたくないはずだ。

なら俺だけが悲劇のヒーローぶるわけにはいかない。

今すべきことを全力でやる。この戦いで生き残るためにはそれしかない。

「ああ、わかった」

――――

――――

――――

「そう……あのライダー……リュウガが……また、裏で姉さんが糸を引いていたのね……」

「俺は、止められなかったっ……」

「自分のせい、だと?」

「そうだろうが、俺がもっと気をつけていれば……俺の、せいだ……」

雪ノ下の冷たい視線が俺を射抜く。そしてそれは次の瞬間、少しだけ温かみを帯びた。

「そう思っているのは、あなただけよ」

そう言うと雪ノ下は、ゆっくり包み込むようにして俺を抱きしめた。

それに対する驚きが湧き上がることもなく、俺はただただ声を押し殺して泣いた。ただひたす

らに、涙を流し続けた。

「とりあえず、今から私達がやるべきことを考えましょう。……残念だし、悔しいけれど、私

達には、立ち止まり悲しむ時間すらないわ」

俺の涙が再び枯れ果てた頃、雪ノ下が口を開いた。

「……ああ、そうだな」

「このライダーバトルを、一刻も早く終わらせないと……そのために、できることを」

「……なら、戸部の告白のサポートが妥当なところか?」

「今はそうなるでしょうね。どう転んでもライダーが一人減る」

「ああ、そうだな……わかってる、けど……今日だけは、休ませてくれないか」

「ええ、わかったわ……一人で、大丈夫?」

「なめんな、何年ぼっちやってると思ってんだよ」

「それもそうだったわね。それでは、失礼するわ」

扉をあけると、雪ノ下がゆっくりと振り返った。

「……あなたはもう、一人ではないから」

そんなこと言うな。また涙が出てくる。

「そりゃありがたいこって」

涙は隠せていなかったかもしれないけれど、せめてもの抵抗として俺は悪態をついて彼女に背

を向けた。

翌日、修学旅行三日目だ。

そして、戸部翔が海老名姫菜に告白する日。

そのセッティングは俺達奉仕部が行った。

由比ヶ浜は雪ノ下のケアを受けたのか、昨日よりは随分ましな状態になっていた。

しかしそれでも、あんなにひきつった笑顔の『やっはろー』を見るのは初めてだったし、見た

くもなかったが。

その日の昼、昼食を購入すべくコンビニに入った俺は意外な人物に声をかけられた。

「ヒキオじゃん」

三浦優美子、由比ヶ浜と海老名の属するグループの女王にして、材木座義輝を殺害した仮面ラ

イダー王蛇。

俺と因縁浅からぬ相手だ。

「あんさー、あんたら一体何してるわけ?」

「あんま姫菜にちょっかい出すのやめてくんない?」

俺は彼女の声には答えず、手にしていた週刊誌のページをめくる。

「聞いてんの?」

「聞いてる。それに、ちょっかい出してるわけじゃない」

答える声はどうしても攻撃的になる。

こいつらの依頼を受けなければ戸塚が死ぬこともなかったはずだ。

実のところはこいつは依頼人ではないが、だからといって気にせずにいられるほど俺は大人で

はない。

「出してんでしょ。見てればわかっし。そういうの、迷惑なんだよね」

「迷惑、ね。でもそうしてほしい奴もいるみたいだぜ?お前の仲良しグループの中によ」

「はぁ?」

「それに、お前はそれによって何か被害を受けたか?」

「これから受けんだよ」

「お前のくだらん推測でとやかく言われてたらたまんねぇな」

「あんたねぇ……」

「それに、これは葉山がやろうとしてることでもある。確認してもらってもかまわないぜ?」

「隼人が……?そう……わかった。でも、あんたが姫菜にかかわるんなら知っててほしいこと

がある」

「……」

「姫菜、黙ってれば可愛いから、紹介してほしいって男結構いんのね?でも薦めても、なんだ

かんだで断られてさ、でもあーしてれてるだけだと思って結構しつこくやっちゃったわけ。そ

したらあいつ、なんて言ったと思う?」

「その答えが俺にわかるとお前は思っているのか?」

しかし三浦は俺の悪態を意にも介さぬ、というよりこちらの言うことなど聞いていないようだ。

「『あ、じゃぁもういいです』って言ったの。赤の他人みたいな感じで」

彼女のそんな様子は、あまり彼女に対してよく知らない俺でさえ想像するに難くなかった。

「あーし、今の関係、結構気に入ってるわけ。でも、姫菜が離れて行ったら今みたいではいら

れなくなる。もう一緒にばかみたいなことやってらんなくなる」

一拍置いて、冷たい声音で彼女はつづけた。

「だから、余計なことすんな」

そう言い残し、彼女は俺の前を去っていった。

お前達の幸せなど壊してしまいたいと思った俺は、嫌な奴なのだろうか。

日も少し暮れかかってきた。

京都の夕日はとても美しい。

俺は雪ノ下、由比ヶ浜と合流し、告白サポート体制に入っている。

トイレ帰りで周りを見ながら少しぶらぶらしていると、誰かに声をかけられた。

「ヒキタニくん、はろはろ~」

海老名姫菜だ。

普段は隠している、醜く仄暗い瞳。

彼女につられるように、俺は後に続く。

歩きながら彼女は口を開いた。

「相談、忘れてないよね?」

「ああ、俺が間違うことはない」

「あははっ、比企谷君おもしろいな~。……本当は間違ってばかり、いや、言うなら、間違わ

なかったことはない、かな?」

「……っ!」

「な~んてね、冗談冗談。頼りにしてるよ?」

「……言うほど、悪い奴じゃないと思うけどな」

「あはは、無理無理。わたし、腐ってるから」

「ああ、なら仕方ねぇな。腐ってるんだから」

お前は、お前達の関係は、腐敗しきっている。

それから俺達は何も言わず、互いに背を向け歩き出した。欺瞞と悲しみに満ちた道を。

「待たせて悪いな」

「全然」

「では、行きましょうか」

由比ヶ浜と雪ノ下との三人で最後の目的地へと向かう。

嵐山。四季折々の美しい景色を見せてくれる京都一とも言われる名所だ。

告白には、ぴったりだろう。

実際にそれを見てみると、思わず感嘆の声が漏れた。

写真で見るのとは全く違う。

「すごいね、ここ……」

「ええ、それに足元」

「灯籠、か」

「夜になると、竹林自体もライトアップされるそうよ」

「じゃ、あいつが勝負すんのはそん時か」

「ええ、なかなかいいロケーションだと思うわ。負けるにしても、せめてベストは尽くしてお

いた方が悔いは少ないはずだしね」

「ひでぇいいようだな。しかし、お前がそんなこと言うとは驚きだな」

「比企谷菌に感染してしまったのかしら……この世の終わりね」

「比企谷菌にはバリアーは効かないからな……」

「比企谷菌強すぎでしょ……」

下見を終えた俺達は、修学旅行最後の夕食を終え、部屋に戻った。

竹林がライトアップされている時間は限られている。

そろそろ出た方がよさそうだ。

「っべー、緊張してきたー」

そんな戸部の背中を大和と大岡が叩く。

その時、それまで沈黙を守っていた葉山がおもむろに立ち上がった。

「……なぁ、戸部」

「なんだべ?」

「本当に告白、するんだよな」

「ったりめぇっしょー。ここまで来て引くとか男じゃないわ―」

「そうか……」

事ここに至っても、葉山の態度は変わらず、か。

盛り上がっている室内から静かに出た葉山に続いて俺も部屋を後にする。

「やけに非協力的だな」

「そうかい?」

「ああ、そうさ。むしろ、邪魔されてる気がするけどな」

「そんなつもりはなかったんだが」

「やめようぜ、こんなくだらない上辺を取り繕うような会話は。俺達にそんなのはいらねぇだ

ろ」

「まるで親友同士の会話だな」

「ハッ、冗談。ま、殺し合いする関係なんざ、下手すりゃ親友なんかよりよっぽど濃い関係か
もしんねぇけどな」

一拍置いて、俺は続ける。

「そういうつもりじゃないというなら、どういうつもりだった?」

「俺は気に入ってるんだ、今の関係が……」

「三浦も、同じこと言ってたぜ」

「なら、わかるだろ。だから俺は……」

「それで壊れちまうんなら、その程度だったってことだろ」

「……確かにな、でも、失ったものは戻らない」

「まぁ、何事もなかったかのように取り繕うことはできるかもしれないけどな」

「ああ、お前そういうの得意そうだからな」

「……お前に俺の何が分かる」

「お前のことを知らない俺でさえわかるほどひでぇってことだよ」

「……」

葉山は黙ってポケットに手を入れる。

「今はやめようぜ?正直俺もテメェらを叩きのめしたい気分だが、お互い、今やるのは損しか

ない、そうだろ?」

「……」

葉山はまたも黙って両手をポケットから出した。

「お前はそう言うが、得ることよりも失わないことが大事なことだってあるだろ」

「そりゃそうだ、でも、今回のことに関しては到底そうは思えないけどな」

「はぁ……やめよう。俺達が一緒にいるとろくなことが起きない。……俺はもう行くよ、戸部
をよろしく」

俺は黙って、決して道の交わることのない男の背中を見送った。

竹林の中にぽつりと灯籠がともっている。

これこそが、戸部翔のために用意された舞台。

くしくも彼は近くに実物があるこの場所で清水の舞台から飛び降りることとなる。

「……戸部」

「おぉ、ヒキタニ君。っベーわ―、マジ緊張するわ―」

「……お前、振られたらどうする気だ?」

「えぇ……今それ聞いちゃう?聞いちゃう感じぃー?あ、なんか緊張解けてきたわ―。ヒキタ
ニ君やるなー、アロマセラピーって奴?」

俺がいつアロマを使ったんだ……?

「いいから、早く答えろ。大事なことだ」

「……そりゃ、諦めらんないっしょ」

彼は珍しく真剣な表情で言う。

「俺ってさ、こういう適当な性格じゃん?だから、今まで適当にしか付き合ったことねーんだ。

でも、今回は違うっていうかさ」

「そうか、なら、頑張れよ」

「おお!センキュな!やっぱヒキタニ君いい奴じゃん!」

それに対する返答はせず、雪ノ下と由比ヶ浜のもとに戻る。

「ヒッキーいいとこあるじゃん」

「随分らしくないことをするのね」

「そういうことじゃないんだがな……このままいけば、まず間違いなく戸部は振られる」

「そう、だね……」

「おそらくそうなるでしょうね」

「丸く収める方法が、無いでもない」

「どんな?」

由比ヶ浜が首をかしげて尋ねてくる。だが、それを今言うわけにはいかない。

「……まぁ、あなたに任せるわ」

聞かないでくれるのはありがたかった。

と、その時、誰かの足音が聞こえてきた。

言うまでもない、海老名姫菜だ。

それを戸部が緊張の面持ちで迎える。

「あの……」

「うん……」

遠くから見ているだけで胸が痛む。

一瞬、この手で命を奪った少女のことを思い出し、更に俺の気分を暗くする。

戸部は振られる。これはネガティブ思考とかそういうものではなく、もはや揺るがない事実だ。

そしてその後は、互いに何もなかったかのようにふるまって、そして自然と交流が無くなって

行くのだ。

……今はだめでも、未来は違うかもしれない。

今ここで砕けるのではなくて、もう少し、ゆっくりと距離を詰めていったならばあるいは。

「俺さ、その……」

戸部の声に海老名は何も答えない。

戸部を振られないようにし、かつ彼らグループの状態を現状維持させる。

方法は一つ。

重要なのはタイミング。

「あのさ……」

戸部が意を決したように口を開いた。

行くなら今だ。

戸部の後ろから海老名姫菜に声をかける。

「ずっと前から好きでした、付き合ってください」

言われた海老名は目を丸くしている。

そりゃそうだ、何なら俺もびっくりだ。

だが彼女は、すぐに今言うべき言葉を理解したらしい。

「ごめんなさい、今は誰とも付き合う気がないの。例え誰にどんなシチュエーションで告白さ

れても絶対につきあう気はない。それじゃ」

クルリと背を向け、小走りで彼女は去っていった。

「だとよ」

「マジか―……。ヒキタニ君、そりゃないっしょ―……あんまりっしょー。まぁ、振られる前

にわかってよかったけどさ」

大きくため息をつき、

「でもま、今はって言ってたし?俺、負けねーから」

そう言い残し、彼もまた去っていった。向かう先には大和と大岡がいた。

葉山も戸部の後を追う。すれ違いざま、彼は小さな声で呟いた。

「……みじめだな」

「誰のせいだよ」

その憐れむような表情には耐えられなかった。

怒りで飛び出しそうになる拳を必死で押さえる。

あわただしく皆が去っていき、残っているのは俺と雪ノ下、由比ヶ浜だけになった。

冷たく糾弾するような視線で雪ノ下は俺を睨む。

「……あなたのやり方、嫌いだわ。上手く言えなくて、とてももどかしいのだけれど……あな

たのそういうやり方、とても嫌い」

「ゆきのん……」

一人、彼女は去っていった。

俺は、返すべき言葉を持っていなかった。

「あたし達も、もどろっか」

一歩遅れて由比ヶ浜が俺の後をついてくる。

「いやー、あれはだめだったねー」

「そうだな」

「結構びっくりだった、一瞬本気かと思っちゃったもん」

「んなわけないだろ」

「でも、もうこういうことやめてね」

「ならお前は、お前達は、何かほかに策があったってのか?」

「それは……」

「あれが一番効果的だった、それだけのことだ。それに俺は、あいつらとの間でいくら確執が

生まれようが溝ができようが関係ないしな」

「……そういう問題じゃ、ないよ」

「なら、どうすればよかったんだ?」

いけない、と自分でもわかっている。これは完全な奴当たりだ。

「考えもなしに、人の批判ばかりするな、お前も、雪ノ下もだ」

「けど、けどさ……人の気持ち、もっと考えてよ」

「誰の気持ちをだ?ああしたことで誰かが傷ついたのか?」

「……なんでいろんなことが分かるのに、それがわからないの?」

「お前と雪ノ下に気を使ってほしかったと言っているのか?目の前で同じ部活のメンバーが傷

つくのを見るのは罪悪感があるから、ってか?」

「……バカ」

幼子のような弱々しい声で呟き、彼女は俺の先を歩いていった。

視界から由比ヶ浜が消えたことを確認した俺は、その場に膝をついた。

心に負担がかかることが立て続けに起きすぎている。

「ほんと、どうすりゃよかったんだろうな……」

と、その時、不快な音が頭に鳴り響く。

モンスター襲来の合図だ。

「……ありがたい」

モンスターにならどれだけ当たっても問題ないはずだ。

今は、こうやって呆けているのが一番嫌だ。

「変身!」

ミラーワールドで俺を待っていたのは、先日と同種の、三匹の猪型モンスターだった。

「いくぞ」

「Sword Vent」

「らぁぁっ!」

一匹の右腕に攻撃が当たると、横から突進を喰らわされる。

「クソが……」

「Strike Vent」

龍頭の武器を振り回し、炎を撒き散らす。

だが、イマイチ聞いていないようだ。

「グルァァッ!」

再び突進を喰らい、体が宙を浮く。

「このままじゃラチがあかねぇ」

俺の体を美しい炎が包む。

「Survive」

「一気に終わらせる」

「Final Vent」

ドラグランザーに飛び乗り、猪たちを焼き、轢き殺す。

爆発が起き、必殺技を使ったことにより、俺は通常体へと戻る。

ドラグレッダーが三つのエネルギー球を取り込もうとしたその時、突如として現れたサイとコ

ブラのモンスターによってそれを横取りされた。

「なっ……」

「ヒキオー、随分なめたまねしてくれたじゃん、余計なことはしないんじゃなかったの?ま、

それをなしにしても、あーしずっとあんたのこと殺したかったんだよね」

そう言って、王蛇は俺に襲いかかってきた。

「テメェなんかに!」

「Sword Vent」

剣と剣とがぶつかる。

だが、こちらは戦闘終わりで、さらにサバイブ使用直後であるため、持つ力全てを出すことが

できない。

明らかに押されている。

「オラッ、こいつもくらいな!」

「Strike Vent」

右手に自らの剣、左手に材木座のメタルホーンを持ち、三浦の攻撃はさらに苛烈さを極めた。

「くそっ……」

「Guard Vent」

こちらの攻撃の手を緩めることは相手にさらに攻撃のチャンスを与えることになり、決して良

い手ではない。

だが、それを考慮したうえでも、これが最善手だった。

「はっ」

「Advent」

背後からベノスネークが現れ、毒液を吐きだす。

とっさに体を守った盾が嫌な音を立てて溶けていく。

やばい……。

「Strike Vent」

右手に再び龍頭の武器を装備する。

「それであんたの武器終わりっしょ?」

「Steal Vent」

いつかのように、ドラグクローを奪われる。

しまった、このカードの存在を完全に失念していた。

ドラグクローを装備するに当たり、剣は消えてしまった。

つまり俺にはもう武器がない。

「オラオラオラッ!」

そんな俺に三浦は遠距離から炎攻撃を繰り出してくる。

「くっ……」

完全に手詰まり。

このままでは確実に負ける。

「ほらよ」

そう言って三浦がメタルホーンを地づたいにこちらによこしてきた。

「なんのつもりだ」

「拾いなよ、こんなんじゃつまんないっしょ」

敵の情けを受けるとは癪だが、武器がなければまともに戦うことすらできない。

俺がかがんだその時だ。

「Advent」

現れたメタルゲラスの強烈な突進を喰らう。

先程受けたイノシシの攻撃よりも遥かに威力は上だ。

「ぐッ……がっっ……」

地面を転がる。

「はっはははっ、ほんっと、バカだよねー。あんた、もう終わりなよ」

「Final Vent」

ベノスネークが再び現れ、王蛇が飛び上がる。

この姿勢からでは、よけられないっ!

「ダァァァァッッ!」

足を激しく動かしながら、接近してくる。

俺が死すら覚悟したその時だ。

「危ないっ!」

後ろから勢いよく背中を押され、俺は前に倒れ込み、その攻撃を受けずに済んだ。

しかし、

「あああぁぁぁぁぁっっっ!」

聞き慣れたその声。

俺は恐る恐る後ろを振り返った。

そこには、王蛇のファイナルベントを受けて吹き飛び、変身が解除された仮面ライダーライア、

由比ヶ浜結衣の姿があった。

「由比ヶ浜ぁぁああああぁぁっっ!」

「あんたはまだ殺すつもりはなかったんだけどなー、ま、いっか。それじゃぁね。バイバイ、

結衣」

去ってゆく三浦など視界にも止めず、由比ヶ浜のもとに駆け寄る。

「ヒッキー……」

とりあえず、ミラーワールドから出さなければ!

「待ってろ、今、救急車呼ぶから!」

スマホを取りだした俺の手を由比ヶ浜は優しく握り、小さく首を横に振った。

「もう、無理だよ……ごめんね、つらい思いさせちゃったね……」

「馬鹿、謝るな!諦めるな!」

「えへへ、好きな人の腕の中で死ぬなら、あたし、幸せ者かもね」

「馬鹿、なんだよそれ、そんなの聞いてねぇよ。生きろ!生きろよ!生きて、もう一度っ……」

そう言う俺の顔を見て、由比ヶ浜は優しく笑う。

「お前の占いは当たるんだろうが……わからなかったのかよ……」

「本当はね、次に消えるライダーは、ヒッキーだったんだよ。好きな人を助けられたんだから、

こんなに幸せなことはないよ」

そう言って、由比ヶ浜は最期の力を振り絞るようにして姿勢を起こした。

そしてそのまま、俺の唇に自分のそれを重ねた。

「あたしの占いが、やっと、外れる……」

「由比ヶ浜ぁぁぁっっ!」

彼女がその目をあけることは、二度と無かった。

次回予告

今回から意味もなく次回予告をします。基本あんまりあてになりません。

Open Your Eyes For The Next Botti

一色「私も仮面ライダー、オルタナティブです」


雪ノ下「あなたが、由比ヶ浜さんをっ……!あなただけは、生かしておかない!」

「Survive」

陽乃「ガハマちゃんを救う方法が、ひとつだけあるよ?」

「Time Vent」

三浦「忌々しいライダーの亡霊が……」

「Unite Vent」

戸部「そんな、隼人君、なんで……?」

葉山「君は大切な人だから、君を殺せば英雄にまた一歩近づける」

リュウガ「お前はもう、消えろ……」

雪ノ下「本当に守るべきものを、あなたも見つけなさい」

八幡「あいつの為に、ライダーを倒さなきゃいけないなら……」

戦わなければ生き残れない!

宿に戻った俺は、ひどく動揺しながらも雪ノ下に事の顛末を伝えた。

それを聞いた雪ノ下は、呆然とし、そしてその現実を受け入れることを拒否した。

「比企谷君、いくらあなたでもそんな冗談を言うとは思っていなかったわ」

と、いつものように蔑んだのち、しかし俺の涙を見て認めざるを得なくなったようだ。

由比ヶ浜の友人に彼女のことを尋ね、そしてその記憶が消えていることを確認すると、そのま

ま意識を失った。

俺も彼女同様絶望の淵にいたが、雪ノ下のそんな姿を見て皮肉にも冷静にならざるを得なかっ

た。

目を覚ました雪ノ下は俺をバカにできないほどに虚ろな目をしていた。

帰りの電車の中でも、彼女の様子が戻ることはなかった。

失ったものは、限りなく大きい。

俺はこの短期間で、戸塚と由比ヶ浜という大切な人を二人も失った。

雪ノ下がああなっていなければ、俺は虎になった李微よろしくなんども発狂していたことだろ

う。

家に帰った夜、絶望の淵にいた俺は思いついた。

彼女を救う手段が一つだけある。

それは、俺か雪ノ下がライダーバトルの勝者になること。

二人で生き残れば、最後にどちらかのベルトを破壊し、そして残った方が由比ヶ浜を生き返ら

せればいい。

雪ノ下には同様に、小川絵里という救いたい人物がいるが、とにかく手段がないわけではない。

心の中に少しの希望が湧きはじめたその時、ふと我に返る。

それでいいのか、と。

由比ヶ浜を救うため、他の命を奪っていいのだろうか。

材木座や戸塚がいた時ならば話は別だが、俺にとっては今残っているライダー(雪ノ下以外)

よりも、由比ヶ浜結衣一人の命の方が大事だ。

葉山よりも三浦よりも戸部よりも、雪ノ下陽乃よりも、他の誰よりも……

だが、それを彼女は良しとするだろうか。

自分の為に俺と雪ノ下がその手を穢すことを、他者の命の上に成り立った生を生きていくこと

を、あの優しい少女は良しとするのだろうか。

めまぐるしい勢いで思考を進めながら、それでもこんな時でさえ体は休息を求めるのか、俺は

深い眠りに落ちていった。

次の朝、俺はけだるい体を無理やり起こして学校に向かった。

あの考えについて雪ノ下と相談したい。

昨日の様子だと来ないだろうから、『由比ヶ浜のことで話がしたい』とメールを送った。

これは、とても俺一人で決められる問題ではない。

それとも俺は、人殺しをすることに対して共犯者を求めているのだろうか。

自分のそんな嫌な考えから目をそむけるように、俺は自転車をこぐ足に力を込めた。

右手につけた腕時計は、今の俺達を象徴するかのように、昨日の夜から止まっていた。

「入るぞ」

いつもは黙ってあける部室のドアを、俺は一言断ってからあける。

それは、俺達の立場が変わってしまったことを暗に示すものだったのかもしれない。

「……彼女はもう、ここにはこないのね」

「雪ノ下……」

そう言った彼女の表情は、昨日よりいくらかましになっている。

しかし、赤く充血した目とその下にうっすらとで来たくまが、彼女の心境を雄弁に語っていた。

「それに関して、話があるんだ」

雪ノ下は何も言わない。

「……俺達で、他のライダーを全て倒す、そうすれば、由比ヶ浜は生き返る」

雪ノ下は驚嘆の表情を浮かべる。

「驚いたわ」

「お前なら思いつきそうなことだと思ったがな……」

「あなたがそれを提案したことについてよ。てっきり、反対されるものだと思っていたから。

由比ヶ浜さんの気持ち、とか言って……」

「もちろん、それがある。だから、悩んでるんだ……」

「そうね……だけど、命あっての物種というわ。命がなければ、悲しむことも、後悔すること

もできない……」

「そうだな……」

「あなたに、覚悟はある?」

「……」

「本当に守るべきものはなんなのか、決めなければ、何一つ守れない。戸塚君や、材木座君、

由比ヶ浜さんがそうだったように……」

「……そうだな……でも、お前はいいのかよ」

「なにが?」

「小川絵里さん、お前の戦う理由になった人のことだ」

「っ……」

「俺はそのことが気になってる、由比ヶ浜を救いたい、その気持ちは俺もお前も同じだ。だが、

最期のその時、お前はどちらを選ぶんだ?……どちらかの命を捨てる覚悟が、あるのか?」

「それ、は……」

「……すまん、なんか責めるような言い方になっちまったな……でも、決めないといけない。

俺も、お前も……」

「あっはっはっはっ」

その場にそぐわない不快な嘲笑が響く。

聞き間違えるはずもない。

雪ノ下陽乃。

ライダーバトルを始めた張本人にして、いくつもの命を奪って来た黒幕だ。

「いやー、いいねいいねー。うんうん、悩むのは若者の特権だよ~」

「貴様、一体何をしに来た」

「今すぐ出て行きなさい。……この場所を穢すのは許さない」

「ひっどいな~、私は二人を助けにきてあげたのに~。ま、正確にはガハマちゃんを、だけど

ね」

「「!?」」

俺と雪ノ下の呼吸が止まる。

「どういう、こと……?」

「そのままの意味だよ~、ガハマちゃんの命を復活させてあげようかって言ってるの」

再び、俺達は息をのむ。

「どう?どうどう?してほしい?生き返らせてあげようか?」

「……そんなことが、できるのか?」

「うん、もっちろん。ただ、無条件に、じゃないけどね~」

「黙りなさい、そんなことができるわけ……」

「雪乃ちゃ~ん、このライダーバトルを始めたのはわたしだよ?仮にできるとしたら、私しか
いないよね?そしてあなた達は、その可能性に賭けるしかないんじゃないかな~」

「……」

「どう?比企谷君、雪乃ちゃん?」

「やれるものなら、やってみろ」

「あ~、そういう言い方しちゃうんだ~。じゃぁ私帰るよ、バイバ~イ」

「待て!……待ってくれ」

「なぁに?」

「頼む、生き返らせてくれ」

「じゃぁ、誠意を見せてよ」

「誠意ですって?」

「うん、二人の誠意を見せてくれたら、私も鬼じゃないから、生き返らせてあげるよ?」

「……お願いします」

「お願い、します……」

俺は唇をかみしめながら深々と頭を下げる。

「え?二人のガハマちゃんへの気持ちってその程度なの?」

「なんだと……」

「誠意って言ったら、普通わかると思ったんだけどな~」


「私達に、土下座しろと言っているのかしら?」

「それ以外にあるの?」

「っ……」

「やらないの?やらないならもう私帰るね」

「やるよ、やればいいんだろ……」

言って、俺は無言で雪ノ下を見る。

彼女にとって、これ以上の恥辱はないだろう。

それも、この世で最も忌み嫌う姉に向かってするのだから。

「……」

雪ノ下は黙って膝をついた。

「……すまない」

「なぜあなたが謝るのかが分からないわ」

ならば、それ以上の言葉はただ彼女を傷つけるだけだ。

俺も床に頭をつき、手をつく。

「あっはははははっっ!本当にやったよ!アハハハハハハハハ!惨めだね~」

パシャリと、カメラの撮影音が響く。

「うんうん、いいねいいね。これ待ち受けにしよ~っと」

「あ~あ、こんなことなら熱~い鉄板でも持ってくればよかったな~。なんて言うんだっけ?

『本当に誠意があるのなら、どこでだって土下座できるはずだ、それが肉焦がし、血を焼く、

鉄板の上でも!』だったかな~。あははははっ!」

そう言って陽乃は、俺の頭の上にその足を置いた。

そしてそのままグリグリと踏みつける。

「あ~あ、ハイヒールでも持ってくればよかったよ~。あはは、なんかあれみたいだね、SM

プレイ?」

上からかかる力は更に強さを増す。

「よいしょっと!」

追い打ちをかけるように頭を蹴りつけられる。

俺は何をされても決して声を出さなかった。それは、惨めな俺に出来る最後の抵抗いだった。

「あはは、もう頭上げていいよ~。いやー、楽しかった~」

「「……」」

「二人とも顔怖~い、私はお友達の命を助けてあげる恩人だっていうのにさ~」

「……もういいだろ」

「そうだね、それじゃ……変身」

そう言って陽乃はオーディンへと変身を遂げた。

それと同時に吹き荒れた激しい風が俺達を壁に打ち付ける。

「あ、ごめんね~。注意するように言っとけばよかったね」

「……早く始めなさい」

「はいはいっと。じゃぁ、行くよ」

「Time Vent」

空間が、光で満たされる。

その眩しさに思わず閉じた瞼を再び開けた時、

彼女はそこにいた。

「由比ケ「由比ヶ浜さん!」」

俺の言葉をさえぎった雪ノ下が、由比ヶ浜を抱きしめる。

しかし、少し違和感がある。

由比ヶ浜は先程からその目を開けもしなければ、雪ノ下を抱きしめ返すこともしない。

「もぉ~、気が早いよ、雪乃ちゃん」

「……これはどういうこと?」

「それを今から説明するからさ。はい、これ」

そう言って俺に砂時計を渡してきた。

「これが、ガハマちゃんの残りの寿命だよ」

……どういうことだ?

「一度は死んだ存在だからね、その命を維持するにはたくさんのエネルギーが必要になるんだ

よ。これをひっくり返して、全部砂が落ちちゃったらその時ガハマちゃんは死んで、二度と生

き返ることはない」

「……つまり、由比ヶ浜は長く生きられないと、そういうことか?」

「何もしなければ、ね。ミラーワールドのモンスターを倒せば、砂の量は増える。ライダーな

ら、それよりはるかに多く。そして、ライダーバトルが終わった時この砂時計は消えて、彼女

の寿命の成約は無くなる。あ、もちろんもともとの寿命で死ぬけどそれはさすがに勘弁だよ?」

そう言って陽乃は汚い笑みを浮かべた。

これで俺達は、ライダーバトルを止めるという選択肢は取れなくなった。

雪ノ下はもとより小川絵里を助けるという戦う理由があったが、俺と由比ヶ浜との出会いによ

って戦いに対していささか消極的になった。

そして俺は、今まであまたライダーと交戦してきたが、基本的には非戦派だ。

その状況は、ライダーバトルを始めた彼女からすれば好ましいものではなかっただろう。

「説明はこれくらいかな。じゃ~ねー」

彼女らしい笑い声をあげて、雪ノ下陽乃は去っていった。

「……そういうこと、ね」

「まぁ、何かあるとは思ってたがな」

「それでも私達は、前に進まなければならない。覚悟を決めなければならない」

「……わかってるさ、一番守らなきゃいけないものくらい」

「その言葉を聞いて安心したわ」

だけど、だからといって、それ以外の物をすべて捨てる覚悟は……。

しかし、それを今言うわけにはいかなかった。

「それじゃ、始めるわ」

雪ノ下が砂時計をひっくり返す。

ゆっくりと、命の砂が落ちていく。

「……あれ?ゆきのん?」

今度こそ、由比ヶ浜結衣が目を覚ました。

「由比ヶ浜さん!」

先程の焼き直しのように、雪ノ下は再び由比ヶ浜を抱きしめる。

「え!?ええっ!?ど、どしたのゆきのん!いつもはこんなことゆきのんからしないのに!」

「あなたは必ず、私が守るから……」

「ま、守るって何から?えへへ、でも、ありがとう」

由比ヶ浜も雪ノ下の背中に手をまわしてギュっと抱きしめる。

早速百合百合かよ、と茶化す気にはならない、なれなかった。

雪ノ下の感情は、察するに余りあり過ぎるから。

「あ、ヒッキー。何でだろ、久しぶりな気がするなぁ」

「ん、まぁ、二日ぶりだけどな」

「えへへ、でも、また会えてよかった、そんな気がするんだ」

「……っ」

「……あの、由比ヶ浜さん。こんなことを早々に聞くのもどうかと思うのだけど、トラウマな

どには、なったりしていないの?」

「トラウマ?なにそれ、トラなの?ウマなの?どっち?」

「トラウマというのは、心の傷のことよ」

「心の傷……?えっと、何が?」

「何がって……あなたは三浦さんに」

「優美子?優美子がどうかしたの?」

「……」

なるほど、そういうことか。

「なぁ由比ヶ浜、こんな物に見覚えはあるか?」

ポケットの中から龍騎のカードデッキを取り出して由比ヶ浜に見せる。

「何それ?龍の、顔……?ううん、知らないよ」

「っ!」

雪ノ下の表情が驚嘆に変わる。

やはり、ライダーバトルに関する記憶を失っている。

ただそれは、彼女にとってはいいことなのだろう。

「そうか、ならいいんだ。悪かったな、変なこと聞いて」

「ううん、ヒッキーが変なのはいつものことだから!」

彼女は無邪気に笑う。

陽乃の物とは対極の、どこまでも貴い笑顔だ。

「うっせ―、一言余計なんだよ」

「あ、もう暗くなってきたね。そろそろ帰らないとね。今日は三人で帰ろうよ!」

「……ごめんなさい、今日はどうしても行かなければならないところがあるの」

「行かなきゃいけない所?それって、どうしても今日なのか?」

正直、雪ノ下のこの言葉は意外だった。

「それってどこ?もしよかったら、あたしも一緒に行きたいな」

「……三浦さんに会いにね。どうしても、一人で行かなければならないの。……彼女の家、ど

こにあるか教えてくれないかしら」

……雪ノ下……。

由比ヶ浜は雪ノ下の表情をじっと見つける。それが真剣そのものだということを認めると、

「うん、わかった。じゃぁ、また今度ね。えっと、優美子の家はね……」

「ありがとう、由比ヶ浜さん。それでは、また」

雪ノ下は毅然として歩き出す。

「おい!待てよ!」

俺は走って、少し先に歩き出していた雪ノ下に追い付いた。

「比企谷君……何か用かしら?」

「何か用、じゃねぇだろ。俺も行く」

「……そう。由比ヶ浜さんには、悪いことをしてしまったわね」

「そうだな、だから埋め合わせとして、明日一緒に出かけることにした」

「驚いた……あなたって気を遣えるのね」

「今更だな……言っとくけど、三人で、だからな?」

「ふふ……なら、何としてでも生きて戻らなくてはね。彼女との約束だけは、破りたくないか

ら」

「そうか」

「ええ、そうよ」

「俺は……やっぱりライダーバトルなんて止めたい、だけど、自分の想いを曲げてでも守りた

い物があるから、その為に戦うよ」

俺のその言葉に対して返答はせず、雪ノ下は再び歩き出した。

大切なものがあるから、だから戦う。このライダーバトルに命を投じた、一歩先を歩く彼女の

気持ちが、少しだけわかった気がした。

「あんたら、何してんの?ここ、あーしの家なんだけど」

自分の家の前に立つ俺達の姿を認めて、仮面ライダー王蛇、三浦優美子は、手に持つスマホを
いじりながらそう言った。


「だから来たのよ、そんなことも分からないのかしら?」

「何の為にって聞ーてんだけど」

「あなたとわたし達の接点なんてこれしかないでしょう?」

雪ノ下は悠々とカードデッキをかざす。

「あなたが由比ヶ浜さんにしたことを、しにきたのよ」

「はっ、面白い。あーし今超イライラしてんだよねー。二人まとめてぶっ殺してやる」

「比企谷君、行くわよ」

「ああ」

「「「変身!!」」」

「「Sword Vent」」

俺と雪ノ下は同時に三浦に斬りかかる。

「Sword Vent Strike Vent」

右手にベノサーベル、左手にメタルホーンを持って三浦はそれを受け止める。

「強い……」

「この前結衣をぶっ殺したかんね、そーと―パワーも上がったってわけ!」

言葉通り、俺達二人を押し返す。

「よくも由比ヶ浜さんを……」

「Trick Vent」

「Trick Vent」

「なら、お前がライダーバトルで死んでも文句はないな、三浦ぁ!」

8×2の計16体となった俺達が一声に攻撃を仕掛ける。

「っ……うっぜぇんだよ!」

「Advent Advent」

三浦はベノスネーカーとメタルゲラスの二体の契約モンスターを召喚する。

毒液と突進攻撃により俺達の分身は全て消えてしまった。

モンスターの能力もかなり上昇しているようだ。

「ちっ、出し惜しみしてる場合じゃないか」

「一気に決めるわよ!」

「「Survive」」

烈火と疾風の力が周囲を包む。このカードを使うと体に多大な負担がかかるが、今はそんなこ

と言っていられない。

「Shoot Vent」

「Blast Vent」

俺が遠巻きにレーザー攻撃を放ち、雪ノ下の突風が相手に接近を許さない。

「クッッ……」

風のせいで三浦はまともに回避行動も取れず、着実にダメージが蓄積している。

王蛇の持つカードは豊富でどれも強力だが、遠距離戦用のカードはほとんどない。

と、その時だ。

近くの池から何かが出現した。

そしてそれは王蛇へと向かっていき、体当たりをかます。

俺はそれ、そのモンスターに見覚えがあった。

「エビルダイバー……?」

エビルダイバー、由比ヶ浜が契約したエイのモンスターだ。

「ハ、ハハハ……助かった、マジ助かったわ。忌々しいライダーの亡霊!あーしに従え!」

そう言って彼女は一枚目のカードをかざした。

『Contract』 

三枚目の、契約のカードだった。

エビルダイバーがカードの中に吸い込まれていく。

これで、三浦の契約モンスターは三体だ。

「こんなのありかよ……」

「ハッ、そんなこと言ったらあんたらのサバイブだって同じっしょ」

「比企谷君、一気に決めるわよ」

「ああ」

「「Sword Vent」」

強化された剣で三浦に攻撃を仕掛ける。

「Swing Vent」

「これでも、喰らえっ!」

伸縮自在の、かつて由比ヶ浜が使っていた鞭の武器、エヴィルウィップを振り回す。

そのリーチの長さに、俺達の攻撃が届く前に迎撃される。

「あーしの力、見せてやるよ」

「Unite Vent」

突如、ベノスネーク、メタルゲラス、エビルダイバー、三体のモンスターが現れる。

「ユナイト……まさか」

雪ノ下がそう言い終えないうちに、それは起こった。

三浦が最初に契約したコブラのモンスターベノスネークのもとに二体のモンスターが接近し、

眩しい光を上げたかと思うと三匹のモンスターは一体の巨大なモンスターとなっていた。

全身を硬いサイの鎧で覆い、背中にはエイが翼となって装着され、頭部はおぞましいコブラの

顔が。

「クク……これがあーしのモンスター、獣帝ジェノサイダーだ!」

確かに、獣帝の名にふさわしい。並々ならぬ威圧感を感じる。

「行け!ジェノサイダー!」

「ルァァッッ!」

三浦の声に呼応して、口からエネルギー弾を放つ。

「大きいっ!」

その攻撃が着弾し、俺達の体が大きく吹き飛ばされる。

「これならっ!」

「Shoot Vent」

雪ノ下が弓状の武器、ダークアローを使ってエネルギー砲を放つ。

圧倒的なスピードでそれはジェノサイダーに向かっていく。

直撃しようとしたその時、ジェノサイダーの腹部が開き、その攻撃を飲み込んだ。

「い、今のは……」

あれはまるで、全てを吸収するブラックホールだ。

「はは、すげぇ、こいつマジ使えるわ」

「だったらあなたよ!」

雪ノ下が照準を三浦にさだめなおし、再び攻撃を放とうとすると

「させるかっ!」

「Steal Vent」

敵ライダーの武器を奪うスチールベントを三浦が発動させ、ダークアローが三浦の手に移った。

「なら俺がっ!」

手にしていたドラグバイザーツヴァイからレーザー攻撃、メテオバレッドを放つ。

「はっ!」

三浦は早速奪った武器を使い、俺の攻撃を相殺させる。

それだけではない、ジェノサイダーが再びエネルギー弾を放ち、遠距離戦用の武器を失った雪

ノ下を攻撃する。

「来なさい!ダークレイダー!」

「お前もだ、ドラグランザー!」

「「Advent」」

二体のモンスターがジェノサイダーに襲いかかる。

炎と風と、エネルギー弾。

その応酬は苛烈さを極めた。

「よくも由比ヶ浜さんをっ……あなただけは、消すっ!」

「……だっ!」

同時攻撃を仕掛ける俺達を、三浦は見事に捌く。

ダークアローで接近を許さず、少し近づいてもエヴィルウィップで再び距離をあけられる。

「うっぜーのは、あんたたちっしょ!」

雪ノ下の体に鞭がクリーンヒットし、その体が空中に舞い上がる。

「っし!とどめだ、ジェノサイダー!」

まずいっ!

最悪の状況を予想せざるを得なかった、そんな時。

「Freeze Vent」

その電子音が鳴り響くと同時、ジェノサイダーの動きが止まった。

この技は……。

「Final Vent」

「なっっ!!?」

物陰からトラのモンスターが現れ、王蛇を地面につけて引きずり回す。

「はぁっ!」

そして、そこに現れた仮面ライダータイガのデストクローで高々と持ち上げられる。

「お前は、僕の世界に必要ない。僕は、真の英雄になるんだ」

「誰だ、あんた……」

「……消えろ」

仮面ライダータイガ、もとい葉山隼人が三浦にとどめを刺そうとする。

あの様子だと、三浦はタイガが葉山だということは知らないようだ。

「こんなとこで、終われっか」

満身創痍ながらも、隙を見つけて三浦はミラーワールドから離脱した。

「……お前、なんでここに」

俺の問いかけなど一切無視して、葉山もミラーワールドを去った。

「雪ノ下、大丈夫か?」

「愚問だわ」

「とりあえず、戻るぞ」

「ええ」

「……しかし、参ったな。まさか、契約のカードを三枚も持ってたとは……」

「私達も人のことを言えた立場ではないでしょうけど、契約のカード三枚に武器略奪のカード

……優遇され過ぎだわ」

「まぁ、言っても始まんねぇな。この上あいつがリュウガみたいにサバイブのカードを手に入

れたら……」

「やめてくれるかしら、フラグが立ってしまうわ」

「……」

「どうかした?」

「いや、お前がそんな言葉を使うなんて、驚きだと思ってな」

「あなたが読んでいた、ライトノベル、だったかしら?少しだけ、読んでみたのよ。あまり肌

に合いそうにはなかったけれど」

「そうか」

「何を笑っているの?気持ち悪いわ」

「仮面があるんだからんなことわかるわけないだろうが……」

雪ノ下雪乃が、俺と共通の話題を持つ為、慣れない物に手を出してくれた。

その事実が、無性に俺を嬉しくさせた。

……自意識過剰とかじゃ、ないよな?

「明日、十時にららぽ前集合だから。遅れるなよ?」

「わかってるわ……また明日」

「ああ、また、明日」

きっと、俺と彼女はもっと近づけるはずだ。そんな未来の為にも、俺は生き残る覚悟を新たに

した。

奉仕部三人で出かけた翌日の教室。

え?昨日の感想?由比ヶ浜さんと雪ノ下さんがとっても仲好く百合百合していました。

まる。

「はろはろ~、比企谷君」

俺に話しかけてきたのは、海老名姫菜だ。

「……何だ」

正直言って、話したくない相手である。

「これ、この前のお礼」

そう言って彼女は、ハート型の紙に包装された何かを手渡してきた。

何?この前の告白を真に受けちゃったの?俺のことが好きなの?

まぁそんなことが俺と彼女の間で成立するはずもないのだが。

「開けてみて」

言われたとおり、包装紙をビリビリと破って中を確認する。

ちなみに意図的に破いたのは、先日のせめてもの意趣返しだ。

「これは……」

それは、ライダーバトルで使用するカードだった。

『Strange Vent』

「何で私が持ってるかは、聞かないでくれるよね?」

「そりゃ、お前が答える気がないんだからな。無駄なことはしない主義だ」

「あはは、比企谷君は話が早くて助かるな~。案外私たちならうまくやっていけるかもね?」

「ああ、俺もそう思ってた」

「どうでもいい相手にはそういう態度取るところ、気に入ってるよ」

「てめぇに気に入られてもなにも感じねぇよ」

「辛辣だな~。この前は情熱的な告白してくれたのに」

「……そろそろ黙れ」

「あはは、ごめんごめん。それじゃね~」

そう言い残して彼女は、三浦達の輪の中に戻っていく。

変わらないことを、停滞し、偽りの関係を維持することを選んだ彼女達と自分達の関係。

正しいのは、どちらだろうか。いや、正解も間違いもないのかもしれない。

しかし、昨日殺そうとした相手に平気で笑いかける葉山隼人の姿には、やはり違和感を抱かず

にはいられない。

放課後の部室。由比ヶ浜と雪ノ下がいつものように仲睦まじく会話をしていると、何の前触れ

もなく部室のドアがノックされた。

「失礼します」

明るい声で入って来たのは、生徒会長の城廻めぐりだ。

「……何しに来た」

「ひ、比企谷君。そんな露骨に嫌な顔しなくてもいいのに」

「歓迎されるとでも思ってたのかよ……」

「ヒッキー、言いすぎだよ」

「……それで、何の用ですか?」

雪ノ下の言い方も大概だと思うんですがこれはいいんですかそうですか。

まぁこいつはこれが平常運転だからな。

「うん、相談したことがあって……」

「俺達はあんたの相談なんて聞きたくねぇっての……」

「ヒッキー!」

「へいへい……」

「えっと、私の相談ってわけでもないんだけど……。入って来て」

「こんにちは~」

「あ、いろはちゃん」

「結衣先輩、こんにちは~」

「知り合いか?」

「うん、サッカー部のマネージャーだよ。だから隼人君関係でちょっとね」

葉山関係か……全くいい予感がしないな。

「もうすぐ生徒会長選挙があるのは知ってる?」

初耳だな。

由比ヶ浜も首をかしげる。

まぁこいつはこんなばっかなんだけど……。

だが、雪ノ下雪乃だけは違った。

「ええ、すでに公示もすんでますよね。立候補者も発表されてたと思いますが」

「お前すげぇな。何でも知ってんじゃねぇの?」

「なんでもは知らないわ。知ってることだけ」

こいつ……ラノベ読んだってのは本当みたいだな。

「さすが雪ノ下さんだね。それで、一色さんはその会長候補なんだけど……」

そう言う彼女の歯切れはどこか悪い。

「あ、今向いてなさそうとか思いませんでした?」

一色が俺の方を向いてそう言った。

「いや、別に。俺はお前のこと何も知らないし興味もないからな」

「ヒッキー、言い方」

何だろう、彼女からはあまり俺の好きではない、どちらかというと苦手なオーラが出ている。


それは、俺がこの手でその命を奪った折本かおりや、相模南に似ている。

まぁつまり、彼女は空々しくて薄ら寒い。

「それで、何か問題でも起きたんですか?」

どこか苛立ちを内包させた声で雪ノ下が尋ねる。

「一色さんは会長に立候補したんだけど、その、なんていうのかな。……当選しないようにし

たいんだ」

「要は、選挙に負けさせてほしいということですか?」

端的な雪ノ下の質問に城廻がうなずく。

「生徒会長をやりたくないということか?」

「はい、そうです」

一切悪びれるふうもなく彼女は言ってのけた。

「……ならばなぜ立候補したの?」

「私がしたんじゃなくて、勝手にされてたんですよー」

何それ?どこの芸能人?

「なんて言うか、悪ノリっていうんですかね~。クラスの友達が何人か集まってっていうか~」

そいつらは間違いなく友達ではないが、俺が教えてやる義理もないし、彼女もそんなことは望

んでいないはずだ。

「それにしては、随分手が込んでるわね。推薦人は三十人以上必要なはずなのに」

「事情が事情だし、取りやめにしてもらえばいいだろ。選挙管理委員会の責任でもあるしな」

俺がそう言うと、城廻は少し気まずそうにうつむいた。

「うん……私達生徒会の最後の仕事がそれでね……責任感じてるんだ……」

責任感じてるのに問題を人に丸投げにするのはどうなの?

「それが、担任もかなりやる気になっちゃってて……」

「それこそ事情を話せばいいだろ。下手すりゃいじめだぞ?」

「人の話聞かない人でね……私から言ってみたんだけど、逆効果だったよ」

「なら、立候補の取り下げも難しそうだな……」

「うん、規約にも書いてないしね……」

「なら、選挙で負けるしかない。そういうことか」

「ただ、立候補者が一色さんしかいないから……」

「そうなると信任投票……まず落ちることはないな」

「ていうか、信任投票で落選とかかっこ悪すぎですよー。絶対いやです」

んなこと俺らが知るかよ……。

「そういうわけで、解決に協力してくれないかな?」

「……俺は降りる。こいつのせいじゃないかもしれないが、ミスしたのは選官だ。責任を感じ
ているというのなら、自分達の力だけで何とかしろ」

「……そうね、それに今は、私達も大切な時期だし……」

そうなのだ。ライダーバトルでの脱落者も増え、それぞれの力も強くなり、以前よりも俺達は

危険な状況にある。

この状況で、あまり厄介事には関わりたくない。

それが敵対するライダーの城廻の依頼ならなおさらだ。

「えー、やろうよー」

「由比ヶ浜さん……でも……」

「あたし、三人で何かしたいな……ゆきのん……ダメ?」

出た、無意識の上目遣い!雪ノ下に効果は抜群だ!

「はぁ……しょうがないわね」

雪ノ下さんチョロすぎぃ!

となると、俺も協力せざるを得なくなる。

「……仕方ないな」

こうして俺はまたしても、厄介事に足を踏み入れることとなった。

「これ、応援演説をやる人間は決まってないんだよな?」

「うん」

俺の問に城廻が答える。

「なら、簡単だ。話は早い」

「どういうこと?」

「信任投票になっても確実に負けられて、一色はノーダメージで切り抜けられる。要は、こい

つが原因でなく負けたってことをみんながわかればいい」

「そんなことできるの?」

「応援演説が原因で不信任になるなら、一色のことを気にする奴はいない」

敗北の理由を、否定される理由をすり替えてやればいい。


「……そのやり方を、認めるわけにはいかないわね」

雪ノ下が静かに口を開く。

「理由は?」

「あなたがやろうとしているのは、海老名さんの時と同じようなことでしょう?」

「……っ」

それを聞いた由比ヶ浜が息をのむ。

「……なら、なんだっていうんだ?」

「そんなやり方、認められるわけないでしょう」

「だから、なんで」

「大切な友達が傷つくようなやり方なんて、私は絶対に認めない」

彼女にしては珍しく、声を荒げた。

「……そうだよ、あたしだって、そんなの嫌だ」

「……」

返す言葉がなかった。

いつだったか、火野先生に言われた言葉があった。

俺が傷つくのを見て、心を痛める人がいる、と。

もう、とっくに本物を手に入れていたんだ。

かつて、心の奥底でどうしようもなく渇望した、本物の関係を。

「言ったわよね?本当に守るべき物を決めなさい、と。私ももう、決めているわ。そしてその

中には、あなたと過ごす時間も含まれているのよ。もしあなたがそれを壊そうというのなら、

私は持てる力全てを使って止めて見せるわ。だから……覚悟しなさい?」

そう言って雪ノ下は、優しい笑みを浮かべた。

「……ああ、お前にはかないそうにないからな、大人しく言うこと聞いとくよ」

「そう、ならいいのよ」

「えへへ、三人で考えよう。解決法を、きっとうまくいくよ!」

「あ、あのー……私達は……」

「一色さん、ここは、帰ろうか」

それから俺達は、他愛もない話をしながら問題について話し合った。

これといっていい案は出なかったが、俺達は、きっとうまくいくと、根拠のない、それでも何

よりも信頼するに足る確信を持っていた。俺達が力を合わせれば、なんだってできる。そんな、

昔の俺が聞いたら鼻で笑いそうな確信を。

「う~ん、なかなか難しいね」

そう言って火野先生は頭を抱えた。

城廻に相談された翌日、奉仕部でのことだ。

何かいい案はないかと火野先生を頼ったところ、ここじゃなんだからとわざわざ部室まで来て

くれた。

「やはり、難しいですか」

「うん、もしやる気がある人がいたらとっくに立候補してるだろうし……」

昨日それぞれ考えてきた結果、やはり他に立候補者を立てるしかないということになった。

「俺も城廻さんに相談されて一色さんの担任の人に言ってはみたんだけど……さっぱり逆効果

でね。あはは、あの人の中ではもうドラマが出来上がってるっていうか……」

火野先生の言葉はだんだんと小さくなっていく。

人の批判をするのが嫌いなのだろう。

要するに、引っ込み思案な女子生徒をクラス全員で応援しよう!みたいなことか……。

「なんだか面倒事がまた君達のところに行ってしまって……ごめん」

火野先生が申し訳なさそうに頭を下げる。

「や、やめてください」

奉仕部の二人と同じくらい、火野先生は大切な人だ。

こんな顔をさせる為に相談したわけじゃない。

「そ、そうですよ!火野先生は何も悪くないじゃないですか!」

「それに、引き受けた時点でわたし達はこの問題の当事者ですから」

「うん……とはいってもね……」

自分が少しでも関わったことに関してはなんでも、何とか解決しようとする。

そしてそれを、苦に思わない。


もしも英雄と呼ぶべき人間がいるというのなら、こういう人のことを言うのではないだろうか。

「……なるほど、葉山がなれない訳だ」

「何か言った?」

雪ノ下が首をかしげる。

「いや、何でもない」

「すいません、ありがとうございました。俺達で何とかしてみます」

「ごめんね、力に慣れなくて……何か必要なことがあったら何でも言ってね。俺も自分なりに、

色々やってみるよ」

そう言って火野先生は部室を後にした。

「……いい人ね」

「ああ、間違いない」

「ほぇ―……」

「ん?どうした、由比ヶ浜」

「いや、二人が誰かをそんなに褒めるなんて珍しいなーと思って」

「まぁ、あそこまでいったらな……貶す要素も見つからん」

「あなたの腐った目をしても短所を見つけられないなんて……流石火野先生ね」

「何で一回俺をディスったの?絶対必要なかっただろ……」

あの人は、ああ見えて聡明だ。

ああ見えて、という言い方は失礼かもしれないが、どんなことにも考えなしに突っ込んでいく

馬鹿とは違う。

きちんとリスクを承知して、自分が何をできるのかを理解して、その上で動いている。

自分に損しかなくても行動してしまうあたりは、短所と言えないこともないが、それこそがあ

の人の最大の美徳だろう。

「火野先生に迷惑をかけない為にも、何とかしないとねっ!」

「ん……そうだな」

再び俺達だけで話し始めて数十分後、教室の中からでも聞こえるほど大きい廊下を走る音が聞

こえたかと思うと勢いよく扉が開かれた。

「ひゃうっ……」

由比ヶ浜が小さな叫び声をあげる。

そして、そこにいたのは、今までにないほど真剣な顔をした火野先生だった。

いつもの柔和な笑顔はない。

「ど、どうしたんですか?」

「ゆ、雪ノ下さんっ!」

その両手を雪ノ下の肩に乗せる。

「は、はい」

「今すぐ来て、俺の車に乗ってくれ」

「な、何かあったんでしょうか?」

少し困惑した様子で雪ノ下は言う。

顔をうつむけて、火野先生は言った。

「君のご両親の家で火災が発生した……二人とも……焼死したみたいだ……それだけじゃない、
雪ノ下家に関する、あらゆる親戚縁者も死んだそうだ……君と、君のお姉さんを除いて……」

「……そうですか」

驚くほど落ち着いた声で彼女はそう言ってのけた。

だが、それは彼女のこれまでの境遇を考えれば、わからないでもなかった。

幼いころから父と母の願いを叶える為の、道具の様に育てられてきた彼女としては、家族に抱

く感情は憎しみ以外の何物でもないだろう。

「わかりました、すみません、お手数をお掛けしてしまって」

こんな状況でも彼女は、家族のことよりも火野先生に迷惑をかけてしまうことを考えているよ

うだった。

ならば、決して口にしてはならないことだろうが、彼女にとってはむしろ良かったのかもしれ

ない。彼女を、雪ノ下雪乃を縛る大きな鎖がほどけたのだから。

「ゆ、ゆきのん……あたし達も、行って……いいかな?」

由比ヶ浜の表情は、当事者である雪ノ下よりも遥かに暗い。

親友のことが心配でならないと言った風だ。

「心配しなくてもわたしは……わかったわ、ありがとう」

無論俺も、この場にひとり残るつもりはない。

「じゃぁ三人とも、ついてきて!」

「事件があった場所では、怪物の目撃情報がいくらかあるんだ」

「そうですか……姉さんがやったのね」

「雪ノ下さん……」

どうやら火野先生も、彼女の態度から雪ノ下けの事情をいくらか察したようだ。

やはり、この人は聡明だ。

「こんなこと、本当は今言うべきじゃないんだろうけど……」

火野先生は重々しく口をあけた。

「人は、親がいなくても生きていける。もちろん、きちんと子供を愛してくれる親なら、いた

方がいいに決まってるけど、子供のことを道具として思ってないような親なら……いない方が、

ずっとましだ」

火野先生は、苦虫をすりつぶしたような顔をした。人の悪口や、不満などめったに言わない人

がこんなことを言うなんて、本当に珍しい。

「俺の親は政治家でね……ずっと道具の様に俺は育てられてきたよ。英才教育といえば聞こえ

はいいけど、それは全部、あの人たちのためのものだった。あの人たちの、名誉心を目指す為

だけの……」

似ている、火野映司と雪ノ下雪乃の境遇は、驚くほど似ている。

「世界の紛争地帯を旅している時に、俺の止まってた村が敵国に占拠されて、村人も俺もみん

な人質になった。……みんな殺されたけど、俺だけは助かった。政治家の親が、裏で金を回し

たからだ。……でもそれは、俺のことを思っての物じゃなかった。俺がやってきた世界の旅は、

彼らの政治活動の為の美談として使われたんだ……」

「先生にも、そんなことが……」

「家族だからといって、絆があるわけじゃない。血のつながりなんて、みんなが思ってるほど

強くない。……だけどね」

一呼吸おいて、続ける。

「血のつながりもなにもない赤の他人が、命を賭けてでも守りたいと思える人になることもあ

る。それが、人と人とのつながりだよ。って、君達には、こんな言葉必要ないかな」

振り返って俺達三人を順番に見て、火野先生はにっこりと笑う。

「せ、先生っ!」

雪ノ下が叫び声をあげる。

見ると、ドライバーが前方から目をそらした車が、ガードレールに思い切りぶつかろうとして

いた。

ちなみにここは、高い崖となっている地帯だ。

「「「「う、うわぁぁあぁああああぁぁっっっ!!!!」」」」

「お前ら、生きてるか……?」

俺は、ゆっくりと目をあける。

雪ノ下がとっさに踏んだサイドブレーキと、火野先生がとっさにきったハンドルのおかげで、

ガードレールすれすれで車体は止まっている。

「あ、危なかったぁ……」

「死ぬかと思ったわ……」

「ご、ごごごごごごめん!本当にごめんなさい!」

今までにないほど火野先生が狼狽し、深々と頭を下げる。

狭い車内にもかかわらず土下座しようとするのを、俺達は必死に止める。

「本当にごめん……俺が死ぬならまだしも、君達をこんな危険な目にあわせてしまうなんて…

…」

見ると、火野先生の目からは涙がこぼれおちていた。

きっとこの人は、自分の最期でさえ涙を流さないだろう。

だけど、人を傷つけるのは我慢ならない。

そんな人だ。

「も、もういいですから。誰も怪我しなかったんですし」

「そうだよ先生。怪我の紅葉ってやつだよ」

それを言うなら怪我の功名だし、ちなみに誰も得はしていないんだが……。

「まぁ、今度から感動的な話をするなら車の外でお願いしますね」

雪ノ下はいたずらっぽく笑った。

「うう、三人とも、本当にごめんよ~!」

そう言うと火野先生は俺達三人に抱きついてきた。

俺はともかく女子生徒に抱きつくのはセクハラなのでは……と言おうとしたが、わんわんと声

をあげて泣く火野先生を見たら、そんなことを言う気はすっかり失せてしまった。

俺達が目的地に着いた時、それはすでに建物としての原形をとどめていなかった。

全てが焼け落ち、後にはもう何も残っていない。

「……本当にすべて、無くなったのね」

「雪ノ下さん……」

「気になさらないでください。ここには、いやな思い出しかありませんから」

と、その時だ。突如俺は頭痛に見舞われた。

こんな時に……

次の瞬間、驚くべきことが起こった。

鏡から現れた五匹のモンスターが現れた。

それは、数秒たってもこちらの世界に残っていて、ミラーワールドへ戻らない。

「……は?」

通常、モンスターがこちらの世界に来るのは一瞬で、そのわずかな時間で人間を襲う。

こんなふうに留まるなんて……。

鏡の中を見ると、あちらにはさらに多くの敵がいるようだ。

数は、十くらいだろうか。

どれも同じ種類で、白いヤゴの様な姿だ。

「どうなってる……?今は、考えてる場合じゃないな。二人は、ミラーワールドの方をお願い。

こっちにいる方は、俺が片付ける」

「すいません、お願いします!」

「え?え?これ、何?」

悪いが、由比ヶ浜の質問に答えるのは後だ。

「「変身!」」

「変身!」

「タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!」

現実世界とミラーワールド。二つの世界での戦いが始まった。

「Sword Vent」

「Strike Vent」

雪ノ下は剣で、俺は炎攻撃で敵を迎え撃つ。

こいつら、数は多いが一体一体の力はたいしたことない。

「これなら、サバイブは使わなくて済みそうね」

「ああ」

気合を込めた一撃で、一体の体が爆発する。

雪ノ下の方も同じようなペースだ。

「デデブ、ゲブ、デデブ」

モンスター達は気持ち悪い呻き声をあげながら接近してくる。

「終わらせる、ドラグレッダー!」

「Advent」

ドラグレッダーの炎で、俺が相手していた残り四匹のモンスターが消滅する。

「行くわよ!ダークウイング!」

「Final Vent」

いつもとは違い、地表でダークウイングと合体し、地面と平行にモンスターを貫いていく。

「終わったみたいだな」

「いいえ、まだよ」

雪ノ下の指差した方を見ると、今倒したのと同種のモンスターが十数匹うごめいていた。

「なんなんだ、こいつらは……」

なぜこんな大量にモンスターが?

「……ライダーバトルが、終わりに近付いているということかもしれないわね」

「なんにせよ、倒さないといけないだろ」

敵に向かっていこうとする俺を、雪ノ下が再び止める。

「なんだ?」

「待って、何か来るわ」

彼女の言った通り、敵モンスターの近くの鏡から一人のライダーが現れた。

斧を持った蒼と白の戦士、仮面ライダータイガだ。

タイガは斧を振り回し、敵をなぎ払う。

まぁ、今はあいつを無理に倒す必要も助ける必要もない。

俺は傍観を決め込むことにした。

と、そこに。

「Advent」

モンスター達のもとに紫色のコブラが現れて、タイガ諸共毒液を浴びせる。

「探した、探したぞ、よくもやってくれたなぁっ!」

現れた王蛇がタイガに襲いかかる。

互いの召喚機である杖と斧がぶつかり合う。

「ベベブ、ベブ」

生き残った一体が王蛇に攻撃しようとするが、王蛇はただの一撃でそれを爆発四散させる。

「Strike Vent」

タイガが両腕に巨大なトラの爪を装備する。

「Advent」

そんなタイガを迎撃すべく、王蛇はエイのモンスターエビルダイバーを呼び出す。

「Freeze Vent」

すかさずタイガはその動きを凍結させる。

「あんたの弱点は、わかってんだよぉっ!」

「Advent」

そう言って王蛇は、三枚目のアドベントカードを発動させた。

物陰から現れたサイのモンスターメタルゲラスにタイガは思い切り吹き飛ばされる。

タイガにとって王蛇は鬼門だろう。

虎の子の一枚であるフリーズベントが、王蛇相手には十分機能しない。一体止めたとしても、

まだ二体王蛇には残るのだ。

「デストワイルダー!」

「Advent」

タイガも契約しているトラのモンスターを呼び出し、王蛇のもとに向かわせる。

「テメェは、ぶっ殺す!」

「Final Vent」

メタルゲラスとの必殺のカードをスキャンし、王蛇はデストワイルダーに強烈な突進攻撃を喰

らわせる。

デストワイルダーは多量のダメージを受けたからか姿を消してしまった。

この一撃で倒れて契約が切れてしまわなかったことは、タイガにとって僥倖だろう。

「クッ……」

諦めたのか、タイガは真っ向から王蛇に向かっていく。

だが、いつも不意打ちばかりで戦って来たタイガと王蛇ではふんできた場数が違う。

見る見るうちにタイガが劣勢に立たされていく。

と、そこに。

「Advent」

モンスター達のもとに紫色のコブラが現れて、タイガ諸共毒液を浴びせる。

「探した、探したぞ、よくもやってくれたなぁっ!」

現れた王蛇がタイガに襲いかかる。

互いの召喚機である杖と斧がぶつかり合う。

「ベベブ、ベブ」

生き残った一体が王蛇に攻撃しようとするが、王蛇はただの一撃でそれを爆発四散させる。

「Strike Vent」

タイガが両腕に巨大なトラの爪を装備する。

「Advent」

そんなタイガを迎撃すべく、王蛇はエイのモンスターエビルダイバーを呼び出す。

「Freeze Vent」

すかさずタイガはその動きを凍結させる。

「あんたの弱点は、わかってんだよぉっ!」

「Advent」

そう言って王蛇は、三枚目のアドベントカードを発動させた。

物陰から現れたサイのモンスターメタルゲラスにタイガは思い切り吹き飛ばされる。

タイガにとって王蛇は鬼門だろう。

虎の子の一枚であるフリーズベントが、王蛇相手には十分機能しない。一体止めたとしても、

まだ二体王蛇には残るのだ。

「デストワイルダー!」

「Advent」

タイガも契約しているトラのモンスターを呼び出し、王蛇のもとに向かわせる。

「テメェは、ぶっ殺す!」

「Final Vent」

メタルゲラスとの必殺のカードをスキャンし、王蛇はデストワイルダーに強烈な突進攻撃を喰

らわせる。

デストワイルダーは多量のダメージを受けたからか姿を消してしまった。

この一撃で倒れて契約が切れてしまわなかったことは、タイガにとって僥倖だろう。

「クッ……」

諦めたのか、タイガは真っ向から王蛇に向かっていく。

だが、いつも不意打ちばかりで戦って来たタイガと王蛇ではふんできた場数が違う。

見る見るうちにタイガが劣勢に立たされていく。

「Sword Vent Swing Vent」

そして、タイガと王蛇の差はまだある。

それは、所持カードの差だ。

三体のモンスターと契約している上、武器略奪のカードも持つ王蛇は選択肢がタイガに比べて

多い。

同じカードを出すのでも、三枚の中から選ぶのとそれしか選べずに使うのとでは意味合いが違

う。

タイガの胸を、コブラの牙を模した剣ベノソードがつらぬいた。

「ぐぅあぁぁッ!」

「さぁ、これで終わりだ!」

鋭い牙でタイガののど元を突き刺そうとしたその時だ。

「「「キィィィーーッッ!!!」」」

多数のレイヨウ型モンスターが王蛇に襲いかかった。

「これって……」

「ああ、仮面ライダーインペラ―の、戸部翔の、契約モンスターだよ」

どうやら奴は、誰につくのか決めたようだった。

「戸部、テメェ……チッ!」

三浦は憎々しげにつぶやいた後、しかしダメージは相当たまっていたのか、驚くべきスピード

でミラーワールドを去っていった。

誰もが誰かを切り捨て、そして手を結ぶ。

ライダーバトルの加速を再び感じて、俺達は鏡の世界を後にした。

「すまない戸部、助かった……だが、なぜ俺を……?」

「んなの、友達だからに決まってるっしょ」

優美子が去ったミラーワールドで、俺の問いに戸部はさも当然と言った様子で答える。

「だが、優美子もお前にとって……」

「そりゃー優美子たちのことも友達だけどさ、俺にとっての一番のダチは隼人君だから」

「……そうか、ありがとう」

こいつも、俺にとって大切な存在だ。

だから……。

「デデブ、デブ、デネブ」

新たに三体のモンスターが現れた。


「隼人君は今きついっしょ、ちょっと待ってて 一気に決める」

「Final Vent」

戸部が必殺のカードをスキャンすると、レイヨウ獣の群れが現れる。

その集団攻撃を喰らい、モンスター達は消える。

「……これが、厄介だったんだよな」

戸部が契約しているのはギガゼールというモンスター一体のみだが、この手のモンスターは他

の、群れのモンスターにも協力してもらえる。

だがこれで、アドベントカードもファイナルベントカードも使い果たし、モンスターは呼べな

い。

「Strike Vent」

「ハァッ!」

俺はすっかり無防備な戸部の背にデストクローを突き刺す。

「がぁっ……え?は、やとくん?なん、で……」

「お前が俺にとって、大切な存在だからだよ」

「……は?」

「英雄は、多くを助ける為に自分の大切な存在を失わないといけないんだ。だから、お前を倒

せば俺はまた英雄に近づける」

「Final Vent」

一度消えたデストワイルダーが再び現れ、戸部を引きずり回す。

「ガッ・・・・・・アァァァァッッ!」

そして最後に、彼を高々と爪で持ち上げる。

「そ…んな……俺はただ、幸せになりたかっただけなのに……」

友の死を確認して、俺は静かにミラーワールドを去った。

仮面の下で流れた涙には、自分でも気付かなかった。

「比企谷君!雪ノ下さん!」

現実世界に戻った俺達を、変身を解いた火野先生が迎える。

「そっちも無事終わったみたいですね」

「……砂時計、たまっているわ」

由比ヶ浜に気づかれないよう、雪ノ下が俺に耳打ちする。

「そうか……」

「ねぇ、三人とも!これどういうこと!説明してよ!」

流石に隠しきれないので、由比ヶ浜がかつてライダーだったことや、ライダー同士で戦うこと

などを除いて簡潔に話した。

「そんな……」

「まぁ、心配すんな」

「ええ、大丈夫よ」

「心配するよ!」

俺と雪ノ下の肩を掴んで続ける。

「そんな、そんな危ないことを二人がしてるなんて……あたしも、ライダーだったらよかった

のに。そしたら、二人を守れるのに……」

「……っ」

由比ヶ浜の、ライダーとしての最期。それは、三浦の必殺の一撃から俺を庇って……。

「いや、お前は十分すぎるほどやってくれてるよ」

「……?あたし、何もしてないよ?」

「いいえ、あなたはただそこにいてくれるだけで、私達にとって十分なのよ」

「ふ、二人にそんなふうに言われるなんて、なんだか照れるなぁ……無茶だけは、しないでね?」

「ああ、わかってる」

「ええ、もちろんよ」

「そっか、なら、安心だ」

「雪ノ下さん、今回の件についてだけど……」

「おそらく、姉がやったことでしょう。早く決着をつけないと……」

「……もう少し、残る?」

「いえ、もうここには用はありません」

「……そっか、なら、送っていくよ。三人とも、乗って?」

「今度は、安全運転でお願いしますね?」

「うっ……はい……」

「ねぇゆきのん、今日ゆきのんのおうちに泊まってもいい?」

「唐突ね……」

「やっぱり、駄目かな?」

「いいえ、そんなことないわ」

「やったぁ!ゆきのん大好きぃ! あ、ヒッキーは?」

は?こいつ何言ってんの?

「ごめんなさい由比ヶ浜さん、いくらあなたのお願いでもそれは絶対にお断りだわ。貞操の危

機を感じるもの」

最初に会った頃の会話を思い出して思わず笑ってしまう。

「別に行くなんて一言も言ってないだろうが……」

「うーん、そっかぁ……三人でお泊りしたら、楽しそうだと思ったんだけどなぁ……あ、火野

先生も一緒に!」

「ええ!?俺!?」

「火野先生なら……安心ですね」

火野先生に対する信頼感が半端ない。

確かにこの人がエロ本やらなんやらを読んでいる姿というのは想像できない。

「でもまぁ、楽しそうだな……」

「あはは、そうだね。俺も世界を回ってきたけど、友達同士で泊まりっことかいうのは経験な

いなぁ」

それにそういった年頃の頃は、厳しい親のもとにいたのだろうし……。

「……やっぱりやろうよ!この四人でお泊まり会!ちょうど今日は金曜日だし!」

エイエイオー、と、由比ヶ浜は右手を高く突き上げる。

その目はウルウルと雪ノ下を見つめている。

「……まぁ、私は構いませんけど」

いいの!?お前ほんと由比ヶ浜に甘すぎだぞ。

「ねぇねぇヒッキー!」

まぁ、なんだその……。こいつには命を救ってもらったという、返しても返しきれない恩があ

るわけで……。こういった機会に少しでも返しておいた方がいいかもしれない。

「はぁ……しゃーねーな、わかったよ」

「やったぁ!先生、後は先生だけだよ!」

しかしいくら火野先生が信頼できると言っても、教育者としての立場上断るのではないか、と

思ったのだが。

「本当!?いやー、楽しみだなー!あ、でも明日のパンツを取りに行かなきゃいけないから一

回学校に戻ってもいいかな?」

他にも必要なもの色々あるのにまずはパンツなんだな……。

「火野先生、私の家ではパンツパンツと連呼するのはやめてくださいね?」

雪ノ下が凍てつくような笑みを浮かべる。

「は、はい……でも、パンツはいつも一張羅を吐いておけって死んだじいちゃんが……」

「その話は以前にも聞きました」

「……ごめんなさい」

その後学校と俺の家により、俺達を乗せた車は雪ノ下宅に到着した。

ちなみに由比ヶ浜はけっこう頻繁に雪ノ下の家に泊まっているらしく、着替えも置いてあると

のことだった。

仲がよろしいようで……。

「うわー、大きいマンションだな―」

「さぁ、あがってください」

「「「おじゃましまーす」」」

家について少し休むと、すでに時刻は七時になろうとしていた。

「夕飯を作らないといけないわね」

「あ、あたしも手伝うよ!」

「由比ヶ浜さん、ありがとう。でも、気持ちだけで十分だわ」

「そうだぞ由比ヶ浜、ここは雪ノ下に甘えておくんだ」

冗談じゃない、何としてもここは阻止せねば!

「あ、俺も作るよ。世界のいろんな料理をごちそうするよ!」

「うわ……それはマジで楽しみだな……俺もなんか軽く作るわ」

「では二人とも、お願いします」

「ちょ、ちょっとぉ!あたしも!あたしも作る!ちょっとは上手くなったんだからっ!」

あそこから多少進化しても決して食えたものじゃないんだが……。

「せっかくだから、みんなでつくろうよ!」

由比ヶ浜の料理の腕を知らない火野先生が屈託のない笑顔で言う。

「……どうなっても、知りませんからね」

かくして、雪ノ下が洋風料理、俺が中華料理、火野先生が中東を中心に世界の料理を、由比ヶ

浜がデザートを作ることになった。

雪ノ下の家のキッチンは一人で使うにはあまりに広すぎるが、それでも三人で使うには流石に

手狭だ。

だが、そんな中でも雪ノ下と火野先生はプロ顔負けの手際で作業を進めていく。

俺も専業主婦志望として恥ずかしくない程度には上手くやっている。

そして由比ヶ浜は、

「う、うわぁっ!卵の殻が入っちゃった! 砂糖と塩間違えたっ! 小麦粉適量?一袋でいっ

か!」

ふと横を見ると、火野先生の手が止まっていた。

「……見たこと無いヤミーだな……」

ヤミーって……否定しようとしたが、彼女が作っている物は魔物に間違いなかった。

「あ、ああー、今日俺あんまお腹すいてないなー……料理だけでお腹いっぱいになっちゃうか

もなー」

火野先生が予防線を張る。

こいつ、やりおる!

「あ、じゃぁ先生最初にこれ食べてみて!結構うまくいったと思うんだー!」

「う、うん……ありがとう」

完全に墓穴を掘ったようだ。

「だから、言ったじゃないですか……」

「ごめんなさい……」

俺の言葉に、火野先生は本日何回目かもわからない謝罪の言葉を口にした。

テーブルの上には、豪華な料理が並んだ。雪ノ下が作ったグラタンとパエリア、俺が作った餃

子とチャーハン。火野先生が作った世界の料理、名前はわからないが、どれもとてもおいしそ

うだ。

……そして、デザートの、ケーキ(本人いわく)。

しかも、ご丁寧に特大ホールサイズだ。

それはきらびやかな料理の中で異彩を放っていた。

由比ヶ浜以外の三人の表情が暗くなる。

「うわー、どれもおいしそう!でも、あたしのも味見してないけど絶対おいしいよ!」

なんで味見しないんだよ!せめてそれくらいやれよ!

まぁ、何はともあれ食事だ。

「「「「いただきます」」」」

まずは雪ノ下の作ったパエリアを口にする。

「うっま!お前これ、マジで店に出せるレベルだぞ!」

「ゆきのんの料理はいつもおいしいね!」

「うん、すごくおいしいよ!」

「あ、ありがとう……」

雪ノ下は恥ずかしそうに顔を下に向ける。

続いて、火野先生の料理を食べる。

「……っ!」

瞬間、体に衝撃が走った。

それは他の二人も同様だった。

美味い、なんてもんじゃない。

「これ、店に出せる、とかそんなもんじゃないです。俺が今まで食って来た中で一番うまい」

言い方は悪いが、これに比べたら雪ノ下の先程の料理は幼子の作った料理、俺の料理など泥団

子のようなものだ。

由比ヶ浜のは、由比ヶ浜のはあれだ。うん。

「な、何これ……」

「こんな味、食べたこと無いわ……舌が、喜んでいる」

「そ、そんな、褒めすぎだよ」

タハハ、と先生は笑う。

褒めすぎなものか。これを表すには、とても言葉では足りない。

どんなに言葉を尽くしても、表しきれない。

火野先生の作った料理はあっという間になくなってしまった。

それに続いて、雪ノ下の俺の料理もなくなる。

そして……

「ついに、来たわね……」

「これを、食べんのか……」

「俺、ちょっとお腹が痛くなって……」

席を立とうとした火野先生の服を雪ノ下がしっかりとつかむ。

「火野先生?」

言って、彼女はにっこりと笑った。

「あはは、もう、大丈夫かな―……」

「さぁ、みんな食べて食べて!」

これ絶対毒だろ……つーかケーキが紫色になるってありえるの?

「い、いただきます……」

最初に飛び込んだのは火野先生だ。

恐る恐るといった様子で口に運ぶ。

瞬間、彼は苦悶の表情を浮かべた。

「…………」

黙ってうつむく。

「これは……とても個性的な味だね」

こういう時に出る『個性的』という言葉は総じていい意味を持つことはない。

字を『個性的』と言われれば、それは汚いということだ。

「えへへ、ありがとう!ヒッキーとゆきのんも食べて!」

「ばっかお前……こんなもん劇物だろうが」

「そうね、限りなく毒に近いと思うわ」

「な、そ、そんなことないしっ!」

由比ヶ浜はそう言って自分の料理を口にする。

「うわっ!まずっ!何これっ!」

お前が作ったんだろうが……。

「由比ヶ浜、人に料理を出す時は、せめて味見くらいしろ。……最低限の、マナーだ」

「うう……ごめんね、火野先生」

「い、いや、気にしなくていいよ。アハハ」

「うう……これはもう捨てちゃうね」

「待て、別に捨てることはないだろ。一応一口くらいはな……」

意を決めて、俺は残っていたケーキを一気に食べる。

「ひ、ヒッキー!?」

「な、何をしているの!?」

「比企谷君!体壊すよ!?」

地味に火野先生のその一言はひどくないか……?まぁ、言う通りなんだが。

体中に広がる不快感。まさか食事をしてこんな気分になることがあるとは……。

「……まぁ、次は頑張れ」

「うん……ありがとう」

「さて、食事も済んだことだし、そろそろ入浴にしましょうか」

「あ、ゆきのん!じゃぁ一緒に入ろうよ!」

なに、こいつら、本当に百合なの?

「はぁ……仕方ないわね。私達が先に入ってもいいかしら?」

「ああ、お前の家なんだしそれが妥当だろ」

「うん、俺達のことは気にしないでゆっくり入ってきなよ」

「ヒッキー、覗かないでよね!」

「比企谷君。もしそんなことをしたら……」

「なぜ俺だけ……」

やはり火野先生に対する信頼は絶大のようだ。

まぁ俺が同じ立場でも同じようなものだろうが。

「ははは、まぁ俺はグリードになりかけちゃったからそういうことに興味が持てないしね……」

「わかったわね、覗き谷くん?」

「ヘイヘイ……」

「あ、火野先生、先に入ってきてください」

「そう?じゃあ、お言葉に甘えて」

火野先生が上がった後、俺も手早く入浴を終えた。

その後はトランプなどをして楽しく遊んだ。

「……なんだか久しぶりに、将棋がしたくなってきたなぁ」

「たしなまれているのですか?」

「うん、旅してるうちに、世界のあそびは大体覚えたよ」

「一局、やりませんか?」

「お手柔らかにお願いします」

こうして、雪ノ下対火野先生の将棋対決が始まった。

―――
「じゃぁ、王手」

「っ……飛車が……」

「ここに桂馬を」

「私の角が……」

「飛車で金を取って龍王になります」

「金将が無くなった……」

「角を龍馬にして、王手」

「……参りました」

雪ノ下は、鉄壁の守りを誇る穴熊囲いを展開したにもかかわらず、完全に守りをズタズタにさ

れていた。

結果、対戦終了後は、大駒、金銀を全て火野先生が所持するという異様なまでの差がついた。

「クッ……では、次はチェスを」

―――

「ビジョップで、雪ノ下さんのクイーンをとるね」

「っ……」

「ナイトで、ルーンを取ります」

「く……」

「俺のポーンが一番前の列に入ったから、クイーンにします」

「っ……こうなったら一か八か攻めて」

「キングとルーンの位置を交換します」

「次でチェックできたのに……」

「クイーンを動かして、チェックメイト」

「……参りました」

「オセロをしましょう」

―――

「それじゃぁ、黒を角に」

「すご、外側が全部先生の黒色になった」

「こりゃ圧倒的だな……」

「ま、まだよ。例え外側を全て取られたとしても、最後に数で勝っていれば……」

そう言った彼女だったが、64マス全てが埋まる前に、彼女が使う白色は盤上からなくなった。

「参りました……」

「ありがとうございました」

「姉さんにだって、ここまで負けてことはないわ……」

火野先生が陽乃のような悪人だったならば、彼女をはるかにしのぐ強大な敵になっていただろ

う。

俺は心の中、彼が仲間であることに感謝した。

「そろそろ、寝ようか。もう12時過ぎたし」

「あ、あとひと勝負……」

「また明日やろう。夜更かしはお肌にもよくないよ」

―――

「それでは、お休みなさい」

「おやすみー」

俺と先生、由比ヶ浜と雪ノ下が同室で眠ることとなった。

「比企谷君、起きてる?」

「はい」

「……これから、戦いはもっと厳しくなると思う。……自分の信じる物を、見失わないで。そ
れはきっと、君の支えになるから」

「……うす」

「それじゃ、今度こそお休み」

翌日は、雪ノ下宅で朝食を取った後、そのまま解散となった。

この日常を守る為なら、俺はきっと戦い続けられる。

あと少しで家に着くというところで、いつもの頭痛が俺を襲った。

「早速か……変身!」

中で俺を待ち受けていたのは、またしても白色の気色悪いモンスターの群れだった。

なぜ、こいつらはこんな大量に……?

由比ヶ浜の為、モンスターのエネルギーが必要になる俺達としては、ありがたいといえばあり

がたいのだが。

「さっさと終わらせるか」

「Sword Vent」

すっかり手になじんだドラグセイバーを持って敵にきりかかる。

「ヤッ!ハッ!ダァァァッ!」

勝負はあっという間に着いた。

いくら数が多くても、こいつらは個々の戦闘力が低すぎる。

戦闘直後特有の、一瞬の気が緩んでしまった状態の俺を、それは襲った。

後方よりの、マシンガン攻撃。

「ガッッ!」

そのモンスターに、俺は見覚えがあった。

バイクを人型にしたかのような、気味の悪い姿。

城廻めぐりが変身するオルタナティブの契約モンスターだ。

それを象徴するかのように、ライダーである彼女も現れる。

「……てめぇ、汚い真似を」

俺と彼女の関係は、決して良好とはいえない。だが、今すぐに戦わなければならないようなも

のでもなかったと思うが……。

しかし、相手がこういうふうに出てくるのなら、話は別だ。それに、由比ヶ浜の為にも、ライ

ダーバトルに決着をつけなければならない。

「Sword Vent」

剣を携えた城廻が、モンスターとともに襲いかかる。

「Advent」

「ドラグレッダー!モンスターの方をつぶせ!」

「グルガァァッッ!」

剣と剣とがぶつかり合う。

「俺はもう、迷わないっ!」

「Strike Vent」

「Accel Vent」

俺の放った炎攻撃は、しかし彼女の超速移動で避けられる。

そして彼女はそのまま俺の胸を剣で切りつけた。

前やった時もこのカードに苦しめられたんだったな……。

「でも、忘れたのかよ。それでも俺には勝てなかっただろうが」

「Survive」

体にかかる負担は大きいが、仕方ない。

「Shoot Vent」

無数のレーザー攻撃が城廻を襲う。

「っ……!」

声を上げないのは、彼女の誇りだろうか。

「お前らのしりぬぐいをしているというのに……こんなタイミングで来るかよ、普通……いい

加減に、しやがれっ!」

更に追撃のレーザー攻撃。そこにドラグランザーが援護の火炎放射を放つ。

衝撃で、城廻は地を転がる。

「これで決める……」

「Final Vent」

「Final Vent」

俺の必殺のカードに対し、城廻も切り札のカードを発動させる。

互いに、バイクモードとなったモンスターにまたがり加速する。

「はぁぁぁあああぁぁっっ!」

正面から、激突。衝撃で俺はバイクから投げ出される。

それは城廻も同様だった。

彼女は戦況の不利を認めると、そそくさとミラーワールドから離脱していった。

もう一人の当事者の一色いろはには落ち度はないが、この問題の為に動くことに、俺は少なか

らぬ疑問を覚えた。

翌日の放課後、俺は生徒会室を尋ねた。

無論、城廻めぐりに昨日の件を詰問するためだ。

幸い、室内にいたのは彼女一人だった。

「比企谷君?ノックくらいしてほしいなぁ」

特有のとろとろとした口調で彼女はそう言った。

「……そんな関係じゃないだろ、俺達は」

「……?どういうことかな。まさか、告白じゃないよね」

「はっ。ある意味それ以上に濃い関係と言えないこともないけどな」

俺はカードデッキを取り出す。

「……何のつもり?」

「何のつもり、だと?昨日はいきなり襲いかかってきたくせによくもまぁぬけぬけとそんなこ

とが言えるなぁ」

「何言ってるの?私昨日は一日中家にいたよ?」

「やめようぜ、そんな茶番は」

「本当のことだよ!」

「お前の変身するライダー、オルタナティブが俺に奇襲を仕掛けてきた。契約モンスターもサ

イコローダー、お前の物だったよ」

「そんな、でもわたし、本当に……」

「不意打ちでも負けたから、立場を変えたのか?……そんなのはさすがに、通らないだろうが。

俺達はお前の起こした問題の為に動いてたんだぞ。少なくとも、この件が片付くまでは手出し

しないのが最低限の礼儀だと思ったがな」

「比企谷君、あなたは何か勘違いを……」

「これ以上は、無駄なようだな。行くぞ……変身!」

こいつをここで見過ごしたら、後々必ず後悔する。問題が俺だけで終わるのならばまだいいが、

ことは雪ノ下や、変身できない由比ヶ浜にも及ぶかもしれない。

「何で、こんな……」

「変身しろ!城廻!」

鏡の中からドラグレッダーが現れ、威嚇の咆哮を上げる。

「やるしか、ないの……?少しだけ、わかりあえたと思ったのに……」

彼女の瞳から一筋の涙がこぼれおちる。

「……あまり俺をなめるなよ。そんな物でだまされるのは、中学時代の俺までだ」

もっとも、もう一人の俺もどんなことも意に介さなさそうではあるが。

「変身……」

「「Sword Vent」」

「あなたが何を勘違いしてるのかは分からないけど、わたしだって、こんな所で死ぬわけには

いかないのっ!」

「いい加減見苦しいぞ!城廻っ!」

二つの剣がぶつかり合う。

心なしか、昨日戦った時よりも強くなっている……?

「やぁぁぁああぁっっ!」

力任せに城廻の剣を払い、斬りつけようとするも、それより先に彼女の拳が俺の胴に入る。

「ぐッ……」

「Guard Vent」

剣を投げ捨て、両手にドラグシールドを持つ。

城廻の剣攻撃をかいくぐる。
「ドラグシールドには……こういう使い方もあるっ!」

盾に着いた各6本の爪を体に当てるようにして盾を交差させる。

「っっ!!」

「これでもくらえっ!」

「Strike Vent」

火炎攻撃で追撃する。

「Advent」

しかしそれは、現れた彼女のモンスター『サイコローダー』によって防がれる。

更にサイコローダーも火炎放射攻撃を放つ。

「っ……」

その攻撃を終えると、サイコローダーはそのまま俺に接近してきた。

ドラグクローで応戦するが、なかなか攻撃が当たらない。

その時、いつの間にか背後に回って居た城廻の斬撃をもろに背中に受ける。

また使うしかない……

「Survive」

サバイブ態になる際に発生する灼熱から逃れるため、敵の包囲がとかれる。

「Shoot Vent」

これまでの戦闘で、城廻がこの技を苦手としていることはわかっている。

この技、メテオバレットは、威力も高く連射が可能なので、二体の敵を相手にも十分戦うこと

ができた。

本来は遠距離戦でその真価を発揮するが、今のような至近距離でも決して弱い武器ではない。

特に、0距離からの連射は壮絶な威力だ。

「だっ!はっ!やぁっっ!」


いける、俺がそう思った時だった。

「はぁぁぁあぁっっっ!」

後方から飛び降りてきた何かが、俺の背に斬撃をくらわせた。

「がぁぁっ!」

思わず膝をつく。


すぐさま振り返ると、そこにいたのは城廻と寸分変わらぬ姿をした『オルタナティブ』であっ

た。

「どうなって……かっ!」

口を開いた俺に、そいつは容赦なく追撃を与えてくる。

「お前いった……」

俺の問いには応えず、そいつは城廻に呼び掛ける。

「援護しろ!こいつはお前の敵だろ!」

しかし城廻は戸惑っているのか、何のアクションも起こさない。

「ちっ!」

舌打ちをするとそいつは、俺の腹に蹴りを入れる。

「いつまでもやらせるかよ!」

俺は最優先攻撃目標を城廻からそいつに変更する。

「Trick Vent」

8体となった俺は、次々とメテオバレットを放つ。

この攻撃に逃げ場はない。

「Accel Vent」

しかしそいつは、オルタナティブの持つ特有カードアクセルベントを使い、一瞬で分身たちを

蹴散らした。

加速状態は解けたが、続けて俺に向かってくる。

俺は奴をギリギリまで接近させ、

「Guard Vent」

超高熱の炎の壁を展開した。

ひるんで敵が体勢を崩したその時を俺は見逃さない。

「Advent」

ドラグランザーがその巨体でそいつに突進する。

「この間俺を襲ったのはお前だったか……」

もはや考える余地もない。

こいつは敵だ。

「Final Vent」

ドラグランザーを変形させ、その背に飛び乗る。

「Final Vent」

敵もバイクに飛び乗る。

城廻と戦った時と同じ状況だ。

「やああぁぁぁぁっっ!」

「ふんっ!」

今まさに激突するというその時、敵はその車体を空中に浮かせ、衝突を回避した。

そしてそのまま猛スピードで走り去り、ミラーワールドから脱出した。

「比企谷君……」

「すまない……」

生徒会室、俺は針のむしろだった。

「随分といってくれたね……不意打ちでも勝てないから、私が態度を変えた、だったっけ?」

「……謝罪の言葉もありません……」

ありませんから、言いませんが。なんて言ったら火に油を注ぐことになるのは目に見えている。

「ふぅ……まぁ、選挙のことで迷惑かけてるし、これで貸し借り無しってことで」

「そう言ってくれると助かる」

「じゃぁ、そういうことで」

「ところで、あのライダー、もう一人のオルタナティブに、心当たりはないか?」

「うーん……わからないな。わたしはこのベルトを、なぜかこの生徒会室にあったのを偶然手

に入れただけだから」

「そうか、ありがとう」

「……意外だな」

「何がだ?」

「君がそんなふうに謝罪や感謝の言葉を言うことがだよ」

「お前は俺を何だと思っていたんだ……」

「知らないよ。君のことなんて、何も知らない。だって、教えてくれなかったでしょ?」

「ま、そりゃそうだな」

「でも……」

「でも?」

「これからは少しずつ、知っていくよ。あなたが教えてくれないなら、自分で考えればいいこ

とだから」

「ご自由に」

「うん、じゃぁそうするね。……それで、選挙のことなんだけど……」

「すまん……まだいい案が浮かばない。というか、あいつらがそれを許してくれそうにないか

らな」

「また自分を犠牲にするつもりだったの?」

「あいつらと同じことを言うんだな。別に犠牲とかじゃない。それが一番合理的だってだけだ」

「理屈だけで動けないのが人間だよ」

「……言うじゃないか」

「人は成長するんだよ。知らないところで、君の周りの世界は変わっていく」

「成長かどうかは別として、その意見にはおおむね同意だな」

「やっぱり意外だよ、君が私の意見に賛成するなんて」

「だからお前は俺を何だと思ってる……俺は俺が正しいと思ったことをするだけだ」

「まるで正義のヒーローだね。愛と勇気だけが友達だっけ?」

「そんなんじゃねぇよ。それに、少しだけだが友達はいるよ」

「そっか……そこにわたしは入ってるのかな?」

「愚問だな、つーか、わかりきってること聞くんじゃねぇよ」

「でも、私は比企谷君と仲良くなりたいと思ってるよ?」

「そりゃどうも……んで、だ。そろそろどうするか決めないといけないんじゃないか?」

奉仕部部室で俺は二人にそう言った。

「そうだね……」

「考えならあるわ」

「なんだ?」

「私が、会長選挙に出るわ」

「ゆきのん……」

「それはお前が俺に言った、自分を犠牲にするって奴じゃないのか?」

「そうだよ、それに……奉仕部はどうするの?」

雪ノ下は責任感の強い人間だ。成り行きでなったとしてもその職務を全うするだろうことは想

像に難くない。

「第一に、私は決して自分を犠牲にするわけじゃない。そして奉仕部は……」

一呼吸おいて、彼女は続ける。

「だから、私と一緒に生徒会役員をやってくれないかしら」

「「え?」」

「……正直なところ、以前からやりたいとは思っていたの。だけど確かに、奉仕部との両立は

難しいとは思うわ。それは文化祭の時にわかったし……だけど、あなた達と一緒なら……」

「ゆきのん……」

「おいおい、俺は校内一の嫌われ者だぞ?」

「全役員の指名権は会長にあるわ。当選してしまえばこちらの物よ」

「お前……言うようになったな」

「そうね、少し変わったかもしれないわ。そうね……由比ヶ浜さんが副会長で、比企谷君は庶

務」

「なぜ俺が庶務……」

「もちろん、無理にとは言わないわ。少しだけ、考えてみてくれないかしら」

「ゆきのん!あたし、やるよ!」

そう言って由比ヶ浜はいつものように抱きつく。

「はぁ……雪ノ下」

「なにかしら」

「これは、本当にお前のやりたいことなんだよな?」

「ええ、そうよ」

「そっか……なら、仕方ねぇな。俺もやってやるよ」

「……本当に?」

「ついても仕方ない嘘はつかねぇよ」

「……ありがとう」

「嬉しいけど、ヒッキーがそういうなんて以外かも!」

「ハッ……別に、少しだけ面白そうっていう、ただそれだけだよ」

「これで給仕係は確保できたわね」

「おい、今スルーできない発言が聞こえたんだが?」

「聞き間違いよ、茶汲み谷君」

「もはやごまかす気すらねぇじゃねぇか……」

「よーーし!じゃぁ、決定だね!……あれ、じゃぁ奉仕部は無くなっちゃうの?まぁ、三人で
活動できるならいいけど……ちょっとさびしいね」

「部活としても部室も残してもらえるよう掛け合ってみるわ。生徒会での仕事は奉仕部の発展

形という感じになるでしょうね」

「えへへ、楽しみだね。あっ!生徒会室にいろいろ持ち込んでいいのかな?」

「そういうことは当選してから決めろっつーの」

「この私が落ちるとでも思っているのかしら?」

言い返せないのが歯がゆい……。

「それでは、今日は解散ということで。手続きの方は全て私でやるわ」

「おつかれ」

「おつかれー!」

はぁ、まったく……いつから俺はこんなふうになっちまったんだろうな。

でも、それも悪くない。

人の本質は変わらない。その考えは今も間違っているとは思わない。

ただ、人の見方が変わるということは、往々にしてあることだ。

ならば今回のことも……

いや、もうごまかすのはやめよう。人は変わる。

変われるんだ。

「せーんぱい」

らしくもないことを考えていたその時、

後方から突然声をかけられた。

振り返らずともわかる。

「一色か」

「問題、うまく解決してくれそうですね」

「由比ヶ浜にでも聞いたのか?」

「はい、それで、これはそのお礼です」

突如、一色は俺の背中に抱きついてきた。

そしてそのまま、腕を回す。

なまめかしい動きをする彼女の腕が俺の体をまさぐる。

「……くくっ」

「こんな時に笑うとか、ドン引きですよ?」

「そんなとこには入ってないぜ?」

「?なんのことですか?」

勢いよく彼女を振り払う。

その衝撃で一色は体勢を崩して転倒する。

「女子に恥をかかせるとか、最低です」

「そういう芝居はいらないんだよ、オルタナティブ」

「ッッ……わかってたんですか」

「薄々とな、確信したのはついさっきだが」

言って俺はカードデッキをかざす。

「物騒ですねぇ」

「最初に仕掛けてきたのはお前だろ?つーか、お前の為に動いてやってたんだから少しは自重

しろっての」

「それとこれとは話が別ですよ。それに、その件に関しては今ので貸し借り無しってことで」

「俺はお前みたいな清楚系ビッチが一番嫌いなんだよ」

「人をビッチ呼ばわりとは……失礼ですね」

「ま、御託はいい。始めよう」

「うーん……当てが外れましたね。先輩は好戦派ではないと思っていたんですが」

「ま、人には色々あるってことだ……変身!」

「やるしかない、か……変身」

「「Sword Vent」」

「やぁっ!」

俺の剣が一色の腕をかすめる。

数号合わせてわかったが、まともに戦えばサバイブ体にならずともこいつは俺よりも弱い。

「っ……やはりカードが少ないですね」

苦々しげにつぶやき、彼女はデッキから一枚のカードを取り出す。

彼女が所持しているのは、ソードベント、アクセルベント、アドベントにファイナルベントの

四枚だけだろう。

他にあるのなら、先からの戦いで使っていないことにいささか疑問を感じる。

あいつはこれまで、重要な場面でアクセルベントを使ってきた。

ならばここで奴が使うのは……

「Advent」

俺のドラグバイザーから音声が鳴る。

「Advent」

それに数瞬遅れて一色がカードをスキャンする。

しかし、現れた彼女のモンスターは、それより先に現れ臨戦態勢に入っていたドラグレッダー

の突進を喰らい吹き飛ぶ。

更にその攻撃は一色にも確実にダメージを与えたようだ。

「本当に面倒くさい人ですね……」

「Accel Vent」

やはりな……バカの一つ覚えというかなんというか……しかしこのカードに対して有効な対策

がないことも確かだ。

「Survive」

結果として俺は、この諸刃の剣のカードを使わざるをえなくなる。

「Shoot Vent」

高速で移動する一色を捉えようと俺はレーザー攻撃を連射する。

ドラグランザーも後方に現れ援護の火炎攻撃を放つ。

しかしその攻撃はなかなか当たらず、先程から一色の剣が俺の体をかすめている。

「ぐぅっ!」

俺は両手を抱え防御態勢に入る。

「やぁぁっ!」

それを好機と見た一色は、今まで以上に大胆に攻撃を仕掛けてきた。

「っ……今だっ!」

ドラグバイザーツヴァイのレーザー攻撃発射口を一色に向け、零距離からフルパワーの一撃を

放つ。

「うわぁぁぁっっ!」

一色の体が宙に舞う。

「ここだ!」

「Final Vent」

ドラグランザーを呼び、飛び乗ろうとしたその時だ。

「ドゴォォォン!」

耳をつんざくような音が鳴り、俺の体に何かが直撃した。

「うぐぅぅっ!」

俺は地に転がり、ドラグランザーは帰っていく。

「やぁ、比企谷、この姿で会うのは久しぶりか?」

「……っゾルダッ!」

仮面ライダーゾルダ、平塚静が近づいてくる。

「なぜだ?一色が消えた方がお前にとってもいいんじゃないのか?」

「サバイブのカードを持つお前達は危険すぎるんでな、先に始末することにした」

「なるほど……お前らグルってわけか」

「そういう……ことだっ!」

先程放たれた砲撃が再び俺を襲う。

横に跳びそれを回避すると、空中で無防備になった俺を一色の剣が斬りつけた。

「っ……やってくれるな」

「Advent」

「行けっ!ドラグランザー!ゾルダを攻撃しろ!」

「Advent」

「防げ!マグナギガ!」

ゾルダの前に契約モンスターのマグナギガが現れ、ライダーへの攻撃を防ぐ。

「グルアァァァアッッ!」

「ブモォォオオッ!」

ドラグランザーが炎で、マグナギガはミサイル、火器などでひっきりなしに攻撃を繰り出す。

おかげで俺達の周りでも爆発が絶えない。

「私を忘れてもらっては困りますねっ!」

「Advent」

突如、一色と彼女の契約モンスターが前後から襲いかかってきた。

「ぐぅっ!」

ダメージを負った俺を、抜け目なくゾルダが追撃する。

「そろそろ、終わりにしようか」

「Final Vent」

ゾルダが必殺のカードをスキャンする。

「待て!まだあたしが!」

「そんなことは知らん」

こいつら……仲間割れか。

一色は隙だらけだ。

今から自分がすることを思うと少しだけ気が暗くなるが、迷ってはいられない。

「だぁっ!」

背後から一色を切りつけ、その体を俺の体が隠れるよう前にかざす。

「っ……なにをっ!」

彼女がそう言い終わらないうちに、ゾルダの攻撃が炸裂した。

「いやァァァァァっっ!」

一色を楯にした俺にもすさまじい衝撃が伝わる。

それでも何とか、大したダメージを負わずに耐えることができた。

「Shoot Vent」

掴んでいた一色の体を放つと、ゾルダから新たな攻撃が放たれた。

その標的は俺ではなく一色で、すでに満身創痍だった彼女はその攻撃がとどめの一撃となり、

ミラーワールドから肉体を消滅させた。

「……仲間じゃなかったのか?」

「そんな問をする意味があると思っているのか?」
「……」

「私達は互いに利益があるから手を組んだ、ただそれだけだ。隙を見せればやられることはあ

いつだってわかっていたさ。そうだろう?」

「ああ、そうだな」

「それに君だって、彼女を盾にしたじゃないか。君の友達がされたように」

「っ……」

「比企谷、お前は三浦のことをとやかく言う資格があるのかな?」

「あーしが、なんだって!?」

突如ゾルダの背後に現れた三浦優美子、仮面ライダー王蛇がメタルホーンでゾルダの背を突く。

「くっ……きさま、いつから」

「んなことどうでもいいっしょ。あーし、あんたが気に入らないんだよ。消えろっ!」

「っ……」

遠距離戦にはめっぽう強いゾルダだが、近距離戦は苦手らしく、先程から王蛇に押されっぱな

しだ。

「ほらほら、どうした!」

「調子に乗るなよ、小娘!」

「Shoot Vent」

先程まで手にしていた大砲とは違い、肩に装備するキャノン砲を呼び出す。

そして超至近距離からそれを発射した。

流石の三浦もこの距離では回避は叶わない。

「がぁぁっ!……よくもっ!」

勇ましく再び接近する王蛇だが、ゾルダがキャノンを連射するので、やむなしと見てか後退を

始めた。

ゾルダは逃がすまじとキャノンを打ち続ける。

と、その時俺の体から砂が落ち始めた。

これ以上の長居は不可能だ。

二人の戦う様子を見ながら、俺はミラーワールドを後にした。

その翌日。

学校で三浦も平塚の姿も確認したので、昨日決着がつくことはなかったらしい。

そのことにがっかりしている自分に気付き、人の死を願うようになってしまったことに嫌気が
差す。

それでも俺は、もはや立ち止まることはできない。

そんな段階は、とうの昔に過ぎ去ってしまったのだ。

「うーっす」

「こんにちは、比企谷君」

「やっはろー!」

「雪ノ下、お前選挙の届け出いつするんだ?」

「それならもうすませたわ」

「応援演説はあたしがやるんだよ!」

「……不安しかわかないんだが……」

「どういう意味だし!」

「それでも目が腐った男にやらせるよりは幾分ましでしょう?」

「そうそう!って、ゆきのんもなんか馬鹿にしてない!?」

「つーかお前、俺ら以外に友達いないのかよ……」

「わかりきったことを聞かないでほしいわね」

「何でちょっと誇らしげに言うんだよ……」

「まぁそれはそれとして、これで一色さんの問題は解決ね」

「ほえ?一色さんって誰?」

「え……?」

「あー……雪ノ下、ちょっといいか?」

「……いいえ、もう結構よ。今ので、わかったから」

「……そうか」

「ねぇねぇ!一色さんって誰?あたし気になるんだけど」

「小説の登場人物よ」

「へぇー、二人ともおんなじ本読んでるんだ。あ、あたしにも読ませてよ!」

「由比ヶ浜さんに文字は早すぎると思うのだけど……」

「そうそう、まずは絵本から始めたらどうだ?あれなら文字読めなくてもなんとなくわかるか

らな」

「って、二人ともあたしのこと馬鹿にしすぎっ!もぉっ!」

こうして日々は過ぎ、選挙当日がやってきた。

「まぁ、お前に言う必要もないだろうが、あんま気張らずに頑張れ」

「ふふ、わかっているわ。それよりあなたこそ覚悟しておくことね。これからは生徒会役員と

して働いてもらうんだから」

「はぁ……わかってるっつーの……あれ?由比ヶ浜は?」

「緊張を解いてくると言って少し外に出ていったわ」

「あいつが緊張してどうすんだよ……まぁお前以外立候補者いないし大丈夫だろうな」

「それは私に相手がいたら負けたかもしれないということかしら?」

「別にそういう意味じゃねーけど……相変わらずすごい自信だな」

「当然でしょう、それに見合う能力は持っているつもりよ」

「さいですか……」

「だからあなたも、もっと自信を持ってもいいと思うのだけど」

「っ……そいつはどうも」

「比企谷……あいつ、雪乃ちゃんと……」

彼らの会話を立ち聞きしていた男がいた。葉山隼人である。

彼は雪ノ下雪乃と幼馴染で、以前から彼女に好意を寄せていた。

「あいつ、英雄である僕を貶すだけではなく……どこまでつけ上がれば気がすむんだ……」

もう、許せない。今日こそは、あいつを倒す。

「行け、デストワイルダー」

「あっれー?隼人じゃーん」

声をかけてきたのは雪ノ下陽乃だった。こいつは、昔から嫌いだ。

しかしなぜここにいる?

「隼人~、比企谷君と戦おうとしてるでしょ~?」

なぜ知っているかはもはや驚かない。こいつはそういう奴だ。

得体が知れず、気味が悪い。

外見こそ多少雪乃ちゃんに似ているものの、中身はまるで違う。

「それが、なんですか?」

「隼人は、比企谷君に勝てると思ってるのかな~?」

「当然だ、俺があんな奴に負けるはずがない」

「ふ~ん、じゃぁ、これと戦ってみてよ」

彼女がそう言うと、鏡の中に一人のライダーが現れた。

「……比企谷?」

「正確に言うと、比企谷君の影、だね。彼は、仮面ライダーリュウガ」

「比企谷の、影……」

「比企谷君に勝ってるっていうんだったら、影であるリュウガにも勝てるよね?」

「当然だ、僕は、英雄になる男だ」

「じゃぁ、リュウガを倒して見せてよ。比企谷君は、その後でもいいでしょ?」

「……わかった」

陽乃の言うとおりに動くことは癪だが、比企谷から生まれたものだと言われると、無性に闘争

心が湧いた。

あいつを倒す前菜と思えば戦うことは決して悪くはない。

「変身!」

「俺はお前のコマじゃないんだがな」

「わかってるって。これが終わったらもう何も言わないからさ。ライダーを倒せばあなただっ

て強くなれるし、比企谷君はあなたの手で殺したいんじゃないの?」

「ふん……まぁいいだろう。今回まではお前の口車に乗せられてやる」

「ありがとね~」

俺がミラーワールドに入って少しして、どこからともなくリュウガが現れた。

「こいつが、比企谷の、影、か」

「御託はいい。始めるぞっ!」

「Sword Vent」

「Strike Vent」

激しい音を立てて爪と剣がぶつかる。

なんて重い一撃なんだっ!

「オラァっ!」

敵の剣が俺の胸を切り裂く。

こいつは、気が抜けない。

「Advent」

「早速モンスターだのみか」

「Advent」

互いに契約モンスターを呼び出す。

だが俺には、必殺のカードがある。

「Freeze Vent」

リュウガの黒龍がその動きを止める。

そして俺とデストワイルダーは前後から爪攻撃を浴びせる。

「面白い技を使うじゃないか」

「Strike Vent」

リュウガは右手に剣を、左手に龍頭型の武器を装着した。

「はぁあっ!」

後方のデストワイルダーを黒炎で牽制しながら、俺に剣で切りかかる。

理にかなった攻撃だ。

「お前なんかにっ!」

しかし、数の上でこちらが優位であることには変わりない。

両手の爪を使って攻撃を仕掛けるものの、なかなか敵にダメージを与えられない。

「デストワイルダー!俺と同時に前から攻めろ!」

「グルッ!」

俺の指示を受けたデストワイルダーがこちらに回り込む。

「行くぞっ!」

「甘いんだよっ!」

俺とデストワイルダーが腕を振り上げたその一瞬を狙い、リュウガは剣を横薙ぎに振るう。

「くぉっ!」

「ガァァッ!」

「この程度か?」

「なめるなっ!」

再び攻撃を仕掛けるが、ジャンプして買わされる。

「もう、終わりにしよう」

「Survive」

リュウガの体をどす黒い炎が包む。

それと同時、凍結していた黒龍も黒炎をまとって再び動き出す。

「お前じゃ、あいつを倒すなんて無理だったな」

「Final Vent」

「どこまで俺をっ……」

「Final Vent」

リュウガの周りを黒竜が舞う。

デストワイルダーは技を発動させる為、リュウガに襲いかかる。

が、黒龍にはじかれてしまう。

「消えろぉぉっっ!」

バイク型になった龍に飛び乗り、リュウガがこちらに向かってくる。

回避しようとするが、黒炎をひっきりなしに俺の周りに吐き出し、それもかなわない。

「うっ、うわぁぁぁぁっっっ!」

「はっ、他愛もない。次はお前だ、仮面ライダー龍騎」

雪ノ下雪乃が壇上に上る。

ただそれだけで、生徒達はパタリと雑談をやめた。

「……まず、私はお礼が言いたいです。

今こうしてここに立っているのは、私の大切な人達のおかげだから。

私は、人とのかかわりを軽んじ、鬱陶しく思っていました。

そんなことから私が得られるものは何もない、と。

だけどそれは、大きな間違いでした。リスクも何も顧みず、いつも私の味方で居てくれた人、

周囲からどれだけ嫌われようと自分の信念を貫き通す人、自分の立場など考えず、私達の傍に

いてくれた人……

そんな素敵な人達とのかかわりの中で、私の考えは変わりました」

雪ノ下……。

「私はそんな人たちが、すごしやすい環境を作りたい。周囲に合わせる者達が集団で力を持つ、

そうではなく、正しい道を歩む人が後ろ指を指されない、そんな当たり前で正しい場所を。

だから……」

一呼吸おいて、彼女は告げる。

「人ごと変えて見せます、この世界を」

この上なく美しい笑顔で、彼女はそう言ってのけた。

他の誰かが言ったならば、それは笑われてしかるべきセリフだったのだろう。

だが、それをバカにできる者は誰もいなかった。

彼女ならば、それができるかもしれない、その場にいる者全員がそう思ったのである。

彼女はもう一度笑顔を浮かべて礼をすると、悠然と壇上を下りた。

誰からともなく拍手が沸き起こる。

そしてその音はどんどん大きくなっていく。

「おつかれさん」

奉仕部部室で、俺は雪ノ下に声をかけた。

「あら、比企谷君。今日も来てしまったのね」

「何?俺が来たら何か問題でもあるの?」

「よくわかったわね、その通りよ」

「そんなことより、ゆきのんのスピーチすごかったよね!」

「その後のお前の演説は目も当てられなかったがな」

「あぅ……」

雪ノ下の完璧な演説の後に壇上に立った彼女は、右手と右足が出るほどの緊張ぶりで、生徒達

の笑いを買っていた。

しかしそれは、悪意が込められたものではなく、子供が歩くのを見るような暖かいものだった。

「だって、友達のことだから、ちゃんとしたいって思うじゃん……自分のことだったら失敗し
てもいいけどさ……」

まぁ、その結果大失敗したんですけどね。

「あ、ヒッキー失礼なこと考えてるでしょ!」

「失礼っていうか、事実だな。その結果お前がミスった、っていう」

「あぅぅ……」

「まぁ、大丈夫だろ」

「そうよ、確かに由比ヶ浜さんの演説はひどかったけど……」

「ゆ、ゆきのぉん……ごめんなさい」

「でも、私は好きだったわ」

「うぅっ……あたしもゆきのんのこと大好き!」

「私は演説の話をしているのだけど……」

「ゆっきのーん!」

しかし由比ヶ浜は聞く耳持たない。

「まったく……敵わないわね」

その時、校内放送前のベルが鳴った。

「本日行われた生徒会長選挙の結果をお伝えします。信任に投票することを選んだ人が過半数

を超えたので、雪ノ下雪乃さんが新たな生徒会長となります」

その放送が終わると、校内のあちこちから拍手が起こった。

「おめでとさん」

「やったねゆきのん!」

「ええ、これからもよろしくね、由比ヶ浜さん」

あれれ―?僕は―?

「お茶汲み、よろしくね」

んのアマ……。

「何?俺の仕事はお茶汲みで確定なの?」

案外楽そうだな。お茶汲み万歳!

「あはは、おめでとー!」

笑顔が満ちた教室に、絶対に聞きたくない魔王の声がこだまする。

「雪ノ下……陽乃ぉっ!」

「何をしに来たのかしら……」

「もぉ、そんな怖い顔しないでよー。大事なお知らせをしに来たんだよ」

そう言うと陽乃は、ちらりと由比ヶ浜の方を見る。

「由比ヶ浜さん……すこし、席をはずしてくれないかしら」

「ゆきのん……」

由比ヶ浜は心配そうな表情で雪ノ下の顔を覗き込む。

「何も心配することはないわ。だから……ね?」

「わかった。ゆきのんがそう言うなら……ヒッキー、ゆきのんのこと、守ってあげてね」

「……ああ、任せろ」

俺がそう言うと、陽乃はプッと笑った。

「あはは、君がそんなこと言うなんてねぇ。お姉さん驚きだよ」

「お前が俺の何を知ってるんだ?」

「知ってるよ?私はなんでも知ってるから」

彼女がそう言うと冗談に聞こえないから性質が悪い。

由比ヶ浜が教室を出たのを確認すると、陽乃は再び口を開いた。

「ライダーバトルは長引きすぎた……これから一週間以内に終わらせる」

「んなっ……」

「っ……由比ヶ浜さんは、どうなるの!」

柄にもなく雪ノ下が声を荒げる。

「もちろん、エネルギー供給が無くなるから死んじゃうよ?」

何でもないことのように、さらりと言ってのけた。

「テメェ……」

「勘違いしないでね?わたしだって、好きで終わらせるわけじゃない。もっともっと楽しみた

いけどさ、色々と限界もあるんだよね」

「限界……だと?」

「うん、前兆はもう現れてるよね?無数に発生しているモンスター。あれが成長して、世界を

覆い尽くす。そうなれば、もうわたしの……誰の手にも負えなくなる」

俺達は黙って彼女の言葉を聞いていた。

「まぁ、そういうことだから。あと残ってるライダーは、あなた達と私と、リュウガ、ゾルダ、

王蛇の六人だね。めぐりと、他の世界のライダーはカウントしないから。それじゃぁね」

彼女はそう言い残し、あっという間に去っていった。

「……比企谷君」

「ああ、わかってる。……やるしかない」

由比ヶ浜はすでに帰っていたので、珍しく俺達は二人で下校することになった。

「あまり近くを歩かないでくれる?恋人にでもなったつもりかしら?」

「俺がお前と付き合うことなんて絶対ないから安心しろよ」

「……」

そう言うと雪ノ下は黙ってしまった。

あれ?俺のことが好きなの?


「由比ヶ浜さんのことは?」

「は?」

「彼女のことは、どう思っているの?あなただって、気づいてないわけではないでしょう?」

「大切な存在……だよ。でも、そういう関係になることはない……今のところはな」

「そう」

互いの顔を見て、少し笑ったその瞬間、

不快な音が頭の中で鳴り響く。

「またか……」

鏡の中では、例の白のモンスターがうじゃうじゃと群がっていた。

「「変身!」」

「俺は右をやるから左の方を頼む!」

「わかったわ!」

「Sword Vent」

「Trick Vent」

俺は剣で敵を切り裂き、雪ノ下は分身とともに敵を翻弄する。

しかし敵は次から次へと湧いてくる。

「キリがない……」

「Strike Vent」

広範囲を攻撃できる炎で敵を焼きつくす。

「Advent」

ドラグレッダーも呼んで攻撃を加えるが、まだ数は多い。

と、その時だ。

何体かの敵モンスターがその動きを止めた。

……何だ?

「よくわからないけど、今のうちに倒しましょう!」

「了解!」

剣で無防備なモンスターを切り裂こうとしたその時、モンスターの体にひびが入り、中から水

色の不気味なモンスターが出現した。

先程までの姿をヤゴだとするなら、今は翼が生えきる前のトンボのようだ。

「ッッ、速いっ!」

反応できないほどではないが、先程より明らかに移動速度が上がっている。

小さく舌打ちをつくと、残りの白モンスター達も動きを止める。

「こいつらまた……」

切りかかろうとした俺の剣を、成長したモンスター達が複数で止める。

「邪魔だっ!」

が、攻撃が当たらず、なかなか数を減らせない。

そうこうしているうちに残りも全て成長体へとなってしまった。

「仕方ない……比企谷君、サバイブよ!」

俺達が切り札のカードをスキャンしようとしたその時、バイクの音が聞こえてきた。

その色は黒。

城廻めぐりが変身するオルタナティブ・ゼロだ。

その攻撃をまともに食らい、多数のモンスターが爆破する。

「城廻……なんで」

「私は、人を守る為にライダーになった。だから……ライダーを守っていい!」

こいつ……。

「すまん!恩にきる!こいつらを倒すの手伝ってくれ!」

「わかった!」

「二人とも、耳をふさいで!」

「Nasty Vent」

言うや否や、雪ノ下は超音波攻撃を放つ。

「今よ!」

「「Sword Vent」」

それぞれ剣を手にした俺達三人は、一斉にきりかかる。

敵を倒したことによる爆発がひっきりなしに起こる。

「雪ノ下、決めるぞ!」

「了解!」

「「Final Vent」」

必殺の一撃で、周囲の敵をなぎ払う。

これで大方つぶしたはずだ。

その油断がいけなかったのだろう、俺達は戦場に響く死神の足音に気付けなかった。

「Final Vent」

俺と雪ノ下がその存在に気がついたのは、後方にいた城廻の叫び声が響いてからだった。

「ああああぁぁぁあぁぁっっ!」

俺達が彼女の方を振り返ると同時、その体が爆発した。

「あ、ああ……城廻……」

「あなたはっ!!」

彼女にとどめの一撃を加えたのは、俺に似た姿の闇のライダー、仮面ライダーリュウガであっ

た。

「さぁ、今日こそ決着をつけようぜ」

「お前っっ……よくもっ!」

「Survive」

サバイブのカードを発動すると同時、俺はリュウガにきりかかる。

「Survive」

相手も闇のサバイブのカードを使って姿を変える。

「「Sword Vent」」

全く同じ形状の武器が激突する。

だが、押されていくのは俺の方だった。

「くぅっ!」

「その体、俺によこせっ!」

リュウガの刃が俺の胸を思い切り切りつけた。

「ぐぉっ!」

吹き飛ばされたのを利用して一端距離を取ろうとするが、敵はそれを許さない。

追撃を仕掛けようと走って向かってくる。

「Sword Vent」

その攻撃を止めたのは雪ノ下だった。

「比企谷君!大丈夫!?」

「ああ、すまない。助かった。だが……こいつは俺一人でやる!」

悪いと思いながらも雪ノ下の体を押しのけて、再び俺は剣を振り上げる。

「こいつは俺の分身……なら、俺の力だけで倒してみせる!」

「お前に俺は倒せない、俺が最強のライダーだ!」

またも俺達の剣は鍔ぜり合う。

雪ノ下は少し不満そうな顔をしながらも、(仮面の上からだが、雰囲気でなんとなくわかる)俺

の言葉を聞きいれて距離を取ったところで立っている。

「いいのか?あいつの力を借りなくて」

「同じこと何回も言わせんな……俺がやるって言ってんだろ!」

俺の刃の切っ先が、わずかだがリュウガの体をかすめる。

「面倒くさいなぁ、我ながら!」

その攻撃にひるむことなくリュウガが繰り出した攻撃が俺の右腕に直撃した。

「もっとも、お前なんか、俺じゃないがな!」

剣を握っていない左手のパンチがリュウガの腹に命中する。

「分身って言ったのはテメェだろうが!」

リュウガが突如放った飛び回し蹴りが俺の脳を揺らす。

「俺は変わった!」

「人の本質は変わらないってのが、テメェの持論じゃねぇのかよ!」

腹に思い切りキックを喰らった俺は、地面に倒れこんでしまう。

「変わっただと?周囲に迎合することを覚えただけだろうが!成長した?辛い現実を知った上

での諦観がか!?笑わせんじゃねぇぞ!」

ゲームなどでは、倒れ込んだ敵への攻撃はできないが、リュウガは容赦なく追撃を行う。

「比企谷君!」

「来るなぁっ!」

「お友達に助けてもらわねぇのかよ、ハハハハっ!テメェは、弱いから仲間とつるんでるんだ

ろ?だったらこんな時にこそ使わないと意味ねぇぞ!」

刃が振り下ろされる。

頭を切り裂くその攻撃を、俺はすんでのところで止めた。

「あ?」

「そうさ、俺もずっとそう思ってた。教室の中で、まるで威嚇のように大声でくだらない話を

してる奴らのこと、なんてバカなんだろうと思ってた。『みんな』の輪から出ない為に自分を殺

してる奴なんて、生きてる意味がない、『友達だから』なんて言葉をまるで魔法の言葉の様に使

って好き放題ふるまう奴には殺意すら覚えてたよ。今でも、その思いは変わらない」

「そうだろうが!だったら……」

「でも!」

「ああ?」

「でも、だからこそ、俺は本物がほしかったんだよ。そんな偽物だらけの世界の中で、最高に

輝く本物を」

「……」

「そして、やっとそれを手に入れた。……だからっ!」

俺は刃を押し返し、大地に立つ。

「だから俺は、負けられないんだよ」

「ハ、ハハハハハ、あーああ……呆れて物も言えねぇ。だったら、その大事なもん抱えて死ん

じまえ!」

「Final Vent」

リュウガの周りをダークランザ―が舞う。

「Final Vent」

そして俺は、ドラグランザーとともに高く跳び上がる。

俺とリュウガが放とうとしている技は、互いにサバイブ前のファイナルベントだ。

それがなぜ今サバイブ態で発動するのかは分からない。

だが、なぜか俺はこの展開に納得していた。

「はは、いいじゃねぇか」

俺は火炎をまとい上から、漆黒の闇をまとったリュウガが下から向かってくる。

「「ウオォォォォォォッッッ!!」」

今までで最大規模の爆発が、俺達を包んだ。

Оpen Your Eyes For The Next BOTTI!

最終回予告!

三浦「お前だけは……絶対に殺す!」

―あなたの寿命は、もう……-

平塚「それでも、私はあいつと決着つけてやんなきゃって、思うんだよな」

「「「キャァァァァァッ!!」」」

川崎「おいそこのモンスター、今私を笑ったな?」

川崎(大志)「いいなぁ、あのモンスター達、あんなに仲間がいて」

―チェンジ!キック(パンチ)ホッパー!-

火野映司「こんな数のモンスター……あいつと一緒に戦った時以来か……?

     大丈夫!明日のパンツさえあればね!」

―タカ!クジャク!コンドル! タ~ジャ~ドル~!-

陽乃「さぁ、これで終わりだよ」

「Final Vent」

八幡「雪ノ下ぁぁぁっっ!」

雪乃「今の私は……龍騎とナイトで……仮面ライダー、ドラゴンナイト!」

「「Survive」」

???「叶えたい、願いは……」


戦わなければ生き残れない!

「比企谷君!」

雪ノ下が俺のもとに走ってくる。

「は、ハハハ、勝った、勝ったぞ!これでこの体を……」

リュウガが勝ち誇り、立ち上がった瞬間。

「あ?」

ドォン!と、彼の体から再び爆発が起きた。

「ば、馬鹿、な……」

「はは、残念、だったな。勝負は、俺の勝ちだ」

「な、なぜ、なぜだなぜだなぜだ!あ、あぁぁ……」

呪詛と呪いの言葉を残して、リュウガの体が消滅した。

「やった、ぜ。雪ノ下……」

「急いで戻りましょう。あなたもひどい傷なんだから」

「悪いな……」

「気にしないで、私は、あなたにとって本物なんでしょう?」

そう言うと、雪ノ下は笑った。

「そういうの、今言うなっつーの……」

顔が赤くなるのが自分でもわかる。

戦ってるときって、気分が高揚しちまうからなぁ……。

無意識のうちに厨二病が再発しているのだろうか……。

「もう、限界ですね……残念ですが、あなたの命は一週間ともたないでしょう」

私は、その言葉を自分でも驚く以上に冷静に聞いていた。

最近は気分が悪くなったり倒れたりすることが増えていたし、寿命のことは以前から知ってい

たことだ。

「私の寿命が尽きるのが先か、ライダーバトルが終わるのが先か……」

「は?」

「いえ、何でもありません」

このまま死ぬのだとしたら、私は結局結婚せずに終わるのか。

実家に帰る度にお見合い写真を見せてきた両親の顔が頭をよぎる。

「っと、まぁ勝てばいい話ではあるが、な……」

こんな体で、勝ち残れるのだろうか。

私なりに全力を尽くして戦って来たつもりではあるが、比企谷や雪ノ下はサバイブというカー

ドを手に入れ、私に人一倍敵意を抱いている三浦も三体のモンスターを従えている。

陽乃に関しては、それらとも別格の強さだ。

「病気になると心まで弱るものだな……」

勝てる見込みは薄い、それでもやるしかないのだ。

それが、教師として最低な、生徒に手をかけるという行いをしてしまった私のせめてもの責務

というものだろう。

―キィンー

その時だ。

病院の窓に大蛇のモンスターが現れた。

見間違えるはずもない、三浦優美子、仮面ライダー王蛇の契約モンスターだ。

その奥には、王蛇本人もいる。

「やっと見つけた……病気なんかでは殺してやらない、あんたはあーしがこの手でやる」


こいつとも、決着をつけてやらないといけないな……。

カードデッキを握った手が震え、激しい頭痛が体を襲う。

そんな痛みを極力隠し、私は叫ぶ。

多分戦えるのはこれが最後だ。

観客が一人というのはいささか不満ではあるが……

「変身!」

見せてやる、平塚静の晴れ舞台を。

「よく逃げずに来たな」

「あまり教師をなめるなよ?」

「そういう物言いが、気に入らねぇンだっつーの!」

「Sword Vent」

三浦が、最も好んで使う武器、ベノサーベルを右手に構える。

私は銃としても使える召喚機で距離を取りながら攻撃する。

三浦は弾に当たるも、それも意に介さずどんどん近付いてくる。

この攻撃は、シュートベントで出すギガランチャーやギガキャノンに比べると、単発の威力が

かなり低いのだ。

それでも無視できる威力ではないと思うのだが、王蛇には通用しないらしい。

「Shoot Vent」

私はすぐさま戦法を変え、大砲型の武器、ギガランチャーを構える。

だが、その為に要した時間は、王蛇が距離を詰めるには十分であった。

私が攻撃を放つより先に、ベノサーベルがわたしの胸を切りつけ、そのまま吹き飛ぶ。

だがわたしとて、転んでもただでは起きない性質だ。

奴の攻撃によって距離ができたことを逆に利用して攻撃を打ちまくる。

「ヤッハッ!くらえっ!」

「っ……うっぜぇな!」

王蛇は状況の不利を悟ったのか、そう言うと物陰に隠れた。

今のうちに新たな武器も呼びだしておくか。

「Shoot Vent」

ギガキャノン、肩に装備するキャノン砲だ。

「はぁっ!」

二つの大火力武器で近くの物を片っ端から破壊する。

「テメェがその武器を出すのを待ってたぞ!」

言うと王蛇は物陰から高くジャンプして躍り出た。

「馬鹿め!空中ではただの的だ!」

すかさずギガランチャーで攻撃しようとするが、

「Steal Vent」

それより先に、敵がカードをスキャンした。

肩の上からギガキャノンが消失する。

王蛇は奪った武器で、空中から砲撃を開始した。

「くそっ!」

「ハッハハハハハハッッ!」

王蛇は気味の悪い笑いを上げながらこちらに接近してくる。

しかも先程までとは違って遠距離戦用の武器も装備している為、こちらのアドバンテージがな

くなってしまった。

「Strike Vent」

その上、サイの頭を模した武器メタルホーンまで呼び出す。

三つの武器の重さは相当の物のはずだが、王蛇の機動力は一向に鈍らない。

こちらがギガランチャーを放てば、回避行動を取りながらギガキャノンを打ち返してくる。

完全に押されている。

しかも追い打ちをかけるように頭痛が襲ってくる。

「ダァッ!」

「Guard Vent」

敵の攻撃に対して、契約モンスターマグナギガの腹部を模した盾「ギガアーマー」を呼び出す。

マグナギガは『鋼の巨人』を名に関するほどであるから、防御力は相当なものだが、それをも

ってしても王蛇の攻撃は苛烈すぎた。

先のベノサーベルとメタルホーンでの攻撃は何とか止めたが、至近距離からキャノンを連射さ

れてはどうにも防げない。

私の体は再び宙を舞う。

「く、そ……」

「はは!もう終わりか!?」

「まだ、まだだっ!」

「Guard Vent」

肩に装備する新たな防具「ギガテクター」も呼び出し、両肩に装備する。

これでわたしは今、『ギガランチャー』『ギガアーマー』『ギガテクター』『マグナバイザー』の

4つの武器を装備したことになる。

「Advent」

更に契約モンスターも召喚する。

「私の持てる全ての力で、貴様を倒すっ!」

「やってみろぉぉっ!」

「行け!マグナギガ!」

私の指示を受けたマグナギガがミサイルを発射する。

私も王蛇を狙って大砲を打つ。

敵がキャノンを撃ってきたら、マグナギガの後ろに身を隠す。

こいつの防御力はモンスター随一だ。

「おらぁぁああっ!」

「近づけるな!マシンガンとバルカンを撃て!」

マグナギガには大量の武器が内蔵されている。

ファイナルベントの時とは比べるべくもないが、一度に相当量を発射することができる。

「ちっ……来い!」

「Advent」

王蛇はそう叫ぶと、サイのモンスター『メタルゲラス』を召喚した。

モンスターに突進させ、自分はその後ろから近づく算段のようだ。

メタルゲラスの装甲は厚い。極めて厄介な一手だ。

「グォァァァァッッ!」

サイがけたたましい咆哮を上げる。

「みすみすやられるかっ!」

盾を振り回し、必死に攻撃を防ぐ。

ランチャーを撃っている暇がない。

「くくっ、どうしたぁ!?」

マグナギガと対峙している王蛇が笑い声を上げる。

「そぉら、もういっちょ!」

「Advent」

続いて奴が呼びだしたのは、エイのモンスター「エビルダイバー」だ。

「モンスター二体を相手に……?」

無論、この展開を考えなかったわけではない。

奴は三体のモンスターと契約している。

これは他のライダーにはない奴だけの強みだ。

だがしかし……よりにもよって、こんな場面で……。

その圧倒的な戦闘センスには舌を巻かざるを得ない。

と、盾を持ちそんなことを考えていると死角から強烈な体当たりを喰らう。

エビルダイバーによるものだ。

接触部は肩。ギガテクタ―を装備していなければ、もう動かなくなるのではないかと思うほど

の痛みだ。

王蛇は、あまたのライダーを殺め、そしてその好戦的な性格によりそれ以上の数のモンスター

をほふってきた。

そんな彼女の契約モンスターは本来の強さを大幅に超えている。

三体分の餌を用意しなければならないにもかかわらず、だ。

「マグナギガ!こちらにキャノンを撃て!」

「ブモォォォッッ!」

私の指示を受けたマグナギガが、大量の熱線攻撃を放つ。

「ハッ!モンスター殺されてもいいのかぁ!?」

そう言うと王蛇はマグナギガの腹部をベノサーベルで切り裂く。

しかし、さして効いている様子はない。

マグナギガの防御力は先程言った通りだ。

自分からはほとんど動けない代わりに、チートとさえ思える防御力を持つ。

しかしまさか、王蛇の攻撃をまともに受けても揺るがないとは、想像以上だ。

「宙をうろうろ止まっているエイを重点的に攻撃しろ!王蛇への散弾攻撃も忘れるな!」

「っ……テメェのモンスターをうばっときゃよかったかなぁ!?教師にはもったいなさすぎる

っしょ!?」

「教師が生徒に負けるなど……あってはならんのでな!」

「そんな考え方がっ!」

「その位の想いがなければ、教える資格はないよ!」

「思い上がるなぁぁっ!」

激昂した王蛇がこちらに向かってくる。

その無防備の背中を見逃すマグナギガではない。

即座に高威力のビーム砲を放つ。

もし彼女が仮面をつけていなければ、その薄気味悪い笑みに気付けていたのだろう。

「らぁっ!」

王蛇は、驚くべき速さで身を回転させ、右に跳ぶ。

そして、マグナギガの攻撃は、

「なっ!ばかなっ!?」

戦いの最中にもかかわらず油断してしまった、愚かな私へと降り注いだ。

直前の会話で冷静さを失ったようにふるまったのも、全て演技だったというのか?

だとすれば、私は彼女のことをとんでもなく過小評価していたということになる。

教師が生徒の評価を誤るなど、あってはならないことだ。

その代償が、これか……。

「ぐ、ぐぅっ……」

「マグナギガ……奴を撃てっ!」

「あたるかって!」

しかし王蛇は物影を動き回り、なかなか攻撃が当たらない。

「ぐぅっ……」

またしても、私を激しい頭痛が襲う。

「そろそろ終わりにしよっか、先生ぇ!」

「Unite Vent」

三体のモンスターが一つになり、君臨する……モンスターの王。

「獣帝、ジェノサイダーッ!」

「グゥルォォォォッッ!!」

「もう、あんたは終わりだ」

そう言うと王蛇は、デッキから一枚のカードを取り出す。

コブラ、サイ、エイのシルエットが一枚に描かれたカード。

間違えようもない、ファイナルベントのカードだ。

奴はここで、決着をつけようとしている。

「させるかぁぁっ!」

「Final Vent」

マグナギガのもとに近寄り、私も必殺のカードを使う。

マグナバイザーを、マグナギガに連結させる。

邪魔になるので、他の武器は全て装備解除する。

「はははっ!いいねいいねっ!そうこないとっ!」

「Final Vent」

そのカードを王蛇がスキャンした瞬間、獣帝の腹がぽっかりと開く。

そしてそこを中心に渦が発生する。

あれはまるで……ブラックホールだ。

だが要は、あそこに近づきさえしなければいい。

敵は私を攻撃してジェノサイダーのもとへやろうとするはずだ。

つまりこれは、王蛇が私のもとに来るまでに撃退できるかできないかの勝負ということだ。

私のファイナルベント『ワールドエンドは、高火力にして広範囲を攻撃できる技だ。

この勝負の利は私にあるっ!

王蛇がどんどん近付いてくる。

まだだ……三、二、一……

「ワールドエンドッ!!!」

今まで私が放って来た中でも、最大級の攻撃。

避けられるはずがない。

だが、しかし……

「たぁっ!」

王蛇もまた、これまでにないほどの高い跳躍をして見せた。

ある程度の高さならば、この技にとっては支障はない。

ミサイルなどが当たり、落下してきた相手は結局他の攻撃の餌食にもなるのだから。

だが、あの高さは……

「攻撃が、当たらんっ!!」

「おらぁっ!」

王蛇は空中から、ギガランチャーを乱射する。

こちらの攻撃は当たらない、しかし相手の攻撃は命中する。

そんな勝負の行方は子供にだってわかる。

私達の攻撃は中断させられた。

そしてそのタイミングを見計らったように、王蛇が着地する。

彼我の距離、わずか二メートル。

「ドゥームズ……デイッ!」

『ドゥームズデイ』、終末の日。何と不吉な名だろう。

それを言ってしまえば、私のワールドエンドも同じようなものか。

比企谷の『ドラゴンライダーキック』などという名前の方が珍しい。

現実逃避の為か、奴の攻撃を喰らった瞬間私はそんなことを考えた。

マグナギガと供に宙を舞う。

後三秒もしないうちに私たちはあのブラックホールにのみ込まれる。

運よく自分だけ助かったとしても、モンスターとの契約が切れた状態で王蛇に勝つことなど到底できはしない。

そしてマグナギガは、ここから絶対に脱出できない。

万事休す、だ。

……いや、まだか。私の死は免れないとしても……

「マグナギガっ!もう一度ワールドエンドだっ!」

マグナバイザーを握る手に再び力を込める。

ファイナルベントの連発。

普通ならばありえないことだ。

しかし、しかし、だ。

何もしないで終わるよりは、はるかにましだ。

せめて、一矢報いる! それが私の、最後の意地だ。

「ブモォォッッ!」

マグナギガが咆哮すると、ミサイルなどがつまった胸部が開いた。

「な、なにぃっ!?」

王蛇が心底驚いたというような声を出す。

あの状況からなら、もう逃げられはしない。

「ワールドエンドッ!ザ・リバースッ!」

あまたの光が世界を包む。

「ガッ、ガッ、グアァァァッッ!」

王蛇の、いや、三浦優美子の最後の声をこの耳で聞いたわずか一秒後、私はジェノサイダーに呑み込まれた。

最後に感じた痛みが頭痛から来たものか体から来たものかわからなかったのは、私にとっては僥倖だった。

三浦と平塚の戦いを俺が知ったのは、リュウガとの戦いを終えた翌日、誰も二人のことを覚えていないことを確認してからだ。

普段の俺ならクラスの連中に話しかけることなどしないが、そんなことを言っている場合では無かった。

これで、残っているライダーはいよいよ、俺と雪ノ下、陽乃の三人のみとなった。

そして、タイムリミットまではあと6日。

そう、あと一週間もしないうちにこの戦いは終わるのだ。

自分の机でいつものように寝たふりをしていると、モンスターが現れた時特有の頭痛がした。

教室を出て、人目の無い場所にある鏡を探す。

そこを、由比ヶ浜に見つかった。

「ヒッキー、……どうしたの?」

俺の真剣な表情を見て何かを悟ったらしい。

「なに、ちょっとした仕事だ」

「仕事、ヒッキーが仕事、か……」

何?こいつこんな時まで俺をディスるの?

「なら、早く終わらせなきゃね!」

「おう」

由比ヶ浜は俺達が変身して戦うのも目撃している。

勘のいい彼女のことだ。

俺がまた戦おうとしていることも気づいているのだろう。

それでもこうして笑ってくれるのだ。

なら俺が、その期待を裏切るわけにはいかない。

「んじゃ、また後でな」

そう言い残し、俺はその場を去る。

「変身!」

ミラーワールドには、またしても大量のモンスターが。

この間までは成長の途中のようだったトンボ型のモンスターが、完全に成体になっている。

スピードも速い……それが、ウヨウヨと。

「お前ら、いい加減うざいぞ!」

「Strike Vent」

炎で攻撃するが、なかなか当たらない。

そもそも敵の数が多すぎて対処しきれない。

「Advent」

「ドラグレッダー!」

炎龍ドラグレッダーが炎を吐きながら敵の群れに突撃する。

流石はドラグレッダー、たちまち大量の敵を灰に変えてみせた。

しかし、攻撃を回避したモンスター達が逆にドラグレッダーに襲いかかる。

「ググォォッッ!」

ドラグレッダーは呻き声をあげながらもそれらのモンスターをなぎ払うと、ミラーワールドのかなたへと去っていった。

「っ、薄情な奴だ」

「Final Vent」

必殺のカードを使い、無理矢理ドラグレッダーを再召喚する。

「グォーーーッ!」

その咆哮には、俺への反感が少なからず入っているようだった。

「こんなことで文句言うんじゃねぇよ、無双龍の名が泣くぞ」

俺の周囲をドラグレッダーが舞うことで、近くにいたモンスター達が遠ざかっていく。

「あそこだ!いくぞ!」

最も多くモンスターが密集している方向を目指し、渾身の一撃を放つ。

「ドラゴンライダーキックッ!!」

次々に誘爆し、数十匹のモンスターがその姿を消す。

だが、倒したモンスターよりも残っている物の方がはるかに多い。

「使うしかない」

「Survive」

このカードを使うたびに自分の体が壊れていくのがわかる。

そしてその傷は、ライダーバトルが終われば治るという保証もない。

できることならば、もう一度たりとも使いたくはない。

それでも、使うしかない。破滅へと近づくと知っていても。

このカードを作りだした雪ノ下陽乃は底意地が悪すぎる。

俺の体を灼熱が包む。

「Shoot Vent」

「Trick Vent」

分身し、八体となった俺達は一斉にレーザー攻撃を放つ。

しかし敵はその弾幕をかいくぐり、次々と俺達に襲いかかる。

一人、また一人と分身体が消え、ついには俺一人となってしまった。

「こんな終わり方、冗談じゃねぇぞ……」

十数匹のモンスターが俺に襲いかかる。

これは、さばききれない!

「Blast Vent」

その音が響き渡ると同時、突風が吹き荒れ、モンスター達を遠くへと飛ばす。

「雪ノ下!」

「大丈夫?」

「お前が来てくれなかったらやばかったけどな」

「それにしても……ここまで成長しているとは」

「ああ、一人じゃとても相手しきれん」

「二人なら、なんとかなるかしら?」

「するしか、ないだろ」

「「Advent」」

「やれ!ドラグランザー!撤退は認めない、敵を焼きつくせ!」

「ダークレイダー!風攻撃でドラグランザーから敵を遠ざけて!」

「ゴォォッッ!」

「キィィッッ!」

ドラグランザーの炎が敵の数を着実に減らし、ダークレイダーの風が接近を許さない。

基本的にモンスター同士が共闘することはないが、そのことが残念に思えるほど二体のコンビネーションは見事だった。

「Shoot Vent」

「Trick Vent」

「さぁ、私たちも行くわよ!」

雪ノ下がとった戦法は、くしくも―という言い方はふさわしくないだろうが、―俺の物と全く同じだった。

二匹のモンスターと、サバイブ態のライダーが二人。

敵モンスターは次々と倒れていく。

「いける!」

「一気に終わらせるわよ!」

「了解だ!」

「「Final Vent」」

契約モンスターにそれぞれ飛び乗り、敵を蹴散らす。

そしてついに、最後の一匹を倒した。

「ふぅ……」

「本当に厄介ね」

通常の姿に戻って俺達が少し気を緩めたその時、

「クァァァァァッッ!」

けたたましくも神々しい咆哮を上げ、一匹のモンスターが舞い降りた。

金色の体に、赤と青の二翼の羽。

仮面ライダーオーディン、雪ノ下陽乃の契約モンスター、ゴルトフェニックスだ。

「なっ……」

「ひゃっはろ~、雪乃ちゃん、比企谷く~ん」

「っ……」

よりにもよって、サバイブの力を使い果たした時に来るかよ……ただでさえ相手の方が圧倒的有利にあるのに……。

「あ、心配しないで?サバイブを使えなくなった君達を倒そうだなんてつまらないことは考えてないからさ」

俺の考えを見透かしたかのように、笑いながら彼女は言った。

「なら、どういった要件かしら?」

「ん、勝負の時間を伝えにきたんだよ。私とあなた達の、ね」

それはつまり、ライダーバトルが終わる時、ということだ。

「今日の夜七時、場所は、総武高校の校門前で。それでいいよね?」

俺達に拒否するという選択肢はない。

もしこれを断れば、陽乃は俺達を各個撃破で倒そうとするだろう。

そうすれば、勝ちの目はまずない。

雪ノ下は以前一度だけ勝利をおさめたが、それは相手が油断していたからこそできた不意打ちのようなものだ。

そして陽乃は今回、一切の油断なく全力で俺達をつぶしにかかってくる。

ならばなぜ陽乃は俺達の共闘を認めるか。

それは戦闘中にミラーワールドからもう一人に助けを求めることを見越してのことだろう。

途中で相手の戦力が増えるくらいなら、最初から俺達の戦力を合わせた上で作戦を立てる。

純粋な戦闘力は、俺達二人より奴一人の方が強いから彼女にとってはそれでいいのだ。

「わかったわ。終わらせましょう、私たちの戦いを」

雪ノ下のその言葉は、ライダーバトルのみを指して言ったのではないだろう。

幼いころから絶えることがなかった雪ノ下姉妹の争いに決着をつけようと言っているのだ。

「そうだね。結果がわかりきっているのがちょっと残念だけどね。あ、それは今までもか」

「ふふ、どうなるかしらね」

陽乃の露骨すぎるその挑発を、雪ノ下は満面の笑みで返して見せた。

授業が終わり、奉仕部での活動終了時間を迎えた午後7時。

今日は、由比ヶ浜は用事があるとかで先に帰っていた。

陽乃との戦いに万全の状態で臨めるので、このことは助かった。

と、その時。

―キィィィィィィッッ!―と。

鏡の中から聞き慣れた不協和音が響く。

次の瞬間、

「「「グゥォォォォォッッッ!」」」

咆哮を上げながら、無数のモンスターが現実世界に湧き出てきた。

「なっっ!?」

今までもとんでもない数だったが、今回はそれとも比べ物にならない。

ありとあらゆる鏡から、次々と。

千を超えるモンスター達が、たちまち空を覆い尽くす。

「なっっ……」

それらのモンスターはビルなどの建造物、そして地上の人々を襲い始めた。

ひっきりなしに悲鳴が響く。

「ワァァァァァッッ!」

「いやぁぁぁあっ!だっ、誰か助けてっ!」

「いやだ!死にたくないっ!」

「これは……」

雪ノ下も驚嘆の声を漏らす。

俺達が二人立ちすくんでいると、勢いよく部室のドアが開いた。

現れたのは、火野先生、異世界のライダー、仮面ライダーオーズだ。

「比企谷君っ!雪ノ下さん!大丈夫!?」

「え、ええ。私達はライダーですから」

「はぁ……よかった」

先生が安堵の声を漏らす。

「でも、なんでここに?心配してくれるのは嬉しいですけど、他の生徒達を助けないといけないんじゃ……」

「今日見た君達の顔がいつも以上に真剣そうだったから、何か君たちにとって重要なことが起こるんじゃないかって思って。それを見届けたくてね。
それと……こんなこと立場上言っちゃいけないんだろうけど、さ。傷つき、苦しんでいる人は世界中にいる。
でも俺は、最初に君達を助けたい。そう思ってるから、かな」

「先生……」

「こんな時まで、変わらないんですね……だけど、ありがとうございます。勝ってきます、そしてまた、あなたに会う。将棋もチェスも負けっぱなしじゃ、私の気がすみませんので」

「うん、こっちのことは俺に任せて行ってきて。これでも一応、別の世界を救ってきた……仮面ライダーだからね」

「先生一人じゃ無理なんじゃないの?」

開きっぱなしだったドアから、二人の人物が現れた。

川崎沙希と、その弟川崎大志だ。何故かそれぞれ塩ラーメンと味噌ラーメンを持っている。

「川崎、さん……?どうしてここに?」

「どうして、ね。こんなモンスターどもに好き勝手されちゃ困るから、かな」

彼女がそう言うと、どこからともなくバッタの形をした小さなロボット(?)が現れ、二人の手に飛び込んだ。

「仮面ライダーだからっすよ、お義兄さん。そして……太陽を穢すのは、俺達の役目です」

「お前も……後、お前に義兄さんと呼ばれる覚えはない」

「手厳しいっすね……」

つーかこいつ、小町に結構こっぴどく振られたと思うんだけど……。

「そんなの屁でもないっすよ。俺の見た地獄は、そんなもんじゃない……でも、地べたを這いずり回ってこそ、見える光もある」

「大志、聞かれてもないのにべらべらしゃべるな」

「悪かったよ、兄貴」

兄貴?姉貴だよね?

「この戦いが終わったら、麻婆豆腐作ってくれないか?俺、兄貴の麻婆豆腐、もう一度食べてみたい」

「戦いが終わったら、ね。今の私達に、豆腐は眩しすぎる」

い、意味がわからん……。

「そうだね、全て終わったら、みんなでおいしい物を食べよう。その為にも、一人もかけずに、生き残ろう」

「火野先生、いや、火野映司。私の弟になれ」

川崎さん……?いきなり何言ってるの?

「それも面白いかもね。でもとりあえず今は、目の前の敵を叩こうか」

「ま、その通りだね」

「俺は兄貴にどこまでも付いていくよ」

「「「変身!!!」」」

―タカ!クジャク!コンドル! タ~ジャ~ドル~!―

―チェンジ!キック(パンチ)ホッパー!―

「二人とも……必ず生きて、また会おう」

「こっちのことは任せな。奴らに地獄を、見せてやる」

「お義兄さん、これが終わったら、改めて小町さんをいただきに行きます」

最後のは絶対無理だろうし許さん。俺達は千葉の兄妹だからな!

「三人とも、よろしくね」

「んじゃ、行くか。あいつが待ってる」

「「変身!」」

頼もしい仲間に見送られ、俺達二人は、最後の戦いへと臨んだ。

「ひゃっはろ~!ちゃんと来てくれたんだね~、お姉さん嬉しいよ」

最強のライダー、オーディンの姿でそんなことを言われても薄気味悪さしかおぼえない。

いや、こいつの場合、もとの姿で言った方がもっとひどいか……?

「あっ、比企谷君失礼なこと考えてるな~?」

「……御託はいいだろう」

「そう言わないでよ~、私、比企谷君のことも雪乃ちゃんのことも大好きなんだから~」

「私達は、あなたのことが大嫌いだわ」

「傷ついちゃうな~、雪乃ちゃんは昔から私のこと毛嫌いしてたよね~」

「それはお互いさまでしょう?」

「そんなことないよ~、絶対に勝てないってわかってても私の後を必死に追ってくる雪乃ちゃ

んはとっても可愛かったよ~?」

「なら、そんな私に負けた時はさぞ悔しかったことでしょうね」

「……うん、そうだね~。だから今日、殺すんだよ」

「Sword Vent」

「行くぞ、雪ノ下!」

「「Survive」」

「「Sword Vent」」

俺達は剣を呼び出し、そして雪ノ下はさらにカードを使う。

「Blast Vent」

突風がオーディンを襲う。

それと同時に、オーディンの周りに金色の羽が大量に発生し、オーディン自身はその姿を消す。

直後、俺達の背後に現れ、二本の剣で同時に背中を切りつける。

応戦しようとはするが、オーディンは絶えず瞬間移動を行い、剣を交えることすらできず、俺達は一方的に攻撃を受けている。

「雪ノ下、背中合わせになるんだ!」

この体勢なら、奴がどこから現れてもされるがままに攻撃を喰らうことは無くなる。

「考えたわね……流石だわ」

「安心するのは、まだ早すぎないかな?」

「Advent」

巨大な不死鳥のモンスター、ゴルトフェニックスが現れる。

オーディンをその背に乗せ、俺たちめがけて体当たりを繰り出す。

「「Shoot Vent」」

炎のレーザーと疾風の弾で牽制するが、不死鳥はその巨体に似合わぬ俊敏な動きでそれらを見

事にかわす。

俺達は回避を諦め、剣で巨大モンスターに対峙する。

「はあぁぁぁぁっっっ!」

「だぁぁぁっっ!」

声を張り上げ、不死鳥の攻撃を食い止める。

なんとかそのまま拮抗状態で保つ。

と、その時だ。

「はぁぁぁっっっ!」

体勢を崩したのだとばかり思っていたオーディンが、上空から剣を振り下ろして攻撃してきた。

ゴルトフェニックスの相手で手いっぱいだった俺達は、なすすべもなく倒れる。

「くぉっ……」

「弱すぎる、話にならないね」

倒れ込んだ俺の胸を、オーディンが思い切り踏みつける。

「がぁぁっ!」

「やめなさいっ!」

雪ノ下が斬りかかる、が

「Confine Vent」

オーディンがカードをスキャンすると同時、手にしていた剣が消失する。

だがあれは、材木座の……

「言ってなかったっけ?私は、モンスターの体から生まれる物以外は、全てのカードを持ってるの。他にも、ほうら!」

「Return Vent」

何もなかった空間から、三匹のモンスターが現れる。

王蛇のベノスネーク、リュウガのドラグブラッカ―、タイガのデストワイルダーだ。

「う、嘘だろ……」

オーディン一人にさえ苦戦しているのに、強力モンスターが三体も……。

「比企谷君、オーディンは私が引きつける。あなたはそのモンスター達を」

「っ……、わかった!」

「Advent」

俺も召喚のカードを使い、ドラグランザーを呼び出す。

ドラグランザーとドラグブラッカ―が宙を舞いながら激しい戦いを繰り広げる。

サバイブの力を得たとあって、ドラグランザーの方が押していたが、そこにベノスネークも加わった。

ドラグランザーの体に絡みつき、毒液を浴びせる。

援護しようとする俺をデストワイルダーが阻む。

俺の蹴りあげた脚と虎の爪が衝突する。

膠着した一瞬を逃さず、レーザー攻撃を叩きこむ。

「ガァァッゥッ!」

「まずは一体っ!」

そこからさらに、心臓部へと再びレーザーを放つ。

「ガァァアァァァッ!」

デストワイルダーが爆発する。

やはり、主人がいる時に比べるといくらか弱い。

だが、そのことに安心してはいられない。

俺は早々にこの戦闘を終え、雪ノ下とともに戦わねばならないのだから。

「グルァァァッッ!」

ドラグランザーが、二体の攻撃を切り抜けたようだ。

「行くぞっ!」

「Final Vent」

ドラグランザーの背に飛び乗り、モンスター達に灼熱攻撃を浴びせる。

ドラグブラッカ―も同じように黒炎を吐くが、ドラグランザーの攻撃を打ち消せていない。

そしてついに、二体の体に炎が燃え移る。

「「がぁぁっっっ!」」

「消えろぉぉぉっっ!」

そしてそのまま、全力の体当たり。

二匹は何も残さず消滅した。

ほんの少しだけ、ほっと胸をなでおろしたその瞬間。

「きゃっぁぁぁぁぁっっ!」

雪ノ下の悲鳴が響いた。

とっさにそちらの方を向くと、目を疑いたくなるような光景が待っていた。

彼女のベルトを、オーディンの刃が深々と貫いていた。

「あっ……うぅっ……」

「ゆ、雪ノ下ぁぁっっ!」

雪ノ下がその場に倒れ、その変身が解除される。

「あっ……あっはははははっっ!」

陽乃の醜い笑い声だけが響き渡る。

「体の方では致命傷にはならなかったみたいだけど……これでもうあなたは終わりだよ、雪乃ちゃん!ミラーワールドでは、ベルトがないと生きていけないからね!」

「雪ノ下!俺につかまれ!」

ミラーワールド間を行き来できる能力を持つライダーの俺と一緒なら、もとの世界に戻れるかもしれない。

「ふふ、見逃してあげてもいいんだけどさ……もう、終わらせちゃいたいんだよね!」

「Final Vent」

どこからか現れたゴルトフェニックスが雪ノ下に近づこうとする俺をさえぎるようにして

陽乃のもとに向かい、彼女の背中に貼りつく。

間違いない、陽乃はこの一撃で俺の命を奪おうとしている。

ファイナルベントを使うから、という以上に、彼女からあふれ出る殺意が先程までとは比

べ物にならない。

一刻も早く雪ノ下を脱出させたいが、俺が彼女に近づけば陽乃のファイナルベントに巻き

込まれてしまう。

生身でライダーの攻撃を受ければどうなるかなど、考えるまでもないことだ。

「Shoot Vent」 「Advent」

ドラグランザーとともに、レーザー攻撃での迎撃を試みる。

「ウォォォォォッッ!」

今までにないほどの勢いで引き金を引く。

無数のレーザーがオーディンに向かっていく。

だが、金色の光を身に纏った彼女には、傷一つつけることができない。

やられる……思考というより、本能でそう俺が感じた次の瞬間……

金色の光が体に触れ、俺の体を中心とした、ビッグバンさえ想起させるほどの大爆発が起

きた。

「あっ……かはっっ……」

ああ、俺は死ぬんだ。

今まで受けた傷のどんな物よりも激しい痛みだ。

本当にやばい時は痛みを感じないとか、身体の痛みよりも心の痛みの方が苦しいなんて言

うが、あれは全部嘘だ。

本当に痛いのは、一撃で死が確定してしまうほどの痛みだ。

こんなにも痛いのに、なぜだろうか。

俺の変身はまだ解けていない。

かといって、オーディンと戦えるはずもない。

「っっ!」

そうか……俺が最後に、やらなきゃいけないことが、ひとつだけあるじゃないか。

ボロボロになった体で、懸命に立ち上がる。

もうすぐ死ぬのだという思いが、帰って俺の痛みを和らげた。

この痛みから、解放されるのだから。

「アッハハハハ、アハハハハハハッッ!」

陽乃が再び笑いだす。

「やった!出来レースとはいえ、やっぱり勝つと嬉しいなぁ、これで、永遠の命と、世界が私の物にっ!」

陽乃は俺達に背を向け、笑い続けながら歩き出した。

完全に勝利を確信しきっているというていだ。

そりゃぁそうだろう、雪ノ下はもはや変身できず、俺は立ち上がるのがやっとな瀕死の状

態。

例え陽乃に最後の奇襲をかけようにも、彼女に近づけば簡単に気づいてしまうだろう。

だけどな、お前は忘れてるんだよ、唯一俺達に残された、逆転の方法を。

俺は懸命に雪ノ下に近寄り、その手を握り締める。

「比企谷、君……ごめん、なさい……どうやら私たち、ここで終わりみたいね……」

「ばぁぁか、まだ残ってるだろ、たった1%だとしても、希望が」

「希、望……?」

彼女を握る手に込める力を強め、その体を無理やりに起こす。

「一体、何を?」

「黙ってこい」

そして俺は彼女を連れて、ミラーワールドから脱出した。

現実世界に戻った瞬間、変身が解けた俺は倒れ込んだ。

「比企谷君……私をここに戻す為に……でも、姉さんが最後のライダーになったら、どの

みち……」

彼女がその言葉を言い終わらないうちに、鏡の中から笑い声が響いた。

「あはははははっ!その通りだよ比企谷君!そんなことしたって、結局雪乃ちゃんは私が

殺すんだって!残念!無駄でした!でもまぁ、最後の挨拶くらいはしてあげるよ。それじ

ゃぁね、明日にでも雪乃ちゃんを殺しに来るよ。それまでに比企谷君のお墓でも作ってあ

げたら?あははははっ!」

そう言い残し、彼女は姿を消した。

「悔しいけど、姉さんの言う通りよ……私達には、もう……私にできるのは、せめてあな

たと一緒に死ぬくらいしか……」

「はぁ……ったくお前らしくねぇなぁ」

満足に動かない口を何とか開いて彼女に告げる。

「何で無理って決めつけてんだよ」

「だってもう、私達には戦う手段が……」

「あるだろ」

「え?」

「これを使え……」

そう言って俺は、龍騎のカードデッキを渡す。

「まさか……」

「そうだ、お前が戦うんだ、龍騎になって」

「っっ!!」

「ま、そういうことだ。頼むぜ雪ノ下……お前が最後の希望だ」

「比企谷君っ!」

「あぁ、なんだか、視界がぼんやりしてきやがった……」

「ひ、比企谷君!?いや、死なないで!もう、大切な人を失うのはっ!」

「お前に出会えて、よかったよ。雪ノ下……お前はなるべく、生きろ……」

「いや、いや、いやっ!比企谷君!あなたこそ生きてっ!」

彼女のそんな悲痛な叫び声を聞きながら、俺は永遠の眠りに就いた。

「比企谷、君……」

失ってしまった、かけがえのない人の名前を呟く。

こんな思いをするのは、2回目だ。

今すぐその場に泣き崩れたい。

彼のその体を抱きしめたい。

だけど、それはできない。

私は戦わなければならない。

たとえそれがどんなに苦しく、無謀な戦いであったとしても。

彼が最後に私に託した願いが、戦うことなのだから。

今まで傍で見続けてきた、龍のエンブレムが描かれたカードデッキを見つめる。

左手を前に突き出し、右手を斜め上に突き上げる。

「……変身!」

私の体を、赤と銀の鎧が包む。

どこかから、赤い龍の咆哮が届いた。

そして私は、自分が持っていたカードデッキからカードを抜きだす。

そのカードを龍騎のデッキに入れ、私はミラーワールドへと向かった。

「……ん?」

仮面ライダーオーディン、私の姉にして、最も憎む敵、雪ノ下陽乃。

彼女は私の姿を認めると不思議そうな声を漏らした。

「仮面ライダー龍騎……比企谷君?あの傷から、どうして……」

「私よ、姉さん、いいえ、仮面ライダー、オーディン!」

「雪乃ちゃん?……ふーん、そういうことか……比企谷君は、雪乃ちゃんにデッキを託

した、と……」

「その通りよ」

「でも、雪乃ちゃんが龍騎になったからって、私に勝てないってことくらいわからなかっ

たのかなぁ」

「龍騎……?違うわね」

「え?」

「今の私は、龍騎とナイトで……仮面ライダー、ドラゴンナイト!」

そして私は、サバイブ疾風、ナイトのサバイブのカードをかざす。

すると左手に、ダークバイザーツヴァイが現れる。

更に龍騎のサバイブカードである、サバイブ烈火も取り出す。

右手のドラグバイザーがドラグバイザーツヴァイへと変化する。

「そんな……」

二つの召喚機に、同時に二枚のサバイブのカードを読みこませる。

「「Survive」」

風と炎が私の体を包み込む。

赤と青の装甲が装着されていく。

「仮面ライダー、ドラゴンナイト……私の知らない、ライダー……サバイブは、同時に使

えないはずなのに……」

「長い人の歴史の中で、幾度となく奇跡を起こしてきた力……本当に強いのは、人の想いよ!」

「Sword Vent」

赤と青の二対の剣が出現する。

赤の剣の柄には龍のエンブレムが、青の剣の柄には、蝙蝠のエンブレムが。

「そしてその力で、今、あなたを倒すっ!」

「人の想い……?それなら私にだってある!永遠の命を手に入れて、世界すら手に入れ

る!」

「Sword Vent Guard Vent」

オーディンは二対の剣の一振りだけを右手に持ち、左手には楯を構える。

「その世界であなたは何をするのっ!」

剣と楯が激しい火花を上げる。

「誰だって考えるでしょ、この手で世界を変えてみたいと!そして私には、その力がある

っ!」

「そんなことの為に、罪のない人を……比企谷君を殺したの!?」

「そんなこと……?たった一人を救う為に殺し合いをしてきたあなたに言われたくないな

ぁ!同じ穴の狢でしょ!」

「っ……あなたと、一緒にしないで!」

「そうだよねぇ、昔からずっと私と比べられて、そして負け続けてきたあなただもんねぇ!」

オーディンの剣が胸をかすめる。

「雪乃ちゃん、あなたは私の影だよ!あなたはしょせん、私の代わりでしかない!」

「だったらあなたを倒して、私が光になってみせる!」

今度は私の剣が相手の体に触れる。

「ッッ……チッ」

オーディンの口から舌うちが漏れる。

「Advent」

「ルォォォォォォッッ!」

巨大な不死鳥ゴルトフェニックスが現れる。

「Advent Advent」
ドラグランザーとダークレイダーを私も呼び出す。

ドラグランザーはともかく、ダークレイダーは今使っているベルトで契約をしていないの

で来てくれるかという不安はあったがどうやら杞憂だったようだ。

そしてもう一枚、カードをスキャンする。

「Strange Vent」

これは比企谷君の使う、ランダムで別のカードに変化するという変わったカードだ。

今、来てほしいのは……。

変化したカードを見ず、そのままスキャンさせる。

「Unite Vent」

「よ、よりにもよってそのカードをっ!」

オーディンが驚愕の声を漏らす。

ユナイトベント。複数のモンスターと契約していた仮面ライダー王蛇、三浦優美子が使っ

ていた、モンスター同士を融合させる特殊なカード。

「私に力を貸して!」

「グルァァァァアッ!」

「キィィィイイッ!」

ドラグランザーとダークレイダーからまばゆい光がほとばしる。

「グガァァアァァッ!」

けたたましい咆哮を上げ、巨大な闇色の翼を持つ暗黒色の赤龍が現れる。

新しく手元に現れたアドベントカードでその名を確かめる。

『ドラグウイング』

「ドラグ、ウイング……」

強さを表すAPの横には?の文字が四つ並んでいる。

ドラグウイングとゴルトフェニックスが正面からぶつかり合う。

私とオーディンが見守る中、その変化は徐々にだが起こった。

ドラグウイングの位置が少しずつ前に出る。

「そんな……ゴルトフェニックスはミラーワールド最強のモンスターよ……?」

「グルルッッ!」

巨大な暗黒の炎を龍が吐くと、その攻撃をまともに受けた不死鳥が地に激突する。

「ル、ルォォォオオオッ!」

怒りの声をあげ、不死鳥が無数の鋭利な羽を放つ。

「ガァァァッッ!」

龍が再び咆哮すると、先程の炎が今度はドラグウイングの全身を包む。

そしてその炎に当たった羽は一つ残らず消滅する。

龍は炎をまとったまま不死鳥に体当たりを繰り出す。

上空からの勢いを受けたその攻撃に対し、不死鳥は防御手段を持たない。

「ゴルトフェニックス……」

「はぁっ!」

呆然とするオーディンに、二刀で斬撃を浴びせる。

「ハァッ!」

しかしその攻撃は瞬間移動でかわされる。

次の瞬間、背後に気配を感じた私は回転して剣を振るう。

「うぅっ!」

オーディンの体が吹き飛ぶ。

「この能力まで……」

彼女がつぶやくと同時、ドラグウイングがさらなる攻撃でゴルトフェニックスにダメージ

を与える。

いける……!

「私の……いいえ、私達の勝ちよ、オーディン!」

私一人の力では勝てなかっただろう、でも、比企谷君と二人の、いや、それもちがう。

私を支えてくれた人、由比ヶ浜さん、火野先生達のおかげ……。

「今こそ、あなたを倒す!ドラグウイング!ゴルトフェニックスにとどめを!」

「ウルァァァッッッ!」

これまでで最も激しい咆哮を上げてドラグウイングは巨大な炎を吐きだす。

「ルッ・・・・・・ルァァアァッ!」

断末魔をあげて、不死鳥が爆発する。

これでオーディンはブランク体になる!

「はは……本当に、強くなったね、雪乃ちゃん。でも、まだだよ!」

オーディンがそう言うと、爆発が起きた地点に黄金の光が集まっていく。

そして、

「な、なんで……」

「ルァァアァァアアアアアアアッッッ!」

先程消滅したはずの、ゴルトフェニックスがそこにいた。

「ここまで追い詰められるとは思ってなかったよ、認めてあげる。あなたはすごい」

「どうして、あのモンスターが……」

「ゴルトフェニックスは、不死鳥。その命が尽きても、一度だけ蘇ることができる。その

強さを、大幅に増して。そして、契約者である私の力も」

「そう……なら、今度こそ決めて見せるわ。次の一撃で」

「いいね、私もそう思ってたところだよ」

「比企谷君、力を貸して……」

万感の思いを込めて、カードをスキャンする。

「Final Vent」

「世界を手に入れる、その最後の試練にあなたが立ちふさがる……最高だよ、雪乃ちゃん

っ!」

「Final Vent」

オーディンの背にゴルトフェニックスがつき、まばゆい光を撒き散らしながら向かって向

かってくる。

大きく跳び上がると、ドラグウイングが黒炎弾をはなち、そのまま私を包み込んだ。

「エターナル、カオスッッッ!」

「ドラゴンナイトキック!!」

私達が激突すると、ミラーワールド、世界自身が震え始めた。

巨大すぎるエネルギーの激突。

「はぁぁぁぁぁぁっっっ!」

「やぁぁぁぁぁっっっ!」

永遠にも感じた時間は、果たして一瞬だったのかもしれない。

突如として、オーディンの体から粒子がこぼれ始めた。

「え……?な……、私が、負ける……?」

そう言いながらも、力を緩めなかったのは、さすがオーディン、いや、雪ノ下陽乃だ。

しかし、それでも

「はぁぁぁぁぁぁああああっっっ!」

一秒後には、彼女の体を私の攻撃が貫いていた。

「う……あ、ああ……」

姉さんは、自らの最期を悟ったようだ。

「最後の最後で負けるなんて、私もまだまだだなぁ……」

その体から、小爆発が連続して起こる。

「さよなら、姉さん。あなたのこと、言うほど嫌いでもなかったわ」

「あはは、雪乃ちゃんは、相変わらず、嘘が、下手……だなぁ……」

ドゴォォォォ!という音をたて、オーディンは跡形もなく消し去った。

満足感とも空しさとも何とも言えない感情をかかえて立ち尽くす私のもとに黄金の光の塊

が空中から舞い降りてきた。

―最後のライダーは、あなた。さぁ、その願いを叶えましょう―

「私の、願いは……」

以上が、原因不明の失踪事件の真相であり、仮面ライダーと名乗る人間達の戦いの真実で

ある。

この戦いに、正義は、ない。

そこにあるのは、純粋な願いだけである。

その是非を問える者は……。

「雪乃ちゃん、そんなところで寝てると、風邪ひいちゃうよ?」

幼いころ聞いた、なぜか心が安らぐその声を子守り歌にして、私は眠りについた。

「おにいちゃんお兄ちゃん、早く行かないと学校遅刻しちゃうよ!」

「遅刻するのはお前だろうが……ほら、早く行くぞ。送ってってやる」

「えへへ、やっぱりお兄ちゃんは頼りになるなぁ。実はぁ、お兄ちゃんと一緒に学校に行

く為に朝はゆっくりしてるんだよ?あ、今の小町的にポイント高い!」

―――――
「っははっ!やっベー、隼人くんマジやっベーわ―!」

「戸部、あんたそれぜんっぜん面白くねーし」

「はは、まぁまぁ優美子、戸部のはいつものことだろ?」

「っか―、マジみんな俺に冷たすぎじゃねー?姫菜もそう思わねー?」

「翔は確かに面白くないからなぁ……」

「つーか戸部、あんたら大丈夫?付き合いだしてすぐでこれとかやばくない?」

「はは、優美子は相変わらずきついなぁ」

「はぁ!?あーし全然性格悪くないから!」

――――――

「むほほほほほほ!ついにできたぁ!我の渾身の設定集!さぁさぁ戸塚氏、とくと読んで

くれっ!」

「あははは、ところで材木座君、僕この前もいくつか設定読んだけどさ、本編はいつ書くの?」

「こ、こぽぉ……純粋なその視線が痛い……」

「材木座君の設定っていっつも斬新で面白いからさ、早く全部読みたいんだー」

「は、はぁい!明日までに全部書いてくるでおじゃる!それでは、さらばっ!」

「楽しみにしてるねー」

――――――――

「もうすぐ体育祭だねー。楽しみだね、さがみん、ゆっこ」

「そうだね……私、実行委員長、やってみたいな」

「ええ!?でもさがみん、文化祭の時あんなひどいこと言われて……トラウマとかになっ

てないの?」

「……私、変わらなきゃいけないと思うんだ。だから今度は誰かと協力してもまかせっき

りにしないで、自分でできることは一所懸命がんばるよ」

「さがみん、変わったね……」

「ええ!?そうかなぁ」

「うん、変わったよ。……私も、変わらなきゃかも」

「え?」

「さがみんが委員長なら、私は副委員長として頑張るよ!」

「あ、ありがとう!」

――――――――

「火野先生、今度の研修のことで打ち合わせをしたいんですが、ちょっといいですか?」

「あ、平塚先生。僕もちょうどそう思ってたところです」

「わ、私たち、気が合うかも……なんて」

「そうかもですねぇ」

「よ、よかったら今度お食事でもどうですか?」

「あ、ならうちに来ませんか?世界の料理をごちそうしますよ」

「ほ、本当ですか!!? よし、ついに私にも素敵な彼氏が……」

「……?どうしました?」

「いっ、いえいえ!なんでも!」

―――――――

「大志、あんた最近なんか浮かれてない?」

「兄貴にもわかる?実は俺……彼女ができたんだ!」

「大志あんた……私達は、闇の住人だよ?」

「這いつくばってこそ、つかめる光もある……」

「相手は?」

「比企谷小町さん!」

「比企谷の弟か……ま、せいぜいうまくやりな」

「うん!兄貴もね!」

「一言余計だよ……」

―――――――――――――
「誰か、今学期の学級委員長をしてくれる人はいませんかー?」

「私、やります」

「「おおー、留美ちゃんならいいんじゃない?   鶴見さん可愛いしなー。

でも、夏休みぐらいから鶴見さんってなんか変わったよなー  優しいし頼りになるしー

……」」

八幡、私、変わるよ。

そしていつか……

―――――――――――――

「一色さんからの依頼での他校との合同イベント、何とかうまくいきそうね」

「ったく、生徒会の仕事を無意味に増やしやがって……」

「まぁまぁ、そんなこと言わないでよヒッキー。推薦で受かった城廻先輩も手伝ってくれ

てるし随分楽できてるじゃん」

「こんにちはー」

「確か向こうの学校の生徒会長の……」

「折本かおりです、よろしくお願いします」

「んじゃ、打ち合わせ始めるか」

「比企谷君、お茶」

「ヘイヘイっと……」

「ねぇ比企谷」

「なんだ?」

「あんたさ、変わったよね。中学の時と」

「それを言うならお前もな。ちったぁましな奴になったんじゃねぇの?」

「……あの時はごめん」

「ん、気にしてねぇよ」

「そっか、ありがと」



「ねぇヒッキー、さっきゆきのんと話してたんだけどさー、また火野先生と四人でお泊ま

り会しようよー」

「ヘイヘイ、とりあえず会議終わらせよーな」

「あれ?反対しないの?」

「どうせ俺に拒否権は無いんだろうが」

「よくわかったわねその通りよ」

「はぁ……それにまぁ、そういうのも嫌いじゃない」

「やったぁ!じゃぁ明日ね!」

「随分唐突だな……場所は?」

「私の家で構わないわ。どうせ一人暮らしだしね」

「でもゆきのんもすごいよねー、まだ高校生なのにちゃんと自分でお金管理して、富士山、

とかも色々やってるんでしょ?」

「由比ヶ浜さん、私がやっているのは不動産運用よ。別に富士山をどうこうしたりはしな

いわ。まぁそれも、自分で何とかしなくてはならないからね」

「あ、ごめんねゆきのん……」

「気にすることは無いわ。一人というのもなかなかいいものだわ。それに、私にはあなた

達がいるから……」

「ゆきのん!」

「ったく、お前らはいつもいつも……」

俺はそんな微笑ましい光景を、いつまでもいつまでも見つめていた。

やはり、俺の青春ラブコメは間違っている。

―あなたの願いは……?―

「ライダーバトルを、無かったことに……」

新番組予告!
『ぼっちライダーディケイド』
「比企谷八幡、君は、ライダー15の世界を旅しなくてはならない。世界を救う為に」

由比ヶ浜「私も、ヒッキーの力になるよ!」

雪ノ下「ライダーバトルがやっと終わったと思ったら……」

八幡「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

―KAMEN RIDE DECADE!―

―ブレイドの世界―(×ドキドキ!プリキュア)
相田マナ「私の、身体が……」

「マナは、強くなりすぎた……彼女はもはや人間ではない、最悪のアンデッド、ジョーカ

ーだ」

立花「マナは絶対に守る!」

―バーニングディバイド!―

ありす「私が最強のライダーですわ!」

真琴「アンデッドは全て封印した……後はあなたよ!マナ、いいえ。ジョーカー!」

ベール「私の責任だ、だが私は謝らない」

イーラ「新生ライダー、ってとこだ」

マーモ「一緒に戦ってあげるわ、プリキュア」


カブトの世界(×アクセルワールド)
ハルユキ「クロックアップ!」

黒雪姫「キャストオフ」

―チェンジ!スタッグビートル!―

楓子「カラスさん、あなたならこれを……」

ハルユキ「これは、ハイパーゼクター……?」

能美「あっははははは!ゲームオーバーですよ、有田先輩、いや、仮面ライダーカブト!」

チユリ「私だって戦える!」
―チェンジ!ドラゴンフライ!―


電王の世界(×デートアライブ)
士道「十香、いくぞ!」

―Gun Form―

電王(十香)「お前倒してもいいよな?答えは聞いてない!」
ことり「しょうがないな、士道は……」

―Sword Form―

折紙「人類が唯一人工的に作ることができた精霊……」

デネブ「折紙をよろしく!」

折紙(ゼロノス)「最初に言っておく、私はかなり強い」



クウガの世界(×ソードアートオンライン)
キリト「俺のユニークスキルは……超変身!」

ヒースクリフ「全プレイヤーの中で最も反応速度の速い物に与えられる能力、それがクウ

ガへの変身能力だ」

キリト「アスナァァァァッッ!」

クウガアルティメット「お前だけは許さないぞ……」


ファイズの世界(×Yes!プリキュア5!Gо!Go!)
のぞみ「知ってるかな……夢っていうのは時々とっても切なくなるもの……らしいよ」

りん「のぞみ、あんたはまぁた……」

のぞみ「戦うことが罪なら、私が背負ってみせる!大いなる虚無の力、キュアファイズ!」

りん「情熱の蒼き炎、キュアサイガ!」

うらら「はじけるレモンの香り、キュアオーガ!」

こまち「安らぎの、緑の大地、キュアカイザ! ナッツさん、バトルモードです」

ナッツ(バトルモード)「ナツ!」

かれん「溢れる知性の泉、キュアデルタ!」

くるみ「青いバラは秘密の印、ローズオルフェノク!」

シロップ「ミルクだけオルフェノクろぷ」

ミルク「うるさいミル!」

ブンビー「各種変身アイテムは、ブンビーカンパニー製だよ!」

スコルプ「まさかプリキュアと共闘する日が来るとはな……」



……………………おたのしみに!

ぼっちライダーディケイド!

由比ヶ浜「ねぇねぇゆきのん、この書類こんな感じでいいかなぁ?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……やはりあなたには会計の仕事は向いていないわ。この一枚だけ

で訂正すべき箇所が五つもある……」

由比ヶ浜「う、ううう~、ごめんねゆきのん……」

雪ノ下「で、でも頑張ってくれたことは嬉しいわ。ありがとう」

由比ヶ浜「ゆきの~ん!」

雪ノ下が由比ヶ浜に抱きつく。

この生徒会室ではよくみられる光景だ。

雪ノ下「じゃぁ比企谷君、この修正をお願い」

そしてその仕事は僕がやることになるんですよね、わかります。

由比ヶ浜「よろしくね、ヒッキー!」

まぁ、生徒会長と副会長に言われては庶務の俺には拒否権は無い。

由比ヶ浜「この調子なら、次の行事も上手く行きそうだね!」

比企谷「お前はほとんど役にたってねぇけどな……」

由比ヶ浜「う……」

雪ノ下「まぁ、由比ヶ浜さんは他の所で頑張ってもらっているわ」

雪ノ下……お前由比ヶ浜に対して甘すぎるだろ……。

俺がため息をつくと、ドアがノックされた。

雪ノ下「はい」

緩んだ表情を引き締めて雪ノ下が応答する。

映司「やぁ、今日も頑張ってくれてるね。ありがとう」

そう言ってはいってきたのは生徒会担当教諭の火野映司先生だ。

雪ノ下「いえ、仕事ですから」

映司「比企谷君達の代になってから随分スムーズに進行するようになったし、内容も凝っ

てるし、本当に感謝だよ」

雪ノ下「それは先生も同じでしょう」

火野先生が生徒会担当になったのは今年からだが、影で随分頑張ってくれている。

だから、例年より少ない三人という生徒会役員でやっていけているのだ。

由比ヶ浜「先生、またどこか遊びに行こうよ!」

映司「そうだね、次の行事が終わったら行こうか」

雪ノ下「楽しみです」

比企谷「ああ、そうだな」

その時、大地が大きく揺れた。

ぼっちライダーディケイド!

由比ヶ浜「ねぇねぇゆきのん、この書類こんな感じでいいかなぁ?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……やはりあなたには会計の仕事は向いていないわ。この一枚だけ

で訂正すべき箇所が五つもある……」

由比ヶ浜「う、ううう~、ごめんねゆきのん……」

雪ノ下「で、でも頑張ってくれたことは嬉しいわ。ありがとう」

由比ヶ浜「ゆきの~ん!」

雪ノ下が由比ヶ浜に抱きつく。

この生徒会室ではよくみられる光景だ。

雪ノ下「じゃぁ比企谷君、この修正をお願い」

そしてその仕事は僕がやることになるんですよね、わかります。

由比ヶ浜「よろしくね、ヒッキー!」

まぁ、生徒会長と副会長に言われては庶務の俺には拒否権は無い。

由比ヶ浜「この調子なら、次の行事も上手く行きそうだね!」

比企谷「お前はほとんど役にたってねぇけどな……」

由比ヶ浜「う……」

雪ノ下「まぁ、由比ヶ浜さんは他の所で頑張ってもらっているわ」

雪ノ下……お前由比ヶ浜に対して甘すぎるだろ……。

俺がため息をつくと、ドアがノックされた。

雪ノ下「はい」

緩んだ表情を引き締めて雪ノ下が応答する。

映司「やぁ、今日も頑張ってくれてるね。ありがとう」

そう言ってはいってきたのは生徒会担当教諭の火野映司先生だ。

雪ノ下「いえ、仕事ですから」

映司「比企谷君達の代になってから随分スムーズに進行するようになったし、内容も凝っ

てるし、本当に感謝だよ」

雪ノ下「それは先生も同じでしょう」

火野先生が生徒会担当になったのは今年からだが、影で随分頑張ってくれている。

だから、例年より少ない三人という生徒会役員でやっていけているのだ。

由比ヶ浜「先生、またどこか遊びに行こうよ!」

映司「そうだね、次の行事が終わったら行こうか」

雪ノ下「楽しみです」

比企谷「ああ、そうだな」

その時、大地が大きく揺れた。


比企谷「うぉ!なんだ、地震か!?」


雪ノ下「大きいわね……」


俺達が安全を確保しようと動き出したその時、


「ギィヤァァァァッッッ!」


耳をつんざくような叫び声が響いた。


少なくとも普通に生活していて出るような声ではない。


いや、これは、とても人の物とは思えない。


映司「そんな……この世界でも崩壊が始まったのか……?」


火野先生がそう呟き、窓から身を乗り出した。


比企谷「あ、危ないですよ!」


映司「あぁ……やっぱり……終わって無かったのか」


俺達も先生に続いて外を眺める。そして、驚愕する。


怪物、としか言いようのない生物たちが空に地上にとあふれかえっていたのだ。


由比ヶ浜「な、何あれ……」


雪ノ下「私達は、夢でも見ているの……?」


映司「……君達は、少しの間ここで待っててくれ」


由比ヶ浜「ど、どこに行くの!?」


映司「この状況を何とかできる物を、取ってくる。できれば、もう二度と使い


たくなかっ


たんだけどね……」


そう言うと、火野先生は勢いよく駆けだした。


由比ヶ浜「な、なんなんだろう……」

雪ノ下「とにかく私たちは、ここで待ってましょう」


そして約二分後。


勢い良くドアが開けられる。


映司「はぁ、はぁ……」

先生の手には、一つのベルトと二つのカードデッキが握られている。

デッキには、龍と蝙蝠のエンブレムがあしらわれている。

映司「君達をまた戦わせることになって、本当に申し訳ない……」

比企谷「先生……?」

映司「三人とも、これを」

言うと先生は、俺にベルトを、雪ノ下に蝙蝠の、由比ヶ浜に龍のカードデッキを手渡した。

ベルトに触れた、その瞬間

比企谷「っっっっーーーーーーーー!!!?」

俺の頭の中を、電流が駆け巡る。

比企谷「あ、ああ、ああ……」


陽乃「私は、仮面ライダーオーディン」

三浦「近くにいた、お前が悪い」

材木座「がぁぁぁぁあああっっ!」

戸塚「う、うわぁぁぁぁっっ!」

由比ヶ浜「あたしの占いが、やっと、外れる……」

比企谷「お前はなるべく、生きろ……」

それは、記憶。

忘れていたことが不思議な、鮮烈すぎる戦いの記憶。


比企谷「そうだ、俺達は、戦っていた……ライダーバトルを……」

雪ノ下「どうして、忘れていたのかしら……」

由比ヶ浜「う?なんであたしのデッキはヒッキーのなの?」

映司「説明は後でする、とりあえず、今はこのモンスター達を何とかしないと」

比企谷「先生、俺のこのベルトはどうやって?」

映司「ベルトの中心にカードを入れるんだ……ディケイドの力は、全てを超越する」

比企谷「まぁ、やってみるか。多分そう簡単には、やられない」

雪ノ下「というか私たちは、ミラーワールドでしか戦えないのでは……?」

映司「それは大丈夫、もうどこでも戦えるはずだよ」

雪ノ下「そうですか……わかりました。変身!」

由比ヶ浜「えへへ……ヒッキーのを使うなんて、なんか照れるな……変身!」

そう叫ぶと、雪ノ下は漆黒の剣士仮面ライダーナイトに、由比ヶ浜は赤い剣士、龍騎へと

変身した。

俺は数枚の中から、一枚のカードを選ぶ。

―DECADE―

比企谷「変身!」

「Kamen Ride Decade!」

ベルトからその音声が鳴ると、俺の体にバーコードのようなものがはまっていく。

ピンクと黒のボディーに緑の目。

それが俺の変身した新たなライダー、仮面ライダーディケイドだ。

映司「ごめん、また戦わせることになっちゃって」

雪ノ下「気にしないでください、私達は大丈夫です」

由比ヶ浜「そうそう、ちゃちゃっとあんなの倒しちゃうよ!」

映司「ごめん、ここは任せた!俺もやるべきことをやったら、すぐに行くから!」

比企谷「っし、行くか」



雪ノ下「ミラーワールドのモンスターとは、少し違う感じね……」

比企谷「アンデッドにワームにドーパント……なんでもありだな」

由比ヶ浜「ヒッキー、知ってるの?」

比企谷「なんとなく、わかる。このベルトのせいか……?」

雪ノ下「なにはともあれ、私達がするべきことは一つよ」

由比ヶ浜「そうだね!よし、頑張ろう!」

「「Sword Vent」」

「Attack Ride Srash!」

三人それぞれに剣を手にする。

比企谷「お前ら、なるべくならサバイブは使うなよ」

サバイブ、それは使用者の生命エネルギーと引き換えに莫大な力を与える諸刃の剣である。

雪ノ下「その心配は無いわ」

比企谷「え?」

由比ヶ浜「なんかよくわかんないけど、サバイブのカードは無くなってるよ?」

「シャァァァッッ!」

会話をしている俺達にモンスターが襲いかかってくる。

比企谷「とにかく、やるかっ!」


剣でモンスターをさばく。

だが、いかんせん数が多すぎる。

比企谷「ちっ……」

「Attack Ride Blast!」

銃を乱射し、敵を一旦遠ざける。

しかしそれは時間稼ぎにしかならない。

雪ノ下「耳をふさいで!」

「Nasty Vent」

雪ノ下がそのカードをスキャンした瞬間、彼女の契約モンスター「ダークウイング」が現

れ、不快なことこの上ない超音波を発する。

比企谷「久しぶりに聞いたなこれ……」

そういえば、このディケイドにはやたら多くのカードが入ってたな。

比企谷「色々試してみるか」

「Kamen Ride 鎧武!」

カードをスキャンすると、俺の姿はどこかオレンジを連想させる姿へと変わった。

「Attack Ride 鎧武! 大橙丸! 無双セイバー!」

二本の剣で敵に切りかかる。すごい威力だ。

「Attack Ride 鎧武! 大橙一刀!」

俺を中心として、円状に斬撃を放つ。

その攻撃に触れたもの全てが爆発する。

巨大な力に驚く俺の背後から何者かが攻撃を仕掛けた。

幸いダメージはさほど大きい物では無かったので急いで振り返るも、すぐ近くにそのよう

な影はない。

と、次は正面から攻撃を受けた。

しかし、全くその姿が見えない。

透明になっているのか、あるいは……

「Kamen Ride Brade!」

次に俺は、鋼鉄の剣士へと姿を変える。

「Attack Ride Brade! タイム!」

ブレイドが使うカードの一つ。スペードの10、タイム・スカラベ。

その効果は、自分以外の時間の流れを減速させること。

しかしその中で、俺と同じ速さで動く物たちがいた。

ワーム、カブトの世界の、高速で動くことができるモンスター達だ。

「Final Attack Ride ブ・ブ・ブ ブレイド!Ritning So

nic!」

キック、サンダー、マッハからなる、電撃を宿した超高速キック。

それを受けたモンスターは、跡形もなく消滅した。

「「Final Vent」」

雪ノ下と由比ヶ浜も必殺のカードで敵を蹴散らす。

しかし、モンスター達は次から次へと湧いてくる。

雪ノ下「こんな数……キリがない!」

俺達が体力的にも精神的にも参ってきたその時、空から炎が降ってきて俺達の周りのモン

スターを焼き払った。

地上に降りてきたのは、タカ、クジャク、コンドルの鳥獣系モンスターの力を使って変身

した火野先生、仮面ライダーオーズだ。

映司「大丈夫!?」

比企谷「ええ、なんとか」

映司「今、この世界は消滅しかかっている」

雪ノ下「消滅……?」

映司「前に言ったよね、俺は別の世界から来たライダーだって。この世界には、ここ以外

に14のライダーの世界がある」

雪ノ下「パラレルワールド、のようなものですか?」

映司「うん。そしてその世界が融合しかかっている。そんなことになれば、全ての世界は

消滅してしまう」

比企谷「こんなふうに、ですか……」

高層ビルなどはモンスターによって崩壊し、まさにこの世の終わりといった感じだ。

映司「うん、これよりもっと、ひどいけどね……」

由比ヶ浜「そんな……」

映司「でも、全ての世界を救う方法もある」

雪ノ下「方法、というのは?」

映司「比企谷君、いや、ディケイド。君が世界を旅し、ゆがみを正すんだ」

比企谷「え……?」

映司「それぞれのライダーの世界では、滅びの前兆が起き始めている。それを

君が、君達が解決する。全ての世界でゆがみを正すことができれば、世界の崩

壊を止めることができる」

由比ヶ浜「でも、どうしてあたし達が……」

映司「それはわからない。でも、君達が体験したライダーバトルに関係あるっ

てことは確かだと思う。俺が変われればいいんだけど……」

雪ノ下「行きましょう、比企谷君。どの道このままでは、私たちも、みんな終

わりよ」

比企谷「ああ、そうだな。……先生、俺達が何とかして見せます」

と、言った瞬間。

俺が所持していたカードから灰のようなものが放出される。

そして、ほとんどがモノクロの状態になってしまった。

比企谷「なんだ……?」

映司「その状態になってしまったカードは、使うことができない」

比企谷「え?」

映司「各ライダーの力を使うには、そのライダーと絆を結ぶ必要がある。だか

ら、今の比企谷君には、自分と、由比ヶ浜さんが変身する龍騎、雪ノ下さんが

変身するナイトの力しか使うことができなくなったんだ」

比企谷「なるほど……所で先生、旅するって言っても、どうやって?」

映司「そこにある建物、それが鍵だ」

そう言って先生が指差した建物は、『光写真館』。

雪ノ下「写真館……?」

由比ヶ浜「こんな所にあったっけ……」

映司「そこから、いろんな世界に行くことができる。……もう時間がない、さ

ぁ、行って」

由比ヶ浜「先生は?どうするの?」

映司「俺は、こいつらを食い止める」

由比ヶ浜「そ、そんなの無茶だよ!」

映司「それでも俺に出来るのはこれくらいだからね。それに、君達が世界を変

えてくれればこっちの世界でも影響が出る。……頼んだよ」

雪ノ下「御武運を」

俺達は頭を下げ、謎の写真館へと入った。

俺達が入るのを待ち構えていたかのように、部屋の絵が突如切り替わる。

たくさんのトランプのカードが散らばり、そこに鉄のライダー達と少女達が立

っている絵だ。

比企谷「ブレイドの世界、か……」


ブレイド編

<世界説明!>

作品の都合上、原作とは設定が異なりますのであしからず。

地球とは別の世界、トランプ王国に突然謎の勢力ジコチューが襲来し、王国の

侵略を開始した。

一人残ったプリキュア、キュアソード(=剣崎真琴)も王女アンジェと供に必

死に戦うが、あえなくトランプ王国は滅亡してしまう。

一方地球では、大貝第一中学校生徒会長相田マナが、キャラビーズという謎の

宝石を譲り受ける。

その後マナは、王国陥落寸前に地球に送られた妖精三兄弟(シャルル、ラケル、

ランス)に出会い、更にキュアソードにも出会う。

これまた地球に来たジコチューとの戦いに苦戦するキュアソードを助けるため、

マナはキュアハートへと変身する。

その後、彼女の親友の二人、菱川六花と四葉ありすもそれぞれキュアダイヤモ

ンド、キュアロゼッタとなって四人は協力してジコチューと戦う。

そんなある日、彼女たちの前にジコチュー達の王『キングジコチュー』の娘で

あるレジーナが現れる。

マナとレジーナは友情を結ぶが、レジーナはキングジコチューにより悪の心を

植え付けられてしまう。

強力な力を得て敵に回ったレジーナ達に苦戦する四人を救ったのは新たなプリ

キュア、キュアエース。

彼女の正体は、小学四年生の少女、円あぐりだった。

戦いが進むにつれ、レジーナ、あぐり、アイちゃん(あぐりのパートナー妖精)

はそれぞれ、王女アンジェの悪の心、正義の心、そして転生体であることが判

明。

更には、キングジコチューがトランプ国王であったことも発覚。

五人は力を合わせ、キングジコチューと国王を分離、さらにはレジーナの改心

も果たす。

しかし戦いは終わりでは無かった。

キングジコチューの上位存在、始まりののジコチュー、プロトジコチューがいたのだ。

圧倒的な敵との戦闘中に、ついにマナは最強フォーム、キュアハート・パルテ

ノンモードへと覚醒を果たす。

しかし、その強大すぎる力は彼女に思いがけない変化をもたらしていた……

登場人物

相田マナ/キュアハート/仮面ライダーカリス

大貝第一中学校の生徒会長を務める、成績優秀かつ運動神経抜群の少女。

しかし、最も特筆すべきはその驚異的な行動力だろう。

本来ならば他の委員などに任せるべき仕事などもほとんどを自らの手で行う。

恐るべきは、それでもあまり問題が生じないほどの才能の持っているというこ

とか。

嘘が苦手な性質で、プリキュアになった時も早々に六花に看破された。

地球の人間でありながらプリキュアの力、さらにはそれをはるかに上回るパル

テノンモードの力を使ったことで、最凶のアンデッド、ジョーカーとなってし

まった。

比企谷「ん……」

一瞬のめまいの後、再び瞼を開けると、俺はなぜかスーツに身をくるんでいた。

由比ヶ浜「うう……って、ええっ!?ヒッキー何その格好!」

比企谷「スーツだと!?俺は働かないぞ!絶対に働かないからな!世界を救う

にしてもそこだけは譲れない!」

雪ノ下「はぁ、全く相変わらずね……」

比企谷「つーかこれマジでどうなってんだよ……」

雪ノ下「服の中をいろいろ見てみたら?何かわかるかもしれないわよ?」

比企谷「ん……そうだな」

すると、胸ポケットから見覚えのない財布が出てきた。

中を見るとそこには、

比企谷「きょ、教員免許だと……?」

間違いない、俺の名前と写真の下に中学校教師であることを示す免許があった。

無論、俺に覚えはない。

雪ノ下「比企谷君が人に教えられることなど何一つないと思うのだけれど」

比企谷「ばっかお前、あれだよ、めちゃくちゃあるよ。例えばだな……」

由比ヶ浜「ああ!わかった!反面教師って奴だね!」

こんの野郎……。

雪ノ下「そうね、由比ヶ浜さんの言う通りね」

比企谷「はぁ……つまりこれが俺のこの世界でやるべきことに関係あるってことか?」

雪ノ下「そう考えるのが妥当でしょうね」

由比ヶ浜「他に何かないの?」

財布の中には他にも、一枚のメモがあった。

『赴任先 大貝第一中学校』

比企谷「大貝第一中学校……これって!」

雪ノ下「知っているの?」

由比ヶ浜「聞いたこと無いね」

比企谷「いや……大貝第一中学校っていったら、マナちゃん達が通ってる中学

じゃないか」

由比ヶ浜「マナちゃん……?」

比企谷「マナ、相田マナ。……ハートのスートを司るプリキュア、キュアハー

トだ」

雪ノ下「プリキュア……?キュアハート?」

比企谷「火野先生は、ライダーの世界が他の世界とつながってしまったと言っ

ていた、もしそれが本当だとすれば……この世界は、仮面ライダーブレイドの

世界は、ドキドキプリキュアの世界とつながっていることになる」

由比ヶ浜「どっちも聞いたこと無い……それもそのベルトの効果なの?」

比企谷「いや、ベルトで知ったのはブレイドのことだけだ」

雪ノ下「ではその、プリキュア、というのは……?」

比企谷「ばっかお前、プリキュアを見てない男子高校生なんているわけないだ

ろうが」

由比ヶ浜「ええー……?」

雪ノ下「まぁ……いいわ。とにかく、それが比企谷君のすべきことだというの
なら、まずはその中学校に行ってみるべきではないかしら?」

比企谷「よし行こう、今行こう」

由比ヶ浜「ヒッキーがいつになく積極的だ!?」

比企谷「マイスイートハート、マナたんに会えるのなら労働さえも苦ではない!」

由比ヶ浜「うう……なんか複雑だなぁ」

雪ノ下「由比ヶ浜さん、私達はどうしましょうか?」

由比ヶ浜「う?ヒッキーについていったらいいんじゃない?」

雪ノ下「でも、私達が中学校に行くというのも変な話でしょう?」

由比ヶ浜「確かに……」

と、その時。

雪ノ下と由比ヶ浜の体をコミカルな爆発が襲った。

次の瞬間、二人の服が総武高の物ではない別の制服になっていた。

というかこれは……

比企谷「お前ら、それ、大貝中の制服だぞ」

雪ノ下「私達は、生徒として転入しろ、ということ?」

由比ヶ浜「えへへ、中学生かぁ……懐かしいなぁ」

雪ノ下「比企谷君が教師で私が生徒というのは非常に不本意なのだけれど……」

比企谷「ま、それは人徳って奴だな」

雪ノ下「は?」

比企谷「ごめんなさいなんでもありません」

由比ヶ浜「二人とも、早く行こうよ!」

雪ノ下「そうは言っても、道がわからないわね……」

比企谷「しばらくこの街にいなきゃいけないかもしれないんだし、いろいろ回

ってみようぜ」

雪ノ下「それもそうね、わかったわ。では、行きましょうか」

写真館の外は、やはりというかなんというか元の世界とは一変していた。

雪ノ下「この世界でなすべきこと、ね……」

由比ヶ浜「でも、なんだかワクワクするよね!」

比企谷「どこまで能天気なんだお前は……」

あんなことがあったってのに、よくそんなことが思えるものだ。

あるいはそれが、彼女の強さなのかもしれないが。

由比ヶ浜「あたし、そこらへんの人に道聞いてくる!」

おおう、俺にはできないことをあっさりやり遂げる。

そこにしびれる憧れるぅ!

雪ノ下「彼女のああいうところ、すごいと思うわ」

比企谷「まぁ、俺達がコミュ障ってだけなんだろうが……」

雪ノ下「あなたと一緒にされるととても不愉快なのだけれど……」

比企谷「いや、お前……五十歩百歩だろ」

雪ノ下「五十と百の間にはかなりの差があると思うのだけど」

そんなことを今俺に言われても……。

由比ヶ浜「聞いてきたよー!あっちだって!」


比企谷「ここが大貝第一中学校か」

雪ノ下「至って普通の中学校といった感じね」

由比ヶ浜「楽しみだね!」



どこに行けばいいか見当もつかないので、とりあえず職員室に向かうことにした。

比企谷「失礼します」

男「あ、あなたが新任の比企谷先生ですか?」

比企谷「はい、よろしくお願いします」

男「えっと、横にいるのは、転入生の雪ノ下と由比ヶ浜でいいか?」

雪ノ下「はい、よろしくおねがいします」

由比ヶ浜「お願いします」

男「私は城戸といいます、比企谷先生にはうちのクラスの副担任を務めてもら

います。転入生の二人も、俺のクラスだ。よろしくな」

比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜「おねがいします」

城戸「じゃぁ、三人は明日から学校に来る、ということで」

比企谷「わかりました、失礼します」

雪ノ下、由比ヶ浜「失礼します」




雪ノ下「この世界で私達がすべきこと……ここがライダーの世界だというのな

ら、そのライダーと協力する、もしくは戦う、ということになるのかしら」

由比ヶ浜「もうライダー同士で戦いたくないなぁ……」

比企谷「プリキュアと戦うとか絶対いやだな……」

プリキュアンの俺としてはそんなことを認めるわけにはいかない。

と、俺達が通りを歩いていたその時。

「「うわぁぁあぁっっ!」

前方から、人が雪崩を打って走ってきた。

比企谷「なんだ……?」

男「あ、アンデッドが出た!早くライダーに来てもらわないと!」

*アンデッド……ブレイドの世界のモンスター。自らの種を繁栄させる為、バ

トルファイトという戦いを行っている。ライダー達は、倒したアンデッドをカ

ードに封印し、その力を使って戦う。

雪ノ下「行きましょう!」

由比ヶ浜「わかった!」

比企谷、由比ヶ浜、雪ノ下「変身!」

「Kamen Ride Decade!」

暴れていたのは、ラクダを人型にしたようなモンスターだった。

比企谷「ハートスートのカテゴリー9……キャメルアンデッドか」

ディケイドのベルトのおかげで、敵の基本的な情報が脳裏に浮かぶ。

雪ノ下「随分便利ね、そのベルト」

比企谷「ああ、といっても名前くらいしかわからんが」

雪ノ下「行くわよ!」

「Sword Vent」

由比ヶ浜「よーし、あたしも!」

「Strike Vent」

由比ヶ浜が炎を放ち、ひるんだすきに雪ノ下が斬りかかる。

比企谷「雪ノ下、ちょっと離れろ!」

「Attack Ride Blast!」

敵が反撃に出る前に銃で牽制する。

「グォォォ!」

敵はずいぶん弱ったようだ。まぁ、三対一では無理もない。

比企谷「とどめだ!」

「Final Attack Ride! De De De Decad

e!」

高く跳び上がり、敵につながった幾枚ものカードを突き抜け、とどめの一撃を

放つ。

爆発が起こり、アンデッドがいた場所には一枚のカードが残った。

比企谷「なるほど……俺達でもアンデッドを倒すと封印できるわけか」

雪ノ下「リカバー、キャメル……アドベントカードのようなものかしら」

比企谷「ああ、これを使ってこの世界のライダーは闘うらしい」

由比ヶ浜「わぁ……なんかかっこいいな。これもらってもいいのかな?」

ありす「それは困りますわ、そのカードはハートのライダーカリス、マナちゃ

んの物ですから」

振り向くとそこには、四人の少女達が立っていた。

六花「私達のほかにも、ライダーが……?」

剣崎「敵……?」

マナ「こんにちは!わたし、大貝第一中学生徒会長、相田マナです!」

六花「ちょっとマナ!その人たちは敵かもしれないのよ!」

シャルル「マナはもっと気をつけるべきシャル!」

ダビィ「その通りだビィ!」

ランス「マナはのんき者ランスぅ~」

ラケル「ランスに言われたくないと思うケル……」

*相田マナ……大貝第一中学校の生徒会長。キュアハート、仮面ライダーカリスに変身す

る。

菱川六花……マナの親友。成績は学年トップ。生徒会では書記としてマナを支える。

キュアダイヤモンド、仮面ライダーギャレンに変身する。

四葉ありす……マナと六花の幼馴染で、大企業「四葉財閥」の社長令嬢。

キュアロゼッタ、仮面ライダーレンゲルに変身する。

剣崎真琴……トランプ王国という異世界からやってきたトップアイドル。キュアソード、

仮面ライダーブレイドに変身する。

シャルル、ラケル、ランス、ダビィ……それぞれマナ、六花、アリス、剣崎のパートナー

妖精。彼女達がライダーに変身する際には、カテゴリーエース(変身能力)のカードとな

る。

比企谷「ああ、マナちゃ……相田さんの言う通りだ。俺達は敵じゃない」

ありす「では、あなた方は一体……」

雪ノ下「私は雪ノ下雪乃、仮面ライダーナイトよ」

由比ヶ浜「あたしは由比ヶ浜結衣。仮面ライダー龍騎です」

比企谷「俺は比企谷八幡、仮面ライダー、ディケイドだ」

俺がそう言った瞬間、彼女たちの表情、特に剣崎真琴の表情が変わった。

剣崎「あなたが……ディケイド!行くわよ!ダビィ!」

その言葉と同時に、ダビィと呼ばれた紫色の妖精が一枚のカードとなった。

そして彼女はそれをベルトに入れる。

剣崎「変身!」

「Turn Up!」

剣崎「よくもトランプ王国をっ!」

「Srash」

突如彼女は変身し、俺にきりかかってきた。

比企谷「な、なんなんだ!」

剣崎「ディケイド!あなたのせいで、私の国は……どれだけの人が苦しんだと思っている

の!」

比企谷「な、なんのことだ!」

剣崎「何を今更……世界の破壊者ディケイド!トランプ王国にジコチュー達を差し向けた

のはあなたでしょう!」

比企谷「俺はそんなこと知らない!」

「Attack Ride Srash!」

やむを得ず剣を出し、ブレイドの攻撃を止める。

剣崎「ふざけないで!」

「Kick Thunder Mahha…… Rightning Sonic」

比企谷「くそ……聞く耳なしかよ、一旦無力化する!」

「Kamen Ride Night!」

*本来ディケイドは各主役ライダーにしか変身できませんが、一部例外を設けます。

「Attack Ride Night! Nasty Vent」

「キィィィィィッ!」

異次元から現れたダークウイングが超音波を出す。

剣崎「うううううっ!」

それをうけ、空中にいたブレイドが体勢を崩し、落下する。

「Attack Ride Night! Trick Vent」

八人に分身し、ブレイドを取り囲んで剣を突き付ける。

比企谷「とりあえず、話を聞いてくれないか?」

雪ノ下「比企谷君、まずはその剣を下ろしなさい。そんな態度では話し合いなど無理でし

ょう。まぁ、最初に仕掛けてきたのはこの子だけど」

見ると、剣崎を助ける為か、マナ達も変身していた。

比企谷「とにかく俺達の話を聞いてほしい。剣崎さんが言うようなことには、一切心当た

りがない」

信頼してもらう為、俺は変身を解く。その様子を見た雪ノ下と由比ヶ浜もそれに続く。

雪ノ下「彼の行っていることは本当よ。まぁ、その目を見てしまえば説得力など皆無だと

は思うけれど」

比企谷「おい、目は関係ないだろ目は」

六花「死んだ魚のような眼ね」

比企谷「そんなに賢そうか?DHA豊富そうだな」

このやりとり、なんか懐かしいな。

剣崎「本当に、トランプ王国とジコチューのことには関与していないの?」

比企谷「ああ、この目が嘘を言っているように見えるか?」

由比ヶ浜「だからそんな目を見せても……」

比企谷「いい加減俺の両親に謝れよ……」

由比ヶ浜「りょ、両親って……何言ってるのヒッキー!」

比企谷「何言ってるのはこっちのセリフだっつーの……」

マナ「まぁまぁまこぴー、とにかく話を聞いてみようよ!」

ありす「そうですね、もうレジーナさんや、トランプ国王さんとも和解しているのですか

ら、そうしてもいいと思いますわ」

剣崎「みんながそう言うなら……あなた達の話を聞かせてくれる?」

剣崎がそう言うと、四人は変身を解除した。

比企谷「さっきも言ったが、俺は仮面ライダーディケイド。比企谷八幡だ。実は、俺がデ

ィケイドになったのはまさに今日でな、正直俺にもよく状況がわかっていない」

六花「じゃぁ、他の二人……雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは?」

雪ノ下「そのあたりは少々複雑なのだけれど……私達はこの世界の人間ではないの」

マナ「ええっ!?う、宇宙人!?」

雪ノ下「いえ、別の世界……平行世界とでもいえばいいのかしら……」

ありす「にわかには信じられないことですが……トランプ王国と似たようなものでしょう

か……」

ランス「ランスは宇宙人じゃないランス~。ありすひどいでランス~」

ありす「ごめんなさいランスちゃん、そんなつもりではありませんでしたが」

比企谷「まぁ、大体そんなもんだと思ってもらえればいい。俺達にもあってるかどうか断

言できないしな」

由比ヶ浜「ヒッキー、へーこ―世界って何?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん、少しの間黙っていて」

由比ヶ浜「うう……」

比企谷「ともかくその俺達の世界では、ライダーバトルという、仮面ライダーによる、バ

トルロワイヤルが行われていた。俺達三人はその参加者だったんだ」

剣崎「ライダー同士で、戦う……」

比企谷「そしてその戦いは、最後に生き残ったライダー仮面ライダーナイト、つまりこの

雪ノ下雪乃の、ライダーバトルをなかったことにするという願いにより終結した」

雪ノ下「そしてどうしたことか、私達はその記憶を今日まで忘れていたの」

六花「じゃぁなんで今日突然……?」

由比ヶ浜「あたし達の世界に、すっごい多くのモンスターが現れたの。そして全部めちゃ

くちゃにされて……」

比企谷「そんな中俺達は、三つの変身アイテムを渡された。由比ヶ浜と雪ノ下には龍騎と

ナイトになる為のカードデッキが、俺には、ディケイドになる為のディケイドライバーが」

雪ノ下「そして私達にベルトを渡した人、仮面ライダーオーズ、火野映司先生はこう言っ

たわ。ディケイドは14のライダーの世界を旅して、歪みを正さなければならないと。そ

うしなければ、私達の世界だけでなく、あなた達の世界、いいえ、全ての世界が滅びる、

と」

剣崎「突拍子もない話だけどでも……話の筋は通っているし、私たちからすれば、否定も

できないわね」

六花「まぁ、現にこの世界も滅ぼされかかっていたし」

比企谷「それだ、俺からも少し聞きたいことがある」

ありす「なんですか?」

比企谷「この世界は、プリキュアがジコチューの侵攻を食い止め、キングジコチュー、レジーナとも和解し、その危機を救われた、ここまではあってるよな?」

マナ「うん!いやー、レジーナとも仲直りできて本当に良かったよ~」

六花「何でそのことを、別の世界から来たあなたが知っているの?」

比企谷「俺達の世界で、お前らのことを知らない奴はいない。まぁ、伝説のような物とし

て伝えられてるんだ。世界の危機を救い続ける、十年の少女の伝説として」

雪ノ下「知っているのはあなただけでしょう……」

比企谷「で、だ。一体いつ、ライダーの力を手に入れた?」

剣崎「この世界が平和になってしばらくしてから、突然、見たこともない化け物が現れた

の」

マナ「その化け物、アンデッドには、プリキュアの力が全く通じなかった。攻撃しても倒

せないし、浄化技も効かない」

剣崎「アンデッドは、プロトジコチューが産まれるよりも前、人間と種の繁栄をかけて戦

った恐るべき怪物よ。彼らは自らの種の為に戦っているから、そもそも悪意という物がな

い。だからプリキュアの力は一切通じない。そこで当時の人間が作り出したのがこのライ

ダーシステムよ」

由比ヶ浜「ライダーシステム……」

剣崎「このライダーシステムは、アンデッドの力を使って変身する物で、その適正度、融

合係数が高い者でないと使えなかった。そしてそれを使って世界を救ったのが、私の先祖、

剣崎一真よ」

六花「そして、どういうわけか、封印したはずのアンデッドが再び現れたから、私達はそ

のライダーシステムを使って戦っている、というわけ」

ありす「頑張りの甲斐もあって、残りは三体のアンデッドだけ、いえ、今日比企谷さん達

が倒したので、あと二体だけです。その二体を封印してしまえば、戦いも終わります」

比企谷「つまり、アンデッドを全て封印する手助けをするのが、この世界で俺達がやるべ

きこと、というわけか」

雪ノ下「おそらく、そういうことでしょうね」

剣崎「あなた達のこと、疑ってごめんなさい、これからよろしくね」

マナ「友達が増えて、胸のキュンキュン、止まらないよ!」

???「随分調子がいいな、人間ども」

俺達は後方から声をかけられる。

剣崎「……あなたはもしかして、アンデッド?」

???「ああ、そうだ。随分種の数も減って、そろそろ出てきてやってもいいと思ってな

……ハァッ!」

二十代くらいの青年がそう言うと、その体がアンデッドのものとなる。

六花「私のカテゴリーエースに似ている、つまり……」

マナ「ダイヤのカテゴリーキング、ギラファアンデッドだね」

ありす「カテゴリーキングは、そのスートの中でも最も強力なアンデッド、油断はできま

せん」

剣崎「ここは私達だけで行くわ、あなた達は見てて」

マナ「行くよ!シャルル!」

シャルル「シャールルー!」

六花「ラケル、私達のカテゴリーキングを手に入れるわよ!」

ラケル「おうともさ!ヨーチェケラケ!」

ありす「ランスちゃん、行きましょう」

ランス「ラーンス~」

剣崎「ダビィ!変身よ!」

ダビィ「ダビデダビデダビィ!」

「「「Turn Up!」」」


「Open Up」

マナ「目覚める本能の力、キュアカリス!」
六花「灼熱の銃士、キュアギャレン!」

ありす「凍てつく氷は力の証、キュアレンゲル!」

剣崎「運命さえも切り開く、キュアブレイド!」

「「「「響け、愛の鼓動!ドキドキプリキュア!」」」」

カリス「愛を無くした悲しいギラファノコギリクワガタさん、このキュアカリスが、あな

たのドキドキ、取り戻してみせる!」

ギラファ「次の世界を手に入れるのは、俺達の種族だ!」

ギラファは両手に持った二本の大剣で襲いかかる。

「Fire Ballet」

ギャレンが距離をとって炎の銃撃を撃ちこむ。

ギラファ「そんな攻撃、俺のバリアの前には無力だ!」

そう言うと同時、アンデッドの周りを赤い障壁が覆う。

レンゲル「これならっ……」

「Rush Blizard Poison……Blizard Gail」

氷と毒の力をまとい、杖を持ったレンゲルが空中から襲いかかる。

ギラファ「お前達の力など効かぬと言ったはずだぞ!」

ギラファは左手の剣を銃に持ち替え、レンゲルを迎撃する。

レンゲル「きゃぁあぁっ!」

カリス「レンゲル!こうなったら……」

「Evolution」

カリスがそのカードを使うと、彼女の体が赤く染まる。

カリス「これが、ワイルドカリス……行くよ!」

右手に持った弓状の武器でギラファと斬り合う。

「Bind」

弓から蔦が伸び、ギラファの体を拘束する。

それをそのまま自分の方に引きつける。

「Chop」

強烈な一撃がアンデッドの腹部にヒットする。

ギラファ「カテゴリーキングのカードを使ってもこの程度か?甘いぞ!」

カリスの体が宙を舞う。

剣崎「今はまだキングのカードは……だから、これでっ!」

「Absorb Queen Fusion Jack」

剣崎「絶対に、この世界を、人の世界を守ってみせる!」

「Thunder Srash……Ritning Srash」

ギラファ「俺もお前達もただただ己の種族の繁栄を望む物、そのくせ貴様らだけ正義の味

方づらをされると虫唾が走るわ!」

ジャックの力で舞い上がったブレイドに向けて大剣を投げつけるギラファ。

その攻撃はブレイドの腹部に直撃し、変身が解除される。

ギャレン「このアンデッド……今までのカテゴリーキングより格段に強い!」

ギラファ「ウゥゥゥゥ・・・・・・オオオオオオオオオッッ!」

ギラファが咆哮すると、エネルギー波が射出され、残った三人に直撃した。

それを受け、ありすの変身が解除された。

高い攻撃力とバリア、これはかなりの難敵だ。

ギラファ「貴様も倒してやる、俺と同じ、ダイヤスートのライダーよ」

マナ「り、六花っ!」

ギャレンは膝をついてなかなか立ち上がれず、とても勝負になりそうにない。

そんな相手を見て笑みを浮かべたギラファは、大仰に剣を振り上げる。

ギャレン「……この距離ならバリアは張れないわね!」

そう言って突然立ち上がり、ギラファの腹部めがけて銃を連射する。

ギラファ「ぐぉぉぉぉっ!」

ギャレン「とどめよ!カテゴリーキング!」

「Drop Fire Jemini……Burning Debide」

ギャレンが高く跳び上がり、空中で二体に分身し、同時にキックを浴びせる。

ギラファは受けたダメージが大きかったためか、バリアを張れないでいる。

ギャレン「やぁぁぁぁっっ!」

ギラファ「うぉっ、あぁぁぁぁっっっっ!!」

ギャレン「さよなら、カテゴリーキング」

封印のカードが体に触れると、アンデッドの姿が消えた。


ありす「やりましたわ!」

四人は駆けよって抱きしめあう。

「Spirit」

マナと六花も変身を解除する。

雪ノ下「……奇妙だわ」

由比ヶ浜「どったの?ゆきのん」

雪ノ下「相田マナさん、彼女だけ、変身を解除する時にもカードを使った。それも、ベル

トに直接スキャンしていた」

比企谷「別にそんぐらい気にするようなことじゃないだろ」

雪ノ下「気にする、ことよ。彼女達は、封印したアンデッドの力を使って戦う。戦いを観

察させてもらったけど、その通りだったわ。剣崎さんのカードは、サンダーが鹿、マッハ

がジャガー、六花さんのは、ジェミニがシマウマ、ファイアが蛍……といった具合にね」

比企谷「お前そんなとこまで見てたのかよ、すげぇな……」

雪ノ下「そしてマナさんが使ったスピリットのカード……それには、Human……と書

かれていたわ」

比企谷「っっっ!!!!?」

由比ヶ浜「ん……?それっておかしいの?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……つまり、人間のアンデッド、ヒューマンアンデッドが存在して

いて、彼女はそれを封印したということになるのよ。自分と同じ、人間の祖たる存在を」

比企谷「まぁ、人間のアンデッドがいるって言っても、おかしくはないよな」

雪ノ下「問題はそこじゃないの。彼女、相田さんが、人間の力を使ったのはなぜ?自分と

同じ種のカードなど、使う必要はないわ。しかも、戦闘の後で、ね……」

そこから導かれた一つの推測に、俺は言葉を失った。


比企谷「つまりそれは……マナが、人間ではない、と。お前はそう考えているのか?」

由比ヶ浜「え、ええええええっっっ!?」

雪ノ下「そういう可能性もある、ということね。先程のアンデッドも、人間に擬態してい

たし」

比企谷「そんな……でも、確認する必要は、あるだろうな」

由比ヶ浜「そんなこと聞くのはちょっと……」

雪ノ下「とても言いづらいことだけど、しないわけにはいかないわ。それによって、私達

のしなくてはいけないことも変わるかもしれない」

真剣な表情で話していた俺達のことを少しいぶかしんでいる様子で、四人が近づいてきた。

ありす「おまたせしました」

雪ノ下「一つ、聞いてもいいかしら」

剣崎「なに?」

雪ノ下「仮面ライダーカリス、相田マナさんのことなのだけれど」

そのまま確心に入ろうとする雪ノ下を手でとどめる。

比企谷「率直に聞く、……お前は、人間なのか?」

六花「な、なにいってるの!」

マナ「良いんだよ、六花。ありがとね」

六花「で、でも、マナ……」

マナ「私なら、大丈夫だから」

雪ノ下「では、やはり……」

マナ「うん……ハァッ!」

マナがそう叫ぶと、彼女の体から黒の瘴気がほとばしる。

そして彼女の姿は、先程の可愛らしい少女からは想像もできない、緑と黒の、おぞましい

モンスターに変わっていた。

マナ「あたしは、……大貝第一中学生徒会長で、みんなを守るプリキュアで、そして……

最凶のアンデッド、ジョーカー……」

比企谷「ジョー、カ―……」

マナ達は、それぞれトランプのスートのカードを使っていた。アンデッドもそれに対応し

ているとすれば、マナは、その中でもイレギュラーな存在ということになる。

雪ノ下「……最凶というのは、どういう意味なのかしら」

マナ「アンデッドは、自分の種族の繁栄の為に戦う。でもあたしは、どの種族の祖先でも

ない」

由比ヶ浜「マナちゃんは、人間じゃない、っていうこと?」

六花「違う!マナは人間よ!みんなを守るために……ほんとに、どうしようもない幸せの

王子なんだから……」

由比ヶ浜「ご、ごめん……」

雪ノ下「幸せの王子というのは、自分の体中の宝石を人々に配ったという、あの話のこと

かしら」

幸せの王子は世界的にも有名な童話だ。美しい宝石で造られた王子様の銅像は、貧しい街

の人々を救う為、ツバメに体中の宝石を配って回り、最後には鉛の心臓しか残らなかった

という、少し悲しい話だ。

ありす「ええ、そうですわ。マナちゃんは、プロトジコチューとの戦いの際、プリキュア

パルテノンモードとなったのです。その力で見事世界を救うことができましたが、その力

はあまりに強大すぎたのです……そしてマナちゃんは、ジョーカーになってしまった……」

剣崎「言い伝えによれば、ジョーカーがバトルファイトに勝ち残った場合、全ての種が滅

んでしまうと言われているの。だけど、そんなことはさせない。マナをバトルファイトに

勝ち残らせた上で、その後に起きることから、世界も守ってみせる」

比企谷「じゃあ、俺達がすべきことは……その、世界の崩壊を阻止する、ということなの

か?」

雪ノ下「どうでしょうね、ただ単に、バトルファイトを終わらせるだけ、という可能性も

あるけど……今考えても、仕方ないことだと思うわ」

由比ヶ浜「あたしたちも協力するよ!マナちゃんを、みんなで守ろう!」

比企谷「ま、そういうことだな」

雪ノ下「微力ながら、お手伝いさせてもらうわ」

マナ「みんな……ありがとう!胸がキュンキュンするよ!」

プリキュアの世界にバッドエンドは似合わない、俺には似合わないかもしれないが、最高

のハッピーエンドを目指してやろうではないか。



雪ノ下「明日から中学生、ね……やはり何度考えても複雑な心境だわ」

就寝直前になって、雪ノ下がそんなことを言い出した。

ちなみに今日の夕飯は由比ヶ浜が強引に作って、まぁ予想通り不味かった為、全員若干テ

ンションが低い。

比企谷「つーか俺なんか教師だぞ?さっぱりだっつーの」

由比ヶ浜「ふぁぁ……まぁまぁ、もう寝ようよ―」

比企谷「相変わらずマイペースな奴だな……」

雪ノ下「まぁ、気にしても仕方ないというのは確かね。おやすみなさい」

比企谷「ああ、おやすみ」

雪ノ下「ちょっとまちなさい」

比企谷「ん?」

雪ノ下「ん、じゃないわ。何を平然と同じ部屋で寝ようとしているの?」

比企谷「いや、布団この部屋にしかないし……」

雪ノ下「だからといって、男女が同衾するのはよくないことだわ」

比企谷「いや、同じ部屋で寝るだけなら同衾じゃねーだろ」

雪ノ下「カメラがある部屋にソファがあったから、それじゃ、お休みなさい」

かくして俺は、記念すべき労働一日目を、身体の節々を痛めた状態で迎えることとなった。


城戸「こちらが、今日からこのクラスの副担任となる比企谷八幡先生だ」

比企谷「よろしくおねがいします、精一杯頑張ります」

信じがたいことに今俺は教壇に立ち、生徒たちに自己紹介をしている。

その中に雪ノ下や由比ヶ浜がいるというのはなかなかにシュールな光景だ。

ちなみにありすを除くマナ、六花、剣崎の姿もある。

マナ「えええええええっ!?比企谷君って、先生だったの!!?」

城戸「ん?相田は知り合いだったのか?でも先生に向かって君はないだろう君は」

マナ「あ、ごめんなさい。いやー、でもびっくりだね」

剣崎「ほんと、驚いたわ」

六花「ディケイド……立場も世界に合わせて変わるのね……」

城戸「じゃぁ僕はこれから出張なんで、今日一日お願いしますね、先生」

比企谷「え?」

城戸先生はそう言い残し、さっさと教室を出て行ってしまった。

……せめて前もって言って欲しかった……。

しかもこの中学校、どういうわけか、小学校よろしく、体育と芸術科目を除く全ての教科を担任が教えるという謎の教育方針を取っているのだ。

比企谷「じゃぁ、授業を始めます、一時間目は……うわ、数学かよ……」

総武高校で常に数学最下位を取る俺は、中学時代からこの教科が苦手で、受験でも数学は

赤点を取ってしまい、他の教科でフォローしたものだ。

そんな俺に、中学二年の内容を教えることなど到底出来はしない。

比企谷「あー……今日の授業は、みんなに九九を覚えてもらう」

クラス中からどよめきの声が起こる。

男「先生、何ふざけてんだよ~」

比企谷「いや、冗談じゃない。といっても、覚えてもらうのは、9×9までではなく、9

9×99までだ。これはインドの小学生が暗記している内容だ。そして二年後の君達の高

校受験は、スピードが命になる。その時、計算の手間を省けるというのはとても強い武器

になる。だから、この時間はそれを覚えてもらう」

よし、結構うまくごまかせたぞ!

雪ノ下「この男、自分が数学ができないからといって……」

由比ヶ浜「しかもそれっぽい理由でごまかしてるし……」

六花「先生の言っていることは正しいと思いますが、学習カリキュラムの方は大丈夫なん

ですか?」

比企谷「ん……大丈夫だ、これを覚えることで今後の授業のペースも早めることができる

しな」

マナ「先生すごい!」

剣崎「ねぇマナ……くくって何?」

まこぴー……いい加減こっちの世界に慣れようぜ?な?

マナ「ええっ!?まこぴー九九知らないの?」

六花「今までどうやってテストを切り抜けてきたのよ……あ……そっか、まこぴーの数学

の点数は赤……」

剣崎「六花!それ以上はっ」

ダビィ「真琴は算数もまだよくわかってないビィ。今は引き算を頑張ってるんダビィ」

ラケル「僕は九九はもうできるケル!」

シャルル「シャルルは分数の計算ができるシャル!」

剣崎「シャルル達に負けてるなんて……」

と、そんなこんなで俺の授業は何とか進んでいった。



比企谷「つーわけでだ、人という字は支え合ってるとかいう意味はなく、ただの象形文字

だから……」

道徳の授業を進めている時、

シャルル「闇の鼓動を感じるシャル!」

マナ「先生!わたし達ちょっと行ってきます!」

マナ達が駆けだした。

比企谷「っ……ここからは自習だ、少し用ができた」

雪ノ下、由比ヶ浜と供に俺もマナ達の後を追う。

雪ノ下「最後のアンデッドね……」

学校を出て走っていると、ピンクの車が俺達の横についた。

ありす「お乗りください!」

生で見るとすごい車だな……。

俺達三人も乗っていいものか一瞬戸惑ったが、雪ノ下は何のためらいもなく乗り込んだ。

雪ノ下「何をしているの?今はくだらないことを気にしている場合ではないでしょう?」

セバスチャン「ささ、早くお乗りになってください」

ありすに使えるセバスチャンもそう言ったので、後部座席に乗り込む。

ありす「とばしてください、スピードは気にしなくていいです」

セバスチャン「かしこまりました」

セバスチャンがそう言うと、ファンファンファン、と、パトカー特有のサイレンが鳴り始

めた。

……これはだめだろ……。

他の車があけた道を、悪びれもせずに颯爽と通り過ぎていく。

セバスチャン「お気になさらず。ジコチュー、アンデッドと戦う際には使用を許可されて

いるのです」

ああ、そう言えばこの世界ではプリキュアの正体が知られてるもんな。

セバスチャン「少々揺れますので、何かにつかまっていてください」

そう言うと同時、車の速度が一気に上がる。

メーターを覗くと、200近くになっていた。

すごいな、四葉財閥。

セバスチャン「アンデッドサーチャーの反応からすると、後一分ほどで到着します」

剣崎「都市部で暴れているのね……犠牲者が出ていないといいけど」

六花「これがいよいよ、最後の戦いになるのね……」

マナ「がんばろうね、みんな!」

ありす「私たちなら、きっと出来ますわ」

由比ヶ浜「よーーし、頑張るぞー!」

おい……空気読めよ、今まで頑張ってきた四人が決意を新たにする場面だろ?


よそ者の俺達は黙っているべきだと思うのだが……。

マナ「頼りにしてるね!」

どうやらそういうことはあまり気にしないようだった。

セバスチャン「到着します、ご用意を」

ありす「クラブのカテゴリーキング、タランチュラアンデッド……」

タランチュラ「グガァァァッッ!」

紫色の毒々しいそのアンデッドは、体中から毒針を放出し、人々を襲っていた。

マナ「みんな、行くよ!」

マナ、六花、ありす、剣崎「「「「変身!」」」」

シャルル「頑張るシャル!」

ラケル「絶対に勝つケル!」

ランス「ら~んす~」

ダビィ「これで終わりダビィ!」

「「Turn Up!」」

「Open Up!」

「Change」

カリス(マナ)「目覚める本能の力、キュアカリス!」

ギャレン(六花)「灼熱の銃士、キュアギャレン!」

レンゲル(ありす)「凍てつく氷は力の証、キュアレンゲル!」

ブレイド(剣崎)「運命さえも切り開く、キュアブレイド!」

「「「「響け、愛の鼓動!ドキドキプリキュア!」」」」

レンゲル「愛を無くしたかなしいタランチュラさん、あなたも私と、愛をはぐくんでくだ

さいな?」

八幡、雪ノ下、由比ヶ浜「「「変身!」」」

「Kamen Ride Decade!」

龍騎「ドラゴンハートは未来の印、キュア龍騎!」

ディケイド「時の使者、キュアディケイド!」

龍騎、ディケイド「「二人はプリキュア!」」

ディケイド「闇の力の僕達よ、」

龍騎「とっととおうちに帰りなさい!」

……決まった。

ナイト「何しているの?」

龍騎「えへへ、いいでしょ?マナちゃん達がやってるの見てかっこよかったからさ、

ヒッキーとやってみたんだ―。ゆきのんも今度一緒にやろうよ―」

ナイト「絶対に嫌よ」

ディケイド「広がる夜の闇、キュアナイト、とかはどうだ?」

雪ノ下「黙りなさいこの変態」

ひどい言われようだ……。

タランチュラ「七人とは、随分大勢で来たものだ……。これではどちらが正義かわからん

な。無論私も、悪事を働いているというつもりもないがね。それに、君達の仲間が増えた

ことは、風が教えてくれたしな」

剣崎「風……?」

タランチュラ「ああ、風は全てを知っている」

そう言うと、タランチュラはアンデッドの姿から人間の姿になった。

六花「何のつもり……?」

タランチュラ「いや、少し話でもしたいと思ってね。……最初私は、人類と争うつもりは

なかったんだ。言い訳がましく聞こえるかもしれないがね……。事実、そのラウズアブゾ

ーバーを開発するのにもずいぶん協力したものだ」

剣崎「なんですって!?」

タランチュラ「かつてバトルファイトが行われていた時にライダーシステムを作った男、

烏丸とは友人でね。私は嶋と名乗り、彼と親交を深めた。そして最後には、私が封印され

てでも、人間を勝ち残らせようと思ったものだ」

マナ「じゃぁ、今はなんで……?」

嶋(タランチュラ)「なぜ、だと……?君達は今の人の世を見て、よくそんなことが言える

な。不幸が常に蔓延し、多くの人々が一部の強者にいいように蹂躙され、そしてそのこと

にすらも気づかず、偽りの自由を、平和を享受している……こんな有様を、彼が望んだは

ずはない。だから私は、変わり果てた人間を滅ぼすのだ」

マナ「ちっがーーーーーーーうっ!」

マナが突然大声を上げた。

マナ「違うよ、そんなの全然キュンキュンしないよ!」

嶋「キュンキュン……?」

マナ「確かに、世界には嫌なことや悲しいことがいっぱいある!でもそれでもみんな、少

しでも良くしようと思って、毎日頑張ってるんだから!あなたのやってることは、自分の

意見を人に押し付けるジコチューだよ!人には悪いところがいっぱいある、でもそれ以上

にいいところも、いっぱいいーっぱいあるんだから!人には、無限の可能性があるんだよ!」

嶋「そうか……ならばその可能性とやらを、示してみろ!」

再び彼はアンデッドの姿になる。

剣崎「いくわよ!」

「Absorb Queen Evolution King」

マナ「うん!」

「Evolution」

六花「カテゴリーキング……面白いわ!」

「Absorb Queen Fusion Jack」

ありす「あなたも力を貸してくださいな」

「Remote」

ありすがそのカードをスキャンすると、一匹のアンデッドが現れ、敵に向かっていく。

龍騎「お願い!ドラグレッダー!」

「Advent」

ナイト「行きなさい!」

「Advent」

比企谷「っしゃ!」

「Attack Ride Blast!」

さまざまな攻撃がタランチュラを襲う。

タランチュラ「そう簡単にやられては、あいつに顔向けできんのでな!」

タランチュラはその攻撃を巧みにかいくぐり、反撃する。

無数の毒針が俺達を襲う。

ありす「強いですわ……」

剣崎「うおおおおぉっ!」

「Spade 2,3,4,5,6……Straight Flush」

剣崎が大剣から光の衝撃波を繰り出す。

タランチュラ「そんな物が効くかぁ!」

緑の衝撃波を発射し、その攻撃を打ち消す。

やっぱり強いな、カテゴリーキングとやらは……。

「Final Attack Ride Decade!」

高く跳び上がり、敵に向かって重なった数枚のカードを通過しながらキックを放つ。

タランチュラ「どんな攻撃だろうと、当たらなければどうということはない!」

タランチュラは見事にそれを交す。

マナ「みんな、カードをブレイドに!」

ありす「わかりましたわ!」

六花、ありす、マナ「私達の力をキュアブレイドに!」

ブレイド「みんな、ありがとう!」

「Spade10、Daiya10、Club10、Heart10……Four Card!」

ブレイドの放った斬撃がタランチュラの腹部に命中する。

タランチュラ「グ、グアァァァッ!」

マナ「とどめだよ!」

「Wild」

六花「はぁっ!」

「Bullet,Fire,Rapid……Burning Shot」

ありす「決めますわ!」

「Rush Blizzard Poison……Blizzard Benom」

剣崎「終わらせる、全てをっ!」

「Spade10,Jack,Queen,King,Ace……Loyal Stra

ight Flash」

雪ノ下「一気に行くわ!」

「Final Vent」

比企谷「ちょっとくすぐったいぞ」

由比ヶ浜「ちょっ、何してるのヒッキ」

「Final Form Ride Ryu Ryu Ryu 龍騎!」

俺が背中に触れると、由比ヶ浜の姿が巨大な龍、ドラグレッダ-へと変わる。

「Final Attack Ride……Ryu Ryu Ryu 龍騎!」

由比ヶ浜「ガァァァッッ!(なんでぇぇ!!?)」

6人の攻撃が一声に直撃し、巨大な爆発が起こる。

攻撃を受けたタランチュラの姿を見ると、ぐったりと倒れ込んでいる。

これで死なないというのだから驚きだ、まぁ、だからこそ封印のカードが必要なんだろう

が。

ありす「たとえそれがどんな内容であれ……わたしたち人類のことを真剣に考えてくださ

ったこと、心より感謝します。……安らかにお眠りください」

そう言って、封印のカードを静かに彼の上に置いた。

ゆっくりとタランチュラの姿が消えていく。

剣崎「終わった、のね……」

六花「長かったわね……感慨深いわ」

マナ「やったぁぁっ!胸のキュンキュン、止まらないよぉ!」

由比ヶ浜「いえぇぇぇいっ!」

互いの健闘をたたえ合う彼女達の枠の祖と、俺と雪ノ下はその様子を見つめていた。

雪ノ下「でも……どうなるのかしら。マナさん、ジョーカーが勝ち残ったということにな

るのよね、これは」

比企谷「ああ……全種族の滅亡、具体的にどういうことなのか、見当もつかん」

マナ「おおーい!比企谷く、先生も雪ノ下さんも、こっちに来てよー!」

そう言ってマナが俺達のもとに駆け寄ってくる。

そして、俺達の手を取ったその時だ。

「シャァァッ!」

マナの足もとから、数体のモンスター(アンデッドだろうか)現れた。

比企谷「なっっ!?」

そのモンスターは黒と緑の不気味な姿で、ジョーカーとなったマナの姿を連想させた。

数は6体。

マナ「な、なんなのこれ!?」

剣崎「そんな、アンデッドは全て封印したんじゃ!?」

「「「シャァァッ!!」」」

そのモンスター達の攻撃を、俺と雪ノ下は何とか回避する。

攻撃を繰り出して俺達を遠ざけた後、そのモンスターはマナの方に向き直った。

六花「やめなさい!マナに何する気!」

しかし六花の心配とは裏腹に、モンスター達がマナに危害を加えることはなかった。


それどころか、マナに向かって跪いたのだ。

ありす「もしかしてこれが……ジョーカーが勝ち残った時に起きる滅亡?このモンスター

達が、世界を滅ぼす?」

と、次の瞬間。

またしてもマナの足もとから、モンスターが湧出した。

今度は、8体。

マナ「え?」

モンスター達は同じようにマナに跪き、そして彼女のもとを離れ、俺達に襲いかかってき

た。少し離れている由比ヶ浜達の方にも同様に。

マナ「や、やめてっ!」

しかしそんなマナの言葉は届かない。

俺達は再び変身してモンスター達と戦う。

幸い、戦闘力の方は対して高くなかった。

むしろ、相当低い。

雪ノ下「ねぇ比企谷君……このモンスター達から、何か連想しない?」

比企谷「ああ、俺も同じことを考えていたところだ」

あなたと同じ考えなんて怖気が走るのだけれど、なんてことをいつもの彼女なら言うのだ

ろうが、流石に今はそんな場面ではない。

たしかに、俺達はこれに似た状況を体験している。

俺達のもと居た世界で、ライダーバトルの終盤、無数のモンスターがあふれ、現実世界へ

侵攻を開始したのだ。

個々の力は弱かったが、その数に俺達は大いに苦しめられたものだ。

困惑する俺達のもとに、セバスチャンが駆けよってきた。

セバスチャン「皆さま、これをご覧ください」

セバスチャンが小型の携帯端末でニュースを映す。

『現在、全国で信じられない出来事が起きています。無数の怪物が現れ、人々を襲ってい

ます。なお、同様の現象はアメリカ、ロシアなど、全世界で起きており、あっ、あぁあぁ

ぁっっ!』

カメラが最後に移したのは、テレビ局内に入ってきたモンスターにキャスターが襲われる

シーンだった。

由比ヶ浜「これって……」

六花「あ、ありす!」

ありす「な、なんですか、六花ちゃん」

六花「リモート、ありすのリモートのカードで、何かアンデッドを解放すれば、一体のア

ンデッドが残ることにならないから、この現象は止まるはずよ。そう、マナのヒューマン

アンデッドを解放すれば……」

ありす「……無理ですわ」

剣崎「え?」

ありす「最後に勝ち残ったのがマナちゃんだと確定した今、もはやリモートのカードは効

果を発揮しません」

考えてみれば当然だ、そのような制限がなければ何度でもバトルファイトをやり直せるこ

とになる。

六花「そんな……」

マナ「どうしよう……あたしの、せいで……」

六花「何言ってるのよマナ!マナのせいなわけないでしょ!」

マナ「ねぇ六花、あたし、どうしたらいいのかな。あたしがいたら、みんなが……」

マナが膝を落とす。

そんな彼女をあざ笑うように、再びモンスターが湧出する。

その数、12。

マナ「う、うわぁぁぁぁぁっっっ!」

マナがその姿を変える。

しかしそれはカードを使った変身ではなく、ジョーカーへの変化だった。

マナ「うわぁあっっ!」

自分のもとへ近づいてくるモンスター達を一網打尽にする。

その一撃で、半数の六体が消滅した。

思わぬ攻撃を受けたモンスター達はマナを敵とみなし、戦闘態勢に移る。

マナ「あああああぁぁっっ!」

その戦う姿は、本能のままに敵を蹂躙するもので、まさに……ジョーカーと呼ぶにふさわ

しかった。

そしてマナがモンスター達を殲滅した直後、再び先程を上回る数のモンスターが現れた。

マナ「ああぁぁぁぁっっっ!」

そのモンスター達も、マナの手にかかって次々と消されていく。

ようやく、モンスターの湧出が収まった。

だがこの瞬間も、世界ではこのモンスター達が増え続けている。

そして、俺達の様に戦う術を持たない人々は、ただただ、蹂躙される……。

マナ「ねぇ、六花……もう、だめだよ。倒しても倒してもきりがない。あたし達がどんな

に頑張っても、この広い世界を、守ることはできない」

彼女らしからぬ言葉を、ジョーカーのままの姿でマナは紡いでいく。

六花「そんな!マナは今までどんなピンチも乗り越えてきたじゃない!だから今度だっ

て!」

マナ「違う、違うんだよ、六花……」

六花「な、何が違うのよ!」

マナ「今までのピンチは、原因を作った人が他にいた。グーラ達や、キングジコチュー、

プロトジコチューにアンデッド……でも、これは、あたしが原因なの。だから、どうしよ

うもないよ。あたしが原因で、でも、あたしの意思とは関係なく起こってしまう……

ねぇ、六花」

ジョーカーから元の姿に戻り、マナは六花を強く抱きしめる。

そしてそのまま、自分の唇を六花のそれに重ねた。

六花「!!?」

マナ「初めて会ったときから、大好きだったよ。だから六花、あなたの手で、あたしを終

わらせて?世界を、あたしを、救って?」

マナはそう言い、再びジョーカーの姿へと変わる。

ありす「マナちゃん……」

剣崎「マナ……」

六花「……けないでよ」

マナ「え?」

六花「ふざけないでよ、マナ!幸せの王子にもほどがあるわ!自分を犠牲に、世界を救っ

てですって?それを、好きだって伝えたわたしに言うの!?あなたのことを、ずっと好き

だった、わたしに言うの!?」

マナ「六花も、あたしのことを……それだけで、十分すぎるほど幸せだよ」

六花「諦めないで!勝手に一人で決めないでよ!ねぇマナ、幸せの王子が最後、どうなる

かは知ってる?」

マナ「うん……鉛の心臓だけ残して、死んじゃうんだよね」

六花「そうよ、その通りよ。でもね、一人で死ぬんじゃないわ。それまでずっとそばにい

たツバメと唇を合わせて、二人で幸せに死んで行くのよ。言ったでしょ!?わたしはあな

たのツバメになるって!だから!絶対にあなたを死なせない!世界を敵に回しても、最後

まであなたを守ってみせる!」

マナ「六花……」

六花「わかった!?わかったら返事!」

マナ「うん……ありがとう、六花」

六花「もう、無茶しすぎよ……」

そう言って二人は、もう一度強く抱きしめあった。

マナ「ありすもまこぴーもごめんね、なんだか、先走っちゃって」

ありす「ふふ、そんなこと慣れっこですわ」

剣崎「マナのことを心配したのは六花だけじゃないんだからね!」

マナ「うん、ごめんなさい」

ありす「セバスチャン、四葉グループはアンデッド達にどう対応していますか?」

セバスチャン「軍事班が自衛隊とともに殲滅作戦を行っていますが、効果は上がっており

ません。現在は、住民の皆様の避難を最優先にしております。世界支部でも同様です。し

かし、このままではジリ貧です」

ありす「とにかく今は手分けして、アンデッド達を倒しましょう」

剣崎「そうね」

……その作戦は、十中八九うまくいかない。無限に、世界中に湧きだす敵を殲滅などでき

るはずがない。

倫理的にできるかどうかは別として、マナを、ジョーカーを倒す以外に方法はないのだ。

六花「行くわよ、マナ」

マナ「うん、わかった!」

六花に手を握られたマナはとても幸せそうだった。

一体誰が、この少女を倒せるというのだ。

雪ノ下「私達も、行きましょう」

由比ヶ浜「うん、ドラグレッダー達を使えば、一片に倒せるかも」

雪ノ下「それでも問題の解決にはならない、けど」

比企谷「……少なくとも、一時の解消にはなるんじゃないか」

それ以上語るべきではない、と雪ノ下に目くばせする。

由比ヶ浜「じゃぁ、いこう!」

「「「変身!」」」

「Kamen Ride Decade!」

「「「「変身!」」」」

「「Turn Up!」」

「Open Up!」

「Change」

セバスチャン「私も、お嬢様達と共に闘います。以前開発した物を改良した、この人工コ

ミューンⅡで!……プリキュア、ラブリンク! ハァアァァッ! キュアッ!セバスチャ

ンっ!」

セバスチャンがまばゆい光に包まれ、バットマンのような格好になった。

……え?これプリキュアにカウントするの?

セバスチャン「では、参りましょう」

なんか仕切ってるし……。

まぁ、いいか。

こうして俺達八人は、それぞれ敵のもとへと向かった。

俺が向かった先は、大貝第一中学校付近だ。

生徒達は、体育館に避難しているようで、その周りをアンデッド(名称は先程ダークロー

チと名付けた)が囲み、今にも中に入りそうだった。

比企谷「これはうかうかしてられないな」

「Attack Ride Ilusion」

比企谷「モンスターども!かかってこい!」

敵の注意をこちらに向ける。

増えた体で、敵を一網打尽にする。

「シャァァァっ!」

休む間もなく、新たに湧出したダークローチが後方から襲いかかる。

比企谷「力を借りるぞ、雪ノ下、由比ヶ浜!」

「Kamen Ride Night!」

「Attack Ride Nasty Vent」

超音波攻撃で敵をひるませる。

「Kamen Ride Ryuki!」

「Attack Ride Strike Vent」

動きが鈍った敵を焼き打ちにする。

とりあえずこのあたりの敵は倒したが、またすぐに現れるだろうし、他の場所では惨劇が

繰り広げられているはずだ。

―Prrrrrr―

変身を解き、場所を移そうとしたその時、俺のスマホに着信が入った。

比企谷「はい」

剣崎「もしもし……剣崎、真琴よ」

比企谷「どうした?」

剣崎「…………マナを……ジョーカーを、倒す。力を、貸して」

比企谷「……正気か?」

剣崎「冗談で、こんなこと、言わないわ。……これは、マナに言われたの」

――――――――――
ダビィ「真琴、マナから着信ダビィ!」

剣崎「マナから……?はい、もしもし」

マナ「あ、まこぴー。こんなこと、頼むのは、本当に申し訳ないんだけど……」

剣崎「マナらしくないわ、何でも言って。わたし達、友達でしょ?」

マナ「……私を、封印してほしいの」

剣崎「なっ……!?さっき、そんなことしないって……」

マナ「そうだけど、さ。でもこのままじゃ、世界は滅ぼされちゃう。まこぴーもありすも

あぐりちゃんも六花も……みんな、死んじゃうよ」

剣崎「それは、そうだけど……」

マナ「自分で死ねたら、誰にも迷惑かけなくていいんだけどさ、あたし、アンデッドだか

ら……誰かに封印してもらわないと……」

剣崎「……」

マナ「三人とも大切な親友だから、本当にこんなことしたくないけど、さ……まこぴーだ

けは、故郷を滅ぼされる悲しみを、知ってるでしょ……?」

剣崎「……」

マナ「ごめん、こんなこと言って。だから、まこぴーなら、みんなの為に、封印してくれ

るんじゃないかって」

剣崎「そんな……私が、マナを……」

マナ「もう何人も、人が死んでる。……殺された。それと、段々ジョーカーとしての自分

を、抑えきれなくなってるんだ。なんでだかわからないけど、戦いたくて戦いたくて、仕

方ない……」

剣崎「マナ……」

マナ「せめて、人として終わりたい」

剣崎「でも、今だってこうして話せてるし……人の心を持ち続けることは……」

マナ「無理だよ!」

剣崎「ど、どうして」

マナ「さっきね、お母さん達は大丈夫かなと思って、こっそり家を見に行ったの。荷物を

まとめて、出発するところだった。あたし、そんなお母さん達を見て、倒したいと、思っ

たんだよ……?」

涙ながらにマナは言った。

剣崎「……わかったわ。今から、行く。このことは六花たちには……」

マナ「言わないで、お願い。それから、あった時には、あたしのことは、相田マナ、キュ

アハート、じゃなくて、ジョーカーとして接してくれないかな。そっちの方が、気が楽だ

から……」

剣崎「……マナ。あなたに会えて、一緒に居られて、本当に良かった。ありがとう、さよ

なら」


――――――――――――――――――――――――――

剣崎「だから、マナと私が戦ってる間、近くのダークローチを倒してほしいの。マナの近

くには、特に多く出ると思うから。……せめて、一対一で戦いたい。マナは、わたしにで

きた、初めての親友だから」

そう言われては、聞くしかない。

比企谷「……わかった」

三十分後、俺はこの街で最も高い建物、四葉タワーの屋上、その隅にいた。

少し離れた場所に、マナと剣崎がいるはずだ。

比企谷「ここは、わき役に徹するしかないよな……」

これから始まる戦いには、どう転んでも、残酷な結末が待っている。

それはどこまでも悲劇的で、それでいて喜劇的でさえあった。

比企谷「……変身」

「Kamen Ride Decade」

ここにきて、俺とダークローチとの無益な戦いを語る必要はないだろう。

黒子はさっさと舞台から降りるべきだ。


私の前には、一人の少女が立っている。

相田マナ、プリキュアとしてともに戦い、ライダーとして人々を救い、皆に幸せを配り過

ぎてジョーカーとなってしまった、私の一番の親友。

これから私は、そんな彼女を封印する。

……この世から、追放する。

ならばせめて、その最後の在り方は、彼女の望むままに……。

マナ「……懐かしいね」

剣崎「ええ。この場所から、あなたとわたしは始まったのかもしれない」

マナ「だから、ここで終わるんだ」

剣崎「アンデッドは全て封印した!あとはあなたよ!ジョーカー!」

「Turn Up」

マナ「あたしとあなたは、戦うことでしかわかりあえない!」

「Change」

その言葉を言うのは、どれほどつらいことだろう。

剣崎「はぁぁぁっっ!」

マナ「やぁぁぁっ!」

剣と弓が、激しく激突する。

私の蹴りが、マナの腹部に直撃する。

ひるむことなく、マナはわたしの顔に拳を叩きこむ。

剣崎「やっ!たぁっ!」

マナ「せいっ!」

わたしとマナの足が撃突し、火花を上げる。

いつだったか、レジーナ達がまだ敵だった頃、こうしてマナと戦いごっこをしていたこと

を思い出す。

その様子を六花とありすが笑ってみてて、ジョナサンはニヒルな笑みを浮かべていたっけ。

もう戻れない楽しかったあのころを思い出し、涙が溢れ出る。

仮面のおかげでそれがマナに伝わらないことを、心から感謝する。

マナ「もっと、いくよ!」

「Evorution」

キングのカードで、マナの姿がワイルドカリスへと変化する。

「Absorb Queen Fusion Jack」

私もフュージョンイーグルとアブゾーブカプリコーン、融合のカードと仲介のカードを使

い、ジャックフォームになる。

「Thunder Srash……Ritning Srash」

高く飛翔し、急降下の勢いと供にきりかかる。

「Wild」

対してマナは、ハートスートすべての力を集合させたカードを使い、高威力の衝撃波を放

った。

剣崎「あああああぁっ!」

攻撃が届く直前のところで、衝撃波に吹き飛ばされる。

マナ「……終わらせよう、まこぴー……ううん、ブレイド」

剣崎「そうね……ジョーカー」

マナ「ウウワァァァアッァアッッッ!」

咆哮を上げ、マナはジョーカーの姿となった。

「Absorb Queen Evorution King」

そしてわたしも、最強形態、キングフォームとなる。

これはスペードスートのアンデッド全13体と融合する、自らをアンデッドへと近づけか

ねない諸刃の剣だ。

だがだからこそ、最後の戦いにはふさわしい。

マナ「アアアァアァァッッッ!」

マナは再び咆哮し、自らが持っていた13枚のハートスートのカードを宙に投げた。

その中には当然、人の姿になる為に必要な「Human Spirit」、ヒューマンアン

デッドのカードもある。

それはつまり、自分は人として生きるつもりはないという意思表示だ。

マナ「グルアァッッ!」

その叫び声は、獣そのものだった。

鋭く尖ったかぎ爪を振り下ろしてくる。

ジョーカーは特殊な武器こそ持たないが、キングフォームを凌駕する戦闘力を持っている。

いや、その体全てが武器なのだ。

その攻撃を、金色の剣、キングラウザーで受け止める。

「Spade 2 3 4 5 6 Strate Flash!」

5枚のカードを使った強力な一撃を、マナは両腕を使って耐えてみせた。

そのまま高く跳躍し、威力を増したキックがわたしの肩に直撃する。

その瞬間硬質化のカード、スペードの7『メタル・トリロバイト』を使ったが、それも意味

を持たないほどの威力だった。

剣崎「くっ……」

比企谷「大丈夫か!」

その時、ダークローチと相手をしていたディケイドがこちらに近づいてきた。

剣崎「手を出さないで!」

そう言うとディケイドは足を止め、戦闘に戻って行った。

マナ「大丈夫?助けてもらわないと負けちゃうよ?」

剣崎「こんな時まで心配してくれるの?ほんと、六花じゃないけど、幸せの王子にもほど

があるわ!」

剣でマナの胸を切りつける。

マナ「うっ……」

体勢を立て直し、マナは続ける。

マナ「だって仕方ないでしょ!困ってる人がいたら、助けたいよ!」

剣崎「無理しすぎなのよ!」

マナ「あたしは、あたしにできるだけの無理をしてるだけ!」

剣崎「その結果が、これでしょ!あなた一人が、苦しんでるじゃない!」

マナ「それでみんなが幸せになれるならいいよ!幸せの王子は、鉛の心臓だけになっちゃ

ったけど、それでも、満足してたはずだよ!」

……。

剣崎「なら、残された人たちはどうなるの!王子がいなくなったことにも気付かない、救

われた人たちは、一体どうすればいいのよ!」

「Spade 10 Jack Queen King Ace……Royal Str

ate Flash!」

マナ「やぁぁぁあああぁぁっ!」

互いの全力が、ぶつかり合う。

大きな爆発が起きる。

そして……

マナ「ああ、よかった……」

マナがその場に、ドサリと倒れ込んだ。

剣崎「マナ……あなた最後、わざと手を抜いたわね?」

マナ「気づいてたんだ……」

剣崎「……わざと負けて、わたしに封印されるつもりだったのね」

マナ「他に方法がある?まこぴーはああ言ってくれたけどさ、あたしの体は、もうあたし

の意志ではどうにもならない。戦うほどにあたしは、獣に近づいて、戦うことしか考えら

れなくなる。

そんなあたしを倒せるのは……あなただけだよ、まこぴー」

そう言うとマナは、満足そうに眼を閉じた。

剣崎「せめて私は、一生忘れないわ。この街に、誰よりも優しい、幸せの王子がいたこと

を……」

マナ「……ありがとう」

私は黙って、最後の封印のカードを静かにマナの上に置いた。

少しずつ、マナの体が消えていく。

剣崎「……さようなら」

マナを封印したカードがわたしの手に戻ってくる。

『Joker』

剣崎「……これで、終わったのね……うっ……」

こぼれおちる涙を必死でこらえる。

一番つらかったのはマナだ。なのに私が涙するわけにはいかない。

その思いとは裏腹に、体から力が抜けていき、わたしは膝を地につけた。






俺を取り囲んでいたダークローチが突然姿を消した。

……終わったのか。

見れば、剣崎がうずくまっていた。

涙をこらえているようだ。

こういう時、何と言えばいいのか。

いや、きっとかける言葉なんてあるはずもないが。

と、彼女の傍に光が集まって行くのが見えた。

比企谷「……ん?」

そしてそれは徐々に大きくなり、

剣崎「!!?これは、ワイルドカリス……マナ?」

現れたのは、かつてマナが変身していた、仮面ライダーカリスの強化フォーム、ワイルド

カリスだ。

???「人間などと一緒にするな。長い間ジョーカーに使役されていた俺達だが、その存

在が消えたことで、集合体としてこうして封印を解くことができたのだ。言うならば、カ

テゴリーハートといったところか?」

そう言うとカテゴリーハートは両手を大きく振り、衝撃波で剣崎を吹き飛ばした。

剣崎「うっ……」

壁にぶつかったからよかったものの、下手すれば高所からの落下で死んでいたかもしれな

い。

俺は急いで剣崎のもとに駆け寄る。

比企谷「どうやらこれが本当のラストバトルみたいだな。こいつには、俺が手出ししても

いいんだろ?」

剣崎「助かるわ……。マナが救った世界を、これ以上誰にも傷つけさせない!変身!」

「Turn Up」

カテゴリーハート「なんだ、お前はっ!」

比企谷「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

剣崎がブレイドに変身すると同時、俺が持っていたカードの何枚かが発光しだした。

比企谷「これは……」

それは、仮面ライダーブレイドに関するカードだった。

一度は灰色になったそれらが、再び鮮やかな輝きを取り戻した。

絆が成立した、ということか。

剣崎「ディケイド、これを」

剣崎が、スペードとハートのエース、そしてジョーカーのカードを差し出す。

比企谷「ちょっとくすぐったいぞ?」

『Final Form Ride Bu Bu Bu Brade!』

俺が背中に手を当てると、剣崎の体が巨大な剣へと変化した。

彼女の使う「ブレイラウザー」の様なそれは、さながら「ブレイドブレード」とでも言う

べきか。

カテゴリーハート「何をごちゃごちゃと……」

そしてさらに、クラブとダイヤのエースを取り出す。

事態を解決するのに必要だといって、六花とありすから借りてきたものだ。

剣崎とマナの戦いに万が一にも介入させないための方便だったのだが、あながち嘘にもな

らなかった。

比企谷「使わせてもらう、お前達の、希望の力を!」

「Spade Ace Club Ace Daiya Ace Heart Ace Joker……Five Cards!」

剣に黄金の光が集まって行く。

比企谷「ウェーーーーーイッッッ!」

若者達が使うおちゃらけに使うのとは違う、気合を入れる意味でその言葉を叫ぶ。

あまりに巨大なエネルギー波が、アンデッドを塵一つ残さず消滅させた。

剣状だった剣崎の体が元に戻る。

剣崎「ありがとう、これで、この世界も、平和に……ううっ」

感極まって、剣崎が嗚咽を漏らす。

大切な親友がいなくなったのだ、その心情はこんな俺でも察することができる。

比企谷「……これから、どうするんだ?」

剣崎「……歌い続けるわ。人々を笑顔にできる歌を。マナにも、届くように」

そう言うと剣崎は俺が渡したジョーカーのカードを胸の前で強く握った。

比企谷「そうか……きっと届くさ」



由比ヶ浜「お~~~い!ヒッキー!」

振り返ると、雪ノ下と由比ヶ浜が駆け足でやって来るところだった。

雪ノ下「この世界でやるべきことは、終わったようね」

比企谷「それじゃ、これでさよならだ。次に会うことがあったら、その時は、お前の歌を

聞かせてくれ」

そう言うと同時、俺達三人の体を不思議な光が包む。

比企谷「そうだ、記念に一枚」

写真館から持ってきたカメラで剣崎を撮る。

そこには、決意を秘めた、一枚のカードを握る少女と、その後ろで優しく笑う赤髪の少女

が映っていた。

次こそはハッピーエンドをつかむと誓い、俺達は新たな世界へ旅立った。

~仮面ライダー鎧武の世界(×フレッシュ!プリキュア)
比企谷「ん……」

光に包まれた俺達は再び写真館の中にいた。

雪ノ下「世界を移動するときは毎回ここからスタートなのね……」

由比ヶ浜「あっ!見てみて、絵が変わってるよ!」

由比ヶ浜の言う通り、額縁の絵がブレイドの世界の物から変わっていた。

フルーツがあふれる中で少女達がダンスをしている奇妙な絵だ。

比企谷「フルーツってことは……ここは鎧武の世界、踊ってるのは……なるほど、大体わ

かった」

由比ヶ浜「ヒッキー何一人でぼそぼそ言ってるの?キモいよ」

比企谷「……つまりここは、仮面ライダー鎧武と、フレッシュプリキュアが融合した世界

ってことだ。二連続でプリキュアとは運がいい。生でせつラブが見れるというわけか」

雪ノ下「この世界でわたし達がすべきことは……」

雪ノ下が言うと同時、俺達の服装が変わった。

俺が黄色、雪ノ下が青、由比ヶ浜がピンクのジャージ姿だ。

由比ヶ浜「だ、ダサい……」

雪ノ下「この格好ですることって一体……」

比企谷「……ダンスだ」

雪ノ下「え?」

比企谷「この衣装は、この世界のプリキュ、いや、ライダーがダンスをする際に使う衣装

だ。はぁ、まぁ仕方ないな……『You Make Me Happy!』と『Happ

y Together!』、どっちがいい?」

ったく、まさかプリキュアのダンスを踊ることになるとはな……。

つーか俺ブッキーポジションかよ……。あざといことした方がいいのか?

由比ヶ浜「なんでそんなにノリノリだし……」

雪ノ下「踊るなら……『Just Live More』でしょうね」

比企谷「ま、まぁ待て、さっきの二つの曲が不服なら、がんばらんすでも……」

雪ノ下「Just Live More 一択よ」

なぜそんなピンポイントで押してくるんだ……。

比企谷「はぁ、まぁそれでもいいけどよ……」

「イーーンベーーースッ!」

その時、外から不気味な叫び声が聞こえた。

由比ヶ浜「いこう!」

俺達がそこに行くと、不気味な怪物と黒い衣装を着た少女が立っていた。

???「スイッチ、オーバー!……我が名はイース!ラビリンス総統、メビウス様が僕!

……変身!」

―メロン!―
『メロンアームズ!天下、御免!』

イース(仮面ライダー斬月)「さぁ、早く来いプリキュア!今日こそ倒してみせる!」

比企谷「せっちゃん……まだイース状態か」

俺が変身しようとすると、そこに三人の少女が現れた。

???「待ちなさい!ラビリンス!あなた達の好きにはさせない!」

???「ら、ラブちゃん、美希ちゃん、まってよ~」

???「ブッキー、ほら、急いで!」

「「「チェィンジ!プリキュア!ビートアーップ!」」」

―ピーチ!―
―ブドウ!―
―パイン!―

『ピーチアームズ!幸せ in your hand!』
『ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハッ!』
『パインアームズ!粉砕、デストロイ!』

イース「プリキュア……今日こそ倒すっ!」

イースはそう言うと、三人のもとに向かっていく。

三人の中心に入り込み、円状に剣を振るう。

イース「無双円斬!」

その攻撃に三人は思い切り吹き飛ばされる。

美希(仮面ライダー龍玄)「響け!希望のリズム、キュアスティック、ブドウ龍砲!」

ブドウをモチーフにした銃で、遠距離から射撃を行う。

イース「あまい!」

『メロンディフェンダー!』

イースは左手にメロンの盾、メロンディフェンダーを装着し、その攻撃を防ぐ。

龍玄「かかったわね!ブドウ龍砲はおとりよ!」

祈里(仮面ライダーバロン~パインアームズ~)「癒せ!祈りのハーモニー!キュアスティ

ック、パインアイアン!」

いかにも威力の鷹そうな武器を、バロンが上方からイースに振り下ろす。

だがその一撃さえも、メロンディフェンダーは耐えてみせた。

ラブ(仮面ライダー鎧武~ピーチアームズ~)「届け!愛のメロディ!キュアスティック!ピーチアロー!」

鎧武が弓を引き絞ると、エネルギーの塊となった矢が勢いよく射出される。

斬月「くっ!」

斬月の強固な縦には触れず、攻撃が胸に直撃する。

斬月「クッ……援護しろ!インベス!」

パンダの姿を模した怪物が斬月の前に立ちふさがる。

バロン「わたしに任せてっ!」

―カモンッ!-

―バナナスパーキング!―

パインの持つ鉄球の鎖の部分がインベスにからみつく。

バロン「やぁっ!」

そのまま祈里はジャンプし、急降下キックを放つ。

インベス「ルゥッ!」

動きを封じ込められたインベスは、抵抗できず攻撃を喰らう。

龍玄「とどめよっ!」

何とか攻撃に耐えてみせたインベスに対し、龍玄がブドウ龍砲による連射でとどめをさす。

斬月「ちっ!おのれプリキュア……」

鎧武「もうやめて、イース!なんでこんなことするのっ!」

斬月「うるさい!お前達さえいなければっ!」

―メロンオーレッ!-

右手に無双セイバー、左にメロンディフェンダーを持ち、必殺技の構えをとる。

鎧武「負けるわけにはいかないのっ!」

ラブもピーチアローを持つ手に力を込め直す。

斬月「愚か者がっ!」

斬月は先程とは違い、巨大な楯を突きだして円状に回った。

剣で攻撃をされると思っていたラブは、反撃のタイミングを誤り、体勢を崩す。

そしてそのまま剣で切りつけられる。

鎧武「うぅっ!」

しかし彼女もさるものだった。

やられて吹き飛ばされながらも矢を放ち、斬月にもダメージを与えることに成功する。

鎧武「龍玄!バロン!」

龍玄「おっけー!」

バロン「まかせて!」

―ピーチスパーキング!―
―ブドウスパーキング!―
―パインスパーキング!―

三人は同時に跳び上がり、キックを放つ。

三人「「「プリキュア、トリプルキーック!」」」

斬月「ぐぉぁぁっ!」

流石に三人の攻撃には耐えられなかったのか、斬月は地を転がり、イースの姿に戻る。

斬月「覚えていろ……」

彼女はそう言い残し、瞬間移動でその場を後にした。

それを見て、三人も変身を解いた。

ラブ「イース……なんだかかわいそうだったな……」

美希「ラブ……あの子は敵なの、わかってる?」

祈里「でも、本当に強いよね……わたしたちと同じようにロックシードを使って変身して

るのに、三人がかりでやっと互角って感じね」

ラブ「イースにも、幸せゲットしてほしいな」

美希「ラブ……」

美希が深くため息をつく。


由比ヶ浜「こんにちは!あなた達がこの世界の仮面ライダーだね!」

うお……いきなりいったな、あいつ。

いつの間にか彼女は三人の方にいた。

仕方なく俺と雪ノ下も続く。

美希「私達をライダーだって知ってる……もしかしてラビリンス?」

由比ヶ浜「あたし達もライダーだよ!あたしが龍騎で、こっちのかわいい方がナイトで、

目が腐ってるのがディケイドだよ!

あ、このアホ……。

ラブ「ディケイド!?あなたが!!?」

―ピーチ!―

美希「いきなり黒幕のお出ましとはね……完璧、なのかしら?」

―ブドウ!―

祈里「でも倒せるって、わたし信じてる」

―パイン!―

比企谷「だからやめろって……」

―ピーチアームズ!幸せ in your hand!―
―ブドウアームズ!龍・砲!ハッ・ハッ・ハッ!―
―パインアームズ!粉砕・デストロイ!―

雪ノ下「まぁ、実力を見せてもらうのも悪くないんじゃないかしら。話をするのは無力化

してからでも遅くないわ」

なんでそんな好戦的なんだよ……。

雪ノ下「変身!」

由比ヶ浜「よーーし、変身!」

もしかして、これがこれからはデフォになるの……?

比企谷「変身……」

―Kamen Ride Decade!―

まぁ、ブレイドのカードを試すのも悪くはないか。

ディケイド「じゃぁ、いくか……」

「Attack Ride Blast!」

俺は鎧武に向けて銃攻撃を放つ。

鎧武「ピーチアロー!」

エネルギー同士がぶつかり合う。

龍玄「あなたの相手は私よ!」

ナイト「後悔させてあげるわ!」

龍玄「ブドウ龍砲!」

「Trick Vent」

ナイト「全部に当てられるかしら?」

バロン「パインアイアン!」

龍騎「いくよ!」

「Strike Vent」


鎧武に攻撃を放つが、あいての方が威力が高いようで、ぶつかると相手の攻撃としてこ

ちらに向かってきてしまう。

ディケイド「まこぴー!力を借りるぞ!」

「Kamen Ride Blade!」

「Attack Ride Metal!」

スペードの7、メタル・トリロバイト。三葉虫の力を宿したカードで、地震の体を鋼鉄化

させることができる。

その力で、鎧武の攻撃を全て受けきる。

鎧武「なっ!!」

ディケイド「次はこっちの番だ!」

「Attack Ride Mahha!」

スペード9、マッハジャガー。言うまでもなく、超高速で動くことを可能にするカード。

ディケイド「くらえっ!」

相手の攻撃をかいくぐり、敵の懐に潜り込む。

「Attack Ride Beat!」

カードによって強化された拳で、勢いよくパンチを叩きこむ。

鎧武「ならこれでっ!」

―イチゴ!―

―イチゴアームズ!―しゅしゅっと、スカッシュ!―

ディケイド「なっ……」

他のロックシードも持ってたのかよ、ていうかそれだともうキュアピーチじゃない……。

鎧武(イチゴアームズ)「イチゴクナイ!」

両手に持ったクナイで切りかかってくる。

さっきより動きが早い!

「Attack Ride Illusion!」

それに対応するため、三人に分身するが、すぐに分身体を消されてしまう。

鎧武「いくよっ!」

―イチゴスカッシュ!―

ディケイド「Final Attack Ride Bu Bu Bu Blade!

―Ritning Sonic!―」

二つの攻撃が思い切りぶつかる。

俺達はどちらも、変身解除されてしまった。


両隣を見ると、雪ノ下達もどうやら引き分けたようだった。

ラブ「つ、強い……」

美希「完璧、じゃない……」

祈里「うぅ……」

雪ノ下「私達の話を、聞いてくれない?」

――――――――――――――――

ラブ「う、うーん……と、つまり……?」

美希「この人達は、自分はディケイドとその仲間だけど、世界を破壊するなんてつもりは

全くないってことよ」

ラブ「じゃぁ、仲間ってこと?」

美希「……本当のことを言ってるなら、だけどね」

比企谷「まぁ、現段階で信じてもらうのは厳しいよな」

由比ヶ浜「ご、ごめん……あたしが余計なこと言っちゃったから」

雪ノ下「あまり気にすることはないわ、隠し通そうとしても隠しきれるものではないし」

比企谷「まぁ、こっちの行動で信じてもらうしかないな」

祈里「でも、悪い人じゃなさそう」

美希「まぁ、やろうと思えば、斬月と戦闘を終えたわたし達を不意打ちすることもできた

んだし、信用してもいいんじゃない?」

ラブ「それじゃぁ、みんなで幸せゲットだね!」

比企谷「そう言ってもらえると助かる。俺は比企谷八幡、仮面ライダーディケイドだ。さっきも言ったが、世界を破壊だの何だのというのはさっぱり身に覚えがないし、考えてもいない」

雪ノ下「私は、雪ノ下雪乃。仮面ライダーナイトよ」

由比ヶ浜「あたしは、由比ヶ浜結衣。仮面ライダー、龍騎」

ラブ「私は桃園ラブ。仮面ライダー鎧武だよ!よろしく!」

美希「蒼乃美希。仮面ライダー龍玄よ。わたし、完璧!」

祈里「山吹祈里です。仮面ライダーバロンに変身します。仲良くなれるって、わたし信じてる」

ラブ「そういえば比企谷君達も、わたし達と似たような服着てるね」

比企谷「ま、まぁな」

祈里「ダンスやってるんですか?」

雪ノ下「ええ、一応ね」

待って、俺完全に初心者なんだけど?

美希「じゃぁ、今度のダンスコンテストにも出るの?」

雪ノ下「ええ、『Just Live More』を踊るわ」

こいつ、勝手に決めやがった。

美希「それじゃ、ライバルってことね。わたし達はチーム『クローバー』。お互いにいいダ

ンスをしましょう」

祈里「それじゃ、わたし達はレッスンがあるからこれで」

由比ヶ浜「またねー!」



由比ヶ浜「ねぇゆきのん、あたしダンスしたこと無いよ?」

比企谷「てゆーか器具とかどうすんの?」

雪ノ下「写真館に一式出てたと思うわ。ああ言ってしまった以上、やるしかないわね」

比企谷「勝手に決めやがって……」

由比ヶ浜「まぁまぁ、面白そうじゃん!」

雪ノ下「それじゃ比企谷君、機材取って来てくれる?」

え……。

比企谷「……わーったよ、待ってろ……変身」

「Kamen Ride Decade!」

雪ノ下「あなたまさか……」

比企谷「ま、そういうことだ」

「Attack Ride Mahha!」

カードの力を使い、一分もかからずに機材を運ぶ。

由比ヶ浜「こういうことに使っていいのかな……」

比企谷「まぁ、そんなに長くは留まらないだろ」

雪ノ下「それじゃ、振り付けを教えるわ。実はもう考えてあるの」

ノリノリですね……。

『……Got it move……wow!

Don‘t say no Just Live More 

Don‘t say no Just Live More

サバイバル You got to move

現代はさながら戦国

誰が勝ちぬける?

鍵は開けられてしまった

(Don‘t say no Just Live More)

どこにある?

どう使う?

禁断の果実

今という風は何を伝える為お前のもとに吹く?……』

比企谷「案外踊れるもんだな」

由比ヶ浜「あたし達才能あるかもっ!」

雪ノ下「当然、優勝を狙うわよ」

由比ヶ浜「おーっ!」

比企谷「ま、目標は高く、って奴か」

雪ノ下「そうよ、三位程度で甘んじていてはいけないわ」

比企谷「そいつは悪かったな……」

俺がそう言うと、雪ノ下はふふんと笑った。

この野郎……。



―――――ラビリンスにて――――――――――

サウラー「また負けたのかい、イース?」

イース「っ、サウラー……。不幸のゲージはきちんとためたわ」

ウェスター「プリキュアに負けておいてよくもまあそんなことが言えるな」

イース「それはあなた達に言われたくないわ」

ウェスター「クッ……」

サウラー「そもそも僕は頭脳派だからね。メビウス様にいただいたロックシードを僕達の

能力強化に活用できるよう戦極ドライバーを開発したのは僕だということを忘れないでく

れ」

イース「悪かったわね……」

???「イースよ」

その声を聞いた途端、ラビリンスの幹部である三人が一声に跪く。

「「「メビウス様!」」」

声の主は彼女達が使えるラビリンスの総統、メビウスだった。

メビウス「お前に渡したい物がある、わたしのもとに来い」

イース「はっ!」


メビウス「イースよ、お前にこれを与える」

禿頭の老人が彼女に、ライダーに変身する為のロックシードを渡す。

イース「ロックシード……Yomi?」

通常のロックシードにはL・Sの後に数字が書いてあるのだが、そのロックシードには変

わりにYomiと書かれていた。

メビウス「これは……最凶のロックシード、ヨモツヘグリロックシードだ」

イース「ヨモツヘグリ……」

メビウス「……いや、やはりやめておこう」

イース「な、なぜですかっ!」

メビウス「それはきわめて強力だが、使用者を大いに傷つける。私は君に傷ついてほしく

はない」

イース「い、いえっ!メビウス様の為なら、この命おしくはありませんっ!」

メビウス「……そうか?くれぐれも無理はするなよ」

イース「はっ!」

イースが頭を下げると、メビウスは笑みを浮かべた。


ミユキ「うん、みんないい調子ね!」

ラブ「ありがとうございます!」

ラブ達は目前に迫ったダンスの大会に向け、プロのダンサーミユキからレッスンを受けていた。

ミユキ「これなら本当に優勝できるかもね」

美希「ありがとうございます!」

ミユキ「もちろん、あなた達だからってひいきはしないからね」

祈里「もちろんです!」

ミユキ「よし、じゃぁ今日のレッスンはこれまで!明日はいよいよ本番!しっかり寝てね!」

「「「ありがとうございました!」」」

レッスンを終え、ラブ達は帰り仕度を始める。

???「こんにちは、ラブ。頑張ってるわね」

ラブ「せつなっ!」

*せつな……イースの変身前の、人間界に潜り込む為の姿。
正体を偽り、ラブと友人になっている。

美希「こんにちは、せつな」

祈里「こんにちは」

せつな「明日はダンスコンクールの本番よね。応援してるわ」

ラブ「ありがとう!せつなが応援してくれたら百人力だよぉ!」

美希「……ん?」

美希(刹那のポケットから見えてるのって、ロックシード?なんでせつなが……?
   でも、ダンスをしてる人たちは普通に持ってるし、不思議なことじゃないかしら)

ラブ「どうしたの?美希たん」

美希「ううん、なんでもないわ」

美希(何でもない、よね)

ラブ「せつなにも会えたし、ちょっとだけ遊びに行かない?」

美希「私は今日はいいわ。ラブもはしゃぎすぎて明日のダンスに影響がないようにね」

美希(なんだかあの子は、好きになれない……)

祈里「私も、病院のお手伝いしなきゃ。ごめんね」

ラブ「わかった!また明日!じゃぁせつな、いこっか!」

せつな「ええ、楽しみだわ」

せつな(隙を見て、なんとかこいつのベルトかロックシードを……)



由比ヶ浜「ん?あれって、ラブちゃんじゃない?おーい、ラブちゃーん!」

ラブ「おーーい!」

あれは……せつな。今のせつなは、ラビリンス。

ロックシードを使ってたし、ラブのロックシードとかも奪えるんじゃないのか……?

本来の世界では、悪の心を持った彼女は、プリキュアの道具『リンクルン』に触れること

はできなかった。だが、プリキュア同様ロックシードで変身するなら、ラブのロックシー

ドにも触れられると考えるのが妥当だ。

比企谷「合流しよう」

雪ノ下「珍しいわね、あなたからそんな」

比企谷「ラブと一緒にいる奴、あれはイース、斬月だ」

雪ノ下「……なら、この場で倒せば」

比企谷「だめだ、あいつを俺達が倒しちゃいけない。それをやっちまうと、将来この世界

は終わる」

雪ノ下「……あなたが言うなら、そう言うことなのでしょうね。プリキュアやらにだけは詳しいようだから」

比企谷「後半は余計だっつーの……。あいつがラブの持ち物とらないように注意しとい

てくれ」

由比ヶ浜「任せといてよ!」

……不安だ……。

ラブ「みんな何してたの?」

由比ヶ浜「この街を見てたんだよ!よかったら一緒に回らない?」

ラブ「おっけー!いいよね、せつな?」

せつな「え、ええ」

せつな(厄介な……)

雪ノ下「……変なことは考えない方がいいと思うわ」

雪ノ下が小声で刹那に呟く。

せつな「っ、お前……」

ラブ「どうしたの、せつな?」

せつな「な、なんでもないわ」

それから俺達はラブに町を色々と案内してもらった。

せつなのもくろみも破たんしたようで、とりあえずは一安心といったところだ。

ラブ「じゃぁ、まったねー!みんな!」

由比ヶ浜「今日はありがとねー!」

せつな「……まぁいい、わたしにはこれがある。実力で倒してみせる……」



雪ノ下「明日ね、ダンスコンクール」

比企谷「練習期間一日とか無理ゲーすぎんだろ」

由比ヶ浜「がんばろうね!」

比企谷「ま、せっかくだからな。無事にいくといいんだが……」

雪ノ下「どういうことかしら?」

比企谷「……プリキュアの世界では、このコンクールの日、イースが襲撃して、中止にな

るんだ。この世界でどうかは分からんけどな」

雪ノ下「警戒しておいた方がいいわね」

由比ヶ浜「そうだね、よし、とにかく今日は寝よう!」

比企谷「おう、おやすみ」

雪ノ下「比企谷君?」

比企谷「……はいはい」

俺は今日もまた、ソファで寝る羽目になってしまった。





「はい、ダンスの受付ですね。チーム名はなんでしょうか?」

比企谷「あっ……」

由比ヶ浜「考えてなかったね……」

雪ノ下「ユグドラシル、というのはどうかしら」

比企谷「ん、いいんじゃねぇか?」

由比ヶ浜「それにしよう!」

雪ノ下「ユグドラシルで、お願いします」



ラブ「おーーい!」

受付を済ませると、後ろから特徴的な声で呼ばれた。

雪ノ下「お互い頑張りましょうね」

由比ヶ浜「負けないよ!」

美希「残念だけど、優勝は無理よ。わたし達の『クローバー』は、完璧だから」

祈里「いいダンスをしましょう」

ラブ「ユグドラシルのダンス、楽しみにしてるよ!」



「それでは次は、チームユグドラシルの『Just Live More』です!」

「~~~~~♪♪~~~~~~~~~~~
今という風は、何を伝える為お前のもとに吹く?

強く強くBlowin Up!

明日が夢がまだ見えなくても

そこ限界?精一杯、生きていると言えるなら

うつむくなよ、顔を上げろ どこまででも曲げることなく

信じた道を行け

Don‘t say no!

花道フィロソフィー、勝たなきゃすぐに崖っぷち

戦いはNever End

最後の一人になるまで

見ぬふりか?もぎ取るか?禁断の果実!

今という空は何を見せる為に真っ赤に燃えている?

熱く熱くBurning Sun!

~~~~~~~~♪~~~~~~」

俺達の曲が終盤に差し掛かった時、それは起こった。

「ナキサケ~べ!」

怪物が咆哮を上げて、会場の壁を壊して入ってきたのだ。

「キャァァーッ!」

一瞬で会場がパニックに染まる。

「ナッキサケ~ベ!」

その怪物の前に、ラブ達三人が立ちふさがる。

比企谷「俺達は観客を避難させるぞ。人前じゃあいつらは変身しにくい」

雪ノ下「了解」

由比ヶ浜「わかった!」

比企谷「みなさん、こっちです!」

こうして目標がしっかり決まっていると、ぼっちの俺でも役割を果たすことができる。

ラブ「よし、今のうちに」

「「「変身!」」」

―ピーチアームズ!幸せ in your hand―
―ブドウアームズ!龍・砲 ハッ・ハッ・ハッ!―
―パインアームズ!粉砕、デストロイ!―

ラブ「ダンスコンクールを滅茶苦茶にして……絶対に許さない!」

イース「今日こそ終わらせる、プリキュア!……変身」

―ヨモツヘグリ!―

―ヨモツヘグリアームズ……冥・界 黄泉・黄泉・黄泉……―

斬月・黄泉「メビウス様から頂いたこの力があればっ!」

龍玄「なんて禍々しい姿なの……」

美希の言う通り、今の斬月からは、周囲のもの全てを圧倒する狂気のオーラが湧きでてい

た。

斬月・黄泉「すごい……流石はメビウス様の……うっ!」

斬月・黄泉(なんだこれは……体が、むしばまれていく!?)

斬月・黄泉「使用者を傷つけるとは、こういうことか……」

鎧武(ラブ)「せつな、なんだか苦しそう……」

龍玄(美希)「なに言ってるの!来るわよ!」

斬月・黄泉「はぁっっ!」

龍玄「あれって、ブドウ龍砲!?」

斬月が使った銃は確かに、龍玄の使うブドウ龍砲に酷似している。

どこまでも邪悪な色に染まっている点以外では。

龍玄「同じ武器ならっ!」

斬月の銃撃に対し、龍玄が対抗する。

しかし、

龍玄「うぅっ!」

龍玄の攻撃は打ち消され、敵の攻撃はそのまま向かってくる。

バロン(祈里)「こんなに威力の差が……」

ナキサケーベインベス「ナッキサケーベッ!」

後方にいたインベスも追い打ちをかけてくる。

比企谷「インベスは俺達に任せろ!」

雪ノ下・由比ヶ浜「「変身!」」

比企谷「変身!」

―Kamen Ride Decade!―

インベス「イーーンベスッ!」

インベスの巨大な両腕が振り下ろされる。

「Attack Ride Srash!」

由比ヶ浜「あたしも!」

「Sword Vent」

俺と由比ヶ浜で受け止める。

比企谷「ぐぅぅっ!」

なんて重みのある攻撃だ。

この間インベスとラブ達が戦うのは見たが、これほどの強さでは無かったはずだ。

あの妙なロックシードは、呼びだすインベスも著しく強化するようだ。

雪ノ下「後ろはもらったわっ!」

「Sword Vent」

俺達が攻撃を引きつけたすきに後方に回り込んだ雪ノ下がインベスの背に斬撃を浴びせる。

しかし、あまり効いている様子はない。

インベス「ベスッ!」

向きを変えて横薙ぎに払われた巨大な腕に雪ノ下が吹き飛ばされる。

鎧武「うっ!」

その攻撃は、斬月と戦闘中のラブにも及んだようだ。

比企谷「由比ヶ浜!雪ノ下!インベスを鎧武たちから引き離すぞ!」

由比ヶ浜「わかった!」

「「Advent」」

「グァァァァアッッッ!」

「キィィィィッッッ!」

異空間から現れたドラグレッダーとダークウイングがインベスを引きつける。

これで、ラブ達はインベスを気にせず戦える。



斬月・黄泉「弱い!弱いぞプリキュア!」

龍玄「なんなのよあいつ……離れたら銃で撃ってきて、近づいたら丸型の剣で迎撃される

し(キウイ撃輪)、こっちの攻撃はおっきい楯で防がれるし……」

鎧武「あきらめちゃだめだよ!」

龍玄「わかってるわよ!」

バロン「でも、隙がない……」

斬月・黄泉「やれる!やれるぞっ!」

そう言うとイースは両手で巨大な鎌を握った。

その姿はまるで、死神のようだ。

斬月・黄泉「消えろぉぉっ!」

鎧武「きゃぁぁぁっっ!」

龍玄「ラブッ! このっ!」

斬月・黄泉「あまい!」

ブドウ龍砲を連射する美希だったが、軽く攻撃をかわされ、逆に頭部に蹴りを入れられる。

バロン「美希ちゃんっ! やぁぁっ!」

祈里はパインアイアンを振り回すが、かする気配すらない。

パインアイアンは、威力は絶大だがその重さゆえ、どうしても動きが鈍くなりがちだ。

斬月・黄泉「動きが丸わかりだっ!」

その胸部を鎌がえぐる。

バロン「あぁぁっ!」

ディケイド「こいつ、強いな……」

ナイト「動きを止めるわ!」

「Nasty Vent」

インベス「ベスッ……」

由比ヶ浜「いっけぇぇぇっ!」

「Strike Vent」

炎がインベスを包む。

ディケイド「ドラグレッダーも呼べ!」

龍騎「さっき呼んだばっかりだからまだ無理!」

そうだった……なら!

ディケイド「由比ヶ浜!ちょっとくすぐったいぞ!」

龍騎「ま、またあれ!?」

由比ヶ浜には申し訳ないが、問答無用でその背中に触れる。

「Final Form Ride Ryu Ryu Ryuki!」

ドラグレッダー(由比ヶ浜)「ガアァァァッッッ!(もうやだ~~~)」

そういいながらも、由比ヶ浜はしっかりと自分の役目を果たす。

インベス「インッ……ベスッ!」

ナイト「インベスが弱っている……今よ!」

ディケイド「よし!一気に決めるぞ!」

「Final Vent」

「Final Attack Ride Ryu Ryu Ryu Ryuki!」

ナイト「飛翔斬っ!」

ディケイド「ドラゴンライダーキックッ!」

ドラグレッダー「ガァァッッ!(うおりゃーっ!)」

二人(正確には三人)の攻撃が同時に炸裂し、インベスを辛くも撃破することができた。

インベス「べえぇぇす……」



斬月・黄泉「これで、終わりだぁぁぁっっ!」

イースがとどめの一撃を繰り出そうとしたその瞬間、

斬月・黄泉「うぅっ!」

その場に倒れ込んだ。

龍玄「ラブ!今よ!」

鎧武「やぁぁぁーっ!ピーチアローッ!」

ラブが放った起死回生の一撃は、イースの腹部に突き刺さった。

斬月・黄泉「ぐ、ぐぅっ……」

―ロック・オフ―

斬月・黄泉の変身がとかれ、イースの姿に戻る。

鎧武「イース……もうこんなこと……」

イース「うるさい!」

鎧武「私はイースにも、幸せゲットしてほしいの!」

ラブが一歩、せつなに近づく。

イース「黙れ、黙れ黙れぇっ!スイッチ、オーバーっ!」

イースがそう叫ぶと、彼女の姿は、ラブのよく知る少女、東せつなのものに変わった。

ラブ「せ、せつな……?」

せつな「私は必ず、お前を倒すっ!」

せつなは身に着けていた四つ葉のクローバーのペンダントをはずして地面に投げつけ、思

い切り踏みつけた。

バリィン!という音を立て、ペンダントが粉々に砕け散る。


ラブ「これ、せつなにあげる!」

ラブは、苦労してゲームで取ったとったペンダントをせつなに差し出した。

せつな「どうして?これはラブの大切な物なんじゃないの?」

ラブ「うーん……私はこれがどんなものなのか見たかっただけだから。それにね、なんだ

かせつなに持ってて欲しいんだ」

せつな「そ、そうなの?」

ラブ「うん!わたしとせつなの、友情のあかしだよ!」

せつな「友情の、証……」

ラブ「うん!わたし達、いつまでも友達だよ!」


ラブ「ペ、ペンダントがっ……!」

せつな「プリキュア、次に会った時こそ必ず、お前達をこの世から消すっ!」

満身創痍になって、せつなはその場を去っていった。

美希「ラブ……」

祈里「ラブちゃん……」

ラブ「そんな……せつなが、イース……?」

ああ、こんなのは、見ていられない。

事前に知っていたとはいえ、あまりに痛ましすぎる。

比企谷「……行くぞ」

雪ノ下「……いいの?」

比企谷「ここは、重要な分岐点だ。俺達が関わっていいことじゃない」

由比ヶ浜「そういうものなのかな……」

比企谷「ああ、俺達にできるのは信じることと、少しだけ力を貸すことぐらいだ」

雪ノ下「そう、ね……」

後ろ髪をひかれる思いをしながら、俺達はその場を去った。



―ピーンポーン―
ラブの家のベルを鳴らす。

あゆみ(ラブの母親)「はーい」

美希「こんにちは」

祈里「こ、こんにちは」

美希「ラブいますか?」

あゆみ「ラブ?あの子は今部屋で寝込んでるわ。珍しいわ、こんなの何年ぶりかしら」

美希「ちょっと失礼します」

わたしはあゆみさんの横を通り抜けて、ラブの家に上がる。

祈里「ご、ごめんなさい」

あゆみ「ど、どうしたの?」



『コンコン』

ラブの部屋のドアをノックするが、返事はない。

タルト「おお、ベリーはんにパインはん!」

シフォン「きゅあ~」

*タルト……ラブ達をプリキュアにした妖精。何故か関西弁で話す。

*シフォン……不思議な力を持つ妖精。まだ赤ちゃんで、自由に話すことができない。

祈里「どうしたの、こんな所で?」

普段ならラブの部屋にいる二人(?)だが、何故かドアの外で立っている。

タルト「ええとこ来てくれたで~。なんやピーチはん、一人になりたいとかいうて、わい

らを入れてくれへんのや」

美希「はぁ……ラブ、入るわよ?」

祈里「み、みきちゃん」

タルト「うわっ、強引やな~」

シフォン「きゅあ~」

美希「ラブ、せつながラビリンスだったっていうことは、ラビリンスはあの占い館に居る

はず」

*ラブとせつなは、森の中の占い館で初めて出会う。その際、せつなはラブに幸せが訪れ

る(プリキュアになる)と予言していた。

美希「だから、行くわよ。これ以上、みんなを不幸な目に会わせない為にも」

ラブ「……」

美希「ラブ、起きて。……起きなさい!」

ラブ「はぅ……うっ……」

布団から顔を出したその目には、涙が浮かんでいた。

美希「せつなが敵だってわかって、ショックだったのはわかるけど、わたし達はプリキュ

アなの。しっかりしてよ!」

しかしラブは、何も答えない。

美希「ラブ……ねぇ聞いて。あの子はイースだったの。

 せつななんて子は、もともといなかったのよ!」

祈里「美希ちゃん!」

ラブ「なに言ってるの美希たん……。なんで、そんなこと……。せつながいなかったなん

て……」

ラブの脳裏に、せつなと過ごしたたくさんの楽しい思い出が浮かぶ。

ラブ「なんで……なんでそんなひどいこと言うのっ!」

美希「ごめん、ラブ……。でも、そうでも言わないとラブは……」

だんだんと、自分の言葉がしりすぼみになって行くのがわかる。

美希「だから私は、心を鬼にして……」

ラブ「もういいっ!」

そう言って、ラブは勢いよく部屋を飛び出していった。

祈里「ら、ラブちゃん!」

美希「ラブ!」



あゆみ「ちょ、ちょっとラブ!?」

いきなり降りて来たと思ったら玄関から飛び出していった娘にあゆみは当惑する。

あゆみ「どうしたのかしら……急に飛び出して」

その後を追うように、美希と祈里も勢いよく階段を下りてきた。

あゆみ「あら、もう帰るの?美希ちゃん」

失礼だと考えることもせず、美希はあゆみの横を駆け抜けてゆく。

祈里「お、おじゃましました! 待って美希ちゃん!」

あゆみ「……?」



祈里「ラブちゃん、どこ行ったんだろう……」

美希「手分けして探しましょう」

祈里「うん!」

タルト「了解や!」

シフォン「きゅあ~!」




~ラビリンス~
クライン「メビウス様、ヨモツヘグリの力を使ったにもかかわらず、イースは任務に失敗

しました」

クライン……白髪の老人。メビウスの側近。

メビウス「後のことはわかっているな?」

クライン「はい、早速イースの管理データを変更します」

ラビリンスは管理国家。全ての国民のデータがメビウスたちによって管理・制御されてい

る。

ラブ『ねぇ、せつな!』

ラブ『せ~つなっ!』

鎧武『イース!もうこんなことはやめようよ一緒に、幸せゲットしよう?』

イース「……ちっ!」

ラブとの思い出が頭の中によみがえり、イースの感情がかき乱される。

イース「お前に何がわかる……」

イース(バカの一つ覚えのように、口を開けば幸せ幸せと……)

その時、イースのいた部屋に光が満ち、一枚の書状が現れた。

イース「これは……」

イース(クラインからの手紙?)

無論、イーストクラインは私的に手紙をやりとりするような仲ではない。

イース(任務の命令だろうか……)

手に取ったその書状の内容を見て、彼女は言葉を失った。

ラブは、一人商店街を歩いていた。

ラブ「せつな……」

せつなとの間には、たくさんの楽しい思い出がある。

ラブ(あのペンダントを渡した時も、嬉しそうにしてたのにな……)

そして、イースとの戦いのことも同時に思い出される。

イースはいつも、憎しみを隠そうともせずに戦っていた。仮面の上からでも、ありありと

わかってしまうほどに。

最後に頭に浮かぶのは、せつなが友情のあかしのペンダントを壊したあの光景。

ラブ「私は、一体どうしたら……」

ラブ「私にできることって……」

???「よっ!お譲ちゃん、ドーナツ食べてく?」

ラブ「かおるちゃん……」

*かおるちゃん……ラブ達がよく行くドーナツ屋の店長。移動販売をしている。中年のお

じさん。サングラスをかけている。

あまり気が進まなかったが、特に自分にできることも思いつかず、ラブはながされるまま

に席に着く。

かおる「どう?その新作のドーナツ」

ラブ「え?」

かおる「メロン味、作ってみたんだけど」

ラブ「メロン……」

『メロンアームズ!天・下・御・免!』

メロン、それはいつもせつなが使っていたロックシードだ。

ラブ「……行かなきゃ」

かおる「え?」

ラブ「ありがと、かおるちゃん!」

そしてラブはまた、勢いよく駆けだした。

だがそれは先程までとは違う、決意に満ちた力強い表情だった。

かおる「青春、だねぇ」

ラブ(そうだよ、わたしにできることはただ一つ)

ラブ「友達がしてる悪いことを、やめさせる!」

ラブ「絶対に、やめさせなくっちゃ!」

ラブ(そしてもう一度、せつなと笑いあいたい!)

ラブ「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

森を駆け抜け、初めてせつなと出会った占い館へ向かう。

美希『だからわたしは心を鬼にして』

ラブ(さっきは怒鳴ったりしてごめん、美希たん)

ラブ「私も、心を鬼にするよ!」



森の中、少し開けた場所に彼女はいた。

せつな「……」

ラブ「せつな……」

せつな「お前を探しに行くところだった。わざわざ来てくれるとは、手間が省けた」

ラブ「気が合うね、わたしもせつなに会いに行こうとしてたとこだよ」

せつな「今日こそ、お前と決着をつける」

ラブ「うん、そうだね。こんなこと、もうやめにしよう」

ラブ「……ううん、必ずやめさせてみせる!」

せつな「スイッチ、オーバー!」

せつなが、イースの姿となる。

ラブ「チェインジ、プリキュア、ビートアーップ!」

そう叫び、ラブはピーチロックシードをつかむ。

その瞬間、手に取ったロックシードが激しく発光した。

ラブ「な、なに?」

光が収まると、ピーチロックシードは周りの部分が水色になり、先程までとは、若干色合

いが変わっていた。

『E,L,S,03』

ラブ「なんだかよくわからないけど、私のやることは変わらない!」

―ピーチエナジー!―

その音が鳴ると同時、ラブが身に着けていた戦極ドライバーに、新たにロックシードをセ

ットする場所が現れた。

頭でなく、直感的に理解する。

ラブ「変身!」

もともとあった部分に、以前から持っていたオレンジロックシードを。

新たにできた部分に、新しいピーチエナジーロックシードを。

―オレンジアームズ!花道・オンステージ!―

―ミックス!ジンバー・ピーチ!―

イース「変身!」

―ヨモツヘグリ!―

―ヨモツヘグリアームズ……冥・界 黄泉 黄泉 黄泉……―

斬月・黄泉「お前が友達だと思っていたせつなは、このわたし。お前の変身アイテムを奪

う為に近づいたんだ」

斬月・黄泉「そうとも知らずに気を許すとはな」

鎧武(ジンバーピーチ)「今でも友達だと思ってるよ」

斬月・黄泉「なに?」

鎧武「その友達を、ラビリンスから抜けさせるために来たの」

鎧武「私の、全てを賭けて!」

斬月・黄泉「お前のそういうところが、頭に来るんだよ!」

鎧武「たぁぁっ!」

―ソニックアロー!―

斬月・黄泉「ふんっ!」

強化されたラブのソニックアローを、イースは円型の剣、キウイ撃輪で迎え撃つ。

「「はあああぁぁぁっっ!!」」

美希「いた!?」

祈里「どこにも……」

八幡「おい!お前達!」

祈里「比企谷さん?」

八幡「ラブを探しているんだろ?あいつは占い館に居る!」

俺からそう聞くと同時、美希と祈里は方向を変えて走り出した。

雪ノ下「本当にあっているの?」

八幡「大丈夫だ」

由比ヶ浜「あたし達も行こう!」

八幡「ああ!」

ラビリンスの幹部、ウェスターとサウラーは、画面の中で走る美希達を見ていた。

この森の中は、全て彼らの監視下にある。

サウラー「そう言えば、聞いたかい?イースのところに、クラインからの手紙が来たそう

だよ」

ウェスター「クラインから……それで、イースはどこに?」

サウラー「見てなかったのかい……?
やり残したことを終わらせに行くって、鎧武のところに行ったよ」

ウェスター「なるほどな」

サウラー「あいつらは、僕達が止めるとしようか」

ウェスター「ああ!俺も久しぶりに戦いたい」




美希「……え?行き止まり?」

タルト「道、間違えたんとちゃいまっか?」

祈里「ううん、確かにこのあたりに、占い館があったはずだけど」

美希「おかしいわね、道は間違えてないはずなのに……」

ウェスター「お前達の相手は、俺達だ!」

祈里「ウェスター!」

美希「サウラー!」

サウラー「最期くらい、イースに花を持たせてあげようか」

美希「最期?」

サウラー「いや、なんでもない。行くぞ、ウェスター」

ウェスター「ああ!」

美希「もう!あんた達の相手してる暇なんかないのに……急いで終わらせるわよ、ぶっき

ー!」

祈里「うん!」

美希・祈里「チェインジ!プリキュア!ビートアーップ!」

―ブドウアームズ!龍・砲!ハッ!ハッ!ハッ!―
―パインアームズ!粉砕!デストロイ!―

ウェスター・サウラー「「変身!」」

―レモン!―
―チェリー!―

―レモンアームズ!不意打ち! in the shadow!―
―チェリーアームズ!Mr.はつたいけ~ん!―

シグルド(ウェスター)「……毎度思うが、この音声は何とかならないのか?」

デューク(サウラ―)「すまない、君の顔を見ているとそれしか思いつかなくて」

*仮面ライダーシグルド(チェリーアームズ)……アームズウェポン、チェリーボンバー。

サクランボをモチーフにした爆弾。

仮面ライダーデューク(レモンアームズ)……アームズウェポン、レモンキャノン。

レモンの果汁をモチーフにしたキャノン砲。

龍玄(美希)「やぁぁっっ!」

デューク「こっちの銃持ちは僕が相手をする!」

シグルド「わかった!」
鎧武「せつなぁぁぁっっ!」

斬月・黄泉「たぁぁぁっっっ!」
強化された力をもってしても、ヨモツヘグリの力には今一歩及ばない。

だが、ラブは決して諦めようとはしない。

―ジンバーピーチスカッシュ!―

―ヨモツヘグリスカッシュ!―

互いの蹴り攻撃が激突する。

ラブのソニックアローがイースの胸部をかすめたかと思うと、次の瞬間にはイースの鎌が

ラブの腕を痛めつける。

斬月・黄泉「だぁぁっ!」

その拳がラブの腹部を思い切り殴りつける。

しかしラブの闘志は全く衰えない。

鎧武「たぁっ!」

そしてそのまま、自分の頭をイースの頭に全力でぶつける。

斬月・黄泉「ぐはっ!」

イースは一瞬ひるんだが、この攻撃にはラブも相当のダメージを負ったはずだ。

「「だぁぁっぁあああっっ!」」



龍玄「さっさと、どきなさい!」

サウラー「消えるのは君達の方だっ!」

銃攻撃とキャノンがぶつかり合い、どちらも消滅する。

バロン「私達は、ラブちゃんの所に行かなきゃいけないのっ!」

シグルド「イースの邪魔はさせんっ!」

ウェスターの放つ爆弾を、祈里はパインアイアンで撃ち返す。

シグルド「うおおおおぉおぉぉっ!」

バロン「たぁっ!」

全力でぶつかりあい、決着はなかなかつきそうにない。



―ドゴォン!―

爆撃が俺の目に入った。

比企谷「あっちだ!」

雪ノ下「いそぎましょう!」

俺達が戦闘地域につくと、そこで戦っていたのは美希達だった。

由比ヶ浜「美希ちゃん!祈里ちゃん!ここはあたし達に任せて!」

シグルド「っ、新手か!」

美希「助かるわ!」

祈里「ありがとう!」

シグルド「待て、お前ら!」

八幡「あいつらを止めるぞ!」

「「「変身!」」」

「Kamen Ride Decade!」

デューク「消えろっ!」

由比ヶ浜「させないっ!」

「Advent」

森の奥に進もうとする美希達に攻撃するサウラーを、ドラグレッダーが止める。

デューク「なんだこいつは……」

―レモンスカッシュ!―

由比ヶ浜「やぁっ!」

「Sword Vent」

シグルド「ええい、鬱陶しい奴らだ!」

「Attack Ride Blast!」

爆弾を、こちらに到達する前に全て撃ち落とす。

雪ノ下「行くわよ!」

「Advent」

雪ノ下はダークウイングに掴まると、ウェスターの真上に上昇した。

「Sword Vent」

そしてそのまま、槍をウェスターに振り下ろす。

シグルド「ぐぉっ!」

重力を味方につけた攻撃は、ウェスターに大ダメージを与えた。

追い打ちに、ダークウイング体当たりをかます。

シグルド「くそっ!」

デューク「ウェスター!あれを使え!」

シグルド「おう!」

サウラーの指示を受けるとウェスターは、「S」と書かれたロックシードを空中に放り投げ

る。 

すると、三体のスイカを模した巨大な機械が出現した。

デューク「プロトタイプで無人機とはいえ……スイカロックシードの力は使えるはずだ!」

三体の戦闘機はそれぞれ、マシンガンを放ってきたり巨大な刀で襲いかかったりしてくる。

雪ノ下「なかなか強い……」

デューク「こっちも忘れないでほしいね!」

隙を見せた雪ノ下にサウラーのキャノン攻撃が撃ち込まれる。

「Guard Vent」

雪ノ下「くっ!」

とっさに防御技を発動させた雪ノ下だが、完全にはダメージを殺し切れていない。

龍玄(美希)「ラブ!」

一方、美希と祈里は八幡達の協力のおかげで、ラブのもとにたどり着いていた。

バロン(祈里)「私達も戦う!」

鎧武(ラブ)「やめて!」

イースに攻撃を仕掛けようとする二人を、ラブが止める。

鎧武「二人は手を出さないで!」

龍玄「ラブ……」

ラブが叫ぶのとほぼ同時、激しい雨が降り始めた。

二人の熾烈な戦いを、空が悲しむかのように。

―ヨモツヘグリオーレ!―

―ジンバーピーチオーレ!―

全力を乗せた拳がぶつかる。

その衝撃で、二人の間に再び距離ができる。

斬月・黄泉「こんなはずじゃなかった……」

斬月・黄泉「こんなはずじゃ、なかった!」

イース「ッッ……」

『国民番号、ES4039781 イース様
 あなたの寿命は今日限りです、お疲れ様でした』

鎧武「はっぁぁあああっっ!」

斬月・黄泉「やぁぁぁっっっ!」

何度も何度も、全力の攻撃がぶつかり合う。

なのに両者とも一切疲れを見せず、むしろ激突の度に威力は増している。

斬月・黄泉「たぁぁっ!だっ!やっ!」

鎧武「はっ!ふっ!どりゃぁぁっっ!」

タルト「ピーチはん……」

バロン「ラブちゃん……泣いてる……」

タルト「ピーチはん、イースを倒そうとして戦ってるんやおまへんな」
バロン「その逆だと思う……せつなさんを、取り戻す為に戦ってるのよ」

斬月・黄泉「……ラブ!お前と一緒にいると、わたしの中の何かがおかしくなっていく!」

斬月・黄泉「お前と居ると、わたしが私でなくなっていく!」

鎧武「せつなっ!」

斬月・黄泉「初めて会ったあの日、でたらめな占いを真に受けて喜び、その後も、些細な

ことで幸せになったとはしゃぎ、罠にかけようとしても微塵も疑おうとせず、いつもいつ

も、バカみたいに笑っている、お前が……」

鎧武「はぁぁぁっ!」

斬月・黄泉「だぁぁぁっっ!」


斬月・黄泉「羨ましいと、思ったんだぁっ!」

―ロック・オフ―
―ロック・オフ―

この戦いで最大の激突が起き、二人は吹き飛ばされ、そのまま変身が解除される。

タルト「ピーチはぁぁん!」

イース「はぁ……はぁ……はぁ……羨ましいと、思ったんだ」

ラブ「良かった……やっぱり、イースじゃなくて、せつなだったんだね」

イース「へんね……あれだけ戦ったのに、心がすがすがしいわ」

美希「それはね、ラブの心が伝わったからよ」

変身を解除した美希がせつなに言う。

祈里「ラブちゃんは、せつなさんをラビリンスから抜けさせるために戦ってたの」

ラブ「私もなんだか、すっきりしたよ」

イース「心……あ、あれは」

イースは、咲いていた四つ葉のクローバーを手に取る。

イース「幸せの、もと……」

ラブ「幸せを呼ぶ、四つ葉のクローバーは、心から幸せを求めてる人にしか見つけられな

いんだよ」

イース「心から、幸せを……」

ラブ「今からでも、やり直せるよ。だって今、せつなは幸せを見つけることが出来たんだ

から」

イース「私が、幸せを……」



クライン「時間です」

ラビリンスでクラインがそう言うと同時、

イース「うっ……」

そう言って、イースはその場に倒れた。

ラブ「せつな、どうしたの?」

美希「なに?」

祈里「せつなさん?」

タルト「どうしたんや、急に?」

サウラー「無駄だよ」

そこに、八幡達と一旦休戦したサウラー達がやってきて言った。

ウェスター「我らラビリンスに生きる者の寿命は、生まれた時から管理されている」

ラブ「寿命が管理されてる……?なに、それ。わたし、そんなの知らないっ!

起きてよせつな、せつなぁぁっっ!」

シフォン「プリィィィィィッ!」

そう言うと、シフォンの中から一つのロックシードが出てきて、イースのもとに向かって

いく。

ラブ「せつなっ!?」


???「やっと会えたか」

せつな「あなたは誰……?」

???「私は呉島貴虎。……いや、メロンの妖精、メロロンだ……くっ、どうして私がこ

んなことを……」

せつな「メロロン?」

メロロン(?)「ああ、プリキュアの妖精だ。お前は、四人目のプリキュアに選ばれた」

せつな「私が、プリキュア……」

メロロン「さぁ行け、お前には為すべきことがあるはずだ」

―メロンエナジー!―

イースの戦極ドライバーが、赤いベルトに変わった。

『ゲネシスドライバー』

―ソーダー!―

―メロンエナジーアームズ!♪♪♪―

斬月・真(せつな)「斬月、真。それが私の名前よ」

ウェスター「イースが……」

サウラー「プリキュアに!!?」

ウェスター「い、いや、これは何かの間違いだ。ラビリンス本国に戻るぞ!イース!」

触れようとするウェスターの腕を、せつなははじく。

ウェスター「なっ!!?」

斬月・真「私はもう、イースじゃない。ラビリンスには、戻らない!」

ラブ「そうだよ、せつなはもうプリキュアなんだから、わたし達の仲間だよっ!」

ラブに続いて、美希と祈里もせつなを庇うように前に出る。

メビウス「なんだ!なにがどうなっている!?」

クライン「そんな!!イースは確かに寿命を終えたはず……こんなのは、データにない

っ!!」

サウラー「こうなった以上、イースは敵だ!殲滅するぞ!ウェスター!」

ウェスター「だ、だが……」

サウラー「何を戸惑っている!」

ウェスター「だ、だが、多勢に無勢ではないか?」

サウラー「手はある」

そう言うとサウラーは、いつの間にか拾っていた、せつなが落としたヨモツヘグリロック

シードを手に取った。

ウェスター「おい!それは危険だ!使うな!」

サウラー「心配無用……このロックシードには、こんな使い方もあるっ!」

サウラーがロックシードを放ると、ヨモツヘグリロックシードが巨大化しながら、ひとり

でに人形になっていった。

―ヨモツヘグリアームズ!冥・界 黄泉・黄泉・黄泉……―

斬月・黄泉「……」

ラブ「そ、そんなっ!ロックシードが、ライダーに!?」

サウラー「一回限りの技だがね……これだけじゃないっ!」

サウラーがそう言うと、斬月・黄泉から黒い気体が湧きだし、

ナキサケーベインベス「ナッキサケーベッ!」

八幡「っ、インベスまで……」

サウラー「これで戦局はわからなくなったね」

斬月・黄泉「我が名はイース……ラビリンス総統、メビウス様が僕……」

美希「これって……」

祈里「プリキュアになる前の、せつなさん?」

プリキュアとなったせつなが、斬月・黄泉の前に出る。

斬月・真「イース……斬月・黄泉……あなたは、あなたは私の影よ」

斬月・黄泉「私がお前の影なら、私はお前を倒すことでしか本物に慣れないっ!」

斬月・真「そうね、イース……だから、お前はここで終わる」

斬月「「はぁぁああっっっ!!」」

二人の斬月が激しくぶつかり合う。

ラブ「ウェスター、サウラー!」

美希「あんた達は、わたし達が相手するわ!」

祈里「絶対、負けないっ!」

八幡「俺達は、インベス退治と行くか」

雪ノ下「これで終わらせる」

由比ヶ浜「よぉぉしっ!」

「「「「「「「「変身!!!」」」」」」」

斬月・真「お前を倒さないとわたしは、次のわたしに進めないっ!」

斬月・黄泉「散々人を傷つけてきたお前が、プリキュアを名乗るなど笑わせるっ!」

斬月・真「っ……それでもっ!罪は消えなくてもっ!もうわたしは、これ以上間違えたく

ないっ!」

斬月・黄泉「戯言をっ!」

デューク(サウラ―)「君達はただ、僕の実験のモルモットでいればいいんだっ!」

龍玄(美希)「ふざっけんじゃ、ないわよっ!」

―ブドウオーレ!―

シグルド(ウェスター)「お前達がイースをたぶらかしたせいでっ!」

鎧武(ラブ)「友達が悪いことしてたらやめさせるのは当たり前でしょっ!」

シグルド「お前達のいい人ごっこに、俺達を巻き込むなぁっ!」

バロン(祈里)「先に攻め込んできたのはあなたたちでしょっ!」

―パインスパーキング!―

ディケイド(八幡)「お前の相手は飽きたぞ、インベスっ!」

ナイト(雪ノ下)「はぁぁっ!」

龍騎(由比ヶ浜)「ぅおりゃーっ!」

斬月・黄泉「ぐぅぅっ!」

シグルド「ぐぉぁっっ!」

デューク「これは、まずいな……」

インベス「ベぇぇぇすぅ……」

デューク「ウェスター!撤退だ!」

ウェスター「了解だ!」


その言葉通り、二人の姿が消える。

斬月・黄泉「ふざ……けるな、ふざけるな、ふざけるなぁっ!」

インベス「イーーーンベーースッ!」

二人(?)が咆哮し、何と次の瞬間、その体が一つになった。

ヨモツヘグリインベス「お前達を、一人残らず消してやるっ!」

ディケイド「さぁ、これが正真正銘のクライマックスだ」

鎧武「決めよう!」

ラブがそう言った途端、俺の持つカードの一部に光が戻る。

鎧武のカードだ。


ディケイド「ちょっとくすぐったいぞ」

「Final Form Ride Ga Ga Ga Gaim!」

鎧武「わっ、わぁぁっ!」

俺が触れると、鎧武の体がオレンジのような、球状になった。

斬月・真「決着をつける……わたしの運命にっ!」

ディケイド「斬月……っし、いくぞ!」

「Final Attack Ride Ga Ga Ga Gaim!」

ディケイド「鎧武フルーツボンバーっ!」

斬月・真「ソニックボレー!」

―メロンエナジー!―

球状の鎧武と、斬月・真の放ったエネルギーの矢が一体となり、インベスに向かっていく。

インベス「ば、ばかなぁぁっっ!!」

巨大な爆発を起こし、跡形もなくインベスは消滅した。

ラブ「せつなぁぁっ!」

ラブがせつなに抱きつこうとすると、せつなはその手を払った。

せつな「私は、あなた達の仲間にはなれない」

ラブ「え?」

せつな「あなた達と一緒に居るには、わたしはこの手を穢し過ぎた……」

そう言い残し、せつなは足早に去っていく。

と、俺達の体が消えかかる。

由比ヶ浜「え、ええぇっ!?あたし達の役目、これで終わり!?」

比企谷「残りはあいつら自身が何とかするさ」

この後の物語は知っている。

比企谷「あいつらにはたくさんの困難が降りかかり……そしてそのたびに、力を合わせて

乗り越えていくのさ」

雪ノ下「……写真、撮らなくていいの?」

比企谷「ああ、そうだったな。……今度会うときは、お前たち全員の笑顔が見てみたい」

そう呟いて撮った写真には、自分の影を見つめながら前に進もうとする美しい少女と、そ

の周りで笑っている三人の少女が映っている。

彼女達の見つめる先には、美しい虹がかかっていた。

仮面ライダー電王の世界(×デート・ア・ライブ)

謎の生命体、イマジンがこの世界に現れていくばくかの時が過ぎた。

イマジンは、人間と契約を交わすと、その人物が強く覚えている時間へと飛び、破壊の限

りをつくした。過去で破壊された物は、現在でも無くなってしまう。

イマジンの戦闘力は高く、人類に反撃のチャンスはなかった。

唯一の救いは、しばらくすればイマジンは臨界というこの世界とは別の世界に消えること。

人類は、いつ訪れるかわからないイマジンの脅威にさらされながら生活することを余儀な

くされた。

そんな折、精霊と呼ばれる存在が現れる。

彼ら(彼女ら)は、イマジンと同等の力を持ち、人型であり、イマジンに比べると、対話

の余地があった。

そして、一部の精霊達と友好を深めた青年五河士道は、精霊達の力を借り、仮面ライダー

電王として、イマジンとの戦いに身を投じることとなった……。

???「お父さん、お母さんっ!」

蹂躙される町の中、少女は家から逃げ出そうとする両親を見つけて安どの声を漏らした。

少女の家や街は、無茶苦茶に破壊されたが、それでも家族が生きていてくれれば何とかな

る。

そう思い、少女は胸をなでおろす。

「折紙っ!」

両親が少女を見つけて、嬉しそうな声を上げる。

が、次の瞬間。

どこかから飛んで来た銃攻撃が少女の家の屋根を直撃した。

そしてそのまま、屋根が落下してきて、彼女の両親を押しつぶした。

「っっっ……」

たたみかけるように、攻撃が襲いかかり、両親が下に居る屋根を爆破した。

後には、先程まで少女の両親であったろうものの、かけらだけが残った。

「あああああぁぁぁっっっっっ!!!!」

その時、背後でした足音に少女は振り返る。

全身赤と黒で、仮面をつけたそいつは、銃らしきものを持っていた。

「……イマジンっ……!」

「絶対に、許さない。お前、だけはっ!」

幼き少女は、その胸に復讐を誓った。

比企谷「これは……」

鎧武の世界から変わった、一人の美少年の周りに美少女達が楽しそうに笑っている絵を見

て俺は呟いた。

比企谷「デートアライブの世界か……」

由比ヶ浜「で、デートっ!?ちょ、ヒッキー何言ってんの!」

比企谷「つーことは、ライダーが精霊達を倒すってことか……?」

由比ヶ浜「無視しないでよっ!」

雪ノ下「精霊?それは、アンデッドやインベスのようなものととらえていいのかしら」

比企谷「いや……精霊は一概には悪と言えないっていうか……」

由比ヶ浜「うわーん!ゆきのんまでひどいよ~!」

比企谷「っ!!」

頭に強い電流のようなものが流れ、意識を失う。

雪ノ下「比企谷君?」

比企谷(?)「きゃぁぁっ!なんて可愛いんですのっ!」

そう言うと八幡は、思い切り雪ノ下に抱きついた。

由比ヶ浜「えっ、えぇぇぇっ!!?ひ、ヒッキー!なにしてるの!?」

雪ノ下「……」

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのんが言葉を失ってるっ!」

比企谷「きゃぁぁっ!こっちの方も可愛いですわっ!わぁっ!おっぱい大きい!」

そう言うと今度は由比ヶ浜に抱きつき、さらにはその胸に触った。

由比ヶ浜「なっ、なななっ、なにやってるのっ!」

雪ノ下「比企谷君……私に抱きつくだけではなく由比ヶ浜さんにまで……しかも胸を揉む

とは、いい度胸してるわね」

雪ノ下から、ありありと怒りのオーラが湧きあがる。

比企谷「っっ! そんなことより私はお腹がすいたぞ!ハムというのを食べたい!カツサ

ンドでもいいぞ!」

由比ヶ浜「女の子の体を触ってそんなことって、ヒッキーそれ本気で言ってる?」

比企谷「っ! 警戒。なにやら殺気を感じます」

雪ノ下「へぇ、よくわかっているじゃない……なら、これからどうなるかも理解している

わね?」

比企谷「っ!こら、あんた達!勝手に人の体使っちゃだめでしょ!」

比企谷「でも、こんなに可愛い女の子が二人……我慢できませんわぁ」

比企谷「とにかくわたしはお腹がすいたぞっ!」

比企谷「反省、少しやり過ぎたかも知れません」

比企谷「でもさ、士道以外の体に入れるなんて滅多にないし」

比企谷「七罪!あんたさっきは出てこなかったでしょ!」

由比ヶ浜「ヒッキーが、壊れた……」

雪ノ下「完全に情緒不安定ね……」

比企谷「お前らっ!いい加減にしろっ!」

比企谷「はぁっ、はぁっ……」

雪ノ下「比企谷君?」

比企谷「どんな原理かはわからんが、俺の体が乗っ取られたみたいだ」

比企谷「乗っ取られたとは失礼ですわ、少し拝借しただけです。だーりん以外の男性の体

で我慢しているのだから、感謝してほしいくらいです」

比企谷「だから俺から出て行けって言ってんだろっ!」

比企谷「説明。この現象についてお伝えした方がいいと思いますが」

比企谷「え?」

比企谷「だから~、この体使って、あんたら三人に説明してやろうって言ってんの」

雪ノ下「……とりあえず、聞かせてもらおうかしら」

比企谷「確認。その前に質問しますが、あなた方はディケイドと愉快な仲間達ということ

でよろしいですか?」

雪ノ下「とても馬鹿にされている気がするのだけれど……まぁいいわ」

由比ヶ浜「あっ!だからって襲いかかってきたりしないでね!あたし達別に何もしてない

から!」

比企谷「それはこいつの体に入った時になんとなくわかったわ」

比企谷「それじゃ、説明するぞ~」

比企谷「なぁ、その前に何か食べちゃだめか?」

比企谷「リュウタロス、少し黙っててくれる?」

比企谷「その代わりこれが終わったら何か食べるからな!」


比企谷「この世界には、イマジンという怪物がいるの。そのイマジンは、人間と契約して、

過去に跳ぶ。そしてその過去の世界で暴れまわる。過去で壊れた物は、現在でも壊れ、過

去で死んだ人は、現在でもいなくなる。これは確証がないことだけど、おそらくイマジン

達の目的は歴史の改編ではないかと、わたし達は睨んでいる」

雪ノ下「それで、あなた達は……?」

比企谷「返答。私達は、精霊。イマジンと同程度の能力を持った人間だと考えてくれれば

結構です」

雪ノ下「そう……それで、さっきからコロコロと口調が変わるのはなんでなの?」

比企谷「それは私達が……複数の精霊がこの人一人に代わって、主導権を交代しながら話

しているからよ」

比企谷「わたしは夜十神十香、シドーにはリュウタロスともよばれているぞ!」

琴里「私は五河琴里。……モモタロスとも呼ばれているわ」

七罪「七罪、ウラタロスとかいうふざけた名前をつけられた……」

美九「本当にお二方ともお美しいですわぁ……あ、わたくしは十六夜美九ですわ。それよ

りこの後私と……」

夕弦「阻止。それ以上は言わせません。ちなみに、彼女の字(あざな)はジークです。そ

して私は、八舞夕弦、キンタロスという非常に納得のいかない名をつけられました。ぷん

すか」

比企谷「……っ!はぁ……やっと戻れた……」

由比ヶ浜「あ、ヒッキーが元に戻った!」

雪ノ下「その、精霊さん達は比企谷君の中に入らないと話せないの?」

十香「そんなことはないぞ!」

そんな声が後方からしたと思うと、5人の少女がすぐ後ろにいた。

由比ヶ浜「わぁ、すごく美人……」

七罪「うぅ……絶対私以外は、って思われてる……」

美九「そんなことはありませんわ、七罪さんはとーっても可愛いですわ」

琴里「まぁそんなことはどうでもいいとして……でもわたし達、この体でいるとちょっと

不自然なのよね」

雪ノ下「……なるほどね」

雪ノ下が彼女たちの足元を見て言う。

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん!そんなこと言ったら失礼だよ!」

比企谷「いや、雪ノ下が言いたいのはそう言うことじゃねぇだろ」

雪ノ下「足元から、白い砂が絶えず流れおちているわね」

夕弦「首肯。なので皆から怪しまれてしまうのです」

十香「シドーの傍にいたらそんなこともないんだけどな―」

比企谷「で、そのお前達が俺達に何の用だ?」

琴里「最近、なんだかよくわかんないけど時の運行が乱れててね。ディケイドが来たって

わかったから、そのことやこの世界についていろいろ伝えておこうと思って。悪そうな奴

だったら倒すつもりだったけど、そうでもないみたいだしね」

夕弦「懐疑。しかし彼の目はまるで死んだ魚のように濁りきっています」

雪ノ下、由比ヶ浜「くっ……」

雪ノ下と由比ヶ浜が声を合わせて笑う。

雪ノ下「やはりどんな世界にいってもあなたの目は腐っているのね……諸行無常の世界で

変わらないでいるなんて、素晴らしいわ。比企谷君」

比企谷「だからそのちょっといい笑顔で貶すのやめてくれる?傷ついちゃうだろうが」

???「すみませーん」

と、写真館に一人の男が入ってきた。

十香「おお!シドー!」

士道「十香達、こんなとこにいたのか……この人達は?」

七罪「噂のディケイドだってさ」

士道「なっ、ディケイド!?」

琴里「警戒する必要はないわ。彼らにこちらと対立する意思はない」

士道「そ、そうなのか……?」

雪ノ下「どこの世界に行っても、ディケイドが敵視されているのは変わらないようね」

由比ヶ浜「もう!これもヒッキーのせいだからね!」

ええ……俺ベルト渡されただけなんだけど?

比企谷「まぁ、俺達にはこの世界でやるべきことがあるはずなんだ。よろしくな」

士道「あ、ああ。よろしく。俺は五河士道、仮面ライダー電王だ」

比企谷「仮面ライダーディケイド、比企谷八幡だ」

雪ノ下「名を名乗る前にライダーとして名のるようになるなんて……何とも皮肉なものね。

私は雪ノ下雪乃、仮面ライダーナイトよ」

由比ヶ浜「あたしは由比ヶ浜結衣、仮面ライダー龍騎だよ!よろしく!」

五河「全員ライダーだったのか……てっきり俺と折紙の奴くらいだと思ってたんだが……」

雪ノ下「折紙?それは、人の名前ということでいいのかしら?」

五河「ああ、ちょっと変わった名前だけどな。折紙は、仮面ライダーゼロノスに変身して、

俺達と同じように今人達と戦ってる」

その時、三度俺達をコミカルな爆発が襲った。

夕弦「驚愕、ディケイド達の姿が変わりました」

比企谷「ああ、どうやら俺達がこの世界ですべきことに合わせて、服装が変わるようでな。

って、この服装は五河と同じ……っつーことは」

雪ノ下「五河君達の学校に行かなければならない、ということね」

由比ヶ浜「よかったー、ブレイドの世界の時みたいに中学生じゃなくて」

琴里「……あんた達もずいぶん苦労してきたみたいね」

比企谷「まぁ、それなりにはな」

美九「転校生、という扱いになるのでしょうか?」

雪ノ下「以前と同じなら、そうなると思うわ」

五河「なら、今日のうちに挨拶に行っといた方がいいよな。案内しようか?」

比企谷「ああ、よろしく頼む」

由比ヶ浜「ありがとう!」

五河「ここが都立来禅高校。俺達の学校だ」

比企谷「じゃぁ、俺達は職員室に行ってくる。ここまでありがとな」

五河「せっかくだから職員室まで案内するよ」

十香「なぁシドー、私はもうお腹がペコペコだぞ!」

七罪「ここに来る途中にいっぱいおかしかってもらってたのに、まだ食べるのか……」

由比ヶ浜「あんなに食べて太らないなんてうらやましいなぁ」

十香「ん?結衣はお腹いっぱい食べてないのか?それはもったいないぞ!ご飯はな、みん

なで食べるととっても美味しいんだぞ!」

……ぼっち飯も、上手いよ?


比企谷「失礼します」

???「あ、明日から来るっていう転校生ですね。この時期に、しかも三人まとめて珍し

いこともあるんですねー

あ、わたしはあなた達の担任になる岡峰珠恵です。よろしくお願いしますね」

俺達三人はそろって頭を下げる。

雪ノ下「ということは、わたし達三人は同じクラスということですね?」

珠恵「はい、そうです。教科書などはまだ届いていないので、近くの人のを見せてもらっ

てくださいね」

えぇ……ぼっちの俺にはハードル高すぎるんだけど?

忘れ物したって気づいたら人に見せてもらうのが嫌でその時間保健室で過ごすくらいだか

らな……。

ていうか、自分が忘れたくせに俺の教科書見るの嫌がる女子は何なの?

あほなの?こっちだって嫌なんだけど?

雪ノ下「わかりました、それでは明日からよろしくお願いします」

由比ヶ浜「失礼しました―」

学校を出ると、校門の前で五河達が待っていた。

比企谷「どうしたんだ?」

え?まさか俺達のこと待っててくれたの?やめろよ、友達かと思っちゃっただろうが。

琴里「この近くで、イマジンのにおいがする」

由比ヶ浜「イマジンの匂い……?」

十香「琴里は今人のにおいを感じ取れるんだ。犬みたいだな!」

琴里「犬って言うな!」

五河「この近くに、イマジンか、イマジンと契約した人間がいる」

比企谷「ひっかかってたんだが、契約ってなんだ?モンス……イマジンと契約して、その

力で戦ったりするのか?」

五河「イマジンたちの力で戦う……?」

比企谷「あ、いや、違うなら気にしないでくれ。俺達が見てきた中にはそんな世界もあっ

たからな」

五河「ああ、そうなのか。いや、この世界では、人間がイマジンに望みを言って、願いを

かなえてもらった後に、その代償として、その人が最も印象に残っているかこの時間に行

く。そしてそこで暴れまわる」

雪ノ下「願いを、叶える……それはなんだか私達がいた、いえ、ここでは龍騎の世界とい

った方がいいのかしら……?あそこと似ているわね」

琴里「といっても、ろくな叶え方じゃないわ」

十六夜「本当にとんでもないんですわ。お金を欲しいと願った人には、その人の部屋にあ

ふれるほどのお金をもってきて、その部屋に閉じ込めて、お金を使わせないまま無理矢理

過去に跳んだり」

七罪「悪い酒癖を治したいと願った人の望みをかなえるため、その人の酒癖を知っている

人をみんな殺して、それで契約成立と言ったりね……」

由比ヶ浜「そんな……」

比企谷「滅茶苦茶強引だな……」

十香「イマジンと契約しても、絶対にその人にいいことなんか起きないんだ!でもご飯一

杯ほしいな……」

五河「十香……飯ならまたいっぱい作ってやるから」

十香「ありがとうだ、シドー!なら今日の夜ごはんはラーメンがいいぞ!」

五河「はいはい、わかったわかった」

琴里「ちょっと士道!昨日も中華だったじゃない!」

夕弦「拒否、私は今晩は和食がいいです」

七罪「和食なら……海鮮丼がいいな」

美九「私はダーリンが作るなら何でもいいですわ。そしてデザートにはダーリン自身を…

…」

十香「デザート……?デザートなら、プリンがいいぞ!」

琴里「プリン……いいわね」

比企谷「何このハーレム状態……ラノベの主人公って、傍から見たらこんな不愉快なもの

だったの?」

雪ノ下「どうしてかは分からないのだけれど、あなたが言うなという気がする

わ」

えぇ……俺ほどのぼっちスペシャリストはいないと思うんだけど?

琴里「あ、イマジンのにおい消えたわ」

七罪「なにやってんだよ~」

五河「しまった……余計な話をしすぎたな……」

比企谷「じゃぁ今日はこれで解散、ってことでいいか?」

五河「じゃぁまた明日からよろしく!」

由比ヶ浜「ばいば~い!」



珠恵「と、いうわけで今日からこのクラスに編入する比企谷君、由比ヶ浜さん、雪ノ下さ

んです」

俺達が紹介を受けると、教室中が騒がしくなる。

かわいいだの、きれいだの、目が腐ってるだの……。

ちょっと、天丼ネタにしてもいい加減しつこいよ?

珠恵「じゃぁ、ちょうどあいてる席が三つあったので、三人の席はそこになりますね」

なんで?なんで一つのクラスに三つも空き机があるの?

珠恵「それぞれ同性同士の方がやりやすいでしょうから、比企谷君は真ん中の、五河君の

隣に座ってください」

比企谷「わかりました」


五河「よろしくな、ディケ……ここでは比企谷って呼んだ方がいいか」

比企谷「ああ、そうしてくれ。電王だのディケイドだの呼びあってたら完全に頭おかしい

奴らだからな」

そんなので喜ぶのは材木座くらいだろう。

???「士道、知り合い?」

俺達に声をかけてきたのは、五河の前に座っていた、白髪の少女だ。

五河「ああ、ちょっとな」

???「私は、鳶一折紙。……転校生、次の席替えでは、士道の横は譲らない」

比企谷「お、おう……」

しかし、折紙も仮面ライダーということだから、このクラスには5人ものライダーがいる

ことになる。

このクラスは大体30人くらいだから……そう思うとすごいな。

鳶一「ところで転校生、さっき電王とか言ってたけど、あなたは何者なの?」

転校生って……一応さっき自己紹介したんだが……。

いや、良いんですけどね、別に。

比企谷「今、教室でするような話じゃないだろ」

鳶一「確かに……驚愕のあまりらしくないことをしてしまった。後で話を聞かせてほしい」

うん、驚いてても一番に気になるのは五河の隣の席のことなんですね。

ちょっと妬けちゃうだろうが。

昼休み、俺と折紙、五河は人目のない屋上に来ていた。

ちなみに由比ヶ浜と雪ノ下はクラスメイト達に取り囲まれていて、とても連れて行けそう

ではなかった。

ところで俺のもとにはこいつら以外来なかったんだけどどういうことなの?

ていうかこいつらライダー関係者だしな……。

折紙「先程は時と場を考えず失礼した。こちらの事情もある程度知っているようだから、

私も何も隠さない。そちらもそのようにしてくれると嬉しい」

比企谷「ああ、俺達は、この世界のライダー達と対立する気は全くない。というか、こう

いういい方は好きじゃないんだが、俺達はこの世界を救いに来たんだ。いや、ここだけじ

ゃない、15の世界を」

折紙「言っていることが理解できない、詳しく説明してほしい」

比企谷「まず、俺は仮面ライダーディケイドだ。どういうわけか知らないが、ディケイド

はあらゆる世界で敵視されている。俺がこのベルトを手に入れたのは少し前だから、以前

の所有者が何かしたのかもしれないが、少なくとも俺は何も知らない」

折紙「ディケイド……名前くらいは聞いたことがある」

五河「ああ、でもどうしてか……どうやって知ったかわからない」

比企谷「信じてもらえるかは分からないが、俺は、この世界とは別の世界から来た」

折紙「別の、世界?」

比企谷「ああ、精霊もイマジンもいない世界だ。それだけじゃない、他にもいくつも世界

はあるんだ。不死の生物がいる世界や、果物の力を使うライダーがいる世界とかな……」

五河「果物の力って……どうやって戦うんだよ……」

比企谷「オレンジの刀、バナナの槍、ブドウの銃、メロンの盾とか、まぁ色々ある」

五河「すごい世界もあるもんだな……」

比企谷「俺達からすれば、そのイマジンってのが過去に跳ぶってのが信じられ

ない話ではあるんだがな」

折紙「ところで、世界を救う、というのは?」

比企谷「これは俺もまた聞き……と言っても、情報源は信頼できる人なんだが、

この宇宙には、15のライダーの世界があるらしい。そしてその世界が、一つ

になろうとしている」

五河「世界が……一つに?」

折紙「そうなると……どうなるの?」

比企谷「世界が一つになるにあたり、それぞれの世界にいる人たちが死ぬかも

しれない。

現に、俺達……ライダーの世界として言うなら龍騎の世界では、ある日突然大

量のモンスター達が現れた。まさに、地獄絵図と言った感じだ」

五河「そんな……」

比企谷「そこで俺が渡されたのが、ディケイドライバーだ。俺がそれぞれのラ

イダー達の世界をめぐり、そこで問題を解決することで、状況が好転する、ら

しい。

いや、確証はないんだが、それ以外に、方法はないらしい」

折紙「なるほど……正直、信じがたい話だけど……転校生がそんな嘘をつくメ

リットがあるとも思えない」

五河「折紙……いい加減、転校生って呼び方はやめようぜ」

折紙「ごめん士道、士道の名前以外はすぐに忘れてしまう……」

五河「嘘だよな!?十香達のことは覚えてるじゃないか!」

折紙「十香?そんなデカ乳の名前は知らない」

五河「ばっちり覚えてるじゃないか!ていうかお前、そんなこと言う奴だった

っけ?」

折紙「これもディケイドがこの世界に来たせい……」

比企谷「言いがかりにしてもひどすぎるだろ」

折紙「失礼、今のは冗談。ならあなたは……イマジン退治に協力してくれると

いうこと?」

比企谷「ああ、そうなるな。あまり長くはいられないと思うが」

五河「そうなのか?なんだか寂しいな」

比企谷「まぁ、あんまりだらだらやってる余裕はないしな。この旅にタイムリ

ミットがあるかどうかは知らないが、あったとしても、それがいつまでなのか

もわからない。正直言ってめちゃくちゃだ」

折紙「とにかく、私達の目的は同じ。よろしく、ディケイド」

その時、折紙の足もとに砂が湧きあがり、一人の男(?)が現れた。

???「折紙をよろしく!」

比企谷「ば、化け物……?」

???「失礼な、俺は化け物じゃない!」

折紙「デネブ……また勝手に……」

デネブ「俺はデネブ!折紙と契約している精霊だ!」

こんな精霊居たっけ……?いや、少なくとも俺の知る『デート・ア・ライブ』

の世界にはいなかったはずだ。

デネブ「比企谷と言ったな。これ、デネブキャンディーです。どうか折紙と仲良くしてやってくれ」

比企谷「あ、ああ。よろしく」

デネブ「あと、最初に言っておく!俺はおデブじゃない!」

比企谷「え?」

デネブ「モモタロス達は俺のことをいつもおデブおデブと言うからな……まっ

たく……」

ああ、デネブだからおデブ……ねーよ。

五河「デネブは、折紙と一緒に戦う精霊だ」

人の良さそうな奴だな……思いっきり顔は人じゃないし、変な黒ずきんかぶっ

てるけど……。

折紙「デネブ、勝手に出てこないでほしいといつも言ってる」

デネブ「でも折紙は愛想が悪いんだからちゃんと挨拶しておかないと……」

折紙「そうだとしても、それはデネブがすることじゃないでしょ」

デネブ「そんな……」

折紙「いいから、戻ってて」

デネブ「わかったよ……でも折紙、五河に渡した飲み物に媚薬を入れるのはよ

くないと思うんだ」

五河「なっ!これそんなのは入ってたのか!飲まなくてよかった……」

そう言って五河は、手に持っていたペットボトルを見つめる。

折紙「余計なことを……デネブ!早く戻って!」

デネブ「ご、ごめんな……あ、ディケイド、くれぐれも折紙のこと、よろしく

お願いします」

その時、五河の携帯が鳴った。

五河「はいもしもし。あっ、小鳥?ああ、ああ、ああ。わかった、すぐ行く!」

折紙「どうしたの?イマジン?」

五河「ああ!学校近くの公園で三体暴れてるらしい!」

それを聞くと折紙は駆けだした。

俺と五河もそれに続く。




「ハッハッハッハッハッ!」

「ギャハハーッ!」

「最高だぜー!」

公園では、三体のモグラ型イマジンが暴れまわっていた。


折紙「違う……こいつらじゃない……」

比企谷「どうした?」

折紙「いや、なんでもない。戦おう」

五河「あいつらまだか……仕方ない……」

「「「変身!」」」

「Kamen Ride Decade!」

「Altair Form」

電王(士道)「はぁ……この姿で戦うのは……」

ゼロノス(折紙)「士道は下がっててもいい。こいつらは私が片付ける」

電王「そういうわけにもいかないだろ。うおおっ!」

ディケイド(比企谷)「ちょうど一体ずつ、ちょうどいい!」

ゼロノス「イマジンは……生かしておかないっ!」

イマジン「はははっ!」

俺のもとに一匹のイマジンが立ちふさがる。

こいつが俺の相手か……。

比企谷「鎧武の力、使ってみるか」

「Kamen Ride Gaim!花道、オンステージ!」

両手に太橙丸と無双セイバーを持つ。

比企谷「たぁっ!」

その攻撃をイマジンは鋭い爪で受け止める。

だが……。

比企谷「無双セイバーには、こういう使い方もある!」

俺がそのトリガーを引くと、無双セイバーから銃弾が発射される。

イマジン「な、なにぃ!?」

驚くイマジンに、追撃の銃撃を喰らわせる。

イマジン「ぐぉっ!」

ディケイド「はぁぁっ!……あれ、もう弾切れか?」

五発しか打てないのか……。微妙だな……。

イマジン「今度はこっちの番だ!」

こちらの弾がもう無いことを把握したイマジンが、勢い良く迫ってくる。

ディケイド「接近戦ならこれだ!」

「Form Ride Gaim! Pain Arms! 粉砕・デストロイ!」

右手に持つ巨大な武器パインアイアンでイマジンを殴りつける。

とっさに爪でガードしたが、今度の攻撃は受けきれなかったようだ。

ディケイド「まだまだ行くぞ!」

「Form Ride Gaim! Ichigo Arms!シュシュッと、

スカッシュ!」

姿が変わったと同時に発生したイチゴロックシードを無双セイバーにセットす

る。

「Lock On!」

「一、十、百……イチゴチャージ!」

俺が無双セイバーを振るうと、無数のエネルギー攻撃がイマジンに襲いかかる。

イマジン「ガァァァーーーッッ!」

断末魔を上げ、イマジンは爆発した。

ふと、横を見ると、折紙はいまだイマジンと激戦を繰り広げていた。

そして五河は……

電王「ぐぁっ!いたっ!ちょ、ちょっとたんま!がぁぁっ!」

ボロっカスにやられていた。

電王……弱っ!

十香「おおーい!シドー!大丈夫かー?」

電王「お、十香!来てくれたか!」

十香「もちろんだ!今変わってやるぞ!」

電王「すまん、たすかる!」

言うと五河は、ベルトの紫色のボタンを押した。

すると同時に十香の姿が消え、電王が紫色の新たな姿になった。

電王(ガンフォーム)「よくもシドーを……お前倒すけどいいよな?」

イマジン「はぁ?お前みたいな雑魚に」

電王「答えは聞いてないっ!」

言い終わらないうちに、電王は銃攻撃をイマジンに発した。

イマジン「ぐぉっ!」

電王「でぃっ!たぁっ!」

俺が無双セイバーで放った銃弾とは異なり、弾切れなどないようだ。

電王「これで終わりだっ!」

イマジン「ま、待て!」

『Full Charge』

電王「お前の答えは、聞いてないといったっ!」

巨大なエネルギー弾がイマジンを飲み込んだ。

イマジン「うぉぁぁぁぁーーっ!」

ゼロノス「ちゃんと倒した……流石士道」

電王「倒したのはわたしだぞっ!」

ゼロノス「士道の体で倒したんだから、士道の手柄。当然」

電王「そういうことにしておいてやる。わたしは心が広いからなっ!」

ゼロノス「……っ<`ヘ´>」

仮面の上からでも表情がわかったけどどういうことなの?

ゼロノス「早く士道の体から出て。あなたが士道の中に居るなんて気持ちが悪

すぎる」

電王「<(`^´)>なんだと……ふん!言われなくても出ていく!」

さっきから仮面の下で表情のやりとりするのやめてくれない?

士道「ふぅ……助かった、ありがとな。十香」

十香「どういたしまして、だ。シドー!私はそんな星座女よりも役に立つから

なっ!」

星座女……ああ、アルタイルだからか……。

折紙「リュウタロスとか言う名前に言われたくない」

十香「むっ!これはシドーがつけてくれた名前だ!それが気に入らないならシ

ドーが気に入らないってことだからな!」

折紙「心配しなくても、わたしと士道の子供の名前は二人できちんと考えるか

ら大丈夫」

士道「誰もそんな心配はしてないからな!?」

おおっと……俺の存在は完璧に無視されてるの?ステルスヒッキーさすがすぎ

だろ。

そろそろ軍事利用も視野に入れていいレベル。

十香「シドー!早く帰ってご飯にしよう!わたしはもうお腹ぺこぺこだ!」

折紙「士道、わたしも一緒に食べたい。家に行ってもいい?」

士道「ああ、もちろん」

十香「なに!?そいつも来るのか!?ふん、お前の食べるご飯なんかないぞ!」

折紙「私はあなたのような大食漢じゃないから大丈夫」

十香「たいしょくかん?なんだそれは。体育館と図書館が混じってるぞ!」

士道「十香、大食漢っていうのは一杯ご飯を食べる人のことだ」

十香「ふぅん、そうなのか。ならまぁ間違っていないな」

折紙「じゃぁ士道、行こう」

デネブ「折紙!昨日買った睡眠薬をご飯に入れたりしたらだめだからな!」

折紙「このおデブ……」

士道「おい折紙!お前そんなことしようとしてたのか!」

折紙「さぁ……?何の事だかわからない」

よし、ここは黙って退散するとしよう。

この後俺の存在を思い出されて『あ……一緒に来る?』とか言われても悲しい

だけだからな。

徐々にフェードアウト徐々にフェードアウト……からのジョジョ立ち!は、も

ちろんしない。

五河「あ、比企谷!一緒に夕食どうだ?」

比企谷「いやー、俺はあれだから」

こう言っとけば大体オッケーだ。

相手も、言っといた方がいいかな、という社交辞令だろうし。

十香「何か用事でもあるのか?シドーの料理はおいしいぞ!」

折紙「士道と二人きりじゃないなら何人来ても同じ。由比ヶ浜と雪ノ下も呼ん

で、三人で来ればいい」

比企谷「あ、ああ。わかった」

かくして俺達は五河家で食卓を囲むこととなった。

五河「今日は大勢になるから鍋にしたぞー」

十香「鍋……シドー!おじやはするのか?」

五河「おう、十香は好きだもんな」

夕弦「呆然。鍋を食べる前からおじやの話とは……食欲の塊ですね……」

雪ノ下「私達、来てもよかったのかしら……」

雪ノ下が俺の耳元でささやく。

由比ヶ浜「いいんだよ!こういうのはみんなでやった方が楽しいんだから!」

琴里「鍋なら……これを入れないとね」

五河「あっ琴里!やめろ!」

五河の制止も間に合わず、琴里は取り出した十数本のチュッパチャッパスを鍋

に投入した。

七罪「おい!闇鍋じゃないんだぞ!」

琴里「はぁ?鍋なんだから飴ぐらい入れるでしょ」

『だから』の使い方間違えてませんか?

何とも言えない空気が広がる。

モツに……飴って……。

ちょっとしたうんこよりまずいだろ、これ。

五河「出汁のかえ、ないぞ」

十香「ん?食べればいいじゃないか!鍋もあめもおいしいから、二つ合わせた

らもっとおいしいぞ!」

何そのカレーをラーメンにかけちゃいそうな理論……。

美九「十香さん、食べ物には相性という物が……」

十香「うん!おいしいぞ!」

七罪「大食漢の上に、悪食だったのか……」

五河「ま、まぁもしかしてということもあるからな」

そう言って五河は、恐る恐るあめを口に含む。

折紙「士道、不味かったら私に口移しするといい」

美九「まぁ!そんな抜け駆けはさせませんわ!」

士道「……ん?意外と美味いぞ」

士道がそう言うと、それに折紙が続く。

折紙「……おいしい。プリンにしょうゆをかけたらウニになるような……」

プリンに醤油をかけても、ただの醤油の味が混ざったプリンだからね?

しかし、いつまでも黙ってはいられないので、みな怯えながらも、鍋の出汁が

しみこんだあめを食べる。

比企谷「まぁ……不味くはないが……」

不味くはないが、かといって決してうまいわけでもない。評価に困る味だ。

雪ノ下「まあ、由比ヶ浜さんの料理に比べれば……」

比企谷「ああ、そう思えばいくらでも食えるな」

由比ヶ浜「どういう意味だっ!」

なんだかんだと盛り上がりながら、俺達は夕食を終えた。

由比ヶ浜「おじゃましましたー」

俺達は一礼して、五河家を後にした。

「お前の望みを言え、どんな望みもかなえてやろう。

お前が払う代償はたったひとつ……」

???「はわわっ!おっ、おおっ!おばけっ!」

「……騒ぐな。俺はお化けではない。早く望みを言え。どんな望もかなえてや

る」

???「ええー……本当ですかぁ?じゃぁ、若くてカッコイイ子と結婚したい

です!

三十路を目前に控えて両親がうるさくて……」

「お前の望みは聞いた。待っていろ、すぐに叶える」



五河「よぉ、おはよう比企谷」

翌日登校してきた俺に五河が声をかける。

ちなみに、妙な噂を立てられるのを嫌って、あえて雪ノ下達とは登校時間をず

らしている。

比企谷「おう」

五河「今日タマちゃん休みだってさ」

比企谷「タマちゃん……漫画の話か?」

五河「ああそっか、昨日来たばっかだもんな。タマちゃんってのはこのクラス

の珠恵先生のことだよ」

比企谷「ああ、あの人か」

そして、俺達には特になにが起こるでもなく、最後の授業が終わった。

折紙「士道、ちょっと見てほしい物がある。比企谷も」

五河「ん?どうした?」

折紙「このニュースを見てほしい」

そう言って折紙はスマホを差し出してきた。

折紙「今日になって急に、若い男性のみを狙った拉致事件が立て続けに起きている。怪物のようなものが現れたという目撃者もいる」

比企谷「……イマジンか」

折紙「契約者探しに協力してほしい」

比企谷「契約を成立させる前に止められれば、過去には飛ばれないんだよな」

折紙「そう。それに、契約前ならイマジンの力も弱い」

五河「つっても契約者探しはなかなか難しいからな……イマジン探しながら、

砂が落ちてる人を探すって感じになるか」

折紙「それがいいと思う」

比企谷「よし、わかった。由比ヶ浜と雪ノ下にも頼んでみる」

折紙「助かる」

五河「じゃぁ行こう!」

かくして俺達はイマジン探しに乗り出した。

しかし……捜索か……どうしてもそのような作業は人に聞いた方が効率がいい。

が、ぼっちの俺にはそれは難しい。

相模の時は、あいつの性格と目的、バックヤードがある程度分かっていたから

できたものの……。

空を飛ぶようなイマジンなら、目につきやすいだろうが……。

一時間ほど奔走するが、イマジンの姿は見当たらない。

毎日の自転車通学とライダーバトルでいくらか体力がついたとはいえ、さすが

に疲れてくる。

と、その時。

???「ふん……お前は条件に合っていそうだな。目が濁りきっているが……

まぁ許容範囲か」

そいつは、突如現れた。

全身の色は赤く、獅子の様なたてがみがある。

間違いない、イマジンだ。

比企谷「ついには化け物にまで腐ってると言われるとはな……」

レオイマジン「俺の姿を見て驚かないとは……おどろいたな。貴様、何者だ?」

比企谷「……」

おっと、久しぶりか?このセリフ。

比企谷「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!」

「Kamen Ride Decade!」

イマジン「電王やゼロノス以外にライダーがいたとは……まぁいい!契約の為、

無力化する!」

契約?俺を連れていくことが契約?

しかし俺はこの世界に来たばかり。なぜ俺を……?

「Attack Ride Blast!」

いくつもの銃弾を、イマジンは俊敏な身のこなしで見事にかわす。

比企谷「なに!?」

イマジン「甘いっ!」

近づいてきたイマジンが、その爪で俺の胸をえぐる。

比企谷「速い……」

イマジン「このスピードについて来れるか?」

ディケイド「ああ……一瞬だけだがな!」

「Attack Ride Mahha!」

ブレイドの力を使い、高速移動からのパンチを叩きこむ。

イマジン「ぐぉっ!」

ディケイド「次はこいつだ」

「Attack Ride Advent」

「Attack Ride Strike Vent」

立て続けに二枚のカードを使い、炎で攻撃する。

イマジン「ちぃっ……」

しかし、致命的なダメージは与えられていないようだ。

比企谷「だったらこれをくらえ!」

「Final Attack Ride De De De Decade!」

俺が必殺の一撃を撃とうとしたその時、イマジンが急接近し、ジャンプする直

前に強烈なパンチをくらう。

俺は思い切り宙を舞い、背中から勢いよく落下する。

ディケイド「んのやろぉ……」

俺が立ち上がると、そこにはすでにイマジンの姿はなかった。

俺は、イマジンを見つけ、逃亡された旨を皆に伝える。

こんな時グループ通話機能はとても便利だ。

比企谷「ああ、ああ、そういうことだ。ライオンっぽくて、赤いイマジンだっ

だ」

折紙「!!!!!?赤いイマジン!!?」

比企谷「ん?あ、ああ」

突如折紙が声を荒げた。

折紙「……あいつかもしれない……」

最期にぼそりと呟いて、折紙は一人電話を切った。

イマジン「思わぬ戦闘になったな……」

契約を果たす為若い男を連れ去ろうとしたレオイマジンは呟いた。

彼の契約者は岡峰珠恵。

イマジンにとっては知るはずもないことだが、士道達のクラスの担任の教師だ。

契約内容は、彼女と結婚するにふさわしい男性を連れて来ること。

三十路を目前に控える独身女性の悩みなど彼にわかるはずもない。

いや、彼にとっては人の望みなどどれも等しく無価値ではあるのだが。

と、彼は新たなターゲットを見つけた。

人間達が言うイケメン、というレベルには十分達しているように思われた。

イマジン「ククク、次はお前をさらうことにしよう」

士道「イマジンっ!」

士道は身構える。

と、イマジンは彼の腰にベルトを見つけた。

イマジン「またライダーか……俺もなかなか運がないな」

士道「これが比企谷が言ってたやつか……って、俺が勝てるわけないだろ……」

イマジン「なにをごちゃごちゃ言っている!」

士道「うぉぉっ!変身!」

イマジン「電王か……しかし、随分貧相だな!」

イマジンの拳を受け止めきれず、士道は吹き飛ばされる。

イマジン「……?お前、本当に電王か?弱すぎる……」

電王「くそっ!俺だってわかってるんだよ!」

士道は拳を繰り出すが、それはいかにも戦闘慣れしていない物のそれだった。

イマジンはかわす必要も認めず、その拳に蹴りをかぶせる。

その威力は比べ物にならない。

電王「いって!いった!っくそ……」

イマジン「もう終わらせる!」

イマジンはとどめに、士道の腹に蹴りを喰らわせる。

士道「うっぐ、うぅ……」

あっという間に、士道の変身が解除される。

イマジン「さて……これでいいか」

イマジンは士道を抱え、契約者のもとに急いだ。

イマジン「お前の望みどおり、若い男を連れてきたぞ」

???「ちょ、ちょっと待ってください!わたしがお願いしたのは……」

士道「って、せ、先生!?」

士道は驚愕した。

イマジンの契約者らしき人物は、彼の担任、珠恵だったからだ。

イマジン「いい加減にしろ、これで何人目だ……これで、契約成立だっ!」

イマジンが叫ぶと、珠恵の体が二つに割れた。

そしてそこに、イマジンは飛びこむ。

士道「くそっ!契約成立かっ!」

士道は珠恵の頭に、一枚のカードをかざす。

すると、そのカードにはレオイマジンと、日付が浮かび上がった。

士道「これは……五年前か……早くみんなに伝えないと」




五河の連絡を受け、俺達は彼のもとに集まった。

最後に来たのは折紙だ。

折紙「士道!そのカードを見せて!」

士道「あ、ああ」

折紙は半ば奪い取るように、そのカードを手に取る。

折紙「この日付……それに、赤いイマジン……とうとう、見つけた!」

そう叫ぶと折紙は、彼女専用の時をかける列車『ゼロライナー』を呼んだ。

折紙「仇を……討つっ!」

そう言い残して折紙は、一人列車に乗り込んだ。

デネブ「あっ、ま、待って折紙っ!」

士道「どうしたんだ……折紙の奴」

琴里「とにかく、私達も行くわよ!」

士道「ああ!比企谷たちも乗ってくれ!」

士道が言うと、先程と同じように、何もなかった空間から列車がやってきた。

士道「これが、時をかける列車、デンライナーだ。これで俺達は過去に向かう。比企谷た

ちもこれに乗ってくれ」

由比ヶ浜「電車で過去に……」

雪ノ下「信じがたいわね……」

比企谷「ここが、五年前……」

今までいたのと同じ町だが、よく見るとところどころ違いが見て取れる。

士道「あっ、折紙!お~~い!」

いつもなら士道の声にはすぐに反応する折紙だが、なぜだか今回は何の反応も示さない。

まるで俺が他のクラスメイトにされているような……。

折紙「お父さん、お母さん……やっと……」

俺達が走る折紙の後を追いかけていると、折紙が急にその足をとめた。

前方には、赤い姿のイマジンが立っている。

その近くには倒壊している建物がいくつもある。

間違いなく、あいつの仕業だ。

折紙「赤い、イマジン……お前がぁっ!」

「Zero Form」

すると折紙は、前に変身したのとは違う、真っ赤な姿へと変身した。

士道「折紙、あんな姿に……」

琴里「見たこと無いフォームね……」

ゼロノス「はぁあああっっっ!」

折紙は、両手で持ったライフルを乱射する。

攻撃は広範囲に広がり、逃げ場がない。

イマジン「ぐぉぉっ!」

ゼロノス「たぁぁぁっっっ!」

次に折紙が放ったのは、巨大でいかにも威力のありそうな一撃だ。

ゼロノス「たぁっ!はぁっ!ぜぁぁっ!」

その攻撃を的確に、相手が動くであろう地点を予測して打ちこむ。

比企谷「圧倒的だ……」

雪ノ下「私達の出る幕なんて、なさそうね……」

イマジン「くそっ!いったんここは……ぐふっ!」

ゼロノス「逃がすかっ!」

逃亡を図ろうとしたイマジンに再び砲撃を食らわし、さらに接近して拳を撃ちこむ。

士道「なんて闘志だ……」

鬼気迫るその姿は、味方であるはずの俺達まで戦慄させる。

雪ノ下「そう言えば、仇、とか言っていたわね」

比企谷「あのイマジンは……あいつの大切な人を傷つけた、か、殺したって、

ことか……」

そうだとすれば、あの折紙の態度もうなずける。

ゼロノス「消っ、えっ、ろぉぉっ!」

折紙は再び乱射モードでイマジンをくぎ付けにし、とどめに超威力の一撃を放った。

イマジン「グッ、ガァッ、ガァァァアアアアッッ!」

イマジンは、跡形もなく消え去った。

折紙の攻撃はすさまじく、周囲の建物がほとんど倒壊していた。

広範囲の銃撃のせいだ。

これでは、何のためにイマジンを止めるのか分からない。





ゼロノス「はぁっ、はァッ、……やった、ついに、やった!」

お父さんとお母さんを殺した、憎き赤いイマジンの仇を取った。

と、そんな折紙の前に、一人の少女が立っていた。

白い美しい髪を持った小学生高学年くらいの少女は、憎しみをその両目にたぎ

らせて、折紙を睨んでいる。

少女「……イマジンっ……!」

少女「絶対に、許さない。お前、だけはっ!」

あれは……わた、し?

でも、わたしはイマジンなんかじゃない……。

イマジンを倒す、仮面ライダー……。

折紙は、自分の姿を見つめた。

腕、足、ボディ。

ところどころに菌が入っているが、そのほとんどは、深紅。

そして、右手に持っているのは、巨大なライフル。

ゼロノス「そん、な……これって、これって……」

この姿は、わたしの両親を殺したイマジンの姿。

仮面ライダーと今人など、予備知識がない者が見たら、区別などつかないだろう。

ゼロノス「わた、しが、お父さん……を……お母さん、を……」

その時、折紙の意識は無くなった。

ゼロノス「うわぁぁぁぁぁああああああっっっっ!!!!!」



士道「どうした!?折紙っ!」

折紙の叫び声を聞いた士道が彼女のもとに駆け付ける。

ゼロノス「ああああああああっっっ!!!」

「Nega Gao G Zero    End Form」

折紙が携帯電話のようなものを取り出したかと思うと、闇色の姿に変わった。

比企谷「これ……そうとうやばいな」

雪ノ下「とにかく、変身しましょう!このままじゃ危険だわ!」

「「「「変身!」」」」

「Kamen Ride Decade」

「Sword Form」

電王「これが……正真正銘のクライマックスの様ね」

と、ゼロノスの体から、何かが出てきた。

デネブ「みんな!折紙を助けてくれ!」

電王「デネブ!無事だったのね…… 助けるって言っても、どうすれば……」

デネブ「今、折紙は邪悪な意思に乗っ取られている。今の折紙を倒せば、元に

戻るはずだ!

だから、折紙を倒してくれ!」

ディケイド「なるほど、大体わかった」

龍騎「いくよっ!」

「Sword Vent」

ナイト「みんな、耳をふさいでっ!」

「Nasty Vent」

由比ヶ浜が走りだし、それを援護する形で雪ノ下が超音波攻撃を放つ。

普通なら、超音波で姿勢を崩した敵に、由比ヶ浜の攻撃が直撃するはずだ。

が、しかし。

ゼロノス(エンドフォーム)「あああぁぁっ!!!!」

しかし、折紙には一切聞いた様子がなく、楽々と由比ヶ浜の攻撃を受け止める。

そしてもう片方の手で、由比ヶ浜の腹部に拳を叩きこむ。

龍騎「うっ……」

ナイト「たぁぁっ!」

「Sword Vent」

ディケイド「援護する!」

「Attack Ride Blast」

雪ノ下が敵にたどり着く前に、ゼロノスへ銃撃を撃ちこむ。

ゼロノスは華麗な身のこなしで俺の攻撃をかわし、持っていた剣をライフルモ

ードに変形させ、雪ノ下へ撃つ。

ナイト「くっ!」

電王「わたしを、わすれてるんじゃないっ!?」

電王が空中から斬りかかる。

意表をついたはずのその攻撃に対し、ゼロノスは剣を再びソードモードへと切

り替え、空中に向けて大きくふるった。

衝撃波が発生し、電王に直撃する。


電王(七罪)「次は私がっ!」

「Lod Form」

先程までとは逆に、体の色が赤から青に変わる。

電王(ロッド)「私につられてみる?」

そう言うとさお嬢の武器をゼロノスに投げつける。

ゼロノスはそれを両腕を交差させて受ける。

すると青色の、フィールドのような物が広がる。

電王「たぁっ!」

それをめがけて、電王は飛び上がり、急降下キックを繰り出す。

ゼロノス「だぁぁっ!」

だがその攻撃も正面から受け返す。

ディケイド「くっ!いったん離れろっ!」

「Form Ride Gaim! イチゴアームズ!シュシュッと、スカッ

シュ!」

そのままイチゴロックシードを、無双セイバーにセットする。

「Lock On! 壱・十・百……イチゴチャージ!」

無数のエネルギー弾がゼロノスを襲う。

デネブ「俺も援護する!」

デネブも、両指からビームを発射する。

ゼロノス「だぁっ!」

ゼロノスは、背中に装備していたライフルを素早く持ち、ビーム上の巨大な一

撃を放つ。

これにより、ゼロノスに当たるはずだった攻撃が全て消滅する。

それだけではない、俺達の攻撃を打ち破ったそれが、迫ってくる。

俺とデネブはとっさに退避する。

龍騎「今のうちにっ!」

「Strike Vent」

ビームが向かっているのとは別の方向から由比ヶ浜が炎攻撃を浴びせる。

ゼロノス「っっっ!」

電王(夕弦)「交替。次は夕弦が行きます」

「Ax Form」

すると電王が今度は、黄色の姿へと変わる。

手には大きな斧を持っている。

電王「宣告。私の強さにあなたは泣きます。涙はこれでふいておいてください」

そう言うと、真っ白なちり紙のような物を撒き散らした。

電王「攻撃。……ダイナミックチョップ!」

電王は大きく跳び上がり、重力を利用して斧を振り下ろす。

超威力の一撃だ。

ゼロノス「……」

ゼロノスは黙ってライフルを空中に向けて構え、そのまま乱射する。

電王「ぅっ!」

そのまま飛び上がり、剣で切りかかる。

ナイト「ダークウイング!」

「Advent」

すんでのところでそれを、雪ノ下のダークウイングが止める。

電王「謝罪。申し訳ありません……ピンチです」

電王(十香)「よーーし!わたしの出番だな!折紙のバカをぎゃふんと言わせて

やるぞっ!」

「Gun Form」

電王「お前倒してもいいよな?答えは聞いてないっ!」

先程も見た、紫の姿に変わり、右手に銃を持つ。

十香は巨大なエネルギー弾を撃ち込む。

ゼロノスはそれに対し、より大きな銃撃で応戦する。

相手の攻撃を飲み込み、さらに威力を増したその攻撃が十香を襲う。

電王「うっ、ううっ……お昼に、カツサンドさえ食べていればこんなことには……」

これ……、相当やばいな。

「Form Ride Gaim! ミックス!ジンバー・ピーチ!」

ソニックアローを連射し、ゼロノスの注意をこちらに引きつける。

ディケイド「まだまだ行くぞっ!ゼロノス!」

右手にソニックアロー、左手に無双セイバーを持つ。

そして、ゼロノスに走って接近する。

ディケイド「うぉぉぉっ!」

トリガーを引いて無双セイバーをガンモードにする。

そしてそのまま、5発のエネルギー弾を撃ち込む。

弾切れになった無双セイバーをソードモードに戻すと同時、ソニックアローを引き、エネ

ルギーの矢を発射する。

それは見事ゼロノスの胸部に命中する。

ここからがこの技の真骨頂だ!

無双セイバーとソニックアローを同時に振り下ろす。

その斬撃が見事ゼロノスに命中する。

二つの武器で射撃と斬撃をスピーディーにスイッチする。

これが俺の、ひそかに温めておいた必殺技、

ディケイド「無双ソニック乱舞!」

最後にもう一度振り下ろし、振り返る。

俺が少し腰を下げると、後方で爆発が起きた。

それほどに高威力の技なのだ。

と、勝利を確信した俺は次の瞬間、

ディケイド「がっ!」

その背を思い切り切りつけられた。

吹き飛ばされながら後ろを見ると、そこには全くダメージを感じさせないゼロノスが立っ

ていた。

電王(美九)「全く、あれだけかっこつけておいて情けない……私が行きますわ」

「Wing Form」

電王「降臨……満を持して」

無数の羽が宙に舞う。

真っ白なその姿は、どこか神々しさすら感じさせる。

ディケイド「ん?」

しかし、他のフォームとは違い、武器は持っていないようだ。

電王「はぁっ!」

電王が腕を振るうと、新たに羽が舞い上がり、ゼロノスに向かっていく。

そしてゼロノスに触れた途端、その一つ一つが爆発する。

なるほど……これなら武器はいらないな。

羽は次から次に向かっていき、絶えず爆発が起きている。

電王「フフフ、楽勝ですわっ!」

と、勝利を確信した電王のもとに。

爆発によって生じた煙幕から剣がつきだされ、その腕をかすめる。

電王「なっっ!」

ゼロノスの攻撃は留まることを知らず、電王の体を痛めつける。

ナイト「くっ!やらせないわっ!」

由比ヶ浜「やぁぁっ!」

援護すべく雪ノ下と由比ヶ浜が向かうが、距離が離れており、その間にも電王はダメージ

を受け続ける。

俺は銃攻撃を使えるが、あんなに接近していては間違いなく電王にあたってしまう。

ゼロノス「仇……私が、仇……ううううううっっ!」

電王(士道)「がぁぁぁっっっ!」

最初の弱々しい姿に戻った士道が宙を舞う。

電王「くそっ……プラットフォームに……」

ゼロノス「私が、仇……全てが、仇……?全て、壊すっ!ああああああああっっっ!」

ゼロノスは叫び、狙いも付けずに無茶苦茶に銃を乱射する。

次々と建物が倒壊していく。

電王「やめろ折紙ぃっ!絶望に、呑み込まれるなぁっ!」

まるで折紙に対抗するかのように、士道が叫んだ。

電王「どんなに苦しくても、必ず希望はあるっ!いや、俺がお前の最後の希望になってや

る!だからもう、絶望なんてするなぁっ!」

一瞬だが、折紙の攻撃が止まった。

そして俺の白黒だったカードに、鮮やかな色が描かれていく。

ディケイド「よし……ちょっとくすぐったいぞ?」

電王(士道)「え?」

「Final Form Ride De De De 電王!」

俺が電王の背中に触れると、その体が何と、五つに分かれた。

「Sword Form」

「Lod Form」

「Ax Form」

「Gun Form」

「Wing Form」

「私達の、クライマックスよ!」

「私達につられてみる?」

「注告。夕弦達の強さは、泣けますよ?」

「今度こそ倒すけどいいよな?答えは聞いてないっ!」

「再臨。満を持して」
ディケイド「これで、終わりだっ!」

「Final Attack Ride De De De 電王!」

雪ノ下「私達も行きましょう」

由比ヶ浜「うんっ!」

「「Final Vent」」

八人が全く同じタイミングで飛び上がり、それぞれキックのポーズをとる。

「「「「「「「「ハァァァアーーーーーッッッ!!!!!!!」」」」」」」

その攻撃を、ゼロノスは両手で受け止めようとする。

しかし、それは一秒ともたなかった。

思い切り吹き飛ばされたゼロノスは、この戦いで最大の爆発を放った。

士道「折紙っ!」

士道が駆けよりその体をゆすると、

折紙「……士道……」

士道「折紙っ!よかった……」

折紙「ねぇ士道……私は、お父さんとお母さんを、殺してしまった……」

士道「ああ……」

折紙「私は、生きていていいの……?」

士道「当たり前だっ!不安になったらいつでも俺に頼れ!絶対に、お前の希望になってみ

せるから!」

折紙「……ありがとう」

そう言うと折紙は、ゆっくりと目を閉じた。

士道「折紙っ!?おい、しっかりしろ!」

琴里「しっかりしろはあんたよ、士道。大丈夫、ただ眠っただけ」

士道「そっか……よかった……」




比企谷「何とかなったようだな」

雪ノ下「ええ、そうね」

由比ヶ浜「うんうん、よかったよかった!」

と、俺達の体が足元から薄くなり始める。

十香「し、シドー。あ、足が消えかかっている!比企谷たちは幽霊だったのか!?」

士道「……そうか、もう行くのか」

比企谷「ああ、また新たな世界に行かなければいかないらしい。全く、休まる暇がない」

士道「ありがとう、比企谷たちが来てくれなかったら、きっと折紙のことも止められなか

った」

デネブ「本当にありがとう!これ、お礼の飴だ!」

由比ヶ浜「わ、おいしそう!ありがと!」

士道「……世界を、頼む」

比企谷「まさかそんなセリフを言われる日が来るとはな」

雪ノ下「あなたには荷が重すぎるわね」

比企谷「全くだ……ま、やれるだけやってみる。お前がこの世界を守ることが、無駄にな

らないようにな」

雪ノ下「……何をかっこつけてるの?」

由比ヶ浜「ヒッキーまじきもい!」

比企谷「うるせぇ、たまにはそんなこと言いたい日もあんだよ」

と、胸の部分まで薄くなってきた。

比企谷「っと、いよいよか。じゃあな、また、いつか」

士道「ああ!またな!」

最後に写真を撮ると、そこには一人の青年と、その周りに立つ5人の少女が笑っている姿、

が映った。

電王の世界を去り、再び俺達は光写真館の中に戻っていた。

すると、電王の世界の掛け軸が、新たな絵柄に変わった。

比企谷「な、なんだこの絵……」

それは、チンチン丸出しの幼稚園児が、ロケットにまたがっているという、な

んともシュールな絵だった。




由比ヶ浜「え、ええぇぇっ!?な、なんでこの子、まるだしなのっ!?しかもロケットっ

て、意味わかんないっ!」

雪ノ下「この年くらいなら、公然わいせつ罪になることもないでしょうけど……」

由比ヶ浜「ゆきのん!冷静に分析してる場合じゃないよぉ!」


比企谷「なるほど……ここは、いぬまるだしっ!と仮面ライダーフォーぜが融合した世界

のようだな」

由比ヶ浜「いぬまるだし?」

比企谷「あそこ丸出しの幼稚園児が主人公のギャグ漫画だ」

雪ノ下「……端的に聞くけれど、それは面白いの?」

比企谷「ああ、かなりな」

由比ヶ浜「ほんとに?」

比企谷「だから言ったじゃないですか~! どんでんどんでんっ!」

由比ヶ浜「ひ、ヒッキー……」

雪ノ下「またイマジンに憑依されたの?」

比企谷「いや、これはいぬまるだしに出てくる南田まさおっていう芸人のギャグだ」

由比ヶ浜「ヒッキーってそういうことやるキャラだっけ?」

比企谷「いや、せっかくこの世界に来たからやっとこうと思ってな」

雪ノ下「とても不快なのだけれど」

不快とまで言うか……。

と、再び俺達を奇妙な爆発が襲った。

雪ノ下「これは……」

由比ヶ浜「幼稚園の先生の服だ!やった!あたし子供大好き!」

雪ノ下「子供が好きだからといって教師が務まるというわけではないわ」

由比ヶ浜「うっ、ゆきのん辛辣!」

比企谷「由比ヶ浜が……」

雪ノ下「そんな難しい言葉を使うなんて……」

由比ヶ浜「二人ともっ!バカにしすぎだからぁっ!」

比企谷「つまり俺達は……またたび幼稚園に行けばいいのか」

由比ヶ浜「またたび?」

比企谷「そのまるだしの子……いぬまるがいる幼稚園だ」

由比ヶ浜「その子って……いつも丸出しなの?」

比企谷「ああ。パンツを履くくらいなら痛車に轢かれる方がましなんだと」

雪ノ下「痛車?」

比企谷「車体にアニメの絵なんかをでかでかと書いた車のことだ」

由比ヶ浜「それは……相当だね」

雪ノ下「何としてもわたしが矯正して見せるわ」

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのんが不敵な笑みを浮かべているっ!」

比企谷「あー、雪ノ下、一応言っとくが、園児相手に無理やり何かさせることがないよう

にな」

雪ノ下「そのくらいわかっているわ。あなたこそ園児に変なことをしないようにね、ロリ

ヶ谷君」

比企谷「お前は俺をなんだと思っているんだ……」




雪ノ下「ここがまたたび幼稚園ね」

???「ふぅ~、ふっふぅ~!」

???「待て~いぬまるー!」

由比ヶ浜「あ、あの子がいぬまる君だね」

雪ノ下「本当に丸出しなのね」

いぬまる「クソスベリ豚野郎の愛称で親しまれているふとしくん、ここまでおいで~!」

ふとし「そのあだ名は絶対に親しまれてないだろ……ぐぉっ!誰だここに落とし穴掘った

奴!」

*いぬまる……チンチン丸出しの幼稚園児。謎の人脈を持っている。仮面ライダーフォーぜに変身する。

ふとし……いぬまるの友達。本名はたかしだが、なぜかふとしと呼ばれている。(太っているからという説が最も有力)。よくいぬまるの掘った落とし穴に落ちる。

いぬまる「ふぅわっ!ふうわっ!」

???「こらー!いぬまる君!ふとしくん!もう遊びの時間は終わったのよ!

教室に入りなさい」

いぬまる「あっ、たまこせんせー!」

たまこ……本名山田たまこ。いぬまるたちのクラスの担任。ゲームが好きで、男の影が一切見えない。貧乳。休日に園児につきあうほど暇。

たまこ「もう、遊んでばっかりじゃダメよ」

いぬまる「そ、そんなのゆとり教育じゃないっい!」

たまこ「な、なんという社会への甘え!」

いぬまる「ねーたまこせんせー、今日ゴッド水谷会長が釈放されるから早く帰って会いに

行ってもいい?」

*ゴッド水谷……『平和すぎる世界を目指す会』の会長。ネズミ溝をやっていて捕まった、変な宗教団体の会長。

たまこ「ダメ!ていうかもう釈放かよ!早すぎるだろ!」

いぬまる「ん~とねー、仮釈放で、その間にネズミ溝でお金をためるんだってー」

たまこ「全然反省してねぇじゃねーか!」

雪ノ下「なんだかすごい幼稚園ね」



由比ヶ浜「あ、すみませーん」

由比ヶ浜がたまこ先生に話しかける。

たまこ「はい……あっ、もしかして今日から実習に入る人達ですか?」

由比ヶ浜「はい!おねがいします!」

いぬまる「たまこ先生より若いのに胸が大きいですなぁ」

たまこ「こら!いぬまるくん!」

いぬまる「せっかく来たんだから何か食べて言ってね!ちっちゃいバナナくらいしかない

けど」

そう言っていぬまるは、股を開いた。

そして再び立ち上がる。

いぬまる「って、誰がちっちゃいバナナだー!  どっ!」

たまこ「どっ、じゃない。誰も笑ってないでしょ」

いぬまる「あっ、あっちの人はたまこ先生と同じで貧乳だよ!よかったね、たまこせんせ

ー!」

そう言われて雪ノ下のこめかみがピクリと動いた。

雪ノ下「いぬまる君……こんな物には何の意味もないのよ。それどころか、運動する時な

どは邪魔になるだけよ。それを皆が価値ある物のように言うからこのような間違った……」

比企谷「おい雪ノ下、子供のいったことにそんなムキになるな」

雪ノ下「別にムキになんてなっていないわ」

ふとし「あの……そろそろ落とし穴から出してくれない?」

たまこ「あっ、ごめんねふとしくん」

ふとし「うん……あと俺の名前たかしだから」

いぬまる「人の名前を間違えるとはなっておりませんなぁ!」

ふとし「いや、最初にふとしって呼んだのお前なんだけど」

たまこ「と、とにかく!園長先生のところに案内しますね!」



園長「はぁ~……往年の宮沢理恵のように激やせしたいわ~」

*園長……またたび幼稚園の園長。メタボの独身。イケメンが大好き。メガネ。

たまこ「寝ころんでポテチ食べながら何言ってるんですか……実習生の子たち連れてきま

したよ」

園長「はっ!」

そう言われて園長は即座に姿勢を正す。

たまこ「もう遅いと思いますけど……」

園長「今のはちょっと休憩してただけよ」

由比ヶ浜「あ、あはは」

園長「私はこの幼稚園の園長よ。よろしくね」

そう言えば園長って名字ないもんな……なに?じつは天皇家なの?

由比ヶ浜「由比ヶ浜結衣です。よろしくお願いします!」

雪ノ下「雪ノ下雪乃です。いぬまる君に、パンツをはかせてみせます!よろしくおねがい

します」

園長「そ、それは無理だと思うけど……」

雪ノ下「ですがこのまま成長しては、犯罪になってしまいます」

園長「そ、それはそうだけどね」

比企谷「比企谷八幡です。よろしくお願いします」

と、俺達が色々と説明を受けていると、

???「せんせー大変!運動場に忍者の格好した変なのが出たー!」

たまこ「あっ、つばめちゃん!どうしたの?」

*ツバメちゃん……いぬまる君と同じクラスの女の子。マセている。

つばめ「だから言ったじゃないですか~!忍者っぽいのが出たって言ったじゃないですか

~!」

園長「大変!誰も怪我してない!?」

つばめ「今はマスター・ザ・エロスがぼこぼこにされてる」

*マスター・ザ・エロス……またたび幼稚園ができる前活躍していた覆面レスラー。

下品な技ばかりを使うので、人気は全くなかった。その正体は、またたび幼稚園の理事長。

園長「ああ、ならいいか」

たまこ「いや、よくないでしょ!」

園長「うるさいわね……中華『幸楽』の開店時間過ぎてるわよ?」

たまこ「角野卓造じゃねーよ!」

由比ヶ浜「怪物が出ても、全然あわてていない」

雪ノ下「すごいわね……」

いぬまる「ふうわっ!ふうわっ!」

由比ヶ浜「あっ、いぬまる君!どこ行くの!?」

いぬまる「運動場!ー」

由比ヶ浜「あ、危ないよ!」

いぬまる「だいじょうぶだよー」

比企谷「俺達も行こう!」

雪ノ下「ええ!」

ツバメちゃんが言った通り、二十体ほどの忍者のような者たちが、覆面をかぶったパンツ

一丁の男をいたぶっていた。

マスターザエロス「ぐぉぉっ!」

いぬまる「お~~い、ふとしく~ん!」

いぬまるは運動場から、教室の中に避難していたふとしの名を呼ぶ。

ふとし「もぉ~……なんで変身する時いっつも俺が行かなきゃいけないんだよ~」

文句を言われながらもふとしくんはいぬまるのもとに向かってくる。

すると、

ふとし「ぐぉっ!」

再びふとしは、落とし穴に落ちた。

ふとし「もぉ~!誰だよこんな時にまで。うわっ!いぬのうんこはいってる!」

いぬまる「それは犬のうんこじゃなくて僕のうんこさ!」

ふとし「え~?なんでお前のうんこが入ってんだよ~」

いぬまる「そんな小さいことはどうだっていいのさ!」

ふとし「ええ~……?」

なにやってんだ……。

と、いぬまるはどこからかベルトを取り出して自ら装着した。

……パンツも履いてないし、どこにも隠せるような場所なかったと思うんだが……。

いぬまるは、ベルトについている4つのボタンを一つずつ押していく。

「3,2,1」

いぬまる「変身!」

ふとし「織田祐二がまたたび幼稚園にぃ~……」

フォーぜ(いぬまる)「キタ~~~~!!!!!」

エロス「ぐああぁぁあっっ!」

フォーゼ「え、エロスのパンツが脱がされてしまうっ!」

「Rocket On」

いぬまるがベルトのボタンを押すと、右手にオレンジ色のロケットが出現する。

フォーゼ「やぁあっっ! どごーん!」

たまこ「いぬまる君っ!自分で効果音言わないっ!」

フォーゼ「ふぅぅ~~っ!」

ふざけた態度とは裏腹に、その攻撃は強烈だ。

ロケットの推進力を得た突撃。

敵がまとめて蹴散らされる。

エロス「ぐあぁぁぁあっっ!」

と、その際攻撃がエロスにもあたっていたが……。

フォーゼ「ふぅぅ~っ!」

「Majik Hand On」

左手に巨大なおもちゃのような手が現れる。

そしてその手が勢いよく投げ、忍者の様な敵をつかむ。

ふとし「すごいぜ、いぬまるのやつ、ちぎっては投げちぎっては投げ」

たまこ「いや、ちぎってはないでしょ」

つばめ「いぬまる君!フォームチェンジよ!」

フォーゼ「うんーーっ!」

「Electrnic    Eleki On」

いぬまるがそのスイッチをベルトにはめると、体の色が白から黄色に変った。

フォーゼ「ふわわっ!」

その際電撃が周囲に流れ、いぬまるが驚きの声を上げる。

たまこ「いぬまる君!キュアピースのものまねはやめて!」

フォーゼ「ピカピカピカリん、ジャン・ケン・ぽん!」

そう言っていぬまるは拳を掲げた。

たまこ「だから言ったじゃないですかぁ~!キュアピースのまねはやめてっていったじゃ

ないですかぁ~!」

ふとし「どんでんどんでんっ!」

ふざけながらもいぬまるは、電気の力を宿した棒で次々に敵を倒していく。

比企谷「すげぇな……」

雪ノ下「なのに、全く緊張感がないわね……」

由比ヶ浜「こんな戦い方もあるんだね……」

フォーゼ「次はこれだよ!」

「Fire   Fire On」

先程と同じように、体の色が変わる。今度は赤色だ。

園長「いぬまるく~ん、頼まれた物持ってきたわよ!」

そう言って園長は、お笑い番組で使うような、持ち運び可能な浴槽を持ってきた。

中には水が入っている。

フォーゼ「ふぅ~!」

いぬまるはその水に向けて、火炎放射を放つ。

いぬまるがそれを止めると、水は完全にお湯に変わり、煙がもくもくと出ていた。

そしてその浴槽の上に、ふとしがしゃがんでいる。もう少しで熱湯につかりそうだ。

ふとし「いいか?押すなよ?絶対に押すなよ?自分のタイミングで行くからな?」

なんかこの光景見たことある……。

ツバメ「早く行けよ」

と、いつの間にか後ろに回り込んでいたツバメに太は背中を押され、思い切り熱湯につ

かる。

ふとし「あっち!あっちっ!あっちっ!おい!押すなって行っただろ!」

ふとし(でもやけどはしないレベルに抑えてある……地味だ)

ふとし「クッそ~!今日の野球拳で負けなければこんなことには……」

たまこ「野球拳て!せめて普通の野球にしろよ!」

たまこ「ていうかやけどしたらどうするの!ふとしくんも罰ゲームなんてやらなきゃいい

でしょ!」

ふとし「そいつは違うぜたまこ先生、敗者が罰ゲームを受け入れるからこそゲームは盛り

上がるんだ。それから逃げてたらプレイしたみんなに申し訳がたたねぇ……あっ、鼻にお

湯はいった、あっちっ!」

たまこ「かっこいいこと言ってる途中でめっちゃかっこ悪いこと起きた―!」

フォーゼ「ふふふ、僕のテクはどうでしたかな?ちょうど良かったでしょう?」

たまこ「変なニュアンスで言うな」

会話しつつ、いぬまるは火炎放射を敵に放つ。

フォーゼ「まだまだ行くよ!抜いて、挿す!」

「N Magnet S Magnet On」

ベルトの中央に、NとSと書かれた二つのスイッチを差し込む。

フォーゼ「抜いて、挿す!まるで夜の営みのように!」

たまこ「いぬまる君!そう言うこと言わないの!」

フォーゼ「どっ!」

たまこ「だから誰も笑ってないでしょ!」

いぬまる「ふぅ~、手厳しいですなぁ。……ライダー超電磁ボンバーッ!」

巨大なエネルギー弾をいぬまるが放ち、ついに敵は全滅した。



いぬまる「ふぅ~!やっとチンチンがスースーする~!」

たまこ「変身はパンツ履く感覚かよ!」

いぬまる「ヒーローも楽じゃありませんなあ」


比企谷「……幼稚園児とは思えない戦闘センスだな」

ふざけまくっていたにもかかわらず、いぬまるはこの戦闘中一切攻撃を受けていない。

フォームチェンジのタイミングも完璧と言っていいだろう。

たまこ「お疲れ様、いぬまる君」

いぬまる「ご褒美はシューアイスでいいよ!」

たまこ「ちゃっかりしてるんだか欲がないんだか」

いぬまる「みんな―!今日のおやつはシューアイスだって!」

ふとし「いえ~~い!」

つばめ「やるじゃないいぬまる君!」

たまこ「って、全員分かよ!じゃぁ、今から買ってくるからね」

???「その必要はないぞ!」

いぬまる「残念なお兄ちゃん!」

虎太郎「ふふっ、今日はお土産にシューアイスを買って来たぞ!」

虎太郎……たまこの兄。社長の娘とのお見合いを失敗し、失業する。働いていた頃から、社会人とは思えないほどゲームのプレイ時間が長い。ダメ人間。

たまこ「ていうかなんで幼稚園に来るの?」

いぬまる「お兄ちゃん、仕事は?」

問われた虎太郎は満面の笑みを浮かべた。

たまこ「なにその笑顔!早く就活しろよ!」

虎太郎「まぁまぁ、そんなことより今日はすごい物を持って来たんだ」

と、虎太郎はポケットから怪しげな赤いスイッチを取り出した。

虎太郎「見てろよ?」

たまこ「ちょっ、それゾディアーツスイッチ!」

たまこの制止も聞かず、虎太郎はスイッチを押してしまった。

すると虎太郎は、蟹のような化け物に姿を変えた。

虎太郎「どう?どう?すごくね?俺すごくね?」

たまこ「ぐあああっ!はさみをこっちに向けないで!」

虎太郎「ああ、ごめんごめん」

虎太郎はもう一度スイッチを押し、元の姿に戻った。

虎太郎「なぁ、これを使ってショーに出たり、超人としてテレビに出たら楽にお金稼げ

るんじゃね?」

たまこ「屑や、ほんまもんの屑やでぇ」

いぬまる「でもねー、それは使いすぎるとねー」

虎太郎「え?」

『ラストワン』

不気味な音声が、その場に響いた。


たまこ「ら、ラストワンってことは……」

いぬまる「豪華賞品がもらえる!!?」

たまこ「誰も一番くじの話はしてないっ!って、そうじゃなくて……」

いぬまる「うんーっ!倒さないと元に戻らないよー!」

たまこ「まぁいいか、就職活動せずにぶらぶらしてたのも悪いし」

虎太郎(キャンサーゾディアーツ)「ええー……それとこれとは関係ないよー」

たまこ「そんなこと言っても仕方ないでしょ。おとなしくいぬまる君に倒されて」

虎太郎「はぁ……わかったよ、なるべく優しくしてくれよ、まるだし君」


いぬまる「時には優しく時には激しく、そう、まるで夜の営みのように!?」

たまこ「そのネタしつけ―っ!」

虎太郎「ったく、パンツ一丁のおっさんからもらったものなんて使うべきじゃなかったな

……って、あれっ!?体が勝手にっ!」

虎太郎は両腕のハサミをいぬまるに向けて振り下ろした。

いぬまる「ぐあああっ!いたいいたいいたいっ!」

……そのはさみが見事いぬまるのちんちんを直撃した。

たまこ「お兄ちゃん!なにやってるの!」

虎太郎「わかんねーよ!なんか体が言うこと聞かない!」

ツバメ「そうか!たまこ先生のお兄ちゃんは意志が弱すぎて、ゾディアーツスイッチに主

導権を奪われているのよ!」

ふとし「な、なんだってー!?」

由比ヶ浜「ひどい言われようだね……」

たまこ「ごめんいぬまる君、こうなった以上、早く倒しちゃって!」

いぬまる「ぐあああっ!チンチンが痛いっ!まさかこの丸出しスタイルがあだになるとは

っ!現実の厳しさを甘く見てたーっ!」

たまこ「そのスタイルがあだ意外になることは無いと思うけど……って、どうしよう!い

ぬまる君が戦えないんじゃ!」

???「その心配はないっ!」

と、他の幼稚園の服を着た眼鏡をかけた少年が走ってきた。

……チンチン丸出しで。

ツバメ「ま、まさむねくんっ!」

*マサムネ……エリート幼稚園「こぎつね幼稚園」に通う年長さん。
とても頭がいいが物事の考え方が極端で、いぬまるに出会ってからはしばしばパンツを履かないようになった。

ふとし「まさか、仮面ライダーメテオに変身するマサムネが来るとはっ!」

園長「ふとしくん、説明気味の説明ありがとう」

ふとし「いや、俺たかし……」

虎太郎「すまん、少年!」

と、先程と同じように、マサムネのちんちんを虎太郎のはさみが襲った。

マサムネ「ぐあああああっ!いたいいたいっ!お前の運命は俺がっ……・いたいいたいっ!」

何か決め台詞を言おうとして失敗したようだ。

雪ノ下「まったく……いくわよ!」

比企谷「ああ!」

由比ヶ浜「うんっ!」

たまこ「ひ、比企谷先生達っ!あぶないですよっ!」

比企谷「いや……大丈夫です」

虎太郎「な、何ぃっ!?チンチン丸出しじゃないだとっ!?お前は一体、誰なんだぁっ!」

……いや、それが普通だよね?

比企谷「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

「「「変身!」」」

「Kamen Ride Decade!」

ディケイド「たまこ先生、これ、思いっきりやっちゃっていいんですか?」

たまこ「ひ、比企谷先生たちもライダーだったんですか! あ、その兄は思いっきりやっ

ちゃってください」

虎太郎「ちょっ、たまこ!?」

雪ノ下「まぁ、問題ないでしょう。その怪物の姿になる時、虎太郎さんの体じたいはその

場に倒れていたし」

言われてみてみると、確かに地面に虎太郎の体が転がっていた。

つーかなんで気付かなかったんだ……。

由比ヶ浜「うわわっ!ていうかあれ避難させた方がいいんじゃない?」

虎太郎「ちょっ!たまこ!何とかして!どっかやっといて!」

たまこ「え……?大丈夫じゃない?」

虎太郎「いやいやいや!絶対危ないだろ!」

たまこ「ならちゃっちゃと倒されればいいじゃん」

虎太郎「いや、だから体が勝手に動くんだって!」

ディケイド「結局、倒すしかないってことですね……失礼します!」

「Attack Ride Srash」

ナイト「はあああぁっ!」

「Sword Vent」

俺と雪ノ下が同時にきりかかる。

それを虎太郎(キャンサーゾディアーツ)が両腕のハサミで受け止める。

龍騎「Strike Vent」

少し距離をとって、由比ヶ浜が火炎放射攻撃を放つ。

炎が到達する直前、俺と雪ノ下は同時に飛び退く。

摂氏千度を超えるであろう炎がキャンサーを飲み込む。

キャンサー「ぐあああああっ!熱い熱い熱い!……あれ?熱くない」

ツバメ「……なんか、たまこ先生のお兄ちゃん、無駄に強くない?」

たまこ「何でこんな時だけ……」

ディケイド「電王の力、試してみるか!」

「Kamen Ride Deno!」

ディケイド「いくぞ!」

「Attack Ride Ore Sanjo!」

ディケイド「俺、参上!」

由比ヶ浜「だ、だからなに?」

ん?どうなってんだ?

「Attack Ride Bokuni Turaretemiru?」

ディケイド「千の言葉に万の嘘。それでも良ければ……僕につられてみる?」

青色のロッドフォームに変わると同時、俺はそんな薄ら寒いセリフを発していた。

ナイト「比企谷君……大丈夫?」

ディケイド「か、勝手に言葉が出るんだよ!」

キャンサー「そう、まさにそれなんだよ!俺が感じてたのは!」

いや、変なところで共感されても困るけど……。

ディケイド「たぁっ!」

俺は竿状になったデンガッシャ―(電王の武器)を投げつける。

竿は敵に当たり、青色のフィールドが発生する。

キャンサー「話している途中に攻撃するとはっ!」

と言いつつも、キャンサーはとっさに防御態勢を取っていた。

が、この攻撃は敵に防御させてこそ。ここからが本領発揮と言ったところだ。

俺は飛び上がり、フィールドができた場所へ急降下キックを放つ。

キャンサー「ぐぉぉっ!」

「「Advent」」

相手が一瞬のすきを見せたその時を見逃さず、二人は契約モンスターを呼び出す。

ナイト「ダークウイング!」

龍騎「ドラグレッダー!」

けたたましい咆哮を上げて、二体のモンスターがキャンサーに襲いかかる。

その一撃(二撃)を受け、キャンサーは地を転がる。

キャンサー「うううっ!いっ、痛いっ……」

たまこ「大の大人がないとるでぇ……」

いぬまる「やっぱりお兄ちゃんは残念だね!」

たまこ「いぬまる君、ちんちん治ったなら変身して比企谷先生達を手伝ったら?」

いぬまる「うんーーーーっ!」

「3,2,1」

いぬまる「変身!」

フォーゼ「爪弾くは宇宙の調べ!キュアフォーゼ!」

たまこ「堂々と嘘言わないの!」

フォーゼ「ふぅぅ~~っ!」

「Rocket On」

右手にロケットを装備したフォーゼが突進する。

キャンサー「ぐあああっ!ちょ、ちょっとタンマ!」

フォーゼ「タンマも魔法も、無いんだよ」

そのままいぬまるはジャブを連続ではなつ。

キャンサー「ぐはっ!地味に痛い……まるだし君、やるならひと思いに頼むぜ」

フォーゼ「でいっ!たぁっ!」

続いていぬまるは、ろーキックを放つ。

ふとし「……地味だ」

ディケイド「そろそろ決めるか」

「Attack Ride Kotaeha Kiitenai!」

ディケイド「お前倒すけどいいよね?答えは聞いてない!」

「Strike Vent」

「Fire    Fire On」

俺の巨大なエネルギー弾、由比ヶ浜といぬまるの火炎放射、雪ノ下の投げた剣が一斉にキ

ャンサーに向かっていく。

キャンサー「ぐぁあああああああああっっっ!」

絶叫を上げて、キャンサーゾディアーツは消滅した。

虎太郎「ふぅー、一時はどうなることかと思ったぜ」

それと同時、虎太郎が元の姿でムクリと起き上った。

たまこ「本当、しっかりしてよね」

園長「ていうかなんで幼稚園に居るの?平日の昼間から」

虎太郎「……」

園長「顔せつねーーーーっっ!」

虎太郎「いや、今日は働かないで生きていく方法を思い付いたからたまこに話しに来たん

だよ」

雪ノ下「働きたくないって……まるで比企谷君ね」

由比ヶ浜「あはは!たしかに!」

え?俺って傍から見たらあんなふうに見えるの?

虎太郎「働くのって極論、お金稼ぐ為じゃん?」

たまこ「……うん、まぁ」

虎太郎「で、なんでお金がいるかっていうと、食べ物を買う為じゃん?」

園長「まぁ、そうね」

虎太郎「だから、食べ物さえ確保できれば働かなくていいよな?」

たまこ「家とかの問題はあるけど、まぁそうね」

虎太郎「で、海にはおいしいものがいっぱいある!」

虎太郎「だから、長く息を止められるようになれば、海の幸がいっぱい取れて、働かなく

ていいんだよ!」

たまこ「そこがわからん!」

虎太郎「つーわけでたまこ、お前ん家で息を止める練習させてくれ!」

たまこ「色々と見通しが甘いっていうかそもそも問題外っていうか……息止められるよう

になるまではご飯とか家はどうするの?」

虎太郎「……」

たまこ「顔せつねーーーっ!」

雪ノ下「少しくらい練習したところで、息はそんなに長く続きません。というかそもそも、

海で魚などを生活できるほどにとろうとするのなら、漁協にはいったりいろいろと面倒事

がありますが」

虎太郎「……」

雪ノ下「せつない、顔ね……」

虎太郎「は―――っ、何とか楽して暮らせる方法は無いかな―……」

由比ヶ浜「ヒッキーそのものだ……」

比企谷「俺は専業主夫志望だっつーの」

???「いや、働くのも楽しいですよ。男はやっぱり働かないと!」

人畜無害そうな顔をした男性が話しかけてきた。

たまこ「あの……一般の方が入られると困るんですけど」

園長「ちょっとたまこ先生、この人うちの先生よ!あの……えーっと……男の先生!」

いなご「いなごです……いい加減覚えてくださいよ」

いなご先生……年長さんのクラスの担任の男の先生。とても優しいがすさまじく運が悪く、

なかなか名前を覚えてもらえないぞ!

虎太郎「え?働くのが楽しいってなんですか?新しいジョークっすか?」

……不覚にも共感してしまった……。

いなご「子供たちの笑顔を見ると、きつくてもやってて良かったって思いますよ」

いぬまる「クラスの子たちにはいまだに名前を覚えてもらってないけどね!」

いなご「……」

園長「顔せつねーーーーっ!」

虎太郎「でもなー……俺が頑張っても見られるのは社長の笑顔だけだしなー」

*以前虎太郎が勤めていた会社では、社長と虎太郎の中は最悪だった。(ろくな仕事もせず

に給料取って行くから当然だ)虎太郎は社長の娘とのお見合いの場で、脱糞し、会社を首

になった。

比企谷「まぁ、専業主夫でもまともに家事をこなせば、家族は助かるしな」

虎太郎「わかってるね!」

この人に褒められても全く嬉しくねぇ……。

たまこ「ほらお兄ちゃん、早く帰って!職探しに行け!」

そう言うとたまこは虎太郎に求人情報誌を渡した。

虎太郎「お前これ……正社員急募のところに付箋張ってんじゃん」

……いい兄妹じゃないか。

たまこ「おにいちゃんがちゃんと就職しないと、お父さんたちも心配するしね」

虎太郎「お前……ガチで探さなきゃいけなくなるからやめろよ……」

ツバメ「屑や、ほんまもんの屑やでぇ……」

たまこ先生は黙って虎太郎のすねを蹴り、幼稚園から追い出した。

虎太郎「ちょっ、こういうときってもっとコミカルにやるもんじゃないの?いたいいたい!ガチでいたいっ!」

由比ヶ浜「ヒッキー……あんなふうになっちゃだめだよ」

比企谷「……おう」

たまこ「それじゃあ由比ヶ浜先生は年少組、雪ノ下先生は年長組、比企谷先生はわたしと

一緒にいぬまる君達のクラスを担当してもらいます」

比企谷「よろしくお願いします」

いぬまる「ふぅぅ~っ!一緒に遊ぼうよ!」

雪ノ下「いぬまる君、その前に、パンツをはきなさい」

いぬまる「ぼくがパンツを履かないのはディケイドのせいなんだ~!おのれディケイド!」

比企谷「すごいとばっちりだな」

たまこ「ていうかいぬまる君、生まれてこのかたパンツははいたこと無いって言ってたじ

ゃない」

ツバメ「いぬまるくん!渡る世間は鬼ばかりごっこしよ!」

いぬまる「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないかぁ~」

……えなりかずき?

雪ノ下「幼稚園児がする遊びでは無いと思うのだけど……」

いぬまる「じゃあ、AV女優とタマコ先生の写真を合成させて遊ぼうよ!」

たまこ「やめろぉぉぉっ!」

たまこ「……はあ、ほら、教室行くよ」

比企谷「じゃ、お前らもしっかりな」

由比ヶ浜「うん!ヒッキーもね!」

雪ノ下「言われるまでもないわ」



たまこ「はい、じゃあこの時間はダンスね」

いぬまる「今日の担当はぼくだよ!」

たまこ「じゃあ、いぬまる君と先生のピアノに合わせて踊ってね~」

「♪1,2,3,4,5!

Go!Go!

手のひら太陽向けて~」

いぬまるが丸出しのお尻を振る。

『フリフリ体ゆすれば~

光のシャワーを浴びて~

今日も一日ピカピカ~

All Right!

はじめの一歩が、あればこそのハイタッチで、希望のリレーには力宿る。

Good グー!グー!』

いぬまる「グーググーグーグーググーググー!コォーっ!」

なぜエドはるみ?

ふとし「うわっ!いぬまるのお尻くせぇ!」

いぬまる「最後のひと拭き節約術をしてたからかも!」

たまこ「なんとなく名前でわかるけど……それなに?」

『解説しよう!最後のひと拭き節約術とは?

うんこの後、お尻を拭く際、最後のひと拭きはうんこがついていないかの確認を目的とし

ておこなわれる。このひと拭きをしないことによって、資源を大切にしようとすることを、

最後のひと拭き節約術という!』

たまこ「それってもし失敗したら……」

ツバメ「ぐあああああっ!くさい!」

たまこ「窓、窓開けて!」

比企谷「いぬまる君、節約は、もっと別のことから始めよう、な?」

ふとし「そういえば、さっきトイレにうんこがあったけど、あれもお前か?」

いぬまる「だってトイレットペーパー以外流すなって書いてたから」

たまこ「逆にどうやってトイレットペーパーだけ流すんだよ!」




たまこ「はぁ……それじゃあ、ダンスの続きするよー」

比企谷「ていうか、なんで今頃あの曲なんですか?5年以上前の」

ツバメ「逆になんで比企谷先生はプリキュアの曲を初めて聞いて完璧に踊れるの?」

ふとし「まさかその年でプリキュア見てるんじゃ……」

比企谷「……」

ふとし「顔せつねーーーーっ!」

比企谷「別に俺がプリキュア見たっていいだろ。大きなお友達がたくさん商品を買うこと

で、見えないところで番組を支えているんだ」

ツバメ「大きなお友達って……」

ふとし「大友っていうんだろ?」

いぬまる「あの大物ミュージシャン!?」

たまこ「それは大友康平だろ」

ツバメ「そういえばたまこ先生もだよね。いい年してゲームばっかしてるし」

ふとし「いつ動物の森やっても、たまこ先生の村大体あいてるからな……」

たまこ「みんなが夜遅くにゲームやってないかチェックしてるの!」

ふとし「絶対嘘だ……」

たまこ「……はい、それじゃ次は鬼ごっこするよー」

ツバメ「無理矢理話題をそらしおったでぇ」

たまこ「じゃあ、わたしと比企谷先生が鬼で、増え鬼ね」

比企谷「1分したら追いかけるからな」


ふとし「にげろ~~!」

比企谷「どんくらいの力でやればいいんですか?」

たまこ「まあ、そこそこで。10分続くくらいですかね」


たまこ「いくよーーっ!」

俺達に捕まった園児も鬼となり、どんどん鬼が増えていく。



ふとし「よし!あとはいぬまるだけだ!」

ツバメ「いくよ!いぬまるくん!」

皆がいぬまるのもとに殺到する。

いぬまる「ううっ、こうなったら……変身!」

何といぬまるは、鬼ごっこ中にフォーゼに変身して見せた。

「Rocket On」

そしてそのまま、ロケットの力で宙に浮かぶ。

フォーゼ「ふぅぅ~っ!」

これでは捕まえようがない。

たまこ「いぬまる君!そんなのイカサマよ!」

フォーゼ「いかさまってのは、ばれたら負けっていう立派な戦法さっ!」

たまこ「いや、すでにばれてるんだけど……比企谷先生、いぬまる君倒しちゃってくださ

い」

ディケイド「え?」

たまこ「あ、もちろん本気でじゃなくて。ベルトをとっちゃうレベルで」

比企谷「……わかりました」

まあ、あれは流石にひどいな。

比企谷「変身!」

「Kamen Ride Decade」

ディケイド「行くぞ、いぬまる君!」

フォーゼ「ふぅぅーっ!ライダーおにごっこだーっ!」

『Kamen Ride Ryuki!』

「Attack Ride Strike Vent」

空中に向けて炎を放つ。

フォーゼ「ふぅ~っ!」

ロケットを器用に使い、見事にそれをかわす。

「Attack Ride Advent」

ドラグレッダーが現れ、先程より巨大な火炎を浴びせる。

それは見事にフォーゼに当たった。

……が。

「Fire Fire On」

フォーゼ「ふぅぅ~っ!」

いぬまるはファイア捨ていつとなり、炎攻撃を無効化した。

が、ロケットを失い、勢いよく落下する。

そこそこの高さから落ちたにもかかわらず、全く痛がる様子がない。

ふざけてばかりだが、園児でこの戦闘能力って……すごいな。

「Kamen Ride Brade!」

「Attack Ride Mahha!」

高速で移動し、フォーゼの腹部にパンチを繰り出す。

フォーゼ「ぐあああっ!」

いぬまるは吹き飛びながらも、火炎放射器をこちらに向け、勢いよく火を放った。

ディケイド「やるじゃないか……」

「Kamen Ride Gaim! 花道、オンステージ!」

オレンジをモチーフにした大橙丸と無双セイバーを持ち、斬りかかる。

「Electronic Ereki On」

フォームチェンジと同時、地面を伝って電撃が流れ、俺の動きが一瞬止まる。

フォーゼ「たぁっ!」

ひるんだ俺に、電気を帯びた斬撃をいぬまるが浴びせる。

「Form Ride Gaim! ミックス!ジンバーレモン!」

「Final Attack Ride Ga Ga Ga Gaim!」

ディケイド「無双ソニック乱舞っ!」

無双セイバーとソニックアローを用いた、俺の考えた必殺技。

最初の銃撃で相手の態勢を崩し、そして斬りまくるっ!

フォーゼ「ぐああああああっ!」

そして、いぬまるの変身が解除された。

外れたフォーゼドライバーを拾い上げる。

そして、立ち上がったいぬまるに渡す。

比企谷「ライダーの力でふざけちゃだめだぞ?」

いぬまる「うんーっ!ごめんなさい!」

ツバメ「もう、いぬまる君!ダメじゃん!」

ふとし「ったく、もうやめろよな」

いぬまる「うんっ!……って、あれ?誰でしたかな?」

ふとし「ふとしだよ!いや、正確にはたかしだけど」

ツバメ「あれ?でもなんかわたし、ふとしくんのこと思い出せない……」

たまこ「どうなってるの?ふとしくんに関する思い出が……」

いぬまる「クソスベリ豚野郎のふとしくんのことが全く思い出せないっ!」

ふとし「その変なあだ名は覚えてるじゃねぇか!って、マジでみんなどうしたんだよ!」

なんだ?なにが起きている?

いぬまる「あ、あれ?えっと……誰だっけ?」

今度はいぬまるが、すずめちゃんを指して言う。

ツバメ「ちょっと、いぬまる君!?」

たまこ「なんで!!?ツバメちゃんのことも……みんなのことも!!なにも思い出せな

い!」

一瞬にして運動場がパニックに飲み込まれる。

みんなの、お互いに関する記憶が消えている?

と、由比ヶ浜と雪ノ下が走ってやってきた。

比企谷「由比ヶ浜!雪ノ下!」

由比ヶ浜「みんなの、みんなの記憶がおかしいの!」

雪ノ下「記憶が、消えているわ……」

比企谷「こんなこと普通じゃありえない……犯人は……」

いなご「僕ですよ」

比企谷「……?誰だっけ?」

小声で二人に尋ねる。

由比ヶ浜「ヒッキー、失礼だよ!あの人は……あれ?」

雪ノ下「私達も記憶操作がされているのかしら……」

いなご「僕の記憶は操作してませんよ!いなごです!さっき自己紹介したばっかりじゃな

いですか!」


由比ヶ浜「ああ、そういえば!」

雪ノ下「どうしてこんなことするの?」

いなご「さっきのが理由ですよ」

比企谷「どういう意味だ?」

いなご「誰も僕のことを覚えてくれない。だから、人に忘れられることの辛さをみんなに

味あわせたんです!

みんながその痛みをわかれば、人のことを忘れる人なんていなくなるっ!」

「Last One」

いなご先生の体は倒れ、カメレオン型のモンスターが現れる。

いなご(カメレオンゾディアーツ)「しばらく、おとなしくしててもらいますよ!」

比企谷「いくぞ!」

「「「変身!」」」

「Kamen Ride Decade!」

いなご「きてくれっ!」

いなご先生が叫ぶと、先程も現れた忍者のような者たちが何十という単位で現れた。

「Form Ride Gaim!イチゴアームズ!シュシュッと、スカッシュ!」

「Lock On」

無双セイバーにイチゴロックシードをセットする。

「壱、十、百……イチゴチャージ!」

無数のエネルギー弾で忍者たちを攻撃する。

爆発を上げ、何体かの忍者が消えた。

「「Sword Vent」」

ナイト「由比ヶ浜さん!わたし達はゾディアーツの方を!」

龍騎「わかった!」

二人は剣を掲げていなご先生へ斬りかかる。

そこに忍者たちが立ちふさがる。

ディケイド「道は俺が拓く!」

「Form Ride Gaim!スイカアームズ!大玉、ビッグバン!」

「鎧モード!」

俺の体をすっぽり覆う、スイカ型の巨大アーマーに乗り込む。

なんか……ガンダムみたいだな。

龍騎「で、でかいっ!」

ディケイド「たぁぁあっ!」

巨大な、まるでスイカバーの様な剣で敵をなぎ払う。

ふざけた見た目だが、その大きさに比例して、威力は絶大だ。

龍騎、ナイト「「だあああっっ!!!」」

龍騎「って、あれ?」

忍者たちの相手をする合間に、由比ヶ浜たちの方を見ると、二人は立ち尽くしていた。

ディケイド「なにしてるんだ!」

ナイト「ゾディアーツがいないわ!」

と、雪ノ下がいった直後、彼女が前のめりに倒れた。

龍騎「ゆきのん!」

ナイト「うしろに何かいるっ!」

敵の姿はカメレオンの様だった……つまり。

ディケイド「気をつけろ!相手はカメレオンのゾディアーツ!自由に姿を消せる!」

龍騎「そんなっ……うわっ!」

そう言っている間に、由比ヶ浜も攻撃を受ける。

俺も先程から、忍者たちの攻撃を受け続けている。

巨大な分、敵の攻撃も当たりやすくなるのは必然だ。

二人も、見えない敵に翻弄されて一方的にダメージを負っている。

このままじゃ……。

不可視の攻撃を再び受け、二人が地に倒れる。

ふとし「ちくしょーーっ!やい!ゾディアーツ!その姿を見せてやれ!」

後方で、一人の園児が叫んだ。 ふとしだ。

いなご「いいよ。可愛い園児の頼みだ。それに、いつでもまた姿は消せるからね」

由比ヶ浜達からいくらか離れた場所で、ゾディアーツはその姿を見せた。

ふとし「うおおおーーっ!」

なんと生身で、ふとしがゾディアーツに向かっていく。

いなご「ふっ……いいだろう、その思い、受け止めるっ!この子には手を出すなっ!」

いなご先生が忍者たちにそう指示を出す。

最低限、園児たちには手を出すつもりはないようだ。

ふとし「くらえーーーっ!」

ぎりぎりまで接近したところでふとしはポケットから何かを取り出し、いなご先生に投げ

つけた。

いなご「ぐあああっ!……ん?なんだこれ」

ふとし「それは……それはなぁ……」

いなご「な、なんか臭い……」


ふとし「それはっ、いぬまるのうんこだっ!」

いぬまる「えっ!?」

俺達の後方で、地面に手をついて落ち込んでいたいぬまるの肩が震える。

ふとし「俺のっ、俺の大事な友達の、魂がこもった、うんこだっ!」

いなご「うわっ!きたねっ!」

魂がこもったうんこって何だよ……。

ふとし「いぬまるーーっ!俺はお前のこと覚えてるぞ!でも、なんか今にも忘れちまいそ

うなんだ!そんなの嫌だ!だから、あんな奴ぶっ倒してくれよ!」

いぬまる「ふとしくん……うん―――っ!あんな奴、僕が倒してみせるよ!」

「3,2,1」

いぬまる「変身!」

ふとし「織田祐二がまたたび幼稚園にぃぃぃ?」

フォーゼ「キタァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーッッッ!」

いなご「きったねっ、きったねっ!……まぁいいか、また姿を消せば……」

ナイト「しまったっ!」

いなご「これで、僕の姿は見えないっ!」

龍騎「空中に、何か浮いてる……?」

ディケイド「あれは……いぬまる君のうんこだ」

フォーゼ「ありがとう、ふとしくん!ふとしくんのおかげで、ちゃんと戦えるよ!」

ふとし「おう!あと俺の名前たかしだけどな!」

「Rocket On」

いぬまるの得意技が炸裂する。

いなご「うぐぅぅぅっっ!」

いなご先生は倒れ、なかなか起き上らない。

ディケイド「特殊能力さえなければ……めちゃくちゃ弱いんじゃないか?」

ナイト「よくも好き放題やってくれたわね」

龍騎「仕返しだーっ!」

二人の剣がいなご先生を襲う。

それを止めようとした忍者たちも、壁としての役割すら果たせずバタバタと倒れていく。

そしてついに、全ての忍者が消えた。

ディケイド「終わりにするか」

フォーゼ「うんーっ!」

いぬまるがそういうと、俺のカードの数枚に光が宿った。

ディケイド「フォーゼのカード……いくぞ!」

「Final Form Ride Fo Fo Fo Fourze!」

フォーゼ「おおっ!」

フォーゼが、巨大なオレンジ色のロケットに変わった。

「Final Attack Ride Fo Fo Fo Fourze!」

俺が上に乗ると、ロケットが勢いよく敵に向かっていく。

由比ヶ浜「あたしたちも!」

「「Final Vent」」

そしてその攻撃が、同時に炸裂する。

いなご「ぐああああああっっっ!」

いなご先生のもとの体の意思が戻り、スイッチは破壊された。

元に戻ったみんなが、いなご先生のもとに詰め寄って行く。

いなご「す、すいません……」

園児「もう!なに言ってるの!いなご先生のこと、忘れるわけないでしょ!」

いなご先生のクラスの園児がそう言った。

名前を、呼んだ。

いなご「名前、覚えててくれたのか……?」

ツバメ「当たり前でしょ!毎日会ったり、遊んだりしてるんだから」

園長「芸人で言うおいしいいじりみたいなものよ」

ふとし「園長先生は絶対忘れてただろ……」

いなご「うううっ!みんな、ごめんなーっ!」

たまこ「一件落着、ね」

いぬまる「しかしまた、第二第三のいなご先生が現れるであろう……」

たまこ「不吉なこと言わないでよ!」

と、俺達の体が消え始めた。

比企谷「もう時間か……じゃあな、いぬまる君」

雪ノ下「結局パンツをはかせることはできなかったわね……」

たまこ「それは私が責任を持って何とかします!」

いぬまる「僕にパンツをはかせることができたとしても、第二第三のフルチンが現れるで

あろう……」

たまこ「そんなもん現れてたまるか!」

由比ヶ浜「あはは。でもいぬまる君、中学に入るまでにはパンツ履かないとダメだよ。捕

まっちゃうからね……それじゃあ、あたし達はこれで」

比企谷「失礼します」

いぬまる「また遊ぼうね~!」

消える間際、いつものように写真を撮った。

チンコ型のロケットが発射されるのをみんなで笑って見ているという、なんとも言えない

シュールな絵だった……。



そして、写真館に、フォーゼの世界の絵の代わりに現れたのは、気の抜けた顔をしたちょ

んまげ頭の男がだるそうに歩いている絵だった。

ちなみに俺達の服装は、俺が侍風、雪ノ下達は町娘風になっている。

が、髪形は変わっていないので、なんとも不格好というかなんというか。

比企谷「これは……磯部磯兵衛の世界か……」

由比ヶ浜「いそべえ?」

比企谷「武士になる為の学校に通う無気力な青年の日常を描くギャグ漫画だ」

雪ノ下「フォーゼの世界でも聞いたけれど……おもしろいの?それ」

比企谷「結構人気はあるぞ。浮世絵っぽいイラストも印象的だな」

雪ノ下「もともとわかっていたつもりは毛頭ないけれど……あなたの趣味、最近ますます

わからないわ」

比企谷「本当に面白いんだよ、よかったら貸そうか?」

雪ノ下「機会があればね」

絶対読む気ないなこいつ……まあいいけど。

由比ヶ浜「とりあえず、外に出てみようよ」


由比ヶ浜「わぁ……すごい」

その町並みは、俺達が住んでいた町とはかけ離れていた。

それも当然だ。この街は、江戸時代のそれなのだから。

雪ノ下「まさかこの目で過去の世界を見るとはね……一応、タイムスリップということに

なるのかしら?」

比企谷「パラレルワールドに行ってるようなもんだからな。タイムスリップみたいなもん

なのかもしれん」

由比ヶ浜「二人ともっ!そう言う難しい話はなしっ!歩いてみようよ!」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……あなたはもうすこし緊張感という物を……」

由比ヶ浜「あっ!お団子屋さんだって!時代劇とかに絶対出てくるよね!食べようよ!」

比企谷「ったく……まあ、いいか。俺も戦って腹減ったし」

雪ノ下「そうね、何をすべきかまだ分からないし、焦っても仕方ないわね」

由比ヶ浜「やった!じゃあ、決まりっ!」



磯兵衛「娘さん、いつものを頼むでそうろう」

磯部磯兵衛……武士を目指す青年。何事に対してもやる気がない。

努力すれば何とかなると思っており(その努力をしないが)、見通しが極めて甘い。

性欲が強く、春画(江戸時代のエロ本)が大好き。特に、葛飾北斎が書いた春画がお気に

入り。

団子屋の娘に惚れており、ほぼ毎日通っている。

伝説の剣豪宮本武蔵の霊に取り付かれたことにより、仮面ライダーアギトへの変身能力を

得た。

磯兵衛(刀をおいて、武士アピールも毎日してるし、そろそろ告白しよっかなー。

でもまだ早い気がするっていうかそうろうっていうか……)

中嶋「磯兵衛、刀を机に置いてなにしてるの?」

マニュアリスト中島(中嶋襄)……磯兵衛の友人。いつも本を読んでいる。

磯兵衛と長くいたからか、彼の適当な態度にもあまり腹を立てることは無く冷静に対応し

ている。

戦闘に関する本も読んでいるが、完全に知識だけで実力は伴わない。

仮面ライダーG3-Xに変身する。

磯兵衛「え?いや別に、意味は無いけど。なんで?」

中嶋「いや、団子屋来た時いつもわざわざ机に置いてるからさ」

磯兵衛「そう?」

中嶋「ふうん……まあいいけど……あっ!」

磯兵衛「どうしたでそうろう、そんな変な声出して」

中嶋「磯兵衛、あっち、入り口の方見てよ。すっごい美人」


由比ヶ浜「わーっ!なんか和風って感じだね!」

雪ノ下「この時代は鎖国していたから当然ね」

由比ヶ浜「あたし、抹茶パフェがいい!」

比企谷「パフェなんてあるわけないだろ……」

由比ヶ浜「えー?じゃあ抹茶アイス!」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

由比ヶ浜「う?」

雪ノ下「この時代にある物を、もう少しよく考えて。団子屋というのだから、多分それに

類似したものしかないと思うわ」

磯兵衛「……美人でそうろう、しかも二人!」

中嶋「でも、変わった髪型だね」

磯兵衛「そんなの気にならないでそうろう!」

中嶋「磯兵衛、食い気味だね」

磯兵衛「い、いや……うん、まああんだけ綺麗だと仕方ないでそうろう。娘さんでも足元

にも及ばないでそうろう」

中嶋「……なんか、一緒に男いるけど……」

磯兵衛「ぶっ殺したいでそうろう」

中嶋「同感だなぁ」



由比ヶ浜「すいません、メニューもらっていいですか?」

娘さん「め、メニュー……ですか?」

*娘さん……団子屋の娘さん。磯兵衛に惚れられている。

雪ノ下「お品がき、いただけますか?」

娘さん「はい、ただいま」

比企谷「由比ヶ浜、この世界ではほとんどのカタカナ語は通じないぞ」

由比ヶ浜「うう……」



娘さん「こちら、お品がきになります」

比企谷「じゃあ、茶団子を一つ」

雪ノ下「私も同じ物を」

由比ヶ浜「あたしは、みたらし団子!」

娘さん「かしこまりました」


由比ヶ浜「楽しみだなぁ、昔のお菓子なんて」

雪ノ下「そうね、考えてみれば、この上なく貴重な経験ね」

娘さん「おまたせしました」

団子が運ばれてきて、今まさに俺達が食べ始めようとしたその時。


「「「うわああああああっっっ!」」」

外から、悲鳴が聞こえた。

???「ア、アンノウンだっ!」

店内がざわめき立つ。


中嶋「磯兵衛!行こう!」

磯兵衛「え?拙者今団子食べてるからもうちょっと待って」

中嶋「アンノウンが出たんだよ!僕達が行かないとダメでしょ!」

磯兵衛「ぶっちゃけだるいでそうろう……」

中嶋「このクズ……」

宮本武蔵(速く行かんか!)

*宮本武蔵……伝説の剣豪。磯兵衛にとり付き、アギトの力を与えた。

誰にも見えないが、物体干渉能力を持つ。

磯兵衛「あ、あれ?体が勝手に……」

中嶋「なんだかんだ言っていつも行くんじゃないか」

磯兵衛「いや、これは……拙者武士ですからそうろう!」

磯兵衛(どうせ行くならそういうことにしとくでそうろう!)


由比ヶ浜「ヒッキー!ゆきのん!」

比企谷「仕方ない、行くか」

雪ノ下「急ぎましょう」

「うわあー!助けてくれ!」

磯兵衛「あれ、いつも威張り腐ってる剣術道場の師範代でござる。プっ、情けなっ!」

中嶋「磯兵衛、そんなこと言うもんじゃないよ……くっ」

磯兵衛「中嶋も笑ってるでそうろう。じゃ、いくでそうろう!変身!」

磯兵衛がそう叫ぶと、彼の体が光、金色の戦士となった。

特徴的なのは、頭部にある角だ。

磯兵衛「仮面ライダーアギト、参上っ!」

アギト「ははっ!違う違う!拙者武士!歌舞伎俳優じゃないでそうろう!」

近くにいた町民たちに、聞かれてもいないのに磯兵衛はいった。

中嶋「誰も言ってないと思うよ……変身!」

しかし、先程の磯兵衛とは異なり、中嶋の体に変化はない。

かわりに手にしていた袋から仮面やらなんやらを取り出す。

アギト「中嶋……遅いでそうろう。プっ!早漏なのに遅いって!」

中嶋「早漏じゃないよ!」

アギト「はっ!童貞に早漏もないでそうろう……すまぬ、中嶋」

中嶋「磯兵衛だって童貞だろ!」

男「なあ、あんたら、早くあの化け物倒してくれよ」

そう言って町民の一人が、鷹のような姿をした怪人を指した。

アギト「はぁ……今やろうと思ってたけど、人に言われるとやる気なくなるでそうろう」

G3-X(中嶋)「最初からやる気なんて無かったじゃないか」

アギト「あ、着替えおわった?」

G3-X「待たせてごめんね」


比企谷「あれが、この世界のライダーか……」

雪ノ下「……なぜ英語などはいってきていないはずなのに、アンノウンという呼称が使わ

れているのかしら」

比企谷「……そういうのは、気にしたら負けだ」

由比ヶ浜「あたし知ってる!和洋折衷華っていうんだよね!」

比企谷「何で中華が混じっちゃったんだよ……」

雪ノ下「とりあえずここは、傍観ということでいいんかしら」

比企谷「ま、それが妥当だろうな。ピンチになったら助けに行くぐらいでいいだろ」

由比ヶ浜「あの青のライダー、自分で着替えてたね……」

比企谷「そういうライダーもいるんだろ……結構大変だよな」

雪ノ下「もう一人のライダーがいなかったらその間にやられていたと思うのだけれど」


アギト「でやあああっっ!」

磯兵衛が、初心者丸感出しのパンチを放つ。

鷹のアンノウンは、巨大な翼でその拳をはじく。

G3-X「やあああっっ!」

中嶋が、マシンガンを後方から乱射する。

アギト「痛いっ!痛いっ!あ、当たってるでそうろう!」

G3-X「ご、ごめん!」

アンノウン「弱い……お前、本当にアギトか?」

アンノウンが宙に浮かび、かかと落としを繰り出す。

アギト「ぐはぁっ!」

宮本武蔵(なにやっとるんじゃ磯兵衛!)

誰の目にも見えてはいないが、武蔵がアギトにくっつくと、アギトの姿が変わった。

金の体に、赤と青が混じっている。

アギト「力が湧いてくる……仮面ライダーアギトっ!トリニティフォーム!」

G3-X「トリニティってどういう意味?」

アギト「わかんないでそうろう!」

宮本武蔵(はよせんか!)

磯兵衛の手がベルト付近に運ばれると、ベルトの中心部から二本の、赤と青の槍が出現す

る。

アギト「なんかいける気がするでそうろう!」

アンノウン「ふん……どんな姿になろうが無駄だと教えてやるっ!」

アギト「水無月富士参りっ!」

磯兵衛が勢いよく敵に向かっていく。

と、その時。

磯兵衛「……あっ!」

なんとその両腕から、槍が落ちたのだ。

雪ノ下「……え?」

由比ヶ浜「敵、なにをしたの!?全然見えなかった!」

比企谷「……違う、何もしてない」

由比ヶ浜「どーゆーこと?」


アギト「がああああっっ!」

自らの落とした日本の槍を敵に拾われ、それで胸を突かれる。

比企谷「あいつは……自分で槍を落としたんだ。作戦とかじゃなくて、多分、ただのうっ

かりミス……」

それにしても、戦い中に獲物を落とすということなどあるのだろうか。

……そうとう弱いんだな、やっぱり。

比企谷「このままだとまずいな……変身!」

「Kamen Ride Decade!」

アンノウン「貴様も、消えろっ!」

G3-X「うわああああっっっ!」

アギト「……中嶋、後は任せたでそうろう」

G3-X「磯兵衛!?なに逃げようとしてるの!?」

アギト「ぶっちゃけ勝てないでそうろう」

G3-X「磯兵衛が逃げたらもっと勝ち目なくなるでしょ!?」


ディケイド「一気に決めるぞ!」

「Final Attack Ride De De De Decade!」

敵の注意の外から、必殺のカードを使う。

俺が飛び上がった瞬間、敵と俺を結ぶように幾枚ものカード状の紋章が現れる。

その時点になって、敵はこちらに気づいたようだ。

アンノウン「な、何者だお前はっ!」

今まさに自分に向かってこようとする奴にも誰何するのか……。

それをする前に、回避行動をとるなりすればいいと思うのだが。

まぁ、変に逃げようとして無防備な状態で攻撃を喰らうというのが一番まずいか。

そういうものかと納得し、質問されたら答えるのが礼儀(今から倒そうとする敵のもそれ

を適用すべきかは微妙なところであるが)と思い、すっかり言いなれたいつものセリフを

俺は口にした。
ディケイド「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけっ!」

言い終えると同時、俺のキックが敵に炸裂した。

アンノウン「ぐああああああっっっ!」

そしてアンノウンは、爆発して消滅する。

アギト「ディケイドって……あいつが拙者達の世界をおかしくした……」

G3-X「でも、僕たちのこと助けてくれたよ。悪い人じゃないんじゃない?」

アギト「まっ、その通りでそうろう」

G3-X「すいません、ありがとうございました」

比企谷「ん……どういたしまして」

変身を解き、俺が二人にいうと、

アギト「こいつ、さっきのいけすかない奴でそうろう!」

G3-X「あの美女二人を侍らせていた……」

アギト「やっぱりディケイドは倒さねばならないでそうろう!」

G3-X「同感だなぁ」

そういうと、磯兵衛はいつの間にか拾っていた槍を持って俺に襲いかかってきた。

比企谷「なっ……またこうなるのか……変身っ!」

「Kamen Ride Decade!」

ディケイド「この時代のお前達は知らないだろう、科学の力を見せてやる!」

「Kamen Ride Fourze!」

ディケイド「宇宙来、……たと言っておいてやるか」

「Attack Ride Rocket On」

右手にオレンジ色のロケットを出現させ、莫大な推進力を得、磯兵衛に突進する。

相手の槍と、こちらのロケットがぶつかる。

鍔迫り合いになる前に、こちらの勢いに、相手の体が吹き飛ぶ。

アギト「うおおおおっ!?」

G3-X「相手は、磯兵衛だけじゃないよっ!」

言うと、中嶋がマシンガンを連射する。

ディケイド「ちっ!」

「Form Ride Fourze! Magnet!」

『N Magnet S Magnet On!』

ディケイド「ライダー超電磁ボンバー!」

巨大なエネルギー弾を放つ。

すると、その射線上にあったすべてのマシンガン攻撃はエネルギー弾に飲み込まれた。

G3-X「しまったっ……うわぁあっ!」

ディケイド「聞け!俺はお前達の敵じゃない!」

アギト「うるさいでござる!お前は拙者の……いや、全ての男の敵でござる!」

何のことだ……?

それとも、俺達がこの世界に来たことで男女に関する異変が起きたのだろうか。

もしそうだとしても、俺にもどうしようもないんだが……。

アギト「絶対に、負けないでござるっ!」

磯兵衛が叫ぶと、彼の体は真っ赤な、筋骨隆々な姿へと変わった。

アギト(バーニングフォーム)「はああああああああっ!」

宮本武蔵(こいつ、しょーもない理由で覚醒しおった……)

G3-X「その通りだね、磯兵衛。僕たちは、絶対こいつを倒さなきゃいけない……

中嶋襄として、戦います!」

中嶋も、先程とは比べ物にならない闘志を持って立ち上がった。

手にはマシンガンの代わりにブレードを持っている。

ディケイド「聞く耳持たずか……一時無力化する!」

マグネットステイツの強みである遠距離攻撃で相手方を牽制しようとするが、磯兵衛たち

の動きまでなぜか洗練された物になっており、なかなか当たらない。

というか、攻撃に当たるのもいとわないといった感じだ。

アギト「バーニング、ライダーパンチ!」

磯兵衛渾身のパンチが、俺の胸部に直撃する。

ディケイド「ぐううぅぅっ!」

G3-X「だああああああっ!」

大きく体勢を崩した俺に、中嶋が大きくジャンプし、剣を振り下ろす。

それもまた、防御しようがなく、俺は地を転がる。

雪ノ下「比企谷君!」

由比ヶ浜「ヒッキー!」

そこに、雪ノ下達が駆け付ける。

俺を庇うように二人の前に立つと、磯兵衛達を睨みつける。

雪ノ下「これ以上はやらせない」

由比ヶ浜「少しはこっちの話も効いてよね!」

「「変身!」」

ナイト「まだやるというのなら」

龍騎「あたし達が相手になるよ!」

アギト「あの子たちもライダーだったでそうろう……」

G3-X「ここで戦うことになったら印象最悪だよ」

中嶋の言葉にうなずくと磯兵衛は変身を解除する。

中嶋もいそいそとG3-Xの装着スーツを脱ぎ出す。

磯兵衛「いや、拙者戦いたくなったっていったんだけど、中嶋がディケイドは倒さなきゃ

いけないっていうから……あ、拙者は磯部磯兵衛でそうろう!」

中嶋「磯兵衛!?」

磯兵衛「ほら、中嶋、二人に謝らないと」

……攻撃されたのは俺なんだけどな。

いや、まぁ、対立関係が解消されたならいいけどさ。


磯兵衛「拙者、磯部磯兵衛という者でそうろう。アギトに変身して、いつもみんなを守っ

てるでそうろう。いやはや恐縮!」

うわ、ドヤ顔うぜぇ……。

中嶋「中嶋襄です。G3-Xに変身して戦ってます」

磯兵衛「プっ……変身って……あんなのただのコスプレでそうろう」

中嶋「こ、コスプレじゃないよ!ただ変身に時間がかかるだけさ」

雪ノ下「というかこの時代に、コスプレという言葉があるのね」

比企谷「……そこらへんはあいまいなんじゃねぇの」

由比ヶ浜「しばらくはあたし達も一緒にアンノウンと戦うね!よろしく!」

磯兵衛「よ、よろしくお願いするでそうろう」

中嶋「お、お願いします!」

この世界についていくらかの質問をして、俺達は磯兵衛達と別れた。

終始俺に対してだけ態度が悪いのは何なんだよ……。

露骨すぎるだろ。



その夜……。

家臣「い、家康さま!大変です!」

家康「なに?こんな夜中に起こすって……しょうもないことだったらお前、処すよ?」

家臣「城、この江戸城に、何者かが攻撃を行っております!お逃げください!」

慶喜「新しい時代の風が吹く……」

吉宗「暴れたい」

*この世界では、徳川15将軍が兄弟で、江戸の町を治めている。

「潮干狩りしたい」

「犬飼おう、犬!」

家康「もう、みんな一回静かにして。……で、その敵ってどんぐらい?」

家臣「そ、それが一人なのですが……」

家康「一人って!!一人に敵に破られるような訓練してるならお前、処すよ?ほんとに」

家臣「その敵というのが、異形の姿で、壁やらなにやらも壊すのです!我々では対処でき

ません!」

家臣2「報告!報告!例の敵、いきなり引き上げました!もう安全です!」

家康「じゃあもう寝る」

家臣「しかし殿!ほうっておいてはまたいつ現れるかわかりません。早急に犯人を探した

ほうがよろしいかと」

家康「じゃあそうして」



―翌日―
役人「異形の姿をした物を探しておる。心当たりはないか?」

武士校の生徒「……磯兵衛と中嶋じゃない?」

生徒2「完全にあいつらだな」

役人「どういうことだ?」

生徒「なんか、変身、とか言ったら変な姿に変わるんですよ」

役人(そいつらだな)

―磯兵衛の家―

磯兵衛「はぁ~、日曜日は最高でそうろう」

中嶋「磯兵衛……友達が遊びに来てるんだからだらだらするのやめてよ」

磯兵衛「日曜日に何かするなんてアホでそうろう」

中嶋「誘ったの磯兵衛の方じゃないか……」



役人「おい!磯部磯兵衛の家というのはここか!」

母「なによアンタ。磯兵衛になにか用?」

*母……磯兵衛の母。磯兵衛にとてつもない期待を寄せ、また信頼している。

その戦闘力は計り知れない。

役人「うるさい!黙って磯兵衛を出せ!」

役人が刀を抜く。

母「磯兵衛に何かしようってんなら、ただじゃおかないわ!」

母は素手で役人の刀をつかむと、そのまま力任せに折ってしまった。

役人「お、俺の給料一年分の刀が……」

母「さっさと帰りなさい」


磯兵衛「母上、騒がしいでそうろう……そちらは?」

母「なんか磯兵衛を出せっていうから帰そうとしていたところよ」

役人「お、おまえは本当に異形の姿に変身するのか?」

母「なに訳の分かんないこと言ってんのよ。さっさと帰れ」

磯兵衛(拙者が変身することを知っている……そして、役人……これは!ついに拙者に恩

賞をくれるでそうろう!)

磯兵衛「母上!そんな乱暴に扱っちゃだめでそうろう!今すぐいくでそうろう!」

母「あら磯兵衛、知り合いだったの?」

磯兵衛「そ、そうでそうろう。だからちょっと行ってくるでそうろう」

役人「じゃ、じゃあいっしょに来てもらうぞ」

中嶋「磯兵衛?どうしたの?」

母「あらメガ……来てたの?」

中嶋「磯兵衛のお母さん……今僕のこと眼鏡って言おうとしてましたよね」

磯兵衛「そんなことは無いでそうろう、メガネ」

中嶋「磯兵衛が間違えるのはおかしいだろ!」

磯兵衛「まあそう怒るなでそうろう。実はいい知らせがあるでそうろう」

中嶋「え?」

磯兵衛「拙者達がアンノウンを倒してるのを知って、幕府が恩賞をくれるらしいでそうろ

う!」

中嶋「やった!じゃあ僕も行くよ!」

役人「あ……君もなの?」


~江戸城~
家康「お前達か?変な姿になるというのは」

磯兵衛「いやはや恐縮!」

中嶋「お礼なんていいですよ」

家康「お礼?お前ら、処すよ?」

中嶋「え?」

家康「お前達だろ?昨日ウチぶっ壊したの」

磯兵衛「なに言ってるでそうろう?」

家康「昨日、うちの壁やらなんやらを変な姿の奴が壊していったんだよ!犯人お前らだろ!」

磯兵衛「なっ、誤解でそうろう!」

家康「こいつらブタ箱にぶちこめ!」



由比ヶ浜「ふ、二人とも!これ見て!」

江戸の町を歩いていると、由比ヶ浜が驚愕の声を上げた。

雪ノ下「磯部磯兵衛、中嶋襄、江戸城破壊の罪で逮捕……」

比企谷「どういうことだ?」

俺達が事態の認識に戸惑っていると、

男「あ、アンノウンだ!」

女「だ、誰か助けて!」

比企谷「あいつらがいない以上、俺達がやるしかない!行くぞ!」

「「「変身!」」」

『Kamen Ride Decade!』

人々を襲っていたのは、三体のアンノウンだった。

ディケイド「鷹、虎、バッタ型のアンノウンか……」

なんか火野先生を連想させるな……。

ナイト「私が虎をやるわ!」

龍騎「じゃあ私は、バッタを!」

俺の相手は鷹か……なら!

ディケイド「変身!」

『Kamen Ride Fourze!』

タカアンノウン「これでも喰らえっ!」

鷹が高く跳び上がり(洒落ではない)数多の羽を飛ばしてきた。

タカ「フハハハッ!貴様では空は飛べまい!」

ディケイド「何のための変身だと思ってんだよ!」

『Attack Ride Fourze! Rocket On!』

急上昇するのを受け、俺の体に巨大なGがじかかる。

苦しみに耐えながら、敵に突撃する。

タカ「ぐぅ……ロケットが、飛ぶなぁっ!」

滅茶苦茶なことをいいながら、足を振り下ろす。

ロケットを再び起動させ、その攻撃をかわす。

そしてそのまま敵の上に回り、ロケットで敵の頭を殴りつける。

タカ「がああああぁぁぁあっっ!」

敵は完全に体勢を崩し、落下する。

ディケイド「このまま決めるっ!」

空中で、フォーゼの姿から元のディケイドの姿に戻る。

『Final Attack Ride De De De Decade!』

無防備な相手に、必殺の一撃を繰り出す。

タカアンノウンは、断末魔を上げることもなく爆発した。


由比ヶ浜と雪ノ下の様子をうかがうと、どちらもファイナルベントを発動させたところだ

った。

比企谷「ふぅ……随分楽に倒せるようになってきたな」

もと居た世界の物も合わせると、相当の戦闘経験をこなしてきた。

戦いがある生活が普通になってしまうのも考えものだが、戦闘中に動揺したりすることが

少なくなったのはいいことだろう。

雪ノ下「そうね。ただ、由比ヶ浜さんの戦い方は見ていて不安になることが結構あるわ」

由比ヶ浜「ええ!?そうかなぁ」

雪ノ下「あまり無茶しないでね」

由比ヶ浜「うん!ゆきのんありがとう!」

また百合百合しやがってこいつらは……。


役人「化け物だ!あそこにいるのが化け物だ!」

役人2「つかまえろーっ!」

と、戦闘を終えた俺達のもとに十数人もの武士たちが押し寄せた。

比企谷「なに言ってんだ?アンノウンならもう俺達がたおしたぞ?」

そんな俺の言葉も効かず、武士たちは俺達の前に立つ。

そしてそのまま、俺達を拘束した。

比企谷「なにするんだっ!」

役人「黙れ!狼藉者め!」

役人「家康様のもとに連行する!」



そして……。

磯兵衛「また会ったでそうろう!」

雪ノ下「こんな所では会いたくなかったわ……」

俺達は連行され、そのまま問答無用にブタ箱にぶちこまれてしまった。

由比ヶ浜「うう……あたし、前科者になっちゃうの?」

比企谷「由比ヶ浜がそんな難しい言葉を知ってるなんて感動だな……」

由比ヶ浜「ちょっとヒッキー!バカにしすぎだからぁ!」

雪ノ下「私達の世界ではないし、将来このせいで何か不具合が起きることは無いでしょう。

まぁ、甚だ不本意ではあるけれど」

中嶋「うーん……変身して、無理矢理出る?」

雪ノ下「……それは最終手段でしょうね」

一応候補には入れるんですね……。

比企谷「……相手が拷問とか強硬手段に出るまでは、仕方ないがおとなしくしとくか」

雪ノ下「まぁ……賢明でしょうね」

磯兵衛「トランプでもするでそうろう!」

中嶋「何で持ち歩いてるの?」

磯兵衛「そんなことはどうでもいいでそうろう!」

由比ヶ浜「あたし、大富豪がいい!」

こいつら……。

雪ノ下「比企谷君はずっと大貧民でしょうね」

雪ノ下さんも乗り気なのん?

比企谷「いいだろう、お前を大貧民にしてやる」


由比ヶ浜「やったー!8ながし!」

雪ノ下「え?そんなルールあったかしら」

比企谷「あぁ……ローカルルールが結構あるからな……」

磯兵衛「8流しは拙者達も使ってるでそうろう」

比企谷「じゃあ、これが終わったらルールを再確認するか」



磯兵衛「いやー、楽しかったでそうろう」

雪ノ下「ここからではよくわからないけれど、そろそろ夜でしょうね」

由比ヶ浜「お、お風呂は!?」

比企谷「いや……普通に入れないだろ。ここに入れられた時点でわかってなかったのか?」

由比ヶ浜「い、いやだよ!いやだよ!」

比企谷「んなこと言ってもなぁ……」

磯兵衛「……悪くないでそうろう」

中嶋「磯兵衛……」

女子二人が磯兵衛に嫌悪のまなざしを向ける。

磯兵衛「そ、そういう意味じゃないでそうろう!風呂などはいらなくても気にしないとい

う意味でそうろう!拙者、武士ですから!」

そうろうそうろううるせぇな……。

と、俺達が緊張感のない時間を過ごしていると、

ドガァン!と、とても大きな、何かが壊れるような音が響いた。

武士「か、怪物だ!またあのへんな奴が出たぞ!」

役人「将軍様達をお守りしろ!」


雪ノ下「怪物……また、と言っていたわね。つまり、そのせいでわたし達がこんな目に合

っている、ということね」

怖っ!!流石は雪の女王。

雪ノ下「比企谷君……何か?」

比企谷「その超怖い笑顔やめてくれる?戦意なくすわ」

雪ノ下「心配しなくてもいいわ。その怪物とやらは、わたしが倒すから……覚悟しなさい」

由比ヶ浜「お風呂入れないなんて気持ち悪すぎ!絶対許さないんだから!」

磯兵衛「悪は許さないでそうろう!」

磯兵衛(ここで活躍してポイントを上げるでそうろう!)

中嶋「早めに倒しちゃわないとね」

中嶋(磯兵衛はまた変なこと考えてるんだろうなぁ……)


武士「また現れやがったな!お前は一体何なんだ!この化け物!」

???「俺は、仮面ライダーギルス。そして、江戸でも指折りの武士……志村大八だ!」

*志村大八……江戸でも指折りの武士。

ただ、自分で指折りとか言ってしまうところが残念。
下級武士のゴロツキ達をまとめている。

磯兵衛に敗北して以来(正確には磯兵衛は何もしていないのだが)、彼をライバル視し、殺

害しようとするが、そのたびに失敗している。

武士「志村、大八?」

大八「ああ。俺が暴れ、磯兵衛を捕えさせ、弱ったところを倒すってわけだ」

武士「そ、そんなことの為に城を……」

大八「うるさい、さあ、牢はどこだ」

雪ノ下「それを知る必要はないわ」

大八(うお……俺好みの女)

磯兵衛「またあいつでそうろう……」

中嶋「磯兵衛、何かしたの?」

磯兵衛「してないでそうろう」

磯兵衛「そもそも名前も知らないでそうろう」

大八「テメェ、なめたまねをっ!」

大八が叫ぶと、彼の体が獣のような、黄緑色の姿になる。

ギルス「俺は、仮面ライダー、ギルスっ!」

由比ヶ浜「ギルス……」

ギルス「磯兵衛、今日こそお前をぶっ潰すっ!」

磯兵衛「こっちには5人もいるから余裕でそうろう」

あ、普通に五人がかりで行く感じなのね。

ギルス「他の奴らに邪魔はさせないっ! ウウオオオオオオオッッッ!!」

ギルスが咆哮すると、4体のアンノウンが現れた。

そしてアンノウン達は、一体ずつ、俺達の前に立ちふさがる。

中嶋「じゃあ磯兵衛、君は一人であいつを相手してね」

磯兵衛「え?」

「「「「変身!」」」」

磯兵衛「……変身」

俺の相手は、龍の姿をモチーフにしたアンノウンだ。

ドラゴンアンノウン「グルォォッ!」

ディケイド「龍相手なら、この姿だっ!」

『Kamen Ride Ryuki!』

ディケイド「戦わなければ、生き残れないっ!」

『Attack Ride Ryuki Sword Vent』

俺の剣を、腕の厚い鱗で受け止める。

ディケイド「マジか……硬すぎだろ」

ディケイド「なら、熱はどうだ?レアでもミディアムでも、好きな焼き加減にしてやるぞ!」

『Attack Ride Ryuki Strike Vent』


ディケイド「くらえっっ!」

炎が到達する前に、龍はその口から業火を吐き出した。

その攻撃は俺の攻撃より勢いがあり、炎が俺の手前まで迫った。

タイミングを見計らって横に跳ぶ。

ディケイド「あっちっ!」

ディケイド「だったらこれでっ!」

『Attack Ride Ryuki Advent』

ドラゴンの姿がモチーフになっているとは言っても、そのサイズは俺達とさして変わらな

い。

そこに巨大なドラグレッダーが突撃すれば、確実にダメージを与えられるはずだ。

ドラグレッダー「ガァァァアアアアッッ!」

上空に現れたドラグレッダーが、頭から敵に突っ込んでいく。

ドラゴンアンノウン「ぐぅぅっ!」

突進を受けて、アンノウンは勢いよく吹き飛んだ。

が、それも大して気にしていないかのように、再び立ち上がり咆哮を上げた。

そしてまた先程の炎を俺に向けて吐き出した。

今度はよけられず、一瞬炎の中で立ち尽くしてしまう。

炎に強い龍騎であっても無視できない威力だ。

『Kamen Ride Fourze』

炎の中でカードを使うことに、燃えるのではないかという不安はあったが、どうやらその

心配はなかったようだ。

『Form Ride Fourze Fire On』

炎を司るファイヤスイッチ。

その力で敵の炎をすべて吸収する。

そして凝縮した炎を、そのまま敵に向けて放射する。

ドラゴン「がぁぁぁあああっ!」

厚い鱗も、この攻撃はたまらないらしい。

ディケイド「いっきにいくぞ!」

『Kamen Ride Brade』

『Final Attack Ride Bu Bu Bu Brade!』

ディケイド「ライトニング、ソニックッ!」

雷の力を宿した高速キックを、ダメージから回復していない敵の胸部に叩きこむ。

断末魔を上げ、ドラゴンアンノウンは消滅した。

由比ヶ浜と雪ノ下は善戦していて、もうすぐ決着をつけられそうだが、中嶋はカメ型のアンノウンに苦戦しているようだ。

ディケイド「サポートする!」

G3-X「あ、ありがとう!」

ディケイド「敵の特徴は?」

G3-X「とにかく硬い!なかなか攻撃が通らない!」

俺のタイプと似てるな。大八が磯兵衛との戦いに邪魔させないため、防御力の高いアンノ

ウンを用いたのだろう。

まあ、どうやってアンノウンを従えたかは知らないが。

『Form Ride Deno Ax Form』

ディケイド「俺の強さに、お前が泣いた」

ディケイド「俺が前に出るから、銃攻撃で援護してくれ」

G3-X「わかった!」

敏捷性には欠けるものの、威力の高いアックスフォームで攻め立てる。

勢いよく振り下ろした斧が、敵の肩に当たる。

痛みに耐えられなかったのか、敵はその場にうずくまる。

好機と見た俺は、斧をカメの頭に向けて振り下ろす。

勝利を確信した俺の手に、鈍い衝撃が走った。


何とカメは、その甲羅の中に頭を隠してしまったのだ。

そしてそのまま、甲羅で高速スピンを開始する。

足をとられ、転倒してしまう。

G3-X「ディケイド!」

俺を助けようと中嶋が駆けよってくれるが、カメの回転攻撃を受けて吹き飛ばされてしま

う。

よ、弱い……。

ディケイド「うろちょろと……面倒くさい」

『Form Ride Deno Wing Form』

ディケイド「降臨、満を持してっ!」

無数の羽と、ブーメランモードに変形したデンガッシャ―を投げる。

広範囲の攻撃のため、高速で動くカメにも、幾度となく攻撃が着弾する。

そしてついに、甲羅の中から頭を出した。

G3-X「やああっ!」

それを見逃さず、武器をブレードに持ち替えた中嶋がカメの頭部を斬り飛ばす。

中枢神経に重大な損傷を受けたカメは動かなくなり、それから少しして爆散した。

G3-X「磯兵衛、大丈夫かな」

ディケイド「大丈夫じゃないだろうから、助けに行くんだろ」

G3-X「ははっ、そうだね」



アギト「な、なんでそうろう!なぜ拙者を目の敵にするでそうろう!」

ギルス「それがわからないのが許せないんだよっ!」

アギト「り、理不尽でそうろう!」

ギルス「黙れっ!」

大八が叫ぶと、その体から数本の触手が伸び、磯兵衛の体を捕えた。

アギト「拙者を倒して、どうするでそうろう!」

ギルス「どうする、か。そうだな、ライダーに変身するお前を倒し、この国を俺が支配す

る。人の未来は、俺の手中にある!」

アギト「ふざけるなでそうろう……拙者は、好きに気ままに生きていきたいでそうろう!

だから、そんなことはさせぬ!人の運命がお前の手の中にあるというのなら、拙者が奪い

返すでそうろうっ!」

磯兵衛が決意を込めてそう叫ぶと、彼の姿が再び光に包まれ、赤と白の姿へと変わった。

アギト「拙者は戦うでござる、人間のために、拙者のために、アギトのためにっ!」

宮本武蔵(アギトってお前しかおらんではないか!)

ディケイド「そうだな、それじゃあ、未来をとり返すとするか」

アギト「なっ!!聞いてたのかでそうろう」

ディケイド「気にするな、どうせすぐに消えるからな」

アギト(こいつ何言ってるか分からないけどめっちゃ恥ずかしいでそうろう……)

ディケイド「ちょっとくすぐったいぞ?」

アギト「え?」

慣れた手つきで、磯兵衛の背中に触れる。

すると彼の姿が、空中に浮かぶ大きな乗り物に変わる。

磯兵衛(え?な、なんでそうろう!?)

そしてその上に飛び乗ると、磯兵衛の体がギルスへと向かっていく。

ディケイド「このまま突っ込む!」

磯兵衛(なっ!!ちょ、ちょっと待つでそうろう!)

ギルス「グルァァァアアアアアッッッ!」

ギルスが咆哮し、その触手が磯兵衛を拘束する。

磯兵衛(す、進めないでそうろう!)

ディケイド「くっ!」

龍騎「あたしに任せて!」

『Final Vent』

龍騎「うおりゃあああぁぁぁっっ!」

由比ヶ浜の必殺技、ドラゴンライダーキックがギルスの触手を突き破り、磯兵衛の身が自

由になる。

磯兵衛(い、いけるでそうろう!)

ディケイド「たぁぁああああああっっっ!」

ギルス「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉっっっ!」

俺達の突進を受けたギルスは勢いよく吹き飛び、城の壁に衝突する。

よほどダメージが大きかったのか、元の大八の姿に戻った。

大八「俺の……負けだ」

磯兵衛「気を失っているでそうろう」

中嶋「あれ……?大八から、力を感じないよ?」

雪ノ下「どういうこと?」

中嶋「僕たちはお互いに、アンノウンやライダーの力を感じることができるんだ。

でも、今の大八からは何も感じない」

比企谷「つまり、こいつはもう力を失ったってことか?」

磯兵衛「そういうことでそうろう!」

由比ヶ浜「なら、これで一安心だね!」

磯兵衛「助かったでそうろう!お二人のおかげでそうろう!」

比企谷「ナチュラルに俺を省くな」

磯兵衛「バレたか!」

いや、バレたか!じゃねぇよ。

雪ノ下「私達のこの世界ですべきことは、終わったようね」

比企谷「ん、みたいだな」

俺達の体が、いつものように消え始める。

磯兵衛「ど、どういうことでそうろう!?」

由比ヶ浜「あたし達は、いろんな世界を旅してるんだ。また、次の世界に行かなきゃいけ

ないみたい」

磯兵衛「そんな……拙者!二人にいいたいことがあるでそうろう!」

由比ヶ浜「なに?」

磯兵衛「す、好きでそうろう!」

比企谷(二人に同時に告白するの……?)

雪ノ下、由比ヶ浜「「ごめんなさい」」

磯兵衛「お茶が!」

中嶋「濁したな……」

磯兵衛「お茶だけにね!」

去り際に写真を撮ると、気の抜けた表情の武士が部屋で春画を読んでいる姿が映った。

……これは、ひどいな。

次の世界はもう少しマシであることを祈り、次の世界へと飛び立った。


いつものように俺達は再び写真館の中に戻っていた。

服装は、由比ヶ浜と雪ノ下が紫色の学生服、俺は全身黄緑色の、用務員のような服装にな

っていた。

由比ヶ浜「ヒッキー……なんかおじさん臭い」

比企谷「んなこと言っても仕方ないだろ」

雪ノ下「私達は、制服ね。紫色の制服というのは、見たこと無いけれど」

比企谷「それは……サンクルミエール学園の制服だな」

雪ノ下「……何の世界なの?」

比企谷「イエスプリキュアファイブの世界だな」

由比ヶ浜「なんか、プリキュアの世界多くない?」

比企谷「だからそんなこと俺に言っても仕方ないだろ」

由比ヶ浜「なんでヒッキーは制服じゃないの?」

比企谷「サンクルミエール学園は女子校だからな」

雪ノ下「とりあえず、外に出てみましょうか」

と、俺達が写真館を出ようとした時、俺の携帯電話が鳴った。

比企谷「知らない番号だな……はい、もしもし」

???「ちょっと、どうなってるわけぇ?今日から入る新人さんでしょ?初日から遅刻っ

てありえないよ!」

比企谷「え?あの?どちらさまでしょうか」

ブンビー「ええ!?なに言ってるの!比企谷八幡君でしょ!君が今日からバイトする会社

の社長、ブンビーだよ!」

*ブンビー……プリキュアに敵対する組織の幹部。蜂の怪人。

幾度となくプリキュアと戦う中で自分のあり方に疑問を覚え、プリキュアと和解した。

更生後は、ブンビーカンパニーという小さな会社を立ち上げた。

ブンビー「もう!どうしたんだよ!今どこに居るの?」

比企谷「す、すいません。光写真館です」

ブンビー「光写真館?すぐ近くじゃないか」

比企谷「え?」

ブンビー「うちのブンビーカンパニーは、そのすぐ横!大きいビルがあるでしょ!そこの

屋上だよ!」

言われて、写真館の外に出る。

そのすぐ横に、巨大なビルが建っていた。

比企谷「ここか……」

ブンビー「わかった?」

比企谷「はい、すぐ行きます」

ブンビー「もう、しっかりしてね」

雪ノ下「事情は大体わかったわ」

由比ヶ浜「あたしたちもいくよ!」

バイト先に知り合いを連れていくっていうのはいいのか……?

疑問に思ったが、このバイト先で、俺達がすべきことに関することが起きる可能性が極め

て高いことを考えると、そうしたほうがいいだろう。

比企谷「じゃあ、遅れてるみたいだから急いでいくか」



俺達が指示通りビルの屋上に行くと、そこには不自然な事務所があった。

雪ノ下「よく考えると……考えなくても、ビルの屋上に事務所があるって、おかしいわね」

由比ヶ浜「とりあえず、はいってみようよ!」

比企谷「失礼します」

扉を開けて入ると、すぐ近くに黄色の髪の中年男性が立っていた。

ブンビーさんだ。

ブンビー「もう、遅れるなら遅れるって連絡してよ。最低限のマナーだよ」

比企谷「すみません」

正直俺には知りようがなかったことだが、相手にとってはそんなこと関係ない。

ブンビー「ところで、そこの二人は誰?」

由比ヶ浜「あ、こんにちは。由比ヶ浜結衣です」

雪ノ下「雪ノ下雪乃です。よろしくおねがいします」

ブンビー「ああこりゃご丁寧にどうも。で、どのような用件ですか?」

雪ノ下「比企谷君の、付き添い、です」

ブンビー「付き添い……?仕事に?」

ブンビーが怪訝そうな顔をする。

当然の反応だろう。というか、俺だったらクビにするレベルだと思うが。

雪ノ下「私たちにも、お手伝いさせていただけませんか?お金は結構ですので」

ブンビー「そう言ってくれるのはありがたいけど……うちの仕事内容はわかる?」

由比ヶ浜「う……」

ブンビー「すごく大切な仕事で、おおっぴろにするべき仕事でもないからね。

誰にでも話せるというわけでもない」

そう言ってブンビーさんは、二人を遠ざけ、俺にだけ聞こえるように言った。

ブンビー「うちはね、ベルトを作ってるんだよ」

比企谷「ベルト?」

ライダーの世界を旅していて、ベルト。

これは……。

ブンビー「そう。信じられないかもしれないが、この世界には、オルフェノクという怪物

がいる。そしてそれと戦うプリキュア、いや、今は仮面ライダーか……。

つまりそういう存在がいるんだが、うちでは彼女達が戦うのに必要な変身ベルトを作って

いるんだよ」

比企谷「……」

ブンビーさん、この世界ではプリキュア達とそこまで協力しているのか。

ブンビー「やっぱり、いきなりこんなこと言われてもわからないよね」

比企谷「いえ、大丈夫です。それと、そういうことならやっぱり、彼女たちに協力しても

らった方がいいと思います」

ブンビー「え?」

比企谷「由比ヶ浜、雪ノ下。ちょっといいか?」

由比ヶ浜「どったの?」

比企谷「変身しよう」

雪ノ下「え?」

比企谷「まぁ、事情は後で話す」

由比ヶ浜「わかった」

「「「変身!」」」

そして俺達は同時に、仮面ライダーへと変身した。

ブンビー「これは……ライダー?でも、こんなもの私達は作ってない……」

ディケイド「俺達も、ライダーです。ただ、この世界のライダーではありませんが」

ブンビー「え?」

俺達は、これまでの旅のいきさつなどをざっくりと説明した。

ブンビー「なるほど……そんなこともあるもんなんだねぇ」

雪ノ下「と、いうわけなんです。私たちにも協力させていただけませんか?」

ブンビー「そういうことなら、こちらからお願いしたいくらいだ。よろしくね」

???「ブンビー、なにをそんなに長く話しているんだ?」

奥の方から、がっしりとした体格の男がやってきた。

ブンビー「ああ、スコルプさん。とても興味深いことがあってですね」

*スコルプ……プリキュアの敵対組織『エターナル』に所属していた、サソリ型の怪人。

ブンビーと親しくなってすぐに、プリキュアの仲間(一員)であるミルキーローズに消滅

された。

スコルプ「興味深いこと?」

ブンビー「実はですね……」


スコルプ「別世界のライダー……しかし、変身したというのなら、信じるほかないか」

ブンビー「彼らが協力してくれれば、オルフェノクとの戦いもぐっと優位に立てますよ」

スコルプ「……そうだな」

ブンビー「あっ……ごめんなさい、そんなつもりは無かったんですけど」

スコルプ「気にするな、多くのオルフェノクが悪事を働いていることは事実だ」

雪ノ下「どういう……ことですか?」

比企谷「おい、雪ノ下」

雪ノ下は、聞きづらいこともどんどん聞いていく。

すごいとは思うが……。

雪ノ下「失礼しました」

彼女も、自身の言動が踏み込み過ぎたことだと悟ったのだろう。

スコルプ「いや、かまわん。これから共に働くというのに、隠し事をするのもな」

ブンビー「スコルプさん……」

スコルプ「まぁ、さっきのやりとりで察してはいると思うが、俺はオルフェノクだ」

なんと言っていいのか分からない俺達を気にする様子もなく、彼は続ける。

スコルプ「俺はかつてプリキュア達と敵対していてな。その戦闘のさなか、命を落とした

んだ」

由比ヶ浜「じゃあ今は……幽霊みたいな存在ってことですか?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

今度は雪ノ下が由比ヶ浜を咎める。

スコルプ「いや、気にするな。質問の答えだが、当たらずとも遠からずというところだな。

オルフェノクというのは、一度死んだ者が、ごく稀にオルフェノクとして復活することに

よって生まれるんだ」

雪ノ下「なるほど……」

スコルプ「そして、かつて俺とブンビーが所属していて、プリキュアとの戦いでなくなっ

たはずのエターナルが、その構成員の多くがオルフェノクとしてよみがえったことで復

活し、たびたびこの世界を襲撃している」

由比ヶ浜「あの……なんで二人は、プリキュアに協力してるんですか?敵だったのに」

ブンビー「私は……プリキュアと戦ってるうちに、自分のやってることが正しいのかなっ

て思っちゃってね。

いや、正しくないことはわかってたんだけど、このままでいいのかなって、あの子たちを

見て思ってね」

スコルプ「わたしとブンビーは、仲が良くてな。最初は、自分を消したプリキュア達のこ

とが憎かったが、こいつの話を聞いてるうちに、今まで自分が愚かだったと思い知らされ

てな。それからはプリキュア達とも和解したよ。……ミルキーローズともな」

自分を殺した相手と和解する。そんなことを成し遂げてみせた目の前の彼を、俺は心から

尊敬できると思った。

雪ノ下「お話、聞かせていただいてありがとうございました」

俺達はそろって頭を下げる。

スコルプ「礼を言われるようなことじゃない。まぁ、ベルトの強化を手伝ってくれればい

いさ」

比企谷「俺達にできることなら何でもやりますよ」

ブンビー「じゃあ、ちょっとデータをとりたいから、変身してもらってもいいかい?」


比企谷「三人まとめてですか?」

ブンビー「いや、うちにはそんなにたくさん器具は無いからね。まずは……比企谷君から

お願いしてもいいかな」

比企谷「わかりました……変身!」

『Kamen Ride Decade!』

スコルプ「すごいエネルギーだな……」

ブンビー「ファイズのエネルギーと同じくらいか……別の姿になってもらってもいい?」

『Kamen Ride Brade!』

言われたとおり、俺はブレイドの姿になる。

『Kamen Ride Gaim!花道オンステージ!』

『Kamen Ride Deno! Sword Form』

続けて、様々なライダーに変身する。

スコルプ「すごいものだな、これは……」

ブンビー「特に、別の姿に変わる時に著しいエネルギーが出るようですね」

その後、雪ノ下達も同じように変身し、データをとってもらった。

ブンビー「実戦データもとれればいいんだけど……まあそれは無理ですかね」

スコルプ「できんこともないぞ。我々があのベルトを使えば……」

ブンビー「ええ!?いやですよスコルプさん。あれはまだクロックアップシステムもでき

てないじゃないですか。まともに戦えませんって」

スコルプ「まあ、それもそうだな」

ブンビー「最近やっとライダーフォームに慣れるようになったばかりなんですから」

スコルプ「あれの開発に、このデータが使えればいいがな」

ブンビー「まあ当面は、プリキュア達のベルトの強化をやることになるでしょうけどね」

ブンビー「あ、三人ともありがとね。とりあえず今日はこんなものでいいよ。これから解

析を」

???「ブンビーさん、こんにちは!」

その時、ドアが急に開き、元気のいい少女の声が聞こえてきた。

ブンビー「おお、のぞみちゃん」

*夢原のぞみ……元気いっぱいで好奇心旺盛なサンクルミエール学園の中学二年生。

普段はドジだが、戦闘時には頼もしい存在になる。

キュアドリームに変身し、悪の組織を退けた。

オルフェノクが世界に現れてからは、ファイズギアを使って仮面ライダーファイズとなっ

た。

自分の夢を探している。

???「こらのぞみ!急にはいらないの!」

のぞみ「だってぇ……りんちゃぁん」

りん「はぁ……ったく」

夏木りん……のぞみの幼馴染。自由奔放なのぞみに振り回される苦労人。

スポーツ万能で様々な運動部の助っ人として呼ばれていたが、フットサル部に落ち着く。

キュアルージュとしてのぞみたちとともに戦った。

うらら「のぞみさーん!まってくださいよー!」

のぞみ「うららー!早くおいでよー!」こまちさんもかれんさんもこっちこっちー!」

*春日野うらら……女優を目指す中学一年生。

その目的に向けてひたすら打ち込んできたからか当初はりんに友人の少なさを指摘される

ほどだったが、(りん『口を開けばのぞみのぞみって、あんた他に友達いないの?』と、な

かなかひどいことを言われていた)プリキュアとして戦ううちに多くの仲間ができた。

*秋元こまち……読書好きで、小説家を目指す中学三年生。

おっとりしていて、マイペース。

妖精であるナッツに恋心を抱いている。

*水無月かれん……生徒会長でお嬢様な中学三年生。

責任感が強く(自分がプリキュアにならなければならないという義務感で変身しようとし

たため、一度はプリキュアへの変身に失敗した)、それゆえに悩むこともあったが、

のぞみたちと共に闘う中で、一人で抱え込むようなことは少なくなった。

こまち「まあ、のぞみさんったら」

かれん「しょうがないわね、のぞみは」

りん「しょうがないじゃないですよ、こんなんじゃ将来困りますって」

かれん「でも、それがのぞみのいいところでもあるわ。人の心を開いてくれる」

くるみ「かれんは甘いわ!こういうことはしっかり言わないと!」

*美々野くるみ……『ミルク』という妖精が青いバラの力を得て人間となった姿。

戦闘時には『ミルキーローズ』へと変身し、プリキュア達と共に闘う。

エターナル内で窮地に陥ったスコルプが決死の思いでプリキュアと戦っていたところを襲

撃し、彼を消滅させた。

気が強く、のぞみとはたびたび喧嘩する。

ブンビー「のぞみちゃん、今日はどうしたんだい?」

りん「結構激しく戦ったから、ベルトの調整をお願いしたいんです」

ブンビー「はいはい、了解」

のぞみ「ありがとう、ブンビーさん!」

雪ノ下「彼女達が、この世界の仮面ライダーですか?」

スコルプ「ああ。仮面ライダーファイズ達だ」

うらら「そちらの人たちは誰ですか?」

うららが俺達を見てスコルプに尋ねる。

スコルプ「ああ、彼らは仮面ライダーディケイド達だ」

比企谷「ちょっ……」

しまった。俺が行く先々の世界で敵視されていることはまだ話してないんだった……。

くるみ「ディケイドですって!?」

由比ヶ浜「ああ、いつものパターンになっちゃった……」

ブンビー「あ、ちょっと君たち、彼らは悪い人じゃ……」

りん「あんたたちのせいでこの世界にオルフェノクが現れるようになったんでしょ!

ゆるさないわ!」

のぞみ「みんな、行くよ!」

りん、うらら、こまち、かれん「「「「Yes!」」」」

「「「「「プリキュア、メタモルフォーゼ!」」」」」

彼女たちは一様に携帯電話を取り出して叫んだ。

ファイズ(のぞみ)「大いなる、虚無の力、キュアファイズ!」

サイガ(りん)「情熱の、蒼い炎、キュアサイガ!」

デルタ(うらら)「はじけるレモンの香り、キュアデルタ!」

カイザ(こまち)「安らぎの、漆黒の大地、キュアカイザ!」

ライオトルーパー(かれん)「湧き出る知性の泉、キュアライオトルーパー!」

「「「「「希望の力と未来の光!華麗に羽ばたく五つの心、Yes!プリキュア5!」

くるみ「スカイローズ、トランスレイトッ!」

ローズオルフェノク(くるみ)「蒼いバラは秘密の印、ローズオルフェノク!」

雪ノ下「戦闘データをとるいい機会だと思いませんか?」

雪ノ下は不敵な笑みをブンビーに向けた。

ブンビー「君たち……すごいこと考えるね」

……それはこいつだけです。

比企谷「しょうがない……やるか」

由比ヶ浜「でも、3対6って勝ち目薄くない?」

雪ノ下「それくらいの方が面白いわ」

由比ヶ浜「ゆきのん……」

比企谷「お前は好戦的すぎるぞ……」

雪ノ下「ただのデータをとる為の実験よ」

「「「変身!」」」

ディケイド「じゃ、いくか」

『Attack Ride Blast!』

銃弾を撒き散らし、相手を牽制する。

『Strike Vent』

龍騎「やあああっっ!」

それに合わせて、由比ヶ浜も炎攻撃を浴びせる。

ナイト「たぁっ!」

「Sword Vent」

剣を手にした雪ノ下が単身相手に突っ込んでいく。

援護するしかないか。

ファイズ「やぁぁっ!」

雪ノ下の剣をのぞみが受け止める。

ライオトルーパー「うらら!銃持ちの二人を抑えるわよ!」

デルタ「わかりました!」

かれんとうららがこちらに向けて銃攻撃を放ってくる。

その退避のため、雪ノ下への援護が一時中断される。

雪ノ下への接近が可能となったこまちが剣を振りおろす。

サイガ「上ががら空きよ!」

背中に装備したブースターで宙に浮いたりんが、上から銃撃を放ってくる。

ローズオルフェノク「あんたたち、下の下ねっ!」

追い打ちをかけるように(というか実際そうだが)クルミがバラの花弁のようなものを飛

ばしてくる。

うわ、これめっちゃ痛い。

サイガ「多勢に無勢ね、諦めなっ!」

ディケイド「勝った気になるのはまだ早いぜ、りんちゃんさんっ!」

『Attack Ride Illusion』

『『Trick Vent』』

俺達は同時に分身のカードを使う。

ナイト「これでこちらが多勢かしら?」

今度はこちらが数を頼みに攻撃を仕掛ける。

ドリーム「うっ……ココっ!」

のぞみが変身に使った携帯電話を操作すると、2mほどの大きなロボットがこちらに跳ん

で来て、ガトリングを連射して攻撃してきた。

*ココ……のぞみたちにプリキュアになるよう頼んだ妖精。

人間態はかなりのイケメンで、のぞみに好意を持たれている。

のぞみがファイズになった際、なぜかオートバジン(ファイズのサポートロボ)への変身

能力を得た。

オートバジン「のぞみぃ!大丈夫かココ!?」

分身体をいくつか消したココが俺に体当たりをかましてきた。

くそ、妖精のくせに力強ぇ。

サイドバッシャー(ナッツ)「こまち、大丈夫かナツ!?」

そこにさらに、ココよりも大きなロボットが現れ、ミサイルやバルカンを撃ってきた。

*ナッツ……ココの親友。

人間態では冷静で辛口。

書物を好み、それが理由でこまちと親しくなった。

ココ同様、カイザをサポートするサイドバッシャーへの変身能力を得た。

なんか、マグナギガに似てるな。

あいつはこんなに動かないが。

ジェットスライガー(シロップ)「うらら!しっかりするロプ!」

*シロップ……妖精。当初はココやナッツに不信感を持っていたが、共にプリキュアと過

ごす中で彼らを信用するようになった。

うららとは接する機会が多く、親密な関係になった。

デルタをサポートするジェットスライガーへの変身能力を得た。

デルタ「シロップ!ありがとう!」

ディケイド「いよいよ増えてきたな……」

龍騎「ヒッキー!弱音吐かないの!」

『『Advent』』

由比ヶ浜と雪ノ下が、それぞれ契約モンスターを呼び出す。

ドラグレッダーが炎を吐いて回る。

ダークウイングは超音波を発しながら襲いかかり、相手を撹乱している。

ディケイド「このままたたみかけるっ!」

『Kamen Ride Brade!』

『Attack Ride Time』

時の流れを低下させ、その隙に攻撃を叩きこむ。

ファイズ「そこまでだよっ!」

ディケイド「なっ!?」

この空間で自分以外動けることに驚愕した俺は、後方からの攻撃に対処できなかった。

ファイズ(アクセルフォーム)「早く動けるのは、あなただけじゃないんだよっ!」

のぞみが高く跳び上がると、赤いらせん状のものが俺の周囲にいくつも現れる。

そしてそれが、俺に密着する。

まずいっ……!

ファイズ「夢見る乙女の底力、受けてみなさいっ!アクセルクリムゾンスマァッシュ!」

ディケイド「くらうかっ!」

『Final Attack Ride Bu Bu Bu Blade!Ritnin

g Sonic!』

何とか必殺技を発動させ、のぞみの攻撃に対処する。

だが、相手は上空からの攻撃で威力は上がっており、こちらはなんとか苦し紛れに出した

攻撃。

勝負になるはずもなく、俺は勢いよく吹き飛ばされた。

『Reformation』

それと同時、俺とのぞみのどちらも加速状態が終了する。

ディケイド「くっ……やるな」

『Kamen Ride Agito!』

つい少し前に手に入れたばかりのアギトの力を発動させる。

両手に槍を構える。

ディケイド「相手の中心にもぐりこみ、背中合わせで近接戦闘に持ち込むぞ」

雪ノ下「了解」

由比ヶ浜「わかった!」

サイガ「突っ込んできた、いい度胸じゃないっ!」

上空にいたサイガが急下降し、剣を振り下ろす。

それを俺が何とかいなし、相手の中心部に入り込むことに成功した。

よし、これで遠距離からやられることは無くなる。

ここまで接近すれば、味方に当たる可能性がかなり出てくるからな。

ディケイド「決着をつけるぞ!」

『Final Attack Ride De De De Decade!』

『『Final Vent』』

『『『『『Exceed Charge』』

ローズオルフェノク「いくわよぉぉっ!」

6人と3人、の全力を乗せたキックが激突する。

ディケイド「うおおおおぉぉぉっっ!」

ファイズ「たああああぁぁぁっ!」

どちらも押しも押されもせず、その場に留まり続ける。

だが、相手の人数はこちらの倍。

このままいけば押し負けてしまう。

ナイト「ぐッッ……」

龍騎「ううっ」

『『Henshin』』

『『Cast Off』』

『Change Wasp』

『Change Scorpion』

と、横から銃撃を受け、俺達は全員その場に倒れた。

ザビー(ブンビー)「ちょっと、戦闘データはもう十分とれましたよ。のぞみちゃん達も話

し聞いてよ」

サソード(スコルプ)「全くだ。止めなかったらどうなっていたことか」

ディケイド「すみません。思った以上に数が多かったので途中から本気になってしまって」

ライオトルーパー「どういうつもりですか?ディケイドは、この世界の破壊者です」

比企谷「一旦、話を聞いてくれないか?」

俺は警戒を解くため、変身を解いてそう言った。

ファイズ「うん!わかった!じゃあお茶にするぞー、けって~い!」

サイガ「のぞみ、あんたねぇ……」

デルタ「いいじゃないですかりんさん、この人達も変身を解いてるんですし」

カイザ「そうね、うららさんたちの言うことも一理あるわ」

ライオトルーパー「こまちまで……まあ、話を聞くのはマイナスにはならないわね」

ブンビー「この人達のことは私が保証するよ」

こまち「そういえばさっきブンビーさん達が使ってたベルト。完成したんですね」

スコルプ「いや、まだまだだ。クロックアップシステムも使えないしな。目指す物のプロ

トタイプにもならん」

ブンビー「並みのオルフェノクとなら問題なく戦えるけど……君たちのベルトよりかなり

性能は劣るね」

のぞみ「早く完成するといいね!」

りん「あんたはまたそんなこと簡単に言って……」

うらら「難しく考えるよりいいじゃないですか」

りん「そりゃそうかもしれないけどね」

ブンビー「そうそう、のぞみちゃんみたいに応援してくれるとこっちもやる気出るからね」

かれん「……それより、あなた達の話を聞かせてくれないかしら。ディケイド」

~~~~~~

くるみ「ふうん……」

ココ「でも、パルミエ王国の伝説の書には、ディケイドは世界を滅ぼす最悪の存在だと書

いてたココ!」

ナッツ「そうナツ!ディケイドは信用できないナツ!」

シロップ「フローラも、ディケイドには気をつけろと言ってたロプ!」

ミルク「あやしいミル!」

この淫獣どもが……。

雪ノ下「事情を話した後もここまで敵視されるのは初めてね」

かれん「考えられるのは……ディケイドのベルトはもともと破壊を司るベルトだったけど、

その意思のない比企谷さんが引き継いだ、という線じゃないの?」

こまち「そうね、もしわたし達を倒したいのなら、一人のところに奇襲をかけた方が確実

だろうし。ブンビーさん達に正体を明かす必要もないわ」

りん「奇襲って……こまちさん、怖いこと言うのやめてくださいよ」

こまち「あ、ごめんなさいね。そんなつもりは無かったんだけど」

のぞみ「この人達、悪い人じゃないよ!」

りん「のぞみ……あんたなんでそんなことわかんのよ」

のぞみ「なんとなく!」

ミルク「なんとなくって、のぞみは本当にばかミル!」

のぞみ「ば、バカとはなによぅ!」

ミルク「本当のことを言っただけミル」

のぞみ「馬鹿って言った方がバカなんだからね!」

ミルク「馬鹿って言われたほうがバカに決まってるミル!のぞみはそんなこともわからな

いミル?」

のぞみ「うう~、ココー!」

ココ「二人とも、喧嘩はやめるココ」

ブンビー「みなさーん、お茶が入りましたよ~」

そこに、人数分の飲み物を持ってブンビーが戻ってきた。

のぞみ「やったー!」

雪ノ下「私達も、いただいていいんですか?」

ブンビー「もちろん!」

うらら「一緒にいただきましょう」

最初のうちはぎくしゃくしていたものの、ともにお菓子やらなんやらとつまむと、少しず

つうちとけてきた。

ノミュニケーションというのも、案外バカにできないものらしい。

こまち「じゃあ、とっても大変だったのね」

雪ノ下「ええ。こうしている間にも私たちの世界がどうなっているかと思うと、正直ゾッ

としないわ」

かれん「あなた達の話からすると、わたし達の世界にも危機が迫っているということなの

よね」

由比ヶ浜「う?そ、そう、だよね?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん、質問に質問で答えるのはよくないわ」

比企谷「あー……そいつには質問しないでくれ。多分、まともな答えが返ってこない」

由比ヶ浜「なっ、どういう意味だっ!」

雪ノ下「さっきの質問だけれど、その通りよ。ここだけじゃなくて、全ての世界が危機に

ひんしている」

かれん「オルフェノクの王の復活が、この世界では危機に当たるのかしら……」

のぞみ「結衣ちゃん、このチョコおいしいよ!」

由比ヶ浜「あっ!ほんとだ!」

うらら「結衣さん!こっちのセレブ堂のシュークリームもおいしいですよ!」

ココ「あ、そのシュークリームはココのだココ!」

シロップ「のぞみ!そのホットケーキ食べるなロプ!」

りん「あんたたち、静かにしなさーい!」

のぞみ「うわー、ごめんなさーい」

かれん「……ごめんなさいね、大事な話をしようとしている時に」

比企谷「いや……うちのも一人バカ騒ぎに加わってるからな……」

雪ノ下「さっき言っていた、この世界での危機に思い当ることというのは?」

ミルク「それはミルクが説明するミル!」

ミルクがかれんの膝の上にちょこんと座ってそう言った。

ミルク「オルフェノクは、とてつもない力を持つ代わりに、その寿命はとても短いミル。

だから、その力の強大さの割に被害はそんなに出てないんだミル」

ミルク「そして、オルフェノクの王は……その手で触れたオルフェノクの寿命を無限にす

ることができるらしいんだミル」

雪ノ下「らしい、ということは、まだ現れていないということね」

かれん「そう。だから今オルフェノク達は躍起になってその王を探している。

王の宿主が誰かもわかっていないからね」

比企谷「なるほど……大体わかった。俺達がこの世界ですべきことは」

雪ノ下「オルフェノクの王を倒すこと、ね」

比企谷「となると、お前らのオルフェノク退治に協力するのが、手っ取り早そうだな」

かれん「そうしてくれるとわたし達も助かるわ」

のぞみ「ココー、この飴上げる!」

ココ「ありがとココ!」

うらら「そ、それはまさか……」

ココ「ま、不味いココー!これ、なんだココ!」

のぞみ「納豆餃子飴だよ!」

由比ヶ浜「あ、わたしそれ知ってる」

ココ「こんなの、まずいに決まってるココ!」

のぞみ「あはは、ごめんねー」

りん「もう、あんたたちはそんなことばっかやって」

のぞみ「りんちゃんも食べる?」

りん「食べるわけないでしょ!」


のぞみ「じゃあブンビーさん、わたし達そろそろ帰るね!」

比企谷「俺達も、失礼します」

ブンビー「あ、ちょっと待って。君たちにこれ上げるよ」

うらら「プリンセスランド?」

俺達が渡されたのは、テーマパークの入場券だった。

由比ヶ浜「わぁ、すっごく面白そう!プリンセスランド、プリンセスだって!楽しみだね

ゆきのん!」

雪ノ下「え、ええ、そうね」

雪ノ下が押されている……なんで女子ってこういう言葉好きなの?

材木座の厨二病みたいなもんか。ならわかる。

いや、やっぱりわからん。

ブンビー「せっかくだから、親交を深める意味でも、一緒に行ってみたらどうだい?」

のぞみ「ブンビーさん達は来ないの?」

スコルプ「俺達が行ってもな……」

ブンビー「なんだか浮きそうだしねぇ」

確かに、家族ずれでもない中年男性がこんな所にいたら目立つだろう。

ブンビー「まあ、君たちが楽しんできてくれたらそれでいいよ。ライダーとしての戦いも

疲れるだろうから、たまにはリフレッシュしないとね」

それを言うなら、そのメンテナンスや開発に追われている彼らも同じだと思うが。

その優しさに甘えて、俺は気づかないふりをして礼を言った。

*のぞみたちは鏡の国にまだ行ったことがないという設定で物語を進めていきます。

ここからは、『映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』を見てからお読みになっていただくと、より楽しめると思います。



ブンビーカンパニーを後にしようとしたその時。

扉が開き、屋上に誰かが入ってきた。

その男は、黒いハットをかぶり、黒のスーツに赤い蝶ネクタイをつけた、マジシャンのよ

うな男だった。

比企谷「あれは……ギリンマ!」

ギリンマ。本来の世界では、ブンビーの部下として、序盤にプリキュアと戦っていたはず

だ。

のぞみ「エターナル!」

ギリンマ「お前達のベルト。今日こそもらいうける!」

ギリンマ「うおおおおおーーっ!」

ギリンマが咆哮すると、カマキリ型の怪人になった。

のぞみ「みんな、いくよ!」

「「「「Yes!」」」」

「「「「「プリキュア、メタモルフォーゼ!」」」」」

「「「「Complete」」」」

「スカイローズ、トランスレイトッ!」

「「「変身!」」」

『Kamen Ride Decade!』

ギリンマ「なっ……増えている!?九人だと……」

ディケイド「運が悪かったな、ギリンマくん」

ギリンマ「お前に君付けで呼ばれる覚えは無いっ!」

逆上したギリンマが俺に両手の鎌で切りかかってくる。

『Form Ride Gaim!パインアームズ!粉砕、デストロイ!』

強力な威力と強度を持つパインアイアンを敵の鎌にぶつける。

ギリンマ「ぐッ……」

ディケイド「アニメで見ていた頃いつも思っていたが……ドリームにも負けたのに、何の

考えも無しに5人相手に挑んでいったのは無謀だったんじゃないのか?」

ギリンマ「なにわけのわかんないことをっ!」

『Sword Vent』

ナイト「やぁっ!」

ギリンマ「ぐぅっ!」

ディケイド「負けるのは別にいい。でも、負けから何も学ばない奴は、一生勝てないっ!」

『Final Attack Ride De De De Decade!』

相手にいくばくかの同情をおぼえながら、俺は必殺の一撃を撃ちこむ。

ギリンマ「ぐ、ぐああぁぁっっ!」

ギリンマの体が蒼い炎に包まれ、真っ白な灰となって消えていく。

比企谷「これが、オルフェノクの最期か……」

少しせつない気持ちになって俺はすぐ近くのかえるべき場所へと戻った。


由比ヶ浜「いやー、明日はプリンセスランド!楽しみだね!」

比企谷「お前それもう何回目だよ……」

写真館に帰ってから由比ヶ浜はずっとこんな感じだ。

最初のうちはまだよかったが、いい加減耳にたこができそうだ。

ちなみに、由比ヶ浜にやたらと甘い雪ノ下でさえも無視を決め込んでいる。

由比ヶ浜「だってヒッキー!プリンセスだよプリンセス!」

比企谷「わかったから、それももう十分聞いたから」

由比ヶ浜「え~?絶対わかってないよ」

比企谷「そんなにプリンセスが好きならGo!プリンセスプリキュアでも見とけよ」

由比ヶ浜「ちょっと後半なに言ってるか分かんない」

比企谷「何でなに言ってるか分かんないんだよ」

雪ノ下「はぁ……由比ヶ浜さん、そんなに明日が楽しみなら今日は早く寝なさい」

由比ヶ浜「うん!じゃあゆきのんも一緒に寝ようよ!」

雪ノ下「はぁ……わかったわ、わかったからそんなにひっつかないでくれるかしら」

由比ヶ浜「でもゆきのんってなんか王女様っぽいよね!」

いや、どっちかっつーと王女様の方だろ。

雪ノ下「比企谷君、何か言ったかしら」

比企谷「言ってますん」

雪ノ下「どっちなのよ……まぁ、そんなことはどうでもいいけれど」

比企谷「なぁ雪ノ下、そろそろ俺ソファで寝るのきついんだけど」

雪ノ下「だからなんだというのかしら、変態ヶ谷くん」

比企谷「布団で寝たいというのが変態だというのならお前の頭はどうかしてるぞ」

雪ノ下「なら自分で布団でも何でも買えばいいじゃない」

比企谷「金がない。買ってくれ」

雪ノ下「……施しは受けないのではなかったのかしら?」

比企谷「無論、もとの世界に戻ったら返す。だが、こうも戦い続きでまともに休養できな

いのはきつい」

雪ノ下「……トイチでいいわ」

比企谷「ナチュラルに法外な利子を請求するな」

雪ノ下「冗談よ。余計なことには使ったら……わかっているわね?」

そう言って雪ノ下はカードを俺に差し出してきた。

比企谷「じゃあ、密林で買うことにするわ。今晩までは我慢だな」

由比ヶ浜「ヒッキー、ジャングルに布団は無いよ?」

比企谷「密林ってのはアマゾンのことだ」

こんなくだらない話をしていると、いつの間にか夜も深くなっていった。


~某所にて~

謎の女「ククク、プリキュアを消し、この世界はオルフェノクが支配する。

クリスタルよ、わたしに力を貸せ!」

不気味な格好をした女が叫ぶと、彼女の後方に合った巨大な、ピンク、オレンジ、イエロ

ー、グリーン、ブルーのクリスタルからそれぞれ一人ずつ人間が現れた。

謎の女「キュアドリーム、ファイズの影たる、ダークドリームよ。明日、プリキュア達が

この鏡の国、ミラーワールドを訪れる。お前は奴らの動向を探れ」

ダークドリーム「わかりました、シャドウ様」

シャドウ「奴らを消せれば、近づくはずだ。我らがオルフェノクの王の復活に……」

のぞみ「わぁ~!すごーい!今日は楽しむぞ~!けって~い!」

プリンセスランドにつき、テンションマックスになったのぞみがそう宣言した。

うらら「のぞみさん!あそこにポップコーンがありますよ!」

のぞみ「あっ!食べる食べる!」

由比ヶ浜「あ、あたしも食べる!」

比企谷「色気より食い気、だな……」

雪ノ下「まぁ、いいんじゃないかしら。たまには」

かれん「のぞみ、あまり食べすぎると太るわよ?」

のぞみ「うっっ……」

うらら「かれんさん、それは言わない約束ですよ~」

比企谷「雪ノ下、あっちに限定パンさんグッズがあるみたいだぞ」

雪ノ下「そんなものに全く興味は無いし、なぜあなたがそんな報告をするかわからないの

だけれど」

そういいながらも雪ノ下はきょろきょろと周りをみる。

その仕草がおかしくて、思わず笑ってしまった。

雪ノ下「……比企谷君?見当たらないようだけど。……どこかしら」

比企谷「興味ないなら別にいいだろ」

雪ノ下「比企谷君?」

比企谷「ああ、さっきのはな、嘘だ」

雪ノ下が俺の脚を黙って踏もうとしてきたので、俺は直前で後ろに跳び、それをかわす。

雪ノ下「比企谷君、こういうときは黙ってやられておきなさい」

雪ノ下がライダーバトル以外で直接的な暴力に訴えてくるのは極めて珍しい。

そんなに好きなのかよ、パンさん。

比企谷「だから、お前がパンダさんに興味ないんだったらお前には何の損もないじゃねぇ

か」

雪ノ下「パンさんよ。それに、損得どうこうじゃなく、人に嘘をつくというのは」

比企谷「そう怒るなって。お詫びにこれやるから」

そう言って俺は、パンさんの小さなストラップを雪ノ下に渡した。

雪ノ下「これは……?」

比企谷「もう少しで誕生日だろ、お前。だからその、なに?プレゼントって奴だ」

雪ノ下「そう言うことなら当日にわたずべきだと思うのだけれど……」

そう小さい声で呟いた後、彼女は少しだけ笑みを浮かべて、再び口を開いた。

雪ノ下「……ありがとう」

比企谷「おう」

その笑顔が見れたなら、対価としては十分すぎる。

それにまぁ……やるだろ、こういうことも。

友達、ならな。

夏「もういいか?そろそろ行くぞ」

こまち「な、ナッツさん。二人にしておいた方が……」

比企谷「いや、すまん。そういうのじゃないから大丈夫だ」

そして俺達は、少し先でむしゃむしゃとお菓子を食べている由比ヶ浜達に合流した。

その後、女子がプリンセスの衣装を着て、王子の服を着た男がそれを追いかけるというイ

ベントに参加した(なぜか俺だけはガチで逃げられた。ちなみにそこでは夏木りんが

持ち前の運動能力の高さを発揮し、全ての男から逃げきっていた)。

そして、俺達は今、鏡の大迷宮というアトラクションに挑戦しようとしている。

……なんかカービィのゲームみたいな名前だな。

これは、全ての通路に鏡が貼ってある迷路を突破するという単純なものだ。

のぞみ「よ~~し!競争するぞ~!けってーい!」

そう言ってのぞみは一人で先に入って行ってしまった。

くるみ「あっ!のぞみ!ずるいわよ!」
うらら「そうですよ~!待ってくださ~い!」

りん「こら!走らないの!迷惑になるでしょ!」

由比ヶ浜「ヒッキーもゆきのんも早く行こうよ!」

由比ヶ浜にせかされて、俺達も後に続く。

雪ノ下「周囲は全て鏡……これはまるで」

比企谷「おいおい、それはさっきも聞いたぞ」

茶化してみるが、やはり思い出さずにはいられない。

龍騎として命がけで戦っていた日々のことを。

今だってその延長上のことではあるのだが、世界を救うという目的があり、ライダー同士

で争う必然性がないというのは精神的にいくらかましだ。

龍騎の世界では、ただただそれぞれのエゴをぶつけ合って殺し合うというあまりにも救い

のない戦いだったからな……。

由比ヶ浜「うわ~!すごいよ!あたし達がいっぱいだ~!」

……小学生かお前は。

のぞみ「この鏡、顔が縦長になるよ!」

うらら「うわ!すごいですね!」

夏「こっちは横長になるのか……ん?どうした、こまち」

鏡の前で自分の姿を見ていた夏の腕をこまちが引く。

こまち「横長のナッツさんは……見たくないの」

夏「?」

のぞみ「あっ!ゴールが見えたよ!」

そう言ってのぞみが再び駆けだす。

それにりんたちの五人が続く。

由比ヶ浜にけしかけられた俺達も少し遅れてそれを追う。


小々田「はは、のぞみたちは元気がいいなぁ」

夏「ああ、そうだな」

小々田「ところで夏はこまちのこと……」

夏「なんだ?」

小々田「いや……なんでもない」

夏「そうか……うっ!」

そんな二人の背後の鏡から、謎の黒い腕が絡みついた。

小々田「なっ……!?」

???「……声、姿……全部、覚えた」

???「ああ、覚えた」

夏、小々田「「うわぁあぁぁあああっっ!」」

そして二人は、誰に気づかれることもなく、鏡の中へと吸い込まれていった。

後には、彼らと全く同じ姿形をした二人が残った。

夏(?)「倒しに行くか、プリキュア……仮面ライダーを」

小々田(?)「ああ、俺達の国のために」


鏡の大迷宮をクリアする頃には、すっかり夕方になっていた。

プリンセスランド内のきれいな川の前で、俺達はしばし休息をとっていた。

小々田(?)「……のぞみ、ファイズギアを見せてくれないか?」

のぞみ「どうしたの、ココ。急に」

小々田「いや、ちょっと見てみたくなってね。僕たちの世界を救ってくれている、ブンビ

ーさん達が作ったベルトをさ」

のぞみ「はい!」

のぞみはベルトを手に持ち、小々田に渡そうとする。

比企谷「わたすな!」

俺は叫び、走って小々田に飛び蹴りを喰らわせる。

小々田「ぐぅっ!」

りん「な、なにすんのよっ!」

比企谷「そいつは、ココじゃない」

うらら「え?」

比企谷「目を見てみろ。こいつは、いや、そっちに立ってる夏も、本物じゃない。どうい

う理屈かは知らんが……こいつらは、俺のように腐った目はしてなかったはずだ」

夏「な、なにを言っている。言いがかりだ」

小々田「の、のぞみ。助けてくれ。こいつら、おかしいんだ」

のぞみ(こいつら……?ココは、そんな言葉使わない)

比企谷「なら、言ってみろ、夏。お前が初めて読んだ小町の小説のタイトルは?」

夏「……」

比企谷「答えられないのか?」

夏(くそ……大雑把なことしか、記憶の確認はできていない……)

かれん「本当に、偽物みたいね。ナッツはそんないい加減な気持ちでこまちの作品は読ん

でいない」

小々田「ちっ……仕方ない!」

小々田、夏「変身!」

二人はそう叫ぶと、カードデッキを前につきだした。

由比ヶ浜「あれって……」

雪ノ下「私達の世界のベルト」

インペラー(夏)「さぁ、いくぞ」

ベルデ(小々田)「鏡の国の力を、見せてやる」

比企谷「少し前の俺たちじゃないが……この戦力差相手でまともに勝負になると思ってる

のか?」

由比ヶ浜「多勢に大勢って奴だよ!」

雪ノ下「それだとどっちも多いことになるのだけど……」

ベルデ「無勢は……そっちの方だ!」

ココが変身したベルデがそう言うと、近くの鏡から大量のミラーモンスター達が現れた。

その大半は、以前見たことがあるものだ。

こまち「すごい数ね……」

かれん「気を引き締めていくわよ」

りん「はぁ……やるっきゃないか!」

のぞみ「みんな、行くよ!」

「「「「Yes!」」」」

『『『『『変身!!!』』』』』


くるみ「一気に蹴りをつけるわよ!」

比企谷「よし……俺達もいくか」

『『『変身!』』』

「Kamen Ride Decade!」

こちらは9人(バトルマシンになれるシロップを含めると10人)、対して敵の数は約三倍。

ディケイド「円陣を組んで応戦するんだ!」

ファイズ(のぞみ)「エンジンってなに?」

デルタ(うらら)「わかりません!」

龍騎「あたしも!」

カイザ(こまち)「わっかの形になるのよ!」

一悶着あったものの、無事円陣を組み、戦闘態勢に入った。

ディケイド「一気に行くか……ファイズ!」

ファイズ「わかった!」

「Kamen Ride Brade!」

「Attack Ride Time」

「Start Up!」

加速した俺と望が、限られた時間の中でできる限り多くのモンスターに攻撃を加える。

ファイズ「アクセル、クリムゾンスマッシュ!」

いくつもの赤い円錐状のエネルギーが敵を貫く。

「Kick Thunder Mahha Ritning Sonic」

競おうとしたわけではないが、俺も時間ぎりぎりに、必殺のキックで三体のモンスターを

ほふることに成功した。

俺とのぞみ二人で、敵の数を10体ほど減らすことに成功した。

ライオトルーパー「相変わらずすごいわね、アクセルフォームの力は」

デルタ「私も負けてられません!シロップ!」

シロップ「ロプ!」

うららの声に応じて、シロップがバトルモードへと変形する。

その背にうららが飛び乗り、モンスターに大量のミサイルを撃ち込む。

龍騎「よーっし!あたしも!」

「Advent」

ミサイルの爆発にドラグレッダーの吐いた炎が合わさり、更に激しい爆発が次々と起こる。

その攻撃を耐えたモンスターに、空中からサイガ(りん)が容赦のない追撃を加える。

完全に防御に回ったモンスター達に、他の面々もそれぞれの必殺技を繰り出す。

ついに、ココとナッツ以外のモンスターが全て消滅した。

ベルデ(ココ)「な、なんだと……」

インペラー「そんな……」

ディケイド「さあ、次はお前たちの番だ!」

「Final Attack Ride De De De Decade!」

ココ「ちょ、ちょっとまって!」

ココがそう叫ぶと、二人の変身が解け、妖精の姿になった。

ただし、ココとナッツの姿ではない。

一方は、金の髪に、眼鏡をかけたなんとも人相の悪い妖精。

もう一方は、黒い、変な髪形の妖精。

全然可愛くねぇ……。

???「俺達は、鏡の国の妖精なんだ!」

???「ちょっとなに言ってるか分かんない」

???「何でなに言ってるか分かんないんだよ。今俺達について説明するところだろ?」

ゴホン、と咳払いをして、金髪の妖精は続ける。

???「俺の名前は、ダテミキオ。ダテってよんでくれ」

それに続けて、黒髪の妖精も自己紹介をした。

???「僕は、トミザワタケシ。トミーって呼んでください」

ナイト「なに?勝てないから降伏するという解釈でいいのかしら?」

ダテ「俺達も、好き好んでこんなことやってるんじゃねぇンだ」

かれん「それでも、ココとナッツをさらって、わたし達に攻撃を仕掛けてきたという事実

は変わらないわ」

トミー「後半なに言ってるか分かんない」

ダテ「ちょっとお前黙ってろ。……それに関しては、本当に申し訳ない。俺達の国が、シ

ャドウという魔女に乗っ取られて、言うことを聞かないと、国の宝のクリスタルが壊され

てしまうんだ……」

トミー「都合がいいことを言ってるのはわかってるんですが、あなた達の強さを見込んで

お願いします。どうか、僕たちの国を救っていただけませんか?」

雪ノ下「確かに都合のよすぎる話ね……だけど、これがきっと、わたし達がこの世界です

べきことだわ」

変身を解いた雪ノ下がそう言った。

確かに、十中八九そうだろう。

のぞみ「わかった!あなた達の国、助けるぞ~!けって~い!」

りん「ちょ、のぞみ!?」

こまち「でも、のぞみさんの言うとおりするしかないと思うわ。そうしないと、ナッツさん達も助けられないし……」

くるみ「そうよ!何としてもお二人をお助けしないと!」

うらら「決まり、ですね」

トミー「ありがとう!」

ダテ「では、出発!」

ダテが叫ぶと近くの鏡が激しく光り、俺達は鏡の中に吸い込まれた。

それと同時、俺の体は奇妙な浮遊感に見舞われた。

四次元のようにどこまでも広がる鏡の中で、俺達は散り散りになって飛んでいく。

比企谷「くっっっ」

とっさに手を伸ばし、雪ノ下と由比ヶ浜の腕をつかむ。

その雪ノ下は、近くにいたくるみの手をつかんだ。

くるみ「み、みんなっ!」

そして、のぞみたちはそれぞれ一人ずつ別々の方向に流れていく。

数十秒ほど鏡の中を流されて、俺達は突如三次元の世界へと戻った。

しかしそこは、暗雲たちこめるどこまでも不気味な場所だった。

???「やはりきたか、プリキュア……じゃない?」

気味の悪い魔女のような女が言った。

トミー「こいつが、僕たちの世界を滅茶苦茶にしたシャドウだ!」

くるみ「あんたが、ココ様達を!」

シャドウ「あんた……ふうん、なるほどね」

くるみ「なんだってのよ!」

シャドウ「そうあわてるもんじゃないわ、これでも一緒に見ようじゃない」

シャドウがそう言うと、近くにあった鏡から5つの映像が映し出された。

比企谷「これは……」

由比ヶ浜「のぞみちゃん達だ!」



鏡の中から出たのぞみは、自分そっくりのピンク色の髪をした少女に出会った。

ダークドリーム「……どうして?」

のぞみ「え?」

ダークドリーム「仲間と居る時、あなたはいつも笑っていた。……どうしてなの?」

のぞみ「どうしてって……あなた、そんなこともわからないの?」

ダークドリーム「キュアドリーム……いや、仮面ライダーファイズ、あなたって目ざわり

だわ!」

もう一人の自分に出会ったのは、のぞみだけでは無かった。


ダークルージュ「うっとうしいよねぇ、仲間とか友達とかって」

りん「はぁ?わたしはそうは思わないけど」

ダークルージュ「一人なら自由だよ?なにも我慢しなくていいんだよ?」

りん「別に、我慢なんてしてな」

ダークルージュ「してるでしょ!」

突如変わったダークルージュの態度に、りんは思わずひるむ。


ダークレモネード「春日野うらら、夢は女優になってみんなを喜ばせること……

アッハハッ!バカみたい、人を喜ばせて何になるっていうの?」

うらら「そんなことありません!みんなが喜んでくれたら、わたしもうれしいんです!」

ダークレモネード「人のことより、まず自分のこと心配した方がいいわよ?」

ダークアクア「あなたはとても優秀よ、水無月かれん。あんな無能な子たちなんか、一緒

に居ても足手まといになるだけでしょ?」

かれん「足手まといなんかじゃないわ!みんな大切な仲間よ!」

ダークアクア「せっかく忠告してあげたのに、弱い者ほど群れるものね」


ダークミント「他人を守る力なんて全然役に立たないわよね、あなたも思ってるでしょ?

損だって。自分だけを守る力なら、とっても使えるのにね」

こまち「損だなんて、おもってないわ!みんなを助けてこれたこの力を、わたしは誇りに

思ってる!」

ダークミント「嘘ばっかり、本当のこと言いなさいよ。仲間なんてどうでもいいって」


雪ノ下「これは……」

比企谷「まるで、ドッペルゲンガーだな……」

シャドウ「よく知ってるわね。じゃあこんな話も知ってるわよね?ドッペルゲンガーに会

ったものは……死ぬ」

ダテ「俺達のクリスタルを……」


ダークドリーム「始めるわよ……変身!」

彼女が変身しようとした瞬間、俺は自分の目を疑った。

紫色のカードデッキ。

比企谷「あれは……」

雪ノ下「王蛇の変身アイテム……」

比企谷「なんで……ここは、ファイズの世界だろ?」

シャドウ「鏡の世界では、それにふさわしいライダーってものがいるのよ。あなたたちな

ら、よく分かってるでしょ?」

比企谷「っ……」

と、次の瞬間。

俺と雪ノ下、由比ヶ浜の三人の体が巨大なクリスタルに閉じ込められた。

比企谷「なっ……」

シャドウ「油断したわね。そのクリスタルに閉じ込められている限り、あなた達は手出し

できない。まぁ、こちらからの攻撃も通らないけれど……しばらくおとなしくしていても

らうわ」

由比ヶ浜「うぅ……」

シャドウ「そして、あなた達……」

シャドウは妖精三人の方に向き直る。

そして、エネルギーの消費を気にしてか、妖精に戻っていたミルクに向けて手を伸ばす。

トミー「み、ミルクさんに近づくなっ!」

シャドウ「フフ……いいわよ、近づかないから」

シャドウの手の前に小さな魔法陣が現れ、何とそこからミルクが現れた。

ミルク「ミ、ミルッ!?」

シャドウ「ふぅん……やっぱり、オルフェノクね」

ミルク「ミル……」

シャドウ「しかも、ただのオルフェノクじゃない……これは……」

ダテ「ミルクを返せっ!」

シャドウ「フン……」

シャドウは乱暴にミルクを放る。

シャドウ「しばらく、あちらの見物でもしましょうか……あなた達も、そのクリスタルの

中からよ~く見えるでしょ?」


のぞみ「プリキュア、メタモルフォーゼ!」

『Standing by……Complete』

ファイズ「大いなる、虚無の力、キュアファイズっ!」

クリスタルから5つの場面を見ると、ダークルージュはライアに、ダークレモネードはシ

ザースに、ダークミントはゾルダに、ダークアクアはアビスへとそれぞれ変身した。

いずれも、俺達龍騎の世界のライダーだ。

王蛇「はぁぁっ!」

「Sword Vent」

ファイズが使う剣『ファイズエッジ』は、ココが変身するオートバジンのハンドル部分に

当たる。

その為、ココがいない状況では、のぞみは相手の剣を手で受け止めねばならない。

当然のぞみは受け止めるより回避しようとするのだが、相手の猛攻撃がそれを許さない。

その攻撃に生まれるわずかな隙を逃さず反撃するが、全て軽くいなされる。

ファイズ「やぁぁっ!」

そして、何度目かの反撃。

のぞみは思い切り右足を上にあげ、キック攻撃を放つ。

これは、剣で受け止めたとしても相手の方が押されるほど勢いをつけた攻撃だ。

おそらく相手は回避する、そう思ってのぞみは次の攻撃まで考えていた。

が、

「Strike Vent」

ダークドリームはそれを、巨大なサイの角のような武器で迎え撃った。

鈍い痛みがのぞみの全身をめぐる。

ファイズ「うわぁぁっ!」

王蛇「甘いわね。そんなんじゃ、わたしには勝てない」


「Swing Vent」

空中を移動しながら攻撃するりんを、ダークルージュの操る鞭は執拗に追ってきた。

サイガ(りん)「ああ、もう!うっとうしい!」

それでも、こちらは空中、相手は地上で戦っている。

押しているというわけでもないが、決して押されているというわけでもなかった。

「Advent」

ダークルージュが契約モンスター『エビルダイバー』を呼び出し、その背に飛び乗る。

ダークルージュを乗せたエビルダイバーは、そのままりんの方へ向かってくる。

サイガ「なっ……エイが飛ぶんじゃないわよ!」

ビーム攻撃で撃退を試みるも、エイのモンスターは華麗にそれをかわしてみせる。

そのまま、りんに突進攻撃が直撃する。

サイガ「きゃぁぁあっ!」


「Strike Vent」

ダークレモネードは、鋭利なハサミ状の武器でうららに攻勢をかけていた。

デルタ(うらら)「ここはいったん下がって……」

後方にジャンプしながら、銃攻撃で牽制する。

「Guard Vent」

その攻撃は、硬い、カニの甲羅上の盾で防がれる。

一度は離した距離も、すぐに詰められてしまった。

「Advent」

うららの背後に、蟹のモンスター『ボルキャンサー』が現れ、二対一の構図となる。

なんとかよけ続けているものの、体力の消耗が激しい。

このままではジリ貧になることは明白であった。

「Clear Vent」

突如、こまちの視界からダークミントの姿が消える。

カイザ(こまち)「え?」

ベルデ(ダークミント)「私はここよ?」

背後からの声に振り向くと同時、こまちは腹部へ蹴り攻撃をくらった。

一瞬ダークミントの姿が現れたが、また透明に戻ってしまう。

カイザ「攻撃する時だけ、元に戻るのね……」

ベルデ「それがわかっても、どうすることもできないわ!」

「Hold Vent」

ダークミントがヨーヨー型の武器を手にする。

それを確認した直後、またしても彼女の姿は見えなくなる。

カイザ(ヨーヨー……あれじゃぁ、どこから攻撃したか分からない)


剣や銃なら、ダメージを負った部分から、相手の位置に推測をつけることができる。

が、ヨーヨーのように変則的な動きをする武器では、殆ど検討をつけることもできない。

四方八方からの攻撃に、こまちはただ耐えることしかできなかった。


「Strike Vent」

サメの頭を模した武器から大量の水が噴き出し、かれんの態勢を崩す。

「Sword Vent」

生まれた隙を見逃さず、ダークアクアはかれんにきりかかる。

かれんもとっさに剣を取り出し対抗するが、勢いをつけて攻撃に入った相手と不安定な体

制でとっさに防御に回った自分では、そもそも勝負にならなかった。

ダークアクアの放った斬激がかれんの胸を切り裂く。

ライオトルーパー(かれん)「うっ!」

アビス(ダークアクア)「同じ人物をもとにして、ほぼ同性能のベルトで戦えば、互角にな

ると思った?」


ベルデ(ダークミント)「でも、正確にいえば少し違う」

カイザ(こまち)「……」

シザース(ダークレモネード)「シャドウ様に作られた私たちには、疲れるってことがない

の」

ライア(ダークルージュ)「友情なんていう、弱い心もない」


王蛇(ダークドリーム)「たぁっ!」

ファイズ(のぞみ)「きゃぁぁっ!」

メタルホーンによる一撃を受けたのぞみが、勢いよく吹き飛ばされ、壁に激突する。

王蛇「フフ……わかったかしら?あなたが勝つことは無いのよ、絶対に」


シャドウ「勝負はついたようね」

シャドウは自分の頭上に魔法陣を発生させ、俺達がいる空間のさらに奥へと消えていった。


ココ「くぅっ……ドリームぅっ!」

ナッツ「何とかしてここを出るナツ!」

シャドウ「無駄よ、勝負はもう、ついたから」

シャドウ「そして、プリキュアが無力化された今、ここから世界を支配する!」

ココ「そんなこと、できないココ!」

シャドウ「そうかしら?」

シャドウ「どうしてわたしが鏡の世界に来たかわかる?」

ナッツ「……ナツ?」

シャドウ「それはね……ここの鏡を使って、全世界の鏡に絶望の波動を送るためよ!」

ココ「や、やめるココ!」

シャドウ「フフ……そうね。どうせなら、プリキュアを確実に倒したところを見せて、お

前達を徹底的に絶望させてから始めるとしようか」

ナッツ「ナツ……」

ココ「このままじゃ、のぞみ達の世界が支配されてしまうココ……そしたら、もうのぞみ

たちに会えなくなるココ……」


王蛇「ほらっ!たぁっ、はぁっ、やぁっ!」

ベノサーベル、メタルホーン、そしてキックを交えたダークドリームの攻撃は苛烈を極め

た。

「Advent」

王蛇「いけっ!」

ダークドリームの命令に従って現れたコブラ型モンスターベノスネークの攻撃を受けて、

のぞみは先程よりも激しく吹き飛ばされた。

ファイズ「きゃぁぁぁっ!」

ファイズ「はぁ……はぁ……はぁ……」

何とか立ち上がろうとするも失敗し、ひざをついてしまう。

ファイズ「みん……な……」


のぞみ以外の4人も、皆一様に圧倒され、重いダメージを負っていた。

ファイズ「みんなのところに、行かなくちゃ……」

王蛇「行けないよ?私を倒さないとね」

ファイズ「うぅっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

肩で息をしながら、気力だけでのぞみは立ち上がる。

ファイズ「それじゃぁ……それじゃあ、頑張って、自分を乗り越えなくちゃね!」

王蛇「なにそれ。それ、どういうこと?」

ファイズ「あなたを倒して、ここから脱出するってことよ!」

王蛇「どうあがいても無駄よ。私はあなたのコピー。あなたと同じ力を持ってるんだから」

ファイズ「それは違うっ!」

先程までの疲れ切った様子からは信じられない勢いで、のぞみはダークドリームに向かっ

ていく。

二人の拳がぶつかり合う。

ファイズ「わたしは、ずっと同じわたしじゃないのっ!」


王蛇「たぁっ!」

ダークドリームの蹴りを、両手を交差させて受け止める。

ファイズ「昨日のわたしよりっ!」

のぞみの拳がダークドリームをとらえる。

ファイズ「一日前、一時間前、一分前っ、一秒前っ!」

ファイズ「そんな自分より、もっと良い自分になりたいっ!」

王蛇「うるさぁぁいっ!」

激昂したダークドリームの拳をのぞみは押し返す。

ファイズ「わたし達の進化は光より早い!誰にも追い付くことなんか、できないんだから

っ!」

ファイズ「私には夢は無い。でもね、守りたい願いはあるの。だから、大切な人達の夢を

守れるようにっ!」

のぞみのキックがダークドリームを吹き飛ばす。

ファイズ「成長して、古い自分を、越えて行くんだよ!」



ライア(ダークルージュ)「たあぁっ!」

何度もくらった、エイとともに繰り出す突進攻撃。

ライア「自分を越える?そんなこと、できるはずないっ!」

ライア「ばかばかしいっ!」

攻撃が当たる直前、フライングユニットの動きを調整し、エイの上に乗り、ダークルージ

ュと対峙する。

サイガ(りん)「ほんっと……また無茶なこと言ってさ」

サイガ「でも、あたしも同感だわっ!」

ダークルージュの腕をつかみ、エイの上から投げ落とす。

サイガ「親友が頑張ってるのに、あたしが頑張らないわけには、いかないでしょっ!」

うららのうった銃攻撃を、ボルキャンサーを楯にしてダークレモネードは防ぐ。

相手の攻撃は自分には通用しない、何度目かの確信を得て、ダークレモネードはほほ笑ん

だ。

シザース(ダークレモネード)「ふふっ、無駄なのにさ」

デルタ(うらら)「わたし、そろそろ行きますね」

いつの間にか自分の背後に立っていたうららの声に驚愕し、思わず後ずさる。

デルタ「ドリームが呼んでいるので」


ベルデ(ダークミント)「いい加減に倒れたらどうなのっ!」

カイザ(こまち)「わたしは、みんなの想いを、大切な気持ちを守りたいのっ!」

自分を襲ったヨーヨーをつかんで、こまちは言った。

ベルデ「なっ!!!?」

カイザ「あなたに守りたいものはあるの?」

ベルデ「なにバカなことっ!」

武器を奪われたと同時、クリアーベントの効果が消え、元の姿に戻ったダークミントがこ

まちに跳びかかる。


アビス(ダークアクア)「自分を超える……口だけなら、どんなことでもいえるわっ!」

風よりも勢いよく襲いかかる水が、再びかれんを吹き飛ばす。

アビス「早く諦めたらいいのに」

ライオトルーパー(かれん)「諦めるなんてできないわっ!」

アビス「な……」

ライオトルーパー「あなた、友達はいる?」

アビス「そんな群れあって互いをダメにするようなもの、いらないわ。あなたを倒すのに

は、わたし一人で十分よ!」

ライオトルーパー「わたしにはいるわ……一緒に笑ったり、泣いたり、喜んだり悲しんだり、共に強くなれる大切な友達が」

かれん「一人で十分?そんなんじゃ、成長できないわ!」



ミルク「ミ……ミル……」

ダテ、トミー「「大丈夫?」」

ミルク「ココ様とナッツ様をお助けするミル。二人も手伝うミル!」

トミー「無理だよ、プリキュアだってあいつにはかなわないのに」

ダテ「諦めた方がいい……」

ミルク「ふざけるなミル!」

兎のように長い耳で、ミルクは二人をぶった。

ミルク「ミルクの国は、前に、ナイトメアって連中に滅ぼされてしまったミル」

ダテ「え?」

ミルク「悔しかったミル……二人も、自分の国が好きミル?」

ミルク「だったら、ちゃんと考えるミル!」

トミー「あ……」


ファイズ「たぁっ!」

王蛇「やぁっ!」

のぞみたちは、激しい攻防を繰り広げていた。

しかし、先程までとは違い、確実にのぞみが押している。

王蛇「どうして……」

王蛇「どこから、そんな力が……」

ファイズ「大好きだから。りんちゃん、うらら、こまちさん、かれんさん、それに、ナッ

ツとミルクとシロップと……ココ」

ファイズ「大好きなみんなのためならわたし、頑張れるから」

王蛇「くだらない……」

ファイズ「大好きなみんなのためならわたし、負けないんだからっ!」

王蛇「私には、大好きな人なんかいないっっっっっ!!!!!!」

『『『『『Final Vent』』』』』

『『『『『Exceed Charge』』』』』

それは無論、示し合わせてのことではない。

ありえない可能性だが、それぞれの必殺技が全く同じ瞬間にぶつかりあった。


カイザ(こまち)「みんな、大丈夫?」

デルタ(うらら)「はい!」

のぞみをのぞく四人は同じ場所にワープしてきた。

と、そこに。

「「「「え!!?」」」」

ファイズ「おまたせ!」

サイガ(りん)「ドリーム……その子は?」

ファイズ「わたしの友達だよ!」

なんとのぞみは、ダークドリームとともにやってきた。

ファイズ「説明は後!今は少しでも早く、シャドウのところに行かないと」

走り出す5人の姿を後ろから見つめ、ゆっくりとダークドリームも走り出した。


シャドウの体から、闇の瘴気がほとばしる。

そこに、

ミルク「ココ様!ナッツ様!」

ココ「ミルク!」

ミルク「ココ様とナッツ様を返せミル!」

シャドウ「あらあら、勇ましいこと」

シャドウが手から、エネルギー波を放つ。

ミルク「ミル……スカイローズ、トランスレイトッ!」

ミルクからくるみの姿へと変わり、そのままローズオルフェノクへと変身する。


ファイズ「そこまでだよ!」

ココ「ドリーム!」
ファイズ「ココ!ナッツ!今助けるからね!」


比企谷「……俺達はこのまま、出番なしか?」

由比ヶ浜「うーん……」

???「ロプゥ!」

と、近くにあった鏡から、巨大な怪鳥(?)現れ、俺達を捕えていたクリスタルに突進し

て砕いた。

???「うららたちを助けてほしいロプ」

由比ヶ浜「シロップ……」

雪ノ下「任せておいて。行くわよ、二人とも」

比企谷「ああ、ここからは俺達のステージだ」

「「「変身!」」」

『Kamen Ride Decade!』


ファイズ「シャドウ!あなたの野望もここまでよ!」

ローズオルフェノク(くるみ)「覚悟しなさい!」

ディケイド「閉じ込めてくれた礼はさせてもらうぞ」

龍騎「許さないんだから!」

シャドウ「覚悟するのはどっちかしらね」

シャドウ「世界を、絶望に染める力をこの手にっ!」

もともと暗かった空が、さらに不吉な色に染まる。

ファイズ「な、なに!?」

ココ「なんか出たココ!」

暗雲の中から、黒龍が姿を現す。

ナイト「あ、あれは……」

ディケイド「ドラグブラッカー……」

かつて俺が龍騎だった時、俺の闇の感情から現れた戦士、仮面ライダーリュウガ。

そのリュウガの契約モンスターが、ドラグブラッカーだったのだ。

そして、シャドウの右手の中に一枚のカードが現れる。

書かれている文字は、

ライオトルーパー(かれん)「Contract……契約?」

ディケイド「やめろぉぉぉぉっっっ!」

「Attack Ride Blast」

シャドウの手からカードを離させようと、銃攻撃を闇雲に撃つ。

シャドウ「むだむだむだぁ!」

シャドウの持つカードの中に、ドラグブラッカーが吸い込まれていく。

そしてそれは、黒龍のエンブレムが描かれたカードデッキへと変わった。

シャドウ「変身!」

シャドウが叫び、その姿がリュウガのものへと変わる。

さらに追い打ちをかけるようにその姿は、

龍騎(由比ヶ浜)「そんな……」

ナイト(雪ノ下)「サバイブ態……」

サバイブ態と通常の強さは、比べ物にならないほどの開きがある。

通常の姿であれば、この人数でかかれば倒せると思ったが、サバイブ態となるとそう簡単

にはいかない。

リュウガ(シャドウ)「素晴らしい、素晴らしい!この力!」

ディケイド「気を抜いたら……負ける」

それは言うまでもなく、この場にいる全員が感じていることだった。

ファイズ「みんな、行くよ!」

「「「「Yes!」」」

プリキュア5の五人が一斉に跳びかかる。

「Sword Vent」

リュウガの召喚機であるダークバイザーツヴァイをブレードモードへと変形させて、シャ

ドウはそれを向かいうつ。

ディケイド「俺達も行くぞ!」

龍騎「うん!」

「Attack Ride Blast!」

「Strike Vent」

俺と由比ヶ浜が遠距離攻撃を仕掛ける。

リュウガ「ふんっ!」

シャドウは撃退したかれんとうららを楯にしてそれを防いだ。

ナイト「なっっ!」

ローズ「かれん!」

デルタ(うらら)、ライオトルーパー(かれん)「きゃぁぁっ!」

シロップ「うららになにするロプ!」

戦闘モードとなったシロップが、ミサイルを撃ちながら向かっていく。

「Shoot Vent」

しかしそれもむなしく、闇のレーザー攻撃を受けてあっという間に通常の姿に戻ってしま

う。

ファイズ「ココ!剣を!」

バトルモードとなったココから剣を受け取り、のぞみは再び向かっていく。

ココ「のぞみ一人には行かせないココ!」

のぞみの後ろから、ガトリング砲を撃ちながらココが向かっていく。

が、シロップの時と同様レーザーを受けて妖精の姿に戻り、のぞみの剣も蹴り飛ばされる。

王蛇「のぞみ……わたしは……」

なんて強さだ……龍騎の世界で戦ったリュウガよりも、格段に強い。

「Final Attack Ride Bu Bu Bu Brade!」

ソニックのカードを使うため、攻撃準備から発動までほとんどタイムラグがないブレイド

の必殺技を放つ。

「Advent」

再び現れたドラグブラッカ―(今はサバイブのカードを使った為ダークランザ―だが)に

阻まれ、逆に俺が吹き飛ばされる。

体勢を崩した俺に、レーザー攻撃を追撃が襲いかかる。

「Guard Vent」

その攻撃を、ガードベントでマントをはおった雪ノ下が防いでくれた。

ディケイド「すまん」

ナイト「お礼も謝罪もあれを倒してからよ」

ディケイド「わかってる」

「Nasty Vent」

雪ノ下得意の攻撃が発動する。

異空間から現れたダークウイングが超音波を放とうとしたその時、

リュウガ「はぁぁっ!」

ダークウイングの翼をリュウガの放ったレーザーが貫いた。

技は不発に終わり、ダークウイングは消えていく。

ナイト「なんて反応速度……」

ディケイド「なら、手数でっ!」

「Form Ride Gaim! イチゴアームズ!シュシュッと、スカッシュ!」

「Lock On 壱、十、百、千……イチゴチャージ!」

イチゴの種子を模した無数の弾丸がシャドウを襲う。

シャドウ「無駄よ」

「Guard Vent」

黒い炎がシャドウの周りに立ちのぼり、またしても俺達の攻撃は通らない。

「Final Vent」

龍騎「たぁぁぁああああっっ!」

炎が消えると同時、由比ヶ浜がドラゴンライダーキックを放つ。

リュウガ「あたるものか!」

高く跳び上がり、たやすくその攻撃も回避する。

デルタ「強すぎます……」

こちらは9人に対し、相手はたったの1人。(ココ達も含めれば11だ)

なのに、一撃もシャドウにダメージを負わせることができない。

カイザ「どうすれば……」

リュウガ「どうすることも、できないわよっ!」

リュウガの超威力のキックがくるみを襲う。

くるみ「きゃぁぁぁあああああっっ!」

くるみの変身が解け、ミルクに戻る。

トミー「ミ、ミルクさん!」

ダテ「大丈夫か!?」

無論大丈夫なはずはないが、それを責めることはできないだろう。

トミー「どうして、どうして僕たちの鏡の国の力で、こんなひどいことをするんだーっ!」

ダテ「いい加減にしろーっ!」

トミーとダテは、決してかなうはずもない相手に向かっていく。

シャドウが床を思い切り踏みつけると床の一部が砕け、破片が二人に向かっていく。

ただそれだけで、小さい二人は吹き飛ばされてしまう。

トミー「負けるもんかぁぁっ!」

ダテ「ここは、俺達の国だ!鏡の国は、俺達が守る!」

二人の渾身の叫びと同時、俺のもとに一枚のカードが現れる。

しかしそれは、ファイズと関係のあるようには見えない。

だが、この状況で現れたということは、決して無意味なカードではないはずだ。

ディケイド「くらえ!シャドウ!」

『Final Pretty Ride Miracle Light!』

ナイト「ミラクル……」

龍騎「ライト?」

ココ、ナッツ、ミルク、シロップ、ダテ、トミーの六人の手に小さなライトが現れる。

シロップ「こ、これはなんだロプ?」

ダテ「まさか……」

トミー「これは、鏡の国の伝説のアイテム、ミラクルライトです!」

ナッツ「どんなものナツ?早くしないとこまち達が……」

トミー「これは、伝説の戦士を応援するための道具です!心から応援すれば、すごい奇跡

を起こせるんです!」

ミルク「じゃあ、早速始めるミル!」

シャドウ「なにをバカな……奇跡など、起きるわけないっ!」

「「「「プリキュアーっ!がんばれーっ!」」」」

ライトが激しく発光しはじめる。

龍騎「プリキュアーっ!がんばれーっ!」

ディケイド「え?俺達もやるの?」

ナイト「……今は、これに賭けるしかないでしょう」

ディケイド「……まじか」

ナイト「いくわよ」

ディケイド、ナイト(比企谷、雪ノ下)「「プリキュアーっ!がんばれーっ!!!!」」

王蛇(ダークドリーム)「プリキュアーっ!がんばれーっ!」

ファイズ「力が、あふれてくる……」

サイガ(りん)「まだ、いけるっ!」

デルタ(うらら)「絶対に負けませんっ!」

カイザ(こまち)「これ以上はやらせないわ!」

ライオトルーパー(かれん)「反撃開始よ!」

「「「「「「「「「「プリキュアーっ!がんばれーっ!」」」」」」」」」」

奇跡は、それだけでは終わらなかった。

シャドウ「ぐッ!ぐああああぁぁっ!」

なんと、シャドウがサバイブ態から通常のリュウガの姿へと退化したのだ。

ファイズ「みんな!いくよっ!」

「「「「Yes!」」」」

『『『『『Exceed Charge!』』』』』

「「「「「プリキュア!ファイブエクスプロージョンっ!」」」」」

『Final Vent』

シャドウと5人の必殺技がぶつかり合う。

そして、

リュウガ「ぐああああああぁぁぁっっっ!」

のぞみ達に押し切られ、シャドウの変身は解け、地を転がる。

シャドウ「が……ああ……」

その体からは、灰がこぼれおちている。

サイガ「あんたも、オルフェノク……」

ライオトルーパー「じゃあ、復活しつつあったオルフェノクの王というのは……」

カイザ「つまり、これで全て解決ね」

シャドウ「私がオルフェノクの王……?」

デルタ「しらばっくれても無駄ですよ!」

シャドウ「馬鹿なことを……王は、お前たちのすぐそばにいるぞ」

ファイズ「え?」

シャドウ「わたしはここまでだが……最後の力で、王を覚醒させるっ!」

シャドウが突如、叫び声を上げる。

それはまるで、死を目前にした獣の咆哮のようだった。

シャドウ「ウオオオォォオオオオオオっっっ!」

ミルク「ミ、ミルっ!!?」

ミルクの体が、彼女の意思とは無関係にオルフェノクの姿に変わる。

バラを象徴するオルフェノクとなった後も、その変化は止まらない。

ミルク「ミルゥゥゥゥゥッ!」

かれん「み、ミルクっ!」

シャドウ「フフ……使徒覚醒で王を目覚めさせることになるとはな……ハハハ!これでこ

の世界は終わりだっ!」

そう言い残し、シャドウの姿は蒼の炎に燃え、灰となって消えていった。

敵は倒したはずだった。

しかし、

アークオルフェノク(ミルク)「グオォォォォォォォッッッ!」

さっきまで戦っていたリュウガがちっぽけに思えるほどのプレッシャーを放つ存在が、そ

こにいた。

ココ「ミ、ミルク……」

ディケイド「これは……ほんとに、まずいな……」

ナイト「でも、やるしかないわ」

ライオトルーパー「ちょ、ちょっと待って!ミルクと戦えというの!?」

龍騎「そ、それは……」

ファイズ「そ、そんなのダメだよっ!」

ディケイド「……ミルクの安否ということなら、問題は無い」

倒せるかどうかが絶望的だけどな、と、俺は心の中で呟く。

ナッツ「ど、どういうことナツ?」

ナイト「オルフェノクというのは、新たに命を与えられた存在よね?」

カイザ「単純に言えば、そうね……」

ディケイド「ミルクは、ローズオルフェノクの状態で一つ命を持っていた」

ナイト「そしてシャドウにより、無理矢理今の、別のオルフェノクに変えられた」

ディケイド「オルフェノクになる際に命を与えられるとすれば、今のミルクは、ローズオ

ルフェノクとしての命と今の姿としての命、二つ命を持っていることになる」

ナイト「そして今の彼女を倒せば、もとの状態に戻るわ」

雪ノ下はあえて最後の言葉を断定で終わらせた。

この考えが必ずしも正しくないということを、いや、色々ある可能性の中では一番確率が

高いが、決して50%にも満たないことを俺達自身がよくわかっているからだ。

それでも、たとえ残酷な結末になるとしても、俺達はミルクを倒さなければならない。

そしてそれには、全員の協力が不可欠だ。

このあやふやな考えを伝えるのに雪ノ下も巻き込んでしまったことは申し訳ないと思うが、

事前に伝えていないのに話を合わせてきたということは、あいつも思いついていて、

それがベストだと判断したということなのだろう。

それでもやはり複雑な心境だが、今から始まる戦いは、迷いを抱えたままできるようなものではない。

アークオルフェノク「グォォォォォッッ!」

ミルクの方向とともに、すさまじい衝撃波が俺達を襲う。

ファイズ「行くよミルク!すぐ戻してあげるからね!」

『Start Up!』

のぞみがアクセルフォームへとなり、一気に攻勢をかけようとする。

が、

ファイズ「うわぁぁあああっっ!」

『Reformation』

一秒もしないうちに、のぞみのアクセルフォームが解除される。

ライオトルーパー「アクセルフォームのスピードについてくるなんて……」

ナイト「全員で一斉に行きましょう!」

デルタ「わかりました!」

「「「「「「「「「はあああああっっっ!!!!」」」」」」」」」

地上から、空中から、遠距離攻撃、斬撃。

とても一度では対処しきれないほどの攻撃がミルクに襲いかかる。

アークオルフェノク「はぁあぁっっっ!」

彼女の体を台風の目とするように、風が吹き荒れる。

ライオトルーパー「ミルク!目を覚まして!」

『Exceed Charge』

想いをこめたかれんの斬撃を、ミルクは素手で受け止めてみせた。

カイザ「ナッツさん!」

ナッツ「わかったナツ! ミルク、目を覚ますナツ!」

こまちがナッツの上に乗り、ミサイル攻撃を放つ。

ミルクは再び突風を起こし、俺達の方にミサイルが落ちてくる。

デルタ「きゃぁぁっ!」

シロップ「うららーっ!」

シロップ「ミルクーっ!いい加減にしろっ!」

サイガ(りん)「これで、頭冷やしなさい!」

二人がビーム攻撃を同時に放つ。

これなら風に阻まれることもないだろう。

しかし、

あらゆる攻撃の中でも最速の部類に入るビーム攻撃をミルクは華麗にかわしていく。

その次の瞬間にはりんに肉薄し、胸部にパンチを食らわせていた。

「Error」

りんの変身が解除されてしまったことからも、それがどれほどの威力を持つかわかるとい

うものだ。

ライオトルーパー「りん!」

りん「かれんさん!」

後ろ、と言い終わる前に背中にキックを受けたかれんの変身も解除される。

カイザ「……うららさん」

デルタ「わかってます」

『『Exceed Charge』』

倒れた仲間に追撃させないためか、二人が必殺技のモーションに入った。

ミルクも高く跳び上がり、急降下キックで対抗する。

あまりの威力に爆発が起き、変身を解かれた二人が倒れ込む。

ナイト「一瞬で四人が戦闘不能に……」

龍騎「これが、オルフェノクの王様の力……」

ナイト「由比ヶ浜さん、わたし達も行くわよ」

龍騎「うん!でも……」

ナイト「ええ、普通にやったら押し返されるでしょう……だから、一点だけを狙って攻撃

するの。少し傷がある、右肩に攻撃ポイントを合わせて」

龍騎「わかった!」

ナイト「比企谷君は、ファイズのもとに行って。あなたと彼女が解決のカギになるはずよ」

ディケイド「ああ、こっちはまかせろ」

龍騎「頼んだよ!ヒッキー!」

『『Final Vent』』

ミルクは衝撃波を放つが、二人分の力を一点に集中した攻撃はさすがに止められなかった

ようで、ついに二人の攻撃がアークオルフェノクに炸裂する。

アーク「ガァァアアアアアアッッッ!」

ミルクが苦悶の声をあげる。

アーク「うるあぁぁぁっっっ!」

そして、肩にかけていたマントを放り捨てる。

先程以上に強力なプレッシャーがあふれだす。

アーク「ルァッ!」

そして右手からエネルギー弾をいくつも放つ。

龍騎「うわぁあぁぁああっ!」

ナイト「くっっ!」

その攻撃を受け、二人ももとの姿に戻ってしまう。

ついに、変身しているのは俺とのぞみ、ダークドリームの三人だけになった。

昆虫のような大きな目が俺の姿を捕えた。

次は俺か……。

「Final Attack Ride De De De Decade!」

相手が攻撃モーションに入る前に、先程雪ノ下達がダメージを与えた場所に向けてキック

を放つ。

ディケイド「くらえっ!ディメンションキックっ!」

俺の距離が3m以内に入っても、ミルクは動くそぶりを見せない。

彼女の戦闘パターンから、上にジャンプしてよけられるのではないかと考え、少し体勢を

変える。

今まさに攻撃が当たるというその時、俺が予想していたよりも遥かにはやい反応速度で、

ミルクはその場にかがんだ。

俺のキックはむなしく彼女の上を通り過ぎる。

そして彼女のすぐ上には、無防備な俺の背中が。

ッッ、まずい!

アーク「ゥアッッッ!」

アッパー攻撃を食らわされ、俺の体はギャグ漫画のように宙に飛んでいく。

何とか空中で体勢を立て直し落下のダメージを少しでも減らそうとしたが、脳が揺らされ

たためか上手く体が動かせない。

おのれの体を硬化しようとして何とか取り出したブレイドのカード『Metal』を落と

してしまう。

そうこうしているうちに、みるみる地面が近づいてきている。

まともに受け身をとることもできず背中に再び衝撃を受ける。

ディケイド「がぁぁあああああっっ!」

変身が解けなかったのは、奇跡以外の何物でもない。


アーク「ルゥゥ……最後は、お前だ」

ファイズ「ミルク……いくよっ!ダークドリームはここで休んでて、傷、痛むでしょ?」

王蛇「でも、のぞみの方が……」

ファイズ「私なら大丈夫っ!言ったでしょ?大好きな人のためなら頑張れるって。ダーク

ドリームはもう、私の大好きな人なんだからっ!」

王蛇「のぞみ……」

ファイズ「はっ!やっ!はぁっ!」

ファイズエッジで、のぞみはなんとかミルクの攻撃にくらいついている。

だが、押されていることは明白だ。

ミルクの拳が鳩尾に入り、のぞみの体が壁に激突する。

『Error』

無情な電子音が鳴り響き、彼女の変身も解除されてしまう。

しかし、

のぞみ「変身!」

とても立ち上がれるような状況ではないはずなのに、彼女はまた立ち上がり、変身して果

敢に向かっていく。

なんて強さだ……。

のぞみの体に蹴りが入れられ、再び吹き飛ばされる。

のぞみ「う……うう……」

またも変身が解除されたのぞみは、それでも必死に立ち上がろうとする。

が、よろめき、何度も体勢を崩す。

彼女の戦闘力よりも、その心の強さに脅威を覚えたのだろうか。

ミルクはのぞみのもとまで歩いて来て、変身前の彼女にとどめを刺そうとする。

アーク「ルアアアアアアァァァァッッッ!」

生身でこれを受けて、無事なはずがない。

いや、無事とかそんなレベルでは無く、間違いなく即死だ。

王蛇(ダークドリーム)「のぞみぃぃいいいいいいっっ!」

その攻撃にダークドリームが割り込み、彼女の胸をミルクの腕が貫いた。

のぞみ「ダ、ダークドリームゥゥゥゥッッッ!!!!!」

自分がダメージを負った時以上に悲痛な叫び声がこだまする。

ダークドリームの体が、徐々に青い粒子に代わっていく。

消えていくダークドリームが、ゆっくりとのぞみの手をつかむ。

のぞみ「どうして……どうしてわたしを助けたの!!?」

ダークドリーム「なぜかしらね……大好き、だからかな……」

のぞみ「え?」

ダークドリーム「わたし達、違う形で出会ってたらよかったのに……」

のぞみの目に涙が浮かぶ。

ダークドリーム「ダメかな……わたし、偽物だし」

のぞみ「本物とか偽物とか、関係ない!あなたはあなたで……」

のぞみ「わたしの友達だもん!」

ダークドリームの体が薄くなっていく。

ダークドリーム「わたし、どうしたら笑えるかわからなかったけど……」

最後ににっこりとほほ笑んで、彼女は消えていった。

それは紛れもなく、彼女だけの、最高の笑顔だった。

のぞみの手には、ダークドリームが胸にしていた美しいクリスタルが残っていた。

アーク「ルゥゥ……」

のぞみ「なんで……あの子は私の、大切な友達だったのに!」

のぞみ「夢見る乙女の底力、受けてみなさい!」

そのクリスタルが、白いブラスターに変わっていく。

のぞみはためらった様子もなく、そこに『555』のコードを撃ちこむ。

『Awakening』

すると彼女は、先程までとは違う姿に変身した。

ナッツ「あ、あれは……」

ココ「ブラスターフォームだココ……」

『Braker Mode』

バックパック部からジェットを噴射し、宙に浮いて威力を高めて斬りかかる。

ファイズ(ブラスター)「やぁぁああああっっ!」

その攻撃をミルクは腕を交差させて防御する。

しかし、その威力を殺しきれず、勢いよく吹き飛ばされる。

ミルク「ルゥゥゥゥ……オオオオォォォォォォォッッッ!」

聞くだけで変身を解除されそうになるほどの咆哮をミルクが挙げた。

そのせいで一瞬気づくのが遅れてしまったが、俺の手元に数枚のカードが現れていた。

ディケイド「ついに決着だな……いくぞ!ファイズ!」

ファイズ「うん!任せてディケイド!」

『Final Attack Form Decade Fa Fa Fa Faiz!』

ファイズの体が巨大なブラスターに変わる。

『Final Attack Ride Fa Fa Fa Faiz!』

ブラスターをミルクに向けて構え、円錐状の赤いエネルギー砲を発射する。

ミルクは白いエネルギー弾を放ち、それを受け止める。

ディケイド「でいやぁぁあああああっっ!」

放ったエネルギー錐に重ねるように飛び上がり、必殺のキックを繰り出す。

ミルク「ルゥォオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

ディケイド「はぁああああああああっ!」

ファイズ「やあああああぁぁーーーっっっ!」

衝突点を中心として衝撃波が生じる。

吹き飛ばされそうになる体に対し、気合で姿勢を維持する。

ミルク「う……るぅ……」

ディケイド、ファイズ「はあああああっっっ!」

そしてついに、俺達の攻撃が敵の胸部を貫いた。

ミルク「ガアァアァァァアアアアッッ!」

彼女の体が爆発をあげる。

バッタを模したアークオルフェノクの姿がバラをモチーフとしたローズオルフェノクへと

変わる。

そしてそのままぐったりと倒れ、妖精態のミルクに戻った。

彼女たちに嘘をつく結果にならなかったことに胸をなでおろす。

ミルク「……ミル?あれ?どうなってるミル?」

かれん「……シャドウと戦ってる途中で、ミルクは気を失ってしまったのよ。でももう大

丈夫、のぞみとディケイドが倒してくれたわ」

そう言ってかれんがこちらを振り向いて、軽く頭を下げた。

どうやらミルクには、残酷な真実を伝えないことにしたようだ。

それを欺瞞だということは簡単だろうが、真実を知っても、誰にも得は無い。

まして、自ら本当のことを語るなどするはずがない。

のぞみ「ダークドリームが守ってくれたこの命で……わたしは、夢を守ってみせるよ」
そう誓った彼女の顔つきは、どこまでもりりしかった。

俺がその表情を見て思わず笑みを浮かべたその時、俺の体が消えかかり始めた。

雪ノ下「そろそろ、お別れの様ね」

かれん「また新たな世界に行くの?」

雪ノ下「ええ。まだわたし達にはいかなければいけない場所がたくさんあるから」

こまち「気をつけてくださいね」

結衣「ありがとう!それじゃあねっ!」

うらら「結衣さーん、今度また一緒におかし食べましょうねー!」

のぞみ「約束だよー!」

りん「あんたたちもっと別なこと言えないの?」

ミルク「のぞみは本当にバカミル!」

のぞみ「あ~、またバカって言った!」

去り際に撮った写真には、お菓子を食べながら楽しそうに談笑する6人の少女の姿が映っ

た。

気づくと俺達は、再び写真館の中にいた。

額縁の絵は、黒服の青年と白い服を着た少女が背中合わせに剣を持って立ち、異形の怪物

に対峙しているというものだった。

ちなみにその怪物というのは、いかにもゲームに出てきそうな姿のものばかりだ。

雪ノ下「……ここは?」

比企谷「ソードアートオンラインの世界だな……。どのライダー世界と融合しているのか

は現段階では分からんが……」

由比ヶ浜「ソードアートオンライン……?なんか厨二が好きそうな名前だね」

身も蓋もないことを言うな……。

まあ、否定はしないが。

比企谷「そうだな……ソードアートオンラインというのはつまり、ゲームの中の世界だ」

雪ノ下「……?今までの世界も、本来私たちの世界では架空のものだったでしょう?

なにが違うの?」

比企谷「えっとだな……つまり、この世界に居る奴らは、ここがゲームの中だとわかっ

ているんだ」

由比ヶ浜「ぅぅん……なら、この世界では人は死んでも問題ないってこと?なんだかそれ

って……」

比企谷「いや、それは違う。ソードアートオンライン、通称SAOは、近未来型のゲーム

だ。そしてその最大にして最悪の特徴は、自らの意思でログアウト、つまり抜け出せない

こと。

そして、ここで死んだら現実世界で頭に装着しているゲーム機から高圧の電圧が流れ、脳

を焼き切るということだ。

つまり、モンスターやらなんやらが出ることを除けば、ここは現実世界となんら変わりな

い。

そして俺達が受けたダメージも、当然現実のものになるだろうな」

雪ノ下「……そして、わたし達の目標になりそうなことに心当たりはある?」

比企谷「このゲームからの脱出。つまり、ラスボスに勝つことだろうな」

由比ヶ浜「そのボスは、どこにいるの?」

比企谷「第百層だ」

雪ノ下「つまり、ここは階層構造ということね」

比企谷「ああ、最初は第一層からスタートし、各層にいるフロアボスを倒すことで上の階

に上がることができる。これの繰り返しだ」

由比ヶ浜「ひゃ、百……?」

由比ヶ浜が遠い目をする。

比企谷「いや……たぶん一層からということは無いと思うが……」

言って俺は、なにもない空間で右手をスライドさせる。

すると、電子のウィンドウが現れた。

比企谷「……なるほどな、ここは第73層か」

雪ノ下「つまり……あと27回ボスを、いえ、このフロアもだから、28回倒さなければ

ならないということね……」

流石の雪ノ下も憂鬱そうな顔をする。

由比ヶ浜「に、にじゅうはち……」

比企谷「……三だ」

由比ヶ浜「え?」

比企谷「SAOの原作通りいけば、倒すフロアボスの数は3。その後ラスボスとの対戦に

なる」

雪ノ下「どういうこと?」

比企谷「えっとだな……いや、今はやめておこう。

まだ憶測の域を出ないし、わかったからといってどうなるわけでもないからな」

雪ノ下「そう……なら今はそういうことにしておきましょう」

由比ヶ浜「じゃあ、とりあえず外に出てみよう!」

写真館の外は、いかにもゲームに出てきそうな普通の町だった。

こういうときは……。

比企谷「掲示板をさがそう」

由比ヶ浜「掲示板?」

比企谷「ゲームの世界では、掲示板や酒場で情報集めってのがセオリーだ」

MMORPG(多数のプレイヤーが同じ世界でプレイするゲーム)でも、ある程度はこの

常識が通用するはずだ。

そして、今は太陽が真上にある昼間。

おそらく酒場にはあまり人がいないだろう。

雪ノ下「掲示板……あったわ、あそこよ」

雪ノ下が見つけた掲示板には、何枚かの紙が貼ってあった。

無論、はがしたりできない電子的なものだ。

そしてその中に、まさに俺が探していた情報があった。

比企谷「フロアボス攻略体の募集要項。これだな」

雪ノ下「なるほど、大勢でチームを組んで戦おうというわけね」

比企谷「そうだ。こういう大人数型のゲームのボスは、たいてい一人では倒せないように

なっている」

由比ヶ浜「ええっと、集合は噴水広場に一時半……ちょうど一時間後だね」

雪ノ下「少し早いけど行きましょう、道に迷うと困ってしまうし」

……そうだな。お前方向音痴だもんな。

雪ノ下「……なにか?」

比企谷「いいや、なんでも」

雪ノ下「そういうことにしておきましょうか」

比企谷「ああ、お互いのためにな」

由比ヶ浜「もう!二人とも喧嘩しない!」

別に喧嘩しているつもりはないんだが……。

雪ノ下「とにかく、行きましょうか」

言って雪ノ下が先頭に立って歩き出す。

数歩歩くと、彼女はその歩みをとめた。

比企谷「ん?どうした?」

雪ノ下「……比企谷君、あなたが先に行きなさい」

……やっぱり方向音痴なんですね。

俺達がついたのは三十分前だったが、すでに相当数のプレイヤーが集っていた。

俺達三人に奇異の目が向けられる。

それもうなずけることではある。

72層攻略という後半に初めて現れたプレイヤー。

しかも、装備は普段着ときている。

冷やかしに来たと思われても仕方ないかもしれない。

???「……あなた達、失礼だけど、フロアボス討伐に参加するの?」

白い服を着てレイピアを装備した美しい美少女。

雪ノ下「そのつもりよ。ところで、あなたは?」

???「ごめんなさい、最近では聞かれることもなかったから……

私はアスナ、血盟騎士団副団長のアスナよ」

由比ヶ浜「けつめー?ケツメイシ?」

なんだその歌うまそうなギルドは……。

比企谷「ゲームクリアを目指す攻略組のひとつだ」

アスナ「……あまりこういうことは言いたくないけれど、ボス攻略は、遊びじゃないのよ?

普段のダンジョン以上に、死ぬリスクが高いの。

生半可な気持ちでやろうとしているのなら、やめた方がいいわ。」

雪ノ下「……あなたを知らないということが、中途半端だということになるの?

随分な自信ね」

雪ノ下が敵意を隠しもせず言う。

その発言を受けて、アスナも顔をしかめる。

二人の間に緊迫した空気が流れる。

まさに、一触即発。

美少女二人がにらみ合っているその様子は、その場にいる全員の注目を集めていた。

……雪ノ下さんはもう少しまるくならないんですかね。

アスナ「……別に自慢するつもりじゃないけど、私達のギルドはこれまでのボス攻略のほ

とんどにかかわってきたわ。ボスと戦おうとするなら、今までのボス戦について知ること

も必要だと思うわ。そしてあなたがきちんと調べていれば必然、私達のことも知るはず。

つまりあなたは、ボス戦についてろくに知らないでここにいるということじゃないの?」

雪ノ下「そのボス戦について情報を交換し合い、対策を立てるのがこの集りの目的だった

と思うのだけれど……違うのかしら?」

雪ノ下の言ったことは完全に正論だ。

まあそれが、人と付き合う上での最適の言葉だとは到底思えないが。

雪ノ下「それに」

雪ノ下は続ける。

雪ノ下「私は多分、あなたより強いわ」

その瞬間、空気が凍りついた。

アスナ「……ふうん」

アスナが腰につけていたレイピアを抜く。

アスナ「そこまで言うってことは、覚悟はできているのよね?」

雪ノ下「ええ、もちろん」

アスナ「デュエル、受けてもらうわよ?」

雪ノ下「デュエル?」

比企谷「遊戯王のことだ」

由比ヶ浜「え?デュエルマスターズじゃないの?」

比企谷「デュエルマスターズはデュエマだろ?」

由比ヶ浜「ややこしいね」

アスナ「……違うわよ!デュエルっていうのは、両者の合意のもとに戦うことよ!」

いや、もちろん冗談ですよ。

雪ノ下「もう、はじめていいのかしら?」

アスナ「ちょっと待って、今申請するから。いきなり戦いだしたらプレイヤーキラーにな

るわ」

そう言ってアスナは素早く電子画面を操作する。

するとすぐに、雪ノ下の目の前にも電子画面が表示された。

そこに浮かんだのは、三つの選択肢。

一つ目、一撃決着モード。(どちらかに一度でも攻撃が入った時点で決着)

二つ目、ハーフライフ決着モード。(どちらかの体力が半分になった時点で決着)

三つ目、ライフ全損決着モード。(どちらかの体力がゼロになった時点で決着)

雪ノ下は何の迷いもなく三つ目を選択した。

その瞬間、周囲の温度がさらに下がった。

「お、おい!なに考えてるんだ!」

黒色の肌の、スキンヘッドの男が傍観をやめ、こちらに駆け寄ってきた。

「そ、そうだ!エギルの言う通りだ!お前ら何やってんだよ!」

続いて、赤い服を着た男も詰め寄ってくる。

「なあ、姉ちゃんよお。閃光のアスナ相手にそんな無茶、やめろって!

意地の張り合いに命かけんじゃねえよ」

人のよさそうな顔に困惑の表情を浮かべながら彼はつづけた。

雪ノ下「私のことならご心配なく」

アスナ「……いいわ、はじめましょう」

彼女たちの頭上に60という文字が浮かんだ。

「あ、ああ、はじめちまった」

「……アスナ……」

「全損決着のデュエル、こんなん見るの初めてや!」

周囲がざわめき立つ。

残りのカウントが三十を切ったあたりから、二人の傍から皆離れ、一様に沈黙した。

それに倣い、俺も雪ノ下の傍を離れる。

比企谷「ま、大丈夫だとは思うが頑張れ」

由比ヶ浜「応援してるからね!」

雪ノ下「ええ、任せて」

そして、残りカウントが10を切った時、雪ノ下がカードデッキをとりだした。

雪ノ下「変身!」

「「「「!!!!!!???」」」」

静寂が破られ、皆が驚きの声を上げた。

アスナ「……ユニーク、スキル……」

残りカウント、3。

アスナ「あなたは、何者?」

ナイト「仮面ライダー、ナイト!」

カウントがゼロになると同時、雪ノ下はそう答えを返し、アスナに向けてかけ出した。


アスナ(姿を変えるユニークスキルなんて……でも、一つだけ確かなことは……このひと、とんでもなく強い!)

アスナはレイピアで突き技を目にもとまらぬ速さで打ち込む。

彼女の異名『閃光』

それは彼女の技の早さに起因する。

しかし雪ノ下は一切戸惑った様子を見せない。

『Sword Vent』

大上段からナイトは槍を振り下ろす。

アスナの持つレイピアと雪ノ下の持つウイングランサーが激突する。

激突した瞬間、パワーで負けていることを知り、アスナは後ろに大きく跳んだ。

アスナ(画面を操作していた様子もなかったのに……あの武器はどこから出したの?)

そんなアスナの疑問に答えようとしたわけではもちろんないだろうが、雪ノ下はつづけて

カードを読みこませた。

『Nasty Vent』

雪ノ下がカードをスキャンすると同時、空から巨大な蝙蝠が他のモンスターがこちらに向

かって飛んできた。

アスナ(モンスター!!?ここは圏内……つまり、あのモンスターはあの人と契約してい

る!?)

彼女の思考はそこで中断した。

蝙蝠『ダークウイング』の放った超音波によりバランス感覚を崩し、その場に膝をついて

しまったからだ。

「閃光のアスナと単独でやり合う戦闘力に加えて、モンスターをテイム!?

しかもあんなでかくて強いモンスターを……」

「あんなんチートや!あいつはチーターや!」

「いや、キバオウさんよ。あいつの強さは……チートなんて言葉で表せるもんじゃねぇだ

ろ」

「……ビーター、いいな、それ」

「あの黒服は一人でブツブツなに言うとるんや」

「あいつはそういう奴だ」


体勢を崩したアスナを雪ノ下は容赦なく斬りつける。

アスナ「うぅっ!」

とっさに自分のHPを確認したアスナは驚愕した。

今の一撃で二割もの体力を失ったのだ。

「あ、あのスピードであんなに威力あんのかよ!強すぎんだろ!」

アスナ(あれに対抗するには……パターン化されていたとしても、スキルを使うしかない。

それに、なぜかわからないけれど、あの人はこの世界のシステムをよく理解できていない

みたい。
上手く行けば、やれるはず!)

アスナ「はぁぁっ!電光石火っ!」

先程以上の速さで踏み込み、雪ノ下の胸に一突きを浴びせる。

ナイト「くっ!」

手ごたえを感じたアスナは相手の体力ゲージを確認した。

が、

アスナ(体力ゲージが、ない!!?)

本来あるはずの体力ゲージが、相手からは確認できなかったのだ。

アスナ(相手に体力を確認させないアイテムでも使っているの?それとも……)

『Advent』

場にそぐわない甲高い電子音に、アスナの思考が中断される。

この音声が鳴ると何かが起こるということは学習済みだ。

と、先程超音波を発した蝙蝠が再びやってきた。

急いでアスナは耳をふさぐ。

が、これによってアスナは回避行動がとれなくなった。

巨大蝙蝠からの突進攻撃を避けられなかったのだ。

アスナ(物理、攻撃……)

蝙蝠の羽に打ち付けられ、アスナは後方に吹き飛ばされる。

アスナ(もう、半分も残ってない……)

すぐそばに死の足音を感じた。

アスナ(……まだよ!)

アスナ「つじ斬りっ!」

近づいてきたナイトの腹部を横にきりつける。

『Trick Vent』

確かにきったはずの敵の体が、ゆらりと消えた。

アスナ「がぁっ!」

アスナは自分の胸を槍が貫いているのを見た。

後ろから突きだされた槍を抜くため、全力で前に跳ぶ。

振り向くと、三体に増えたナイトが槍をこちらに向けていた。

アスナの体力は残り二割。

対して相手には、決定打となる一撃は与えられていない。
『Final Vent』

その音が響くと同時、ナイトの二つの体が消え、かわりに三度(みたび)蝙蝠のモンスタ

ーが現れた。

モンスターのもとへ、ナイトが高くジャンプする。

ちなみにアスナは、これほど高く跳躍できるプレイヤーを見たことがない。

ナイトの体をモンスターが包む。

それが激しく回転する様は、まるで巨大なドリルだ。

そのドリルが、勢いよく自分めがけて急降下してくる。

ナイト「飛翔斬っ!」

その攻撃が、アスナの真横で炸裂した。

本来破壊されないはずの市街地フィールドがまるで隕石でも落ちたかのように大きくへこ

んでいた。

必殺技を終えたナイトが、アスナの喉元に槍をつきつける。

ナイト「……降参、してくれないかしら」

相手の強さを認め、アスナは黙って両手を上げた。

ナイト「……あの、どうすればいいのかしら?」

アスナ「あ、ああ。こっちで操作するわ」

アスナがデュエルをドローにする旨の申請を雪ノ下に送る。

アスナ「参ったわ……本当に、強いのね」

雪ノ下「わかってもらえればいいわ。ボス殲滅戦に、私達も加えてもらっていいわよね?」

アスナ「ええ、ぜひとも」

アスナと雪ノ下が固く握手をかざす。

「おいおい、すげぇな!姿の変わるスキルなんて!」

赤い服を着た男が雪ノ下に話しかける。

熱く語る男に軽く引いたのか、雪ノ下が少し後ずさる。

クライン「ああ、いきなりすまねぇ。俺はクライン。ギルド風林火山の頭はってるもんだ」

???「そ、そのスキルはなんなんや!あんなん……チートやないか!」

関西弁の、ツンツン頭の男が詰問するように問う。

雪ノ下「チート……?いわれのないことだし、私達が特殊な力を持っていたとしても、あ

なたには何の不都合もないと思うのだけれど」

雪ノ下が言っていることはまごうこと無き正論だ。

だがまぁ、ゲームで見たことのないスキルを使っている物がいればその入手方法を知りた

いと思う心境も理解できないではないが。

雪ノ下「それに、とても人に物を聞くような態度ではないと思うわ」

アスナ「私が言えることではないと思うけど……キバオウさん、あなたの態度はかなり失

礼だと思うわ」

キバオウ「んなっ……このスキルの入手方法がわかったら、戦力は圧倒的に強化されるし、

死亡率も減るやろ!教えるのが、筋ってもんやないか!」

比企谷「残念だが、これは正確にはスキルじゃない。俺達にも獲得方法はわからない」

俺の発言に、キバオウが黙り込む。

真偽はともかくとして、俺達が入手法を伝える気がないことを理解したのだろう。

そしておそらく、その力と対立することの危険性も。

アスナ「……では、攻略会議を始めます。エギルさん、ボスについての情報を」

声をかけられたスキンヘッドの男が口を開く。

エギル「この73層のボスの名前は、『蒼狼の始祖アマテラス』。多数の呪文を唱えたり、

様々な武器を使用するらしい」

ん?この世界のボスには全て、『the』を冠詞に持っていたはずだが……。

エギル「それから、これは確定情報ではないが、HPが一定以下になると、姿を変えるら

しい」

???「あ、ちょっといいか?」

エギル「キリト?」

全身黒で統一した服を着た、キリトと呼ばれた男が発言を求める。

キリト「アマテラスが姿を変えるっていうのは、ほとんど確定だ。そして、変化先の名前

は、『エンペラーキリコ』だ」

エンペラーキリコ……何とも威圧感のある名前だ。

キリト「それと、強力な仲間を複数呼ぶらしい」

キバオウ「相変わらずすごい情報収集力やな、ビーター上がり」

アスナ「……キバオウさん、和を乱すような発言は控えてください」

キバオウ「ふん!」

最初こそ微妙な雰囲気だったが、それ以降はすんなりと会議が終わった。

アスナ「各自、情報交換は終わりましたね。それではこれより、ボス討伐に向かいます」

由比ヶ浜「え?会議が終わったその日に行くの?」

由比ヶ浜が小声で俺に尋ねる。

比企谷「このゲームにとらわれてる奴らは、現実世界では、医療の力で生きながらえてい

る状態だ。クリアが長引けば長引くほど、健康状態は悪くなる。

だからまあ、強行軍が普通になるんだろうな」

この世界の初期は安全マージンをしっかりとろうという風潮だった気がするが……。

死んだら終わりという状況で、少し急ぎ過ぎているようにも感じたが、俺達が訪れた世界

でも、皆、命をかけて戦っていた。

それと似たようなものだろうか。

俺達はボス戦において、前衛を担当することになった。

最も危険なポジションだが、俺達の全体の中での戦闘力を考えれば妥当なものだろう。

アスナ「それでは、行きます。みなさん、準備はいいですか?」

皆に呼び掛けたアスナが、ゆっくりと扉を開く。

そこは、縦にも横にもとても長く、高さも10mはある。

床や壁の色は、神秘的な水色で統一されている。

俺達がその部屋(?)を、15メートルほど進むと、突如それは現れた。

全身水色で、白い絹のようなものをまとった、二メートルほどの、人型のモンスター。

そいつの頭上に文字が浮かび上がる。

『蒼狼の始祖アマテラス』

アマテラス「敵を確認、排除行動に入る」

その声を聞き、皆身構える。

比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜「「「変身!!!」」」

『Kamen Ride Decade!』

アマテラス「フェアリーライフ!」

―アマテラスが、フェアリーライフを発動!敵の呪文詠唱速度が短くなった!―

敵の放った呪文と、それに伴う効果が視界の端に動かした画面に浮かび上がる。

「Strike Vent」

由比ヶ浜が炎攻撃を放つ。

アマテラス「魂と記憶の盾(エターナル・ガード!)」

―アマテラスが魂と記憶の盾を発動!敵の防御力が一時的に上昇!―

ゆらゆらと揺らめく幻影の盾がアマテラスの前に現れ、その攻撃は防がれる。

クライン「これでもくらいやがれっ!」

クラインが、ギルドメンバーとともに四方向から斬りかかる。

アマテラス「ノーブル・エンフォーサー!」

―アマテラスがノーブルエンフォーサーを発動(ジェネレート)!一定以下の威力の攻撃

はダメージが0となる!―

アマテラスが、右手に杖のような武器を構える。

直後、クライン達の攻撃が命中したが、アマテラスの体力に変化はない。

どうやら彼らの通常攻撃は、一定威力以下と認識されたらしい。

クライン「畜生……いったんひくぞ!」

「「「おう!」」」

アスナ「はあぁぁっっっ!」

クライン達と入れ替わるように前線に躍り出たアスナが強烈な突き攻撃を繰り出す。

アマテラス「ぐぅっ!」

「Sword Vent」

それに続いて、雪ノ下もウイングランサーでアマテラスの右腕を切りつける。

アマテラス「クリムゾンチャージャー!」

―アマテラスがクリムゾンチャージャーを発動!追加効果で、アマテラスの移動速度が上

昇!―

アマテラスが叫ぶと同時、灼熱の炎が二人に襲いかかる。

二人は回避に成功するが、後方に控えていたほかの面々に炎が勢いよく襲いかかる。

キバオウ「あっ、あちっ!」

彼らが後ろにいたのには理由がある。

敵が巨大なら、全員で一気に戦うことができるのだが、アマテラスの大きさではそれがで

きない。

その為、入れ替わりで戦っているのだ。

思った以上に敵の使う技が多い……かなり厄介な相手だ。

ディケイド「新しい力、試させてもらう!」

「Kamen Ride Faiz」

「Attack Ride Faiz! Sparcle Cut!」

右手に赤く発光する剣を握り、アマテラスに向かっていく。

斬りつける寸前、アマテラスの体が、赤い円柱状のエネルギーに包まれる。

ディケイド「でやっ!」

アマテラスの腹部に攻撃が炸裂する。

アマテラス「ぐぅぅっっ!」

攻撃を受け、アマテラスが勢いよく吹き飛ばされる。

アマテラス「やってくれる……」

そういえばこいつ、言葉を話せるのか。

今までのは呪文詠唱ばかりだったから深く考えなかったが。

アマテラス「サイバーブレイン!」

アマテラスのもとに青白い光が集まっていく。

そして、左手に銃を構え、三つのエネルギー弾を打ち出した。

ディケイド「くっ!」

「Form Ride Faiz! Auto Vajin」

どこからともなく、自律戦闘マシン(?)オートバジンが現れ、ガトリング掃射で敵の攻

撃を無力化する。

「Form Ride Faiz! Accel」

ディケイド「一気に決めてやる!」

超加速フォームとなった俺は、これでもかと攻撃を撃ちこんでいく。

「Final Attack Ride Fa Fa Fa Faiz!」

高く飛び上がり、必殺技の態勢に入る。

ディケイド「これで、終わりだぁぁっ!」

アマテラス「シールドトリガー、発動!DNAスパーク!」

―アマテラスがDNAスパークを発動!全員一時行動不能!更に、アマテラスの体力が回

復!―

「Reformation」

時間の経過により、アクセルフォームが解除する。

ディケイド「ぐぅっ」

ナイト「か、身体が……」

アスナ「これは、スタン状態……?」

アマテラス「やはり、スパーク呪文は便利だな」

クライン「なんなんだ、こんなの、反則だろ……」

アマテラス「心配するな、なにもこの状態のお前達を倒すつもりはない。

そんなつまらんことはしない」

龍騎「な、ならなんで……」

アマテラス「少しだけおとなしくしてもらわないと困るからな……

呪文、母なる紋章、発動っ!」

アマテラスを激しい光が包む。

光をまとったアマテラスの姿が急激に変わり、巨大化していく。

約三十秒ほど続いたその現象が終わった時、アマテラスは全長5メートルを超える巨大な

モンスターに変わっていた。

アマテラス(?)「……我が名は、エンペラーキリコッ!」

先程とは比べ物にならないほどのプレッシャーを放つ存在がそこにはいた。

それと同時、俺達の体も自由になる。

キリコ「いでよ!我が忠実な僕達よ!」

敵が叫ぶと同時、どこからともなく三体の巨大なモンスターが現れた。

―エンペラーキリコのスキル発動!
 光神龍スペルデルフィン、サイバーNワールド、永遠のリュウセイカイザーがポップ!
スペルデルフィンの効果によりプレイヤーはスキル発動不能!
永遠のリュウセイカイザーの効果によりプレイヤーの素早さが二段階低下!―

ディケイド「スキル禁止に、素早さダウン……」

それがどれだけこちらに不利になるかはこの世界に来たばかりの俺でもわかる。

そしてSAO世界のプレイヤーたちはメッセージを見て硬直していた。

そんな中、その状態から最も早く復活したのは黒の剣士、キリトだった。

キリトは光の龍スペルデルフィンめがけて脇目も振らず向かっていった。

高く跳び上がり、空中から斬撃を繰り出す。

そうはさせじと炎を吐いた炎龍リュウセイによって攻撃は防がれる。

ディケイド「雪ノ下はNワールドを!由比ヶ浜はリュウセイを頼む!このでかいのは俺が

何とか引きつける!」

単発の技の威力も射程範囲もおそらくは敵の方が上。

お互いにカバーされたのではこちらの勝ち目はさらに薄くなる。

よって、この中で戦闘能力の高い俺達で各個撃破を目指す。

これが一番勝率の高い作戦だ。

アスナ「キリトくん!私も助太刀するわ!」

次に正気を取り戻したアスナがキリトの援護に向かう。

ライダーでないキリトは一番危ない。

アスナの判断は妥当と言えた。

クライン「お、俺達はどいつと戦えばいい!?」

キバオウ「おい!なんでそいつらがリーダーみたいになっとるんや!」

エギル「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」

キバオウ「ちっっ!もうええ!こっちはこっちで勝手にやるわ!」

そのやりとりを見て、他のプレイヤーたちはそれぞれ思い思いに分散した。

「Form Ride Gaim! イチゴアームズ!シュシュッと、スパーク!」

ディケイド「いくぞ!」

「Lock On 壱、十、百……イチゴチャージ!」

無数のエネルギー弾がキリコを襲う。

キリコはその攻撃を口から発射したレーザーで迎撃する。

数はこちらが多いので少しは当たったようだが、ダメージは微々たるものだろう。

キリコが反撃に放ったレーザーがプレイヤー数人に当たったので、むしろ状況は悪くなっ

ている。

ディケイド「一気に大技でいくか……」

「Final Attack Ride Ryu Ryu Ryu Ryuki!」

ディケイド「ドラゴンライダーキックッ!」

ディケイドになる前は龍騎として戦っていた俺にとって最も勝手のわかっている必殺技だ。

俺の攻撃に対抗すべく、キリコがその巨体で突進してくる。

衝突部で爆発が起き、俺の体は後方に吹き飛ばされる。

その途中でキリコの様子を確認してみたが、あまり効いている様子は無い。

直後、俺の背中に激痛が走る。

ディケイド「ぐあぁっ!」

キリト「ディケイド!?」

キリトが驚愕の声を上げる。

どうやら俺はスペルデルフィンに激突したようだ。

光の龍は苛立ったように体を振るい、俺を地面に叩き落とす。

アスナ「スキルを使えないのがこんなにきついなんて……」

キリト「こうなったら、俺も……いや、しかし……」

アスナ「……キリト君」

キリト「なんだ?アスナ」

アスナ「……キリト君、何か、隠してるよね?」

キリト「え?」

アスナ「片手剣のメリットって、もう片方の手に盾を装備できること。

……なのに、あなたはつけてない。

何か、理由があるんじゃないの?」

キリト「……」

アスナ「キリト君!」

その時、近くから誰かの悲鳴が上がった。

スペルデルフィンのはなったエネルギー弾が直撃したのだ。

キリト「……これ以上誰かが傷つくのは見たくない」

アスナ「え?」

キリト「だから、見ててくれ!俺の……変身っ!」

そう叫ぶと、彼の腹部からベルトが現れ、激しい光に包まれた。

クウガ(マイティフォーム)「みんなの笑顔のためにっ!」

オレンジ色の、勇ましい戦士。

仮面ライダークウガが、そこにいた。

クウガ「うおりゃぁ!」

キリトは飛び上がり、強烈な蹴り攻撃をスペルデルフィンにあびせる。

スペルデルフィン「ルゥゥっ……」

光の龍が呻き声をあげる。

ディケイド「よし!」

この機を逃さず追撃を行う。

「Final Attack Ride Ga Ga Ga Gaim!」

ガイムの姿での必殺技、『無双ソニック乱舞』を繰り出す。

スペルデルフィン「ォオオオォォォッッ!」

龍の体から爆発が上がる。

かろうじて息はしているが、今にもその命は突きそうだ。

アスナ「リーフブレードッ!」

赤い光を宿したレイピアが、龍の体を切断した。

まずは一体撃破!

アスナ「キリト君、その姿は……」

クウガ「ごめん。今その話をしてる暇は無い」

そう言ってキリトは、Nワールドと戦っている雪ノ下の方に目を向けた。

クウガ「超変身!」

そう叫ぶと、キリトの姿が緑色に変わった。

右手には弓状の武器を持っている。

クウガ「……」

弓を引き、しかしなかなか発射しようとしない。

アスナ「キリト君?」

キリトは答えない。

クウガ「でやぁぁっっ!」

気合の声とともに、超威力の矢が放たれる。

その攻撃は速度もすさまじく、たちまちNワールドの額を貫いた。

Nワールド「ぐぐぉおおっっ!!?」

そして、雪ノ下がそんな隙を見逃すはずもない。

『Final Vent』

即座に飛び上がり、彼女の必殺技、飛翔斬を放つ。

ナイト「はぁぁあああああっっ!」

これで、二体。

と、そこに。

異変を察知したリュウセイカイザーが炎攻撃を放った。

ディケイド「跳べ!」

しかし、俺達が回避したとしても他の冒険者に攻撃が当たる可能性がある。

クウガ「超変身!」

再びキリトが叫ぶと、今度は紫色の剣を持った姿となった。

その剣を自身の前にかざす。

そして炎攻撃を、その剣で見事に止めてみせた。

クウガ「うおぉぉぉぉっっ!」

攻撃を完全に受けとめ終わると、リュウセイのもとへ駆けだす。

途中で手に持っていた剣を投げつけた。

リュウセイが苦悶の叫び声をあげる。

クウガ「超変身!」

三度そのセリフをキリトが叫ぶと、今度は体の色が青に変わる。

そして、天井に届くかと思うほど高く跳び上がる。

クウガ「ペガサス、キック!」

その高さを活かし、極限まで強化されたキックがリュウセイに直撃する。

な、なんという俺TUEEEEEなんだ……。

クウガ「これが、始まりのライダーの力だっ!」

言ってキリトは最大の難敵、エンペラーキリコのもとへ向かっていく。

クウガ「超変身!」

そして、最初の茶色の姿にもどる。

クウガ「マイティキックっ!」

しかし彼の体は、キリコのレーザー攻撃によって撃ち落とされる。

クウガ「流石に強いな……」

ディケイド「だが、状況は圧倒的によくなった。こいつだけに、集中できる」

『Attack Ride Ryuki! Strike Vent』

龍騎「あ、あたしも!」

「Strike Vent」

龍騎、ディケイド「「ドラグクローファイヤーっ!」」

二方向から炎が放たれる。

キリコ「ルゥゥッ!」

キリコは苦悶の表情を浮かべ、その巨体を大きくひねり、無理矢理炎をかき消す。

アスナ「やぁぁっ!」

ナイト「……行くわっ!」

「Sword Vent」

キリコが放つレーザー攻撃を器用によけながら、二人はキリコの懐に潜り込み、斬撃を繰

り出す。

レーザー攻撃が内側にも放たれはじめたのを受けて、二人はいったん後退する。

クウガ「うおりゃぁぁっ!」

キリトが叫ぶと、その朱色の体の一部に金色が浮かび上がった。

クウガ「これで決めてやる! ライジングマイティキックっ!」

ここが、正念場だ!

「Final Attack Ride De De De Decade!」

俺とキリトは、キリコの頭部一点に向け、同時に必殺技を放った。

キリコのレーザー攻撃は、雪ノ下達が引きつけてくれている。

ディケイド、クウガ「はぁぁぁあああっっ!」

その攻撃が触れると同時、キリコの目がこちらを向いた。

しかし、その直後、キリコの頭部は爆発した。

クウガ「はぁ……はぁ……やったか」

龍騎「やった!これでこの世界も!」

ナイト「いえ、それはまだ達成していないでしょう」

龍騎「う?」

ディケイド「俺はまだ、クウガのカードを手に入れていない」

ナイト「まぁ、この一戦以外まともに会話もしていなかったのだから、そんな都合よくラ

イダーの絆ができるというわけではないのでしょうね」

アスナ「……何の話?」

ディケイド「いや、大したことじゃない。ただまぁ、もう少しこの世界に居ることになっ

た。よろしくな」

クウガ「正直、心強いよ。ありがとう」

キリトは右手を前に出し、親指を立ててみせた。

ディケイド「なんだ?それ」

クウガ「古代エジプトから伝わる、自分の行いに満足できるものだけができるポーズさ」

ディケイド「そうか」

俺も黙って親指を立てる。

クウガ「まあ、頑張ろう。俺達は、人類の愛と平和を守る仮面ライダーらしいからな」

ライダーって、そういうものだったのか……?

と、俺達のもとに他のプレイヤーたちが集まってきた。

クライン「おい、キリトよぉ!なんなんだよその姿は!」

キリト「ユニークスキル、『超変身』だ」

キバオウ「なんやそれ!チートやないか!」

「変身するチーターだから、ライオン・トラ・チーターで、ラトラーターだ!」

「「「そうだ!ラトラーターだ!」」」

……ちょっとなに言ってるのかわかんねぇな。

エギル「おい!キリト達のおかげでボスを倒せたんだぞ!感謝こそすれなんだその言い草

は!」

キリト「まぁ、俺のことは好きに言えばいいさ。タトバでもガタキリバでもなんでもな」

だからそれはオーズのコンボだろ?

キリトが背を向けると同時、部屋の奥の扉が開いた。

アスナ「次の階層への扉が開いた……」

比企谷「いくか」

俺もキリトの後に続く。

キバオウ「ま、待てや!お、おまえも変身しとったろ!」

比企谷「それがどうした?別に発現方法を教える義務なんて無いだろ」

キバオウ「な、なんやとぉ!」

比企谷「そもそも、俺達もその発現条件なんて知らないしな」

雪ノ下「行きましょうか」

比企谷「ああ」

由比ヶ浜「ちょ、ちょっとまってよ~!」


扉を開くと、そこには無数の絵札が壁に飾られていた。

その中には、先程のエンペラーキリコ達の姿もある。

キリト「……なんだ、これは」

不気味、という印象は無い。

現実離れした騎士や龍が戦う様子も描かれている。

アスナ「名前があるわね……ブラスター、ブレード?」

キリト「こっちは、ブラックマジシャンと、ブルーアイズホワイトドラゴン、か……」

由比ヶ浜「龍皇ジークフリード?」

比企谷「何か、意味があるのか……?」

キリト「階層の最後に描かれている絵は、その次の階層を攻略するヒントになってるんだ」

比企谷「つまり次の改装にはこいつらが出てくる可能性があるってことか……どいつも強

そうだな」

キリト「基本的に、このゲームはハードモードだからな……」

アスナ「特に70層を越えてからはね……キリト君みたいな、特別な力があれば別だけど」

ほんの少し非難と不満の色を込めてアスナがキリトの方を見る。

先程の冒険者たちほど露骨ではないが、変身に関する情報を提示しろと思っているのだろ

う。

無論、これが普通のゲームだというのならば、彼女の意見は見当違いもはなはだしい。

しかし、このソードアートオンラインの世界は、ゲーム内での死が現実の死に直結するの

だ。
冒険者たちの生存率を上げるために情報を公開しろというのも、頷ける意見ではある。

だがそれは、キリトにとってはどうなのだろうか。

この世界には、徒党を組んでプレイヤーキルを行う者もいる。

そのような者たちが変身の力を得れば、彼の身が危険にさらされるかもしれない。

(現在のように、キリトだけが強力な変身の力を持っていれば、そのような危険性は低い

だろう)

それに、最前線で戦う彼らにとってはこちらの方が重要であろうが、大人数が同時にプレ

イするMMOにおいては、ボスを倒した際に特殊なアイテムを得られる者は限られている

のだ。(詳しい原理はこの世界に来たばかりの俺達には知る由もないが、おそらくはとどめ

を刺したもの、もしくは最も多くのダメージを与えた物に与えられるのではないだろうか)

そして、先の戦いでこの二つの条件を満たしたのは間違いなくキリトだ。

(次点で俺達、本来この世界にはいないライダーだろう)

つまり、キリト個人にとって変身のメカニズム、能力取得方法を開示するメリットは皆無

なのだ。

それどころか、デメリットしかない。

ならば他の最前線冒険者たちは、戦力差を埋めるため、ボス攻略からキリトをはずそうと

するだろうか。

そう言った意見も上がるだろう。

おそらくは、キリトに対して敵愾心を燃やしていたキバオウ辺りから。

だが、その意見は通らないはずだ。

先程の戦闘において、冒険者たちはモンスター達に翻弄されていた。

キリトがいなければ、全滅していた可能性すらある。

そこまでは行かなくとも、死亡者が出ることは避けられなかったはずだ。

その戦いが、最後の戦いであるというのならば、まだいい。(決して良くは無いが、比較し

たときにはそのように言うのが妥当だろう)

だが、彼らにとってはまだまだ先があるのだ。

今日のような戦いが、20回以上も。

それまでに、一体どれだけの人間が死ぬだろうか。

いや、どれだけの人間が生き残っているだろうか。

仮にキリトを排斥する意見が通ったとしても、それはあくまで一回きりだ。

しかもその一回で、犠牲が生じる。

これらの点を考慮すると、アスナの要求は何というか、絵に描いた餅、机上の空論、

箱舟論や理想論と言ったものに近い。

キリト「アスナ……」

キリトは黙ってアスナの目を見つめる。

その迫力に、歴戦の猛者であるアスナもたじろぐ。

キリト「最大派閥の副団長である君の立場を考えれば、その質問は妥当だと思う。

……でも、その質問に俺が答えると思うか?」

アスナ「っ……」

キリト「君がその責任ある立場をこれからも続けていこうとするなら、もう少し考えた方

がいいと思うよ」

アスナ「そう、ね……ごめんなさい」

キリト「でも、一人でも多く救いたいという気持ちは、素直にすごいと思うよ。

それに、俺も冒険者全体のレベルが上がるにこしたことは無いと思ってるんだ」

アスナ「じゃあ……!」

キリト「でも、ダメなんだ。仮面ライダーになる為のアビリティ、『超変身』は、もっとも

はやいゲーム反応速度を持つプレイヤーが、一定のレベルに達したときに与えられるアビ

リティだ。だから、他のみんなが、少なくとも俺と同じ方法で変身する術は無い」

アスナ「そっか……教えてくれて、ありがとう。キリト君って、結構厳しいこと言うけど、

最後は優しいよね」

先程までの険しい表情を消し、少し笑って彼女は言った。

キリト「……そうかな」

キリトも少し恥ずかしそうに上を見る。

そこに圧倒的な強さを持っていたライダーとしての面影はない。

比企谷「……しかし、妙だな」

アスナ「え?」

比企谷「つまりそれは、最初から変身できる人間が決まってたったことだろ?

こういう多くのプレイヤーが同時に参加するゲームで特別な一人を優遇、主人公化するの

はまずい気がするんだがな」

キリト「ああ、俺もこの力を手に入れた時は驚いたよ。こんなの、MMOにあっていい力

じゃない」

アスナ「……いいんじゃないかな。それを、誰かを守るための力として使えるなら」

雪ノ下「それを今ここで議論しても仕方ないわね。とりあえず、新しいフロアに行ってみ

ましょう」

雪ノ下の言葉を受けて、俺達はついに新たな階層への扉を開いた。



比企谷「それじゃ、また」

新たな街についた俺達は、別れた。

雪ノ下「……少し疲れてしまったわね」

由比ヶ浜「今日は宿に泊まって、冒険は明日からにしよっか」

比企谷「そうだな。さっきの戦いで金もある程度手に入ったし」

<キリト>
比企谷たち、新たなライダーの存在には驚かされた。

別世界から来たという話は信じがたいが、少なくとも敵では無い。

正直、助かる。

さっき戦ったエンペラーキリコ達。

俺一人で勝てたかどうかは怪しい。

仮に勝っていたとしても、多くの犠牲を出した上でのものとなったはずだ。

そんなことを考えながら、早速新しい階層を探索する。

皆が来る前に、取れる分はアイテムをとっておきたい。

いくら個の力が強くても、ソロでの冒険は効率が悪い。

ダンジョンをある程度探索し、町へと戻る。

自分のコンディションはしっかり管理しておかなくてはいけない。

フォローしてくれる仲間はいないのだから。

こういった部分も、ソロの弱い所だろう。

値段はあまり気にせず、しっかり休める宿を選ぶ。

装備の整備くらいにしか使わないので、金だけならある程度はある。

「……」

まだまだ先は長い。

これから先のボスも、今日のように強力なのだろうか。

これまでにも、特定の階層に、極端に強いボスというのは存在した。

しかし今回は、その中でも群を抜いて強く、ディケイドたちイレギュラーな存在を入れ

て何とかなったようなものだ。

彼らがいなくなれば、更に苦戦し、死人も出るだろう。

そして、攻略ペースが落ちる。

俺達の現実の体は、医療の力で何とか生きながらえている状態だ。

このゲームには、明確なタイムリミットがあるのだ。

俺の体は、あとどのくらい持ってくれるのだろうか。

そしてこの事実に、ほとんどの者が気づいていない。

そう言う俺も、アスナに指摘されるまで気づかなかった。

自分たちの未来に一抹の不安を抱えながら、俺は床に就いた。

そして翌日。

午前四時に目を覚まし、宿を後にする。

まだ暗い空の中、新たなダンジョンに向けて全力でダッシュする。

この時間帯は、一番冒険者が少なくなる。

探索にはもってこいだ。


ダンジョンに入って少しすると、早速モンスターが湧出した。

「モンスター名……ブラックマジシャンと、ブラックマジシャンガールか……」

男と女の魔術師、どちらも見たことのないモンスターだ。

「黒・魔・導!」

モンスターが雷攻撃を放ってくる。

「超変身!」

俺はクウガの姿となり迎え撃つ。

これまでは隠してきたが、昨日の戦闘で大勢に知られてしまった。

もう隠す意味は無いだろう。

「マイティキック……うぉりゃぁ!」

気合の一撃のもと、魔術師の一人を倒す。

「超変身!」

ドラゴンフォームに姿を変え、女魔術師の心臓部をドラゴンロッドで貫く。

「ふぅ……」

予想以上に獲得経験値が高い。

この階層中に3つはレベルが挙げられるかもしれない。

「よし……気合入れていくか!」


俺はそのままダンジョンにもぐり続けた。

ふと時刻を確認すると、午後一時を過ぎていた。

「腹減ってきたな……」

この世界では、食事はとらなくても問題ないが、空腹感は感じる。

「そろそろ飯にするか……っ、しまった」

食事を用意するのを忘れていた。

「仕方ない、いったん街に戻るか」

ドラゴンフォームになって全力で走れば、十分もかからずに着くはずだ。

「あ、キリト君!?」

ダンジョンの入り口でアスナと出会った。

「げ……」

「キリト君?今、『げ?』って言った?」

「いや、別に……」

正直俺は彼女が苦手だ。

「ま、いいけど。この時間帯からもう切り上げるの?」

「昼飯を持ってくるのを忘れてな。いったん街に戻る」

「そう……なら、はい。これ」

アスナから何か手渡される。

「なんだ、これ」

「昼ご飯、ちょっと作り過ぎたからわけてあげるわ」

……まさか、毒とか入ってないよな?

「いっときますけど、毒なんて入れてませんからね」

「な、なんで考えたことが分かるんだよ……」

「ほんとに思ってたの?」

「……いや、そういうわけではないが」

「ま、いらないなら別にいいけど」

アスナはサンドイッチを自分の口に入れる。

「も、もらうって!」

あわてて俺も手に取って食べてみる。

「う、うまい!ていうか、この味は……」

「ふふん」

アスナが得意げに胸を張る。

「現実世界の、味じゃないか!」

この世界にも、美味い料理はある。

しかしそれは、どこかシステムっぽいというか、現実世界の物とは少しかけ離れているの

だ。

だが、今食べたアスナの料理はまさしく俺がかつて食べていた料理の味に似ていた。

「先月料理スキルを極めてね、いろいろ調味料も作ってみたの」

「これ、商売にできるレベルだろ」

「うーん、でも、そういう目的で作ったわけじゃないから」

「そっか……ともかく、ごちそうさま。うまかったよ」

「どういたしまして……ところで、キリト君?」

「なんだ?」

「これでもう、町に戻らなくてもいいよね?」

「え?ああ。今からまたもぐるよ」

「わたしとパーティ組まない?」

「アスナ……俺は」

「言っとくが俺はソロだからな、キリっ」

「な、なんだよそれ!」

「いつか言ってたよね、かっこつけて」

「別にカッコつけたわけじゃないけど……俺は、人の命まで責任持てないよ」

「足は引っ張らないわ」

「でもなぁ……」

俺が言った瞬間、アスナがレイピアを俺の首元に突きつけようとする。

「超変身!」

が、その前に俺はレイピアに手刀を繰り出し、レイピアを吹き飛ばした。

「悪いな、俺に奇襲は効かないんだ」

「はぁ……じゃあ諦めて、私も一人で潜るわ」

「いや、俺も変身させられるほど追いつめられたからな。今日だけ、パーティ組むか」

「ほんと?やった!今週のラッキーカラー黒なのよね」

そんな理由かよ……。

アスナとの探索はソロよりも遥かに効率が良かった。

「一人の時の、大体1,5倍か……流石だな」

「まぁ、前衛で戦ってたのはほとんどあなただけどね」

「いや、スイッチしてもらって助かったよ」

「ねぇキリト君、よかったら明日も一緒に冒険しない?」

「そうだな……」

アスナなら、戦闘力は申し分ない。

それに、このペースなら明日にはレベルが上がるかもしれない。

「そうだな、よろしく」

「じゃあ、明日9時に転移門前ね」


「ふぅ……そろそろ待ち合わせ場所に行くか」

アスナとの待ち合わせのため、転移門前へと向かう。

5分前についておけば文句も言われまい。

と、俺が転移門前に立ったその時だ。

「ちょ、ちょっとどいて~!」

門が突如光り、誰かが現れた。

「ぐはっ!」

近くにいた俺は、思い切りそいつにのしかかられてしまう。

「お、重い……」

「あっ、ごめんなさい!って、キリト君!?」

「お、重い……」

「ごめんね、ちょっと急いでて……」

「お、重い……」

「……そんなに重くないわよ!失礼ね!」

アスナが文句を言いながら俺から飛び退く。

なぜ被害者の俺が罵られているのだろう。

「はぁ、重かった……」

服についたほこりを落としながら立ち上がる。

「だから、私はそんなに重くないってば」

「じゃぁ装備が20キロくらいあんのかなぁ……」

「キ~リ~ト~君?」

「すみません、ふざけ過ぎました」

「アスナ様~!」

と、再び転移門が光り、一人の男が現れた。

アスナと同じ赤い服、血盟騎士団のあかしだ。

「アスナ様!本部にお戻りください」

「いやよ!今日は、ダンジョンにもぐるんだから」

「なら、わたしといっしょに参りましょう。アスナ様のお目付け役であるこのクラウディ

ールと!」

「悪いな、あんたらの副団長様は、今日は俺の貸し切りなんだ」

「なに……?なんだお前は」

「キリト。いや……仮面ライダー、クウガだ」

「貴様が、例のユニークスキル持ち……卑怯者か」

「おいおい、お前らの団長だってユニーク持ちだろ」

「黙れ!部外者が口をはさむな!」

「アスナが俺と行くって言ってるんだから部外者ってことは無いだろ」

「貴様……それだけ大きな口を叩くんだ、覚悟はできてるんだろうな?」

そういうとクラディールは、俺にデュエルを申し込んだ。

俺は条件を読み、拒否ボタンを押す。

「なっ!貴様、逃げるか!臆病者め!」

「はは、いやいや。モードが間違ってたからさ」

「なに?」

「あんた、初撃決着モードを選んでたぜ?」

「そ、それがどうした!」

俺は黙ってデュエルを彼に申し込んだ。

モードは、全損決着モードだ。

「なっっ!!」

「わるい、冗談だよ。そんな度胸ないよな」

「……舐めるなっ!」

「キ、キリト君っ!?」

「大丈夫、殺すつもりはないよ。ただ、ちょっとお灸をすえるだけさ」

と、デュエル表示を見た野次馬達が集まってくる。

「お、おいっ!全損モードのデュエルをやるみたいだぜ!?」

「ま、マジかよ!」

一気に周囲が色めき立つ。

「こんな大勢の中で負けたら、少しは自粛するんじゃないか?」

「だ、だからって……」

そうこうするうちに、デュエル開始までのカウントが10秒を切った。

「……超変身」

カウントがゼロになった瞬間、クラディールが斬りかかってきた。

迷いない、殺意に満ちた剣。

「でやっ!」

拳を剣の横から打ち付け、敵の剣を破壊する。

「すげぇ!武器破壊だ!俺初めて見たぜ!」

「なめるなぁっ!」

懐に装備していた二本目の剣を装備し直し、再び向かってくる。

「超変身!」

タイタンフォーム、剣士の姿となり、二本目の剣も破壊する。

「さぁ、あと武器はいくつある?」

その後俺は、彼の武器を7つ破壊した。

「そろそろ、俺も攻撃していいかな?」

「ぐ、ぐぅっ」

「超変身!」

マイティフォームになり、敵の鎧に掌打を撃ちこむ。

一撃で相手の体力が6割減少する。

「そろそろ、リザインしないか?」

「き、貴様ぁ」

クラディールは悔しそうにリザインボタンを押す。

俺は迷わず承諾ボタンを押す。

「これに懲りたら、もうアスナに付きまとうなよ」

クラディールは悔しさに顔を歪ませ、駆けていった。

「キリト君……」

「ん?」

「やりすぎ」
「でも、ありがとう。最近のギルドのやり方には思うところがあったし……」

俺は黙ってうなずく。

「そもそも護衛なんていらないって何度も言ってるのに……はぁ、嫌になっちゃうわ」

その日も俺はアスナと二人、破竹の勢いでダンジョンを攻略していった。

「……キリト君」

時間も遅くなり、町に戻ろうとしたその時、アスナが言った。

「なんだ?」

「わたし、ギルドやめる」

アスナ、ギルドやめるってよ。

「茶化さないで」

「すいません……理由は?」

「方向性の違い……かな」

「どこのバンドだよ……」

「まじめに聞いてったら。最近のギルドのやり方には、もう着いていけないわ」

「ついていけないって……アスナは引っ張っていく側じゃないのか?」

「それは、そうかもしれないけど……」

「それともあれか?ギルドは、団長のワンマン経営ってやつか?」

「別にうちのギルドは企業じゃないけど……でももう、正直やっていく自信がないわ」

「……なら、好きにすればいいさ。ギルドからの脱退は自由だろ?」

「……そうね!明日、団長のところに行ってみるわ。一緒に来てくれる?」

「……ん?」

「なによ、その顔」

「いや、その件に関して俺は関係ないと思うんだけど」

「関係あるわ。わたし、ギルドをやめた後はあなたとパーティーを組むつもりだから」

「え?」

「いつだったか、ソロなんてやめろって言ったのはあなただったと思うけど」

……それって、一層ぐらいの時じゃなかったっけ?よく覚えてるな。

「言っとくが俺はソロだからな。誰とも組むつもりはないぜ」

「いいじゃない。二人の方が効率がいいわ。それに、必要な装備もわたしとあなたではそ

うそうかぶらないと思うし」

「だからそう言う問題では……」

「……それとも、わたしじゃ不満?」

「滅相もございません」

その後、町に戻るまで話し合い、アスナがギルドを抜けた暁には、しばらくの間協力関係

となることが決まった。

まぁ、俺にとっても悪い話ではない。

翌朝、約束通り、俺は血盟騎士団本部の前に立っていた。

「あ!キリト君!ほんとに来たんだ」

「なんだよその言い方……」

「てっきりすっぽかされるかと思ってたわ」

「俺は生まれてこのかた約束を破ったことも嘘をついたこともない」

「その台詞はうそつきしかつかないわ」

「ともかくまぁ……行こうか」

「そうね……来てくれて、ありがとう」

俺はその言葉にはなにも返さず、黙ってギルド本部に入った。

「失礼します」

アスナがそう言って、団長室の扉をあける。

「おはよう、アスナくん。横に居るのは、噂の仮面ライダー君かな。うちのギルドに入っ

てくれるというのなら歓迎するよ」

血盟騎士団団長ヒースクリフ、この世界のもうひとりの仮面ライダーはそう言った。


「残念ですが、その逆です」

「ほう」

「団長、すみませんがわたしは、本日づけでこのギルドを脱退します。

普通の女の子に戻ります」

「また随分と懐かしいセリフを……しかし、わたしとしてもはいそうですかというわけに

はいかない」

「えい」

アスナは子供の様にそう言うと、自分用の画面を操作し、ギルドの脱退ボタンを押した。

「ちょっ……」

「そう言うわけで、失礼します」

「いやいやいや、ちょっと待ちたまえ。それは流石に一方的だろう」

「そう言われてもな……」

「ならばこうしよう。アスナくんをかけて、わたしと君とで勝負しようじゃないか。

その勝者がアスナくんを得るというのはどうだ?古来より、女性を巡って男が対立したら

決闘をするものだと相場が決まっている」

「いや別に俺達そういう関係じゃないんだけど」

笑顔のままのアスナに、思い切り足を踏みつけられた。

「……それに、俺達にメリットがない。不義理だろうがなんだろうがギルドからの脱退は

プレイヤーの自由だろ」

いくら最大ギルドの団長とはいえ、そのような横暴は通らない。

「そうだな……もしわたしが負ければ、我がギルドの総資産の30%を君たちに差し上げ

よう。しかし君が負けた時には、アスナくんに残ってもらうのはもちろん、君にもうちの

ギルドに入ってもらうというのは」

「へぇ……おもしろいな」

以前から、一度こいつとは戦いたいと思っていた。

同じ世界に生きる、仮面ライダーとして。

「では、勝負は明日ということで」


「ちょっとキリト君!あんな約束しちゃって大丈夫なの?」

団長室から出た俺は早速アスナに問い詰められた。

「ずっとあいつとは戦ってみたいと思ってたんだ」

「ふぅん……まぁ、君がいいならいいけど」

「ギルドの資産の三割……豪遊できるじゃないですか。分け前は半分ずつでいいよな?」

「下心丸出しじゃない……」

「まぁそれは冗談。エギルあたりに、中層プレイヤーの育成あたりにつかってもらうさ」



そして翌日。俺とアスナは、数万人を収容可能なコロシアムの中にいた。

「見世物になるつもりはなかったんだがな……」

「ご、ごめんね。団長が勝手にきめちゃったみたいで」

「ふふ、そう悪く思わないでくれ。キリト君」

そう言ったヒースクリフを睨みつけて俺は言う。

「言っとくけど収益は俺とギルドで半々だからな」

「残念だがそうはならない。君は負けてギルドの一員となるのだからな。


ギルドの催し、ということにさせてもらうよ」

キリト「いやその理屈はおかしい」

ヒースクリフ「君が勝てば手に入る額も増えるのだからいいじゃないか」

キリト「まあいい。早く始めようぜ」

俺とヒースクリフを見た観客達が歓声を上げる。

ヒースクリフがデュエル申請を行う。

HPが半分となった時点で勝負がつくモードだ。

迷わずそれを承諾する。

キリト、ヒースクリフ「「変身!!!」」

俺はクウガ、マイティフォームに。

そしてヒースクリフは、どこかバッタを思わせるライダーに変身した。

キリト「仮面ライダー、一号……」

そう、この世界の初めてのライダーは俺ではない。

目の前にいる男、仮面ライダー一号こそが、始まりのライダーなのだ。

彼はその力で、単独でのボス撃破など、数多くの偉業を成し遂げた。

まるでテレビの中のヒーローの様に。

ずっと戦ってみたいと思っていた。

倒したいと、思っていた!

クウガ「行くぞ!」

一号「平成の一号と昭和の一号、格の違いを教えてやる!」

俺と敵の拳が激突する。

力は恐らく互角。

と、そこで一号が後ろに下がり、高く跳び上がった。

一号「ライダー、ジャンプ!」

チャンスだ。空中ではろくに防御もできない。

クウガ「超変身!」

俺はペガサスフォームとなり、勢いよく矢を放つ。

しかし、

一号「ライダー、キーック!」

恐るべき攻撃速度の速さ。

俺はとっさに横に転がって、その攻撃を避ける。

一号の攻撃によって地面がえぐれ、砂ぼこりが舞う。

ペガサスフォームは感覚器官が強化される。

先に相手の場所を把握できればっ……。

そう思った俺は、背後に迫る気配を感じ取った。

しかし、回避は間に合わない。

ヒースクリフ「ライダー、パンチ!」

クウガ「ぐぅっ!?」

ろくに防御もとれなかった俺は、勢いよく前方に吹き飛ばされる。

ヒースクリフ「一気に決める!」

どこからともなく現れたバイクにまたがり、こちらへと向かってくる。

一号はバイクのまま飛び上がる。

俺の頭上をバイクが通り過ぎていく。

そこに一号の姿は……ない!?

あわてて俺は敵を探す。

なんと一号は、空中でバイクを乗り捨てていたのだ。

しかも、

ヒースクリフ「ライダー、サイクロン、キーーックッ!!!」

バイクの力も得て、先程以上の威力を持つライダーキックを繰り出してきた。

奴の姿を見失っていた俺には、その攻撃はかわせない!

クウガ「がぁぁあああっっっ!」

俺は勢いよく吹き飛ばされ、変身も解除されてしまう。

一号「勝負あり……だな」

彼がそう言うと同時、盛大なファンファーレが鳴り響いた。

この瞬間、俺の血盟騎士団入団が確定した。

キリト「……似合わないな」

アスナ「確かに、キリト君のイメージには合わないね」

俺は、血盟騎士団指定の、白と赤を基調した服を身につけた。

あの勝負の翌日のことだ。

アスナ「ごめんね、私のせいでこんなことになっちゃって」

キリト「いや、勝負に負けたのは俺だ。アスナに責任はないさ」

???「おお、君が新しくうちに入ったキリト君か」

キリト「あなたは?」

「君の指導役になったゴドフリーだ。よろしく」

キリト「し、指導役?」

ゴドフリー「君の強さは承知しているが、うちのギルドとしては新入りということだから

な。しばらくの間は俺達と一緒にパーティを組んで色々とウチについて知ってもらう」

キリト「俺、達?」

ゴドフリー「おい、お前も早くはいってこい」

そう言われて黙ってはいってきたのは、忘れるはずもない、俺に決闘で敗れたクラディ

ールだった。

キリト「お、お前は」

ゴドフリー「これから同じギルドでやっていくんだから確執はなくしといた方がいいだ

ろ?

ほら、ちゃんと謝れ」

クラディール「……申し訳、ありませんでした」

そう言ってクラディールは、俺に頭を下げた。

その謝罪が不本意なものであることは、ここにいる誰の目にも明らかだった。

ゴドフリー「俺からも謝罪する。失礼なことをしてすまなかった」

キリト「いや、別に気にしてませんよ」

ゴドフリー「そうか、それは良かった。と、いうわけで副団長。彼はしばらく俺が預かり

ます」

アスナ「え?」

ゴドフリー「まぁ、団長の指示なんで」

アスナ「……わかりました」

ゴドフリー「まぁ、俺達でパーティを組むのも初めてだから、今日はこの50層を探索し

よう」

現在の最前線組の到達階層は70を超えている。

一人でも危なげなく探索できるレベル。

何の心配もないだろう。



こうしてアスナを覗いた俺達三人は、50層をめぐった。

ゴドフリー「よし、そろそろ飯にするか。クラディール、出してくれ」

クラディール「わかりました」

そう言って彼は、食料と飲み物をとりだした。

モンスターが出にくい場所を見つけ、俺達は食事をとった。

ゴドフリー「いただきます」

キリト「い、いただきます」

食べ物を口に入れ、水を飲もうとしたその時。

ふと横を見ると、クラディールが嫌らしい笑みを浮かべたことにきずいた。

キリト「し、しまっ……!」

ゴドフリー「ん?どうした?キリ……うっ!」

ゴドフリーは突如その場に倒れた。

スタン状態。俺達二人は、一切動くことができなくなってしまった。

クラディール「く、くはははははっっっ!こうもうまく行くとはなぁっ!」

クラディールが汚い声で笑う。

ゴドフリー「く、クラディール、お前……何を」

クラディール「なにを?だぁ?そんなの決まってんだろ!テメェらをぶっ殺してやるんだ

よ!」

そう言ってクラディールがゴドフリーに向けて剣を振り下ろす。

ゴドフリー「が、がぁぁっ!」

クラディール「おらぁっ!くたばれっ!」

二度、三度とその行為を繰り返し、ゴドフリーの体力がすさまじ勢いで減っていく。

ゴドフリー「か、考え直してくれ!クラディっ……」

そう言い終える前に、彼は青白い粒子となって消滅した。

彼は、死んだのだ。

いや、人ごとではない。

このままでは、俺も……。

クラディール「ククク、この前はよくもやってくれたなぁ!仮面ライダー!」

クラディールがこちらに向かってくる。

ま、まずい!

キリト「お前、こんなことして、この後どうなるとっ!」

クラディール「俺達のパーティはぁ!」

剣が振り下ろされる。

クラディール「モンスターの大群に遭遇しぃ!」

二度目の斬撃。

クラディール「善戦空しくぅ!」

俺の体力ゲージが消し飛ぶ。

クラディール「二人の死亡者を出してしまいましたぁ!」

ついに体力が半分を切る。

スタン回復までには、まだ時間がかかる。

クラディール「ははははは!無様だなぁ!仮面ライダー!」

キリト「こんな、ところで……」

言葉を交す間にも、絶え間なく俺の体力は減っていく。

残り体力、3%。

次の一撃で、やられる!

???「やあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

何者かが物凄い勢いで俺達の間に割って入った。

そう、あたかも閃光の様な速さで。

アスナ「大丈夫!?キリト君っ!」

キリト「あ、アスナ!?どうしてここに!?」

アスナ「こいつの態度は明らかに怪しかったから、心配であなたの状態を確認してたの」

キリト「ど、どうやって?」

アスナ「一応私達、まだパーティメンバーだからね」

なるほど……。

パーティメンバーの状態は、どこに居ても確認することができる。

それでアスナは、俺がスタン状態に陥ったことを知り、何かあったと察してくれたのだ。

アスナ「まあ今はそれより、こいつの始末よね」

再びアスナは、その武器をクラディールに向ける。

クラディール「あ、アスナ様!こ、これは違うんですよ!う、うっかりというか……」

アスナはその言葉を聞き終える前に彼の腕を切りつけた。

アスナ「そう、わかったわ」

アスナはにっこりと笑って続けた。

アスナ「ならわたしも、うっかりあなたを殺すわね?」

目にもとまらぬ付き技。

これが、アスナ。

これが、閃光。

先程のゴドフリーや俺のように、いや、それを上回る勢いでクラディールの体力が減って

いく。

クラディール「た、助けっ……」

その言葉を聞き、一瞬アスナの攻撃が止まる。

その隙を見逃さず、クラディールは反撃に打って出る。

クラディール「バカがぁ!」

アスナの体にその攻撃がヒットする。

もう、許せない。この男は。

キリト「超変身!」

そう叫ぶと俺は、全身真っ黒の、見たことのないクウガへと変身を遂げていた。

クウガ「でやぁぁああああああっっっ!」

体に湧き上がるエネルギーに任せ、右の拳をクラディールにぶつける。

瞬間、大爆発が起き、クラディールは跡形もなく消え去った。

クウガ「はぁ、はぁ、はぁ……」

アスナ「黒の、金のクウガ……」

変身を解いた後も俺は、その破壊衝動を抑えるのに苦労した。

なんなんだ、この禍々しい力は。

ヒースクリフ「そんなことが……本当にすまなかった」

キリト「しばらく、ギルドからは離れさせてもらうぞ。俺も、アスナも」

ヒースクリフ「ああ、もちろんだ。しかし……」

キリト「なんだ?」

ヒースクリフ「厚かましい願いだということは重々しているんだが、明日、この層のボス

攻略が行われる、前回のことも鑑みると、今まで以上に難航すると思われる。

君達の力を、貸してもらえないだろうか」

キリト「そういうことなら、俺は構わない」

アスナ「私もです。一刻も早くこのゲームをクリアしたいという思いは変わりません」

ヒースクリフ「ありがとう。助かるよ」

キリト「しかし、随分早くボス部屋までたどり着いたな」

ヒースクリフ「あの三人、仮面ライダーの三人が破竹の勢いでダンジョンを攻略してね」

キリト「なるほど……」

ディケイド達か。

アスナ「じゃあ、今日は早く戻って休みましょうか」

キリト「そういうわけで、失礼」

ヒースクリフ「ああ、君たちの働きに期待しているよ」

比企谷「よう」

俺はキリトに声をかける。

キリト「ダンジョン攻略、お疲れさま」

比企谷「そっちも大変だったみたいだな」

キリト「まあ、なかなかな」

雪ノ下「ボスの部屋の中を覗いてみたけれど、随分手強そうだったわ」

由比ヶ浜「なんかぐわぁーって感じだったよね」

なるほど、わからん。

こいつの説明は大雑把どころじゃないんだよなぁ。

アスナ「名前は、なんだったの?」

雪ノ下「ドラゴニック、オーバーロード」

キリト「龍型のモンスターか」

比企谷「炎タイプの龍、この前の永遠のリュウセイカイザーを更に狂暴にした感じだ」

キリト「それは……勘弁願いたいな」

比企谷「まぁ、なるようにしかならんだろ」

アスナ「命がかかっているのに随分大雑把ね」

比企谷「そうは言うが、必要以上に気にしすぎても仕方ないしな」

雪ノ下「確かに、ベストを尽くすだけね」


ボス部屋の前に、討伐参加者全員がそろった所でヒースクリフが言った。

ヒースクリフ「それではこれより、フロアボス、ドラゴニックオーバーロード討伐作戦を

開始する!」

今回の作戦参加者は、俺達を含めて40人と少し。

キリト、比企谷、由比ヶ浜、雪ノ下、ヒースクリフ「「「「「変身!!!」」」」」

『Kamen Ride Decade!』

今回の作戦は、ライダー5人が中心となって敵の攻撃を引きつけ、アスナ率いる他のプレ

イヤーたちが波状攻撃を仕掛けるというものだ。

「ぐぉおおおおおおおっっっ!!!」

ついに姿を現した龍が咆哮を上げる。

HPバーがある。

これが一本削れていくごとに攻撃パターンが変わるとみて間違いないだろう。

ディケイド「いくぞ!」

「Attack Ride Blast!」

龍騎「あたしもっ!」

「Strike Vent」

炎とエネルギー弾がオーバーロードを襲う。

しかし相手は炎を司る龍。

あまり効いている様子はない。

ナイト「一気に行くわ!」

「Sword Vent Advent」

ウイングランサーを手に持った雪ノ下の背中にダークウイングが張り付き、その体を空中

に浮かせる。

みるみる硬度を上げ、ついにオーバーロードより上の地点まで到達する。

ナイト「やぁぁああっ!」

そしてそのまま、剣をオーバーロードに振り下ろしながら急降下する。

これは強烈な一撃だ。

敵の体力バーの一本の半分が一瞬のうちに削られる。

オーバーロードは苦痛の声を上げる。

クウガ「でやっ!」

ペガサスフォームのキリトが、ぎりぎりまで引き絞った矢を放つ。

その攻撃は龍の胸の中心を貫いた。

これにより、一本目のバーは消滅した。

怒りの声を上げたオーバーロードが、灼熱の炎を吐き出す。

冒険者たちを襲うその炎の前に、ヒースクリフが立ちふさがる。

一号「ライダー、パンチ!」

勢いよくその右腕を突き出すと、生じた風により、またたく間にその炎が消えた。

ヒースクリフを危険分子と判断したオーバーロードが、その巨大な右腕を彼に向けて振り

下ろす。

一号「ライダー、ジャンプ!」

ヒースクリフは、高く跳び上がることによって見事にそれをかわしてみせる。

一号「ライダー、キーック!」

そのまま、振り下ろされた右腕に向けてライダーキックを放ってみせた。

爆発を上げ、またもボスの体力が大きく削られる。

機を逃さず、プレイヤーたちがそう攻撃を仕掛ける。

アスナ「ライメイザンッ!」

その筆頭はやはりアスナだ。

目にもとまらぬ剣技で的確にダメージを与えていく。

キバオウ「なんでや!なんでや!なんでや!」

クライン「タイボクザンッ!」

エギル「ベルセルクソードッ!」

他のプレイヤーたちも負けてはいない。

そして、オーバーロードの体力バーが残り三本となった時だ。

龍の体を業火が包みこんだ。

冒険者たちはあわてて後退する。

炎がはじけた時、オーバーロードの姿が変わっていた。

先程よりさらにたくましくなり、両手には巨大なリボルバーを持っている。

名前も変わっている。

『Dragonic Overroad The End』

クウガ「ドラゴニックオーバーロード」

ディケイド「ジ・エンド……」

龍騎「まけるもんかぁーっ!」

「Final Vent」

龍騎「ドラゴンライダー、キーック!」

「ぐぉおおおおっっ!」

その手にもつリボルバーを連射し、由比ヶ浜を撃ち落とす。

龍騎「きゃぁぁっっ!」

攻撃をキャンセルされた由比ヶ浜は地面にたたきつけられる。

クウガ「強い……」

キリトは少し距離をとり、矢を連射する。

ディケイド「加勢する!」

『Form Ride Deno! Gun Form』

ディケイド「くらえっっ!」

巨大なエネルギー弾がジ・エンドの頭部を直撃する。

怒り狂ったジ・エンドは、そのリボルバーの照準を俺達に定め、激しい攻撃を展開する。

俺とキリトはとっさに左右に跳んだが、銃攻撃は執拗に追ってくる。

ディケイド「弾切れとかないのかよ……」

しかしその間に、雪ノ下達が接近し、攻撃を仕掛けていた。

ジ・エンドは苛立った声をあげ、高く跳び上がった。

そして、ある程度の高度まで達すると、そのままダイブし始めた。

まずい!このままじゃ……。

龍騎「やらせないよ!」

「Advent」

ドラグレッダーが現れ、空中でジ・エンドを迎え撃つ。

二匹の炎龍が激しくぶつかり合う。

ナイト「ダークウイング!ドラグレッダーを助けて!」

「Advent」

ダークウイングが後ろからジエンドの背中をつかみ、そのまま地面に向けて引きずりおろ

す。

この時にはすでに、プレイヤー達は落下地点から離れていた。

「ぐぅ……グォ……」

ディケイド「一気に決めるぞ!」

クウガ「ああ!超変身!」

『Final Attack Ride De De De Decade!』

ディケイド「ディメンションキックっ!」

クウガ「マイティキックっ!」

俺と、ライジングマイティの姿になったキリトが、必殺技を放つ。

「「でやぁぁーーっ!」」

この攻撃により、ついにジエンドの体力バーが残り一本となった。

そんなジエンドの体を、再び業火が包み込む。先程より黒っぽく、邪悪な感じのする炎だ。

そして、ジエンドの前に文字が浮かび上がる。

『Dragonic Overroad The Reverse』

両手に持つリボルバーも、先程とは変わっている。

咆哮を上げ、リボルバーから極太のレーザー攻撃を放つ。

ヒースクリフ「立場が変わることがリバースなら、生まれ変わるのもまたリバ

ース、というわけか……」

よくわからないことを呟いて、ヒースクリフは敵に向かっていく。

ヒースクリフ「ライダー、キーック!」

オーバーロードは再び叫び声をあげて、その口から業火を吐き出す。

ヒースクリフは体勢を崩し、攻撃は不発に終わる。

アスナ「アクアジェットッ!」

水属の加護を得たアスナが、ものすごい勢いでオーバーロードに向かっていく。

そのまま高く跳び上がり、その攻撃はオーバーロードの翼を貫いた。

怒りの声をあげて、その巨体で、アスナ一人に向かっていく。

ナイト「やらせないわ!」

『Final Vent』

ダークウイングに包まれた雪ノ下が、オーバーロードのもう片方の翼に必殺技、

飛翔斬をはなつ。

両翼に甚大なダメージを負ったことで、オーバーロードはその場に倒れ込んだ。

そこにプレイヤー達が一斉に襲いかかる。

ディケイド「なんか、落ち武者狩りみたいだな……」

クウガ「見たことあるのか……?俺達もいこう」

ディケイド「わかってる」

『Final Attack Ride De De De Deno!』

ディケイドの姿から再び電王の姿となり、ガンフォームでの必殺技、ワイルド

ショットを全力で撃つ。

クウガ「うぉりゃぁ!」

それをクウガが、空中で蹴りつける。

それによってさらに威力を増したエネルギー弾は、オーバーロードのもとに一

直線に向かっていった。

ディケイド「……すごい技だな」

クウガ「まぁ、ある程度はな」

その攻撃を受けて、オーバーロードの体力は、あと一撃で倒れるというところ

まで減少した。

『Advent』

そんなオーバーロードに対し、由比ヶ浜が呼びだしたドラグレッダーが

とどめを刺した。

クウガ「やったか……」

ディケイド「それにしても、あのヒースクリフとかいうの、えらく強かったな。

お前を倒しただけのことはある」

クウガ「……知ってたのか」

気まずそうにキリトは言う。

ディケイド「まあ、いろんなとこで喧伝されてたしな」

俺達をはじめ、フロアの至る所で穏やかな空気が流れる。

クウガ「……いや」

ディケイド「どうした?」

クウガ「やっぱり、おかしい」

言うとキリトは、突如駆けだした。

その先にとらえているのは、ヒースクリフだ。

クウガ「でやぁ!」

言うと同時、思い切りヒースクリフを殴りつける。(ちなみに今は変身を解いて

いて、一号の姿ではない)

穏やかな空気が一転、全員が息をのんだ。

当然だ、突然プレイヤーからプレイヤーに対しての攻撃が行われたのだから。

キバオウ「おいビーター!お前なにさらしとんのや!」

次々と非難の声が上がり、キリトに剣を向ける者が続出する。

クライン「ま、まて!」

キバオウ「なんや!!」

クライン「なんで、ヒースクリフの野郎の体力、全然減ってねぇンだ?」

アスナ「イモータル、オブジェクト?」

ヒースクリフの前に表示された文字列。

それは、

『Immortal Object』

雪ノ下「不死、存在?」

クウガ「……やっぱりな」

由比ヶ浜「どういうこと!?」

ディケイド「その男、ヒースクリフは、ただのプレイヤーじゃない。

このゲーム、ソードアートオンラインの開発者」

クウガ「茅場晶彦だ」

ヒースクリフ「……流石だよ、キリト君。しかし、なぜわかった?」

クウガ「俺に与えられた、クウガへの変身能力の取得条件は、全プレイヤーの

中で最も反応速度が速いこと。なのに、俺と戦った時のあんたは、俺よりも速

かった。だからだよ」

ヒースクリフ「自分よりも速かったから怪しい、か。随分な自信家だな」

クウガ「それにな、ずっと思ってたんだ。このゲームを作った奴は、一体どう

してるのかってな。だって、ここにいる全員が知ってるだろ?他人がやってる

RPGを見てるほどつまんないことはないってな。

だから絶対、製作者はこのゲームの中にいると思ったんだ。しかも、最前線メ

ンバーの中で。となれば、該当者はお前しかいなかったよ」

ヒースクリフ「ああ、そうだ。その通りだ。君の言う通り、私は茅場晶彦だ。

まさかこんな早期に見破られるとは思ってもいなかったが。

本来なら、95層辺りで正体を明かし、そのまま100層でラスボスとして

戦おうと思ってたんだがね」

クウガ「舐めたまねを……」

ヒースクリフ「しかし、君には何かボーナスを上げなければいけないな。

……そうだ、君が望むならこの場でわたしと戦う権利を上げようじゃないか。

そして、もしわたしを倒すことができれば全プレイヤーをこのゲームから

解放しようじゃないか」

アスナ「キリト君!ダメだよ!そんなの!」

クウガ「いや、やるよ。前にも話したけどさ、こうしている間にも、現実の俺

達の体は蝕まれてるんだろ?

ここからの攻略は以前よりはるかに難しくなる。

その上、これからはヒースクリフが敵となり、ディケイド達の助けもいつまで

借りられるか分からない。

となれば、攻略ペースはさらに落ちる。

そうしているうちに、俺達の体が限界を迎えないという保証もない。

だから、やるなら今だ。手伝ってくれるか、比企谷、いや、ディケイド」

ディケイド「まかせろ、黒の剣士キリト」

クウガ「いや……」

キリトが大きく手を振るった。

すると、

その体が、金色の闇に包まれた。

それは、聖なる闇とでもいうべきか。

ヒースクリフ「仮面ライダークウガ、ライジングアルティメット……」

クウガ「今の俺は、黒の拳士(けんし)クウガだ」

ヒースクリフ「ああ、そうそう。邪魔者にはおとなしくしていてもらおうか」

ヒースクリフが画面を操作すると、プレイヤー達が次々と倒れていく。

キバオウ「なんでや!」

どうやら、俺達ライダーとアスナ以外のプレイヤーが、強制的にスタン状態に

されたらしい。

ヒースクリフ「雑魚にうろちょろされても、お互い目障りだろう?

それに君も、無駄な犠牲者が出ることは望んでいまい」

雪ノ下「随分と癪に障ることを言ってくれるわね」

ヒースクリフ「さあ、そろそろ始めようか」

雪ノ下の言葉を無視してヒースクリフは続ける。

「「「変身!!!」」」

変身を解除していた雪ノ下、由比ヶ浜、ヒースクリフが再び変身する。

一号「このままでは、流石に多勢に無勢だな……」

そう言うとヒースクリフは大きく手をかざした。

すると、なにもなかったはずの空間から二人のライダーが現れた。


『2号アームズ! 力の二号、レッツゴー!』

『V3アームズ! 力、技!ダブルタイフーン!』

一号「君たちも手伝ってくれ」

2人のライダーは黙ってうなずくと、雪ノ下達の方に向かっていく。

アスナ「この二人は私達が何とかするわ!」

ナイト「だから比企谷君達はそいつを!」

龍騎「こっちはまかせて!」

ディケイド「だ、そうだ」

クウガ「いくぞ!」

『Attack Ride Blast』

クウガが一号に向かっていき、俺が後方からそれを支援する。

一号「ライダー・パンチッ!」

クウガ「だぁぁっ!」

二人の拳が激突する。

吹き飛ばされたのは、キリトの方だった。

キリトへの追撃を防ぐため、すぐさま俺が斬りかかる。

『Attack Ride Srash』

ディケイド「だぁぁっっっ!」

一号「初代ライダーの力をなめるなっ!」

振り下ろした俺の剣に向かってヒースクリフはキックを繰り出す。

俺の武器、ライドブッカーが蹴り飛ばされる。

ディケイド「なんだと!?」

一号「ライダー、パンチッ!」

そのまま俺の胸部に強烈なパンチを繰り出す。

俺もキリト同様に吹き飛ばされる。

クウガ「流石ラスボス……圧倒的だな」

クウガ「だがっ!負けるわけにはいかないっ!みんなの笑顔のためにっ!」

クウガ「いくぞ……凄まじき拳っ!」

クウガの右手に邪悪なエネルギーが宿っていく。

一号「懲りないな君も……ライダーパンチ!」

しかし、次に押されたのはヒースクリフの方だった。

激しく吹き飛んだわけではないが、意思とは反して後ずさった。

少しだが、ダメージも入ったようだ。

一号「ほう……やるな」

クウガ「はぁっ、はぁっ……」

しかし、キリトの方にも少なからぬ負担がかかっている。

いや、むしろキリトの方が負担が大きい。

一号「なにをぼうっとしている?」

肩で息をしていたキリトをヒースクリフが蹴り飛ばす。

クウガ「がぁっ……」

そのままキリトのもとに向かっていき、さらなる追撃を仕掛ける。

クウガ「うぐッ……」

ディケイド「これ以上はやらせるかっ!」

『Kamen Ride Ryuki Attack Ride 

Strike Vent』

キリトにも多少のダメージを与えてしまうかもしれないが、まずはヒースクリ

フを引き離すことが先決だと判断し、全力で炎を放つ。

一号「風を司る一号にそんな攻撃は効かんっ!」

ヒースクリフが思い切り右腕を突き出すと、突風が起き、たちまち炎が消えて

しまう。

ディケイド「だったらこれだっ!」

『Form Ride Gaim! イチゴアームズ!シュシュッと、スパー

ク!』

ロックシードを無双セイバーにセットし、無数のエネルギー弾を放つ。

一号「無駄なことを……」

一号は倒れていたキリトの体をつかみ、俺の攻撃からの盾にする。

ディケイド「しまったっ!」

クウガ「がぁぁぁぁああああっっ!」

もろに攻撃を受け、キリトが絶叫を上げる。

そのまま、変身がとかれてしまった。

一号「終わりだな、キリト君」

掴んでいたキリトの体を放り投げる。

キリト「ぐ、うぅ……まだ、だ」

そう言って、キリトは再び立ち上がる。

キリト「変身!」

どこにそんな力が残っていたのか、その上変身までして見せる。

しかし、その姿は、先程の黒とは真逆の白い姿だった。

昆虫のさなぎを連想させるその姿は、とても弱々しい。

一号「グローイングフォーム……そんな姿ではなにもできんよ!」

クウガ「それでも俺はみんなの笑顔を守りたい。

俺は戦う……みんなの笑顔のためにっ!」

一号「ならばっ、笑顔のために殉じてみせろっ!平成ライダーなど認めんっ!」

キリトにとどめを刺そうと突きだされたその拳を、両腕をクロスして必死にガ

ードする。

クウガ「ディケイド……」

ディケイド「こいつがみんなの笑顔を守るなら、俺はっ!

こいつの笑顔を守るっ!」

俺がそう言った瞬間、手元にカードが現れる。

言うまでもない、クウガとの、いや、キリトとの絆のカードだ。

一号「こざかしいっ!」

俺はキリトを抱えて後方に跳ぶ。

ディケイド「ちょっとくすぐったいぞ?」

クウガ「え?」

『Fianl Form Ride Ku Ku Ku Kuuga!』

俺がキリトの背に触れると、その姿が巨大なクワガタへと変わった。

ディケイド「クウガゴウラム……行くぞっ!キリトっ!」

変形したキリトの背に乗って、俺は空中に舞い上がる。

ディケイド「これで終わりだ!」

『Final Attack Ride Ku Ku Ku Kuuga!』

キリトがそのはさみで、ヒースクリフを宙に投げ飛ばす。

一号「なにっ!?」

無防備なヒースクリフに対し、俺は上から急降下キックを、キリトは下から突

進する。

ディケイド「マイティキックッッッ!」

クウガ(ゴウラム)「でぁぁぁあああああああああっっっっ!!!!」

その攻撃が、同時にヒースクリフにヒットする。

一号「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

巨大な爆発を上げ、ヒースクリフの体が消えていく。

その瞬間、

『現時点を持ちまして、ゲームはクリアされました。

一時間以内に、全プレイヤーの強制ログアウトを行います』

大きな電子音が鳴り響いた。

キリト「やった……のか」

アスナ「キリト君っ!」

変身を解除したキリトにアスナが思い切り抱きつく。

雪ノ下「やった、のね……」

由比ヶ浜「ふぅ~~、疲れた~」

キリト「やっと、終わった……ありがとう、みんな」

クライン「やったなキリト!」

エギル「お前ならやってくれると思ってたぜ!」

キバオウ「なんでや!」

他のプレイヤーも周囲に集まってくる。

俺はそこから少し離れてその様子を見ていた。

カメラを取り出し、その様子を写真に撮る。

比企谷「いい写真だ……」

雪ノ下「そろそろ時間ね」

俺達の体が消えかかる。

と、キリトがこちらに走ってきた。

キリト「比企谷、それに二人も、本当にありがとう。

このゲームをクリアできたのは、君達のおかげだ。

多分もう会うことはないと思うけど……絶対に忘れない!」

比企谷「ああ、俺もだ」

由比ヶ浜「俺達も、でしょ?」

アスナ「雪ノ下さん!私は、あなたよりも強くなってみせるわ」

雪ノ下「ええ、いつでも挑戦は受けるわ」

そう言って雪ノ下はほほ笑んだ。

次の瞬間、俺達はまた新たな世界へと旅立った。

次は、仮面ライダー響鬼×スイートプリキュア×『青鬼』の世界です。

青鬼は、フリーゲームなので、プレイしてから読んでもらえると、一層面白く

読んでもらえると思います。

<キュアビート(斬鬼)>
斬鬼(ビート)「姫様!もう少しです!」

私、仮面ライダー斬鬼ことキュアビート、こと黒川エレンは、私の国メイジャ

ーランドの姫様、アコ様とともに敵の首領、メフィストと戦っていた。

朱鬼(アコ)「わかってるわ!」

強敵メフィストを、何とか二人がかりで追いつめた。

やっと、やっとだ。そんな思いがあったせいかもしれない。

そう、私はあろうことか、戦いの最中に、一瞬であれ気を抜いてしまったのだ。

そんな隙を見逃すほどメフィストは甘くなく、彼のその巨大な腕にわたしは捕

らえられてしまった。

暴れるわたしを、メフィストは両腕でしっかりと握る。

斬鬼「ぐッッ……」

メフィスト「くくくく、アコよ、こいつに手出しされたくなければおとなしく、

グォっ!?」

朱鬼「そんな体勢じゃ、防御はできないわね」

アコ様は私がダメージを受けることも気にせず、次々と強力な遠距離攻撃を放

つ。

斬鬼「そんなっ!姫様っ!?」

朱鬼「ごめんなさい、私はこの手でそいつを倒さなきゃいけないの」

メフィスト「ぐぉぉぉっっ!!?」

斬鬼「きゃぁぁっっ!!」

朱鬼「これで、終わりよっ!」

強大な一撃が直撃した瞬間、巨大な爆発を上がった。

斬鬼「あっっ……ううぅっっ……」

私が気を失う前に見たのは、黙って去っていく姫様の姿だった。

これ以後、姫様、調辺アコは、仲間を裏切った罪で、鬼達から追われることと

なった。

*響鬼の世界では、仮面ライダー達は鬼と呼ばれている。

<キュアビート(斬鬼)>
斬鬼(ビート)「姫様!もう少しです!」

私、仮面ライダー斬鬼ことキュアビート、こと黒川エレンは、私の国メイジャ

ーランドの姫様、アコ様とともに敵の首領、メフィストと戦っていた。

朱鬼(アコ)「わかってるわ!」

強敵メフィストを、何とか二人がかりで追いつめた。

やっと、やっとだ。そんな思いがあったせいかもしれない。

そう、私はあろうことか、戦いの最中に、一瞬であれ気を抜いてしまったのだ。

そんな隙を見逃すほどメフィストは甘くなく、彼のその巨大な腕にわたしは捕

らえられてしまった。

暴れるわたしを、メフィストは両腕でしっかりと握る。

斬鬼「ぐッッ……」

メフィスト「くくくく、アコよ、こいつに手出しされたくなければおとなしく、

グォっ!?」

朱鬼「そんな体勢じゃ、防御はできないわね」

アコ様は私がダメージを受けることも気にせず、次々と強力な遠距離攻撃を放

つ。

斬鬼「そんなっ!姫様っ!?」

朱鬼「ごめんなさい、私はこの手でそいつを倒さなきゃいけないの」

メフィスト「ぐぉぉぉっっ!!?」

斬鬼「きゃぁぁっっ!!」

朱鬼「これで、終わりよっ!」

強大な一撃が直撃した瞬間、巨大な爆発を上がった。

斬鬼「あっっ……ううぅっっ……」

私が気を失う前に見たのは、黙って去っていく姫様の姿だった。

これ以後、姫様、調辺アコは、仲間を裏切った罪で、鬼達から追われることと

なった。

*響鬼の世界では、仮面ライダー達は鬼と呼ばれている。

<北条響>
響鬼(響)「アコ!どうして魔化網をつくるの!?」

威吹鬼(奏)「あなたは私達と同じプリキュア、鬼のはずでしょ!?」

斬鬼(エレン)「姫様!どうして!」

朱鬼(アコ)「私には、こうしなきゃいけない理由があるっ!」

私達の目の前に立ち塞がり、たった今逃げていったのは、本来ならば仲間であ

るはずの鬼、調辺アコだ。

どういうわけか、アコは鬼の身でありながら、その敵である魔化網を作りだし

ている。

斬鬼「どうして……」

威吹鬼「何か理由があるはずだけど……」

響鬼「なら、聞きに行こう!」

威吹鬼「え?」

響鬼「理由がわからないなら、聞こうよ!逃げるなら、どこまでも追い掛けて

さ!」

斬鬼「そうね、考えてても仕方ないわ」

響鬼「アコが向かった方角は……」

威吹鬼「街外れの館の方ね」


街外れにある大きな館。そこにはお化けが出るという噂があった。

<比企谷>
比企谷「なんだ……ここ」

俺達が現れたのは、巨大な洋館の前だった。

どことなく怪しげな雰囲気がある。

と、そこに少女がすごい勢いでかけてきた。

オレンジに近い茶色い髪をした少女だ。

アコ「どいて!」

少女は俺達を押しのけて洋館の中に入っていってしまった。

雪ノ下「なんだったのかしら……」

由比ヶ浜「あの子の家なのかな?」

比企谷「さっきのは……」

雪ノ下「知ってるの?」

比企谷「ああ、あの子は調辺アコ。つまりここは、スイートプリキュアの世界、

ということらしい」

雪ノ下「ということは、この洋館も何か関係があるのね……あまり入りたくは

ないけれど」

由比ヶ浜「なんかお化けとかでそうだよね……」

雪ノ下「お化け?そんなものいるはずがないでしょう。科学的に考えて」

響「おーーい!アコーー!」

奏「私達の話を聞いて!」

エレン「姫様!どこにいるのですか!」

と、そこに三人の少女がやってきた。

奏「あの、すいません、ここに小学生くらいの女の子が来ませんでしたか?」

比企谷「アコなら、この洋館の中に入っていったぞ」

響「なんでアコのことを知ってるの?」

比企谷「俺は比企谷八幡。仮面ライダーとして、世界を旅している」

と、俺の脚を雪ノ下が軽くはたいた。

響達の正体がわからないのに何を言っているか、ということだろうが、

この三人がこの世界のライダーであることは疑いようがない。

俺が大丈夫だ、と小声で言うと雪ノ下はそれで察したようだった。

奏「仮面ライダー……?」

比企谷「お前達の言葉で言うなら、鬼と言った方がいいか」

響「ああ、私達とは別グループの鬼ってことか」

由比ヶ浜「おに?」

比企谷「この世界ではライダーをそう呼ぶんだ」

奏「この世界、では?」

比企谷「話してわかってもらえるかどうかはわからんが、俺達のことを説明さ

せてもらう」

俺達は、自分たちについてと、そのたびについて軽く説明した。

エレン「ディケイドは最悪の魔化網だと思ってたけど……誤解みたいね」

まぁ、そこまであっさり信頼されると逆に少し不安になる気もするが。

響「じゃぁ、一緒にアコを探してくれる?」

比企谷「ああ、もちろんだ」

比企谷「そういえば、今日はハミィはいないのか?」

*ハミィ……スイートプリキュアの世界におけるパートナー妖精。

ネコ。エレン(正体はネコ)の親友である。

エレン「ええ、今日はネコ友達と遊んでるわ」

そして俺達7人は館の中に入った。

響「思ったより中は綺麗だね」

奏「なんだか寒いわ……」

エレン「ね、ねえ。もう帰らない?」

エレンが早速怖がり出した。

響「エレン、怖いの?」

雪ノ下「なにも怖がることはないわ、科学的に考えて」

由比ヶ浜「ゆきのんさっきも同じこと言ってたよね?」

一番こいつが怖がってるんじゃないのか?

―パリィン!-

と、その時何かが割れる音がした。

エレン「な、なに!?」

響「ちょっと様子を見てくるよ」

比企谷「俺も行く」

エレン「ひ、響、気をつけてね」

響「大丈夫だよ」

長い廊下を進んでいき、ドアを開ける。

テーブルやいすがある、どうやら食事をする場所らしい。

広い部屋を見渡すと、皿が割れていた。

響「ああ、さっきの音はこれか」

比企谷「珍しい皿だな」

俺は落ちた皿の破片をポケットに入れた。

響「みんなのところにもどろっか」

比企谷「ああ」

廊下を歩き、玄関に戻る。

響「あれ?」

先を歩いていた響がそんな声を上げる。

比企谷「どうした?」

響「みんながいない」

その言葉の通り、雪ノ下も由比ヶ浜も、奏達もいなくなっている。

響「外にでたのかな?」

言って響が入り口のドアを開けようとする。

しかし、ガタガタと音を立てるだけで開く気配はない。

比企谷「どういうことだ……?」

響「うーん?とりあえず、他の出口を探そっか」

比企谷「そうだな。他の奴らも見つけなきゃいけないし」

響「とりあえずいろいろ回ってみよう」

俺達は階段を上り、二階へと向かった。

比企谷「それにしても広い屋敷だな」

二回にもいくつか部屋がある。

階段はまだ上につながっている。

響「とりあえず中に入ってみよう」

階段から最も近くの部屋に俺達ははいった。

これと言って特徴のない部屋だ。

タンスと机くらいか。

響「あ、なんかあるよ」

響が何かを見つけ、机の方に向かっていったその時だ。

ガタン、タンスの中から音がした。

比企谷「なんだ?」

響「とにかく見てみようよ」

タンスをあけると、そこには、

由比ヶ浜「ガタガタガタガタ……」

比企谷「由比ヶ浜?」

由比ヶ浜「ガタガタガタガタガタガタ……」

響「他のみんなは?」

由比ヶ浜「ガタガタガタガタガタガタ……」

比企谷「どうしたんだ?」

由比ヶ浜「あ、あたし、もうちょっとここにいるよ」

比企谷「は?」

由比ヶ浜「か、怪物が、出たの……」

比企谷「別に珍しいことじゃないだろ。今までだってモンスターと戦って来た

じゃねぇか」

由比ヶ浜「そ、そういうのとは違くて!」

由比ヶ浜の表情は真剣だ。

しかし、なにを言いたいのか要領を得ない。

比企谷「変身は、しなかったのか?」

由比ヶ浜「で、できなかったの!ここではなんでかわかんないけど、変身でき

ないんだよ!」

響「アコが、結界を張ったのかも……」

比企谷「そんなことできるのか?」

響「うーん、よくわかんないけど、変身できないなんて、それくらいしか考え

られないかな」

比企谷「つまり、力ずく以外でここを脱出する方法を見つける必要があるわけ

だな」

響「うん。色々探してみよう」

比企谷「由比ヶ浜は、どうする?」

由比ヶ浜「ごめん、あたしはもう少しここにいるよ。後で合流する」

比企谷「わかった、なるべく早く脱出方法を見つける」

響「じゃあ、行こう!あっ、机の上に何かあったよね」

言われて俺は、机の上にある鍵を手に取る。

『図書室』というシールが貼ってある。

比企谷「図書室……一階にそれっぽい場所があったな」

響「皿の部屋に行く途中のところだね」

由比ヶ浜「二人とも!気をつけてね!」

由比ヶ浜の声を聞きながら、俺達は図書室に向かった。

図書室の扉をあける。

響「結構広いね」

比企谷「見たこと無い本がかなりあるな」

少し興味をそそられる。

響「あ、また鍵があるよ!」

響の言う通り、図書室の文机の上には、鈍い光を放つカギが置いてあった。

比企谷「これでまた探索できる場所が増えるな」

と、俺が鍵をとったその時だった。

「ルォォオオオオォォ……」
不気味な声が、突如響いた。

顔を上げると、図書室の奥の方から、体調は二メートルを優に越す、全身の肌

が青い巨人が現れた。

頭は異様に発達しており、ほぼ二頭身だ。

その中でも、両目はこぼれおちそうなほど大きい。

青色の二頭身、目が大きいといえば、ドラえもんを連想するかもしれないが、

その巨人からは明らかな殺意が滲み出ていた。

比企谷「これが由比ヶ浜が言ってた化け物か……」

変身のカードを手に取る。

比企谷「変身!」

しかし、何の変化も起きない。

由比ヶ浜の言ってた通りか……。

由比ヶ浜のことを疑っていたわけではないが、心のどこかでは、まさかそんな

こと……という気持ちがあったことはいなめない。

響「でぁあぁっっ!」

次の瞬間、信じられないことが起こった。

響は、変身が不可能であることを認めると、なんと生身で怪物の頭部に飛び蹴

りを食らわせたのだ。

青鬼「グル?」

しかし、全くダメージが入った様子はない。

響「比企谷君!」

比企谷「なんだ!?」

響「逃げよう!」

そう言うと彼女は即座に身を翻し、猛スピードで図書室の入り口の方へ向かっ

ていった。

一瞬遅れて俺もそれに続く。

俺達を追いかけて、怪物も向かってくる。

力の限り廊下を走る。

しばらく走ったところで、響は扉が空いていた部屋に駆け込んだ。

俺もそれに続く。

怪物との距離は少しできていたから、ここに入ったことは見られていないはず

だ。

問題は、あの怪物にどれほどの知性があるかだ。

人間に近い物を持っていたなら、一つ一つ部屋を検分するということもあるだ

ろう。

中に入った俺は愕然とした。

どうやらそこは、洗濯のための部屋だったようだ。

洗濯機と洗濯かご、それからわずかなスペースしかない。

こんな所に来られたら逃げ場はない。

変身が不可能な今、それはつまり俺達の死を意味する。

俺は今、かつてない恐怖を感じていた。

自分で言うのもなんだが、俺は今までも幾度となく死ぬかもしれないという状

況に出くわしてきた。

龍騎だったころのモンスターとの戦闘も、気を抜けば命を落とす可能性もあっ

たし、他のライダーとの戦闘はそれ以上に危険なものだった。

それでも、その時の俺には戦う為の力があった。

なにもできずにただ殺されるということはなかったのだ。

しかし今の俺は、変身できないただの人間だ。

そんな状況で怪物に襲われたら、何一つできず死んでしまう。

恐怖で体が震えた。

息をひそめ、時が過ぎるのを待つ。

響「やり過ごしたみたいだね」

比企谷「なんとかな……しかし、よく変身できない状況で向かっていけたな」

響「鍛えてますから。……まぁ、全然効いてなかったけど」

比企谷「ともかく、早いとこ脱出手段を見つけないとな。それか変身能力を取

り戻すか……それができなきゃ俺達は……」

言いかけてやめる。

それを口に出すのはどうしても憚られたのだ。

それに、響は俺より年下だ。

年下の女の子を無駄に怖がらせるのは、こんな状況であっても、いや、こん

な状況だからこそしたくなかった。

響「これ、もしかしたら使えるかも」

と、響は近くにあった洗剤を手に取った。

比企谷「使える、か……?」

まぁ、邪魔にはなるまい。

いざという時には投げたら武器に、は、ならないだろうが。

響「そういえば、さっきとった鍵はどこの部屋のだったの?」

比企谷「寝室……か」

響「じゃあ、三階だね」

比企谷「なんでだ?」

響「だって、眠るなら一番高い階でしょ?」

うん、その理由がわからないんですけどね……。

まぁ、どこから探しても一緒だろう。

俺は黙って響に従うことにした。

階段を上り、三階にたどり着く。

三階には、入れそうな部屋は二つしかなかった。

響の意見は当たっており、手前の部屋にちょうどその鍵がはまった。

ベッドが二つと、少しの家具があるだけだ。

響「あれ?なんかあそこ変じゃない?」

響がベッドの一つを指さす。

比企谷「……あ」

奥のベッドの下の床の一部だけが、周囲と色が微妙に違う。

比企谷「このベッド……動かせそうだな」

響「私も手伝うよ」

二人で協力して、ベッドを奥に押し込む。

と、先程までベッドがあった場所には穴が開いていた。

比企谷「どうやってこのベッドは立ってたんだ……?」

響「ともかく、降りてみよう」

その穴は結構な大きさで、一人ずつなら二階に降りれそうだ。

俺が先に降り、響がそれに続く。

降りたその部屋にあったのは、

響「うわぁ、大きなピアノ」

その部屋の中央には、巨大なピアノがあった。

響「ちょっと見てみようよ!」

響に言われてみてみると、俺はすぐに違和感を覚えた。

比企谷「この鍵盤……」

響「汚れてる……血、かな」

そう、そのピアノの鍵盤は、赤黒くなっていたのだ。

ここで、怪物に殺された奴がいるってのか……。

響「ん?鍵盤に、何か書いてない?」

比企谷「言われてみれば……」

鍵盤には、何か図形の様なものが書いてあるが、その大半が今のままではわか

らなかった。

響「あっ!洗剤!」

先程手に入れた洗剤を取り出し、鍵盤の上につけ始めた。

そして、ポケットに入っていたハンカチで汚れをふき取る。

と、その時

『ルゥゥゥウウウゥ……』

二度と聞きたくはなかった、醜い声が背後から聞こえた。

後ろを振り返って確認することもせず、俺達はドアに向かって走り出す。

鍵がかかっていたので、急いでそれを開けて外に出る。

比企谷「一旦あの寝室に戻ろう!」

響「わかった!」

響は質問もせず、俺に黙ってついてきてくれた。

仮にあそこまで追いかけてこられても、再びピアノ部屋に降りてまた時間を稼

げる。

必死に三階までの階段を上り、寝室に駆け込む。

しばらく寝室の中で様子うかがっていたが、どうやらうまく負けたようだ。

響「ふぅ……」

比企谷「寿命が縮んだぞ……」

響「もう一回、ピアノの部屋を調べてみよう」

鍵盤に書いてあった図形、何か意味があるような気がする。

しかしあの怪物、一体どこから来たんだ……?

鍵盤を見ると、3つの鍵盤に『239』という文字が書かれていた。

響「なんだろう、これ……」

比企谷「とりあえず、この部屋をもう少し探してみよう」

しかし、ピアノ以外には本棚が二つあるだけだ。

響「ん?」

響が、そのうちの一つを横にずらした。

すると、そこには

響「これは……金庫?」

4桁の数字が入力できるようになっている。

その上には、対応するように4つの図形が描かれていた。

比企谷「なんだ、これ……」

さっぱりわからない。

しかし、何か意味があるはずだ。

響「なんか鍵盤の形みたいだね」

比企谷「それだ!」

俺はピアノの鍵盤を再び見て、鍵盤の形と数字を確認し、金庫の図形を改めて

確認する。

比企谷「……やっぱりか」

響「どういうこと?」

比企谷「さっきの鍵盤とこの図形は対応してるんだ。


図形の形に合わせて鍵盤をさかさまにしたりして当てはめれば、4桁の数字が

できる」

『6392』と打ち込むと、中から鍵が出てきた。

『子供部屋』と書かれている。

響「あ、由比ヶ浜さんがいた隣の部屋だよ」

鍵を開け、子供部屋に入る。

???「ひゃっ!!」

と、そこには雪ノ下がいた。

比企谷「雪ノ下?」

ベッドの隅に彼女は隠れていた。

雪ノ下「比企谷君……!」

比企谷「無事だったか……他のみんなは?」

雪ノ下「さぁ、はぐれてしまったから……」

比企谷「そうか……一緒に行くか?」

雪ノ下「ごめんなさい、化け物のいる館を歩き回る覚悟がまだ出ないの。

もう少しだけここにいるわ」

比企谷「そうか……わかった」

比企谷「この部屋に何かめぼしい物はなかったか?」

雪ノ下「そうね……この部屋にあったのはこれくらいかしら」

響「ライターオイルか……ありがとう!」

雪ノ下「役に立つといいのだけれど」

比企谷「じゃあ、俺達は調べに行くわ」

雪ノ下「気をつけて……」

俺達は階段を下り、一階へと向かった。

響「こっちにはまだ行ってないよね」

新たな扉を開けると、右側に通路が、奥にはさらに扉があった。

響「ここは開くのかな?」

響がドアノブを引くが、開きそうにない。

比企谷「こっちに行ってみるか」

通路を進んでいくと、横に和室があった。

比企谷「洋館に、和室……?あんまり合わねぇな」

響「ん?奥の壁、なんか変じゃない?」

言われて見てみると、壁の一部だけ他とは色が違う。

比企谷「違和感を感じるな……」

ポケットから皿の破片を取り出し、ドアを切り裂く。

すると、隠されていたドアが現れた。

比企谷「ドアノブがないから開けられないな……」

響「こういうときは……でやぁっ!」

響が思い切り蹴りつけると、ドアが向こう側に倒れた。

警戒しながら、中に入る。

しかし中は真っ暗で、ろくに前にも進めない。

響「ライターがあれば、さっきもらったライターオイルを入れて朱里が使える

んだけどなぁ……」

比企谷「和室の方を探してみるか」

と、俺達は一度通り過ぎた和室の探索を始めた。

響「押入れの中も探してみよっか」

響が言って、押し入れに近づいたその時だ。

押入れの戸が、ひとりでに開いた。

そして中から出てきたのは、あの異形の化け物だった。

響「っっっ!!?」

怪物は響を標的と定め、襲いかかった。

急いで響は廊下に出る。

俺もそれに続こうとした。

が、俺は見た。

今怪物が出てきた押入れの床に、ライターらしきものがあるのを。

……必要なものは、さっさと手に入れといた方がいい。

危険を承知でライターを回収しに行く。

響を追いかける形で怪物が追いかけていった。

もし俺が今から追いかけても、響に追い付く前に怪物に遭遇してしまう。

今は響を信じて捜索を進めるしかない。

空になっていたライターにライターオイルを入れる。

そして、再び隠し部屋へと向かう。

ライターを灯したものの、まだかなり暗い。

こんな状況で襲われたらたまらねぇな……。

と、部屋の中央に蝋燭を見つけた。

ライターの火をろうそくに移す。

随分ましになった。

改めて部屋全体を見回す。

比企谷「……?」

部屋の隅に、不自然な配置で本棚が一冊置かれている。

比企谷「……」

本棚を引っ張ってみると、隠れていたドアが現れた。

比企谷「行くしかないな」

俺がドアノブに手をかけたその時だ。

―バタン!―

響がものすごい勢いで部屋に駆け込んできた。

響「しまったっ!ごめん、怪物連れてきちゃった!ここ、行き止まり!?」

比企谷「わからん!この奥次第だ!」

響とともに新たな部屋に入る。

その時、俺達がいた部屋に怪物が入ってくるのが見えた。

比企谷「牢屋、だと……?」

俺達が入った部屋にあったのは、鉄格子で区切られたスペースだけだった。

響「入るしかないよ!」

響に言われ、俺達は急いで牢屋の中に入った。

内側から急いで鍵を閉める。

そこに、怪物が入ってくる。

俺達の姿を認め、醜い笑みを浮かべる。

この鉄格子が最後の頼みの綱だ……。

怪物が両手で、鉄格子を握りしめる。

―ガンガンガンガンガンッッッ!!!―

幸い、鉄格子はかなりの強度を持っていたようで、何とか怪物の攻撃を防い

でいる。

比企谷「さっさとどっかに行ってくれ……」

俺の思いが通じたのかどうかは定かではないが、怪物は諦めたようで、その場

を去っていった。

比企谷「あいつに、待ち伏せするとかいう知性はあるんだろうか……」

響「とりあえず、もう少しここでじっとしていよう……ん?」

比企谷「どうした?」

響「いや、そこに何か落ちてる」

響に言われて床を見渡してみると、鍵が一つ落ちていた。

さっきは怪物のことしか目に入っていなかったが、今まで気づか無かった方が

不思議なくらいだ。

比企谷「別館の鍵、か……」

響「ここに来る前に通った、鍵の掛かってた所じゃないかな」

比企谷「よし、行こう」

響「待ち伏せとか、してないといいけど……」

比企谷「その時は、全力で逃げるしかないな」

慎重に牢屋の鍵を開け、外に出る。

隠し部屋の様子も見てみたが、どうやら怪物の気配はない。

先程あかなかった、おそらくは別館の入り口と思われる扉に鍵を差し込んだ、

その時だ。

―キャァァァァァァ!!!!―

甲高い悲鳴が聞こえた。

この声は……

比企谷「雪ノ下っ!」

考えるより先に体が動いていた。

雪ノ下がいた子供部屋へと急いで向かう。

今行けば、怪物と鉢合わせるだろう。

だが、それすらどうでもいい。

比企谷「雪ノ下っ!」

勢いよく扉を開ける。

そこで俺が見たのは、

比企谷「……え?」

雪ノ下の契約モンスターダークウイングが異形の怪物に襲いかかっているとこ

ろだった。

ダークウイング「キィィィィッッ!」

得意の超音波攻撃を放ち、怪物を混乱させる。

そして隙を逃さず、その体をするどい爪でえぐる。

たまらず怪物が悲鳴を上げる。

雪ノ下「ダークウイング!そいつを叩きのめしなさい!」

怪物も何とか抵抗しようとするが、鉄格子も壊せなかった程度の戦闘力だ。

無論、人間では太刀打ちできないが、ミラーモンスターのダークウイングには

かなわないのだろう。

ダークウイング「キィィイイイイイイッッ!」

とどめとばかり、その頭部に爪を突きたてる。

ルォォ、と断末魔を上げて、怪物の体が小さな爆発を上げた。

それを認めると、ダークウイングの体も消えていく。

比企谷「どういうことだ?」

すみません、

別館のかぎ⇒地下室のかぎです。

雪ノ下「私がこの部屋にいたら、あの怪物が入って来たの。

逃げようとしたんだけど、転んでしまってね。これで終わりかと思った時、

私の持っていたカードデッキの中からダークウイングが現れて、後は今見た通

りよ」

響「変身、できないんじゃなかったの?」

雪ノ下「ダークウイングのカードから、色が消えているわ。たぶんもう、

少なくとも封印を解かない限り、この力は使えなくなったはずよ」

比企谷「なるほど、な。その理屈でいけば、由比ヶ浜も少なくとも一回は

あの怪物を倒せるってことになるな」

雪ノ下「そんな機会はできれば来てほしくはないけれどね」

比企谷「ま、そりゃそうだが」

響「雪ノ下さんも、ここからは一緒に行動しようよ」

雪ノ下「ええ、そうさせてもらうわ」

比企谷「よし、地下室に行こう」

俺達三人は、再び地下室を目指した。

比企谷「……結構広いな」

雪ノ下「ええ」

響「とりあえず、怪物はいないみたいだね」

と、響が言ったその瞬間、

勢いよく扉が開く音がした。

雪ノ下「!!!?」

比企谷「怪物か!?」

しかし、その音に続いて現れたのは俺達のよく知る人物だった。

比企谷「由比ヶ浜!」

響「奏!」

しかし、再開の余韻に浸っている時間はなかった。

奏「逃げて!あいつが来るわ!」

その一言で、俺達は全てを察した。

二人に続いて、怪物がその姿を現した。

踵を返し、走り出す。

由比ヶ浜「あっっ!」

後ろから由比ヶ浜の声が聞こえ、思わず振り返る。

見ると、由比ヶ浜が転んで倒れたのが見えた。

雪ノ下「由比ヶ浜さんっ!」

俺と同時に、雪ノ下も由比ヶ浜のもとへ駆けだす。

由比ヶ浜の背後には、怪物が。

間に合わないっっ……!

振り下ろされた怪物の右腕が、由比ヶ浜の体に触れようとしたその時だ。

「ガァァァアアアアアッッッ!」

けたたましい龍の方向が鳴り響いた。

現れたドラグレッダーは、その巨体で怪物を吹き飛ばす。

その一撃だけで、怪物の体は木っ端みじんに消し飛んだ。

由比ヶ浜「はぁ……はぁ……ドラグレッダー?」

比企谷「ふぅ……なんとか、なったか」

雪ノ下「良かった……」

由比ヶ浜「ドラグレッダーが、助けてくれたんだね……ありがとう、それに、

二人も」

雪ノ下「え?」

由比ヶ浜「怪物がすぐそこに居たのに、あたしのこと助けようとしてくれたで

しょ?

だから……ありがとう」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

由比ヶ浜「えへへ」

比企谷「礼を言うのは、ここを抜けだしてからにしてくれ」

雪ノ下「……たしかにそうね」

響「奏も、無事でよかったよ」

奏「うん、響もね」

雪ノ下「由比ヶ浜さん、契約のカードを見せてもらってもいいかしら」

由比ヶ浜「う?うん、わかった」

言って由比ヶ浜はドラグレッダーのカードをとりだした。

由比ヶ浜「あれ!?ドラグレッダーの色が消えてる!」

比企谷「やっぱりか……」

雪ノ下「ここからは、一切ミラーモンスター達の力は使えないということね」

響「エレンは大丈夫かな……」

奏「私達も、見てないわ……」

響「エレン、こういうの苦手なのに……」

比企谷「だから、早く見つけてやらないとな」

響「……!そうだね!」

由比ヶ浜「あっ!そうそう、あたしたち、こんなの見つけたんだー」

雪ノ下「別館の鍵、ね……」

奏「そっちが探索したところに、それっぽいところはあった?」

比企谷「いや、一通り見てみたが、なかったな。多分、この地下エリアのどこ

かにあるはずだ。ある程度探索はしてみたのか?」

奏「ううん、私も由比ヶ浜さんも、あまり動かなかったから」

由比ヶ浜「あたしが最初にいた部屋から出て色々見てたら、怪物に見つかっち

ゃって。そこを奏ちゃんに助けてもらったの」

奏「助けたっていっても、地下の鍵を開けただけだけど」

由比ヶ浜「ううん、助かったよ」

奏「そもそも、怪物が入ってこないように、自分が入った後に地下の鍵を閉め

ちゃったのは私だし……」

比企谷「っと、その話はまた後にしよう。そろそろ動きだした方がいい。

さっきの爆発音を聞いてまた別の怪物が来ないとも限らないからな」

響「じゃあ、奏達がまだ見てない所を探してみよう」

そして俺達は、地下エリアの探索を始めた。

奏「この部屋、なんだか少し怪しいわね」

雪ノ下「そうね、少し雰囲気が変わった」

その部屋にあった、他の部屋へとつながる二つのドアのうち一つを引く。

案の定、鍵がかかっている。

別館の鍵を差し込むと、ぴったり合った。

比企谷「よし!ビンゴだ!」

解錠し、ドアを引いたその時だ。

―グルォォオオッッ!―

部屋にあったタンスから、突如怪物が飛び出て来た。

比企谷「なんだと!!?」

雪ノ下「比企谷君!早く前に進んで!」

その言葉には返さことはせず、全力で駆けだす。

走り出してから、後ろの二人か三人は本館に戻った方がいいかとも思ったが、

それをいまさら言っても仕方ない。

暗い別館を駆け、階段を使って二階に上る。

二階の部屋に入るか、三階へとさらに上るか一瞬迷った後、俺は部屋に入った。

暖炉と食卓がある部屋だ。

俺に続くようにして、四人も部屋に入ってこようとする。

と、その時だ。

暖炉から、青い影が這い出た。

例の怪物だ。

挟み撃ち!?

比企谷「お、おい!戻れ!」

奏「え!?」

後ろから入ってこようとした奏が戸惑いの声を上げた。

比企谷「この部屋に怪物が出た!」

響「そんな!!?」

雪ノ下「くっっ」

少しもたつきながらも、何とか部屋の外に出る。

すぐに鬼もそれに続く。

階段を上って、もう一体の怪物も現れた。

はさまれた……!

響「ここは私と奏が食い止める!三人は逃げて!」

比企谷「そんなことっ!!!」

奏「ライダーに変身できない今、この中で一番戦闘力が高いのは鬼である

響と私よ!何とかこいつらの足止めをするから早く行って!こんな大人数じゃ

逃げにくいから!」

俺は戸惑いを消せないでいたが、奏の言葉に正しさを認め、駆けだした。

雪ノ下「ッッ……」

由比ヶ浜「絶対逃げきってね!」

二人が怪物の注意をひきつけているうちに俺達は階段を上る。

三階で見つけた最初の部屋に飛び込む。

しかし、真っ暗でなにも見えない。

俺はポケットに入れていたライターをとりだした。

比企谷「っっ!?」

雪ノ下「どうしたの?」

比企谷「オイルが切れた。これじゃこの部屋は探索できない」

由比ヶ浜「オイルを探しに行こう」

響達の為にも、少しでも状況を進めておきたい。

三階にあったもう一つの部屋に入る。

比企谷「めぼしい物を探そう」

由比ヶ浜「うん!」

そして、数分後。

雪ノ下「あったわ!ライターオイルよ」

雪ノ下にもらったオイルを入れ替える。

比企谷「よし……ん?」

由比ヶ浜「どうしたの?」

比企谷「いや……そこの壁」

先程までは何も描かれていなかったはずの壁に、三桁の数字が浮かび上がって

いた。

528か……一応覚えておこう。

比企谷「いや、なんでもない」

俺達は、先程の部屋へと戻った。

ライターで火をつける。

雪ノ下「これがあやしいわね」

壁に、パズルのようなものが設置されている。

人形の体があり、その下に頭部がある。それぞれのパーツは動かせるようにな

っている。

どうやら、この頭を本来あるべき場所に戻せばいいらしい。

由比ヶ浜「うわ……あたしこういうの苦手」

比企谷「大丈夫だ、お前には期待してない」

由比ヶ浜「ちょっっ!失礼すぎだしっ!」

しかし、かく言う俺もこういうのはあまり得意ではない。

比企谷「雪ノ下はどうだ?」

雪ノ下「無理ね」

比企谷「そうなのか……ちょっと意外だな」

雪ノ下「私が苦手だから解けないとかそういう意味では無いわ」

由比ヶ浜「え?」

雪ノ下「このパズル、絶対に解けないわ。どんなふうに動かしてもね」

比企谷「つまりこのパズルは、フェイクだと?」

雪ノ下「ええ、おそらくね。ただ、このパネルには何か意味があると思うわ。

どこかから、人形の頭を持ってくるんじゃないかしら」

比企谷「なるほどな。じゃあ、この部屋の別のところを見てみるか」

部屋の中の探索を再開すると、由比ヶ浜が声を上げた。

由比ヶ浜「見て!人形があるよ!」

赤い右目がはめ込まれているが、左目は存在しない。

比企谷「気色悪いな……」

雪ノ下「パズルの人形に似てるわね」

比企谷「しかし、このままじゃはまりそうにないな」

雪ノ下「とりあえずこれは持っていきましょう」

だ、誰か見てないのん……?

比企谷「その目の部分は使えそうなんだよな……」

俺達は探索を続ける。

比企谷「なんだ、この人形……」

由比ヶ浜が見つけた物とは別の人形を見つけた。

その人形には、両目がなかった。

とりあえず、手に取ってみようとして、驚く。

比企谷「う、動かない……?」

人形は机の上に固く固定されており、引き離すことができない。

雪ノ下「……その頭、あのパズルにちょうど合いそうな大きさね」

由比ヶ浜「ほんとだ!」

比企谷「でもこれ、離れねぇんだ」

雪ノ下「……この人形に合う目を持ってくれば、外せるようになるのではない

かしら」

比企谷「よし、他を回ってみるか」

更に探索を進め、先程入った暖炉の部屋に出た。

由比ヶ浜「ここになにかあるの?」

比企谷「ちょっとな」

ライターの火をつけ、暖炉にも火をともす。

比企谷「雪ノ下、さっきの人形貸してくれ」

雪ノ下から受け取って人形を、燃える暖炉の中に放り込んだ。

由比ヶ浜「ちょっ!!」

雪ノ下「随分思い切ったことをするのね」

しばらく人形が燃えるのを黙って見る。

比企谷「……よし」

人形が全て燃えたのを確認し、暖炉の火を消す。

そこには、先程の人形の目の部分になっていた赤い石が残った。

比企谷「よし、片目は手に入れたぞ」

雪ノ下「……なるほどね」

比企谷「あと一つか……」

俺達はもう一つの目を求め、別館一階へと戻った。

と、その中の一室で俺達と同じくらいの大きさの石像を見つけた。

比企谷「この石像……」

由比ヶ浜「どったの?」

比企谷「目が青い。もしかしたら、使えるかも知れない」

雪ノ下「でも、どうやって取り出すの?結構頑丈そうだけど」

比企谷「……階段から落とす」

由比ヶ浜「これを持って階段を上がるの?結構難しくない?」

比企谷「いや、俺達がこの別館に来るときに、そんなに長くはないが階段があ

ったろ。あそこから落とそうと思う。それなら一度上に運ぶ必要もないしな」

雪ノ下「今日は随分アグレッシブね……」

比企谷「まぁ、ライダーとして戦えないからな。その分突拍子もないことを売

る必要も出てくる」

雪ノ下「その二つの因果関係はあまり分からないのだけれど……」

比企谷「ともかくこの石像を持っていくぞ。押していくから、手伝ってくれ」

二人の力を借りて石像を運ぶことに成功する。

比企谷「よし、落とすぞ!」

思い切って石像を押し、石像が落下する。

大きな音を立て、石像は粉々に砕け散った。

目の部分を回収しようと俺達が階段を下り出したその時だ。

バタン!と大きな音を立て、突如向かいの扉が開いた。

「「「!!!!!?」」」

比企谷「逃げろ!」

即座に回れ右をし、全力で駆けだそうとした。

「ちょっと待って!わたしたちだよ!」

聞き覚えのある声が背後からしたので振り返ると、向かいから入って来たのは

はぐれてしまった響と奏だった。

雪ノ下「無事だったのね……!」

由比ヶ浜「よかったぁ……」

響「なんとかね」

比企谷「あの化け物たちは捲けたのか?」

奏「本館の牢屋に閉じ込めたわ」

由比ヶ浜「二、二匹とも……?」

響「鍛えてますから!」

この世界のライダーは半端ないな……。

奏「でもどうして石像を落としたりしたの?」

俺は二人とはぐれてからの経緯を簡単に説明する。

響「なるほどね」

二人を再び仲間に加え、俺達はパズルのあった部屋へと向かった。

目の欠けた人形に両目をはめ込むと、突如その人形の首がポトリと落ちた。

由比ヶ浜「なんか気持ち悪い……」

雪ノ下「そんなことで怖がってどうするの」

そう言った雪ノ下だったが、首が落ちた途端に由比ヶ浜の手を握ったのは雪ノ

下の方だったと思うんですがそれは……。

俺は黙って人形の頭部をパズルの対応する場所にはめ込んだ。

すると、パズルが壁から落ち、三桁の数字を入力する金庫が出てきた。

雪ノ下「また暗号……」

奏「何かヒントはないのかしら……」

比企谷「ヒント……あるぞ!」

俺は『528』の番号を打ち込む。

すると、金庫が開き、中から鍵が現れた。

比企谷「別館地下室の鍵、か……」

由比ヶ浜「な、なんで番号わかったの!?」

比企谷「ライターオイルをとりに行った時、それっぽいのがあったからな。試

しに押したらビンゴだった」

雪ノ下「でも、この別館に地下なんてあったかしら……」

響「本館の地下からここに来たから、別館の一階は地下っていうのは多分違う

よね」

雪ノ下「おそらくね……」

奏「とりあえず、またいろいろ回ってみましょう」

俺達は、一階を中心に探索を再開した。

由比ヶ浜「うう……全然それっぽいところないね」

由比ヶ浜がぼやいたその時だ。

先頭を歩いていた俺の足元の床が抜けた。

雪ノ下「比企谷君!!?」

勢いよく落下した俺は、思い切り尻もちをついた。

痛みをこらえて立ち上がって周囲を見渡してみると、そこはきちんとした一つ

の部屋だった。

由比ヶ浜「ヒッキー、大丈夫?」

比企谷「ん、ああ。ちょっと待ってくれ」

俺は部屋の奥にあった扉に近づく。

引いてみるが、鍵がかかっていて飽かない。

そこで、先程手に入れた別館地下室の鍵を差し込む。

ぴったりとはまった。

ガチャリ、と音を立てて鍵が開く。

比企谷「さっき手に入れた鍵がはまった。ゆっくりでいいから、降りてこれる

か?」

最初に雪ノ下が迷わず降りてきた。

他の三人も続く。

皆、ライダーだけあって、一度決心してからは早い。

扉を開くと、そこには広い廊下が広がっていた。

奏「最初に思っていたよりも、だいぶ広いのね、この館……」

響「入れる部屋に、一つ一つ入ってみよう」

と、その中の部屋の一つから、物音がした。

慎重に部屋の中を見回す。

すると、再び音がした。

今度ははっきりわかった。タンスの中からだ。

比企谷「なんだ……?」

「ニャォ~ン」

由比ヶ浜「なんだ、猫か……」

雪ノ下「猫なら仕方ないわね」

響「いや、タンスの中にネコが入ってるのはおかしいよ!」

奏「開けてみましょう」

思いっきりタンスを開ける。

仮に怪物が潜んでいてもすぐに対処できるよう、俺以外の四人は入り口でこち

らを見ている。

比企谷「――っっ!」

???「ひゃぁっっ!」

タンスの中に居たのは怪物とはかけ離れた一人の少女だった。

「にゃ、にゃお~ん」

響「エレン?」

エレン「み、みんな……」

奏「どうしてここに……」

エレン「声が枯れて逃げられなくなっちゃって……ここで少し休んでいたの」

比企谷「声が枯れたことと逃げるのは関係ないと思うんだが……」

まぁ、歌姫には色々あるということか……。

雪ノ下「ともかく、ここからは全員で行動しましょう」

エレン「わかったわ」

あ、そうだ。と言って、エレンはポケットから鍵をとりだした。

エレン「この部屋でこれを見つけたの」

鍵には、神殿、の二文字が刻まれている。

比企谷「神殿……?」

由比ヶ浜「スマッシュブラザーズのステージ?」

雪ノ下「あれはハイラルと読むのよ」

響「戦いやすいステージだよね!」

うん……その話はまた今度にしようか。

俺達は、神殿とやらを探して探索を続けた。

その中で、周りよりも大きな扉を見つけた。

比企谷「これっぽいな……」

鍵を入れてみると、見事にはまった。

入ってみると、6つの長椅子と大きな女神像があった。

由比ヶ浜「なんかすごい部屋だね……」

雪ノ下「部屋、というべきなのかしら……」

響「椅子の裏に、何かあるよ!」

響に言われて見てみると、細長い鉄棒があった。

奏「武器になるかもしれないわ」

エレン「誰が持つ?」

比企谷「……いざとなったら、俺が少しだけ足止めしてみる」

フェミニストではないが、ここに男は俺一人しかいない。

……変身前の話で言えば、俺よりもよほど響達の方が強そうではあるが。

雪ノ下「でも……手がかりになるようなものは特になにもないわね、この部屋」

エレン「一旦他の部屋を探してみましょう」

俺達は、神殿から最も近い部屋に入った。

どうやら書斎のようだ。随分広い。

由比ヶ浜「なんでここ、こんなにいっぱい本があるの……」

確かに、本に関連する部屋が多い気もする。

奏「これ、なにかしら」

奏が壁を指さして言う。

壁の中に、6つのさいころが埋め込まれていた。

どれも6の目が出ている。

響「なんか、光ってない?」

響に言われて目を凝らしてよく見てみると、それぞれのさいころには一つだけ

光っている黒丸がある。

エレン「……?」

エレンが首をかしげる。

雪ノ下「そういうこと……」

由比ヶ浜「う?」

雪ノ下「これは、さっきの神殿に関係しているんだわ」

言われて俺も気づく。

比企谷「多分あの椅子に何か細工があるんだろうな」

おそらく、このさいころの順番であの椅子に何かをするのだ。

エレン「順番は……4,3,5,1,6,2……よさこい浪人……」

由比ヶ浜「いやな覚え方だなぁ……」

奏「とりあえず、さっきの神殿に戻りましょう」

俺達が部屋を出ようとしたその時だ。

本棚の影からヌッと、青い影が飛びだした。

比企谷「逃げろ!」

全員が走りだす。

武器を持った俺は、最後尾だ。

と、そこで気付く。

怪物の姿が、先程までの個体とは違う。

全長は1メートルほど。

長方形のその体は、ゲームやアニメのキャラクターのようだ。

しかしその邪悪な顔と鋭い牙が全てを台無しにしていた。

間違いない、例の怪物と同じく俺達の脅威だ。

エレン「ふ、フワッティー……」

響「なにそれ!!」

エレン「なんとなく、思っただけ!」

逃げながら二人が言葉を交す。

少しの間、俺達が逃げるのを見つめていたフワッティー(仮)は突如動き出し

た。

由比ヶ浜「は、はやい!!」

比企谷「バカ!振り返らないで逃げろ!」

しかし、フワッティーの動きは先程までの怪物よりも格段に素早かった。

比企谷「空気抵抗を受けやすいその体で、どこからそんな速さが出るんだよ…

…」

走りながら思わずつぶやく。

雪ノ下「青鬼界のウサインボルトね……」

青鬼ってなんだよ。

さっきまでの化け物のことか?

まぁ、鬼っぽくはあったが。

奏「しゃべってる余裕ないよ!」

奏の一言で、俺達は口を閉じた。

フワッティーの奇妙な体は、もうすぐそこまで迫っている。

俺の前を走る5人が神殿に駆け込む。

フワッティーの牙が俺の脇をかすめる。

比企谷「スイッチを押してくれ!何とか時間を稼ぐ!」

手に入れた鉄棒でフワッティーを殴りつける。

フワッティーはその鋭い牙で鉄棒にかみつこうとする。

この化け物にかかれば、鉄だって食いちぎれるかもしれない。

急いで棒を引っ込め、横から打ち付ける。

ダメージはあまり入った気配はなく、俺に飛びかかってくる。

比企谷「ぐぅっ……」

押される形で背中を地面に打ち付ける。

そのままとっさに横に転がり、何とか追撃を免れる。

比企谷「スイッチ、まだか!?」

響「ちょっと待って……よさこい浪人よさこい浪人……」

由比ヶ浜「ヒッキー、押し終わったよ!」

見ると、神殿の奥にあった巨大な女神像がひとりでに横に動いた。

雪ノ下「地下……!?」

奏「あなたも地下に!早く!」

その声を聞き、俺も急いで地下につながる道へと向かう。

フワッティーも追ってくるが、女神像との距離が近づくと、そこで動きを止め

た。

恐る恐る振り返る。

由比ヶ浜「どうしたんだろう……」

雪ノ下「一時的なものかもしれないわ。急ぎましょう!」

何とかフワッティーから逃れた俺達は、地下の探索を始めた。

響「なんだろ、これ……」

暗い部屋の中には、ベッドが1つあった。

他に3つ、同じくベッドがあるのであろう場所があるのだが、周りにはカーテ

ンがしてあり、中が見えない。

比企谷「とりあえず、これ、開けてみるか」

エレン「開けたら中から怪物、ということはないわよね……?」

比企谷「その時は……逃げるしかないな」

由比ヶ浜「うぅ……」

響「とにかく、行動してみるしかないって!」

響が思い切りカーテンを開け放つ。

しかし、そこにはただベッドがあるだけだ。

響「なにもないのかな……?」

響が次々にカーテンを開ける。

そして、最後のベッドの上には、長い縄はしごが置いてあった。

雪ノ下「縄はしご……?」

奏「何かに使えるかもしれないわ」

由比ヶ浜「ヒッキーは鉄棒持ってるし、これはあたしが運ぶよ」

そして俺達は、次の部屋へと向かう。

そこは、取り立てて何もない部屋だった。

強いてあげるなら、壁に小さな額縁が飾られていることだろうか。

雪ノ下「これ……絵じゃないわね。何かのピースかしら?」

雪ノ下が額縁から、青いピースを取り出す。

その時、ガタン!という音が部屋の中に響いた。

比企谷「なんだ!?」

もしかして、罠だったのか……?

耳を澄ますが、怪物が近づいてくる気配はない。

比企谷「とりあえず、ここは出た方がいいかもな」

俺は、扉に手をかける。

しかし、

比企谷「……開かない?」

ここに入ってくるときには空いていたはずの扉の鍵が(そうでなければ俺達は

入ってこれない)閉まっているのだ。

由比ヶ浜「閉じ込められちゃったの……?」

エレン「ええ!?」

エレンが戸惑いの声を上げる。
雪ノ下「そんな……わたしのせいで」

比企谷「雪ノ下、さっきの青いピースを貸してくれ」
雪ノ下「え、ええ」

雪ノ下から受け取ったピースを再び額縁にはめ込む。

すると、

―ガコン!―

再び先程と同じような音がした。

比企谷「やっぱりな……」

扉を押すと、今度は開いた。

奏「このピースをとったら扉は開かなくなっちゃうってこと?」

響「じゃあこのピースには何の意味が……」

比企谷「何とかしてこのピースを外に出さなきゃいけないんだろうな」

由比ヶ浜「なんだ、簡単じゃん!」

エレン「え?」

由比ヶ浜「誰かが扉を開けてる状態で、ピースをとればいいんだよ!」

比企谷「……多分、こんな仕掛けがしてあるってことは、そんなに簡単じゃな

いと思うぞ」

奏「でも、とりあえずやってみない?」

比企谷「まあ、反対する理由はないが」

由比ヶ浜「じゃあ、あたしが開けとくね!」

由比ヶ浜が扉を開けた状態のまま、雪ノ下がピースをとろうとする。

雪ノ下「……とれないわ」

響「ちょっと私にもやらせて!」

力なら、男である俺よりも響の方がありそうだ。

響「う……うぅぅっっ!」

奏「ちょっと響、あんまり無理しないで!それでピースが壊れたら元も子もな

いわ!」

雪ノ下「どうやら、扉を開けたままでは取れないようね」

由比ヶ浜「じゃあ、どうしたら……」

エレン「うう……暗いしあんまりここには居たくないわね」

……ん?

比企谷「エレン、今なんて言った?」

エレン「え?こんな部屋には居たくないって……いや、そもそもこの屋敷に居

たくないけど」

比企谷「違う、その前だ」

エレン「え……?暗いって」

比企谷「それだ!」

俺は部屋中を見渡す。

この部屋には、照明がない。

しかもここは地下だ。

扉を閉めた状態で、どうして多少の明かりは保てていたのか。

それは、

比企谷「この上の階から光が洩れてる。上の階に穴があいてるんだ」

響「あっ!ほんとだ!」

天井を見てみると、無視できない大きさの穴が開いていた。

今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。

奏「人が通れるくらいの大きさね」

比企谷「由比ヶ浜、縄はしごを貸してくれ」

雪ノ下「なるほど。上の階からはしごを下ろして、ここでピースを回収。

そしてはしごを使ってまたのぼる、というわけね」

比企谷「ちょっとここで待っててくれ。俺が上に登ってはしごを下ろす」

響「ありがとう、よろしくね」

神殿につながる階段を上り、廊下に出る。

先程はフワッティーに追われていたこと、すぐそばに神殿があったことで気付

かなかったが、なかなかの大きさの穴があった。

比企谷「よし……」

穴の中から下を覗き込む。

比企谷「今から下ろす、そっちは異常ないか?」

由比ヶ浜「うん!大丈夫だよ!」

俺も周囲を確認し、縄はしごを下ろし、それを使って先程の部屋に戻る。

比企谷「よし、ピースをとってくれ」

雪ノ下「ええ」

ピースをとった俺達は、一人ずつ上の階に上る。

響「次は、どこに行ったらいいかな?これ、ピースってことは、同じようなの

を集めないといけないんだよね」

奏「多分そうね」

エレン「あと二つくらいはあるのかしら……まさか七個もあるってことはない

わよね」

比企谷「いや、ドラゴンボールじゃないんだから……」

ギャルのパンティおくれ、とか言うのか?と冗談で言ったら冷ややかな目で見

られた。

あれ?通じない感じ?

雪ノ下「比企谷君のセクハラ発言は置いておくとして……とりあえず、地下に

まだ回っていない場所があったわよね」

由比ヶ浜「じゃあ、また地下に戻るんだ……二度手間だね」

エレン「仕方ないわ。行くなら、早く行きましょう」

地下の一室に入った俺達は、その異様な光景に驚いた。

比企谷「地下牢か……」

本館にも牢屋はあったが、こちらは規模が違う。

全部で6つの牢屋がある。

薄暗い雰囲気も手伝って、ますます気味が悪い。

響「牢屋の中は……流石に誰もいないよね」

奏「ここには特に……あっ、扉はあるわ。行ってみましょうか」

奏が扉に手を伸ばすが、ここも鍵がかかっていたようだ。

奏「また鍵を探さないといけないわね……」

響「あっ!みて!牢屋の中に鍵が落ちてるよ!」

エレン「多分あれが、この扉の鍵じゃないかしら」

雪ノ下「ということは……まずはこの牢屋の鍵を探す、ということかしら」

比企谷「じゃあ、次の部屋に行くか」

由比ヶ浜「待って!」

比企谷「どうした?」

由比ヶ浜「ヒッキーが持ってるその鉄棒であの鍵、とれないかな」

比企谷「なるほど……やってみるか」

由比ヶ浜に言われた通りやってみると、多少苦戦はしたものの、なんとか

鍵を引き寄せることができた。

比企谷「別館地下室の鍵……やっぱりここの鍵だな」

その扉を開けた俺は、言葉を失った。

比企谷「あ……ああ……」

響「どうしたの?」

俺に続いて入って来た響も開いた口がふさがらない様子だ。

由比ヶ浜「こ、これは……」

扉の先には、さらに広い牢屋があった。
巨大な牢の中には、大量の怪物が入っていた。

その姿は、実に多様だ。

最初に俺達の前に現れたタイプもいるし、フワッティーもいる、鳥獣型の怪物
も、液体状で無数の目がついたおどろおどろしい姿のもの(いや、どれもおど

ろおどろしいのだが)、十数体の怪物がそこには居た。

最後に入ってきたエレンもその光景に思わずうつむいた。

と、その時だ。

ガタン!と音を立てて扉が閉まった。

比企谷「ま、まさか!?エレン!扉は開くか!?」

俺に言われるより早く、エレンは扉を激しく引いた。

しかし、開かない。

奏「嘘でしょ……!?」

怪物たちが、鉄格子に接近し、思い切り揺らし始める。

鉄格子はさびていてたよりない。

雪ノ下「これ、長くは持たないわよ!?」

その時だ。

怪物の一体が鉄格子を破ってこちらにやってきた。

エレン「開いて!お願い!開いてよ!」

エレンのその願いが通じたのかどうかは分からないが、閉ざされていた扉がつ

いに開いた。

比企谷「逃げろ!」

脇目も振らず走り出す。

由比ヶ浜「あれは、流石に多すぎだよっ……」

雪ノ下「由比ヶ浜さん!しゃべってないで走るのよ!」

そう言った雪ノ下が息を切らし始めた。

そうだ、ライダーになってからいくらかは改善されたが、雪ノ下は極端に体力

がないのだ。

しばらく走ったところで、俺は背後に気配を感じなかったことを不審に思い、

一瞬振り返った。

やはり、追って来てはいない。

比企谷「おい!もう大丈夫だ!」

響「追ってきて、ない……?」

比企谷「なんとか、な」

奏「あそこ、なんだったんだろう。鍵を手に入れてまで行くんだから、意味が

ないとは思えないけど……」

由比ヶ浜「額縁が……あったよ」

エレン「え?」

由比ヶ浜「青いピースをとった時と同じような額縁が、向こう側にあった。

多分あそこに、ピースがあるんだよ」

比企谷「またあそこに行かなきゃいけないってことか……」

雪ノ下「冗談でしょう……?」

響「でも、そういうことなら、行かないと、解決できないよ」

比企谷「……漢だな」

響「女だよっ!」

誰もが恐怖を感じながら、そこに立っていた。

意を決して、怪物たちの部屋につながる扉を開く。

比企谷「……ん?」

先程までいたはずの怪物たちが、一匹残らずいなくなっていたのだ。

雪ノ下「ど、どうしたの?」

比企谷「いや、見てみろよ。ほら……」

由比ヶ浜「あれ!?」

響「なんで!?」

奏「これは、喜んでいいのよね?」

エレン「もちろんよ!」

比企谷「これで、ピースを回収できるな」

先程まで怪物たちがいた牢屋の中に入っていく。

そこには確かに、青いピースがはめ込まれた額縁があった。

比企谷「よしっ!」

ピースを手に取り、雪ノ下に渡す。

響「それで、全部……?」

祈りを込めて響が尋ねる。

雪ノ下「……いいえ、どうやら、あとひとつ必要みたいね」

奏「ねぇ……これ、なにかしら」

額縁の少し横には、巨大な扉があった。

その巨大な扉には、鎖ががんじがらめにかけられていた。

ご丁寧に、頑丈そうな南京錠も何個もかけられている。

エレン「何かが、いるのかしら……?」

比企谷「これは……触らぬ神になんとやら、という奴だな」

雪ノ下「そこまで行ったのなら、祟り無しまでいえばいいじゃない。

まぁ……その意見には賛成ね」

由比ヶ浜「でも、これで地下は大体探したよね?」

奏「フワッティーが出た部屋は、あんまりまだ見てないわよね」

雪ノ下「そうね、もう一度あそこに行ってみましょうか」

階段を上るために通った神殿で、先程まではそこに無かったであろう額縁を見

つけた。

由比ヶ浜「あっ!これ!」

雪ノ下「ピースはないわね……他の二つの額縁と、色が違うわ」

比企谷「集めたピースをここにはめるんじゃないのか?」

響「今のうちにはめといた方がいいかな?」

奏「全部集めてからの方がいいと思うわ。ここにはめてあるピースを怪物に取

られたら目も当てられないもの」

エレン「奏は賢いわね!」

奏「このくらいは普通だと思うけど……」

俺達は、フワッティーに遭遇した部屋に入る。

部屋を見渡すと、額縁の裏側らしいものを発見した。

比企谷「こっちの方からピースを向こうの部屋に落とせそうだな……」

思い切り額縁を押す。

これで、向こうの部屋にピースが落ちているはずだ。

比企谷「よし、じゃあ最後のピースをとってくる」

響「わたしもいくよ!」

奏「じゃあ、私達はここで待ってるわね」

響と俺は、ピース回収に向かう。

比企谷「これでやっと、脱出できそうだな」

扉を開けた俺達は、またしても言葉を失った。

響「ふ、フワッティー……」

ピースを落とした部屋には、あの忌まわしいフワッティーがいたのだ。

響「そんな……一旦逃げる!?」

比企谷「いや……こいつは捲けない!……こっちだ!化け物!」

俺が前に出て、フワッティーの注意をひきつける。

響「ちょっと、なにしてるの!?」

比企谷「俺がこいつをひきつける!ピースを回収してあいつらのもとに戻れ!」

響「じゃあ、あなたはっ!!?」

比企谷「どの道、スピードタイプのこいつからは逃げられない!

だから、ピースを入れてくれ!そうすれば、変身能力が元に戻るかもしれない!」

響は一瞬迷いをみせた後、ピースを手にして走り出した。

比企谷「さあ、最後の鬼ごっこだ!」

反撃を諦め、ひたすら回避に専念する。

行動スピードは敵の方が早い。

ただ廊下を逃げるだけでは背後からやられてしまう。

そう考えた俺は、別の部屋に駆け込み、フワッティーと対峙する。

部屋の中で、左右の動きも合わせて何とか時間を稼ぐ。

フワッティー「キュルルルルゥゥッ!」

気味の悪い声をあげてフワッティーが襲いかかってくる。

鋭い牙が俺の服をかすめる。

危ない……。

また振り返り、攻撃に備える。

次の攻撃は、横に転がってよける。

距離をとり、回避。

距離をとり、回避。

最初は上手くいっていたこの作戦だが、フワッティーもなれたのか、徐々に攻

撃が俺の体に迫る。

余裕がなくなっていく。

当然だ。一発やられたらそのダメージが影響して、さらなる追撃を喰らう。

行きつくところは死だ。

絶対にくらうわけにはいかない。

しかし、俺の思いは通じなかったようだ。

回避のために俺は転がった。

しかしフワッティーのその攻撃はフェイントだった。

直前で動きを止めた俺は、倒れた俺の上にまたがり(両足らしきものがないの

でこの表現が正しいかは分からないが)、気色悪い笑みを浮かべる。

比企谷「ここ、までか……」

フワッティーが俺に噛みつこうとした、その時だ。

俺の体からまばゆい光があふれだし、フワッティーを退けた。

比企谷「やってくれたか……」

ライダーの力が戻ったのだ。

フワッティー「キィィイイイィ……」

フワッティーが俺を睨みつける。

比企谷「もうお前なんかこわくないぞ。借りを返させてもらう!」

使いなれたディケイドのカードを取り出す。

比企谷「変身!」

「Kamen Ride Decade!」

変身できなくなってから一日も立っていないのに、随分久しぶりに感じる。

ディケイド「そういえば、まだ使ってなかったな……力を借りるぞ、キリト!」

「Kamen Ride Kuuga!」

ディケイド「くらえっ!」

俺の突きだした拳をフワッティーは噛みついて止めようとする。

よほど自分の牙に自信を持っているようだ。

しかし、

フワッティー「ォォォッッ!!?」

俺の拳を受け止めたフワッティーの牙は、粉々に砕け散った。

ディケイド「お前、大したことないな。……終わりにするぞ!」

「Final Attack Ride Ku Ku Ku Kuuga!」

必殺技マイティキックをくらったフワッティーは小さな爆発を上げて砕け散っ

た。

比企谷「……汚ぇ花火だ」

ナイト「……そんな冗談が言えるくらいなら、問題なさそうね」

龍騎「よかったぁ、間に合ったんだ」

比企谷「ああ、ぎりぎりだったけどな。助かった、響」

由比ヶ浜「あたしたちは!?」

比企谷「え……?ああ、もちろん他の奴らも、助かった。感謝してる」

雪ノ下「この借りは大きいわよ?」

比企谷「いや……そもそも俺達がピース取ってなかったらお前らもどうなって

たか分かんないんだからな?」

エレン「キュアピース?」

比企谷「お前達の後輩の話はしてない……」

奏「ピースなのに普通にパー出してくるわよね……」

響「あっ!あれ私も騙された!」

比企谷「いや、確かにあれは俺も騙されたけど……今その話しなきゃだめか?」

俺達がくだらない話をしていたその時だ。

突如、床が大きく揺れた。

比企谷「地震か?」

雪ノ下「いいえ……これは、自然現象じゃないわ……」

再び地面が揺れる。

響「ねぇ、もしかしてあそこじゃないの?」

奏「あそこ?」

響「鎖でぐるぐる巻きにされてた、あの大きな扉……」

由比ヶ浜「あそこに、何かいるの……?」

比企谷「この化け物どものボスってところじゃないのか」

雪ノ下「行くしか、ないわね……」

俺達は急いで怪物たちであふれていた例の場所へと向かう。

エレン「またここに来るのね……」

響「大丈夫だよ、エレン」

奏「そうよ、心配しないで」

比企谷「まぁ、警戒はしとかなきゃいけないがな」

大きな牢の中に入る。

由比ヶ浜「やっぱり……」

案の定、巨大な扉の鎖はほどけていた。

そこで再び地面の揺れ。

先程よりも大きい。

ここが震源地であることはもう疑いようがない。

比企谷「……開けるぞ」

響「うん」

深呼吸して、扉を開ける。

そこには、さらに広大な空間が広がっていた。

しかし、それ以上に俺達の目を引いたのは。

エレン「お、大きい……」

由比ヶ浜「今までのとは、全然違うね……」

これまでの個体をはるかに凌駕する、5メートルはあろうかという巨大な青

い怪物がそこにいた。

「グオオオォォォォォオォッッ!!!」

鼓膜が震えるほどの雄叫び。

怪物は俺達に殺意の満ちた目を向ける。

雪ノ下「これが、青鬼……」

青鬼が右足を振り下ろす。

発生した振動でまともに立っていられなくなる。

???「ここまで来るとは思ってなかったわ……」

青鬼の背後から、一人の少女が現れる。

響「アコ!」

この世界のもう一人のプリキュア、いや、仮面ライダー、調辺アコだ。

比企谷「お前が作ったのか?この怪物を」

アコ「……怪物じゃないわ」

雪ノ下「この世界では魔化網、というのだったわね」

アコ「そういうことじゃない……まぁ、いいわ」

アコ「そうよ。ここで怪物たちを作っていたのは私。この巨大な個体の遺伝子

をつかって作ったの」

ん……?

つまり、この巨大な個体に関してはアコが作ったのではないということか?

「グォオオオオオッッッ!」

青鬼が雄叫びをあげる。

俺達を激しく睨みつけて入るが、アコに対しては攻撃の意思を見せていない。

比企谷「こいつを制御したってのか……」

由比ヶ浜や雪ノ下がミラーモンスター達を従えているのは契約のカードがある

からだ。

アコも、それに準じた物を持っているのだろうか。

雪ノ下「そろそろ、始めましょうか。これ以上話しても、何も変わらないでし

ょう」

響「そう……だね。アコと話すにしても、この怪物を倒してからにしないと」

「「「「「「変身!!!」」」」」」

『Kamen Ride Decade』

アコ「いくわよ……」

俺達が変身するのを見て、アコも仮面ライダー朱鬼へと変身した。

『Attack Ride Blast』

『Strike Vent』

由比ヶ浜と俺が遠距離から青鬼に攻撃を浴びせる。

青鬼は巨大な右腕を振るい、その攻撃を消滅させた。

ディケイド「硬いな……」

ナイト「やぁぁっ!」

『Sword Vent』

雪ノ下が足元にきりかかる。

朱鬼「させないっ!」

その攻撃をアコが止める。

威吹鬼「アコ!ごめんっ!」

奏がラッパ型の武器を吹き、アコに攻撃を加える。

朱鬼「クッ……」

響鬼「であぁぁっ!」

響バチ上の武器を青鬼に叩きつける。

青鬼は一瞬顔をゆがめ、飛び上がる。

2mほどジャンプした青鬼が着地する。

激しい震動が俺達を襲う。

皆が思わず膝を突く中、青鬼のジャンプを予想していたアコだけがそれと同時

に宙にいた。

そして、無防備となった奏を蹴りつけた。

威吹鬼「うぅっ……」

追撃をかけるアコは、そのままワンツーパンチを繰り出した。

ナイト「ダークウイング!」

『Advent』

召喚されたダークウイングがアコに突撃を食らわせる。

ディケイド「焼きつくす……!由比ヶ浜、ドラグレッダーを呼んでくれ!」

龍騎「わかった!」

『Advent』

ディケイド「ちょっとくすぐったいぞ?」

龍騎「え?あれやるの!?」

『Final Form Ride Ryu Ryu Ryu Ryuki!』

由比ヶ浜がドラグレッダーを呼び出したのを確認し、由比ヶ浜もドラグレッダ

ーへと変形させる。

『Kamen Ride Ryuki』

『Attack Ride Strike Vent』

二頭のドラグレッダーに加えて、俺もドラグクローファイアーを放つ。

この火力で、青鬼を焼きつくすっ!

ディケイド「であぁぁぁっ!」

ドラグレッダー(由比ヶ浜)「グォオオオオッ!(くらええぇぇっっ!)」

この攻撃を喰らえば、無事ではいられないはずだ。

と、巨大な炎が青鬼に直撃しようとしたその瞬間、アコがその前に飛び出した。

決して大きくない体を、両手を広げることで少しでも大きくして、炎の前に立

ちふさがる。

身を呈して青鬼を守る気のようだ。

そして、攻撃がアコに直撃した。

朱鬼「キャアアアァァァアアアアッッッ!」

アコが思い切り吹き飛び、背後の青鬼に打ち付けられる。

ダメージ量が大き過ぎたのか、変身も解除された。

龍騎「そんな、どうしてそこまでしてモンスターを……」

響、奏「アコ!!」

エレン「姫様!」

由比ヶ浜「だ、大丈夫!!?」

戦闘中だということも忘れ、変身を解除してアコのもとへ4人が駆け付ける。

俺と雪ノ下はアコの方を見ながらも、青鬼への警戒を続ける。

アコ「私は、敵よ……?」

響「敵じゃない!わたしたちとアコは仲間だよ!」

アコ「バカ、みたい……」

奏「バカでもいいわ。私達は、何も言われないでも相手の気持ちがわかるほど

賢くない……」

エレン「だから、どうしてそうまでしてその怪物を守ろうとするのか、姫様

が言ってくれないとわかりません!」

青鬼は黙ってアコを見つめている。

アコ「その、その青鬼は……私のパパ、メフィストなの」

エレン「青鬼が、メフィスト様!?」

アコ「青鬼という魔化網は、人間に取り付いて、その人間を青鬼に変えてしま

うの」

響「そんな……」

奏「それで他の青鬼を作って、お父さんを戻す方法を探していたのね……」

アコ「……ええ、そうよ。許されないことだというのは、わかっているわ……」

アコ「でも、どうすればいいのか、わからない……パパを守ることしか、私に

は……」

響「……なんとか、なるかもしれない」

アコ「え?」

響「私の変身する響鬼には、紅っていう強化フォームがあるの。

そして、紅フォームが司るのは、赤鬼の力」

奏「赤鬼……青鬼の、親友だっていう伝説がある……」

エレン「泣いた赤おに、ね」

響「だから、私の紅フォームの力なら、何とかなるかもしれない」

アコ「このままじゃ、パパは元には戻らない……」

しばらく考え込んで、アコは言った。

アコ「お願い、響」

アコが、頭を下げた。

響「任せて!ここで決めなきゃ女がすたる!」

そして、響がこちらを見て響が言った。

響「ディケイド!力を貸して!」

ディケイド「なんだ?」

言われるまでもない。

俺に出来ることなら何でもやるつもりだ。

響「紅フォームになったわたしを使って!浄化力の高い武器になると思うの」

なるほど……そういうことか。

ディケイド「まかせろ!」

響「はぁぁああ……響鬼、紅!」

響が真紅の仮面ライダーへと変身した。

響が真紅の仮面ライダーへと変身した。

そして、俺の手の中にカードが現れる。

ディケイド「ちょっとくすぐったいぞ?」

『Final Form Ride Hi Hi Hi Hibiki!』

響が、二本の真っ赤なバチへと変わる。

ナイト「相手の攻撃は私達が止めるわ!」

威吹鬼「気合のレシピ、見せてあげる!」

斬鬼「心のビートはもう、止められないわっ!」

5人が俺の通る道をつくる。

青鬼(メフィスト)「グォオオッッ!」

ディケイド「いくぞ、響っ!」

『Final Attack Ride Hi Hi Hi Hibiki!』

ディケイド「はぁぁぁああああっっ!音撃打っ!爆熱真紅の型ぁぁっっ!」

両手に持ったバチを全力で叩きつける。

ディケイド「であぁぁぁあああああっっっっ!!!」

まだ、まだ、まだだ!

十、二十、三十、全力で叩き続ける。

ディケイド「これで、おわりだぁっ!」

青鬼が巨大な爆発を上げる。

ディケイド「はぁ、はぁ、はぁ……」

爆発の中から、一人の男が立ち上がった。

赤い髪、どこか高貴さがある。

アコ「パパッ!」

メフィスト「アコ……私は、一体……」

どうやら、青鬼に取り付かれていたメフィストは元に戻ったようだ。

と、そんなメフィストの体から何かが飛び出た。

青い体の怪物、青鬼だ。

しかし、先程までの姿とは違い、若干デフォルメ(?)されているというか、

見れる外見になっている。

青鬼「くそ……人間め……」

響「青鬼……あなたは、赤鬼と仲良かったっていう、あの青鬼なの?」

青鬼「そうだ……赤鬼のもとから離れた俺は、赤鬼にも人間どもにも見つ

からないよう、館を構えて暮らすようになった。

そんなある日、この屋敷に興味本意で入って来た人間が俺を見つけた。

俺は何もしなかったが、その人間はたいそう驚いてな。

あわてて帰っていった。そしてその翌日、その人間が大勢の人間を連れて再びここにやってきた。

そしてあいつらは、この屋敷に火を放ったんだ。

怒り狂った俺は、その場で人間どもを皆殺しにした。

それからだ、俺が人間を激しく憎むようになったのは。

ただ見た目が違うというだけで他の生物を、食べる為でもなく殺せる愚かな生

物を憎むようになったのは、な」

響「……どうして屋敷の外には出て行かなかったの?」

青鬼「赤鬼がそのことを知れば、悲しむと思ってな。

他の生物が信じられなくなった俺にとって、心のよりどころはあいつだけだっ

たのかもしれない」

と、その時だ。

???「オニッ!青鬼はいるオニ?」

青鬼「そっ、その声は!!」

アカオーニ「やっと見つけたオニ。こんな所にいたオニか?」

……なんだ、この超展開。

*アカオーニ……『スマイルプリキュア』に登場する赤鬼の怪物。
お茶目な一面もあり、敵ながら憎めない奴。

青鬼「どうして、俺のところに……人間たちと暮らしてたんじゃ……」

アカオーニ「人間達はハッピーシャワーやらピースサンダーやら撃ってきてお

っかないから逃げてきたオニ。やっぱり鬼は鬼どうしクラスのが一番オニ!」

*ハッピーシャワー、ピースサンダー……アカオーニと敵対するプリキュア達の必殺技。

アカオーニ「青鬼もこんな所にいないで一緒に帰るオニ!」

青鬼「う!うん!」

アカオーニ「もう人間どもにかかわるのはやめるオニ!」

青鬼「う、うん!」

青鬼「……じゃぁ、そういうことで」

青鬼は、俺達に軽く頭を下げて部屋を出ていこうとする。

由比ヶ浜「え、えええぇっ!?いいのっ!?」

響「うーん、まぁ、根っからの悪い奴じゃなかったみたいだし」

アコ「それに、パパももとに戻ったし、まぁ、いいかな」

奏「アコがそう言うなら、私達からも特にないわ」

青鬼「じゃ、失礼します」

青鬼……意外と俗っぽいな……。

アカオーニ「納豆餃子飴ってお菓子があるオニ!一緒に食べるオニ!」

青鬼「うん!」

とうとう、鬼達は去っていった。

俺達の体も消えかかる。

雪ノ下「……今回は、微妙な幕引きだったわね」

比企谷「まぁ、ハッピーエンドってことで、よかったんじゃないか……?」

由比ヶ浜「そうそ!たまにはね!」

エレン「……また、旅に出るのね」

比企谷「ああ、まだ他の世界を回らなきゃならない」

雪ノ下「……私達のことを、待っていてくれる人もいるしね」

響「そっか……それじゃ、また会う日まで!」

アコ「お父さんが元に戻ったのは、あなた達のおかげよ!ありがとう!」

奏「気をつけてねー!」

4人に見守られながら、俺達は新たな世界へと旅立った。

最後に撮った写真には、楽器を持って楽しそうに笑いあう4人の少女の姿が映

った。

次の世界は、アクセルワールド×仮面ライダーカブトの世界です!

その次の世界のリクエストなど、ご意見お待ちしてます!

投稿遅くなってすみません。

次の話がなかなか思いつかなくて……。

もう少し頻繁に更新できるよう心がけます。

どうか温かい目で見守ってやってください。

*アクセルワールド……舞台は近未来。人々はニューロリンカーという機器を

恒常的につけて暮らしている。

そんなある日、いじめられっ子の主人公ハルユキは、同中学の副会長黒雪姫か

らブレインバーストというアプリを付与される。

ブレインバーストは、対戦格闘ゲーム。

しかし、それだけではない。ゲーム内のポイントを消費して、自分に対する時

間の流れを遅くすることができるのだ。(世界の時を止めるとかでは無いです…

…原作読んで!ソードアートオンラインと同じ河原礫先生の著作ですが、個人

的にはSAOより面白いと思います)

他社より圧倒的優位に立てるこのポイントをめぐって、プレイヤー(バースト

リンカーといいます)たちは日々激闘を繰り広げていた。

シルバークロウ(ハルユキ)「先輩!またエネミーが出ました!」

ブラックロータス(黒雪姫)「ワームか!?」

シルバークロウ「はい!まだ蛹だから、今のうちに倒さないと!」

*シルバークロウ……主人公有田ハルユキが変身するアバター。

加速世界唯一の飛行能力を持つアバター。

*ブラックロータス……黒雪姫が変身するアバター。

現時点で最高レベルの9であり、最強クラスの力を持つ。

また、加速世界に7人しかいない「王」の一人である。

ブラックロータス「次から次へと……やはりこれも加速研究会の連中の仕業か

……」

ハルユキ達がプレイするゲーム、ブレインバーストに最近ワームと呼ばれるエ

ネミー達が現れるようになった。

このエネミーは、無制限中立フィールドを積極的に動き回り、プレイヤー達に

攻撃を加えていた。

この結果、大勢のバーストリンカー達がポイントを全て失い、加速世界から姿

を消した。

シルバークロウ「このままじゃ、加速世界がめちゃくちゃだ……」

黒雪姫の圧倒的な力もあって、何とかワームを倒したハルユキは呟いた。

シルバークロウ「こんだけ強いのに、ポイント手に入らないんだもんな……」

ブレインバースト内の他のエネミーは、倒せばポイントが手に入る。

しかし、このワームを倒しても、ポイントは一切手獲得できない。

そのくせ、倒されれば大量のポイントが奪われる。

まさしく、この世界に訪れた災厄と言っても差し支えなかった。

ブラックロータス「御苦労さま、シルバークロウ」

シルバークロウ「お疲れ様です、先輩」

ブラックロータス「早く、何とかしなくてはな……」

仮面の下で、黒雪姫は顔をしかめた。

その夜。

黒雪姫は、しばらく戻っていなかった実家へと向かった。

*黒雪姫は、家族と問題を抱えており、一人暮らしをしている。

また、彼女の姉は、加速世界に災厄を撒き散らし続ける加速研究会の会長であ

る。(このことは、黒雪姫のレギオンネガネビュラス以外の者はほとんど知らな

い)

黒雪姫「まさか、またここに来る羽目になるとはな……」

しかし、そうも言っていられない。

加速世界の危機なのだ。

早急に手を打たなければ取り返しのつかないことになる。

ワームを発生させたのは、十中八九加速研究会のせいだ。

姉の持ち物を調べれば何かわかるかもしれない。

家の鍵を開け、思い切って扉を開ける。

家の中には、誰もいなかった。

両親は仕事が忙しく、ほとんど家にはいない。

懸念事項は、姉が家にいるかもしれないということだったが、それも問題なさ

そうだ。

姉の部屋の扉を開ける。

黒雪姫「これは……」

姉のテーブルの上には、これ見よがしに、USBメモリが一つ置いてあった。
ニューロリンカーを使い、その中の情報を読み取る。
その中には、いくつかのフォルダがあった。

そして、黒雪姫はあるフォルダ名に目を奪われた。
黒雪姫「敵性エネミー、ワーム発生計画……」

そのデータには、ワームを使って加速世界を滅茶苦茶にする計画の概要が記さ
れていた。

しかし、肝心の発生方法については書かれていない。

黒雪姫「これは、私へのあてつけか……」

姉は、私がここに来るのを予期して、メモリを残していったのだろう。

黒雪姫「どこまでもわたしをバカにして……」

そうわかっても、データを探さないわけにはいかない。

黒雪姫「マスクドライダーシステム……?」

そこに記されていたのは、ワームに対抗するための存在、マスクドライダーに

ついての情報と、ライダーになる為に必要なベルトの作成方法だった。

その情報を得た翌日、黒雪姫は自らのレギオン、ネガネビュラスと、同盟関係

にあるプロミネンスのレギオンマスターとその側近ブラッドレパードを集め、

緊急会議を開いた。

スカーレットレイン「なんなんだよ、いきなり呼び出して……いや、聞かなく

ても大体わかってるけどな」

ブラッドレパード「エネミーのこと、なの?」

*スカーレットレイン……香月由仁子のアバター。

由仁子達は他レギオンであるが、ネガネビュラスの面々に互いに現実世界で会

っている。

表と裏の顔の変化っぷりは良太郎でも度肝を抜かすほど。

ブラックロータス「ああ、その通りだ」

スカーレットレイン「それについては、うちも何とかしないととは思ってるん

だ。プロミネンスの中にも被害を受けた奴がいるからな」

スカイレイカー「ただ、ワームの湧出速度は異常で、いくら倒してもきりがな

い」

シアンパイル「それに、ポイントも入らないですし……」

ブラックロータス「今回の一件は、加速研究会の手によるものだ」

*スカイレイカー……倉崎楓子のアバター。

ネガネビュラスのサブマスター。飛行型の(ただしこち

らはシルバークロウとは違いスラスターを使うもので、シルバークロウより飛

行可能時間は短いものの、宇宙空間での飛行が可能である)アバター。

レベル8。

ハルユキは、かつて楓子に窮地を救ってもらったこともあり、彼女のことを師

匠と呼んでいる。ライト兄弟並みに空への情熱を持っており、自らアバターの

両足を切断することを決意した。

⇒⇒⇒620  ありがとうございます!


本作品を読んでくださている皆様にお知らせです。

1は受験が近付いてきたため、これからは休日しか更新できなくなります。

スレを落とすようなことしませんので、どうか温かい目で見守ってください!

シアンパイル……ハルユキの親友黛拓夢のアバター。

多彩な技を操る。

スカーレットレイン「つまり、オシラトラユニヴァースの連中が関わってるっ

てことか」

*オシラトラユニヴァース……黒雪姫の姉ホワイトコスモス(実名は不明)

がレギオンマスターを務めるレギオン。

ブラックロータス「あいつらは……この加速世界を終わらせる気だ」

ライムベル「……どういうこと?」

*ライムベル……ハルユキと拓夢の幼馴染倉嶋千百合のアバター。

時間塑行という電王も真っ青の能力を持つ。

ブラックロータス「奴らは、クロックダウン計画を実行しようとしている」

シルバークロウ「クロックダウン、計画?」

ブラックロータス「……奴ら以外から、加速の力を奪う計画だ」

その発言に、全員が沈黙した。

スカーレットレイン「それは……確かな情報なんだよな」

ブラックトータス「ああ。そして、それに対抗するための策もある」

シアンパイル「策?」

ブラックロータス「マスクドライダーシステム、それを行使する為のベルトの

開発方法が私の得たデータには書かれていた。これは、加速研究会から我々へ

の宣戦布告だろう。

自分達を止めてみろ、という意味のな」

スカーレットレイン「で、そのベルトを作るにはどうすりゃいいんだ?」

ブラックロータス「ワームから得られるアイテム、それから、莫大なポイント

を消費する。ネガネビュラスだけで足りればよかったのだが、どうやらそうも

いきそうにない。そこで、プロミネンスに、協力を頼みたい」

ブラッドレパード「……」

レパードは沈黙を保っている。

レギオンマスターであるスカーレットレインに判断をゆだねるつもりなのだろ

う。

スカーレットレイン「……わかった。この問題は、レギオンとか関係なく解決

しなきゃならない問題だ」

ブラックロータス「では、詳細を伝える」

そして彼らは、ベルト開発に着手した。

比企谷「……ここが、新しい世界か」

殺伐とした空間を歩きながら、俺は呟いた。

雪ノ下「今度はどんな所なのかしら」

比企谷「写真館の絵からみると、仮面ライダーカブトとアクセルワールドの世

界だな」

由比ヶ浜「アクセルワールド?」

比企谷「この前行った、ソードアートオンラインの世界があっただろ?

あれと同じように、ゲームの世界だ。プレイヤー同士が、ポイントをめぐって

戦ってる」

由比ヶ浜「ふぅん……」

比企谷「……わかったのか?」

由比ヶ浜「聞くだけじゃ、結局よくわからないしね」

雪ノ下「まぁ、それは一理あるわね」

と、そこに突如怪物が現れた。

「グォォォッッ!」

由比ヶ浜「……とりあえず、なにもないようなところからいきなりモンスター

が出てくる世界でってことはわかったよ」

「「「変身!!!」」」

『Kamen Ride Decade!』

敵は、4メートルを超える巨大な獣型のモンスターだ。

『Attack Ride Blast!』

『Strike Vent』

いつものように、俺と由比ヶ浜が、いつものように遠距離攻撃で先制する。

その攻撃に敵が一瞬ひるむ。

『Sword Vent』

その隙をついて、雪ノ下が斬りかかる。

「グゥゥ……」

獣がうめき、崩れ落ちる。

ディケイド「あっけなかったな……これで決める!」

『Kamen Ride Hibiki! Final Attack Ri

de Hi Hi Hi Hibiki!』

ディケイド「音撃打、爆裂強打の型ぁっ!」

清めの音を敵に打ち込む。

次の瞬間、爆発を上げて敵が砕け散った。

と、そこに空から何かが降りてきた。

人型の姿をしたものが7つ。

羽をはやした2つの個体に他の5体がしがみついて飛行していたようだ。

ていうか……

ディケイド「シルバークロウか」

シルバークロウ、有田ハルユキ。アクセルワールドにおける主人公。

この世界のキーパーソンだ。

ブラックロータス「なぜ我々以外にライダーが……」

スカーレットレイン「加速研究会の奴らか……?」

ブラッドレパード「こういうときは、拳で語るのが一番、なの」

スカイレイカー「……一理あるわね」

その中の二人が、突如襲いかかってきた。

龍騎「ひ、ヒッキー!この人達敵なの!?」

ナイト「武器を持って襲いかかってくる以上、検討の余地はないわ!」

ディケイド「まぁ……一旦こうなるのはお約束みたいなもんだしな」

ナイト「ダークウイング!」

『Nasty Vent』

相手の平衡感覚を崩し、雪ノ下が斬りかかる。

『Kamen Ride Faiz!』

『Form Ride Faiz! Autobajin』

数の差は7対3。少しでもその状況をましにするため、オートバジンを呼び出

す。

オートバジンはガトリング攻撃で敵を牽制する。

『Attack Ride Faiz!』

ディケイド「スパークルカットッ!」

俺の剣を受け止めたのは、後方から出てきたブラックロータスだ。

その彼女は、俺の攻撃を受けて多少の動揺を見せた。

ブラックロータス「私の剣で切れないとは……全く、嫌になるな」

そういいつつも、彼女は俺の攻撃をはじき返す。

ディケイド「……剣技では、かないそうにないな」

俺は一旦ロータスから距離をとる。

『Form Ride Faiz! Accel』

ディケイド「行くぞっ!」

『Start Up!』

10秒限りの加速が始まる。

俺の攻撃がロータスを捕える。

その寸前。

またしても俺は攻撃を受け止められた。

サソード(シアンパイル)「マスターは、やらせないよ。それに、僕は剣でも頂

点を目指す男だからね」

ディケイド「クロックアップシステムか……」

カブトの世界のライダーが持つ能力。それがクロックアップシステム。

周囲の速度を急速に遅くすることで、相対的に超高速戦闘がなるというものだ。

サソード「君達は、一体何なんだ!?」

ディケイド「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

サソードの腹部に蹴り攻撃を放つ。

サソード「ぐッ……」

ディケイド「俺は、仮面ライダーディケイド。世界が滅びる未来を変えるため、

旅をしている」

言ってから、らしくないことを言っていることに気づく。

いろんな世界の主人公にあったことで、少しずつ感化されているのだろうか。

まぁ、龍騎としてライダーバトルをしていた頃からもそんなものだったかもし

れないが。

サソード「世界を、救う……?」

ディケイド「ああ。今この世界で起きている滅びの現象ともかかわりがある」

言って、俺は変身を解除した。

俺が変身を解いたことにより、戦闘が停止した。

次いで由比ヶ浜が、最後に雪ノ下が元の姿に戻った。

シルバークロウ「あなた達は、一体……?」

ブラックロータス「加速世界で、人間の姿を……?」

比企谷「俺達は、この世界の人間じゃない。ライダーの世界を救うために旅を

している。仮面ライダーディケイド、比企谷八幡だ」

スカーレットレイン「この世界の人間じゃない、だぁ?ふざけてんのか?」

雪ノ下「ふざけてなんかいないわ。事実を述べているだけよ」

お前が話すと余計もめそうだから黙っててくれませんかね……。

由比ヶ浜「え、えーっとね……」

由比ヶ浜がその場をとりなしながら、何とか説明を終える。

ブラックロータス「滅びの現象、か……」

スカイレイカー「確かに、私達にも当てはまるわね」

ライムベル「苦し紛れの言い訳ってわけでもなさそうだね」

シアンパイル「僕は、信じてもいいと思います」

ブラックロータス「ふむ……どうしてそう思う?」

シアンパイル「さっき剣を合わせた時、邪悪な意思や悪意は伝わってきません

でした」

ハルユキ「僕も、この人達は敵じゃないと思います」

ブラックロータス「そうだな……この世界の中で人間の姿でいられるというの

も、話の裏付けになっていると考えられないこともない、か」

しばらく沈黙して、ブラックロータスは告げる。

ブラックロータス「わかった。私達は君達を信じるよ、ディケイド

レインも、それでいいか?」

自分達とは違うレギオンということもあり、スカーレットレインへの承認をと

った。

スカーレットレイン「ああ、うちもそれでかまわねぇ」

シルバークロウ「ええっと、よろしくお願いします」

ブラックロータス「……ハルユキ君、鼻の下を伸ばすことがないようにな?」

雪ノ下と由比ヶ浜を見た後、問い詰めるようにハルユキに言う。

シルバークロウ「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!」

ブラックロータス「どうだかな……」

シアンパイル「あはは……それはそうと、ここではずっとライダーの姿でいた

方がいいと思いますよ」

ライムベル「そうだね、どこからいつエネミーが湧くか分からないし」

忠告を受け、俺達は再びライダーを姿に変身する。

と、その時だ。

空に、巨大なスクリーンが現れた。

スカーレットレイン「なんだ!!?」

スクリーンの中のアバターが語りだす。

???「みなさん、こんにちは。白のレギオン、オシラトラユニバースのレギ

オンマスター、そして加速研究会の会長、ホワイトコスモスです」

ブラックロータス「なっっ!!?」

ホワイトコスモス……黒雪姫の姉のアバター。

ブラックロータスをだまして、当時のプロミネンスのレギオンマスターレッド

ライダーを消滅させるなど、加速世界の様々な出来事の裏で糸を引いてきた。

その戦闘力は圧倒的。

スカーレットレイン「どういうことだ、おい……」

こんなことをすれば、白のレギオンは、他の全バーストリンカーから攻撃され

る。

こんな計画を実行する人間が、それを思い付いていないはずはないだろう。

つまり、

ディケイド「クロックダウン計画はもう、ほとんど達成したってことか……?」

スクリーンの中のホワイトコスモスは続ける。

ホワイトコスモス「私達は、あなた方から加速能力を奪う、クロックダウン計

画を実行しています。そしてその完成は間近です。

現実世界では、数分としないうちに完了するでしょう。

今加速世界に居るあなた達は、とても運がいいのかもしれません。

止めようと思っても無駄です。

私は、このクロックダウンの断片的な力を使って、4人の王をこの世界から退

場させました。青、黄、紫、緑の純色の王たちを」

そう言って、ホワイトコスモスは自らのパーソナル画面を表示させる。

ブラックロータス「ば、バカな……」

この世界において、レベルを上げるためにはポイントをためる必要がある。

しかし、ただ単純にポイントだけが必要とされるのはレベル9になるまで。

(ここまでのポイントを稼ぐことは至難の技で、加速世界でそれを達成したの

は8名しかいない。ここにいるブラックロータス、スカーレットレインはその

うちの2名だ)

そして、そこからレベル10に上がる為には、同じレベル9のプレイヤーを5

名倒さなければならない。

そして、レベル9同士の戦いで負けた者は、残りのポイントのいかんに関係な

く、その時点で加速世界を永久に追放される。

負けたら終わりのサドンデス状態、というわけだ。

そして、レベル9のパーソナル画面には、それまでに倒したレベル9のリスト

が表示されるようになっている。

ホワイトコスモスのそれには、彼女の言葉通り、4人のレベル9の名が表示さ

れていた。

ブルーナイト、イエローレディオ、パープロソーン、グリーングランデ。

それは、青、黄、紫、緑の王の名だ。

ホワイトコスモス「御覧の通り、私はレベル10に王手というところまで来ま

した。このままこの世界を終わらせてもかまいませんが、それでは少し味気な

い。それに、その前にレベル10になってみたいという思いもあります。

私達は、帝城に居ます。クロックダウン計画には少しだけ猶予を与えましょう。

加速世界を守りたければ、そして、私の計画を止めたければ、好きなだけ仲間

を連れていらしてください。待っていますよ、スカーレットレイン、そして、

ブラックロータス」

最後に笑みを浮かべて、スクリーンは消えた。

ブラックロータス「まさか、ここまで圧倒的なものだったとは……」

スカーレットレイン「クロック、ダウンか……」

シルバークロウ「……行きましょう!帝城へ!」

ライムベル「行かなきゃ、何も変わらないもんね!」

スカイレイカー「黙って滅びを待つか、挑戦するか。考えるまでもありません

ね」

ブラックロータス「よし、では、行くか!

これより、我々は帝城へ向かう!」

ブラックロータスの宣言に、鬨の声が上がる。

ブラックロータス「では、先程のように、移動はクロウとレイカーに皆がつか

まる形で行く。ディケイド達は、何か空の移動手段はあるか?」

ナイト「ミラーモンスターを使えば問題ないわ」

ブラックロータス「ああ、さっきのモンスターか」

ナイト「頼むわ、ダークウイング」

『Advent』

現れたダークウイングが雪ノ下の背中をつかみ、そのまま持ちあげる。

ディケイド「由比ヶ浜、頼んでいいか?」

龍騎「いいよ、ドラグレッダーなら何人でも乗れるしね!」

ディケイド「いや、そうじゃなくてな」

『Final Form Ride Ryu Ryu Ryu Ryuki!』

由比ヶ浜の背中に触れて、ドラグレッダーへと変形させる。

ドラグレッダー(由比ヶ浜)「ガァァァァッ!(別にあたしがドラグレッダーに

ならなくてもいいじゃん!)」

ディケイド「まぁ、なんとなくな」

シアンパイル「す、すごいな……」

ブラッドレパード「これが、ライダーとの絆の成果、なの?」

ライムベル「あ、私も乗りたい!」

言って、ライムベルもドラグレッダーにまたがる。

ドラグレッダー「グルゥ……(ううぅ……)」

ブラックロータス「さて、ではそろそろいいかな?」

ブラックロータスの声を受けて、飛行能力を持つ者たちが浮遊する。

スカーレットレイン「よーーし!しゅっぱーっつ!」

10分ほど飛ぶと、巨大な城の様な建造物が見えてきた。

ディケイド「あれが、帝城か……?」

話をするため、一時的に移動を停止する。

ブラックロータス「ああ、そうだ。そしてここからもう少し近づくと、神獣

というとてつもない強さを持ったエネミーが現れる」

ナイト「それは、まともに戦うことすらできないレベルなのかしら?」

ブラックロータス「ああ。帝城には4つの門があるんだが、それぞれに1匹ず

つ神獣が対応していてな。4匹同時に戦闘を行わないと、ある程度体力を減ら

した時点で、戦っていない神獣が他の個体を体力を回復し始めるんだ。

そして、戦力を分断して当たれるような敵ではない。一匹を相手にして、何と

か隙をついて帝城にたどり着くしかないだろうな」

スカーレットレイン「……でもそれは、マスクドライダーシステムが使えなか

った頃の話だろ?今の私達にはそれがある。クロックアップを使えば突破は可

能なんじゃないか?」

スカイレイカー「確かに、それならできるかもしれないわね。

ライダーシステムが使えない人は、他の人が抱えていく形にすれば。

私もライダーシステムが使えないので、よろしくお願いしますね、カラスさん?」

シルバークロウ「えっ!?は、ふぁいっ!」

ブラックロータス「……レイカー、私が運んでやるから安心しろ」

冷たい声音でロータスが言う。

スカーレットレイン「パドはあたしが運ぶよ」

ブラッドレパード「k。よろしく頼むの」

ライムベル「じゃあ、お願いね、クロウ!」

ブラックロータス「クッ……そっちもあったか……」

629はこちらに差し替えお願いします。

ブラックロータス「ああ。帝城には4つの門があるんだが、それぞれに1匹ず

つ神獣が対応していてな。4匹同時に戦闘を行わないと、ある程度体力を減ら

した時点で、戦っていない神獣が他の個体を体力を回復し始めるんだ。

そして、戦力を分断して当たれるような敵ではない。一匹を相手にして、何と

か隙をついて帝城にたどり着くしかないだろうな」

スカーレットレイン「……でもそれは、マスクドライダーシステムが使えなか

った頃の話だろ?今の私達にはそれがある。クロックアップを使えば突破は可

能なんじゃないか?」

スカイレイカー「確かに、それならできるかもしれないわね。

ライダーシステムが使えない人は、他の人が抱えていく形にすれば。

よろしくお願いしますね、カラスさん?」

シルバークロウ「えっ!?は、ふぁいっ!」

ブラックロータス「……レイカー、お前は変身できるだろう?」

冷たい声音でロータスが言う。

スカイレイカー「ばれましたか……」

ブラックロータス「当然だろう!」

スカーレットレイン「パドはあたしが運ぶよ」

ブラッドレパード「k。よろしく頼むの」

ライムベル「じゃあ、お願いね、クロウ!」

ブラックロータス「クッ……そっちもあったか……」

ディケイド「じゃあ、お前らは俺がアクセルフォームになって運ぶわ」

ナイト「は?」

龍騎「ヒッキーまじきもいから!」

ディケイド「あのなぁ……じゃあどうするっていうんだよ」

ナイト「……変なことをしたらタダじゃおかないわよ」

ディケイド「なんでそこまでいわれにゃならんのだ……」

ブラックロータス「では、いくぞ!」

「「「「「変身!」」」」」

―Henshin―

「「「「「キャストオフ!」」」」」

―Cast Off Change Beetle! 

Stugbeetle! Dragonfly! Wasp!

Scorpion!―

ブラックロータスはクワガタを模した戦闘の神の異名を持つガタックへ、

クロウはカブトムシの力を持つカブトへ、レインはトンボをモチーフとした

ドレイクへ、レイカーは蜂型のザビーへ、シアンパイルはサソリの様なサソー

ドへと姿を変えた。

ガタック(ロータス)「3カウントで加速する!行くぞ、3,2,1」

「「「「「クロックアップ!」」」」」

―Clock Up!―

『Form Ride Fize!Accel』

加速世界の中でさらに加速して、俺達は走り出した。

俺達は、全力で帝城へと向かっていく。

と、その途中巨大なフェニックスが姿を現した。

朱雀だ。

ディケイド「とんでもないプレッシャーだな……」

巨大な不死鳥(厳密には違うのだろうが)は巨大な咆哮を上げた。

朱雀「おのれ……加速世界を乱す者どもめ……」

ガタック(黒雪姫)「我々にそのような意図はない!加速世界の滅びを、止めに

来たんだっ!」

高速で動きながら黒雪姫は言う。

朱雀「二度は後れは取らんぞっ!小さき者どもよ!」

ディケイド「やっぱりあいつらはこいつを突破していったのか……」

ザビー(スカイレイカー)「相手にしてはいけません!とにかく突っ切るんで

す!」

と、俺達の目の前に巨大な炎の柱が上がる。

朱雀「行かせるものか!」

カブト(シルバークロウ)「せ、先輩っ!これ、無視して行くの無理じゃないで

すか!?」

ガタック(あいつらが突破して行って、そんなあいつらを倒そうとしているん

だ……。こいつを倒さなければ、到底あいつは倒せない、か……)

ガタック「……ええいっ!朱雀を攻撃対象として、戦闘を行いながら前進する!」

ザビー「さっちゃん!?」

ガタック「それができなければ奴らは倒せん!」

ドレイク(ニコ)「ああもうっ……やるしかないか!」

しかし、クロックアップ状態にない者たちは戦闘に参加できない。

ディケイド「おい!こっちには動けない奴らがいるんだぞ!」

俺が言ったその時だ。

―Clock Down―

どこからともなく、その音が響いた。

突如、加速状態が終了する。

ナイト「ど、どういうこと!?」

サソード(シアンパイル)「クロックダウンシステム……もう、こんなことがで

きるのか……」

加速状態の強制終了。

くしくもそれは、俺達を助ける結果となったが。

朱雀「ぬぅ……またあいつらか……」

しかし、なぜ。加速研究会の連中からすれば、俺達が来ないほうが好都合とい

うのに。

いや、ちがうか。そもそも加速研究会は俺達を招いたのだ。

ここを突破して自分達のもとまで来てみせろ、ということか。

ガタック「クッッ……舐めたまねをっ!」

怒りに声を震わせ、黒雪姫が構える。

ガタック「ライダーカッティング!」

両手に剣を持ち、朱雀へ向かっていく。

朱雀はそんな黒雪姫に向けて巨大な火球を放つ。

カブト「先輩!」

ガタック「バカ者!今のうちだ!」

その声を聞く前に、すでに攻撃態勢に入っていた者たちがいた。

ドレイク「ライダーシューティング!」

―Rider Shooting!―

龍騎「ドラグレッダー!」

『Advent』

上空からドラグレッダーが現れ、朱雀に襲いかかる。

注意がそれた朱雀の下方から、ニコが放った巨大なエネルギー弾が直撃する。

体勢を崩した朱雀に、再びドラグレッダーが体当たりを食らわせる。

朱雀「グゥゥ……」

色々な世界をわたって思ったが、巨大なモンスターを呼び出す龍騎の世界のア

ドベントはとても強力だ。

各世界のボス級のモンスターを一瞬で召喚できるのだから。

ナイト「ダークウイング!」

『Advent』

ダークウイングが巨大な羽を利用した体当たりを食らわせる。

いける!

『Form Ride Deno! Lod Form』

『Final Attack Ride De De De Deno!』

巨大な竿を敵に投げつける。

竿が当たった箇所から放射状にエネルギー波が広がる。

それに向けて飛び上がり、ライダーキックを放つ。

ディケイド「うおおおおっっ!」

朱雀「る……くぅ……玄武!白虎!青龍!力を貸せっ!」

朱雀が叫ぶと、その体が黄金の光に包まれていく。

その朱雀が体を大きくふるい、ドラグレッダーとダークウイングを振り払う。

ライムベル「あっ!体力回復が始まったっ!」

ブラッドレパード「これじゃいくらやっても意味ないの」

ガタック「……全員で一斉に必殺技を放つ」

ドレイク「そ、その一回の攻撃であの朱雀の体力を全部削るっていうのか!?」

ガタック「ああ、そうだ」

ザビー「……それしか、方法はありませんね」

ライムベル「で、でもいくらなんでも無謀じゃないですか?」

ガタック「そこで君の出番だ。ベル」

ライムベル「え?」

ガタック「我々の攻撃が当たる直前に、朱雀にシトロンコールをかけてほしい。

回復が始まる直前のあいつに戻してほしいんだ」

ブラッドレパード「そういうこと、なの……」

朱雀「なにをごちゃごちゃと言っているっ!」

ガタック「いくぞっ!」

一斉に、必殺技の動作に入る。

『Final Attack Ride De De De Decade!』

『『Final Vent』』

―Rider Kick!―

―Ride Cutting!―

―Rider Shooting!―

―Rider Sting!―

「「「「「「「やぁぁーーーーーっっっ!」」」」」」」」

ライムベル「シトロン・コールッ!」

ライムベルの放つ光が朱雀を包み込む。

朱雀「ぬぅ……?」

その時間が巻き戻り、回復がなかったことになっていく。

そして、全員の攻撃が直撃する。

朱雀「ガァアアアアアーーッ!」

巨大な爆発を上げ、朱雀が消滅する。

ガタック「あの神獣を、倒したのか……」

ドレイク「やっぱ化けもんだな、この力は」

ガタック「そして、こんなものをあの女が作れるというのなら、やはり加速世

界を消滅させるというのも一層現実味を帯びてくるな……」

ナイト「どこの世界でも、とかく姉というのはよからぬことばかりするのね…

…」

お前達の場合はかなり特殊な部類だと思うんだが……。

サソード「ともかく、先に進みましょう」

カブト「ああ、そうだな」

そして、巨大な門が俺達の前に立ち(?)塞がった。

ドレイク「……でかいな」

カブト「前来た時は開いてたけど……今度はどうかな」

クロウが言い終わる前に、その門はひとりでに開いた。

その中には、数人の兵士(?)が立っていた。

皆一様に、昆虫を模したような黒いスーツを着用している。

そんな兵士が12体。

その中心には、紫色の禍々しいアバターが異様な存在感を放っていた。

サソード「お、お前は……」

カブト「ダスク、テイカー……」

ダスクテイカー「お久しぶりですねぇ、有田先輩、いや、シルバークロウ。

っと、今は仮面ライダーカブト、でしたっけ?」

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