村娘「勇者様ですよね!」勇者?「違うが」 (199)
村娘「お願いします、助けて下さい!!」
勇者?「……」スタスタ
村娘「麓の村が襲われてるんです! 早くしないと……っ」
勇者?「わざわざご苦労だな、こんな山の中まで」
村娘「勇者様! お願いです!」ガシッ
勇者?「そもそも俺は勇者じゃない」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1438253350
村娘「え……でも、村長は勇者って」
勇者?「年寄りの勘違いだろうな」
村娘「……じゃあ、『水浴びしていた女の子達を魔物から助けた』という話も?」
勇者?「6年は前の話だな」
村娘「勇者様ですよね!」
勇者?「……違うが」
勇者?「悪いが帰れ、今はそんな気分になれないんだ」スタスタ
村娘「……何でもします」
勇者?「なら帰れ」ザッ
< トントントントン
村娘「……」
勇者?「…」
村娘「何を作ってるんですか……」
勇者?「墓標だ」ザクッ
村娘「お墓……誰か亡くなったんですか」
勇者?「昨夜息を引き取ったんだ」
村娘「そのせいで、助けてくれないんですか」
勇者?「そうだ」
村娘「………帰りません」
勇者?「……」
勇者?「ほら」スッ
村娘「?」
勇者?「水だ、ここまで歩いて疲れたんだろ」
村娘「走って来ました」ごくっ
勇者?「どの位だ」
村娘「………昨日のお昼から」
勇者?「悪いがやっぱり諦めろ」
勇者?「今の言葉で大体分かった、村に帰れ」
村娘「どっ、どうしてですか!?」
勇者?「半日以上かかる距離な上に今から行っても2日は経つ、となれば村はもう放棄されたか死んでる」
勇者?「『無駄』なんだよ」
村娘「……~~!」
勇者?「怒りたければ怒れば良い、帰れ」
【翌朝】
勇者?「……」ガチャ
村娘「…zzZ」
勇者?(まだいたのか)
くいっ
勇者?(足の靭帯がおかしいな、帰れないのか)
勇者?(切れてはない、となれば3日で歩けるな)
村娘「……ぅん……? ここはっ?」ばさっ
勇者?「よく寝てたな、もう日暮れだ」
村娘「勇者様…!」
勇者?「違うと言ってるのにな、ほらカレーだ」
村娘「ドロドロ……してる、何ですかこれ…?」
勇者?「甘口にはしてる、食べろ」
村娘「は、はいっ」
村娘「ご馳走様でした、美味しかったです」
勇者?「なら寝ろ、少しでも早く足を治して帰れ」
村娘「待って下さい」
勇者?「なんだ」
村娘「……治してからなら、一緒に来てくれますか」
勇者?「考えてはおこう」
【深夜】
村娘「……」
< 「………、……っ」
村娘(?)ムクッ
村娘(……声が聞こえる)
< 「……ぁ、あっ…あ……んぁ ♥ 」
村娘「~!?」ビクッ
村娘(……)
村娘(ちょ、ちょっとだけ覗くなら……)ギィ
< 「ぁあ ♥ ふ、んっ ♥ ……今、あの娘起きたみたいよ」
< 「なに?」
村娘(!!)バサッ
村娘(~~っ)がたがた
< ガチャッ
村娘(…)
< ひた…ひた……
村娘(…………)ドクン…ドクン…
< すっ
村娘(……!)ドクンドクンドクン…!
< なでなで
< 「……問題ない」
村娘(……?…)ドクンドクン
【翌朝】
勇者?「跳んでみろ」
村娘「…」ぴょこ
勇者?「2日で治ったか、良かったな」
村娘「……」
勇者?「なんだ」
村娘「いえ、ご結婚されてたんですか」
勇者?「独り身だ、山で狩りしながら暮らしてるだけのな」
勇者?「何故そんな事を聞いた」
村娘「いえ、何でもないです……」
勇者?「……」スタスタ
< ガチャッ
村娘(勇者様……と、誰かいたような気がしたのに)
村娘「って、勇者様! 私の村は!?」
勇者?「その容器に入れろ」コトッ
村娘「え? あの、これって」
勇者?「ナイフは消毒してある」
村娘「えっと……どうすれば…」
勇者?「『血』を採れ、死なない程度にな」
村娘「!?」
村娘「っ……これで良いですか」
勇者?「………」
村娘(やくそうがあるから良かったけど、頭がクラクラする)
勇者?「麓の村まで行く、ついて来い」
村娘「本当ですか! ありがとうございます!」
勇者?「言っとくが、丸3日経ってる以上ある程度の事は覚悟しろ」
村娘「……はい」
勇者?「仮に、魔物が村にまだいたとしても俺は戦わないからな」
村娘「え……」
勇者?「見つかれば死ぬ、そう考えてろ」
村娘「でも、勇者様なら勝てるんじゃ…!」
勇者?「勇者じゃないから戦わないという意味に気づけ」
< ザッザッ・・・
勇者?「この滝の下に村があるんだったな」
村娘「はい、滝の内部にある洞窟と山道を経由して降ります」
勇者?「時間がかかり過ぎる、エレベーターでも作ったらどうなんだ」
村娘「えれ……べーた?」
勇者?「……何でもない、とにかくこの滝を一気に降りるぞ」
村娘「ちょちょちょちょっ!!? やだやだ勇者様やめて降ろしてぇ!!」
勇者?「暴れるな」
村娘「無茶です!! 高過ぎます!!」
勇者?「黙ってろ、舌を噛むぞ」バッ
村娘「きゃぁあああーーー飛んだぁぁあああ!!?」
勇者?「少しは静かに出来ないのか」
村娘「~~~!!」
勇者?「……」
─────── シュルッ
勇者?「着地するから掴まってろ」スッ
< ピタッ
村娘「……止まった…?」
勇者?「動くなよ、落ちたくないならな」スタスタ
村娘(空中を歩いてる!?)びくっ
< グラッ
勇者?「動くな」
村娘「は……はぃっ」
勇者?「着いたぞ、離れろ」ぱっ
村娘「きゃっ」ドサッ
勇者?「静かにしろ」
村娘「~! いくらなんでも…むがっ?」
勇者?「……来い」バッ
村娘「むー! むー!?」ズルズル……
勇者?「………」ガサッ
サキュバスA「それでね、さっきなんかまた加減できなくて1人死んじゃって……」
サキュバスB「下手なのよ貴女、人間は興奮し過ぎると死んじゃうのよ?」
サキュバスC「んー、またお腹空いたからシてこよーかなー」
サキュバスB「貴女もいい加減やめなさいよ、まだ複数の人間に犯されるのが好きなの?」
サキュバスC「うっさいなー、久しぶりの男なんだもん」
勇者?「……魔物とは聞いていたが、サキュバス?」
村娘「はい」
勇者?「殆ど無害な相手だろう、男を1人ずつ相手にしてやれ」
村娘「な、何言ってるんですか? サキュバスは男性の精だけじゃなく命も奪うんですよ!」
勇者?「………」
勇者?「……とにかく暫く様子を見る」
村娘「!」
< ガサッ
サキュバスB「?」ピクンッ
サキュバスC「どーかしたー?」
サキュバスB「何でもないわ」
サキュバスB「じゃあ私は少し寝るから、貴女達は楽しんで来なさい」
サキュバスA「私も!? いや、まあ……確かに小腹が空いたかも」
サキュバスC「よーし! ヤリますかー♪」バッ
サキュバスB(やれやれ……どの若いサキュバスもプライドがないわね)
ファサァッ!
サキュバスB(まあ仕方ないかもしれないわ……本当に久しぶりだものね)ヒュバッ
サキュバスB「……」
< バサッバサッ
サキュバスB(よくこんな辺境に村があったわね、奇跡とも思えるわ)
< スタッ
淫魔兵「お帰りなさいませ」
サキュバスB「ご苦労」
淫魔兵「先程、再び暴れ出した人間の雌を何人か処刑しました」
サキュバスB「そう」スタスタ
サキュバスB(面倒くさい女達……男達は満足してるのにね)
村娘「そんな……女の人達が殺され…?」
勇者?「あくまで一部だとは思うが」
村娘「勇者様! もうのんびり見てる場合じゃないですよ!?」
勇者?「……」ガサッ
村娘「あっ……」
淫魔兵「ん? 何だ貴様、小屋に戻れ!」チャキ
勇者?「武装はしていても『淫魔』クラスのサキュバスか、その程度でよく粋がるな」
淫魔兵「!」
淫魔兵「下がれ、斬り裂かれたいのか!」
勇者?「下がるのはお前だ、『最下級位』で太刀打ち出来ない時点でさっきのサキュバスを呼んだ方が賢明だぞ?」
シャキン!
淫魔兵「……黙れ人間風情が」
勇者?「……」シュルッ
勇者?「最後に警告するぞ? 下がれ淫魔」
淫魔兵「殺す……!!」
< ギチッ
淫魔兵「!?」ピタッ
勇者?「しばらくそこで喚いてるしかないぞ?」
淫魔兵「馬鹿な、魔法障壁すら発動する間もなくこの私が封殺されるなんて……!」
勇者?「材質は『ミスリル銀』、付加した属性は『処女の血』による対淫魔属性だ」
勇者?「『 ワイヤー 』なんて代物は初めて見たろう、使い方さえ上手くすれば淫魔クラスは生け捕り出来る」
淫魔兵「くっ、敵襲だ! 誰か来てくれー!」
勇者?『お前はそこにいろ』パクパク
村娘(凄い……流石は勇者様ですね、分かりました!)こくっ
勇者?(『あいつ』が死んでから面倒な事ばかりだな全く)
< スタスタ
勇者?(ああ、面倒だ)
勇者?(こっちはそれほど余裕のある心象では無いというのにな)
サキュバスB「何事?」
淫魔兵B「敵襲のようです! 相手は1人ですが、妙な力で淫魔兵が次々と戦闘不能に…」
サキュバスB「私が出ます、貴女達は他の『夜魔』クラスのサキュバスを呼んで下さい」
淫魔兵B「はっ!」
サキュバスB(…『淫魔』クラスとはいえサキュバス相手を軽く戦闘不能? 何者なのかしら)
勇者?(来たか)
サキュバスB「貴方が侵入者ね、何者なのかしら?」
勇者?「何者かは関係ないな、俺は今現在この村に来ている中で最も賢いお前と話したかった」
サキュバスB「……」
サキュバスB(武器は無し、防具らしい防具も無し……)
サキュバスB(………)
勇者?「なぜ、お前達サキュバスがこんな村にいる? 『城』で何かあったのか」
サキュバスB「!!」
サキュバスB「……貴方、何者なの……ただの人間が知ってる筈ないわ」
勇者?「答えろ」
サキュバスB「貴方こそ答えなさい、どこまで知っているの? 『戦争』は知っているの?」
勇者?「………」
勇者?「戦争が起きているのか、何と戦っている?」
サキュバスB「人間に私達魔族が戦争を仕掛けたのよ、もう50年は前になるわ」
勇者?(…なるほど)
サキュバスB「戦いは最初のうちは魔族が優勢で、私達も『城』で安全に暮らしてたわ」
サキュバスB「……でもね、ある時魔族が急に弱くなったの」
勇者?「……」
サキュバスB「知ってるかしら? 今サキュバスを孕ませる事が出来る『インキュバス』が1人しかいないのよ」
勇者?「まさかそのインキュバスしかいないせいで魔族の数が激減してるのか」
サキュバスB「ええ、しかもそのインキュバスが『魔王』としか性交しないから……」
勇者?「魔王か、となると減る一方みたいだな」
サキュバスB「……何でも知ってるのね、貴方」
勇者?「いいや知らないな、お前達がここにいる理由はなんだ」
サキュバスA「あ! いたよ!!」
サキュバスC「人間だ!」バサッ
勇者?「あの2人も見たところ戦士ではないみたいだしな」
サキュバスB「……実は…」
勇者?「人間が数の力で押し返して来た結果が、弱いサキュバス達の追放という避難措置か」
勇者?「そこまで人間が戦えるとは驚きだな」
サキュバスA「ま、所詮は数の差だけだと思うケド」
サキュバスB「住める場所を見つけても上位のサキュバスが占領してたり、人間の軍があったり……」
サキュバスB「いよいよ諦め始めた時、この村を見つけたのよ」
勇者?「………」
サキュバスB「さあ、これで満足なら貴方の話を聞きたいわね」
勇者?「……俺の話を聞いて時間を稼ぐつもりなら、無駄だ」
サキュバスB「何の事かしら」
勇者?「『夜魔』クラスのお前なら、他の淫魔を呼び寄せられるのは知っているという事だ」
サキュバスA「でもアンタに拒否権は無いわよ」ザッ
サキュバスB「待ちなさい」
サキュバスB「……仮に、貴方が何者かは置いておくにしても私達を知り過ぎよ」
サキュバスB「この男……人間じゃないわ」
勇者?「いや人間だ、勇者でも魔王でも淫魔でも無い」
勇者?「俺は指を切れば血も出る、ちゃんと赤い人間の血だ」
スタスタ
勇者?「それより、だ……俺は最初お前たちのリーダー格を殺すつもりで来たんだが」
サキュバスB「っ!」ビク
勇者?「そう警戒しなくて良い、俺はお前たち全員を保護したい」
サキュバスC「信用できるの?」
サキュバスA「保護って……今よりもいい暮らしができるわけ?」
勇者?「良いかどうかは知らないがな、『元の暮らし』に戻してやる」
サキュバスB「………」
< ザッザッザッザッ!
淫魔兵「サキュバス様! 只今助太刀します!」
淫魔兵「怪しい奴め……! 仲間を解放しろ!!」チャキッ
サキュバスB「!」
サキュバスB「……」
サキュバスB(まだ『何か』に縛られた淫魔を救助出来てない?)
サキュバスB(そう言えばこの男、一見丸腰に見えるけど……)
勇者?「…」
勇者?「答えを聞かせてくれるか」
サキュバスB「……」
サキュバスA「……」
サキュバスC「……」
淫魔兵「サキュバス様方…? どうされたのです!」
サキュバスB「具体的には……どうやって保護する気?」
勇者?「それが条件だ、『何も詮索するな』」
サキュバスB「!……貴方、どこまでも隠して……納得できるとでもっ」
サキュバスA「ね、ねぇ……さっきの『元の暮らし』って、ほんと?」
サキュバスB「A?」
サキュバスA「だってB、やっぱり戻れるなら戻りたいよ」
サキュバスB「~~!! 根拠がないわ! 本当に信じて良いのかどうかも分からない!!」
サキュバスB「ましてや人間なのよ!? 私達を軍に売り渡すかもしれない!!」
勇者?「……そこのお前」
サキュバスC「?」
勇者?「お前が一度『見て』、信用するに値するか判断したらどうだ」
サキュバスC「……」チラッ
サキュバスB「し、C……」
サキュバスC「……」
サキュバスC「行く」
勇者?「人質ならこちらも用意する、建物の出入り口前の茂みに俺を案内した女がいる」
サキュバスB「人間の女……? いつのまに……」
サキュバスA「ちょっとC! アンタ本当に大丈夫なの?」
サキュバスC「いざとなれば私がアイツを[ピーーー]からへーき」
勇者?「半日したら人間の女を殺して構わない、2時間で戻る」
サキュバスC「近いの?」
勇者?「俺を山の方まで運んでくれ、飛べば速い」
─────── シュルッ
勇者?「それと、今解いたから動けない淫魔はもう大丈夫だ」
サキュバスB(……今何か糸みたいなのが見えた?)
< バサァッ
サキュバスC「とーちゃく、この小屋に何かあるの?」
勇者?「入れ」
サキュバスC「ん」スタスタ
サキュバスC「んー……これ、お墓?」
勇者?「ああ、数日前に友人が死んだんだ」
サキュバスC「……ふーん」
< ガチャッ
勇者?「待て」
サキュバスC「なに?」
勇者?「忘れるなよ、『詮索するな』だ」
サキュバスC「……お化け屋敷じゃないよね」
勇者?「開ければわかる、だが『知ろうとするな』」
サキュバスC「じゃ、開けるよ……」ギィィ
サキュバスC「?」
サキュバスC「……~~~っ!!???」
勇者?「……」
< バサァッ
サキュバスC「……足元にお気をつけ下さい」スッ
勇者?「悪いな」スタッ
サキュバスB「随分早いのね、どうだった?」
サキュバスC「このお方は、その……信用出来ます」
サキュバスA「…?……どうかしたのC」
サキュバスC「……みんな、一緒に行こう? みんなで帰ろう?」
サキュバスB「……」チラッ
勇者?「全員来てくれて構わない、人数に関係なく迎え入れてやる」
サキュバスB「貴方、名前は?」
勇者?「知らなくていい」
サキュバスB「あくまで教えないのね、何か訳ありなの?」
勇者?「そういう気分になれないだけだ」
淫魔兵「あの、人質はどうなさいます?」
淫魔兵「村の人間も……」
勇者?「村の人間はまだ監禁したままでいい、人質にしていたあの女が解放するだろう」
サキュバスB「じゃあ決まりね、みんな荷物を持って来なさい」
サキュバスA「ね? どんな所なの?」
サキュバスC「………行けば、分かるよ」
村娘「勇者様!」がしっ
勇者?「なんだ」
村娘「いきなり捕まって怖かったです……」
勇者?「そうか、とりあえずお別れだな」サッ
村娘「なんでですか?」
勇者?「……色々あってな、20年近く姿を消す」
村娘「え?どこか遠い所に淫魔達を連れて行くんですか」
勇者?「ああ、お前のせいでな」
勇者?「だからお前にやって貰う事がある」
村娘「はい?」
勇者?「今から20年、毎日村の外や村で起きた事を日記に記せ」
勇者?「それから、何かまた困った時は20年後まで待ってろ」
村娘「……」
村娘「それで良いのなら、喜んで♪」
村娘「ずっと貴方様の帰りを待ってますね、勇者様!」
勇者?「……」
勇者?(だから、俺は勇者とか大それた存在じゃないんだがな)
< バサァッ
サキュバスB「こんな小屋が入り口なの?」
サキュバスA「うわぁ……狭そう」
勇者?「1人ずつ入れ、最後に俺が入る」
淫魔兵「……罠、とかないよね?」
勇者?「心配するな何も気にしなければ問題ない」
< ガチャッ
淫魔兵「……」スタスタ
勇者?「次、入れ」
サキュバスC「………」
勇者?「後はお前だけだ」
サキュバスC「……あの」
勇者?「なんだ」
サキュバスC「………」
サキュバスC「……っ」
勇者?「わかった、1つだけ答えてやるから話せ」
サキュバスC「……」
サキュバスC「『あれ』は、私達が平和に暮らしてた時代の『城』ですか?」
勇者?「……」
勇者?「違う」
サキュバスC「では一体あの場所は……!」
勇者?「どこでも無い、どの時間でもどの場所でもない」
勇者?「『あれ』は、俺の死んだ友人が残した……言わば反則技だ」
サキュバスC「………」
勇者?「気が済んだなら、行け」
< ガチャッ
サキュバスC「……どうかお元気で、貴方様に一生の中で会えた事は絶対忘れません」
──────── 最後にサキュバスの一人を見送った跡には、風の音すら鳴らない。
それまで止まっていた時間が動き出し、そして再び静寂が戻って来た。
だがそれは時間が止まっているのではない。
僅かな停滞を挟んだ後に動き出す為、波が引いた跡に残る寂しさに近いのだ。
少なくとも『彼』は、そう思っていた。
───── バタン
小さな一軒の小屋の扉を一度閉じた『彼』は、山道へと続く小屋の裏手へ回り込む。
そこにはつい先日『彼』が作った墓標がある。
かつて愛し合っていた、妻が眠る墓。
勇者?(『お前』のおかげで、暫く退屈はしないみたいだよ)
壮年の顔つきだった『彼』は墓の前で膝を着くと、一瞬だけ幼い子供の笑顔を作り向けた。
その様を見る者が居れば或いは恐怖したのかもしれない。
しかし、『彼』にとって本来の姿とは、墓標の中で眠る者の在りし日に見せていた幼い姿だった。
暫く微笑む。
『彼』はゆっくりと立ち上がり、山道を眺めながら墓標へ語りかけた。
それは、短い別れを告げる言葉。
勇者?(まだ上手く調節が分からなくてな、暫く会えないみたいだ)
勇者?(ここで眠るお前にとっては二十年近い別れになってしまうが、許せ)
『彼』は背後の小屋へ歩き出す。
山にある筈の風も、虫も、動物もその姿を見守るかのように静かである。
小屋の前へ向かいながら『彼』は再び壮年の男性となり、木製の扉を開きながら一言残した。
勇者?「……じゃあな、 『魔王』 」
軋む音が鳴り響き、その扉が閉じたのと同時に『彼』は世界から消えた。
刹那、止まっていた時間が動き出した様に
その小屋がある山を一斉に突風が襲う。
数時間前までいたサキュバス達の気配も、数日前に来ていた村娘の声も、勇者と呼ばれていた壮年の『彼』も、そこには残っていなかった。
誰もいなくったその小屋に、遅れて来てしまった一人の若いサキュバスが訪れた時。
人知れず時間が動き出したのだ。
< バサァッ
淫魔兵「あちゃー、みんな先にいるかな?」スタッ
淫魔兵「さっきまでみんなの魔力がこの辺に集まってたもんね」
淫魔兵「さっきの人間さん! ちょっと遅れちゃいましたけど入りますねー!」
< ガチャッ
< バタン
淫魔兵「意外に中は綺麗だね、さてとみんなは……」
淫魔兵「……」スタスタ
淫魔兵「……みんなー!」
淫魔兵「みんな!! 誰かいるんでしょ!?」
淫魔兵「みんな!! サキュバス様! 人間さん!」
淫魔兵「だ、誰か……誰もいないの?」
「誰も……いないの?」
───── 【ーーーー年前……】 ─────
「こんにちは」
【ん? 見かけない顔だな、というかどこから……】
「こんにちはされたら、こんにちはするのが英国紳士だよ」
【紳士って……お前、女だろう】
【……いやまて、えー国とはなんだ】
「イングランド……というかヴァチカン? 詳しいのは分かんないや」
【貴様、淫魔じゃないな……何者だ?】
「ぼく? ぼくはねぇ……うーん」
──────── 「時間と次元に影響されない、『魔王』かな?」
【魔王……だと………?】
< ギィィ……
勇者?「……ついさっきから20年か、思ったより変わらないな」
スタスタ
勇者?「……」
勇者?(久しぶりだな、元気にしてたか)スッ
勇者?「………」
勇者?(さて、麓の村まで行くか)スタスタ
勇者?「……?」
勇者?「これは……『ポスト』か? 誰が作ったんだ」
勇者?(わざわざこんな物を、この小屋に作ったという事は……郵便屋でもあるのか)
勇者?(中に何かあるな)カチャ
勇者?(手紙……3通ある)
勇者?「! ……差出人は村娘か」ガサッ
─────── 「あれから20年が経ちました」
─────── 「私はあの三年後に村の外から来た方と結婚し、更に子供も産まれました」
─────── 「あれから少し離れた土地で新たな領主が生まれ、私達の村はその庇護下に置かれる様になりました」
─────── 「勇者様のいる山や、近くの鉱山から採れる資源は王都のそれに匹敵するらしく」
─────── 「それ故に村は既に1つの街に発展し、以前よりも栄えるようになったのですが……」
─────── 「今、私達家族は大変な目に合っているのです」
─────── 「どうか……またお助け下さい、このままでは私達家族を筆頭に街が最悪の末路を辿る事になります」
勇者?「……残りの二通も差出人は村娘……?」
─────── 「勇者様、最初に手紙を出してから既に半年が過ぎています」
─────── 「先月ついに私の夫が処刑されてしまいました……何故あなたはまだ来てくれないのですか」
─────── 「助けて下さい」
─────── 「私はどうなっても構いません、せめて娘だけでも助けて下さい」
─────── 「もう逃げながら待つ事は出来ません」
勇者?「………」ガサッ
勇者?(もう一枚、この便箋だけ『匂い』が違うな)
─────── 「勇者、あなたがいなくなり既に21年経っている」
─────── 「この手紙を入れた小屋には『生活している痕跡』があるのを見た、あなたはもう帰って来ているのだろう」
─────── 「だから私はその小屋に2ヶ月住んでみたが、面白い事が分かった」
勇者?「……ほう」
─────── 「勇者は『これまでの21年間ずっと小屋で生活している』、それが私なりの答えだ」
─────── 「どんな魔法かは知らないけど、あなたに拒否権は無い」
─────── 「この手紙を読んだら直ぐに街の酒場に来い」
─────── 「さもなければ『王立十字軍』にあなたの事を話す」
勇者?(……王立十字軍?)
勇者?(十字軍といえば、悪魔や魔女狩りを連想させるが)
勇者?(………)
勇者?「面倒な時期に来てしまったな」
勇者?(何にせよその十字軍は明らかに人間の軍隊、俺の存在を知られるのは面倒だ)
勇者?(……行くか)
──────── ガヤガヤ?カーンッカーンッ
勇者?(確かに随分と発展してるようだな)
勇者?(二十年前は背の低い家屋しかなかったが、今はあちこちで建造してるようだ)
勇者?(……二十年でここまで成れるモノなのか?)
「そこの兄さん、騎士団の人かい」
勇者?「違うが」
「なんだ違うのか……消えな」
勇者?(……?)スタスタ
勇者?(かなりの店が出てはいるが、幾つかは一般の人間を立ち入りさせてないな)
勇者?(騎士団……十字軍と関係あるのか?)
勇者?「おい、酒場はどこだ」
女「はい?」
勇者?「酒場だ、場所を教えろ」
女「はぁ……余所から来たんですか?」
女「酒場は向こうの南ストリートと北ストリートに挟まれた路地にありますよ」
勇者?「そうか」スタスタ
女「あの、騎士団の方ですか」
勇者?「違うが」
女「……そうですか、お気をつけて」
勇者?(それにしても以前とは大違い過ぎるな……二十年しか経っていないのに、何故だ?)
勇者?(グラスの形を象った看板……酒場はここか)ギィィ
店主「いらっしゃい」
勇者?「……」チラッ
男「……」
白服「……」
勇者?「……」チラッ
女「……」
仮面「……」
勇者?(……誰が村娘だ?)
店主「お客さん、座りなよ」
勇者?「ああ」
店主「何飲む?」
勇者?「任せる」
勇者?「………」
勇者?(毎日いるとは限らないか? 逃げていると書いてあったが)
< 「おいそこのお前」
勇者?「……」
白服「さっきから何だその仮面は、外せ」
仮面「……」
白服2「聞こえないか? これは『王立十字軍』の命令だ」
勇者?(あの『女』、なんだ?……そしてあの白服が例の十字軍か)
店主「はいよ」コト
勇者?「店主、あの仮面を被った『女』はいつからあそこにいる?」
店主「女なのかい? さあ、毎日この位の時間にいるが……」
勇者?「なに……」
仮面「…!」ピクッ
仮面「……」スッ
白服「?」
勇者?「!」
白服2「……あの男がなんだって?」
仮面「……」
白服「おい、何とか言っ…」
仮面「 勇者さん助けてっ!! 」
勇者?(声が違う、村娘じゃないが……!)
白服「ゆう……しゃ?」
白服2「何を言ってるんだお前」
仮面「は……!!」バッ
──────── バシュゥッ!
< 「うわぁ!?」
< 「くそ、煙幕?」
< 「逃げられるぞ!!」
仮面「こっち……!」バッ
勇者?「違う、そっちの角の先に同じ服装の男がいる……こっちだ」グイッ
仮面「…!」
< タッタッタッ・・・!
勇者?「来てるか」
仮面「直線は追いつかれる、曲がって!」
勇者?(なに?)
────────── ヒュ……パァンッ!!
白服「見つけた、向こうだ!!」ズザザァッ
勇者?(……! 何だ、今の動きは……!)
仮面「やっぱり速い! こうなったら人質でも取って……!」
勇者?「角を曲がったらその仮面を捨てろ、何とかする」
仮面「はぁ!? 素顔までバレたらどうなるか分かってるの!?」
勇者?「黙ってろ」ガシッ
仮面「ひゃ……っ!」
< カランッカラカラ……
──────── ヒュバァッ!
白服「・・・」スタッ
白服2「!」スタッ
< カラカラ……ン
白服「この仮面、女が着けていた物か」
白服2「見失った……!?」
白服「・・・」
白服「そこの2人、これの持ち主はどこに?」
少女「……!」ピタッ
女?「まぁ、何かあったんですか?」
白服2「どうも『淫魔』の疑いがありましてね、追っていたのですが……」
女?「それは大変ですね、さっき男性と女性がそちらの路地に入って行きましたよ」
白服「協力に感謝する」ヒュバァッ
白服2「良い散歩を、お嬢さん方」ヒュバァッ
女?「……」ニコニコ
少女「……」
女?「……行ったか」ペッ
女?「当面はこの姿でいるか、おいお前」
少女「……」
女?「……おい?」
少女「い、いきなり……女になった」
女?(…面倒な奴だな)
少女「凄い、『母』からある程度は聞いてたけど、まさか変装も出来るなんて……」
女?「…………厳密には変装ではなく変身に近いが、まあいい行くぞ」
女勇者?「そうか、お前が村娘の子供か」
少女「まあね、その辺は手紙で知ってるよね」
女勇者?「……」
少女「どうかした?」
女勇者?「村娘の夫、つまりお前の父親についても手紙で知った」
少女「ああ……そうよ、死んだわ」
少女「半年前よ、私の父が連中にあらぬ疑いをかけられて処刑されたのは」
女勇者?「連中、とはやっぱり『王立十字軍』か」
少女「? ……ああ、21年もどこかに行ってる事になってたのよね」
少女「ついて来て、家で『日記』を渡すから」
女勇者?「……」
女勇者?(全く……次から次へと)
< ガチャッ
少女「ちょっと待ってて、今とってくるから」タタッ
女勇者?(……)
< 「んー、どこかな……ここ?」
勇者?(やれやれ、取り敢えずはこの姿になるか)ズズ
勇者?(……む)チラッ
コトッ
勇者?(これは、写真? カメラが普及してるのか)
勇者?(右が村娘か? 随分と大人びているじゃないか)
勇者?(抱いているのは少女か、少なくとも15年は前の姿か)
< 「ああ、あったあった」
少女「おまたせ、母が勇者に渡すようにって言ってたの」
スッ
勇者?「そうか」パラパララッ
少女「ちゃんと書いてあるわよ」
勇者?「ああ、色々あったみたいだな」
勇者?「しかし対淫魔の為だけに作られた騎士団か……そんな人間の味方がなぜお前達家族を?」
少女「私達だけじゃない、十字軍がこの村が淫魔と関わっていたのを知ってから村で魔女狩りが……」
勇者?「お前の父親は、日記の通りならば突然捕まって処刑されたな? 何故だ」
少女「こっちが聞きたいわ、母も捕まってしまった以上知る術はないけどね」
勇者?「・・・捕まったのか」
少女「あなたが来るのが遅かったの、捕まったのは先週よ」
勇者?「あの最後の手紙はお前が送ったのか」
少女「そうよ」
少女「2ヶ月住んだのは嘘だけどね、まさか本当に来るとも思わなかったし」
勇者?「……だがお前の考え方は正解だったぞ」
少女「え?」
勇者?「いやいい、それより」
勇者?「…日記にあるこの『サキュバスが捕まっている』について詳しく聞かせろ」
少女「……淫魔に興味あるの?」
勇者?「違うが、聞かせろ」
少女「12年位前なんだけど、私が五歳の時サキュバスが近くの民家で捕まったのよ」
勇者?「捕まったのは1人か?」
少女「らしいわね、噂だとあなたが連れて行った淫魔達のはぐれとか」
勇者?「………」
少女「思えばあの日からね、十字軍の連中がこの村の女を怪しみだしたのは」
勇者?(発端は捕まった淫魔、そして火種が燃え移った結果が村娘達か)
勇者?「……所で、十字軍の騎士は全員がさっきの奴等のように身体能力が高いのか」
勇者?「下手をすれば、淫魔よりも強そうだったが」
少女「ええ、でなきゃ淫魔の軍勢と戦えないでしょ」
勇者?(……ただの人間が一度の跳躍で数十m、有り得ないな)
勇者?(だが納得はいく、それなら淫魔達がただの数の差で押されるか)
勇者?(それで勝てる、とは思わんが)
少女「早速だけど勇者、あなたには私の母を助け出して貰いたいの」
勇者?「わざわざ脅迫してまでか」
少女「元はと言えば! あなたが早く来てくれなかったから、父も母も大変な目にあってるのよ!」
少女「ただでさえ滅茶苦茶なのに……! 母を助け出してもここには住めないのにッ!」
勇者?「助け出してやるから落ち着け、処刑されるのはいつだ」
少女「……来月よ、でもアテにはならない! 父は直ぐに殺された!!」
勇者?「まだ時間はあるな、なら数日かけて脱獄させればいい」
少女「でもグズグズしてたら……」
勇者?「17の子供に何が出来る、いいからお前はこの家で待っていろ」
勇者?(………)
勇者?(面倒だ)
勇者?(面倒だが、『王立十字軍』の騎士達の身体能力は見過ごせないか)
【二日後:深夜】
白服3「ふぅ、今夜は冷えるな……」スタスタ
───────── ヒュルンッ・・・
白服3「……」ピクンッ
< ギュルルルッ!!
ギッチィィッ……!
白服3「なっ……!?」ギシィッ
勇者?「余り動くなよ、加減を間違えたらその首を落とす事になる」ヒュルンッ
白服3「誰だ貴様ァッ!!」ググッ
< ピッ・・・ンッ・・!
勇者?「!」
勇者?(ワイヤーが動かないだと?……人間離れにも程があるだろう……!)
────────── ブチブチィッ!!
白服3「何者かは知らんが、糸如きで俺を縛ろうとは良い度胸だ」シャキ
白服3「だが、我等パラディンを嘗め過ぎたな……」グッ…!
────────── ヒュ……パァンッ!!
勇者?「ッ!」
勇者?(速い……人間としての動体視力では視認すら出来ないだと…!)
白服3「捉えた」ズザァッ!!
< ドズッ!
勇者?「がっ……」
白服3「トドメを刺す前に聞く、何者だ」ズブゥッ
勇者?「…………」ユラッ
勇者?「………し」
白服3「なに?」
勇者?「……」
勇者?「少し、迂闊過ぎないか、刺しただけで死ぬ相手かどうかも確認せず近くにいるのは」
白服3「………ぇ」
───────── メシャッ
ゴキィッッ!!
白服3「ごぁンム、っ!? ?ッ……ぅぐ、ゲボァ…………カッ……ハ…」
ドサッ
勇者?「……さて、とりあえずコイツに聞くか」
少女「……zZZ」
< ギシ……
少女「……?」ぴくん
勇者?「起こしたか」
少女「!?」ガバッ
少女「な、なんでいるのよ! 鍵は!?」
勇者?「民家の鍵くらい、造作もない」
勇者?「それより聞きたいのは『聖十字教会』とは、どこにあるどういう建物だ」
< バタン
勇者?「……ただの教会らしいな」
白服3「ンー!! ンムッ、ンー!!ンゥゥー!!」ジタバタ
勇者?「……」
勇者?「骨を直接削られる感触を味わってみたいとは思わないか」
勇者?「例えば……この鋼で出来た糸だ、これをお前の膝頭から縫い針を使って内部を糸で切り刻まれ、擦り上げられたら…どうだ」
白服3(な、なんなんだコイツ……ヤバい、殺され……)ガタガタ
勇者?「……ここに一本の針がある」
白服3「ンッ、ンムゥーッ!!」ガタンッ
勇者?「まずこの針を刺したら、当然痛いだろう……な」ズドッ
白服3「 ────── ッッ!!?」
勇者?「意外だな、余り痛がらないと思った」
白服3(ひっ……ひっ……ぃ)ガタガタ
勇者?「………」スッ
< するっ
白服3「た、頼む助けてくれ……」
勇者?「正直に答えろ、『聖十字教会』に本当に村娘がいるんだな」
白服3「い、いる! まだ移動されてないならいる!」
勇者?「では、サキュバスは? 十二年前にこの地で捕らえられたと聞いたが」
白服3「…………」
勇者?「……」スッ
白服3「ひ、ぎぃぃぃいい!! ぎっ! ぃぁ……」
勇者?「人間の『痛覚』は皮膚の下に最も多くある、何より神経の隙間に針を刺すならともかく」
勇者?「撫でる様に、捻り引き千切る様に鋭利な鋼糸で掻き回されたなら……」クイッ
< ズ・・・ズチュルッ
白服3「ひっ!? 縫い針と…い、糸が勝手に動い……頼むやめてくれ!……ぎぃぃいっ!!?」ビクンッ
勇者?「知ってる事は話した方が楽だぞ、そのうち針が全身を蠢く様になれば発狂する程の痛みが走る」
勇者?「さあ、話して貰おうか」
白服3「ひ、ひぃ……っ」
【同時刻:某所】
< カツ……カツ…ッ
白服α「只今帰還致しました、団長」
< 「フム、どうだったかね? 『本土』は」
白服α「何やらまた新たな兵器が開発されたようです」
< 「兵器?」
白服α「『 銃 』と言う、遠距離からほぼ確実に敵に致命傷を負わせられる物だそうです」
< 「はは、しかしそれでも我々『聖教騎士団』の力には程遠いのだろう?」
白服α「……はい、私のような未熟者ですら『銃』から飛び出した鉛の豆粒を捉える事が出来ました」
< 「謙遜は止したまえ、君は私が知る中でも最も『インキュバス』に近い男だ」
白服α「お褒めの言葉、光栄です」
< 「しかし数十年前までは考えられなかったものだ、汚らわしい淫魔を犯すなど」
< 「おっと、犯すではなく儀式だったかな」
白服α「……」
< 「α君、この後すぐに淫魔と儀式を交わして力を蓄えておきなさい」
白服α「は、了解しました」
白服α(………)
白服「チッ……締まりが悪いな」ジュプッジュプッ
白服2「むしろ良い方だ、『本土』の儀式用に飼育されてる淫魔なんてただの肉塊だぞあれ」
白服4「あれに比べたらたった12年しか使い込まれてないコイツは最高の女だぜ」ジュプッ
白服β「お前らそろそろ出ろ、『本土』から帰ったαが儀式に使う」
白服2「あぁ!? αの奴、帰ったのかよ……」
白服「所で3の奴、まだ巡回から戻らないのか」
白服4「知らねえよ糞がッ、あのエリートの前に射精しておくか」ビュルビュルッ!
白服β「嫌がらせかお前」
白服4「ふぅ、ざまあみろ」
< ……ガチャッ
白服α「入るよ」
白服α「……酷い臭いだ、待っててくれ」スッ
淫魔兵「……ぅ…あ?」
白服α「……」シュゥゥ
白服α「『本土』で学んだんだ、私の魔力を一時的に内部暴走させれば物質を消滅させられる」
淫魔兵「ぁ……ぁぅ?」
白服α「汚れも臭いも、全部消したんだ」ナデナデ
淫魔兵「……ぁ」ポフッ
白服α「ゆっくり今日はおやすみ、私がいる間は他の騎士は手を出さないよ」
白服α「さて、じゃあ私はそろそろ戻るよ」スッ
< ぐいっ
淫魔兵「……」
白服α「! ……もう少し居た方が良いかい?」
淫魔兵「……」
白服α「……たまたま、か…おやすみ」スタスタ
白服α(今、私の袖を掴んだ時……『あの頃』の目をしていた気がした)
白服α(…………)
< バタン
白服α「!」
白服β「『また』、手を出さずか?」
白服α「βか……私は充分強い、これ以上彼女を汚してまで魔力を得る必要なんてない」
白服β「彼女って……ありゃ淫魔、モンスターだぞ」
白服α「…違う、彼女には『壊れる事が出来る心があった』んだ」
白服β「心が壊されるのは当然だ、何人の犠牲者を出した化け物だと思ってやがる」
白服α「彼女は何もしてない」
白服β「そういう問題じゃねえんだよ馬鹿が」
白服β「いい加減、区別をつけろってんだよ! あれは人間じゃない、敵である化け物だ!」
白服α「……」ギロッ
白服β「っ…!」ビクッ
白服α「……なら敵じゃなくなれば良いんだろう、この戦争を終わらせれば良い」
< スタスタ
白服β(実力はあんのになぁ……若い奴はこれだから駄目だ)
少女「おはよう」
勇者?「ああ」
少女「……昨日の夜、何してたの」
勇者?「情報搾取というやつだ」スタスタ
少女(さ、搾取……?)
少女「って、どこいくのよ」
勇者?「『聖十字教会』に行って来る」
勇者?(……)スタスタ
勇者?(街なのに随分と入り組んでるな、治安は大丈夫なのか)
勇者?(しかし『レンガ』造りの建物か……)スタスタ
勇者?(たった20年でここまで進化するとは思えない、となると一体何がこれを生み出す知識を…?)
白服「!」
白服(あいつは……昨日の酒場にいた!)
白服(……挙動不審な上に、どこに向かってるんだ?)
勇者?「……」スタスタ
白服(とりあえず後を尾行して、そこで取り押さえるか)
< シュルッ
白服(ん? なにか蜘蛛の糸みたいなのが首元に……)
──────── スパッ
< ゴトン……ブシャァァァッ
勇者?(切れ味が増しているタイプのワイヤーだったが、ここまで簡単に首を落とせるとはな)シュルッ
勇者?(後で礼を言うべきか)
勇者?「……」ゴソゴソ
勇者?(これで後は顔と性別を変えれば問題ない)
< ズズ・・ッ
女白服?「……行くか」スタスタ
< シュルッ
女白服?(ワイヤーは……念の為しまっておくか)
女白服?(だがいつでも取り出せる様にしておけ)
神父「はぁ、新しく配属された騎士様ですか……」
女白服?「今日から配属されたのですが、何分慣れていない身……ここに収監されている囚人の移送中、警護をしたいのよ」
女白服?「構わないわよね? 神父さん♪」
神父「し、しかし『通達書』もなく勝手にそんな……」
女白服?「あら、勝手じゃないわよ? 『王立十字軍』の騎士たる私が命令したの」
神父「………」
女白服?(通達書、か……細かい点まで進化しているな…押し切れるか?)
女白服?(聞き出した白服3の話では移送隊が来るらしいが)
< 「構わない、私が許可する」
神父「!! これは……α様」
女白服?(なに……?)
白服α「そこの彼女は恐らく私が用意した『移送隊』だ、秘密裏にという話にしたから誤魔化したんだろう」
白服α「随分早かったね、他の騎士はどこに?」
女白服?(これは…思わぬ展開だな)
女白服?(だが好都合、面倒を起こすよりはずっといい)
女白服?「私が1人よ、『上』からの命令であなたと私の2人だけの方が効率が良いから」
白服α「……団長が? 確かに秘密裏に移送するなら少数が良いかもしれないが」
白服α「…………」
白服α「君、名前は?」
女白服?「名前はともかく宜しくね、早く移送の準備にかかりましょ?」
白服α「ダメだ名乗って貰う、後々君を指名して依頼出来なくなる」
女白服?「指名?」
白服α「そうだよ、君はどうやら優秀な様だしね」
女白服?「……ありがとう」ニコッ
【同時刻:某所】
白服4「急ぐぞ、移送隊として派遣されたってのに遅刻なんてヤバすぎる!!」
白服2「他の移送隊は先に行ったのか!?」
白服β「らしいな、αの事だから直ぐに出発するかもしれんぞ」
白服2「まじかよ…」
< ニチャッ
白服4「うぉあ!」ドシャァッ
白服2「何やってんだおま……えっ?」
白服β「うっ……!? これは……」
白服4「ぎゃああああ!! 生首が、血がぁあ!?」
白服2「こいつ、白服の奴だ……何に殺られたんだ!?」
白服β(断面が不自然に綺麗過ぎる……こんな刃の剣、あるのか?)
白服β(いや、αや団長クラスなら『魔導』で可能だ……)
白服β(だがだとしても、一体何者だ?)
移送隊員「なに? 何と言った」
神父「で、ですから……騎士様なら先に囚人を連れて出発しました」
騎士「ここにいるぞ」
神父「し、しかし……」
移送隊員「α様は誰と出発したんだ」
神父「……ぇ? いや、あれ」
神父「申し訳ない、何故か……霧がかったように『女』ということしか思い出せません」
騎士「幻術か?」
移送隊員「淫魔の類かもしれん……!」
女白服?「あなた、お名前は?」
女囚人「……」
女白服?(この女が村娘の筈、左手の指輪からしてそれは聞いていた通りだ)
女白服?(となると俺に気づいていないから……いや、さすがにこの姿では分からないか)
女白服?(……村娘、か……随分成長したな)スタスタ
────────── 「勇者様ですよね!」
女白服?(最後に別れて3日も経ってないのに、村娘は20年の歳月を経ている)
女白服?(どこか寂しい気もするな)
白服α(……)スタスタ
< バタン
女白服?「ここは?」
白服α「この建物を抜けたら移送先の騎士に受け渡し、後は我々よりも安全に移送します」
白服α「……が、貴女に聞きたい」
女白服?「?」
女囚人(……)
白服α「『彼女』が言う、 ユーシャ様 とは何ですか?」
女白服?「!……私に聞く事なのかしら?」
女囚人(!!)ピクッ
女白服?(村娘、俺に気づいていたのか)
白服α「その反応……やはり仲間か」
< ヴゥ・・・ン
女白服?「っ!」
女白服?(魔力によって構成された刃……『魔剣』か? 人間が『夢魔』クラスの魔導が行使出来るだと)
白服α「貴女の心が読めない時点でおかしいとは思ってたが、まさか仲間の淫魔とはね」
白服α「私はな、他者の心が読めるんだ」スタスタ
白服α「先程から『彼女』が何度も呟いてたよ、心の中で『ユーシャ様が来てくれた』ってね」
女白服?「やはり気づいていたのか」チラッ
村 娘「ゆ、勇者様……やっぱり本当に勇者様なんですね!」
白服α「答えて貰おう、君は何者だ」ヴゥン
女白服?「……」
女白服?「悪いが、俺は女でも無ければ淫魔ですらない」
白服α「なら何だ」
< ズズッ……
勇者?「勇者でも淫魔でもないのは確かなんだがな」
白服α「……!!」バッ
白服α(変身? この男……悪魔の化身か!)
勇者?「言っておくが動かない方が良いぞ」
白服α「なに? ……これは……」
< シュルッ
白服α「糸……いや、鋭利な刃…?」
勇者?「そこまで視認出来るのか、とても人間とは思えないな」
白服α(……金属質な糸、この鋭利さでは切れ味は相当の物…)
白服α(何より現状、私はこの男の術中に嵌まったという事になる)
白服α(今は動かない事が得策か……)
勇者?「行くぞ村娘、お前の娘が待ってる」
村 娘「はい!」ぎゅっ
< タッタッタッ!
白服α(……)
白服α「はァッ!!」
──────── ジャキィィィン!!
白服α(全身の内側から魔剣を出せば容易く斬れる……切れ味はあっても一本一本の耐久性はそれほどではない)
白服α(あの2人、間違いなくどこかに逃げたな)スッ
白服α(隠れ場所を突き止めて全員捕縛だ……!!)
村娘「ゆ、勇者様……っ、はぁ……私…っ」
勇者?「どうした、もっと走れるだろう」
村娘「あっ!」ガッ
< ドサッ
勇者?「!」
勇者?(そうか、村娘は昔ほど走れないのか)
村娘「あぅ……あはは、おばさんだなぁ私」フラフラ
< 「そこまで、のようだな」
勇者?「……」
白服α「何者かは問わない、抵抗するならすれば良い」
白服α「だが私は強いぞ、少なくともあんな糸では傷1つ付けられない程度に」
白服α「さぁどうする」
勇者?「なら抵抗させて貰おう」シュルッ
白服α(また糸か…!)
取り敢えず前やったとこまではノンストップで貼ってくだしあ
>>128
申し訳ない。
不慣れだった以前の物を所々書き直しながら投下しているので、速度が普通の再投下に比べて恐ろしく遅くなっている。
完結まで書いてはあるので今度は落ちないと思う、長らくまともにアナウンスも無くエタらせて申し訳なかった。
───────── ヒュルン……ッ
白服α(糸の軌道が読めない、恐ろしい長さの糸があの男を中心に浮遊しているのが分かる)ダッ!
白服α(問題なのは奴の指先……まるでこの糸を操っているが、そもそもこの糸達は何処から伸びている…?)
< ググッ……
勇者?(左へ跳躍か)クイッ
ピンッ
白服α(こっちの動きを読んで糸を張るのは予測出来ていた)ザンッ
ブツッン
勇者?(ワイヤーを切ってそのまま来るのか、意外に猪突猛進じゃないか)ヒュルンッ
白服α(私の動きからこのまま駆け抜けると奴は予測する、だが私はここで……)
─────ッ─────
勇者?「……」
勇者?「~~ッ!?」ブチュンッ
勇者?(何だ、耳の奥が破裂……いや、これは鼓膜を空気の振動で千切ったのか!?)
白服α「……~~」パクパク
勇者?(……『糸が解れているぞ』、か…!)ヒュルンッ
白服α(痛みと、聴覚を失った動揺による隙は大きい)
白服α(私の勝ちだな)
ザンッ!!
────────── ザシュン・・・!!
白服α「……は、…………っ!?」
< グラッ
白服α(何だと……『銃』すら見切った私でも、見えなかった?)ドシャッ
白服α(見えない、ではない……そもそも何も起きていなかった……!)
白服α「が、ぁ……貴様なにをした…」
勇者?「咄嗟に思いついた事を実行したまでだ」
白服α「…ッ?」
勇者?「簡単に言えば、お前が今まで受けた中で最も威力のあるダメージを『再現』させた」
勇者?「動き位は止められると思ったが、まさか仕留められるとはな」
白服α「貴様……なに、者だ」
勇者?「別に化け物とかではないんだがな」
白服α「化け物じゃない…? ならなんだ、人外じゃないと言うならお前は……」
勇者?「……」スタスタ
勇者?「立てるか」
村娘「ありがとうございます勇者様…」
勇者?「行くぞ、追っ手の速度は異常だからな」
白服α「……くッ」
勇者?(見た所、斬られた傷が塞がりかけているな)
勇者?(どっちが人外なのか分からん)
< タッタッタッ!
白服α(クソ、逃げられた……!!)フラフラ
白服α(はぁ……はぁッ、ぐぁ…血を流し過ぎた……)フラフラ
白服α(あの男は一体何者だ、何故か顔や表情が思い出せない)
白服α(淫魔でなく、化け物じゃない……?)
白服α(ふざけてるッ……人間の筈がない、今まで戦った中で最も正体が見えなかった!)
【数時間後:村娘家】
少女「………おかあさん」
村娘「少女っ、無事で良かった……」
少女「お母さんこそ! 大丈夫? 怪我はない?」
村娘「あはは、久しぶりに走ってちょっと疲れたかな」
勇者?「……」スタスタ
村娘「勇者様、約束を覚えてくれていたのですね」
少女「やっぱり知り合いなんだね」
勇者?「……まあそうだな」
【更に数時間後:深夜】
村娘「それでね、勇者様はサキュバス達を連れて……」
少女「遠くに旅立ったんでしょ、もうそこは何度も聞いたよ」
村娘「ふふ、あの頃は今も鮮明に覚えてるわ」
少女「……」チラッ
勇者?「なんだ」
少女「……勇者さ、このまま一緒に住まない?」
村娘「ちょっと何言ってるの!」
村娘「ぁぅ……すいません勇者様」ぺこり
勇者?「……」
勇者?「とりあえず返事はする、断る」
少女「え、なんでよ」
村娘「少女、勇者様には大切な……」
勇者?「そうじゃなくてだな、今度はお前達2人が生きてる間に帰れなくなる」
村娘「……はい?」
少女「どういう意味?」
勇者?「悪いがな、また遠くへ行く事になりそうだ」
少女「私達2人って……勇者だって死んじゃうでしょそれ!」
勇者?「老衰はしない体質だ」
少女「体質って…………」
勇者?「それにな、何も二度と会えない事は無いはずだ」
少女「えっ、そうなの」
村娘「……」
勇者?「少し『慣れ』さえすればいつでも来れる、だからまずはやりたい事をやらせて貰う」
勇者?「お前達2人は街の騒ぎが治まるまで隠れてろ、いいな」スタスタ
少女「騒ぎって……、お母さんが脱獄した事になるから!?」
勇者?「村娘を知っている教会、正確には騎士団をこの町から消すからだ」
< ガチャッ
< バタン
村娘「……」
少女「け、消すって、どうやって!?」
< ガチャッ
村娘「勇者様!」ダッ!
勇者?「……何か用か」
村娘「あの、21年間聞きたかったんです」
勇者?「何がだ」
村娘「私が勇者様と出会ったあの日」
村娘「家の傍に埋葬された……勇者様とどんな関係があったんですか?」
勇者?「『友人』は友人だろう」
村娘「違いますよね?」
村娘「私、この世界で一番愛していた夫を失って初めて気づいたんです」
村娘「この手で墓標に花を添えた後、私は……っ」
村娘「……初めて会った時の勇者様とまったく…まったく同じ『目』をしていた」
勇者?(ほう)
村娘「勇者様、あなたは私を何度も鬱陶しく思っていたのでは?」
村娘「幼いとはいえ、愛する人を亡くした所へ私が来たのは目障りだったのでは?」
勇者?「さぁな」
村娘「……知りたいんです、何故今回も助けて頂いたのかを」
勇者?「最初からそう言えば教えたが……まあいい」
勇者?「………『魔王』」
村娘「?」
勇者?「『魔王』だ、あそこに埋葬されたのは」
村娘「ま、魔王……? とは、やっぱりあの淫魔達の王…です?」
勇者?「そうだ」
村娘「……でも、ならどうして戦争が起きてるのか知ってるのですか?」
勇者?「それを後々調べる、『魔王』は俺とずっといたんだからな」
勇者?「そして、淫魔達と人間が争うことは決して無い筈だった」
村娘「しかし、勇者様と魔王は友人だったんですか…? どうにも信じられないというか」
勇者?「『魔王』は俺の妻でもあったと言っても納得はしてくれなさそうだな」
村娘「!?」
勇者?「……後は自分で想像するんだな、俺はもう行く」
村娘「あ……」
村娘「また、会えますよね」
勇者?「……そうだな」スタスタ
勇者?「………」
勇者?(しまった、言いそびれたな)スタスタ
勇者?(俺は勇者じゃない)
──────── 「『魔女狩り』って知ってるかい」
「なんだ? 淫魔を狩るのか」
──────── 「ちょっと違うかな、要するに【怪しい奴は魔女】っていう考え方が実現された行為だね」
「……?」
──────── 「ぼくのいた世界ではね、大昔に魔女狩りが行われた事があったんだ」
──────── 「酷いものだったよ、女子供関係なく痛めつけられる時代だった」
──────── 「ぼくもその時代で何度か殺されてしまった程に」
「あまりこっちの世界には縁がなさそうだ」
──────── 「くす、そうかもね」
──────── 「この世界は本当に素晴らしいよ……『ファンタジー』そのもので、ぼくの世界とは大違い」
──────── 「……でもね、だからこそぼくの世界と同じ悲劇は繰り返してはいけないよ」
──────── 「拷問は痛くて辛いし、死刑より酷い刑もある、それは『人間』という種族が持つ動物的残虐さから生まれてる」
「……この世界の人間はそんなことをしない」
──────── 「うん、素敵だと思う……けどね? 『魔女狩り』に限らずこの世界は魔法なんかの力でどうにでも傾いちゃうよ」
──────── 「■■■■■は、絶対にこの世界を幸せでいっぱいにしなきゃ駄目だよ?」
「…あ、ああ……覚えておこう」
──────── 「……えへへ、でもその前にまずは君が幸せにならなきゃね」
──────── 「行こ? 私達の世界に!」
──────── グシャぁァァッ!!
白服2「ひぎぃぃぁああああああ!?」
──────── スパッ
< ズシャッ
勇者?(……だから『俺』は人を狂わす信仰なんてものが存在しないようにした)
勇者?(人が信じるべきなのは人、人が生きるのに必要なのは自分自身だという事を知らせる為に)
< シュルッ
勇者?(だから『アイツ』は人間に余計な力を与えないようにしてた)
勇者?(人の、淫魔の、命が軽くなってしまわぬ様に)
白服4「クッ、何者だ貴様ァァッ!!」ダッ!
勇者?「この世界はな、あくまでファンタジーでなければいけなかった、優しい世界でなければ駄目だった」
ジャギィンッ!!
スパァッッ!!
勇者?「多少の発展は許そう、多少の戦争は仕方ない、淫魔達もそんなのがあった位だ」
白服4「死ねぇ! 化け物ぉぉっ!!」
──────── ピタッ
白服4「……!! 糸?」ギギギ
勇者?「…………だが」ピンッ
─────── スパッ……ツルッ
白服4「え」
< ゴトッ
勇者?「『魔女狩り』なんて事は、絶対に許さん」
< シュルッ
白服4「うわあああ!? 腕が、腕がぁ!!」
勇者?「だからお前達妄執者は全員ここで死ね」ブンッ
< ビチャッ
────────── スタ・・スタ・・・
騎士「止まれ、撃つぞ」チャカッ
勇者?「マスケット銃か、よく狙うんだな」スタスタ
騎士「くっ、騎士達よ……これより神罰を代行する! 撃て!!」
─────── ズドドドォッ!!
勇者?「銃口を向ける速度が遅いな」シュルッ
騎士(いつのまに背後を……!?)
─────── スパァッッ
勇者?(初日の遭遇時とは訳が違う、今回は俺の肉体を白服3の死体を基に再構成した)
勇者?(例え、相手がお前達騎士団だろうと今の俺ならば容易に立ち回れる)シュルッ
騎士2「ひぃ ───── ぐぉぇェア…ッ」ギリギリ……ッ
騎士3「ゼヒュ……ッゥ」ギリッ……
勇者?(……)ピンッ
────── ズシャァァ
< ドシャドシャッ
勇者?(……)シュルッ
勇者?(まだ奥にいるな)
勇者?(『十字大聖堂』)スタスタ
勇者?(まだ未完成だが……四年前から『聖十字教会』の西側に位置する、事実上の『軍施設』)
勇者?(奴らがサキュバスを監禁しているとしたら、ここしかないな)
勇者?(片っ端から団員を殺してから探すとして、地下もあるなら団員を虱潰しに……)
< ザッザッザッザッ・・・!
勇者?(……)
勇者?(手間が省けた、か)シュルッ
白服β「……囲め」
白騎士「了解ッ」
< ザザザァッ!!
勇者?(この動き、全員が白服共と同じ身体能力か……)
白服β「言うまでもなく、貴様は包囲された」
勇者?「確かに言うまでもないな」
白服β「武器の糸を捨てて大人しく投降するか、ここで我々から『神罰』を受けるか」
白服β「選べ化生の男」
勇者?「斬れば良い、その腰にあるミスリル剣の刃で俺を一斉に斬り捨てろ」
白服β「………」
勇者?「………」
──────── 「殺せ」
白騎士「神罰を代行する!」シャキィッ
< シャキィッ!!
勇者?(……)
白騎士達「「うおおおおおおお!!!」」
< ビュンッ!!
勇者?「……数は十二、刃ごと無力化しろ」ボソッ
白服β「……ッッ!!?」
─────── 藍色のコートに身を包んだ男に騎士達のロングソードが振り下ろされた瞬間、白服βは見た。
勇者?「………」
─────── 刃が触れるか否かの刹那に、男は声無く何かを呟く。
─────── その直後、背後から振り下ろされた刃を筆頭としてその場にいた全員の剣が爆散した。
─────── まるで見えざる壁でもあるかのように、中心に立つ男を避けながら。
─────── 同時に破片が、血の雨を降らせる最悪の凶器と化して騎士達を襲ったのだ。
─────── まるで刃の一つ一つが意思を持って襲ったかの様に。
白服β(馬鹿な、ここまでコイツ……!!)
────────── バキィィィンッ!!
白騎士「ギャ……ッは、ごぉ…っ」ドシャッ
< 「目、目が……ぁっ!! 耳がぁっ!!」
白騎士3「ヒュー……ヒュー……」フラフラ
白騎士4「し、神罰を・・・だい、代行する……っ」ビチャッ
勇者?(辛うじて生き残ったのがいるか)シュルッ
─────── ヒュルンッ
─────── スッパァンッッ
< ドシャドシャドシャッッ!!
勇者?(これで騎士団は壊滅……)
勇者?(…? 死体の数が足りない)
────────── ッ・・・!!
勇者?(……!?)
違和感に気づくのとほぼ同時。
踏み込み、その打撃音が聴こえてくるより先に『彼』の視界が大きく揺れた。
鈍い痛みに頭蓋を打ち付けられ、脳へ突き抜ける衝撃が意識を刈り取ろうとしている。
『彼』は全身が地に叩きつけられて跳ね上がった直後、眼前に迫る鉄塊を見て何が起きたのか悟った。
勇者?(この男、ただの白服ではないのか…ッ)
白服β「シッ!!」
ゴッ!!
二回、三回と、『彼』の視界が瞬時に回転し再び地に落ちた。
構えすら見る事も叶わない、音速を越えた衝きに『彼』は舌打ちをしながら立ち上がる。
勇者?(目測で音速の十倍以上、武装は籠手と脚部を覆うミスリル鋼の具足か?)
勇者?(目で追えない、となるとワイヤーで捉えるしかないが……)
指先を躍らせ周囲を鋭利な鋼糸で張り巡らせる。
だがその瞬時に展開された網目を掻い潜る白い一閃が横殴りに『彼』を襲ったのだ。
ブレる視界。
首元から鳴る何かが折れる音。
『彼』が人間としての致命傷を数回に渡って受ける事となってしまう。
勇者?(……なるほど、コイツも白服αと同じ人外の強さだったか)
ギチギチギチ・・・
白服β「立ち上がっただと? 今ので仕留めた筈だ……!」
勇者?「……目で追えなかった、随分速く動くんだな」
白服β「ああ、貴様を殺すには充分過ぎるスピードだ」
いつの間にか『彼』の返り血を浴びたのか、頬に付いていた鮮血を手甲で拭う白服β。
そして背後へ身体を預ける風に小さく跳び、踵から着地すると見えた瞬間に『彼』の懐へ入り込んでいた。
勇者?(チィ、ワイヤーが追い付かん……ッ)
指先の動きより数瞬先に白銀の拳が鳩尾に突き上げられる。
たった一撃で骨と肉が砕け混ざり合う感触。
その不快感と激痛に顔を歪めながら、『彼』は自身の持ちうる技術と武器では太刀打ち出来ないと確信した。
では、どうするのか。
────────── ゴッッ!! バヂンッ!!
勇者?(ソニックブームは起きていない……人間大の質量があの速度で移動し続けているなら、有り得ない)
勇者?(他の白服や騎士達も相当な速度で行動出来ていた、これは筋力ではない)
勇者?(……摩擦熱もゼロ、この男に至っては衣服が空気を叩く音すら皆無)
勇者?(魔法、もしくは単純に魔力で身体を膜の様な物で覆いながら高速で自身を移動させているか?)
幾度と白銀の拳が肉体を打ち、骨を砕き、一閃する蹴りが血塗れの身体を吹き飛ばす。
意識だけがそれまでと変わらない状況で、『彼』は潰れていない右目で白服βを見た。
途中から痛覚が麻痺してくる程にダメージを受けている『彼』にとって、白服βを捉える方法は無かった。
だから、『彼』はたった一本の糸を張る事にした。
肉眼でそれと分かる、髪の毛程度の糸を。
白服β「……苦し紛れのそれか、その糸で数少ない『十字騎士』を全滅させやがって、やってくれたもんだ」
白服β「神罰を代行する、死にな悪魔」
ほぼ瀕死の『彼』を見た白服βがその姿を加速させる。
例え通常より太くして硬度や切れ味を強化しても、たった一本のワイヤーならば白服βの怪力と神速の対応力で幾らでも回避出来た。
故に、避けずにミスリルの拳で直線的に『彼』を仕留めにかかってしまったのだ。
────────── ピンッ
白服β「……は…?」
勇者?「捕まえた」
張り詰めた糸を指で弾くかのような、間の抜けた音が鳴ったのと同時。
完全に動きを停止してしまった白服βの顔面を『彼』の手が両側から掴んだ。
白服βの全身に悪寒が走る。
白服β(大丈夫だ……ッ、この一撃を耐えればその瞬間に離脱してみせる……!)
勇者?「接近戦は苦手でな、肉弾戦も特に嫌いだが……」
白服βの耳に何かが軋む音が聞こえた。
『彼』の両手が、白服βの頭蓋に恐るべき重圧を与えてくる。
音速の約十二倍で肉体にかかる圧力と抵抗に対する防護膜、魔力の衣さえ破り力業のみで白服βへ激痛を与えてきたのだ。
白服βがまだ動く腕と脚を振り回そうとする。
白服β「ッッ……!!? 待っ」
勇者?「……次は、無い」
ゴリッ……バリュンッ……!
勇者?(想定よりダメージを受けたか、この身体はもう駄目だな)ズズ・・・
< ドシャッ
白服3「…」
< ズズズズ・・・
勇者?「静かになったものだな……乱れ咲いていた花を踏み荒らした気分だ」
勇者?(……)
勇者?(奥から足音がする、そしてこの音は)
勇者?(面倒だな)
カツンッ……カツンッ……
勇者?「さて」
白服α「昼間は手痛い目にあったが、『次』はない」カツンッ
勇者?「……面倒だな、そうまでして大量虐殺をしたいのか?」
白服α「正義が悪魔を裁くのが罪だとでも? これは必要悪であり、必要な犠牲だ」
勇者?「『魔女狩り』はこれからの未来に影を落とす、最悪の産物だろう」
勇者?「お前達人間はそんなことをしなければ生きられない種ではなかった筈だ」
白服α「なぜ断言する、なぜ神のように全て分かる?」ヴゥン
白服α「お前は我々の神でもなければ未来を知ってる訳でも無い、なのに何故貴様が断言する!」
白服α「応えろ異形の怪魔!! 貴様は何者だ!!」
白服α「何の権利があって、貴様は人を殺す!? 貴様は私と何が違うと!?」
勇者?「……」
勇者?「お前達、人間を作った神……か」
白服α「…!」
勇者?「残念ながら俺はお前達の神でも無ければ怪魔でも無い」
勇者?「この世界に神はいない、そんなものに意味はないからだ」
勇者?「それは断言が出来る」
< カツッ…カツッ……
勇者?「しかしな、もう一つ残念な事に俺は未来を同じく断言が出来る」
白服α「なぜだ」
< カツ……カツ…カツッ
勇者?「とある友人がお前達人間の未来を幾つかの運命として、既に予知しているからな」
白服α「予知……予言でもしていたとでも……!」
勇者?「……お喋りは終わりだ、仲良く雑談する気はないんでな」?
白服α(……っ、上等だ……ならば聞き出すまで)ヴゥン?
勇者?「……」シュルッ?
勇者?「……」ピンッ?
───────── ヒュパァッ!!?
白服α「はァッ!! 同じ芸が通じると思うなッ!!」ジャキィッ?
< バチィッ?
勇者?(魔剣をあそこまで容易に操れるのか、ただのワイヤーで倒せる相手ではないな)?
──────── ヒュルンッ・・・!
勇者?(これでどうだ)
白服α「!」ピタッ
白服α「チィッ」バッ!
勇者?(……触れる事を恐れた…か、さっきの男とは違いこの『糸』に対して警戒するか)
勇者?「……」ボソボソッ
< シュルッ……
白服α「……」ズザァッ
白服α(今までの細い糸ではない、髪の毛程度の太さはある)
白服α(奴は俺の想像が及ばない能力を有しているのは分かる、だが……それを好んで使う気配がない)
白服α(この男は戦いを楽しむタイプではない、手段として最も簡単な方法だから選んでいる……そう見える)
白服α(ならあの糸はこれまで以上に強力な何かがある)
< スッ
勇者?(構えた……?)
パッキィンッッ
勇者?「……」
< ブシュゥッ!!
勇者?(魔剣の射出……そんな事も出来るのか)ヨロッ…
勇者?「見えない、音しか聴こえん」
白服α「この刃が空気を切り裂く音、それを聴いた時には遅いッ!!」ヴゥンッ
勇者?(だが初手で使わなかったのは何故だ、この芸当はそれほどの奥の手とは言えない)
勇者?(視線を読めば軌道が分かる、避けられないものでは……)
パッキィンッッ
勇者?「ッ……!?」ブシュゥゥッ!!
勇者?「な……に……?」ドサッ
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