春香「私、今日でアイドルを辞めます」 (244)


「いらっしゃいませー、おひとり様ですかー?」

春香「あ、いえ、先に来てる人が」

「それは、失礼いたしました。ではごゆっくり」

店員に促され店の中に足を踏み入れる。二、三度視線を動かすと、店内に多くはいないスーツを着た一人の男性を見つけた。

春香「プロデューサーさん、お待たせしました!」

P「ん、おお、春香か、そんなに待ってないぞ」


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「ご注文はどうなさいますか?」

店員からメニュー表を受け取ったが、大して目は通さず、結局お店に着く前から決めていたメニューに決める。

春香「私はカフェオレで。プロデューサーさんは」

P「俺はコーヒー残ってるからいいよ」

春香「あ、わかりました。じゃあ、それで」


春香「いやぁ、昼間だっていうのに結構混んでますね」

P「そうだな、平日の昼過ぎだってのに」

春香「実はこの前高校の友達と来たんです。話題のお店らしいんですよ」

P「なるほど、俺が場違いな気がするわけだ」

春香「そうですか?」

P「見てみろ周り。こんなくたびれたおっさんが居てもいいのか?って思えるよ」

言われて、店内を見渡してみる。確かにお客さんの年齢層は若い方が多い。


春香「くたびれたおっさんて…そんなにプロデューサーさんは年取ってないですし、別に年輩の方はいらっしゃるじゃないですか」

P「それにしたって清潔感あるし、俺以外はみんな女性といるだろ? 春香が来てくれて一人ではなくなったが」

春香「別にプロデューサーさんは不潔では…」

P「見てみろ、このよれよれのスーツを。こんな服着てるのなんて俺ぐらいじゃないか」

春香「まあ、それは確かに否定できませんけど…」

P「俺には眩しすぎるよ、この場所は」


P「俺には眩しすぎるよ、この場所は」

春香「でも、様になってましたよ?」

P「冗談きついぜ」

春香「本気です」

P「…まあ、テラス席に案内されなかっただけでもよかったとするかな」

春香「あ、それは確かに笑えるかも」

P「おい」



春香「あはは、ごめんなさい。でも、プロデューサーさんがここのテラス席で優雅にコーヒー飲んでたら絶対笑いますよ」

P「くそっ、否定できねえ。俺も絶対笑う」

他愛無い話。その途中でプロデューサーさんが一瞬内側の胸ポケットに手を伸ばし、気付いたように手を戻す。

春香「プロデューサーさん、別にタバコ吸ってもいいんですよ?」


P「いや、遠慮しとく。ここ禁煙だし」

春香「じゃ、喫煙席に移動しましょうか? そっちの方が空いてますし」

P「俺がアイドルの前でタバコ吸ってるの見たことあるか?」

春香「確かにないですね」

P「そういうわけだ。気持ちだけもらっとくよ」

春香「…でも、そんなの関係ないんじゃないですか?」



春香「私は元アイドルなんですから」


P「俺に言わせてみれば復帰予定のアイドルかな」

春香「だから、アイドルに戻るつもりはないって言ってるじゃないですかー」

P「今そう言ってても、いつ心変わりするかわからんからな。それだったら春香だって、俺をプロデューサーって言うのは変じゃないのか?」

春香「ん~、でも、プロデューサーさんはプロデューサーさんですし」

P「なら、復帰の意思があるとみてもいいんだな?」

春香「もー、今はプライベートの時間なんですから、そういう話はよしてください」

P「…そうだな、悪かったよ」

そう言い、プロデューサーさんは少しさびしい顔をしながら、コーヒーをすする。一息つくと思いだしたように喋り始めた。


P「大学はどうだ? 楽しいか?」

春香「はい! とっても楽しいですよ!」

P「さすがに春香だったら、大学内ではすでに有名人だろう?」

春香「ん~、まあ、確かに視線は結構感じるんですけど…」

P「けど?」

春香「話しかけるとびっくりされるのはちょっと困るかなあ、なんて」


P「ははははっ、なるほど」

春香「うぅ~、笑わないでくださいよ。真面目な悩みなんですから」

P「悪い悪い。でも、それはしょうがないかもな」


P「春香は少し前まで、そういう存在だったんだよ」

思いつきで書いたんでここまでです。
ごめんなさい、明日早いんでもう寝ます。


春香「……」

プロデューサーさんは続けて言いたい言葉を飲み込むように、コーヒーカップを口に運ぶ。

P「それにしたってもう3日経つんだ、友達くらいは出来ただろう?」

春香「あ、それはもちろん! 入学式で隣に座ってた子と仲良くなって、今は大学内ではいつもその子といます!」

P「それはよかった。学科は同じなのか?」

春香「はい。だから、これから履修を組むのもお揃いにしようって」


P「友達と仲良く授業を受けるのもいいが、自分の向き不向きをよく考えて授業組めよ?」

春香「うー、そんなのわかってますよ。あ、写真見ます? すっごい可愛い子なんですよ!」

春香「はい、これこの前大学で撮った写真です」

P「どれ…ほう、確かに可愛いじゃないか。その気があるならスカウトしてるかもな」

春香「あ、プロデューサーさん、この子に手を出しちゃだめですよ!」

P「そんなんわかってるよ、春香がいるんだし」


春香「……え?」

P「ん?」

春香「そ、それってどういう…」

春香(まさか、え?)

P「春香がいるのに、せっかく仲良くなった友達を取り上げるのはかわいそうだろう?」


春香「……」

P「なんだその目は」

春香「…何でもないですよう」




P「ただいまー」

律子「お帰りなさい」

P「小鳥さんは?」

律子「備品の買い出しです。プロデューサーこそ外回りにしては遅い帰還ですけど」

P「ちょっと、スカウト活動をな」


律子「どうせまた、春香とお茶でもしてたんでしょ?」

P「そうとも言うな」

律子「そうとしか言いませんよ。どうでした、様子は?」

P「相変わらず元気そうだよ。大学生活を満喫してる」

律子「それは何よりです」


律子「…でも、いつかは戻ってきてほしいですね」

P「……」

律子「プロデューサーもそう思うでしょう?」

P「まあ…そりゃあ、な」

P「でも、春香にとって今の生活が望んでたもの。それが実現できてるならそれに越したことは無いさ」



~~~

P「よし、皆いるな」

真美「全体ミーティングなんて久しぶりだね!」

真「どうして、今日は全体ミーティングなんです?」

P「今日、皆に集まってもらったのは大事な話があるからだ」


響「大事な話? 大きな仕事でも入るのか?」

P「いや…仕事なんかよりも、もっとずっと大事な話だ」

亜美「兄ちゃん、さっきからテンション低いね~。あんまり嬉しくない話なの?」

P「…まあ、な」


律子「……」

千早「…律子、どうしてさっきからそんなに暗い顔してるの?」

律子「…すぐにわかるわ」

P「春香、前へ出てくれ」

春香「…はい」


やよい「? どうして春香さんが前に?」

春香「……」

貴音「…もしや、春香」

春香「…私、皆に言わなきゃいけないことがあるんだ」

雪歩「春香ちゃん…?」



春香「こうやって言葉にして、皆に伝えるのはすごい怖いんだけど…でも、言わなきゃ納得しないと思うから」

伊織「あんた、まさか…!」

春香「私…私ね」

美希「……」




春香「私、今日でアイドルを辞めます」



千早「……うそ」

真「……は?」

春香「多分活動できるのは今年の夏まで。そこで引退ライブをするつもり」

真美「……う、うっそだ~はるるん。いくら4月って言ったって、エイプリルフールはとっくに過ぎてるぞー!」

亜美「まったく、はるるんはドジっ子なんだから~。まったく、亜美達としたことが騙されるなんてはるるんも油断できませんなあ~!」

亜美・真美「あはははははははっ!」


春香「……」

亜美・真美「はははは…はは…」

春香「……」

亜美・真美「……」

亜美「…嘘じゃ、ないの?」

春香「ごめんね、二人とも」


伊織「ちょっと待ってよ! ついこの前ドームライブを成功させたばかりじゃない!」

響「そうだよ、春香! 自分たちこれからもっともっと活躍していくんじゃないのか!?」

春香「…そうだね、ドームライブは本当に楽しかった」

春香「でも、あのドームライブがあったから、私はアイドルを辞める決心ができたの」


真「何を言ってるんだ春香、あのドームライブよりも高いステージには上がれないと思ってるのかい!?」

やよい「確かにすっごく大変でしたけど、私達の力はまだまだこんなもんじゃなくて! ええっと…なんていうか、その…とにかくすごいところまでいけるはずなんです!」

春香「…うん、私もそう思うよ」

春香「私達は、このままずっと成長していけるはずだと思う」

真「じゃあ、なんで!」

春香「……」


伊織「プロデューサー!律子!社長! あんた達、なんで黙ってるのよ! 所属アイドルが辞めるって言ってるのよ!? 何とかするのが仕事でしょ!?」

高木「……」

律子「…そんなの、とっくにしてるわよ」

律子「でも、駄目。私と社長がどんなに説得しても春香の心は少しも揺らがなかった」

律子「この子は…本気なのよ」


貴音「春香、もしかしてこの事務所に、私達に何か問題があったのでしょうか?」

春香「ううん、そんなことないよ」

貴音「ならば、何故、誰にもその決心を教えてくれなかったのですか」

春香「…ふふ、貴音さんは痛いところつくなあ」

貴音「もし、私達に不備があったなら…! いえ、春香のその心持に気付けなかったこと自体が私達の落ち度です」

貴音「どんなことでも悔い改めます。ですから、もう一度だけ考え直してはもらえないでしょうか…?」


春香「…貴音さん」

貴音「なんでしょう?」


春香「私ね、この事務所が大好きなんだ」


春香「学校が終わって、電車に乗って、事務所に着くと誰かが居て」

春香「それで、私が挨拶する前に皆が挨拶してくれて」

千早「春香…」


春香「アイドルのお仕事して疲れて帰っても、同じように疲れてるはずの誰かが『お疲れ様』って言ってくれて」

春香「時にはぶつかりもするけど、そのたびに仲直りして」

春香「お互い高めあって、ステージが大きくなるたびにお互い喜んで」

律子「……」


春香「決心を固めた時、生きてきた今までで一番すごいことに気付いたの」



春香「私は、すごい恵まれてたんだなあって」


「……」

春香「私ね、アイドルを辞めたら本格的に受験勉強を始める」

春香「今まで走り抜けてきたアイドルの世界。そのまま息が切れるまで走り抜くのもいいけど」

春香「私は立ち止まって、別の世界も見ることにしたの」

春香「その為にはアイドルを辞めなきゃならないんだ」


あずさ「春香ちゃん、一つだけ…いい?」

春香「なんですか? あずささん」

あずさ「春香ちゃんはアイドルをするのが嫌になったから辞めるわけじゃないの?」

春香「いえ、アイドルは今でも私の中でかけがえのない大切なもの」

春香「でも、私はそれと同じくらい大切にしたいことがあります」

春香「だから、アイドルを辞めるんです」


千早「…春香」

春香「どうしたの、千早ちゃん」

千早「正直に言っていい?」

春香「うん」

千早「確かに、こんなデリケートなこと人に簡単に話すことなど出来ないわ」

春香「……」

千早「でも、それでも…」

千早「私にだけは…伝えて欲しかったっ…!」


春香「…ごめんね、千早ちゃん」

千早「…でも、私がそんなことを知ってもどうにも出来ないことは今、分かったわ」

春香「……」

千早「春香、それがあなたの決断なら」

千早「私はあなたが望むべき道に進めることを願うだけ」

春香「…うん。ありがとう、千早ちゃん」


美希「春香」

春香「美希、なあに?」

美希「美希的にはさ、どんなに残念なことでも、春香がきちんと決めたことならとやかく言う権利はないと思ってるの」

美希「だから、一つだけ言いたいこと言うね」

春香「うん」



美希「絶対、負けないから」


春香「……うん!」





~~~

律子「国立競技場ワンマンライブ、チケットは完売、一日の動員人数歴代最高」

律子「人気絶頂の中の引退ライブという付加価値がついているとはいえ、もはや伝説ですね」

P「ああ、きっとこの先アイドルで成し遂げるのは不可能だろう」

律子「うちのアイドルでもですか?」

P「はっきり言って無理だな」



P「国立競技場をライブ会場に使えたことも、多少延びたが5か月間という圧倒的に短い期間で下準備が出来たことも、会場のキャパが埋まったことも」

P「全部、春香が手繰り寄せた幸運さ」

律子「…幸運で済まされるレベルではないですね」

P「まあ、強いて言うなら…」


P「絶頂の真っただ中のトップアイドルがこの先、手にするであろう栄光の数々を全て犠牲にする」

P「きっと、そんな覚悟が目にとまったんじゃないかな」

律子「誰にですか?」

P「……アイドルの神様に、さ」

今回はここまでです
明日から三日間地獄に行ってきますので、生きていたら更新します
それまで待っていただけたら幸いです

お待たせしました再開します
今気付いたけど、スレタイおかしいね
正確には「今日」ではないね
ま、御愛嬌ということで




~~~

春香「っていう話があるんですけど、プロデューサーさんはどう思います?」

P「決まってるじゃないか」

入学から一カ月経とうとしているある日の午後。私とプロデューサーさんは、一月前と同じカフェで一月前と同じように他愛ない話をしていた。

P「どう考えても合コンだろ、それは」


春香「ですよねえ」

P「嫌なのか?」

春香「ん~、どうしても嫌ってわけでもないですけど」

P「まあ、進んでいくほどでもないって感じか」

春香「まあ、そうですね」


P「だったら、断ってもいいと思うぞ」

春香「でも、誘ってくれた友達も必死な感じがするから…」

P「友達ってのは例の?」

春香「はい、この前話してた子です」

P「ふむ、断ってしまったらメンツが潰れるか心配で曖昧な返事している、と」

春香「曖昧な、っていうか…」


P「もう行くって返事はしてしまったのか」

春香「だ、断定はしてないんですけど」

春香「多分行く、とは…」

P「それは失言だな。その子の中では、もはや春香は人数にカウントされてるぞ」

春香「っぽいんですよね…その、最近の会話の流れ、というか」

P「その子もその子で、本気で合コンとは思ってなさそうだしな」


春香「そうなんですか?」

P「春香は合コンってのはどんなもんだと思ってる?」

春香「そうですね…出会いの場、というか、気に入った異性を見つける場?」

P「そうだな。じゃあ、気に入った異性が見つかったとして、その人に気に入ってもらうにはどうすると思う?」

春香「ん~、自分をアピールする?」


P「その通り。だけど、合コンってのはあくまで男女の人数がそろってなきゃ始まるケースは少ない。それもある程度まとまった人数でな」

P「つまり、気に入った異性が他の誰かと被ってしまった場合、その誰かとのアピール合戦が始まるわけだ」

P「誰がそんな場に元トップアイドルを呼びたいと思う?」

春香「はあ。まあ、そうかもしれませんね。でも、だからって、私なんかが…」

P「反応が薄いな。じゃあ、春香、今好きな人はいるか?」

春香「うええ!? ど、どうしてそんな話になるんですか!」


P「いるのか?いないのか?」

春香「え、いや、その…」

春香「い、いますけど…」

P「そいつが参加する合コン。春香は参加したいか?」

春香「え、そりゃもちろん」


P「ところが、あと一人女の子側の人数がいません。その穴埋めに呼ぼうとされているのが、もし日本で一番可愛い女の子だとしたら、春香は来てほしいと思うか?」

春香「…いやぁ、来て欲しくは」

P「つまり、今春香が考えたことを他の人は考えるはずなんだよ。その友達が合コンだって理解していればな」

春香「ど、どうして、それが今回の話と…」

P「決まってるだろう」

P「春香はちょっと前までそういう存在だったからだよ」


春香「……」

P「少なくとも俺だったら、自分が意気揚々と参加する予定の合コンに、何万人も客を集める超人気トップアイドルの男なんて呼びたくはないね」

P「それが、例え元アイドルでもな」

春香「じゃ、じゃあ、もし私がその合コンに行ったら…」

P「間違いなく注目の的さ、男性陣のな」

春香「女性陣からは…」


P「まあ、少なくとも合コンだと理解してる人達からは総スカンを食らうだろうな」

春香「う~、じゃあ、私は女の子と仲良く出来ないかもしれないのか~」

P「でも、もしかしたら春香に会えたってことで案外気にしないかもな女の子も。むしろ仲良くしようとしてくれるかもしれん」

P「ま、どっちにしろ決めるのは春香さ。好きにしたらいい」


春香「……」

春香「あの、プロデューサーさん」

P「ん? なんだ?」


春香「プロデューサーさんは、どう思いますか?」

春香「私、行った方がいいと思いますか?」

P「俺だったらあまりお勧めしないかな。数合わせなら、その友達にも他の候補はいるだろうし」

P「わざわざお金かけて刺さるような視線や下心満載の視線を浴びる必要もないだろ?」

春香「……」

春香(違う、この人にはもっと直接的じゃないと…)


P「どうした、黙りこくって」

春香「いえ、あの…」

つばを飲み込む音、なかなか言葉が出てこない感覚、とても居心地が悪い。



春香「ぷ、プロデューサーさんは、私にそういうところには行って欲しくない…とか思ったりは」


春香「したりしてるのかな…って」



P「……」

波打つ鼓動、にじみ出る汗、気付けば周りの喧騒など耳には入らなくなっていた。

春香「わ、私としては、別に行っても行かなくてもいいんですけど!」

春香「もし、なんか、プロデューサーさんが私がそんなところに行くの心配だったり!」

春香「そんなこと思ってたりしたら…なんて」


P「……」

春香「あはは…」

P「…ふう」

プロデューサーさんは一度視線を下にずらし、一息ついてから私の目を見つめて言い放った。

P「さっきも言ったろ? 好きにすればいい」



P「俺はもう春香のプロデューサーでも何でもない。春香のしたいことに意見はしないし」


P「春香のしたくないことにだって意見はしないさ」





春香「……」

昼下がりの午後、自室に西日が射しこみ始める時間、私は自室で枕に顔をうずめていた。

春香(…私の、馬鹿)

~~~

春香「…プロデューサーさんは私の心配なんてしてないってことですか?」

P「心配されるようなことなのか?」


春香「そ、そうなるかもしれないじゃないですか」

P「そこまで分かってるんだったら、俺に意見を求める前に行かなきゃいいだけの話だ」

春香「だ、だから、それは…」

P「なあ、春香、俺もそこまで暇な人間じゃないし、春香だってもう子供じゃないだろう?」

P「アイドル時代みたいな春香のプライベート管理はもう俺の仕事じゃあない」


春香「……」

P「春香ももっと自分の考えをもってだな…」

春香「わかりました!」

胸に込み上げた感情を吐き出すようにテーブルに衝撃をぶつける。近くのテーブルからいくつもの視線を感じ取るが、そんなのは関係ない。

春香「どうせ、プロデューサーさんは普通の私なんてこれっぽっちも興味ないんですよね」


P「春香、場所を考えろ」

春香「だったら、もう私とは会わなきゃいいだけじゃないですか」

P「一旦落ちつけって…」

春香「中途半端に優しくして…ああ、そうですね、そういえばプロデューサーさんは私をスカウトしてるんでしたね」

春香「結局、興味があるのは元アイドルの私、普通の大学生の私には用は無いっていうことですか」


P「……」

春香「…何とか言って下さいよ」

やがて、集まった視線が散らばっていくころ、さっきまでの熱が嘘のように引いて行くのがわかる。それを察してか、プロデューサーさんも熱を冷ますかのように沈黙を続けた。

春香「…帰ります」


P「…行くのか?」

春香「関係ないじゃないですか」

P「酒はやめとけよ」

春香「…今更心配ですか?」

P「…さあな」



~~~

春香「もう、あのカフェには行けないなあ…」

春香「……」

春香(確かに、私も悪いけど…でもプロデューサーさんだって…)

春香「いや、やっぱ全面的に悪いのは私か…」

そんな思考を繰り返している内に流れ出す携帯電話。その着信画面を見てまた少しだけ落ち込む。


春香(そんなわけないよね…)

春香「もしもし」

「あ、春香? どうかな、この前の話」

春香「あれ、まだ私行くの決定してるわけじゃなかったんだ」


「あ~、確かに私は来て欲しかったけど、やっぱ大事なのは春香の気持ちだから」

春香「……」

「春香、正直乗り気じゃなかったでしょ? 無理させるのもな~って思って」

春香「…うん」


「じゃ、今回の話は無かったことで」


春香「…ちょっと待って」

「ん、どうしたの?」

春香「…やっぱり、私も行く」

遅筆でごめんなさい、今回もここまでです
ちょくちょく更新していくんで、気長にお待ちを



〜〜〜

P「お疲れ様でーす。ただ今帰りました」

真美「ただいまー!」

小鳥「二人ともお疲れ様ー」

真美「はぁー、今日も働いたぜー」


P「小鳥さん、あとの書類は俺が取り次ぐんで今日は上がりでいいですよ」

小鳥「そうですか? なら、お言葉に甘えようかしら。ちょうど約束があるし」

真美「お、ピヨちゃんこれからおデートかい?」

小鳥「そうねぇ、トップシークレット、とでもしとこうかしら」

真美「なぬ!? 」


真美「兄ちゃん!我らがピヨちゃんがどこの牛の骨とも知らぬ奴に取られちゃうYO!」

P「馬の骨、な。それにその可能性はないから心配するな」

真美「断言!?」

小鳥「ないんですか!?」


P「じゃあ、ほんとにデートなんですか?」

小鳥「いや、違いますけど…」

P「ほらな?」

真美「それにしたってその断言は酷いと酷いと思うよ…?」


P「どうせ、律子とでも飲むんでしょ?」

小鳥「あれ? 言いましたっけ?」

P「明日はオフで律子はすでに上がってますからね。それに」


P「小鳥さんがこれからデートなのに悠長に仕事してるはずがない」

真美「確かに!」

小鳥「二人とも酷い!」


小鳥「そんなことないもん!私だってデートを前にしてウキウキで私服を選んで結局後悔するような選択しちゃうほど余裕がないわけじゃないもん!」

真美「やけに具体的だね」

P「そんな見栄張る暇があるなら実際に相手を…」

小鳥「うぇ〜ん!もういいです!このこと律子さんに言いつけてやる!お疲れ様でした!」ガチャ!バタン!



真美「ガチ泣きしてたね…」

P「本当はただ単に律子から知らされてただけなんだけどな、言いそびれてしまった」


真美「でもさー、実際ピヨちゃんに彼氏が出来たらどう思う?」

P「祝福すべきじゃないか?」

真美「まあ、それはそうなんだけど。それで結婚して仕事辞めたりしたら寂しくない?」

P「寂しくないさ、小鳥さんが幸せになるならそれが一番なんだし」

真美「…なんか兄ちゃんってそういうとこドライだよね」


P「どこが?」

真美「なんていうか、自分本位じゃなくて他人本位に考えるところ」

P「どういう意味だ」

真美「例えばさー、今、真美に死ぬほど好きな相手が出来て、アイドルやめるって言ったら引き留めないでしょ?」

P「そんなことない。本当にそれでいいのか?みたいなことは聞くよ」


真美「それでもいい!って答えたら?」

P「まあ、諦めるな」

真美「ほら、そうじゃん」

P「だって、それが願望なんだろ?」


真美「そうだけど!…でも、そうじゃない場合だってあるじゃん」

P「どういう場合さ」

真美「こう…なんか、説明は出来ないけど…とにかく、こんなに仲良くしてるのに、そうやって冷めた対応されるのは悲しいの!」

P「仲良くなってるからこそ、相手のことを思って引くんじゃないか」


真美「むきー! 兄ちゃんの分からず屋! そんなんだからはるるんに愛想尽かされたんだよ!」

P「……」

真美「…あ」


真美「えっと、その、これは違くて…」

P「何が違うんだ?」

真美「別にはるるんが言ってたとかじゃないってこと」

P「……」

真美「はるるん、昨日落ち込んでたんだよ。そういう話を千早お姉ちゃんから聞いたんだ」

真美「昨日、はるるんは兄ちゃんと会ってたっしょ? だから、そこで何かあったんじゃないかって」


P「探りを入れたわけか」

真美「だ、だって、気になるんだもん!」

P「別に悪いことしてるわけじゃないんだから焦ることないさ。事実、愛想尽かされてるんだし」

真美「……本当にいいの?」

P「いいよ」

真美「そうじゃなくて、本当にこのままでいいの?」


P「……」

真美「さっき様子聞いたら、投げやりな感じだったよ? これから友達と居酒屋行くんだって」

P「ああ、行くことにしたんだな」

真美「知らない男の子も来るって言ってたよ。それって合コンってことじゃん」

P「そうかもしれんな」


真美「ガラじゃないって兄ちゃんだって思ってるっしょ? お酒飲むかもしれないんだよ?」

P「春香だって馬鹿じゃない。まだマスコミの探りが残ってるこの時期に未成年飲酒なんてしないよ」

真美「でも、万が一ってことが…」

P「そんなの春香の自己責任だし、俺が干渉することじゃない」

真美「……」

P「なんだその目は」

真美「…兄ちゃんの分からずや」




春香「ふぅ…」

一通り質問攻めされた後、席を外した私は部屋に戻るなり一番端っこの位置に座った。

春香(こうなることは分かってたけど)

春香「やっぱり、ガラじゃないよなあ…」

ため息をつきながら普段あまり飲まないウーロン茶を飲む。消去法で選んだ飲み物ではあったが、妙な味がする気がしてあまり進まない。


「ね、君って本当にアイドルの天海春香なの?」

春香「え? はい、そうですけど…」

さっきの質問攻めの時には見なかった顔。落ち着いた感じの雰囲気が少しだけあの人に似ていた。

「やっぱりそうなんだ。いや、俺、遅れて入ってきたんだけど、向かってる途中に知り合いから『アイドルの天海春香が来た!』って連絡が来てさ」

「何バカなこと言ってんだ、って思ってたけど。まさか、本当にいるとは…」


春香「そう、ですか」

第一印象で予想していたよりも気さくな人、というよりかは口が回る。でも、嫌な感じはしない。

「あ、自己紹介が遅れてたね。俺の名前は…」




P「……」

真美「……」

P「いい加減帰れ」

真美「今日は兄ちゃんと帰るって家に言ってあるもん」


P「…別にそんなことしたって、何の意味もないぞ」

真美「意味なんてないもーん…あ、はるるんから返事来た。画像も送られてる」

P「……」

真美「興味ないの?」

P「少なくとも、今やってるデスクワークの方が興味はあるな」

真美「…はぁ」


真美「…まあ、でも、はるるん楽しそうではあるよ。意外と上手くやってそうだね」

P「そうか」

真美「お酒も飲んで無いみたいだよ。ウーロン茶飲んでる」

P「…ストローは刺さってるか?」


真美「ストロー? 別に刺さってないけど…」

P「……」

真美「それがどうしたの?」

P「いや、別に…」

今回もここで終わりです
スローペースすぎワロエナイ
放置でHTML化という最悪のケースは絶対避けますので気長に待ってて下さいな


春香「……ん」

誰かに肩を組まれている感覚で目を覚ます。組まれている、というよりかは私が一方的に寄りかかっている感覚に近い。

春香「……誰?」

小さな声で呟く。返答は無い。


春香「…あ…うん」

「忘れ物はない?」

春香「…ん、多分」

目の焦点が合わない。自分が何を言っているのかも曖昧。ただ、ふわふわした感じが頭の中を張り巡る。


「……春香」

春香「……なに?」



「…俺は春香のこと」





春香「……んん~…」

目を覚ますと温かい感覚に包み込まれている事に気がつく。そのままの体勢で周囲を見まわすとそこが自室であることを理解する。

春香「……ん?」

春香(なんで私布団の中にいるの?)


記憶を探る。自分で寝床に着いた記憶がない。というか、家に帰ってきた記憶すらない。

春香「…何時?」

(…11時か。…今日は日曜だから、学校ないよね)

ほっと一安心して、二度寝をしようと布団にくるまる。が、抜け落ちた記憶をぼんやり探ってみると重大なことを思い出した。

春香(……あれ、私、昨日誰かに抱えられてなかったっけ?)

春香「それも何か…とんでもないようなことを言われたような…」



ものすごい勢いで上半身を起こす。先ほどまでの眠気は全て消えてなくなった。

春香(だ、誰!? あの時の人!? た、確か頭が変な感じで自分でも何言ってるか分からなくて…)

春香「私、あの時何て返事したっけ…?」

身震いがする。言われた記憶は思い出せても、自分がなんと返答したかも思い出せない。

悩み抜いた末、ハッとするように携帯を探す。鞄の中にしまってあった携帯にはいくつかの着信が知らされていた。


「…もしもし、春香?」

春香「も、もしもし…」

「今、家にいるの?」

春香「う、うん…」

「はー、よかった。無事に帰れたのね」


「春香、すごい酔っぱらってたから、まともに歩けてなくて…」

春香「え、酔っぱらう…? ってことは私」

「知らないうちにお酒飲んでたっぽいのよね。自覚なかった?」

春香「私、ウーロン茶しか飲んでな…あ」

春香(妙な味のウーロン茶…もしかしてあれは)


「…間違えたのね」

春香「た、多分…」

「……」

春香「ご、ごめん、心配かけて…」

「謝るのは私よ。私が無理やり誘ったから…」

「アイドルを辞めてるとは言っても、春香はまだまだ有名人なのに」


春香「だ、大丈夫だよ! 一応、感じは変えていったし! あの場にいる人はみんな知ってるけど」

「……でも」

春香「そ、それよりもさ! 聞きたいことがあるの!」


「なに?」

春香「わ、私さ…すごい酔っぱらってたみたいだけど、誰かに担がれたりしてなかった?」

「えと…名前は分からないけど、ずっとしゃべってた男の人いたでしょ? その人に店を出るときに…」

春香「ずっとしゃべってた人……あ」

春香(あ、あの人…プロデューサーに雰囲気が似てた人)


「すごい、春香のことを気に入っててさ、気がついた時には二人で店を出ようとしてたの」

「会話は聞こえてなかったけど、間違いなく口説かれてたわ」

春香(やっぱり…)

「心配してたんだけど、私も酔いが回ってて頭が働かなくて…」

春香「そ、そうだったんだ…」


春香「あの…もしかしてさ、その人が私を家まで送ってくれたのかな?」

「あ、それは違うよ」

春香「え?」

「春香を送ってくれたのはきっと…」





P「待たせたな」

春香「お疲れ様です。仕事は大丈夫なんですか?」

P「ああ、ひと段落ついたところだよ」

陽気な昼下がりの午後、プロデューサーさんが軽く背伸びをしながらこちらに歩み寄ってくる。


春香「吸わないんですか?」

P「吸わないよ」

春香「いつもここで吸ってるじゃないですか」

P「灰皿がないんだよ」

春香「前に使ってたバケツは…」

P「なくなった。というか、移動した」


春香「そうなんですか?」

P「いちいち屋上まで上がって吸ってる俺を見かねて、社長が喫煙所を作ってくれたんだよ。非常階段にな」

春香「そうなんですか…」

P「そうなんだよ」

春香「……」

P「……」


やがて気まずい沈黙が二人を包む。プロデューサーさんはそれを察してか、私の心の準備を待つように遠くのビルを眺める。

春香「…昨日、どこかでお酒飲んでました?」

P「ああ、飲んでたよ」

春香「もしかして、…って名前の居酒屋ですか?」

P「ああ、そうだ」

春香「偶然ですね、私、昨日そこにいたんですよ」

P「偶然だな」

春香「ええ、本当に…」


春香「ええ、本当に…」

春香「…どうしてわかったんですか?」

P「何が」

春香「私がいた居酒屋です」

P「別に、ふらっと入ったらたまたま居合わせただけさ」

春香「すごい偶然ですね」

P「すごい偶然だな」


春香「…ありがとうございました」

P「何がだ?」

春香「家まで送ってくれたみたいですね。友達と母に聞きました」

P「別にどうってことないさ」

春香「……どうってことなんか、ないです」

P「……」

春香「私にとってはどうってことなんかじゃないんです」


ばつが悪そうな顔をするプロデューサー。それでも私を言葉を続ける。

春香「私、やっと気づいたんですよ。本当にやっと」

P「何にだ?」



春香「プロデューサーさんが鈍くないってこと」


P「……」

春香「鈍くないからこそ、それを知った時のショックも大きいですけど。でも、そう考えるといくつか納得することが出来て」

春香「昨日のこともただ、純粋に心配して様子を見に来てくれたってだけじゃないことにも気付けて」

春香「私の気持ちを分かっても、それでも駆けつけてくれたことがすごい嬉しくて」

春香「例え、届かないとしても…」


P「……」

春香「あはは…ほんとすみません、私ったらプロデューサーさんを困らせてたみたいで」

P「……もういい」

春香「今まで私、散々迷惑かけてたことにようやく気付きました」

P「……いいから」

春香「あ! でも、私諦めるつもりじゃな…「いいかげんにしてくれ」



春香「……え」


P「うんざりなんだよ、もう」




割と真面目に遅くなってごめんなさい(土下座
ぶっちゃけて言うと次回の更新も遅いです
でも絶対に落とさないです
それだけは信じて下さい
ではでは



~~~


春香「…もう夕方か」

外の景色が紅みがかってくる頃、私はベットで横になっていた。

何も今に始まったことではない。一日中、いや、昨日の夜からずっとこの状態である。

春香(…初めてだな、大学さぼったの)

ふと上半身を起こし起床した時のように背伸びをする。目をこすると少し腫れぼったい感覚がした。

春香「……」


~~~

春香「そ、それって…どういう」

P「どうも何もないよ」

P「そう思われるとうんざりする、それだけだ」


春香「迷惑ってことですか?」

P「迷惑? いまさら何を言ってるんだ」

P「そうに決まってるだろ」

春香「っ…!」

胸が痛い。言葉が出ない。想定していた返答とはおよそ正反対の言葉が私の体を貫いてゆく。


春香「…わ、私、プロデューサーに何かしましたか?」

P「してきた…? もちろん、してきたじゃないか」

P「数えきれないほどの受賞、TV出演、ミリオンヒット、そして伝説となった国立競技場でのライブ」

P「春香はたくさんの夢を俺に見せてくれたさ」

春香「ち、違います!」

P「何が違うんだ?」

春香「そうじゃなくて…私がプロデューサーさんに何か気に障ることをしたのかどうか…」


P「……」


P「春香が…俺を好きになったことだよ」


春香「……!」


P「…いつ気付いたのか。それすらも覚えてない。ただ、気付いた時にはもう遅かったな」

P「春香がアイドルを辞めると言いだして。途端に自分のしでかしたことに絶望したよ」

P「俺はとんでもないことをしてしまった、と」

春香「そ、そりゃあ、残念に思うことはあるかもしれませんけど、それは少し大袈裟じゃ…」

P「大袈裟じゃない」

P「俺の中では…この世の終わりみたいなもんさ」


春香「ど、どうしてそこまで…」

P「…俺はな、春香」

P「春香のことが世界で一番好きだったんだぜ」

P「『アイドルの天海春香』がな」

春香「……!」


P「どこまでも輝いていて、どこまでもまっすぐで、見た人すべてを虜にする」

P「このままどこまでもいけると思ってた。春香を止める存在なんていないと思ってた」

P「日本中が、いや世界中が天海春香の持つ力に夢を見ると思ってたさ」

P「それがまさか…俺自身の所為でこんな結末になっちまうとはな」


春香「…だから、プロデューサーさんは」

P「迷惑だって言ってんだよ」

春香「……」

P「俺自身思い出したくないんだ。やっと、踏ん切りがついてきた頃なのに」



春香「…居酒屋で助けてくれたのは」


P「復帰した時に未成年飲酒なんてバレたらまずいからな」



春香「…いつも、私の相談に乗ってくれたのは」


P「そのうち気持ちが変わって、アイドルに復帰することにならないかなって」


春香「…私の進路に熱心になっていたのは」


P「スムーズに大学に行けば、その分心にゆとりが持ててアイドルとの両立を考え始めるかも知れないだろう?」



春香「…アイドルを辞める、と言った時に反対しなかったのは」


P「決意が固いようだったし、無理に引きとめたら逆効果だと思った。復帰させる方が確率が高いと思ってな」





春香「……『アイドルじゃない天海春香』には」




P「興味は無いよ」



今回の投下はここまでです!
次の投下で終わらせることを目標に頑張ります!(終わらせるとは言ってない)

帰宅、今から書き始めます


小鳥「は~、今日も頑張ったし今日はゆっくり休もうかしら~…ん?」

小鳥「あそこにいるのって…春香ちゃんかしら」


春香「うっ…ぐすっ…ひぐっ」

小鳥「春香ちゃん、こんな遅くに公園で…」

小鳥「って、どうしたの!? 何で泣いてるの!?」


春香「ぐすっ…小鳥さん…?」

小鳥「と、とりあえず、鼻かみなさい! ほら、これ!」

春香「こ、小鳥さああああああああん!!!」

小鳥「ぴ、ぴよお! 春香ちゃん! 私百合は大好きだけど、私自身をカップリングするのは考えてな…」

春香「うわああああああああああん!!!」

小鳥(あ、これ意外と捗るかも…)

小鳥「じゃなくて! 春香ちゃん、一回落ち着いて! 胸ならいくらでも貸してあげるから! 胸に自信があるとかじゃなくて! いや、意外と自信はあるんだけど!」



~~~


春香「ひっく…ごめんなさい、みっともないとこ見せて…」

小鳥「ぴよお…」

春香「小鳥さん…?」

小鳥「あ、いや、妄想なんかしてないわよ! ただ、ちょっと未経験なゾーンだったからびっくりしちゃって!」

春香「…そうなんですね、よくわからないですけど」

小鳥(な、流された!)


春香「……」

小鳥「…春香ちゃん、何があったの?」

春香「…いえ、何でもないんです」

小鳥「何でもないわけないじゃない。こんなに目を腫らして…」

春香「……」


小鳥「なんだったら今からプロデューサーさんに連絡して…」

春香「だ、だめ! だめです!」

小鳥「……」

春香「あっ…うぅ」

小鳥「プロデューサーさんに関することなのね」

春香「……私が悪いんです」



~~~


小鳥「なるほどねぇ」

春香「私が軽率な判断をしたからプロデューサーさんを苦しませる結果に…」

小鳥「ん~…」

春香「私、これから何を目標に生きていけばいいんでしょう…」

小鳥「いや、違うな…そうじゃなくて」

春香「こんなこと聞いても迷惑なだけですよね、ごめんなさい…」

小鳥「……うーむ、これしかないか」


春香「……小鳥さん、また妄想ですか?」

小鳥「ち、違うわよ! 今はちょっとまじめに考えてて!」

春香「まじめに考えるって一体何をですか?」

小鳥「……やっぱり見せた方が早いわね」

小鳥「よし! ちょっと律子さんに電話するから待ってて!」

春香「律子さんに…?」

小鳥「…あ、律子さん! ちょっと、頼みがあるんですけど…」



~~~


律子「じゃ、今日もお仕事お疲れさまでした!」

P「……」

律子「かんぱーい!」

P「俺を事務所から連れ出してどういうつもりだ?」

律子「私はプロデューサーを飲みに誘っただけです」

P「有無を言わさず、パソコンをシャットダウンしといて何を言ってるんだ」


律子「データはきちんと保存してから電源落としたじゃないですか」

P「先に俺の手を拘束しておいてな」

律子「まあまあ、とりあえず飲んで下さいよ」

P「……」

律子「また、春香と喧嘩したんですって?」

P「…喧嘩で済めばいいんだけどな」


律子「まったくもー。プロデューサーも本当に頭が固いですよねぇ」

P「律子に言われたくないな」

律子「あら、私はいつでも柔軟に生きてますよ。誰かさんの無茶ぶりに応えるぐらいには」

P「いつまで根に持ってんだその話」

律子「そうですねぇ…プロデューサーが私と同じ経験をするまでですかね」

P「馬鹿言うな、俺に衣装着てステージで歌って踊れってのか」

律子「見てみたいですね。意外と歌うまいし」


P「馬鹿馬鹿しい…」シュボッ

律子「…プロデューサーって私の前ではためらいなくタバコ吸いますよね」

P「嫌だったら消すよ?」

律子「職業柄慣れてますよ。ライターは常備してますし」

P「さすが律子」

律子「意外と喫煙所での情報は頼りになりますからね」

P「それはよく分かるよ。俺がタバコを止めない言い訳の一つだ」


P「それに律子はアイドルじゃないしな」


律子「…そう言われると少しだけ感慨深くなりますね」

P「復帰を考えるって言うなら今すぐ箱ごとゴミ箱に捨ててくるよ」

律子「禁煙するなら考えますね」

P「そりゃ無理だ」

律子「諦めはや!」

P「…でも、本当に考えるって言うなら止めれるかもな」


律子「……」

P「どうだ?」

律子「……ちょっと揺らいだけど、復帰はやっぱり無理ですね」

P「まあ、そうだよな」

律子「今はプロデュースをしている自分以外の姿をイメージできませんから」


律子「きっと春香も同じ想いなんでしょうね」

P「……」

律子「…プロデューサーは春香のこと、好きですか?」

P「…好きだよ」

律子「『アイドルの天海春香』が?」

P「……」





P「…『一人の女の子としての天海春香』がだよ」






~~~


春香「どうして事務所に…」

小鳥「いいからいいから、ちょっと待ってて」

春香(さっき律子さんに電話してたのは、プロデューサーさんを連れ出す為だったのかな…)

小鳥「確かここら辺に…あった!」

春香「? なんですか、この段ボール箱…」

小鳥「開けてみればわかるわ」


春香「……これって」

小鳥「何だかわかる?」

春香「……大学のパンフレットです。それも全部私が受験しようか迷ってた大学の」

小鳥「プロデューサーさんには捨ててくれって頼まれてたんだけどね」

春香「……」

小鳥「ページも開いてみて」


春香「……」

どの冊子にもところどころ赤いペンで書き込みが書かれていた。



『キャンパスが綺麗で開放的。学生も非常に活発で明るい雰囲気』


『女の子の比率が多く春香とも仲良しになれそうな明るい子たちばっかりだ』


『少し硬い印象。春香のイメージの考えていたイメージとは少し違うと思われる』


『伝統を感じる年季が入った学内。校舎の中や設備は綺麗で最先端』


小鳥「オープンキャンパスが開かれてた頃、春香ちゃんとても忙しかったでしょ? 時間を見つけてはプロデューサーさん足を運んでたのよ」

小鳥「さすがに女子校に立ち入るのは気が引けたみたいで私に泣きついたわ。まあ、それで私も初めて知ったんだけど」

春香「……」

小鳥「少し心配だったんだけど、意外と入れるものね~。私って今でも女子高生で通用するのかしら」

春香「……」

小鳥「春香ちゃん、ここ突っ込むところよ」


春香「ご、ごめんなさい、ちょっと言葉が出なくて…」

小鳥「まあ、無理もないわよね。箱の底も漁ってごらんなさい」

春香「底、ですか?」

言われて大量のパンフレットに隠れた部分を探ってみる。すると見慣れた赤い本が何冊か見つかった。

春香「赤本…私が受験した大学の」


私が持っている赤本とは違い、数えきれないほど付箋がされた赤本。開いてみるとそこには事細かにその大学の出題傾向や似たような問題の案内が記載されていた。


小鳥「全問解いたんですって。さすがに律子さんの手も借りていたみたいだけど」

春香「……」

春香(これなんて、私にはレベルが高すぎて全然活用しなかった本だ…)

小鳥「プロデューサーさん、かなり良い大学出てたみたいだけど、受験勉強なんて十年数年ぶりだからすごい苦労したって言ってたわ」



~~~


P「俺は邪魔なんだよ。春香の世界にとって」

P「春香がアイドル以外の道を見つけた。複雑な気持ちではあったが、新しい道を歩んでくれるのはすごくうれしかった」

P「でも、その中心が俺じゃ駄目なんだよ。もっと、春香には広い世界を見てもらいたい」

P「トップアイドルの春香は俺みたいなつまらない男にかまってちゃ駄目なんだ」


律子「その結果がこのザマですか」

P「返す言葉もないな」

律子「ほんっとにつまんないですね! プロデューサー!」

P「その通りだよ。俺は…」

律子「そんなこと言ってるんじゃないんですよ、私は!」


律子「人のノロケ話聞いてるのが退屈でつまんないって言ってるんですよ!」


P「お、俺がいつノロケ話なんて…」

律子「いいですか、プロデューサー! そのつまんない男に惚れたのはどこの誰ですか!」

律子「あんたは知らないけど、春香にとってはプロデューサーが世界のすべてでこれ以上ないくらい広い世界なんです!」

P「あ、あんたって…」

律子「それをぐちぐち俺なんかにかまってちゃいけないだの春香の為にならないだの」

律子「そんな話を聞かされる独り身の気持ちも考えて下さいよ!」

P「す、すまん」


律子「あーもう! 私に謝ってどうするんですか! ほら、行きますよ!」

P「行くってどこに…」

律子「そんなん決まってるでしょーが!」

律子「店員さん、お会計! お釣りはいらないから!」

P「律子、もしかして酔ってる?」

律子「いいから、行きますよ!」



~~~


小鳥「一回同じ電車に乗り合わせた時なんか英単語帳持ってたのよ」

小鳥「必死に暗記してるプロデューサーさんの姿を遠くから見てたら私吹き出しちゃって…」

春香「そう…だったんですか」

小鳥「休みの日には自宅のパソコンに向かってサテライト塾の授業を受けてたんですって」

小鳥「その話聞いた時なんか、私笑い通り越してドン引いちゃって」

小鳥「あっけにとられてる私の顔を見て『何かおかしなこと言いましたか?』なんて言ったのよ」


春香「……」

小鳥「アイドルに復帰させる算段だとしても、果たしてここまでする必要なんてあるのかしらねぇ」

春香「……馬鹿だなぁ」

小鳥「本当に底なしの馬鹿よねぇ、いくら春香ちゃんに勉強を教えたいからってここまでするなんて」

春香「…いや、違うんです」

春香「私、本当に馬鹿だなぁって…」


小鳥「……」

春香「知った気になって、納得した気になって、私プロデューサーさんのこと何にも分かってなかった」

春香「何で気付かなかったんだろう…」

小鳥「春香ちゃん…」

春香「……グス」



P『ちょっ! そんなに押すなって! 酒癖悪いな律子!』


律子『いいから…「入りなさいっての!」ガチャ!ドサァ!


P「いてて…」

小鳥「あらま、噂をすればなんとやら」


春香「…プロデューサーさん」

P「……春香、とりあえず場所を移そう」

春香「…そうですね」

作者とISP・地域が同一の書き込みがあるため保留
春香「私、今日でアイドルを辞めます」
春香「私、今日でアイドルを辞めます」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438449321/)
2016/06/11(土) 15:26:43.23

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