川崎「そろそろ本気で比企ヶ谷を落とそうと思う」 (51)

高校を卒業して2年ほど経った頃、あたしはあいつと再会した。


あいつは高校を卒業した後、自身の予定通り私立文系に進んだようだ。
一方あたしは県内の国立の大学に進んだ。

お互いの通う大学自体特に離れている訳でも無いのだが、本当はあいつと同じ大学に通いたかったなんてとてもではないが口が裂けても言えない。

それに、まぁ家計とか色々あるし元々選択肢などなかったのだ。

結局あいつに伝えたかった事は何一つ伝えられず卒業し、自分の中でその想いは消えることなくここまで来てしまった。

もう叶うはずもないのに馬鹿みたいだと、女々しい女だと、そう自分を罵る毎日。

そんなある日のこと、それは突然やって来た

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大学に進学して2年が経ち3年目を迎えた頃、あたしは一人暮らしをすることにした。

2年間の実家暮らしでだいぶ貯金も貯まってきたし、いつまでも家族に面倒を見てもらうわけにもいかないと思っての事だった。

そんなこんなで、今日は新しく住むアパートに来ている。まずやることは…

川崎「と、隣の部屋の人に挨拶…だよね……」

いや落ち着けあたし…こんな事で緊張するな…そんなんだから高校でも一人だったんだ…落ち着け、落ち着け…。

川崎「……よし!」ピンポーン

ガチャ

川崎「こ、こんにちは…今日から隣に越して来た川崎と申しま…す…?」

川崎「…え?」

八幡「……は?」


そう、それは本当に、突然やってきたのである

川崎「あ、あんた…、えっ、なんで?…は…?」

八幡「いや動揺しすぎでしょう…つーか驚くのはこっちなんだが。え、何?隣に住むの?」

川崎「う、うん。まぁそうなんだけどさ…」

八幡「ほーん、そか。まぁとりあえず、これからよろしくな」

川崎「うん………ん?」

待ち望んでいた感動?の再会はあまりにもあっさり終わった。

だが

川崎「これは…うん、そうだ…チャンスなんだ……これが最後のチャンス」

川崎「そろそろ本気で比企ヶ谷を落とそう」

覚悟は出来た。

あれからしばらく経った。

本気出すと覚悟を決めたというのにあれから驚く程何もない。
朝や夕方に会えば挨拶をするが、それだけである。

川崎「はぁ…(どうしてこうなった)」

どうしても何も全て自分のヘタレ根性のせいなのだが、どうにもこうにも上手くいかない。
いや、一応努力はしているのだが…

川崎『お、おはよう!』

八幡『おっおう…、おはよう…何だよ元気だな…』

川崎『別に……あ、あんたさ』

八幡『ん?』

川崎『…なんでもない』

八幡『?』


今朝の光景である。
これではまるで不審者だ。
いや不審であることに間違いは無いのだが…。

川崎「絶対あいつに変に思われてるよね…」

そう思い始めると講義の内容なんて頭に入ってくるわけもなく、いつの間にか帰宅の時間。
そして帰宅した後に自分を殴りたくなるのだ。

川崎「本当、女々しい」

ピンポーン

川崎「ん?」

川崎「はーい」ガチャ

八幡「うっす、今いいか?」

川崎「へ?」

八幡「いや、無理ならいい。出直すか?」

川崎「いっいや!いい!いいから!」

八幡「おっおう…そうか、いや特に用って用は無いんだが、少し時間あるか?」

川崎「うん…時間、ある…。中、入る?」

物凄い片言になってる。
動揺しすぎて割と大胆なこと言ってるし。

八幡「悪いな…お邪魔しますっと」


川崎「…それで、何か用?」

八幡「いや、なんつーか、お前の様子が少し…というかかなりおかしいから少し話が出来たらと思ってな」

川崎「うっ……それは…そうかもしれない」

八幡「だろ?余計なお世話かもしれんが、まぁ隣人だし何か出来る事があれば言ってくれ。俺だって気持ち良く生活したいしな」

川崎「そ、そう…」

思わずにやけそうになるのをグッと堪える。
不審に思われていた事実と心配掛けていた事に対して申し訳ないと思う反面、やはり気に掛けて貰えたのが何より嬉しい。

川崎「気持ちは嬉しいけど、本当に大した事じゃないよ。その、何て言うか…」

八幡「あー、言いづらいことなら無理にとは言わん。悪いな、変なこと聞いて」

川崎「あっいや、本当そんなんじゃないから!」

八幡「そうか、それならいいんだが。まぁ何かあったら言ってくれよ。出来る範囲で力にはなる」

川崎「うん……ありがと」

八幡「…おう」

そう言って後ろ髪をガシガシ掻くその仕草はあの頃と何も変わってなくて、つい頬が緩んでしまう。

川崎「そうだ、それならさ…」

せっかくの申し出に、思い切ってひとつ提案してみた



川崎「それじゃ、座って待っててよ。すぐ作るからさ」

八幡「…おお、悪いな」

あたしからの提案。それは今晩一緒にご飯を食べないか?という
自分にしてはかなり思い切った提案だと思う。
でも、話したい事が山ほどある。
卒業してからのこと。今のこと。
そして、あの部活のこと。

彼の今を知りたいし、あたしの今を知ってほしい。そう思う。

川崎「勇気出せ、あたし」

そう呟いて自分を奮い立たせる。
これを第一歩にするんだ。
これをきっかけに新しく彼との繋がりを作るんだ。



ご飯を食べ終えて、しばらくの間話をしていた。

彼は高校卒業と同時に家を出て、大学の近くにアパートを借りたこと。

実家からの仕送りもあるがバイトもしていること。

…これは聞くまでもないかもしれないけど、相変わらず一人でいること。

川崎「ふふっ」

八幡「な、なんだよ」

川崎「別に、あんた変わってないね」

八幡「うるせえな、人はそう簡単に変わらねえんだよ。……」

軽口を叩く彼だが、一瞬。
その表情が曇ったのを見逃さなかった。
きっと、あの事だろう。
彼の近況はだいたい把握出来たが、どうしても聞けなかったこと。

彼が卒業して間も無く家を出た理由。
彼の表情の理由。

それを聞けずにいる。
簡単に聞いてはいけないような気がした。

変わらない。
彼が言ったその言葉の裏にある意味を何と無くだが察した。

きっと卒業するまでに、彼らは変わってしまったのだろう。
彼らというより、あの部活内の関係が決定的に変わってしまったのだ。

いつかあたしに話してくれる日が来るのだろうか?
話してくれたらいいな…なんて思ってしまうのは傲慢だろうか…。

彼の中でのあたしの存在なんてきっとほんのちっぽけでしかない。そんなのは百も承知だ。

川崎「まっ、とりあえずさ。これからよろしく頼むよ、比企ヶ谷」

八幡「おう、よろしくなサキサキ」

川崎「さっ、サキサキ言うな!」

緊張もすっかり溶けて、自然と会話が弾んだ。
やっとスタート地点に立てたのだと実感した。

今はこうやってゆっくり彼との距離を縮められたらいい。

それで満足だ。


あれからまたしばらく経った。

川崎「今日も今日とて暑い…。」

朝、大学に向かうため部屋を出たのだが、あまりの暑さについ文句を言う。
夏が近づいているのだから当たり前だけど、それにしても暑い。

そして

八幡「おう川崎、おはよう」

川崎「…おはよう比企ヶ谷」

ちょうど同じタイミングで彼も部屋から出てきた。

八幡「…うし、んじゃいくか」

そう言って暑さから逃れるように早歩きで遠ざかる彼の背中を慌てて追いかける。

最近では見慣れた光景。
お互いの大学までの道のり、その途中にあるバス停まで一緒に歩く。
そのバス停であたしはバスに乗り、彼はそのまま歩いて大学に向かうのだ。

連日彼が朝部屋を出るタイミングを見計らいあたしも出て
さも偶然かのように白々しく「せっかくだし途中まで一緒にどう?」なんてやり取りを数回繰り返したら定着した。

まるでストーカーみたいだと思うがまぁ結果オーライだ。

隣に並んで歩くけど、これと言って会話があるわけでもない。
元々あたしも彼も会話が得意ではないから正直楽だ。
……というかそもそもぼっちだったし。

彼と並んで歩く、それだけであたしは満足だった。
きっと彼も迷惑には思ってないだろう。
何と無くだが、そう思った。

だが、それだけでいいのだろうか?
もう少し踏み込んでも良いのではないか?
そう思って切り出してみた。

川崎「…あんたさ」

八幡「ん?」

川崎「今日の夜って、空いてる?」

八幡「今日はバイトも休みだから普通に空いてるが」

川崎「…そう。それなら今夜一緒にご飯どう?あたし作るからさ」

八幡「それは良いんだが、と言うか助かるがどうしたんだいきなり?」

川崎「べ、別に、深い意味はないよ。たまには良いかと思っただけ」

八幡「…そか、それじゃ頼むな」

川崎「うん」

少し不自然だったかなと思ったが、それでも勇気を出して良かった。

京華「はちみつくまさん、ぽんぽこたぬきさん」
沙希「あんたけーちゃんに何教えたの?」#
八幡「・・・」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月09日 (日) 18:32:54   ID: CbsbvUE1

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